細胞単離装置
【課題】組織(生体組織)から細胞を高生存率で単離することが可能で、作業時間を大幅に短縮可能な細胞単離装置を提供する。
【解決手段】組織に衝突して細胞を単離する単離用部材20と、組織が入れられ、前記単離用部材が動く室を有する室体11と、前記室体11における前記単離用部材20の動作を制御する制御部31とを具備する。単離用部材は複数の刃体を有し、軸体により単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転され、更に液面を検出する液面センサと温度制御手段を備えている細胞単離装置。
【解決手段】組織に衝突して細胞を単離する単離用部材20と、組織が入れられ、前記単離用部材が動く室を有する室体11と、前記室体11における前記単離用部材20の動作を制御する制御部31とを具備する。単離用部材は複数の刃体を有し、軸体により単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転され、更に液面を検出する液面センサと温度制御手段を備えている細胞単離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療の臨床・研究の分野や細胞培養の分野において用いられる細胞単離装置に関し、特に有効には、組織(生体組織)から細胞を高生存率で単離することが可能な細胞単離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生存した細胞を得るためには、組織を鋭利な刃物でミンスし、コラゲナーゼなどによる酵素処理を行い、細胞外マトリックスを消化し、単離細胞を得ていた。
【0003】
上記手法において、コラゲナーゼ液による酵素処理では、酵素処理と細胞回収の手技を繰り返し行うものであり、非常に多くの時間を要するものであった。また、刃物でのミンス処理方法や酵素処理中の浸透速度等の差異を原因として細胞の回収率にばらつきが生じるなどの問題があった。
【0004】
組織を回転により解離させる組織解離装置としては、解離させる組織と液体媒体を保持するための、無菌状態の内側を有する容器(12)を含み、更に、組織と係合して組織を解離させるための解離要素(54)を、容器(12)の内側に含んでいる。本装置(10)は、更に、組織の、解離要素(54)による係合に応じた運動に抵抗するための抵抗要素(81)を、容器(12)の内側に含み、解離要素(54)と抵抗要素(81)の間の相対的な動きと、その結果として抵抗要素(81)が付与する抵抗とによって、解離要素(54)が組織を効果的に解離させるものである。動力式組織解離装置は、解離要素(54)を動かして組織と係合させるために、解離要素(54)に作動的に接続されている動力源を含んでいる(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この装置においては、抵抗要素(81)が付与する抵抗によって、解離要素(54)が組織を効果的に解離させるものであることから、細胞が抵抗要素(81)にぶつかることから、細胞の生存率が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−505631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような細胞単離装置が有する問題点を解決せんとしてなされたもので、その目的は組織(生体組織)から細胞を高生存率で単離することが可能な細胞単離装置を提供することにある。また、作業時間を大幅に短縮可能な細胞単離装置を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る細胞単離装置は、組織に衝突して細胞を単離する単離用部材と、組織が入れられ、前記単離用部材が動く室を有する室体と、前記室体における前記単離用部材の動作を制御する制御部とを具備することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る細胞単離装置では、単離用部材は、複数の刃体を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る細胞単離装置は、室内の溶液の液面を検出する液面センサを備え、制御部は、この液面センサによる検出結果に基づき前記単離用部材の動作を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る細胞単離装置は、室体内の温度または装置の温度を制御する温度制御手段を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る細胞単離装置は、室体内に液を注入するための液注入部を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る細胞単離装置では、単離用部材は、軸体と、この軸体に結合される複数の刃体と、軸体において複数の刃体を支持する支持手段とを具備していることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る細胞単離装置では、軸体が、単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る細胞単離装置では、室体には、回転軸を受ける軸受が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る細胞単離装置によれば、組織が入れられ、単離用部材が動く室を有する室体を備え、上記室体における上記単離用部材の動作を制御するので、細胞の生存率を高くすることが可能となる。
【0017】
本発明に係る細胞単離装置によれば、単離用部材が、複数の刃体を有するので、効率的に細胞の単離を行うことができる。
【0018】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室内の溶液の液面を検出する液面センサを備え、制御部は、この液面センサによる検出結果に基づき前記単離用部材の動作を制御するので、室内の溶液を泡立てることなく、適切に攪拌を行い、細胞の生存率を高くすることが可能となる。
【0019】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室体内の温度または装置の温度を制御する温度制御手段を備えているので、酵素の活性と非活性の制御を行うことが可能である。
【0020】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室体内に液を注入するための液注入部を備えているので、酵素の作用を停止させたい場合にインヒビターを注入するなど、必要な液注入が可能である。
【0021】
本発明に係る細胞単離装置によれば、単離用部材が、軸体と、この軸体に結合される複数の刃体と、軸体において複数の刃体を支持する支持手段とを具備しているので、所要の回転によって適切な攪拌状態を実現でき、細胞の生存率を高くすることが可能となる。
【0022】
本発明に係る細胞単離装置によれば、軸体が、単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転されるので、室体に蓋をしたままの状態で攪拌することが可能であり、外部からの不要物の侵入を防止できると共に外部を汚染することを防止できる効果がある。
【0023】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室体には、回転軸を受ける軸受が形成されているので、室内において安定した回転を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の細胞単離装置の第1の実施例を示す組立斜視図。
【図2】本発明の細胞単離装置の第1の実施例を示す側方からの図。
【図3】本発明の細胞単離装置の第1の実施例の単離用部材を示す組立斜視図。
【図4】本発明の細胞単離装置の第1の実施例の単離用部材変形例を示す斜視図。
【図5】本発明の細胞単離装置の第2の実施例を示す組立斜視図。
【図6】本発明の細胞単離装置の第2の実施例を示す側方からの図。
【図7】本発明の細胞単離装置の第2の実施例の単離用部材を示す組立斜視図。
【図8】本発明の細胞単離装置の第2の実施例の単離用部材変形例を示す斜視図。
【図9】本発明手法と従来の手技による手法により得た細胞の取得量のグラフを示す図。
【図10】本発明手法と従来の手技による手法により得た単離細胞取得直後の単位細胞数あたりのクレアチンキナーゼ(CK)活性値のグラフを示す図。
【図11】本発明手法と従来の手技による手法により得た単離細胞取得直後から4日目における細胞の生存率のグラフを示す図。
【図12】図9から図11のグラフを数値で示した図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明に係る細胞単離装置の実施例を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1は、第1の実施形態に係る細胞単離装置の組み立て斜視図である。図2は、組み立てた状態の側方からの図である。この細胞単離装置は、カップ状の室体11と、室体11の蓋体12と、単離用部材20と、制御装置30とを主な構成要素としている。
【0026】
室体11は、組織が入れられ、単離用部材20が動く室13を有する。室体11の開口部の内周壁には、段部14が形成されている。この段部14には、蓋体12の蓋板15における周縁部15aが当接して載置される。室体11の底部には、この細胞単離装置を安定して設置することができるように鍔部16が設けられている。
【0027】
図3に示すように、単離用部材20は、回転軸である軸体21と、この軸体21に結合される複数の刃体22と、軸体21において複数の刃体22を支持する支持手段を備えている。刃体22は、基部22aから先端部22bに向かって幅狭に形成されている。刃体22の平面形状は鋭角二等辺三角形の形状を有し、長辺の一つ或いは二つに、刃が形成されている。基部22aには、厚さ方向に孔24が穿設されている。
【0028】
軸体21における下端部の近傍には、刃体22の基部22aを収容する凹部25が形成されており、この凹部25から軸体21には軸方向に向かってネジ穴25aが形成されている。ここでは、4枚の刃体22がスペーサ26を介して交互に重ねられ、2枚毎に先端部22bが180度異なる方向を向くようにされている。この状態に重ねられた刃体22は、ネジ27が刃体22の孔24及びスペーさ26を貫通して軸体21のネジ穴25aに螺合され支持される。このように、凹部25、ネジ穴25a、スペーサ26及びネジ27は、複数の刃体22を支持する支持手段を構成する。
【0029】
刃体22の上記数および突出方向は、一例に過ぎない。従って、図4に示すように90度づつ異なる方向へ突出した刃体22を備えるようにしても良い。
【0030】
軸体21の上端部は、角柱状の結合部29となっており、制御装置30のモータ33に結合された軸受穴34に結合する。蓋体12の中央部に軸体21が貫通する貫通孔17が形成されており、軸体21の結合部29は、この貫通孔17を介して軸受穴34に結合する。
【0031】
室体11における室13の底面中央部に、軸体21の下端部28を受ける軸受を構成する凹部18が形成され、装置が組み立てられた状態において軸体21の下端部28が凹部18において軸支される。この状態において、刃体22は室体11の室13における底面から僅かに浮いた位置にあり、回転により組織と衝突して、組織を適切に単離可能とする。
【0032】
蓋体12には、室体11内に液を注入するための液注入部を構成する孔19が形成されている。この孔19は、弾性部材によって構成されており、外方向からの押圧によって移動し、孔19を介して外部と室体11内部を連通させる蓋片19Aが、室体11内部側に設けられている。従って、酵素の作用を停止させたい場合にインヒビターを注入するなどを吸引したスポイトを、蓋片19Aにより通常は閉じている孔19に挿入して、必要な液注入を行うことが可能である。
【0033】
制御装置30は、細胞単離装置を制御するCPUにより構成される制御部31が備えられている。制御部31は、各種のキーなどを備える操作部32、I/O35が接続されている。I/O35は、モータ33、回転センサ33A、温度センサを含む温度素子36、液面センサ37が接続されている。
【0034】
回転センサ33Aは、モータ33に接続されており回転数と回転方向を検出して制御部31へ送信するものである。温度素子36は、室体11の外壁面或いは内壁面に設置され、温度を制御部31へ送出すると共に制御部31からの制御により加温・冷却を行い温度を制御する温度制御手段として機能する。液面センサ37は、例えば、蓋体12の室体11内側に取り付けられ、室体11の底面側の液面の高さデータ(取付位置からの液面までの距離)を検出して、制御部31へ送信する。
【0035】
以上の通りに構成された細胞単離装置では、次のようにして細胞単離処理を行うことができる。予め活性温度に加温した所定量の酵素液を室体11に入れる。次に、生体から摘出した組織を室体11に投入する。単離用部材20、蓋体12、制御装置30を所定位置にセットして細胞単離装置を組み立てる。操作部32から攪拌条件(回転数、回転の方法、時間などをセットし、温度条件をセットして処理スタートのキーを操作する。回転の方法としては、aa秒右回転、bb秒停止、cc秒左回転などであり、これを繰り返す時間を入力する。
【0036】
制御部31は、上記入力に従ってモータ33を回転制御し、温度条件に従って温度素子36を制御して所定温度を保持する。また、液面センサ37による検出結果を用いて、所定時間の変動が所定閾値を超える場合、回転数を低減させるなどして適切な攪拌状態を実現し、生存率の高い細胞単離を行う。
【0037】
上記のようにして処理された混濁液を室体11から取り出し、メッシュ処理を行って単離細胞を取り出す。
【0038】
次に、第2の実施形態に係る細胞単離装置の構成を説明する。細胞単離装置は、カップ状の室体11Aと、室体11Aの蓋体12Aと、単離用部材20Aと、制御装置30Aとを主な構成要素とする。
【0039】
図5は、組み立て斜視図を示す。単離用部材20Aの軸体21Aは、偏平な円柱形状をなし、底面から突出している小さな円柱状の軸51を備える。室体11Aの室13における底面の中央部に、上記軸51を回転可能に軸支する有底穴からなる軸受52が形成されている。
【0040】
図7に、単離用部材20Aの組み立て斜視図を示す。軸体21Aの側部の直径方向に対となる位置には、刃体22の基部22aが挿入される開口部53が形成されている。軸体21Aの天井部における中央部には、表面に貫通しないネジ穴54が形成されている。
【0041】
一つの開口部53に、二枚の刃体22がスペーサ26を介して重ねられて挿入される。軸体21Aの底部における中央部には、表面に貫通する穴55が形成されている。二つの開口部53から挿入された合計4枚の刃体22の孔24には、上記穴55を介してネジ27が貫通され、ネジ27がネジ穴54と螺合して複数の刃体22を支持する支持手段を構成する。
【0042】
刃体22の上記数および突出方向は、一例に過ぎない。従って、図8に示すように90度づつ異なる方向へ突出した刃体22を備えるようにしても良い。
【0043】
図6に示す通り、室体11Aの下にスターラー駆動装置61が設けられる。この実施形態では、スターラー駆動装置61が制御装置30Aに内蔵された構成を示すが、スターラー駆動装置61以外は別の位置に設けても良い。制御装置30Aの筐体に、室体11Aとの結合溝62が形成されており、室体11Aの図示しない凸部と嵌合して固定される。
【0044】
制御装置30Aの構成は、制御部31Aがスターラー駆動装置61を制御してスターラーの回転子を構成する軸体21Aの回転を制御する以外は、第1の実施形態と同一の構成となっている。これにより、軸体21Aが回転子として、単離用部材20Aと非接触の磁気回転駆動部であるスターラー駆動装置61により回転される。
【0045】
以上の通りに構成された細胞単離装置では、次のようにして細胞単離処理を行うことができる。予め活性温度に加温した所定量の酵素液を室体11Aに入れる。次に、生体から摘出した組織を室体11Aに投入する。単離用部材20A、蓋体12A、制御装置30Aを所定位置にセットして細胞単離装置を組み立てる。この状態で、室体11Aの室13が外部と遮断され、密閉状態とすることができる。結果、不要物が室体11A内に入る危険性が無く、また室体11A内の液などが外部へ飛び出す可能性はない。
【0046】
操作部32から攪拌条件をセットし、温度条件をセットして処理スタートのキーを操作すること、制御部31Aの制御下において処理が行われること、混濁液を室体11から取り出し、メッシュ処理を行って単離細胞を取り出すこと、は第1の実施形態と同様である。
【0047】
上記の第1の実施形態または第2の実施形態に係る細胞単離装置を用いて組織から細胞単離を行った。この場合、従来の手技による手法によって得られた細胞と、本発明によって得られた細胞の比較を行った。組織は、ラット新生児の心筋組織を用いた。攪拌条件は回転数200rpm、0.5秒回転1秒停止の間欠運転を30分行った。メッシュは40μmのものを用いた。
【0048】
図9に、同量の組織から得られた細胞の取得量の平均値と偏差を、本発明手法と従来の手技による手法により得たグラフを示す。また、図12に平均値と偏差を数値として示している。この図9及び図12から明らかなように、本発明手法が極めて高効率で細胞の取得が可能である。
【0049】
また、図10に、単離細胞取得直後の単位細胞数あたりのCK活性値の平均値と偏差を、本発明手法と従来の手技による手法により得たグラフを示す。また、図12に平均値と偏差を数値として示している。この図10及び図12からは、単位細胞数あたりの心筋細胞の比率が分かる。本発明手法が、細胞へのダメージを少なくすることで従来の手技による手法よりも優れて生存した心筋細胞の取得が可能であることが分かる。
【0050】
更に、図11に、単離細胞取得後から4日目における細胞の生存率の平均値と偏差を、本発明手法と従来の手技による手法により得たグラフを示す。また、図12に平均値と偏差を数値として示している。この図11及び図12から、本発明手法が細胞にダメージを与えることが少なく、従来の手技による手法よりも優れて高い生存率の細胞取得が可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0051】
11、11A 室体 12、12A 蓋体
13 室 18 凹部
19 孔 19A 蓋片
20、20A 単離用部材 21、21A 軸体
22 刃体 24 孔
25 凹部 25a ネジ穴
26 スペーサ 28 下端部
29 結合部 30、30A 制御装置
31、31A 制御部 32 操作部
33 モータ 33A 回転センサ
34 軸受穴 36 温度素子
37 液面センサ 51 軸
52 軸受 53 開口部
61 スターラー駆動装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療の臨床・研究の分野や細胞培養の分野において用いられる細胞単離装置に関し、特に有効には、組織(生体組織)から細胞を高生存率で単離することが可能な細胞単離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生存した細胞を得るためには、組織を鋭利な刃物でミンスし、コラゲナーゼなどによる酵素処理を行い、細胞外マトリックスを消化し、単離細胞を得ていた。
【0003】
上記手法において、コラゲナーゼ液による酵素処理では、酵素処理と細胞回収の手技を繰り返し行うものであり、非常に多くの時間を要するものであった。また、刃物でのミンス処理方法や酵素処理中の浸透速度等の差異を原因として細胞の回収率にばらつきが生じるなどの問題があった。
【0004】
組織を回転により解離させる組織解離装置としては、解離させる組織と液体媒体を保持するための、無菌状態の内側を有する容器(12)を含み、更に、組織と係合して組織を解離させるための解離要素(54)を、容器(12)の内側に含んでいる。本装置(10)は、更に、組織の、解離要素(54)による係合に応じた運動に抵抗するための抵抗要素(81)を、容器(12)の内側に含み、解離要素(54)と抵抗要素(81)の間の相対的な動きと、その結果として抵抗要素(81)が付与する抵抗とによって、解離要素(54)が組織を効果的に解離させるものである。動力式組織解離装置は、解離要素(54)を動かして組織と係合させるために、解離要素(54)に作動的に接続されている動力源を含んでいる(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この装置においては、抵抗要素(81)が付与する抵抗によって、解離要素(54)が組織を効果的に解離させるものであることから、細胞が抵抗要素(81)にぶつかることから、細胞の生存率が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−505631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような細胞単離装置が有する問題点を解決せんとしてなされたもので、その目的は組織(生体組織)から細胞を高生存率で単離することが可能な細胞単離装置を提供することにある。また、作業時間を大幅に短縮可能な細胞単離装置を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る細胞単離装置は、組織に衝突して細胞を単離する単離用部材と、組織が入れられ、前記単離用部材が動く室を有する室体と、前記室体における前記単離用部材の動作を制御する制御部とを具備することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る細胞単離装置では、単離用部材は、複数の刃体を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る細胞単離装置は、室内の溶液の液面を検出する液面センサを備え、制御部は、この液面センサによる検出結果に基づき前記単離用部材の動作を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る細胞単離装置は、室体内の温度または装置の温度を制御する温度制御手段を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る細胞単離装置は、室体内に液を注入するための液注入部を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る細胞単離装置では、単離用部材は、軸体と、この軸体に結合される複数の刃体と、軸体において複数の刃体を支持する支持手段とを具備していることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る細胞単離装置では、軸体が、単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る細胞単離装置では、室体には、回転軸を受ける軸受が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る細胞単離装置によれば、組織が入れられ、単離用部材が動く室を有する室体を備え、上記室体における上記単離用部材の動作を制御するので、細胞の生存率を高くすることが可能となる。
【0017】
本発明に係る細胞単離装置によれば、単離用部材が、複数の刃体を有するので、効率的に細胞の単離を行うことができる。
【0018】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室内の溶液の液面を検出する液面センサを備え、制御部は、この液面センサによる検出結果に基づき前記単離用部材の動作を制御するので、室内の溶液を泡立てることなく、適切に攪拌を行い、細胞の生存率を高くすることが可能となる。
【0019】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室体内の温度または装置の温度を制御する温度制御手段を備えているので、酵素の活性と非活性の制御を行うことが可能である。
【0020】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室体内に液を注入するための液注入部を備えているので、酵素の作用を停止させたい場合にインヒビターを注入するなど、必要な液注入が可能である。
【0021】
本発明に係る細胞単離装置によれば、単離用部材が、軸体と、この軸体に結合される複数の刃体と、軸体において複数の刃体を支持する支持手段とを具備しているので、所要の回転によって適切な攪拌状態を実現でき、細胞の生存率を高くすることが可能となる。
【0022】
本発明に係る細胞単離装置によれば、軸体が、単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転されるので、室体に蓋をしたままの状態で攪拌することが可能であり、外部からの不要物の侵入を防止できると共に外部を汚染することを防止できる効果がある。
【0023】
本発明に係る細胞単離装置によれば、室体には、回転軸を受ける軸受が形成されているので、室内において安定した回転を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の細胞単離装置の第1の実施例を示す組立斜視図。
【図2】本発明の細胞単離装置の第1の実施例を示す側方からの図。
【図3】本発明の細胞単離装置の第1の実施例の単離用部材を示す組立斜視図。
【図4】本発明の細胞単離装置の第1の実施例の単離用部材変形例を示す斜視図。
【図5】本発明の細胞単離装置の第2の実施例を示す組立斜視図。
【図6】本発明の細胞単離装置の第2の実施例を示す側方からの図。
【図7】本発明の細胞単離装置の第2の実施例の単離用部材を示す組立斜視図。
【図8】本発明の細胞単離装置の第2の実施例の単離用部材変形例を示す斜視図。
【図9】本発明手法と従来の手技による手法により得た細胞の取得量のグラフを示す図。
【図10】本発明手法と従来の手技による手法により得た単離細胞取得直後の単位細胞数あたりのクレアチンキナーゼ(CK)活性値のグラフを示す図。
【図11】本発明手法と従来の手技による手法により得た単離細胞取得直後から4日目における細胞の生存率のグラフを示す図。
【図12】図9から図11のグラフを数値で示した図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明に係る細胞単離装置の実施例を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1は、第1の実施形態に係る細胞単離装置の組み立て斜視図である。図2は、組み立てた状態の側方からの図である。この細胞単離装置は、カップ状の室体11と、室体11の蓋体12と、単離用部材20と、制御装置30とを主な構成要素としている。
【0026】
室体11は、組織が入れられ、単離用部材20が動く室13を有する。室体11の開口部の内周壁には、段部14が形成されている。この段部14には、蓋体12の蓋板15における周縁部15aが当接して載置される。室体11の底部には、この細胞単離装置を安定して設置することができるように鍔部16が設けられている。
【0027】
図3に示すように、単離用部材20は、回転軸である軸体21と、この軸体21に結合される複数の刃体22と、軸体21において複数の刃体22を支持する支持手段を備えている。刃体22は、基部22aから先端部22bに向かって幅狭に形成されている。刃体22の平面形状は鋭角二等辺三角形の形状を有し、長辺の一つ或いは二つに、刃が形成されている。基部22aには、厚さ方向に孔24が穿設されている。
【0028】
軸体21における下端部の近傍には、刃体22の基部22aを収容する凹部25が形成されており、この凹部25から軸体21には軸方向に向かってネジ穴25aが形成されている。ここでは、4枚の刃体22がスペーサ26を介して交互に重ねられ、2枚毎に先端部22bが180度異なる方向を向くようにされている。この状態に重ねられた刃体22は、ネジ27が刃体22の孔24及びスペーさ26を貫通して軸体21のネジ穴25aに螺合され支持される。このように、凹部25、ネジ穴25a、スペーサ26及びネジ27は、複数の刃体22を支持する支持手段を構成する。
【0029】
刃体22の上記数および突出方向は、一例に過ぎない。従って、図4に示すように90度づつ異なる方向へ突出した刃体22を備えるようにしても良い。
【0030】
軸体21の上端部は、角柱状の結合部29となっており、制御装置30のモータ33に結合された軸受穴34に結合する。蓋体12の中央部に軸体21が貫通する貫通孔17が形成されており、軸体21の結合部29は、この貫通孔17を介して軸受穴34に結合する。
【0031】
室体11における室13の底面中央部に、軸体21の下端部28を受ける軸受を構成する凹部18が形成され、装置が組み立てられた状態において軸体21の下端部28が凹部18において軸支される。この状態において、刃体22は室体11の室13における底面から僅かに浮いた位置にあり、回転により組織と衝突して、組織を適切に単離可能とする。
【0032】
蓋体12には、室体11内に液を注入するための液注入部を構成する孔19が形成されている。この孔19は、弾性部材によって構成されており、外方向からの押圧によって移動し、孔19を介して外部と室体11内部を連通させる蓋片19Aが、室体11内部側に設けられている。従って、酵素の作用を停止させたい場合にインヒビターを注入するなどを吸引したスポイトを、蓋片19Aにより通常は閉じている孔19に挿入して、必要な液注入を行うことが可能である。
【0033】
制御装置30は、細胞単離装置を制御するCPUにより構成される制御部31が備えられている。制御部31は、各種のキーなどを備える操作部32、I/O35が接続されている。I/O35は、モータ33、回転センサ33A、温度センサを含む温度素子36、液面センサ37が接続されている。
【0034】
回転センサ33Aは、モータ33に接続されており回転数と回転方向を検出して制御部31へ送信するものである。温度素子36は、室体11の外壁面或いは内壁面に設置され、温度を制御部31へ送出すると共に制御部31からの制御により加温・冷却を行い温度を制御する温度制御手段として機能する。液面センサ37は、例えば、蓋体12の室体11内側に取り付けられ、室体11の底面側の液面の高さデータ(取付位置からの液面までの距離)を検出して、制御部31へ送信する。
【0035】
以上の通りに構成された細胞単離装置では、次のようにして細胞単離処理を行うことができる。予め活性温度に加温した所定量の酵素液を室体11に入れる。次に、生体から摘出した組織を室体11に投入する。単離用部材20、蓋体12、制御装置30を所定位置にセットして細胞単離装置を組み立てる。操作部32から攪拌条件(回転数、回転の方法、時間などをセットし、温度条件をセットして処理スタートのキーを操作する。回転の方法としては、aa秒右回転、bb秒停止、cc秒左回転などであり、これを繰り返す時間を入力する。
【0036】
制御部31は、上記入力に従ってモータ33を回転制御し、温度条件に従って温度素子36を制御して所定温度を保持する。また、液面センサ37による検出結果を用いて、所定時間の変動が所定閾値を超える場合、回転数を低減させるなどして適切な攪拌状態を実現し、生存率の高い細胞単離を行う。
【0037】
上記のようにして処理された混濁液を室体11から取り出し、メッシュ処理を行って単離細胞を取り出す。
【0038】
次に、第2の実施形態に係る細胞単離装置の構成を説明する。細胞単離装置は、カップ状の室体11Aと、室体11Aの蓋体12Aと、単離用部材20Aと、制御装置30Aとを主な構成要素とする。
【0039】
図5は、組み立て斜視図を示す。単離用部材20Aの軸体21Aは、偏平な円柱形状をなし、底面から突出している小さな円柱状の軸51を備える。室体11Aの室13における底面の中央部に、上記軸51を回転可能に軸支する有底穴からなる軸受52が形成されている。
【0040】
図7に、単離用部材20Aの組み立て斜視図を示す。軸体21Aの側部の直径方向に対となる位置には、刃体22の基部22aが挿入される開口部53が形成されている。軸体21Aの天井部における中央部には、表面に貫通しないネジ穴54が形成されている。
【0041】
一つの開口部53に、二枚の刃体22がスペーサ26を介して重ねられて挿入される。軸体21Aの底部における中央部には、表面に貫通する穴55が形成されている。二つの開口部53から挿入された合計4枚の刃体22の孔24には、上記穴55を介してネジ27が貫通され、ネジ27がネジ穴54と螺合して複数の刃体22を支持する支持手段を構成する。
【0042】
刃体22の上記数および突出方向は、一例に過ぎない。従って、図8に示すように90度づつ異なる方向へ突出した刃体22を備えるようにしても良い。
【0043】
図6に示す通り、室体11Aの下にスターラー駆動装置61が設けられる。この実施形態では、スターラー駆動装置61が制御装置30Aに内蔵された構成を示すが、スターラー駆動装置61以外は別の位置に設けても良い。制御装置30Aの筐体に、室体11Aとの結合溝62が形成されており、室体11Aの図示しない凸部と嵌合して固定される。
【0044】
制御装置30Aの構成は、制御部31Aがスターラー駆動装置61を制御してスターラーの回転子を構成する軸体21Aの回転を制御する以外は、第1の実施形態と同一の構成となっている。これにより、軸体21Aが回転子として、単離用部材20Aと非接触の磁気回転駆動部であるスターラー駆動装置61により回転される。
【0045】
以上の通りに構成された細胞単離装置では、次のようにして細胞単離処理を行うことができる。予め活性温度に加温した所定量の酵素液を室体11Aに入れる。次に、生体から摘出した組織を室体11Aに投入する。単離用部材20A、蓋体12A、制御装置30Aを所定位置にセットして細胞単離装置を組み立てる。この状態で、室体11Aの室13が外部と遮断され、密閉状態とすることができる。結果、不要物が室体11A内に入る危険性が無く、また室体11A内の液などが外部へ飛び出す可能性はない。
【0046】
操作部32から攪拌条件をセットし、温度条件をセットして処理スタートのキーを操作すること、制御部31Aの制御下において処理が行われること、混濁液を室体11から取り出し、メッシュ処理を行って単離細胞を取り出すこと、は第1の実施形態と同様である。
【0047】
上記の第1の実施形態または第2の実施形態に係る細胞単離装置を用いて組織から細胞単離を行った。この場合、従来の手技による手法によって得られた細胞と、本発明によって得られた細胞の比較を行った。組織は、ラット新生児の心筋組織を用いた。攪拌条件は回転数200rpm、0.5秒回転1秒停止の間欠運転を30分行った。メッシュは40μmのものを用いた。
【0048】
図9に、同量の組織から得られた細胞の取得量の平均値と偏差を、本発明手法と従来の手技による手法により得たグラフを示す。また、図12に平均値と偏差を数値として示している。この図9及び図12から明らかなように、本発明手法が極めて高効率で細胞の取得が可能である。
【0049】
また、図10に、単離細胞取得直後の単位細胞数あたりのCK活性値の平均値と偏差を、本発明手法と従来の手技による手法により得たグラフを示す。また、図12に平均値と偏差を数値として示している。この図10及び図12からは、単位細胞数あたりの心筋細胞の比率が分かる。本発明手法が、細胞へのダメージを少なくすることで従来の手技による手法よりも優れて生存した心筋細胞の取得が可能であることが分かる。
【0050】
更に、図11に、単離細胞取得後から4日目における細胞の生存率の平均値と偏差を、本発明手法と従来の手技による手法により得たグラフを示す。また、図12に平均値と偏差を数値として示している。この図11及び図12から、本発明手法が細胞にダメージを与えることが少なく、従来の手技による手法よりも優れて高い生存率の細胞取得が可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0051】
11、11A 室体 12、12A 蓋体
13 室 18 凹部
19 孔 19A 蓋片
20、20A 単離用部材 21、21A 軸体
22 刃体 24 孔
25 凹部 25a ネジ穴
26 スペーサ 28 下端部
29 結合部 30、30A 制御装置
31、31A 制御部 32 操作部
33 モータ 33A 回転センサ
34 軸受穴 36 温度素子
37 液面センサ 51 軸
52 軸受 53 開口部
61 スターラー駆動装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織に衝突して細胞を単離する単離用部材と、
組織が入れられ、前記単離用部材が動く室を有する室体と、
前記室体における前記単離用部材の動作を制御する制御部と
を具備することを特徴とする細胞単離装置。
【請求項2】
単離用部材は、複数の刃体を有することを特徴とする請求項1に記載の細胞単離装置。
【請求項3】
室内の溶液の液面を検出する液面センサを備え、
制御部は、この液面センサによる検出結果に基づき前記単離用部材の動作を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の細胞単離装置。
【請求項4】
室体内の温度または装置の温度を制御する温度制御手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞単離装置。
【請求項5】
室体内に液を注入するための液注入部を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の細胞単離装置。
【請求項6】
単離用部材は、軸体と、この軸体に結合される複数の刃体と、軸体において複数の刃体を支持する支持手段と
を具備していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の細胞単離装置。
【請求項7】
軸体が、単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転されることを特徴とする請求項6に記載の細胞単離装置。
【請求項8】
室体には、軸体を受ける軸受が形成されていることを特徴とする請求項6または7に記載の細胞単離装置。
【請求項1】
組織に衝突して細胞を単離する単離用部材と、
組織が入れられ、前記単離用部材が動く室を有する室体と、
前記室体における前記単離用部材の動作を制御する制御部と
を具備することを特徴とする細胞単離装置。
【請求項2】
単離用部材は、複数の刃体を有することを特徴とする請求項1に記載の細胞単離装置。
【請求項3】
室内の溶液の液面を検出する液面センサを備え、
制御部は、この液面センサによる検出結果に基づき前記単離用部材の動作を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の細胞単離装置。
【請求項4】
室体内の温度または装置の温度を制御する温度制御手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞単離装置。
【請求項5】
室体内に液を注入するための液注入部を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の細胞単離装置。
【請求項6】
単離用部材は、軸体と、この軸体に結合される複数の刃体と、軸体において複数の刃体を支持する支持手段と
を具備していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の細胞単離装置。
【請求項7】
軸体が、単離用部材と非接触の磁気回転駆動部により回転されることを特徴とする請求項6に記載の細胞単離装置。
【請求項8】
室体には、軸体を受ける軸受が形成されていることを特徴とする請求項6または7に記載の細胞単離装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−44936(P2012−44936A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191035(P2010−191035)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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