説明

細胞培養基板およびそれを用いた細胞シート付細胞培養基板

【課題】本発明は、細胞を安定的に培養することができる細胞培養基板を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、支持基板と、上記支持基板上に形成され、粘着剤を含む粘着剤層と、上記粘着剤層上に形成され、細胞接着層を含む細胞培養層と、上記粘着剤層の露出表面を覆うように形成され、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐ保護層と、を有することを特徴とする細胞培養基板を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を安定的に培養することができる細胞培養基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養に用いられる細胞培養基板としては、基材の一方の表面に細胞接着層が形成され、基材の他方の表面に粘着剤層が形成されている細胞培養用シートが開示されている(特許文献1)。細胞培養用シートは、細胞培養用シートから所望の形状の細胞培養用シートを切り出し、粘着剤層表面に積層されたセパレータを剥がした後、シャーレ等の支持基板に露出した接着層を貼り合わせることで、支持基板/粘着剤層/基材/細胞接着層がこの順で積層された細胞培養基板として用いることができる。
このような細胞培養用シートを用いることにより、支持基板の形状、サイズ等に合わせて、細胞培養用シートを切り出して細胞培養基板を形成することができるため、細胞培養基板の形成の自由度が高く、また、容易に細胞培養基板を形成することができるという利点がある。
【0003】
しかしながら、このような細胞培養用シートを用いて形成された細胞培養基板は、細胞を安定的に培養する点について検討がなされていなかった。また、このような細胞培養用シートを用いて形成された細胞培養基板は、製品の信頼性という点について未だ検討がなされていなかった。以上のように、製造が容易で、かつ信頼性が高い細胞培養基板の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−98979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、製品としての信頼性が高く、細胞を安定的に培養することができる細胞培養基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記実情の下、研究を重ねた結果、上記粘着剤層の露出した側面から粘着剤層を構成する構成材料から溶出成分が揮発して容器中に充満したり、また、培地中に溶出していることをつきとめた。その溶出成分は、使用時に臭気を伴うことがあり使用者に製品に対する不信を与えることが危惧され、また培養される細胞にも影響を与えていることを見出し、本発明を完成させるに至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明は、支持基板と、上記支持基板上に形成され、粘着剤を含む粘着剤層と、上記粘着剤層上に形成され、細胞接着層を含む細胞培養層と、上記粘着剤層の露出表面を覆うように形成され、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐ保護層と、を有することを特徴とする細胞培養基板を提供する。
【0008】
本発明によれば、上記保護層を有することにより、上記粘着剤層に含まれる溶出成分の培地中への溶出を防止することができる。そのため、細胞をより安定的に培養することができる。
【0009】
本発明においては、上記保護層の表面が、細胞接着阻害性を有することが好ましい。上記保護層の表面が細胞接着阻害性を有することにより、上記細胞培養層上で形成されるシート状の細胞(以下、細胞シートとする場合がある。)が、上記支持基板への接触および接着を防ぐことができるからである。このため、上記細胞培養層から培養した細胞シートを細胞培養層から容易に剥離できるものとすることができるからである。
【0010】
本発明においては、上記保護層が、上記細胞培養層の側面を覆うように形成されていることが好ましい。細胞シートを容易に剥離できるものとすることができるからである。
【0011】
本発明においては、上記保護層が、上記細胞培養層の上面の一部を覆うように形成されていることが好ましい。細胞シートを容易に剥離できるものとすることができるからである。また、細胞シートを任意の形状とすることが容易だからである。
【0012】
本発明は、上述の細胞培養基板と、上記細胞培養層上に形成された細胞シートと、を有することを特徴とする細胞シート付細胞培養基板を提供する。
【0013】
本発明によれば、上記細胞培養基板を含むことにより、安定的に培養された細胞シートを有するものとすることができる。
【0014】
本発明は、上述の細胞培養基板上に、細胞を播種し培養することにより細胞シートを形成する細胞シート形成工程を有することを特徴とする細胞シート付細胞培養基板の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、上記細胞培養基板を用いることにより、安定的に細胞シートを形成することができる。
【0016】
本発明は、上述の細胞シート付細胞培養基板から細胞シートを剥離する剥離工程を有することを特徴とする細胞シートの製造方法を提供する。
【0017】
本発明によれば、上記細胞培養基板を用いることにより、安定的に培養された細胞シートを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、細胞を安定的に培養することができる細胞培養基板を提供できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の細胞培養基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の細胞培養基板の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の細胞培養基板の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の細胞培養基板の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の細胞培養基板の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の細胞培養基板の他の例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の細胞培養基板の他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の細胞培養基板の形成方法の一例を示す工程図である。
【図9】本発明の細胞シート付細胞培養基板の一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図11】本発明の細胞シートの製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、細胞培養基板、それを用いた細胞シート付細胞培養基板、細胞シート付細胞培養基板の製造方法および細胞シートの製造方法に関するものである。
以下、本発明の細胞培養基板、細胞シート付細胞培養基板、細胞シート付細胞培養基板の製造方法および細胞シートの製造方法について詳細に説明する。
【0021】
A.細胞培養基板
まず、本発明の細胞培養基板について説明する。
本発明の細胞培養基板は、支持基板と、上記支持基板上に形成され、粘着剤を含む粘着剤層と、上記粘着剤層上に形成され、細胞接着層を含む細胞培養層と、上記粘着剤層の露出表面を覆うように形成され、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐ保護層と、を有することを特徴とするものである。
【0022】
このような本発明の細胞培養基板について図を参照して説明する。図1は、本発明の細胞培養基板の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の細胞培養基板10は、支持基板1と、上記支持基板1上に形成され、粘着剤を含む粘着剤層2と、上記粘着剤層2上に形成され、細胞接着層3を含む細胞培養層4と、上記粘着剤層2の露出表面を覆うように形成され、上記粘着剤層2からの溶出成分の溶出を防ぐ保護層5と、を有するものである。
【0023】
本発明によれば、上記保護層を有することにより、上記粘着剤層に含まれる溶出成分の培地中への溶出を防止することができる。そのため、細胞をより安定的に培養することができる。ここで、一般的な粘着剤層には、溶剤等、細胞培養に悪影響を与える溶出成分が比較的多く含まれる傾向がある。したがって、このような粘着剤層に対して、上記保護層を形成することで、細胞を安定的に培養可能なものとすることができる。
また、このようなことから、支持基板、粘着剤層、および細胞培養層として、粘着剤層および細胞培養層を含む細胞培養用シートから、所望のサイズの細胞培養用シートを切り出し、支持基板上に粘着剤層を介して接着させたものを用いる場合であっても、細胞を安定的に培養可能なものとすることができる。
【0024】
本発明の細胞培養基板は支持基板、粘着剤層、細胞培養層および保護層を少なくとも有するものである。
以下、本発明の細胞培養基板の各構成について詳細に説明する。
【0025】
1.粘着剤層
本発明に用いられる粘着剤層は、上記支持基板上に形成され、粘着剤を含むものである。
また、本発明における粘着剤層は溶出成分を含むもの、すなわち、培地中に粘着剤層を構成する粘着材料が溶出するものである。
【0026】
ここで、溶出成分を含むとは、細胞培養時に粘着材料が培地中に溶出するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、純水中での粘着剤層の質量減少率が、2%以上であることをいうものである。上記質量減少率が上述の範囲内であることにより、細胞培養に悪影響を与える恐れが高くなり、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
本発明においては、なかでも10%以上であることが好ましい。
なお、上記質量減少率は、プラスチックフィルム上に形成された15cm×15cm×0.1cmの粘着剤層を、37℃の純水中で、粘着剤層が上となるよう水中に沈めた状態で、24時間浸漬させた後の質量の減少率をいうものである。
【0027】
また、本発明における溶出成分、すなわち、粘着剤層から溶出する粘着材料としては、細胞培養時に粘着剤層から溶出するものであれば特に限定されるものではなく、培地中に溶出し溶解するもののみならず、培地中に溶解しない揮発成分等も含むものである。
具体的には、溶剤、粘着剤およびそのモノマー成分、その他の成分等を挙げることができる。本発明においては、なかでも溶剤もしくは粘着剤のモノマー成分を含むものであることが好ましく、特に、溶剤もしくは粘着剤のモノマー成分を主成分として含むものであることが好ましい。培地中に溶出し易く、さらに、培地中に溶出した場合、細胞培養に悪影響を与える可能性が高いものであるため、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
なお、主成分として含むとは、溶出成分の50質量%以上であることをいうものであり、なかでも、75質量%以上であることをいうものである。
【0028】
(1)構成材料
本発明における粘着剤層を構成する粘着材料としては、粘着剤を含むものであれば特に限定されるものではないが、通常、溶剤を含むものである。
【0029】
本発明に用いられる粘着剤としては、ポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等を挙げることができ、なかでもアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を好ましく用いることができる。上記支持基板および細胞培養層の密着性をより優れたものとすることができるからである。また、培地中に溶出し易く、さらに、培地中に溶出した場合、細胞培養に悪影響を与える可能性が高いものであるため、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
【0030】
本発明に用いられる粘着剤は、低分子成分、すなわち、低分子の粘着剤または粘着剤のモノマー成分等を含むことが好ましい。粘着剤が培地に溶出し易いものとなるため、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
なお、本発明における低分子成分とは、分子量が、1000以下の範囲内の有機物を指すものである。
【0031】
本発明に用いられる溶剤としては、上記粘着剤または上記粘着剤を形成可能なモノマー成分を均一に溶解または分散することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、ジクロルメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
本発明においては、なかでも、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルムであることが好ましい。上記粘着剤等を均一に溶解または分散することができるからである。また、培地中に溶出し易く、さらに、培地中に溶出した場合、細胞培養に悪影響を与える可能性が高いものであるため、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
【0032】
本発明における溶剤の含有量としては、粘着剤層を所望の粘着性を有するものとすることができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、粘着剤層中に1質量%以上であることが好ましく、なかでも5質量%〜20質量%の範囲内であることが好ましい。上記範囲内であることにより、上記粘着剤層を粘着性に優れたものとすることができるからである。また、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
【0033】
本発明における粘着剤層は、粘着剤を少なくとも含むものであるが、必要に応じてレベリング剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、増感剤、光重合開始剤等の添加剤およびその残渣や、バインダー樹脂等のその他の成分を含むものであっても良い。
【0034】
本発明に用いられる光重合開始剤としては、一般的なものを用いることができるが、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、4,4´−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4´−ジメチルアミノベンゾフェノン、2−エチルアントラキノン、フェナントレン等の芳香族ケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル類、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2,4,5−トリアリールイミダゾール2量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メチルフェニル)イミダゾール2量体、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、2−トリクロロメチル−5−スチリル−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−(p−シアノスチリル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−(p−メトキシスチリル)−1,3,4−オキサジアゾール等のハロメチルチアゾール化合物、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−p−メトキシスチリル−S−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−(1−p−ジメチルアミノフェニル−1,3−ブタジエニル)−S−トリアジン、2−トリクロロメチル−4−アミノ−6−p−メトキシスチリル−S−トリアジン、2−(ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−S−トリアジン、2−(4−エトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−S−トリアジン、2−(4−ブトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−S−トリアジン等のハロメチル−S−トリアジン系化合物、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン、1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、ベンジル、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4´−メチルジフェニルサルファイド、ベンジルメチルケタール、ジメチルアミノベンゾエート、P−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2−n−ブチキシエチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、2−クロロチオキサントン、2,4ジエチルチオキサントン、2,4ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(o−アセチルオキシム)、4−ベンゾイル−メチルジフェニルサルファイド、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタノン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタノン、α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパノン、1,2−オクタジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−,2−(o−ベンゾイルオキシム)]等が挙げられる。本発明では、これらの重合開始剤を単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
本発明用いられるバインダー樹脂としては、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレンや、ポリエチレングリコール、MPCポリマー(商品名)等の両性イオン高分子等を挙げることができる。
【0036】
(2)粘着剤層
本発明に用いられる粘着剤層の厚みとしては、上記支持基板および細胞培養層を所望の強度で接着させることができるものであれば特に限定されるものではないが、10μm〜300μmの範囲内であることが好ましく、なかでも20μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。上記厚みが上述の範囲内であることにより、上記支持基板および細胞培養層を安定的に接着させることができるからである。また、上記厚みが上述の範囲内であることにより、溶出成分が多くなるため、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
【0037】
本発明に用いられる粘着剤層の平面視形状としては、上記支持基板および細胞培養層を所望の強度で接着させることができるものであれば特に限定されるものではなく、多角形状や円形状等、任意の形状とすることができる。また、図2に例示するように、細胞培養層より広いものであっても、狭いものであっても良い。
本発明においては、なかでも、既に説明した図1に示すように、上記細胞培養層と同一形状であることが好ましい。上記細胞培養層を安定的に接着することができるからである。また、支持基板、粘着剤層、および細胞培養層として、粘着剤層および細胞培養層を含む細胞培養用シートから、所望のサイズの細胞培養用シートを切り出したものとすることができ、本発明の細胞培養基板を容易形成可能なものとすることができるからである。
なお、図2中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0038】
本発明に用いられる粘着剤層の形成方法としては、上記粘着剤層を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、上記粘着剤または上記粘着剤を形成可能なモノマー成分を含む粘着剤層形成用塗工液を上記支持基板または細胞培養層上に塗布し、硬化させる方法を挙げることができる。
【0039】
本発明における粘着剤層形成用塗工液としては、上記粘着剤または上記粘着剤を形成可能なモノマー成分を含むものであれば特に限定されるものではないが、溶剤を含むことが好ましい。上記粘着剤層を均一な厚みで形成することが容易となるからである。また、本発明においては、上記粘着剤層の露出表面が上記保護層により覆われていることにより、溶剤が残存した場合であっても、細胞培養層上での細胞培養への悪影響を抑制することができ、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
【0040】
本発明における粘着剤層形成用塗工液の塗布方法としては、上記粘着剤層を所望の厚みで形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、リバースコート法、リバースグラビアコート法、バーコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ダイコート法などの任意の塗布方式を適宜、単独または組み合わせて適用することができる。
【0041】
2.保護層
本発明に用いられる保護層は、上記粘着剤層の露出表面を覆うように形成され、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐものである。
【0042】
本発明における保護層の上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐバリア性としては、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐことができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、プラスチックフィルム上に形成された15cm×15cm×0.1cmの粘着剤層の露出した全表面に保護層を形成し、37℃の純水中で、プラスチックフィルムに対して保護層で覆われた粘着層が上となるよう水中に沈めた状態で、24時間浸漬させた後の質量の減少率を1%以下とするものであることが好ましく、なかでも、0.5%以下であることが好ましく、特に、0%とするものであることが好ましい。保護層としての機能をより効果的に発揮することができるからである。
【0043】
(1)構成材料
本発明に用いられる保護層形成材料としては、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐことができるバリア性を有するものであれば特に限定されるものではなく、無機材料であっても有機材料であっても良い。
本発明においては、なかでも、有機材料であることが好ましい。塗布等により容易に保護層を形成することができるからである。
【0044】
このような有機材料としては、所望のバリア性を有するものであれば良く、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリオレフィン、スチロール樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン樹脂、ポリアレート樹脂、ポリアセタール樹脂、スチレン−イソプレンゴム、フッ素系樹脂、シクロオレフィン樹脂、シクロオレフィンコポリマー樹脂、アガロース等の樹脂材料を含むものを用いることができる。
本発明においては、なかでも、シリコーン樹脂、ポリエチレングリコール、アガロースを含むものであることが好ましく、特に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含むものであることが好ましい。シリコーン樹脂、ポリエチレングリコール、アガロース等は細胞接着阻害性を有し、上記保護層に細胞接着阻害性を付与できるからである。また、その結果、上記細胞培養層上で培養された細胞シートが、保護層や支持基板に接着することを抑制することができ、上記細胞シートを容易に剥離することができるからである。また、PDMSは、細胞接着阻害性に優れ、溶出成分が少なく、形成が容易であるからである。
【0045】
本発明に用いられる無機材料としては、所望のバリア性を有するものであれば良く、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の酸化物、窒化ケイ素等の窒化物、窒化酸化ケイ素等の窒化酸化物等を含むものを用いることができる。
【0046】
本発明における保護層は、所望のバリア性を発揮できる範囲内で、溶剤、添加剤やバインダー樹脂を含むものであっても良い。このような溶剤、添加剤およびバインダー樹脂としては、上記「1.粘着剤層」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0047】
本発明に用いられる溶剤の含有量としては、所望のバリア性を発揮できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、具体的には、保護層中に1質量%以下であることが好ましく、なかでも0.5質量%以下であることが好ましい。上記含有量が上記範囲であることにより、溶出成分の溶出の少ないものとすることができ、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
【0048】
また、本発明に用いられる保護層形成材料に含まれる低分子成分の含有量としては、所望のバリア性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、粘着剤層中に1質量%以下であることが好ましく、なかでも0.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、特に0質量%であることが好ましい。上記含有量が上記範囲であることにより、溶出成分の溶出の少ないものとすることができ、本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
【0049】
(2)保護層
本発明における保護層は、上記粘着剤層の露出表面を覆うように形成され、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐものである。
【0050】
本発明における保護層の純水中での質量減少率としては、所望のバリア性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、1%以下であることが好ましく、なかでも、0.5%以下であることが好ましい。上記質量減少が上述の範囲内であることにより、保護層としての機能をより効果的に発揮することができるからである。なお、質量減少率の測定方法は、上記「1.粘着剤層」の項に記載の内容と同様の方法を用いることができる。
【0051】
本発明における保護層表面の細胞に対する接着性としては、所望のバリア性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、保護層の表面が細胞接着阻害性を有していることが好ましい。上記保護層の表面が細胞接着阻害性を有することにより、上記細胞培養層上で形成される細胞シートが、上記支持基板への接触および接着を防ぐことができるからである。このため、上記細胞培養層から培養した細胞シートを細胞培養層から容易に剥離できるものとすることができるからである。
ここで、本発明における保護層表面が細胞接着阻害性を有しているとは、細胞が接着、伸展しにくく、細胞接着伸展率が低い状態であることをいうものである。本発明において、このような細胞接着伸展率が低い状態としては、具体的には、上記細胞接着伸展率が5%以下である状態とすることができる。本発明においては、なかでも2%以下であることが好ましい。安定的に細胞の接着を防ぐことができるからである。
【0052】
なお、本発明における細胞接着伸展率は、播種密度が4000cells/cm以上30000cells/cm未満の範囲内でウシ血管内皮細胞を播種し、37℃インキュベーター内(CO濃度5%)に保管し、14.5時間培養した時点で接着伸展している細胞の割合({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))を表すものである。
また、上記細胞の播種は、10%FBS(血清)入りDMEM培地に懸濁させて保護層上に播種し、その後、上記細胞ができるだけ均一に分布するよう、上記細胞が播種された保護層をゆっくりと振とうすることにより行うものである。
さらに、細胞接着伸展率の測定は、測定直前に培地交換を行って接着していない細胞を除去した後に行う。また、細胞接着伸展率の測定個所としては、細胞の存在密度が特異的になりやすい箇所(例えば、存在密度が高くなりやすい所定領域の中央、存在密度が低くなりやすい所定領域の周縁)を除いて測定を行うものである。
【0053】
また、細胞接着性を有しているとは細胞が接着、伸展しやすく、細胞接着伸展率が高い状態であることをいうものである。本発明において、このような細胞接着伸展率が高い状態としては、具体的には、細胞接着伸展率が60%以上である状態とすることができる。
本発明においては、なかでも、80%以上であることが好ましい。
【0054】
本発明における保護層の表面を細胞接着阻害性を有するものとする方法としては、上述のように、保護層形成材料として細胞接着阻害性を有するものを用いる方法や、保護層の表面に細胞接着阻害材料からなる細胞接着阻害層を形成する方法や、上記細胞接着阻害材料を上記保護層形成材料の一部として添加する方法等を挙げることができる。
【0055】
本発明において用いられる細胞接着阻害材料としては、細胞接着阻害性を有するものであれば特に限定されるものではなく、培養する細胞の種類により異なるものであるが、例えば、水和能の高い材料を用いることができる。水和能の高い材料を細胞接着阻害材料として用いた場合には、細胞接着阻害材料の周りに水分子が集まった水和層が形成される。通常、このような水和能の高い物質は水分子との親和性の方が細胞との親和性より高いことから、細胞は上記水和能の高い材料と接着することができず、細胞との接着性が低いものとなるのである。ここで、上記水和能とは、水分子と水和する性質をいい、水和能が高いとは、水分子と水和しやすいことをいうこととする。
本発明において水和能が高く細胞接着阻害材料として用いられる材料としては、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等を用いたエチレングリコール系材料や、ベタイン構造等を有する両性イオン材料、MPCポリマー等のリン脂質材料等が挙げられる。
【0056】
また、上記細胞接着阻害材料として、撥水性または撥油性を有する材料や、超親水性を有する材料も用いることができる。
細胞接着阻害材料の撥水性や撥油性、または超親水性によって、細胞と細胞接着阻害材料との間における相互作用を小さいものとすることができ、細胞との接着性を低いものとすることができるからである。
上記撥水性または撥油性を有する材料としては、例えば撥水性または撥油性の有機置換基を有するものを用いることができ、具体的にはゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等や撥水性または撥油性の有機置換基を有する界面活性剤も用いることができる。
オルガノポリシロキサンとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーンを挙げることができる。
上記界面活性剤としては、例えば、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
さらに上記超親水性を有する材料としては、エネルギー照射に伴う光触媒の作用等によって、上記オルガノポリシロキサン等の有機置換基を分解したもの等が挙げられる。
また、デシルメトキシシランなどの長鎖アルキル系材料、フルオロアルキルシランなどのフッ素系材料を挙げることができる。
また、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミドなどの親水性材料、さらに、BSAタンパク、アガロース等も用いることができる。
【0057】
本発明に用いられる保護層の形成個所としては、上記粘着剤層の露出表面を覆うものであれば特に限定されるものではない。
ここで、上記粘着剤層の露出表面を覆うとは、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐことができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、上記粘着剤層の露出表面の80%以上を覆うものであり、なかでも本発明においては、90%以上を覆うものであることが好ましく、なかでも100%覆うもの、すなわち上記粘着剤層の全露出表面を覆うものであることが好ましい。上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を安定的に防ぐことができるからである。
なお、上記粘着剤層の露出表面とは、粘着剤層のうち、上記支持基板および細胞培養層により覆われている表面以外の表面を指すものである。
【0058】
また、本発明における保護層の形成個所としては、上記粘着剤層以外に、図3に例示するように、上記細胞培養層の側面を含むもの、すなわち、上記保護層が上記細胞培養層の側面を覆うように形成されていることが好ましい。上記保護層を細胞接着阻害性を有するものとした場合、上記細胞培養層上に形成された細胞シートが、細胞培養層の側面や上面の一部に接着することを抑制でき、上記細胞培養層上で形成した細胞シートを細胞培養層から容易に剥離できるものとすることができるからである。
本発明においては、なかでも、上記保護層が上記細胞培養層の側面および図4に例示するように、上面の一部を含むもの、すなわち、上記保護層が、上記細胞培養層の上面の一部を覆うように形成されていることが好ましい。上記保護層を細胞接着阻害性を有するものとした場合、上記形成個所が上記細胞培養層の上面の一部を含むものであることにより、細胞培養層上に形成された細胞シートが細胞培養層の側面、保護層、支持基板等と接着することを抑制することができ、細胞シートを容易に剥離できるものとすることができるからである。また、細胞シートを任意の形状とすることが容易だからである。
なお、図3および図4中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0059】
なお、本発明において、上記細胞培養層の側面とは、上記細胞培養層の側面のみならず、図5に例示するように粘着剤層と接触していない露出する下面も含むものである。
なお、図5中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0060】
本発明における保護層が、上記細胞培養層の上面の一部を覆うように形成されるものである場合、上記保護層が形成される細胞培養層の上面の箇所としては、上記細胞培養層の外周を囲むものであることが好ましい。上記保護層がこのような箇所に形成されることにより、上記細胞培養層で培養された細胞シートをより安定的に剥離することができるからである。
【0061】
さらに、本発明に用いられる保護層の支持基板上の形成個所としては、上記接着剤層を安定的に覆うことができるものであれば特に限定されるものではなく、既に説明した図1に示すように、上記支持基板の底面の一部を覆うものであっても良く、図6に例示するように上記支持基板の全底面を覆うものであっても良い。上記支持基板の内面の一部を覆うものとすることにより、上記保護層を形成するのに要する材料の量を減らすことができ、コスト低減を図ることができるからである。また、上記支持基板の全内面を覆うものとすることにより、例えば、上記保護層を形成する保護層形成用塗工液を塗工し硬化するのみで容易に保護層を形成できるからである。
なお、図6中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0062】
本発明に用いられる保護層の上記粘着剤層を覆う厚みとしては、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐことができるものであれば特に限定されるものではないが、有機材料を含むものである場合には、1μm以上の範囲内であることが好ましく、なかでも、5μm以上であることが好ましい。上記厚みが上述の範囲内であることにより、上記粘着剤層からの溶出成分の溶出を安定的に防ぐことができるからである。なお、上限については、厚ければ厚い程好ましいため、特に限定するものではなく、細胞培養基板のサイズ等に応じて適宜設定できるものである。
また、本発明に用いられる保護層が無機材料のみからなるものである場合には、1nm〜1μmの範囲内であることが好ましく、なかでも、10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。蒸着法等で安定的に製膜することができるからである。
【0063】
なお、保護層は一層のみからなるものであっても良いが、複数層からなるものであっても良い。具体的には、保護層は、無機材料のみからなる保護層を複数層含むものとすることや、無機材料のみからなる保護層上に、有機材料を含む保護層が積層されたものであっても良い。
なお、このように保護層が複数層からなるものである場合の厚みとしては、各層について、上述の厚みを有するものとすること、すなわち、保護層が、無機材料のみからなる複数の保護層からなる場合には、それぞれの層について、1nm〜1μmの範囲内とすることが好ましい。各層を安定的に形成することができるからである。
【0064】
本発明に用いられる保護層の形成方法としては、上記保護層を所望の位置に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上記保護層形成材料または保護層形成材料を形成可能なモノマー成分を含む保護層形成用塗工液を塗布し硬化させる方法を用いることができる。
また、保護層をパターン状に形成する場合には、マスクを介して塗布する方法や、フォトリソグラフィー法等公知のパターン方法を用いることができる。
【0065】
本発明における保護層形成用塗工液としては、上記保護層形成材料または保護層形成材料を形成可能なモノマー成分を含むものであれば特に限定されるものではなく、溶剤を含むものであっても良いが、溶剤を含まないものであることが好ましい。上記保護層に残留する溶剤を低減でき、溶出成分の少ないものとすることができるからである。
【0066】
本発明における保護層形成用塗工液の塗布方法としては、上記保護層を精度良く形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、上記「1.粘着剤層」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0067】
また、上記保護層が無機材料のみからなるものである場合には、上記保護層の形成方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム(EB)蒸着法や抵抗加熱法等の真空蒸着法、原子層エピタキシ(ALE)法、レーザーアブレーション法、化学気相成長(CVD)法等を用いる方法を好ましく用いることができる。上記保護層に残留する溶剤を低減でき、溶出成分の少ないものとすることができるからである。
【0068】
3.細胞培養層
本発明に用いられる細胞培養層は、上記粘着剤層上に形成されるものであり、少なくとも細胞接着層を含むものである。
【0069】
(1)細胞接着層
本発明における細胞接着層としては、細胞培養時に細胞接着性を示すものであれば特に限定されるものではないが、例えば、細胞接着性を有する細胞接着材料を含むものや、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞接着阻害性を発揮する刺激応答性材料を含むものとすることができる。
本発明においては、なかでも、刺激応答性材料を含むものであることが好ましい。上記細胞接着層で形成された細胞シートを非侵襲的に剥離し、回収することが可能となるからである。
【0070】
このような刺激応答性材料としては、細胞接着性を有し、かつ、刺激により細胞接着阻害性を発現し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば、温度、光、pH、電位および磁力によりそれぞれ細胞接着の度合いが変化する温度応答性材料、光応答性材料、pH応答性材料、電位応答性材料、および磁力応答性材料等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、温度応答性材料であることが好ましい。刺激の付与が容易だからである。
なお、本発明においては、上記各刺激応答性材料の1種類のみまたは2種類以上を組み合わせて用いるものであっても良い。
【0071】
本発明に用いられる刺激応答性材料の細胞接着の度合いの変化としては、少なくとも、細胞接着性を有する状態から細胞接着阻害性を有する状態に変化することができるものであれば特に限定されるものではなく、可逆的に変化するものであっても良く、非可逆的に変化するものであっても良い。
【0072】
本発明に用いられる温度応答性材料としては、温度変化により、細胞接着の度合いが所望量変化するものであれば特に限定されるものではない。
本発明における温度応答性材料の細胞接着性を発揮する温度が、10℃〜45℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、33℃〜40℃の範囲内であることが好ましい。上記温度領域が上述の範囲内であることにより、細胞を安定的に培養することができるからである。
【0073】
本発明における温度応答性材料の細胞接着阻害性を発現する温度が、1℃〜36℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、4℃〜32℃の範囲内であることが好ましい。上記温度領域が上述の範囲内であることにより、細胞へのダメージの少ないものとすることができるからである。
【0074】
このような本発明に用いられる温度応答性材料としては、具体的には、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、及び、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド等を挙げることができ、なかでもPIPAAm、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミドを好ましく用いることができ、特に、PIPAAmを好ましく用いることができる。細胞を好適な培養条件で培養でき、上記細胞の活性を低下させる等の影響の少ない温度条件で細胞接着阻害性を発現するものであるため、上記細胞を安定的に剥離、回収、転写することができるからである。
本発明においては、上記温度応答性材料が1種類の化合物のみからなるものであっても良く、2種類以上含むものであっても良い。
【0075】
本発明に用いられる光応答性材料としては、光照射の有無により細胞接着の度合いが変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2005−210936号公報に開示されるような、光触媒や、アゾベンゼン、ジアリールエテン、スピロピラン、スピロオキサジン、フルギドおよびロイコ色素等の光応答成分を含むものを用いることができる。
【0076】
本発明に用いられる電位応答性材料としては、電位の印加により、細胞接着の度合いが変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2008−295382号公報に開示されるような、電極と、RGD配列を含むペプチド等の細胞接着性部分を有し、上記電極表面にチオレートを介して結合するアルカンチオール、システイン、アルカンジスルフィド等のスペーサ物質とを有するものを挙げることができる。
【0077】
本発明に用いられる磁力応答性材料としては、磁力の付与・除去により細胞接着の度合いが変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2005−312386号公報に開示されるような、フェライト等の磁性粒子を正電荷リポソームに封入した磁性粒子封入正電荷リポソームを挙げることができる。
【0078】
本発明に用いられる細胞接着材料としては、所望の細胞接着性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、細胞接着性を有し、かつバリア性を有するものであれば特に限定されるものではなく、培養する細胞の種類により異なるものであるが、親水化ポリスチレン、ポリリジン等の塩基性高分子、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の塩基性化合物およびそれらを含む縮合物、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、ビトロネクチン、RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列含有ペプチド、YIGSR(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン)配列含有ペプチド、コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、およびこれらの混合物、例えばマトリゲル、PuraMatrix、フィブリン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ウレタンアクリレートなどのアクリル系材料、セルロース、ガラスを挙げることができる。
【0079】
本発明に用いられる細胞接着層は、上記細胞接着材料または刺激応答性材料を含むものであるが、必要に応じて、添加剤やバインダー樹脂を含むものであっても良い。
このような添加剤およびバインダー樹脂としては、上記「2.保護層」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0080】
本発明における細胞接着層の厚みとしては、細胞培養時に安定的に細胞接着性を示すことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0081】
本発明における細胞接着層の形状としては、細胞接着層上で細胞を安定的に形成できるものであれば特に限定されるものではなく、多角形状や円形状等、任意の形状とすることができる。
【0082】
本発明における細胞接着層の形成方法としては、上記細胞接着層を安定的に形成できる方法であれば特に限定されるものではないが、上記「2.保護層」の項に記載の方法と同様の方法を用いることができる。
また、後述する基材上に上記細胞接着層の構成材料のモノマー成分等を塗布し、基材上にポリマー状の細胞接着材料や刺激応答性材料等をグラフト重合するものであっても良い。
【0083】
(2)細胞培養層
本発明における細胞培養層は、表面に上記細胞接着層を含むものであれば特に限定されるものではなく、既に説明した図1に示すように細胞接着層のみからなるものであっても良く、図7に例示するように細胞培養層4が細胞接着層3および細胞接着層3の粘着剤層側に形成された基材6を有するものであっても良い。
なお、図7中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0084】
本発明に用いられる基材としては、上細胞接着層を支持することができるものであれば特に限定されるものではない。
このような基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ウレタンアクリレートなどのアクリル系材料、セルロース、ガラス等が挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。また、基材が多孔質なものであってもよい。
本発明においては、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートを好ましく用いることができ、特に、ポリエチレンテレフタレートを好ましく用いることができる。透明性、寸法安定性、機械的性質、電気的性質、耐薬品性等の性質に優れているからである。
【0085】
本発明における基材の厚さとしては、上記細胞接着層等を安定的に支持することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、10μm〜1000μmの範囲内、好ましくは、50μm〜300μmの範囲内である。
【0086】
4.支持基板
本発明に用いられる支持基板は、上記粘着剤層、細胞培養層、および保護層を支持するものである。
このような支持基板としては、上記各構成を支持できるものであれば特に限定されるものではなく、一般的に細胞培養に用いられるマルチウェルプレート等のプレート、ディッシュ、シャーレ等を用いることができる。
【0087】
5.細胞培養基板
本発明の細胞培養基板は、上記支持基板、粘着剤層、細胞培養層および保護層を含むものであるが、必要に応じて他の構成を有するものであっても良い。このような他の構成としては、例えば、上記各構成を覆う蓋等を挙げることができる。
【0088】
本発明の細胞培養基板の形成方法としては、上記各構成が形成されたものであれば特に限定されるものではないが、例えば、図8に例示するように、基材6を準備し(図8(a))、上記基材6の一方の表面に粘着剤層2を形成し(図8(b))、次いで、上記基材6の他方の表面に細胞接着層3を形成することで細胞培養用シート20を形成し(図8(c))、その後、細胞培養用シート20を所望のサイズに切り出し、粘着剤層2を介して支持基板1に接着し(図8(d))、粘着剤層2の露出表面を覆うように保護層5を形成し細胞培養基板10を得る方法を挙げることができる(図8(e))。
なお、細胞培養用シートについては、必要により、粘着剤層および細胞培養層表面に、支持基板に接着させる前にゴミ等が付着することを防ぐ目的セパレータを積層するものであっても良い。
【0089】
本発明の細胞培養基板の用途としては、種々の細胞培養用途に用いることができるが、なかでも、溶剤等の溶出成分の影響を受けやすい細胞の培養に用いられることが好ましい。
【0090】
B.細胞シート付細胞培養基板
次に本発明の細胞シート付細胞培養基板について説明する。
本発明の細胞シート付細胞培養基板は、上述の細胞培養基板と、上記細胞培養層上に形成された細胞シートと、を有することを特徴とするものである。
【0091】
このような本発明の細胞シート付細胞培養基板について図を参照して説明する。図9は、本発明の細胞シート付細胞培養基板の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の細胞シート付細胞培養基板30は、上記細胞培養基板10と、上記細胞培養層4上に形成された細胞シート31と、を有するものである。
なお、図9中の符合については、図1と同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0092】
本発明によれば、上記細胞培養基板を含むことにより、安定的に培養された細胞シートを有するものとすることができる。
【0093】
本発明の細胞シート付細胞培養基板は、上記細胞培養基板および細胞シートを含むものである。
以下、本発明の細胞シート付細胞培養基板の各構成について説明する。
なお、上記細胞培養基板については、上記「A.細胞培養基板」の項に記載の内容と同様の内容とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0094】
1.細胞シート
本発明に用いられる細胞シートとしては、細胞間結合で細胞同士が少なくとも単層で連結されたシート状の細胞集合体であれば特に限定されるものではない。
このような細胞シートに用いられる細胞としては、足場依存性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン、グリア細胞、線維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、種々組織に存在する幹細胞、さらには骨髄細胞、ES細胞、iPS細胞、幹細胞、ES細胞やiPS細胞から分化誘導した種々の細胞等を用いることができる。
また上記細胞は、1種類のみであっても良く、2種類以上用いるものであっても良い。
【0095】
2.細胞シート付細胞培養基板
本発明の細胞シート付細胞培養基板は、上記細胞培養基板および細胞シートを含むものであるが、必要に応じてその他の構成を有するものであっても良い。
【0096】
本発明の細胞シート付細胞培養基板の形成方法としては、上記各構成を精度良く形成できるものであれば特に限定されるものではないが、通常、上記細胞培養基板上に、細胞が懸濁された培地を塗布することにより細胞を播種し、所定の条件に設定された恒温装置内で静置することにより培養する方法を用いることができる。
また、他の基板上で形成した細胞シートを、上記細胞培養基板の細胞培養層上に転写する方法であっても良い。
【0097】
本発明の細胞シート付細胞培養基板の用途としては、種々の用途に用いることができるが、例えば、細胞シートを用いた種々の評価や、細胞シートの移植に用いることができる。
【0098】
C.細胞シート付細胞培養基板の製造方法
次に、本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法について説明する。
本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法は、上述の細胞培養基板上に、細胞を播種し、培養することにより、細胞シートを形成する細胞シート形成工程を有することを特徴とするものである。
【0099】
このような本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法を図を参照して説明する。図10は本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法の一例を示す工程図である。図10に例示するように、本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法は、上述の細胞培養基板10を準備し、上記細胞培養基板の細胞培養層4上に、細胞を播種し、培養することにより(図10(a))、細胞シート31を形成し、細胞シート付細胞培養基板30を得る(図10(b))ものである。
ここで、図10(a)〜(b)が上記細胞シート形成工程である。
また、図10中の符合については、図9と同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0100】
本発明によれば、上記細胞培養基板を用いることにより、容易かつ安定的に細胞シート付細胞培養基板を形成することができる。
【0101】
本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法は、上記細胞シート形成工程を有するものである。
以下、本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法に含まれる各工程について詳細に説明する。
【0102】
1.細胞シート形成工程
本発明における細胞シート形成工程は、上述の細胞培養基板上に、細胞を播種し、培養することにより、細胞シートを形成する工程である。
【0103】
本発明において、細胞を播種し、培養する方法としては、一般的な細胞培養に用いられる方法と同様の方法を用いることができ、上記「B.細胞シート付細胞培養基板」の項に記載の内容と同様とすることができる。
また、播種し、培養される細胞については、用途に応じて種々の細胞を用いることができ、上記「B.細胞シート付細胞培養基板」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0104】
なお、本発明に用いられる細胞培養基板については、上記「A.細胞培養基板」の項に記載の内容と同様であるのでここでの説明は省略する。
【0105】
2.細胞シート付細胞培養基板の製造方法
本発明の細胞シート付細胞培養基板の製造方法は、上記細胞シート形成工程を少なくとも有するものであるが、必要に応じてその他の工程を有するものであっても良い。
具体的には、既に説明した図8に示すような細胞培養シートを準備して、細胞培養基板を形成する細胞培養基板形成工程を有するものとすることができる。
【0106】
D.細胞シートの製造方法
次に、本発明の細胞シートの製造方法について説明する。
本発明の細胞シートの製造方法は、上述の細胞シート付細胞培養基板から細胞シートを剥離する剥離工程を有することを特徴とするものである。
【0107】
このような本発明の細胞シートの製造方法を図を参照して説明する。図11は本発明の細胞シートの製造方法の一例を示す工程図である。図11に示すように、本発明の細胞シートの製造方法は、上述の細胞シート付細胞培養基板30を準備し、細胞培養基板を冷却することにより(図11(a))、細胞シート付細胞培養基板30から細胞シート31を剥離する剥離工程を有するものである(図11(b))。
ここで、図11(a)〜(b)が剥離工程である。
なお、この例においては、細胞シート付細胞培養基板の細胞接着層(細胞培養層)として刺激応答性材料であるポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)を含むものを用いるものである。また、図11中の符合については、図9と同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0108】
本発明によれば、上記細胞培養基板を用いることにより、安定的に培養された細胞シートを得ることができる。
【0109】
本発明の細胞シートの製造方法は、上記剥離工程を有するものである。
以下、本発明の細胞シートの製造方法に含まれる各工程について説明する。
【0110】
1.剥離工程
本発明における剥離工程は、細胞シート付細胞培養基板から細胞シートを剥離する工程である。
本工程において、細胞シート付細胞培養基板から細胞シートを剥離する方法としては、細胞シートを安定的に剥離することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、ディスパーゼ等の酵素を用いて細胞シート付細胞培養基板の細胞接着層から細胞シートを剥離する方法等を用いることができる。
また、上記細胞接着層が刺激応答性材料を含むものである場合には、刺激応答性材料の性質に合わせた刺激を付与して剥離する方法を用いることができる。
具体的には、上記刺激応答性材料が、温度応答性材料であるポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)である場合には、37℃近傍で細胞を培養することで細胞シート付細胞培養基板を形成し、32℃以下に温度を低下させることにより、細胞シートを剥離する方法を用いることができる。
【0111】
なお、本工程に用いられる細胞シート付細胞培養基板については、上記「B.細胞シート付細胞培養基板」の項に記載の内容と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0112】
2.細胞シートの製造方法
本発明の細胞シートの製造方法は、上記剥離工程を有するものであれば特に限定されるものではないが、必要に応じてその他の工程を有するものであっても良い。
【0113】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0114】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0115】
[実施例1]
(1−1)温度応答性細胞培養用シートの作製
N−イソプロピルアクリルアミドを、最終濃度40重量%になるようにイソプロピルアルコール(IPA)に溶解させた。市販の易接着性ポリエチレンテレフタレートフィルム(片面に粘着剤が塗布されてなる粘着剤層が形成されている。三光産業社より入手、透明50−Fセパ1090)(以下において「易接着PET」と略することがある)を調達し、これを10cm角に切り出した。
ここに前記溶液を、易接着PETの易接着面に0.5ml展開し、ミヤバーNO.4でコーティングした。電子線照射装置(岩崎電気社製)を用いて該サンプル上に電子線照射を行い、該溶液をグラフト重合した。このときの電子線照射線量は300kGyであった。
【0116】
(1−2)細胞培養皿の組み立て
このようにして得られた温度応答性細胞培養用シートを、32mmφの円形に切り出し、35mmφポリスチレンディッシュ(ベクトンディッキンソン社製)底面に粘着剤層を介して貼り付けた。
さらに、培養用シート側面、ディッシュ底面が露出している部位および培養用シートの培養面の外周部約1mm幅を液状のPDMSで満たし、70℃で2時間、硬化処理を行った。PDMSはダウコーニング(DowCorning)社製Sylgard(登録商標)184を用いた。
また、硬化処理後にポリスチレンディッシュの蓋を開けた際に、特に溶剤臭はしなかった。
【0117】
(1−3)細胞培養
このようにして得られた細胞培養基板を、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。ウシ血管内皮細胞(JCRBより入手)を、1.1×10cells/cmになるように調整し、細胞培養基板内に播種した。
このとき、使用培地は10%FBS含有DMEM(シグマ製)であった。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて行い、培養12日後顕微鏡観察したところ、細胞は温度応答性フィルム上のみに接着し、コンフルエントになっている様子(細胞シートが形成されている様子)が確認された。その後、細胞シートが形成された細胞シート付細胞培養基板を20℃、5%CO条件下のインキュベーターに入庫した。25分後、20℃のインキュベーターから出庫すると、32mmφ温度応答性フィルム上に形成されていた細胞シートが剥離している様子が確認された。
【0118】
[比較例1]
(1−1)温度応答性細胞培養シートの作製
実施例1の(1−1)に記載の手法と同様の手法により作製した。
【0119】
(1−2)細胞培養基板の組み立て
作成された温度応答性細胞培養用シートを、32mmφの円形に切り出し、35mmφポリスチレンディッシュ(ベクトンディッキンソン社製)底面に粘着剤層を介して貼り付けた。基材を組み立て、蓋を閉めた状態で2時間後、ポリスチレンディッシュの蓋を開けた際に、上記易接着性ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着剤層に含まれる溶剤と思われる臭気がわずかにした。
【0120】
(1−3)細胞培養
実施例1の(1−3)と同様に評価したところ、24時間後においても細胞シートの自発的剥離は確認されなかった。
【0121】
[参考例]
また、実施例1での培地中に、粘着剤の溶剤として使用される溶剤の一種であるメチルエチルケトン/トルエン=1/1(KT―11)を濃度25%となるように添加して、4時間培養したところ、播種した全ての細胞が死滅することが確認できた。
このような結果より、実施例で形成された保護層が形成された細胞培養基板とすることで、上記粘着剤層から細胞へ悪影響の及ぼす溶剤の溶出を抑制することができ、細胞をより信頼性高く培養できることが確認できた。
【0122】
[実施例2]
(2−1)粘着剤付シートの作製
粘着剤(アクリル系ポリマー:SKダイン2147(綜研化学社製)/KT−11/イソシアネート系硬化剤:TD―75=100/20/0.04)を東レフィルム加工社製のセラピールMFA(厚み38μmのPETフィルム)に、200μm厚となる様、アプリケーターにて塗布した。90℃のオーブンで2分間加熱後、サンディック社製OPSシートを貼り合わせ、粘着剤付シートを作製した。
【0123】
(2−2)細胞培養皿の組み立て
このようにして得られた粘着剤付シートの作製を、32mmφの円形に切り出し、35mmφポリスチレンディッシュ(ベクトンディッキンソン社製)底面に粘着剤層を介して貼り付けた。
さらに、培養用シート側面、ディッシュ底面が露出している部位および培養用シートの培養面の外周部約1mm幅を液状のPDMSで満たし、室温にて24時間、硬化処理を行った。PDMSはダウコーニング(DowCorning)社製Sylgard(登録商標)184を用いた。
また、硬化処理後にポリスチレンディッシュの蓋を開けた際に、特に溶剤臭はしなかった。
【0124】
[比較例2]
(2−1)粘着剤付シートの作製
実施例2の(2−1)に記載の手法と同様の手法により作製した。
【0125】
(2−2)細胞培養基板の組み立て
このようにして得られた粘着剤付シートの作製を、32mmφの円形に切り出し、35mmφポリスチレンディッシュ(ベクトンディッキンソン社製)底面に粘着剤層を介して貼り付けた。24時間後、ポリスチレンディッシュの蓋を開けた際に、上記粘着剤層に含まれるKT−11と思われる臭気がわずかにした。
【符号の説明】
【0126】
1 … 支持基板
2 … 粘着剤層
3 … 細胞接着層
4 … 細胞培養層
5 … 保護層
6 … 基材
10 … 細胞培養基板
20 … 細胞培養用シート
30 … 細胞シート付細胞培養基板
31 … 細胞シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に形成され、粘着剤を含む粘着剤層と、
前記粘着剤層上に形成され、細胞接着層を含む細胞培養層と、
前記粘着剤層の露出表面を覆うように形成され、前記粘着剤層からの溶出成分の溶出を防ぐ保護層と、
を有することを特徴とする細胞培養基板。
【請求項2】
前記保護層の表面が、細胞接着阻害性を有することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養基板。
【請求項3】
前記保護層が、前記細胞培養層の側面を覆うように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の細胞培養基板。
【請求項4】
前記保護層が、前記細胞培養層の上面の一部を覆うように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の細胞培養基板。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の細胞培養基板と、
前記細胞培養層上に形成された細胞シートと、
を有することを特徴とする細胞シート付細胞培養基板。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の細胞培養基板上に、細胞を播種し、培養することにより、細胞シートを形成する細胞シート形成工程を有することを特徴とする細胞シート付細胞培養基板の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の細胞シート付細胞培養基板から細胞シートを剥離する剥離工程を有することを特徴とする細胞シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−99271(P2013−99271A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244399(P2011−244399)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】