説明

細胞培養装置およびプログラム

【課題】 広範囲かつ網羅的な観察を行いつつ、短い周期での培養細胞の動的変化を検出するための手段を提供する。
【解決手段】 細胞培養装置の撮像部は、恒温室内での培養細胞の観察画像を撮像する。画像解析部は、撮像部が第1の時間間隔で撮像した第1画像から培養細胞の形態情報を取得するとともに、形態情報に基づいて培養細胞の形態が所定の観察条件を満たすか否かを判定する。観察制御部は、培養細胞の形態が所定の観察条件を満たすときに、第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で撮像部に培養細胞を撮像させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の細胞培養装置には、サンプルごとにタイムラプス観察を行い、各時刻におけるサンプル内の細胞の観察画像を撮像する機能を有するものがある。また、培養細胞の観察において、複数のサンプルでの時間的変化を比較表示する構成も提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる細胞培養装置によれば、ユーザは、時間とともに培養細胞がどのように変化するかを把握することが可能となる。
【0003】
また、例えば、幹細胞の分化を観察する場合、幹細胞の分化の発生時期および発生箇所を予め特定することは困難である。そのため、幹細胞の分化の検出および評価を行う場合には、一般的に、長期間の培養工程にわたって複数サンプルを対象とした広範囲かつ網羅的な観察を継続的に行うこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−162708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分化細胞の中には、例えば、自発収縮運動を行う心筋細胞のように、非常に短い周期で特徴的な動的変化を示す細胞もある。上記のような細胞への分化誘導を評価する場合、時間的分解能の小さい画像を時系列に観察することで細胞の動きを判断する必要が生じる。
【0006】
しかし、複数サンプルを対象とした広範囲かつ網羅的なタイムラプス観察を行う場合、タイムラプス観察で得た静止画像から、短い周期での培養細胞の動的変化を検出することはできない。また、ユーザが培養細胞を観察して細胞の分化状態を評価する手法では、長期間の培養工程にわたってユーザに多大な負担を強いることとなる。
【0007】
上記事情に鑑み、広範囲かつ網羅的な観察を行いつつ、短い周期での培養細胞の動的変化を検出するための手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一の態様の細胞培養装置は、室内が所定の環境条件に維持された恒温室と、撮像部と、画像解析部と、観察制御部とを備える。撮像部は、恒温室内での培養細胞の観察画像を撮像する。画像解析部は、撮像部が第1の時間間隔で撮像した第1画像から培養細胞の形態情報を取得するとともに、形態情報に基づいて培養細胞の形態が所定の観察条件を満たすか否かを判定する。観察制御部は、培養細胞の形態が所定の観察条件を満たすときに、第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で撮像部に培養細胞を撮像させる。
【0009】
一の態様の画像解析部は、撮像部が第2の時間間隔で撮像した複数の第2画像を比較して、培養細胞の収縮運動を検出してもよい。また、画像解析部は、収縮運動の検出の有無に応じて、所定の観察条件を変化させてもよい。また、画像解析部は、第1画像から培養細胞の位置を特定するとともに、収縮運動が検出されたときに、第2画像から所定の観察条件を補正してもよい。
【0010】
なお、細胞培養装置に、画像解析処理、観察制御処理を実行させるプログラムや、上記のプログラムを記憶した記憶媒体は、いずれも本発明の具体的態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
一の態様の細胞培養装置では、広範囲かつ網羅的な観察を行いつつ、短い周期での培養細胞の動的変化を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態の細胞培養装置の構成例を示す概要図
【図2】一実施形態での細胞培養装置の動作例を示す流れ図
【図3】図2の続きの流れ図
【図4】一実施形態における培養細胞の収縮運動の検出処理に関する概要図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<細胞培養装置の構成例>
図1は、一実施形態の細胞培養装置の構成例を示す概要図である。細胞培養装置は、例えば、観察対象の細胞を培養するとともに、観察対象の細胞をタイムラプス観察する装置である。なお、一実施形態では、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から心筋細胞を分化誘導する場合の観察例を説明する。
【0014】
細胞培養装置は、恒温室11、環境制御部12、ステージ13、容器搬送部14、撮像部15、制御部16、記憶部17、入力部18、モニタ19、通信部20を有している。ここで、環境制御部12、ステージ13、容器搬送部14、撮像部15、記憶部17、入力部18、モニタ19、通信部20はそれぞれ制御部16と接続されている。
【0015】
恒温室11は、細胞の培養を行うための部屋である。例えば、恒温室11内には、観察対象の細胞を培地とともに収容した培養容器(シャーレ、ウェルプレートなど)が複数保持されている。また、恒温室11内には、容器搬送部14およびステージ13が配置される。
【0016】
環境制御部12は、恒温室11内の環境条件のパラメータ(温度、湿度、CO2濃度など)を制御する。この環境制御部12の動作によって、恒温室11内は、細胞の培養に適した所定の環境条件(例えば、温度37℃、湿度90%、CO2濃度5%)に維持される。
【0017】
ステージ13には、観察時に培養容器が載置される。ステージ13は、後述の観察制御部16aの指示に応じて駆動する駆動機構を有しており、観察時に培養容器の位置を微調整する。
【0018】
容器搬送部14は、後述の観察制御部16aの指示に応じて恒温室11内で培養容器を搬送する。例えば、容器搬送部14は、恒温室11内の収納位置にある培養容器を観察時にステージ13上に搬送する。そして、容器搬送部14は、観察終了後にステージ13上の培養容器を上記の収納位置に戻す。また、容器搬送部14は、恒温室11への培養容器の搬出入を行う。
【0019】
撮像部15は、観察対象の細胞の観察画像を恒温室11の環境下で撮像する電子カメラモジュールである。撮像部15の光学系は、透過型顕微鏡の光学系(例えば位相差顕微鏡)である。そして、撮像部15は、後述の観察制御部16aの指示に応じて、ステージ13上に載置された培養容器内の細胞の像を撮像する。なお、撮像部15の画像出力は、記憶部17に接続されている。
【0020】
また、一実施形態での撮像部15は、静止画像および動画像の撮影機能を有している。なお、撮像部15は、静止画像および動画像を同じ撮像素子で撮像する構成としてもよい。あるいは、撮像部15は、ハーフミラー等で光路を分岐して、静止画像と動画像とをそれぞれ別の撮像素子で撮像する構成であってもよい。
【0021】
制御部16は、細胞培養装置を統括的に制御するプロセッサである。この制御部16は、プログラムの実行によって、観察制御部16a、画像解析部16bとして機能する。
【0022】
観察制御部16aは、予め設定された観察スケジュールに従って、ステージ13、容器搬送部14、撮像部15を制御して、細胞のタイムラプス観察処理を実行する。また、観察制御部16aは、タイムラプス観察時に培養細胞の形態が動画取得条件(動画像による観察を実施するか否かの観察条件)を満たすときに、タイムラプス観察での時間間隔よりも短い時間間隔で撮像部15に培養細胞の動画像を撮像させる。また、画像解析部16bは、撮像部15の取得した静止画像および動画像の解析を行う。
【0023】
記憶部17は、例えば、ハードディスクや、不揮発性の半導体メモリなどの記憶媒体で構成される。この記憶部17は、制御部16によって実行されるプログラムや、培養容器の観察スケジュールの情報や、培養容器の観察地点の情報や、目的の培養細胞を特定するための教師情報や、動画撮影を行う場合のより詳細な観察条件の情報などを記憶する。また、記憶部17は、撮像部15から入力された各種画像の情報を記憶しておくこともできる。
【0024】
入力部18は、例えば、ボタン、タッチパネル等の入力デバイスなどで構成される。この入力部18は、ユーザの操作に応じた信号を制御部16に供給する。また、モニタ19は、制御部16の制御により各種の表示を実行する。
【0025】
通信部20は、無線または有線の通信回線21を介して、細胞培養装置の外部にある端末装置22とのデータ送受信を実行する。なお、上記の端末装置22は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。
【0026】
<細胞培養装置の動作例>
次に、図2、図3の流れ図を参照しつつ、一実施形態での細胞培養装置の動作例を説明する。なお、図2、図3の流れ図の処理は、ユーザによる培養工程の開始指示に応じて、制御部16が実行する。
【0027】
ステップ#101:容器搬送部14は、観察制御部16aの制御により、観察対象の細胞(iPS細胞)および培地を収容した培養容器を恒温室11内に搬入する。一回の培養工程で複数の培養容器で並行して細胞の培養を行う場合には、#101の処理で複数の培養容器が恒温室11内に搬入される。なお、この段階で、環境制御部12は恒温室11内の環境条件を一定に維持する制御を開始する。
【0028】
ステップ#102:制御部16は、入力部18また端末装置22からのユーザの入力に応じて、タイムラプス観察時の培養容器の観察地点を設定する。#102での制御部16は、ユーザの指定した培養容器の任意の位置(例えば5点)を観察地点として設定してもよい。あるいは、制御部16は、培養容器の全範囲を網羅するように観察地点をタイル状に並べて設定してもよい。なお、上記の観察地点の情報は、制御部16の制御により、記憶部17に記憶される。
【0029】
ステップ#103:制御部16は、観察画像から目的の細胞を抽出するためのティーチング処理を実行する。例えば、制御部16は、ユーザによって予め用意された教師情報を記憶部17に記録する。
【0030】
ここで、上記の教師情報は、目的の細胞やその細胞からなる細胞コロニーのテンプレート画像であってもよく、かかるテンプレート画像から抽出された特徴ベクトルであってもよい。本実施の形態では、細胞コロニーの大きさの閾値および各細胞の時間変化に対する収縮/拡大の割合を教師情報が具備している。なお、一実施形態の#103では、同じ種類の培養細胞に対して一ないし複数の教師情報を用意すればよく、培養容器内の全培養細胞についてそれぞれ個別に教師情報を用意しなくともよい。
【0031】
ステップ#104:制御部16は、入力部18また端末装置22からのユーザの入力に応じて、観察スケジュールを設定する。なお、観察スケジュールの情報は、制御部16の制御により、記憶部17に記憶される。
【0032】
例えば、観察スケジュールで設定可能な項目には、「培養工程の全体期間」、「タイムラプス観察の開始時間」、「タイムラプス観察を行う時間間隔」、「タイムラプス観察で取得した静止画像の解析間隔」、「動画像の撮影間隔」、「動画像の撮影時間」が含まれる。複数の培養容器で細胞を同時培養する場合には、制御部16は培養容器ごとに観察スケジュールを設定するものとする。また、#104で設定される「動画像の撮影時間」は、心筋細胞の脈動の1周期分よりも長い時間になるように設定される。
【0033】
ステップ#105:制御部16は、動画取得条件の初期値を設定する。ここで、動画取得条件は、動画撮影の有無の判断に適用される判定条件であって、タイムラプス観察で取得される培養細胞が集合した細胞コロニーの形態に着目して設定される。
【0034】
一実施形態の例では、制御部16は、細胞のコロニーの大きさの下限値を動画取得条件として設定する。そして、一実施形態での観察制御部16aは、細胞のコロニーの大きさが下限値を超えるときに、目的の細胞からなるコロニーである可能性が高いので、その細胞の動画を撮像部15に撮影させる。一般に、iPS細胞から他の細胞に分化する工程では、分化の前に細胞のコロニー化が生じる可能性が高い。そのため、一実施形態の細胞培養装置は、動画での解析対象を絞り込むために、細胞のコロニーの大きさを動画取得条件としている。
【0035】
ステップ#106:制御部16は、入力部18また端末装置22からのユーザの入力に応じて、培養工程での動画解析処理のオン/オフを設定する。
【0036】
ステップ#107:制御部16は、培養工程での動画解析処理(#106)がオンに設定されているか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#108に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#110に処理が移行する。
【0037】
ステップ#108:制御部16は、ステップ#103でなされた入力に応じて、培養細胞の反復的な収縮運動(心筋細胞の脈動)を検出するときの検出条件を読み出し、制御部16で後に行われる検出条件として設定する。例えば、制御部16は、所定の時間幅における細胞の面積変動率を示す閾値を検出条件として設定する。そして、一実施形態での画像解析部16bは、取得した動画像において、判定対象の細胞の面積変動率が閾値を超えるときに、培養細胞に反復的な収縮運動が生じていると判定する。
【0038】
なお、#108での制御部16は、観察スケジュールの追加設定項目として「動画像の解析間隔」の値も併せて設定する。
【0039】
ステップ#109:制御部16は、入力部18また端末装置22からのユーザの入力に応じて、培養工程での動画取得条件の自動調整処理のオン/オフを設定する。なお、動画取得条件の自動調整処理がオンの場合、画像解析部16bは、動画像の解析結果に応じて動画像による観察を実施するか否かの観察条件の閾値(動画撮影するコロニーの大きさの下限値)を調整する。この調整方法については、後に詳細に説明する。
【0040】
ステップ#110:観察制御部16aは、観察スケジュール(#104)と現在日時とを比較して、培養容器のタイムラプス観察の時間が到来したか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#111に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#126に処理が移行する。
【0041】
ステップ#111:観察制御部16aは、培養容器のタイムラプス観察を実行する。例えば、観察制御部16aは以下の処理を実行する。
【0042】
まず、観察制御部16aは、容器搬送部14に培養容器の搬送を指示する。そして、容器搬送部14は、指示された培養容器をステージ13に載置する。その後、観察制御部16aは、培養細胞の静止画像(観察画像)の撮像を撮像部15に指示する(図4参照)。このとき、撮像部15は、予め設定された培養容器の観察地点ごとに観察画像を順次撮像してゆく。なお、タイムラプス観察で取得された各観察地点での観察画像のデータは、制御部16の制御により記憶部17にそれぞれ記憶される。
【0043】
ステップ#112:画像解析部16bは、観察画像(#111)の解析を行う。なお、#112での解析処理は、#104で設定された「タイムラプス観察で取得した静止画像の解析間隔」が経過する毎に実行される。
【0044】
具体的には、#112での画像解析部16bは、観察画像から培養細胞の像とその他の像とを分けて抽出する(図4参照)。そして、画像解析部16bは、抽出された培養細胞を含むコロニーの大きさ(形態情報)を取得する。例えば、位相差顕微鏡で細胞を撮像すると、細胞膜のように位相差の変化の大きな部位の周辺にはハロが現れる。そのため、画像解析部16bは、細胞膜に対応するハロを公知のエッジ抽出手法で抽出するとともに、輪郭追跡処理によってエッジで囲まれた閉空間(細胞)のまとまりをコロニーと推定すればよい。
【0045】
ステップ#113:画像解析部16bは、動画像による観察を実施するか否かの観察条件(動画取得条件)を満たすか否かを判定する。具体的には、画像解析部16bは、#112で取得したコロニーの大きさが動画像による観察条件の閾値を超えるときに、動画取得条件を満たすと判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#114に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#124に処理が移行する。
【0046】
ステップ#114:観察制御部16aは、動画取得条件を満たす現在の観察位置を動画観察地点として新規に登録する。
【0047】
ステップ#115:観察制御部16aは、撮像部15に対して、動画観察地点における培養細胞の動画像の撮像を指示する。#115で撮影される動画像は、培養細胞の反復的な収縮運動を検出するために用いられる。そのため、#115の動画像のフレームレートは、タイムラプス観察の撮影間隔よりも小さく設定される。より具体的には、#115の動画像のフレームレートは、心筋細胞の脈動よりも時間的な分解能が小さくなるように設定される。
【0048】
ステップ#116:制御部16は、培養工程での動画解析処理(#106)がオンに設定されているか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#117に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#124に処理が移行する。
【0049】
ステップ#117:画像解析部16bは、動画像(#115)の解析を行う。なお、#117での解析処理は、#108で設定された「動画像の解析間隔」が経過する毎に実行される。
【0050】
具体的には、#117での画像解析部16bは、動画像の各フレームで培養細胞の面積を求める。そして、画像解析部16bは、取得した動画像において、判定対象の細胞の面積変動率が閾値(#108)を超えるときに、培養細胞に反復的な収縮運動が生じていると判定する(図4参照)。
【0051】
ステップ#118:画像解析部16bは、#117での解析処理において、培養細胞の収縮運動を検出できたか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#119に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#121に処理が移行する。
【0052】
ステップ#119:制御部16は、培養細胞の収縮運動の検出を示す報知をモニタ19または端末装置22に出力する。これにより、心筋細胞への分化が生じたことをユーザが確認できる。
【0053】
ステップ#120:画像解析部16bは、培養細胞の収縮運動が検出された動画像のフレームを用いて追加のティーチング処理を実行する。例えば、画像解析部16bは、動画像の複数のフレームから教師情報をそれぞれ生成し、記憶部17に教師情報を追加する。これにより、次回以降に行われる静止画像の解析処理(#112)では、収縮運動が検出された培養細胞の動画像から生成された教師情報を用いて、画像解析部16bが観察画像から培養細胞を抽出する。なお、#120の処理終了後は、#124に処理が移行する。
【0054】
ここで、培養細胞の収縮運動が検出された場合に追加のティーチング処理を行うのは、以下の理由による。心筋細胞は反復的な収縮運動を行うため、その時々で細胞の形態が変化する。つまり、タイムラプス観察での観察画像の取得タイミングによっては、画像内に収縮運動を行う心筋細胞が存在するにも拘わらず、初期の教師情報から細胞を抽出できない可能性もある。そこで、一実施形態では、培養細胞の収縮運動が検出された動画像から教師情報を追加することで、静止画像の解析処理(#112)での細胞抽出の精度を向上させている。
【0055】
ステップ#121:制御部16は、動画取得条件の自動調整処理(#109)がオンに設定されているか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#122に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#124に処理が移行する。
【0056】
ステップ#122:観察制御部16aは、培養細胞の収縮運動を検出できなかった動画観察地点の登録を削除する。
【0057】
ステップ#123:画像解析部16bは、動画取得条件の自動調整処理を実行する。具体的には、#123での画像解析部16bは、予め設定された調整量の分だけ動画取得条件の閾値を小さくする。これにより、次回以降に行われる動画取得条件の判定(#113)では、画像解析部16bがより小さなコロニーも動画取得条件を満たすと判定するようになる。そのため、より多くの培養細胞のコロニーを対象として動画像の撮影および解析が実行されるので、画像解析部16bが心筋細胞への分化をより検出しやすくなる。
【0058】
ステップ#124:観察制御部16aは、すべての観察地点でタイムラプス観察が終了したか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#125に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、観察制御部16aは、ステージ13を駆動させて撮像部15の視野を次の観察地点に合わせる。その後、観察制御部16aは、#111の処理に戻って上記動作を繰り返す。
【0059】
ステップ#125:観察制御部16aは、容器搬送部14に培養容器の搬送を指示する。そして、容器搬送部14は、ステージ13上の培養容器を恒温室11内の収納位置に戻す。
【0060】
ステップ#126:観察制御部16aは、観察スケジュール(#104)を参照して、培養工程が終了したか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、制御部16は一連の処理を終了する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、観察制御部16aは、ステップ#127の処理を行う。
【0061】
ステップ#127:制御部16は、動画取得条件の自動調整処理(#109)がオンに設定されているか否かを判定する。上記要件を満たす場合(YES側)には、#128に処理が移行する。一方、上記要件を満たさない場合(NO側)には、#110の処理に戻って上記動作を繰り返す。
【0062】
ステップ#128:画像解析部16bは、ステップ#113で動画取得条件を満たした動画像観察地点の数に対するステップ#118で収縮運動を検出した地点の数の比率を求める。上記の比率がある値以上となっていない場合、閾値以下の大きさの細胞コロニーにおいても、分化が発生している可能性がある。そこで、画像解析部16bは、より小さいコロニーを検出できるように細胞コロニーの大きさの閾値を小さくする。これにより、分化している細胞コロニーの検出数が増える可能性があると同時に、未分化の細胞コロニーも検出できる。なお、目的の細胞に分化する細胞コロニーの数は、検出される総細胞数に対して相対的に減少してしまう。そのため、画像解析部16bは、目的の細胞コロニーと検出される総細胞コロニーの割合が一定値以下になったら、そこを集束目標として閾値の下方修正を行わないようにする。その後、制御部16は、#110の処理に戻って上記動作を繰り返す。
【0063】
以上で、図2、図3の流れ図の説明を終了する。
【0064】
一実施形態での細胞培養装置は、タイムラプス観察で取得した観察画像(#111)を画像解析部16bが解析する。そして、培養細胞の形態が動画取得条件を満たすときに、観察制御部16aは、タイムラプス観察の時間間隔よりも短い時間間隔で撮像部15に培養細胞の動画像を撮像させる(#115)。これにより、一実施形態では、自発収縮運動が生じている可能性の高い培養細胞の動画像を取得できるので、ユーザは短い周期での培養細胞の動的変化を検出可能となる。また、一実施形態の細胞培養装置は、複数の観察地点で上記の処理を行うため、広範囲かつ網羅的な培養細胞の観察を行なうことができる。
【0065】
また、一実施形態での画像解析部16bは、動画像での培養細胞の面積変動率に基づいて、培養細胞の収縮運動を検出する(#117)。これにより、一実施形態の細胞培養装置では、培養工程において心筋細胞の脈動を自動的に検出できるので、培養工程におけるユーザの負担を著しく軽減できる。
【0066】
<実施形態の補足事項>
上記実施形態の細胞培養装置では、画像解析部16bおよび観察制御部16aの各機能をプログラムでソフトウェア的に実現する例を説明したが、これらの処理をASICによってハードウエア的に実現しても勿論かまわない。
【0067】
また、上記実施形態の例では、細胞培養装置の制御部16が画像解析部16bおよび観察制御部16aとして機能する例を説明したが、端末装置22が画像解析部16bおよび観察制御部16aとして機能するものであってもよい。
【0068】
なお、上記実施形態で記憶部17に記憶されているプログラムは、バージョンアップなどで更新されるファームウエアプログラムであってもよい。すなわち、既存の細胞培養装置のファームウエアを更新することで、本発明の細胞培養装置の機能を事後的に提供してもよい。
【0069】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲が、その精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずであり、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物によることも可能である。
【符号の説明】
【0070】
11…恒温室、12…環境制御部、13…ステージ、14…容器搬送部、15…撮像部、16…制御部、16a…観察制御部、16b…画像解析部、17…記憶部、18…入力部、19…モニタ、20…通信部、21…通信回線、22…端末装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内が所定の環境条件に維持された恒温室と、
前記恒温室内での培養細胞の観察画像を撮像する撮像部と、
前記撮像部が第1の時間間隔で撮像した第1画像から前記培養細胞の形態情報を取得するとともに、前記形態情報に基づいて前記培養細胞の形態が所定の観察条件を満たすか否かを判定する画像解析部と、
前記培養細胞の形態が前記所定の観察条件を満たすときに、前記第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で前記撮像部に前記培養細胞を撮像させる観察制御部と、
を備える細胞培養装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞培養装置において、
前記画像解析部は、前記撮像部が前記第2の時間間隔で撮像した複数の第2画像を比較して、前記培養細胞の収縮運動を検出する細胞培養装置。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞培養装置において、
前記画像解析部は、前記収縮運動の検出の有無に応じて、前記所定の観察条件を変化させる細胞培養装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の細胞培養装置において、
前記画像解析部は、前記第1画像から前記培養細胞の位置を特定するとともに、前記収縮運動が検出されたときに、前記第2画像から前記所定の観察条件を補正する細胞培養装置。
【請求項5】
室内が所定の環境条件に維持された恒温室と、前記恒温室内での培養細胞の観察画像を撮像する撮像部とを備えた細胞培養装置を動作させるプログラムであって、
前記撮像部が第1の時間間隔で撮像した第1画像から前記培養細胞の形態情報を取得するとともに、前記形態情報に基づいて前記培養細胞の形態が所定の観察条件を満たすか否かを判定する画像解析処理と、
前記培養細胞の形態が前記所定の観察条件を満たすときに、前記第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で前記撮像部に前記培養細胞を撮像させる観察制御処理と、
をコンピュータに実行させるプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−95627(P2012−95627A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248675(P2010−248675)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】