説明

細胞培養容器の製造方法

【課題】インモールド成形時に機能性有機化合物層の機能を損なうことなく、安価かつ効率的に細胞培養容器を提供する。
【解決手段】容器本体部材の表面に、細胞及び培地を収容する空間側へ機能性有機化合物層402が向くように機能性基体140が固定されている細胞培養容器の製造方法であって、細胞及び培地を収容する空間に面する容器部の内壁を画定するコア金型501と、容器部の外壁を画定し、樹脂Aの注入孔502を有するキャビティ金型503と、を組み合わせた射出成形型により形成される鋳型空間504において、機能性基体140を、注入孔502を覆うように、かつ基材層401側がキャビティ金型503に接するように配置し、鋳型空間504内に注入孔502から樹脂Aを充填することにより、樹脂Aの流動と共に機能性基体140を、機能性有機化合物層側402がコア金型501に移動させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物や細胞の培養に適した表面を有するシャーレ等の細胞培養容器が知られている。例えば、(特許文献1)には、プラスチック製のシャーレにおいて、底部の内面に酸化ケイ素を表面に蒸着したプラスチックフィルム層をインサート射出成形法(インモールド成形)によって貼設したことを特徴とするシャーレが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−88299号公報(段落0012、図1及び図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(特許文献1)に示すシャーレを製造する際には、図6A〜図6Cに示すように、まず、射出成形機に取り付けたシャーレの射出成形用金型の型開き時に、コア金型(雄型)601のシャーレの底部内面に相当する部位に、ポリエステルフィルム610の片面に酸化ケイ素の蒸着層611を設けた蒸着フィルムを、その蒸着層611の表面を金型表面に真空吸引することによって吸着固定する。図6A及び図6Bでは、蒸着層611の表面を真空吸引する状態を模式的に示している。そして、図6Bに示すように、型締め後、射出成形装置によって、金型のコア金型601とキャビティ金型(雌型)602とにより形成される鋳型空間603内に、溶融したポリエチレンテレフタレートSをキャビティ金型602に設けられた注入孔604より射出して、シャーレ本体を成形すると同時に底部内面に酸化ケイ素の蒸着層611を有するポリエステルフィルムをその蒸着層611の表面が露出するように熱接着して貼設する。成形されたシャーレ620は、図6Cに示すように、射出成形用金型を型開きして取り出される。
【0005】
上記従来の技術では、細胞の培養に適した蒸着層611等の機能層が、真空吸引により金型表面に吸着固定されるため、吸引力が加わること等によって層の機能が損なわれる恐れがある。特に、近年では、温度応答性ポリマー等の機能性の有機化合物層を表面に被覆したシャーレ等の細胞培養容器が知られており、このような機能性有機化合物層を設ける場合には、インモールド成形時の真空吸引による悪影響は、酸化ケイ素等の無機蒸着層を設ける場合に比べてより深刻となる。
【0006】
そこで本発明は、インモールド成形時に機能性有機化合物層の機能を損なうことなく、安価かつ効率的に細胞培養容器を得ることができる、細胞培養容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、基材層及び機能性有機化合物層を備える機能性基体を、コア金型の金型表面には固定せず、樹脂の充填前には反対側のキャビティ金型に接するように配置し、樹脂の充填によってコア金型側に移動させることにより、上記課題が解決することを見出し、発明を完成した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0008】
(1)細胞及び培地を収容するための容器部を備え、
容器部は、
樹脂製の容器本体部材と、
基材層及び該基材層上に配置された機能性有機化合物層を少なくとも備える機能性基体と、
を有し、
容器本体部材の表面に、細胞及び培地を収容する空間側へ機能性有機化合物層が向くように機能性基体が固定されている細胞培養容器の製造方法であって、
細胞及び培地を収容する空間に面する容器部の内壁を画定するコア金型と、
容器部の外壁を画定し、樹脂の注入孔を有するキャビティ金型と、
を組み合わせた射出成形型により形成される鋳型空間において、
機能性基体を、注入孔を覆うように、かつ基材層側がキャビティ金型に接するように配置し、
鋳型空間内に注入孔から樹脂を充填することにより、樹脂の流動と共に機能性基体を、機能性有機化合物層側がコア金型に接するように移動させる工程を含む前記製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の細胞培養容器の製造方法によれば、注入孔から充填する樹脂の流動を利用して、機能性基体をキャビティ金型側からコア金型の内壁面に機能性有機化合物層が接触するように移動させるため、従来の真空吸引等を行う必要がなく、機能性有機化合物層に加わるダメージが軽減される。したがって、機能性有機化合物層の機能が良好に維持された細胞培養容器を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】本発明において製造される細胞培養容器の一実施形態を示す斜視図である。
【図1B】図1AのI−I’断面図である。
【図1C】図1AのII−II’断面図である。
【図2A】本発明において製造される細胞培養容器の別の実施形態を示す斜視図である。
【図2B】図2AのIII−III’断面図である。
【図3】細胞培養容器の製造過程を説明するための斜視図である。
【図4】機能性基体の断面図である。
【図5A】本発明に係る細胞培養容器の製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【図5B】本発明に係る細胞培養容器の製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【図5C】本発明に係る細胞培養容器の製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【図5D】本発明に係る細胞培養容器の製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【図5E】本発明に係る細胞培養容器の製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【図6A】従来の細胞培養容器の製造方法を示す断面図である。
【図6B】従来の細胞培養容器の製造方法を示す断面図である。
【図6C】従来の細胞培養容器の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を詳細に説明する。各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために適宜誇張して示している。
【0012】
<細胞培養容器の形状>
まず、本発明により製造される細胞培養容器の全体の形状について説明する。
【0013】
本発明により製造される細胞培養容器は、細胞及び培地を収容するための容器部を少なくとも備え、さらに適宜蓋等を備える。
【0014】
容器部は、図1に示すように、細胞及び培地を収容する空間が壁面により閉塞された形状であってもよいし、図2に示すように該空間の一端が開放された形状であってもよい。
【0015】
容器部の好ましい一実施形態を図1A〜図1Cに示す。図1Aに示す容器部100は、底部101、及び底部101の周縁に立設された側壁部102から構成される樹脂製の容器本体部材103と、側壁部102の上端部に接合された、底部101に対向配置される天面部材104とを少なくとも備える。側壁部102の一部に通孔105が穿設されており、通孔105の周縁から容器部外側に延びる首部106を備える、「フラスコ型」と呼ばれる形状の容器部である。容器部100の首部106には蓋110を係止するための係止部107が形成されており、該係止部107を介して蓋110が着脱可能に装着される。容器部100と蓋110とを組み合わせることによりフラスコ型の細胞培養容器120が形成される。
【0016】
図1Bは、容器部100のI−I’断面図を示し、図1Cは、II−II’断面図を示す。容器部100の、底部101、側壁部102及び天面部材104に包囲される部分には、細胞及び培地を収容する空間130が形成されている。空間130に面する内壁面の一部分(図1に示す実施形態では底部101)には、機能性基体140が固定されている。
【0017】
容器部の他の実施形態としては、図2に示すように、底部201、及び底部201の周縁に立設した側壁部202から構成される容器本体部材203を備える皿状の容器部200が挙げられる。底部201の、細胞及び培地を収容する空間220の側の面(内底面)には機能性基体210が固定されている。
【0018】
本発明においては、容器本体部材を射出成形により形成し、その際、鋳型空間内に機能性基体を配置することにより、容器本体部材と機能性基体とを一体化させる。そして、機能性基体と一体化した容器本体部材は、適宜、他の部材と接合され、容器部が形成される。例えば、図3に示すように、内底面に機能性基体140が固定された容器本体部材103に対し、天面部材104を接合することによって、図1Aに示す容器部が形成される。容器本体部材103と天面部材104との接合は、細胞培養の目的に応じて、必要な場合は培養液が漏出しないように液密に接合される。
【0019】
<細胞培養容器の材料>
容器本体部材、天面部材、首部及び蓋等の細胞培養容器の各部材を形成する材料は特に限定されず、細胞培養において一般的に用いられる材料を用いることができる。本発明においては、少なくとも容器本体部材は射出成形が可能な樹脂材料である。
【0020】
容器本体部材を構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料が挙げられる。樹脂材料としては、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることが特に好ましい。
【0021】
<機能性基体>
本発明における機能性基体140、210の厚さ方向に沿った断面は、図4に示すように、基材層401及び該基材層401上に配置された機能性有機化合物層402を少なくとも備える。ここで「基体」とは、所定の構造を有している限り、フィルムであってもよいし、板状体であってもよい。容器部においては、この機能性基体は、容器本体部材の表面に、細胞及び培地を収容する空間側へ機能性有機化合物層が向くように固定されている。
【0022】
フィルム状の機能性基体(以下「機能性フィルム」と呼ぶことがある)は、好ましくはロール状に巻き取り可能な可撓性を有するものである。可撓性の機能性フィルムは、ロール・ツー・ロール法による大量生産が容易であるため好ましい。
【0023】
機能性基体は、基材層に機能性有機化合物層を適当な方法により形成することにより製造することができる。基材層と機能性有機化合物層との間には必要に応じて1つ以上の他の層(例えば後述するプライマー層)が存在していてもよい。
【0024】
機能性基体の形状は、固定される部材の領域の形状に応じた任意の形状であることができる。例えば、三角形、四角形(長方形、正方形、平行四辺形、菱形等)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形や、円形、楕円形等の形状であることができる。
【0025】
<基材層>
基材層は、最終的な機能性基体に応じて適宜選択される。機能性基体が板状であれば板状の基材層が用いられ、機能性基体がフィルム状であればフィルム状の基材層(以下「フィルム基材層」という)が用いられる。
【0026】
基材層と容器本体部材とは、本発明におけるインモールド成形により相互に溶融一体化が可能な材料から適宜選択されることができる。
【0027】
基材層の材料は、一方の表面に機能性有機化合物層を形成することが可能な樹脂材料等から適宜選択することができるが、材料の種類は特に限定されない。典型的には、基材層の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0028】
基材層の、容器本体部材と一体化される部分の表面は、ヒートシール性樹脂材料を含んでいてもよい。ヒートシール性樹脂材料は、高温の溶融樹脂との接触により溶融し、樹脂の固化とともに固化するため基材層と容器本体部材との接合をより強固にすることができる。
【0029】
基材層の、機能性有機化合物層が形成される側の表面は、易接着処理された表面であることができる。「易接着処理」とは、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の易接着剤による処理を指す。
【0030】
基材層の厚さは適宜選択することができる。基材層がフィルム基材層である場合、その厚さ(フィルム基材層が基材の層に加えて易接着層を備える場合は、易接着層を含むフィルム基材層の全体の厚さを指す)は、特に制限は無いが、例えば5〜500μm、より好ましくは20〜500μm、特に好ましくは50〜250μmである。
【0031】
<機能性有機化合物層>
機能性有機化合物層を構成する有機化合物としては、所望の機能を有する層であれば特に限定されないが、より好ましくは、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマーや、1つ以上のエチレングリコール単位(CH−CH−O)からなるエチレングリコール鎖等の親水性化合物が挙げられる。
【0032】
機能性有機化合物層の膜厚は、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内とするとよく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
以下、「刺激応答性ポリマー層」及び「親水性化合物層」の好適な実施形態について説明する。
【0034】
<刺激応答性ポリマー層>
機能性有機化合物層は、刺激応答性ポリマー層であることが特に好ましい。刺激応答性ポリマー層とは、所定の刺激によって表面の細胞の接着度合いが変化するポリマーを含む層である。刺激応答性ポリマーとしては、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマー等を挙げることができる。なかでも温度応答性ポリマーが、刺激の付与が容易であることから好ましい。
【0035】
温度応答性ポリマーとして、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、作製した細胞シートの剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いるとよい。例えば、温度応答性ポリマーは、臨界溶解温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着しにくくする性質(細胞非接着性)を示し、同温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示すものを用いるとよい。このような臨界溶解温度は、下限臨界溶解温度と呼ばれる。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃、さらに好ましくは0℃〜50℃である温度応答性ポリマーを用いるとよい。Tが0℃〜80℃であると、細胞を安定的に培養できるからである。
【0036】
好適な温度応答性ポリマーとしてはアクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーが挙げられる。具体的に好適な温度応答性ポリマーとしては、例えばポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。
【0037】
これらのポリマーを形成するためのモノマーとしては、放射線照射によって重合し得るモノマーを用いることができる。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体等が挙げられ、これらの1種以上を使用してよい。モノマーが一種類単独で使用された場合、基材上に形成されるポリマーはホモポリマーとなり、モノマーが複数種一緒に使用された場合、基材上に形成されるポリマーはヘテロポリマーとなるが、どちらの形態も本発明に包含される。
【0038】
また、増殖細胞の種類によってTを調節する必要がある場合や、被覆物質と細胞培養支持体との相互作用を高める必要が生じた場合や、細胞支持体の親水・疎水性のバランスを調整する必要がある場合等には、上記以外の他のモノマー類をさらに加えて共重合してよい。さらに本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフト又はブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質が損なわれない範囲で架橋することも可能である。
【0039】
pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーは作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0040】
刺激応答性ポリマー層は、重合して目的の刺激応答性ポリマーを形成するモノマーと、該モノマーを溶解しうる有機溶媒と含む塗布用組成物を調製し、これを慣用の塗布方法に従って、基材層の表面に塗布して塗膜を形成し、次に、該塗膜に放射線照射等の適当な手段により塗膜中のモノマーを重合してポリマーを形成するとともに、基材層の表面とポリマーとの間にグラフト化反応を生じさせることにより形成することができる。
【0041】
<親水性化合物層>
機能性有機化合物層の他の実施形態として、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖(複数のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖は、「ポリエチレングリコール鎖」ということができる)等の親水性化合物の層が挙げられる。エチレングリコール鎖の末端は水酸基により封鎖された形態であってもよいし、エチレングリコール鎖の末端に生体関連物質等の他の物質が共有結合により連結された形態であってもよい。末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層は、細胞が接着し難い親水性の表面を提供することができる。
【0042】
エチレングリコール鎖の末端に共有結合されうる生体関連物質としては、抗原、抗体、DNA、RNA、ペプチド、ホルモン、酵素、サイトカイン、糖鎖、脂質、補酵素、酵素阻害剤、細胞、その他の機能を有するタンパク質が含まれる。さらに、このような生体関連物質と親和性を有する低分子化合物、及び高分子化合物も生体関連物質の範囲に含まれる。
【0043】
エチレングリコール鎖等の親水性化合物の層を、基材層の表面に固定化するためには、予め、基材層の表面に、該表面に物理的に吸着可能であって、エチレングリコール鎖の末端の水酸基と反応して共有結合を形成可能な官能基を側鎖に含むポリシロキサンを含むプライマー層を設ける。ポリシロキサンの側鎖上の官能基としては、グリシジル基又はエポキシ基が好ましい。プライマー層は、基材層の表面に、所望の側鎖を有するシラノール化合物を適用し、該表面上で縮合重合してポリシロキサンに変換することにより形成することができる。
【0044】
次いで、プライマー層の官能基と、エチレングリコール又はエチレングリコール単位が2以上繰り返されたポリエチレングリコールの水酸基とを反応させて共有結合を形成し、エチレングリコール鎖を固定化する。このとき、触媒量の濃硫酸を含むエチレングリコール又はポリエチレングリコールをプライマー層に接触させる。末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層はこのようにして形成される。
【0045】
さらに、必要に応じて、エチレングリコール鎖の一端に、他の物質との共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基を直接的又は間接的に連結させる。官能基の導入方法は特に限定されない。
【0046】
<細胞培養容器の製造方法>
以下、本発明に係る細胞培養容器の製造方法の一実施形態について図5A〜図5Eに基づき説明する。図5A〜図5Eの例は、図1Bの容器部100を形成する場合について示したものであるが、図2A及び図2Bに示す細胞培養容器や、他の形態の細胞培養容器を製造する際にも同様に適用することができる。
【0047】
まず、図5Aに示すように、細胞培養容器の製造するために、細胞及び培地を収容する空間130に面する容器部100の内壁を画定するコア金型(雄型、凸型)501と、容器部100の外壁を画定し、樹脂Aの注入孔502を有するキャビティ金型(雌型、凹型)503とから構成される射出成形型を用いる。コア金型501及びキャビティ金型503を組み合わせて型締めすることにより、容器本体部材の形状に相当する鋳型空間504が形成される。この木型空間504内に、機能性基体140を、注入孔502を覆うように、かつ基材層401側がキャビティ金型502に接するように配置する。これにより、機能性基体140の機能性有機化合物層402側は、鋳型空間504の内部に向かって露出した状態となる。
【0048】
続いて、図5Bに示すように、鋳型空間504内に注入孔502から溶融した樹脂Aを充填する。すると、鋳型空間504内を流動する樹脂Aによって、機能性基体140は、キャビティ金型503の内壁面から離れ、機能性基体140の機能性有機化合物層402側がコア金型の内壁面に接するように、すなわち機能性基体140が容器本体部材103の内底面上に位置するように移動する。細胞及び培地を収容する空間に面する容器本体部材の表面に機能性基体を固定するため、コア金型に対し従来のような機能性基体を吸着する手段を設ける必要がなく、したがって、機能性有機化合物層を損なうことがなく、その機能を良好に維持することができる。
【0049】
その後、図5Cに示すように、鋳型空間504への樹脂Aの充填を完了し、樹脂を固化させる。樹脂Aが固化した後、型を開き、機能性基体140が一体化した容器本体部材103を取得する(図5D)。最後に、図5Eに示すように、天面部材104を容器本体部材103の開放端に接合し、容器部100を完成させる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
試料1
N−イソプロピルアクリルアミドを最終濃度40重量%になるようにイソプロピルアルコールに溶解させて塗工液を作製した。厚さ50μmのポリスチレンフィルム(旭化成ケミカルズより入手)にコロナ処理を施して親水化した面に、ワイヤーバーを用いて上記塗工液をフィルム上に塗布した(1.4g/m)。その後、40℃の熱風で乾燥させた後、電子線を照射してN−イソプロピルアクリルアミドをグラフト重合させ、フィルム表面にポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを固定化した。
【0052】
試料2
厚さ50μmポリスチレンフィルム(旭化成ケミカルズより入手)にコロナ処理を施して親水化した面に、グラビアダイレクト法により上記塗工液をフィルム上に塗布した(1.1g/cm、搬送速度:5m/min)。その後、40℃の乾燥フードを2m通過させて乾燥させた後、電子線を照射してN−イソプロピルアクリルアミドをグラフト重合させ、フィルム表面にポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを固定化した。
【0053】
作製した試料1及び試料2を適切な大きさのシート状に裁断した後、水中に4時間浸漬させ、乾燥させた。そして、ハンドプレス機を用いて台形形状に切り抜いた。こうして台形形状の機能性基体を得た。
【0054】
射出成形機(α−100C、ファナック)のキャビティ金型に接するように機能性基体を配置し、ポリスチレンペレット(PSジャパン SGP10)を用いてインモールド成形を行った(樹脂温度:220℃、金型温度:20℃)。これにより、機能性基体と、容器本体部材とが一体化された部材を作製した。この部材に対し、射出成形により作製したポリスチレン樹脂製の天面部材を超音波溶着で接合し、フラスコ形状の容器部を得た。最後にキャッピングを行い、底面が温度応答性機能を有するフラスコ型の細胞培養容器(以下、フラスコ)を作製した。
【0055】
上記フラスコをクリーンベンチ内で所定時間紫外線滅菌を実施し、ウシ大動脈血管内皮細胞を表面細胞密度が1×10cells/cmになるように調整し、作製したフラスコ内に播種した。使用培地は10%FBS含有DMEM(シグマ製)であり、培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて48時間行った。その後、フラスコを20℃、5%CO2条件下のインキュベーターに入庫した。20分後、20℃のインキュベーターから出庫した。温度応答性フィルムの培養面に形成された細胞シートを剥離した。
【符号の説明】
【0056】
100、200 容器部
101、201 底部
102、202 側壁部
103、203 容器本体部材
104 天面部材
105 通孔
106 首部
107 係止部
120 細胞培養容器
130、220 空間
140、210 機能性基体
401 基材層
402 機能性有機化合物層
501 コア金型
502 注入孔
503 キャビティ金型
504 鋳型空間
601 コア金型
602 キャビティ金型
603 鋳型空間
604 注入孔
610 ポリエステルフィルム
611 蒸着層
620 シャーレ
A 樹脂
S ポリエチレンテレフタレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び培地を収容するための容器部を備え、
容器部は、
樹脂製の容器本体部材と、
基材層及び該基材層上に配置された機能性有機化合物層を少なくとも備える機能性基体と、
を有し、
容器本体部材の表面に、細胞及び培地を収容する空間側へ機能性有機化合物層が向くように機能性基体が固定されている細胞培養容器の製造方法であって、
細胞及び培地を収容する空間に面する容器部の内壁を画定するコア金型と、
容器部の外壁を画定し、樹脂の注入孔を有するキャビティ金型と、
を組み合わせた射出成形型により形成される鋳型空間において、
機能性基体を、注入孔を覆うように、かつ基材層側がキャビティ金型に接するように配置し、
鋳型空間内に注入孔から樹脂を充填することにより、樹脂の流動と共に機能性基体を、機能性有機化合物層側がコア金型に接するように移動させる工程を含む前記製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2013−107218(P2013−107218A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251752(P2011−251752)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】