説明

細胞培養によるインフルエンザワクチンの製造方法

【課題】細胞培養法によるインフルエンザウイルスワクチン製造に適する高い増殖能をもつウイルス株、及び、該インフルエンザウイルス株を用いてワクチンを効率よく生産する方法を提供すること。
【解決手段】種インフルエンザウイルスを希釈した後にTR7細胞に接種して培養(継代1代目)し、更に、この培養後に得られたウイルス含有液を希釈した後にTR7細胞(NITE AP-922)に接種して培養する操作(継代培養)を数回繰り返すことによって、高増殖能を有するインフルエンザウイルス株を選択する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高増殖能を有するインフルエンザウイルス株を選択する方法、該方法により得られたインフルエンザウイルス株の細胞培養による増殖方法、及び、該増殖方法により得られるインフルエンザウイルスワクチンの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の情勢から、高病原性トリインフルエンザ、ブタインフルエンザ及び従来型の季節性インフルエンザ等に対して、迅速にワクチン生産を行なえるシステムの構築が焦眉の急となっている。
【0003】
これまでにも、このようなインフルエンザワクチンの生産に使用することを目的とした細胞株の開発が試みられてきた。例えば、特表2000−507448号公報(WO97/37001:特許文献1)には、MDCK細胞株(ATCC CCL34株)から馴化によって無血清培地での懸濁(浮遊)培養が可能なMDCK-33016株及びそれを用いるウイルス生産方法が記載されている。又、米国特許第6825036号明細書(特許文献2)には、同様にMDCK細胞株(ATCC CCL34株)から樹立された、無血清培地での浮遊培養が可能なB-702株及びそれを用いるウイルス生産方法が記載されている。
【0004】
更に、”Suspension MDCK Cell Culture on EX-CELL MDCK Serum-Free Medium”, SAFC Biosciences Technical Bulletin (2006)(非特許文献1)には、付着性であるMDCK細胞株(ATCC CCL34株)を無血清培地で6〜7回継代培養することによって、浮遊性細胞へ馴化することが記載されている。又、Vaccine, Vol.26, pp6852-6858(2008)(非特許文献2)には、MDCK-33016株にA/熊本/102/2002(H3N2)を接種してウイルスを生産する例が記載されている。
【0005】
本発明者らによっても、MDCK細胞株(ATCC CCL34株)から浮遊性のTR7細胞株が作製された(Reiko Tsutsumi, Shigemi Fujisaki, Masanori Shozushima, Koichi Saito and Shigehiro Sato, Cytotechnology (2006), 52:71-85 “Anoikis-resistant MDCK cells carrying susceptibilities to TNF-α and verotoxin that are suitable for influenza virus cultivation”:非特許文献3)。
【0006】
又、現在インフルエンザウイルスワクチン株はその年の流行株に合わせて公的機関が選定を行っている。近年話題の高病原性トリインフルエンザワクチン製造に使用するワクチン株はその病原性の強さ故に使用可能な株が限られている。すなわち、NIBSCがH5N1ワクチン株として3株を供給している。これらの株は卵で増殖性のよいプエルトリコ株由来の6本の遺伝子とヒトから分離したH5N1型インフルエンザウイルス由来の2本の遺伝子の計8本のRNAをもつ reassortant virus (合併結合ウイルス) である。ヒト由来ウイルスRNAはNA遺伝子と高病原性に直接関与するHA遺伝子である。後者は配列を改変して病原性を減弱させてある。これらのワクチン株は従来の発育鶏卵を用いたワクチン製造に適しており哺乳動物培養細胞に感染させた場合には増殖性が良くないことが世界中で指摘されている。
【0007】
この現実を克服するために河岡らはプエルトリコ株由来6本の遺伝子の塩基配列を改変して高増殖性ウイルスを得る努力を報告している(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−507448号公報
【特許文献2】米国特許第6825036号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】SAFC Biosciences Technical Bulletin (2006)
【非特許文献2】Vaccine, Vol.26, pp6852-6858(2008)
【非特許文献3】Cytotechnology (2006), 52:71-85
【非特許文献4】Murakami, S. et al., J Virol. 2008 Nov; 82(21): 10502-9. Epub 2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、細胞培養法によるインフルエンザウイルスワクチン製造に適する高い増殖能をもつウイルス株を選択し、そのようにして選択されたウイルス株をMDCK由来TR7細胞を利用して増殖させてワクチンを効率よく生産すること等である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者によって、上記のTR7細胞株は、造腫瘍性が極めて低く、親株MDCK細胞よりもインフルエンザウイルスの増殖が亢進しておりインフルエンザウイルスの感染による細胞死が遅延している細胞であることが確認された。
【0012】
その結果、本発明者は、上記TR7細胞は無血清培地を利用して大量且つ迅速に増殖ができ、更に、適当な成長因子(上皮成長因子(EGF)等)を添加することでより効率よく増殖し、付着培養することでより利点が得られることを見出した。本発明者は更に、ウイルスの遺伝子改変は行わないで細胞増殖性の高いウイルス株を選択できる方法を見出した。
【0013】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
[態様1]種インフルエンザウイルス液を希釈した後にTR7細胞に接種して培養(継代1代目)し、更に、この培養後に得られたウイルス含有液を希釈した後にTR7細胞(NITE AP-922)に接種して培養する操作(継代培養)を繰り返すことによって、高増殖能を有するインフルエンザウイルス株を選択する方法。
[態様2]インフルエンザウイルスがH5N1インフルエンザウイルス株 又はH1N1インフルエンザウイルス株である、態様1記載の方法。
[態様3]継代培養を継代2代目、継代3代目、又は継代4代目まで繰り返す、態様1又は2記載の方法。
[態様4]各継代培養に用いるウイルス含有液の希釈率が100倍〜10,000倍である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]各継代培養を4〜6日間行なう、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6]態様1〜5のいずれか一項の方法で選択された高増殖能を有するインフルエンザウイルス株。
[態様7]請求項6に記載の高増殖能を有するインフルエンザウイルス株をTR7細胞に接種し、無血清培地により細胞培養して該ウイルスを増殖させることからなる、インフルエンザウイルスワクチンの製造方法。
[態様8]無血清培地に成長因子を含むことを特徴とする、態様7記載の製造方法。
[態様9]成長因子が上皮成長因子(EGF)である、態様8記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明方法によって、細胞培養法によるインフルエンザウイルスワクチン製造に適する高増殖能をもつウイルス株を選択し、そして、そのようにして選択されたウイルス株をMDCK由来TR7細胞を利用して増殖させてワクチンを容易に、且つ、効率よく大量に生産することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】MDCK E1M1 10<-4>のプレートの各穴のウイルス液をそれぞれ希釈して、E1M2 10<-4>(10-4 ), E1M2 10<-3>(10-3), E1M2 10<-2>(10-2)の計3枚に継代する操作を示す。
【図2】実施例1におけるNIBRG 121についての継代結果のグラフを示す。
【図3】実施例1におけるNIBRG 121についての継代結果のグラフを示す。
【図4】実施例1におけるNIBRG 12についての継代結果のグラフを示す。
【図5】実施例1におけるNIBRG 12についての継代結果のグラフを示す。
【図6】実施例1におけるNIBRG 23についての継代結果のグラフを示す。
【図7】実施例1におけるNIBRG 14についての継代結果のグラフを示す。
【図8】高い増殖能を有するNIBRG 14のプラーク形成能についての継代結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、種インフルエンザウイルス液を希釈した後にTR7細胞に接種して培養(継代1代目)し、更に、この培養後に得られたウイルス含有液を希釈した後にTR7細胞に接種して培養する操作(継代培養)を数回繰り返すことによって、高増殖能を有するインフルエンザウイルス株を選択する方法に係る。
【0017】
TR7細胞は、ATCCから購入したMDCK細胞( CCL 34)を50μg/ ml MEP(メタロエンドペプチダーゼmetalloendopeptidase: Streptomyces griseus 由来)を含むEagle's MEM (Gibco社製)培地で6ヶ月間培養(1週間に2回medium changeを行った)して生残した浮遊細胞を6M−4と名付けた。6M-4細胞を0.3%の軟寒天(Difco社製Agar Noble)培地(MEM)で培養し、10日後、増殖してきたコロニーを選ぶことによって作製された細胞株である。
【0018】
尚、上記のTR7細胞は、平成22年(2010年)3月30日付けで、〒292−0818千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受領番号NITE AP-922が付与されている。
【0019】
インフルエンザウイルスに特に制限はないが、季節性インフルエンザに加えて、特に、NIBRG12, NIBRG14 及び NIBRG 23株等のH5N1インフルエンザウイルス株 (トリ型)又はNIBRG 121株等のH1N1インフルエンザウイルス株(ブタ型)を挙げることが出来る。
【0020】
種インフルエンザウイルス液はNIBSC(National Institute for Biological Standards and Control)等の公的機関からから入手可能なインフルエンザウイルスワクチン株を孵化鶏卵の漿尿膜腔に接種する等の当業者に公知の任意の方法で増殖させることによって調製(漿尿液)することが出来る。
【0021】
高増殖能を有するインフルエンザウイルス株とは、以下に記載するHA価で示した値として、例えば、128以上、好ましくは256以上、より好ましくは512以上を有するような細胞株をいう。
【0022】
各継代培養に用いるウイルス含有液(培養液)の希釈率はウイルスの種類などに応じて当業者が適宜決めることが出来るが、通常、約100倍〜約10,000倍であり、高い希釈率のほうが好ましい。尚、各代目の継代培養に用いるウイルス含有液の希釈率が全て同じである必要はなく、適宜、調整することが出来る。
【0023】
各継代培養の条件及び各操作は当業者に周知の任意の方法(例えば、非特許文献3に記載の方法)に従い実施することが出来、通常、4〜6日間程度の培養によってコンフルエント状態に達する。このような継代培養を継代2代目、継代3代目、又は継代4代目まで繰り返すことが好ましい。
【0024】
以上の方法を実施することによって、本明細書の実施例に記載されているような高増殖能を有するインフルエンザウイルス株を選択することが出来る。従って、本発明は、このようなインフルエンザウイルス株、及び該インフルエンザウイルス株をTR7細胞に接種し、無血清培地により細胞培養して該ウイルスを増殖させることからなる、インフルエンザウイルスワクチンの製造方法にも係るものである。
【0025】
細胞培養方法及びワクチン製造におけるウイルス不活化(βプロピオラクトン、UVC照射等)自体は当業者に公知の任意の方法で実施することが出来る。例えば、無血清培地に上皮成長因子(EGF)のような成長因子を含ませることが出来る。更に、浮遊培養法、マイクロキャリアー培養法、及び接着(付着)培養法等の当業者に公知の任意の培養法で実施することが出来る。
【0026】
以下に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のために提供されているものである。従って、これらの実施例は、本願で開示する発明の範囲を限定し、又は制限するものではない。本発明では、特許請求の範囲の請求項に記載された技術的思想に基づく様々な実施形態が可能であることは当業者には容易に理解される。
【実施例】
【0027】
実験方法
ウイルス
NIBSC(National Institute for Biological Standards and Control)から購入した3種のH5N1(トリ型)インフルエンザウイルスワクチン株 NIBRG12, NIBRG14 及び NIBRG 23株、1種類のH1N1(ブタ型)インフルエンザウイルスワクチン株 NIBRG121を用いた。
【0028】
孵化鶏卵でウイルスの一次増殖
孵化鶏卵(10日卵)を小岩井農場(岩手県)から購入し、上記ウイルス原液 (E0)をPBS(-) (リン酸緩衝液(Mg, Ca 不含))で100倍に希釈したものを漿尿膜腔に200μl接種した。NIBRG12, NIBRG14 および NIBRG 23株については各ウイルスとも5個づつ接種した。NIBRG121株については卵1個に倍希釈液を100μl接種した。接種後48時間後に組織の硬化と感染を止めたるため卵を冷蔵庫に移し一晩以上放置した。漿尿液を回収し、同一ウイルスを接種したものは集めてウイルスプール液(E1)とした。
【0029】
ウイルス濃度の測定
ニワトリ保存血(日本バイオテスト研究所)をPBS(-)を用いて3回遠心洗浄(1,600rpm 10 分)する。遠心毎に赤血球表面の白血球層を除去する。 血球沈殿を 1 ml取り、200 mlのPBS(-)中に添加して0.5%(V/V) 赤血球懸濁液を作製する。その後血球計数機(NIHON KOHDEN)で血球数を測定して3x107RBC/mlに調整し検査に用いる。96穴 U字 プレートの各穴に PBS(-) 50 μlを添加し、検査ウイルス液を A1,B1, C1, D1, E1, F1, G1, H1に50 μl を添加する。各行1から11まで混合しながら2倍希釈系列をつくり、11穴の攪拌後の50μlは捨てる。12穴はコントロールとする。血球赤血球懸濁液を各穴に50 μl添加したあと水平式シェイカーで30秒攪拌する。1時間から2時間後に目視観察する。凝集反応陽性の穴の位置を記録して、その穴の検体希釈倍数をHA価とよびウイルス濃度とする。即ち、陽性反応が A2までであればHA価4、A5までであれば32などである。
【0030】
プラーク形成能検査
6穴マイクロプレートの細胞を培養し、コンフルエント状態になった日に感染実験を行う。アガロース (DIfco Agarose Noble, BD) 2% (W/V) 水溶液をあらかじめオートクレーブし、45度の保温水槽に置く。トリプシン含有(SIGMA 93630、2μg/ml )2xMEMを37度保温水槽に置く。ウイルスの10倍希釈系列を トリプシン含有MEMで作製する。細胞の培養液をすて PBS(-)で一回洗浄する。各希釈ウイルス液250μlを細胞に添加して37度CO2恒温槽に置く。15分毎にマイクロプレートを傾斜攪拌する。90分後に、上記で保温しておいたアガロース液と2xMEMを等量混和して、多少冷ましたあと各穴に3 ml添加して25度で置く。アガロースが固まったら37度CO2恒温槽に入れて7日間放置する。7日後に1%ゲンチアナ紫を含む10%ホルマリン液を添加して2日間放置する。ホルマリン溶液およびゲルをすて水洗する。
【0031】
準備
種ウイルスのストック液を作るためにNIBSCから購入した NIBRG12, NIBRG14, NIBRG23及びNIBRG121ウイルス液(E0)を希釈して上記のとおり、それぞれ孵化鶏卵に接種した。採取したウイルス液を 種インフルエンザウイルス液(E1)とした。E1をニワトリ赤血球を用いてHA価を測定した結果、512 (NIBRG12), 512 (NIBRG14), 256 (NIBRG23)及び1024 (NIBRG121) であった(陽性コントロール:診断用抗原のHA価512)。これらは充分に高力価ウイルス液と判断できる値であった。
【0032】
手順
(1)MDCKおよびTR7細胞を12穴マイクロプレートに播種(約 5x104/ml)し、当業者に周知の定法(例えば、非特許文献3に記載の方法)に従い、コンフルエント状態にした後、培地除去し, 生理食塩水で洗浄後次の操作に進んだ。
(2) E1の10倍のウイルス希釈系列溶液( MEM-トリプシン)を作成し、10-2、10-3、10-4希釈液1 ml を各プレートに図の要領で添加した。継代一代目ということで接種ウイルス量の少ない方からそれぞれ、E1M1(-4), E1M1(-3), E1M1(-2), 及びE1T1(-4), E1T1(-3), E1T1(-2) とした。
(3)4日ないし6日目になると感染が進行し、保持日数を増やしてもウイルス産生量は増加しなくなった。その時点で培養液の一部を HA価測定用に分取した。
(4)同時に 継代2代目用に準備した MDCKおよび TR7細胞に上記の各穴のウイルス液を希釈し、10-2(10<-2>)、10-3(10<-3>)、10-4(10<-4>)となるように接種した(図1)。具体的操作は 96 wellプレートを用いてE1M1 10-4の24 wellのそれぞれの100倍希釈溶液を作成した。あらかじめ 1 mlのMEM-トリプシン溶液を添加した24穴の細胞に10μl, 100μl 添加した場合をそれぞれ E1M2(-4 to -4)、E1M2(-4 to -3) とした。E1M2(-4 to -2)には E1M110-4プレートの各穴から10 μlを移した。
(5)同様の操作を継代3代目用に準備した MDCK及びTR7細胞についても実施した。
以上の各操作のイメージを表1に示す。又、以上の操作で得られた結果を図2〜図8に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
これらの図に示された結果から、どのウイルス株も継代1代目では MDCKおよび TR7細胞ともウイルス産生量は低く E1液の HA価には全く及ばないが、継代2代目になると MDCK細胞に比べて TR7細胞でのウイルス産生量は高くなり、平均値で差が見られるようになる(図中で横線 : 統計処理で有意)ことが判明した(図2、図4、図6、図7)。又、E1M2ではHA価の中値のウイルス液もE1M3へと継代すると低値になってしまうことが判った(図3、図5)。
【0035】
インフルエンザウイルス A/H5N1ワクチン株NIBRG14株の細胞高増殖性株の選択:HA価による評価結果(図7)を以下の表2(継代1代目と継代2代目の比較)及び表3(継代1代目と継代3代目の比較)にまとめた。各数値はn=24の結果から得られた平均(Mean)、標準偏差(SD)、最小値(Min)、最大値(Max)、t-テスト有意検定(Unpaired t-test)、及び、F分布検定(F)を示す。ここで、収量の平均値が MDCKよりTR7が大きいこと及び両群に有意差があることはTR7細部株が産生能の高いことを反映していると思われる。更に、特筆すべきは、値の分散(平均値からの隔たりの大きさ)の程度を示す数値であるF分布に MDCKとTR7の間で有意差が見られるということであり、この結果は、統計処理上は両群(細胞そのもの)に質的な差が存在し、測定の分散の程度が偶然の結果とは考えられないということを意味している。従って、TR7細胞を使用することによって初めて高増殖性ウイルスが効率よく選択できたものと考えられる。
【0036】
本発明方法で選択した高増殖性ウイルス株は、プラーク形成能(図8)で示されるように、購入したNIBRG14(E0)を本発明者によって孵化鶏卵で増殖した (E1)と比較すると細胞増殖性が格段に大きいものである。本発明者は高増殖株の遺伝子配列を決定しており、ワクチン株として抗原性に関与する HA および NAタンパク質に相当する配列には変異はないことを確認しているので、このような高増殖性ウイルス株はワクチン株として非常に有用であると考えられる。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明方法で選択される高増殖能をもつインフルエンザウイルス株をMDCK由来TR7細胞を利用して大量増殖且つ迅速増殖させることによって、インフルエンザワクチンを容易に、且つ、効率よく大量に生産することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種インフルエンザウイルス液を希釈した後にTR7細胞に接種して培養(継代1代目)し、更に、この培養後に得られたウイルス含有液を希釈した後にTR7細胞(NITE AP-922)に接種して培養する操作(継代培養)を繰り返すことによって、高増殖能を有するインフルエンザウイルス株を選択する方法。
【請求項2】
インフルエンザウイルスがH5N1インフルエンザウイルス株 又はH1N1インフルエンザウイルス株である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
継代培養を継代2代目、継代3代目、又は継代4代目まで繰り返す、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
各継代培養に用いるウイルス含有液の希釈率が100倍〜10,000倍である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各継代培養を4〜6日間行なう、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項の方法で選択された高増殖能を有するインフルエンザウイルス株。
【請求項7】
請求項6に記載の高増殖能を有するインフルエンザウイルス株をTR7細胞に接種し、無血清培地により細胞培養して該ウイルスを増殖させることからなる、インフルエンザウイルスワクチンの製造方法。
【請求項8】
無血清培地に成長因子を含むことを特徴とする、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
成長因子が上皮成長因子(EGF)である、請求項8記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−205968(P2011−205968A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76957(P2010−76957)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(507148456)学校法人 岩手医科大学 (19)
【Fターム(参考)】