細胞増殖の抑制方法および細胞増殖の抑制剤
【課題】 ヒトや動物の細胞の増殖の抑制を容易にかつ安価に実施できる方法および薬剤を提供する。
【解決手段】 本発明の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子との存在下で細胞を保持する。また、本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子とを含む。細胞を暗所で保持しても細胞増殖の抑制がなされ、光照射なしでも細胞増殖の抑制を行うことができるため、煩雑な光照射や高価な光照射装置を必要とせず、従来の方法より容易にかつ安価に細胞増殖の抑制を行うことができる。
【解決手段】 本発明の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子との存在下で細胞を保持する。また、本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子とを含む。細胞を暗所で保持しても細胞増殖の抑制がなされ、光照射なしでも細胞増殖の抑制を行うことができるため、煩雑な光照射や高価な光照射装置を必要とせず、従来の方法より容易にかつ安価に細胞増殖の抑制を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子とを用いて、ヒトや動物の細胞の増殖を抑制する方法およびその薬剤に関する。
【背景技術】
5−アミノレブリン酸(5−Aminolevulinic acid;5−ALA)は、ヒトや動物の細胞において、ビタミンB12やヘム、クロロフィルの前駆物質であるプロトポルフィリン(Protoporphyrin IX;PpIX)を生合成するための生体物質である。こうした5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質として、5−アミノレブリン酸塩酸塩(5−Aminolevulinic acid hydrochloride)や5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩(5−Aminolevulinic acid methyl ester hydrochloride)などが広く知られている。5−アミノレブリン酸は「5−ALA」と表記されることが多いので、以下の説明では、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子について、それらの分子を特に種類を区別しないで呼ぶときには「5−ALA族分子」と表記することにする。また、5−アミノレブリン酸塩酸塩および5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩は、それぞれ「5−ALA−HCl」および「5−ALA−Me」と表記する。
一方、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子についても、特に種類を区別しないで呼ぶときには「金属含有ナノ粒子」と呼ぶことにする。また、金属のみからなるナノ粒子については「金属」ナノ粒子(「金属」に金属名を当てる)と呼び、金属化合物のみからなるナノ粒子については「金属化合物」ナノ粒子(「金属化合物」に金属化合物の名を当てる)と呼ぶことにする。例えば金よりなる場合、金ナノ粒子と呼ぶことにする。
【0002】
さて、5−ALA族分子を細胞に投与することで、その細胞がそれらの物質を細胞内に取り込んでPpIXを生合成することが知られ、特にガン細胞においては、こうして生合成されたPpIXが細胞内に多量に蓄積されることが広く知られている(文献例:Gaullier J.M.et al.,1997およびCasas A.et al.,1999など)。PpIXは光増感剤として働き、光強度の高い光の照射によって細胞毒性(光毒性)を生み出す現象が知られている。この現象をガンの治療に応用したものが光力学治療法で、例えば皮膚がんの治療に適用されている(文献例:Dougherty,T.J.et al.,1998、Donnelly,R.F.et al.2005、およびFotinos,N.et al.,2006など)。
近年、卵レシチンからなるナノ粒子と5−ALA−HClが含まれる薬剤を使った光力学療法が報告されている(Hurlimann et al.,1998、および米国特許6,559,183号)。卵レシチンは脂質の一種であり、oil−in−water emulsions(水中油性エマルジョン)の形態でナノ粒子が形成されている。この光力学療法では、卵レシチンからなるナノ粒子と5−ALA−HClが含まれる薬剤を腫瘍に投与し、その薬剤の投与部位に200mW/cm2の光強度をもつ白色光を照射することで光細胞毒性の有為な効果が得られたとされている。また、Hurlimannらは、卵レシチンからなるナノ粒子と5−ALA−HClが含まれる薬剤を腫瘍に投与してから6時間後に、その腫瘍部位から強い蛍光が観測されたことを報告している。しかしながら、光照射なしで細胞増殖が抑制されることは報告していない。また、実際に使用された薬剤は10〜200ナノメートル(nm)の様々な粒子サイズをもつナノ粒子を含んでいるものとされており、どの粒子サイズのナノ粒子が細胞増殖の抑制に効果的であるか開示していない上に、10nm未満の粒子サイズをもつナノ粒子の効用についても報告していない。
【0003】
一方、ヒト乳がん細胞由来の培養細胞(MCF−7)を使って、水中油性エマルジョンと5−ALA−HClの存在下で1〜4時間細胞が保温されたときの細胞内で生合成されるPpIXの量に関する研究報告もある(Nielsen et al.,2004)。Nielsenらは、この研究で、細胞に取り込まれた5−ALA−HClから生合成されるPpIXの生合成量が促進されたことを報告しているが、細胞増殖が抑制されるかどうかについては報告していない。
他方、Zeisser−Labouebuらは、金ナノ粒子および酸化鉄ナノ粒子は生体に細胞毒性をもたらさないことの報告例を挙げながら、金属製のナノ粒子を使った光力学療法について議論している(Zeisser−Labouebu,M.et al.,2006)。この文献で紹介されている報告例は次のものである。フタロシアニン(phthalocyanine)に誘導体する分子で被覆された金ナノ粒子を用意し、その金ナノ粒子を投与して光力学療法を行ったときには、光細胞毒性に大きく関わっているとされる一重項酸素が高い量子収率で生成されうることが報告されている(Wieder,M.E.et al.,2006)。また、ポルフィリン(porphyrin)に属する分子で被覆された酸化鉄のナノ粒子を用意し、そのナノ粒子の存在下でHeLa細胞を5時間保温したときには、HeLa細胞は、暗所で生ずる細胞毒性(dark toxity;以下、暗毒性と称する)を示さなかったことを報告している(Gu,H.et al.,2005)。Zeisser−Labouebuらは、光増感剤を備えていないナノ粒子についても議論で取り上げており、例えば1.9nmの粒子サイズをもつ金ナノ粒子がマウスの腫瘍に対して7mg/gの濃度で静脈投与されたとき、検体を致死(lethality)に至らしめることなく、大部分の金ナノ粒子は尿を通じて細胞外に排出されたことの報告例(Hainfeld J.F.et al.,2004)を紹介している。
【0004】
一方、光増感剤を備えていない金ナノ粒子の細胞毒性について、この報告例の他にも最近になされた研究報告がいくつかある。1.4nmの粒子サイズをもつ金ナノ粒子(Au55クラスター)がガン細胞あるいは正常細胞の培養細胞に投与されたときに細胞毒性が示されたという報告がある(Tsoli,M.et al.,2005)。また、14nmの粒のサイズをもち、かつ酢酸で安定化された金ナノ粒子が用意され、その金ナノ粒子がヒト繊維芽細胞(human dermal fibroblast cells)に0.2〜0.8mg/ml(ca.1〜4mM)の濃度で投与されて2〜6日間保持されたときにも細胞毒性が示されたという報告がある(Pernodet,N.et al.,2006)。しかしながら、次の報告例で示されているように、比較的低い濃度での金ナノ粒子の投与では細胞毒性を示さないことが報告されている。例えば、18nmの粒子サイズをもち、かつ酢酸あるいはビオチン(biotin)で安定化された金ナノ粒子が用意され、それらの各金ナノ粒子が白血病のガン細胞の一種(K562 leukemia cells)に対して250mMまでの濃度で投与されたときにおいては、金ナノ粒子が細胞内に取り込まれても細胞毒性が示されなかったという報告がある(Connor,E.E.et al,2005)。また、14〜100nmの粒径をもち、かつ酢酸で安定化されたコロイド状の親水性金ナノ粒子が用意され、その金ナノ粒子がHeLa細胞に対して比較的低濃度で投与(14nm、50nmおよび74nmの粒径をもつ各金ナノ粒子に対し、それぞれ1.0mM、20.0mM、および16.0mMの濃度で投与)されたときにおいては、金ナノ粒子が細胞内に取り込まれても細胞毒性が示されなかったという報告がある(Chithrani,B.D.et al.,2006)。さらには、3.5nmの粒子サイズをもち、かつボロハイドライド(borohydride)で還元化されたコロイド状の親水性金ナノ粒子が用意され、その金ナノ粒子がマクロファージ細胞の一種に対して10〜100mMの濃度で投与されて24〜72時間保持されたときにおいても、有為な細胞毒性は示されなかったという報告がある(Shukla,R.et al.,2005)。
なお、上記で引用した文献については、下記の説明で引用する文献と併せて次の項に一覧した。
【引用文献】
【0005】
1.Nano−emulsion of 5−aminolevulinic acid.U.S.Patent 6,559,183
2.Chithrani,B.D.;Ghazani,A.A.;Chan,W.C.W.Determining the Size and Shape Dependence of Gold Nanoparticle Uptake into Mammalian Cells.Nano Lett.6:662−668;2006.
3.Connor,E.E.;Mwamuka,J.;Gole,A.;Murphy,C.J.;Wyatt,M.D.Gold Nanoparticles Are Taken Up by Human Cells but Do Not Cause Acute Cytotoxicity.small 1:325−327;2005.
4.Dougherty,T.J.;Gomer,C.J.;Henderson,B.W.;Jori,G.;Kessel,D.;Korbelik,M.;Moan,J.;Peng,Q.REVIEW Photodynamic Therapy.Journal of the National Cancer Institute,90:889−905,1998.
5.Donnelly,R.F.;McCarron P.A.;Woolfson,D.;Invited review,Drug delivery of aminolevulinic acid from topical formulations intended for photodynamic therapy.Photochem.Photobiol.81:750−767;2005.
6.Fiedler,D.M.;Eckl,P.M.;Krammer,B.Does δ−aminolaevulinic acid induce genotoxic effects? Photochcm.PhotobIol.B:Biology,33:39−44;1996.
7.Fotinos,N.;Campo,M.A.;Popowycz,F.;Gurny,R.;Lange,N.5−Aminolevulinic Acid Derivatives in Photomedicine:Characteristics,Application and Perspectives.Photochem Photobiol.82:994−1015;2006.
8.Gu,H.;Xu,K.;Yang,Z.;Changa,C.K.;Xu,B.Synthesis and cellular uptake of porphyrin decorated iron oxide nanoparticles−a potential candidate for bimodal anticancer therapy.Chem.Commun.4270−4272,2005.
9.Hainfeld,J.F.;Slatkin,D.N.;Smilowitz,H.M.The use of gold nanoparticles to enhance radiotherapy in mice.Phys.Med.Biol.49:N309−N315,2004.
10.Hainfeld,J.F.;Slatkin,D.N.;Focella,T.M.;Smilowitz,H.M.Gold nanoparticles:a new X−ray contrast agent.The British Journal of Radiology,79:248−253,2006.
11.Hurlimann,A.F.;Hanggi,G.;and Panizzon,R.G.Photodynamic Therapy of Superficial Basal Cell Carcinomas Using Topical 5−Aminolevulinic Acid in a Nanocolloid Lotion.Dermatology,197:248−254;1998.
12.Kneipp,J.;Kneipp,H.;McLaughlin,M.;Brown,D.;Kneipp,K.In Vivo Molecular Probing of Cellular Compartments with Gold Nanoparticles and Nanoaggregates.Nano Lett.6:2225−2231;2006.
13.Nielsen,H.M.;Aemisegger,C.;Burmeister,G.;Schuchter,U.;Gander,B.Effect of Oil−in−Water Emulsions on 5−Aminolevulinic Acid Uptake and Metabolism to PpIX in Cultured MCF−7 Cells.Pharm.Res.21:2253−2260;2004.
14.Pernodet,N.;Fang,X.;Sun,Y.;Bakhtina,A.;Ramakrishnan,A.;Sokolov,J.;Ulman,A.;Rafailovich,M.Adverse Effects of Citrate/Gold Nanoparticles on Human Dermal Fibroblasts.small,2:766−773;2006.
15.Rosenthal,I.;Sostaric,J.Z.;Riesz,P.Sonodynamic therapy−a review of the synergistic effects of drugs and ultrasound.Ultrasou.Sonochem.11:349−363;2004.
16.Shukla,R.;Bansal,V.;Chaudhary,M.;Basu,A.;Bhonde,R.R.;Sastry,M.Biocompatibility of gold nanoparticles and their endocytotic fate inside the cellular compartment:A microscopic overview.Langmuir 21:10644−10654;2005.
17.Tsoli,M.;Kuhn,H.;Brandau,W.;Esche,H.;Schmid,G.Cellular Uptake and Toxicity of Au55 Clusters.small 1:841−844;2005.
18.Wieder,M.E.;Hone,D.C.;Cook,M.J.;Handsley,M.M.;Gavrilovic,J.;Russell,D.A.Intracellular photodynamic therapy with photosensitizer−nanoparticle conjugates:cancer therapy using a‘Trojan horse’.Photochem.Photobiol.Sci.5:727−734;2006.
19.Zeisser−Labouebu,M.;Vargas,A.;Delie,F.Nonoparticles for Photodynamic Therapy of Cancer.in Nanomaterials for Cancer Therapy,ed.Kumar,C.Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.kGaA,Weinheim,2006,pp.40−86.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、5−ALA−HClおよび脂質の一種からなるナノ粒子が含まれる薬剤と、光強度の高い光の照射とを併用しての細胞の増殖を抑制する方法は従来より知られている。しかしながら、200mW/cm2という高い光強度の光を照射することは煩雑な作業である上、このような高強度の光の照射を行うための装置には高価なものが多いため、この方法は必ずしも容易に実施できるものではなかった。また、脂質の一種からなるナノ粒子については、生体の有機物質であるがゆえに、例えば高温多湿の環境条件や長期保存によっては腐食あるいは劣化の恐れがある。それゆえに、従来より知られている5−ALA−HClおよび脂質の一種からなるナノ粒子が含まれる薬剤については、例えば輸送や保存などにおいてはその品質保持に大きな注意と費用が必要となってくる可能性があり、どんな場所でも手軽に使用できるものとは言えない。
【0007】
他方、金属からなるナノ粒子を用いて細胞の増殖を抑制する方法においても、従来においては十分に抑制できる方法が少なく、抑制可能な方法においても多量のナノ粒子を投与する必要があり、かつその抑制効果が現れるのに例えば2〜6日間かかるというように、時間がかかりすぎるという問題があった。
本発明は、ヒトや動物の細胞の増殖の抑制を、上記の問題が発生することなく実施できる方法および薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の細胞増殖の抑制方法は、次のように大きく分けて三つある。
上記課題を解決する本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)との存在下で細胞を保持することを特徴とする(請求項1)。
本発明によって細胞増殖が抑制されるメカニズムは明らかになっていないが、下記の実施例でも示しているように、細胞を暗所で保持しても細胞増殖の抑制が見られるので、光細胞毒性によってはもたらされていないようである。一つの考え方として、5−ALA族分子が、金属含有ナノ粒子との共存によって細胞内に取り込まれやすくなり、細胞内に多量に取り込まれた5−ALA族分子が直接あるいは間接的に、あるいはまたPpIXなどの他の分子に変化して細胞毒性を誘発している可能性が挙げられる。また別の考え方としては、金属含有ナノ粒子が5−ALA族分子との共存によって細胞内に取り込まれやすくなり、細胞内に多量に取り込まれた金属含有ナノ粒子が細胞毒性を誘発している可能性も挙げられる。あるいは、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子とが互いに結合あるいは付着し合って一体的となり、細胞毒性を誘発している可能性もある。いずれにせよ、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子との何らかの協同作用によって細胞に暗毒性(dark toxity)が誘発されることが考えられる。この暗毒性によって、光照射なしでも細胞の活性が阻害され、細胞増殖が抑制されると考えられる。
【0009】
本発明の細胞増殖の抑制方法によれば、光照射なしでも細胞増殖の抑制を行うことができるため、煩雑な光照射や高価な光照射装置を必要とせず、従来の方法より容易にかつ安価に細胞増殖の抑制を行うことができる。
また、本発明の細胞増殖の抑制方法によれば、正常な細胞であっても、異常なものであっても、その細胞の増殖の抑制することができる。なお、ここで言う異常な細胞とは、悪性腫瘍のガン細胞など病気の原因となる細胞を指し、悪性腫瘍に転ずる恐れのある良性腫瘍の細胞も含まれる。こうした生体内の異常な細胞の増殖を抑制して病気の治療や予防を行うことを目的とするときには、正常な細胞の増殖を抑制しないように実施する必要がある。
【0010】
さらには、金属含有ナノ粒子が、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を十分に含むものであれば、例えば高温多湿や乾燥といった生体有機物質が腐食あるいは劣化しやすい環境条件や、長期保存によっても、その金属含有ナノ粒子は腐食あるいは劣化の恐れが少ないものである。それゆえに、本発明の細胞増殖の抑制方法によれば、より多くの環境下でナノ粒子を手軽に使えるようになる。
【0011】
一方、上記課題を解決する本発明の二つ目の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子との存在下で細胞を保持することを特徴とする(特許請求せず)。この方法によって細胞増殖が抑制されるメカニズムも明らかになっていないが、ナノ粒子が10nm未満の粒径を持つがゆえのナノ粒子のサイズ効果が関与している可能性がある。
【0012】
さらに、上記課題を解決する本発明の三つ目の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、ナノ粒子との存在下で細胞を12時間以上保持することを特徴とする(特許請求せず)。この方法によって細胞増殖が抑制されるメカニズムも明らかになっていないが、12時間以上保持するがゆえの保持時間の時間効果が関与している可能性がある。
【0013】
一方、上記課題を解決する本発明の細胞増殖の抑制剤は、次のように大きく分けて二つある。
上記課題を解決する本発明の一つ目の細胞増殖の抑制剤は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)と、を含むことを特徴とする(請求項6)。
【0014】
本発明の細胞増殖の抑制剤は、上記本発明の細胞増殖の抑制方法のいずれにも用いることができるが、特に、請求項1に記載の細胞増殖の抑制方法に適したものである。
また、金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を十分に含むものであれば、上述のように例えば高温多湿のような生体有機物質が腐食あるいは劣化しやすい条件でも、腐食あるいは劣化の恐れが少ないものである。それゆえに本発明の細胞増殖の抑制剤は、輸送や保存などにおける品質保持に大きな注意と費用を払う必要がなくなり、どんな場所でも手軽に使用できる。
【0015】
上記課題を解決する本発明の二つ目の細胞増殖の抑制剤は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子と、を含むことを特徴とする(特許請求せず)。
本発明の細胞増殖の抑制剤は、上記二つ目および三つ目の本発明の細胞増殖の抑制方法に用いることができるが、特に二つ目の本発明の細胞増殖の抑制方法に適したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の細胞増殖の抑制方法および抑制剤によれば、ヒトや動物のガン細胞の増殖を抑制することができるため、ヒトや動物のガン治療を行うことができる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上記課題を解決するための手段に示した本発明の三つの細胞増殖の抑制方法および二つの細胞増殖の抑制剤の実施態様について以下に順次説明する。
本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法(請求項1)では、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)との存在下で細胞を保持する。この細胞増殖の抑制方法は、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子とを細胞に投与した後、これらの物質の存在下で所定の時間、細胞を保持することにより実施することができる。ここで、細胞が生合成した5−ALAを利用することも考えられなくはないが、この方法により細胞増殖の抑制作用を得るのに十分な量の5−ALAを得ることは難しく、人為的に5−ALA族分子を投与する方が容易に実施することができるので望ましい手法である。
【0018】
{5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)}
本発明において、5−ALA族分子は、製薬上許容されるものであれば、特に限定されるものではない。また、5−アミノレブリン酸類の塩は、有機酸または無機酸の酸付加塩であることが好ましく、例えば塩酸塩が挙げられる。この塩酸塩として、5−アミノレブリン酸塩酸塩(5−ALA−HCl)および/または5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩(5−ALA−Me)を用いることができる。これらの塩酸塩は、高濃度で用いない限りは生体には無害とされているため、取り扱いが容易である。また、5−ALA−Meは、5−ALA−HClに比べて溶質のpHの値を大きく変化させないという利点をもつ。本発明においては5−ALA族分子を一種類だけ用いてもよいし、二種類以上用いてもよい。二種類以上の5−ALA族分子を用いるときには、それらを同時に用いてもよいし、異なった時に別々に用いてもよい。
【0019】
本発明で用いる5−ALA族分子は、いかなる濃度で用いてもよいが、例えば5−ALA−HClおよび/または5−ALA−Meを用いる場合には2.5〜10mMの濃度で用いることが望ましい。2.5mM未満の濃度では、細胞増殖を十分に抑制することができない恐れがある。一方、10mMを超える濃度では、単独で細胞に毒性を与えてしまう恐れがあり、取り扱いが難しくなる可能性がある。
【0020】
{金属含有ナノ粒子}
金属および金属化合物から選ばれる物質は、遷移金属、遷移金属の酸化物、遷移金属の窒化物、および遷移金属の硫化物の少なくとも一種から選択することができる。特に、貴金属を含む金属含有ナノ粒子を用いることが好ましい。貴金属としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、およびイリジウム(Ir)が挙げられる。貴金属は化学的安定性に極めて優れるため、貴金属を十分に含む金属含有ナノ粒子は、例えば、有害な細菌の滅菌のため高温加熱処理されたり、塩酸や5−ALA−HClなどの強酸に曝さらされたり、生体有機分子を分解してしまう酵素に曝されたり、あるいは長期保存されても、その化学的安定性が大きく低下する恐れは少ないものである。
【0021】
上述の従来までの研究報告によれば、金ナノ粒子は大量投与しなければ生体に重大な細胞毒性を与えないため、本発明の細胞増殖の抑制方法において、金ナノ粒子を用いれば、ヒトや動物のガン治療に応用できる可能性がある。そのガン治療の候補として、皮膚ガン、乳ガンおよび白血病が挙げられる。また、本発明は暗所でも細胞増殖の抑制を行うことができるため、光照射が困難な皮下のガン治療に適用できる可能性がある。特に、金ナノ粒子は強い酸性に曝さらされたり、生体有機分子を分解してしまう酵素に曝されても、劣化したり分解したりすることがないため、胃ガンなど消化器官のガン治療にも適用できる可能性がある。
【0022】
さらには、最近、金ナノ粒子がX線造影剤としての利用の可能性を示す報告がある(Hainfeld J.F.et al.,2006)。本発明の細胞増殖の抑制方法で用いるナノ粒子は、このようにX線などを使って視覚的に検出できる可能性があるため、ガンなどの治療を目的としてこのナノ粒子を患部に投与した後においては、金属含有ナノ粒子の追跡を可能にしうるものである。
【0023】
また、上記の遷移金属の酸化物としては、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化銅(CuO)、および酸化チタン(TiO2)が挙げられ、さらには酸化シリコン(SiO2)であってもよい。さらには、このナノ粒子は、CdSe、CdS、あるいはCdTeなどの金属化合物半導体よりなるものであってもよく、いわゆる量子ドット(quantum dot)であってもよい。
【0024】
ところで、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質をナノ粒子の少なくとも表面に有するものとすることができる。さらには、ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質がナノ粒子の表面を層状に覆うものとしたものであってもよい。また、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質から完全になるものであってもよい。この場合には、金属含有ナノ粒子を「金属」ナノ粒子または「金属化合物」ナノ粒子と言い換えることは前に述べた。本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質の他に、他の無機物や有機物を含むものであってもよい。
【0025】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、親水性コロイドおよび疎水性コロイドのいずれであってもよいが、親水性コロイドである方が好ましい。あるいはクラスターであってもよい。
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、いかなる形状をもつものであってもよい。例えば、球状、多角体、柱状、棒状のものが挙げられるが、特に球状のナノ粒子が好ましい。
【0026】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、いかなるサイズをもつものであってもよい。例えば球状の金属含有ナノ粒子を用いる場合には、100nm以下の粒径をもつことが好ましく、さらには17nm以下の粒径をもつことが望ましい。
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、いかなる濃度で用いてもよいが、17〜100nmの粒径の球状の金ナノ粒子を用いる場合には2.2μM以上の濃度で用いることが好ましい。また、5nmの粒径の球状の金ナノ粒子を用いる場合には1.4μM以上の濃度で用いることが好ましい。
【0027】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、特定の細胞に結合または付着したり、あるいは取り込まれたりすることのできる標的物質を含むものであってもよい。この特定の細胞としては、ガン細胞のように病気や傷害の原因となる細胞が挙げられる。一方、標的物質としては、アミノ酸やタンパク質、脂質などの生体物質が好ましく、特に抗体を挙げることができる。
金属含有ナノ粒子は、こうした標的物質を粒子表面に結合または付着させて持つことが好ましい。特に、ガン細胞に特異的に結合できる抗体や、ガン細胞に特異的に取り込まれる標的物質を粒子表面にもつ金属含有ナノ粒子を用いれば、正常細胞とガン細胞が混在している組織に投与しても、この金属含有ナノ粒子はガン細胞の方に集まり、正常細胞の方には集まらないようにすることができる。ガン細胞の方に集まった金属含有ナノ粒子は、5−アミノレブリン酸類およびその塩の少なくとも一種との協同作用によって、ガン細胞を選択的に死滅させたりして、ガン細胞の増殖を抑制することができる。
【0028】
金属含有ナノ粒子は、上記の標的物質を介在物質を介在させて間接的に含むものであってもよい。この介在物質は、金属含有ナノ粒子と標的物質とを結びつけるリンカー様の物質であってもよいし、あるいは、金属含有ナノ粒子の表面に層状にコートされたコーティング物質であってもよい。このコーティング物質に上記の標的を含ませることができ、例えば、このコート物質の表面に結合または付着させたものが挙げられる。これらの介在物質として、標的物質が細胞に結合または取り込まれた後に分解あるいは洗い流されたりすることの可能なものを用いれば、標的物質によって細胞に一旦結合あるいは取り込ませた金属含有ナノ粒子を再び細胞から遊離させることができるようになり、金属含有ナノ粒子の運動の自由度を高めることができる。
【0029】
例えば、正常細胞とガン細胞が混在している組織に対して、先に、ガン細胞に特異的に結合できる抗体や、ガン細胞に特異的に取り込まれる標的物質を粒子表面にもつ金属含有ナノ粒子を投与し、金属含有ナノ粒子がガン細胞の方に集まったところを見計らって、5−ALA族分子を投与する。これにより、ガン細胞は5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の両方の存在下に置かれる。この状態を所定の時間保持することにより、ガン細胞を選択的に死滅させたりして、ガン細胞の増殖を抑制することができる。このとき、正常細胞の方には金属含有ナノ粒子が希薄なため、5−ALA族分子が侵入してきても細胞増殖の抑制作用を受けない。
【0030】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、5−ALA族分子の少なくとも一種を含むものであってもよい。特に、金属含有ナノ粒子の表面に5−ALA族分子が結合または付着しているものが好ましい。
金属含有ナノ粒子は、5−ALA族分子の少なくとも一種を、介在物質を介在させて間接的に含むものであってもよい。この介在物質は、金属含有ナノ粒子と5−ALA族分子とを結びつけるリンカー様の物質であってもよいし、あるいは、金属含有ナノ粒子の表面に層状にコートされたコーティング物質であってもよい。このコーティング物質に5−ALA族分子を含ませることができ、例えば、このコート物質の表面に結合または付着させたものが挙げられる。
【0031】
さらには、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、5−ALA族分子とともに、上記の標的物質を含むことがさらに好ましく、これら双方の物質を上述のように粒子表面に直接的または間接的に結合または付着させているものが望ましい。
【0032】
また、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質を含むナノ粒子(本体粒子)と、その本体粒子の内部および/または表面部に有する粒子(副粒子)と、からなるものであってもよい。この副粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質を含むものであってもよいし、あるいは金属および金属化合物から選ばれる物質を含まないものであってもよい。前者の副粒子は、金属および金属化合物の他に含む物質はいかなるものであってよく、後者の副粒子は、いかなる物質からなるものであってもよい。副粒子は、いかなる形状をもつものであってもよく、さらにはいかなる粒子サイズをもつものであってもよい。また、本体粒子の表面部に副粒子をもたせる場合、副粒子は本体粒子に結合および/または付着しているものであってもよい。
【0033】
{細胞}
本発明は、ヒトおよび動物のいかなる細胞にも適用できる。すでに上述したように、その細胞は、正常なものであっても、異常なものであってもよいが、特に悪性腫瘍のガン細胞であることが好ましい。
また、本発明の細胞増殖の抑制方法は、学術的な試験または研究に用いられる培養細胞にも適用することもできる。こうした培養細胞として、例えばHL−60やHL−525と言ったヒトの白血病のガン細胞や、MCF−7と言ったヒトの乳ガン細胞、1522と言ったヒトの正常繊維芽細胞が挙げられる。こうした培養細胞の増殖を抑えたり、あるいは廃棄処分するときなどに、本発明は有用である。
【0034】
{5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の投与方法}
5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子を細胞に投与する方法について説明する。増殖を抑制する細胞に対して5−ALA族分子を投与するとき、5−ALA族分子は化学的にいかなる状態にあってもよく、例えば、液、粘性物、固形物(粉末)が挙げられる。5−ALA族分子の投与は、いかなる方法によってもよく、例えば、5−ALA族分子を含む溶液を投与するときには、ピペッティング、注射、および塗布などによって投与することができる。また、5−ALA族分子を含む粘性物を投与するときには塗布によって投与することができる。
【0035】
一方、増殖を抑制する細胞に対して金属含有ナノ粒子を投与するとき、金属含有ナノ粒子についても化学的にいかなる状態にあってもよく、例えば、溶、粘性物、固形物(粉末)が挙げられる。この金属含有ナノ粒子の投与は、いかなる方法によってもよく、例えば、金属含有ナノ粒子を含む溶液を投与するときには、ピペッティング、注射、および塗布などによって投与することができる。また、金属含有ナノ粒子を含む粘性物を投与するときには塗布によって投与することができる。また、金属含有ナノ粒子は、投与されるときには、いかなる化学物質で安定化されていてもよい。例えば、金ナノ粒子が投与されるときには、金ナノ粒子は酢酸で安定化されていることが好ましい。
【0036】
5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子は、同時に投与してもよいし、別々に投与してもよい。また、5−ALA族分子を金属含有ナノ粒子より先に投与してもよいし、金属含有ナノ粒子を5−ALA族分子より先に投与してもよい。
本発明では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子が細胞に投与されるとき、その細胞はいかなる条件にあってもよい。例えば、細胞の温度は、いかなる温度であってもよく、pHの値もいかなる値であってもよい。また、細胞は、有酸素性および嫌気性の雰囲気のいずれの雰囲気の下にあってもよく、また二酸化炭素が豊富に含まれる雰囲気の下にあってもよい。さらには、細胞は、光の下にあってもよいし、暗所にあってもよい。
【0037】
{細胞の保持方法}
本発明の細胞増殖の抑制方法では、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子との存在下で細胞を保持するとき、いかなる条件で保持してもよい。
このとき、細胞の保持温度はいかなる温度でもよく、5−ALA族分子および/または金属含有ナノ粒子が存在しない条件で細胞がよく増殖できる温度で保持することができる。この保持温度は、細胞の種類に応じて適切に選択することができる。例えばヒトの細胞であれば、37℃およびその周辺の温度とすることができる。
【0038】
また、細胞の保持は、いかなるpHの値で行ってもよい。また、細胞の保持は、有酸素性および嫌気性の雰囲気のいずれの雰囲気の下で行ってもよく、また二酸化炭素が豊富に含まれる雰囲気の下で行ってもよい。さらには、細胞の保持は、光の下で行ってもよいし、暗所で行ってもよい。
細胞の保持時間は、いかなる時間で行ってもよく、5−ALA族分子および/または金属含有ナノ粒子が存在しない条件で細胞がよく増殖できる時間で保持することができる。この保持時間は、細胞の種類に応じて適切に選択することができる。
【0039】
{光力学療法または超音波力学療法との併用}
本発明の細胞増殖の抑制方法では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の存在下で細胞を保持している間においては、金属含有ナノ粒子の作用の有無に関係なく、投与した5−ALA族分子の一部が細胞内に取り込まれてPpIXが生合成されていると考えられる。従来技術の項でも述べたように、対象となる細胞がガン細胞であれば、こうして生合成されたPpIXは細胞内に蓄積されると考えられる。PpIXは、可視光または紫外線の照射によって光毒性をガン細胞に誘発する光増感剤でもあることが知られており、こうした効果が光力学療法で応用されていることはすでに述べた。
そこで、本発明では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の存在下でガン細胞を保持している間および/またはその後、可視光および/または紫外線を照射してもよい。この可視光および/または紫外線の照射によってガン細胞に光毒性を誘発させることができる。本手段によれば、本来、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の何らかの協同作用によって細胞に暗毒性が誘発されるが、これに可視光および/または紫外線の照射による光毒性が加わることによって、細胞の増殖がさらに抑制される。
【0040】
本手段で用いる可視光および紫外線の少なくとも一方は、いかなる波長をもつものであってよく、かつ、いかなる光強度(光量子数)をもつものであってよい。特に赤色光は、生体の皮下の光が届きにくい場所にも届きやすいことが知られている。そのため、上記可視光として赤色光を用いれば、生体の皮下の光が届きにくい患部にあるガン細胞の増殖を効果的に抑制することができる。また、PpIXは、630〜640nmの範囲の波長を有する赤色光を効率的に吸収できることが知られている。そこで、本手段で630〜640nmの範囲の波長を有する赤色光を用いれば、ガン細胞の増殖をより一層効果的に抑制することができる。
【0041】
さらに、PpIXは、超音波の照射によってある種の毒性をガン細胞に誘発する増感剤でもあることが知られており、こうした効果を超音波力学療法へ応用する試みがなされている(Rosenthal,I.et al.,2004)。そこで、本発明では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の存在下でガン細胞を保持している間および/またはその後、超音波を照射してもよい。本手段によれば、本来、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の何らかの協同作用によって細胞に暗毒性が誘発されるが、これに超音波によって誘発される毒性が加わることによって、細胞の増殖がさらに抑制される。本手段で用いる超音波は、いかなる周波数をもつものであってよく、かつ、いかなる超音波強度をもつものであってよい。
【0042】
{本発明の二つ目の細胞増殖の抑制方法}
本発明では、5−ALA族分子の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子との存在下で細胞を保持する。この細胞増殖の抑制方法は、5−ALA族分子の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子とを細胞に投与した後、これらの物質の存在下で所定の時間、細胞を保持することにより実施することができる。本発明で用いるナノ粒子は、特に5nmの粒子サイズを持つことが好ましい。
【0043】
下記の実施例でも述べるように、本発明において、5nmの粒子サイズを持つナノ粒子を用いれば、細胞増殖が極めて著しく抑制されることが見いだされた。また、17nmの粒子サイズを持つナノ粒子を用いた場合には、5nmの粒子サイズを持つナノ粒子には及ばずとも細胞増殖が著しく抑制されることも見いだされた。これらのことから、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子を用いれば、細胞増殖が著しく抑制されることは高い確率で予測することができる。
【0044】
本発明で用いるナノ粒子は、無機物および有機物を問わず、いかなる物質からなるものであってもよい。例えば、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で述べたものと同じ金属含有ナノ粒子を用いることができるが、特に金ナノ粒子を用いれば、ヒトや動物のガン治療に応用できる可能性がある。また、本発明で用いるナノ粒子は、ダイヤモンド、フラーレン(fullerene)、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)であってもよい。
本発明は、このような材質をもち、かつ10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子を用いる他は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法と同様にして実施することができる。
【0045】
{本発明の三つ目の細胞増殖の抑制方法}
本発明では、5−ALA族分子の少なくとも一種と、ナノ粒子との存在下で細胞を12時間以上保持する。この細胞増殖の抑制方法は、5−ALA族分子の少なくとも一種とナノ粒子とを細胞に投与した後、これらの物質の存在下で細胞を12時間以上保持することにより実施することができる。
【0046】
本発明で用いるナノ粒子は、無機物および有機物を問わず、いかなる物質からなるものであってもよい。例えば、本発明の一つ目あるいは二つ目の細胞増殖の抑制方法で述べたナノ粒子を用いることができるが、特に金が含まれるナノ粒子を用いれば、ヒトや動物のガン治療に応用できる可能性がある。
本発明は、このような材質を持つナノ粒子を用い、かつ細胞を12時間以上保持する他は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法と同様にして実施することができる。
【0047】
{本発明の一つ目の細胞増殖の抑制剤(請求項6)}
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)と、を含むものである。5−ALA族分子の少なくとも一種は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で用いるものと同じものとすることができる。また、金属含有ナノ粒子についても、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で用いる金属含有ナノ粒子と同じものとすることができる。
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子のみからなるものであってもよいし、あるいはこれらの物質の他に別の物質を含むものであってもよい。
【0048】
本発明の細胞増殖の抑制剤は、液、粘性物、および固形物のいずれであってもよい。液であれば、水性液および油性液のいずれであってもよい。この液においては、5−ALA族分子はいかなる濃度をもってもよいし、金属含有ナノ粒子もいかなる濃度をもってもよい。5−ALA−HClや5−ALA−Meを用いる場合、これらの塩は水溶性であるため、水溶液として調製することができる。一方、粘性物であれば、水性の粘性物であってもよいし、油性の粘性物であってもよい。また、その粘性物は、いかなる粘度を有するものであってよい。他方、固形物であれば、ブロック状あるいは粉末状のいずれにあってもよい。
【0049】
本発明の細胞増殖の抑制剤は、いかなる方法によって調製してもよい。例えば、本発明の細胞増殖の抑制剤を水性液として調製する方法としては、5−ALA族分子を含む水溶液と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含む水性液とを混合する調製方法が挙げられる。
本発明は、ヒトや動物のガンなどの治療を目的とした薬剤として用いることの可能性をもつ。この薬剤は、水薬、丸薬、錠剤、カプセル、および軟膏のいずれのタイプのものであってもよい。
【0050】
{本発明の二つ目の細胞増殖の抑制剤}
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子と、を含むものである。5−ALA族分子の少なくとも一種は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で用いるものと同じものとすることができる。一方、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子については、本発明の二つ目の細胞増殖の抑制方法で用いるナノ粒子と同じものとすることができる。
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子および10nm未満の粒径を持つナノ粒子のみからなるものであってもよいし、あるいはこれらの物質の他に別の物質を含むものであってもよい。
本発明は、このような材質をもち、かつ10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子を含む他は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制剤と同様にして実施することができる。
【実施例】
【0051】
本発明の実施の形態を実施例によってさらに詳細に説明する。
{実施例1−1}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト白血病ガン細胞由来の培養細胞(HL−60)を23時間保持した。
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。一方、金ナノ粒子は、完全に金よりなるものであり、球状である。ここでは、金ナノ粒子がクエン酸バッファで安定化されて親水性のコロイドとして分散した状態にある金クエン酸コロイド液(田中貴金属工業)を用いた。本実施例で用いた金クエン酸コロイド液は、表1に示したように、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径の金ナノ粒子を狭い粒度分布で含有する5種類である。各金クエン酸コロイド液のpH、および各金クエン酸コロイド液に含まれる金ナノ粒子の含有濃度を表1に併せて示した。
【0052】
【表1】
【0053】
HL−60細胞(American Type Culture Collection)は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で継体および培養した。ここで用いたHL−60細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、23±1時間(時間±SEM)毎に2倍に増えるものである。細胞を回収して10%のウシ胎仔血清を含む新鮮なRPMI 1640液体培地で再懸濁した。24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0054】
また、5mMの5−ALA−HClを含むが金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、別の2穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えて直ぐさま、一方には110μlのクエン酸バッファ(pH3.3)を加え、別の方には110μlの水を加えた。なお、990μlの細胞懸濁液に対して5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.0に変化した。また、この5−ALA−HClを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
一方、5−ALA−HClを含む細胞サンプルと同じpHをもつ比較用の細胞サンプルを調製するために、他の7穴の細胞懸濁液に対して、約1MのHCl水溶液を5.3μl加えた後に、すぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。ここで、990μlの細胞懸濁液に対して約1MのHCl水溶液を5.3μl加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.0に変化した。また、このHClを加えた細胞懸濁液に、金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
【0055】
他方、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、他の7穴の細胞懸濁液に対して、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。なお、5−ALA−HClもHClを含まない細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
なお、上記の細胞サンプルの細胞数の濃度は、いずれもおよそ5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。以下の実施例でも同じである。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製においては、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は2、3分程度であった。この薄暗い白色光の強度は、マルチプローブ(EG&G,model 550−2)を備えた光強度測定器(EG&G,model 550−1)で測定したところ、3.0±0.3×10−3μW/cm2であった。HClを含む細胞サンプル、および5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0056】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0057】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。なお、この細胞数計測装置では細胞の形を保っているものが計測されるため、生細胞だけでなく、細胞の形を保っている死細胞も計測される。図1Aに示したように、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルではどれも2倍の細胞濃度の増加が見られたが、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、いずれも細胞濃度の増加の割合が2倍より低いものであった。また、これらの細胞サンプルの間で細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、細胞濃度の増加の割合がより低くなることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルの細胞増加に対して、約15%少ない細胞濃度の増加を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、細胞濃度の増加を全く示さなかった。
【0058】
次に、5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルについて、生細胞の濃度をトリパンブルー染色法(trypan blue staining)によって測定した。図1Bに示されるように、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルでは死細胞は多く観察されなかったが、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは死細胞が顕著に観察された。一方、5−ALA−HClと82〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、死細胞はそれほど多く観察されなかった。また、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で生細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど生細胞濃度が低くなることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの生細胞濃度に対して約30%少ない生細胞濃度を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの生細胞濃度に対して約70%少ない生細胞濃度を示した。
【0059】
さらに、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の存在下で保持したことにより細胞に誘発される細胞毒性について、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)および蛍光マイクロプレートリーダー(HTS7000,Perkin Elmer)を用いて検出した。この細胞毒性検出試薬はCalcein−AMを含むもので、この試薬を用いたアッセイ(以下、CCK−Fアッセイと呼ぶことにする)は、Calcein−AMが生細胞と反応すると、485nmの波長の励起光に対して535nmの蛍光を発する蛍光物質に変化する性質を利用したものである。また、ここで用いた蛍光マイクロプレートリーダーは、485nmの波長の励起光を通すフィルターと535nmの発光を通すフィルターを併用して、96穴の細胞培養プレートに用意された細胞サンプルに対し、485nmの波長の励起光を照射して535nmの波長の発光を測定することのできる装置である。
【0060】
上記のCCK−Fアッセイは、細胞サンプルの培地をリン酸バッファ(Dulbecco’s Phosphate−Buffered Saline;DPBS)に置換してからその細胞サンプルを96穴の細胞培養プレートに移した後、取り扱い説明書に従って実施した。ここでは、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業は、遠心操作(1000rpm、5分)によって細胞を沈殿させてから上澄み液を除いてDPBSを加えるという操作を二度繰り返して実施した。また、このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において1〜2時間以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を上記の蛍光マイクロプレートリーダーを用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0061】
図1Cに示されるように、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して明らかに低いことがわかる。一方、5−ALA−HClと82〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度については、比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較してそれほど低くないことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。また、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で蛍光強度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、その蛍光強度が低くなることもわかる。これらの細胞サンプルの中で、特に5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの蛍光強度に対して約50%少ない蛍光強度を示し、最も低い値を示した。
【0062】
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を23時間保持することにより、その細胞の増殖が抑制されることがわかった。また、特に5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が最も抑制されることもわかった。
【0063】
{実施例1−2}
本実施例では、5−ALA−HClの濃度を2.5mM、5mM、および10mMとした他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの6穴に分注された細胞懸濁液に対して、2.75μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、粒径の異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。さらに、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、11μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、粒径の異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。残る6穴に分注された細胞懸濁液に対しては、5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えずに、粒径の異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0064】
これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを0mM、2.5mM、5mM、および10mMのそれぞれの濃度で含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
なお、990μlの細胞懸濁液に対して2.75μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.2に変化した。また、990μlの細胞懸濁液に対して11μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から6.6に変化した。また、これらの5−ALA−HClを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
上記の細胞サンプルのいずれについても、23時間の保持の前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において15分以内で行った。
【0065】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図2に示したように、5−ALA−HClの濃度を2.5mMまたは10mMとしたとき、5〜82nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、5−ALA−HClの濃度を5mMとした細胞サンプルと同様に、金ナノ粒子が存在しない比較用の細胞サンプルのものに比べて顕著に低く、細胞増殖が効果的に抑制されたことがわかった。また、5−ALA−HClの濃度を5mMとしたとき、金ナノ粒子を含む細胞サンプルの細胞濃度の増加が最も大きい度合いで低下することがわかった。この結果から、5−ALA−HClの濃度は2.5〜10mMの範囲が好ましく、特に5mMの濃度とすることにより、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
【0066】
{実施例1−3}
本実施例では、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子については1.4μMから22μMの範囲の様々な濃度とし、17nm、41nmまたは82nmの粒径をもつ金ナノ粒子については2.2μMから36μMの範囲の様々な濃度とした他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
まず、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)について、クエン酸バッファ(pH3.3)で金ナノ粒子の含有濃度をそれぞれ1/2、1/4、1/8、および1/16に希釈したものを用意した。次いで、全部で24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの20穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記4種類の金クエン酸コロイド液、並びにそれらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を1/2、1/4、1/8、および1/16に希釈)を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、別の2穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、pHの異なる二種類のクエン酸バッファ(pH3.1およびpH3.3)をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを5mMの濃度で含むものである。
【0067】
上記の細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルのいずれについても、23時間の保持の前の細胞数の濃度は、いずれもおおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製においては、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0068】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図3に示したように、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子については、1.4μMから22μMの範囲の濃度としたとき、金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルに対して細胞濃度の増加の割合が顕著に低くなり、金ナノ粒子の濃度が高くなるほど、細胞濃度の増加の割合がより低くなることがわかった。そして、22μMの濃度で細胞濃度の増加の割合が最も低くなり、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
一方、17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた場合、その金ナノ粒子の濃度が2.2μMから36μMの範囲では、金ナノ粒子を含まない比較用細胞サンプルに対して細胞濃度の増加の割合が顕著に低く、金ナノ粒子の濃度が高くなるほど、細胞濃度の増加の割合が低くなることがわかった。そして、36μMの濃度で細胞濃度の増加の割合が最も低くなり、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
他方、41nmおよび82nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた場合においても、その金ナノ粒子の濃度が2.2μMから36μMの範囲では、金ナノ粒子を含まない比較用細胞サンプルに対して細胞濃度の増加の割合が低くなり、金ナノ粒子の濃度が高くなるほど、細胞濃度の増加の割合が低くなった。そして、36μMの濃度で細胞濃度の増加の割合が最も低くなり、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
【0069】
{実施例1−4}
本実施例では、保持時間を0時間、4時間、8時間、12時間、18時間、および23時間から選択した他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを5mMの濃度で含むものである。また、残る1穴に分注された細胞懸濁液に対して110μlの水を加えた。この細胞サンプルの調製を6枚の細胞培養プレートで行った。
上記の細胞サンプルのいずれについても、保持する前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において、1枚の細胞培養プレートにつき10分以内で行った。
【0070】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ6枚の細胞培養プレートのうち5枚を、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、これらの細胞サンプルをこのインキュベータ内にそれぞれ4時間、8時間、12時間、18時間、および23時間置いた。こうして細胞サンプルの各時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。残り1枚の細胞培養プレートについては、インキュベータ内に移さずに、すぐさま細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。これを0時間の保持を行った細胞サンプルとした。なお、細胞回収の作業は、いずれの細胞培養プレートにおいても、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において、1枚の細胞培養プレートにつき20分以内で行った。
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図4Aに示したように、0時間、4時間、および8時間の保持を行った細胞サンプルにおいては、金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルに対して細胞濃度の大きな低下は見られなかったが、12時間、18時間、および23時間の保持を行った細胞サンプルにおいて、金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルに対して細胞濃度の顕著な低下が見られた。この結果から、5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持することによって細胞増殖を抑制するには、12時間以上の保持時間が好ましいことがわかる。
【0071】
この実験とは別に、保持時間を4時間とした他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を4時間保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの15穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれ3穴の細胞懸濁液に110μlずつ加えた。別の4穴の細胞懸濁液に対して、pHの異なる3種類のクエン酸バッファ(pH3.1、3.3、あるいは6.5)および水をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを5mMの濃度で含むものである。また、別の1穴に分注された細胞懸濁液に対しては、110μlの水を加えた。
【0072】
上記の細胞サンプルのいずれについても、保持する前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、4時間置いた。こうして細胞サンプルのインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、細胞回収の作業は、いずれの細胞培養プレートにおいても、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0073】
こうして回収された細胞サンプルについて、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)および蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いてCCK−Fアッセイを行った。このCCK−Fアッセイは、細胞サンプルの培地をDPBSに置換してからその細胞サンプルを96穴の細胞培養プレートに移した後、取り扱い説明書に従って実施した。ここでは、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業は、遠心操作(1000rpm、5分)によって細胞を沈殿させてから上澄み液を除いてDPBSを加えるという操作を二度繰り返して実施した。また、このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において1〜2時間以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を上記の蛍光マイクロプレートリーダーを用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0074】
図4Bに示されるように、5−ALA−HClと17〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、金ナノ粒子を用いなかった比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度とほとんど同じであることがわかった。一方、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度については、比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して明らかに低いことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと17〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持する場合、4時間の保持時間では細胞増殖の抑制は十分になされないことを示している。一方、5−ALA−HClと粒径が5nmの金ナノ粒子との存在下で細胞を保持する場合には、4時間の保持時間でも細胞増殖の抑制がなされることを示している。
【0075】
{実施例1−5}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の各金ナノ粒子とを混ぜ合わせてから細胞に投与した他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の存在下でHL−60細胞を保持した。
1M 5−ALA−HCl水溶液と、金ナノ粒子の粒径が異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の金クエン酸コロイド液(表1)の各液とを1:20の体積比の割合で混合し、室温で1時間放置した。この金クエン酸コロイド液と5−ALA−HCl水溶液との混合液は、5−ALA−HClと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、1M 5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH3.3)を1:20の体積比の割合で混合し、室温で1時間放置した。また、1M 5−ALA−HCl水溶液と水を1:20の体積比の割合で混合し、室温で1時間放置した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴の細胞懸濁液に対して、上記3種類の5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液、5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファとの混合液、および5−ALA−HCl水溶液と水との混合液を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0076】
一方、別の5穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記3種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
上記の細胞サンプルのいずれについても、保持する前の細胞数の濃度は、およそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルのインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、細胞回収の作業は、いずれの細胞培養プレートにおいても、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0077】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図5に示したように、5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH3.3)または水とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルにおいては、それらを混合せずに加えた細胞サンプルと同様に2倍の細胞濃度の増加が見られた。
一方、粒径が5nmの金ナノ粒子を用いた場合、5−ALA−HCl水溶液とその金クエン酸コロイド液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルにおいては、細胞濃度の増加はほとんど見られなかった。また、その細胞濃度の増加の割合は、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合せずに加えた細胞サンプルのものより若干高いものであった。また、これらの細胞サンプルについてトリパンブルー染色法によって得られた生細胞濃度をそれぞれ比較したところ、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して加えた細胞サンプルの方が、それらをを混合せずに加えた細胞サンプルよりも生細胞濃度が高いことがわかった。
【0078】
また、粒径が17nmの金ナノ粒子を用いた場合、5−ALA−HCl水溶液とその金クエン酸コロイド液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルについても、その細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものより高いものであった。また、これらの細胞サンプルについてトリパンブルー染色法によって得られた生細胞濃度をそれぞれ比較したところ、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して加えた細胞サンプルの方が、それらを混合せずに加えた細胞サンプルよりも生細胞濃度が高いことがわかった。
さらに、粒径が41nmの金ナノ粒子を用いた場合、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルについても、その細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものより高いものであった。また、これらの細胞サンプルについてトリパンブルー染色法によって得られた生細胞濃度をそれぞれ比較したところ、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液を混合して加えた細胞サンプルの方が、それらを混合せずに加えた細胞サンプルよりも生細胞濃度が高いことがわかった。
【0079】
これらの結果は、細胞懸濁液に5−ALA−HCl水溶液を加えてから金クエン酸コロイド液を加えた方が、それらを混合して加えるよりも細胞を殺す効果が高いことを示している。しかしながら、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して加える方法でも、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を用いたときには、細胞増殖が十分に抑制されることがわかった。
【0080】
{実施例2−1}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を24時間保持した。
粉末状の5−ALA−Me(Methyl δ−aminolevulinate hydrochloride,Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−Meの水溶液を調製した。24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5mMの5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0081】
また、5mMの5−ALA−Meを含むが金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、別の2穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えて直ぐさま、一方には110μlのクエン酸バッファ(pH3.3)を加え、別の方には110μlの水を加えた。なお、990μlの細胞懸濁液に対して5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.0に変化した。また、この5−ALA−HClを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
一方、5−ALA−HClを含む比較用細胞サンプルを調製するために、他の8穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記6種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0082】
なお、上記の細胞サンプルの細胞数の濃度は、いずれもおおよそ5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。ここで、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−Meおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は2、3分程度であった。5−ALA−HClを含む比較用細胞の調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0083】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図6に示したように、5−ALA−Meと、クエン酸バッファ(pH3.3)または水とを加えた細胞サンプルでは1.6倍の細胞濃度の増加が見られた。これらの細胞サンプルに対し、5−ALA−Meと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、いずれも1.6倍より低い細胞濃度の増加が見られた。これらのことから、5−ALA−Meと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持することにより、5−ALA−Meが存在しても金ナノ粒子が不在下で保持した細胞サンプルに対して、細胞増殖がさらに抑制されることがわかった。また、これらの細胞サンプルの間で細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、細胞増殖がより一層抑制されることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、細胞濃度の増加を全く示さなかった。
【0084】
{実施例2−2}
本実施例では、5−ALA−Meの濃度を2.5mM、3.75mM、および5mMとした他は、実施例2−1と同様にして、5−ALA−Meと、粒径の異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの6穴に分注された細胞懸濁液に対して、2.75μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、4.1μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。さらに、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。残る6穴に分注された細胞懸濁液に対しては、5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えずに、上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0085】
これらの細胞サンプルは、5−ALA−Meを0mM、2.5mM、3.75mM、および5.5mMのそれぞれの濃度で含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
なお、990μlの細胞懸濁液に対して2.75μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.9から7.8に変化した。また、990μlの細胞懸濁液に対して4.1μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.9から7.7に変化した。また、これらの5−ALA−Meを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
上記の細胞サンプルのいずれについても、24時間の保持の前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−Meを含む細胞サンプルおよびその比較用細胞サンプルの調製においては、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において15分以内で行った。
【0086】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図7に示したように、5−ALA−Meを2.5mMまたは3.75mMの濃度で含む細胞サンプルにおいて、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子を含むものでは、5−ALA−Meを5mMの濃度で含む細胞サンプルと同様に、金ナノ粒子を用いなかった比較用の細胞サンプルに対して、細胞濃度の増加の割合が低くなり、細胞増殖が効果的に抑制されたことがわかった。また、5−ALA−Meの濃度を5mMとしたとき、金ナノ粒子を含む細胞サンプルの細胞濃度の増加が最も大きい度合いで低下することがわかった。
これらの結果から、5−ALA−Meの濃度は2.5〜5mMの範囲が好ましく、特に5mMの濃度とすることにより、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
【0087】
{実施例2−3}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径の異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の各金ナノ粒子とを混ぜ合わせてから細胞に投与した他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−Meおよび金ナノ粒子の存在下でHL−60細胞を保持した。
1M 5−ALA−Me水溶液と、金ナノ粒子の粒径が異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の金クエン酸コロイド液(表1)の各液を1:20の割合で混合し、室温で1時間、2時間、または3時間放置したものを用意した。この5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液の混合液は、5−ALA−Meと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、1M 5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混合し、室温で1時間、2時間、または3時間放置したものを用意した。さらに、1M 5−ALA−HCl水溶液と上記3種類の金クエン酸コロイド液の各液を1:20の割合で混合し、室温で1時間、2時間、または3時間放置したものを用意した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴の細胞懸濁液に対して、上記の5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液、5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファとの混合液、および5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0088】
一方、1M5−ALA−Me水溶液と上記3種類の金クエン酸コロイド液の各液を1:20の割合で混ぜ合わせてから直ぐさま、この混合液を別の3穴の細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、1M 5−ALA−Me水溶液と、クエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混ぜ合わせてから直ぐさま、この混合液を別の1穴の細胞懸濁液に110μl加えた。さらに、1M 5−ALA−HCl水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを1:20の割合で混ぜ合わせてから直ぐさま、この混合液を別の1穴の細胞懸濁液に110μl加えた。
他方、別の5穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記3種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH6.5)を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。さらに、別の1穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えて直ぐさま、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を110μl加えた。
【0089】
上記の細胞サンプルのいずれについても、23時間の保持の前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液を細胞懸濁液に加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0090】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図8に示したように、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−Me水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものに比べてわずかに大きくなることがわかった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。また、粒径が41nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−Me水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものと比べて大きな違いはなかった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。
【0091】
しかしながら、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を細胞懸濁液に加えた細胞サンプルについては、1時間以上放置することにより、細胞懸濁液に5−ALA−Me水溶液を加えてから粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を加えた細胞サンプルのものよりも細胞濃度の増加の割合が著しく低くなることがわかった。
これに対し、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−HCl水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものに比べて大きいものであった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。
【0092】
また、クエン酸バッファ(pH6.5)と5−ALA−Me水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものと比べて大きな違いはなかった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。
これらの結果から、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを混合し、その後1時間以上置いたものを細胞懸濁液に加えることにより、細胞増殖をさらに抑制できることがわかった。
【0093】
{実施例3}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト白血病ガン細胞由来の培養細胞(HL−525)を22時間保持した。
HL−525細胞(American Type Culture Collection)は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。ここで用いたHL−525細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、22±1時間(時間±SEM)毎に2倍に増えるものである。回収された細胞は、10%のウシ胎仔血清を含む新鮮なRPMI 1640液体培地で再懸濁された。
【0094】
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に960μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴に分注された細胞懸濁液に対して、6μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの細胞懸濁液に240μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
また、5mMの5−ALA−HClを含むが金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、別の2穴の細胞懸濁液に対して、6μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えて直ぐさま、一方には240μlのクエン酸バッファ(pH3.3)を加え、別の方には240μlの水を加えた。
【0095】
なお、上記の細胞サンプルの細胞数の濃度は、いずれも約5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。ここで、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は2、3分程度であった。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、22時間置いた。こうして細胞サンプルの22時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0096】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図9に示したように、5−ALA−HClと、クエン酸バッファ(pH3.3)または水とを加えた細胞サンプルでは1.8倍の細胞濃度の増加が見られた。これらの細胞サンプルに対し、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、いずれも1.8倍より低い細胞濃度の増加が見られた。これらのことから、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持することにより、5−ALA−HClが存在しても金ナノ粒子が不在下で保持した細胞サンプルに対して、細胞増殖がさらに抑制されることがわかった。また、これらの細胞サンプルの間で細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、細胞濃度の増加の割合がより低くなることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、金ナノ粒子を用いなかった細胞サンプルの細胞濃度の増加に対して約30%少ない細胞濃度の増加を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、金ナノ粒子を用いなかった細胞サンプルの細胞濃度の増加に対して約50%少ない細胞濃度の増加を示した。
【0097】
{実施例4−1}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト乳ガン細胞由来の培養細胞(MCF−7)を19時間保持した。
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられた液体培地は、5−ALA−HClと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0098】
上記の5mMの5−ALA−HClを含む液体培地と同じpHをもつ液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに約1MのHCl水溶液を5.3μlずつ加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.3μlの約1M HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。
5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まず金ナノ粒子を含む液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。
【0099】
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。ここで用いたMCF−7細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、18〜20時間毎に2倍に増えるものである。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞を、フェノールレッドが含まれないRPMI 1640液体培地に再懸濁し、約4×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0100】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−HClを含む液体培地、上記のHClを含む液体培地、並びに、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない液体培地を100μlずつ加えた。
ここで、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。HClを含む細胞サンプル、並びに5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0101】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、19時間置いた。こうして細胞サンプルの19時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0102】
図10に示されるように、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して顕著に低いことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。また、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で蛍光強度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、その蛍光強度が低くなることもわかる。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの蛍光強度に対して約80%少ない蛍光強度を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、ほとんど蛍光を発しなかった。このことは、細胞がほぼ全て死んでいること示している。
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を23時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。また、特に5nmまたは17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が極めて効果的に抑制されることもわかった。
【0103】
{実施例4−2}
本実施例では、保持時間を0時間、6時間、12時間、および18時間から選択した他は、実施例4−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持した。
10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を4本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、pHの値が異なる3種類のクエン酸バッファ(pH3.1、3.3、および6.5)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0104】
さらに、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まず、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を1本のチューブに990μl用意し、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を110μl加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を1本のチューブに990μl用意し、水を110μl加えた。
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞を、フェノールレッドが含まれないRPMI 1640液体培地に再懸濁し、約4×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。4枚の96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、各細胞培養プレートの各穴に細胞懸濁液を100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0105】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−HClを含む液体培地、5−ALA−HClを含まない液体培地を100μlずつ加えた。ここで、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0106】
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートのうちの3枚を、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、それぞれ6時間、12時間、および18時間置いた。1枚の細胞培養プレートについては、インキュベータ内に移さずに、すぐさま下記のCCK−Fアッセイを行った。これを0時間のインキュベーションを行った細胞サンプルとした。こうして細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルのインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0107】
図11Aに示されるように、0時間の保持ではいずれの細胞サンプルもほぼ同じ蛍光強度を示したが、図11Bに示されるように、6時間の保持時間では、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルが、他の細胞サンプルに対して低い蛍光強度を示した。また、図11Cに示されるように、12時間の保持時間では、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルが、他の細胞サンプルに対してさらに低い蛍光強度を示したとともに、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルも、他の細胞サンプルに対して低い蛍光強度を示した。また、図11Dに示されるように、18時間の保持時間では、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルが、ほとんど蛍光を示さなくなったとともに、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルも、他の細胞サンプルに対して極めて低い蛍光強度を示した。
【0108】
これらの結果より、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持する場合には、4時間以上の保持時間で細胞増殖の抑制が得られ、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持する場合には、12時間以上の保持時間で細胞増殖の抑制が得られることがわかった。
【0109】
{実施例4−3}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を26時間保持した。
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞をRPMI 1640液体培地に再懸濁し、104個/mlのオーダーの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。12穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3512)を用意し、各穴に細胞懸濁液を2mlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に25時間置いた。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いて直ぐさま、2mlの10%のウシ胎仔血清を含む新鮮なRPMI 1640液体培地を加えた。それぞれの細胞サンプルに11μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの培養液に220μlずつ加えた。これらの培養液は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0110】
ここで、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、26時間置いた。こうして細胞サンプルの26時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出して、各細胞サンプルの細胞の形態的観察を、デジタルカメラ(Nikon Coolpix 4500)を備えた実体顕微鏡(Nicon Eclipse TS100)を用いて行った。
【0111】
図12に示されるように、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルの細胞は、いずれも正常な形状を有するものであった。しかしながら、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルにおいては、全ての細胞が球状に収縮して、異常な形状を有するものであった。また、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルにおいても、ほとんどの細胞が球状に収縮した異常な形状を有するものであった。さらに、5−ALA−HClと41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルも、多くの細胞が球状に収縮した異常な形状を有するものであった。この結果も、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。なお、5−ALA−HClと、82nmおよび103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルにおいては、球状に収縮した異常な形状を有する細胞は見られなかった。
【0112】
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を26時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることが形態的観察からもわかった。また、特に5nmまたは17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が極めて効果的に抑制されることもわかった。
【0113】
{実施例4−4}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径の異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下で乳ガン細胞由来の培養細胞(MCF−7)を19時間保持した。
粉末状の5−ALA−Me(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの5−ALA−Meの水溶液を調製した。10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を4本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられた液体培地は、5−ALA−Meと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M5−ALA−Me水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0114】
比較として、5mMの5−ALA−HClを含む液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を4本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに1Mの5−ALA−HCl水溶液を5.5μlずつ加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの約1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。
【0115】
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。ここで用いたMCF−7細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、18〜20時間毎に二倍に増えるものである。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞を、フェノールレッドが含まれないRPMI 1640液体培地に再懸濁し、約4×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内で24時間放置した。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−Meを含む液体培地、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を100μlずつ加えた。
ここで、上記の5−ALA−Meを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0116】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、19時間置いた。こうして細胞サンプルの19時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0117】
図13に示されるように、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下で保持した各細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、または5−ALA−Meおよび水を加えた液体培地を用いた比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して顕著に低いことがわかる。この結果は、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。また、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で蛍光強度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、その蛍光強度が低くなることもわかる。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用細胞サンプルの蛍光強度に対して約80%少ない蛍光強度を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、ほとんど蛍光を発しなかった。このことは、細胞がほぼ全て死んでいること示している。
【0118】
以上の結果から、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を19時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。このとき特に5nmまたは17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が極めて効果的に抑制されることもわかった。
【0119】
{実施例5−1}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト繊維芽正常細胞(1522)を24時間保持した。
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich社)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。また、非加熱のウシ胎仔血清を20%含むF12液体培地を用意した。なお、以下で単に「F12液体培地」と書いたものは非加熱のウシ胎仔血清を20%含むものである。このF12液体培地を5本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。これらの5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられたF12液体培地は、5−ALA−HClと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に120μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0120】
上記の5mMの5−ALA−HClを含むF12液体培地と同じpHをもつF12液体培地を調製するため、F12液体培地を5本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに約1MのHCl水溶液を約3μlずつ加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。また、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに約3μlの約1MHCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に120μlずつ加えた。
5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まず金ナノ粒子を含むF12液体培地を調製するため、F12液体培地を5本のチューブに480μlずつ取り、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。また、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。
【0121】
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、上述のようにしてあらかじめ用意しておいた5−ALA−HClを含むF12液体培地、HClを含むF12液体培地、並びに、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まないF12液体培地を各穴に100μlずつ加えた。
【0122】
ここで、上記の5−ALA−HClを含むF12液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。HClを含む細胞サンプル、並びに5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0123】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0124】
図14に示されるように、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して約40%減の蛍光強度を示した。5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して約20%少ない蛍光強度を示した。一方、5−ALA−HClと41〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度については、比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較してそれほど低くないことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと5〜17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。
【0125】
{実施例5−2}
本実施例では、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子の濃度については22μM、33μM、または44μMとし、5−ALA−HClの濃度については2.5mM、5mM、または10mMとした他は、実施例5−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径が5nmの金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持した。
まず、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液(表1)について、クエン酸バッファ(pH3.3)で金ナノ粒子の含有濃度をそれぞれ3/4、および1/2に希釈したものを用意した。次いで、F12液体培地を16本のチューブに480μlずつ取り、そのうちの4本のチューブのF12液体培地に1.5μlの1M5−ALA−HCl水溶液を加え、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。
【0126】
別の4本のチューブのF12液体培地には3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。さらに別の4本のチューブのF12液体培地には6μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれの液体培地に120μlずつ加えた。
残りの4本のチューブのF12液体培地には5−ALA−HCl水溶液を加えずに、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。こうして、金ナノ粒子については0μM、22μM、33μM、および44μMの濃度と、5−ALA−HClについては0mM、2.5mM、5mM、および10mMの濃度との組み合わせの16種類のF12液体培地を調製した。
【0127】
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して、約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれたインキュベータ内に24時間置いた。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の16種類の液体培地を100μlずつ加えた。ここで、液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において30分以内で行った。
【0128】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間の保持が終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0129】
図15に示したように、5−ALA−HClが加えられていない液体培地を用いた場合、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子が44μM以下の濃度で加えられた細胞サンプルの間では、蛍光強度に大きな差は見られなかった。一方、5−ALA−HClの濃度が2.5mMの場合は、金ナノ粒子が加えられていない細胞サンプルにおいて、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子が加えられていない液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度に対し、10%近くの蛍光強度の低下が見られ、5−ALA−HClのみでわずかな細胞毒性が見られた。この細胞サンプルに対して、さらに金ナノ粒子を44μM以下の濃度で加えた細胞サンプルの間では、蛍光強度に大きな差は見られなかった。
5−ALA−HClの濃度が5mMの場合は、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子が加えられていない細胞サンプルにおいて、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子が加えられていない液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度に対し、20%近くの蛍光強度の低下が見られ、5−ALA−HClのみで幾分かの細胞毒性が見られた。この細胞サンプルに対して、さらに金ナノ粒子を44μMの濃度で加えた細胞サンプルでは、50%近くの蛍光強度の低下が見られた。この結果より、5−ALA−HClの濃度が5mMの場合は、金ナノ粒子を44μMの濃度で加えることにより、暗毒性が顕著に相乗されることがわかった。
【0130】
また、5−ALA−HClの濃度が10mMの場合は、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子が加えられていない細胞サンプルにおいて、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子が加えられていない液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度に対し、50%近い蛍光強度の低下が見られ、5−ALA−HClのみでかなりの細胞毒性が見られた。この細胞サンプルに対して、さらに金ナノ粒子を33μMの濃度で加えた細胞サンプルでは50%近くの蛍光強度の低下が見られ、また金ナノ粒子を44μMの濃度で加えた細胞サンプルでは75%近くの蛍光強度の低下が見られた。この結果より、5−ALA−HClの濃度が10mMの場合は、金ナノ粒子を33μMまたは44μMの濃度で加えることにより、暗毒性が顕著に相乗されることがわかった。
【0131】
{実施例5−3}
本実施例では、5−ALA−Meと5nmまたは17nmの粒径の金ナノ粒子との存在下でヒト繊維芽正常細胞(1522)を24時間保持した。
粉末状の5−ALA−Me(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−Meの水溶液を調製した。F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加え、5nmまたは17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。これらの5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられたF12液体培地は、5−ALA−Meと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、F12液体培地を1本のチューブに480μl取り、3μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加え、120μlのクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0132】
一方、5mMの5−ALA−HClを含む比較用F12液体培地を調製するため、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、5nmまたは17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。また、F12液体培地を1本のチューブに480μl取り、3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、120μlのクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して、約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0133】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−Meを含む液体培地、または上記の5−ALA−HClを含む液体培地を100μlずつ加えた。
ここで、上記の5−ALA−Meを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−Meおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0134】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間の保持が終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0135】
図16に示されるように、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度と大きく変わらないものでった。
5−ALA−Meと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して85%近くの蛍光強度の低下を示した。また、その蛍光強度は、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度とほぼ同じであった。この結果は、5−ALA−Meと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。
【0136】
一方、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度とほぼ同じ蛍光強度を示した。また、その蛍光強度は、5−ALA−HClおよび17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度の2倍である。
以上の結果から、5−ALA−Meと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。
【0137】
{実施例5−4}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子とを混ぜ合わせて細胞に投与した他は、実施例5−2と同様にして、5−ALA−Meおよび金ナノ粒子の存在下で1522細胞を保持した。また、5−ALA−HClと、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子とを混ぜ合わせて細胞に投与した他は、実施例5−2と同様にして、5−ALA−Meおよび金ナノ粒子の存在下で1522細胞を保持した。
1M 5−ALA−Me水溶液と、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液(表1)を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。また、1M 5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。
【0138】
また、1M 5−ALA−HCl水溶液と、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。また、1M 5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して、約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0139】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上述のようにして用意した5−ALA−Meを含むF12液体培地、および5−ALA−HClを含むF12液体培地を100μlずつ加えた。ここで、上記の5−ALA−Meを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−Meおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0140】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずり加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0141】
図16に示したように、5−ALA−Me水溶液と、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに液体培地に加えた場合のものに比べてわずかに大きくなることがわかった。また、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−HCl水溶液とを混合して液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに液体培地に加えた場合のものと比べて大きな違いはなかった。
【0142】
しかしながら、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに液体培地に加えた場合のものより著しく低くなることがわかった。これに対し、5−ALA−HCl水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものに比べてわずかに大きいものであった。また、5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに加えた場合のものと比べて大きな違いはなかった。
これらの結果から、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを混合して4時間置き、この混合液を加えた液体培地を用いて、5−ALA−Meと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持することによっても、細胞増殖を抑制できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を23時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、細胞懸濁液にHClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。さらには、細胞懸濁液に5−ALA−HClおよびHClのいずれも加えないで、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。(A)は、細胞数計測装置を用いて得られた各細胞サンプルの細胞濃度を示す。(B)は、トリパンブルー染色法によって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の生細胞濃度を示す。(C)は、CCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=5)の平均の蛍光強度を示す。
【0144】
【図2】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−HClの濃度を10mM以下の様々な値に設定したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを様々な濃度で加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。
【0145】
【図3】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、金ナノ粒子の濃度を40μMより低い様々な値に設定したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金ナノ粒子を様々な濃度で含む金クエン酸コロイド液、またはクエン酸バッファ(pH3.3)を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。
【0146】
【図4】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、保持時間を23時間以内の様々な値に設定したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金ナノ粒子を様々な濃度で含む金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)または水を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。(A)は、細胞の保持時間を0時間、4時間、8時間、12時間、18時間、または23時間としたときの細胞濃度の時間変化を示す。(B)は、細胞の保持時間を4時間としたときに、CCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=3)の平均の蛍光強度を示す。
【0147】
【図5】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−HClと金ナノ粒子とを混合して1時間おいてから細胞に投与したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、および41nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液、5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH3.3)との混合液、または5−ALA−HCl水溶液を水で希釈した希釈液を、それぞれ細胞懸濁液に加えて調製したものである。比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。このグラフに示したいずれの細胞サンプルも、5mMの濃度で5−ALA−HClを含み、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。棒グラフは、細胞数計測装置を用いて得られた各細胞サンプルの細胞濃度を示す。折れ線グラフは、トリパンブルー染色法によって得られた各細胞サンプルの生細胞濃度を示す。
【0148】
【図6】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−Meを含む細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0149】
【図7】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−Meの濃度を5mM以下の様々な値に設定したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−Meを様々な濃度で加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で24時間行った。
【0150】
【図8】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−Meと金ナノ粒子とを混合して3時間以内の様々な時間おいてから細胞に投与したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、および41nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプル(n=2)は、5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して0〜3時間おいた混合液、5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)とを混合して0〜3時間おいた混合液、または5−ALA−Me水溶液を水で希釈して0〜3時間おいた希釈液を、それぞれ細胞懸濁液に加えて調製したものである。比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH6.5)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。さらには5−ALA−HCl水溶液と17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを混合して0〜3時間置いた混合液を細胞懸濁液に加えて調製した細胞サンプルと、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。このグラフに示したいずれの細胞サンプルも、5mMの濃度で5−ALA−Meまたは5−ALA−HClを含み、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、および41nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。なお、このグラフでは、細胞懸濁液に5−ALA−Meおよび5−ALA−HClのいずれも加えないでクエン酸バッファ(pH6.5)を加えて調製した細胞サンプルで測定された細胞濃度を1とし(図示せず)、他の全ての細胞サンプルで得られた細胞濃度はそれに対する比の値をとって、その平均値を示した。
【0151】
【図9】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−525細胞を22時間保持したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えないで、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0152】
【図10】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を24時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。さらには、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水のみを加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。なお、このグラフでは、水のみを加えた液体培地を細胞に投与した細胞サンプルで測定された蛍光強度を1とし、他の全ての細胞サンプルで得られた蛍光強度は、それに対する比の値を示した。
【0153】
【図11】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持するときに、保持時間を18時間以内の様々な値に設定したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、51mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。さらには、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液または水のみを加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。(A)は、保持時間を0時間としたときの蛍光強度を示す。(B)は、保持時間を6時間としたときの蛍光強度を示す。(C)は、保持時間を12時間としたときの蛍光強度を示す。(D)は、保持時間を18時間としたときの蛍光強度を示す。
【0154】
【図12】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持したときの細胞の形態的な変化を示す写真である。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、細胞培養液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を細胞培養液に加えて調製した細胞サンプルと、何も細胞培養液に加えなかった細胞サンプルについても、細胞の形態的な観察を行った。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0155】
【図13】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を24時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−Meを含む細胞サンプルは、5−ALA−Meおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH3.1または6.5)を加えた液体培地、5−ALA−Meおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、5mMの濃度で5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3または6.5)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0156】
【図14】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=6)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。さらには、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水のみを加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0157】
【図15】 5−ALA−HClと粒径が5nmの金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持するときに、金ナノ粒子については0μM、22μM、33μM、および44μMの濃度から選択し、5−ALA−HClについては0mM、2.5mM、5mM、および10mMの濃度から選択して1522細胞を保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nmの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で24時間行った。
【0158】
【図16】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nmおよび17nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−Meを含む細胞サンプルは、5−ALA−Meを加えてから金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、および5−ALA−Meを加えてからクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものと、5−ALA−Meおよび金クエン酸コロイド液を混合して4時間おいてから加えた液体培地、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を混合して4時間おいてから加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものとを調製した。一方、比較のための5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClを加えてから金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、および5−ALA−HClを加えてからクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものと、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を混合して4時間おいてから加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を混合して4時間おいてから加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものとをそれぞれ調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子とを用いて、ヒトや動物の細胞の増殖を抑制する方法およびその薬剤に関する。
【背景技術】
5−アミノレブリン酸(5−Aminolevulinic acid;5−ALA)は、ヒトや動物の細胞において、ビタミンB12やヘム、クロロフィルの前駆物質であるプロトポルフィリン(Protoporphyrin IX;PpIX)を生合成するための生体物質である。こうした5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質として、5−アミノレブリン酸塩酸塩(5−Aminolevulinic acid hydrochloride)や5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩(5−Aminolevulinic acid methyl ester hydrochloride)などが広く知られている。5−アミノレブリン酸は「5−ALA」と表記されることが多いので、以下の説明では、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子について、それらの分子を特に種類を区別しないで呼ぶときには「5−ALA族分子」と表記することにする。また、5−アミノレブリン酸塩酸塩および5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩は、それぞれ「5−ALA−HCl」および「5−ALA−Me」と表記する。
一方、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子についても、特に種類を区別しないで呼ぶときには「金属含有ナノ粒子」と呼ぶことにする。また、金属のみからなるナノ粒子については「金属」ナノ粒子(「金属」に金属名を当てる)と呼び、金属化合物のみからなるナノ粒子については「金属化合物」ナノ粒子(「金属化合物」に金属化合物の名を当てる)と呼ぶことにする。例えば金よりなる場合、金ナノ粒子と呼ぶことにする。
【0002】
さて、5−ALA族分子を細胞に投与することで、その細胞がそれらの物質を細胞内に取り込んでPpIXを生合成することが知られ、特にガン細胞においては、こうして生合成されたPpIXが細胞内に多量に蓄積されることが広く知られている(文献例:Gaullier J.M.et al.,1997およびCasas A.et al.,1999など)。PpIXは光増感剤として働き、光強度の高い光の照射によって細胞毒性(光毒性)を生み出す現象が知られている。この現象をガンの治療に応用したものが光力学治療法で、例えば皮膚がんの治療に適用されている(文献例:Dougherty,T.J.et al.,1998、Donnelly,R.F.et al.2005、およびFotinos,N.et al.,2006など)。
近年、卵レシチンからなるナノ粒子と5−ALA−HClが含まれる薬剤を使った光力学療法が報告されている(Hurlimann et al.,1998、および米国特許6,559,183号)。卵レシチンは脂質の一種であり、oil−in−water emulsions(水中油性エマルジョン)の形態でナノ粒子が形成されている。この光力学療法では、卵レシチンからなるナノ粒子と5−ALA−HClが含まれる薬剤を腫瘍に投与し、その薬剤の投与部位に200mW/cm2の光強度をもつ白色光を照射することで光細胞毒性の有為な効果が得られたとされている。また、Hurlimannらは、卵レシチンからなるナノ粒子と5−ALA−HClが含まれる薬剤を腫瘍に投与してから6時間後に、その腫瘍部位から強い蛍光が観測されたことを報告している。しかしながら、光照射なしで細胞増殖が抑制されることは報告していない。また、実際に使用された薬剤は10〜200ナノメートル(nm)の様々な粒子サイズをもつナノ粒子を含んでいるものとされており、どの粒子サイズのナノ粒子が細胞増殖の抑制に効果的であるか開示していない上に、10nm未満の粒子サイズをもつナノ粒子の効用についても報告していない。
【0003】
一方、ヒト乳がん細胞由来の培養細胞(MCF−7)を使って、水中油性エマルジョンと5−ALA−HClの存在下で1〜4時間細胞が保温されたときの細胞内で生合成されるPpIXの量に関する研究報告もある(Nielsen et al.,2004)。Nielsenらは、この研究で、細胞に取り込まれた5−ALA−HClから生合成されるPpIXの生合成量が促進されたことを報告しているが、細胞増殖が抑制されるかどうかについては報告していない。
他方、Zeisser−Labouebuらは、金ナノ粒子および酸化鉄ナノ粒子は生体に細胞毒性をもたらさないことの報告例を挙げながら、金属製のナノ粒子を使った光力学療法について議論している(Zeisser−Labouebu,M.et al.,2006)。この文献で紹介されている報告例は次のものである。フタロシアニン(phthalocyanine)に誘導体する分子で被覆された金ナノ粒子を用意し、その金ナノ粒子を投与して光力学療法を行ったときには、光細胞毒性に大きく関わっているとされる一重項酸素が高い量子収率で生成されうることが報告されている(Wieder,M.E.et al.,2006)。また、ポルフィリン(porphyrin)に属する分子で被覆された酸化鉄のナノ粒子を用意し、そのナノ粒子の存在下でHeLa細胞を5時間保温したときには、HeLa細胞は、暗所で生ずる細胞毒性(dark toxity;以下、暗毒性と称する)を示さなかったことを報告している(Gu,H.et al.,2005)。Zeisser−Labouebuらは、光増感剤を備えていないナノ粒子についても議論で取り上げており、例えば1.9nmの粒子サイズをもつ金ナノ粒子がマウスの腫瘍に対して7mg/gの濃度で静脈投与されたとき、検体を致死(lethality)に至らしめることなく、大部分の金ナノ粒子は尿を通じて細胞外に排出されたことの報告例(Hainfeld J.F.et al.,2004)を紹介している。
【0004】
一方、光増感剤を備えていない金ナノ粒子の細胞毒性について、この報告例の他にも最近になされた研究報告がいくつかある。1.4nmの粒子サイズをもつ金ナノ粒子(Au55クラスター)がガン細胞あるいは正常細胞の培養細胞に投与されたときに細胞毒性が示されたという報告がある(Tsoli,M.et al.,2005)。また、14nmの粒のサイズをもち、かつ酢酸で安定化された金ナノ粒子が用意され、その金ナノ粒子がヒト繊維芽細胞(human dermal fibroblast cells)に0.2〜0.8mg/ml(ca.1〜4mM)の濃度で投与されて2〜6日間保持されたときにも細胞毒性が示されたという報告がある(Pernodet,N.et al.,2006)。しかしながら、次の報告例で示されているように、比較的低い濃度での金ナノ粒子の投与では細胞毒性を示さないことが報告されている。例えば、18nmの粒子サイズをもち、かつ酢酸あるいはビオチン(biotin)で安定化された金ナノ粒子が用意され、それらの各金ナノ粒子が白血病のガン細胞の一種(K562 leukemia cells)に対して250mMまでの濃度で投与されたときにおいては、金ナノ粒子が細胞内に取り込まれても細胞毒性が示されなかったという報告がある(Connor,E.E.et al,2005)。また、14〜100nmの粒径をもち、かつ酢酸で安定化されたコロイド状の親水性金ナノ粒子が用意され、その金ナノ粒子がHeLa細胞に対して比較的低濃度で投与(14nm、50nmおよび74nmの粒径をもつ各金ナノ粒子に対し、それぞれ1.0mM、20.0mM、および16.0mMの濃度で投与)されたときにおいては、金ナノ粒子が細胞内に取り込まれても細胞毒性が示されなかったという報告がある(Chithrani,B.D.et al.,2006)。さらには、3.5nmの粒子サイズをもち、かつボロハイドライド(borohydride)で還元化されたコロイド状の親水性金ナノ粒子が用意され、その金ナノ粒子がマクロファージ細胞の一種に対して10〜100mMの濃度で投与されて24〜72時間保持されたときにおいても、有為な細胞毒性は示されなかったという報告がある(Shukla,R.et al.,2005)。
なお、上記で引用した文献については、下記の説明で引用する文献と併せて次の項に一覧した。
【引用文献】
【0005】
1.Nano−emulsion of 5−aminolevulinic acid.U.S.Patent 6,559,183
2.Chithrani,B.D.;Ghazani,A.A.;Chan,W.C.W.Determining the Size and Shape Dependence of Gold Nanoparticle Uptake into Mammalian Cells.Nano Lett.6:662−668;2006.
3.Connor,E.E.;Mwamuka,J.;Gole,A.;Murphy,C.J.;Wyatt,M.D.Gold Nanoparticles Are Taken Up by Human Cells but Do Not Cause Acute Cytotoxicity.small 1:325−327;2005.
4.Dougherty,T.J.;Gomer,C.J.;Henderson,B.W.;Jori,G.;Kessel,D.;Korbelik,M.;Moan,J.;Peng,Q.REVIEW Photodynamic Therapy.Journal of the National Cancer Institute,90:889−905,1998.
5.Donnelly,R.F.;McCarron P.A.;Woolfson,D.;Invited review,Drug delivery of aminolevulinic acid from topical formulations intended for photodynamic therapy.Photochem.Photobiol.81:750−767;2005.
6.Fiedler,D.M.;Eckl,P.M.;Krammer,B.Does δ−aminolaevulinic acid induce genotoxic effects? Photochcm.PhotobIol.B:Biology,33:39−44;1996.
7.Fotinos,N.;Campo,M.A.;Popowycz,F.;Gurny,R.;Lange,N.5−Aminolevulinic Acid Derivatives in Photomedicine:Characteristics,Application and Perspectives.Photochem Photobiol.82:994−1015;2006.
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、5−ALA−HClおよび脂質の一種からなるナノ粒子が含まれる薬剤と、光強度の高い光の照射とを併用しての細胞の増殖を抑制する方法は従来より知られている。しかしながら、200mW/cm2という高い光強度の光を照射することは煩雑な作業である上、このような高強度の光の照射を行うための装置には高価なものが多いため、この方法は必ずしも容易に実施できるものではなかった。また、脂質の一種からなるナノ粒子については、生体の有機物質であるがゆえに、例えば高温多湿の環境条件や長期保存によっては腐食あるいは劣化の恐れがある。それゆえに、従来より知られている5−ALA−HClおよび脂質の一種からなるナノ粒子が含まれる薬剤については、例えば輸送や保存などにおいてはその品質保持に大きな注意と費用が必要となってくる可能性があり、どんな場所でも手軽に使用できるものとは言えない。
【0007】
他方、金属からなるナノ粒子を用いて細胞の増殖を抑制する方法においても、従来においては十分に抑制できる方法が少なく、抑制可能な方法においても多量のナノ粒子を投与する必要があり、かつその抑制効果が現れるのに例えば2〜6日間かかるというように、時間がかかりすぎるという問題があった。
本発明は、ヒトや動物の細胞の増殖の抑制を、上記の問題が発生することなく実施できる方法および薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の細胞増殖の抑制方法は、次のように大きく分けて三つある。
上記課題を解決する本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)との存在下で細胞を保持することを特徴とする(請求項1)。
本発明によって細胞増殖が抑制されるメカニズムは明らかになっていないが、下記の実施例でも示しているように、細胞を暗所で保持しても細胞増殖の抑制が見られるので、光細胞毒性によってはもたらされていないようである。一つの考え方として、5−ALA族分子が、金属含有ナノ粒子との共存によって細胞内に取り込まれやすくなり、細胞内に多量に取り込まれた5−ALA族分子が直接あるいは間接的に、あるいはまたPpIXなどの他の分子に変化して細胞毒性を誘発している可能性が挙げられる。また別の考え方としては、金属含有ナノ粒子が5−ALA族分子との共存によって細胞内に取り込まれやすくなり、細胞内に多量に取り込まれた金属含有ナノ粒子が細胞毒性を誘発している可能性も挙げられる。あるいは、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子とが互いに結合あるいは付着し合って一体的となり、細胞毒性を誘発している可能性もある。いずれにせよ、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子との何らかの協同作用によって細胞に暗毒性(dark toxity)が誘発されることが考えられる。この暗毒性によって、光照射なしでも細胞の活性が阻害され、細胞増殖が抑制されると考えられる。
【0009】
本発明の細胞増殖の抑制方法によれば、光照射なしでも細胞増殖の抑制を行うことができるため、煩雑な光照射や高価な光照射装置を必要とせず、従来の方法より容易にかつ安価に細胞増殖の抑制を行うことができる。
また、本発明の細胞増殖の抑制方法によれば、正常な細胞であっても、異常なものであっても、その細胞の増殖の抑制することができる。なお、ここで言う異常な細胞とは、悪性腫瘍のガン細胞など病気の原因となる細胞を指し、悪性腫瘍に転ずる恐れのある良性腫瘍の細胞も含まれる。こうした生体内の異常な細胞の増殖を抑制して病気の治療や予防を行うことを目的とするときには、正常な細胞の増殖を抑制しないように実施する必要がある。
【0010】
さらには、金属含有ナノ粒子が、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を十分に含むものであれば、例えば高温多湿や乾燥といった生体有機物質が腐食あるいは劣化しやすい環境条件や、長期保存によっても、その金属含有ナノ粒子は腐食あるいは劣化の恐れが少ないものである。それゆえに、本発明の細胞増殖の抑制方法によれば、より多くの環境下でナノ粒子を手軽に使えるようになる。
【0011】
一方、上記課題を解決する本発明の二つ目の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子との存在下で細胞を保持することを特徴とする(特許請求せず)。この方法によって細胞増殖が抑制されるメカニズムも明らかになっていないが、ナノ粒子が10nm未満の粒径を持つがゆえのナノ粒子のサイズ効果が関与している可能性がある。
【0012】
さらに、上記課題を解決する本発明の三つ目の細胞増殖の抑制方法は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、ナノ粒子との存在下で細胞を12時間以上保持することを特徴とする(特許請求せず)。この方法によって細胞増殖が抑制されるメカニズムも明らかになっていないが、12時間以上保持するがゆえの保持時間の時間効果が関与している可能性がある。
【0013】
一方、上記課題を解決する本発明の細胞増殖の抑制剤は、次のように大きく分けて二つある。
上記課題を解決する本発明の一つ目の細胞増殖の抑制剤は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)と、を含むことを特徴とする(請求項6)。
【0014】
本発明の細胞増殖の抑制剤は、上記本発明の細胞増殖の抑制方法のいずれにも用いることができるが、特に、請求項1に記載の細胞増殖の抑制方法に適したものである。
また、金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を十分に含むものであれば、上述のように例えば高温多湿のような生体有機物質が腐食あるいは劣化しやすい条件でも、腐食あるいは劣化の恐れが少ないものである。それゆえに本発明の細胞増殖の抑制剤は、輸送や保存などにおける品質保持に大きな注意と費用を払う必要がなくなり、どんな場所でも手軽に使用できる。
【0015】
上記課題を解決する本発明の二つ目の細胞増殖の抑制剤は、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子と、を含むことを特徴とする(特許請求せず)。
本発明の細胞増殖の抑制剤は、上記二つ目および三つ目の本発明の細胞増殖の抑制方法に用いることができるが、特に二つ目の本発明の細胞増殖の抑制方法に適したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の細胞増殖の抑制方法および抑制剤によれば、ヒトや動物のガン細胞の増殖を抑制することができるため、ヒトや動物のガン治療を行うことができる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上記課題を解決するための手段に示した本発明の三つの細胞増殖の抑制方法および二つの細胞増殖の抑制剤の実施態様について以下に順次説明する。
本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法(請求項1)では、5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)との存在下で細胞を保持する。この細胞増殖の抑制方法は、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子とを細胞に投与した後、これらの物質の存在下で所定の時間、細胞を保持することにより実施することができる。ここで、細胞が生合成した5−ALAを利用することも考えられなくはないが、この方法により細胞増殖の抑制作用を得るのに十分な量の5−ALAを得ることは難しく、人為的に5−ALA族分子を投与する方が容易に実施することができるので望ましい手法である。
【0018】
{5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる分子(5−ALA族分子)}
本発明において、5−ALA族分子は、製薬上許容されるものであれば、特に限定されるものではない。また、5−アミノレブリン酸類の塩は、有機酸または無機酸の酸付加塩であることが好ましく、例えば塩酸塩が挙げられる。この塩酸塩として、5−アミノレブリン酸塩酸塩(5−ALA−HCl)および/または5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩(5−ALA−Me)を用いることができる。これらの塩酸塩は、高濃度で用いない限りは生体には無害とされているため、取り扱いが容易である。また、5−ALA−Meは、5−ALA−HClに比べて溶質のpHの値を大きく変化させないという利点をもつ。本発明においては5−ALA族分子を一種類だけ用いてもよいし、二種類以上用いてもよい。二種類以上の5−ALA族分子を用いるときには、それらを同時に用いてもよいし、異なった時に別々に用いてもよい。
【0019】
本発明で用いる5−ALA族分子は、いかなる濃度で用いてもよいが、例えば5−ALA−HClおよび/または5−ALA−Meを用いる場合には2.5〜10mMの濃度で用いることが望ましい。2.5mM未満の濃度では、細胞増殖を十分に抑制することができない恐れがある。一方、10mMを超える濃度では、単独で細胞に毒性を与えてしまう恐れがあり、取り扱いが難しくなる可能性がある。
【0020】
{金属含有ナノ粒子}
金属および金属化合物から選ばれる物質は、遷移金属、遷移金属の酸化物、遷移金属の窒化物、および遷移金属の硫化物の少なくとも一種から選択することができる。特に、貴金属を含む金属含有ナノ粒子を用いることが好ましい。貴金属としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、およびイリジウム(Ir)が挙げられる。貴金属は化学的安定性に極めて優れるため、貴金属を十分に含む金属含有ナノ粒子は、例えば、有害な細菌の滅菌のため高温加熱処理されたり、塩酸や5−ALA−HClなどの強酸に曝さらされたり、生体有機分子を分解してしまう酵素に曝されたり、あるいは長期保存されても、その化学的安定性が大きく低下する恐れは少ないものである。
【0021】
上述の従来までの研究報告によれば、金ナノ粒子は大量投与しなければ生体に重大な細胞毒性を与えないため、本発明の細胞増殖の抑制方法において、金ナノ粒子を用いれば、ヒトや動物のガン治療に応用できる可能性がある。そのガン治療の候補として、皮膚ガン、乳ガンおよび白血病が挙げられる。また、本発明は暗所でも細胞増殖の抑制を行うことができるため、光照射が困難な皮下のガン治療に適用できる可能性がある。特に、金ナノ粒子は強い酸性に曝さらされたり、生体有機分子を分解してしまう酵素に曝されても、劣化したり分解したりすることがないため、胃ガンなど消化器官のガン治療にも適用できる可能性がある。
【0022】
さらには、最近、金ナノ粒子がX線造影剤としての利用の可能性を示す報告がある(Hainfeld J.F.et al.,2006)。本発明の細胞増殖の抑制方法で用いるナノ粒子は、このようにX線などを使って視覚的に検出できる可能性があるため、ガンなどの治療を目的としてこのナノ粒子を患部に投与した後においては、金属含有ナノ粒子の追跡を可能にしうるものである。
【0023】
また、上記の遷移金属の酸化物としては、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化銅(CuO)、および酸化チタン(TiO2)が挙げられ、さらには酸化シリコン(SiO2)であってもよい。さらには、このナノ粒子は、CdSe、CdS、あるいはCdTeなどの金属化合物半導体よりなるものであってもよく、いわゆる量子ドット(quantum dot)であってもよい。
【0024】
ところで、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質をナノ粒子の少なくとも表面に有するものとすることができる。さらには、ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質がナノ粒子の表面を層状に覆うものとしたものであってもよい。また、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質から完全になるものであってもよい。この場合には、金属含有ナノ粒子を「金属」ナノ粒子または「金属化合物」ナノ粒子と言い換えることは前に述べた。本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質の他に、他の無機物や有機物を含むものであってもよい。
【0025】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、親水性コロイドおよび疎水性コロイドのいずれであってもよいが、親水性コロイドである方が好ましい。あるいはクラスターであってもよい。
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、いかなる形状をもつものであってもよい。例えば、球状、多角体、柱状、棒状のものが挙げられるが、特に球状のナノ粒子が好ましい。
【0026】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、いかなるサイズをもつものであってもよい。例えば球状の金属含有ナノ粒子を用いる場合には、100nm以下の粒径をもつことが好ましく、さらには17nm以下の粒径をもつことが望ましい。
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、いかなる濃度で用いてもよいが、17〜100nmの粒径の球状の金ナノ粒子を用いる場合には2.2μM以上の濃度で用いることが好ましい。また、5nmの粒径の球状の金ナノ粒子を用いる場合には1.4μM以上の濃度で用いることが好ましい。
【0027】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、特定の細胞に結合または付着したり、あるいは取り込まれたりすることのできる標的物質を含むものであってもよい。この特定の細胞としては、ガン細胞のように病気や傷害の原因となる細胞が挙げられる。一方、標的物質としては、アミノ酸やタンパク質、脂質などの生体物質が好ましく、特に抗体を挙げることができる。
金属含有ナノ粒子は、こうした標的物質を粒子表面に結合または付着させて持つことが好ましい。特に、ガン細胞に特異的に結合できる抗体や、ガン細胞に特異的に取り込まれる標的物質を粒子表面にもつ金属含有ナノ粒子を用いれば、正常細胞とガン細胞が混在している組織に投与しても、この金属含有ナノ粒子はガン細胞の方に集まり、正常細胞の方には集まらないようにすることができる。ガン細胞の方に集まった金属含有ナノ粒子は、5−アミノレブリン酸類およびその塩の少なくとも一種との協同作用によって、ガン細胞を選択的に死滅させたりして、ガン細胞の増殖を抑制することができる。
【0028】
金属含有ナノ粒子は、上記の標的物質を介在物質を介在させて間接的に含むものであってもよい。この介在物質は、金属含有ナノ粒子と標的物質とを結びつけるリンカー様の物質であってもよいし、あるいは、金属含有ナノ粒子の表面に層状にコートされたコーティング物質であってもよい。このコーティング物質に上記の標的を含ませることができ、例えば、このコート物質の表面に結合または付着させたものが挙げられる。これらの介在物質として、標的物質が細胞に結合または取り込まれた後に分解あるいは洗い流されたりすることの可能なものを用いれば、標的物質によって細胞に一旦結合あるいは取り込ませた金属含有ナノ粒子を再び細胞から遊離させることができるようになり、金属含有ナノ粒子の運動の自由度を高めることができる。
【0029】
例えば、正常細胞とガン細胞が混在している組織に対して、先に、ガン細胞に特異的に結合できる抗体や、ガン細胞に特異的に取り込まれる標的物質を粒子表面にもつ金属含有ナノ粒子を投与し、金属含有ナノ粒子がガン細胞の方に集まったところを見計らって、5−ALA族分子を投与する。これにより、ガン細胞は5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の両方の存在下に置かれる。この状態を所定の時間保持することにより、ガン細胞を選択的に死滅させたりして、ガン細胞の増殖を抑制することができる。このとき、正常細胞の方には金属含有ナノ粒子が希薄なため、5−ALA族分子が侵入してきても細胞増殖の抑制作用を受けない。
【0030】
本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、5−ALA族分子の少なくとも一種を含むものであってもよい。特に、金属含有ナノ粒子の表面に5−ALA族分子が結合または付着しているものが好ましい。
金属含有ナノ粒子は、5−ALA族分子の少なくとも一種を、介在物質を介在させて間接的に含むものであってもよい。この介在物質は、金属含有ナノ粒子と5−ALA族分子とを結びつけるリンカー様の物質であってもよいし、あるいは、金属含有ナノ粒子の表面に層状にコートされたコーティング物質であってもよい。このコーティング物質に5−ALA族分子を含ませることができ、例えば、このコート物質の表面に結合または付着させたものが挙げられる。
【0031】
さらには、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、5−ALA族分子とともに、上記の標的物質を含むことがさらに好ましく、これら双方の物質を上述のように粒子表面に直接的または間接的に結合または付着させているものが望ましい。
【0032】
また、本発明で用いる金属含有ナノ粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質を含むナノ粒子(本体粒子)と、その本体粒子の内部および/または表面部に有する粒子(副粒子)と、からなるものであってもよい。この副粒子は、金属および金属化合物から選ばれる物質を含むものであってもよいし、あるいは金属および金属化合物から選ばれる物質を含まないものであってもよい。前者の副粒子は、金属および金属化合物の他に含む物質はいかなるものであってよく、後者の副粒子は、いかなる物質からなるものであってもよい。副粒子は、いかなる形状をもつものであってもよく、さらにはいかなる粒子サイズをもつものであってもよい。また、本体粒子の表面部に副粒子をもたせる場合、副粒子は本体粒子に結合および/または付着しているものであってもよい。
【0033】
{細胞}
本発明は、ヒトおよび動物のいかなる細胞にも適用できる。すでに上述したように、その細胞は、正常なものであっても、異常なものであってもよいが、特に悪性腫瘍のガン細胞であることが好ましい。
また、本発明の細胞増殖の抑制方法は、学術的な試験または研究に用いられる培養細胞にも適用することもできる。こうした培養細胞として、例えばHL−60やHL−525と言ったヒトの白血病のガン細胞や、MCF−7と言ったヒトの乳ガン細胞、1522と言ったヒトの正常繊維芽細胞が挙げられる。こうした培養細胞の増殖を抑えたり、あるいは廃棄処分するときなどに、本発明は有用である。
【0034】
{5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の投与方法}
5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子を細胞に投与する方法について説明する。増殖を抑制する細胞に対して5−ALA族分子を投与するとき、5−ALA族分子は化学的にいかなる状態にあってもよく、例えば、液、粘性物、固形物(粉末)が挙げられる。5−ALA族分子の投与は、いかなる方法によってもよく、例えば、5−ALA族分子を含む溶液を投与するときには、ピペッティング、注射、および塗布などによって投与することができる。また、5−ALA族分子を含む粘性物を投与するときには塗布によって投与することができる。
【0035】
一方、増殖を抑制する細胞に対して金属含有ナノ粒子を投与するとき、金属含有ナノ粒子についても化学的にいかなる状態にあってもよく、例えば、溶、粘性物、固形物(粉末)が挙げられる。この金属含有ナノ粒子の投与は、いかなる方法によってもよく、例えば、金属含有ナノ粒子を含む溶液を投与するときには、ピペッティング、注射、および塗布などによって投与することができる。また、金属含有ナノ粒子を含む粘性物を投与するときには塗布によって投与することができる。また、金属含有ナノ粒子は、投与されるときには、いかなる化学物質で安定化されていてもよい。例えば、金ナノ粒子が投与されるときには、金ナノ粒子は酢酸で安定化されていることが好ましい。
【0036】
5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子は、同時に投与してもよいし、別々に投与してもよい。また、5−ALA族分子を金属含有ナノ粒子より先に投与してもよいし、金属含有ナノ粒子を5−ALA族分子より先に投与してもよい。
本発明では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子が細胞に投与されるとき、その細胞はいかなる条件にあってもよい。例えば、細胞の温度は、いかなる温度であってもよく、pHの値もいかなる値であってもよい。また、細胞は、有酸素性および嫌気性の雰囲気のいずれの雰囲気の下にあってもよく、また二酸化炭素が豊富に含まれる雰囲気の下にあってもよい。さらには、細胞は、光の下にあってもよいし、暗所にあってもよい。
【0037】
{細胞の保持方法}
本発明の細胞増殖の抑制方法では、5−ALA族分子と金属含有ナノ粒子との存在下で細胞を保持するとき、いかなる条件で保持してもよい。
このとき、細胞の保持温度はいかなる温度でもよく、5−ALA族分子および/または金属含有ナノ粒子が存在しない条件で細胞がよく増殖できる温度で保持することができる。この保持温度は、細胞の種類に応じて適切に選択することができる。例えばヒトの細胞であれば、37℃およびその周辺の温度とすることができる。
【0038】
また、細胞の保持は、いかなるpHの値で行ってもよい。また、細胞の保持は、有酸素性および嫌気性の雰囲気のいずれの雰囲気の下で行ってもよく、また二酸化炭素が豊富に含まれる雰囲気の下で行ってもよい。さらには、細胞の保持は、光の下で行ってもよいし、暗所で行ってもよい。
細胞の保持時間は、いかなる時間で行ってもよく、5−ALA族分子および/または金属含有ナノ粒子が存在しない条件で細胞がよく増殖できる時間で保持することができる。この保持時間は、細胞の種類に応じて適切に選択することができる。
【0039】
{光力学療法または超音波力学療法との併用}
本発明の細胞増殖の抑制方法では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の存在下で細胞を保持している間においては、金属含有ナノ粒子の作用の有無に関係なく、投与した5−ALA族分子の一部が細胞内に取り込まれてPpIXが生合成されていると考えられる。従来技術の項でも述べたように、対象となる細胞がガン細胞であれば、こうして生合成されたPpIXは細胞内に蓄積されると考えられる。PpIXは、可視光または紫外線の照射によって光毒性をガン細胞に誘発する光増感剤でもあることが知られており、こうした効果が光力学療法で応用されていることはすでに述べた。
そこで、本発明では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の存在下でガン細胞を保持している間および/またはその後、可視光および/または紫外線を照射してもよい。この可視光および/または紫外線の照射によってガン細胞に光毒性を誘発させることができる。本手段によれば、本来、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の何らかの協同作用によって細胞に暗毒性が誘発されるが、これに可視光および/または紫外線の照射による光毒性が加わることによって、細胞の増殖がさらに抑制される。
【0040】
本手段で用いる可視光および紫外線の少なくとも一方は、いかなる波長をもつものであってよく、かつ、いかなる光強度(光量子数)をもつものであってよい。特に赤色光は、生体の皮下の光が届きにくい場所にも届きやすいことが知られている。そのため、上記可視光として赤色光を用いれば、生体の皮下の光が届きにくい患部にあるガン細胞の増殖を効果的に抑制することができる。また、PpIXは、630〜640nmの範囲の波長を有する赤色光を効率的に吸収できることが知られている。そこで、本手段で630〜640nmの範囲の波長を有する赤色光を用いれば、ガン細胞の増殖をより一層効果的に抑制することができる。
【0041】
さらに、PpIXは、超音波の照射によってある種の毒性をガン細胞に誘発する増感剤でもあることが知られており、こうした効果を超音波力学療法へ応用する試みがなされている(Rosenthal,I.et al.,2004)。そこで、本発明では、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の存在下でガン細胞を保持している間および/またはその後、超音波を照射してもよい。本手段によれば、本来、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子の何らかの協同作用によって細胞に暗毒性が誘発されるが、これに超音波によって誘発される毒性が加わることによって、細胞の増殖がさらに抑制される。本手段で用いる超音波は、いかなる周波数をもつものであってよく、かつ、いかなる超音波強度をもつものであってよい。
【0042】
{本発明の二つ目の細胞増殖の抑制方法}
本発明では、5−ALA族分子の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子との存在下で細胞を保持する。この細胞増殖の抑制方法は、5−ALA族分子の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子とを細胞に投与した後、これらの物質の存在下で所定の時間、細胞を保持することにより実施することができる。本発明で用いるナノ粒子は、特に5nmの粒子サイズを持つことが好ましい。
【0043】
下記の実施例でも述べるように、本発明において、5nmの粒子サイズを持つナノ粒子を用いれば、細胞増殖が極めて著しく抑制されることが見いだされた。また、17nmの粒子サイズを持つナノ粒子を用いた場合には、5nmの粒子サイズを持つナノ粒子には及ばずとも細胞増殖が著しく抑制されることも見いだされた。これらのことから、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子を用いれば、細胞増殖が著しく抑制されることは高い確率で予測することができる。
【0044】
本発明で用いるナノ粒子は、無機物および有機物を問わず、いかなる物質からなるものであってもよい。例えば、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で述べたものと同じ金属含有ナノ粒子を用いることができるが、特に金ナノ粒子を用いれば、ヒトや動物のガン治療に応用できる可能性がある。また、本発明で用いるナノ粒子は、ダイヤモンド、フラーレン(fullerene)、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)であってもよい。
本発明は、このような材質をもち、かつ10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子を用いる他は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法と同様にして実施することができる。
【0045】
{本発明の三つ目の細胞増殖の抑制方法}
本発明では、5−ALA族分子の少なくとも一種と、ナノ粒子との存在下で細胞を12時間以上保持する。この細胞増殖の抑制方法は、5−ALA族分子の少なくとも一種とナノ粒子とを細胞に投与した後、これらの物質の存在下で細胞を12時間以上保持することにより実施することができる。
【0046】
本発明で用いるナノ粒子は、無機物および有機物を問わず、いかなる物質からなるものであってもよい。例えば、本発明の一つ目あるいは二つ目の細胞増殖の抑制方法で述べたナノ粒子を用いることができるが、特に金が含まれるナノ粒子を用いれば、ヒトや動物のガン治療に応用できる可能性がある。
本発明は、このような材質を持つナノ粒子を用い、かつ細胞を12時間以上保持する他は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法と同様にして実施することができる。
【0047】
{本発明の一つ目の細胞増殖の抑制剤(請求項6)}
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子(金属含有ナノ粒子)と、を含むものである。5−ALA族分子の少なくとも一種は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で用いるものと同じものとすることができる。また、金属含有ナノ粒子についても、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で用いる金属含有ナノ粒子と同じものとすることができる。
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子および金属含有ナノ粒子のみからなるものであってもよいし、あるいはこれらの物質の他に別の物質を含むものであってもよい。
【0048】
本発明の細胞増殖の抑制剤は、液、粘性物、および固形物のいずれであってもよい。液であれば、水性液および油性液のいずれであってもよい。この液においては、5−ALA族分子はいかなる濃度をもってもよいし、金属含有ナノ粒子もいかなる濃度をもってもよい。5−ALA−HClや5−ALA−Meを用いる場合、これらの塩は水溶性であるため、水溶液として調製することができる。一方、粘性物であれば、水性の粘性物であってもよいし、油性の粘性物であってもよい。また、その粘性物は、いかなる粘度を有するものであってよい。他方、固形物であれば、ブロック状あるいは粉末状のいずれにあってもよい。
【0049】
本発明の細胞増殖の抑制剤は、いかなる方法によって調製してもよい。例えば、本発明の細胞増殖の抑制剤を水性液として調製する方法としては、5−ALA族分子を含む水溶液と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含む水性液とを混合する調製方法が挙げられる。
本発明は、ヒトや動物のガンなどの治療を目的とした薬剤として用いることの可能性をもつ。この薬剤は、水薬、丸薬、錠剤、カプセル、および軟膏のいずれのタイプのものであってもよい。
【0050】
{本発明の二つ目の細胞増殖の抑制剤}
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子の少なくとも一種と、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子と、を含むものである。5−ALA族分子の少なくとも一種は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制方法で用いるものと同じものとすることができる。一方、10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子については、本発明の二つ目の細胞増殖の抑制方法で用いるナノ粒子と同じものとすることができる。
本発明の細胞増殖の抑制剤は、5−ALA族分子および10nm未満の粒径を持つナノ粒子のみからなるものであってもよいし、あるいはこれらの物質の他に別の物質を含むものであってもよい。
本発明は、このような材質をもち、かつ10nm未満の粒子サイズを持つナノ粒子を含む他は、本発明の一つ目の細胞増殖の抑制剤と同様にして実施することができる。
【実施例】
【0051】
本発明の実施の形態を実施例によってさらに詳細に説明する。
{実施例1−1}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト白血病ガン細胞由来の培養細胞(HL−60)を23時間保持した。
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。一方、金ナノ粒子は、完全に金よりなるものであり、球状である。ここでは、金ナノ粒子がクエン酸バッファで安定化されて親水性のコロイドとして分散した状態にある金クエン酸コロイド液(田中貴金属工業)を用いた。本実施例で用いた金クエン酸コロイド液は、表1に示したように、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径の金ナノ粒子を狭い粒度分布で含有する5種類である。各金クエン酸コロイド液のpH、および各金クエン酸コロイド液に含まれる金ナノ粒子の含有濃度を表1に併せて示した。
【0052】
【表1】
【0053】
HL−60細胞(American Type Culture Collection)は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で継体および培養した。ここで用いたHL−60細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、23±1時間(時間±SEM)毎に2倍に増えるものである。細胞を回収して10%のウシ胎仔血清を含む新鮮なRPMI 1640液体培地で再懸濁した。24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0054】
また、5mMの5−ALA−HClを含むが金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、別の2穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えて直ぐさま、一方には110μlのクエン酸バッファ(pH3.3)を加え、別の方には110μlの水を加えた。なお、990μlの細胞懸濁液に対して5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.0に変化した。また、この5−ALA−HClを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
一方、5−ALA−HClを含む細胞サンプルと同じpHをもつ比較用の細胞サンプルを調製するために、他の7穴の細胞懸濁液に対して、約1MのHCl水溶液を5.3μl加えた後に、すぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。ここで、990μlの細胞懸濁液に対して約1MのHCl水溶液を5.3μl加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.0に変化した。また、このHClを加えた細胞懸濁液に、金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
【0055】
他方、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、他の7穴の細胞懸濁液に対して、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。なお、5−ALA−HClもHClを含まない細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
なお、上記の細胞サンプルの細胞数の濃度は、いずれもおよそ5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。以下の実施例でも同じである。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製においては、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は2、3分程度であった。この薄暗い白色光の強度は、マルチプローブ(EG&G,model 550−2)を備えた光強度測定器(EG&G,model 550−1)で測定したところ、3.0±0.3×10−3μW/cm2であった。HClを含む細胞サンプル、および5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0056】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0057】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。なお、この細胞数計測装置では細胞の形を保っているものが計測されるため、生細胞だけでなく、細胞の形を保っている死細胞も計測される。図1Aに示したように、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルではどれも2倍の細胞濃度の増加が見られたが、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、いずれも細胞濃度の増加の割合が2倍より低いものであった。また、これらの細胞サンプルの間で細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、細胞濃度の増加の割合がより低くなることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルの細胞増加に対して、約15%少ない細胞濃度の増加を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、細胞濃度の増加を全く示さなかった。
【0058】
次に、5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルについて、生細胞の濃度をトリパンブルー染色法(trypan blue staining)によって測定した。図1Bに示されるように、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルでは死細胞は多く観察されなかったが、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは死細胞が顕著に観察された。一方、5−ALA−HClと82〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、死細胞はそれほど多く観察されなかった。また、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で生細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど生細胞濃度が低くなることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの生細胞濃度に対して約30%少ない生細胞濃度を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの生細胞濃度に対して約70%少ない生細胞濃度を示した。
【0059】
さらに、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の存在下で保持したことにより細胞に誘発される細胞毒性について、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)および蛍光マイクロプレートリーダー(HTS7000,Perkin Elmer)を用いて検出した。この細胞毒性検出試薬はCalcein−AMを含むもので、この試薬を用いたアッセイ(以下、CCK−Fアッセイと呼ぶことにする)は、Calcein−AMが生細胞と反応すると、485nmの波長の励起光に対して535nmの蛍光を発する蛍光物質に変化する性質を利用したものである。また、ここで用いた蛍光マイクロプレートリーダーは、485nmの波長の励起光を通すフィルターと535nmの発光を通すフィルターを併用して、96穴の細胞培養プレートに用意された細胞サンプルに対し、485nmの波長の励起光を照射して535nmの波長の発光を測定することのできる装置である。
【0060】
上記のCCK−Fアッセイは、細胞サンプルの培地をリン酸バッファ(Dulbecco’s Phosphate−Buffered Saline;DPBS)に置換してからその細胞サンプルを96穴の細胞培養プレートに移した後、取り扱い説明書に従って実施した。ここでは、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業は、遠心操作(1000rpm、5分)によって細胞を沈殿させてから上澄み液を除いてDPBSを加えるという操作を二度繰り返して実施した。また、このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において1〜2時間以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を上記の蛍光マイクロプレートリーダーを用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0061】
図1Cに示されるように、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を用いなかった比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して明らかに低いことがわかる。一方、5−ALA−HClと82〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度については、比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較してそれほど低くないことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。また、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で蛍光強度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、その蛍光強度が低くなることもわかる。これらの細胞サンプルの中で、特に5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの蛍光強度に対して約50%少ない蛍光強度を示し、最も低い値を示した。
【0062】
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を23時間保持することにより、その細胞の増殖が抑制されることがわかった。また、特に5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が最も抑制されることもわかった。
【0063】
{実施例1−2}
本実施例では、5−ALA−HClの濃度を2.5mM、5mM、および10mMとした他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの6穴に分注された細胞懸濁液に対して、2.75μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、粒径の異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。さらに、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、11μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、粒径の異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。残る6穴に分注された細胞懸濁液に対しては、5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えずに、粒径の異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0064】
これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを0mM、2.5mM、5mM、および10mMのそれぞれの濃度で含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
なお、990μlの細胞懸濁液に対して2.75μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.2に変化した。また、990μlの細胞懸濁液に対して11μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から6.6に変化した。また、これらの5−ALA−HClを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
上記の細胞サンプルのいずれについても、23時間の保持の前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において15分以内で行った。
【0065】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図2に示したように、5−ALA−HClの濃度を2.5mMまたは10mMとしたとき、5〜82nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、5−ALA−HClの濃度を5mMとした細胞サンプルと同様に、金ナノ粒子が存在しない比較用の細胞サンプルのものに比べて顕著に低く、細胞増殖が効果的に抑制されたことがわかった。また、5−ALA−HClの濃度を5mMとしたとき、金ナノ粒子を含む細胞サンプルの細胞濃度の増加が最も大きい度合いで低下することがわかった。この結果から、5−ALA−HClの濃度は2.5〜10mMの範囲が好ましく、特に5mMの濃度とすることにより、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
【0066】
{実施例1−3}
本実施例では、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子については1.4μMから22μMの範囲の様々な濃度とし、17nm、41nmまたは82nmの粒径をもつ金ナノ粒子については2.2μMから36μMの範囲の様々な濃度とした他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
まず、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)について、クエン酸バッファ(pH3.3)で金ナノ粒子の含有濃度をそれぞれ1/2、1/4、1/8、および1/16に希釈したものを用意した。次いで、全部で24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの20穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記4種類の金クエン酸コロイド液、並びにそれらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を1/2、1/4、1/8、および1/16に希釈)を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、別の2穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、pHの異なる二種類のクエン酸バッファ(pH3.1およびpH3.3)をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを5mMの濃度で含むものである。
【0067】
上記の細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルのいずれについても、23時間の保持の前の細胞数の濃度は、いずれもおおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製においては、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0068】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図3に示したように、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子については、1.4μMから22μMの範囲の濃度としたとき、金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルに対して細胞濃度の増加の割合が顕著に低くなり、金ナノ粒子の濃度が高くなるほど、細胞濃度の増加の割合がより低くなることがわかった。そして、22μMの濃度で細胞濃度の増加の割合が最も低くなり、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
一方、17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた場合、その金ナノ粒子の濃度が2.2μMから36μMの範囲では、金ナノ粒子を含まない比較用細胞サンプルに対して細胞濃度の増加の割合が顕著に低く、金ナノ粒子の濃度が高くなるほど、細胞濃度の増加の割合が低くなることがわかった。そして、36μMの濃度で細胞濃度の増加の割合が最も低くなり、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
他方、41nmおよび82nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた場合においても、その金ナノ粒子の濃度が2.2μMから36μMの範囲では、金ナノ粒子を含まない比較用細胞サンプルに対して細胞濃度の増加の割合が低くなり、金ナノ粒子の濃度が高くなるほど、細胞濃度の増加の割合が低くなった。そして、36μMの濃度で細胞濃度の増加の割合が最も低くなり、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
【0069】
{実施例1−4}
本実施例では、保持時間を0時間、4時間、8時間、12時間、18時間、および23時間から選択した他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを5mMの濃度で含むものである。また、残る1穴に分注された細胞懸濁液に対して110μlの水を加えた。この細胞サンプルの調製を6枚の細胞培養プレートで行った。
上記の細胞サンプルのいずれについても、保持する前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において、1枚の細胞培養プレートにつき10分以内で行った。
【0070】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ6枚の細胞培養プレートのうち5枚を、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、これらの細胞サンプルをこのインキュベータ内にそれぞれ4時間、8時間、12時間、18時間、および23時間置いた。こうして細胞サンプルの各時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。残り1枚の細胞培養プレートについては、インキュベータ内に移さずに、すぐさま細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。これを0時間の保持を行った細胞サンプルとした。なお、細胞回収の作業は、いずれの細胞培養プレートにおいても、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において、1枚の細胞培養プレートにつき20分以内で行った。
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図4Aに示したように、0時間、4時間、および8時間の保持を行った細胞サンプルにおいては、金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルに対して細胞濃度の大きな低下は見られなかったが、12時間、18時間、および23時間の保持を行った細胞サンプルにおいて、金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルに対して細胞濃度の顕著な低下が見られた。この結果から、5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持することによって細胞増殖を抑制するには、12時間以上の保持時間が好ましいことがわかる。
【0071】
この実験とは別に、保持時間を4時間とした他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を4時間保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの15穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれ3穴の細胞懸濁液に110μlずつ加えた。別の4穴の細胞懸濁液に対して、pHの異なる3種類のクエン酸バッファ(pH3.1、3.3、あるいは6.5)および水をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5−ALA−HClを5mMの濃度で含むものである。また、別の1穴に分注された細胞懸濁液に対しては、110μlの水を加えた。
【0072】
上記の細胞サンプルのいずれについても、保持する前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、4時間置いた。こうして細胞サンプルのインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、細胞回収の作業は、いずれの細胞培養プレートにおいても、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0073】
こうして回収された細胞サンプルについて、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)および蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いてCCK−Fアッセイを行った。このCCK−Fアッセイは、細胞サンプルの培地をDPBSに置換してからその細胞サンプルを96穴の細胞培養プレートに移した後、取り扱い説明書に従って実施した。ここでは、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業は、遠心操作(1000rpm、5分)によって細胞を沈殿させてから上澄み液を除いてDPBSを加えるという操作を二度繰り返して実施した。また、このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において1〜2時間以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を上記の蛍光マイクロプレートリーダーを用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0074】
図4Bに示されるように、5−ALA−HClと17〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、金ナノ粒子を用いなかった比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度とほとんど同じであることがわかった。一方、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度については、比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して明らかに低いことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと17〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持する場合、4時間の保持時間では細胞増殖の抑制は十分になされないことを示している。一方、5−ALA−HClと粒径が5nmの金ナノ粒子との存在下で細胞を保持する場合には、4時間の保持時間でも細胞増殖の抑制がなされることを示している。
【0075】
{実施例1−5}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の各金ナノ粒子とを混ぜ合わせてから細胞に投与した他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の存在下でHL−60細胞を保持した。
1M 5−ALA−HCl水溶液と、金ナノ粒子の粒径が異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の金クエン酸コロイド液(表1)の各液とを1:20の体積比の割合で混合し、室温で1時間放置した。この金クエン酸コロイド液と5−ALA−HCl水溶液との混合液は、5−ALA−HClと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、1M 5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH3.3)を1:20の体積比の割合で混合し、室温で1時間放置した。また、1M 5−ALA−HCl水溶液と水を1:20の体積比の割合で混合し、室温で1時間放置した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴の細胞懸濁液に対して、上記3種類の5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液、5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファとの混合液、および5−ALA−HCl水溶液と水との混合液を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0076】
一方、別の5穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記3種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
上記の細胞サンプルのいずれについても、保持する前の細胞数の濃度は、およそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製において、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルのインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、細胞回収の作業は、いずれの細胞培養プレートにおいても、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0077】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図5に示したように、5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH3.3)または水とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルにおいては、それらを混合せずに加えた細胞サンプルと同様に2倍の細胞濃度の増加が見られた。
一方、粒径が5nmの金ナノ粒子を用いた場合、5−ALA−HCl水溶液とその金クエン酸コロイド液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルにおいては、細胞濃度の増加はほとんど見られなかった。また、その細胞濃度の増加の割合は、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合せずに加えた細胞サンプルのものより若干高いものであった。また、これらの細胞サンプルについてトリパンブルー染色法によって得られた生細胞濃度をそれぞれ比較したところ、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して加えた細胞サンプルの方が、それらをを混合せずに加えた細胞サンプルよりも生細胞濃度が高いことがわかった。
【0078】
また、粒径が17nmの金ナノ粒子を用いた場合、5−ALA−HCl水溶液とその金クエン酸コロイド液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルについても、その細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものより高いものであった。また、これらの細胞サンプルについてトリパンブルー染色法によって得られた生細胞濃度をそれぞれ比較したところ、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して加えた細胞サンプルの方が、それらを混合せずに加えた細胞サンプルよりも生細胞濃度が高いことがわかった。
さらに、粒径が41nmの金ナノ粒子を用いた場合、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルについても、その細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものより高いものであった。また、これらの細胞サンプルについてトリパンブルー染色法によって得られた生細胞濃度をそれぞれ比較したところ、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液を混合して加えた細胞サンプルの方が、それらを混合せずに加えた細胞サンプルよりも生細胞濃度が高いことがわかった。
【0079】
これらの結果は、細胞懸濁液に5−ALA−HCl水溶液を加えてから金クエン酸コロイド液を加えた方が、それらを混合して加えるよりも細胞を殺す効果が高いことを示している。しかしながら、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して加える方法でも、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を用いたときには、細胞増殖が十分に抑制されることがわかった。
【0080】
{実施例2−1}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を24時間保持した。
粉末状の5−ALA−Me(Methyl δ−aminolevulinate hydrochloride,Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−Meの水溶液を調製した。24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5mMの5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0081】
また、5mMの5−ALA−Meを含むが金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、別の2穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えて直ぐさま、一方には110μlのクエン酸バッファ(pH3.3)を加え、別の方には110μlの水を加えた。なお、990μlの細胞懸濁液に対して5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.8から7.0に変化した。また、この5−ALA−HClを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
一方、5−ALA−HClを含む比較用細胞サンプルを調製するために、他の8穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記6種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0082】
なお、上記の細胞サンプルの細胞数の濃度は、いずれもおおよそ5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。ここで、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−Meおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は2、3分程度であった。5−ALA−HClを含む比較用細胞の調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0083】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図6に示したように、5−ALA−Meと、クエン酸バッファ(pH3.3)または水とを加えた細胞サンプルでは1.6倍の細胞濃度の増加が見られた。これらの細胞サンプルに対し、5−ALA−Meと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、いずれも1.6倍より低い細胞濃度の増加が見られた。これらのことから、5−ALA−Meと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持することにより、5−ALA−Meが存在しても金ナノ粒子が不在下で保持した細胞サンプルに対して、細胞増殖がさらに抑制されることがわかった。また、これらの細胞サンプルの間で細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、細胞増殖がより一層抑制されることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、細胞濃度の増加を全く示さなかった。
【0084】
{実施例2−2}
本実施例では、5−ALA−Meの濃度を2.5mM、3.75mM、および5mMとした他は、実施例2−1と同様にして、5−ALA−Meと、粒径の異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの6穴に分注された細胞懸濁液に対して、2.75μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、4.1μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。さらに、別の6穴に分注された細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、をそれぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。残る6穴に分注された細胞懸濁液に対しては、5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えずに、上記4種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、および水を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0085】
これらの細胞サンプルは、5−ALA−Meを0mM、2.5mM、3.75mM、および5.5mMのそれぞれの濃度で含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含む細胞サンプルでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
なお、990μlの細胞懸濁液に対して2.75μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.9から7.8に変化した。また、990μlの細胞懸濁液に対して4.1μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加えたとき、細胞懸濁液のpHが7.9から7.7に変化した。また、これらの5−ALA−Meを含む細胞懸濁液に金クエン酸コロイド液またはクエン酸バッファを加えたときには、細胞懸濁液のpHはほとんど変化しなかった。
上記の細胞サンプルのいずれについても、24時間の保持の前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−Meを含む細胞サンプルおよびその比較用細胞サンプルの調製においては、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において15分以内で行った。
【0086】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図7に示したように、5−ALA−Meを2.5mMまたは3.75mMの濃度で含む細胞サンプルにおいて、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子を含むものでは、5−ALA−Meを5mMの濃度で含む細胞サンプルと同様に、金ナノ粒子を用いなかった比較用の細胞サンプルに対して、細胞濃度の増加の割合が低くなり、細胞増殖が効果的に抑制されたことがわかった。また、5−ALA−Meの濃度を5mMとしたとき、金ナノ粒子を含む細胞サンプルの細胞濃度の増加が最も大きい度合いで低下することがわかった。
これらの結果から、5−ALA−Meの濃度は2.5〜5mMの範囲が好ましく、特に5mMの濃度とすることにより、細胞増殖が最も効果的に抑制されることがわかった。
【0087】
{実施例2−3}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径の異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の各金ナノ粒子とを混ぜ合わせてから細胞に投与した他は、実施例1−1と同様にして、5−ALA−Meおよび金ナノ粒子の存在下でHL−60細胞を保持した。
1M 5−ALA−Me水溶液と、金ナノ粒子の粒径が異なる3種類(5nm、17nm、および41nm)の金クエン酸コロイド液(表1)の各液を1:20の割合で混合し、室温で1時間、2時間、または3時間放置したものを用意した。この5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液の混合液は、5−ALA−Meと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、1M 5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混合し、室温で1時間、2時間、または3時間放置したものを用意した。さらに、1M 5−ALA−HCl水溶液と上記3種類の金クエン酸コロイド液の各液を1:20の割合で混合し、室温で1時間、2時間、または3時間放置したものを用意した。
24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に990μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴の細胞懸濁液に対して、上記の5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液、5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファとの混合液、および5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。
【0088】
一方、1M5−ALA−Me水溶液と上記3種類の金クエン酸コロイド液の各液を1:20の割合で混ぜ合わせてから直ぐさま、この混合液を別の3穴の細胞懸濁液に110μlずつ加えた。また、1M 5−ALA−Me水溶液と、クエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混ぜ合わせてから直ぐさま、この混合液を別の1穴の細胞懸濁液に110μl加えた。さらに、1M 5−ALA−HCl水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを1:20の割合で混ぜ合わせてから直ぐさま、この混合液を別の1穴の細胞懸濁液に110μl加えた。
他方、別の5穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、上記3種類の金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH6.5)を、それぞれの細胞懸濁液に110μlずつ加えた。さらに、別の1穴の細胞懸濁液に対して、5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えて直ぐさま、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を110μl加えた。
【0089】
上記の細胞サンプルのいずれについても、23時間の保持の前の細胞数の濃度はおよそ5×105個/mlに設定された。ここで、5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液を細胞懸濁液に加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、23時間置いた。こうして細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルの23時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0090】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図8に示したように、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−Me水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものに比べてわずかに大きくなることがわかった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。また、粒径が41nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−Me水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものと比べて大きな違いはなかった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。
【0091】
しかしながら、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を細胞懸濁液に加えた細胞サンプルについては、1時間以上放置することにより、細胞懸濁液に5−ALA−Me水溶液を加えてから粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を加えた細胞サンプルのものよりも細胞濃度の増加の割合が著しく低くなることがわかった。
これに対し、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−HCl水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものに比べて大きいものであった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。
【0092】
また、クエン酸バッファ(pH6.5)と5−ALA−Me水溶液とを混合して細胞懸濁液に加えた細胞サンプルの細胞濃度の増加の割合は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものと比べて大きな違いはなかった。このことは、3時間以内の放置時間では、混合液の放置時間に影響されないものであることもわかった。
これらの結果から、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを混合し、その後1時間以上置いたものを細胞懸濁液に加えることにより、細胞増殖をさらに抑制できることがわかった。
【0093】
{実施例3}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト白血病ガン細胞由来の培養細胞(HL−525)を22時間保持した。
HL−525細胞(American Type Culture Collection)は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。ここで用いたHL−525細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、22±1時間(時間±SEM)毎に2倍に増えるものである。回収された細胞は、10%のウシ胎仔血清を含む新鮮なRPMI 1640液体培地で再懸濁された。
【0094】
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。24穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3524)を用意し、各穴に960μlの細胞懸濁液を分注した。そのうちの5穴に分注された細胞懸濁液に対して、6μlの1M 5−ALA−HCl水溶液をそれぞれ加えて直ぐさま、金ナノ粒子の粒径が異なる5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの細胞懸濁液に240μlずつ加えた。これらの細胞サンプルは、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
また、5mMの5−ALA−HClを含むが金ナノ粒子を含まない比較用の細胞サンプルを調製するために、別の2穴の細胞懸濁液に対して、6μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加えて直ぐさま、一方には240μlのクエン酸バッファ(pH3.3)を加え、別の方には240μlの水を加えた。
【0095】
なお、上記の細胞サンプルの細胞数の濃度は、いずれも約5×105個/mlに設定された。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。ここで、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は2、3分程度であった。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、22時間置いた。こうして細胞サンプルの22時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートから全ての細胞サンプルを回収した。なお、この細胞回収の作業は、極めて薄暗い白色光(3.0×10−3μW/cm2)の下において30分以内で行った。
【0096】
こうして回収された細胞サンプルの細胞濃度を細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した。図9に示したように、5−ALA−HClと、クエン酸バッファ(pH3.3)または水とを加えた細胞サンプルでは1.8倍の細胞濃度の増加が見られた。これらの細胞サンプルに対し、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルでは、いずれも1.8倍より低い細胞濃度の増加が見られた。これらのことから、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持することにより、5−ALA−HClが存在しても金ナノ粒子が不在下で保持した細胞サンプルに対して、細胞増殖がさらに抑制されることがわかった。また、これらの細胞サンプルの間で細胞濃度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、細胞濃度の増加の割合がより低くなることがわかった。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、金ナノ粒子を用いなかった細胞サンプルの細胞濃度の増加に対して約30%少ない細胞濃度の増加を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、金ナノ粒子を用いなかった細胞サンプルの細胞濃度の増加に対して約50%少ない細胞濃度の増加を示した。
【0097】
{実施例4−1}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト乳ガン細胞由来の培養細胞(MCF−7)を19時間保持した。
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられた液体培地は、5−ALA−HClと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0098】
上記の5mMの5−ALA−HClを含む液体培地と同じpHをもつ液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに約1MのHCl水溶液を5.3μlずつ加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.3μlの約1M HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。
5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まず金ナノ粒子を含む液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。
【0099】
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。ここで用いたMCF−7細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、18〜20時間毎に2倍に増えるものである。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞を、フェノールレッドが含まれないRPMI 1640液体培地に再懸濁し、約4×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0100】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−HClを含む液体培地、上記のHClを含む液体培地、並びに、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない液体培地を100μlずつ加えた。
ここで、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。HClを含む細胞サンプル、並びに5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0101】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、19時間置いた。こうして細胞サンプルの19時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0102】
図10に示されるように、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して顕著に低いことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。また、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で蛍光強度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、その蛍光強度が低くなることもわかる。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用の細胞サンプルの蛍光強度に対して約80%少ない蛍光強度を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、ほとんど蛍光を発しなかった。このことは、細胞がほぼ全て死んでいること示している。
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を23時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。また、特に5nmまたは17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が極めて効果的に抑制されることもわかった。
【0103】
{実施例4−2}
本実施例では、保持時間を0時間、6時間、12時間、および18時間から選択した他は、実施例4−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持した。
10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を5本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を4本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、pHの値が異なる3種類のクエン酸バッファ(pH3.1、3.3、および6.5)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0104】
さらに、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まず、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を1本のチューブに990μl用意し、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を110μl加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を1本のチューブに990μl用意し、水を110μl加えた。
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞を、フェノールレッドが含まれないRPMI 1640液体培地に再懸濁し、約4×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。4枚の96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、各細胞培養プレートの各穴に細胞懸濁液を100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0105】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−HClを含む液体培地、5−ALA−HClを含まない液体培地を100μlずつ加えた。ここで、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0106】
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートのうちの3枚を、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、それぞれ6時間、12時間、および18時間置いた。1枚の細胞培養プレートについては、インキュベータ内に移さずに、すぐさま下記のCCK−Fアッセイを行った。これを0時間のインキュベーションを行った細胞サンプルとした。こうして細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルのインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0107】
図11Aに示されるように、0時間の保持ではいずれの細胞サンプルもほぼ同じ蛍光強度を示したが、図11Bに示されるように、6時間の保持時間では、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルが、他の細胞サンプルに対して低い蛍光強度を示した。また、図11Cに示されるように、12時間の保持時間では、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルが、他の細胞サンプルに対してさらに低い蛍光強度を示したとともに、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルも、他の細胞サンプルに対して低い蛍光強度を示した。また、図11Dに示されるように、18時間の保持時間では、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルが、ほとんど蛍光を示さなくなったとともに、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルも、他の細胞サンプルに対して極めて低い蛍光強度を示した。
【0108】
これらの結果より、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持する場合には、4時間以上の保持時間で細胞増殖の抑制が得られ、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持する場合には、12時間以上の保持時間で細胞増殖の抑制が得られることがわかった。
【0109】
{実施例4−3}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を26時間保持した。
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞をRPMI 1640液体培地に再懸濁し、104個/mlのオーダーの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。12穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3512)を用意し、各穴に細胞懸濁液を2mlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に25時間置いた。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いて直ぐさま、2mlの10%のウシ胎仔血清を含む新鮮なRPMI 1640液体培地を加えた。それぞれの細胞サンプルに11μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの培養液に220μlずつ加えた。これらの培養液は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0110】
ここで、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
以上のようにして調製された細胞サンプルおよび比較用細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、26時間置いた。こうして細胞サンプルの26時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出して、各細胞サンプルの細胞の形態的観察を、デジタルカメラ(Nikon Coolpix 4500)を備えた実体顕微鏡(Nicon Eclipse TS100)を用いて行った。
【0111】
図12に示されるように、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルの細胞は、いずれも正常な形状を有するものであった。しかしながら、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルにおいては、全ての細胞が球状に収縮して、異常な形状を有するものであった。また、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルにおいても、ほとんどの細胞が球状に収縮した異常な形状を有するものであった。さらに、5−ALA−HClと41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルも、多くの細胞が球状に収縮した異常な形状を有するものであった。この結果も、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。なお、5−ALA−HClと、82nmおよび103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルにおいては、球状に収縮した異常な形状を有する細胞は見られなかった。
【0112】
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜41nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を26時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることが形態的観察からもわかった。また、特に5nmまたは17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が極めて効果的に抑制されることもわかった。
【0113】
{実施例4−4}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径の異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の各金ナノ粒子との存在下で乳ガン細胞由来の培養細胞(MCF−7)を19時間保持した。
粉末状の5−ALA−Me(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの5−ALA−Meの水溶液を調製した。10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を4本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる4種類(5nm、17nm、41nm、および82nm)の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられた液体培地は、5−ALA−Meと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの1M5−ALA−Me水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0114】
比較として、5mMの5−ALA−HClを含む液体培地を調製するため、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を4本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに1Mの5−ALA−HCl水溶液を5.5μlずつ加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記4種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。また、10%のウシ胎仔血清を含みかつフェノールレッドを含まないRPMI 1640液体培地を2本のチューブに990μlずつ用意し、それぞれに5.5μlの約1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に110μlずつ加えた。
【0115】
MCF−7細胞は、10%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640液体培地で培養した。ここで用いたMCF−7細胞の細胞数は、37℃および5%のCO2濃度が保たれた雰囲気下で、18〜20時間毎に二倍に増えるものである。Trypsin−EDTAで処理して浮遊化させた細胞を、フェノールレッドが含まれないRPMI 1640液体培地に再懸濁し、約4×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内で24時間放置した。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−Meを含む液体培地、上記の5−ALA−HClを含む液体培地を100μlずつ加えた。
ここで、上記の5−ALA−Meを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0116】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、19時間置いた。こうして細胞サンプルの19時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で1時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0117】
図13に示されるように、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下で保持した各細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、または5−ALA−Meおよび水を加えた液体培地を用いた比較用の細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して顕著に低いことがわかる。この結果は、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下で細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。また、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルの間で蛍光強度を比較したところ、金ナノ粒子の粒径が小さくなるほど、その蛍光強度が低くなることもわかる。これらの細胞サンプルの中で、特に17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、比較用細胞サンプルの蛍光強度に対して約80%少ない蛍光強度を示した。また、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いた細胞サンプルは、ほとんど蛍光を発しなかった。このことは、細胞がほぼ全て死んでいること示している。
【0118】
以上の結果から、5−ALA−Meと、粒径が5〜82nmの金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を19時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。このとき特に5nmまたは17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を用いることにより、細胞増殖が極めて効果的に抑制されることもわかった。
【0119】
{実施例5−1}
本実施例では、5−ALA−HClと、粒径の異なる5種類(5nm、17nm、41nm、82nm、および103nm)の各金ナノ粒子との存在下でヒト繊維芽正常細胞(1522)を24時間保持した。
粉末状の5−ALA−HCl(Sigma−Aldrich社)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−HClの水溶液を調製した。また、非加熱のウシ胎仔血清を20%含むF12液体培地を用意した。なお、以下で単に「F12液体培地」と書いたものは非加熱のウシ胎仔血清を20%含むものである。このF12液体培地を5本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。これらの5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられたF12液体培地は、5−ALA−HClと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に120μlずつ加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0120】
上記の5mMの5−ALA−HClを含むF12液体培地と同じpHをもつF12液体培地を調製するため、F12液体培地を5本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに約1MのHCl水溶液を約3μlずつ加え、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。また、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに約3μlの約1MHCl水溶液を加え、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれの液体培地に120μlずつ加えた。
5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まず金ナノ粒子を含むF12液体培地を調製するため、F12液体培地を5本のチューブに480μlずつ取り、金ナノ粒子の粒径が異なる上記5種類の金クエン酸コロイド液をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。また、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、クエン酸バッファ(pH3.3)または水をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。
【0121】
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。この細胞濃度は細胞数計測装置(Coulter multisizer,model Z2)で測定した値である。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、上述のようにしてあらかじめ用意しておいた5−ALA−HClを含むF12液体培地、HClを含むF12液体培地、並びに、5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まないF12液体培地を各穴に100μlずつ加えた。
【0122】
ここで、上記の5−ALA−HClを含むF12液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。HClを含む細胞サンプル、並びに5−ALA−HClおよびHClのいずれも含まない細胞サンプルの調製についても、5−ALA−HClを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0123】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0124】
図14に示されるように、5−ALA−HClと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して約40%減の蛍光強度を示した。5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子の少なくとも一方を含まない比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して約20%少ない蛍光強度を示した。一方、5−ALA−HClと41〜103nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度については、比較用細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較してそれほど低くないことがわかる。この結果は、5−ALA−HClと5〜17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。
以上の結果から、5−ALA−HClと5〜17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。
【0125】
{実施例5−2}
本実施例では、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子の濃度については22μM、33μM、または44μMとし、5−ALA−HClの濃度については2.5mM、5mM、または10mMとした他は、実施例5−1と同様にして、5−ALA−HClと、粒径が5nmの金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持した。
まず、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液(表1)について、クエン酸バッファ(pH3.3)で金ナノ粒子の含有濃度をそれぞれ3/4、および1/2に希釈したものを用意した。次いで、F12液体培地を16本のチューブに480μlずつ取り、そのうちの4本のチューブのF12液体培地に1.5μlの1M5−ALA−HCl水溶液を加え、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。
【0126】
別の4本のチューブのF12液体培地には3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。さらに別の4本のチューブのF12液体培地には6μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれの液体培地に120μlずつ加えた。
残りの4本のチューブのF12液体培地には5−ALA−HCl水溶液を加えずに、金クエン酸コロイド液、それらの希釈液(金ナノ粒子の含有濃度を3/4または1/2に希釈)、並びにクエン酸バッファ(pH3.3)を、それぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。こうして、金ナノ粒子については0μM、22μM、33μM、および44μMの濃度と、5−ALA−HClについては0mM、2.5mM、5mM、および10mMの濃度との組み合わせの16種類のF12液体培地を調製した。
【0127】
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して、約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれたインキュベータ内に24時間置いた。
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の16種類の液体培地を100μlずつ加えた。ここで、液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において30分以内で行った。
【0128】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間の保持が終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0129】
図15に示したように、5−ALA−HClが加えられていない液体培地を用いた場合、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子が44μM以下の濃度で加えられた細胞サンプルの間では、蛍光強度に大きな差は見られなかった。一方、5−ALA−HClの濃度が2.5mMの場合は、金ナノ粒子が加えられていない細胞サンプルにおいて、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子が加えられていない液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度に対し、10%近くの蛍光強度の低下が見られ、5−ALA−HClのみでわずかな細胞毒性が見られた。この細胞サンプルに対して、さらに金ナノ粒子を44μM以下の濃度で加えた細胞サンプルの間では、蛍光強度に大きな差は見られなかった。
5−ALA−HClの濃度が5mMの場合は、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子が加えられていない細胞サンプルにおいて、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子が加えられていない液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度に対し、20%近くの蛍光強度の低下が見られ、5−ALA−HClのみで幾分かの細胞毒性が見られた。この細胞サンプルに対して、さらに金ナノ粒子を44μMの濃度で加えた細胞サンプルでは、50%近くの蛍光強度の低下が見られた。この結果より、5−ALA−HClの濃度が5mMの場合は、金ナノ粒子を44μMの濃度で加えることにより、暗毒性が顕著に相乗されることがわかった。
【0130】
また、5−ALA−HClの濃度が10mMの場合は、5nmの粒径をもつ金ナノ粒子が加えられていない細胞サンプルにおいて、5−ALA−HClおよび金ナノ粒子が加えられていない液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度に対し、50%近い蛍光強度の低下が見られ、5−ALA−HClのみでかなりの細胞毒性が見られた。この細胞サンプルに対して、さらに金ナノ粒子を33μMの濃度で加えた細胞サンプルでは50%近くの蛍光強度の低下が見られ、また金ナノ粒子を44μMの濃度で加えた細胞サンプルでは75%近くの蛍光強度の低下が見られた。この結果より、5−ALA−HClの濃度が10mMの場合は、金ナノ粒子を33μMまたは44μMの濃度で加えることにより、暗毒性が顕著に相乗されることがわかった。
【0131】
{実施例5−3}
本実施例では、5−ALA−Meと5nmまたは17nmの粒径の金ナノ粒子との存在下でヒト繊維芽正常細胞(1522)を24時間保持した。
粉末状の5−ALA−Me(Sigma−Aldrich)を水に溶かして、1Mの濃度の5−ALA−Meの水溶液を調製した。F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加え、5nmまたは17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液(表1)をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。これらの5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液とが加えられたF12液体培地は、5−ALA−Meと金ナノ粒子を含む細胞増殖の抑制剤である。また、F12液体培地を1本のチューブに480μl取り、3μlの1M 5−ALA−Me水溶液を加え、120μlのクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。
【0132】
一方、5mMの5−ALA−HClを含む比較用F12液体培地を調製するため、F12液体培地を2本のチューブに480μlずつ取り、それぞれに3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、5nmまたは17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液をそれぞれのF12液体培地に120μlずつ加えた。また、F12液体培地を1本のチューブに480μl取り、3μlの1M 5−ALA−HCl水溶液を加え、120μlのクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた。これらの液体培地は、5mMの5−ALA−HClを含むものである。
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して、約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0133】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上記の5−ALA−Meを含む液体培地、または上記の5−ALA−HClを含む液体培地を100μlずつ加えた。
ここで、上記の5−ALA−Meを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−Meおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0134】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間の保持が終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずつ加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0135】
図16に示されるように、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度と大きく変わらないものでった。
5−ALA−Meと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度と比較して85%近くの蛍光強度の低下を示した。また、その蛍光強度は、5−ALA−HClおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度とほぼ同じであった。この結果は、5−ALA−Meと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持したことによって、その細胞に暗毒性が顕著に誘発されたことを示すものである。
【0136】
一方、5−ALA−HClと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で保持した細胞サンプルで得られた蛍光強度は、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度とほぼ同じ蛍光強度を示した。また、その蛍光強度は、5−ALA−HClおよび17nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルで得られた蛍光強度の2倍である。
以上の結果から、5−ALA−Meと5nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持することにより、それらの細胞増殖が抑制されることがわかった。
【0137】
{実施例5−4}
本実施例では、5−ALA−Meと、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子とを混ぜ合わせて細胞に投与した他は、実施例5−2と同様にして、5−ALA−Meおよび金ナノ粒子の存在下で1522細胞を保持した。また、5−ALA−HClと、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子とを混ぜ合わせて細胞に投与した他は、実施例5−2と同様にして、5−ALA−Meおよび金ナノ粒子の存在下で1522細胞を保持した。
1M 5−ALA−Me水溶液と、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液(表1)を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。また、1M 5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。
【0138】
また、1M 5−ALA−HCl水溶液と、粒径が5nmまたは17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。また、1M 5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)を1:20の割合で混合し、室温で4時間放置したものを用意した。
F12液体培地で培養した1522細胞をTrypsin−EDTAで処理して浮遊化させ、新鮮なF12液体培地に再懸濁して、約5×104個/mlの細胞濃度の細胞懸濁液を得た。96穴の細胞培養プレート(Corning Incorporated Corning,model 3596)を用意し、この細胞懸濁液を各穴に100μlずつ分注した。この細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれるインキュベータ内に24時間置いた。
【0139】
各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除き、それぞれに上述のようにして用意した5−ALA−Meを含むF12液体培地、および5−ALA−HClを含むF12液体培地を100μlずつ加えた。ここで、上記の5−ALA−Meを含む液体培地を細胞サンプルに加え始めてから細胞サンプルを下記のインキュベータ内の暗所に設置するまでの操作は、極めて薄暗い白色光の下において10分以内で行った。特に、5−ALA−Meおよび5nmの粒径をもつ金ナノ粒子を含む細胞サンプルは最後に調製したので、薄暗い白色光に曝されていた時間は1分程度であった。5−ALA−HClを含む細胞サンプルの調製についても、5−ALA−Meを含む細胞サンプルを調製した条件と同じ条件で行った。
【0140】
以上のようにして調製された細胞サンプルをもつ細胞培養プレートを、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内に移し、24時間置いた。こうして細胞サンプルの24時間のインキュベーションが終了した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出した。各穴の細胞サンプルから培地のみ(上清液)を除いてDPBSを100μlずり加えた後、細胞毒性検出試薬(Cell Counting Kit F,Dojindo)を用いたCCK−Fアッセイを取り扱い説明書に従って実施した。このCCK−Fアッセイにおいて、細胞サンプルの培地をDPBSに置換する作業を始めてから細胞サンプルにCalcein−AMを加えるまでの作業は、極めて薄暗い白色光(9.5×10−3μW/cm2)の下において20分以内で行った。細胞サンプルにCalcein−AMを加えてから、室温が保たれた完全な暗所で2時間放置した後、485nmの波長の励起光により細胞サンプルから発せられる535nmの蛍光の強度を、蛍光マイクロプレートリーダー(HTS 7000,Perkin Elmer)を用いて測定した。なお、Calcein−AMを加えていない細胞サンプルについても同時にこの蛍光測定を行ったところ、蛍光は全く測定されなかった。
【0141】
図16に示したように、5−ALA−Me水溶液と、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに液体培地に加えた場合のものに比べてわずかに大きくなることがわかった。また、粒径が5nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液と5−ALA−HCl水溶液とを混合して液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに液体培地に加えた場合のものと比べて大きな違いはなかった。
【0142】
しかしながら、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに液体培地に加えた場合のものより著しく低くなることがわかった。これに対し、5−ALA−HCl水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに加えた細胞サンプルのものに比べてわずかに大きいものであった。また、5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)との混合液を液体培地に加えた場合、この液体培地を用いた細胞サンプルの蛍光強度は、それらを混合せずに加えた場合のものと比べて大きな違いはなかった。
これらの結果から、5−ALA−Me水溶液と、粒径が17nmの金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを混合して4時間置き、この混合液を加えた液体培地を用いて、5−ALA−Meと17nmの粒径をもつ金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持することによっても、細胞増殖を抑制できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を23時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、細胞懸濁液にHClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。さらには、細胞懸濁液に5−ALA−HClおよびHClのいずれも加えないで、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。(A)は、細胞数計測装置を用いて得られた各細胞サンプルの細胞濃度を示す。(B)は、トリパンブルー染色法によって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の生細胞濃度を示す。(C)は、CCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=5)の平均の蛍光強度を示す。
【0144】
【図2】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−HClの濃度を10mM以下の様々な値に設定したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを様々な濃度で加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。
【0145】
【図3】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、金ナノ粒子の濃度を40μMより低い様々な値に設定したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金ナノ粒子を様々な濃度で含む金クエン酸コロイド液、またはクエン酸バッファ(pH3.3)を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。
【0146】
【図4】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、保持時間を23時間以内の様々な値に設定したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金ナノ粒子を様々な濃度で含む金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)または水を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。(A)は、細胞の保持時間を0時間、4時間、8時間、12時間、18時間、または23時間としたときの細胞濃度の時間変化を示す。(B)は、細胞の保持時間を4時間としたときに、CCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=3)の平均の蛍光強度を示す。
【0147】
【図5】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−HClと金ナノ粒子とを混合して1時間おいてから細胞に投与したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、および41nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、5−ALA−HCl水溶液と金クエン酸コロイド液との混合液、5−ALA−HCl水溶液とクエン酸バッファ(pH3.3)との混合液、または5−ALA−HCl水溶液を水で希釈した希釈液を、それぞれ細胞懸濁液に加えて調製したものである。比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。このグラフに示したいずれの細胞サンプルも、5mMの濃度で5−ALA−HClを含み、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。棒グラフは、細胞数計測装置を用いて得られた各細胞サンプルの細胞濃度を示す。折れ線グラフは、トリパンブルー染色法によって得られた各細胞サンプルの生細胞濃度を示す。
【0148】
【図6】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−Meを含む細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0149】
【図7】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−Meの濃度を5mM以下の様々な値に設定したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−Meを様々な濃度で加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で24時間行った。
【0150】
【図8】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でHL−60細胞を保持するときに、5−ALA−Meと金ナノ粒子とを混合して3時間以内の様々な時間おいてから細胞に投与したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、および41nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞サンプル(n=2)は、5−ALA−Me水溶液と金クエン酸コロイド液とを混合して0〜3時間おいた混合液、5−ALA−Me水溶液とクエン酸バッファ(pH6.5)とを混合して0〜3時間おいた混合液、または5−ALA−Me水溶液を水で希釈して0〜3時間おいた希釈液を、それぞれ細胞懸濁液に加えて調製したものである。比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−Meを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH6.5)、または水を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。さらには5−ALA−HCl水溶液と17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液とを混合して0〜3時間置いた混合液を細胞懸濁液に加えて調製した細胞サンプルと、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、17nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を加えて調製した細胞サンプルについても併せて示した。このグラフに示したいずれの細胞サンプルも、5mMの濃度で5−ALA−Meまたは5−ALA−HClを含み、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、および41nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で23時間行った。なお、このグラフでは、細胞懸濁液に5−ALA−Meおよび5−ALA−HClのいずれも加えないでクエン酸バッファ(pH6.5)を加えて調製した細胞サンプルで測定された細胞濃度を1とし(図示せず)、他の全ての細胞サンプルで得られた細胞濃度はそれに対する比の値をとって、その平均値を示した。
【0151】
【図9】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でHL−525細胞を22時間保持したときの細胞濃度の増加の違いを示すグラフである。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは44μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは72μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、細胞懸濁液に5−ALA−HClを加えないで、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0152】
【図10】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を24時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。さらには、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水のみを加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。なお、このグラフでは、水のみを加えた液体培地を細胞に投与した細胞サンプルで測定された蛍光強度を1とし、他の全ての細胞サンプルで得られた蛍光強度は、それに対する比の値を示した。
【0153】
【図11】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持するときに、保持時間を18時間以内の様々な値に設定したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、51mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。さらには、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液または水のみを加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。(A)は、保持時間を0時間としたときの蛍光強度を示す。(B)は、保持時間を6時間としたときの蛍光強度を示す。(C)は、保持時間を12時間としたときの蛍光強度を示す。(D)は、保持時間を18時間としたときの蛍光強度を示す。
【0154】
【図12】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を保持したときの細胞の形態的な変化を示す写真である。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、細胞培養液に5−ALA−HClを加えてから、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水を加えて調製したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、5nmの粒径の金ナノ粒子を含む金クエン酸コロイド液を細胞培養液に加えて調製した細胞サンプルと、何も細胞培養液に加えなかった細胞サンプルについても、細胞の形態的な観察を行った。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0155】
【図13】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下でMCF−7細胞を24時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、および82nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−Meを含む細胞サンプルは、5−ALA−Meおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH3.1または6.5)を加えた液体培地、5−ALA−Meおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、5mMの濃度で5−ALA−Meを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、および82nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3または6.5)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0156】
【図14】 5−ALA−HClと金ナノ粒子との存在下で1522細胞を24時間保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=6)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nm、17nm、41nm、82nm、および103nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、5−ALA−HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものであり、5mMの濃度で5−ALA−HClを含むものである。また、5nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは22μMの濃度で、17nm、41nm、82nm、および103nmの粒径の金ナノ粒子を含むものでは36μMの濃度で、それぞれ金ナノ粒子を含むものである。また、比較のために、HClおよび金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、HClおよびクエン酸バッファ(pH3.3)を加えた液体培地、HClおよび水を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。さらには、金クエン酸コロイド液、クエン酸バッファ(pH3.3)、または水のみを加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与した細胞サンプルについても併せて示した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【0157】
【図15】 5−ALA−HClと粒径が5nmの金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持するときに、金ナノ粒子については0μM、22μM、33μM、および44μMの濃度から選択し、5−ALA−HClについては0mM、2.5mM、5mM、および10mMの濃度から選択して1522細胞を保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nmの粒径を狭い粒度分布で有する。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で24時間行った。
【0158】
【図16】 5−ALA−Meと金ナノ粒子との存在下で1522細胞を保持したときの細胞増殖の抑制の効果を示すグラフである。ここではCCK−Fアッセイによって得られた各細胞サンプル(n=2)の平均の蛍光強度を示した。金ナノ粒子は球状であり、5nmおよび17nmのいずれかの粒径を狭い粒度分布で有する。5−ALA−Meを含む細胞サンプルは、5−ALA−Meを加えてから金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、および5−ALA−Meを加えてからクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものと、5−ALA−Meおよび金クエン酸コロイド液を混合して4時間おいてから加えた液体培地、5−ALA−Meおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を混合して4時間おいてから加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものとを調製した。一方、比較のための5−ALA−HClを含む細胞サンプルは、5−ALA−HClを加えてから金クエン酸コロイド液を加えた液体培地、および5−ALA−HClを加えてからクエン酸バッファ(pH6.5)を加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものと、5−ALA−HClおよび金クエン酸コロイド液を混合して4時間おいてから加えた液体培地、5−ALA−HClおよびクエン酸バッファ(pH6.5)を混合して4時間おいてから加えた液体培地を用意し、これらの液体培地をそれぞれ細胞に投与したものとをそれぞれ調製した。細胞の保持は、37℃および5%のCO2濃度が保たれ、かつ完全に真っ暗なインキュベータ内で行った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子との存在下で細胞を保持することを特徴とする細胞増殖の抑制方法。
【請求項2】
該金属は貴金属である請求項1に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項3】
該貴金属は金である請求項2に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項4】
該ナノ粒子は100ナノメートル以下の粒子サイズを有する請求項1〜3に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項5】
前記5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種は、5−アミノレブリン酸塩酸塩および/または5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩である請求項1〜4に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項6】
5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子と、を含むことを特徴とする細胞増殖の抑制剤。
【請求項1】
5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子との存在下で細胞を保持することを特徴とする細胞増殖の抑制方法。
【請求項2】
該金属は貴金属である請求項1に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項3】
該貴金属は金である請求項2に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項4】
該ナノ粒子は100ナノメートル以下の粒子サイズを有する請求項1〜3に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項5】
前記5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種は、5−アミノレブリン酸塩酸塩および/または5−アミノレブリン酸メチルエステル塩酸塩である請求項1〜4に記載の細胞増殖の抑制方法。
【請求項6】
5−アミノレブリン酸類およびその塩から選ばれる物質の少なくとも一種と、金属および金属化合物から選ばれる物質の少なくとも一種を含むナノ粒子と、を含むことを特徴とする細胞増殖の抑制剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−62351(P2009−62351A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263784(P2007−263784)
【出願日】平成19年9月8日(2007.9.8)
【出願人】(507335160)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月8日(2007.9.8)
【出願人】(507335160)
【Fターム(参考)】
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