説明

細胞培養

哺乳類細胞培養を促進する生体異物物質(例えば、血清又は下垂体抽出物)の添加を必要とせずに哺乳類細胞を培養する方法であって、組織工学において使用するための細胞の産生方法及び組換えタンパク質の産生方法を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類細胞培養を促進する生体異物物質、例えば血清又は下垂体抽出物の添加を必要とせずに哺乳類細胞を培養する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類細胞を培養することは、日常的な手順となってきており、細胞を増殖させる細胞培養条件は明確である。典型的には、哺乳類細胞の細胞培養は、通常プラスチックから製造された滅菌容器、規定された成長培地及びいくつかの例では、支持細胞及び血清、典型的に仔ウシ血清を要する。支持細胞は、細胞増殖を刺激し、および/又は未分化状態で細胞を維持する分裂促進シグナルを提供するように機能する。支持細胞は典型的には、(例えば、マイトマイシン、照射処理、あるいはあまり典型的ではないが、線維芽細胞が増殖することができない培地(例えば、低カルシウム培地)の使用により)増殖することができないように処理された線維芽細胞である。典型的には、支持線維芽細胞は、マウスが起源である(Rheinwald and Green, 1975 Rheinwald J, Green H, ヒト表皮ケラチノサイトの株の連続培養:単一細胞からのコロニーの形成(Serial cultivation of strains of human epidermal Keratinocytes: the formation of colonies from single cells), Cell, 1975, Vol 6, pp 331-344)。
【0003】
ウシ血清又は下垂体抽出物あるいはマウス細胞のような生体異物物質の使用により感染物質(例えば、特にウシ製品に関してはウイルス及びプリオン及びマウス支持細胞に関してはマウスウイルス)が培養で成長した哺乳類細胞に感染する可能性が増加するため、ウシ血清又は下垂体抽出物あるいはマウス細胞のような生体異物物質添加を必要としない細胞培養条件を確立することができれば好適である。支持細胞に関しては、自己線維芽細胞を支持細胞層として使用することができること、かつこれらは、マイトマイシンC又は照射処理の使用なしで成長停止させることができることもまた好適である。
【0004】
組織工学は、臨床的及び美容的外科処置の多くの領域に関して影響を及ぼしている新興科学である。より具体的には、組織工学は、組織及び/又は臓器を機能的状態へ戻すための、損傷及び/又は罹患組織の置換及び/又は回復及び/又は修復に関する。例えば(そして限定の目的でなく)、組織工学は、挫傷又は火傷、あるいは静脈性潰瘍又は糖尿病性潰瘍に起因して組織を治癒することができないことの結果として生じる創傷を修復するための皮膚移植片の提供において有用である。組織工学は、置換組織のin vitroでの培養、それに続く修復されるべき創傷への組織の外科的適用を必要とする。in vitroで生成される組織が感染物質(例えば、ウイルス、マイコプラズマ、プリオン)を含まない可能性を増加するために、血清、下垂体抽出物又は生体異物細胞中に存在し得る生体異物作用物質に組織を暴露させることを低減又は回避することが望ましい。
【0005】
続く組織工学での使用のために通常in vitroで培養される細胞型としては、例えば胚性幹細胞及び成体幹細胞(例えば、ヒトの胚に由来する胚性幹細胞及び生殖細胞幹細胞(germ cell stem cell)、いわゆる多能性幹細胞及び成体幹細胞、例えば血液を構成する細胞(例えば、T−リンパ球(ヘルパー及びキラー)、B−リンパ球)が由来する造血幹細胞)及び培養で維持することができる成体分化細胞(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0006】
生体異物物質の非存在下で細胞培養物を生産する能力は、多くの他の用途を有する。組換えタンパク質の大規模生産は、これらのタンパク質(例えば、成長ホルモン;レプチン;エリスロポイエチン;プロラクチン;TNF、インターロイキン(IL)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11;IL−12、IL−13、IL−15のp35サブユニット;顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF);毛様体神経栄養因子(CNTF);カルジオトロフィン−1(CT−1);白血病阻害因子(LIF);オンコスタチンM(OSM);インターフェロン、IFNα及びIFNγ)の多くが医薬品として使用されるため、高水準の品質管理を要する。さらに、ワクチン、特にサブユニットワクチン(規定された抗原(例えば、HIVのgp120)に基づくワクチンの開発は、アナフィラキシーを誘発し得る汚染抗原を含まない大量の純粋なタンパク質の生産を要する。
【0007】
哺乳類細胞の無血清培養は、当該技術分野で既知である。例えば、WO98/08934号は、上皮細胞又は線維芽細胞のような哺乳類細胞のin vitroでの培養を支持する細胞培養培地を開示している。培地は、ポリアニオン性化合物、例えば硫酸デキストランが添加されている基本培地を含む。非動物ペプチドサプリメント、例えば酵母細胞を基本培地中で使用することにより、動物由来の成長因子の使用を回避するための他の試みがなされている。小麦グルテン抽出物もまた、哺乳類細胞を培養するのに使用されている(JP2−49579号を参照)。しかしながら、これらのアプローチはいずれも、哺乳類細胞の培養用の最適な成長条件を提供しない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生体異物又は同種異系作用物質、例えば血清、下垂体抽出物の非存在下で、培養において細胞を維持することができる細胞培養系に関する。本発明者等は、血清の非存在下での細胞培養容器への支持細胞、例えば線維芽細胞の単純な添加を包含する、哺乳類細胞を培養する方法について記載する。驚くべきことに、本発明者等は、培養培地中での血清の非存在下で、多数の種々の細胞型(例えば、線維芽細胞、骨芽細胞、ケラチノサイト)は、それらが通常血清の存在下で付着しない一連の基材(組織培養プラスチック、オクタジエンモノマーのプラズマ重合したフィルム)上で付着及び伸展することを見出した(Ros Daw, PhD Thesis, University of Sheffield 1998; John Kelly, PhD Thesis University of Sheffield, 2001; Michael Higham, unpublished data, University of Sheffield)。これらの細胞の伸展は不規則であり、血清なしではこれらの細胞は分割することができない(すなわち、有糸分裂が阻害される)が、これらの細胞は、代謝的に活性のままであり、細胞付着及び細胞増殖の両方に肯定的に影響を及ぼすことができる。通常、細胞は、この支持細胞層に播種される。線維芽細胞は、可溶性因子(それらの条件培地中で)及び不溶性因子(それらが生産する細胞外マトリックス物質において)の両方を提供し、これらが細胞付着及び増殖を促進する。
【0009】
本発明の態様によれば、哺乳類細胞を培養する方法であって、支持細胞及び成長培地を含む細胞培養容器を提供すること(ここで上記成長培地は、典型的に、哺乳類細胞培養の樹立に必要とされる成長促進剤を含まない)、上記支持細胞が哺乳類細胞培養を促進する作用物質を提供するのを可能にするのに十分な条件を提供すること、及び培養することが望ましい上記哺乳類細胞を上記容器中に提供することを含む方法が提供される。
【0010】
哺乳類細胞を培養する方法であって、以下の:
i)支持細胞を含む細胞培養支持表面及び培養における哺乳類細胞の樹立を促進又は増強する作用物質を含まない細胞培養培地を含む細胞培養容器を提供する工程、
ii)支持細胞による、哺乳類細胞培養を促進する作用物質の産生を促進する培養条件を提供する工程、及び
iii)培養することを目的とする少なくとも1つの哺乳類細胞を、容器に添加する工程
を含む方法が提供される。
【0011】
本発明の好ましい方法では、哺乳類細胞培養を促進する作用物質は、血清に由来する。
【0012】
本発明の代替的な方法では、哺乳類細胞培養を促進する作用物質は、下垂体抽出物に由来する。
【0013】
本発明の好ましい方法では、支持細胞は間質細胞である。
【0014】
好ましくは、間質細胞は線維芽細胞(任意の供給源(例えば真皮又は口腔))、真皮パピラ細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、内皮細胞、星状細胞及び角膜実質細胞を含む細胞組成物として提供される。
【0015】
本発明のさらに好ましい方法では、支持細胞は線維芽細胞である。
【0016】
本発明のさらに好ましい方法では、上記支持細胞は上皮細胞である。例えば、ヒト胚腎臓細胞(例えば、細胞系293)は、組換えタンパク質の発現において特に有用である。
【0017】
本発明は、より特殊化された分化細胞へ栄養性シグナルを供給する支持細胞としてin vivoで作用する細胞の他の組合せを包含する。このさらなる例は、例えば細胞(例えば、腫瘍浸潤リンパ球)が患者に再導入される場合に宿主免疫応答を誘導するように設計された条件下で、腫瘍細胞を免疫系の細胞とともに培養する場合、患者の診断又は治療に必要とされる癌細胞の生存及び増大を支持するための支持細胞層として作用する自己線維芽細胞又は上皮細胞である。好ましくは、上記支持細胞は、ヒトである。
【0018】
本発明はまた、哺乳類細胞培養を促進する作用物質、典型的に成長因子を製造するように適応させている遺伝子操作した支持細胞を包含する。
【0019】
本発明の好ましい方法では、上記哺乳類細胞はヒトである。
【0020】
本発明のさらに好ましい方法では、上記哺乳類細胞は、真皮又は口腔線維芽細胞、表皮又は口腔ケラチノサイト、成体皮膚幹細胞、胚幹細胞、メラノサイト、角膜線維芽細胞(角質実質細胞として知られる)、角膜上皮細胞、角膜幹細胞、腸粘膜線維芽細胞、腸粘膜ケラチノサイト、口腔粘膜線維芽細胞、口腔粘膜ケラチノサイト、尿道線維芽細胞及び上皮細胞、膀胱線維芽細胞及び上皮細胞、神経細胞/グリア細胞(neuronal glial cells)及び神経細胞、肝細胞/星細胞及び上皮細胞からなる群から選択される。
【0021】
本発明の好ましい方法では、上記哺乳類細胞は、ケラチノサイト、好ましくは自己ケラチノサイトである。
【0022】
血清の非存在下での哺乳類細胞培養を支持するために他のサプリメントを添加することが必要であり得ることは、当業者に明らかであろう。Cinatl et al (1992) 「ベロ細胞の無タンパク質培養:ヒト病原性ウイルスの複製に関する基質(Protein free culture of Vero cells: A substrate for replication of human pathogenic viruses)」, Cell Biol. Int. 17, 885-895は、97個のサプリメントを有する無血清培地について記載している。国際公開第98/04680号パンフレットは、25個又は26個のサプリメントを有する基本培地を含む無血清培地について記載している。サプリメントは当業者に既知であり、成長因子(例えば、線維芽細胞成長因子)、組換えタンパク質(インスリン、トランスフェリン)、塩類及びビタミン類が挙げられる。支持細胞層の使用は、これらのサプリメントの幾つか(例えば、細胞付着用のプラスチック表面を調整するためのフィブロネクチン)又はすべてに関する必要性に取って代わり得る。これらのサプリメントは、多数の供給業者から市販されている。例えば、http://www.sigmaaldrich.com/にてSigma Aldrichを参照されたい。
【0023】
本発明のさらに好ましい方法では、上記容器は、ペトリ皿、細胞培養ビン又はフラスコ、マルチウェルプレートからなる群から選択される。「容器」は、哺乳類細胞培養物を含有するのに適した任意の手段として解釈される。
【0024】
本発明の好ましい方法では、上記容器は、非多孔質ポリマーを含む。好ましくは、固相基材、例えばプラスチック、ガラス、コンタクトレンズ。細胞培養容器製品の製造に使用されるプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンが挙げられる。典型的には、上記容器は、ポリスチレンから製造される。
【0025】
細胞培養で使用されるプラスチックは、典型的に、ポリスチレンから製造され、細胞接着/付着を改善するように表面処理される。適切な表面処理としては、アルカリ/酸リンス、火炎又はコロナ処理及びプラズマ処理が挙げられる。後者は、不活性ガス(例えば、アルゴン)又は不活性ガス/反応性ガス混合物(アルゴン/酸素)又は反応性ガス(酸素、空気等)の使用を包含し得る。非常に特異的な場合では、窒素含有反応性ガス(例えば、アンモニア)が使用され得る。プラスチックの生体分子コーティング(例えば、コラーゲン又はゼラチン)は、多くの場合、特定の細胞型(例えば、ケラチノサイト(コラーゲン)及び内皮細胞(ゼラチン)の成長に必要とされる。
【0026】
本発明のさらに好ましい方法では、上記支持細胞、例えば線維芽細胞は、非増殖性である。
【0027】
本発明のさらに好ましい方法では、支持細胞は、マイトマイシンC又は照射の使用を回避する方法により、非増殖性にされる。別のアプローチは、共培養において上皮細胞の成長を可能にするが、線維芽細胞支持細胞の成長を阻害又は防止する培地を提供することである。通常、カルシウムレベルを生理学的レベルの約10分の1に低減させて、この効果を達成することができる。
【0028】
本発明のさらに好ましい方法では、上記支持細胞は、ヒト線維芽細胞、好ましくはヒト真皮線維芽細胞である。支持細胞のさらなる供給源は、口腔線維芽細胞である。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、治療用媒体上で哺乳類細胞を培養する方法であって、以下の:
i)基材及び基材に付着された支持細胞、ならびに培養における哺乳類細胞の樹立を促進又は増強する作用物質を含まない細胞培養培地を含む治療用媒体を含む調製物を提供する工程、
ii)上記支持細胞による、哺乳類細胞培養を促進する作用物質の産生を促進する培養条件を提供する工程、及び
iii)上記媒体上で培養することを目的とする少なくとも1つの哺乳類細胞を、上記調製物に添加する工程
を含む方法が提供される。
【0030】
本発明の好ましい方法では、上記哺乳類細胞はヒトである。
【0031】
本発明のさらに好ましい方法では、上記哺乳類細胞は、表皮ケラチノサイト、真皮線維芽細胞、成体皮膚幹細胞、胚幹細胞、メラノサイト、角膜線維芽細胞、角膜上皮細胞、角膜幹細胞、腸粘膜線維芽細胞、腸粘膜ケラチノサイト、口腔粘膜線維芽細胞、口腔粘膜ケラチノサイト、尿道線維芽細胞及び上皮細胞、膀胱線維芽細胞及び上皮細胞、神経細胞/グリア細胞及び神経細胞、肝細胞/星細胞及び上皮細胞からなる群から選択される。
【0032】
好ましくは、上記哺乳類細胞は、自己由来であり、好ましくは自己ケラチノサイトである。
【0033】
本発明のさらに好ましい方法では、上記線維芽細胞支持細胞はヒトである。
【0034】
本発明のさらに好ましい方法では、上記線維芽細胞支持細胞は、ヒト真皮線維芽細胞又はヒト口腔線維芽細胞である。好ましくは、上記支持細胞は、自己由来である。
【0035】
本発明のさらに好ましい方法では、上記治療用媒体は、プロテーゼ、インプラント、マトリックス、ステント、生分解性マトリックス、高分子フィルム又は懸濁培養を達成するための高分子もしくは天然マトリックス(例えば、キチン)粒子からなる群から選択される。
【0036】
多孔質材料及び線維性材料、織布及び不織布から製造される治療用媒体もまた、本発明の範囲内である(例えば帯具、ガーゼ、ギブズ、組織工学用スキャフォールド(例えば、PGA/PLAスキャフォールド)。
【0037】
ポリマー治療用媒体、多孔質及び非多孔質の織及び不織生分解性フィルムならびにスキャフォールドへの細胞の初期付着は、表面処理の方法により増強され、表面処理により、物質の表面疎水性が増大するか、又は新たな官能基が導入される。これらの方法は、当業者に既知であり、プラズマ処理(不活性ガス、空気、水、酸素、窒素、アンモニア又はそれらの組合せ)、コロナ放電、火炎処理又は単純な酸及びアルカリ洗浄が挙げられる。多数の刊行物によりこれらの方法が記載されており、例えば、Biomaterial Science: An Introduction to Materials in Medicine, B D Ratner, A S Hoffman, F J Schoen, J E Lemons, Academic Press, 1996を参照されたい。
【0038】
本明細書中に開示される条件下で治療用媒体上で哺乳類細胞を直接培養することは、上記媒体の表面の二次加工が細胞の培養、修復されるべき創傷への細胞の移植及び移行の両方を容易に可能とするため、組織工学において明らかな有益性を有する。
【0039】
本発明の態様によれば、組換えタンパク質の産生方法であって、以下の:
i)支持細胞を含む細胞培養支持表面及び培養における哺乳類細胞の樹立を促進又は増強する作用物質を含まない細胞培養培地を含む細胞培養容器を提供すること、
ii)上記支持細胞による、哺乳類細胞培養を促進する作用物質の産生を促進する培養条件を提供すること、及び
iii)培養することにより上記組換えタンパク質が産生される少なくとも1つのトランスフェクトした哺乳類細胞を、上記容器に添加すること
を含む方法が提供される。
【0040】
本発明の好ましい方法では、上記組換えタンパク質は治療用タンパク質である。
【0041】
本発明の好ましい方法では、上記治療用タンパク質はサイトカインである。好ましくは、サイトカインは、成長ホルモン;レプチン;エリスロポイエチン;プロラクチン;TNF、インターロイキン(IL)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11;IL−12、IL−13、IL−15のp35サブユニット;顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF);毛様体神経栄養因子(CNTF);カルジオトロフィン−1(CT−1);白血病阻害因子(LIF);オンコスタチンM(OSM);インターフェロン、IFNα及びIFNγからなる群から選択される。
【0042】
本発明の代替の好ましい実施形態では、上記治療用タンパク質は、抗原性ポリペプチドである。
【0043】
本発明の実施形態はここで、単なる実例によって、及び以下の材料及び方法を参照して記載される。
【実施例】
【0044】
材料及び方法
試験する培養基材は、「受け取ったままの状態の」組織培養プラスチック(Iwaki, UK)、細菌学的等級のプラスチック、プラズマ重合したオクタジエン表面及びコラーゲンコーティングしたプラスチックを包含する。コラーゲンコーティングした組織培養プレートは、層流キャビネットで一晩、0.1M酢酸(200μg ml−1)中のコラーゲンI(32μg cm−2)の溶液を風乾させることにより調製した。
【0045】
X線光電子分光法(XPS)分析
XPSは、電力100Wで作動するMg Kα X線源を有するVG CLAM 2分光計を用いて行った。その分光計は、84.00eVでのAu 4f 7/2ピーク位置で較正され、PTFEのサンプル中のC 1sとF 1sピーク位置との分離を397.2eVで測定して、Beamson及びBriggsにより報告されている397.19eVの値と十分比較する[Beasmson G and Briggs D, High Resolution XPS of Organic Polymers: The Scienta ESCA300 Handbook, 1992, John Wiley and Sons Chichester]。スペクトルは、Spectra 6.0ソフトウェア(R.Unwin Software, Cheshire, UK)を用いて、サンプル表面に対して30°の固定取り出し角度を用いて獲得した。各サンプルのワイドスキャン(0〜1100eV)及びナロウスキャンを獲得した。ワイドスキャンは、表面酸素/炭素(O/C)比を得るのに使用し、ナロウスキャンは、炭素、酸素及び窒素結合環境に関する情報を得るのに使用した。ワイド及びナロウスキャンに関するスペクトルの収集に関して、使用するアナライザーのパスエネルギーは、それぞれ50eV及び20eVであった。
【0046】
ESCA300(Scienta Software)を用いて、C 1sコアレベルスペクトルのピークフィットを得た。十分確立されたケミカルシフトを用いて、混合0.8〜0.9のガウス−ローレンツ(G/L)ピークをC 1sコアレベルスペクトルにフィットさせた[Beamson and Briggs]。ピークフィッティングでは、ピークの半値全幅(FWHM)を同一に、かつ1.38〜1.67の範囲で保った。炭化水素ピークを285eVに設定して、任意のサンプルチャージングに関して収集した。サンプルチャージは、4〜5eVの領域であった。
【0047】
細胞培養
ヒト真皮線維芽細胞は、分層植皮片(split-thickness skin graft)のトリプシン処理後に、皮膚の真皮層から得られ(分層植皮片は、日常的な外科的手順(胸部低減(breast reduction)及び腹壁形成(abdominoplasty))後に検体から採取)、PBS中での洗浄後、メスで細かく刻み、0.5%コラゲナーゼ中に入れた。コラゲナーゼ消化物の遠心分離及び上清の排除後に、T25フラスコ中の線維芽細胞培養培地(FCM)10ml中に細胞を再懸濁させた。フラスコを37℃にて5% CO雰囲気中で維持する。
【0048】
ヒト口腔線維芽細胞は、日常的な口腔の外科処置を受けた患者から得られた検体からの口腔粘膜の生検材料から得られた。使用した材料は、使用しなければ廃棄されるものであり、患者の同意を得て使用した。線維芽細胞は、上述の真皮線維芽細胞に関するのと同様に得られ、培養した。
【0049】
FCMのいかなる500mlも、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)438.75ml、ウシ胎仔血清(FCS)[任意、以下を参照]50ml、1−グルタミン5ml、ペニシリン/ストレプトマイシン(それぞれ、10,000U/ml及び10,000μg/ml)5ml、ファンギゾン1.25mlから構成される。
【0050】
FCSを含まないFCMは、埋め合わせるためにDMEMをさらに50ml、及びインスリン(100ng/ml)及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(100ng/ml)を含有する(インスリン及びbFGFはともに、動物組織に由来しない組換えタンパク質である)。
【0051】
線維芽細胞の細胞は、90〜100%のコンフルエント(confluent)である場合に継代培養し、継代数5〜9を使用した。培養基材への線維芽細胞の付着を、FCSを含む場合とFCSを含まない場合とで比較する間は、同じフラスコ及び細胞の継代数を使用した。線維芽細胞の継代培養は、T25フラスコ1つにつき、0.1%トリプシン及び0.02%EDTAの1:1混合液1.5mlを用いて達成した。
【0052】
ヒト表皮ケラチノサイト(胸部低減及び腹壁形成から得られる)は、真皮/表皮接合部から単離したばかりであった。
【0053】
ケラチノサイトの培養で日常的に使用されるグリーン培地は、コレラ毒素(0.1nM)、ヒドロコルチゾン(0.4μg m−1)、EGF(10ng m−1)、アデニン(1.8×10−4M)、トリヨード−L−サイロニン(2×10−7M)、ファンギゾン(0.625μg ml−1)、ペニシリン(1000IU ml−1)、ストレプトマイシン(1000μg ml−1)及び10%ウシ胎仔血清(任意)を包含する。細胞は、37℃にて5% CO雰囲気中で培養した。
【0054】
共培養実験では、線維芽細胞がケラチノサイト用の支持細胞層として作用する場合、線維芽細胞を、血清あり及びなしで、DMEM中で約2×10個の細胞/mlの密度で24時間播種した後、ケラチノサイトを添加した。ケラチノサイトの添加時に、培地を除去して、ケラチノサイトを、血清あり及びなしで、グリーン培地中で約2×10個の細胞/mlの密度で播種した。これらの実験では、コラーゲンIは、陽性対照表面、ならびに血清又は下垂体抽出物の添加なしで生体異物表面上で培養を実施することができるという実証として作用する。
【0055】
細胞付着、生存度及び増殖の評価
ヒト真皮線維芽細胞付着及び生存度の研究に関して、細胞を、24個の別個のウェルプレート(直径1.6cm)へ約7×10個の細胞 ml−1の密度で播種した。ヒト表皮ケラチノサイトを、約4×10個の細胞/mlの密度で播種した。共培養実験は、セシウム137密封線源を用いて4780秒間照射した2×10個の細胞/mlの照射真皮線維芽細胞とともに約1.5×10個の細胞/mlのケラチノサイト播種密度を使用した。
【0056】
最大7日目までの時点での細胞の付着及び生存度を、MTT−ESTAアッセイを用いて評価した。このアッセイは、生存細胞を示し、MTT基質を着色ホルマザン生成物へと変換する細胞デヒドロゲナーゼ活性が通常細胞数に関連するという点で、細胞数の間接的な反映を提供する。
【0057】
細胞をPBS溶液1mlで洗浄した後、PBS中でMTT 0.5mg ml−1とともに40分間インキュベートした。続いて、酸性化イソプロパノール300μlを用いて、染料を溶出させた。次に、150μlを96ウェルプレートに移した。540nmの波長に設定したプレートリーダーを用いて光学密度を読み取り、630nmのタンパク質基準を差し引いた。さらに、細胞の外観を同じ時点で評価及び記録した。
【0058】
細胞のDNA含有量(これは、細胞数を反映するが、かならずしも生存度を反映するわけではない)を、ヘキスト蛍光染色(33258 Sigma Chemicals)を用いて同じ時点で算出した。細胞を消化緩衝液1ml中に1時間インキュベートした。この緩衝液は、クエン酸ナトリウム生理食塩水(SSC)100ml当たり、尿素(これは、細胞を崩壊させる)48g及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(これは、細胞をDNアーゼから保護する)から構成されていた。消化後、SSC緩衝液中で1μg/mlで、ヘキスト蛍光染色を用いて細胞を染色した。フルオリメータを使用して、それぞれ355nm及び460nmの励起及び放出波長を用いて、蛍光を測定した。既知のDNA濃度の標準曲線を用いて、DNA含有量を算出した。提示する実験データすべてに関して、最大7日間、それら単独で又は共培養で培養した細胞は、3日目に新鮮な培地の交換を行った。
【0059】
統計
血清あり及びなしでのケラチノサイト増殖を向上させる際の照射線維芽細胞支持細胞層の有意性は、統計学的な両側スチューデントt検定を用いて解析し、ここでp<0.05の値は、統計学的に有意であるとみなした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞を培養する方法であって、以下の:
i)支持細胞を含む細胞培養支持表面及び培養における哺乳類細胞の樹立を促進又は増強する作用物質を含まない細胞培養培地を含む細胞培養容器を提供する工程、
ii)前記支持細胞による、哺乳類細胞培養を促進する作用物質の産生を促進する培養条件を提供する工程、及び
iii)培養することを目的とされた少なくとも1つの哺乳類細胞を、前記容器に添加する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記哺乳類細胞培養を促進する作用物質は、血清に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳類細胞培養を促進する作用物質は、下垂体抽出物に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記支持細胞は間質細胞である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記間質細胞は、線維芽細胞、真皮パピラ細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、内皮細胞、星状細胞及び角膜実質細胞を含む細胞組成物として提供される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記支持細胞は線維芽細胞である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記支持細胞は上皮細胞である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記支持細胞は遺伝子操作した支持細胞である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記支持細胞はヒトである、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳類細胞はヒト細胞である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳類細胞は、線維芽細胞、表皮ケラチノサイト、真皮線維芽細胞、成体皮膚幹細胞、胚幹細胞、メラノサイト、角膜線維芽細胞、角膜上皮細胞、角膜幹細胞、腸粘膜線維芽細胞、腸粘膜ケラチノサイト、口腔粘膜線維芽細胞、口腔粘膜ケラチノサイト、尿道線維芽細胞及び上皮細胞、膀胱線維芽細胞及び上皮細胞、神経細胞/グリア細胞及び神経細胞、肝細胞/星細胞及び上皮細胞からなる群から選択される、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳類細胞はケラチノサイトである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ケラチノサイトは自己由来である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳類細胞は線維芽細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記線維芽細胞は自己由来である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記容器は、ペトリ皿、細胞培養ビン又はフラスコ、マルチウェルプレートからなる群から選択される、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記容器は、ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択されるプラスチックから製造される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記支持細胞は非増殖性である、請求項1ないし17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記支持細胞はヒト線維芽細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
治療用媒体上で哺乳類細胞を培養する方法であって、以下の:
i)基材及び基材に付着された支持細胞、ならびに培養における哺乳類細胞の樹立を促進又は増強する作用物質を含まない細胞培養培地を含む治療用媒体を含む調製物を提供する工程、
ii)前記支持細胞による、哺乳類細胞培養を促進する作用物質の産生を促進する培養条件を提供する工程、及び
iii)前記媒体上で培養することを目的とされた少なくとも1つの哺乳類細胞を、前記調製物に添加する工程
を含む方法。
【請求項21】
前記哺乳類細胞はヒトである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記哺乳類細胞は、表皮ケラチノサイト、真皮線維芽細胞、成体皮膚幹細胞、胚幹細胞、メラノサイト、角膜線維芽細胞、角膜上皮細胞、角膜幹細胞、腸粘膜線維芽細胞、腸粘膜ケラチノサイト、口腔粘膜線維芽細胞、口腔粘膜ケラチノサイト、尿道線維芽細胞及び上皮細胞、膀胱線維芽細胞及び上皮細胞、神経細胞/グリア細胞及び神経細胞、肝細胞/星細胞及び上皮細胞からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳類細胞は自己由来である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記支持細胞は、線維芽細胞、好ましくはヒト線維芽細胞である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記治療用媒体は、プロテーゼ、インプラント、マトリックス、ステント、生分解性マトリックス、高分子フィルム、帯具、ガーゼ、ギブズ、組織工学用スキャフォールド(例えば、PGA/PLAスキャフォールド)からなる群から選択される、請求項20ないし24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項20ないし25のいずれか1項に記載の方法により得ることが可能な治療用媒体。
【請求項27】
請求項1ないし19のいずれか1項に記載の方法により得ることが可能な哺乳類細胞培養物を含有する細胞培養容器。
【請求項28】
組換えタンパク質の産生方法であって、以下の:
i)支持細胞を含む細胞培養支持表面及び培養における哺乳類細胞の樹立を促進又は増強する作用物質を含まない細胞培養培地を含む細胞培養容器を提供すること、
ii)前記支持細胞による、哺乳類細胞培養を促進する作用物質の産生を促進する培養条件を提供すること、及び
iii)培養することにより前記組換えタンパク質が産生される少なくとも1つのトランスフェクトした哺乳類細胞を、前記容器に添加すること
を含む方法。
【請求項29】
前記組換えタンパク質は治療用タンパク質である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記治療用タンパク質はサイトカインである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記サイトカインは、成長ホルモン;レプチン;エリスロポイエチン;プロラクチン;TNF、インターロイキン(IL)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11;IL−12、IL−13、IL−15のp35サブユニット;顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF);毛様体神経栄養因子(CNTF);カルジオトロフィン−1(CT−1);白血病阻害因子(LIF);オンコスタチンM(OSM);インターフェロン、IFNα及びIFNγからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記治療用タンパク質は、抗原性ポリペプチドである、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記方法は、前記組換えタンパク質の精製をさらに含む、請求項28ないし32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法により得ることが可能な組換えタンパク質。
【請求項35】
請求項34に記載のタンパク質を含む組成物。

【公表番号】特表2006−519024(P2006−519024A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505907(P2006−505907)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000881
【国際公開番号】WO2004/078915
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(505334569)セルトラン・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CELLTRAN LIMITED
【住所又は居所原語表記】Firth Court, Western Bank, Sheffield S10 2TN, United Kingdom
【Fターム(参考)】