細胞培養容器の製造方法
【課題】本発明は、細胞を安定的に剥離可能な状態で大量培養できる細胞培養容器を安価に大量生産する技術を提供することを解決課題とする。
【解決手段】本発明は、長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得し、該フィルムを開放された構造の第一部材に固定し、次いで他の部材を接合することにより、容器部の閉じられた内室の内壁面に細胞支持フィルムが固定された構造の容器部を備えた、大容量の培養に適した細胞培養容器を製造する方法である。
【解決手段】本発明は、長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得し、該フィルムを開放された構造の第一部材に固定し、次いで他の部材を接合することにより、容器部の閉じられた内室の内壁面に細胞支持フィルムが固定された構造の容器部を備えた、大容量の培養に適した細胞培養容器を製造する方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養容器の製造方法に関する。より詳細には、本発明は細胞を大量培養するために適したフラスコ型又はボトル型の細胞培養容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソプロプルアクリルアミドなどの温度応答性高分子を用いてシート状に形成した細胞シートを非侵襲的に回収する技術が、例えば、特許文献1に報告されている。また、現在、このような温度応答性高分子を用いた細胞培養用のディッシュやマルチウェルプレートが市販され、再生医療用途に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−211865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
再生医療の実用化にあたっては、細胞を大量に培養する技術が必要される。しかし、ディッシュやマルチウェルプレートでは、細胞を培養する面積が小さいため、細胞を大量に培養するには多くの容器とそれらを処理する手間を要することになる。そこで、細胞を安定的に剥離可能な状態で大量培養できる細胞培養容器、そしてそのような細胞培養容器を安価に大量生産する技術の確立が望まれている。
【0005】
大量培養に適した細胞培養容器としては、フラスコ型、ボトル型等の、細胞及び培地を収容するための大容量の内室を備えた細胞培養容器が知られている。このような容器は所定の剥離性能を付与すべき面が容器の内壁面であり、閉鎖された部位に位置する。このような部位に効率的に所定の剥離性能を付与する技術の確立が望まれる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、細胞を安定的に剥離可能な状態で大量培養できる細胞培養容器を安価に大量生産する技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段として以下の本発明を完成するに至った。
(1)細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器を製造する方法であり、
以下の工程:
長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得するカット工程、
容器部の、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムが固定化されているフィルム固定化第1部材を製造する、細胞支持フィルム固定工程、並びに
フィルム固定化第1部材と、1以上の他の部材とを接合することにより容器部を形成する部材接合工程
を含む、前記方法。
(2)長尺状の細胞支持フィルムを製造する細胞支持フィルム製造工程を更に含み、
細胞支持フィルム製造工程が、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材を繰り出して搬出し、繰り出されたフィルム基材上に刺激応答性ポリマー層を形成し、形成後のフィルム基材をロール状に巻き取る工程を含む、(1)の方法。
【0008】
(3)カット工程が、長尺状の細胞支持フィルムをカットして、多角形の枚葉状の細胞支持フィルムを取得する工程を含む、(1)又は(2)の方法。
(4)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを粘着剤を介して貼付する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムをヒートシールにより固定する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(6)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとを超音波溶着により溶着させ固定化する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(7)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとをレーザー溶着により溶着させ固定化する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(8)細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
【0009】
(9)細胞支持フィルムが、フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に配置されたヒートシール性樹脂層を更に備え、
細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の前記細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(10)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを物理的な係止手段を介して係止する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(11)真空条件において細胞培養容器に対してγ線を照射することにより該細胞培養容器を滅菌する滅菌工程を更に含む、(1)〜(10)のいずれかの方法。
【0010】
(12)細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器。
(13)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える長尺状の細胞支持フィルムと、
該細胞支持フィルムの、フィルム基材層の刺激応答性ポリマー層が形成されていない側に配置された長尺状の剥離フィルム層と
を備え、
該細胞支持フィルムには、切り込み線により包囲された、枚葉片として分離することが可能な領域が複数形成されており、該切り込み線は、該細胞支持フィルムの表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが該剥離フィルムを完全には切断しない厚さ方向位置まで形成されているハーフカット線である、
ハーフカット済みの、長尺状剥離フィルム付細胞支持フィルム。
【0011】
(14)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含む、枚葉状の細胞支持フィルムであって、
フラスコ型細胞培養容器の容器部の底部内面の略全体を被覆可能な、該底部内面に対応する形状を有する、枚葉状の細胞支持フィルム。
ここで、「フラスコ型細胞培養容器の容器部の底部内面の略全体を被覆可能な、該底部内面に対応する形状を有する、枚葉状の細胞支持フィルム」とは、典型的には、図15に示す細胞支持フィルム610のように、四角形部分と、該四角形部分の一辺から延出した台形部分であって、該一辺を下辺とし、該下辺よりも短い上辺を有する台形部分とが一体化された形状の枚葉状の細胞支持フィルムを指す。
【0012】
<本発明の他の実施形態>
本発明はまた以下の実施形態を包含する。
(15)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施された層である、長尺状の細胞支持フィルム。
(16)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施されていない層である、長尺状の細胞支持フィルム。
(17)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、粘着剤層を更に備える、(15)又は(16)の長尺状の細胞支持フィルム。
(18)粘着剤層の表面に、該粘着剤層を保護し使用時に剥離するための剥離フィルム層を更に備える、(17)の長尺状の細胞支持フィルム。
【0013】
(19)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、ヒートシール性樹脂層を更に備える、(15)又は(16)の長尺状の細胞支持フィルム。
(20)(15)、(16)、(17)又は(19)の長尺状の細胞支持フィルムと、該細胞支持フィルムの一方の面(好ましくは、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面)に剥離可能に接着した剥離フィルム層とを備え、該細胞支持フィルムには、切り込み線により包囲された、該切り込み線の外側から枚葉片として分離することが可能な領域が複数形成されており、該切り込み線は、該細胞支持フィルムの表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが該剥離フィルムを完全には切断しない厚さ方向位置まで形成されているハーフカット線である、ハーフカット済みの、長尺状剥離フィルム付細胞支持フィルム。
この実施形態において、切り込み線により包囲された細胞支持フィルムの複数の領域は、それぞれ独立に、細胞支持フィルムの他の部分及び剥離フィルムから枚葉状の細胞支持フィルムとして分離することができ、本発明の細胞培養容器の製造方法に利用することができる。
【0014】
(21)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施された層である、枚葉状の細胞支持フィルム。
(22)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施されていない層である、枚葉状の細胞支持フィルム。
(23)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、粘着剤層を更に備える、(21)又は(22)の枚葉状の細胞支持フィルム。
【0015】
(24)粘着剤層の表面に、該粘着剤層を保護し使用時に剥離するための剥離フィルム層を更に備える、(23)の枚葉状の細胞支持フィルム。
(25)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、ヒートシール性樹脂層を更に備える、(21)又は(22)の枚葉状の細胞支持フィルム。
(26)三角形、四角形(長方形、正方形、平行四辺形、菱形等)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形や、円形、楕円形等の形状である、(21)〜(25)のいずれかの枚葉状の細胞支持フィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フラスコ型、ボトル型等の、細胞及び培地を収容するための内室を備えた、内室の内壁面に所望の細胞接着性が付与された細胞培養容器を効率的に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは本発明で製造されるフラスコ型細胞培養容器の構造を示す斜視図である。図1Bは容器部100のI−I’断面図を示し、図1CはII−II’断面図を示す。
【図2】図2Aは本発明で製造されるフラスコ型細胞培養容器の構造を示す斜視図である。図2Bは容器部200のIII−III’断面図を示し、図1CはIV−IV’断面図を示す。
【図3】図3Aは本発明で製造されるボトル型細胞培養容器の構造を示す斜視図である。図3Bは本発明で製造されるボトル型細胞培養容器の容器部を製造するための部材の構造を示す。
【図4】図4は第1部材と1つの他の部材とを接合してフラスコ型細胞培養容器を製造する工程を説明する図である。
【図5】図5は第1部材と2つの他の部材とを接合してフラスコ型細胞培養容器を製造する工程を説明する図である。
【図6】図6は細胞支持フィルムの断面の一実施形態を示す模式図である。
【図7】図7は細胞支持フィルムが第一部材の表面に接着剤を介して接合されている様子を模式的に示す図である。
【図8】図8は細胞支持フィルムの断面の一実施形態を示す模式図である。
【図9】図9は細胞支持フィルムの断面の一実施形態を示す模式図である。
【図10】図10は細胞支持フィルムを製造する方法の概略を示す図である。
【図11】図11はカット工程の一実施形態を模式的に示す図である。
【図12】図12はカット工程の一実施形態を模式的に示す図である。図12Aは積層体がカット工程においてハーフカットされることを示す断面模式図である。図12Bは長尺状の積層体がカット工程においてハーフカットされ、長尺状のハーフカット済み剥離フィルム付細胞支持フィルムを得ることを示す模式図である。
【図13】図13は粘着剤を介して細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図14】図14はヒートシールにより細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図15】図15は超音波溶着により細胞支持フィルムを第一部材に固定する実施形態の概要を示す模式図である。
【図16】図16は超音波溶着により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図17】図17はレーザー溶着により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図18】図18はインモールド成形による一体化により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図19】図19は滅菌手段の違いと細胞剥離性能との関係を示す図である。
【図20】図20は本発明の細胞培養容器の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図21】図21はインモールド成形による一体化により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の他の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明では必要に応じて図面を参照し本発明の特徴を説明するが、各図は模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために適宜誇張して示している。
【0019】
<細胞培養容器>
本発明により製造される細胞培養容器は、細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を少なくとも備え、更に適宜蓋等を備える。このような容器部は大容量化が容易であるため、細胞の大量培養に適している。
【0020】
ここで「内室が内部に形成されている」とは、容器部を構成する壁面が包囲する内部空間内に内室が形成されていることを意味する。すなわち、本発明の容器部は、全周囲、すなわち、細胞培養時の配置における底方向、側方向、上方向がいずれも容器部を構成する壁面(通孔が一部に開口された壁面であってもよい)により閉じられている内室を備えているという点で、上方向に開放された皿又は碗形状の容器とは異なる。
【0021】
通常は、容器部の壁面の一部には、内室と外部とを連絡する、細胞及び培地を導入及び排出するための通孔が開口されている。通孔は、着脱可能な蓋により閉栓することが可能であることが好ましい。通孔を備える容器部は、通孔の周縁から、内室から離れる方向に延びる首部を更に備えることが好ましく、着脱可能な蓋が該首部に着脱可能に装着されることが好ましい。
【0022】
容器部の好ましい実施形態の一例を図1に示す。図1Aに示す容器部100は、底部101と、底部101の周縁に立設された側壁部102と、側壁部102の上端部に接合された、底部101に対向配置される天面部103とを少なくとも備える。側壁部102の一部に通孔104が穿設されており、通孔104の周縁から容器部外側に延びる首部105を備える、「フラスコ型」と呼ばれる形状の容器部である。容器部100の首部105には蓋110を係止するための係止部106が形成されており、該係止部を介して蓋110が着脱可能に装着される。容器部100と蓋110とを組み合わせることによりフラスコ型の細胞培養容器120が形成される。
【0023】
図1Bは容器部100のI−I’断面図を示し、図2CはII−II’断面図を示す。容器部100の、底部101、側壁部102及び天面部103に包囲される内部空間には、細胞及び培地を収容するための内室130が形成されている。内室130に面する内壁面の一部分(図1に示す実施形態では底部101)には、細胞支持フィルム140が固定されている。
【0024】
フラスコ型容器部の好ましい他の実施形態を図2に示す。図2Aに示す容器部200では、底部201の一部が天面部103の方向に屈曲した形状を有する。側壁部202は底部201の周縁に立設され、底部201と、底部201に対向配置される天面部103とを接続する。このような形状の容器部200も「フラスコ型」に分類される。
【0025】
容器部の他の実施形態としては、図3Aに示すように、筒状の胴部301と、胴部301の一端に接合された、該一端を閉塞する底部302と、胴部301の他端に接合された該他端を閉塞する頂部303とを備え、頂部303の一部に通孔304が形成され、通孔304の周縁から容器部外部に延びる首部305を備える、ボトル形状の容器部が挙げられる。首部305は、蓋310を係止するための係止部306が形成されており、係止部306を介して蓋310が着脱可能に装着される。このような容器部300は「ボトル型」と呼ばれる。容器部300の内部空間には細胞と培地を収容するための内室340が形成される。胴部301の内室340に面する内壁面上に後述する細胞支持フィルム350が固定される。図3Aでは、胴部301が、横断面が円形である円筒形状である例を示すが、これには限定されず、胴部は筒状である限り、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形であるなど種々の横断面を有する筒形状であることができる。
【0026】
容器部及び蓋などの他の細胞培養容器の部材を形成する材料は特に限定されず、細胞培養において一般的に用いられる材料を用いることができる。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料、及びガラスや石英等の無機材料であることができるが、好ましくは樹脂材料である。樹脂材料としては、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【0027】
本発明の容器部において、細胞支持フィルムが固定される内壁面は外部に解放されておらず、それが対向する方向には、容器部の内壁面の他の領域(図1の実施形態では、細胞支持フィルム140が固定される底部101に対向する方向に位置する天面部103)が存在している。このため容器部を完成させた後に、内室の内壁面に細胞支持フィルムを導入し固定することは容易ではない。そこで本発明では、細胞支持フィルムを固定化することを容易にするために、容器部を、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材と、1以上の他の部材として用意し、第1部材に細胞支持フィルムを固定化してから、フィルム固定化第1部材と1以上の他の部材とを接合して容器部を形成する。
【0028】
複数の部材を組み合わせて容器部を形成する点について図4及び5に沿ってより説明する。図4に示すように、容器部100を形成するための一実施形態では、底部101と側壁部102とを備え、底部101の、細胞支持フィルム140固定面の側が開放された第1部材401と、天面部103に対応する第2部材402とを接合することにより容器部100を形成する。このとき、第2部材402との接合の前に、第1部材401の、底部101の内壁面には細胞支持フィルム140が固定される。本発明では、細胞支持フィルムが固定された第1部材を特に「フィルム固定化第1部材」と呼ぶ。図4における細胞支持フィルム140が固定された第1部材401は、フィルム固定化第1部材と呼ぶこともできる。第1部材401と第2部材402との接合は、細胞培養の目的に応じて、必要な場合は培養液が漏出しないように液密に接合される。
【0029】
図5に示す実施形態では、底部101に対応する第1部材501と、首部105を備えた側壁部102に対応する第2部材502と、天面部103に対応する第3部材503とを接合することにより容器部100を形成する。第1部材501の、底部101の内壁面に対応する部分には、細胞支持フィルム140が固定される。
【0030】
複数の部材の組み合わせは図4及び5に示した形態には限定されない。
なお、1つの容器部を製造するための第1部材は1つであるとは限らず複数あってもよい。例えば容器部内室の相互に対向する複数の内壁面上に細胞支持フィルムを固定する場合には、該複数の内壁面のそれぞれに対応する第1部材を用意し、該複数の第1部材の各々に本発明の方法により細胞支持フィルムを固定して複数のフィルム固定化第1部材を形成する。部材接合工程では、複数のフィルム固定化第1部材を、必要に応じて更なる他の部材とともに接合して容器部を完成させる。複数(N個)のフィルム固定化第1部材のみを接合して容器部を完成する場合も除外されず、この場合は1つのフィルム固定化第1部材と接合される、残りのN−1個のフィルム固定化第1部材が、部材接合工程における「1以上の他の部材」に相当する。例えば、図3Aに示す胴部301内面に細胞支持フィルム350が固定されたボトル型容器部300の場合は、容器部300を胴部301の軸心に沿って分割した略同一形状の2つの第1部材を用意し、各々に細胞支持フィルムを固定してフィルム固定化第1部材とし、2つのフィルム固定化第1部材(図3Bの360及び361)を接合して容器部300を製造することも本発明の方法に包含される。このとき、部材360及び361のいずれか一方が部材接合工程における「1以上の他の部材」ということができる。
【0031】
本発明の細胞培養容器を構成する各部材、並びに、容器部を製造するための第1部材及び1以上の他の部材としては、市販品を購入し使用してもよいし、本発明の方法の実施者が自ら製造し使用してもよい。樹脂材料で構成される容器部を製造するための第1部材及び1以上の他の部材は、樹脂射出成形等の手段によって製造し、必要に応じて内容物の容量を計測するための目盛を印刷技術等の手段により部材表面に付与することにより製造することができる。なお、後述するように、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填してすることにより、第1部材の形成とフィルム固定化第1部材の形成を同時に行ってもよい。
【0032】
<細胞支持フィルムの構造>
本発明の細胞支持フィルムの構造を図6〜9を参照して説明する。
細胞支持フィルム610は、フィルム基材層601と、フィルム基材層601上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層602とを少なくとも備える。
【0033】
細胞支持フィルム610は、長尺状の形態のときにロール巻取り可能な可撓性を備えることが好ましい。
【0034】
細胞支持フィルム610は、細胞培養容器を構成する部材への接合方法に応じて必要な層を更に含むことができる。
【0035】
例えば、図7に示すように、細胞支持フィルム610は、フィルム基材層601の、刺激応答性ポリマー層602が形成される側とは異なる側に粘着剤703を介して第1部材720に貼付し固定することができる。この場合、図8に示すように、粘着剤層803を更に備える細胞支持フィルム810を用いることができる。細胞支持フィルム810の粘着剤層803の表面は、貼付前の段階では必要に応じて更に剥離フィルム804により保護することができる。
【0036】
また、細胞支持フィルム610は、フィルム基材層601の、刺激応答性ポリマー層602が形成される側と第一部材とを必要に応じてヒートシールにより固定することができる。この場合、図9に示すように、ヒートシール性樹脂層905を更に備える細胞支持フィルム910を用いることができる。
【0037】
刺激応答性ポリマー層とは、所定の刺激によって表面の細胞の接着度合いが変化するポリマーを含む層である。刺激応答性ポリマーとしては、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマーなどを挙げることができる。なかでも温度応答性ポリマーが、刺激の付与が容易であることから好ましい。
【0038】
温度応答性ポリマーとして、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、作製した細胞シートの剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いるとよい。例えば、温度応答性ポリマーは、臨界溶解温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着しにくくする性質(細胞非接着性)を示し、同温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示すものを用いるとよい。このような臨界溶解温度は、下限臨界溶解温度と呼ばれる。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃、さらに好ましくは0℃〜50℃である温度応答性ポリマーを用いるとよい。
【0039】
本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーとして、具体的にはアクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーが挙げられ、より具体的にはポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。また、これらのポリマーを形成するためのモノマーが2種以上組み合わされて重合された共重合体であってもよい。
【0040】
これらのポリマーを形成するためのモノマーとしては、放射線照射によって重合し得るモノマーを用いることができる。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体等が挙げられ、これらの1種以上を使用してよい。モノマーが一種類単独で使用された場合、基材上に形成されるポリマーはホモポリマーとなり、モノマーが複数種一緒に使用された場合、基材上に形成されるポリマーはヘテロポリマーとなるが、どちらの形態も本発明に包含される。
【0041】
また、増殖細胞の種類によってTを調節する必要がある場合や、被覆物質と細胞培養支持体との相互作用を高める必要が生じた場合や、細胞支持体の親水・疎水性のバランスを調整する必要がある場合などには、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフト又はブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質が損なわれない範囲で架橋することも可能である。
【0042】
pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーは作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0043】
刺激応答性ポリマーを所定の厚さとなるようにフィルム基材層の表面に固定化して、刺激応答性ポリマー層とする。その膜厚は、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内とするよく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。膜厚を0.5nm〜300nmの範囲とすることで細胞の接着と剥離の両立が容易となる。なお、刺激応答性ポリマー層には、その機能を損なわない程度に界面活性剤等の成分を含んでもよい。
【0044】
細胞接着性及び細胞非接着性は、一の領域と他の領域における細胞の接着度合いの相対的な関係を示すものである。
【0045】
細胞接着性とは、細胞が接着しやすいことをいう。細胞接着性は、表面の化学的性質や物理的性質等によって細胞の接着や伸展が起こりやすいか否かで決定される。
【0046】
細胞接着性を判断する指標として、実際に細胞培養した際の細胞接着伸展率を用いることができる。細胞接着性の表面は、細胞接着伸展率が60%以上の表面であることが好ましく、細胞接着伸展率が80%以上の表面であることが更に好ましい。細胞接着伸展率が高いと、効率的に細胞を培養することができる。本発明における細胞接着伸展率は、播種密度が4000cells/cm2以上30000cells/cm2未満の範囲内で培養しようとする細胞を測定対象表面に播種し、37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内に保管し、14.5時間培養した時点で接着伸展している細胞の割合({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))と定義する。
【0047】
細胞の播種は、10%FBS入りDMEM培地に懸濁させて測定対象物上に播種し、その後、細胞ができるだけ均一に分布するよう、細胞が播種された測定対象物をゆっくりと振とうすることにより行うものである。さらに、細胞接着伸展率の測定は、測定直前に培地交換を行って接着していない細胞を除去した後に行う。細胞接着伸展率の測定では、細胞の存在密度が特異的になりやすい箇所(例えば、存在密度が高くなりやすい所定領域の中央、存在密度が低くなりやすい所定領域の周縁)を除いた箇所を測定箇所とする。
【0048】
一方、細胞非接着性とは、細胞が接着しにくい性質をいう。細胞非接着性は、表面の化学的性質や物理的性質等によって細胞の接着や伸展が起こりにくいか否かで決定される。
【0049】
細胞非接着性の表面は、上記で定義した細胞接着伸展率が60%未満の表面であることが好ましく、40%未満の表面であることがより好ましく、5%以下の表面であることが更に好ましく、2%以下の表面であることが最も好ましい。
【0050】
<フィルム基材層>
フィルム基材層は、一方の表面に上述の刺激応答性ポリマー層を形成することが可能な材料を含むものであればよく、材料の種類は特に限定されない。典型的には、フィルム基材層の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリル等が挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートである。
【0051】
フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成される側の表面は、易接着処理された表面であることができる。「易接着処理」とは、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の易接着剤による処理を指す。すなわち、刺激応答性ポリマー層が形成される側の表面が易接着処理されたフィルム基材層は、上記の材料からなる層と、該層の少なくとも一方の表面に配置された、前記易接着剤からなる易接着層とを備える。
【0052】
なお、表面が易接着処理されたフィルム基材層は、必要であれば市販品を使用してもよい。
【0053】
フィルム基材層の厚さ(フィルム基材層が基材の層に加えて易接着層を備える場合は、易接着層を含むフィルム基材層の全体の厚さを指す)は、特に制限は無いが、ロール状に巻き取り可能な可撓性を付与する厚さであることが好ましく、例えば5〜500μm、好ましくは20〜400μm、より好ましくは50〜250μmである。
【0054】
<刺激応答性ポリマー層の形成>
本発明において、フィルム基材層上での刺激応答性ポリマー層の形成は下記のようにして行うことが出来る。すなわち、重合して該ポリマーを形成するモノマーと、該モノマーを溶解しうる有機溶媒と含む塗布用組成物を調製し、これを慣用の塗布方法に従って、フィルム基材の表面に塗布して塗膜を形成し、次に、該塗膜に放射線照射等の適当な手段により塗膜中のモノマーを重合してポリマーを形成するとともに、フィルム基材の表面とポリマーとの間にグラフト化反応を生じさせることにより形成することができる。
【0055】
前記したモノマーを溶解しうる有機溶媒としては、モノマーを溶解しうるものであれば特に制限はないが、常庄下に於いて沸点120℃以下、特に60〜110℃のものが好ましい。好ましい溶媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、及び水等が挙げられ、これらは組み合わせて使用しても良い。その他の溶媒、例えば1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ブトキシエタノール、及びエチレン(若しくはジエチレン)グリコール又はそのモノエチルエーテル、等も使用可能である。必要であれば、上記溶液にはその他添加剤を配合してよい。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、モノマーを溶解しうる有機溶媒として2−プロパノール(イソプロピルアルコール)を用いる。また、塗布用組成物中のモノマーの含有量は5〜70重量%であることが好ましい。また、塗布用組成物中には、モノマーに加えて、複数個のモノマーが重合したオリゴマー又はプレポリマーが含まれてもよい。この実施形態では、オリゴマー又はプレポリマーの大きさはダイマー以上のものであれば特に限定されず、分子量約3,300(典型的には28分子ポリマー)より大きいものが好ましく、分子量5,700以上のものがより好ましい。
【0057】
重合及びグラフト化のために使用する放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等がある。所望のグラフトポリマーを作製するためにはγ線と電子線がエネルギー効率が良いため好ましく、特に、生産性の面から電子線が好ましい。紫外線に関しては適当な重合開始剤やフィルム基材表面とのアンカー剤を組合せることで使用できる。
【0058】
放射線の線量の範囲は、電子線であれば5Mrad〜50Mradが好ましく、γ線であれば0.5Mrad〜5Mradが好ましい。
照射工程後に、必要により塗膜を乾燥させて、前記有機溶媒を除去する。
【0059】
このようにして形成された刺激応答性ポリマー層を、必要時応じてさらに洗浄してもよい。グラフト重合後の刺激応答性ポリマー層の表面上には、共有結合により固定化されたポリマー分子だけでなく、固定化されていない遊離のポリマー分子や、未反応のモノマー等が存在していると考えられ、洗浄により、これら遊離ポリマーや未反応物を除去することができるので好ましい。ここで、洗浄方法は特に限定されないが、典型的には浸漬洗浄、遥動洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄等が挙げられる。また洗浄液としては典型的には各種水系、アルコール系、炭化水素系、塩素系、酸・アルカリ洗浄液が挙げられる。
【0060】
<粘着剤層>
粘着剤層を構成する粘着剤としてはポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等を挙げることができ、なかでもアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を好ましく用いることができる。
【0061】
粘着剤層の厚さは特に限定されないが、10μm〜300μmであることが好ましく、20μm〜200μmであることがより好ましい。
【0062】
図8に示すように、第一部材に貼付される前までの時点では、細胞支持フィルム810の粘着剤層803の外側には、該粘着剤層803を保護する剥離フィルム層804が貼り合わされていることが好ましい。剥離フィルム層804は、剥離性を有する剥離部材からなり貼付に際して剥離除去される。剥離部材は、必要な強度や柔軟性を有する限りとくに限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルム又はそれらの発泡フィルムに、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カーバメート等の剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。剥離フィルム804の厚さは特に限定されないが、好ましくは10μm〜100μmである。
【0063】
粘着剤層803は、粘着剤と、必要に応じて溶媒と含む粘着剤層形成用塗工液をフィルム基材又は剥離フィルムの表面に塗布して塗膜とし、必要に応じて乾燥することにより形成することができる。塗布方法としては、例えば、コンマコーティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーディング法、リバースロールコーティング法、オフセットグラビアコーティング法等が使用できる。
【0064】
<ヒートシール性樹脂層>
ヒートシール性樹脂層とは、感熱接着剤(熱をかけると溶融して接着する)のことであり、予めヒートシール層を塗布しておき、使用時に熱や圧力をかけることによりフィルムを対象物に接着させるために用いられる。
【0065】
ヒートシール性樹脂層はグラビアコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコートなどの印刷法を用いることにより形成できる。
【0066】
<細胞培養容器の製造方法>
本発明の細胞培養容器製造方法は概略を図20に示すとおり、長尺状の細胞支持フィルムを準備し、カット工程、細胞支持フィルム固定工程、及び部材接合工程、並びに必要に応じて行われる滅菌工程を準備行うことを特徴とする。以下、各工程について詳述する。ただし、本発明は以下の具体的な態様には限定されない。
【0067】
<細胞支持フィルムの準備>
本発明の方法において、長尺状の細胞支持フィルムを準備する工程を「細胞支持フィルム準備工程」と呼ぶことがある。
【0068】
細胞支持フィルム準備工程は、長尺状の細胞支持フィルムを準備する工程である。ここで「長尺状の細胞支持フィルムを準備する」とは、好ましくは長尺状の細胞支持フィルムを製造することを指すが、予め製造された長尺状の細胞支持フィルムを準備する工程であってもよい。以下の説明では、前者の、長尺状の細胞支持フィルムを製造する工程を「細胞支持フィルム製造工程」と称する。
【0069】
細胞支持フィルム製造工程では、長尺状の細胞支持フィルムをロール・ツー・ロール方式により製造することが好ましい。ロール・ツー・ロール方式とは、ロール状に巻いた可撓性を有する長尺状の基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら基材上に所定の処理を施し、再びロールに巻き取る生産方式である。ロール・ツー・ロール方式は細胞支持フィルムを枚葉毎に製造するバッチ方式に比べて均一性の高い細胞支持フィルムを効率的に製造することが可能である。
【0070】
細胞支持フィルム製造工程の一実施形態は、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材を繰り出して搬出し、繰り出されたフィルム基材上に刺激応答性ポリマー層を形成し、形成後のフィルム基材をロール状に巻き取る工程を含む。
【0071】
一例として、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602とを備える細胞支持フィルム610のロール・ツー・ロール方式による製造法について図10に沿って説明する。まず、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材(ロール原反)を準備する(S1)。フィルム基材は予め表面が易接着処理されたものを用いてもよい。必要に応じてロール・ツー・ロール方式により易接着処理を施してもよい。ロール状に巻かれたフィルム基材を繰り出し、搬送し、繰り出されたフィルム基材の表面に、刺激応答性ポリマーを形成するためのモノマーと溶媒とを少なくとも含む上記の塗布用組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜に電子線等の放射線を照射して刺激応答性ポリマーをグラフト重合する(S2)。続いて、必要に応じて、ロール・ツー・ロール方式により、未反応のモノマーやグラフト化されていないポリマーを上述の手段により洗浄除去する(S3)。こうして、長尺状の細胞支持フィルムが得られる(終了)。
【0072】
図8に示すように、粘着剤層803が更に積層された細胞支持フィルム810であって、それを保護するための剥離フィルム層804が貼りあわされたものを製造する方法としては以下の方法(1)〜(3)がある。
【0073】
(1)フィルム基材層601に刺激応答性ポリマー層602が積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品1を上述の方法で準備する工程と、ロール状に巻かれた長尺状の細胞支持フィルム中間製品1を繰り出し、搬送し、繰り出された細胞支持フィルム中間製品1の、フィルム基材層601の側に、粘着剤層に関して上述した形成方法により粘着剤層803を形成する工程と、粘着剤層の形成に続いて、長尺状の剥離フィルム804を粘着剤層803に貼り合わせ、得られた細胞支持フィルム810をロール状に巻き取る工程とを含む方法。
【0074】
(2)フィルム基材層601に刺激応答性ポリマー層602が積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品1を上述の方法で準備する工程と、長尺状の剥離フィルム804に粘着剤層803が積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品2をロール・ツー・ロール方式により製造するか、予め製造された長尺状の細胞支持フィルム中間製品2を準備する工程と、長尺状の細胞支持フィルム中間製品1と細胞支持フィルム中間製品2とを、細胞支持フィルム中間製品1のフィルム基材層601と、細胞支持フィルム中間製品2の粘着剤層803とが接するように貼り合わせて、剥離フィルム層804を備えた長尺状の細胞支持フィルム810を製造し、製造された長尺状の細胞支持フィルム810をロール状に巻き取る工程とを含む方法。
【0075】
(3)フィルム基材601と、粘着剤層803と、剥離フィルム層804とが積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品3をロール・ツー・ロール方式により製造するか、予め製造された長尺状の細胞支持フィルム中間製品3を準備する工程と、長尺状の細胞支持フィルム中間製品3の、フィルム基材層601の側に、上述の方法で刺激応答性ポリマー層602を形成して、製造された、剥離フィルム層804を備えた長尺状の細胞支持フィルム810をロール状に巻き取る工程とを含む方法。
【0076】
図9に示すように、ヒートシール性樹脂層905が更に積層された長尺状の細胞支持フィルム910も同様に、フィルム基材層601、ヒートシール性樹脂層905、刺激応答性ポリマー層602を任意の順序でロール・ツー・ロール方式により形成して製造することができる。長尺状のフィルム基材層601にヒートシール性樹脂層905が積層した細胞支持フィルム中間製品4は予め製造されたものを準備して、細胞支持フィルム中間製品4に刺激応答性ポリマー層602を形成してもよい。
【0077】
<カット工程>
カット工程は、長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得する工程である。
【0078】
カット工程は、典型的には、図11に示すように、長尺状の細胞支持フィルム1100をカットして相互に切り離された状態の複数の枚葉状の細胞支持フィルム1101を取得する工程である。しかしながらこれに限らずカット工程はいわゆるハーフカットにより細胞支持フィルムを枚葉状にカットする工程でもよい。具体的には図12に示すように、長尺状の細胞支持フィルム1201に、該細胞支持フィルムの、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に剥離フィルム層1202を剥離可能に接着させて、長尺状のハーフカット用積層体1200を用意する。そして、カット工程において、細胞支持フィルム1201の表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが剥離フィルム1202を切断しない厚さ方向位置まで形成されている切り込み線(ハーフカット線)1210を形成して、細胞支持フィルム1201に、切り込み線1210により包囲された、枚葉片として分離することが可能な領域1230を複数形成する。こうして長尺状の、ハーフカット済み剥離フィルム付細胞支持フィルム1220を得る。この実施形態において、切り込み線1210により包囲された細胞支持フィルム1201の複数の領域1230は、それぞれ独立に、細胞支持フィルムの他の部分及び剥離フィルムから枚葉状の細胞支持フィルムとして分離することができ、本発明の細胞培養容器の製造方法に利用することができる。ハーフカット用積層体1200は、典型的には、図8に示す剥離フィルム804と積層された細胞支持フィルム810であるが、これには限られず、他の構造を有する細胞支持フィルムに剥離フィルム層が剥離可能に接着したものであってもよい。
【0079】
カット工程において得られる枚葉状の細胞支持フィルムは、細胞支持フィルムが固定される第1部材の、細胞支持フィルムが固定される領域の形状に応じた任意の形状であることができる。例えば、三角形、四角形(長方形、正方形、平行四辺形、菱形等)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形や、円形、楕円形等の形状であることができる。枚葉状の細胞支持フィルムは特に多角形であることが好ましい。多角形であれば、長尺状の細胞支持フィルムから効率的に枚葉片を取得することができるからである。多角形の中でも長方形又は正方形が特に好ましい。
【0080】
<細胞支持フィルム固定工程>
細胞支持フィルム固定工程は、容器部の、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える一部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムが固定化されているフィルム固定化第1部材を製造する工程である。
【0081】
第1部材は、図4及び5の第1部材401、501のように、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える容器部の一部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の部材である限り特に限定されない。第1部材細胞支持フィルムが固定される内壁面が開放されているため、細胞支持フィルムの固定が容易である。
【0082】
細胞支持フィルムを第1部材に固定する方法としては種々の方法を採用することができる。以下に代表的な例を挙げる。
【0083】
実施形態の一例として、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを粘着剤を介して貼付する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。この実施形態では図7に示すように粘着剤703を介して細胞支持フィルム610を第1部材720に固定する。このためには細胞支持フィルム610又は第1部材720の一方又は両方に粘着剤を塗布し、両者を貼り合わせてもよいが、好ましくは、図8に示すように、剥離フィルム層804が貼付された状態の細胞支持フィルム810を用意し、剥離フィルム層804を除去し、粘着剤層803を介して第1部材に固定する。図13のA〜Cには、図4に示す第1部材401に細胞支持フィルム810を粘着剤層803を介して貼り合わる工程を示す(図1のI−I’断面に対応する)。細胞支持フィルム810の貼付はラベル貼付用のラベラーを用いて行うこともできる。
【0084】
細胞支持フィルム貼付後の第1部材に対して、必要に応じて、オートクレーブ処理を施し、細胞支持フィルムの貼付面における気泡を除去することができる。
【0085】
実施形態の他の一例として、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムをヒートシールにより固定する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。この実施形態では、図9に示すように、ヒートシール性樹脂層905が形成された細胞支持フィルム910を、第1部材の表面にヒートシール性樹脂層905が第1部材に接するように配置し、加熱することにより両者を固定する方法である。図14のA〜Cには、図4に示す第1部材401に細胞支持フィルム910をヒートシール性樹脂層905を介して貼り合わる工程を示す(図1のI−I’断面に対応する)。
【0086】
なお、ヒートシールによる固定にはヒートシール性樹脂層905は必ずしも必要ではない。例えば図6に示すような細胞支持フィルム610において、フィルム基材層601が熱可塑性樹脂のフィルムであり、第1部材が同様に熱可塑性樹脂の部材である場合、両者を重ね合わせて適当な温度で加熱して両者を溶融して冷却することでヒートシールが可能である。
【0087】
実施形態の他の一例として、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとを超音波溶着により溶着させ固定化する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。超音波裕着は樹脂製の部材同士を接合する方法として一般的に用いられる。典型的には図15に示すように、第1部材401の、細胞支持フィルム610が固定される領域の周縁部に、超音波溶着に必要なエネルギーダイレクター(幅が100〜1000μm程度、高さ50〜1000μmの薄い樹脂突起)1501を他の部分とともに一体に成形した第1部材401’を用意する。そして、第1部材401’の内底面領域に、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602を備えた細胞支持フィルム610を接触させる。図16(図15に示すV−V’断面から見た図)において更に具体的に説明すると、細胞支持フィルム610を第1部材401’に載せ、エネルギーダイレクター1501が存在する部分に、超音波溶着用の超音波ホーンにより押し当てながら超音波による振動を与えることにより、細胞支持フィルム610を第1部材401’の底面に固定する(図16C)。
【0088】
実施形態の他の一例として、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとをレーザー溶着により溶着させ固定化する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。レーザー溶着は光透過性樹脂部材と光吸収性樹脂部材とを重ね合わせ、両部材同士を押し付けながらレーザービームを照射して部材の界面を熱溶融させて接合する方法である。図17に示すように、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602を備えた細胞支持フィルム610と第1部材401とを接合する場合、フィルム基材層601と第1部材401の固定面との一方を光透過性樹脂部材とし、他方を光吸収性樹脂部材とすることでレーザー溶着が可能である。
【0089】
実施形態の他の一例として、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。この方法はインモールド成形の一種である。この方法による、フィルム基材層601が底面に固定された第1部材401の製造の具体例を図18に基づき説明する。第1部材401を型締め時に第1部材401に対応する鋳型空間1804を形成する凸型(コア型)1801と凹型(キャビティ型)1802とを組み合わせる射出成形型において、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602とを備えた枚葉状の細胞支持フィルム610を、樹脂の充填固化後に第1部材401において細胞支持フィルム610が固定されるべき位置に対応する配置し、型締めする。次いで、ゲート1803を通じて、溶融樹脂を、射出圧を加えて型内に充填する(図18B)。充填後、樹脂を固化させてから型を開き、細胞支持フィルム610が固定された第1部材401を取得する(図18C)。
【0090】
この実施形態の変形例として細胞支持フィルム610に代えて、フィルム基材層601の、刺激応答性ポリマー層602とは反対側の面に、ヒートシール性樹脂層905を更に備えた細胞支持フィルム910を用いる実施形態を挙げることができる。図21に示すように、凸型1801と凹型1802とを組み合わせる射出成形型において、ヒートシール性樹脂層905の表面の少なくとも一部(図21では全部)が鋳型空間に露出し、刺激応答性ポリマー層602の表面が型の内壁面に接するように細胞支持フィルム910を型内に配置し、型締めする。次いで、ゲート1803を通じて、溶融樹脂を、射出圧を加えて型内に充填し、樹脂を固化させてから型を開き、細胞支持フィルム910が固定された第1部材401を取得する(図21C)。この実施形態では、ヒートシール性樹脂層905が高温の溶融樹脂との接触により溶融し、樹脂の固化とともに固化するため、それを介してフィルム基材層601と第1部材401とが強固に接合する。
【0091】
実施形態の他の一例として、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを物理的な係止手段を介して係止する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。物理的な係止手段としては、細胞支持フィルムを第1部材上の所定位置に固定可能な手段であれば特に限定されないが、例えば第1部材に設けられたフックと、枚葉状の細胞支持フィルムに設けられた、前記フックと係合するフック受け部として機能する貫通孔との組み合わせが考えられる。もしくは、第1部材に設けられた凹部と、枚葉状の細胞支持フィルムに設けられた、前記凹部と係合する凹部受け部として機能する凸部との組み合わせなどが考えられる。
【0092】
<部材接合工程>
部材接合工程は、第1部材の所定位置に細胞支持フィルムが固定化されたフィルム固定化第1部材と、1以上の他の部材とを接合することにより容器部を形成する工程である。
【0093】
フィルム固定化第1部材では、図4、5に例示するとおり細胞支持フィルムが、開放された内壁面に固定されている。容器部の他の部材は、第1部材と組み合わされたときに、第1部材上の細胞支持フィルムが内壁面に配置された内室が形成された容器部が完成するように構成されている。得られる容器部において、細胞支持フィルムの対面方向が開放されておらず内壁面(通孔を有する内壁面であってもよい)により閉鎖される。他の部材は1以上の組み合わせであることができ、好ましくは3個以下、より好ましくは2個又は1個である。
【0094】
容器部を構成する第1部材及び1以上の他の部材は、容器部について説明した樹脂材料等の各種材料により構成されている。第1部材及び1以上の他の部材は、細胞培養の目的に応じた方式で接合することができ、必要な場合は、培養液が漏出しないように液密な様式により相互に接合する。部材同士の接合は、樹脂材料からなる部材同士の接合であれば超音波溶着、レーザー溶着、ヒートシール等の方法で行うことができ、他の材料からなる部材同士の接合であっても接着剤を用いた接着など任意の方法で行うことができる。
【0095】
図13、14、16、17、18の例ではいずれも、細胞支持フィルムの固定後に第1部材401又は401’に第2部材402を接合し、容器部100を完成させる。
【0096】
接合により製造された容器部に、必要に応じて蓋等の他の部材を組み合わせ、本発明の細胞培養容器を得ることができる。
【0097】
<滅菌工程>
本発明の方法は、本発明の細胞培養容器を滅菌する工程を更に含むことが好ましい。
滅菌方法としては、γ線照射滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、電子線滅菌、紫外線照射滅菌、過酸化水素滅菌、エタノール滅菌等の方法を用いることができる。特にγ線照射滅菌は全生物種を死滅させられるという点で好適である。
【0098】
本発明ではγ線照射滅菌が好ましく、特に真空条件でのγ線照射滅菌が好ましい。一般的に市販されているシャーレ等の細胞培養容器の製造後のγ線照射滅菌は、空気中で行われる場合が多い。本発明者らは、実施例に示すように、本発明の細胞培養容器に対して大気中でγ線照射滅菌を行う場合、刺激応答性ポリマー層の機能が低下する傾向があることを見出した。このことはγ線照射により大気中の酸素が活性化され刺激応答性ポリマー層と反応することが原因であると考えられる。これに対して真空条件下においてγ線照射滅菌を行う場合には刺激応答性ポリマー層の機能の顕著な低下が回避されるため好ましい。
【0099】
真空条件においてγ線照射滅菌を行う方法としては、細胞培養容器を真空包装し、包装状態を維持したまま包装の外部からγ線を照射する方法が簡便であるため好ましい。この方法による滅菌後の真空包装された細胞培養容器はそのまま製品として出荷することができる。
【0100】
γ線照射滅菌におけるγ線の照射エネルギーは5kGy〜30kGyとすることが好ましい。
【実施例】
【0101】
(実施例1)粘着剤による貼付
A.温度応答性細胞支持フィルムの作製
N−イソプロアクリルアミドを最終濃度40重量%になるようにイソプロプルアルコールに溶解させて塗工液を作製した。粘着剤が塗工されて剥離フィルムで保護された易接着ポリエチレンテレフタレート(三光産業社 透明50−Fセパ1090)フィルムが幅17cmの帯状となったロール原反を準備した。ロール原反からフィルムを送り出し、フィルム表面に塗工液をグラビアコートにより塗布した後、40℃の熱風乾燥機内を10秒間通過させて乾燥させた。そして電子線を照射してN−イソプロアクリルアミドをグラフト重合させ、フィルム表面にポリ−N−イソプロアクリルアミドを固定化し、未固定化成分を除去するために洗浄し、ポリエチレンテレフタレートのフィルム基材の表面に温度応答性ポリマー層と粘着剤層を備える、粘着剤層が剥離フィルムで保護された長尺状の細胞支持フィルム(図8の細胞支持フィルム810に相当する)を作製した。
【0102】
B.温度応答性細胞支持フィルムの加工
長尺状の温度応答性細胞支持フィルムを7.5cm×7.5cmの矩形状にレーザー加工機により裁断し、枚葉状に個片化した。
【0103】
C.温度応答性細胞支持フィルムの取付け
通孔を備えた皿状の底板部材(図4に示す第1部材401に相当する)と、底板部材に取付けられる天板部材(図4に示す第2部材402に相当する)とからなるポリスチレン製のフラスコ用部品(Nunc社製)を準備した。個片化した温度応答性細胞支持フィルムの剥離フィルムを剥し、粘着剤が塗工された面を底板部材の内面に接着させ、温度応答性細胞支持フィルムと底板部材を一体化した。
【0104】
D.フラスコ筐体の組立て
天板部材を底板部材に嵌め合せた状態で、超音波融着装置を用いて両者の接触部分を融着させて接合することによりフラスコ型容器部を組立てた。
【0105】
E.温度応答性機能確認
ウシ大動脈血管内皮細胞を表面細胞密度が6.25×103cells/cm2になるように調整し、作製したフラスコ型容器部の内室に播種した。使用培地は10%FBS含有DMEM(シグマ製)であり、培養はCO2インキュベーターで37℃、5%CO2の条件にて20時間行った。その後、フラスコを20℃、5%CO2条件下のインキュベーターに入庫した。30分後、20℃のインキュベーターから出庫した。温度応答性細胞支持フィルムの培養面に接着していた細胞が剥離していることを確認した。
【0106】
(実施例2)粘着剤による貼付+脱泡
次に枚葉状の温度応答性細胞支持フィルムの剥離フィルムを剥し、粘着剤が塗工された面を底板部材の内面に接着させ、温度応答性細胞支持フィルムと底板部材を一体化した後、オートクレーブで処理圧0.4MPa、処理温度40℃で、30分間、脱泡処理を行った。温度応答性細胞支持フィルムを目視で観察し、全面にわたりフィルムと底板部材の間に気泡が存在しないことを確認した。実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に接着させた細胞を剥離できることを確認した。
【0107】
(実施例3)γ滅菌5kGy
実施例1で作製したフラスコ型容器部の通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、透明フィルムで真空包装した。透明フィルムで真空包装した状態で、γ線を5kGy照射して滅菌を施した。滅菌後のフラスコ内にて、実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞の剥離を行うことができることを確認した。
【0108】
(実施例4)γ滅菌10kGy
実施例3におけるγ線照射エネルギーを10kGyとした以外は、ほぼ同様の処理を行い、細胞の剥離を行った。温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞を剥離できることを確認した。
【0109】
(参考例1)
実施例1で作製したフラスコの通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、大気中でγ線を5kGy照射した。滅菌後のフラスコ内にて、実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができるが、実施例3及び実施例4よりも剥離性能が劣るものであることを確認した。
【0110】
(参考例2)
実施例1で作製したフラスコの通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、大気中でγ線を10kGy照射した。滅菌後のフラスコ内にて、実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができるが、実施例3及び実施例4よりも剥離性能が劣るものであることを確認した。
【0111】
(参考例3)
実施例1で作製したフラスコの通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、紫外線照射により滅菌し、同様に細胞剥離試験を行った。真空中でのγ線照射滅菌を行った実施例3及び実施例4は、死滅生物種が限定的な紫外線照射と同程度の細胞剥離性能を示した。
【0112】
(参考例4)
市販の温度応答性ポリマーを備えた細胞培養容器を用いて同様に細胞剥離試験を行った。真空中でのγ線照射滅菌を行った実施例3及び実施例4は市販品と同程度の細胞剥離性能を示した。
【0113】
(細胞剥離試験)
実施例3、4、参考例1〜4の細胞剥離性能は特開2009−82123の方法で確認した。
参考例4(市販品)の細胞剥離性能を1.0としたときの相対的な細胞剥離性能を図19に示す。
【0114】
(実施例5)超音波融着
温度応答性細胞支持フィルムを皿状の底板部材(図15に示す第1部材401’に相当する)に直接載置し、超音波融着法により両者を一体化した。温度応答性細胞支持フィルムの周縁部に沿って、超音波融着装置の超音波発生器を当てて温度応答性細胞支持フィルムと底板部材とを溶接した。その後、引続き超音波融着装置を用いて天板と底板部材とを接合してフラスコを組立てた。このフラスコを用いて実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができることを確認した。
【0115】
(実施例6)インモールド成形
成型装置はファナック社のα-100Cを用いた。フラスコの天板形状の空洞部を構成するためのコア用金型とキャビティ用金型を準備した。コア用金型に温度応答性細胞支持フィルムを配置した後、コア用金型とキャビディ用金型を合わせ、空洞部に溶融したポリスチレンを供給した。樹脂温度は220度、金型温度は20度で実施した。その後、一体成形された温度応答性細胞支持フィルムと天板とを取り出し、天板と通孔を備えた皿状の底板部材とを超音波融着装置を用いて接合してフラスコを組立てた。このフラスコを用いて実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができることを確認した。
【0116】
(実施例7)粘着剤による貼付
実施例1の「A.温度応答性細胞支持フィルムの作製」において以下の点を変更した点を除いて実施例1と同様にフラスコ型培養容器を製造した。製造されたフラスコ型培養容器は、実施例1の容器と同様の細胞シート剥離性能を有していることが確認された。
【0117】
易接着ポリエチレンテレフタレートフィルムの幅17cmの帯状となったロール原反を準備した。ロール原反からフィルムを送り出し、フィルム表面に実施例1と同様の塗工液をグラビアコートにより塗布した後、40℃の熱風乾燥機内を10秒間通過させて乾燥させた。そして電子線を照射してN−イソプロアクリルアミドをグラフト重合させ、フィルム表面にポリ−N−イソプロアクリルアミドを固定化し、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材の表面に温度応答性ポリマー層を形成した。
【0118】
一方、幅17cmの帯状の剥離フィルムが巻かれたロール原反を用意した。粘着剤形成用塗工液として、アクリル系ポリマー:SKダイン2147(綜研化学社製)を準備した。剥離フィルムのロール原反を送り出し、剥離フィルム表面に粘着剤形成用塗工液をコンマコーターにより塗布して塗膜を形成し、90度で2分処理し、剥離フィルムの表面に粘着剤層を形成した。
【0119】
形成された粘着剤層を有する長尺状の剥離フィルムと、温度応答性ポリマー層を有する長尺状のポリエチレンテレフタレートのフィルム基材とを、粘着剤層とフィルム基材層とが接するように接着させ、接着後にロール状に巻き取って、ロール状に巻かれた形態の、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材の表面に温度応答性ポリマー層と粘着剤層を備える、粘着剤層が剥離フィルムで保護された長尺状の細胞支持フィルム(図8の細胞支持フィルム810に相当する)を作製した。
【符号の説明】
【0120】
100,200・・・容器部
120,220・・・細胞培養容器
130・・・内室
140,610,810,910・・・細胞支持フィルム
401,501・・・第1部材
402,502,503・・・他の部材
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養容器の製造方法に関する。より詳細には、本発明は細胞を大量培養するために適したフラスコ型又はボトル型の細胞培養容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソプロプルアクリルアミドなどの温度応答性高分子を用いてシート状に形成した細胞シートを非侵襲的に回収する技術が、例えば、特許文献1に報告されている。また、現在、このような温度応答性高分子を用いた細胞培養用のディッシュやマルチウェルプレートが市販され、再生医療用途に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−211865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
再生医療の実用化にあたっては、細胞を大量に培養する技術が必要される。しかし、ディッシュやマルチウェルプレートでは、細胞を培養する面積が小さいため、細胞を大量に培養するには多くの容器とそれらを処理する手間を要することになる。そこで、細胞を安定的に剥離可能な状態で大量培養できる細胞培養容器、そしてそのような細胞培養容器を安価に大量生産する技術の確立が望まれている。
【0005】
大量培養に適した細胞培養容器としては、フラスコ型、ボトル型等の、細胞及び培地を収容するための大容量の内室を備えた細胞培養容器が知られている。このような容器は所定の剥離性能を付与すべき面が容器の内壁面であり、閉鎖された部位に位置する。このような部位に効率的に所定の剥離性能を付与する技術の確立が望まれる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、細胞を安定的に剥離可能な状態で大量培養できる細胞培養容器を安価に大量生産する技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段として以下の本発明を完成するに至った。
(1)細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器を製造する方法であり、
以下の工程:
長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得するカット工程、
容器部の、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムが固定化されているフィルム固定化第1部材を製造する、細胞支持フィルム固定工程、並びに
フィルム固定化第1部材と、1以上の他の部材とを接合することにより容器部を形成する部材接合工程
を含む、前記方法。
(2)長尺状の細胞支持フィルムを製造する細胞支持フィルム製造工程を更に含み、
細胞支持フィルム製造工程が、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材を繰り出して搬出し、繰り出されたフィルム基材上に刺激応答性ポリマー層を形成し、形成後のフィルム基材をロール状に巻き取る工程を含む、(1)の方法。
【0008】
(3)カット工程が、長尺状の細胞支持フィルムをカットして、多角形の枚葉状の細胞支持フィルムを取得する工程を含む、(1)又は(2)の方法。
(4)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを粘着剤を介して貼付する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムをヒートシールにより固定する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(6)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとを超音波溶着により溶着させ固定化する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(7)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとをレーザー溶着により溶着させ固定化する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(8)細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
【0009】
(9)細胞支持フィルムが、フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に配置されたヒートシール性樹脂層を更に備え、
細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の前記細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(10)細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを物理的な係止手段を介して係止する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(11)真空条件において細胞培養容器に対してγ線を照射することにより該細胞培養容器を滅菌する滅菌工程を更に含む、(1)〜(10)のいずれかの方法。
【0010】
(12)細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器。
(13)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える長尺状の細胞支持フィルムと、
該細胞支持フィルムの、フィルム基材層の刺激応答性ポリマー層が形成されていない側に配置された長尺状の剥離フィルム層と
を備え、
該細胞支持フィルムには、切り込み線により包囲された、枚葉片として分離することが可能な領域が複数形成されており、該切り込み線は、該細胞支持フィルムの表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが該剥離フィルムを完全には切断しない厚さ方向位置まで形成されているハーフカット線である、
ハーフカット済みの、長尺状剥離フィルム付細胞支持フィルム。
【0011】
(14)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含む、枚葉状の細胞支持フィルムであって、
フラスコ型細胞培養容器の容器部の底部内面の略全体を被覆可能な、該底部内面に対応する形状を有する、枚葉状の細胞支持フィルム。
ここで、「フラスコ型細胞培養容器の容器部の底部内面の略全体を被覆可能な、該底部内面に対応する形状を有する、枚葉状の細胞支持フィルム」とは、典型的には、図15に示す細胞支持フィルム610のように、四角形部分と、該四角形部分の一辺から延出した台形部分であって、該一辺を下辺とし、該下辺よりも短い上辺を有する台形部分とが一体化された形状の枚葉状の細胞支持フィルムを指す。
【0012】
<本発明の他の実施形態>
本発明はまた以下の実施形態を包含する。
(15)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施された層である、長尺状の細胞支持フィルム。
(16)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施されていない層である、長尺状の細胞支持フィルム。
(17)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、粘着剤層を更に備える、(15)又は(16)の長尺状の細胞支持フィルム。
(18)粘着剤層の表面に、該粘着剤層を保護し使用時に剥離するための剥離フィルム層を更に備える、(17)の長尺状の細胞支持フィルム。
【0013】
(19)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、ヒートシール性樹脂層を更に備える、(15)又は(16)の長尺状の細胞支持フィルム。
(20)(15)、(16)、(17)又は(19)の長尺状の細胞支持フィルムと、該細胞支持フィルムの一方の面(好ましくは、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面)に剥離可能に接着した剥離フィルム層とを備え、該細胞支持フィルムには、切り込み線により包囲された、該切り込み線の外側から枚葉片として分離することが可能な領域が複数形成されており、該切り込み線は、該細胞支持フィルムの表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが該剥離フィルムを完全には切断しない厚さ方向位置まで形成されているハーフカット線である、ハーフカット済みの、長尺状剥離フィルム付細胞支持フィルム。
この実施形態において、切り込み線により包囲された細胞支持フィルムの複数の領域は、それぞれ独立に、細胞支持フィルムの他の部分及び剥離フィルムから枚葉状の細胞支持フィルムとして分離することができ、本発明の細胞培養容器の製造方法に利用することができる。
【0014】
(21)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施された層である、枚葉状の細胞支持フィルム。
(22)フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含み、刺激応答性ポリマー層は、固定化されていないポリマー成分及びモノマー成分を除去するための洗浄処理が施されていない層である、枚葉状の細胞支持フィルム。
(23)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、粘着剤層を更に備える、(21)又は(22)の枚葉状の細胞支持フィルム。
【0015】
(24)粘着剤層の表面に、該粘着剤層を保護し使用時に剥離するための剥離フィルム層を更に備える、(23)の枚葉状の細胞支持フィルム。
(25)フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に、ヒートシール性樹脂層を更に備える、(21)又は(22)の枚葉状の細胞支持フィルム。
(26)三角形、四角形(長方形、正方形、平行四辺形、菱形等)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形や、円形、楕円形等の形状である、(21)〜(25)のいずれかの枚葉状の細胞支持フィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フラスコ型、ボトル型等の、細胞及び培地を収容するための内室を備えた、内室の内壁面に所望の細胞接着性が付与された細胞培養容器を効率的に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは本発明で製造されるフラスコ型細胞培養容器の構造を示す斜視図である。図1Bは容器部100のI−I’断面図を示し、図1CはII−II’断面図を示す。
【図2】図2Aは本発明で製造されるフラスコ型細胞培養容器の構造を示す斜視図である。図2Bは容器部200のIII−III’断面図を示し、図1CはIV−IV’断面図を示す。
【図3】図3Aは本発明で製造されるボトル型細胞培養容器の構造を示す斜視図である。図3Bは本発明で製造されるボトル型細胞培養容器の容器部を製造するための部材の構造を示す。
【図4】図4は第1部材と1つの他の部材とを接合してフラスコ型細胞培養容器を製造する工程を説明する図である。
【図5】図5は第1部材と2つの他の部材とを接合してフラスコ型細胞培養容器を製造する工程を説明する図である。
【図6】図6は細胞支持フィルムの断面の一実施形態を示す模式図である。
【図7】図7は細胞支持フィルムが第一部材の表面に接着剤を介して接合されている様子を模式的に示す図である。
【図8】図8は細胞支持フィルムの断面の一実施形態を示す模式図である。
【図9】図9は細胞支持フィルムの断面の一実施形態を示す模式図である。
【図10】図10は細胞支持フィルムを製造する方法の概略を示す図である。
【図11】図11はカット工程の一実施形態を模式的に示す図である。
【図12】図12はカット工程の一実施形態を模式的に示す図である。図12Aは積層体がカット工程においてハーフカットされることを示す断面模式図である。図12Bは長尺状の積層体がカット工程においてハーフカットされ、長尺状のハーフカット済み剥離フィルム付細胞支持フィルムを得ることを示す模式図である。
【図13】図13は粘着剤を介して細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図14】図14はヒートシールにより細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図15】図15は超音波溶着により細胞支持フィルムを第一部材に固定する実施形態の概要を示す模式図である。
【図16】図16は超音波溶着により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図17】図17はレーザー溶着により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図18】図18はインモールド成形による一体化により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【図19】図19は滅菌手段の違いと細胞剥離性能との関係を示す図である。
【図20】図20は本発明の細胞培養容器の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図21】図21はインモールド成形による一体化により細胞支持フィルムを固定する細胞支持フィルム固定工程の他の一実施形態及び部材接合工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明では必要に応じて図面を参照し本発明の特徴を説明するが、各図は模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために適宜誇張して示している。
【0019】
<細胞培養容器>
本発明により製造される細胞培養容器は、細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を少なくとも備え、更に適宜蓋等を備える。このような容器部は大容量化が容易であるため、細胞の大量培養に適している。
【0020】
ここで「内室が内部に形成されている」とは、容器部を構成する壁面が包囲する内部空間内に内室が形成されていることを意味する。すなわち、本発明の容器部は、全周囲、すなわち、細胞培養時の配置における底方向、側方向、上方向がいずれも容器部を構成する壁面(通孔が一部に開口された壁面であってもよい)により閉じられている内室を備えているという点で、上方向に開放された皿又は碗形状の容器とは異なる。
【0021】
通常は、容器部の壁面の一部には、内室と外部とを連絡する、細胞及び培地を導入及び排出するための通孔が開口されている。通孔は、着脱可能な蓋により閉栓することが可能であることが好ましい。通孔を備える容器部は、通孔の周縁から、内室から離れる方向に延びる首部を更に備えることが好ましく、着脱可能な蓋が該首部に着脱可能に装着されることが好ましい。
【0022】
容器部の好ましい実施形態の一例を図1に示す。図1Aに示す容器部100は、底部101と、底部101の周縁に立設された側壁部102と、側壁部102の上端部に接合された、底部101に対向配置される天面部103とを少なくとも備える。側壁部102の一部に通孔104が穿設されており、通孔104の周縁から容器部外側に延びる首部105を備える、「フラスコ型」と呼ばれる形状の容器部である。容器部100の首部105には蓋110を係止するための係止部106が形成されており、該係止部を介して蓋110が着脱可能に装着される。容器部100と蓋110とを組み合わせることによりフラスコ型の細胞培養容器120が形成される。
【0023】
図1Bは容器部100のI−I’断面図を示し、図2CはII−II’断面図を示す。容器部100の、底部101、側壁部102及び天面部103に包囲される内部空間には、細胞及び培地を収容するための内室130が形成されている。内室130に面する内壁面の一部分(図1に示す実施形態では底部101)には、細胞支持フィルム140が固定されている。
【0024】
フラスコ型容器部の好ましい他の実施形態を図2に示す。図2Aに示す容器部200では、底部201の一部が天面部103の方向に屈曲した形状を有する。側壁部202は底部201の周縁に立設され、底部201と、底部201に対向配置される天面部103とを接続する。このような形状の容器部200も「フラスコ型」に分類される。
【0025】
容器部の他の実施形態としては、図3Aに示すように、筒状の胴部301と、胴部301の一端に接合された、該一端を閉塞する底部302と、胴部301の他端に接合された該他端を閉塞する頂部303とを備え、頂部303の一部に通孔304が形成され、通孔304の周縁から容器部外部に延びる首部305を備える、ボトル形状の容器部が挙げられる。首部305は、蓋310を係止するための係止部306が形成されており、係止部306を介して蓋310が着脱可能に装着される。このような容器部300は「ボトル型」と呼ばれる。容器部300の内部空間には細胞と培地を収容するための内室340が形成される。胴部301の内室340に面する内壁面上に後述する細胞支持フィルム350が固定される。図3Aでは、胴部301が、横断面が円形である円筒形状である例を示すが、これには限定されず、胴部は筒状である限り、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形であるなど種々の横断面を有する筒形状であることができる。
【0026】
容器部及び蓋などの他の細胞培養容器の部材を形成する材料は特に限定されず、細胞培養において一般的に用いられる材料を用いることができる。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料、及びガラスや石英等の無機材料であることができるが、好ましくは樹脂材料である。樹脂材料としては、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【0027】
本発明の容器部において、細胞支持フィルムが固定される内壁面は外部に解放されておらず、それが対向する方向には、容器部の内壁面の他の領域(図1の実施形態では、細胞支持フィルム140が固定される底部101に対向する方向に位置する天面部103)が存在している。このため容器部を完成させた後に、内室の内壁面に細胞支持フィルムを導入し固定することは容易ではない。そこで本発明では、細胞支持フィルムを固定化することを容易にするために、容器部を、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材と、1以上の他の部材として用意し、第1部材に細胞支持フィルムを固定化してから、フィルム固定化第1部材と1以上の他の部材とを接合して容器部を形成する。
【0028】
複数の部材を組み合わせて容器部を形成する点について図4及び5に沿ってより説明する。図4に示すように、容器部100を形成するための一実施形態では、底部101と側壁部102とを備え、底部101の、細胞支持フィルム140固定面の側が開放された第1部材401と、天面部103に対応する第2部材402とを接合することにより容器部100を形成する。このとき、第2部材402との接合の前に、第1部材401の、底部101の内壁面には細胞支持フィルム140が固定される。本発明では、細胞支持フィルムが固定された第1部材を特に「フィルム固定化第1部材」と呼ぶ。図4における細胞支持フィルム140が固定された第1部材401は、フィルム固定化第1部材と呼ぶこともできる。第1部材401と第2部材402との接合は、細胞培養の目的に応じて、必要な場合は培養液が漏出しないように液密に接合される。
【0029】
図5に示す実施形態では、底部101に対応する第1部材501と、首部105を備えた側壁部102に対応する第2部材502と、天面部103に対応する第3部材503とを接合することにより容器部100を形成する。第1部材501の、底部101の内壁面に対応する部分には、細胞支持フィルム140が固定される。
【0030】
複数の部材の組み合わせは図4及び5に示した形態には限定されない。
なお、1つの容器部を製造するための第1部材は1つであるとは限らず複数あってもよい。例えば容器部内室の相互に対向する複数の内壁面上に細胞支持フィルムを固定する場合には、該複数の内壁面のそれぞれに対応する第1部材を用意し、該複数の第1部材の各々に本発明の方法により細胞支持フィルムを固定して複数のフィルム固定化第1部材を形成する。部材接合工程では、複数のフィルム固定化第1部材を、必要に応じて更なる他の部材とともに接合して容器部を完成させる。複数(N個)のフィルム固定化第1部材のみを接合して容器部を完成する場合も除外されず、この場合は1つのフィルム固定化第1部材と接合される、残りのN−1個のフィルム固定化第1部材が、部材接合工程における「1以上の他の部材」に相当する。例えば、図3Aに示す胴部301内面に細胞支持フィルム350が固定されたボトル型容器部300の場合は、容器部300を胴部301の軸心に沿って分割した略同一形状の2つの第1部材を用意し、各々に細胞支持フィルムを固定してフィルム固定化第1部材とし、2つのフィルム固定化第1部材(図3Bの360及び361)を接合して容器部300を製造することも本発明の方法に包含される。このとき、部材360及び361のいずれか一方が部材接合工程における「1以上の他の部材」ということができる。
【0031】
本発明の細胞培養容器を構成する各部材、並びに、容器部を製造するための第1部材及び1以上の他の部材としては、市販品を購入し使用してもよいし、本発明の方法の実施者が自ら製造し使用してもよい。樹脂材料で構成される容器部を製造するための第1部材及び1以上の他の部材は、樹脂射出成形等の手段によって製造し、必要に応じて内容物の容量を計測するための目盛を印刷技術等の手段により部材表面に付与することにより製造することができる。なお、後述するように、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填してすることにより、第1部材の形成とフィルム固定化第1部材の形成を同時に行ってもよい。
【0032】
<細胞支持フィルムの構造>
本発明の細胞支持フィルムの構造を図6〜9を参照して説明する。
細胞支持フィルム610は、フィルム基材層601と、フィルム基材層601上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層602とを少なくとも備える。
【0033】
細胞支持フィルム610は、長尺状の形態のときにロール巻取り可能な可撓性を備えることが好ましい。
【0034】
細胞支持フィルム610は、細胞培養容器を構成する部材への接合方法に応じて必要な層を更に含むことができる。
【0035】
例えば、図7に示すように、細胞支持フィルム610は、フィルム基材層601の、刺激応答性ポリマー層602が形成される側とは異なる側に粘着剤703を介して第1部材720に貼付し固定することができる。この場合、図8に示すように、粘着剤層803を更に備える細胞支持フィルム810を用いることができる。細胞支持フィルム810の粘着剤層803の表面は、貼付前の段階では必要に応じて更に剥離フィルム804により保護することができる。
【0036】
また、細胞支持フィルム610は、フィルム基材層601の、刺激応答性ポリマー層602が形成される側と第一部材とを必要に応じてヒートシールにより固定することができる。この場合、図9に示すように、ヒートシール性樹脂層905を更に備える細胞支持フィルム910を用いることができる。
【0037】
刺激応答性ポリマー層とは、所定の刺激によって表面の細胞の接着度合いが変化するポリマーを含む層である。刺激応答性ポリマーとしては、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマーなどを挙げることができる。なかでも温度応答性ポリマーが、刺激の付与が容易であることから好ましい。
【0038】
温度応答性ポリマーとして、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、作製した細胞シートの剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いるとよい。例えば、温度応答性ポリマーは、臨界溶解温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着しにくくする性質(細胞非接着性)を示し、同温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示すものを用いるとよい。このような臨界溶解温度は、下限臨界溶解温度と呼ばれる。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃、さらに好ましくは0℃〜50℃である温度応答性ポリマーを用いるとよい。
【0039】
本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーとして、具体的にはアクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーが挙げられ、より具体的にはポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。また、これらのポリマーを形成するためのモノマーが2種以上組み合わされて重合された共重合体であってもよい。
【0040】
これらのポリマーを形成するためのモノマーとしては、放射線照射によって重合し得るモノマーを用いることができる。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体等が挙げられ、これらの1種以上を使用してよい。モノマーが一種類単独で使用された場合、基材上に形成されるポリマーはホモポリマーとなり、モノマーが複数種一緒に使用された場合、基材上に形成されるポリマーはヘテロポリマーとなるが、どちらの形態も本発明に包含される。
【0041】
また、増殖細胞の種類によってTを調節する必要がある場合や、被覆物質と細胞培養支持体との相互作用を高める必要が生じた場合や、細胞支持体の親水・疎水性のバランスを調整する必要がある場合などには、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフト又はブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質が損なわれない範囲で架橋することも可能である。
【0042】
pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーは作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0043】
刺激応答性ポリマーを所定の厚さとなるようにフィルム基材層の表面に固定化して、刺激応答性ポリマー層とする。その膜厚は、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内とするよく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。膜厚を0.5nm〜300nmの範囲とすることで細胞の接着と剥離の両立が容易となる。なお、刺激応答性ポリマー層には、その機能を損なわない程度に界面活性剤等の成分を含んでもよい。
【0044】
細胞接着性及び細胞非接着性は、一の領域と他の領域における細胞の接着度合いの相対的な関係を示すものである。
【0045】
細胞接着性とは、細胞が接着しやすいことをいう。細胞接着性は、表面の化学的性質や物理的性質等によって細胞の接着や伸展が起こりやすいか否かで決定される。
【0046】
細胞接着性を判断する指標として、実際に細胞培養した際の細胞接着伸展率を用いることができる。細胞接着性の表面は、細胞接着伸展率が60%以上の表面であることが好ましく、細胞接着伸展率が80%以上の表面であることが更に好ましい。細胞接着伸展率が高いと、効率的に細胞を培養することができる。本発明における細胞接着伸展率は、播種密度が4000cells/cm2以上30000cells/cm2未満の範囲内で培養しようとする細胞を測定対象表面に播種し、37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内に保管し、14.5時間培養した時点で接着伸展している細胞の割合({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))と定義する。
【0047】
細胞の播種は、10%FBS入りDMEM培地に懸濁させて測定対象物上に播種し、その後、細胞ができるだけ均一に分布するよう、細胞が播種された測定対象物をゆっくりと振とうすることにより行うものである。さらに、細胞接着伸展率の測定は、測定直前に培地交換を行って接着していない細胞を除去した後に行う。細胞接着伸展率の測定では、細胞の存在密度が特異的になりやすい箇所(例えば、存在密度が高くなりやすい所定領域の中央、存在密度が低くなりやすい所定領域の周縁)を除いた箇所を測定箇所とする。
【0048】
一方、細胞非接着性とは、細胞が接着しにくい性質をいう。細胞非接着性は、表面の化学的性質や物理的性質等によって細胞の接着や伸展が起こりにくいか否かで決定される。
【0049】
細胞非接着性の表面は、上記で定義した細胞接着伸展率が60%未満の表面であることが好ましく、40%未満の表面であることがより好ましく、5%以下の表面であることが更に好ましく、2%以下の表面であることが最も好ましい。
【0050】
<フィルム基材層>
フィルム基材層は、一方の表面に上述の刺激応答性ポリマー層を形成することが可能な材料を含むものであればよく、材料の種類は特に限定されない。典型的には、フィルム基材層の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリル等が挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートである。
【0051】
フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成される側の表面は、易接着処理された表面であることができる。「易接着処理」とは、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の易接着剤による処理を指す。すなわち、刺激応答性ポリマー層が形成される側の表面が易接着処理されたフィルム基材層は、上記の材料からなる層と、該層の少なくとも一方の表面に配置された、前記易接着剤からなる易接着層とを備える。
【0052】
なお、表面が易接着処理されたフィルム基材層は、必要であれば市販品を使用してもよい。
【0053】
フィルム基材層の厚さ(フィルム基材層が基材の層に加えて易接着層を備える場合は、易接着層を含むフィルム基材層の全体の厚さを指す)は、特に制限は無いが、ロール状に巻き取り可能な可撓性を付与する厚さであることが好ましく、例えば5〜500μm、好ましくは20〜400μm、より好ましくは50〜250μmである。
【0054】
<刺激応答性ポリマー層の形成>
本発明において、フィルム基材層上での刺激応答性ポリマー層の形成は下記のようにして行うことが出来る。すなわち、重合して該ポリマーを形成するモノマーと、該モノマーを溶解しうる有機溶媒と含む塗布用組成物を調製し、これを慣用の塗布方法に従って、フィルム基材の表面に塗布して塗膜を形成し、次に、該塗膜に放射線照射等の適当な手段により塗膜中のモノマーを重合してポリマーを形成するとともに、フィルム基材の表面とポリマーとの間にグラフト化反応を生じさせることにより形成することができる。
【0055】
前記したモノマーを溶解しうる有機溶媒としては、モノマーを溶解しうるものであれば特に制限はないが、常庄下に於いて沸点120℃以下、特に60〜110℃のものが好ましい。好ましい溶媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、及び水等が挙げられ、これらは組み合わせて使用しても良い。その他の溶媒、例えば1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ブトキシエタノール、及びエチレン(若しくはジエチレン)グリコール又はそのモノエチルエーテル、等も使用可能である。必要であれば、上記溶液にはその他添加剤を配合してよい。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、モノマーを溶解しうる有機溶媒として2−プロパノール(イソプロピルアルコール)を用いる。また、塗布用組成物中のモノマーの含有量は5〜70重量%であることが好ましい。また、塗布用組成物中には、モノマーに加えて、複数個のモノマーが重合したオリゴマー又はプレポリマーが含まれてもよい。この実施形態では、オリゴマー又はプレポリマーの大きさはダイマー以上のものであれば特に限定されず、分子量約3,300(典型的には28分子ポリマー)より大きいものが好ましく、分子量5,700以上のものがより好ましい。
【0057】
重合及びグラフト化のために使用する放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等がある。所望のグラフトポリマーを作製するためにはγ線と電子線がエネルギー効率が良いため好ましく、特に、生産性の面から電子線が好ましい。紫外線に関しては適当な重合開始剤やフィルム基材表面とのアンカー剤を組合せることで使用できる。
【0058】
放射線の線量の範囲は、電子線であれば5Mrad〜50Mradが好ましく、γ線であれば0.5Mrad〜5Mradが好ましい。
照射工程後に、必要により塗膜を乾燥させて、前記有機溶媒を除去する。
【0059】
このようにして形成された刺激応答性ポリマー層を、必要時応じてさらに洗浄してもよい。グラフト重合後の刺激応答性ポリマー層の表面上には、共有結合により固定化されたポリマー分子だけでなく、固定化されていない遊離のポリマー分子や、未反応のモノマー等が存在していると考えられ、洗浄により、これら遊離ポリマーや未反応物を除去することができるので好ましい。ここで、洗浄方法は特に限定されないが、典型的には浸漬洗浄、遥動洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄等が挙げられる。また洗浄液としては典型的には各種水系、アルコール系、炭化水素系、塩素系、酸・アルカリ洗浄液が挙げられる。
【0060】
<粘着剤層>
粘着剤層を構成する粘着剤としてはポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等を挙げることができ、なかでもアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を好ましく用いることができる。
【0061】
粘着剤層の厚さは特に限定されないが、10μm〜300μmであることが好ましく、20μm〜200μmであることがより好ましい。
【0062】
図8に示すように、第一部材に貼付される前までの時点では、細胞支持フィルム810の粘着剤層803の外側には、該粘着剤層803を保護する剥離フィルム層804が貼り合わされていることが好ましい。剥離フィルム層804は、剥離性を有する剥離部材からなり貼付に際して剥離除去される。剥離部材は、必要な強度や柔軟性を有する限りとくに限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルム又はそれらの発泡フィルムに、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カーバメート等の剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。剥離フィルム804の厚さは特に限定されないが、好ましくは10μm〜100μmである。
【0063】
粘着剤層803は、粘着剤と、必要に応じて溶媒と含む粘着剤層形成用塗工液をフィルム基材又は剥離フィルムの表面に塗布して塗膜とし、必要に応じて乾燥することにより形成することができる。塗布方法としては、例えば、コンマコーティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーディング法、リバースロールコーティング法、オフセットグラビアコーティング法等が使用できる。
【0064】
<ヒートシール性樹脂層>
ヒートシール性樹脂層とは、感熱接着剤(熱をかけると溶融して接着する)のことであり、予めヒートシール層を塗布しておき、使用時に熱や圧力をかけることによりフィルムを対象物に接着させるために用いられる。
【0065】
ヒートシール性樹脂層はグラビアコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコートなどの印刷法を用いることにより形成できる。
【0066】
<細胞培養容器の製造方法>
本発明の細胞培養容器製造方法は概略を図20に示すとおり、長尺状の細胞支持フィルムを準備し、カット工程、細胞支持フィルム固定工程、及び部材接合工程、並びに必要に応じて行われる滅菌工程を準備行うことを特徴とする。以下、各工程について詳述する。ただし、本発明は以下の具体的な態様には限定されない。
【0067】
<細胞支持フィルムの準備>
本発明の方法において、長尺状の細胞支持フィルムを準備する工程を「細胞支持フィルム準備工程」と呼ぶことがある。
【0068】
細胞支持フィルム準備工程は、長尺状の細胞支持フィルムを準備する工程である。ここで「長尺状の細胞支持フィルムを準備する」とは、好ましくは長尺状の細胞支持フィルムを製造することを指すが、予め製造された長尺状の細胞支持フィルムを準備する工程であってもよい。以下の説明では、前者の、長尺状の細胞支持フィルムを製造する工程を「細胞支持フィルム製造工程」と称する。
【0069】
細胞支持フィルム製造工程では、長尺状の細胞支持フィルムをロール・ツー・ロール方式により製造することが好ましい。ロール・ツー・ロール方式とは、ロール状に巻いた可撓性を有する長尺状の基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら基材上に所定の処理を施し、再びロールに巻き取る生産方式である。ロール・ツー・ロール方式は細胞支持フィルムを枚葉毎に製造するバッチ方式に比べて均一性の高い細胞支持フィルムを効率的に製造することが可能である。
【0070】
細胞支持フィルム製造工程の一実施形態は、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材を繰り出して搬出し、繰り出されたフィルム基材上に刺激応答性ポリマー層を形成し、形成後のフィルム基材をロール状に巻き取る工程を含む。
【0071】
一例として、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602とを備える細胞支持フィルム610のロール・ツー・ロール方式による製造法について図10に沿って説明する。まず、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材(ロール原反)を準備する(S1)。フィルム基材は予め表面が易接着処理されたものを用いてもよい。必要に応じてロール・ツー・ロール方式により易接着処理を施してもよい。ロール状に巻かれたフィルム基材を繰り出し、搬送し、繰り出されたフィルム基材の表面に、刺激応答性ポリマーを形成するためのモノマーと溶媒とを少なくとも含む上記の塗布用組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜に電子線等の放射線を照射して刺激応答性ポリマーをグラフト重合する(S2)。続いて、必要に応じて、ロール・ツー・ロール方式により、未反応のモノマーやグラフト化されていないポリマーを上述の手段により洗浄除去する(S3)。こうして、長尺状の細胞支持フィルムが得られる(終了)。
【0072】
図8に示すように、粘着剤層803が更に積層された細胞支持フィルム810であって、それを保護するための剥離フィルム層804が貼りあわされたものを製造する方法としては以下の方法(1)〜(3)がある。
【0073】
(1)フィルム基材層601に刺激応答性ポリマー層602が積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品1を上述の方法で準備する工程と、ロール状に巻かれた長尺状の細胞支持フィルム中間製品1を繰り出し、搬送し、繰り出された細胞支持フィルム中間製品1の、フィルム基材層601の側に、粘着剤層に関して上述した形成方法により粘着剤層803を形成する工程と、粘着剤層の形成に続いて、長尺状の剥離フィルム804を粘着剤層803に貼り合わせ、得られた細胞支持フィルム810をロール状に巻き取る工程とを含む方法。
【0074】
(2)フィルム基材層601に刺激応答性ポリマー層602が積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品1を上述の方法で準備する工程と、長尺状の剥離フィルム804に粘着剤層803が積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品2をロール・ツー・ロール方式により製造するか、予め製造された長尺状の細胞支持フィルム中間製品2を準備する工程と、長尺状の細胞支持フィルム中間製品1と細胞支持フィルム中間製品2とを、細胞支持フィルム中間製品1のフィルム基材層601と、細胞支持フィルム中間製品2の粘着剤層803とが接するように貼り合わせて、剥離フィルム層804を備えた長尺状の細胞支持フィルム810を製造し、製造された長尺状の細胞支持フィルム810をロール状に巻き取る工程とを含む方法。
【0075】
(3)フィルム基材601と、粘着剤層803と、剥離フィルム層804とが積層された長尺状の細胞支持フィルム中間製品3をロール・ツー・ロール方式により製造するか、予め製造された長尺状の細胞支持フィルム中間製品3を準備する工程と、長尺状の細胞支持フィルム中間製品3の、フィルム基材層601の側に、上述の方法で刺激応答性ポリマー層602を形成して、製造された、剥離フィルム層804を備えた長尺状の細胞支持フィルム810をロール状に巻き取る工程とを含む方法。
【0076】
図9に示すように、ヒートシール性樹脂層905が更に積層された長尺状の細胞支持フィルム910も同様に、フィルム基材層601、ヒートシール性樹脂層905、刺激応答性ポリマー層602を任意の順序でロール・ツー・ロール方式により形成して製造することができる。長尺状のフィルム基材層601にヒートシール性樹脂層905が積層した細胞支持フィルム中間製品4は予め製造されたものを準備して、細胞支持フィルム中間製品4に刺激応答性ポリマー層602を形成してもよい。
【0077】
<カット工程>
カット工程は、長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得する工程である。
【0078】
カット工程は、典型的には、図11に示すように、長尺状の細胞支持フィルム1100をカットして相互に切り離された状態の複数の枚葉状の細胞支持フィルム1101を取得する工程である。しかしながらこれに限らずカット工程はいわゆるハーフカットにより細胞支持フィルムを枚葉状にカットする工程でもよい。具体的には図12に示すように、長尺状の細胞支持フィルム1201に、該細胞支持フィルムの、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に剥離フィルム層1202を剥離可能に接着させて、長尺状のハーフカット用積層体1200を用意する。そして、カット工程において、細胞支持フィルム1201の表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが剥離フィルム1202を切断しない厚さ方向位置まで形成されている切り込み線(ハーフカット線)1210を形成して、細胞支持フィルム1201に、切り込み線1210により包囲された、枚葉片として分離することが可能な領域1230を複数形成する。こうして長尺状の、ハーフカット済み剥離フィルム付細胞支持フィルム1220を得る。この実施形態において、切り込み線1210により包囲された細胞支持フィルム1201の複数の領域1230は、それぞれ独立に、細胞支持フィルムの他の部分及び剥離フィルムから枚葉状の細胞支持フィルムとして分離することができ、本発明の細胞培養容器の製造方法に利用することができる。ハーフカット用積層体1200は、典型的には、図8に示す剥離フィルム804と積層された細胞支持フィルム810であるが、これには限られず、他の構造を有する細胞支持フィルムに剥離フィルム層が剥離可能に接着したものであってもよい。
【0079】
カット工程において得られる枚葉状の細胞支持フィルムは、細胞支持フィルムが固定される第1部材の、細胞支持フィルムが固定される領域の形状に応じた任意の形状であることができる。例えば、三角形、四角形(長方形、正方形、平行四辺形、菱形等)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形や、円形、楕円形等の形状であることができる。枚葉状の細胞支持フィルムは特に多角形であることが好ましい。多角形であれば、長尺状の細胞支持フィルムから効率的に枚葉片を取得することができるからである。多角形の中でも長方形又は正方形が特に好ましい。
【0080】
<細胞支持フィルム固定工程>
細胞支持フィルム固定工程は、容器部の、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える一部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムが固定化されているフィルム固定化第1部材を製造する工程である。
【0081】
第1部材は、図4及び5の第1部材401、501のように、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える容器部の一部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の部材である限り特に限定されない。第1部材細胞支持フィルムが固定される内壁面が開放されているため、細胞支持フィルムの固定が容易である。
【0082】
細胞支持フィルムを第1部材に固定する方法としては種々の方法を採用することができる。以下に代表的な例を挙げる。
【0083】
実施形態の一例として、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを粘着剤を介して貼付する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。この実施形態では図7に示すように粘着剤703を介して細胞支持フィルム610を第1部材720に固定する。このためには細胞支持フィルム610又は第1部材720の一方又は両方に粘着剤を塗布し、両者を貼り合わせてもよいが、好ましくは、図8に示すように、剥離フィルム層804が貼付された状態の細胞支持フィルム810を用意し、剥離フィルム層804を除去し、粘着剤層803を介して第1部材に固定する。図13のA〜Cには、図4に示す第1部材401に細胞支持フィルム810を粘着剤層803を介して貼り合わる工程を示す(図1のI−I’断面に対応する)。細胞支持フィルム810の貼付はラベル貼付用のラベラーを用いて行うこともできる。
【0084】
細胞支持フィルム貼付後の第1部材に対して、必要に応じて、オートクレーブ処理を施し、細胞支持フィルムの貼付面における気泡を除去することができる。
【0085】
実施形態の他の一例として、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムをヒートシールにより固定する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。この実施形態では、図9に示すように、ヒートシール性樹脂層905が形成された細胞支持フィルム910を、第1部材の表面にヒートシール性樹脂層905が第1部材に接するように配置し、加熱することにより両者を固定する方法である。図14のA〜Cには、図4に示す第1部材401に細胞支持フィルム910をヒートシール性樹脂層905を介して貼り合わる工程を示す(図1のI−I’断面に対応する)。
【0086】
なお、ヒートシールによる固定にはヒートシール性樹脂層905は必ずしも必要ではない。例えば図6に示すような細胞支持フィルム610において、フィルム基材層601が熱可塑性樹脂のフィルムであり、第1部材が同様に熱可塑性樹脂の部材である場合、両者を重ね合わせて適当な温度で加熱して両者を溶融して冷却することでヒートシールが可能である。
【0087】
実施形態の他の一例として、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとを超音波溶着により溶着させ固定化する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。超音波裕着は樹脂製の部材同士を接合する方法として一般的に用いられる。典型的には図15に示すように、第1部材401の、細胞支持フィルム610が固定される領域の周縁部に、超音波溶着に必要なエネルギーダイレクター(幅が100〜1000μm程度、高さ50〜1000μmの薄い樹脂突起)1501を他の部分とともに一体に成形した第1部材401’を用意する。そして、第1部材401’の内底面領域に、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602を備えた細胞支持フィルム610を接触させる。図16(図15に示すV−V’断面から見た図)において更に具体的に説明すると、細胞支持フィルム610を第1部材401’に載せ、エネルギーダイレクター1501が存在する部分に、超音波溶着用の超音波ホーンにより押し当てながら超音波による振動を与えることにより、細胞支持フィルム610を第1部材401’の底面に固定する(図16C)。
【0088】
実施形態の他の一例として、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとをレーザー溶着により溶着させ固定化する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。レーザー溶着は光透過性樹脂部材と光吸収性樹脂部材とを重ね合わせ、両部材同士を押し付けながらレーザービームを照射して部材の界面を熱溶融させて接合する方法である。図17に示すように、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602を備えた細胞支持フィルム610と第1部材401とを接合する場合、フィルム基材層601と第1部材401の固定面との一方を光透過性樹脂部材とし、他方を光吸収性樹脂部材とすることでレーザー溶着が可能である。
【0089】
実施形態の他の一例として、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。この方法はインモールド成形の一種である。この方法による、フィルム基材層601が底面に固定された第1部材401の製造の具体例を図18に基づき説明する。第1部材401を型締め時に第1部材401に対応する鋳型空間1804を形成する凸型(コア型)1801と凹型(キャビティ型)1802とを組み合わせる射出成形型において、フィルム基材層601と刺激応答性ポリマー層602とを備えた枚葉状の細胞支持フィルム610を、樹脂の充填固化後に第1部材401において細胞支持フィルム610が固定されるべき位置に対応する配置し、型締めする。次いで、ゲート1803を通じて、溶融樹脂を、射出圧を加えて型内に充填する(図18B)。充填後、樹脂を固化させてから型を開き、細胞支持フィルム610が固定された第1部材401を取得する(図18C)。
【0090】
この実施形態の変形例として細胞支持フィルム610に代えて、フィルム基材層601の、刺激応答性ポリマー層602とは反対側の面に、ヒートシール性樹脂層905を更に備えた細胞支持フィルム910を用いる実施形態を挙げることができる。図21に示すように、凸型1801と凹型1802とを組み合わせる射出成形型において、ヒートシール性樹脂層905の表面の少なくとも一部(図21では全部)が鋳型空間に露出し、刺激応答性ポリマー層602の表面が型の内壁面に接するように細胞支持フィルム910を型内に配置し、型締めする。次いで、ゲート1803を通じて、溶融樹脂を、射出圧を加えて型内に充填し、樹脂を固化させてから型を開き、細胞支持フィルム910が固定された第1部材401を取得する(図21C)。この実施形態では、ヒートシール性樹脂層905が高温の溶融樹脂との接触により溶融し、樹脂の固化とともに固化するため、それを介してフィルム基材層601と第1部材401とが強固に接合する。
【0091】
実施形態の他の一例として、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを物理的な係止手段を介して係止する細胞支持フィルム固定工程を挙げることができる。物理的な係止手段としては、細胞支持フィルムを第1部材上の所定位置に固定可能な手段であれば特に限定されないが、例えば第1部材に設けられたフックと、枚葉状の細胞支持フィルムに設けられた、前記フックと係合するフック受け部として機能する貫通孔との組み合わせが考えられる。もしくは、第1部材に設けられた凹部と、枚葉状の細胞支持フィルムに設けられた、前記凹部と係合する凹部受け部として機能する凸部との組み合わせなどが考えられる。
【0092】
<部材接合工程>
部材接合工程は、第1部材の所定位置に細胞支持フィルムが固定化されたフィルム固定化第1部材と、1以上の他の部材とを接合することにより容器部を形成する工程である。
【0093】
フィルム固定化第1部材では、図4、5に例示するとおり細胞支持フィルムが、開放された内壁面に固定されている。容器部の他の部材は、第1部材と組み合わされたときに、第1部材上の細胞支持フィルムが内壁面に配置された内室が形成された容器部が完成するように構成されている。得られる容器部において、細胞支持フィルムの対面方向が開放されておらず内壁面(通孔を有する内壁面であってもよい)により閉鎖される。他の部材は1以上の組み合わせであることができ、好ましくは3個以下、より好ましくは2個又は1個である。
【0094】
容器部を構成する第1部材及び1以上の他の部材は、容器部について説明した樹脂材料等の各種材料により構成されている。第1部材及び1以上の他の部材は、細胞培養の目的に応じた方式で接合することができ、必要な場合は、培養液が漏出しないように液密な様式により相互に接合する。部材同士の接合は、樹脂材料からなる部材同士の接合であれば超音波溶着、レーザー溶着、ヒートシール等の方法で行うことができ、他の材料からなる部材同士の接合であっても接着剤を用いた接着など任意の方法で行うことができる。
【0095】
図13、14、16、17、18の例ではいずれも、細胞支持フィルムの固定後に第1部材401又は401’に第2部材402を接合し、容器部100を完成させる。
【0096】
接合により製造された容器部に、必要に応じて蓋等の他の部材を組み合わせ、本発明の細胞培養容器を得ることができる。
【0097】
<滅菌工程>
本発明の方法は、本発明の細胞培養容器を滅菌する工程を更に含むことが好ましい。
滅菌方法としては、γ線照射滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、電子線滅菌、紫外線照射滅菌、過酸化水素滅菌、エタノール滅菌等の方法を用いることができる。特にγ線照射滅菌は全生物種を死滅させられるという点で好適である。
【0098】
本発明ではγ線照射滅菌が好ましく、特に真空条件でのγ線照射滅菌が好ましい。一般的に市販されているシャーレ等の細胞培養容器の製造後のγ線照射滅菌は、空気中で行われる場合が多い。本発明者らは、実施例に示すように、本発明の細胞培養容器に対して大気中でγ線照射滅菌を行う場合、刺激応答性ポリマー層の機能が低下する傾向があることを見出した。このことはγ線照射により大気中の酸素が活性化され刺激応答性ポリマー層と反応することが原因であると考えられる。これに対して真空条件下においてγ線照射滅菌を行う場合には刺激応答性ポリマー層の機能の顕著な低下が回避されるため好ましい。
【0099】
真空条件においてγ線照射滅菌を行う方法としては、細胞培養容器を真空包装し、包装状態を維持したまま包装の外部からγ線を照射する方法が簡便であるため好ましい。この方法による滅菌後の真空包装された細胞培養容器はそのまま製品として出荷することができる。
【0100】
γ線照射滅菌におけるγ線の照射エネルギーは5kGy〜30kGyとすることが好ましい。
【実施例】
【0101】
(実施例1)粘着剤による貼付
A.温度応答性細胞支持フィルムの作製
N−イソプロアクリルアミドを最終濃度40重量%になるようにイソプロプルアルコールに溶解させて塗工液を作製した。粘着剤が塗工されて剥離フィルムで保護された易接着ポリエチレンテレフタレート(三光産業社 透明50−Fセパ1090)フィルムが幅17cmの帯状となったロール原反を準備した。ロール原反からフィルムを送り出し、フィルム表面に塗工液をグラビアコートにより塗布した後、40℃の熱風乾燥機内を10秒間通過させて乾燥させた。そして電子線を照射してN−イソプロアクリルアミドをグラフト重合させ、フィルム表面にポリ−N−イソプロアクリルアミドを固定化し、未固定化成分を除去するために洗浄し、ポリエチレンテレフタレートのフィルム基材の表面に温度応答性ポリマー層と粘着剤層を備える、粘着剤層が剥離フィルムで保護された長尺状の細胞支持フィルム(図8の細胞支持フィルム810に相当する)を作製した。
【0102】
B.温度応答性細胞支持フィルムの加工
長尺状の温度応答性細胞支持フィルムを7.5cm×7.5cmの矩形状にレーザー加工機により裁断し、枚葉状に個片化した。
【0103】
C.温度応答性細胞支持フィルムの取付け
通孔を備えた皿状の底板部材(図4に示す第1部材401に相当する)と、底板部材に取付けられる天板部材(図4に示す第2部材402に相当する)とからなるポリスチレン製のフラスコ用部品(Nunc社製)を準備した。個片化した温度応答性細胞支持フィルムの剥離フィルムを剥し、粘着剤が塗工された面を底板部材の内面に接着させ、温度応答性細胞支持フィルムと底板部材を一体化した。
【0104】
D.フラスコ筐体の組立て
天板部材を底板部材に嵌め合せた状態で、超音波融着装置を用いて両者の接触部分を融着させて接合することによりフラスコ型容器部を組立てた。
【0105】
E.温度応答性機能確認
ウシ大動脈血管内皮細胞を表面細胞密度が6.25×103cells/cm2になるように調整し、作製したフラスコ型容器部の内室に播種した。使用培地は10%FBS含有DMEM(シグマ製)であり、培養はCO2インキュベーターで37℃、5%CO2の条件にて20時間行った。その後、フラスコを20℃、5%CO2条件下のインキュベーターに入庫した。30分後、20℃のインキュベーターから出庫した。温度応答性細胞支持フィルムの培養面に接着していた細胞が剥離していることを確認した。
【0106】
(実施例2)粘着剤による貼付+脱泡
次に枚葉状の温度応答性細胞支持フィルムの剥離フィルムを剥し、粘着剤が塗工された面を底板部材の内面に接着させ、温度応答性細胞支持フィルムと底板部材を一体化した後、オートクレーブで処理圧0.4MPa、処理温度40℃で、30分間、脱泡処理を行った。温度応答性細胞支持フィルムを目視で観察し、全面にわたりフィルムと底板部材の間に気泡が存在しないことを確認した。実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に接着させた細胞を剥離できることを確認した。
【0107】
(実施例3)γ滅菌5kGy
実施例1で作製したフラスコ型容器部の通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、透明フィルムで真空包装した。透明フィルムで真空包装した状態で、γ線を5kGy照射して滅菌を施した。滅菌後のフラスコ内にて、実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞の剥離を行うことができることを確認した。
【0108】
(実施例4)γ滅菌10kGy
実施例3におけるγ線照射エネルギーを10kGyとした以外は、ほぼ同様の処理を行い、細胞の剥離を行った。温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞を剥離できることを確認した。
【0109】
(参考例1)
実施例1で作製したフラスコの通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、大気中でγ線を5kGy照射した。滅菌後のフラスコ内にて、実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができるが、実施例3及び実施例4よりも剥離性能が劣るものであることを確認した。
【0110】
(参考例2)
実施例1で作製したフラスコの通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、大気中でγ線を10kGy照射した。滅菌後のフラスコ内にて、実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができるが、実施例3及び実施例4よりも剥離性能が劣るものであることを確認した。
【0111】
(参考例3)
実施例1で作製したフラスコの通孔部分にキャップを閉めてフラスコ内部を密閉し、紫外線照射により滅菌し、同様に細胞剥離試験を行った。真空中でのγ線照射滅菌を行った実施例3及び実施例4は、死滅生物種が限定的な紫外線照射と同程度の細胞剥離性能を示した。
【0112】
(参考例4)
市販の温度応答性ポリマーを備えた細胞培養容器を用いて同様に細胞剥離試験を行った。真空中でのγ線照射滅菌を行った実施例3及び実施例4は市販品と同程度の細胞剥離性能を示した。
【0113】
(細胞剥離試験)
実施例3、4、参考例1〜4の細胞剥離性能は特開2009−82123の方法で確認した。
参考例4(市販品)の細胞剥離性能を1.0としたときの相対的な細胞剥離性能を図19に示す。
【0114】
(実施例5)超音波融着
温度応答性細胞支持フィルムを皿状の底板部材(図15に示す第1部材401’に相当する)に直接載置し、超音波融着法により両者を一体化した。温度応答性細胞支持フィルムの周縁部に沿って、超音波融着装置の超音波発生器を当てて温度応答性細胞支持フィルムと底板部材とを溶接した。その後、引続き超音波融着装置を用いて天板と底板部材とを接合してフラスコを組立てた。このフラスコを用いて実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができることを確認した。
【0115】
(実施例6)インモールド成形
成型装置はファナック社のα-100Cを用いた。フラスコの天板形状の空洞部を構成するためのコア用金型とキャビティ用金型を準備した。コア用金型に温度応答性細胞支持フィルムを配置した後、コア用金型とキャビディ用金型を合わせ、空洞部に溶融したポリスチレンを供給した。樹脂温度は220度、金型温度は20度で実施した。その後、一体成形された温度応答性細胞支持フィルムと天板とを取り出し、天板と通孔を備えた皿状の底板部材とを超音波融着装置を用いて接合してフラスコを組立てた。このフラスコを用いて実施例1と同様の条件で培養を行い、温度応答性細胞支持フィルムの培養面に形成された細胞シートの剥離を行うことができることを確認した。
【0116】
(実施例7)粘着剤による貼付
実施例1の「A.温度応答性細胞支持フィルムの作製」において以下の点を変更した点を除いて実施例1と同様にフラスコ型培養容器を製造した。製造されたフラスコ型培養容器は、実施例1の容器と同様の細胞シート剥離性能を有していることが確認された。
【0117】
易接着ポリエチレンテレフタレートフィルムの幅17cmの帯状となったロール原反を準備した。ロール原反からフィルムを送り出し、フィルム表面に実施例1と同様の塗工液をグラビアコートにより塗布した後、40℃の熱風乾燥機内を10秒間通過させて乾燥させた。そして電子線を照射してN−イソプロアクリルアミドをグラフト重合させ、フィルム表面にポリ−N−イソプロアクリルアミドを固定化し、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材の表面に温度応答性ポリマー層を形成した。
【0118】
一方、幅17cmの帯状の剥離フィルムが巻かれたロール原反を用意した。粘着剤形成用塗工液として、アクリル系ポリマー:SKダイン2147(綜研化学社製)を準備した。剥離フィルムのロール原反を送り出し、剥離フィルム表面に粘着剤形成用塗工液をコンマコーターにより塗布して塗膜を形成し、90度で2分処理し、剥離フィルムの表面に粘着剤層を形成した。
【0119】
形成された粘着剤層を有する長尺状の剥離フィルムと、温度応答性ポリマー層を有する長尺状のポリエチレンテレフタレートのフィルム基材とを、粘着剤層とフィルム基材層とが接するように接着させ、接着後にロール状に巻き取って、ロール状に巻かれた形態の、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材の表面に温度応答性ポリマー層と粘着剤層を備える、粘着剤層が剥離フィルムで保護された長尺状の細胞支持フィルム(図8の細胞支持フィルム810に相当する)を作製した。
【符号の説明】
【0120】
100,200・・・容器部
120,220・・・細胞培養容器
130・・・内室
140,610,810,910・・・細胞支持フィルム
401,501・・・第1部材
402,502,503・・・他の部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器を製造する方法であり、
以下の工程:
長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得するカット工程、
容器部の、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムが固定化されているフィルム固定化第1部材を製造する、細胞支持フィルム固定工程、並びに
フィルム固定化第1部材と、1以上の他の部材とを接合することにより容器部を形成する部材接合工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
長尺状の細胞支持フィルムを製造する細胞支持フィルム製造工程を更に含み、
細胞支持フィルム製造工程が、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材を繰り出して搬出し、繰り出されたフィルム基材上に刺激応答性ポリマー層を形成し、形成後のフィルム基材をロール状に巻き取る工程を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
カット工程が、長尺状の細胞支持フィルムをカットして、多角形の枚葉状の細胞支持フィルムを取得する工程を含む、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを粘着剤を介して貼付する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムをヒートシールにより固定する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項6】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとを超音波溶着により溶着させ固定化する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項7】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとをレーザー溶着により溶着させ固定化する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項8】
細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項9】
細胞支持フィルムが、フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に配置されたヒートシール性樹脂層を更に備え、
細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の前記細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項10】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを物理的な係止手段を介して係止する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項11】
真空条件において細胞培養容器に対してγ線を照射することにより該細胞培養容器を滅菌する滅菌工程を更に含む、請求項1〜10のいずれか1項の方法。
【請求項12】
細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項13】
フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える長尺状の細胞支持フィルムと、
該細胞支持フィルムの、フィルム基材層の刺激応答性ポリマー層が形成されていない側に配置された長尺状の剥離フィルム層と
を備え、
該細胞支持フィルムには、切り込み線により包囲された、枚葉片として分離することが可能な領域が複数形成されており、該切り込み線は、該細胞支持フィルムの表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが該剥離フィルムを完全には切断しない厚さ方向位置まで形成されているハーフカット線である、
ハーフカット済みの、長尺状剥離フィルム付細胞支持フィルム。
【請求項14】
フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含む、枚葉状の細胞支持フィルムであって、
フラスコ型細胞培養容器の容器部の底部内面の略全体を被覆可能な、該底部内面に対応する形状を有する、枚葉状の細胞支持フィルム。
【請求項1】
細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器を製造する方法であり、
以下の工程:
長尺状の細胞支持フィルムをカットして枚葉状の細胞支持フィルムを取得するカット工程、
容器部の、細胞支持フィルムが固定される内壁面を備える部分であって、該内壁面が存在する側が開放された形状の第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムが固定化されているフィルム固定化第1部材を製造する、細胞支持フィルム固定工程、並びに
フィルム固定化第1部材と、1以上の他の部材とを接合することにより容器部を形成する部材接合工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
長尺状の細胞支持フィルムを製造する細胞支持フィルム製造工程を更に含み、
細胞支持フィルム製造工程が、ロール状に巻かれた長尺状のフィルム基材を繰り出して搬出し、繰り出されたフィルム基材上に刺激応答性ポリマー層を形成し、形成後のフィルム基材をロール状に巻き取る工程を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
カット工程が、長尺状の細胞支持フィルムをカットして、多角形の枚葉状の細胞支持フィルムを取得する工程を含む、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを粘着剤を介して貼付する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムをヒートシールにより固定する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項6】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとを超音波溶着により溶着させ固定化する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項7】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材と枚葉状の細胞支持フィルムとをレーザー溶着により溶着させ固定化する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項8】
細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項9】
細胞支持フィルムが、フィルム基材層の、刺激応答性ポリマー層が形成されていない側の面に配置されたヒートシール性樹脂層を更に備え、
細胞支持フィルム固定工程が、枚葉状の前記細胞支持フィルムが予め配置された射出成形型内に樹脂を充填して第1部材を製造することにより、フィルム固定化第1部材を得る工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項10】
細胞支持フィルム固定工程が、第1部材に、枚葉状の細胞支持フィルムを物理的な係止手段を介して係止する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項11】
真空条件において細胞培養容器に対してγ線を照射することにより該細胞培養容器を滅菌する滅菌工程を更に含む、請求項1〜10のいずれか1項の方法。
【請求項12】
細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている容器部を備え、
容器部の、内室に面する内壁面の少なくとも一領域に、フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える細胞支持フィルムが、刺激応答性ポリマー層が内室側に配置されるように固定されていることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項13】
フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも備える長尺状の細胞支持フィルムと、
該細胞支持フィルムの、フィルム基材層の刺激応答性ポリマー層が形成されていない側に配置された長尺状の剥離フィルム層と
を備え、
該細胞支持フィルムには、切り込み線により包囲された、枚葉片として分離することが可能な領域が複数形成されており、該切り込み線は、該細胞支持フィルムの表面から、フィルム厚さ方向に、該細胞支持フィルムを切断するが該剥離フィルムを完全には切断しない厚さ方向位置まで形成されているハーフカット線である、
ハーフカット済みの、長尺状剥離フィルム付細胞支持フィルム。
【請求項14】
フィルム基材層と、フィルム基材層上に配置された刺激応答性ポリマー層とを少なくとも含む、枚葉状の細胞支持フィルムであって、
フラスコ型細胞培養容器の容器部の底部内面の略全体を被覆可能な、該底部内面に対応する形状を有する、枚葉状の細胞支持フィルム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−99278(P2013−99278A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244719(P2011−244719)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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