説明

細胞含有製剤

本発明は、配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する細胞と、繊維状タンパク質を含有することを特徴とする細胞含有製剤である。この細胞含有製剤は、癌の成長又は転移等の抑制作用を有するNK4を、より効率的に癌細胞に供給できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、NK4をコードするDNAを利用して、癌の成長、浸潤又は転移を予防・治療するためのNK4を供給する細胞含有製剤に関する。より詳しくは、NK4をコードするDNAを形質転換された細胞から分泌されるNK4を、癌細胞又は癌組織に供給することにより癌の成長、浸潤又は転移を予防・治療する細胞含有製剤及び該製剤を用いて腫瘍の成長、浸潤又は転移を抑制する方法、更には該製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
膵臓癌等の転移しやすい癌は、完全治癒が困難で、癌に冒された部分の臓器組織を切除することが、唯一効果のある治療方法とされている。しかしながら、転移しやすい癌は、癌細胞の周囲組織への浸潤速度が速く、切除手術後の予後が不十分であると、非常に高い頻度で転移癌が再発してしまう(例えば非特許文献1又は2参照)。癌で死亡する場合、原発腫瘍が直接の原因でなく、この再発した転移癌が原因である場合が多い。
癌治療には、例えば放射線治療や抗癌剤投与等の化学療法が通常用いられており、特に転移しやすい癌においては、癌再発防止の観点から、上記の臓器組織切除手術ととともに化学療法を補助的に行う治療方法も試みられている。しかしながら放射線治療や抗がん剤投与等の化学療法は、その癌抑制効果が認められているものの、様々な副作用、例えば骨髄抑制、脱毛、心臓・神経障害、消化管・肝臓等の障害が出る危険性があり、必ずしも安全な治療方法とは言えない。
従って癌治療においては、原発腫瘍そのものの増殖を抑制する治療方法のみならず、転移癌の発生を阻止する方法の開発に対する要望も非常に高い。しかもこの両方を満足して、副作用がなく、生体に安全な治療方法は未だ確立されていないのが現状である。
肝細胞増殖因子(HGF)は、α鎖とβ鎖とで構成されるヘテロダイマータンパク質である。HGFはc−Met/HGF受容体に結合することにより、マイトゲン活性、モートゲン活性、モルフォゲン活性を発現し、腫瘍細胞の浸潤、転移等を誘発したり、血管新生を誘導する作用を有することが、多数の研究より報告されている(例えば非特許文献3又は4参照)。
NK4は、HGFのα鎖のN末端ヘアピンドメインと4つのクリングルドメインからなるペプチドであって、上記のHGFがc−Met/HGF受容体に結合するのを阻害することにより、HGFのアンタゴニストとして作用する(例えば非特許文献5又は6参照)。NK4は、このHGFアンタゴニスト活性により、腫瘍の成長、浸潤又は転移を抑制し、またHGFアンタゴニスト活性を発現するのとは別のメカニズムで、HGFのみならずVEGFやbFGFによる血管新生作用をも抑制することが知られている(例えば非特許文献7参照)。
上記の点から、NK4を癌組織に供給すると、癌の成長、転移等が抑制される。しかもNK4は生体由来のタンパク質であることから、生体に投与しても安全である。
NK4を癌組織に供給する方法としては、NK4そのものを投与する方法、又はNK4をコードする遺伝子を直接癌細胞に導入し、癌細胞内でNK4を産生させる等という遺伝子治療技術を用いた方法等が挙げられる。NK4そのものを癌細胞等に直接投与する方法は、即効性があり、しかも高い治癒効率を期待できるという点で好ましいが、NK4を産生しうる細胞等を多量に培養し、細胞からNK4を抽出・精製するプロセスが必要となるため、操作が煩雑となる。
一方、NK4をコードする遺伝子を癌細胞に導入する方法は、NK4を別途、製造・精製する必要がない点において有利である。該遺伝子を癌細胞に導入する手段としては、NK4をコードする遺伝子を、例えばアデノウイルスベクター等に組み込み、該ベクターを癌細胞に感染させる方法が一般的である。
癌治療に有効なタンパク質をコードする遺伝子又は癌治療に有効なタンパク質そのものを癌細胞に導入する方法として、該遺伝子を有するベクター又はタンパク質そのものを光硬化型ゼラチンに含有させ、該ゼラチンで癌組織を覆うことにより、ベクターと癌組織を接触させてベクターを癌細胞に感染させるか、又はタンパク質を癌組織に浸透させる方法がこれまでに開示されている(例えば非特許文献8)。本方法では、タンパク質は効率よく癌細胞に浸透させることができたが、巨大分子であるベクターの癌細胞内への浸透率が低く、有効に遺伝子を癌細胞に導入することは困難であった。この点から、癌細胞にはタンパク質そのものを供給する方が有利であると考えられるが、上述した通り、タンパク質を別途、製造・精製する必要があるため、本方法は、実用化において必ずしも優れた技術とは言えない。
従って、本発明の細胞含有製剤の如く、実用的でかつ効率的にNK4を癌組織に供給できる技術はこれまでに知られていない。つまり本発明の細胞含有製剤は、上記のNK4そのものを投与する方法及びNK4をコードする遺伝子を直接癌細胞に導入して癌細胞内でNK4を産生させる方法の両方の有利な点を有する技術であり、NK4を別途、製造・精製する必要がなく、癌細胞への浸透効率が高いタンパク質の形でNK4を癌組織に供給することができる。しかも投与部位に適した形状に形成することができ、例えばシート状にした場合には、ターゲットとなる癌組織の領域全体を覆うことができる。しかも手術により癌組織を削除した残余部を覆うことにより、手術により取りきれなかった原発腫瘍が原因となる癌の転移・再発を防止することもできる。
更に本発明の細胞含有製剤は、上述した化学療法等を用いた場合に見られるような副作用等を発症する危惧がなく、また患者本人から採取した自家細胞を用いて製剤を作製すれば、より患者に安全な抗癌剤又は癌転移抑制剤となりうる。
【非特許文献1】 武田著、「膵臓癌における化学療法の役割(The role of adjuvant therapy for pancreatic cancer)」、ヘパトガストロエンテロロジー(Hepatogastroenterology)、米国、2001年、第48巻、第40号、p.953−956
【非特許文献2】 シエンヒューゴス(Cienfuegos JA)、「膵臓カルシノーマにおける術中放射線治療の分析(Analysis of intraoperative radiotherapy for pancreatic carcinoma)」、ヨーロピアンジャーナルオブサージカルオンコロジー(Eur J Surg Oncol.)、英国、2000年、第26−A巻、S13−15
【非特許文献3】 松本邦夫ら、「肺の形態形成及び癌浸潤における肝細胞増殖因子の役割;上皮−間葉相互作用及び腫瘍−間質相互作用のメディエーターとしての役割(HGF in lung morphogenesis and tumor invasion:role as a mediator in epithelium−mesenchyme and tumor−stroma interactions)、キャンサーケモセラピーアンドファーマコロジー(Cancer Chemother.Pharmacol.)、1996年、第38巻Suppl、S42−7
【非特許文献4】 チャンW.G.ら(Jiang.W.G et al.)、HGF/スキャッター因子、癌におけるその分子的、細胞的、臨床的影響(HGF/scatter factor,its molecular,cellular and clinical implication in cancer)、1999年、クリティカルレビューオンコロジーヘマトロジー(Crit.Rev.Oncol.Hematol.)、第29巻、p209−248
【非特許文献5】 伊達ら(Date K.et al.)、HGFアンタゴニストのNK4による癌の成長及び浸潤抑制(Inhibition of tumor growth and invasion by four−kringle antagonist(HGF/NK4)for HGF)、1998年、オンコジーン(Oncogene)、第17巻、第23号、p3045−54
【非特許文献6】 パーCら(Parr C.,et al.)、HGF/SFにより誘導されるパキシリンのリン酸化、前立腺癌細胞のマトリックス付着及び浸潤が、NK4(HGF/SF誘導体)により抑制される(The HGF/SF−induced phosphorylation of paxillin,matrix adhesion,and invasion of prostate cancer cells were suppressed by NK4,an HGF/FS variant.)、2001年、バイオケミカルバイオフィジカルリサーチコミュニケイション(Biochem.Biophys Res Commun.)、第285巻、第5号、p1330−7


【非特許文献8】 ジェインRKら(Jain RK.,et al.)、固形腫瘍における薬剤障害(Barriers to drug delivery in solid tumors)、1994年、サイエンティフィックアメリカン(Sci Am.)、第271巻、第5号、p498−504
【発明の開示】
本発明は、癌の成長又は癌の転移・再発の抑制効果を有し、かつ生体に安全な細胞含有製剤、より詳細には、癌の成長又は転移等の抑制作用を有するNK4を、より効率的に癌細胞に供給できる細胞含有製剤を提供することを目的とする。また本発明は、上記の細胞含有製剤を用いて、癌の成長を抑制する方法、癌の転移を抑制する方法又は血管新生を抑制する方法を提供すること及び上記細胞製剤の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含む細胞を、繊維状タンパク質、例えばコラーゲンとともに成形し、この複合体を癌組織周囲に移植することにより、該複合体の細胞内で産生されたNK4を、より有効にかつ過不足なく癌組織に供給できることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて更に検討を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) 配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する細胞と、繊維状タンパク質を含有することを特徴とする細胞含有製剤、
(2) 細胞が、口腔粘膜上皮細胞、皮膚細胞、線維芽細胞であることを特徴とする前記(1)に記載の細胞含有製剤、
(3) 繊維状タンパク質が、コラーゲンであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の細胞含有製剤、
(4) 繊維状タンパク質の表面上に、細胞を有していることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞含有製剤、
(5) 細胞が、形質転換体であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞含有製剤、
(6) 形質転換体が、組換え発現ベクターで形質転換されたものであることを特徴とする前記(5)に記載の細胞含有製剤、
(7) 組換え発現ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40またはプラスミドである前記(6)に記載の細胞含有製剤、
(8) 配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるペプチドを生成しうることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の細胞含有製剤、
(9) 更に生分解性樹脂からなるメッシュシートを有することを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の細胞含有製剤、
(10) 生分解性樹脂が、ポリグリコール酸であることを特徴とする前記(9)に記載の細胞含有製剤、
(11) 抗癌剤又は癌の転移抑制剤であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれかに記載の細胞含有製剤、
(12) 卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、肉腫、グリオーマまたはメラノーマの抗癌剤又は転移抑制剤である前記(11)に記載の細胞含有製剤、
(13) 血管新生抑制剤であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれかに記載の細胞含有製剤、
(14) 哺乳動物に、前記(1)〜(13)のいずれかに記載の細胞含有製剤を投与することを特徴とする癌の成長、浸潤並びに転移抑制方法又は血管新生抑制方法、
(15) 繊維状タンパク質の表面上で細胞を培養し、更に培養された細胞を、配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する組換え発現ベクターで形質転換することを特徴とする細胞含有製剤の製造方法、
(16) 生分解性樹脂からなるメッシュシートの上に繊維状タンパク質を被覆することによって繊維状タンパク質シートを作製し、得られた繊維状タンパク質シートの表面上で細胞を培養し、更に培養された細胞を、配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する組換え発現ベクターで形質転換することを特徴とする細胞含有製剤の製造方法、
(17) 細胞を配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する組換え発現ベクターで形質転換し、得られた形質転換細胞と繊維状タンパク質を混合することを特徴とする細胞含有製剤の製造方法。
に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の細胞含有製剤及びその移植方法の一例を示す模式図を示す図である。
第2図は、組換えアデノウィルスベクターAd−NK4の模式図を示す図である。
第3図は、本発明の細胞含有製剤の一例のSEM解析像(断面図)示す図である。
第4図は、Ad−NK4を導入されたOMECのNK4分泌を時間経過とともにモニターした図である。
第5図は、OMECの増殖における、Ad−NK4導入の影響を示す図である。
第6図は、Ad−NK4を導入されたOMECから分泌されるNK4による、膵臓癌細胞浸潤抑制の効果を示す図である。
第7図は、細胞含有製剤の一例を移植した腫瘍モデルマウスにおける、腫瘍内及び血清中のNK4濃度を示す図である。
第8図は、細胞含有製剤の一例を移植した腫瘍モデルマウスにおける、腫瘍体積の増加抑制効果を示す図である。
第9図は、細胞含有製剤の一例を移植した腫瘍モデルマウスにおける、新生血管数の増加抑制効果を示す図である。
図中の符号1はコラーゲンゲルを、2はバイクリルTMメッシュシートを、3はOMECを、4はAd−NK4が導入されたOMECを、5は遺伝子産物(NK4)を、6は癌組織を、7は組織を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の細胞含有製剤は、(a)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列を有するDNA、または(b)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する細胞と、繊維状タンパク質とを含有することを特徴とする。
配列番号:1又は2で表される塩基配列は、NK4をコードするDNAの一例である。また配列番号:2で表される塩基配列は、配列番号:1で表される塩基配列の391番目から405番目までの塩基が欠失しているものであって、該DNAにより産生されるタンパク質も、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有する。
本発明において、配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば上記DNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0M程度の塩化ナトリウム存在下、約65℃程度でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍程度の濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、約65℃程度の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。
上記の配列番号:1又は2で表される塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAとしては、具体的には、例えば、配列番号:1又は2で表わされる塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNA等が挙げられ、より具体的には種々の人為的処理、例えば、部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断により、配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換、付加等し、部分的にDNA配列が変化したものであって、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有するペプチドを産生できるDNAであればよい。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning,A laboratory Manual,Third Edition(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,2001:以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す)に記載の方法等に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列を有するDNA等とは、具体的には、(a)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))の塩基が欠失した塩基配列、(b)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列に1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))の塩基が付加した塩基配列、(c)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))の塩基が他の塩基で置換された塩基配列、または(d)それらを組み合わせた塩基配列を有するDNA等が挙げられる。
DNAの塩基配列の置換等は、PCRや公知のキット、例えば、MutanTM−superExpress Km(宝酒造)、MutanTM−K(宝酒造)等を用いて、ODA−LAPCR法、gapped duplex法、Kunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って行うことができる。
(a)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列を有するDNA、または(b)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列を完全に有するDNA断片のクローニングの手段としては、(a)又は(b)の部分塩基配列を有する合成DNAプライマー、例えは公知のHGFプライマー(例えば配列番号5又は6に表される塩基配列を有するDNA断片)を用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAの中から、標識されたHGFタンパク質の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて、ハイブリダイゼーションさせることによって選別することができる。
また、公知のHGFの塩基配列情報から従来公知の方法を用いて化学合成によりクローニングすることもできる。化学合成法としては、例えば、フォスフォアミダイト法を利用したDNA合成機model392(パーキン・エルマー株式会社製)等のDNA合成機で化学合成する方法が挙げられる。
本発明に用いられるDNAは、細胞内でのDNAの安定性を高めるため、また、もし毒性があるならDNAの毒性をより小さなものにするために修飾されていてもよい。このような修飾は当該分野で数多く知られており、例えばJ.Kawakami et al.,Pharm Tech Japan,Vol.8,pp.247,1992;Vol.8,pp.395,1992;S.T.Crooke et al.ed.,Antisense Research and Applications,CRC Press,1993等に開示される技術に準じて行ってよい。
また本発明に用いられるDNAは、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するため、その核酸の3’末端あるいは5’末端が、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等をはじめとした当該分野で公知の保護基により化学修飾されたものであってもよい。
更に該DNAは5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終始コドンとしてのTAA,TAGまたはTGAを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終始コドンは、適当なDNAアダプターを用いて該DNAに付加することができる。また5’末端側には、ポリアデニル化配列を有していることが好ましい。
NK4をコードするRNAも、逆転写酵素によりHGFのアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を発現することができるものであれば、本発明に用いることができ、また該RNAも公知の手段により得ることができる。本発明においては、このようなRNAも、本発明に用いられるDNAに含まれるものとする。
本発明で用いられる細胞は、(a)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列を有するDNA、または(b)配列番号:1又は2で表わされる塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有することを特徴とする。
本発明で用いられる細胞への上記(a)又は(b)のDNAの導入方法は、特に限定されず公知の手段に従ってよい。例えば、プラスミドやウイルス等の組換え発現ベクター又はリポソーム、マイクロカプセル等の人工ベクターに含有させて細胞に導入する方法が挙げられるが、本発明においては、組換え発現ベクターを用いるのが好ましい。組換え発現ベクターを宿主へ導入する方法としては、自体公知の方法であればいずれも用いることができる。例えば、コンピテント細胞法[J.Mol.Biol.,53,154(1970)]、DEAEデキストラン法[Science,215,166(1982)]、インビトロパッケージング法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,72,581(1975)]、ウイルスベクター法[Cell,37,1053(1984)]、マイクロインジェクション法[Exp.Cell.Res.,153,347(1984)]、エレクトロポレーション法[Cytotechnology,3,133(1990)]、リン酸カルシウム法[Science,221,551(1983)]、リポフェクション法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,84,7413(1987)]、プロトプラスト法[特開昭63−2483942、Gene,17,107(1982)、Molecular & General Genetics,168,111(1979)]に記載の方法等を挙げることができる。
本発明に用いられる組換え発現ベクターは、導入された細胞内で(a)又は(b)のDNAを発現させ、NK4を有効に産生する事ができる発現ベクターであることが好ましく、例えば、NK4をコードする塩基配列を含むDNA断片を例えばcDNAから切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
組換え発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、例えば、pCR4、pCR2.1、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等が、枯草菌由来のプラスミド、例えば、pUB110、pTP5、pC194等が、酵母由来プラスミド、例えば、pSH19、pSH15等が、λファージ等のバクテリオファージ、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40等の動物ウイルス等の他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等が用いられる。中でも、本発明で用いるベクターとしては、ウイルスが好ましく、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はアデノウイルスがより好ましい。
アデノウイルスには種々の血清型が存在するが、本発明では2型若しくは5型ヒトアデノウイルスを使用することが好ましい。アデノウイルスは、感染効率が他のウイルスベクターに比べて高いこと、分裂していない細胞に感染することができること及び細胞のゲノムに組み込まれないことが知られており、これらの観点からアデノウイルスベクターを用いることがさらに好ましい。
ウイルスベクターはウイルス遺伝子を完全又はほぼ完全に欠失する複製欠失ウイルスが好ましい。アデノウイルスベクターは少なくともE1領域が非機能的であることが好ましい。また、他の領域も改変してよく、特にE3領域(WO95/02697)、E2領域(WO94/28938)、E4領域(WO94/28152、WO94/12649、WO95/02697)又は後期遺伝子L1からL5の任意のものを改変することができる。複製欠失ウイルスのような改変ウイルスベクターは、自体公知の方法により作成することができる。また、改変ウイルスベクターは、自体公知の方法により回収・精製することができる。尚、例えば、特表平11−514866、特表平11−506311、特表平9−500524、特表平8−501703、特表平8−508648又は特開平8−308575等に記載された改変ウイルスベクターを用いることもできる。
前記プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、哺乳動物細胞を宿主とする場合は、ラウス肉腫ウイルス(ウイルスRSV)、MPSV、ポリオマーウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(SMV)、B型肝炎ウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、ワクシニアウイルス等のウイルスゲノムから得られるプロモーター、メロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。
組換え発現ベクターには、NK4をコードするDNAを発現させるため、または発現に有利になるように、更に下記する調節配列が付加されているものを用いることができる。各々の調節配列はベクターに対して内在性であっても外来性であってもよい。
このような調節配列としては、シグナル配列、プロモーター、プロペプチド配列、エンハンサー、選択マーカー、ターミネーター等を挙げることができるが、これらに限定されない。調節配列には、NK4をコードするDNAと調節配列との連結及び/又は上記調節配列同士間の連結が容易となるように、予めリンカーを持たせることもできる。
なお、組換え発現ベクターにシグナル配列を組み込むことにより、宿主細胞内に産生されたNK4が宿主細胞外に積極的に分泌される。その結果、産生されたNK4を目的とする部位に効率よく供給することができ、癌の成長抑制、転移抑制又は血管新生を抑制することができる。
シグナル配列としては、宿主が哺乳動物細胞である場合には、HGF・シグナル配列、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列等が利用できるが、特に本発明においては、ヒト由来のHGFシグナル配列を利用するのが好ましい。
シグナル配列を付加する方法としては、自体公知の方法を用いて行うことができ、例えば、J.Biol.Chem.,264,17619(1989)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)、特開平5−336963、WO94/23021等に記載の方法が挙げられる。
また高等哺乳動物、例えばヒトの細胞を宿主として用いる場合には、ベクターにエンハンサーを導入することが好ましい。エンハンサーを導入することにより、ベクターに挿入されたDNAの転写が増大する。エンハンサーとしては、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルスの初期プロモーター/エンハンサー、ポリオマーエンハンサー、アデノウイルスのエンハンサー等が挙げられる。
選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。特に、CHO(DHFR)細胞を用いてDHFR遺伝子を選択マーカーとして使用する場合は、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択することができる。
これらのウイルスベクター等にNK4をコードするDNA断片等を挿入し、これを宿主細胞に感染又は形質転換することによって、本発明のNK4を産生しうる細胞含有製剤を構成する細胞を作製することができる。
ウイルスベクターの調製法、ウイルスベクターへのDNA断片の挿入方法は、別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社(1996)、あるいは、別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社(1997)等に記載されている。
本発明の細胞含有製剤に用いられる細胞は、上記組換え発現ベクター等の宿主となりうる細胞であれば特に限定されないが、例えば、動物細胞、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、ビフィズス菌、乳酸菌、酵母、昆虫細胞等が挙げられる。
動物細胞としては、例えば、ヒト等の哺乳動物の口腔粘膜上皮細胞(以降、OMECと略す)、皮膚細胞、線維芽細胞、各種上皮細胞等を含む体細胞、又はサル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr)細胞と略記)、マウス細胞BALB/3T3、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスC127細胞、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒト細胞HeLa、ヒトFL細胞、ヒト胎児腎臓由来の293細胞[実験医学、12、316(1994)]、マウスNIH3T3細胞等を含む各種細胞株が用いられる。
前記動物細胞は、実験室用に確立された細胞又は生体の組織から分離した細胞等のいずれであってもよい。生体組織から分離した細胞は、例えば、適切な手段で摘出した組織を、Dispase又はEDTAなどで処理し、ついで、トリプシン処理して単一の細胞まで分離することによって得られる。さらに、得られた単一細胞を適切な培地でコンフルエントになるまで培養し、継代を2〜3回繰り返して細胞を確立する。確立された細胞は、トリプシン処理及びコラゲナーゼ処理することにより、再度単一細胞として採取され、本発明の細胞として用いることができる。細胞の種類によっては、細胞の培養にフィーダーレイヤー法を用いるのがよい。例えば、本発明の細胞にOMEC又は皮膚角化表皮細胞を用いる場合には、マウス胎児由来の線維芽細胞(3T3細胞)をフィーダー細胞として用いるのが好ましい。フィーダーレイヤー法は、公知の手法、例えば[Ueda M,The potential of Oral mucosal cells for cultured epithelium:a preliminary report.Ann.Plast.Surg.,35(5),p498−504(1995)]、「Rheinwald JG,Serial cultivation of strains of human epidermal kerationocytes:the formation of keratinizing coloneis from single cells.,Cell.,6(3),p331−343(1975)」等に従ってよい。
エシェリヒア属菌の具体例としては、Escherichia coli K12・DH1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60巻,160(1968)〕,JM103〔Nucleic Acids Research,9巻,309(1981)〕,JA221〔Journal of Molecular Biology,120巻,p517(1978)〕、HB101〔Journal of Molecular Biology,41巻,p459(1969)〕、C600〔Genetics,39巻,440(1954)〕、DH5α〔Inoue,H.,Nojima,H.and Okayama,H.,Gene,96,p23−28(1990)〕、DH10B〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87巻,p4645−4649(1990)〕等が用いられる。バチルス属菌としては、例えば、Bacillus subtilis MI114〔Gene,24巻,255(1983)、Journal of Biochemistry,95巻,87(1984)〕等が用いられる。ビフィズス菌としては、例えばBifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve等が挙げられる。乳酸菌としては、例えばラクトバチラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptoccoccus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)等が挙げられる。
酵母としては、例えばSaccharomyces cerevisiae AH22、AH22R,NA87−11A、DKD−5D、20B−12、Schizosaccharomyces pombe NCYC1913、NCYC2036、Pichia pastoris等が用いられる。
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestrabrassicae由来の細胞またはEstigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCCCRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn,J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo),13,213−217,(1977))などが用いられる。
上記動物細胞へのDNAの導入は、例えば、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール,263−267(1995)(秀潤社発行)、Virology,52巻,p456(1973)に記載の方法に従って行うことができる。
エシェリヒア属菌にDNAを導入するには、例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69巻,2110(1972)や、Gene,17巻,107(1982)等に記載の方法に従って行うことができる。バチルス属菌を形質転換するには、例えば、Molecular & General Genetics,168巻,111(1979)等に記載の方法に従って行うことができる。
酵母へのDNAの導入は、例えば、Methods in Enzymology,194巻,p182−187(1991)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75巻,p1929(1978)等に記載の方法に従って行うことができる。
昆虫細胞へのDNAの導入は、例えば、Bio/Technology,6巻,p47−55(1988)等に記載の方法に従って行うことができる。
このようにして、NK4をコードするDNAを含有する発現ベクターを導入された形質転換体を得ることができる。
本発明は、NK4をコードするDNAを含む細胞とともに、繊維状タンパク質を有することを特徴とする。繊維状タンパク質は、本発明の細胞含有製剤において、NK4をコードするDNAを有する細胞の支持担体としての役割を果たす。該繊維状タンパク質を含有することにより、本発明は様々な形状、例えばシート状、球状、チューブ状等となることができ、生体のあらゆる部位に投与が可能となる。繊維状タンパク質としては、コラーゲン、ケラチン、フィブロイン、エラスチン、フィブリン等が挙げられる。本発明においては、この中でも哺乳類の真皮組織や軟骨組織等の主要構成成分であるコラーゲン、特にI型コラーゲンが好ましい。繊維状タンパク質は、哺乳動物等の生体由来のタンパク質であることから、生体に安全である。
また本発明に用いる繊維状タンパク質には、その繊維状の構造中に、本発明に用いる細胞を培養するのに適した培地成分が含まれていることが好ましい。繊維状タンパク質に培地成分が含まれることによって、本発明に含有される細胞に栄養を供給することができ、本発明を生体に投与した場合、生体内において細胞を長期に安定な状態で生存させることができ、NK4の癌組織への供給を安定化及び長期化させることができる。
本発明に用いる細胞を培養するのに適した培地成分と、上記繊維状タンパク質、例えばI型コラーゲンを混合し、この混合物を約30〜37℃、約15分〜1時間静置し、所望の形状、例えばシート状、球状、チューブ状等に固化させることにより、培地成分を含むコラーゲンゲルを作製することができる。該培地成分含有コラーゲンゲルを薄厚形状、例えばシート状等にする場合には、その強度の保持及び操作の簡便化のために、培地成分含有コラーゲンゲルを生分解性樹脂からなるメッシュシート等に固定し、コラーゲンゲル複合材料として作製してもよい。コラーゲンゲル複合材料の作製方法は特に限定されないが、生分解性樹脂からなるメッシュシート等の上に、培地成分とコラーゲンとの混合物を流し込み、メッシュシート上でコラーゲンゲルを作製するのがよい。
上記生分解性樹脂製メッシュシートとしては、生分解性高分子材料製の手術用縫合糸等からなるメッシュシート等が好ましい。特に本発明においては、生分解性高分子がポリグリコール酸であることが好ましく、市販の生分解性樹脂製メッシュシートとしては、編糸型バイクリルTMメッシュ(knitted−type VICRYLTM mesh;Ethicon,Inc.,New Jersey)等を挙げることができる。
更に本発明の細胞含有製剤は、通常製剤に添加されることが薬事法上許容されている他の添加成分、例えば徐放性付与剤、等張化剤、pH調整剤等を含んでいても良いが、これらの種類及び含有量等は、本発明に含まれる細胞の増殖・生存及び/又はNK4の分泌等を阻害しないことが好ましく、本発明の目的を損なわない範囲であることが好ましい。
これらの他の添加成分は、コラーゲンゲルを作製する際に、培地成分中に予め含ませておくのがよい。徐放性付与剤としては、ゼラチン等のタンパク質、セラミックス多孔体、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、キチン又はキチン誘導体、水膨潤性高分子ゲル等を使用することができる。等張化剤としては、ポリエチレングリコール、塩化ナトリウム等を使用することができる。またpH調整剤としては、リン酸塩、アミノ酸等を挙げることができる。
培地成分含有コラーゲン材料は、所望によりその強度を高めるために、更に圧縮されて高密度化されていてもよい。圧縮の方法は特に限定されないが、医療用のゴム製ヘラやゴムカップ等の器具、例えばシリコンカップ等を用いて、固化したコラーゲンゲルの上部より圧力をかける方法等を用いることができる。
本発明は、上記で作製した培地成分含有の繊維状タンパク質、例えば培地成分含有コラーゲンゲルと、NK4をコードするDNAを含む細胞とを含有することを特徴とするが、培地成分含有コラーゲンゲルとNK4をコードするDNAを含む細胞とは、本発明内において一体化又は非一体化のいずれの状態で存在していてもよい。一体化状態とは、上記コラーゲンゲル中に上記細胞が分散している状態を言い、このような細胞分散型コラーゲンゲルは、上記コラーゲンゲル作製時に、培地成分中に細胞を予め混合させておくことにより作製することができる。非一体化状態とは、上記一体化状態以外の状態、例えばコラーゲンゲル表面上に細胞が層をなして存在している状態を言い、このような細胞上置型コラーゲンゲルは、コラーゲンゲルを作製した後、該コラーゲンゲル表面上に細胞を塗布又は接種して培養することにより作製することができる。本発明においては、細胞とコラーゲンゲルは非一体化状態、特にコラーゲンゲル表面上に細胞が層をなして存在していることが好ましい。細胞の層は、単一層であっても、複層であってもよい。該形状にすることにより、細胞からなる層を直接投与部位に接触させることができ、細胞から分泌されたNK4を癌細胞等に効率的に供給することができる(第1図参照)。
また、本発明に用いられる細胞は、コラーゲンゲルと一体化又は非一体化される前に、予めNK4をコードするDNAが導入されていてもよいし、コラーゲンゲルと一体化又は非一体化された後に、NK4をコードするDNAが導入されて、NK4をコードするDNAを有する細胞とされてもよい。
本発明において、細胞とコラーゲンゲルが一体化されている場合には、DNAの宿主細胞への導入効率を考慮して、細胞には予めDNAが導入されていることが好ましい、また、本発明において好ましい形態である非一体化された形態、つまりコラーゲンゲル表面上に細胞が層をなして存在している形態においては、コラーゲンゲル上で培養され、層をなしている宿主細胞に、ウイルスベクター等を用いてNK4をコードするDNAを導入することが好ましい。
繊維状タンパク質材料に含まれる培地としては、宿主細胞が動物細胞である場合、動物細胞の培養に通常用いられる培地であれば特に制限されないが、例えば、約5〜20%の胎児牛血清(FBS)を含むMEM培地〔Science,122巻,501(1952)〕、DMEM培地〔Virology,8巻,396(1959)〕、RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199巻,519(1967)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕等が用いられる。細胞を培養する場合、培養時におけるpHは、約6〜8であることが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。なお、培養における温度、酸素濃度、二酸化炭素濃度などの条件は、細胞に応じて適宜設定することができる。
宿主がエシェリヒア属菌またはバチルス属菌である場合、培養に使用される培地としては、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物等を含有する培地であれば特に限定されないが、例えば、LB培地(日水製薬)、グルコース及びカザミノ酸等を含むM9培地[Miller,Journal of Experiments in Molecular Genetics,431−433,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1972〕等が好ましい。NK4をコードするDNAを有するベクターのプロモーターを効率よく働かせるために、必要により、例えば3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行い、必要により通気や撹拌を加えることもできる。宿主が酵母である場合、培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian,K.L.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77巻,p4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter,G.A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81巻,p5330(1984)〕等が挙げられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が昆虫細胞である場合、培地としては、Grace’s Insect Medium(T.C.C.,Nature,195巻,788(1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
本発明の細胞含有製剤は、用いる宿主細胞内にNK4をコードするDNA又はRNAを有することにより、NK4を産生することを特徴とする。本発明の細胞含有製剤で産生されるNK4としては、(a)配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は(b)配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるペプチドであって、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用等を有するタンパク質が挙げられる。特に好ましいタンパク質として、(c)配列番号:3又は4で表されるアミノ酸配列を含むペプチド又は(d)配列番号:3又は4で表されるアミノ酸配列を含むペプチドと実質的に同一なペプチド、特にそのアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換されたアミノ酸配列を有するペプチドであって、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有するペプチドが挙げられる。
なお、本発明における遺伝子工学又は生物工学の基本操作については、市販の実験書、例えば、遺伝子マニュアル 講談社、高木康敬編 遺伝子操作実験法 講談社、モレキュラー・クローニング第3版、メッソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),194(1991)、実験医学別冊・酵母による遺伝子実験法 羊土社(1994)等に記載された方法に従って行うことができる。
本発明の細胞含有製剤は、支持担体として繊維状タンパク質、例えばコラーゲン等を含有することにより、投与部位に適した様々な形状、例えばシート状、球状、チューブ状等に成形することができ、皮下、筋肉内等に埋め込むことにより投与することができる。例えば、シート状にした場合、癌組織そのものを覆うことができ、癌組織全体の個々の細胞に過不足なくNK4を供給することができる。更には外科的手術により癌組織を取り除いた部位に、該部位を覆う形で投与することにより、術後の癌の転移や再発を防止することもできる。
本発明の細胞含有製剤の投与量は、治療目的の疾患の種類、患者の症状、年齢、体重、投与部位等により適宜調整されるが、通常癌患者(体重60kgとして)においては、一般にNK4をコードするDNAの重量にして約0.01〜2000mg、好ましくは0.1〜100mgである。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
本発明の細胞含有製剤は、癌又は/及び血管新生による疾患の予防・治療剤として、及び、癌の転移防止剤として使用することができる。従って、本発明の細胞含有製剤は腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制に使用することができる。また、本発明の細胞含有製剤を用いて、腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導又は/及び血管新生抑制方法を提供することができる。
本発明の対象疾患の癌としては、例えば、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、子宮癌、胆管癌、膵島細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、精巣癌、睾丸腫瘍、甲状腺癌、皮膚癌、悪性カルチノイド腫瘍、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、メラノーマ、グリオーマ等が挙げられるが、なかでも卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、肉腫、メラノーマ又はグリオーマが好ましく、特に、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌が好ましい。
血管新生による疾患としては、例えば、リウマチ性関節炎、乾癬、オスラー−ウェバー(Osler−Webber)症候群、心筋の脈管形成、末梢血管拡張症、血友病性関節炎、眼の脈管形成疾患(例えば、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、老人黄班部変性、角膜移植拒絶、血管新生緑内障、水晶体後繊維増殖症、又はペルオーシス等)、血管繊維腫、良性腫瘍(例えば、血管腫、聴神経腫、神経繊維腫、トラコーマ、化膿性肉芽腫等)、白血病を含む造血器腫瘍、固形腫瘍、腫瘍
また、本発明の細胞含有製剤は、外科的療法や放射線療法又は他の化学療法と組み合わせて用いることもできる。外科的療法としては、上述した腫瘍の切削等が挙げられる。放射線療法としては、ガンマ照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子線照射等が挙げられる。また他の化学療法としては、抗腫瘍剤の投与等が挙げられる。抗腫瘍剤としては、例えばアルキル化剤、各種代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、抗腫瘍性植物成分、BRM(生物学的応答性制御物質)等が挙げられる。
本発明の細胞含有製剤の抗癌剤、癌転移抑制剤等としての効果、つまり本発明が有するHGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用の測定は、公知の方法、例えば後に記載する測定方法等に準じて行うことができる。
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明するが、以下の開示は本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明の技術的範囲を何等限定するものではない。
(製造例)細胞含有製剤の作製
(1) NK4cDNAの作製
Wisterラットの皮下組織細胞又はOMECから、ISOGEN−LS(Nippon Gene Co.,Ltd.,Toyama,Japan)を用いてmRNAを単離し、これを使用してRT−PCR(reverse transcription/polymerase chain reaction)を行い、NK4cDNAを単離した。具体的には、mRNA溶液0.5μl(150ng)、10×RT−PCR溶液[500mM KCl、100mMトリス−HCl(pH9.0)、1%Triton X−100、15mM MgCl]5μl、dNTP(2.5mM)4μl、プライマー:1(10mM)2μl、プライマー:2(10mM)2μl、Taqポリメラーゼ(Takara)0.5μl、RNasin(Promega)0.5μl、逆転写酵素(Takara)0.5μl及びDEPC処理HO 35.2μlを混合し、42℃ 30分、95℃ 5分で逆転写反応を行い、94℃ 30秒、55℃ 1分、72℃ 1分のサイクルを40回繰り返し、さらに72℃で7分間反応させてNK4cDNAを得た。このようにして得られたNK4cDNAをTA Cloning Kit(Invitrogen)を使用してpCRIITMベクターにクローニングし、pCRII/NK4を得た。なお、プライマーには、配列番号5又は6に表されるDNA断片を用いた。
(2) 組換え発現ベクターの構築
(1)で作製したpCRIIベクターに組み込まれたNK4cDNAを制限酵素KpnI/SpeIで切断し、T4DNAポリメラーゼ(Takara)処理により切断末端を平滑化させた。得られたNK4cDNA断片を制限酵素XhoIで処理し、切断末端を平滑化しておいたヒトアデノウイルスベクターV型(E1a欠損、E3部分欠損)と混合し、T4 DNAリガーゼで結合してNK4発現ベクターAd−NK4(第2図)を得た。
(3)OMECの確立
3〜6週令のWisterラットから、口腔内組織を取り出して細分化し、これを抗生物質(ペニシリンGカリウム1000U/ml、カナマイシン1mg/ml、アンフォテリシンB 2.5μg/ml)を含むPBS(pH7.4.4、Nissui Pharmaceutical Co.,Ltd.,Tokyo,Japan)に2回浸漬した。浸漬後の組織を、02%ディスパーゼ(Sigma−Aldrich Co.,St.Louis,MO)を含むDMEM培地(Gibco Laboratories Inc.,Grand Island,NY)中に再度浸漬した。次いで0.25%トリプシン及び5mMEDTAを含む溶液を用いて室温で30分間処理後、10%のFBS(CSL Ltd.,Victoria,Australia)を含むDMEM培地で洗浄した。得られた検体組織を、5%FBSを含むDMEM培地中で30分間攪拌して個々の細胞を遊離させ、ポアサイズ50μmのフィルターを用いてろ過することにより、遊離OMECを得た。
Swiss3T3細胞(Dainippon Pharmaceutical Co.,Ltd;Osaka,Japan)を、4μg/mlのマイトマイシンC(Wako Pure Chemical Industries,Tokyo,Japan)で2時間処理した後、10%CO含有EFM培地[DMEM培地:Ham‘s F培地(Nihonseiyaku,Tokyo,Japan)=3:1]を有する6穴プレート(Costar Inc.,NY)の各ウェルに、1×10個ずつ接種した。上記10%CO含有EFM培地には、5%FBS、5μg/mlインシュリン(Wako Pure Chemical Industries)、5μg/mlトランスフェリン(Wako Pure Chemical Industries)、2×10−9Mトリヨードチロシン(Sigma−Aldrich Co.)、10ng/mlコレラ毒(Sigma−Aldrich Co.)、0.5μg/mlハイドロコルチゾン(Wako Pure Chemical Industries)、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlカナマイシン及び0.25mg/mlアンフォテリシンBを補填した。
次いで遊離OMECを、各ウェルに1×10個ずつ接種した。細胞の接種後3日目に、各ウェルに表皮細胞増殖因子(Human recombinant epidermal growth factor:Wako Pure Chemical Industries)10ng/mlを添加した。7〜10日後、OMECがコンフルエント状態になったのを確認後、継代培養した。継代培養2又は3代目の細胞を、確立細胞として取得した。
(4) コラーゲンゲルの作製
編糸型バイクリルTMメッシュシート(knitted−type VICRYLTM mesh;polyglactin 910;Nithicon,Inc.,New Jersey)を、24穴プレート(Greiner Bio−one Co.,Ltd,Frickenhausen,Germany)のウェルに設置し、その上に、10%FBS含有DMEM培地0.5mlと、同培地に懸濁したI型コラーゲン(0.3質量%;CELLGEN,Koken Corp.,Tokyo,Japan)0.5mlとの混合液を流し込んだ。37℃で30分間静置し、コラーゲンゲルバイクリルTMメッシュ複合材料を作製した。該複合材料上のコラーゲンゲルをシリコンカップを用いて圧縮し、高密度化した。
(5) コラーゲンゲル付着OMECシートの作製
上記(3)で得られた確立OMECを、0.05%トリプシン−EDTAを用いて遊離細胞とした。得られた遊離細胞を、(4)で作製したコラーゲンゲル表面上に、2×10個/cmなるように接種した。37℃で2〜3日培養し、コラーゲンゲル表面上にOMEC層を作製した。第3図は、作製したコラーゲンゲル付着OMECシートのSEM(走査型電子顕微鏡)断面像である。第3図より、コラーゲンゲル付着OMECシートが、OMECの細胞層、コラーゲンゲル層及びバイクリルTMメッシュシート層の3層からなることが確認された。SEM解析には、JOEL社製JSM−840Aを用いた。
(6) OMECへのAd−NK4の導入
(5)で得られたコラーゲンゲル付着OMECが入った24穴プレートの各ウェルに、2%FBS含有DMEM培地を500μl添加し、(2)で作製したAd−NK4を、培地500μl当り10〜200MOI(感染多重度)で、37℃、2時間感染させた。感染後、培養上清を取り除き、細胞含有製剤(製造例1)を得た。尚、大腸菌のlacZ遺伝子を発現するE1a、E1b及びE3欠損型アデノウイルスベクター(Ad−lacZ:H.Ueno,University of Occupational and Environmental Health,Fukuoka,Japan)を、上記と同様にコラーゲンゲル付着OMECに感染させ、比較例1を作製した。
(試験例1) NK4をコードするDNAが導入されたOMECのNK4生産能の確認
I型コラーゲンをコートした12穴プレート(Greiner Bio−one Co.,Ltd)の各ウェルに、OMECを2×10個接種した。2%FBS含有DMEM培地を1ml添加後、72時間培養し、次いで、培地500μlに対して10、50,100又は200MOIでAd−NK4を感染させた(Ad−NK4導入OMEC)。感染後、培養上清を取り除き、2%FBSを含むDMEM1mlを各ウェルに添加した。感染後48時間毎の培養上清を分取し、培養上清中のNK4分泌量を測定した。対照として、Ad−NK4で感染させないOMEC(Ad−NK4非導入OMEC)も同様に培養し、NK4分泌量を測定した。NK4の濃度は、IMMUNUS human HGF enzyme immunoassay kit(Institute of Immunology,Tokyo,Japan)を用いて測定した。
結果を第4図に示す。Ad−NK4導入OMECでは、感染後4日目に、MOI100又は200において分泌量が最多となり、その後、MOIに関係なく徐々に低下した。Ad−NK4非導入OMECでは、NK4の分泌は見られなかった。尚、各測定値は、平均値±SDで表した。
(試験例2) NK4をコードするDNAが導入されたOMECのコラーゲンゲル上での増殖能確認
I型コラーゲンをコートした24穴プレートの各ウェルに、OMECを5×10個接種した。72時間培養後、100MOIでAd−NK4を感染させた(Ad−NK4導入OMEC)。感染後、培養上清を取り除き、FEM培地500μlを各ウェルに添加した。24又は48時間後、0.05%−EDTAを用いて細胞を分離し、細胞数を、細胞計数分析装置(Coulter counter:Beckman Coulter Inc.,CA)を用いて計測した。対照として、Ad−NK4で感染させないOMEC(Ad−NK4非導入OMEC)も同様に培養し、細胞数を計測した。尚、各測定値は、平均値±SDで表した。
結果を第5図に示す。Ad−NK4導入OMECとAd−NK4非導入OMECは、そのコラーゲンゲル上での増殖能には殆ど差がなかった。上記試験例1の結果と合わせると、OMECがウイルスベクターにより形質転換されていても、またNK4を分泌しても、コラーゲンゲル上での増殖能には、殆ど影響がないことが確認された。
(試験例3) NK4をコードするDNAが導入されたOMECから産生されるNK4による癌浸潤抑制効果の確認
I型コラーゲンをコートした12穴プレートの各ウェルに、OMECを1×10個接種した。72時間培養後、100MOIでAd−NK4を感染させた(Ad−NK4導入OMEC)。感染後、培養上清を取り除き、2%FBSを含有するDMEM1mlを各ウェルに添加した。感染3日又は4日後の培養上清を分取し、この上清(NK4−sup)を浸潤抑制試験に用いた。浸潤抑制試験には、24穴ウェルマトリゲルインベイジョンダブルチャンバー(24−well Matrigel Invasion double chamber:Becton Dikinson,Bedfold,MA)を用いた。
HGFを産生するヒト線維芽細胞(MRC−5:RIKEN Cell Bank,Ibaraki,Japan)を、上記マトリゲルインベイジョンダブルチャンバーのアウターカップに含まれる10%FBS含有DMEMに、1.5×10個/cmになるよう接種した。24時間培養後、培養液を2%FBS含有DMEMに交換した。2%FBS含有DMEM(対照)又は上記NK4−supに懸濁した膵臓癌細胞(SUIT−2又はAsPC−1:H.Iguchi,National Kyushu Cancer Center,Fukuoka,Japan)を、マトリゲルインベイジョンダブルチャンバーのインナーカップに5×10個/カップとなるよう接種した。24時間培養後、ヘマトキシン−エオシン染色を行い、浸潤した膵臓癌細胞数を計測した。浸潤細胞数は、無作為に顕微鏡下5視野を選択し、その平均値±SDで表した。
結果を第6図に示す。2%FBS含有DMEM(対照)に懸濁した膵臓癌細胞及びNK4−supに懸濁した膵臓癌細胞ともに、MRC−5非存在下(MRC−5(−))では、膵臓癌細胞の種類に関係なく浸潤は殆ど見られなかったが、MRC−5存在下(MRC−5(+))では、MRC−5非存在下(MRC−5(−))に比べ、膵臓癌細胞の浸潤が見られ、その浸潤細胞数の増加はSUIT−2細胞において顕著であった。これに対し、NK4−supに懸濁した膵臓癌細胞では、SUIT−2及びAsPC−1ともに、浸潤細胞数の増加が著しく抑制された。
(実施例1) 細胞含有製剤のNK4産生
4週令のヌードマウス(BALB/c nu/nu,Kyudo Co.,Lyd.,saga,Japan)の左わき腹筋肉内に、DMEM50μlに懸濁したAsPC−1細胞3×10個を移植し、腫瘍を形成した。AsPC−1細胞移植14日後、上記製造例で作製した製造例1(製造例1群:n=3)又は比較例1(比較例1群:n=3)を、第1図に示す形態で、腫瘍形成部位の皮下に移植した。対照として、AsPC−1細胞を移植したのみの群(対照群:n=3)を作製した。製造例1又は比較例1の移植後4日目に、ヌードマウスの腫瘍を周辺組織とともに採取した。各群から採取した腫瘍をPBSで1回洗浄後、RIPAバッファー「1%RIPA(UPSTATE,NY)、1mMオルトバナジウム酸Na(Wako Pure Chemical Industries)、1mMフェニルメチルスルフォニルフルオライド(phenylmethylsulfonyl fluoride:Wako Pure Chemical Industries)」を用いてホモジナイズし、それぞれの腫瘍から抽出液を得た。この腫瘍抽出液中のNK4含有量を、ELISA法を用いて測定した。また、製造例1群から血清を採取し、血清中のNK4含有量も同様に測定した。尚、各測定値は、平均値±SDで表した。
結果を第7図に示す。対照群及び比較例1群からの腫瘍抽出液中のNK4は0.3ng/総タンパク量(g)以下であったのに対し、製造例1群からの腫瘍抽出液中のNK4は、155.85±60.83ng/総タンパク量(g)であった。また製造例1群の血清中には、NK4は検出されなかった。このことから、製造例1を移植されたマウスの腫瘍には、製造例1から分泌されたNK4が供給されており、しかも目的の腫瘍に局所的かつ効率的に供給されていることが確認された。
(実施例2) 細胞含有製剤を用いた癌の成長抑制
実施例1と同様に、ヌードマウスに腫瘍を形成した。AsPC−1細胞移植3日後、上記製造例で作製した製造例1(製造例1群:n=5)又は比較例1(比較例1群:n=5)を、第1図に示す形態で、腫瘍形成部位の皮下に移植した。対照として、AsPC−1細胞を移植したのみの群(対照群:n=5)を作製した。製造例1又は比較例1の移植後3日及び5日目に、ヌードマウスの腫瘍体積を、測径器(キャリパー)を用いて測定した。腫瘍体積は、以下の式▲1▼を用いて特定した。尚、各測定値は、平均値±SDで表した(*;p<0.05)。
式▲1▼:腫瘍体積(mm)=0.52×(幅[mm])×(長さ[mm])
結果を第8図に示す。比較例1群及び対照群において、時間の経過とともに、腫瘍体積は著しく増加した。これに対し、製造例1群では、腫瘍体積の増加が抑制された。このことから、製造例1は、腫瘍の増殖抑制効果を有することが明らかとなった。
(実施例3) 細胞含有製剤を用いた血管新生抑制
実施例1と同様に、ヌードマウスに腫瘍を形成した。AsPC−1細胞移植3日後、上記製造例で作製した製造例1(製造例1群:n=4)又は比較例1(比較例1群:n=4)を、第1図に示す形態で、腫瘍形成部位の皮下に移植した。対照として、AsPC−1細胞を移植したのみの群(対照群:n=3)を作製した。AsPC−1細胞移植14日後、各群より採取した腫瘍を免疫組織化学的染色し、新生した血管数を計測した。免疫組織化学染色法を以下に述べる。各群より採取した組織片をパラフィン固定し、該組織片にフォンビルブラント因子(von Willebrand factor:DAKO Co.,CA)に対するウサギポリクローナル抗体を付着後、DABペルオキシダーゼ複合体(DAB−peroxidase complex)を用いて染色した。顕微鏡下(×200倍)で新生血管数を計測した。尚、各測定値は、平均値±SDで表した。(*;p<0.05)
結果を第9図に示す。比較例1群及び対照群において、著しい血管の新生が見られた。これに対し、製造例1群では、新生血管数の増加が抑制された。このことから、製造例1は、血管新生抑制効果を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
本発明の細胞含有製剤は、原発腫瘍又は癌の転移抑制に対して有効でかつ生体に安全な治療剤であって、より詳細には癌の成長又は転移等の抑制作用を有するNK4を、より効率的に癌細胞に供給することができる。更に本発明の細胞含有製剤を用いて、原発腫瘍の成長を抑制する方法、癌の転移を抑制する方法又は血管新生を抑制する方法を提供することができる。
【配列表】









【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する細胞と、繊維状タンパク質を含有することを特徴とする細胞含有製剤。
【請求項2】
細胞が、口腔粘膜上皮細胞、皮膚細胞、線維芽細胞であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の細胞含有製剤。
【請求項3】
繊維状タンパク質が、コラーゲンであることを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項に記載の細胞含有製剤。
【請求項4】
繊維状タンパク質の表面上に、細胞が担持されていることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の細胞含有製剤。
【請求項5】
細胞が、形質転換体であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の細胞含有製剤。
【請求項6】
形質転換体が、組換え発現ベクターで形質転換されたものであることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の細胞含有製剤。
【請求項7】
組換え発現ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40またはプラスミドである請求の範囲第6項に記載の細胞含有製剤。
【請求項8】
配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるペプチドを生成しうることを特徴とする請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の細胞含有製剤。
【請求項9】
更に生分解性樹脂からなるメッシュシートを有することを特徴とする請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の細胞含有製剤。
【請求項10】
生分解性樹脂が、ポリグリコール酸であることを特徴とする請求の範囲第9項に記載の細胞含有製剤。
【請求項11】
抗癌剤又は癌の転移抑制剤であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載の細胞含有製剤。
【請求項12】
卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、肉腫、グリオーマまたはメラノーマの抗癌剤又は転移抑制剤である請求の範囲第11項に記載の細胞含有製剤。
【請求項13】
血管新生抑制剤であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載の細胞含有製剤。
【請求項14】
哺乳動物に、請求の範囲第1項〜第13項のいずれかに記載の細胞含有製剤を投与することを特徴とする癌の成長、浸潤並びに転移抑制方法又は血管新生抑制方法。
【請求項15】
繊維状タンパク質の表面上で細胞を培養し、更に培養された細胞を、配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する組換え発現ベクターで形質転換することを特徴とする細胞含有製剤の製造方法。
【請求項16】
生分解性樹脂からなるメッシュシートの上に繊維状タンパク質を被覆することによって繊維状タンパク質シートを作製し、得られた繊維状タンパク質シートの表面上で細胞を培養し、更に培養された細胞を、配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する組換え発現ベクターで形質転換することを特徴とする細胞含有製剤の製造方法。
【請求項17】
細胞を配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNA又は配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する組換え発現ベクターで形質転換し、得られた形質転換細胞と繊維状タンパク質を混合することを特徴とする細胞含有製剤の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/108144
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506721(P2005−506721)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000630
【国際出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【出願人】(591115073)
【出願人】(502068908)クリングルファーマ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】