説明

細胞培養器および培養状態監視システム

【課題】例えば複数の細胞培養器をインキュベータ内で保管する場合でも、各々の容器内の細胞の種類や継代の履歴などの情報を、読み出し装置などの通信装置を用いて細胞培養器のRFIDタグから容易に取得することができる。
【解決手段】培養すべき細胞および培養液を収容する培養細胞収容部と、前記培養細胞収容部に取り付けられ、所定の通信装置から無線により送信される信号を受信したことに応じて所定の情報を前記通信装置へと送信するRFIDタグと、を備えることを特徴とする細胞培養器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養器および培養状態監視システムに関し、特に、所定の通信装置との間で無線により培養状態等の情報を送受信可能な細胞培養器および培養状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば人工授精細胞などの細胞培養に用いられる細胞培養容器が知られている(例えば特許文献1参照)。このような細胞培養容器は、例えば温度や二酸化炭素濃度が管理されたインキュベータ内で保管される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−6261号公報
【特許文献2】特表2009−533053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、複数の細胞培養容器をインキュベータ内で保管する場合、各々の容器内の細胞の種類や継代の履歴などの情報は、容器に貼り付けられたラベルなどに記入されることが多く、当該情報を確認する場合は、インキュベータ内から所望の容器を探し出してインキュベータから取り出す必要があった。また、インキュベータ内は温度制御がなされているものの、それぞれの細胞培養容器毎の温度バラツキや個々の細胞培養容器の温度履歴などを把握することができなかった。
【0005】
また、近年、細胞培養時の状態を監視するためのシステムも提案されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2に記載のシステムでは、培養する細胞や培地などを格納する培養容器とは別体のキュベット内で測定しているため、培養している細胞の状態を正確に把握できなかった。そこで、培養容器を直接測定する方法が考えられるが、細胞培養においては、特に汚染(コンタミネーション)の問題が懸念される。一方、上記システムのように、培養容器とは別体のキュベットを測定対象とした場合、汚染の可能性は減るものの、培養容器内で汚染が発生した場合、キュベット内で汚染が発生していなければ汚染を検出できないため、細胞培養時の状態を監視する上では不十分であった。そこで、汚染を発生させず清潔状態を保ったまま、連続的に培養されている細胞の状態を監視できる装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、培養すべき細胞および培養液を収容する培養細胞収容部と、前記培養細胞収容部に取り付けられ、所定の通信装置から無線により送信される信号を受信したことに応じて所定の情報を前記通信装置へと送信するRFIDタグと、を備えることを特徴とする細胞培養器を提供する。
【0007】
このような細胞培養器によれば、例えば複数の細胞培養器をインキュベータ内で保管する場合でも、各々の容器内の細胞の種類や継代の履歴などの情報を、読み出し装置などの通信装置を用いて細胞培養器のRFIDタグから容易かつ汚染なく清潔に取得することができる。
【0008】
また、上記細胞培養器は、前記培養液の温度と、炭酸ガス濃度と、酸素濃度と、酸素分圧と、グルコース濃度と、ラクテート濃度と、アンモニア濃度の少なくとも何れか一つ以上を直接又は間接に測定するセンサをさらに備え、前記RFIDタグは、前記センサによる測定結果を含む前記所定の情報を前記通信装置へと送信することが好ましい。
【0009】
これにより、例えば細胞培養器がインキュベータ内に保管されている場合において、細胞培養器をインキュベータから取り出すことなく、細胞培養器内の培養液の温度や細胞培養器の周囲の二酸化炭素濃度など種々の測定値を取得することができる。
【0010】
また、上記細胞培養器において、前記センサは、前記RFIDタグに内蔵されていることが好ましい。
【0011】
これにより、上記センサと当該センサによる測定結果を送信するための構成がRFIDタグに一体化されるので、培養細胞収容部に取り付けられるRFIDタグをより小型化することができる。
【0012】
また、上記細胞培養器において、前記RFIDタグは、前記所定の情報を記憶する記憶部と、前記RFIDタグが前記通信装置からの前記信号を受信したことに応じて前記記憶部に記憶されている前記所定の情報を読み出して前記通信装置へと送信する情報送信部と、を有することが好ましい。また、この場合、前記記憶部は、少なくとも固有の識別コードと前記細胞の継代履歴に関する情報とを含む前記所定の情報を記憶してもよい。
【0013】
これにより、前記RFIDタグの記憶部に細胞培養器の識別コード、細胞培養器内の細胞の種類や継代の履歴、あるいは上記センサによる測定結果などの各細胞培養器の情報を記憶させておき、情報送信部経由で容易に取得することができ、監視者の作業効率も向上する。
【0014】
また、上記細胞培養器において、前記記憶部は、前記通信装置からの前記信号の内容に応じて、記憶する前記所定の情報の内容を書き換え可能であることが好ましい。
【0015】
これにより、例えば上記通信装置に書き込み機能を持たせておき、例えば新たに継代を行った場合や培養する細胞の種類が変わった場合に、上記記憶部に記憶されている細胞の種類や継代の履歴などの情報を容易に更新することができる。更に、培地を交換した日時などのそれまでに発生した状況を正確に把握できるだけでなく、記憶部に蓄積された情報から、次の培地交換の時期を予想や傾向のぶんせきなどをも可能とする。
【0016】
また、上記細胞培養器において、前記RFIDタグは、前記通信装置から送信される電波の一部を直流電流に変換する駆動電流生成部をさらに有し、前記情報送信部は、前記駆動電流生成部において変換された前記直流電流を駆動電流として前記所定の情報を前記通信装置へと送信することが好ましい。
【0017】
これにより、RFIDタグに電池を設けたり、外部電源から電力の供給を受けたりする必要がなく、長期間に渡っての連続監視を可能とする。
【0018】
また、上記細胞培養器は、発光部と受光部とを有し、前記発光部からの光を溶液に透過させて前記受光部で受光することにより、前記溶液の状態を測定する測定ユニットを更に備え、前記測定ユニットは、前記培養細胞収容部と一体に設けられた測定ユニット収容部に収容され、前記通信装置へ測定結果を送信可能とすることが好ましい。また、この場合、RFIDタグは、前記所定の情報を前記測定ユニット経由で前記通信装置へと送信してもよい。
【0019】
これにより、測定ユニットによる培養液の測定結果やRFIDタグに記憶されている情報についても、細胞培養器を取り出すことなく遠隔にて取得することができる。また、測定ユニットが培養細胞収容部と一体に設けられた測定ユニット収容部に収容されていることで、培養液の状態を測定可能としつつ、細胞培養器全体の構造が複雑かつ大型化しない。
【0020】
また、上記細胞培養器は、上記に替えて、上記測定ユニットと同様かつ測定結果の送信機能を有しない測定ユニットを備え、前記RFIDタグが、前記測定ユニットによる測定結果を含む前記所定の情報を前記通信装置へと送信してもよい。
【0021】
これにより、上記と同様に、測定ユニットによる培養液の測定結果を、細胞培養器を取り出すことなく遠隔にて取得することができる。また、測定ユニットが培養細胞収容部と一体に設けられた測定ユニット収容部に収容されていることで、培養液の測定を可能としつつ、細胞培養器全体の構造が複雑かつ大型化しない。
【0022】
また、上記細胞培養器が前記測定ユニットを備える場合、当該測定ユニットは、前記培養液のpHを測定可能であることが好ましい。
【0023】
これにより、測定ユニットによる培養液のpHの測定結果を、細胞培養器を取り出すことなく遠隔にて取得することができ、培地の状態を把握することができる。
【0024】
また、本発明は、他の形態として、培養すべき細胞および培養液を収容する培養細胞収容部と、発光部と受光部とを有し、前記発光部からの光を溶液に透過させて前記受光部で受光することにより、前記溶液の状態を測定する測定ユニットを収容する測定ユニット収容部と、を備える細胞培養器であって、前記測定ユニットの前記発光部と前記受光部との間に、前記培養細胞収容部の一部が位置する形状であることを特徴とする細胞培養器を提供する。発光部から放射される光が上記形状に透過し、受光部により受光されることで、培地と非接触での測定が可能となり、汚染のない清潔な培地の監視を可能とする。
【0025】
ここで、前記形状とは、前記測定ユニットの前記発光部と前記受光部との間に前記培養細胞収容部の一部が突出した形状であってよい。
【0026】
また、前記細胞培養器は更に、前記培養細胞収容部に取り付けられ、通信装置から無線により送信される信号を受信したことに応じて所定の情報を前記通信装置へと送信するRFIDタグを備えることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、さらに他の形態として、上記細胞培養器と、前記RFIDタグへ前記信号を送信することにより前記RFIDタグから前記所定の情報を受信する通信装置と、
を備えることを特徴とする培養状態監視システムを提供する。また、このような培養状態監視システムにおいて、複数の前記細胞培養器を収納するインキュベータを備え、前記通信装置は、前記インキュベータに設けられてもよい。
【0028】
このような培養状態監視システムによれば、例えば複数の細胞培養器をインキュベータ内で保管する場合でも、各々の容器内の細胞の種類や継代の履歴などの情報を読み出し装置などの通信装置を用いて容易に取得・管理することができる。細胞を取得した患者の取り違え、培養した部位の誤認などの人的ミスの軽減にも寄与する。
【0029】
また、上記培養状態監視システムにおいて、前記通信装置は、前記測定ユニット又は前記センサによる測定結果に応じてアラーム信号を生成することが好ましい。
【0030】
これにより、測定結果に異常な値が含まれている場合などに、その状態を管理担当者がアラームによって容易に認識することができ、汚染の拡大を未然に防ぐことを可能とする。
【0031】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る培養状態監視システム10の概略構成図である。
【図2】細胞培養器100の斜視図である。
【図3】RFIDタグ130の平面図である。
【図4】RFIDタグ130の構成例を示すブロック図である。
【図5】測定ユニット120による測定結果を取得可能なRFIDタグ140の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0034】
図1は、本発明の実施形態に係る培養状態監視システム10の概略構成図である。培養状態監視システム10は、複数の細胞培養器100が収納されたインキュベータ200と、インキュベータ200内に設けられた培養状態監視装置300と、複数の細胞培養器100の各々に取り付けられた後述のRFIDタグ130に記憶された情報の読み出しおよび書き換えが可能なデータ管理装置400と、を備え、収納している細胞の種類や継代の履歴などが異なる複数の細胞培養器100を監視可能なシステムである。
【0035】
図2は、細胞培養器100の分解斜視図である。細胞培養器100は、培養細胞収容部111および測定ユニット収容部112で構成される培養器本体110と、pH測定ユニット120と、培養器本体110の底面における培養細胞収容部111の裏側にあたる位置に取り付けられたRFIDタグ130とで構成されている。なお、本例の細胞培養器100では、本発明における測定ユニットの一例として培養液のpHの測定が可能なpH測定ユニット120を備えるが、細胞培養器100は、pH測定ユニット120とともに、あるいはpH測定ユニット120に替えてpH以外の測定が可能な測定ユニットを備えてもよい。
【0036】
培養器本体110において、培養細胞収容部111は、細胞培養器100で培養する細胞および培養液を収容する。測定ユニット収容部112は、培養細胞収容部111に隣接して培養細胞収容部111と一体に設けられており、pH測定ユニット120を収容する。
【0037】
pH測定ユニット120は、pH測定ユニット120の各部へ駆動電力を供給するバッテリー121と、各々が異なる波長の光で発光する複数(本例では3つ)のLED122と、LED122の点灯制御などの機能を担う回路基板123と、LED122から照射される光を受光する受光素子124と、受光素子124からの受光出力から培養液のpHを算出する信号処理回路部125と、培養液のpHの測定結果を送信する送信部126を有する。なお、培養細胞収容部111内の培養液には、pH指示薬が含まれており、3つのLED122のうちの1つは、この指示薬に対してほとんど吸光性を示さない波長で発光するオフセット用のLEDである。
【0038】
また、他の2つのLED122の一方は、培養液のpHが所定の管理幅の中央値から酸性に振れるに従って上記指示薬に対して顕著な吸光性を示す波長で発光し、他方は、培養液のpHが当該中央値からアルカリ性に振れるに従って上記指示薬に対して顕著な吸光性を示す波長で発光する。なお、上記指示薬には、例えばフェノールレッドが好ましく用いられる。また、指示薬にフェノールレッドを用いた場合、3つのLED122のうちの上記オフセット用のLEDは、例えば700nm帯で発光する。また、残りの2つのLEDは、それぞれ558nm帯および430nm帯で発光する。
【0039】
pH測定ユニット120によって培養液のpHを測定する際には、まず、オフセット用のLEDを点灯させて培養液の吸光性について校正係数を求める。ここで、培養液の温度を変化させて校正係数を当該温度の関数として求めてもよい。次に、残りの2つのLEDを所定間隔で交互に点灯させて、培養細胞収容部111における測定ユニット収容部112側に突出した突出部113内の培養液を透過した光を受光素子124で受光する。ここで、pH測定ユニット120のLED122と受光素子124による光軸が培養細胞収容部111の一部(突出部113)を横切るように、突出部113はpH測定ユニット120のLED122との間に位置する形状であるのが望ましい。これによりpH測定ユニット120は細胞が培養される培養細胞収容部111内の状況を連続的に監視することを可能とする。
【0040】
そして、信号処理回路部125において、受光素子124からの受光出力から各々のLEDの発光波長における吸光度を算出し、予め求めておいた上記指示薬のpHと吸光度との関係および上記校正係数に基づいて培養液のpHを算出する。そして、算出されたpHの値は、測定時間(例えばLEDの発光タイミング)などの測定条件を示す情報と関連付けられた後、送信部126によって培養状態監視装置300へと送信される。なお、送信部126と培養状態監視装置300との間の通信方式は、例えば赤外線(IrDA)通信、Bluetooth、無線LANなどの近距離通信の各方式から選択されるが特に限定されない。このとき、送信部126はRFIDタグに内蔵されたセンサによる測定結果も併せて送信しても良い。
【0041】
図3は、RFIDタグ130の平面図である。また、図4は、RFIDタグ130の構成例を示すブロック図である。RFIDタグ130は、上記のように、細胞培養器100の培養器本体110の底面における培養細胞収容部111の裏側にあたる位置に取り付けられており、図3に示すように、ICチップ131、送受信アンテナ132、およびセンサ部133を有する。
【0042】
センサ部133は、後述の駆動電流生成部136から駆動電流の供給を受けて培養細胞収容部111内の培養液の状態を測定し、情報送信部135へと出力する。本例では、センサ部133は、培養細胞収容部111内の培養液の温度を間接的に測定する温度センサを含む。なお、センサ部133は、さらに、培養細胞収容部111周辺のCO2濃度を測定する炭酸ガスセンサを含んでもよいし、炭酸ガス濃度、酸素濃度、酸素分圧、グルコース濃度、ラクテート濃度、アンモニア濃度などを測定できるセンサであってもよい。また、センサ部133は、目的とする測定項目を正常に計測できる位置に配置されていればよく、例えば壁面や裏側などに測定項目に応じて設けられるのが望ましい。
【0043】
ICチップ131は、図4に示すように、情報送信部135と、駆動電流生成部136と、記憶部137とを有する。情報送信部135は、インキュベータ200内に複数設けられた通信装置350から無線により送信される信号を送受信アンテナ132を介して受信したことに応じて、所定の情報を通信装置350へと送信する。より具体的には、情報送信部135は、例えば、センサ部133による測定結果を送信すべき旨の信号が通信装置350から送信されると、センサ部133による上記測定結果を取得し、送受信アンテナ132を介して当該測定結果を通信装置350へ送信する。また、情報送信部135は、センサ部133による測定結果をpH測定ユニット120の送信部126へ送信し、送信部126が、pH測定ユニット120による測定結果とともに、あるいは情報送信部135からの送信情報のみを通信装置350へ送信しても良い。すなわち、RFIDタグ130は、pH測定ユニット120の送信部126経由で自身が記憶する情報を通信装置350へ送信しても良い。なお、送信部126から通信装置35へは有線で通信が行われても良い。
【0044】
また、情報送信部135は、例えば、記憶部137に記憶された情報を送信すべき旨の信号が通信装置350から送信されると、記憶部137に記憶された情報を取得し、送受信アンテナ132を介して当該情報を通信装置350へ送信する。また、情報送信部135は、記憶部137に記憶された情報を書き換えるべき旨の信号が通信装置350から送信されると、記憶部137に記憶された情報を当該信号の内容に応じて書き換える。
【0045】
記憶部137は、電気的手段により書き換え可能なメモリであり、細胞培養器100固有のID(識別コード)、培養細胞収容部111内の細胞に関する情報(例えば、細胞を取り出した患者に関する情報、細胞の継代履歴など)、および、細胞培養器100内の細胞が培養工程のどの段階のものであるかなどの情報を記憶するとともに、情報送信部135によって記憶する内容が適宜書き換えられる。
【0046】
この記憶部137には、例えばEEPROM(ELECTRICALLY Erasable Programmable Read Only Memory)が好ましく用いられるが、これに限られず、例えば強誘電体メモリであるFRAM(Ferroelectric Ramdom Access Memory)などであってもよい。
【0047】
なお、記憶部137が記憶する情報を書き換え不可とする場合は、記憶部137にはマスクROM(Read Only Memory)などが好ましく用いられる。また、記憶部137は、センサ部133による上記測定結果を記憶してもよい。
【0048】
駆動電流生成部136は、通信装置350から送信される信号電波の一部を直流電流に変換してセンサ部133、情報送信部135、および記憶部137へこれら各部の駆動電流として供給する。なお、RFIDタグ130は、本例の駆動電流生成部136に替えて小型の電池などを備えてもよい。
【0049】
培養状態監視装置300は、細胞培養器100のRFIDタグ130へ送信すべき信号を、対応する通信装置350へ出力する。また、培養状態監視装置300は、通信装置350がRFIDタグ130から受信した信号を取得する。なお、細胞培養器100のRFIDタグ130から送信された信号の内容は、インキュベータ200の外部に設置された制御装置210の表示パネル220に表示される。また、培養状態監視装置300から通信装置350経由で細胞培養器100のRFIDタグ130へ送信する信号の内容は、制御装置210の操作ボタン230などによって設定あるいは変更が可能である。
【0050】
培養状態監視装置300は、RFIDタグ130からの信号又はpH測定ユニット120からの信号に異常があると判断した場合、アラーム信号を生成し、自らアラームを出力しても良いし、後述のデータ管理装置400で出力しても良いし、さらには担当者の携帯電話などへアラームを出力しても良い。培養状態監視装置300がこのようなアラーム出力機能を備えることにより、例えばpH測定ユニット120やセンサ部133による測定結果に異常な値が含まれている場合などに、その状態を担当者がアラームによって容易に認識することができる。
【0051】
データ管理装置400は、装置本体410と、キーボード420と、マウス430と、ディスプレイ440と、リーダ/ライタ450とで構成される。インキュベータ200から取り出した細胞培養器100を、RFIDタグ130が取り付けられた面をリーダ/ライタ450の非接触通信面452と対向するようにリーダ/ライタ450にかざすことにより、RFIDタグ130から細胞培養器100で培養する細胞に関する情報や上記の各種測定結果などの情報を読み出すことができる。また、このとき、リーダ/ライタ450によって、RFIDタグ130へ新たに情報を書き込むこともできる。
【0052】
なお、RFIDタグ130へ書き込む情報の内容は、キーボード420およびマウス430などの入力装置を用いて設定あるいは変更が可能である。また、リーダ/ライタ450によってRFIDタグ130から取得した上記情報の内容は、ディスプレイ440に表示される。また、アラーム信号が生成されていた場合、アラームを表示しても良い。
【0053】
このように、本実施形態に係る培養状態監視システム10によれば、例えば複数の細胞培養器100をインキュベータ200内で保管している場合でも、各々の細胞培養器100内の細胞の種類や継代の履歴などの情報をインキュベータ200内の通信装置350経由で容易に取得できるので、複数の細胞培養器100で細胞の培養を進めながら、その培養環境や履歴を容易に管理することができる。本発明に係る細胞培養器やシステムは、インキュベータ内における監視のみに限定されず、分注工程や播種工程などの細胞培養に必要な他の工程のいずれにおいても適用可能である。
【0054】
また、本例の培養状態監視システム10に用いられる細胞培養器100に取り付けられたRFIDタグ130には、培養液の温度などを測定するセンサが内蔵されているので、温度センサなどを別体で設ける場合と比べて、細胞培養器100全体をより小型化することができる。また、RFIDタグ130の記憶部137に記憶された情報は必要に応じて書き換えが可能であるので、例えば継代を行った場合や培養する細胞の種類が変わった場合に、上記記憶部137に記憶されている細胞の種類や継代の履歴などの情報を容易に更新することができる。
【0055】
なお、本例では、pH測定ユニット120は、培養液のpHの測定結果を自らが備える送信部126によって送信するが、例えば図5に構成例をブロック図で示すように、pH測定ユニット120によるpHの測定結果をRFIDタグ130の記憶部137に記憶させてもよい。本例の場合、pH測定ユニット120による測定結果は、情報送信部135によって、他の情報とともに記憶部137から読み出されて通信装置350へ送信される。本例では、pH測定ユニット120に送信部126を設ける必要がないので、pH測定ユニット120をより小型化することができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0057】
10…培養状態監視システム
100…細胞培養器
110…培養器本体
111…培養細胞収容部
112…測定ユニット収容部
113…突出部
120…pH測定ユニット(測定ユニット)
121…バッテリー
122…LED
123…回路基板
124…受光素子
125…信号処理回路部
126…送信部
130…RFIDタグ
131…ICチップ
135…情報送信部
136…駆動電流生成部
137…記憶部
132…送受信アンテナ
133…センサ部
200…インキュベータ
210…制御装置
220…表示パネル
230…操作ボタン
300…培養状態監視装置
350…通信装置
400…データ管理装置
410…装置本体
420…キーボード
430…マウス
440…ディスプレイ
450…リーダ/ライタ(通信装置)
452…非接触通信面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養すべき細胞および培養液を収容する培養細胞収容部と、
前記培養細胞収容部に取り付けられ、通信装置から無線により送信される信号を受信したことに応じて所定の情報を前記通信装置へと送信するRFIDタグと、
を備えることを特徴とする細胞培養器。
【請求項2】
前記培養液の温度および炭酸ガス濃度と、酸素濃度と、酸素分圧と、グルコース濃度と、ラクテート濃度と、アンモニア濃度の少なくとも何れか一つ以上を直接又は間接に測定するセンサをさらに備え、
前記RFIDタグは、前記センサによる測定結果を含む前記所定の情報を前記通信装置へと送信することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養器。
【請求項3】
前記センサは、前記RFIDタグに内蔵されていることを特徴とする請求項2に記載の細胞培養器。
【請求項4】
前記RFIDタグは、
前記所定の情報を記憶する記憶部と、
前記通信装置からの前記信号を受信したことに応じて前記記憶部に記憶されている前記所定の情報を読み出して前記通信装置へと送信する情報送信部と、
を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞培養器。
【請求項5】
前記記憶部は、少なくとも固有の識別コードと前記細胞の継代履歴に関する情報とを含む前記所定の情報を記憶することを特徴とする請求項4に記載の細胞培養器。
【請求項6】
前記記憶部は、前記通信装置からの前記信号の内容に応じて、記憶する前記所定の情報の内容を書き換え可能であることを特徴とする請求項4または5に記載の細胞培養器。
【請求項7】
前記RFIDタグは、
前記通信装置から送信される電波の一部を直流電流に変換する駆動電流生成部をさらに有し、
前記情報送信部は、前記駆動電流生成部において変換された前記直流電流を駆動電流として前記所定の情報を前記通信装置へと送信することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞培養器。
【請求項8】
発光部と受光部とを有し、前記発光部からの光を溶液に透過させて前記受光部で受光することにより、前記溶液の状態を測定する測定ユニットを更に備え、
前記測定ユニットは、前記培養細胞収容部と一体に設けられた測定ユニット収容部に収容され、前記通信装置へ測定結果を送信することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞培養器。
【請求項9】
RFIDタグは、前記所定の情報を前記測定ユニット経由で前記通信装置へと送信することを特徴とする請求項8に記載の細胞培養器。
【請求項10】
発光部と受光部とを有し、前記発光部からの光を溶液に透過させて前記受光部で受光することにより、前記溶液の状態を測定する測定ユニットを更に備え、
前記測定ユニットは、前記培養細胞収容部と一体に設けられた測定ユニット収容部に収容され、前記RFIDタグは、前記測定ユニットによる測定結果を含む前記所定の情報を前記通信装置へと送信することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞培養器。
【請求項11】
前記測定ユニットは、前記培養液のpHを測定可能であることを特徴とする請求項8から10のいずれか一項に記載の細胞培養器。
【請求項12】
培養すべき細胞および培養液を収容する培養細胞収容部と、
発光部と受光部とを有し、前記発光部からの光を溶液に透過させて前記受光部で受光することにより、前記溶液の状態を測定する測定ユニットを収容する測定ユニット収容部とを備える細胞培養器であって、
前記測定ユニットの前記発光部と前記受光部との間に、前記培養細胞収容部の一部が位置する形状であることを特徴とする細胞培養器。
【請求項13】
前記形状とは、前記測定ユニットの前記発光部と前記受光部との間に前記培養細胞収容部の一部が突出した形状であること
を特徴とする請求項12に記載の細胞培養器。
【請求項14】
前記細胞培養器は更に、
前記培養細胞収容部に取り付けられ、通信装置から無線により送信される信号を受信したことに応じて所定の情報を前記通信装置へと送信するRFIDタグを備えることを特徴とする請求項12または13に記載の細胞培養器。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の細胞培養器と、
前記RFIDタグへ前記信号を送信することにより前記RFIDタグから前記所定の情報を受信する通信装置と、
を備えることを特徴とする培養状態監視システム。
【請求項16】
複数の前記細胞培養器を収納するインキュベータを備え、
前記通信装置は、前記インキュベータに設けられていることを特徴とする請求項15に記載の培養状態監視システム。
【請求項17】
前記通信装置は、前記測定ユニット又は前記センサによる測定結果に応じてアラーム信号を生成することを特徴とする請求項15または16に記載の培養状態監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−170358(P2012−170358A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33372(P2011−33372)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【Fターム(参考)】