説明

細胞増殖及びバイオポリエステル形成の促進のための、PHA回収で生成された細胞残屑の使用

ポリヒドロキシアルカノエートの回収、精製で残る細胞残屑を用いて、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を含む生物分解性の高分子材料を生産する方法に関連する。その方法は、(a)PHAを産生する微生物細胞を、有機体炭素源を含む培養液中で培養し、封入体として細胞内に蓄積されるPHAを形成する工程、(b)使用済みの培養液から細胞を取り出し、非PHA細胞塊を可溶化して、PHA固体及び細胞残屑溶液を得る工程、(c)PHA固体を細胞残屑溶液から分離する工程、(d)培養工程(a)に細胞残屑溶液を供給する工程、を含む。PHA回収から生じる細胞残屑の再利用により、本発明は大量の水性廃棄物の処理を回避する。更に、細胞残屑は微生物細胞によって栄養素として容易に同化され得るので、細胞増殖及びPHA合成の顕著な増進を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機体炭素源、例えば砂糖大根パルプや糖液、から生物分解性の高分子材料を生産する方法に関連する。特に、本発明は、細胞からのポリヒドロキシアルカノエートの回収、精製で残る有機性廃棄物の典型である細胞残屑(cell debris)を用いて、ポリヒドロキシアルカノエートを含む生物分解性の高分子材料を生産する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、3-ヒドロキシブチレート(3HB)、3-ヒドロキシバレレート(3HV)、4-ヒドロキシバレレート(4HV)、3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)のようなヒドロキシアルカノエートの単独重合体又は共重合体である。これらの熱可塑性の又は伸縮するバイオポリマーは、炭素及びエネルギーの貯蔵材料として、多くの微生物、特に細菌によって合成、蓄積される。PHAは、糖、有機酸及びアルコールを含む炭素源上の水性媒体(aqueous medium)中で微生物細胞を培養することで都合よく合成される。種や発育条件によって、小さな顆粒(0.3-0.5μm)の形のバイオポリエステルは、乾燥細胞塊(mass)の50〜80質量%の割合を占める。
【0003】
バイオプラスチックが所望の純度と材料特性を有するように、PHA顆粒は残りの非PHA細胞塊(non-PHA cell mass)から分離するべきである。タンパク質、核酸、脂質及び細胞壁断片を含む、PHAの回収の残りの細胞残屑は市場価値がなく、固形廃棄物として廃棄するかプロセス廃水として廃棄するかのいずれかである。
【0004】
ポリエステルの有機溶媒抽出又は非PHA細胞塊の消化のいずれかに基づく二つの技術が、PHAの回収のために通常使用される。前者においては、PHA顆粒を適切な有機溶媒に溶かし、細胞残渣固形物を残す。後者の場合、PHA顆粒を固体として残し、非PHA細胞塊を水溶液中で生物剤や化学薬品を使って消化、溶解する。これらの処理に続く従来の固体/液体分離は、PHA産物の流れと非PHA細胞残屑の別の流れとを生じさせる。細胞組成物によっては、細胞残屑は実際には細胞増殖の全ての肝要な成分を含む真の細胞塊であり、一方、産物であるPHAは炭素保存材料であるに過ぎない。PHAポリエステルを生産するために、十分な栄養素(炭素、窒素、リン、ミネラル、及び有機増殖因子)を消費して、今度は炭素源からバイオポリエステルを合成する十分な数の細胞を増殖しなければならない。
【0005】
米国特許第7,514,525号明細書はPHAを含む細胞塊からPHAバイオポリマーを回収、精製及び分離する方法に関連し、前記方法は、以下の工程、
(a)酸性溶液中で非PHA細胞塊を可溶化し、部分的に結晶化したPHA顆粒の懸濁液を残す工程、
(b)懸濁液のpHを7〜11に調整し、溶解した非PHA細胞塊からPHA固体を分離する工程、
(c)漂白溶液にPHA固体を再び懸濁して、脱色する工程、
(d)得られたPHA固体を乾燥する工程、
を含む。
細胞塊中の約95%以上のPHAが回収され、PHA固体の純度は約97%以上である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件出願人は、微生物発酵により有機体炭素源からPHAを生産する方法の収量の向上の問題に取り組んできた。本件出願人はまた、PHAの回収、精製から残った細胞残屑の処分の問題にも取り組んできた。本件出願人は、非PHA細胞塊の可溶化で得られる細胞残屑を、PHAを産生する微生物に更に栄養を与えるのに用いることで、上記の問題が解決できることを発見した。上記細胞残屑の栄養素としての再利用は、グルコース、フルクトース、スクロースのような炭素基質上で、これらは微生物細胞によって容易に同化され得るので、細胞増殖及びPHA合成の効率を著しく増加させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、第一の特徴によると、本発明は、有機体炭素源由来のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を含む生物分解性の高分子材料を生産するための方法に関連し、前記方法は以下の工程、
(a)PHAを産生する微生物細胞を、有機体炭素源を含む培養液(medium solution)中で培養し、封入体として細胞内に蓄積されるPHAを形成する工程、
(b)使用済みの培養液から細胞を取り出し、非PHA細胞塊を可溶化して、PHA固体及び細胞残屑溶液を得る工程、
(c)PHA固体を細胞残屑溶液から分離する工程、
(d)培養工程(a)に細胞残屑溶液を供給する工程、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1a】図1aは、細胞残屑の添加と細胞増殖の関係を示す。
【図1b】図1bは、細胞残屑の添加とPHA合成の関係を示す。
【図2】図2は、三つの型の細胞残屑の添加と細胞増殖の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「有機体炭素源」は、グルコース、フルクトース、スクロース、同様の炭水化物又は砂糖大根パルプ、砂糖大根糖液、サトウキビ糖液といった炭水化物のあらゆる有機体混合物のような、PHAを産生する微生物細胞によって代謝され得るあらゆる有機化合物又はその混合物を意味する。培養液は、有機体炭素源に加えて、細胞増殖のための栄養素として、添加された有機体増殖因子の窒素、リン及び/又は他の材料を含んでもよい。
【0010】
好ましい態様によると、可溶化の工程(b)は、
(b1)酸性溶液中で非PHA細胞塊を可溶化して、酸性細胞残屑溶液中にPHA固体の第一の懸濁液を得る工程、
(b2)第一の懸濁液のpHを7〜11の値に調整して、塩基性細胞残屑溶液中にPHA固体の第二の懸濁液を得る工程、
によって実施される。
【0011】
上記の好ましい態様によると、PHA顆粒を含む細胞はまず酸性溶液中で処理され、大部分のタンパク質を放出する(酸性細胞残屑)。同時に、PHA顆粒は本来の不安定な構造から一部が結晶化し、このことがポリエステルを丈夫で化学的消化に耐久性のあるものにする。酸処理は、硫酸のような強酸の水溶液を加えて実施してもよい。水素イオン(H+)濃度を0.01〜0.5モル/Lにするために、強酸の水溶液は非PHA細胞塊に加えられるのが望ましい。可溶化工程(b1)は、80℃〜130℃の温度、0.5〜5時間の時間で実施されるのが望ましい。
【0012】
酸性溶液からの分離の後、PHA顆粒を含む細胞は、非PHA細胞塊の残りを溶解するために塩基性溶液中で更に処理される。塩基性溶液は少なくとも一つの、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのような、強塩基の水溶液であるのが望ましい。
【0013】
アルカリ処理は、少なくとも一つのイオン性界面活性剤、望ましくはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のようなC6-C18のアルキル硫酸塩、を加えることにより支援され得る。前記の少なくとも一つの界面活性剤は、細胞破壊や膜分解を促進する。前記の少なくとも一つの界面活性剤は、望ましくは2〜10g/Lの量で、より望ましくは4〜7g/Lの量で加えられるのが良い。
【0014】
上記二工程の処理はほとんどの非PHA細胞塊を消化、溶解し、PHAはほとんど失わない。同等に重要であるが、前記処理は、増殖及びPHA形成のための栄養素として微生物細胞に直接吸収され得る適切な形に細胞残屑を変換し得る。
【0015】
PHAの回収においては、水性廃棄物として以下の三つの型の細胞残屑が生成される。
1 酸性溶液中で細胞から放出されたタンパク質や他の水溶性の生物化合物を含む、酸性細胞残屑溶液(ACDS)。
2 酸処理を受けた細胞の残余由来のアミノ酸、脂肪酸及び他の消化された細胞成分をアルカリ条件下で含む少なくとも一つの界面活性剤を任意に含む、塩基性細胞残屑溶液(BCDS)
3 アミノ酸、脂肪酸、ペプチド及び他の消化された細胞成分を酸性、塩基性の両方の条件下で含む少なくとも一つの界面活性剤を任意に含む、酸-塩基細胞残屑溶液(ABCDS)。この水性廃棄物溶液は、細胞分離なしに一連の酸処理、塩基処理がなされたときに生成する。
【0016】
本発明によると、これら三つの型の細胞残屑は、微生物のPHAバイオポリエステル産生における栄養素として再利用することができる。
【0017】
従って、第一の好ましい態様によると、本発明の方法において、分離工程(c1)は第一の懸濁液で実施され、得られた酸性細胞残屑溶液は工程(d)によって供給される。
【0018】
第二の好ましい態様によると、本発明の方法において、分離工程(c2)は第二の懸濁液で実施され、得られた塩基性細胞残屑溶液は工程(d)によって供給される。
【0019】
分離工程(c1)及び分離工程(c2)は第一の懸濁液及び第二の懸濁液で別個に実施され、得られた細胞残屑溶液は工程(d)によって供給されるのが望ましい。
【0020】
第三の好ましい態様によると、本発明の方法において、分離工程(c3)は第二の懸濁液でのみ実施され、得られた酸-塩基細胞残屑溶液は工程(d)によって供給される。
【0021】
有機体炭素源と共に培養工程(a)に供給される細胞残屑の総量は、グルコースに相当する炭素基質の質量で、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜40%が良い。「グルコースに相当する炭素基質の質量について」は微生物発酵の基質としてのグルコースに相当する量で表された有機炭素源の量を意味する。
【0022】
工程(a)に供給される酸性細胞残屑溶液(ACDS)の場合、細胞残屑の量は、グルコースに相当する炭素基質の質量で5〜20%が望ましい。実際には、上記の量が質量で20%を超えるとき、細胞増殖やPHA形成においてACDSによる抑制効果が観察される。そのような効果はBCDS又はABCDSを供給するときには観察されない。
【0023】
分離工程(c)から得られるPHA固体には、所望の純度及び品質を得るために、参照によりその全体が本願に組み込まれる上記の米国特許第7,514,525号明細書で報告されているように、従来技術によって脱色、洗浄及び/又は乾燥のような更なる処理を行ってもよい。
【0024】
以下の実施例は発明をより良く説明するものであるが、その範囲を限定するものではない。
細胞残屑溶液
【0025】
PHA発酵の後、5000g、10分間の遠心分離によって、PHA顆粒を含む細胞を培養液(medium)から取り出した。湿った細胞ペレットは、培養液の体積、遠心分離の力及び時間によって、450〜500g乾燥質量/Lの密度を有していた。非PHA細胞塊(約30% w/w)を3工程で除くことにより、PHAを細胞から回収、精製した。(1)酸処理、(2)塩基処理、(3)次亜塩素酸塩脱色、そして(4)洗浄及び乾燥である。詳細を以下に述べる。
(1)酸処理。発酵液体培地からの湿った細胞小球を同体積の0.2MのH2S04水溶液に再懸濁した。200〜250g乾物/Lのスラリーを加熱して沸騰させて、周囲条件下で1時間放置した。室温まで冷ました後、酸前処理をした小球を5000g、10分間の遠心分離によって酸溶液から分離した。きれいな上清は茶色がかった色をしており、スラリーの密度及び処理条件によって、35〜65g/Lの固体含有率であった。以後これを酸性細胞残屑溶液(ACDS)と呼ぶ。
(2)塩基処理。酸前処理からの湿った細胞小球を、5MのNaOH溶液でpHを10.2〜10.5に予調整した同体積の水に再懸濁した。少量の、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、CH3(CH2)11OS03Na)のような界面活性剤を5g/Lの濃度になるように加えて、スラリーを周囲条件で30分間攪拌した。それを加熱して沸騰させ、周囲条件下に10分間放置した。5000g、15分間の遠心分離の後、処理を受けたPHA/細胞を黒っぽい上清から分離した。上清溶液は30〜60 g乾物/Lの固体含有率であり、以後は塩基性細胞残屑溶液(BCDS)と呼ぶ。
(3)一連の上記の酸、塩基処理は、酸処理後の細胞分離なしでも実施し得た。水酸化ナトリウムのような塩基やSDSのような界面活性剤は直接酸性の細胞スラリーに加えて、塩基処理のためpHを10〜10.5に上げた。酸-塩基細胞残屑溶液、以後ABCDSと呼ぶ、は塩基処理に続く固体/液体分離で生成される。水性廃棄物は、一連の酸及び塩基処理で溶解した2つの型の細胞残屑を含んだ。
(4)次亜塩素酸塩脱色。塩基処理からの湿った小球を、6%w/wの次亜塩素酸塩を含む市販の漂白溶液に再懸濁した。漂白溶液の体積は、PHAを含む乾燥固体1に対して次亜塩素酸塩1の割合に基づいて見積もった。PHA固体の量は、湿った質量及びその60%w/wの乾燥固体含有率から見積もった。スラリーを周囲条件下で2時間攪拌した。5000g、20〜30分間の遠心分離の後、白いPHA小球を回収した。残りのヒポクトンテ(hypochtonte)を含む上清溶液は、新たな次亜塩素酸塩を加えた後、漂白のために再利用した。
(5)洗浄及び乾燥。漂白からの湿った白いPHA固体を水で2回洗浄し、オーブンで80℃で乾燥した。最終PHA産物は白色粉末であった。
【0026】
次のスキームはPHA回収及び精製、そして酸性、塩基性細胞残屑溶液の排出の例を示す。この例では、72%w/wのPHA含有率である83.4gの乾燥細胞塊(DM)を含む、0.3Lの細胞スラリーから始めた。細胞残屑除去の処理の後、最終的なPHA粉末は96.4%のPHAを含んだ。
【0027】

【0028】
酸前処理の後、72.2gの乾燥固体が回収されて、11.2gの細胞残屑が酸性溶液中に溶解されて、排出された。塩基、SDS処理で、59.4gの乾燥固体が回収されて、12.8gの細胞残屑が塩基性溶液中に溶解されて、排出された。分離損失により、少量のPHAポリマーが細胞残屑中に失われた。酸及び塩基処理から排出された細胞残屑は、PHA回収、精製の過程から排出される全細胞残屑の90質量%以上の割合を占める。
PHA発酵における細胞残屑の使用
【0029】
上記に示すPHA回収において、タンパク質、核酸、膜脂質、細胞壁断片を含む、非PHA細胞塊は、可溶性の固体として水溶液中に溶解される細胞残屑へ分解される。
【0030】
上記にスキームで示すように、高PHA含有率(72%w/w)の細胞塊から始めて、1kgのPHAの生産が、96.4w/wの純度で、約0.45kgの細胞残屑を生じる。水溶液中のこの大量の廃棄物の処分は高いコストのかかる作業であるが、細胞残屑がPHA発酵に再利用できるならば、付加的な価値を持って回避し得る。細胞増殖及びPHA形成における細胞残屑の効果を明らかにするために、微生物培養を500mLフラスコに並行して行った。フラスコ培養液は同じグルコース濃度(10〜20g/L)で、下の表1に示すように同体積のミネラル溶液(160mL)であり、同じ接種剤及び大きさである。所定量の細胞残屑溶液を加えた後、前もって殺菌、蒸留、脱イオン化した水を加えてフラスコ培養液の全量を200mLにした。回転式の培養器の中でフラスコを200rpm、30℃で24又は48時間振とうした。細胞塊濃度及びPHA含有率は文献で説明されているように決定した。(Jian Yu and Lilian X. L. Chen (2006), "Cost-effective recovery and purification of polyhydroxyalkanoates by selective dissolution of cell mass", Biotechnology Progress, 22:547-553参照)
【表1】

事例1:酸性細胞残屑溶液(ACDS)の使用
【0031】
38g/Lの可溶性固体を含む酸性細胞残屑溶液をこの例では使用した。グルコースに対して異なる割合の細胞残屑となるように、所定量のACDSをフラスコに加えて、それぞれ砂糖の0、10、20、25%とした。実験の対照として、細胞残屑無しの複製を並行して実施した。図1に示すように、細胞増殖及びPHA合成に細胞残屑は明らかに有益である。その利益は、二つの対照との比較において統計的に有意である。第一に、細胞残屑は最初の24時間で対照よりも早く細胞を増殖させる。第二に、細胞残屑はまた、48時間で対照よりも多くの細胞を生み出す付加的な炭素源として使用され得る。第三に、細胞残屑はPHA合成において同じプラス効果を有する。第四に、グルコースに対する細胞残屑の最適の割合がある(この場合では10%w/w)。図1に示すように、過剰の細胞残屑は細胞増殖及びPHA形成を妨げる。
【0032】
この実証において、全体的な細胞増殖収量(Yx/s)及びPHA形成収量(Yp/s)は、使用されない糖の量に関わらず、細胞塊及び形成されたPHAの量と最初に加えた糖の量とから計算する。表2に示すように、収量を対照と比べると、PHA発酵において細胞残屑を再利用する利益は明らかかつ十分である。対応する収量の相違は統計的に有意義である。一般に、糖の約10%w/wの適量の細胞残屑では、対照と比較して細胞増殖は40〜50%、PHA形成は45〜65%w/wの増幅率である。収量は細胞残屑の添加なしの対照との比較である。
【表2】

事例2:酸-塩基細胞残屑溶液(ABCDS)の使用
【0033】
表3に示すように、同じ上記フラスコ培養液で、酸-塩基細胞残屑溶液(48.5g/Lの水溶性固体)を、グルコースに対して異なる割合の細胞残屑となるように(0〜40質量%)加えた。細胞残屑の添加なしの対照と比較して、細胞塊とPHA含有量の両方の濃度が、十分に増加した。相対的な収量は100〜300%に増加した。酸-塩基細胞残屑の抑制的な効果は観察されなかった。おそらくはアルカリ処理における阻害物質の消化のためであろう。
【表3】

事例3:増殖栄養素としての三つの型の細胞残屑溶液の比較
【0034】
同じ上記フラスコ培養液で、三つの型の細胞残屑溶液(ACDS、BCDS、ABCDS)を、異なる濃度の細胞残屑となるように加えた。細胞残屑なしの対照と比較した細胞塊濃度は、図2に示すように48時間の培養後に比較した。図2に報告する相対的な細胞増幅率は、対照に対する細胞塊濃度の割合である。細胞増殖におけるACDS及びBCDSの栄養上の効果は非常に良く似ており、ABCDSはACDS、BCDSよりも栄養上の価値を有する。
事例4:細胞残屑中の界面活性剤の効果
【0035】
SDSのような界面活性剤はPHA回収において、細胞を分解し、ポリエステルから脂質と色素を除去するために、任意に用いられる。それらは可溶であり、細胞残屑溶液中に残って、PHA発酵に細胞残屑溶液が再利用されたときにそのことが細胞増殖において不利な効果の原因となる。この例では、48.5g/Lの水溶性固体及び5g/LのSDSを含む酸-塩基細胞残屑溶液を使用した。同じ上記フラスコ培養液(12 g/Lのグルコース)で、細胞残屑が1.94g/L、SDSが0.2g/Lとなるように、8mLのABCDSを加えた。SDS濃度を0.4、0.6、0.8g/Lに増やすために、追加のSDSも加えた。表4は、異なる界面活性剤濃度での細胞増殖及びPHA形成の結果を示す。細胞残屑及び界面活性剤の無い対照に比べて、細胞残屑入りのすべてのフラスコは、細胞増殖に利益を示した。PHA形成も低〜中程度の界面活性剤濃度(0.2〜0.6g/L)では促進されるが、高SDS濃度(0.8g/L)では大部分が損傷を受ける。低SDS濃度(0.2〜0.4g/L)での細胞残屑の利益は、対照と比較してPHA濃度で200〜300%の増加を引き起こす。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を含む生物分解性の高分子材料を有機炭素源から生産する方法であって、以下の工程、
(a)有機体炭素源を含む培養液中で、PHAを産生する微生物細胞を培養して、細胞中に封入体として蓄積されるPHAを形成する工程、
(b)使用済みの培養液から細胞を収穫し、非PHA細胞塊を可溶化して、PHA固体及び細胞残屑溶液を得る工程、
(c)前記PHA固体を前記細胞残屑溶液から分離する工程、
(d)培養工程(a)に前記細胞残屑溶液を供給する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記可溶化工程(b)が以下の工程、
(b1)酸性溶液中で非PHA細胞塊を可溶化して、酸性の細胞残屑溶液中にPHA固体の第一の懸濁液を得る工程、
(b2)第一の懸濁液のpHを7〜11の値に調整して、塩基性の細胞残屑溶液中にPHA固体の第二の懸濁液を得る工程、
によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分離工程(c1)が第一の懸濁液で実施され、得られた酸性の細胞残屑溶液が工程(d)によって供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
分離工程(c2)が第二の懸濁液で実施され、得られた塩基性の細胞残屑溶液が工程(d)によって供給される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
分離工程(c3)が第二の懸濁液で実施され、得られた酸-塩基性の細胞残屑溶液が工程(d)によって供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
培養工程(a)に供給される細胞残屑の全量が、グルコースに相当する炭素基質の量に対して質量で5〜50%、好ましくは質量で10〜40%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)に供給される酸性の細胞残屑溶液(ACDS)の量が、グルコースに相当する炭素基質の質量に対して質量で5〜20%である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
調整工程(b2)が、第一の懸濁液への少なくとも一つの界面活性剤の添加を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも一つの界面活性剤が、イオン性界面活性剤、好ましくはC6-C18のアルキル硫酸塩である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも一つの界面活性剤が、2〜10g/L、好ましくは4〜7g/Lの量で添加される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
可溶化工程(b1)が、非PHA細胞塊への硫酸のような強酸の水溶液の添加を含む、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
水素イオン(H+)濃度が0.01〜0.5モル/Lとなるように強酸の水溶液が非PHA細胞塊へ添加される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
可溶化工程(b1)が、80〜130℃の温度、0.5〜5時間の時間で実施される、請求項2〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
調整工程(b2)が、第一の懸濁液への少なくとも一つの、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような強塩基の水溶液の添加を含む、請求項2〜13のいずれか1項に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−507908(P2013−507908A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533702(P2012−533702)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/IB2009/007142
【国際公開番号】WO2011/045625
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512099677)
【Fターム(参考)】