説明

細胞培養容器の製造方法

【課題】機能性が付与されたシートを備える細胞培養容器を、安定した品質で効率良く製造するための方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、底部及び当該底部の周縁に立設された側壁部を少なくとも備える容器部と、機能性基体とを備え、当該機能性基体が前記容器部の底部に貼付されている細胞培養容器の製造方法であって、前記機能性基体が、基材上に、所定の機能を備えた表面を有する機能性有機化合物層を少なくとも備え、前記機能性基体と前記底部とを非架橋型接着剤を介して接着させる機能性基体接着工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養容器の製造方法に関し、詳細には、安定した品質の細胞培養容器を効率良く製造することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、容器の表面に様々な機能性を付与する試みがなされている。例えば、特許文献1には、シャーレの表面に温度応答性ポリマーとなるモノマーを含む溶液を展開し、これに電子線照射してモノマーを重合させることにより作製した、温度応答性ポリマーが固定化されている細胞培養支持体が開示されている。これによれば、シャーレなどの容器の面を利用して形成されるシート状の培養細胞集合体(以下、細胞シートという。)を、細胞−細胞間の結合を壊すことなく容器から剥離して回収することができる。
【0003】
しかしながら、シャーレなどの容器の表面に対して、個別にバッチ処理により機能性を付与する方法は効率が悪く、大量生産には向かない。そこで、シート状の部材の表面に対して、連続処理により機能性を付与し、機能性を有するシートを生産した後、これを容器に固定すれば生産効率が良く、また、様々な大きさや形の容器への適用も可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5―192130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、表面に機能性が付与されたシート(以下、機能性基体という。)を容器に固定する方法としては、例えば、接着剤を用いる方法が挙げられる。具体的には、機能性基体の機能性が付与された面とは反対側の最外層の面上に、あらかじめ接着剤層を形成しておき、この接着剤層を介して機能性基体を容器に固定させる。接着剤を用いる方法によれば、機能性基体を容器に簡便に固定することができるため、機能性を有する容器を効率良く生産することができると考えられる。しかしながら、例えば、細胞を培養することを目的とする容器では、細胞に対する安全性や品質の安定性が強く求められるため、その点を考慮した接着剤の選択が求められる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、機能性基体を備える細胞培養容器を、安定した品質で効率良く製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、細胞を培養することを目的とする容器に適した機能性基体の固定方法について研究を重ねたところ、架橋型接着剤では、架橋反応時の架橋密度などが局所的にばらつくことがあり、それが原因で安定した品質が得られない恐れがあるのに対し、非架橋型接着剤では、細胞培養容器に求められる耐久性を満たし、且つ、安定した品質の細胞培養容器を効率良く製造できることを見出し、発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 底部及び当該底部の周縁に立設された側壁部を少なくとも備える容器部と、機能性基体とを備え、当該機能性基体が上記容器部の底部に貼付されている細胞培養容器の製造方法であって、上記機能性基体が、基材上に、所定の機能を備えた表面を有する機能性有機化合物層を少なくとも備え、上記機能性基体と上記底部とを非架橋型接着剤を介して接着させる機能性基体接着工程を含む、上記方法。
【0009】
(2) 上記容器部は、上記側壁部の上端部に接合され、上記底部に対向配置された天部と、上記側壁部の一部に穿設された閉栓可能な通孔と、を更に備え、細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている、(1)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、機能性基体を備える細胞培養容器を、安定した品質で効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る方法で製造される細胞培養容器(ディッシュ型)の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る方法で製造される細胞培養容器(フラスコ型)の一例を示す斜視図である。
【図3】機能性基体の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の係る方法で製造される細胞培養容器(ディッシュ型)における容器部と機能性基体との関係の一例を摸式的に示す断面図である。
【図5】本発明の係る方法で製造される細胞培養容器(フラスコ型)における容器部と機能性基体との関係の一例を摸式的に示す断面図である。
【図6】本発明の係る方法で製造される細胞培養容器(ディッシュ型)における容器部と機能性基体との関係の一例を摸式的に示す断面図である。
【図7】本発明の係る方法で製造される細胞培養容器(ディッシュ型)における容器部と機能性基体との関係の一例を摸式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の特徴を説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されることはなく、技術思想を逸脱しない範囲において、適宜、変更を加えて実施することが可能である。また、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、理解を容易にするために適宜、誇張して示すことがあり、実際のものとは縮尺が異なる場合がある。
【0013】
[細胞培養容器]
本発明の方法により製造される細胞培養容器の実施形態について説明する。
本発明における容器部の好ましい実施形態の一例を図1に示す。図1に示す細胞培養容器1では、容器部100が、円形の底部101と、該底部101の周縁に立設された側壁部102とを備え、上方向に開放されている、いわゆる「ディッシュ型」と呼ばれる形状を有している。そして、容器部100の底部101の上面の略全面に、1つのシート状の機能性基体20が非架橋型接着剤(図示せず)を介して接着されている。なお、図1では、底部101の形状は円形であるが、これに限定されず、方形、楕円形、多角形などいずれの形状であってもよい。
【0014】
本発明における容器部の好ましい実施形態の他の例を図2に示す。図2に示す容器部200は、底部201と、該底部201の周縁に立設された側壁部202と、側壁部202の上端部に接合された、底部201に対向配置される天部203とを備えている。また、容器部200には、液体用の通孔204が設けられている。すなわち、容器部200は、側壁部202の一部に通孔204が穿設され、通孔204の周縁から容器部の外側に延びる首部205を備えており、いわゆる「フラスコ型」と呼ばれる形状を有している。容器部200の底部201には、1つの機能性基体20が非架橋型接着剤(図示せず)を介して接着されている。容器部200の首部205には、蓋210を係止するための係止部(図示せず)が形成されており、該係止部を介して蓋210が着脱可能に装着される。該蓋210により、細胞培養容器2の内側は閉じられた状態となり、安定して細胞培養を行なうことができる。通孔204より細胞や培地を供給したり、容器部200の底部201から剥離した機能性基体20を回収したりしてもよい。
【0015】
本発明における容器部は、底部及びその周縁に立設された側壁部を少なくとも備え、細胞及び培地を収容できる形状であれば、他の形状であってもよい。具体的には、容器部は、例えば、ビーカー、ウェルプレート、ボトル、管などの形状であってもよい。また、容器部単独で細胞と培地とを保持可能な、図1及び2に示すような構造である必要はなく、詳細は後述するが、たとえ容器部の底部が開口部を有していても、該開口部に機能性基体が貼付されることで、細胞と培地とを収容できる構造であればよい。
【0016】
容器部及び蓋を形成する材料は、特に限定されず、細胞培養において一般的に用いられる材料を用いることができる。例えは、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂などの樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料、ガラスや石英などの無機材料が挙げられ、これらの中でも樹脂材料が好ましい。樹脂材料としては、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【0017】
図1及び2では、機能性基体は、容器部の底部に1つ配置されているが、機能性基体は、底部に少なくとも1つ配置されていればよく、例えば、複数の同一又は異なる機能性を有する機能性基体が底部に並設されていてもよい。また、図1及び2では、機能性基体は、容器部の底部の上面に配置されており、その大きさは、容器部の底部のものとほぼ同じであるが、容器部の底部に配置可能な大きさであればよい。好ましくは、配置する容器部の底部の大きさと略同様である。さらに、図1及び2では、機能性基体の形状はシート状であるが、容器部の底部の形状に沿うものであればよく、好ましくは、平坦な板状、シート状、フィルム状であり、長尺状の形態のときにロール巻取り可能な可撓性を有していることが好ましい。
【0018】
<機能性基体>
本発明における機能性基体の好ましい実施形態の一例を図3に示す。図3に示す機能性基体20は、基材21上に、所定の機能を備えた表面を有する機能性有機化合物層22が形成されている。以下、基材及び機能性有機化合物層について、詳細に説明する。
【0019】
(基材)
機能性基体を構成する基材は、一方の表面に後述する機能性有機化合物層を形成することが可能であり、細胞培養の際に耐え得る耐水性を有していれば、特に限定されず、機能性有機化合物に応じて種々の材料を選択して形成することができる。基材の材料としては、典型的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリルなどが挙げられる。また、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートである。ポリエチレンテレフタレートは、低価格で入手することができ、量産に適した材料である点において好ましい。ポリスチレンは、細胞毒性が低い材料である点において好ましい。製膜方法は、特に限定されず、例えば、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法などの従来公知の方法を用いることができる。また、上記方法によりあらかじめフィルム状に製膜された市販の基材を用いてもよい。
【0020】
基材の機能性有機化合物層が形成される側の表面は、易接着処理されていてもよい。易接着処理としては、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などの易接着剤による処理が挙げられる。
【0021】
基材は、容器部の底部に設置可能な大きさであることが好ましい。基材の形状は、容器部の底部の形状に沿うものであることが好ましい。好ましくは平坦な板状、シート状、フィルム状である。細胞の培養が行いやすいからである。基材の厚みは、特に限定されないが、取り扱い性を考慮すると、好ましくは10〜500μm、より好ましくは50〜250μmである。この範囲であれば、連続帯状で供給して加工することも可能である。
【0022】
(機能性有機化合物層)
機能性有機化合物層としては、例えば、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化し得る表面を有する刺激応答性ポリマー層や、1つ以上のエチレングリコール単位(CH−CH−O)からなるエチレングリコール鎖などの親水性化合物層が挙げられる。
【0023】
刺激応答性ポリマー層とは、所定の刺激によって表面の細胞の接着度合いが変化するポリマーを含む層である。刺激応答性ポリマーとしては、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマーなどが挙げられる。なかでも温度応答性ポリマーが、刺激の付与が容易である点において好ましい。
【0024】
温度応答性ポリマーとしては、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、作製した細胞シートを剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いるとよい。例えば、温度応答性ポリマーは、臨界溶解温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着し難くする性質(細胞非接着性)を示し、同温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示すものがよい。このような臨界溶解温度は、下限臨界溶解温度と呼ばれる。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃、さらに好ましくは0℃〜50℃である温度応答性ポリマーを用いることが好ましい。
【0025】
本発明において好適に使用できる温度応答性ポリマーとしては、具体的にはアクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーが挙げられ、より具体的にはポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)などが挙げられる。また、これらのポリマーを形成するためのモノマーが2種以上組み合わされて重合された共重合体であってもよい。
【0026】
これらのポリマーを形成するためのモノマーとしては、放射線照射によって重合し得るモノマーを用いることができる。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエーテル誘導体などが挙げられ、これらの1種以上を使用してよい。モノマーが一種類単独で使用された場合、基材上に形成されるポリマーはホモポリマーとなり、モノマーを複数種組み合わせて使用した場合、基材上に形成されるポリマーはヘテロポリマーとなるが、どちらの形態も本発明に包含される。
【0027】
また、必要に応じて、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフト又はブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質が損なわれない範囲で架橋することも可能である。
【0028】
pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーは、作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0029】
細胞接着性及び細胞非接着性は、一の領域と他の領域における細胞の接着度合いの相対的な関係を示すものである。細胞接着性とは、細胞が接着しやすいことをいう。細胞接着性は、表面の化学的性質や物理的性質などによって細胞の接着や伸展が起こりやすいか否かで決定される。細胞接着性を判断する指標として、実際に細胞培養した際の細胞接着伸展率を用いることができる。細胞接着性の表面は、細胞接着伸展率が60%以上の表面であることが好ましく、細胞接着伸展率が80%以上の表面であることがより好ましい。細胞接着伸展率が高いと、効率的に細胞を培養することができる。本発明における細胞接着伸展率は、播種密度が4000cells/cm以上30000cells/cm未満の範囲内で培養しようとする細胞を測定対象表面に播種し、37℃、CO濃度5%のインキュベーター内に保管し、14.5時間培養した時点で接着伸展している細胞の割合({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))と定義する。細胞の播種は、10%FBS入りDMEM培地に懸濁させて測定対象物上に播種し、その後、細胞ができるだけ均一に分布するよう、細胞が播種された測定対象物をゆっくりと振とうすることにより行うものである。さらに、細胞接着伸展率の測定は、測定直前に培地交換を行って接着していない細胞を除去した後に行う。細胞接着伸展率の測定では、細胞の存在密度が特異的になりやすい箇所(例えば、存在密度が高くなりやすい所定領域の中央、存在密度が低くなりやすい所定領域の周縁)を除いた箇所を測定箇所とする。
【0030】
一方、細胞非接着性とは、細胞が接着し難い性質をいう。細胞非接着性は、表面の化学的性質や物理的性質などによって細胞の接着や伸展が起こりにくいか否かで決定される。細胞非接着性の表面は、上記で定義した細胞接着伸展率が60%未満の表面であることが好ましく、40%未満の表面であることがより好ましく、5%以下の表面であることが更に好ましく、2%以下の表面であることが最も好ましい。
【0031】
親水性化合物層としては、例えば、1つ以上のエチレングリコール単位(CH−CH−O)からなるエチレングリコール鎖(複数のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖は、「ポリエチレングリコール鎖」ということができる)などの親水性化合物の層が挙げられる。エチレングリコール鎖の末端は水酸基により封鎖された形態であってもよいし、エチレングリコール鎖の末端に生体関連物質などの他の物質が共有結合により連結された形態であってもよい。末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層は、細胞が接着し難い親水性の表面を提供することができる。エチレングリコール鎖の末端に共有結合されうる生体関連物質としては、抗原、抗体、DNA、RNA、ペプチド、ホルモン、酵素、サイトカイン、糖鎖、脂質、補酵素、酵素阻害剤、細胞、その他の機能を有するタンパク質が含まれる。更に、このような生体関連物質と親和性を有する低分子化合物、及び高分子化合物も生体関連物質の範囲に含まれる。
【0032】
図4は、図1に示す形状の細胞培養容器において、容器部に機能性基体が非架橋型接着剤を介して接着している場合の、好ましい実施形態の一例を示す摸式的断面図である。切断は、図1に示す矢印I−I´に沿って行なっている。図4に示す細胞培養容器3では、基材21上に機能性有機化合物層22が形成された機能性基体20が、該機能性基体20の底面積と略同等の面積の非架橋型接着剤層30を介して、容器部100の底部101の上面の一部の領域に接着している。図5は、図2に示す形状の細胞培養容器において、容器部に機能性基体が接着している場合の、好ましい実施形態の一例を示す摸式的断面図である。切断は、図2に示す矢印II−II´に沿って行なっている。図5に示す細胞培養容器4においても、基材21上に機能性有機化合物層22が形成された機能性基体20が、該機能性基体20の底面積と略同等の面積の非架橋型接着剤層30を介して、容器部200の底部201の上面の一部の領域に接着している。
【0033】
図6及び7は、図1に示す形状の細胞培養容器において、容器部に機能性基体が接着している好ましい実施形態の他の例を示す摸式的断面図である。切断は、図1に示す矢印I−I´に沿って行なっている。図6に示す細胞培養容器5では、基材21上に機能性有機化合物層22が形成された機能性基体20は、その外周部のみが非架橋型接着剤層30を介している状態で、容器部100の底部101の上面の一部の領域に接着している。図6のような態様によれば、中央領域に接着剤が存在しないため、例えば、蛍光顕微鏡による細胞観察を行なう際に、接着剤由来の自家蛍光の影響を受け難い。
【0034】
図7に示す細胞培養容器6では、容器部100は、図1に示す容器部と同様のディッシュ型の形状を有しているが、底部101の略中央を貫通するように円形の開口部103が1つ形成されている点で図1に示す容器部と異なる。そして、機能性基体20は、開口部103を塞ぐように配置されている。機能性基体20は、その外周部のみが非架橋型接着剤層30を介している状態で、容器部100の底部101の下面に接着している。図7では、機能性基体20を構成する機能性有機化合物層22と非架橋型接着剤層とが接している。図7に示す細胞培養容器6では、容器部100と機能性基体20とを備える形態で細胞と培地とを保持できる構造となっている。図7のような態様によれば、中央領域に接着剤が存在しないため、例えば、蛍光顕微鏡による細胞観察を行なう際に、接着剤由来の自家蛍光の影響を受け難い。
【0035】
図7では、容器部100の底部101の略中央に1つの開口部103が形成された例を示したが、これに限定されない。例えば、開口部は容器部の底部に複数形成されていてもよい。開口部が複数存在する場合には、開口部ごとに別個の機能性基体で塞いでもよいし、1つの機能性基体で複数の開口部を一括して塞いでもよい。また、図7では、機能性基体を容器部の底部の下面に接着させているが、機能性基体を容器部の底部の上面に接着させて、開口部を塞いでもよい。また、開口部の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、方形、円形、楕円形、多角形などいずれであってもよい。図7に示す細胞培養容器のように容器部が底部に開口部を有している場合、機能性基体の厚さは、開口部上で支持性を確保できる厚さであることが好ましく、例えば、200μm以上とするとよい。また、機能性基体と、容器部の底部の下面との接着幅が、例えば1mm以上であると、安定的に機能性基体が支持され、また、製造安定性の面からも好ましい。
【0036】
[細胞培養容器の製造方法]
本発明の細胞培養容器の製造方法は、機能性基体と底部とを非架橋型接着剤を介して接着させる機能性基体接着工程を含むことを特徴とする。非架橋型接着剤の層を形成させる対象は、機能性基体又は容器部のいずれであってもよい。例えば、容器部の機能性基体を設置する領域の一部又は全部に、機能性基体を接着させるための非架橋型接着剤層を形成した後、該非架橋型接着剤層を介して機能性基体と容器部の底部とを接着してもよいし、機能性基体の表面の一部又は全部に、非架橋型接着剤層を形成した後、該非架橋型接着剤層を介して機能性基体と容器部の底部とを接着してもよい。
【0037】
以下、本発明の細胞培養容器の製造方法の好ましい実施形態の一例として、機能性有機化合物層が刺激応答性ポリマー層であり、基材の、刺激応答性ポリマー層が形成されている面とは反対側の面の全体に、非架橋型接着剤層を形成し、該非架橋型接着剤層を介して機能性基体と容器部の底部とを接着する場合について説明する。
【0038】
まず、細胞培養容器を構成する容器部となる容器を準備する。容器は、所望の大きさや形状を有する市販品を購入して準備してもよいし、射出成型法などにより所望の大きさや形状のものを作製して準備してもよい。なお、細胞培養容器の最終形態が、機能性基体を容器部の底部に接着させる操作に必要な開放部を有さない場合には、はじめに該開放部を有する容器を準備し、機能性基体の接着後、蓋などの他の部材を接合すればよい。
【0039】
次に、あらかじめ非架橋型接着剤層が形成された機能性基体を準備する。はじめに上述の基材を準備する。基材は、枚葉状態のものを用いても、ロール状態のものを用いてもよい。次に、基材の一方の面上に、非架橋型接着剤層を形成させた後、該非架橋型接着剤層を保護するための剥離層を形成する。次いで、基材の他方の面上に、刺激応答性ポリマー層を形成させる。このようにして、あらかじめ非架橋型接着剤層を備える機能性基体を準備する。
【0040】
機能性基体と容器部の底部とを接着するための接着剤として、非架橋型接着剤を選択した理由は、次のとおりである。架橋型接着剤では、架橋のためのエージング(養生)の工程が必要であり、また、架橋反応時の架橋密度や形成される分子の分子量が局所的にばらつくことがあるため、安定した品質の細胞培養容器を効率的に製造できない恐れがある。しかしながら、非架橋型接着剤では、架橋しないのでエージング工程が不要であり、架橋型接着剤を使用するのに比べて効率的な製造が可能となる。また、架橋反応に起因する品質のばらつきが生じないので、細胞培養への安全性が保証しやすい。
【0041】
非架橋型接着剤の種類は、特に限定されず、例えば、ポリイソブチレン系接着剤などの天然ゴム系接着剤、ホットメルト接着剤、湿気硬化型接着剤、乾燥型接着剤などが挙げられ、好ましくはホットメルト接着剤である。ホットメルト接着剤は、熱可塑性樹脂を主成分とした有機溶剤を全く含まない100%固形分の接着剤であって、常温では固形又は半固形であるが、加熱溶融して低粘度の溶融状態になったものを塗布し、冷却により固化して接着が完了するものである。溶剤を使用しないので、溶剤を乾燥させる乾燥工程が不要であり、環境対応及び生産性の観点からその使用がより好ましい。ホットメルト接着剤としては、例えば、ウレタン系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、エチレン酢酸ビニル系、スチレンブタジエン系やウレタンゴム系などの合成ゴム系の接着剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
非架橋型接着剤層の形成方法は、例えば、ポリイソブチレン系接着剤などの天然ゴム系接着剤の場合には、有機溶媒などの溶剤に溶解させた非架橋型接着剤層形成用塗工液を調製する。次に、慣用の方法にしたがって、該塗工液を機能性基体の機能性有機化合物層が形成されている側とは反対側の最外面に塗工して塗膜を形成させる。その後、乾燥により溶剤を除去し、非架橋型接着剤層が形成された機能性基体を得る。そして、この非架橋型接着剤層を介して、機能性基体と容器部の底部とを接着させる。溶剤は、特に限定されず、接着剤を溶解しうるものを適宜、選択するとよい。塗工方法も特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法などの印刷による方法、ロールコート、リバースコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコートなどのコーティングによる方法が挙げられる。
【0043】
ホットメルト接着剤の場合には、該ホットメルト接着剤を加熱し、溶融させた後、慣用の方法にしたがって、機能性基体の機能性有機化合物層が形成されている側とは反対側の最外面に塗工して塗膜を形成させることにより、非架橋型接着剤層が形成された機能性基体を得る。そして、この非架橋型接着剤層を介して、機能性基体と容器部の底部とを接着させる。ホットメルト接着剤の加熱温度は、接着剤の種類にもよるが通常160〜200℃である。塗工には、加熱ロールコーターを用いるとよい。ホットメルト接着剤の塗布量は、好ましくは10〜100g/mである。
【0044】
非架橋型接着剤層上には、剥離層を形成することが好ましい。剥離層とは、剥離性を有する剥離部材からなり、非架橋型接着剤層の表面を保護する機能を有する、いわゆる剥離シートを意味する。剥離部材は、必要な強度と柔軟性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの合成樹脂からなるフィルム又はそれらの発泡フィルムに、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメートなどの剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。一般には、シリコーン離型処理した合成樹脂フィルムが用いられる。
【0045】
基材の他方の面上に、刺激応答性ポリマー層を形成させる方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、重合により刺激応答性ポリマーとなる上述のモノマーを溶媒に溶解させた刺激応答性ポリマー層形成用塗工液を調製する。次に、慣用の方法にしたがって、該塗工液を基材の表面に塗工して塗膜を形成させる。その後、放射線照射などの適当な手段により塗膜中のモノマーを重合させ、ポリマーを形成させるとともに、基材の表面とポリマーとの間にグラフト化反応を生じさせることにより、刺激応答性ポリマー層を形成する。なお、該刺激応答性ポリマー層の表面には、必要に応じて、上記と同様の剥離層を形成してもよい。
【0046】
溶媒は、モノマーを溶解しうるものであれば特に限定されないが、常庄下において沸点120℃以下、特に60〜110℃のものが好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、水などが挙げられ、これらは組み合わせて使用してもよい。その他の溶媒、例えば1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ブトキシエタノール、及びエチレン(若しくはジエチレン)グリコール又はそのモノエチルエーテルなども使用可能である。必要に応じて、上記溶液にはその他添加剤を配合してもよい。
【0047】
塗工液中のモノマーの含有量は、1〜70重量%であることが好ましい。また、塗布用組成物中には、モノマーに加えて、複数個のモノマーが重合したオリゴマー又はプレポリマーが含まれてもよい。オリゴマー又はプレポリマーが含まれる場合には、その大きさは、ダイマー以上のものであれば特に限定されず、分子量約3,300(典型的には28分子ポリマー)より大きいものが好ましく、分子量5,700以上のものがより好ましい。
【0048】
塗工液を基材の表面に塗工する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法などの印刷による方法、ロールコート、リバースコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコートなどのコーティングによる方法が挙げられる。
【0049】
刺激応答性ポリマー層の厚みは、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、1nm〜100nmの範囲内であることがより好ましく、10〜30nmであることが最も好ましい。膜厚を0.5nm〜300nmの範囲とすることで細胞の接着と剥離の両立が容易となる。なお、刺激応答性ポリマー層には、その機能を損なわない範囲で、界面活性剤などの各種添加剤が配合されていてもよい。
【0050】
モノマーを重合させるために使用する放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などが挙げられる。所望のグラフトポリマーを作製するために、エネルギー効率が良い点においてγ線と電子線が好ましく、特に、生産性の面では電子線が好ましい。紫外線は、適当な重合開始剤やシランカップリング剤などのアンカー剤と組合せることで使用できる。放射線の線量の範囲は、電子線であれば5Mrad〜50Mradが好ましく、γ線であれば0.5Mrad〜5Mradが好ましい。照射工程前後に、必要に応じて塗膜を乾燥させ、上記溶媒を除去する。
【0051】
このようにして形成された刺激応答性ポリマー層を、必要に応じて洗浄してもよい。グラフト重合後の刺激応答性ポリマー層の表面上には、共有結合により固定化されたポリマー分子だけでなく、固定化されていない遊離のポリマー分子や、未反応のモノマーなどが存在していると考えられる。洗浄によれば、これら遊離ポリマーや未反応物を除去することができるので好ましい。ここで、洗浄方法は特に限定されないが、典型的には浸漬洗浄、揺動洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄などが挙げられる。また洗浄液としては、典型的には各種水系、アルコール系、炭化水素系、塩素系、酸・アルカリ洗浄液が挙げられる。
【0052】
上記方法により作製された機能性基体は、非架橋型接着剤層上の剥離層を剥離させ、あらかじめ準備しておいた容器の底部の所定の位置に、接着させて貼付する。機能性基体と容器の底部とを接着させた後は、必要に応じて、エタノール滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、紫外線照射滅菌、γ線照射滅菌などの滅菌処理を施す。これらのなかでも、γ線照射滅菌は、全生物種を死滅させられるという点で好適である。このようにして、細胞培養容器を製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0054】
[実施例1]細胞培養容器の製造
基材として、ポリスチレンフィルムシート(OPSシート、サンディック社製)を準備した。非架橋型接着剤(Oppanol B10SFN、ポリイソブチレン、BASF社製)をトルエンに溶解させて、非架橋型接着剤層形成用塗工液を調製した。剥離可能な保護フィルムである剥離シート(SP−PET、三井化学東セロ社製)の面上に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、非架橋型接着剤層形成用塗工液をアプリケータにより全面塗工した後、乾燥オーブンを使用して100℃で1分間乾燥させた。そして、ポリスチレンフィルムシートの一方にラミネートし、非架橋型接着剤層が形成された基材を得た。
【0055】
次に、N−イソプロアクリルアミドを最終濃度20重量%になるようにイソプロプルアルコールに溶解させて温度応答性ポリマー層形成用塗工液を作製した。上記ポリスチレンフィルムシートの非架橋型接着剤層を形成した面とは反対側の面上に、温度応答性ポリマー層形成用塗工液をグラビアコートにより全面塗工した後、45℃の熱風乾燥機内を15秒間通過させ、乾燥させた。そして電子線を照射して(電子線照射線量:200kGy)、N−イソプロアクリルアミドをグラフト重合させ、ポリスチレンフィルムシートの表面にポリ−N−イソプロアクリルアミドを固定化した。その後、32mmφの円形に切り出し、5℃のイオン交換水を用いて洗浄し、乾燥させて、ポリエチレンテレフタレートのフィルム基材の表面に温度応答性ポリマー層が形成された機能性基体を得た。
【0056】
ディッシュ型の形状を有する容器(図1に示す容器部に相当)を準備した。切り出した機能性基体の剥離シートを剥離し、非架橋型接着剤層の面を容器の底部の上面に接着させ、貼付し、細胞培養容器を製造した。
【符号の説明】
【0057】
1、2、3、4、5、6 細胞培養容器
20 機能性基体
21 基材
22 機能性有機化合物層
30 非架橋型接着剤層
100 容器部
101 底部
102 側壁部
103 開口部
200 容器部
201 底部
202 側壁部
203 天部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部及び当該底部の周縁に立設された側壁部を少なくとも備える容器部と、機能性基体とを備え、当該機能性基体が前記容器部の底部に貼付されている細胞培養容器の製造方法であって、
前記機能性基体が、基材上に、所定の機能を備えた表面を有する機能性有機化合物層を少なくとも備え、
前記機能性基体と前記底部とを非架橋型接着剤を介して接着させる機能性基体接着工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記容器部は、前記側壁部の上端部に接合され、前記底部に対向配置された天部と、前記側壁部の一部に穿設された閉栓可能な通孔と、を更に備え、細胞及び培地を収容するための内室が内部に形成されている、請求項1に記載の方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−99285(P2013−99285A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244943(P2011−244943)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】