説明

細胞培養装置

【課題】 培養作業におけるコンタミネーションのリスクを軽減する細胞培養装置を提供する。
【解決手段】 細胞を培養する複数の培養皿と、細胞液を所定の培養皿に選択的に移送させる制御手段とを備え、前記制御手段は前記選択された培養皿で培養された細胞液を他の培養皿に移送させる細胞培養装置であって、複数の培養皿は積層配置されていることを特徴とする細胞培養装置であり、接着系細胞に適用して好適なコンタミネーションのリスクを低減できる細胞培養装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置に係り、特に、接着系細胞に適用して好適なコンタミネーションのリスクを低減できる細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、培養器内の培地の交換や、細胞密度を適正にするための再播種などといった煩雑な継代プロセスが手作業により行われている。通常これらの作業は、コンタミネーションなどの発生を回避するため、半導体製造分野で培われたクリーン環境生成技術により大気中の浮遊微粒子を低減した比較的清浄な雰囲気で注意深く行われる。しかし、この清浄な雰囲気でもコンタミネーションを完全に回避するには十分ではない。例えば、手作業による培養では、シャーレなどの培養器を用いるが、培地交換や継代などの作業においては、上方にかざして菌が混入しないよう注意を払いながら、滅菌されたピペットをシャーレとその蓋のすきまに、かつピペットがシャーレの縁など周囲のものに触れないよう注意しながらすばやく作業するといったように煩雑で難しい作業を必要としていた。 そこで、近年では、自動的に培養を行う培養装置が開発されている。(例えば、特許文献1、特許文献2)
【特許文献1】特開2005-218413号公報
【特許文献2】特開平8-173140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
再生医療用の技術開発が盛んに行われているが、組織を構築するための幹細胞の培養などといった場合、培養した細胞は被検者に移植されるので、培養細胞への異物混入(コンタミネーション)は回避しなければならない。しかしながら、上記クリーン環境生成技術は、大気中の浮遊粒子濃度を低減するものであるが、実質的に微粒子の数0個を保障することは困難である。細胞培養などに要求されるコンタミネーション回避のための要件は、培養細胞に混入する生菌の数を0個とすることであり、たとえ1個であっても生菌が混入すればコンタミネーションとなる。このように、クリーン環境生成技術はリスク低減には有効ではあるが、コンタミネーション回避を保障できないという大きな課題があった。また、複数の被検者細胞を距離的に近い、具体的には1つの部屋で培養を行うことは、クロスコンタミネーションの点でもリスクが高くなる。何らかの要因で被検者の細胞に例えば真菌が混入した場合、胞子が拡散し他の被検者細胞に伝染する可能性は大きくなる。また、より多くの細胞を得ようとする場合には、継代と呼ばれる作業が必要となる。この作業は、培養細胞の密度が高くなると増殖を阻害するため、新たに複数のシャーレに播種しなおすものである。この継代を行うと、シャーレの数は鼠算的に増加するため、必然的にコンタミネーションのリスクを増加させる。
【0004】
そこで、本発明は、培養作業におけるコンタミネーションのリスクを軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は以下の様に構成される。細胞を培養する複数の培養皿と、細胞液を所定の培養皿に選択的に移送させる制御手段とを備え、前記制御手段は前記選択された培養皿で培養された細胞液を他の培養皿に移送させる。また、前記複数の培養皿は、積層して配置している。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、培養作業におけるコンタミネーションのリスクを軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を適用してなる細胞培養装置の第1の実施形態について、図1及至図3を参照して説明する。図1は本発明を適用してなる細胞培養装置の培養皿の詳細図である。図1(1)は斜視図、図1(2)は側面図、図1(3)は(2)のA-A断面図である。
【0008】
培養皿2a,2b,2c,2dは、略同一形状のものを4個用い、積層している。各培養皿2a,2b,2c,2dは各々密閉状態にされ、流入側チューブ4、排出側チューブ6をそれぞれ接続している。図1(3)に示すように、流入側チューブ4と排出側チューブ6の先端には、培養皿2a,2b,2c,2dの底面に液体を流入させたり排出させたりするアタッチメント8に接続されている。アタッチメント8は中空になっており、各培養皿2a,2b,2c,2dの内部と外部に突出している。そして、流入側チューブ4と排出側チューブ6は、その外部に突出された部分を覆うように接続されている。
【0009】
これら培養皿2a,2b,2c,2dの材質は、内部で細胞を培養するものであるため、酸素や二酸化炭素が透過し、また培養中の細胞を顕微鏡で観察しやすいように透明であることが好ましい。具体的には2軸延伸ポロスチレン樹脂OPSが好適である。積層には、培養皿2a,2b,2c,2dの表面が露出した方がガスの置換がしやすいことから、各培養皿2a,2b,2c,2dは密着せずに、隙間を空けると良い。なお、本図に示すように培養皿を4個に限定する必要はなく、また各培養皿の大きさは異なってもよい。
【0010】
図2は本発明の細胞培養装置の概略図であり、本発明の送液手段を示している。輸液20は洗浄液を入れるものであり、輸液バッグ22は剥離液(細胞表面の接着タンパクを分解させるもの)を入れるものであり、輸液バッグ24は培地を入れるものである。培養皿2a,2b,2c,2dは、図1のように積層されているが、ここでは説明のため横に配列している。
【0011】
ピンチ弁16,26,28,30,32,34,36,38,40,42,44,46,48,62,64は、例えば輸液バッグと培養皿を連結するチューブに配置されており、液を流したり、止めたりするためのものである。ポンプ52,54,56,58,60はチューブに配置されており液を各構成要素に送るためのものである。このポンプは外気が侵入しないタイプが良く、ローラポンプが好ましい。
【0012】
液溜め14はシリンジ10からの注入される液をためるためのものであり、フィルム12は液溜め14の開口部を覆うものである。バッグ50は廃液を入れるものであり、輸液バッグ66は培養後の細胞液を入れるものである。上記の複数の輸液バッグと培養皿とバッグはそれぞれチューブで接続している。なお、輸液バッグやチューブは細胞無毒性である必要があり、例えば塩化ビニル、シリコン製が好ましい。また、培養皿2a,2b,2c,2dは、温度、二酸化炭素濃度を調整したインキュベータ70内に置かれる。このインキュベータの技術は、公知であるので、説明は省略する。
【0013】
また、それぞれのピンチ弁の開閉やポンプの動作の制御を行う制御部(図示しない。)が備えられており、制御部は予め計画された通りにピンチ弁とポンプを自動制御を行う。なお、それぞれのピンチ弁とポンプは独自に持つタイマー(従来技術)で動作させてもよい。
【0014】
以上の構成からなる細胞培養装置の動作について図3を用いて説明する。図3は、本発明の細胞培養装置の動作フローチャートであり、以下順に説明を加える。
{ステップ1}:培地注入
ピンチ弁30,32,34を開き、ポンプ52を動作させて、培養皿2aのみに培地を注入する。このとき培養皿2b,2c,2dには培地を注入しない。
{ステップ2}:細胞液注入
培地などと共に細胞を入れたシリンジ10を、フィルム12で覆った液溜め14に穿刺して、細胞液を注入する。その後、ピンチ弁34を閉じて、ピンチ弁16を開き、ポンプ52を動作させ、培養皿2aに細胞液を入れる。
【0015】
{ステップ3}:培養
所定期間、例えば3日程、静置して培養する。
{ステップ4}:培地交換
培地中に溶出する細胞の代謝物質、及び培地の栄養分補給のため、定期的に行うステップである。3日〜7日おきに実施し、回数は限定しない。
培地排出ピンチ弁42,62を開き、ポンプ60を動作させて、培養皿2a内部の培地を排出する。
培地注入ピンチ弁30,32,34を開き、ポンプ52を動作させて、培地を注入する。
{ステップ5}:培養
所定期間、例えば3日程、静置して培養する。
【0016】
{ステップ6}:継代
培地排出ピンチ弁42,62を開き、ポンプ60を動作させて、培養皿2a内部の培地を排出する。
洗浄液注入ピンチ弁26,32,34を開き、ポンプ52を動作させて、洗浄液を培養皿2aに注入する。
洗浄液排出ピンチ弁42,62を開き、ポンプ60を動作させて、洗浄液を排出する。
なお、このプロセスは次のステップで用いる剥離剤の効果を高めるためのもので、必要なければ省略してもよい。
剥離剤注入ピンチ弁28,32,34を開き、ポンプ52を動作させて、剥離剤を培養皿2aに注入する。
培地注入(中和)ピンチ弁30,32,34を開き、ポンプ52を動作させて、培地を培養皿2aに注入する。なお、このプロセスは培地に剥離剤の効果を停止するものが添加されている場合を示す。この剥離剤の効果を停止するものが添加されていない場合は、別途、輸液バッグに剥離剤の効果を停止する薬剤を入れ、剥離剤の隣に組み込むことで、送液系を実現できる。
細胞移送ピンチ弁34,36,38,40を開き、ポンプ52を上記ステップ1の逆方向に動作させ、培養皿2a内の細胞液をピンチ弁34の方向に排出する。そして、ポンプ54,56,58を動作させて培養皿2b,2c,2d にこの細胞液を移送する。
培地排出ピンチ弁42,44,46,48,62を開き、ポンプ60を駆動して、各培養皿の培地を排出する。なお、この動作は、移送された細胞が培養皿に接着してから行う(例えば数時間後)。
培地注入ピンチ弁30,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、各培養皿に培地を注入する。
【0017】
{ステップ7}:培養
所定期間、例えば3日程、静置して培養する。
{ステップ8}:培地交換
培地中に溶出する細胞の代謝物質、及び培地の栄養分補給のため、定期的に行うステップである。3日〜7日おきに実施し、回数には限定しない。
培地排出ピンチ弁42,44,46,48,62を開き、ポンプ60を動作させて、培養皿内部の培地を排出する。
培地注入ピンチ弁30,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、培地を注入する。
【0018】
{ステップ9}:培養
所定期間、例えば3日程、静置して培養する。
{ステップ10}:細胞回収
培地排出ピンチ弁42,44,46,48,62を開き、ポンプ60を動作させて、各培養皿の培地を排出する。
洗浄液注入ピンチ弁26,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、洗浄液を注入する。なお、このプロセスは次のステップで用いる剥離剤の効果を高めるためのもので、必要なければ省略してもよい。
洗浄液排出ピンチ弁42,44,46,48,62を開き、ポンプ60を動作させて、洗浄液を排出する。
剥離剤注入ピンチ弁28,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、各培養皿に剥離剤を注入する。
培地注入(中和)ピンチ弁30,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、各培養皿に培地を注入する。
細胞回収ピンチ弁42,44,46,48,64を開き、ポンプ60を動作させて、細胞液を輸液バッグ66に移送する。なお、それぞれのステップにおいて稼動しているピンチ弁とポンプ以外のピンチ弁とポンプは稼動していなく、ピンチ弁は閉じられており、ポンプは動作していない。
【0019】
以上の説明において、継代の回数、継代時の移送先となる培養皿の個数は限定しない。具体的には、本実施例では、培養皿を1個(2a)から4個(2a,2b,2c,2d)としたが、これに限定しなくてよい。培養皿の個数にも限定しない。すなわち、1個から5個としてもよい。また、1個から4個、さらに8個としてもよい。この組み合わせは、細胞種類、細胞の増殖状況によって、任意に変更可能である。
【0020】
以上、本発明によれば、細胞培養においてコンタミネーションを回避できる細胞培養装置を実現できる。また、培養皿2a,2b,2c,2dを積層して配置しているため、コンパクトな細胞培養装置を提供することができる。
【0021】
次に細胞培養装置の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と異なる点は、液溜め14の細胞液をそれぞれの培養皿2a,2b,2c,2dに注入する点である。
{ステップ11}:培地注入
ピンチ弁30,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、培養皿2a,2b,2c,2dに培地を注入する。
{ステップ12}:細胞液注入
培地などと共に細胞を入れたシリンジ10を、フィルム12で覆った液溜め14に穿刺して、細胞液を注入する。その後、ピンチ弁16,34,36,38を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させ、培養皿2a,2b,2c,2dに細胞液を入れる。
{ステップ13}:培養
所定期間、例えば3日程、静置して培養する。
{ステップ14}:培地交換
培地中に溶出する細胞の代謝物質、及び培地の栄養分補給のため、定期的に行うステップである。3日〜7日おきに実施し、回数は限定しない。
【0022】
培地排出ピンチ弁42,44,46,48,62を開き、ポンプ60を動作させて、培養皿2a,2b,2c,2d内部の培地を排出する。
【0023】
培地注入ピンチ弁30,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、培地を注入する。
{ステップ15}:培養
所定期間、例えば3日程、静置して培養する。
{ステップ16}:細胞回収
培地排出ピンチ弁42,44,46,48,62を開き、ポンプ60を動作させて、各培養皿の培地を排出する。
【0024】
洗浄液注入ピンチ弁26,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、洗浄液を注入する。なお、このプロセスは次のステップで用いる剥離剤の効果を高めるためのもので、必要なければ省略してもよい。
【0025】
洗浄液排出ピンチ弁42,44,46,48,62を開き、ポンプ60を動作させて、洗浄液を排出する。
【0026】
剥離剤注入ピンチ弁28,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、各培養皿に剥離剤を注入する。
【0027】
培地注入(中和)ピンチ弁30,32,34,36,38,40を開き、ポンプ52,54,56,58を動作させて、各培養皿に培地を注入する。
【0028】
細胞回収ピンチ弁42,44,46,48,64を開き、ポンプ60を動作させて、細胞液を輸液バッグ66に移送する。なお、それぞれのステップにおいて稼動しているピンチ弁とポンプ以外のピンチ弁とポンプは稼動していなく、ピンチ弁は閉じられており、ポンプは動作していない。
【0029】
なお、第2の実施形態では、継代のステップを加えてもよい。また、液溜め14の細胞液をそれぞれの培養皿2a,2bに移送させ、培養皿2a,2bで培養した細胞液を培養皿2c,2dに移送し、培養してもよい。
【0030】
以上、本発明によれば、細胞培養においてコンタミネーションを回避できる細胞培養装置を実現できる。また、培養皿2a,2b,2c,2dを積層して配置しているため、コンパクトな細胞培養装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】細胞培養装置の培養皿の詳細図。
【図2】本発明の細胞培養装置の概略図。
【図3】細胞培養装置の動作フローチャート。
【符号の説明】
【0032】
2a,2b,2c,2d 培養皿、10 シリンジ、14 液溜め、20,22,24 66 輸液バッグ、16,26,28,30,32,34,36,38,40,42 44,46,48,62,64 ピンチ弁、52,54,56,58,60 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養する複数の培養皿と、細胞液を所定の培養皿に選択的に移送させる制御手段とを備え、前記制御手段は前記選択された培養皿で培養された細胞液を他の培養皿に移送させることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
前記複数の培養皿は、積層して配置していることを特徴とする請求項1記載の細胞培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−185165(P2007−185165A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7469(P2006−7469)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】