説明

細胞回収方法並びにフィルタ及び細胞回収装置

【課題】細胞を効率的に回収することができる細胞回収方法並びにフィルタ及び細胞回収装置を提供する。
【解決手段】目開きが細胞Bよりも小さくなるように少なくとも一部を可溶性ゲルで形成したフィルタ1に細胞懸濁液Aを通過させ、細胞懸濁液A中の細胞Bを捕捉させる細胞B捕捉工程と、細胞捕捉工程により細胞Bが捕捉されたフィルタ1にゲル溶解液Cを供給して可溶性ゲルを溶解するゲル溶解工程と、ゲル溶解工程により生成されたゲル溶解液C、可溶性ゲル、および細胞Bの混合液Dを回収する細胞回収工程とを含む細胞回収方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞回収方法並びにフィルタ及び細胞回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞捕捉材料から構成されたフィルタに細胞懸濁液を通過させることで、必要な細胞をフィルタにより捕捉する方法が知られている(例えば、特許文献1から4参照)。この際、フィルタによる細胞の捕捉は、フィルタ内の空隙で細胞がブラウン運動(自己振動)することで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4036304号公報
【特許文献2】特開2005−336080号公報
【特許文献3】特開2004−236527号公報
【特許文献4】特開2006−246883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のフィルタに大量の細胞懸濁液を通過させると、回収したい細胞がフィルタの奥に入り込んでしまう。この場合には、細胞の回収が困難になってしまうため、フィルタに逆方向から洗浄液を流し、細胞がフィルタ内部に入り込まないようにする工夫が必要であった。しかし、逆洗しすぎると、必要な細胞まで洗い流されてしまうため、洗浄液量の綿密な計算が必要であるとともに、細胞の収率が低下してしまうという不都合があった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞を効率的に回収することができる細胞回収方法並びにフィルタ及び細胞回収装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、目開きが細胞よりも小さくなるように少なくとも一部を可溶性ゲルで形成したフィルタに細胞懸濁液を通過させ、前記細胞懸濁液中の前記細胞を捕捉させる細胞捕捉工程と、該細胞捕捉工程により細胞が捕捉された前記フィルタにゲル溶解液を供給して前記可溶性ゲルを溶解するゲル溶解工程と、該ゲル溶解工程により生成された前記ゲル溶解液、前記可溶性ゲル、および前記細胞の混合液を回収する細胞回収工程とを含む細胞回収方法である。
【0007】
このような細胞回収方法によれば、細胞捕捉工程において、少なくとも一部を可溶性ゲルで形成したフィルタに細胞懸濁液が通過させられることで、細胞懸濁液中の細胞がフィルタに捕捉される。次に、ゲル溶解工程において、細胞が捕捉されたフィルタにゲル溶解液が供給され、可溶性ゲルが溶解される。次に、細胞回収工程において、ゲル溶解液、可溶性ゲル、および細胞の混合液が回収される。そして、この混合液から必要な細胞を容易に回収することができる。
【0008】
このような細胞回収方法によれば、フィルタに逆方向から洗浄液を流す(逆洗)ことなく、必要な細胞を回収することができる。これにより、逆洗により細胞が流されてしまうことを防止することができ、細胞の収率を向上することができる。
【0009】
上記の第1の態様において、前記ゲル溶解工程において、前記細胞捕捉工程における前記細胞懸濁液の流通方向とは逆方向に前記ゲル溶解液を通過させることとしてもよい。
細胞捕捉工程において、細胞懸濁液中の細胞は、フィルタの細胞懸濁液を流通させる側に多く捕捉される。したがって、細胞捕捉工程における細胞懸濁液の流通方向とは逆方向にゲル溶解液を通過させることで、フィルタに捕捉された細胞を容易に解放することができ、細胞の回収率を向上することができる。
【0010】
上記の第1の態様において、前記ゲル溶解工程において、前記フィルタの少なくとも一部を前記ゲル溶解液中に浸漬することとしてもよい。
このようにすることで、効率的に可溶性ゲルを溶解してフィルタに捕捉された細胞を回収することができる。特に、フィルタの細胞懸濁液を流通させる側をゲル溶解液中に浸漬することで、当該位置に捕捉された多くの細胞を効率的に回収することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、目開きが細胞よりも小さくなるように少なくとも一部が可溶性ゲルで形成されたフィルタである。
このようなフィルタによれば、細胞懸濁液が通過させることで、細胞懸濁液中の細胞を捕捉することができる。そして、このフィルタに、可溶性ゲルを溶解させるゲル溶解液を供給することで、ゲル溶解液、可溶性ゲル、および細胞の混合液を回収することができ、この混合液から必要な細胞を容易に回収することができる。
【0012】
上記の第2の態様において、前記フィルタが、目開きが細胞以上の大きさを有する下地フィルタに可溶性ゲルがコーティングされて形成されていることとしてもよい。
このような下地フィルタに可溶性ゲルをコーティングすることで、細胞を捕捉するためのフィルタ(目開きが細胞よりも小さくなるように少なくとも一部が可溶性ゲルで形成されたフィルタ)を容易に作成することができる。
【0013】
上記の第2の態様において、前記フィルタが、細粒状の可溶性ゲルにより形成されていることとしてもよい。
細粒状の可溶性ゲルによりフィルタを形成することで、細胞を捕捉するためのフィルタ(目開きが細胞よりも小さくなるように可溶性ゲルで形成されたフィルタ)を容易に作成することができる。
【0014】
上記の第2の態様において、前記可溶性ゲルが、アルギン酸塩ゲルであることとしてもよい。
可溶性ゲルをアルギン酸塩ゲルとすることで、細胞に悪影響を与えることなく、細胞を捕捉するためのフィルタを形成することができる。
【0015】
上記の第2の態様において、前記ゲル溶解液が、キレート剤を含む細胞等張液であることとしてもよい。
ゲル溶解液をキレート剤を含む細胞等張液とすることで、細胞に悪影響を与えることなく、可溶性ゲルを溶解させて細胞を回収することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、上記のフィルタと、該フィルタに細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液供給手段と、該細胞懸濁液供給手段により細胞懸濁液が供給されることで細胞懸濁液中の細胞が捕捉された前記フィルタに、前記可溶性ゲルを溶解させるゲル溶解液を供給するゲル溶解液供給手段と、該ゲル溶解液供給手段によりゲル溶解液が供給されることで生成された前記ゲル溶解液、前記可溶性ゲル、および前記細胞の混合液を回収する細胞回収手段とを備える細胞回収装置である。
【0017】
このような細胞回収装置によれば、細胞懸濁液供給手段により、目開きが細胞よりも小さくなるように少なくとも一部が可溶性ゲルで形成されたフィルタに細胞懸濁液が供給されることで、細胞懸濁液中の細胞がフィルタに捕捉される。そして、ゲル溶解液供給手段により、細胞が捕捉されたフィルタにゲル溶解液が供給され、可溶性ゲルが溶解される。そして、細胞回収手段により、ゲル溶解液、可溶性ゲル、および細胞の混合液が回収される。そして、この混合液から必要な細胞を容易に回収することができる。
【0018】
このような細胞回収装置によれば、フィルタに逆方向から洗浄液を流す(逆洗)ことなく、必要な細胞を回収することができる。これにより、逆洗により細胞が流されてしまうことを防止することができ、細胞の収率を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞を効率的に回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るフィルタの模式図である。
【図2】図1のフィルタのベースとなる下地フィルタの模式図である。
【図3】図1のフィルタを有する細胞回収装置の模式図であり、(a)は細胞懸濁液を流通させる前の状態を示す図であり、(b)は細胞捕捉工程の状態を示す図であり、(c)はゲル溶解工程の状態を示す図であり、(d)は細胞回収工程の状態を示す図である。
【図4】図1のフィルタを有する細胞回収装置の模式図であり、(a)は細胞懸濁液を流通させる前の状態を示す図であり、(b)は細胞捕捉工程の状態を示す図であり、(c)はゲル溶解工程の状態を示す図であり、(d)は細胞回収工程の状態を示す図である。
【図5】図1のフィルタを有する細胞回収装置の模式図であり、(a)は細胞懸濁液を流通させる前の状態を示す図であり、(b)は細胞捕捉工程の状態を示す図であり、(c)および(d)はゲル溶解工程の状態を示す図であり、(e)は細胞回収工程の状態を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るフィルタを有する細胞回収装置の模式図であり、(a)は細胞懸濁液を流通させる前の状態を示す図であり、(b)は細胞捕捉工程の状態を示す図であり、(c)はゲル溶解工程の状態を示す図であり、(d)は細胞回収工程の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るフィルタ1、およびフィルタ1を備える細胞回収装置5、並びにその細胞回収方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るフィルタ1は、図1に示されるように、目開きが細胞よりも小さくされたフィルタである。すなわち、フィルタ1は、細胞懸濁液中の細胞を捕捉できるサイズの空隙(目開き)を有するフィルタである。
【0022】
このフィルタ1は、図2に示されるような下地フィルタ10に、可溶性ゲルがコーティングされて形成されている。下地フィルタ10は、図2に示されるように、目開きが細胞よりも大きい、すなわち、細胞懸濁液中の細胞を捕捉できないサイズの空隙(目開き)を有するフィルタである。下地フィルタ10として、例えば不織布を採用することで、安価に大量生産ができるとともに、厚みや空隙を容易に変更することができる。
【0023】
このような下地フィルタ10に可溶性ゲルをコーティングすることで、細胞を捕捉するためのフィルタ、すなわち、目開きが細胞よりも小さくなるように少なくとも一部が可溶性ゲルで形成されたフィルタ1を容易に作成することができる。
【0024】
ここで、可溶性ゲルは、例えばアルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩ゲルである。
可溶性ゲルをアルギン酸塩ゲルとすることで、細胞に悪影響を与えることなく、細胞懸濁液中の細胞を捕捉するためのフィルタ1を形成することができる。
【0025】
具体的には、アルギン酸塩ゲルは、例えば、通常ビーズ作成などに使用される濃度0.5〜1%のものを使用する。フィルタ1の形成手順としては、まず、アルギン酸塩水溶液を下地フィルタ10に通過させる。そして、完全にアルギン酸塩水溶液が切れた後に、濃度10%程度の塩化カルシウム溶液を通過させることで、下地フィルタ10をコーティングして、図1に示すフィルタ1を形成することができる。
【0026】
このようなフィルタ1によれば、フィルタ1に細胞懸濁液を通過させることで、細胞懸濁液中の細胞を捕捉することができる。そして、このフィルタ1に、可溶性ゲルを溶解させるゲル溶解液を供給することで、下地フィルタ10にコーティングされた可溶性ゲルを溶解させ、捕捉された細胞を解放することができる。そして、ゲル溶解液、可溶性ゲル、および細胞の混合液を回収することで、この混合液から必要な細胞を容易に回収することができる。
【0027】
ここで、ゲル溶解液は、例えばモル濃度0.01〜0.1M程度のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を含む細胞等張液である。
ゲル溶解液をキレート剤を含む細胞等張液とすることで、細胞に悪影響を与えることなく、可溶性ゲルを溶解させて細胞懸濁液中の細胞を回収することができる。
【0028】
上記のフィルタ1を用いた細胞回収方法について以下に説明する。
図3において、(a)は細胞懸濁液を流通させる前の状態を示す図であり、(b)は細胞捕捉工程の状態を示す図であり、(c)はゲル溶解工程の状態を示す図であり、(d)は細胞回収工程の状態を示す図である。
【0029】
ここで使用される細胞回収装置5は、図3(a)に示すように、前述のフィルタ1と、細胞懸濁液Aを供給する細胞懸濁液供給手段(図示略)と、ゲル溶解液Cを供給するゲル溶解液供給手段(図示略)と、ゲル溶解液C、可溶性ゲル、および細胞Bの混合液Dを回収する細胞回収手段(図示略)とを備えている。
【0030】
フィルタ1は、例えば円筒形のケーシング6内に収容されている。ケーシング6には、細胞懸濁液Aやゲル溶解液Cが供給される供給口7と、フィルタ1を通過した液体を排出する排出する排出口8が形成されている。細胞回収装置5は、供給口7を上方に、排出口8を下方に向けて配置される。また、供給口7および排出口8には、図示しないバルブが設けられており、このバルブを動作させることで、供給口7および排出口8を開閉するようになっている。
【0031】
細胞懸濁液供給手段は、例えばチューブおよびポンプから構成され、図示しない細胞懸濁液収容容器から、供給口7を介してフィルタ1に細胞懸濁液Aを供給するようになっている。
【0032】
ゲル溶解液供給手段は、例えばチューブおよびポンプから構成され、図示しないゲル溶解液収容容器から、供給口7を介してフィルタ1にゲル溶解液Cを供給するようになっている。なお、ゲル溶解液供給手段として、ゲル溶解液収容容器から人手で供給口7に直接ゲル溶解液を供給してもよい。
【0033】
細胞回収手段は、例えば排出口8に接続されたチューブおよび回収容器9から構成され、ゲル溶解液供給手段によりゲル溶解液Cが供給されることで生成されたゲル溶解液C、可溶性ゲル、および細胞Bの混合液Dを回収するようになっている。
【0034】
以下に、上記の細胞回収装置5を用いた細胞回収方法について説明する。
まず、細胞捕捉工程においては、図3(b)に示すように、細胞懸濁液供給手段により、供給口7を介してケーシング6内のフィルタ1に細胞懸濁液Aが供給される。これにより、フィルタ1に細胞懸濁液A中の細胞Bが捕捉され、水等の細胞B以外の物質は、フィルタ1を通過して、排出口8からケーシング6の外部に排出される。
【0035】
次に、ゲル溶解工程においては、図3(c)に示すように、ゲル溶解液供給手段により、供給口7を介して、細胞Bが捕捉されたフィルタ1にゲル溶解液Cが供給される。これにより、フィルタ1の可溶性ゲルが溶解され、フィルタ1の空隙が広がり、フィルタ1に捕捉された細胞Bが解放される。
【0036】
次に、細胞回収工程においては、図3(d)に示すように、排出口8に設けられたバルブが開かれて、排出口8に接続されたチューブを介して、ゲル溶解液C、可溶性ゲル、および細胞Bの混合液Dが、回収容器9に排出される。
【0037】
以上のように、本実施形態に係る細胞回収装置5および細胞回収方法によれば、細胞捕捉工程において、一部を可溶性ゲルで形成したフィルタ1に細胞懸濁液Aが通過させられることで、細胞懸濁液A中の細胞Bがフィルタ1に捕捉される。次に、ゲル溶解工程において、細胞Bが捕捉されたフィルタ1にゲル溶解液Cが供給され、可溶性ゲルが溶解される。次に、細胞回収工程において、ゲル溶解液C、可溶性ゲル、および細胞Bの混合液Dが回収される。そして、この混合液Dから必要な細胞Bを容易に回収することができる。
【0038】
このような細胞回収装置5および細胞回収方法によれば、フィルタ1に逆方向から洗浄液を流す(逆洗)ことなく、必要な細胞Bを回収することができる。これにより、逆洗により細胞Bが流されてしまうことを防止することができ、細胞Bの収率を向上することができる。
【0039】
なお、本実施形態に係る細胞回収装置5および細胞回収方法において、図4(c)に示すように、ゲル溶解工程において、細胞捕捉工程における細胞懸濁液Aの流通方向とは逆方向にゲル溶解液Cを通過させることとしてもよい。この場合には、ゲル溶解工程において、細胞回収装置5の上下をひっくり返す、すなわち、細胞回収装置5を、供給口7を下方に、排出口8を上方に向けて配置する。
【0040】
ここで、細胞捕捉工程において、細胞懸濁液A中の細胞Bは、フィルタ1の細胞懸濁液Aを流通させる側に多く捕捉される。したがって、細胞捕捉工程における細胞懸濁液Aの流通方向とは逆方向にゲル溶解液Cを通過させることで、フィルタ1に捕捉された細胞Bを容易に解放することができ、細胞Bの回収率を向上することができる。
【0041】
また、上記の細胞回収装置5および細胞回収方法において、図5(d)に示すように、ゲル溶解工程において、フィルタ1の一部(細胞懸濁液Aを流通させる側)をゲル溶解液C中に浸漬して、フィルタ1の可溶性ゲルが溶解されるまで静置しておくこととしてもよい。
【0042】
このようにすることで、効率的に可溶性ゲルを溶解して、フィルタ1に捕捉された細胞Bを回収することができる。特に、フィルタ1の細胞懸濁液Aを流通させる側をゲル溶解液C中に浸漬することで、当位置に捕捉された多くの細胞Bを効率的に回収することができる。また、このような細胞回収方法によれば、全ての可溶性ゲルを溶解させることなくフィルタ1に捕捉された細胞Bを回収することができるため、混合液D中の不純物(可溶性ゲルおよびゲル溶解液C)の混入を少なくすることができる。
【0043】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係るフィルタ2について、図6を参照して以下に説明する。
本実施形に係るフィルタ2が第1の実施形態に係るフィルタ1と異なる点は、その構成および形成方法である。具体的には、本実施形態に係るフィルタ2は、下地フィルタに可溶性ゲルをコーティングして形成するのではなく、細粒状の可溶性ゲルにより形成されている。以降では、本実施形態に係るフィルタ2について、第1の実施形態に係るフィルタ1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0044】
本実施形態に係るフィルタ2の形成方法について以下に説明する。
ここでは、アルギン酸ゲル自体により細粒(ビーズ)を作成する方法と、細粒(ビーズ)の表面にアルギン酸ゲルをコーティングする方法の2つの方法を例に挙げて説明する。
【0045】
アルギン酸ゲル自体によりビーズを作成する場合には、シリンジに0.5〜1%アルギン酸塩水溶液を充填し、シリンジの注射針から、10%塩化カルシウム溶液中に滴下することでビーズを作成する。その後、ビーズを塩化カルシウム溶液から回収し、細胞等張液で洗浄する。ここで、ビーズの直径は、細胞を分離できる50〜5000μmの範囲であればよい。
【0046】
一方、ビーズの表面にアルギン酸ゲルをコーティングする場合には、50〜5000μmの直径のビーズを容器に充填する。ここで、ビーズの材料は、無機材料(例えば、ガラスビーズ、セラミックスビーズなど)、有機材料(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ゴムビーズなど)のいずれでもよく、特に限定されるものではない。ビーズの充填された容器に、濃度0.5〜1%のアルギン酸塩水溶液を通過させ、完全にアルギン酸塩水溶液が切れた後に、濃度10%の塩化カルシウム溶液を通過させる。
【0047】
図6(a)に示すように、上記のいずれの方法で作成したビーズ3をケーシング6内に敷き詰めることで、本実施形態に係るフィルタ2を有する細胞回収装置4が形成される。
このフィルタ2は、ビーズ3の隙間が細胞よりも小さく構成されている。すなわち、本実施形態に係るフィルタ2によれば、細胞懸濁液中の細胞を捕捉することができる。
【0048】
上記のフィルタ2を有する細胞回収装置4の作用について以下に説明する。
まず、図6(b)に示すように、細胞捕捉工程において、フィルタ2に細胞懸濁液Aを通過させることで、ビーズ3の隙間から細胞懸濁液A中の赤血球などの不要物を含む液体部分が流れ落ち、細胞Bがビーズ3の間にトラップされる。すなわち、細胞懸濁液A中の細胞Bを捕捉することができる。
【0049】
次に、図6(c)に示すように、ゲル溶解工程において、このフィルタ2に、可溶性ゲルを溶解させるゲル溶解液Cを供給することで、ビーズ3(またはビーズ3の表面にコーティングされた可溶性ゲル)を溶解させ、ビーズ3間の空隙率を上げ、またはビーズ3自体を無くして、ビーズ3の間に捕捉された細胞を解放することができる。
【0050】
次に、図6(d)に示すように、細胞回収工程において、ゲル溶解液C、可溶性ゲル、および細胞Bの混合液Dが回収される。そして、この混合液Dから必要な細胞Bを容易に回収することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係るフィルタ2および細胞回収装置4並びに細胞回収方法によれば、第1の実施形態と同様に、フィルタ2に逆方向から洗浄液を流す(逆洗)ことなく、必要な細胞Bを回収することができる。これにより、逆洗により細胞Bが流されてしまうことを防止することができ、細胞Bの収率を向上することができる。
【0052】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を各実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【0053】
例えば、第2の実施形態に係るフィルタ2および細胞回収装置4において、第1の実施形態において説明した図4および図5に示す細胞回収方法を採用してもよい。
また、可溶性ゲルとして、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩ゲルを例に挙げて説明したが、生体適合性を有する可溶性ゲルであれば、この例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
1,2 フィルタ
3 ビーズ
4,5 細胞回収装置
6 ケーシング
7 供給口
8 排出口
9 回収容器
10 下地フィルタ
A 細胞懸濁液
B 細胞
C ゲル溶解液
D 混合液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目開きが細胞よりも小さくなるように少なくとも一部を可溶性ゲルで形成したフィルタに細胞懸濁液を通過させ、前記細胞懸濁液中の前記細胞を捕捉させる細胞捕捉工程と、
該細胞捕捉工程により細胞が捕捉された前記フィルタにゲル溶解液を供給して前記可溶性ゲルを溶解するゲル溶解工程と、
該ゲル溶解工程により生成された前記ゲル溶解液、前記可溶性ゲル、および前記細胞の混合液を回収する細胞回収工程とを含む細胞回収方法。
【請求項2】
前記ゲル溶解工程において、前記細胞捕捉工程における前記細胞懸濁液の流通方向とは逆方向に前記ゲル溶解液を通過させる請求項1に記載の細胞回収方法。
【請求項3】
前記ゲル溶解工程において、前記フィルタの少なくとも一部を前記ゲル溶解液中に浸漬する請求項1に記載の細胞回収方法。
【請求項4】
目開きが細胞よりも小さくなるように少なくとも一部が可溶性ゲルで形成されたフィルタ。
【請求項5】
前記フィルタが、目開きが細胞以上の大きさを有する下地フィルタに可溶性ゲルがコーティングされて形成されている請求項4に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記フィルタが、細粒状の可溶性ゲルにより形成されている請求項4に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記可溶性ゲルが、アルギン酸塩ゲルである請求項4に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記ゲル溶解液が、キレート剤を含む細胞等張液である請求項4に記載のフィルタ。
【請求項9】
請求項4に記載のフィルタと、
該フィルタに細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液供給手段と、
該細胞懸濁液供給手段により細胞懸濁液が供給されることで細胞懸濁液中の細胞が捕捉された前記フィルタに、前記可溶性ゲルを溶解させるゲル溶解液を供給するゲル溶解液供給手段と、
該ゲル溶解液供給手段によりゲル溶解液が供給されることで生成された前記ゲル溶解液、前記可溶性ゲル、および前記細胞の混合液を回収する細胞回収手段とを備える細胞回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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