説明

細胞培養容器、細胞培養装置、および細胞培養容器データ読み書き装置

【課題】 細胞培養容器内の細胞に関する情報を、容易に管理すること。
【解決手段】 細胞培養容器の外部にICタグ5を取り付けて、ICタグ5には、細胞培養容器1内の細胞3に関する情報、細胞を培養するための環境条件、および胞3の培養開始日などの情報を記憶する。ICタグ5へのデータの書き込み、およびICタグ5からのデータの読み込みは、ICリーダ/ライタ6を使用して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養するための細胞培養容器、細胞培養装置、および細胞培養容器に取り付けられた記憶素子へのデータの読み書きをする細胞培養容器データ読み書き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を培養するための細胞培養容器が特許文献1によって知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−38734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の細胞培養容器においては、各培養容器内の細胞の種類、培養開始日、継代時期、および培地交換時期などの細胞の培養に必要な種々の情報を使用者が把握しておく必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の細胞培養容器は、細胞を培養するための細胞培養容器本体部と、細胞培養容器本体部に取り付けられ、細胞の培養に必要な種々の情報を無線通信により記憶する記憶手段とを有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の細胞培養容器において、記憶手段には、細胞培養容器本体部内で培養する細胞に関する情報、細胞を培養するための環境条件、および細胞の培養開始日を記憶することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の細胞培養容器を格納して、細胞を培養するための細胞培養装置において、細胞培養容器に取り付けられた記憶手段へのデータの書き込み、および細胞培養容器に取り付けられた記憶手段からのデータの読み込みを行うデータ読み書き手段と、データ読み書き手段によって読み込まれた細胞培養容器内の細胞を培養するための環境条件に基づいて、細胞培養装置内の培養環境を変化させる培養環境調整手段とを有することを特徴とする。
請求項4に記載の細胞培養容器データ読み書き装置は、請求項1または2に記載の第1の細胞培養容器に取り付けられた記憶手段からデータを読み込み、請求項1または2に記載の第2の細胞培養容器に取り付けられた記憶手段へデータを書き込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、細胞の培養に必要な種々の情報を無線通信により記憶する記憶手段を細胞培養容器本体部に備えることとしたため、使用者が細胞の培養に必要な種々の情報を個別に管理する必要がなくなり、使用者の作業を大幅に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1により、一般的な細胞培養容器、および細胞培養装置を用いた細胞培養方法について説明する。一般的な細胞培養容器(シャーレ)においては、通常、細胞培養容器1に培地2を満たし、その中に細胞3を加える。その後、細胞培養容器1をCO2インキュベーダー、すなわち細胞培養装置4の中に入れて細胞3の培養を行う。細胞培養容器1内では細胞3は細胞分裂を繰り返す。細胞3が細胞分裂を繰り返した結果、細胞容器内でそれ以上分裂できない程度の数になった時点で、継代の必要が生じる。また、細胞培養の過程で培地2が古くなってPH値等が変化した場合は、培地交換も必要となる。
【0008】
なお、細胞培養を開始してから継代、および培地交換が必要になるまでの時間は、細胞培養容器1に載せた細胞3の種類、細胞3の数、細胞培養容器1に張った培地2の種類、培地2の量、培地のPH値、細胞培養装置4内の温度、および細胞培養装置4内のCO2濃度などの諸条件により変化する。
【0009】
本実施の形態における細胞培養容器1、および細胞培養装置4においては、これらの情報を各細胞培養容器1に取り付けたICタグに記憶し、情報の管理を行う。以下、詳細に説明する。
【0010】
図2は本実施の形態における細胞培養容器1の一実施の形態の構成を示す図である。細胞培養容器1の外部にはICチップ(集積回路)を埋め込んだICタグ5が取り付けられている。ICタグ5には、細胞培養容器1内の細胞3に関する情報、すなわち細胞3の種類、細胞3の数、細胞3の分裂速度、細胞3の購入時に把握可能な細胞3の予定分裂回数と、細胞を培養するための環境条件、すなわち細胞培養容器1に張った培地2の種類、培地2の量、細胞培養装置4内の温度、および細胞培養装置4内のCO2濃度と、細胞3の培養開始日などの細胞の培養に必要な種々の情報(以下、「細胞培養情報」と呼ぶ)を記憶する。
【0011】
これら細胞培養情報の読み込み、および書き込みは、ICリーダ/ライタ6を使用して行う。ICリーダ/ライタ6は、使用者が情報を入力するための入力部と、ICタグ5から読み込んだ細胞培養情報を表示する表示部とを有している。なお、本実施の形態におけるICタグ5は非接触型のICタグとなっている。すなわち、ICタグ5にはICリーダ/ライタ6との関で電波を受発信するアンテナが埋め込まれており、ICリーダ/ライタ6にICタグ5をかざすと同時に、ICリーダ/ライタ6が発する微弱な電磁波をとらえて起電力とし、データの送受信を行う。
【0012】
したがって、使用者はICリーダ/ライタ6を使用して細胞培養情報の入力を行い、細胞培養容器1をICリーダ/ライタ6にかざすだけで、入力した細胞培養情報をICタグ5へ書き込むことができる。同様にICリーダ/ライタ6に細胞培養容器1をかざすことによって、ICタグ5から細胞培養情報を読み込むことができ、使用者はICタグ5に記憶されている細胞培養情報を確認することができる。
【0013】
また、使用者が継代を行って、新たな細胞培養容器1で培養する場合には、細胞培養情報の一部の情報、すなわち、細胞培養容器1内の細胞3の種類、細胞3の分裂スピード、細胞3の購入時に把握可能な細胞3の予定分裂回数、細胞培養容器1に張った培地2の種類、および培地2の量は、一般的に継代前の細胞培養容器1における細胞培養情報と同一である。したがって、このような場合には、継代前の細胞培養容器1のICタグ5に記憶されている細胞培養情報をICリーダ/ライタ6で読み込んだ後、新たな細胞培養容器1のICタグ5に書き込むことにより、共通する細胞培養情報をコピーして引き継ぐことが可能となる。
【0014】
次に、本実施の形態における細胞培養装置4について説明する。図3は本実施の形態における細胞培養装置4の一実施の形態の構成を示す図である。細胞培養装置4は、その内部に複数段の棚4a〜4gが設けられ、各棚に図2に示したICタグ5付きの細胞培養容器1が載置される。各棚に載置された細胞培養容器1は、その載置位置に対応した載置位置番号によって識別される。細胞培養装置4は、細胞培養容器1のICタグ5の情報を読み込むための各細胞培養容器1の収納棚4a〜4gの上部に設置されたICリーダ/ライタ7と、ICリーダ/ライタ7で読み込んだ細胞培養情報等を表示するモニタ8と、制御部9とを備えている。
【0015】
ICリーダ/ライタ7は、上述したICリーダ/ライタ6と同様に、非接触の状態でICタグ5に記憶されたデータを読み書きすることが可能である。したがって、ICリーダ/ライタ7は、制御部9にあらかじめ格納したプログラムの処理により、所定時間間隔、例えば6時間に1回の頻度で定期的にデータ送受信を自動実行して、各ICリーダ/ライタ7の真下に置かれた細胞培養容器1のICタグ5との間でデータの送受信を行う。細胞培養装置4がICタグ5から読み込んだ細胞培養情報は、モニタ8に各細胞培養容器1ごとに表示され、使用者はその内容を確認できる。
【0016】
制御部9は、ICタグ5から取得した細胞培養情報に基づいて、その内部環境、すなわち細胞培養装置4内の温度、およびCO2濃度を培養する細胞3に適した環境に自動的に調整する。また、細胞培養情報、および細胞培養装置4の内部環境に基づいて、細胞培養装置4内の各細胞培養容器1の継代の時期、および培地交換の時期をあらかじめ予測する。そして、予測した継代の時期、および培地交換の時期を各細胞培養容器1ごとにモニタ8に表示して使用者があらかじめこれらの時期を確認できるようにする。
【0017】
以下、全く同一の細胞と培地が収納された複数の細胞培養容器1を細胞培養装置4に収容して、全て同一条件で細胞を培養する場合の処理手順を説明する。図4は、制御部9で実行するプログラムにより処理される手順を示すフローチャートである。
【0018】
ステップS10において、細胞培養装置4内の棚4a〜4gのいずれかに少なくとも1つの細胞培養容器1が存在するか否かを判断し、存在すると判断した場合にはステップS20へ進む。ステップS20では、ICリーダ/ライタ7によって、細胞培養容器1のICタグから細胞培養情報を受信する。その後、ステップS30へ進み、ICタグ5から受信した細胞培養情報をモニタ8に表示して、ステップS40へ進む。
【0019】
ステップS40では、制御部9は、ICタグ5から受信した細胞培養情報に基づいて、培養する細胞3に適した細胞培養装置4内の環境を算出して、ステップS50へ進む。ステップS50では、算出した環境に基づいて、細胞培養装置4内の培養環境を自動的に調整して、ステップS60へ進む。ステップS60では、前回ICタグから細胞培養情報を受信してから、所定時間、例えば6時間が経過したか否かを判断する。前回細胞培養情報を受信してから、所定時間経過したと判断した場合は、ステップS70へ進む。
【0020】
ステップS70では、ICリーダ/ライタ7によって、細胞培養容器1のICタグから細胞培養情報を受信して、ステップS80へ進む。ステップS80では、受信した細胞培養情報に基づいて、細胞培養装置4内に載置された細胞培養容器1の中に継代が必要なものが存在するか否かを判断する。継代が必要な細胞培養容器1が存在する場合には、ステップS100へ進む。ステップS100では、継代が必要な細胞培養容器1の載置位置番号をモニタ8に表示して使用者に通知した後、ステップS110へ進む。
【0021】
継代が必要な細胞培養容器1が存在しない場合には、ステップS90へ進む。ステップS90では、受信した細胞培養情報に基づいて、細胞培養装置4内に載置された細胞培養容器1の中に培地交換が必要なものが存在するか否かを判断する。培地交換が必要な細胞培養容器1が存在する場合には、ステップS100へ進む。ステップS100では、培地交換が必要な細胞培養容器1の載置位置番号をモニタ8に表示して使用者に通知した後、ステップS110へ進む。培地交換が必要な細胞培養容器1が存在しない場合には、ステップS60へ戻り、上述した処理を繰り返す。
【0022】
ステップS110では、細胞培養装置4内の棚4a〜4gのいずれかに少なくとも1つの細胞培養容器1が存在するか否かを判断する。存在すると判断した場合には、ステップS60へ戻り、上述した処理を繰り返す。細胞培養装置4内に細胞培養容器1が存在しない場合には、当該細胞の培養は終了したと判断して、処理を終了する。
【0023】
以上説明した本実施の形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)培養する細胞に関する細胞培養情報をICタグ5に記憶することとし、必要なときに細胞培養情報を読み出して確認できるようにした。これによって、使用者が細胞培養情報を個別に管理する必要がなくなり、使用者の作業を大幅に軽減することができる。
(2)細胞培養装置4内の各細胞培養容器1の収納場所の上部にICリーダ/ライタ7を設置して、各細胞培養容器1のICタグ5に記憶された情報をICリーダ/ライタ7で読み込んでモニタ8に表示することにした。これによって、使用者は細胞培養装置4から細胞培養容器1を取り出さなくても細胞培養情報を確認することができ、使用者の利便性を向上することができる。さらに、細胞培養容器1を細胞培養装置4内に格納したまま細胞培養情報を確認することにより、無菌状態を保ったまま細胞培養容器1の管理を行うことができる。
(3)細胞培養情報、および細胞培養装置4の内部環境に基づいて、細胞培養装置4内の各細胞培養容器1の継代の時期、および培地交換の時期をあらかじめ予測して、予測した継代の時期、および培地交換の時期を各細胞培養容器1ごとにモニタ8に表示することとした。これによって、使用者に対して継代の時期、および培地交換の時期を的確に通知することができる。
【0024】
―変形例―
上述した実施の形態において、細胞培養装置4は、ICタグ5とのデータの送受信時にさらに以下の情報をICタグ5に書き込むことも可能である。すなわち、細胞培養装置4内に温度センサ、およびCO2濃度センサを設け、所定時間単位、例えば1時間単位に細胞培養装置4内の温度、およびCO2濃度を計測する。そして、計測した細胞培養装置4内の温度変化、およびCO2濃度変化の履歴をICタグ5に書き込む。さらに、使用者によって行われた継代、および培地交換の履歴を書き込む。これによって、使用者はこれらの履歴情報に基づいて、培養条件が定まっていない細胞3の培養条件を検討することが可能となり、また、培養した細胞を実験に使用する際に、実験データに細胞培養時の状況を取り込むことが可能となる。
【0025】
なお、以下のように変形することもできる。
(1)上述した実施の形態、および変形例では、細胞培養情報、および細胞培養装置4内の温度変化とCO2濃度変化の履歴を、細胞培養容器1の外部に取り付けたICタグ5に記憶する例を示したが、これに限定されず、細胞培養容器1の外部にその他の記憶素子を取り付け、無線によりデータを授受するようにしてもよい。この場合、データの読み書きに使用するICリーダ/ライタは、取り付けた記憶素子に対応するものを用いる。
【0026】
(2)上述した実施の形態では、ICリーダ/ライタ7は、所定時間間隔で定期的にデータ送受信を自動実行して、各ICリーダ/ライタ7の真下に置かれた細胞培養容器1のICタグ5との間でデータの送受信を行う例を示したが、これに限定されず、例えば、細胞培養装置4に「送受信開始ボタン」を設け、当該ボタンを使用者が押下することによって、一括して細胞培養装置4内のICタグ5と細胞培養装置4との間のデータ送受信を実行するようにしてもよい。
【0027】
(3)上述した実施の形態では、制御部9は、ICタグ5から取得した細胞培養情報に基づいて、その内部環境を培養する細胞3に適した環境に自動的に調整する例を示したが、これに限定されず、例えば細胞培養装置4内を分割壁で複数の区画に区切り、当該分割壁で区切られた区画ごとに内部環境を変化させることができるようにして、培養環境が異なる複数種類の細胞を1台の細胞培養装置4で培養できるようにしてもよい。
【0028】
(4)上述した実施の形態では、細胞培養装置4は、予測した継代の時期、および培地交換の時期をモニタ8に表示して使用者があらかじめこれらの時期を確認できるようにする例を示したが、これに限定されず、例えば、細胞培養装置4の細胞培養容器1の各収納位置に対応する表示装置を設けて、当該表示装置に予測した継代の時期、および培地交換の時期を表示して使用者に通知してもよい。また、細胞培養装置4に警告ランプを設け、継代の時期、および培地交換の時期が近づいたものは、警告ランプを点灯させて使用者に通知してもよい。さらに、細胞培養装置4に通信装置を搭載し、あらかじめ登録した使用者の携帯電話やメールアドレスに宛てて通知を行ってもよい。あるいはその他の方法により通知してもよい。
【0029】
(5)上述した実施の形態では、細胞培養装置4には、内部の各細胞培養容器1の収納場所の上部にICリーダ/ライタ7をそれぞれ設置する例を示したが、これに限定されず、細胞培養装置4内に1つのICリーダ/ライタを設け、1つのICリーダ/ライタで全ての細胞培養容器1のICタグ5とデータの送受信を行ってもよい。
【0030】
特許請求の範囲の構成要素と実施の形態との対応関係について説明する。ICタグ5は記憶手段に、ICリーダ/ライタ6および7はデータ読み書き手段に、制御部9は培養環境調整手段に相当する。なお、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態における構成に何ら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】一般的な細胞培養容器、および細胞培養装置の構成を示す図である。
【図2】本発明による細胞培養容器の一実施の形態の構成を示す図である。
【図3】本発明による細胞培養装置の一実施の形態の構成を示す図である。
【図4】制御部9で実行するプログラムにより処理される手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0032】
1 細胞培養容器
2 培地
3 細胞
4 細胞培養装置
5 ICタグ
6、7 ICリーダ/ライタ
8 モニタ
9 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するための細胞培養容器本体部と、
前記細胞培養容器本体部に取り付けられ、細胞の培養に必要な種々の情報を無線通信により記憶する記憶手段とを有することを特徴とする細胞培養容器。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞培養容器において、
前記記憶手段には、前記細胞培養容器本体部内で培養する細胞に関する情報、細胞を培養するための環境条件、および細胞の培養開始日を記憶することを特徴とする細胞培養容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞培養容器を格納して、細胞を培養するための細胞培養装置において、
前記細胞培養容器に取り付けられた記憶手段へのデータの書き込み、および前記細胞培養容器に取り付けられた記憶手段からのデータの読み込みを行うデータ読み書き手段と、
前記データ読み書き手段によって読み込まれた前記細胞培養容器内の細胞を培養するための環境条件に基づいて、前記細胞培養装置内の培養環境を変化させる培養環境調整手段とを有することを特徴とする細胞培養装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の第1の細胞培養容器に取り付けられた前記記憶手段からデータを読み込み、請求項1または2に記載の第2の細胞培養容器に取り付けられた前記記憶手段へデータを書き込むことを特徴とする細胞培養容器データ読み書き装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−6261(P2006−6261A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190988(P2004−190988)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】