細胞培養チャンバーとその製造方法、および、この細胞培養チャンバーを利用した組織モデルとその作製方法
【課題】ビトリゲル膜乾燥体を利用した細胞培養チャンバーを提供すること。
【解決手段】筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体が被覆固定された1室型細胞培養チャンバーとし、また、同一の平断面形状からなる2つの筒状の枠体が、対向する開放端面同士の間にビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で接着固定され、ビトリゲル膜乾燥体を介して第1室および第2室が形成されている2室型細胞培養チャンバーとする。
【解決手段】筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体が被覆固定された1室型細胞培養チャンバーとし、また、同一の平断面形状からなる2つの筒状の枠体が、対向する開放端面同士の間にビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で接着固定され、ビトリゲル膜乾燥体を介して第1室および第2室が形成されている2室型細胞培養チャンバーとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビトリゲル膜乾燥体を備えた細胞培養チャンバーとその製造方法、および、この細胞培養チャンバーを利用した組織モデルとその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬および動物実験代替法の研究には、様々な機能細胞を用いて生体を反映した3次元組織モデルを簡便に構築できる培養システムの開発が長く求められてきた。特にコラーゲンゲルを細胞の培養担体に用いる3次元培養技術は、血管新生モデル、癌浸潤モデル、上皮間充織モデルなどを再構築するのに有用であるが、幅広く普及するには至っていなかった。
【0003】
その理由としては、従来のコラーゲンゲルは、低密度の線維で構成されるため柔らかく取り扱いが困難であること、また、不透明であるため培養細胞の位相差顕微鏡観察は必ずしも容易でないこと等が考えられてきた。
【0004】
このような問題を解決するため、本発明者は、低温でゲル化(gelation)に至適な塩濃度と水素イオン濃度(pH)を付与したコラーゲンのゾルを培養シャーレ内に注入して、さらに至適な温度に保温することでコラーゲンのゾルをゲル化した後、低温で十分に乾燥させることで自由水のみならず結合水も徐々に除去してガラス化(vitrification)し、さらに再水和(rehydration)することで、コラーゲンゲルの物性を、強度と透明性に優れた薄膜に再現性良く変換する技術を確立している(特許文献1)。
【0005】
そして、ハイドロゲルであればコラーゲン以外の成分のゲルでも、ガラス化した後に再水和することで、ゲルを安定した新しい物性状態に変換することができるので、このガラス化工程を経て作製された新しい物性状態のゲルをビトリゲル(vitrigel)と命名している(非特許文献1)。
【0006】
特に、これまでに開発してきたコラーゲンビトリゲル薄膜は、生体内の結合組織に匹敵する高密度のコラーゲン線維が互いに絡み合った厚さ数十マイクロメートルの透明な薄い膜であり、優れたタンパク質透過性及び強度を有しているという特徴がある。また、作製工程のコラーゲンゾルには様々な物質を添加できるので、添加した物質の特性をコラーゲンビトリゲル薄膜に反映することができる。さらに、例えば、環状ナイロン膜支持体を包埋したコラーゲンビトリゲル薄膜は、ピンセットで容易に取り扱うことができる。
【0007】
そして、本発明者らは、このコラーゲンビトリゲル薄膜に関する技術をさらに発展させ、コラーゲンビトリゲル薄膜の透明性、作製再現性を向上させるための技術(特許文献2)や、コラーゲンビトリゲルを膜形状ではなく糸状あるいは管状の形状に作製する技術(特許文献3)や、磁気を利用してコラーゲンビトリゲルを固定あるいは移動する技術(特許文献4)なども提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−228768号公報
【特許文献2】WO2005/014774
【特許文献3】特開2007−204881号公報
【特許文献4】特開2007−185107号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takezawa T, et al., Cell Transplant. 13: 463-473, 2004
【非特許文献2】Takezawa T, et al., J. Biotechnol. 131: 76-83, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のコラーゲンビトリゲル薄膜の製造方法においては、例えば図21に例示したように、コラーゲンビトリゲル薄膜が任意の厚さとなるように、プラスチック製の培養シャーレにコラーゲンゾルを所定量注入してゲル化し、乾燥によるガラス化および再水和することで製造していた。
【0011】
このため、従来の製造方法では、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体を培養シャーレから剥離させることは不可能であり、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体は培養シャーレの底面と壁面に付着した状態で作製されていた。したがって、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体を膜状態で自由に取り扱うことはできず、また、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体を任意の微細形状に切断することも不可能であった。
【0012】
このような状況にあって、本発明者は、所望の形状に成形可能であり、取り扱い性に優れたビトリゲル膜乾燥体を迅速かつ大量生産するための方法を創案し、特許出願を行っている(特願2010−188887)。
【0013】
この方法によれば、ビトリゲル膜乾燥体を培養シャーレに付着させることなく膜状態で取得することができるため、その取り扱い性、加工性を利用して、従来困難であったビトリゲル膜乾燥体の新たな用途を確立することができる。
【0014】
一方、医薬品や化粧品あるいは洗剤等の家庭用化学品を開発する際には、その原料となる化学物質の生物に対する作用として薬効や毒性を評価することが行われている。このような評価には、従来は、ヒトや動物に由来する細胞を2次元的に平面培養して化学物質を暴露し、その影響を検討する細胞培養実験が行われてきた。さらに、細胞の2次元培養実験で目的とする薬効や毒性の評価を充分に達成できない場合には、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等の動物に化学物質を投与し、その影響を検討する動物実験が行われてきた。しかしながら、近年、動物愛護の意識の高まりやコストの問題から、生体内の組織、特に上皮・間充織等の器官ユニットを反映できる3次元組織モデルを利用した生化学的評価、分子生物学的評価、組織病理学的評価が注目されている。さらに、ヒトに対する化学物質のADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)を外挿する視点からは、種差の問題のないヒト細胞を用いた評価系が注目されている。これまでにもヒト細胞より組織工学的に再構築した様々な3次元組織モデルが開発されてきたが、どの器官にも対応して化学物質のADMETを予測できる3次元組織モデルを再構築する技術は必ずしも提唱されていないのが現状である。
【0015】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、所望の形状に成形可能であるとともに取り扱い性に優れたビトリゲル膜乾燥体を利用した細胞培養チャンバー、およびこの細胞培養チャンバーを利用して、化学物質のADMETの評価等が可能な3次元組織モデルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の細胞培養チャンバー、組織モデル等を提供する。
<1>筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されていることを特徴とする1室型細胞培養チャンバー。
<2>ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<3>ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<4>ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<5>ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<6>枠体には、ビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されている端面と対向する開放端面の外周縁部に、外側へ突出する係止部が配設されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<7>2つの筒状の枠体が、対向する開放端面同士の間にビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で互いに連結固定され、ビトリゲル膜乾燥体を介して第1室および第2室が形成されていることを特徴とする2室型細胞培養チャンバー。
<8>ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<9>ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<10>ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<11>ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<12>2つの枠体は、対向する開放端面同士の周囲が外側からフィルム状接着部材によって接着固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<13>前記1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
<14>化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする<13>の組織モデル。
<15>前記1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に1種以上の細胞を播種し、単層または多層培養する工程を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
<16>前記2室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体の両面に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
<17>化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする<16>の組織モデル。
<18>前記2室型細胞培養チャンバー内に組織モデルを作製する方法であって、以下の工程:第1室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程;および培養チャンバーの上下を反転させ、第2室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
<19>以下の工程:(1)基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に配置した壁面鋳型内部にハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;(3)ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(4)ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する工程;(5)ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(6)フィルムに吸着した状態のビトリゲル膜乾燥体をフィルムとともに基板上から剥離させ、筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体側を接着固定する工程;(7)ビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および(8)ビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<20>以下の工程:(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<21>以下の工程:(1)基板上に配置した壁面鋳型内部に、支持体を内包したハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;(3)支持体を内包したハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(4)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;(5)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、基板上にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して基板から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(7)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<22>以下の工程:(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、フィルム上に載置する工程;(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を接着固定する工程;(6)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(7)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<23>前記<19>から<22>のいずれかの方法で製造された1室型細胞培養チャンバーの筒状の枠体に接着固定されたビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体の非接着面側から、前記筒状の枠体と同一の平断面形状からなる別の筒状の枠体の開放端面を当接させて、2つの筒状の枠体同士の間にビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で枠体同士を互いに連結固定する工程を含むことを特徴とする2室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の細胞培養チャンバーは、ビトリゲルの特性(高分子透過性、タンパク質等の生理活性物質の徐放性、透明性、生体に近い線維密度、安定性等)を利用して、生体内の組織、器官ユニットを反映した様々な組織モデルを容易に構築することができる。
【0018】
例えば、各器官の最小ユニットを上皮・間充織・内皮と捕らえると、化学物質の動態は皮膚や角膜のように上皮側から間充織・内皮側へ移行する経路と、血管内に投与された薬剤のように内皮側から間充織・上皮側へ移行する経路に分類できる。
【0019】
本発明の組織モデルは、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルなどとして構築される。
【0020】
このため、ビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した、本発明の組織モデルでは、実験動物を用いなくとも、化学物質の移行経路を反映してADMETの動態を薬理学的、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。さらに、本発明の組織モデルでは、細胞同士の相互作用のみならず外来性の様々な生理活性物質の作用についても、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ビトリゲル膜乾燥体の製造方法の一実施形態を例示したフローチャートである。
【図2】ビトリゲル膜乾燥体の製造方法に使用される壁面鋳型を例示した斜視図である。
【図3】(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。(B)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した写真図である。
【図4】(A)は本発明の1室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図であり、(B)は写真図である。
【図5】(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーを容器の中に挿入した状態を例示した断面概要図であり、(B)は写真図である。
【図6】本発明の1室型細胞培養チャンバーを使用して組織モデルを作製した状態を例示した断面概要図である。
【図7】本発明の1室型細胞培養チャンバーを使用して組織モデルを作製した状態を例示した断面概要図である。
【図8】本発明の1室型細胞培養チャンバーを使用して、細胞を「液相−ビトリゲル膜−気相」の状態で培養する形態を例示した断面概要図である。
【図9】(A)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。(B)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図である。
【図10】本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した写真図である。
【図11】本発明の2室型細胞培養チャンバーを使用して組織モデルを作製した状態を例示した断面模式図である。
【図12】タンパク質透過性の検討に際し、ビトリゲルチャンバーを容器内に吊り下げて保持した状態を例示した断面概要図である。
【図13】ビトリゲルチャンバーのタンパク質透過性を検討するため、ビトリゲルチャンバー内にPC-12細胞を保持し、ビトリゲル膜を介してNGFを作用させた形態を例示した断面概要図である。
【図14】上欄の図は、ビトリゲル膜を介したNGFの作用によってPC-12細胞が神経突起伸張した状態を示している。下欄の図は、市販のコラーゲン膜チャンバーを利用した場合のPC-12細胞の状態を示している。
【図15】1室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデルの構築工程を示した概要図である。
【図16】培養された角膜モデル凍結切片の染色像を示した図である。
【図17】ヒト角膜上皮モデルによる眼刺激性物質の評価結果を示す図である。
【図18】図11の模式図に例示した形態に対応する各層の細胞の写真である。
【図19】位相差顕微鏡像で観察した市販のPET膜チャンバーで作製した角膜上皮モデルの凍結切片の図である。PET膜の部分で切片が分割されPET膜と細胞層が剥離していることが確認される。
【図20】2室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル(2枚のコラーゲンビトリゲル膜と3種類の細胞から構築された器官様プレート)の断面模式図と作製した組織モデルの凍結切片の染色像の図である。
【図21】従来のビトリゲル薄膜の製造方法の一実施形態を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の1室型細胞培養チャンバーの製造方法の第1実施形態について説明する。
【0023】
本発明の1室型細胞培養チャンバーに使用されるビトリゲル膜乾燥体は、例えば、以下の工程(1)〜(5)を経ることによって作製することができる。
(1)基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に配置した壁面鋳型内部にハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程
(3)ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する工程
(4)ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する工程
(5)ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する工程
本発明において、「ハイドロゲル」とは、高分子が化学結合によって網目状構造をとり、その網目に多量の水を保有した物質を指し、より具体的には、天然物由来の高分子や合成高分子の人工素材に架橋を導入してゲル化させたものをいう。
【0024】
また、「ハイドロゲル乾燥体」とは、ハイドロゲルから自由水を除去してガラス化させたものをいう。さらに、「ビトリゲル膜」とは、このハイドロゲル乾燥体を再水和させたものをいう。なお、上記の通り、「ガラス化(vitrification)の工程を経て作製できる新しい安定状態のゲル」は、本発明者によって「ビトリゲル(vitrigel)」と命名されている。そして、「ビトリゲル膜乾燥体」とは、このビトリゲルを再びガラス化したものをいう。ビトリゲル膜乾燥体は、必要なときに再水和することで、ビトリゲル膜に変換することができる。
【0025】
以下、各工程について説明する。図1は、ビトリゲル膜乾燥体の作製方法の一実施形態を例示したフローチャートである。なお、図1では、ゾルとしてコラーゲンゾルを使用した形態を例示している。
【0026】
工程(1):基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に壁面鋳型を配置する。そして、この壁面鋳型内部にゾルを注入してゲル化した後、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる。
【0027】
基板と壁面鋳型は、70%エタノールあるいはオートクレーブ等による滅菌に耐えられる材料を適宜使用することができる。具体的には、ポリスチレンやアクリル等のプラスチック、ガラス、あるいはステンレス等を例示することができる。
【0028】
ビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムとしては、パラフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、シリコン、サランラップ、ビニール等の非吸水性フィルムを例示することができ、特にパラフィルムが好ましい。パラフィルムは、パラフィンを原料とした熱可塑性フィルムであり、伸縮性・粘着性をもち、気密性、防水性にも優れているという特徴がある。以下、単に「フィルム」と記載する。
【0029】
壁面鋳型は、例えば、上面、底面を有していない筒状の枠体とすることができ、壁面鋳型の形状は、所望のビトリゲル膜の形状と同形状に設計することができる。具体的には、例えば、円形のビトリゲル膜を作製する場合には、図2に例示したように、壁面(枠)が環状のもの(円筒状)を使用することができる。また、矩形のビトリゲル膜を作製する場合には、壁面(枠)が矩形状のもの(角筒状)とすることができる。
【0030】
そして、基板上に敷かれたフィルム上に壁面鋳型を配置する。このとき、フィルムが敷かれている領域は壁面鋳型の断面より大きく、フィルムと壁面鋳型の底面とが当接状態となるが、物理的には、フィルムと壁面鋳型の表面の凹凸により自由水を流出させることができる程度のわずかな間隙が形成されることになる。なお、所望の数のビトリゲル膜に応じて、フィルム上に壁面鋳型を複数配置することができる。
【0031】
ハイドロゲルの作製に用いられる原料としての天然物由来高分子は、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどを含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、ゼラチン、寒天、アガロース、フィブリン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンなどを例示することができる。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pHなどを選択しハイドロゲルを作製することが可能である。原料を組み合わせることで、様々な生体内組織を模倣したビトリゲル膜を得ることができる。
【0032】
また、ハイドロゲルの作製に用いられる合成高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、poly(II-hydroxyethylmethacrylate)/polycaprolactoneなどが挙げられる。また、これらの高分子を2種以上用いてハイドロゲルを作製することも可能である。ハイドロゲルの量は、作製するビトリゲル膜の厚さを考慮して調節することができる。
【0033】
なかでも、ハイドロゲルの原料はコラーゲンが好ましく、コラーゲンゲルを用いる場合には、コラーゲンゾルを、基板上に配置された壁面鋳型に注入し、インキュベーターでゲル化させたものを使用することができる。図1では、ハイドロゲルの原料としてコラーゲンゾルを例示している。
【0034】
コラーゲンゾルを使用する場合を例に説明すると、コラーゲンゾルは、至適な塩濃度を有するものとして、生理食塩水、PBS(Phosphate Buffered Saline)、HBSS(Hank's Balanced Salt Solution)、基礎培養液、無血清培養液、血清含有培養液あるいは血清含有培養液などで調製することができる。また、コラーゲンゲル化の際の溶液のpHは、6から8程度が好ましい。
【0035】
ここで、コラーゲンゾルの調製は4℃で行うのが望ましい。その後、ゲル化する際の保温は、用いるコラーゲンの動物種に依存したコラーゲンの変性温度より低い温度でなければならないが、一般的には37℃以下の温度で数分から数十分でゲル化できる温度に保温して行うことができる。
【0036】
また、コラーゲンゾルはコラーゲンの濃度が0.2%以下になると希薄すぎてゲル化が弱く、0.3%以上になると濃厚すぎて均一化が困難になる。したがって、コラーゲンゾルのコラーゲンの濃度は0.2〜0.3%が好ましく、より好ましくは0.25%程度である。
【0037】
このように調整されたコラーゲンゾルを壁面鋳型内部に注入する。前記濃度のコラーゲンゾルは粘性を有しているため、コラーゲンゾルを壁面鋳型内部に注入して迅速に保温すれば、コラーゲンゾルは基板と壁面鋳型との間隙から流出することなく数分以内にゲル化することができる。
【0038】
そして、形成されたコラーゲンゲルは基板と壁面鋳型に密着するが、所定の時間放置することで、時間の経過とともに、コラーゲンゲル内の自由水の一部が基板と壁面鋳型の間隙から壁面鋳型の外側へ流出する。ここで、壁面鋳型を上下等に僅かに動かすことで、ゲルと壁面鋳型間の接着が解除されて僅かな間隙が生じるので、自由水の流出を促進することができる。
【0039】
さらに、例えば、単位面積(1.0 cm2)当たりに注入する0.25%コラーゲンゾルの量が0.4ml以上の場合には、ゲル化したコラーゲンゲル内の自由水を1/4〜2/3程度に減じるまでは、基板と壁面鋳型の間隙から流出する自由水を経時的に除去することが望ましい。これによって、ゲルのコラーゲン濃度は0.375〜1.0%程度になるため、壁面鋳型を除去してもゲル形状が歪まないゲル強度にすることができる。なお、その後は基板上に流出する自由水も伴った状態でゲル内に残留する自由水を自然乾燥させて除去してガラス化することができる。ここで、迅速大量生産の観点からは、コラーゲンゲル内の自由水を1/4〜2/3程度に減じさせる時間は2〜8時間が望ましい。さらに、その後、ゲル内に残留する自由水を自然乾燥させ完全に除去させる時間は48時間以内が望ましい。そのためには、単位面積(1.0 cm2)当たりに注入する0.25%コラーゲンゾルの量は0.1〜2.4mlが望ましく、その結果、単位面積(1.0 cm2)当たりに250μg〜6mgのコラーゲンを含有するコラーゲンビトリゲル膜を作製することができる。
【0040】
工程(2):壁面鋳型を基板上から除去する。
【0041】
基板に敷いたフィルム上にハイドロゲルを残して、壁面鋳型を取り除く。ハイドロゲルは、自由水が流出しているため、フィルム上で変形等することなく、壁面鋳型に保持された形状を維持することができる。
【0042】
工程(3):ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する。
【0043】
乾燥により、完全にハイドロゲル内の自由水を除去しガラス化する。このガラス化工程の期間を長くするほど、再水和した際には透明度、強度に優れたビトリゲル膜を得ることができる。なお、必要に応じて短期間のガラス化後に再水和して得たビトリゲル膜をPBS等で洗浄し、再度ガラス化することもできる。
【0044】
乾燥方法としては、例えば、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。例えば、風乾の方法としては、10℃40%湿度で無菌に保たれたインキュベーターで2日間乾燥させる、もしくは無菌状態のクリーンベンチ内で一昼夜、室温で乾燥する等の方法を例示することができる。
【0045】
工程(4):ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する。
【0046】
ハイドロゲル乾燥体をPBSや使用する培養液などで再水和することでビトリゲル膜を作製することができる。ここで、再水和する液体には、生理活性物質などの各種の成分が含まれていてもよく、例えば、生理活性物質としては、抗生物質をはじめとする各種医薬品、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子、抗体、酵素、サイトカイン、ホルモン、レクチン、またはゲル化しない細胞外マトリックス成分としてファイブロネクチン、ビトロネクチン、エンタクチン、オステオポエチン等が挙げられる。また、これらを複数含有させることも可能である。
【0047】
工程(5):ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する。
【0048】
乾燥方法は、工程(3)と同様に、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。
【0049】
ビトリゲル膜を再乾燥させることで、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製することができる。このビトリゲル膜乾燥体は、必要な時に再水和することで、再度ビトリゲル膜に変換することができる。
【0050】
このビトリゲル膜乾燥体は、剥離可能なフィルムと重層化しているため、ビトリゲル膜乾燥体はフィルムとともに自由に取り扱うことができるとともに、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を任意の形に切断加工することが可能である。
【0051】
なお、「ハイドロゲル乾燥体」と「ビトリゲル膜乾燥体」に含まれる成分は必ずしも同じではない。「ハイドロゲル乾燥体」は、ハイドロゲルの成分を含んでいるが、「ビトリゲル膜乾燥体」は、ハイドロゲル乾燥体を再水和した際の水溶液で平衡化されたビトリゲル膜に残存する成分を含んでいる。
【0052】
また、工程(5)のビトリゲル膜乾燥体を再水和することで得られるビトリゲル膜は、工程(4)で得られるビトリゲル膜と比較して、ガラス化の期間が長いため、強度および透明性に優れている。
【0053】
さらに、ガラス化の期間は「ハイドロゲル乾燥体」の状態で長くすることも可能であるが、「ハイドロゲル乾燥体」はハイドロゲル作製時の成分が全て共存している状態であり、ハイドロゲル乾燥体を維持し続ける際あるいはビトリゲル膜を利用する際には不必要となる成分も混在している。一方、「ハイドロゲル乾燥体」を再水和して不必要な混在成分を除去した後のビトリゲル膜については、その乾燥体においても不必要な成分は除去されている。したがって、ガラス化の期間を長く維持する必要がある時は、このビトリゲル膜乾燥体の状態で維持し続けることが好ましく、ビトリゲル膜乾燥体を再水和して得られるビトリゲル膜には不必要な成分が混在しない点で優れている。
【0054】
さらに、ビトリゲル膜乾燥体は、例えば、ゲル化する前のゾル溶液に、含有させたい生理活性物質を混合し、その後、ゲル化・ガラス化等のビトリゲル膜の作製工程を経て作製することもできる。
【0055】
生理活性物質を含有するビトリゲル膜乾燥体は、細胞の接着・増殖・分化などに必要な因子をビトリゲル膜側から供給することができるので、より良い培養環境を実現することができる。また、含有させた生理活性物質の細胞に対する影響を調べる試験を行うのに非常に有用である。また、生理活性物質を含んだビトリゲル膜は、体内へ移植することで薬物送達システムとしても機能し得る(非特許文献2)。
【0056】
さらに、ビトリゲル膜は、分子量の大きな生理活性物質を透過することが可能であり、それにより、このビトリゲル膜の異なる2つの面に播種された各々の細胞の間での生理活性物質を介した相互作用の試験・研究に大きく貢献できる(非特許文献2)。
【0057】
以上の方法によれば、ビトリゲル膜乾燥体を培養シャーレに付着させることなく膜状態で取得することができる。また、このビトリゲル膜乾燥体は切断加工が容易であるため、本発明の細胞培養チャンバーに利用することが可能である。
【0058】
図3(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。図3(B)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した写真図である。図4(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図である。(B)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した写真図である。
【0059】
1室型細胞培養チャンバーXは、筒状の枠体1の一方の開放端面1aにビトリゲル膜乾燥体2が被覆固定されている(図4(A)(B))。
【0060】
図3(A)(B)に例示したように、筒状の枠体1は、内部に細胞を保持するための空間を有している。枠体1の材料は、細胞培養に適した材料を適宜選択することができる。また、枠体1の形状も特に限定されず、例えば、円筒状や角筒状を例示することができる。具体的には、枠体1は、アクリル製やポリスチレン製の円筒チューブを好ましく例示することができる。
【0061】
そして、例えば、この枠体1の一方の開放端面1aに接着剤を塗布し、ビトリゲル膜乾燥体2を接着固定する。開放端面の形状は特に限定されず、例えば、平面状や段差状、テーパー状、溝状などを例示することができる。フィルム3と重層化しているビトリゲル膜乾燥体2を使用する場合には、ビトリゲル膜乾燥体2側を枠体1と接着した後、フィルム3を剥がして取り除くことができる。接着剤は、接着性、細胞毒性を考慮して適宜選択することができ、具体的には、ウレタン系接着剤を好ましく例示することができる。例えば、ゴム系、シアンアクリレート系、アクリル系は、細胞毒性を示す場合があり、ホットメルト系は、ビトリゲル膜乾燥体2を熱変性させる場合があるため好ましくない。また、その他、ビトリゲル膜乾燥体2と枠体1とを接着固定する方法としては、ビトリゲル膜乾燥体2と枠体1との間に両面テープを介在させて接着固定する方法や、ヒートシーラーや熱板、超音波、レーザーなどを用いてビトリゲル膜乾燥体2と枠体1とを熱溶着する方法などを例示することができる。
【0062】
さらに、枠体1の一方の端面1aに接着固定されたビトリゲル膜乾燥体2は、枠体1の端面1aと略同形状に切断加工することができる。フィルム3と重層化しているビトリゲル膜乾燥体2は、切断加工が容易であるため、枠体1の開放端面1aからはみ出した余分な部分を切断することができる。この場合も、ビトリゲル膜乾燥体2の切断加工後には、フィルム3を剥がして取り除くことができる。これによって、図4(A)(B)に例示したように、取り扱い性に優れた1室型細胞培養チャンバーを作製することができる。
【0063】
そして、1室型細胞培養チャンバーX内のビトリゲル膜乾燥体2上に、所望の細胞を播種し培養することで、組織モデルを構築することができる。細胞を含む懸濁液や培養液の添加によって、1室型細胞培養チャンバーXのビトリゲル膜乾燥体2はビトリゲル膜へと変換される。ここで、「組織モデル」とは、生体内の細胞状態、組織、器官を模したものをいい、例えば、組織(細胞)に対する生理活性物質(各種医薬品等の薬剤、栄養成分、増殖因子など)等による影響を検定することができる。
【0064】
組織モデルは、例えば、各種の哺乳動物由来の細胞等を播種、培養することで構築することができるが、好ましくは、ヒト由来の細胞である。ヒト由来の細胞による組織モデルによれば、ヒトに対する化学物質のADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)を検討するに際し、種差の問題のない評価系を確立することができる。
【0065】
組織モデルの形態は限定されないが、例えば、被蓋上皮細胞や腺上皮細胞などを培養して構築できる上皮組織モデル、線維芽細胞や脂肪細胞などを培養して構築できる結合組織モデル、筋芽細胞や心筋細胞や平滑筋細胞などを培養して構築できる筋組織モデル、および神経細胞やグリア細胞などを培養して構築できる神経組織モデル、さらに、その他、2種類以上の組織に由来する細胞を組み合わせて構築できる器官様モデルなどが挙げられる。ここで、用いる細胞は正常な成熟分化細胞に限定されるものではなく、胚性幹(ES;Embryonic Stem)細胞や体性幹(Somatic Stem)細胞や人工多能性幹(iPS;Induced pluripotent Stem)細胞などの未分化細胞、癌細胞などの病巣由来細胞、あるいは外来性遺伝子を導入したような形質転換細胞であってもよい。このように適宜、用いる細胞を選択することで、正常の組織モデルのみならず、発生あるいは再生過程にある組織モデル、癌をはじめとする病巣の組織モデル、あるいは人工的に形質を転換した細胞から構成される組織モデルなどの形態を創出することができる。特に、医薬品、生理活性物質、化粧品あるいは洗剤等の化学物質の生体に対する作用を外挿できる組織モデルの形態としては、生体に暴露あるいは投与された化学物質の移行経路の反映できる組織モデルの構築が重要となる。この視点からは、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデル等を例示することができる。このような組織モデルには、具体的には、化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデルをはじめ、化学物質の毒性評価に有用な皮膚、角膜、口腔粘膜、神経、肝臓、腎臓など各器官の成熟組織モデルおよび化学物質の発生毒性の評価に有用な胚組織モデル、あるいは薬剤開発に有用な血管新生モデルや癌浸潤モデルなどが含まれる。
【0066】
組織モデルの検定方法は具体的に限定されないが、例えば、チャンバー内に化学物質を直接添加する方法や、ビトリゲル膜の透過性を利用して化学物質を細胞に作用させる方法などを例示することができる。
【0067】
ビトリゲル膜の透過性を利用する方法としては、例えば、1室型細胞培養チャンバーを生理活性物質が注入されている容器内に入れ、ビトリゲル膜を介して培養細胞へ生理活性物質を浸透させることで、細胞への影響を検定する方法を例示することができる。
【0068】
具体的には、例えば、図5に例示したように、ビトリゲル膜乾燥体2が被覆固定されている枠体1の端面と対向する開放端面の外周縁部に、外側へ突出する係止部4を配設し(図4(A)(B))、容器Hの上側から1室型細胞培養チャンバーXを挿入する。そして、容器Hの上部に枠体1に配設した係止部4を掛けることで、容器H内に1室型細胞培養チャンバーXを保持することができる。係止部4は、図1に例示した形態に限定されず、例えば、プラスチック材料等によって棒状、フランジ状などの形態とすることができる。容器H内には、適宜、生理活性物質を注入することができ、ビトリゲル膜を介して培養細胞へ生理活性物質を浸透させることで、細胞への影響を検定することができる。
【0069】
また、予め生理活性物質を含んだビトリゲル膜乾燥体を使用する場合には、ビトリゲル膜乾燥体上で所望の細胞を培養することで、水和したビトリゲル膜からチャンバー内の培養細胞側へ生理活性物質を供給することができるため、その作用効果を検定することができる。
【0070】
さらに、ビトリゲル膜は、PETなどのプラスチックフィルムと比べて柔らかいため、容易に組織モデルの凍結切片を作製することができる。したがって、組織モデルへの生理活性物質の影響を3次元的に観察することも可能である。
【0071】
1室型細胞培養チャンバーX内には、目的に応じて様々な組織モデルを構築することが可能である。
【0072】
具体的には、1室型細胞培養チャンバーXは、例えば、図6(A)に例示したように、ビトリゲル膜21上に所望の細胞を1種類以上播種することができる。そして、好適な条件下で、播種した細胞を単層または多層培養することで、1室型細胞培養チャンバーX内のビトリゲル膜21上に組織モデルを構築することができる。
【0073】
また、1室型細胞培養チャンバーXは、例えば、図6(B)に例示したように、1種以上の細胞を懸濁したコラーゲン培養液(コラーゲンゾル)をビトリゲル膜21上に添加、培養することで、ビトリゲル膜21上に、細胞がコラーゲンゲル内培養された組織モデルを構築することができる。さらに、図6(B)に例示した組織モデル上に異種細胞を懸濁した培養液を添加し、単層または多層状態に重層培養することで、例えば、図7(A)に例示したような組織モデルを構築することができる。
【0074】
また、例えば、従来の方法で作製した環状ナイロン膜支持体を包埋したビトリゲル膜によって1種以上の細胞を片面または両面に培養し、このビトリゲル膜を、図6(A)(B)、図7(A)に例示した組織モデル上で重層培養することで、重層化した組織モデルを構築することができる。なお、図7(B)は、図7(A)に例示した組織モデル上で重層培養した状態を例示している。
【0075】
このように、本発明の1室型細胞培養チャンバーによれば、ビトリゲルの特性(高分子透過性、タンパク質等の生理活性物質の徐放性、透明性、生体に近い線維密度、安定性等)を利用して、生体内の組織、器官ユニットを反映した様々な3次元の組織モデルを容易に構築することができる。具体的には、例えば、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルなどを容易に構築することができる。
【0076】
このため、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、化学物質の移行経路を反映してADMETの動態を薬理学的、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。さらに、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、細胞同士の相互作用のみならず外来性の様々な生理活性物質の作用についても、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。
【0077】
また、1室型細胞培養チャンバーの利用形態としては、以下の形態を例示することができる。
【0078】
例えば、チャンバー内のビトリゲル膜上に培養液に懸濁した所望の細胞を播種した後に、チャンバーを培養液が注入されている容器に入れることで、「液相−ビトリゲル膜−液相」の状態で細胞を培養することができる。さらに、チャンバー内の培養液を除去することで、「気相−ビトリゲル膜−液相」の状態で細胞を培養することができる。この「気相−ビトリゲル膜−液相」の培養法は、例えば、生体内においても通常、空気との接触状態で存在する皮膚、口腔、鼻腔、肺の上皮細胞などの培養に適しており、細胞機能を維持して長期に培養することが可能となる。
【0079】
さらに、例えば、図8に例示したように、培養液が添加された1室型細胞培養チャンバーを係止部を介して何も入っていない容器の上部に掛けて容器内の空中に保持することができる。これによって、ビトリゲル膜上の細胞は、チャンバー内の培養液と、ビトリゲル膜を介した外側の空気とに接するため、「液相−ビトリゲル膜−気相」の状態で細胞の下側(細胞の接着面であるビトリゲル膜側)から良好に酸素を付与して培養することができる。この「液相−ビトリゲル膜−気相」の培養法は、例えば、酸素要求性の高い肝実質細胞、神経細胞、あるいは癌細胞などの培養にも適しており、細胞機能を維持して長期に培養することが可能となる。
【0080】
さらに、培養液が添加された1室型細胞培養チャンバーのビトリゲル膜の外面を容器やその他の固形物質と当接させた状態で、ビトリゲル膜上の細胞を培養することで、「液相−ビトリゲル膜−固相」の状態で細胞を培養することもできる。
【0081】
図9(A)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。図9(B)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図である。図10は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した写真図である。
【0082】
本発明の2室型細胞培養チャンバーYは、2つの筒状の枠体1が、対向する開放端面1a同士の間にビトリゲル膜乾燥体2を介在させた状態で接着固定され、ビトリゲル膜乾燥体2によって隔てられた2室が形成されている(以下、便宜的に、第1室、第2室と記載する場合がある)。筒状の枠体1の形状は、2室を形成した際に水密性を保つことができれば(液漏れしなければ)、特に限定されず、断面形状や高さや太さ、厚さが異なるものを適宜使用することができ、好ましいものとして、例えば、同一の平面形状からなる2つの枠体1を例示することができる。
【0083】
具体的には、2室型細胞培養チャンバーYは、例えば、上記の方法で1室型細胞培養チャンバーXを作製し、この1室型細胞培養チャンバーXのビトリゲル乾燥体2の非接着面側(ビトリゲル乾燥体2の外面側)から、同形の枠体1を当接、接着することで、ビトリゲル膜乾燥体2を介して第1室R1および第2室R2が形成されている2室型細胞培養チャンバーYを作製することができる。ビトリゲル乾燥体2を挟んで2つの枠体1同士を連結する際には、例えば、1室型細胞培養チャンバーXの作製と同様に、ウレタン系接着剤や両面テープなどを適宜使用することができる。また、例えば、パラフィルムなどのフィルム状接着部材を使用して、枠体1同士の対向面を外側から接着固定することもできる。さらに、例えば、枠体1の開放端面1aにネジ口加工などすることで、スクリューキャップやスナップキャップと同様の構造によって、締結、固定することができる。
2室型細胞培養チャンバーYは、枠体1同士の接着を解除することもできる。
【0084】
図11に例示したように、2室型細胞培養チャンバーYは、ビトリゲル膜21の片面、両面に1種類以上の細胞を単層または多層培養することが可能である。前記培養には、例えば、図7(B)等で例示した形態と同様に、1種以上の細胞を懸濁したコラーゲン培養液を添加するゲル内培養も含まれる。両面培養においては、各々の面に異種の細胞を播種し、各々第1室、第2室で培養することが可能であり、各室では1室型培養チャンバーと同様の細胞培養が可能である。この場合、ビトリゲル膜21を介しての細胞同士の相互作用を検討することもできる。
【0085】
図11に例示した形態では、例えば、ビトリゲル膜21の一方の面にコラーゲンゲルに分散した線維芽細胞C1および内皮細胞C2が培養され、さらに、ビトリゲル膜21の他方の面に上皮細胞C3が培養された3次元組織モデルなどを構築することができる。
【0086】
2室型細胞培養チャンバーY内のビトリゲル膜21の両面に所望の細胞を播種し培養することで、重層化した組織モデルを容易に構築することができる。組織モデルは、例えば、1室型細胞培養チャンバーと同様に、化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデルをはじめ、化学物質の毒性評価に有用な各器官のモデル、あるいは薬剤開発に有用な血管新生モデルや癌浸潤モデルなどが含まれる。
【0087】
具体的には、例えば、ビトリゲル膜21の一方の面(第1室側)には上皮系細胞、他方の面(第2室側)には間充織細胞を培養することで、上皮間充織相互作用を有した経皮吸収モデルや腸管吸収モデルを構築することができる。また、一方の面(第1室側)には血管内皮細胞、他方の面(第2室側)には癌細胞を培養することで、血管新生モデルや癌浸潤モデルなどを構築することができ、様々な細胞機能の検定が可能となる。さらに、例えば、コラーゲンビトリゲル膜は、生体に近いコラーゲン線維密度を有しているため、生体内の間充織の性質を再現することができる。このため、角膜実質と略等しい厚さ(500μm)のビトリゲル膜を使用した2室型細胞培養チャンバーYは、一方の面(第1室側)に角膜上皮細胞、他方の面(第2室側)には角膜内皮細胞層を形成し、上皮、実質、内皮を含む角膜モデルを構築することもできる。
【0088】
2室型細胞培養チャンバーYによる培養の場合、例えば、第1室側から、ビトリゲル膜乾燥体2上に細胞を播種し、単層または多層培養させた後、2室型細胞培養チャンバーYの上下を反転させ、さらに第2室側からビトリゲル膜21上に細胞を播種し、単層または多層培養することによって、ビトリゲル膜21を挟んで重層化した組織モデルを構築することができる。例えば、2室型細胞培養チャンバー内の第2室のビトリゲル膜乾燥体上に上皮細胞を単層または多層培養(あるいは内皮細胞を単層培養)した後に2室型細胞培養チャンバーYの上下を反転させ、第1室のビトリゲル膜乾燥体上にコラーゲンゾルに懸濁した間充織細胞を播種してコラーゲンゲル内培養した後に、さらにコラーゲンゲル上に内皮細胞を単層培養(あるいは上皮細胞を単層または多層培養)することで、化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルを容易に構築することができる。
【0089】
また、2室型細胞培養チャンバーY内で組織モデルを構築した後、枠体1同士の接着を解除し、1室型細胞培養チャンバーと同様に、各種検定をチャンバーY内の組織モデルに対して行うことができる。具体的には、例えば、図5(A)(B)に例示した方法と同様に、枠体1の外周縁部に係止部を配設して、枠体1を容器内に保持させ、容器内に入れた生理活性物質等を水和したビトリゲル膜からチャンバー内の培養細胞(組織モデル)側へ供給し、その作用効果を検定することができる。
【0090】
このように、本発明の2室型細胞培養チャンバーによれば、ビトリゲルの特性(高分子透過性、タンパク質等の生理活性物質の徐放性、透明性、生体に近い線維密度、安定性等)を利用して、生体内の組織、器官ユニットを反映した様々な3次元の組織モデルを容易に構築することができる。具体的には、例えば、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルなどを容易に構築することができる。
【0091】
このため、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、化学物質の移行経路を反映してADMETの動態を薬理学的、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。さらに、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、細胞同士の相互作用のみならず外来性の様々な生理活性物質の作用についても、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。
【0092】
さらに、図6、図7、図11に例示したような組織モデルから細胞層を形成したビトリゲル膜を解剖用メスなどで枠体から分離し、それを別の組織モデル上に重層することで、さらに複雑な細胞層を重層した組織モデルを構築できる。また、チャンバーを用いて構築した組織モデル(組織モデルA)の枠体中に、より小さな(枠体内径より小さい)チャンバーを用いて構築した組織モデル(組織モデルB)を入れ子状に挿入し、組織モデルAの上に組織モデルBを重層させることができる。
【0093】
次に、本発明の1室型細胞培養チャンバーの製造方法の第2実施形態について説明する。第1実施形態と共通する部分についての説明は省略する。
【0094】
第2実施形態では、例えば、以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含む。
【0095】
第2実施形態では、具体的には、例えば、本発明者によって出願されたWO2005/014774の方法に従って、シャーレなどの容器内で、支持体としての環状ナイロン膜(以下、環状ナイロン膜支持体)を内包した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製し、再水和、再乾燥を行って、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する。乾燥、再水和などの処理は上述した方法と同様の方法を適宜採用することができる。
【0096】
その後、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再び再水和して容器から剥離させ、マグネットで挟んだ状態で乾燥させる。マグネットは、例えば、本発明者によって出願された特開2007-185107号公報(特許文献4)の方法に従って、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体の外周縁付近の表裏面を挟持可能であるものが好ましい。具体的には、マグネットの形状は、円環状であることが好ましく、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体の外径などを考慮して、外円(外周縁)と内円(内周縁)の大きさ(幅)等を適宜設計して使用することができる。マグネットで挟んだ状態で乾燥させることで、シャーレなどの容器に付着させることなく、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製することができる。また、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜をフィルムと共にマグネットで挟んだ状態で乾燥させてから、フィルムを除去することで基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製することができる。
【0097】
そして、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を、筒状の枠体の一方の開放端面に接着固定し、枠体の端面からはみ出した余分な部分を切断して端面と略同形状に切断加工することで、一室型細胞培養チャンバーを製造することができる。なお、支持体付きビトリゲル膜乾燥体と筒状の枠体との接着固定は、第1実施形態と同様に、接着剤、両面テープ、ヒートシーラーなどを適宜使用することができる。
【0098】
さらに、本発明の一室型細胞培養チャンバーの製造方法の第3実施形態について説明する。
【0099】
第3実施形態では、例えば、以下の工程:
(1)基板上に配置した壁面鋳型内部に、支持体を内包したハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;
(3)支持体を内包したハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(5)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、基板上にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して基板から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含む。
【0100】
第3実施形態では、例えば図2に例示した壁面鋳型を利用して、環状ナイロン膜などの支持体付きビトリゲル膜乾燥体を基板から脱離した状態で作製することができる。第3実施形態では、基板上に配置した壁面鋳型を使用する点を除くその他の工程は、第2実施形態と同様に行うことができる。
【0101】
本発明の一室型細胞培養チャンバーの製造方法の第4実施形態について説明する。
第4実施形態では、例えば、以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、フィルム上に載置する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を接着固定する工程;
(6)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含む。
【0102】
第4実施形態における上記工程(1)〜工程(3)は、第2実施形態と同様に行うことができる。
【0103】
第4実施形態における工程(4)では、再水和されて容器から剥離させた支持体付きビトリゲル膜をフィルム上に載せる。フィルムは、第1実施形態と同様に、ビトリゲル膜を乾燥させたビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なものを適宜使用することができる。
【0104】
そして、工程(5)において、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を筒状の枠体の一方の開放端面に接着固定する。接着固定には、例えば、アクリル系の両面テープを使用することができ、この場合、両面テープを枠体の端面の形状、大きさに対応させて加工することが好ましい。
【0105】
そして、工程(6)において、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて得た乾燥体を、工程(7)において、枠体の開放端面と略同形状に成形した後、工程(8)において、フィルムを除去することで一室型細胞培養チャンバーを作製することができる。工程(6)における支持体付きビトリゲル膜の乾燥は、第1〜第3実施形態と同様に行うことができる。
【0106】
さらに、2室型細胞培養チャンバーの製造する方法としては、第2〜第4実施形態に例示した方法で作製した1室型細胞培養チャンバーの支持体付きビトリゲル膜乾燥体の非接着面側から、別の筒状の枠体の開放端面を当接させて、2つの筒状の枠体同士の間に支持体付きビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で枠体同士を互いに連結固定することで2室型細胞培養チャンバーを製造することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0108】
<実施例1>パラフィルムに吸着したコラーゲンビトリゲル膜乾燥体(コラーゲン量:0.52〜2.1 mg/cm2)の作製
基板として、直径60mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon # 35-1007)の底表面を用いた。また、壁面鋳型としては、外円の直径が39mmで内円の直径が35mmで高さが10.0mmのアクリルを用いた。パラフィルム(Pechiney Plastic Packaging社製)は、直径50mmの円形に切断して用いた。なお、壁面鋳型およびパラフィルムともに70% エタノールを噴霧して拭き取る滅菌処理を施してから使用した。具体的には、直径60mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレの底表面上に直径50mmの円形に切断した1枚のパラフィルムを敷いて、その上に1つの壁面鋳型を設置することで、基板上に敷いたパラフィルムと壁面鋳型を分離できる1つの容器を作製した。
【0109】
コラーゲンゲルは、この容器内に2.0ml、4.0ml、6.0ml、あるいは8.0ml の0.25% コラーゲンゾルを注入してシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0 ℃ の保湿インキュベーター内でゲル化することで作製した。この際、注入したコラーゲンゾルは基板上に敷いたパラフィルムと壁面鋳型との間隙から流出することなくゲル化した。
【0110】
37.0 ℃の保湿インキュベーター内に移し入れてから4時間目、6時間目、および8時間目には、コラーゲンゲル内の自由水が基板上に敷いたパラフィルムと壁面鋳型との間隙から壁面鋳型の外側へ流出した量を定量すると共に、各時間で流出した自由水は除去した。なお、2時間目に壁面鋳型を上下に僅かに動かすことで、コラーゲンゲルと壁面鋳型間の接着を解除した。その結果、コラーゲンゾル6.0mlおよび8.0ml由来のコラーゲンゲルは4時間目までに1/3以上、コラーゲンゾル4.0ml由来のコラーゲンゲルは6時間目までに約1/3、またコラーゲンゾル2.0ml由来のコラーゲンゲルは8時間目までに約1/4の自由水が壁面鋳型の外側へ流出した。
【0111】
壁面鋳型は8時間目に基板上から除去したが、この際、壁面鋳型はコラーゲンゲルと非接着状態にあり、基板上に敷いたパラフィルムから除去した壁面鋳型の内壁等周囲へのコラーゲンゲルの付着は全くなかった。また、8時間目には37.0 ℃ の保湿インキュベーターより10.0 ℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態で流出する自由水は流出させながらコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、コラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0112】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。そこで、このガラス化が始まるまで(コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去されてコラーゲンゲル乾燥体となるまで)の自然乾燥に要したおよその時間を計測した。その結果、ガラス化が始まるまでに要した時間は、2.0mlの0.25% コラーゲンゲルの場合は20時間以内、また、4.0ml、6.0mlおよび8.0mlの0.25% コラーゲンゲルの場合は20時間以上41時間以内であった。
【0113】
ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、基板のシャーレ内に5.0ml のPBSを加えて再水和して基板上に敷いてあるパラフィルムに吸着した状態でコラーゲンビトリゲル膜を作製した。そして、数回5.0ml のPBSでリンスすることで、PBSに平衡化したコラーゲンビトリゲル膜をパラフィルムに吸着した状態で作製した。このコラーゲンビトリゲル膜は壁面鋳型の直径35mmの内円(面積:9.6 cm2)形状を反映しており、不定形外周縁部をもたないものであった。
【0114】
さらに、このパラフィルムに吸着した状態のコラーゲンビトリゲル膜を直径60mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon # 35-1007)に移し入れ、10.0 ℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、パラフィルムに吸着した状態のコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。このパラフィルムに吸着した状態のコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、所望の微細形状にハサミやメス等で容易に切断できた。また、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、パラフィルムより容易に剥離することも可能であった。
【0115】
なお、上述の工程でコラーゲンゾルに環状ナイロン膜を挿入すれば、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体をパラフィルムに吸着した状態で作製できる。また、壁面鋳型の底平面形状および高さを改変することで、任意の形状と厚みを有するコラーゲンビトリゲル膜乾燥体をパラフィルムに吸着した状態で作製できる。
【0116】
<実施例2>細胞培養チャンバーの作製
従来、ビトリゲル膜乾燥体は、培養シャーレに付着した状態で作製されていたため、膜状態で取り扱うことはできなかったため、例えば、パームセルのような2相性容器に水分を含むビトリゲル膜を物理的に挟み込むことでビトリゲル膜を固定したチャンバーを作製することが試みられていた。しかしながら、その作製に伴う操作は煩雑であり、大量生産を実現することは困難であった。
【0117】
本発明では、上記のビトリゲル膜乾燥体の作製方法が確立されたことから、ビトリゲル膜乾燥体を利用した以下の細胞培養チャンバーの作製が可能となった。
【0118】
(1)1室型細胞培養チャンバー
アクリル製の円筒チューブの一方の開放端面にウレタン系接着剤を塗布し、パラフィルムと重層化しているコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を当接させ、さらに、円筒チューブの上から重り載せて両者を密着状態とした。そして、密着状態の円筒チューブとコラーゲンビトリゲル膜乾燥体とを室温で十分換気しながら静置することで両者を接着固定した。さらに、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、その後、接着固定されているコラーゲンビトリゲル膜乾燥体からパラフィルムを剥離させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0119】
(2)2室型細胞培養チャンバー
上記の方法で1室型細胞培養チャンバーを作製し(第1室)コラーゲンビトリゲル乾燥体側の非接着面側から、同径かつ高さの低い別体の円筒チューブ(第2室)を当接させ、パラフィルムによって当接部分を外側から被覆することで、コラーゲンビトリゲル乾燥体を挟んで2つの枠体同士を連結固定した。これによって、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体を介して2室(第1室、第2室)が形成されている2室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0120】
<実施例3>ビトリゲルチャンバーのタンパク膜透過性
上記の1室型細胞培養チャンバーを使用した。以下では、本発明のチャンバーと、市販のチャンバー(後述の比較例)とを区別するため、本発明のチャンバーを便宜的に「ビトリゲルチャンバー」と記載する(実施例4および実施例6においても同様)。
【0121】
(1)実施例
ビトリゲルチャンバーを容器内に吊り下げた形態で保持しビトリゲルチャンバー内に10mg/mlBSAを含有したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を500μl、容器内にPBSを1ml注入した(図12)。これを保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で16時間静置した後、容器内のPBS中のBSA濃度をQuick Startプロテインアッセイキット(バイオ・ラッド ラボラトリーズ(株)#500-0201JA)で測定した。その結果、BSA濃度は2.1mg/mlであり、BSAはビトリゲル膜を透過した。
【0122】
(2)比較例
市販のコラーゲン膜チャンバー(高研(株):細胞培養用透過性コラーゲン膜 #CM-24)のタンパク質透過性を調べるため、上記(1)に記載したビトリゲルチャンバーと同様の試験を行った。(ただし、チャンバーの大きさがビトリゲルチャンバーと比べ小さいため、チャンバー内の液量を337μl, 容器内の液量を674μlとして、チャンバー内の液の高さおよびチャンバー内外の液量比がビトリゲルチャンバーと同じになるようにした。)その結果、容器内のPBS中のBSA濃度はキットの検出下限以下であり、BSAは市販品のコラーゲン膜を透過しなかった。
【0123】
<実施例4>ビトリゲルチャンバーのタンパク質透過性(膜を介したNGFの作用によるPC-12細胞の神経様突起の伸張)
(1)実施例
ビトリゲルチャンバーを容器内に吊り下げる形態(図5(A)(B)に例示)で保持し、ビトリゲルチャンバー内に培養液[10%非動化ウシ胎児血清(Sigma#F2442)、20mM HEPES(GIBCO BRL #15630)、100units/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培養液(GIBCO BRL #11885-084)]に懸濁したPC-12細胞を2.5×103個/cm2となるように播種した。また、容器内に培養液のみまたはNGF(upstate #01-125)を5ng/ml含有する培養液を1.2ml注入した(図13)。これを保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2日間静置培養した後、位相差顕微鏡で細胞の形態を観察した。
【0124】
その結果、容器内に培養液のみを注入したものではPC-12細胞の形態は球形で神経様突起の伸張は認められなかった。一方、容器内にNGF添加培養液を注入したものでは神経様突起の伸張が認められた(図14上欄)。すなわち、容器内のNGFがPC-12細胞に作用したことが確認された。
【0125】
(2)比較例
同様の実験を市販のコラーゲン膜チャンバー(高研(株):細胞培養用透過性コラーゲン膜 #CM-24)で行った。その結果、NGFの有無にかかわらすPC-12細胞の形態は球形で神経様突起の伸張は認められなかった(図14下欄)。すなわち、容器内のNGFはPC-12細胞に作用しなかった。
【0126】
<実施例5>組織モデルの構築
(1)1室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル
図15は、1室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデルの構築工程を示した概要図である。この実施例では、図4(A)(B)に例示した形態の1室型細胞培養チャンバーを利用している。また、図16は、培養された角膜モデル凍結切片の染色像を示した図である。
【0127】
1室型細胞培養チャンバーを12穴培養用プレート(ミリポア)のウェル内に枠体に配設した係止部によって保持し、チャンバー底面のコラーゲンビトリゲル乾燥体上にヒト角膜上皮細胞6×104個を培養液500μlに懸濁して播種した。またウェル内に培養液600μlを注入した。コンフルエントになるまで保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2〜3日間静置培養し、ついで、チャンバー内の培養液を除去し、37.0℃,5%CO2で7日間にわたり液相気相の界面培養を行った。界面培養後の細胞層の断面の凍結切片を作製しHoechst33342で核染色を行い蛍光顕微鏡観察したところ、5層前後の細胞層の形成が認められた。また、界面培養2日目から7日目にかけて細胞間接着の形成を示す経上皮電気抵抗(TEER)値の経時的な上昇が認められた。
【0128】
さらに、図16に示したように、タイトジャンクションのマーカータンパク質ZO-1,Occludin)およびギャップジャンクションのマーカータンパク質(Connexcin-43)に対する抗体で免疫染色を行ったところ、これらのタンパク質の発現が観察されたことから、角膜上皮に見られるタイトジャンクションおよびギャップジャンクションの形成が確認され、本発明の1室型細胞培養チャンバーによって容易にヒト角膜上皮モデルを構築できることが確認された。
【0129】
図17は、ヒト角膜上皮モデルによる眼刺激性物質の評価結果を示す図である。構築したヒト角膜上皮モデルの細胞層表面に眼刺激性物質を暴露し経上皮電気抵抗(TEER)の経時変化を測定したところ、眼刺激性の強い物質ほどTEERが顕著に減少する傾向が認められた。とくに眼刺激性物質を暴露して10秒後のTEER減少率は実験動物としてウサギを用いた眼刺激性試験(ドレイズ法)の結果(ドレイズスコア)との間に相関性が認められた。この結果から、1室型細胞培養チャンバーに構築した角膜モデルはウサギを用いた動物実験の代替法として化合物の眼刺激性評価に使用できることが示唆された。
【0130】
(2)2室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル
図18は、図11の模式図に例示した形態に対応する各層の細胞の写真である。
【0131】
上記の方法で作製した2室型細胞培養チャンバーの第1室内のコラーゲンビトリゲル乾燥体上に、組織モデルの安定性を高める目的で、チャンバーの内径と略等しい環状ナイロン膜(幅1mm)を設置した。
【0132】
第1室内11に真皮線維芽細胞を懸濁したコラーゲンゾルを播種(厚さ2mm)し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2時間静置培養してゲル化させた。さらに、このコラーゲンゲル表面に培養液(200μl)を添加し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で1日間静置培養することで、コラーゲンゲル内に分散している真皮線維芽細胞C1を伸展させた。さらに、このコラーゲンゲルの表面に内皮細胞を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で1日〜2日静置培養して内皮細胞をコンフルエントにさせた。
【0133】
そして、2室型細胞培養チャンバーYの上下を反転させて、第2室内12に上皮細胞(表皮角化細胞)を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で1日〜2日間静置培養して上皮細胞をコンフルエントにさせた。その後、表皮角化細胞の分化を促進する培養液に交換し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2日間静置培養し、さらに、この培養液を除去して、液相気相の界面で培養して上皮細胞を分化させた。
【0134】
この組織モデルの断面を観察すると、図18に示すように、上皮細胞、真皮線維芽細胞および内皮細胞が3次元的に重層化していることが確認され、2室型細胞培養チャンバーYを利用することで容易に皮膚モデルを構築できることが確認された。
【0135】
<実施例6>ビトリゲルチャンバー上で作製した角膜上皮モデルの凍結切片作製
(1)実施例
ビトリゲルチャンバー上で作製した角膜上皮モデル(実施例5(1))のビトリゲル膜(角膜上皮細胞層が付着している)をメスでアクリル円筒から切り離した。このビトリゲル膜をTissue-Tek O.C.T.コンパウンド(Sakura Finetek製)中に包埋して凍結した。凍結した試料をクライオスタット(LEICA製CM3050S)内で厚さ5μmに薄切したところ、ビトリゲル膜に細胞層が付着した(正常な)状態の切片が得られた。(図16に、切片のHE染色像および免疫染色像を示す)。
【0136】
(2)比較例
市販のPET膜チャンバー(ミリポア製)内でビトリゲルチャンバーと同じ手順で角膜上皮モデルを作製した。ビトリゲルチャンバーと同じ手順で凍結切片を作製したところ、PET膜の部分で試料が割れてPET膜が細胞層から剥離しPET膜に細胞層が付着した(正常な)状態の切片が得られなかった(図19)。
【0137】
<実施例7>培養シャーレを利用した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体の作製
以下の工程A〜工程Cによって、フィルムが吸着していないビトリゲル膜乾燥体を作製した。なお、以下の工程における、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜の作製は、本発明者によって出願されたWO2005/014774および特開2007-185107号公報の方法を踏まえている。
【0138】
工程A; 直径35mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon #35-1008)内に1枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmの環状ナイロン膜支持体を挿入し、その直後に2.0mlの0.25%コラーゲンゾルを注入してシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0℃の保湿インキュベーター内でゲル化することでコラーゲンゲルを作製した。
【0139】
2時間目には37.0℃の保湿インキュベーターより10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、ガラス化したコラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0140】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和してシャーレ底面および壁面より剥離することで環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。そして、数回2.0mlのPBSでリンスすることで、PBSに平衡化した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。
【0141】
さらに、この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、シャーレに付着した状態の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0142】
工程B; 再度、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和し、さらにシャーレの内壁を周囲に沿って先の鋭敏なピンセットでなぞることで、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜をシャーレ底面および壁面より剥離した。
【0143】
工程C; この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を、2枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmで厚さが1mmの環状マグネットで挟み、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で一晩放置、乾燥させることで、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0144】
<実施例8>壁面鋳型を利用した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体の作製
以下の工程A〜工程Cによって、フィルムが吸着していないビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0145】
工程A; 基板としては、245×245mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレの底面、壁面鋳型としては、外円の直径が38mmで内円の直径が34mmで高さが30mmのアクリルを34個用いた。1つの基板上に34個の壁面鋳型を設置することで、基板と壁面鋳型を分離できる34個の容器を作製した。各容器に1枚の環状ナイロン膜支持体を挿入し、2.0mlの0.25%コラーゲンゾルを注入して基板にシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0℃の保湿インキュベーター内でゲル化することで、1つの基板上に34つのコラーゲンゲルを作製した。
【0146】
2時間目には、壁面鋳型を上下に僅かに動かすことでコラーゲンゲルと壁面鋳型間の接着を解除した。その後、4-6時間目までに1/3程度の自由水が壁面鋳型の外側に流出したので、壁面鋳型を基板から除去した。流出した自由水を除去した後、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を2日間の自然乾燥により完全に除去し、コラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0147】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、シャーレ内に100mlのPBSを加えて再水和してシャーレ底面および壁面より剥離することで環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。
【0148】
さらに、この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、シャーレに付着した状態の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0149】
工程B; 再度、シャーレ内に100mlのPBSを加えて再水和することで、34枚の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜をシャーレ底面および壁面より剥離した。
【0150】
工程C; この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜各1枚を、2枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmで厚さが1mmの環状マグネットで挟み、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で一晩放置、乾燥させることで、34枚の環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0151】
<実施例9>筒状の枠体へのコラーゲンビトリゲル膜乾燥体(実施例7、8)の接着固定
実施例7、8で作製したコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を、以下の方法で筒状の枠体へ接着固定した。
a)ウレタン系接着剤を用いた接着固定
アクリル製の円筒チューブ(外形15mm、内径11mm)の一方の開放端面にウレタン系接着剤(セメダイン、No. UM700)を塗布し、そこに、実施例7、8で作製した環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を当接させて両者を密着状態とし、接着固定した。さらに、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0152】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
b)両面テープを用いた接着固定
アクリル製の円筒チューブ(外形15mm、内径11mm)の一方の開放端面に円筒チューブの端面と同じサイズに切り抜いたアクリル接着系両面テープ(日東電工 No.57115B)を貼り付け、そこに、実施例7、8で作製した環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を密着させ、接着固定した。さらに、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0153】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
c)熱溶着を用いた接着固定
ポリスチレン製またはアクリル製の円筒チューブ(外形15mm、内径11mm)の一方の開放端面に、実施例7、8で作製した環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を当接させて、両者が接触している部分にのみにヒートシーラーを用いて熱を作用させて、接着固定した(熱溶着した)。さらに、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0154】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
【0155】
<実施例10>フィルムが吸着したビトリゲル膜を筒状の枠体に当接した後にビトリゲル膜を乾燥させることで接着固定する細胞培養チャンバーの作製
以下の工程A〜工程Dによって、筒状の枠体にビトリゲル膜が接着固定された細胞培養チャンバーを作製した。
【0156】
なお、以下の工程における、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜の作製は、本発明者によって出願されたWO2005/014774の方法を踏まえている。
【0157】
工程A; 直径35mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon #35-1008)内に1枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmの環状ナイロン膜支持体を挿入し、その直後に2.0mlの0.25%コラーゲンゾルを注入してシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0℃の保湿インキュベーター内でゲル化することでコラーゲンゲルを作製した。
【0158】
2時間目には37.0℃の保湿インキュベーターより10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、ガラス化したコラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0159】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和してシャーレ底面および壁面より剥離することで環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。そして、数回2.0mlのPBSでリンスすることで、PBSに平衡化した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。
【0160】
さらに、この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、シャーレに付着した状態の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した
工程B; 再度、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和し、さらにシャーレの内壁を周囲に沿って先の鋭敏なピンセットでなぞることで、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜をシャーレ底面および壁面より剥離した。
【0161】
工程C; 直径150mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレの底表面上に1枚のポリエチレンシートを敷いて、再水和した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を載せた。さらにアクリル製の円筒チューブの一方の開放端面に円筒チューブの端面と同じサイズに切り抜いたアクリル接着系両面テープ(日東電工 No.57115B)を接着し、この円筒チューブの開放端面にポリエチレンシートが重層化した環状ナイロン膜支持体付コラーゲンビトリゲル膜を当接させた。その後、円筒チューブの上から重りを乗せて、クリーンベンチ内にてビトリゲル膜が乾燥するまで静置して両者を接着固定した。
【0162】
工程D; さらに、このポリエチレンシートが重層化した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体が接着した円筒チューブを、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で1日間程度放置し完全に乾燥させた。さらに、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、その後、接着固定されているコラーゲンビトリゲル膜乾燥体からポリエチレンシートを剥離させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0163】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
【0164】
<実施例11>2室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル(2枚のコラーゲンビトリゲル膜と3種類の細胞から構築された器官様プレート)の作製方法
工程A; 2室型細胞培養チャンバーの第2室内のコラーゲンビトリゲル膜乾燥体上に、培養液(DMEM, 10%FBS, 20mM HEPES, 100units/mlPenicillin, 100μg/mlStreptomycin, 0.1mM l-Ascorbic acid phosphate, magnesium salt n-hydrate)500μlに懸濁したヒト皮膚線維芽細胞1×104個を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で8日間静置培養することで、線維芽細胞にコラーゲン産生と細胞層の多層化を誘導させた。
【0165】
工程B; 実施例5の(1)に記載した方法に従って、1室型培養チャンバー内に、ヒト角膜上皮細胞層を構築した。具体的には、チャンバー底面のコラーゲンビトリゲル膜上に、培養液(500μl)に懸濁したヒト角膜上皮細胞6×104個を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内2〜3日間静置培養し、ついで、チャンバー内の培養液を除去し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)で7日間にわたり、液相気相の界面培養を行った。これにより5層前後の細胞層が形成された。
【0166】
工程C; 工程Bで作製した1室型細胞培養チャンバー(内部にヒト角膜上皮細胞層を構築したもの)のコラーゲンビトリゲル膜の細胞が接着していない面(チャンバーの外側)に、チャンバーと同径で高さの低いアクリル製の円筒の枠体(外形15mm、内径11mm、高さ5mm)を取り付けた。これにより、2室型細胞培養チャンバーと同等の形状を成す培養チャンバーを作製した。
【0167】
この細胞培養チャンバーの上下を反転させ、新たに形成された第2室中に、工程1と同様の手順で調製したヒト皮膚線維芽細胞を播種(500μl)し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で1日間静置培養した。
【0168】
工程D; 再び細胞培養チャンバーの上下を反転し、第2室を形成するために一時的に固定したアクリル製の枠体を取り外し、解剖用メスを用いて、チャンバーの内壁に沿ってコラーゲンビトリゲル膜を切断した。これにより、片面にヒト角膜上皮細胞が、もう一方の面にはヒト皮膚線維芽細胞の層が形成されているコラーゲンビトリゲル膜を作製し、ヒト皮膚線維芽細胞層が構築された面が、工程1で作製したヒト皮膚線維芽細胞層と接する向きになるように、工程1の細胞培養チャンバーの2室側に重層した。保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で3日間静置培養し、第1のヒト皮膚線維芽細胞層と第2のヒト皮膚線維芽細胞層を融合させた。これにより2室型培養チャンバーの2室内にコラーゲンビトリゲル膜、ヒト皮膚線維芽細胞層、コラーゲンビトリゲル膜、ヒト角膜上皮細胞が順に積層したモデルを作製した。
【0169】
工程E; 工程Dで作製した2室型細胞培養チャンバーの上下を反転させて、第2室を形成するために固定されていたアクリル製の枠体を取り外し、1室型細胞培養チャンバー様の形態に変更した。この細胞培養チャンバーを12穴培養プレートのウェル内に、枠体に配設した係止部によって保持し、1室に相当するチャンバーのウェル底面のコラーゲンビトリゲル膜上に、培養液(500μl)に懸濁したヒト皮膚微小血管内皮細胞8×104個を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で1日間静置培養した。
【0170】
工程F; この組織モデルの断面を観察すると、図20に示したように、ヒト角膜上皮細胞層、コラーゲンビトリゲル膜、ヒト皮膚線維芽細胞層、コラーゲンビトリゲル膜、ヒト皮膚微小血管内皮細胞が3次元的に積層していることが確認された。これにより、上皮−間充織−内皮を模倣した器官様プレートが容易に構築できることが確認された。
【符号の説明】
【0171】
1 筒状の枠体
2 ビトリゲル膜乾燥体
3 フィルム
4 係止部
X 1室型細胞培養チャンバー
Y 2室型細胞培養チャンバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビトリゲル膜乾燥体を備えた細胞培養チャンバーとその製造方法、および、この細胞培養チャンバーを利用した組織モデルとその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬および動物実験代替法の研究には、様々な機能細胞を用いて生体を反映した3次元組織モデルを簡便に構築できる培養システムの開発が長く求められてきた。特にコラーゲンゲルを細胞の培養担体に用いる3次元培養技術は、血管新生モデル、癌浸潤モデル、上皮間充織モデルなどを再構築するのに有用であるが、幅広く普及するには至っていなかった。
【0003】
その理由としては、従来のコラーゲンゲルは、低密度の線維で構成されるため柔らかく取り扱いが困難であること、また、不透明であるため培養細胞の位相差顕微鏡観察は必ずしも容易でないこと等が考えられてきた。
【0004】
このような問題を解決するため、本発明者は、低温でゲル化(gelation)に至適な塩濃度と水素イオン濃度(pH)を付与したコラーゲンのゾルを培養シャーレ内に注入して、さらに至適な温度に保温することでコラーゲンのゾルをゲル化した後、低温で十分に乾燥させることで自由水のみならず結合水も徐々に除去してガラス化(vitrification)し、さらに再水和(rehydration)することで、コラーゲンゲルの物性を、強度と透明性に優れた薄膜に再現性良く変換する技術を確立している(特許文献1)。
【0005】
そして、ハイドロゲルであればコラーゲン以外の成分のゲルでも、ガラス化した後に再水和することで、ゲルを安定した新しい物性状態に変換することができるので、このガラス化工程を経て作製された新しい物性状態のゲルをビトリゲル(vitrigel)と命名している(非特許文献1)。
【0006】
特に、これまでに開発してきたコラーゲンビトリゲル薄膜は、生体内の結合組織に匹敵する高密度のコラーゲン線維が互いに絡み合った厚さ数十マイクロメートルの透明な薄い膜であり、優れたタンパク質透過性及び強度を有しているという特徴がある。また、作製工程のコラーゲンゾルには様々な物質を添加できるので、添加した物質の特性をコラーゲンビトリゲル薄膜に反映することができる。さらに、例えば、環状ナイロン膜支持体を包埋したコラーゲンビトリゲル薄膜は、ピンセットで容易に取り扱うことができる。
【0007】
そして、本発明者らは、このコラーゲンビトリゲル薄膜に関する技術をさらに発展させ、コラーゲンビトリゲル薄膜の透明性、作製再現性を向上させるための技術(特許文献2)や、コラーゲンビトリゲルを膜形状ではなく糸状あるいは管状の形状に作製する技術(特許文献3)や、磁気を利用してコラーゲンビトリゲルを固定あるいは移動する技術(特許文献4)なども提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−228768号公報
【特許文献2】WO2005/014774
【特許文献3】特開2007−204881号公報
【特許文献4】特開2007−185107号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takezawa T, et al., Cell Transplant. 13: 463-473, 2004
【非特許文献2】Takezawa T, et al., J. Biotechnol. 131: 76-83, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のコラーゲンビトリゲル薄膜の製造方法においては、例えば図21に例示したように、コラーゲンビトリゲル薄膜が任意の厚さとなるように、プラスチック製の培養シャーレにコラーゲンゾルを所定量注入してゲル化し、乾燥によるガラス化および再水和することで製造していた。
【0011】
このため、従来の製造方法では、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体を培養シャーレから剥離させることは不可能であり、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体は培養シャーレの底面と壁面に付着した状態で作製されていた。したがって、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体を膜状態で自由に取り扱うことはできず、また、コラーゲンビトリゲル薄膜の乾燥体を任意の微細形状に切断することも不可能であった。
【0012】
このような状況にあって、本発明者は、所望の形状に成形可能であり、取り扱い性に優れたビトリゲル膜乾燥体を迅速かつ大量生産するための方法を創案し、特許出願を行っている(特願2010−188887)。
【0013】
この方法によれば、ビトリゲル膜乾燥体を培養シャーレに付着させることなく膜状態で取得することができるため、その取り扱い性、加工性を利用して、従来困難であったビトリゲル膜乾燥体の新たな用途を確立することができる。
【0014】
一方、医薬品や化粧品あるいは洗剤等の家庭用化学品を開発する際には、その原料となる化学物質の生物に対する作用として薬効や毒性を評価することが行われている。このような評価には、従来は、ヒトや動物に由来する細胞を2次元的に平面培養して化学物質を暴露し、その影響を検討する細胞培養実験が行われてきた。さらに、細胞の2次元培養実験で目的とする薬効や毒性の評価を充分に達成できない場合には、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等の動物に化学物質を投与し、その影響を検討する動物実験が行われてきた。しかしながら、近年、動物愛護の意識の高まりやコストの問題から、生体内の組織、特に上皮・間充織等の器官ユニットを反映できる3次元組織モデルを利用した生化学的評価、分子生物学的評価、組織病理学的評価が注目されている。さらに、ヒトに対する化学物質のADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)を外挿する視点からは、種差の問題のないヒト細胞を用いた評価系が注目されている。これまでにもヒト細胞より組織工学的に再構築した様々な3次元組織モデルが開発されてきたが、どの器官にも対応して化学物質のADMETを予測できる3次元組織モデルを再構築する技術は必ずしも提唱されていないのが現状である。
【0015】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、所望の形状に成形可能であるとともに取り扱い性に優れたビトリゲル膜乾燥体を利用した細胞培養チャンバー、およびこの細胞培養チャンバーを利用して、化学物質のADMETの評価等が可能な3次元組織モデルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の細胞培養チャンバー、組織モデル等を提供する。
<1>筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されていることを特徴とする1室型細胞培養チャンバー。
<2>ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<3>ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<4>ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<5>ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<6>枠体には、ビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されている端面と対向する開放端面の外周縁部に、外側へ突出する係止部が配設されていることを特徴とする前記1室型細胞培養チャンバー。
<7>2つの筒状の枠体が、対向する開放端面同士の間にビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で互いに連結固定され、ビトリゲル膜乾燥体を介して第1室および第2室が形成されていることを特徴とする2室型細胞培養チャンバー。
<8>ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<9>ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<10>ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<11>ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<12>2つの枠体は、対向する開放端面同士の周囲が外側からフィルム状接着部材によって接着固定されていることを特徴とする前記2室型細胞培養チャンバー。
<13>前記1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
<14>化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする<13>の組織モデル。
<15>前記1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に1種以上の細胞を播種し、単層または多層培養する工程を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
<16>前記2室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体の両面に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
<17>化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする<16>の組織モデル。
<18>前記2室型細胞培養チャンバー内に組織モデルを作製する方法であって、以下の工程:第1室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程;および培養チャンバーの上下を反転させ、第2室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
<19>以下の工程:(1)基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に配置した壁面鋳型内部にハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;(3)ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(4)ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する工程;(5)ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(6)フィルムに吸着した状態のビトリゲル膜乾燥体をフィルムとともに基板上から剥離させ、筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体側を接着固定する工程;(7)ビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および(8)ビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<20>以下の工程:(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<21>以下の工程:(1)基板上に配置した壁面鋳型内部に、支持体を内包したハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;(3)支持体を内包したハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(4)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;(5)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、基板上にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して基板から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(7)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<22>以下の工程:(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、フィルム上に載置する工程;(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を接着固定する工程;(6)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;(7)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
<23>前記<19>から<22>のいずれかの方法で製造された1室型細胞培養チャンバーの筒状の枠体に接着固定されたビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体の非接着面側から、前記筒状の枠体と同一の平断面形状からなる別の筒状の枠体の開放端面を当接させて、2つの筒状の枠体同士の間にビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で枠体同士を互いに連結固定する工程を含むことを特徴とする2室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の細胞培養チャンバーは、ビトリゲルの特性(高分子透過性、タンパク質等の生理活性物質の徐放性、透明性、生体に近い線維密度、安定性等)を利用して、生体内の組織、器官ユニットを反映した様々な組織モデルを容易に構築することができる。
【0018】
例えば、各器官の最小ユニットを上皮・間充織・内皮と捕らえると、化学物質の動態は皮膚や角膜のように上皮側から間充織・内皮側へ移行する経路と、血管内に投与された薬剤のように内皮側から間充織・上皮側へ移行する経路に分類できる。
【0019】
本発明の組織モデルは、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルなどとして構築される。
【0020】
このため、ビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した、本発明の組織モデルでは、実験動物を用いなくとも、化学物質の移行経路を反映してADMETの動態を薬理学的、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。さらに、本発明の組織モデルでは、細胞同士の相互作用のみならず外来性の様々な生理活性物質の作用についても、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ビトリゲル膜乾燥体の製造方法の一実施形態を例示したフローチャートである。
【図2】ビトリゲル膜乾燥体の製造方法に使用される壁面鋳型を例示した斜視図である。
【図3】(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。(B)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した写真図である。
【図4】(A)は本発明の1室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図であり、(B)は写真図である。
【図5】(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーを容器の中に挿入した状態を例示した断面概要図であり、(B)は写真図である。
【図6】本発明の1室型細胞培養チャンバーを使用して組織モデルを作製した状態を例示した断面概要図である。
【図7】本発明の1室型細胞培養チャンバーを使用して組織モデルを作製した状態を例示した断面概要図である。
【図8】本発明の1室型細胞培養チャンバーを使用して、細胞を「液相−ビトリゲル膜−気相」の状態で培養する形態を例示した断面概要図である。
【図9】(A)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。(B)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図である。
【図10】本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した写真図である。
【図11】本発明の2室型細胞培養チャンバーを使用して組織モデルを作製した状態を例示した断面模式図である。
【図12】タンパク質透過性の検討に際し、ビトリゲルチャンバーを容器内に吊り下げて保持した状態を例示した断面概要図である。
【図13】ビトリゲルチャンバーのタンパク質透過性を検討するため、ビトリゲルチャンバー内にPC-12細胞を保持し、ビトリゲル膜を介してNGFを作用させた形態を例示した断面概要図である。
【図14】上欄の図は、ビトリゲル膜を介したNGFの作用によってPC-12細胞が神経突起伸張した状態を示している。下欄の図は、市販のコラーゲン膜チャンバーを利用した場合のPC-12細胞の状態を示している。
【図15】1室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデルの構築工程を示した概要図である。
【図16】培養された角膜モデル凍結切片の染色像を示した図である。
【図17】ヒト角膜上皮モデルによる眼刺激性物質の評価結果を示す図である。
【図18】図11の模式図に例示した形態に対応する各層の細胞の写真である。
【図19】位相差顕微鏡像で観察した市販のPET膜チャンバーで作製した角膜上皮モデルの凍結切片の図である。PET膜の部分で切片が分割されPET膜と細胞層が剥離していることが確認される。
【図20】2室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル(2枚のコラーゲンビトリゲル膜と3種類の細胞から構築された器官様プレート)の断面模式図と作製した組織モデルの凍結切片の染色像の図である。
【図21】従来のビトリゲル薄膜の製造方法の一実施形態を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の1室型細胞培養チャンバーの製造方法の第1実施形態について説明する。
【0023】
本発明の1室型細胞培養チャンバーに使用されるビトリゲル膜乾燥体は、例えば、以下の工程(1)〜(5)を経ることによって作製することができる。
(1)基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に配置した壁面鋳型内部にハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程
(3)ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する工程
(4)ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する工程
(5)ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する工程
本発明において、「ハイドロゲル」とは、高分子が化学結合によって網目状構造をとり、その網目に多量の水を保有した物質を指し、より具体的には、天然物由来の高分子や合成高分子の人工素材に架橋を導入してゲル化させたものをいう。
【0024】
また、「ハイドロゲル乾燥体」とは、ハイドロゲルから自由水を除去してガラス化させたものをいう。さらに、「ビトリゲル膜」とは、このハイドロゲル乾燥体を再水和させたものをいう。なお、上記の通り、「ガラス化(vitrification)の工程を経て作製できる新しい安定状態のゲル」は、本発明者によって「ビトリゲル(vitrigel)」と命名されている。そして、「ビトリゲル膜乾燥体」とは、このビトリゲルを再びガラス化したものをいう。ビトリゲル膜乾燥体は、必要なときに再水和することで、ビトリゲル膜に変換することができる。
【0025】
以下、各工程について説明する。図1は、ビトリゲル膜乾燥体の作製方法の一実施形態を例示したフローチャートである。なお、図1では、ゾルとしてコラーゲンゾルを使用した形態を例示している。
【0026】
工程(1):基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に壁面鋳型を配置する。そして、この壁面鋳型内部にゾルを注入してゲル化した後、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる。
【0027】
基板と壁面鋳型は、70%エタノールあるいはオートクレーブ等による滅菌に耐えられる材料を適宜使用することができる。具体的には、ポリスチレンやアクリル等のプラスチック、ガラス、あるいはステンレス等を例示することができる。
【0028】
ビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムとしては、パラフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、シリコン、サランラップ、ビニール等の非吸水性フィルムを例示することができ、特にパラフィルムが好ましい。パラフィルムは、パラフィンを原料とした熱可塑性フィルムであり、伸縮性・粘着性をもち、気密性、防水性にも優れているという特徴がある。以下、単に「フィルム」と記載する。
【0029】
壁面鋳型は、例えば、上面、底面を有していない筒状の枠体とすることができ、壁面鋳型の形状は、所望のビトリゲル膜の形状と同形状に設計することができる。具体的には、例えば、円形のビトリゲル膜を作製する場合には、図2に例示したように、壁面(枠)が環状のもの(円筒状)を使用することができる。また、矩形のビトリゲル膜を作製する場合には、壁面(枠)が矩形状のもの(角筒状)とすることができる。
【0030】
そして、基板上に敷かれたフィルム上に壁面鋳型を配置する。このとき、フィルムが敷かれている領域は壁面鋳型の断面より大きく、フィルムと壁面鋳型の底面とが当接状態となるが、物理的には、フィルムと壁面鋳型の表面の凹凸により自由水を流出させることができる程度のわずかな間隙が形成されることになる。なお、所望の数のビトリゲル膜に応じて、フィルム上に壁面鋳型を複数配置することができる。
【0031】
ハイドロゲルの作製に用いられる原料としての天然物由来高分子は、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどを含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、ゼラチン、寒天、アガロース、フィブリン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンなどを例示することができる。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pHなどを選択しハイドロゲルを作製することが可能である。原料を組み合わせることで、様々な生体内組織を模倣したビトリゲル膜を得ることができる。
【0032】
また、ハイドロゲルの作製に用いられる合成高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、poly(II-hydroxyethylmethacrylate)/polycaprolactoneなどが挙げられる。また、これらの高分子を2種以上用いてハイドロゲルを作製することも可能である。ハイドロゲルの量は、作製するビトリゲル膜の厚さを考慮して調節することができる。
【0033】
なかでも、ハイドロゲルの原料はコラーゲンが好ましく、コラーゲンゲルを用いる場合には、コラーゲンゾルを、基板上に配置された壁面鋳型に注入し、インキュベーターでゲル化させたものを使用することができる。図1では、ハイドロゲルの原料としてコラーゲンゾルを例示している。
【0034】
コラーゲンゾルを使用する場合を例に説明すると、コラーゲンゾルは、至適な塩濃度を有するものとして、生理食塩水、PBS(Phosphate Buffered Saline)、HBSS(Hank's Balanced Salt Solution)、基礎培養液、無血清培養液、血清含有培養液あるいは血清含有培養液などで調製することができる。また、コラーゲンゲル化の際の溶液のpHは、6から8程度が好ましい。
【0035】
ここで、コラーゲンゾルの調製は4℃で行うのが望ましい。その後、ゲル化する際の保温は、用いるコラーゲンの動物種に依存したコラーゲンの変性温度より低い温度でなければならないが、一般的には37℃以下の温度で数分から数十分でゲル化できる温度に保温して行うことができる。
【0036】
また、コラーゲンゾルはコラーゲンの濃度が0.2%以下になると希薄すぎてゲル化が弱く、0.3%以上になると濃厚すぎて均一化が困難になる。したがって、コラーゲンゾルのコラーゲンの濃度は0.2〜0.3%が好ましく、より好ましくは0.25%程度である。
【0037】
このように調整されたコラーゲンゾルを壁面鋳型内部に注入する。前記濃度のコラーゲンゾルは粘性を有しているため、コラーゲンゾルを壁面鋳型内部に注入して迅速に保温すれば、コラーゲンゾルは基板と壁面鋳型との間隙から流出することなく数分以内にゲル化することができる。
【0038】
そして、形成されたコラーゲンゲルは基板と壁面鋳型に密着するが、所定の時間放置することで、時間の経過とともに、コラーゲンゲル内の自由水の一部が基板と壁面鋳型の間隙から壁面鋳型の外側へ流出する。ここで、壁面鋳型を上下等に僅かに動かすことで、ゲルと壁面鋳型間の接着が解除されて僅かな間隙が生じるので、自由水の流出を促進することができる。
【0039】
さらに、例えば、単位面積(1.0 cm2)当たりに注入する0.25%コラーゲンゾルの量が0.4ml以上の場合には、ゲル化したコラーゲンゲル内の自由水を1/4〜2/3程度に減じるまでは、基板と壁面鋳型の間隙から流出する自由水を経時的に除去することが望ましい。これによって、ゲルのコラーゲン濃度は0.375〜1.0%程度になるため、壁面鋳型を除去してもゲル形状が歪まないゲル強度にすることができる。なお、その後は基板上に流出する自由水も伴った状態でゲル内に残留する自由水を自然乾燥させて除去してガラス化することができる。ここで、迅速大量生産の観点からは、コラーゲンゲル内の自由水を1/4〜2/3程度に減じさせる時間は2〜8時間が望ましい。さらに、その後、ゲル内に残留する自由水を自然乾燥させ完全に除去させる時間は48時間以内が望ましい。そのためには、単位面積(1.0 cm2)当たりに注入する0.25%コラーゲンゾルの量は0.1〜2.4mlが望ましく、その結果、単位面積(1.0 cm2)当たりに250μg〜6mgのコラーゲンを含有するコラーゲンビトリゲル膜を作製することができる。
【0040】
工程(2):壁面鋳型を基板上から除去する。
【0041】
基板に敷いたフィルム上にハイドロゲルを残して、壁面鋳型を取り除く。ハイドロゲルは、自由水が流出しているため、フィルム上で変形等することなく、壁面鋳型に保持された形状を維持することができる。
【0042】
工程(3):ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する。
【0043】
乾燥により、完全にハイドロゲル内の自由水を除去しガラス化する。このガラス化工程の期間を長くするほど、再水和した際には透明度、強度に優れたビトリゲル膜を得ることができる。なお、必要に応じて短期間のガラス化後に再水和して得たビトリゲル膜をPBS等で洗浄し、再度ガラス化することもできる。
【0044】
乾燥方法としては、例えば、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。例えば、風乾の方法としては、10℃40%湿度で無菌に保たれたインキュベーターで2日間乾燥させる、もしくは無菌状態のクリーンベンチ内で一昼夜、室温で乾燥する等の方法を例示することができる。
【0045】
工程(4):ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する。
【0046】
ハイドロゲル乾燥体をPBSや使用する培養液などで再水和することでビトリゲル膜を作製することができる。ここで、再水和する液体には、生理活性物質などの各種の成分が含まれていてもよく、例えば、生理活性物質としては、抗生物質をはじめとする各種医薬品、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子、抗体、酵素、サイトカイン、ホルモン、レクチン、またはゲル化しない細胞外マトリックス成分としてファイブロネクチン、ビトロネクチン、エンタクチン、オステオポエチン等が挙げられる。また、これらを複数含有させることも可能である。
【0047】
工程(5):ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する。
【0048】
乾燥方法は、工程(3)と同様に、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。
【0049】
ビトリゲル膜を再乾燥させることで、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製することができる。このビトリゲル膜乾燥体は、必要な時に再水和することで、再度ビトリゲル膜に変換することができる。
【0050】
このビトリゲル膜乾燥体は、剥離可能なフィルムと重層化しているため、ビトリゲル膜乾燥体はフィルムとともに自由に取り扱うことができるとともに、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を任意の形に切断加工することが可能である。
【0051】
なお、「ハイドロゲル乾燥体」と「ビトリゲル膜乾燥体」に含まれる成分は必ずしも同じではない。「ハイドロゲル乾燥体」は、ハイドロゲルの成分を含んでいるが、「ビトリゲル膜乾燥体」は、ハイドロゲル乾燥体を再水和した際の水溶液で平衡化されたビトリゲル膜に残存する成分を含んでいる。
【0052】
また、工程(5)のビトリゲル膜乾燥体を再水和することで得られるビトリゲル膜は、工程(4)で得られるビトリゲル膜と比較して、ガラス化の期間が長いため、強度および透明性に優れている。
【0053】
さらに、ガラス化の期間は「ハイドロゲル乾燥体」の状態で長くすることも可能であるが、「ハイドロゲル乾燥体」はハイドロゲル作製時の成分が全て共存している状態であり、ハイドロゲル乾燥体を維持し続ける際あるいはビトリゲル膜を利用する際には不必要となる成分も混在している。一方、「ハイドロゲル乾燥体」を再水和して不必要な混在成分を除去した後のビトリゲル膜については、その乾燥体においても不必要な成分は除去されている。したがって、ガラス化の期間を長く維持する必要がある時は、このビトリゲル膜乾燥体の状態で維持し続けることが好ましく、ビトリゲル膜乾燥体を再水和して得られるビトリゲル膜には不必要な成分が混在しない点で優れている。
【0054】
さらに、ビトリゲル膜乾燥体は、例えば、ゲル化する前のゾル溶液に、含有させたい生理活性物質を混合し、その後、ゲル化・ガラス化等のビトリゲル膜の作製工程を経て作製することもできる。
【0055】
生理活性物質を含有するビトリゲル膜乾燥体は、細胞の接着・増殖・分化などに必要な因子をビトリゲル膜側から供給することができるので、より良い培養環境を実現することができる。また、含有させた生理活性物質の細胞に対する影響を調べる試験を行うのに非常に有用である。また、生理活性物質を含んだビトリゲル膜は、体内へ移植することで薬物送達システムとしても機能し得る(非特許文献2)。
【0056】
さらに、ビトリゲル膜は、分子量の大きな生理活性物質を透過することが可能であり、それにより、このビトリゲル膜の異なる2つの面に播種された各々の細胞の間での生理活性物質を介した相互作用の試験・研究に大きく貢献できる(非特許文献2)。
【0057】
以上の方法によれば、ビトリゲル膜乾燥体を培養シャーレに付着させることなく膜状態で取得することができる。また、このビトリゲル膜乾燥体は切断加工が容易であるため、本発明の細胞培養チャンバーに利用することが可能である。
【0058】
図3(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。図3(B)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した写真図である。図4(A)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図である。(B)は、本発明の1室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した写真図である。
【0059】
1室型細胞培養チャンバーXは、筒状の枠体1の一方の開放端面1aにビトリゲル膜乾燥体2が被覆固定されている(図4(A)(B))。
【0060】
図3(A)(B)に例示したように、筒状の枠体1は、内部に細胞を保持するための空間を有している。枠体1の材料は、細胞培養に適した材料を適宜選択することができる。また、枠体1の形状も特に限定されず、例えば、円筒状や角筒状を例示することができる。具体的には、枠体1は、アクリル製やポリスチレン製の円筒チューブを好ましく例示することができる。
【0061】
そして、例えば、この枠体1の一方の開放端面1aに接着剤を塗布し、ビトリゲル膜乾燥体2を接着固定する。開放端面の形状は特に限定されず、例えば、平面状や段差状、テーパー状、溝状などを例示することができる。フィルム3と重層化しているビトリゲル膜乾燥体2を使用する場合には、ビトリゲル膜乾燥体2側を枠体1と接着した後、フィルム3を剥がして取り除くことができる。接着剤は、接着性、細胞毒性を考慮して適宜選択することができ、具体的には、ウレタン系接着剤を好ましく例示することができる。例えば、ゴム系、シアンアクリレート系、アクリル系は、細胞毒性を示す場合があり、ホットメルト系は、ビトリゲル膜乾燥体2を熱変性させる場合があるため好ましくない。また、その他、ビトリゲル膜乾燥体2と枠体1とを接着固定する方法としては、ビトリゲル膜乾燥体2と枠体1との間に両面テープを介在させて接着固定する方法や、ヒートシーラーや熱板、超音波、レーザーなどを用いてビトリゲル膜乾燥体2と枠体1とを熱溶着する方法などを例示することができる。
【0062】
さらに、枠体1の一方の端面1aに接着固定されたビトリゲル膜乾燥体2は、枠体1の端面1aと略同形状に切断加工することができる。フィルム3と重層化しているビトリゲル膜乾燥体2は、切断加工が容易であるため、枠体1の開放端面1aからはみ出した余分な部分を切断することができる。この場合も、ビトリゲル膜乾燥体2の切断加工後には、フィルム3を剥がして取り除くことができる。これによって、図4(A)(B)に例示したように、取り扱い性に優れた1室型細胞培養チャンバーを作製することができる。
【0063】
そして、1室型細胞培養チャンバーX内のビトリゲル膜乾燥体2上に、所望の細胞を播種し培養することで、組織モデルを構築することができる。細胞を含む懸濁液や培養液の添加によって、1室型細胞培養チャンバーXのビトリゲル膜乾燥体2はビトリゲル膜へと変換される。ここで、「組織モデル」とは、生体内の細胞状態、組織、器官を模したものをいい、例えば、組織(細胞)に対する生理活性物質(各種医薬品等の薬剤、栄養成分、増殖因子など)等による影響を検定することができる。
【0064】
組織モデルは、例えば、各種の哺乳動物由来の細胞等を播種、培養することで構築することができるが、好ましくは、ヒト由来の細胞である。ヒト由来の細胞による組織モデルによれば、ヒトに対する化学物質のADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)を検討するに際し、種差の問題のない評価系を確立することができる。
【0065】
組織モデルの形態は限定されないが、例えば、被蓋上皮細胞や腺上皮細胞などを培養して構築できる上皮組織モデル、線維芽細胞や脂肪細胞などを培養して構築できる結合組織モデル、筋芽細胞や心筋細胞や平滑筋細胞などを培養して構築できる筋組織モデル、および神経細胞やグリア細胞などを培養して構築できる神経組織モデル、さらに、その他、2種類以上の組織に由来する細胞を組み合わせて構築できる器官様モデルなどが挙げられる。ここで、用いる細胞は正常な成熟分化細胞に限定されるものではなく、胚性幹(ES;Embryonic Stem)細胞や体性幹(Somatic Stem)細胞や人工多能性幹(iPS;Induced pluripotent Stem)細胞などの未分化細胞、癌細胞などの病巣由来細胞、あるいは外来性遺伝子を導入したような形質転換細胞であってもよい。このように適宜、用いる細胞を選択することで、正常の組織モデルのみならず、発生あるいは再生過程にある組織モデル、癌をはじめとする病巣の組織モデル、あるいは人工的に形質を転換した細胞から構成される組織モデルなどの形態を創出することができる。特に、医薬品、生理活性物質、化粧品あるいは洗剤等の化学物質の生体に対する作用を外挿できる組織モデルの形態としては、生体に暴露あるいは投与された化学物質の移行経路の反映できる組織モデルの構築が重要となる。この視点からは、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデル等を例示することができる。このような組織モデルには、具体的には、化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデルをはじめ、化学物質の毒性評価に有用な皮膚、角膜、口腔粘膜、神経、肝臓、腎臓など各器官の成熟組織モデルおよび化学物質の発生毒性の評価に有用な胚組織モデル、あるいは薬剤開発に有用な血管新生モデルや癌浸潤モデルなどが含まれる。
【0066】
組織モデルの検定方法は具体的に限定されないが、例えば、チャンバー内に化学物質を直接添加する方法や、ビトリゲル膜の透過性を利用して化学物質を細胞に作用させる方法などを例示することができる。
【0067】
ビトリゲル膜の透過性を利用する方法としては、例えば、1室型細胞培養チャンバーを生理活性物質が注入されている容器内に入れ、ビトリゲル膜を介して培養細胞へ生理活性物質を浸透させることで、細胞への影響を検定する方法を例示することができる。
【0068】
具体的には、例えば、図5に例示したように、ビトリゲル膜乾燥体2が被覆固定されている枠体1の端面と対向する開放端面の外周縁部に、外側へ突出する係止部4を配設し(図4(A)(B))、容器Hの上側から1室型細胞培養チャンバーXを挿入する。そして、容器Hの上部に枠体1に配設した係止部4を掛けることで、容器H内に1室型細胞培養チャンバーXを保持することができる。係止部4は、図1に例示した形態に限定されず、例えば、プラスチック材料等によって棒状、フランジ状などの形態とすることができる。容器H内には、適宜、生理活性物質を注入することができ、ビトリゲル膜を介して培養細胞へ生理活性物質を浸透させることで、細胞への影響を検定することができる。
【0069】
また、予め生理活性物質を含んだビトリゲル膜乾燥体を使用する場合には、ビトリゲル膜乾燥体上で所望の細胞を培養することで、水和したビトリゲル膜からチャンバー内の培養細胞側へ生理活性物質を供給することができるため、その作用効果を検定することができる。
【0070】
さらに、ビトリゲル膜は、PETなどのプラスチックフィルムと比べて柔らかいため、容易に組織モデルの凍結切片を作製することができる。したがって、組織モデルへの生理活性物質の影響を3次元的に観察することも可能である。
【0071】
1室型細胞培養チャンバーX内には、目的に応じて様々な組織モデルを構築することが可能である。
【0072】
具体的には、1室型細胞培養チャンバーXは、例えば、図6(A)に例示したように、ビトリゲル膜21上に所望の細胞を1種類以上播種することができる。そして、好適な条件下で、播種した細胞を単層または多層培養することで、1室型細胞培養チャンバーX内のビトリゲル膜21上に組織モデルを構築することができる。
【0073】
また、1室型細胞培養チャンバーXは、例えば、図6(B)に例示したように、1種以上の細胞を懸濁したコラーゲン培養液(コラーゲンゾル)をビトリゲル膜21上に添加、培養することで、ビトリゲル膜21上に、細胞がコラーゲンゲル内培養された組織モデルを構築することができる。さらに、図6(B)に例示した組織モデル上に異種細胞を懸濁した培養液を添加し、単層または多層状態に重層培養することで、例えば、図7(A)に例示したような組織モデルを構築することができる。
【0074】
また、例えば、従来の方法で作製した環状ナイロン膜支持体を包埋したビトリゲル膜によって1種以上の細胞を片面または両面に培養し、このビトリゲル膜を、図6(A)(B)、図7(A)に例示した組織モデル上で重層培養することで、重層化した組織モデルを構築することができる。なお、図7(B)は、図7(A)に例示した組織モデル上で重層培養した状態を例示している。
【0075】
このように、本発明の1室型細胞培養チャンバーによれば、ビトリゲルの特性(高分子透過性、タンパク質等の生理活性物質の徐放性、透明性、生体に近い線維密度、安定性等)を利用して、生体内の組織、器官ユニットを反映した様々な3次元の組織モデルを容易に構築することができる。具体的には、例えば、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルなどを容易に構築することができる。
【0076】
このため、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、化学物質の移行経路を反映してADMETの動態を薬理学的、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。さらに、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、細胞同士の相互作用のみならず外来性の様々な生理活性物質の作用についても、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。
【0077】
また、1室型細胞培養チャンバーの利用形態としては、以下の形態を例示することができる。
【0078】
例えば、チャンバー内のビトリゲル膜上に培養液に懸濁した所望の細胞を播種した後に、チャンバーを培養液が注入されている容器に入れることで、「液相−ビトリゲル膜−液相」の状態で細胞を培養することができる。さらに、チャンバー内の培養液を除去することで、「気相−ビトリゲル膜−液相」の状態で細胞を培養することができる。この「気相−ビトリゲル膜−液相」の培養法は、例えば、生体内においても通常、空気との接触状態で存在する皮膚、口腔、鼻腔、肺の上皮細胞などの培養に適しており、細胞機能を維持して長期に培養することが可能となる。
【0079】
さらに、例えば、図8に例示したように、培養液が添加された1室型細胞培養チャンバーを係止部を介して何も入っていない容器の上部に掛けて容器内の空中に保持することができる。これによって、ビトリゲル膜上の細胞は、チャンバー内の培養液と、ビトリゲル膜を介した外側の空気とに接するため、「液相−ビトリゲル膜−気相」の状態で細胞の下側(細胞の接着面であるビトリゲル膜側)から良好に酸素を付与して培養することができる。この「液相−ビトリゲル膜−気相」の培養法は、例えば、酸素要求性の高い肝実質細胞、神経細胞、あるいは癌細胞などの培養にも適しており、細胞機能を維持して長期に培養することが可能となる。
【0080】
さらに、培養液が添加された1室型細胞培養チャンバーのビトリゲル膜の外面を容器やその他の固形物質と当接させた状態で、ビトリゲル膜上の細胞を培養することで、「液相−ビトリゲル膜−固相」の状態で細胞を培養することもできる。
【0081】
図9(A)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの作製方法の一実施形態を例示した斜視図である。図9(B)は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した斜視図である。図10は、本発明の2室型細胞培養チャンバーの一実施形態を例示した写真図である。
【0082】
本発明の2室型細胞培養チャンバーYは、2つの筒状の枠体1が、対向する開放端面1a同士の間にビトリゲル膜乾燥体2を介在させた状態で接着固定され、ビトリゲル膜乾燥体2によって隔てられた2室が形成されている(以下、便宜的に、第1室、第2室と記載する場合がある)。筒状の枠体1の形状は、2室を形成した際に水密性を保つことができれば(液漏れしなければ)、特に限定されず、断面形状や高さや太さ、厚さが異なるものを適宜使用することができ、好ましいものとして、例えば、同一の平面形状からなる2つの枠体1を例示することができる。
【0083】
具体的には、2室型細胞培養チャンバーYは、例えば、上記の方法で1室型細胞培養チャンバーXを作製し、この1室型細胞培養チャンバーXのビトリゲル乾燥体2の非接着面側(ビトリゲル乾燥体2の外面側)から、同形の枠体1を当接、接着することで、ビトリゲル膜乾燥体2を介して第1室R1および第2室R2が形成されている2室型細胞培養チャンバーYを作製することができる。ビトリゲル乾燥体2を挟んで2つの枠体1同士を連結する際には、例えば、1室型細胞培養チャンバーXの作製と同様に、ウレタン系接着剤や両面テープなどを適宜使用することができる。また、例えば、パラフィルムなどのフィルム状接着部材を使用して、枠体1同士の対向面を外側から接着固定することもできる。さらに、例えば、枠体1の開放端面1aにネジ口加工などすることで、スクリューキャップやスナップキャップと同様の構造によって、締結、固定することができる。
2室型細胞培養チャンバーYは、枠体1同士の接着を解除することもできる。
【0084】
図11に例示したように、2室型細胞培養チャンバーYは、ビトリゲル膜21の片面、両面に1種類以上の細胞を単層または多層培養することが可能である。前記培養には、例えば、図7(B)等で例示した形態と同様に、1種以上の細胞を懸濁したコラーゲン培養液を添加するゲル内培養も含まれる。両面培養においては、各々の面に異種の細胞を播種し、各々第1室、第2室で培養することが可能であり、各室では1室型培養チャンバーと同様の細胞培養が可能である。この場合、ビトリゲル膜21を介しての細胞同士の相互作用を検討することもできる。
【0085】
図11に例示した形態では、例えば、ビトリゲル膜21の一方の面にコラーゲンゲルに分散した線維芽細胞C1および内皮細胞C2が培養され、さらに、ビトリゲル膜21の他方の面に上皮細胞C3が培養された3次元組織モデルなどを構築することができる。
【0086】
2室型細胞培養チャンバーY内のビトリゲル膜21の両面に所望の細胞を播種し培養することで、重層化した組織モデルを容易に構築することができる。組織モデルは、例えば、1室型細胞培養チャンバーと同様に、化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデルをはじめ、化学物質の毒性評価に有用な各器官のモデル、あるいは薬剤開発に有用な血管新生モデルや癌浸潤モデルなどが含まれる。
【0087】
具体的には、例えば、ビトリゲル膜21の一方の面(第1室側)には上皮系細胞、他方の面(第2室側)には間充織細胞を培養することで、上皮間充織相互作用を有した経皮吸収モデルや腸管吸収モデルを構築することができる。また、一方の面(第1室側)には血管内皮細胞、他方の面(第2室側)には癌細胞を培養することで、血管新生モデルや癌浸潤モデルなどを構築することができ、様々な細胞機能の検定が可能となる。さらに、例えば、コラーゲンビトリゲル膜は、生体に近いコラーゲン線維密度を有しているため、生体内の間充織の性質を再現することができる。このため、角膜実質と略等しい厚さ(500μm)のビトリゲル膜を使用した2室型細胞培養チャンバーYは、一方の面(第1室側)に角膜上皮細胞、他方の面(第2室側)には角膜内皮細胞層を形成し、上皮、実質、内皮を含む角膜モデルを構築することもできる。
【0088】
2室型細胞培養チャンバーYによる培養の場合、例えば、第1室側から、ビトリゲル膜乾燥体2上に細胞を播種し、単層または多層培養させた後、2室型細胞培養チャンバーYの上下を反転させ、さらに第2室側からビトリゲル膜21上に細胞を播種し、単層または多層培養することによって、ビトリゲル膜21を挟んで重層化した組織モデルを構築することができる。例えば、2室型細胞培養チャンバー内の第2室のビトリゲル膜乾燥体上に上皮細胞を単層または多層培養(あるいは内皮細胞を単層培養)した後に2室型細胞培養チャンバーYの上下を反転させ、第1室のビトリゲル膜乾燥体上にコラーゲンゾルに懸濁した間充織細胞を播種してコラーゲンゲル内培養した後に、さらにコラーゲンゲル上に内皮細胞を単層培養(あるいは上皮細胞を単層または多層培養)することで、化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルを容易に構築することができる。
【0089】
また、2室型細胞培養チャンバーY内で組織モデルを構築した後、枠体1同士の接着を解除し、1室型細胞培養チャンバーと同様に、各種検定をチャンバーY内の組織モデルに対して行うことができる。具体的には、例えば、図5(A)(B)に例示した方法と同様に、枠体1の外周縁部に係止部を配設して、枠体1を容器内に保持させ、容器内に入れた生理活性物質等を水和したビトリゲル膜からチャンバー内の培養細胞(組織モデル)側へ供給し、その作用効果を検定することができる。
【0090】
このように、本発明の2室型細胞培養チャンバーによれば、ビトリゲルの特性(高分子透過性、タンパク質等の生理活性物質の徐放性、透明性、生体に近い線維密度、安定性等)を利用して、生体内の組織、器官ユニットを反映した様々な3次元の組織モデルを容易に構築することができる。具体的には、例えば、化学物質が最初に暴露される上皮細胞あるいは内皮細胞のみで構成される「組織シート(1種類細胞)」モデル、上皮細胞あるいは内皮細胞の次に化学物質に暴露される間充織細胞まで含めた上皮細胞と間充織細胞あるいは内皮細胞と間充織細胞の2種類の細胞で構成される「器官様プレート(2種類細胞)」モデル、さらに化学物質の移行に伴い暴露が進行する上皮細胞と間充織細胞と内皮細胞の3種類の細胞で構成される「器官様プレート(3種類細胞)」モデルなどを容易に構築することができる。
【0091】
このため、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、化学物質の移行経路を反映してADMETの動態を薬理学的、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。さらに、実験動物を用いなくともビトリゲル膜を培養担体としたチャンバー内に構築した組織モデルでは、細胞同士の相互作用のみならず外来性の様々な生理活性物質の作用についても、生化学的、分子生物学的、あるいは組織病理学的に解析することができる。
【0092】
さらに、図6、図7、図11に例示したような組織モデルから細胞層を形成したビトリゲル膜を解剖用メスなどで枠体から分離し、それを別の組織モデル上に重層することで、さらに複雑な細胞層を重層した組織モデルを構築できる。また、チャンバーを用いて構築した組織モデル(組織モデルA)の枠体中に、より小さな(枠体内径より小さい)チャンバーを用いて構築した組織モデル(組織モデルB)を入れ子状に挿入し、組織モデルAの上に組織モデルBを重層させることができる。
【0093】
次に、本発明の1室型細胞培養チャンバーの製造方法の第2実施形態について説明する。第1実施形態と共通する部分についての説明は省略する。
【0094】
第2実施形態では、例えば、以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含む。
【0095】
第2実施形態では、具体的には、例えば、本発明者によって出願されたWO2005/014774の方法に従って、シャーレなどの容器内で、支持体としての環状ナイロン膜(以下、環状ナイロン膜支持体)を内包した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製し、再水和、再乾燥を行って、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する。乾燥、再水和などの処理は上述した方法と同様の方法を適宜採用することができる。
【0096】
その後、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再び再水和して容器から剥離させ、マグネットで挟んだ状態で乾燥させる。マグネットは、例えば、本発明者によって出願された特開2007-185107号公報(特許文献4)の方法に従って、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体の外周縁付近の表裏面を挟持可能であるものが好ましい。具体的には、マグネットの形状は、円環状であることが好ましく、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜乾燥体の外径などを考慮して、外円(外周縁)と内円(内周縁)の大きさ(幅)等を適宜設計して使用することができる。マグネットで挟んだ状態で乾燥させることで、シャーレなどの容器に付着させることなく、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製することができる。また、環状ナイロン膜支持体付きビトリゲル膜をフィルムと共にマグネットで挟んだ状態で乾燥させてから、フィルムを除去することで基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製することができる。
【0097】
そして、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を、筒状の枠体の一方の開放端面に接着固定し、枠体の端面からはみ出した余分な部分を切断して端面と略同形状に切断加工することで、一室型細胞培養チャンバーを製造することができる。なお、支持体付きビトリゲル膜乾燥体と筒状の枠体との接着固定は、第1実施形態と同様に、接着剤、両面テープ、ヒートシーラーなどを適宜使用することができる。
【0098】
さらに、本発明の一室型細胞培養チャンバーの製造方法の第3実施形態について説明する。
【0099】
第3実施形態では、例えば、以下の工程:
(1)基板上に配置した壁面鋳型内部に、支持体を内包したハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;
(3)支持体を内包したハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(5)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、基板上にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して基板から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含む。
【0100】
第3実施形態では、例えば図2に例示した壁面鋳型を利用して、環状ナイロン膜などの支持体付きビトリゲル膜乾燥体を基板から脱離した状態で作製することができる。第3実施形態では、基板上に配置した壁面鋳型を使用する点を除くその他の工程は、第2実施形態と同様に行うことができる。
【0101】
本発明の一室型細胞培養チャンバーの製造方法の第4実施形態について説明する。
第4実施形態では、例えば、以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、フィルム上に載置する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を接着固定する工程;
(6)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含む。
【0102】
第4実施形態における上記工程(1)〜工程(3)は、第2実施形態と同様に行うことができる。
【0103】
第4実施形態における工程(4)では、再水和されて容器から剥離させた支持体付きビトリゲル膜をフィルム上に載せる。フィルムは、第1実施形態と同様に、ビトリゲル膜を乾燥させたビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なものを適宜使用することができる。
【0104】
そして、工程(5)において、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を筒状の枠体の一方の開放端面に接着固定する。接着固定には、例えば、アクリル系の両面テープを使用することができ、この場合、両面テープを枠体の端面の形状、大きさに対応させて加工することが好ましい。
【0105】
そして、工程(6)において、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて得た乾燥体を、工程(7)において、枠体の開放端面と略同形状に成形した後、工程(8)において、フィルムを除去することで一室型細胞培養チャンバーを作製することができる。工程(6)における支持体付きビトリゲル膜の乾燥は、第1〜第3実施形態と同様に行うことができる。
【0106】
さらに、2室型細胞培養チャンバーの製造する方法としては、第2〜第4実施形態に例示した方法で作製した1室型細胞培養チャンバーの支持体付きビトリゲル膜乾燥体の非接着面側から、別の筒状の枠体の開放端面を当接させて、2つの筒状の枠体同士の間に支持体付きビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で枠体同士を互いに連結固定することで2室型細胞培養チャンバーを製造することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0108】
<実施例1>パラフィルムに吸着したコラーゲンビトリゲル膜乾燥体(コラーゲン量:0.52〜2.1 mg/cm2)の作製
基板として、直径60mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon # 35-1007)の底表面を用いた。また、壁面鋳型としては、外円の直径が39mmで内円の直径が35mmで高さが10.0mmのアクリルを用いた。パラフィルム(Pechiney Plastic Packaging社製)は、直径50mmの円形に切断して用いた。なお、壁面鋳型およびパラフィルムともに70% エタノールを噴霧して拭き取る滅菌処理を施してから使用した。具体的には、直径60mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレの底表面上に直径50mmの円形に切断した1枚のパラフィルムを敷いて、その上に1つの壁面鋳型を設置することで、基板上に敷いたパラフィルムと壁面鋳型を分離できる1つの容器を作製した。
【0109】
コラーゲンゲルは、この容器内に2.0ml、4.0ml、6.0ml、あるいは8.0ml の0.25% コラーゲンゾルを注入してシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0 ℃ の保湿インキュベーター内でゲル化することで作製した。この際、注入したコラーゲンゾルは基板上に敷いたパラフィルムと壁面鋳型との間隙から流出することなくゲル化した。
【0110】
37.0 ℃の保湿インキュベーター内に移し入れてから4時間目、6時間目、および8時間目には、コラーゲンゲル内の自由水が基板上に敷いたパラフィルムと壁面鋳型との間隙から壁面鋳型の外側へ流出した量を定量すると共に、各時間で流出した自由水は除去した。なお、2時間目に壁面鋳型を上下に僅かに動かすことで、コラーゲンゲルと壁面鋳型間の接着を解除した。その結果、コラーゲンゾル6.0mlおよび8.0ml由来のコラーゲンゲルは4時間目までに1/3以上、コラーゲンゾル4.0ml由来のコラーゲンゲルは6時間目までに約1/3、またコラーゲンゾル2.0ml由来のコラーゲンゲルは8時間目までに約1/4の自由水が壁面鋳型の外側へ流出した。
【0111】
壁面鋳型は8時間目に基板上から除去したが、この際、壁面鋳型はコラーゲンゲルと非接着状態にあり、基板上に敷いたパラフィルムから除去した壁面鋳型の内壁等周囲へのコラーゲンゲルの付着は全くなかった。また、8時間目には37.0 ℃ の保湿インキュベーターより10.0 ℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態で流出する自由水は流出させながらコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、コラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0112】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。そこで、このガラス化が始まるまで(コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去されてコラーゲンゲル乾燥体となるまで)の自然乾燥に要したおよその時間を計測した。その結果、ガラス化が始まるまでに要した時間は、2.0mlの0.25% コラーゲンゲルの場合は20時間以内、また、4.0ml、6.0mlおよび8.0mlの0.25% コラーゲンゲルの場合は20時間以上41時間以内であった。
【0113】
ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、基板のシャーレ内に5.0ml のPBSを加えて再水和して基板上に敷いてあるパラフィルムに吸着した状態でコラーゲンビトリゲル膜を作製した。そして、数回5.0ml のPBSでリンスすることで、PBSに平衡化したコラーゲンビトリゲル膜をパラフィルムに吸着した状態で作製した。このコラーゲンビトリゲル膜は壁面鋳型の直径35mmの内円(面積:9.6 cm2)形状を反映しており、不定形外周縁部をもたないものであった。
【0114】
さらに、このパラフィルムに吸着した状態のコラーゲンビトリゲル膜を直径60mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon # 35-1007)に移し入れ、10.0 ℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、パラフィルムに吸着した状態のコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。このパラフィルムに吸着した状態のコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、所望の微細形状にハサミやメス等で容易に切断できた。また、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、パラフィルムより容易に剥離することも可能であった。
【0115】
なお、上述の工程でコラーゲンゾルに環状ナイロン膜を挿入すれば、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体をパラフィルムに吸着した状態で作製できる。また、壁面鋳型の底平面形状および高さを改変することで、任意の形状と厚みを有するコラーゲンビトリゲル膜乾燥体をパラフィルムに吸着した状態で作製できる。
【0116】
<実施例2>細胞培養チャンバーの作製
従来、ビトリゲル膜乾燥体は、培養シャーレに付着した状態で作製されていたため、膜状態で取り扱うことはできなかったため、例えば、パームセルのような2相性容器に水分を含むビトリゲル膜を物理的に挟み込むことでビトリゲル膜を固定したチャンバーを作製することが試みられていた。しかしながら、その作製に伴う操作は煩雑であり、大量生産を実現することは困難であった。
【0117】
本発明では、上記のビトリゲル膜乾燥体の作製方法が確立されたことから、ビトリゲル膜乾燥体を利用した以下の細胞培養チャンバーの作製が可能となった。
【0118】
(1)1室型細胞培養チャンバー
アクリル製の円筒チューブの一方の開放端面にウレタン系接着剤を塗布し、パラフィルムと重層化しているコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を当接させ、さらに、円筒チューブの上から重り載せて両者を密着状態とした。そして、密着状態の円筒チューブとコラーゲンビトリゲル膜乾燥体とを室温で十分換気しながら静置することで両者を接着固定した。さらに、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、その後、接着固定されているコラーゲンビトリゲル膜乾燥体からパラフィルムを剥離させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0119】
(2)2室型細胞培養チャンバー
上記の方法で1室型細胞培養チャンバーを作製し(第1室)コラーゲンビトリゲル乾燥体側の非接着面側から、同径かつ高さの低い別体の円筒チューブ(第2室)を当接させ、パラフィルムによって当接部分を外側から被覆することで、コラーゲンビトリゲル乾燥体を挟んで2つの枠体同士を連結固定した。これによって、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体を介して2室(第1室、第2室)が形成されている2室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0120】
<実施例3>ビトリゲルチャンバーのタンパク膜透過性
上記の1室型細胞培養チャンバーを使用した。以下では、本発明のチャンバーと、市販のチャンバー(後述の比較例)とを区別するため、本発明のチャンバーを便宜的に「ビトリゲルチャンバー」と記載する(実施例4および実施例6においても同様)。
【0121】
(1)実施例
ビトリゲルチャンバーを容器内に吊り下げた形態で保持しビトリゲルチャンバー内に10mg/mlBSAを含有したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を500μl、容器内にPBSを1ml注入した(図12)。これを保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で16時間静置した後、容器内のPBS中のBSA濃度をQuick Startプロテインアッセイキット(バイオ・ラッド ラボラトリーズ(株)#500-0201JA)で測定した。その結果、BSA濃度は2.1mg/mlであり、BSAはビトリゲル膜を透過した。
【0122】
(2)比較例
市販のコラーゲン膜チャンバー(高研(株):細胞培養用透過性コラーゲン膜 #CM-24)のタンパク質透過性を調べるため、上記(1)に記載したビトリゲルチャンバーと同様の試験を行った。(ただし、チャンバーの大きさがビトリゲルチャンバーと比べ小さいため、チャンバー内の液量を337μl, 容器内の液量を674μlとして、チャンバー内の液の高さおよびチャンバー内外の液量比がビトリゲルチャンバーと同じになるようにした。)その結果、容器内のPBS中のBSA濃度はキットの検出下限以下であり、BSAは市販品のコラーゲン膜を透過しなかった。
【0123】
<実施例4>ビトリゲルチャンバーのタンパク質透過性(膜を介したNGFの作用によるPC-12細胞の神経様突起の伸張)
(1)実施例
ビトリゲルチャンバーを容器内に吊り下げる形態(図5(A)(B)に例示)で保持し、ビトリゲルチャンバー内に培養液[10%非動化ウシ胎児血清(Sigma#F2442)、20mM HEPES(GIBCO BRL #15630)、100units/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培養液(GIBCO BRL #11885-084)]に懸濁したPC-12細胞を2.5×103個/cm2となるように播種した。また、容器内に培養液のみまたはNGF(upstate #01-125)を5ng/ml含有する培養液を1.2ml注入した(図13)。これを保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2日間静置培養した後、位相差顕微鏡で細胞の形態を観察した。
【0124】
その結果、容器内に培養液のみを注入したものではPC-12細胞の形態は球形で神経様突起の伸張は認められなかった。一方、容器内にNGF添加培養液を注入したものでは神経様突起の伸張が認められた(図14上欄)。すなわち、容器内のNGFがPC-12細胞に作用したことが確認された。
【0125】
(2)比較例
同様の実験を市販のコラーゲン膜チャンバー(高研(株):細胞培養用透過性コラーゲン膜 #CM-24)で行った。その結果、NGFの有無にかかわらすPC-12細胞の形態は球形で神経様突起の伸張は認められなかった(図14下欄)。すなわち、容器内のNGFはPC-12細胞に作用しなかった。
【0126】
<実施例5>組織モデルの構築
(1)1室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル
図15は、1室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデルの構築工程を示した概要図である。この実施例では、図4(A)(B)に例示した形態の1室型細胞培養チャンバーを利用している。また、図16は、培養された角膜モデル凍結切片の染色像を示した図である。
【0127】
1室型細胞培養チャンバーを12穴培養用プレート(ミリポア)のウェル内に枠体に配設した係止部によって保持し、チャンバー底面のコラーゲンビトリゲル乾燥体上にヒト角膜上皮細胞6×104個を培養液500μlに懸濁して播種した。またウェル内に培養液600μlを注入した。コンフルエントになるまで保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2〜3日間静置培養し、ついで、チャンバー内の培養液を除去し、37.0℃,5%CO2で7日間にわたり液相気相の界面培養を行った。界面培養後の細胞層の断面の凍結切片を作製しHoechst33342で核染色を行い蛍光顕微鏡観察したところ、5層前後の細胞層の形成が認められた。また、界面培養2日目から7日目にかけて細胞間接着の形成を示す経上皮電気抵抗(TEER)値の経時的な上昇が認められた。
【0128】
さらに、図16に示したように、タイトジャンクションのマーカータンパク質ZO-1,Occludin)およびギャップジャンクションのマーカータンパク質(Connexcin-43)に対する抗体で免疫染色を行ったところ、これらのタンパク質の発現が観察されたことから、角膜上皮に見られるタイトジャンクションおよびギャップジャンクションの形成が確認され、本発明の1室型細胞培養チャンバーによって容易にヒト角膜上皮モデルを構築できることが確認された。
【0129】
図17は、ヒト角膜上皮モデルによる眼刺激性物質の評価結果を示す図である。構築したヒト角膜上皮モデルの細胞層表面に眼刺激性物質を暴露し経上皮電気抵抗(TEER)の経時変化を測定したところ、眼刺激性の強い物質ほどTEERが顕著に減少する傾向が認められた。とくに眼刺激性物質を暴露して10秒後のTEER減少率は実験動物としてウサギを用いた眼刺激性試験(ドレイズ法)の結果(ドレイズスコア)との間に相関性が認められた。この結果から、1室型細胞培養チャンバーに構築した角膜モデルはウサギを用いた動物実験の代替法として化合物の眼刺激性評価に使用できることが示唆された。
【0130】
(2)2室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル
図18は、図11の模式図に例示した形態に対応する各層の細胞の写真である。
【0131】
上記の方法で作製した2室型細胞培養チャンバーの第1室内のコラーゲンビトリゲル乾燥体上に、組織モデルの安定性を高める目的で、チャンバーの内径と略等しい環状ナイロン膜(幅1mm)を設置した。
【0132】
第1室内11に真皮線維芽細胞を懸濁したコラーゲンゾルを播種(厚さ2mm)し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2時間静置培養してゲル化させた。さらに、このコラーゲンゲル表面に培養液(200μl)を添加し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で1日間静置培養することで、コラーゲンゲル内に分散している真皮線維芽細胞C1を伸展させた。さらに、このコラーゲンゲルの表面に内皮細胞を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で1日〜2日静置培養して内皮細胞をコンフルエントにさせた。
【0133】
そして、2室型細胞培養チャンバーYの上下を反転させて、第2室内12に上皮細胞(表皮角化細胞)を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で1日〜2日間静置培養して上皮細胞をコンフルエントにさせた。その後、表皮角化細胞の分化を促進する培養液に交換し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2 / 95%空気)内で2日間静置培養し、さらに、この培養液を除去して、液相気相の界面で培養して上皮細胞を分化させた。
【0134】
この組織モデルの断面を観察すると、図18に示すように、上皮細胞、真皮線維芽細胞および内皮細胞が3次元的に重層化していることが確認され、2室型細胞培養チャンバーYを利用することで容易に皮膚モデルを構築できることが確認された。
【0135】
<実施例6>ビトリゲルチャンバー上で作製した角膜上皮モデルの凍結切片作製
(1)実施例
ビトリゲルチャンバー上で作製した角膜上皮モデル(実施例5(1))のビトリゲル膜(角膜上皮細胞層が付着している)をメスでアクリル円筒から切り離した。このビトリゲル膜をTissue-Tek O.C.T.コンパウンド(Sakura Finetek製)中に包埋して凍結した。凍結した試料をクライオスタット(LEICA製CM3050S)内で厚さ5μmに薄切したところ、ビトリゲル膜に細胞層が付着した(正常な)状態の切片が得られた。(図16に、切片のHE染色像および免疫染色像を示す)。
【0136】
(2)比較例
市販のPET膜チャンバー(ミリポア製)内でビトリゲルチャンバーと同じ手順で角膜上皮モデルを作製した。ビトリゲルチャンバーと同じ手順で凍結切片を作製したところ、PET膜の部分で試料が割れてPET膜が細胞層から剥離しPET膜に細胞層が付着した(正常な)状態の切片が得られなかった(図19)。
【0137】
<実施例7>培養シャーレを利用した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体の作製
以下の工程A〜工程Cによって、フィルムが吸着していないビトリゲル膜乾燥体を作製した。なお、以下の工程における、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜の作製は、本発明者によって出願されたWO2005/014774および特開2007-185107号公報の方法を踏まえている。
【0138】
工程A; 直径35mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon #35-1008)内に1枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmの環状ナイロン膜支持体を挿入し、その直後に2.0mlの0.25%コラーゲンゾルを注入してシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0℃の保湿インキュベーター内でゲル化することでコラーゲンゲルを作製した。
【0139】
2時間目には37.0℃の保湿インキュベーターより10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、ガラス化したコラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0140】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和してシャーレ底面および壁面より剥離することで環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。そして、数回2.0mlのPBSでリンスすることで、PBSに平衡化した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。
【0141】
さらに、この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、シャーレに付着した状態の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0142】
工程B; 再度、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和し、さらにシャーレの内壁を周囲に沿って先の鋭敏なピンセットでなぞることで、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜をシャーレ底面および壁面より剥離した。
【0143】
工程C; この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を、2枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmで厚さが1mmの環状マグネットで挟み、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で一晩放置、乾燥させることで、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0144】
<実施例8>壁面鋳型を利用した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体の作製
以下の工程A〜工程Cによって、フィルムが吸着していないビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0145】
工程A; 基板としては、245×245mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレの底面、壁面鋳型としては、外円の直径が38mmで内円の直径が34mmで高さが30mmのアクリルを34個用いた。1つの基板上に34個の壁面鋳型を設置することで、基板と壁面鋳型を分離できる34個の容器を作製した。各容器に1枚の環状ナイロン膜支持体を挿入し、2.0mlの0.25%コラーゲンゾルを注入して基板にシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0℃の保湿インキュベーター内でゲル化することで、1つの基板上に34つのコラーゲンゲルを作製した。
【0146】
2時間目には、壁面鋳型を上下に僅かに動かすことでコラーゲンゲルと壁面鋳型間の接着を解除した。その後、4-6時間目までに1/3程度の自由水が壁面鋳型の外側に流出したので、壁面鋳型を基板から除去した。流出した自由水を除去した後、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を2日間の自然乾燥により完全に除去し、コラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0147】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、シャーレ内に100mlのPBSを加えて再水和してシャーレ底面および壁面より剥離することで環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。
【0148】
さらに、この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、シャーレに付着した状態の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0149】
工程B; 再度、シャーレ内に100mlのPBSを加えて再水和することで、34枚の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜をシャーレ底面および壁面より剥離した。
【0150】
工程C; この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜各1枚を、2枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmで厚さが1mmの環状マグネットで挟み、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で一晩放置、乾燥させることで、34枚の環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した。
【0151】
<実施例9>筒状の枠体へのコラーゲンビトリゲル膜乾燥体(実施例7、8)の接着固定
実施例7、8で作製したコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を、以下の方法で筒状の枠体へ接着固定した。
a)ウレタン系接着剤を用いた接着固定
アクリル製の円筒チューブ(外形15mm、内径11mm)の一方の開放端面にウレタン系接着剤(セメダイン、No. UM700)を塗布し、そこに、実施例7、8で作製した環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を当接させて両者を密着状態とし、接着固定した。さらに、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0152】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
b)両面テープを用いた接着固定
アクリル製の円筒チューブ(外形15mm、内径11mm)の一方の開放端面に円筒チューブの端面と同じサイズに切り抜いたアクリル接着系両面テープ(日東電工 No.57115B)を貼り付け、そこに、実施例7、8で作製した環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を密着させ、接着固定した。さらに、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0153】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
c)熱溶着を用いた接着固定
ポリスチレン製またはアクリル製の円筒チューブ(外形15mm、内径11mm)の一方の開放端面に、実施例7、8で作製した環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を当接させて、両者が接触している部分にのみにヒートシーラーを用いて熱を作用させて、接着固定した(熱溶着した)。さらに、環状マグネットで挟んだコラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0154】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
【0155】
<実施例10>フィルムが吸着したビトリゲル膜を筒状の枠体に当接した後にビトリゲル膜を乾燥させることで接着固定する細胞培養チャンバーの作製
以下の工程A〜工程Dによって、筒状の枠体にビトリゲル膜が接着固定された細胞培養チャンバーを作製した。
【0156】
なお、以下の工程における、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜の作製は、本発明者によって出願されたWO2005/014774の方法を踏まえている。
【0157】
工程A; 直径35mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレ(Falcon #35-1008)内に1枚の外円の直径が33mmで内円の直径が24mmの環状ナイロン膜支持体を挿入し、その直後に2.0mlの0.25%コラーゲンゾルを注入してシャーレの蓋をした後、5.0% CO2/95%空気存在下の37.0℃の保湿インキュベーター内でゲル化することでコラーゲンゲルを作製した。
【0158】
2時間目には37.0℃の保湿インキュベーターより10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、その後はシャーレの蓋をはずした状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、ガラス化したコラーゲンゲル乾燥体を得た。
【0159】
ここで、コラーゲンゲル内に残留する自由水が完全に除去された段階からはガラス化が始まることになる。ガラス化後1日ないしは2日目のコラーゲンゲル乾燥体を室温下のクリーンベンチに移し入れ、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和してシャーレ底面および壁面より剥離することで環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。そして、数回2.0mlのPBSでリンスすることで、PBSに平衡化した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を作製した。
【0160】
さらに、この環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で蓋をはずした状態で1〜2日間程度放置し完全に乾燥させた後、室温下のクリーンベンチに移し入れてシャーレに蓋をしてから室温で無菌的に保管維持してガラス化を進行させることで、シャーレに付着した状態の環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した
工程B; 再度、シャーレ内に2.0mlのPBSを加えて再水和し、さらにシャーレの内壁を周囲に沿って先の鋭敏なピンセットでなぞることで、環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜をシャーレ底面および壁面より剥離した。
【0161】
工程C; 直径150mmの疎水性ポリスチレン製培養シャーレの底表面上に1枚のポリエチレンシートを敷いて、再水和した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜を載せた。さらにアクリル製の円筒チューブの一方の開放端面に円筒チューブの端面と同じサイズに切り抜いたアクリル接着系両面テープ(日東電工 No.57115B)を接着し、この円筒チューブの開放端面にポリエチレンシートが重層化した環状ナイロン膜支持体付コラーゲンビトリゲル膜を当接させた。その後、円筒チューブの上から重りを乗せて、クリーンベンチ内にてビトリゲル膜が乾燥するまで静置して両者を接着固定した。
【0162】
工程D; さらに、このポリエチレンシートが重層化した環状ナイロン膜支持体付きコラーゲンビトリゲル膜乾燥体が接着した円筒チューブを、10.0℃ 40%湿度の条件下のクリーンベンチ内で1日間程度放置し完全に乾燥させた。さらに、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体は、円筒チューブから外側にはみ出した部分を切断し、円筒チューブの端面形状と対応させ、その後、接着固定されているコラーゲンビトリゲル膜乾燥体からポリエチレンシートを剥離させ、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を有する1室型細胞培養チャンバーを作製した。
【0163】
なお、同様の方法で、1室型培養チャンバーに加えて、2室型培養チャンバーを作製することもできた。
【0164】
<実施例11>2室型細胞培養チャンバーを利用した組織モデル(2枚のコラーゲンビトリゲル膜と3種類の細胞から構築された器官様プレート)の作製方法
工程A; 2室型細胞培養チャンバーの第2室内のコラーゲンビトリゲル膜乾燥体上に、培養液(DMEM, 10%FBS, 20mM HEPES, 100units/mlPenicillin, 100μg/mlStreptomycin, 0.1mM l-Ascorbic acid phosphate, magnesium salt n-hydrate)500μlに懸濁したヒト皮膚線維芽細胞1×104個を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で8日間静置培養することで、線維芽細胞にコラーゲン産生と細胞層の多層化を誘導させた。
【0165】
工程B; 実施例5の(1)に記載した方法に従って、1室型培養チャンバー内に、ヒト角膜上皮細胞層を構築した。具体的には、チャンバー底面のコラーゲンビトリゲル膜上に、培養液(500μl)に懸濁したヒト角膜上皮細胞6×104個を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内2〜3日間静置培養し、ついで、チャンバー内の培養液を除去し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)で7日間にわたり、液相気相の界面培養を行った。これにより5層前後の細胞層が形成された。
【0166】
工程C; 工程Bで作製した1室型細胞培養チャンバー(内部にヒト角膜上皮細胞層を構築したもの)のコラーゲンビトリゲル膜の細胞が接着していない面(チャンバーの外側)に、チャンバーと同径で高さの低いアクリル製の円筒の枠体(外形15mm、内径11mm、高さ5mm)を取り付けた。これにより、2室型細胞培養チャンバーと同等の形状を成す培養チャンバーを作製した。
【0167】
この細胞培養チャンバーの上下を反転させ、新たに形成された第2室中に、工程1と同様の手順で調製したヒト皮膚線維芽細胞を播種(500μl)し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で1日間静置培養した。
【0168】
工程D; 再び細胞培養チャンバーの上下を反転し、第2室を形成するために一時的に固定したアクリル製の枠体を取り外し、解剖用メスを用いて、チャンバーの内壁に沿ってコラーゲンビトリゲル膜を切断した。これにより、片面にヒト角膜上皮細胞が、もう一方の面にはヒト皮膚線維芽細胞の層が形成されているコラーゲンビトリゲル膜を作製し、ヒト皮膚線維芽細胞層が構築された面が、工程1で作製したヒト皮膚線維芽細胞層と接する向きになるように、工程1の細胞培養チャンバーの2室側に重層した。保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で3日間静置培養し、第1のヒト皮膚線維芽細胞層と第2のヒト皮膚線維芽細胞層を融合させた。これにより2室型培養チャンバーの2室内にコラーゲンビトリゲル膜、ヒト皮膚線維芽細胞層、コラーゲンビトリゲル膜、ヒト角膜上皮細胞が順に積層したモデルを作製した。
【0169】
工程E; 工程Dで作製した2室型細胞培養チャンバーの上下を反転させて、第2室を形成するために固定されていたアクリル製の枠体を取り外し、1室型細胞培養チャンバー様の形態に変更した。この細胞培養チャンバーを12穴培養プレートのウェル内に、枠体に配設した係止部によって保持し、1室に相当するチャンバーのウェル底面のコラーゲンビトリゲル膜上に、培養液(500μl)に懸濁したヒト皮膚微小血管内皮細胞8×104個を播種し、保湿インキュベーター(37.0℃, 5%CO2/95%空気)内で1日間静置培養した。
【0170】
工程F; この組織モデルの断面を観察すると、図20に示したように、ヒト角膜上皮細胞層、コラーゲンビトリゲル膜、ヒト皮膚線維芽細胞層、コラーゲンビトリゲル膜、ヒト皮膚微小血管内皮細胞が3次元的に積層していることが確認された。これにより、上皮−間充織−内皮を模倣した器官様プレートが容易に構築できることが確認された。
【符号の説明】
【0171】
1 筒状の枠体
2 ビトリゲル膜乾燥体
3 フィルム
4 係止部
X 1室型細胞培養チャンバー
Y 2室型細胞培養チャンバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されていることを特徴とする1室型細胞培養チャンバー。
【請求項2】
ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする請求項1の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項3】
ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項1または2の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項4】
ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項1または2の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項5】
ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項1または2の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項6】
枠体には、ビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されている端面と対向する開放端面の外周縁部に、外側へ突出する係止部が配設されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかの1室型細胞培養チャンバー。
【請求項7】
2つの筒状の枠体が、対向する開放端面同士の間にビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で互いに連結固定され、ビトリゲル膜乾燥体を介して第1室および第2室が形成されていることを特徴とする2室型細胞培養チャンバー。
【請求項8】
ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする請求項7の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項9】
ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項7または8の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項10】
ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項7または8の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項11】
ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項7または8の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項12】
2つの枠体は、対向する開放端面同士の周囲が外側からフィルム状接着部材によって接着固定されていることを特徴とする請求項7から11のいずれかの2室型細胞培養チャンバー。
【請求項13】
請求項1から6のいずれかの1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
【請求項14】
化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする請求項13の組織モデル。
【請求項15】
請求項1から6のいずれかの1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に1種以上の細胞を播種し、単層または多層培養する工程を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
【請求項16】
請求項7から12のいずれかの2室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体の両面に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
【請求項17】
化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする請求項16の組織モデル。
【請求項18】
請求項7から12のいずれかの2室型細胞培養チャンバー内に組織モデルを作製する方法であって、以下の工程:
第1室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程;および
培養チャンバーの上下を反転させ、第2室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程
を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
【請求項19】
以下の工程:
(1)基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に配置した壁面鋳型内部にハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;
(3)ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(4)ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する工程;
(5)ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(6)フィルムに吸着した状態のビトリゲル膜乾燥体をフィルムとともに基板上から剥離させ、筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体側を接着固定する工程;
(7)ビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および
(8)ビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項20】
以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項21】
以下の工程:
(1)基板上に配置した壁面鋳型内部に、支持体を内包したハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;
(3)支持体を内包したハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(5)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、基板上にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して基板から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項22】
以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、フィルム上に載置する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を接着固定する工程;
(6)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項23】
請求項19から22のいずれかの方法で製造された1室型細胞培養チャンバーの筒状の枠体に接着固定されたビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体の非接着面側から、前記筒状の枠体と同一の平断面形状からなる別の筒状の枠体の開放端面を当接させて、2つの筒状の枠体同士の間にビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で枠体同士を互いに連結固定する工程を含むことを特徴とする2室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項1】
筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されていることを特徴とする1室型細胞培養チャンバー。
【請求項2】
ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする請求項1の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項3】
ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項1または2の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項4】
ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項1または2の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項5】
ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項1または2の1室型細胞培養チャンバー。
【請求項6】
枠体には、ビトリゲル膜乾燥体が被覆固定されている端面と対向する開放端面の外周縁部に、外側へ突出する係止部が配設されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかの1室型細胞培養チャンバー。
【請求項7】
2つの筒状の枠体が、対向する開放端面同士の間にビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で互いに連結固定され、ビトリゲル膜乾燥体を介して第1室および第2室が形成されていることを特徴とする2室型細胞培養チャンバー。
【請求項8】
ビトリゲル膜乾燥体の形状は、枠体の開放端面と略同形状であることを特徴とする請求項7の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項9】
ビトリゲル膜乾燥体は、ウレタン系接着剤によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項7または8の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項10】
ビトリゲル膜乾燥体は、両面テープによって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項7または8の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項11】
ビトリゲル膜乾燥体は、熱溶着によって枠体の開放端面に固定されていることを特徴とする請求項7または8の2室型細胞培養チャンバー。
【請求項12】
2つの枠体は、対向する開放端面同士の周囲が外側からフィルム状接着部材によって接着固定されていることを特徴とする請求項7から11のいずれかの2室型細胞培養チャンバー。
【請求項13】
請求項1から6のいずれかの1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
【請求項14】
化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする請求項13の組織モデル。
【請求項15】
請求項1から6のいずれかの1室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体上に1種以上の細胞を播種し、単層または多層培養する工程を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
【請求項16】
請求項7から12のいずれかの2室型細胞培養チャンバー内のビトリゲル膜乾燥体の両面に播種された細胞が単層または多層培養されて構築された組織モデル。
【請求項17】
化学物質の経皮吸収モデル、角膜透過性モデル、腸管等の消化管吸収モデル、肺等の気道吸収モデル、血管透過性モデル、肝代謝モデル、腎糸球体濾過排泄モデル、皮膚毒性評価モデル、角膜毒性評価モデル、口腔粘膜毒性評価モデル、神経毒性評価モデル、肝臓毒性評価モデル、腎臓毒性評価モデル、胚発生毒性評価モデル、薬剤開発のための血管新生モデル、癌浸潤モデルのうちのいずれかであること特徴とする請求項16の組織モデル。
【請求項18】
請求項7から12のいずれかの2室型細胞培養チャンバー内に組織モデルを作製する方法であって、以下の工程:
第1室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程;および
培養チャンバーの上下を反転させ、第2室側から、ビトリゲル膜上に細胞を播種し、単層または多層培養する工程
を含むことを特徴とする組織モデルの作製方法。
【請求項19】
以下の工程:
(1)基板上にビトリゲル膜乾燥体が剥離可能なフィルムを敷き、このフィルム上に配置した壁面鋳型内部にハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;
(3)ハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化したハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(4)ハイドロゲル乾燥体を再水和してビトリゲル膜を作製する工程;
(5)ビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、ガラス化したビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(6)フィルムに吸着した状態のビトリゲル膜乾燥体をフィルムとともに基板上から剥離させ、筒状の枠体の一方の開放端面にビトリゲル膜乾燥体側を接着固定する工程;
(7)ビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および
(8)ビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項20】
以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項21】
以下の工程:
(1)基板上に配置した壁面鋳型内部に、支持体を内包したハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル内の自由水の一部を基板と壁面鋳型の間隙から流出させる工程;
(2)壁面鋳型を基板上から除去する工程;
(3)支持体を内包したハイドロゲルを乾燥させて残留する自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(5)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、基板上にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(6)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して基板から剥離させた後、マグネットで挟持した状態で乾燥させることで、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)筒状の枠体の一方の開放端面に、基板から脱離した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を接着固定する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項22】
以下の工程:
(1)容器内部に支持体を内包したハイドロゲルを形成し、これを乾燥させて自由水を除去し、ガラス化した支持体付きハイドロゲル乾燥体を作製する工程;
(2)支持体付きハイドロゲル乾燥体を再水和して、支持体付きビトリゲル膜を作製する工程;
(3)支持体付きビトリゲル膜を再乾燥させて自由水を除去し、容器内にガラス化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(4)支持体付きビトリゲル膜乾燥体を再水和して容器から剥離させた後、フィルム上に載置する工程;
(5)筒状の枠体の一方の開放端面に、再水和され、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を接着固定する工程;
(6)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜を乾燥させて、フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体を作製する工程;
(7)フィルムと重層化した支持体付きビトリゲル膜乾燥体の形状を、枠体の開放端面と略同形状に成形する工程;および
(8)支持体付きビトリゲル膜乾燥体からフィルムを除去する工程
を含むことを特徴とする1室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【請求項23】
請求項19から22のいずれかの方法で製造された1室型細胞培養チャンバーの筒状の枠体に接着固定されたビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体の非接着面側から、前記筒状の枠体と同一の平断面形状からなる別の筒状の枠体の開放端面を当接させて、2つの筒状の枠体同士の間にビトリゲル膜乾燥体または支持体付きビトリゲル膜乾燥体を介在させた状態で枠体同士を互いに連結固定する工程を含むことを特徴とする2室型細胞培養チャンバーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図17】
【図21】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図17】
【図21】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−115262(P2012−115262A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246873(P2011−246873)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(500142028)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(500142028)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
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