説明

細胞増殖抑制剤、細胞または臓器の保存液

【課題】ヤママリン誘導体の新規かつ有用な用途を提供すること、特に、移植臓器の虚血後再灌流障害の発生を防ぎ、さらに、臓器の保存温度を低温としなくとも、十分な保存効果を発揮する細胞および臓器の保存液を提供すること。
【解決手段】C6−DILRG−NHおよびC10−DILRG−NHを有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞増殖抑制剤、細胞または臓器の保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、ヤママユガ科(Saturniidae)の天蚕(Antheraea yamamai)に関する研究の中で、アミノ酸配列、アスパラギン酸−イソロイシン−ロイシン−アルギニン−グリシン(DILRG)を有し、C末端がアミド化されており、分子量が570.959である新規なペプチドを見出し、このペプチドの休眠制御作用、ガン細胞の増殖抑制作用を明らかにすることで、特許を取得している(特許文献1、2)。なお、このペプチドは、本発明者らによって、「ヤママリン」と命名されてもいる。
【0003】
また、本発明者らは、前記ペプチドの細胞浸透性および細胞増殖抑制活性を上昇させるために、ペプチド誘導体についての研究を進め、パルミチン酸との結合体(「C16−ヤママリン」と命名されている)の顕著な細胞増殖抑制活性を報告している(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、非特許文献1では、C16−ヤママリン以外のペプチド誘導体(C2、C8)に関しては、細胞抑制効果が確認されていない。したがって、C16以下の炭素数のペプチド誘導体についてはその有用な用途が確立されているとはいい難かった。
【0005】
一方、医療技術の進歩に伴い、臓器の移植手術が広く行われるようになっている。傷病者における臓器の障害が甚だ大きく、通常の治療による回復が見込めない場合には、提供者の臓器を被提供者に移植して治療する。移植手術のために臓器提供者(ドナー)から摘出された移植臓器は、血流が途絶し血流を介した酸素の供給がない状態(虚血状態)で、移植まで数分から数時間に渡り保存される。この際、保存温度や保存液などの保存条件が適切に選択されなかったり、移植までに長時間を要する場合がある。こうした場合、移植によって移植臓器内の血流が回復した際(再灌流時)に、移植臓器に基質的あるいは機能的な障害が生じる場合がある。例えば、肝臓移植においては、移植後に凝固活性の亢進や血栓形成を伴って微小循環障害に陥り、グラフト肝機能不全が認められる場合がある。このような障害は、一般的に移植臓器の虚血後再灌流障害とよばれている。
【0006】
こうした症状を防ぎ、移植用臓器を生理的に良好な状態で保存するための方法についての検討がなされてきた。そして、現在までに報告されている臓器保存法は、1)灌流法、2)単純浸漬保存方法、の2つの方法に大別される。
【0007】
灌流法は、保存期間中に臓器灌流を行って、細胞に必要な酸素や栄養素を補給し、かつ老廃物を除去することで、臓器の代謝を維持し、保存期間の延長を図るものである。しかしながら、灌流法による臓器保存には、灌流温度、灌流圧、灌流量、灌流液の組成など様々な因子が関係するため、詳細な至適条件が確立されていない。
【0008】
一方、単純浸漬保存法は、臓器を低温に保持して細胞の代謝を抑制することで、酸素欠乏による組織障害を防止する方法であり、簡便かつ有効な方法として、臨床現場では、広く用いられている。具体的には、摘出前あるいは摘出後に、流入血管などから、低温の保存液を用いて臓器の血管床から血液成分を洗浄後、摘出臓器を同保存液に浸漬する方法が一般的である。
【0009】
実用化されている臓器保存液としては、グルコースと諸種の電解質を含んでなるユーロコリンズ液と、不浸透成分、膠質浸透圧成分、エネルギー代謝促進成分及びホルモンをそれぞれ含んでなるウィスコンシン液がよく知られている。しかしながら、ユーロコリンズ液は生存能力の高い腎臓には有効であるが、腎臓以外の臓器に対しては、組織・細胞に対する保護効果が十分でないと言われており、また、ウィスコンシン液は製剤として不安定であり、調製後は低温保存しなければならない欠点があると言われている。
【0010】
このような欠点を克服するため、様々な臓器保存液も提案されている(例えば、特許文献3、4、5)。しかしながら、これらの臓器保存液も、製剤の調製と恒常性の維持が難しく、また、水に対する溶解度が低いなどの問題を有しているものもある。
【0011】
さらに、上記のいずれの臓器保存液においても、臓器を低温に保持する必要があるため、移植後の臓器の機能回復が妨げられているという根本的な問題もある。さらに、冷却装置などを必要とし、臓器の搬送時の負担が大きいことも改善すべき点として指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3023790号
【特許文献2】特許第3579711号
【特許文献3】特開2000-191401号公報
【特許文献4】特開2002-60301号公報
【特許文献5】特開2005-306749号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yang et al. A Palmitonyl Conjugate of an Insect Pentapeptide Causes Growth Arrest in Mammalian Cells and Mimics the Action of Diapause Hormone (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そして、上記の背景から、本発明者は、C16−ヤママリン以外のペプチド誘導体についての細胞増殖抑制効果に関する新たな知見を見出した。
【0015】
本発明は、C16−ヤママリン以外のペプチド誘導体の新規かつ有用な用途を提供すること、特に、移植臓器の虚血後再灌流障害の発生を防ぎ、さらに、臓器の保存温度を低温としなくとも、十分な保存効果を発揮する細胞および臓器保存液を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の細胞増殖抑制剤は、次式で表される化合物を有効成分として含有することを特徴としている。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)
さらに、本発明の細胞または臓器の保存液は、次式で表される化合物を有効成分として含有することを特徴としている。
【0019】
【化2】

【0020】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)
本発明の細胞または臓器の保存方法は、次式で表される化合物を有効成分として含有する細胞または臓器の保存液に、細胞または臓器を浸漬することを特徴としている。
【0021】
【化3】

【0022】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)
本発明の細胞または臓器の保存方法では、保存液の温度は、5〜37℃であることが好ましい。
【0023】
さらに本発明の新規化合物は次式で表される。
【0024】
【化4】

【0025】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)
【発明の効果】
【0026】
本発明の細胞増殖抑制剤は、細胞の増殖を顕著に抑制することができる。したがって、継代培養のインターバルを柔軟に変化させることができ、細胞培養従事者等の労力を著しく軽減することができる。また、本発明の保存液は、細胞または臓器を効果的に保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の細胞増殖抑制剤は、有効成分として以下の化合物を含有している。
【0028】
【化5】

【0029】
この化合物における式中のRは、アシル基を示しており(以下、「N末端アシル化DILRG−NH」という)、このN末端アシル化DILRG−NHは、従来、本発明者らの研究によって見出された、「アスパラギン酸−イソロイシン−ロイシン−アルギニン−グリシンを有し、C末端がアミド化されたペプチド」(以下、「DILRG−NH」という)のN末端に、アシル基を導入することで合成することができる。DILRG−NHは、例えば、天蚕(Antheraea yamamai)の幼虫から単離、精製したものを使用することもできるし、公知のペプチド合成法により製造したものを使用することもできる。またその他の方法によって取得することもできるが、経済性、大量生産性等を考慮すれば、ペプチド合成法による取得が好ましい。
【0030】
そして、アシル基の導入は、公知の方法で行なうことができ、N末端アシル化DILRG−NHにおけるアシル基の炭素数は、細胞浸透性、細胞の酸素消費量抑制効果、細胞増殖抑制効果の観点から、6または10とすることができる。
【0031】
本発明の細胞増殖抑制剤の対象となる細胞としては、ヒトまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚細胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞を含み、さらに、家畜などの動物や魚類の精子、卵子または受精卵、昆虫細胞、植物細胞などが含まれる。
【0032】
さらに、本発明の細胞増殖抑制剤は、例えば、公知の培地で培養されている細胞に対して適量(例えば、終濃度10μM〜10mM程度)添加して使用することができる。また、本発明の細胞増殖抑制剤は、例えば、有機溶媒等に溶解した状態で使用することができる。本発明の細胞増殖抑制剤は、その増殖抑制活性を阻害しないことを条件に、その他各種の公知の組成物を包含することができる。本発明の細胞増殖抑制剤によれば、継代培養のインターバルを柔軟に変化させることができ、細胞培養従事者等の労力を著しく軽減することができる。
【0033】
そして、本発明の保存液は、N末端アシル化DILRG−NHが、細胞および臓器の酸素消費量を可逆的に抑制することができるという新規な知見に基づいている。このような昆虫由来のペプチドを利用した臓器保存液も、従来全く知られていない。
【0034】
そして、酸素消費抑制効果が可逆的であることは、細胞および臓器の保存剤として有用であることを意味している。
【0035】
すなわち、本発明の保存液は、N末端アシル化DILRG−NHを溶液として調製したものであるが、例えば、移植臓器を保存する場合、保存期間中は、臓器を保存液に浸漬することで酸素消費量を抑制し、移植前に、保存液から臓器を取り出すことで、再び、臓器の酸素消費量を正常に戻すことができる。したがって、酸素欠乏による臓器の組織障害を防止することができる。
【0036】
さらに、N末端アシル化DILRG−NHは、化学構造の骨格となるアミノ酸の数が5と少なく、極めて短い低分子であることから、例えば、保存液の調製および恒常性の維持が容易である。また、常温での保存が可能で、保存性、取扱い性にも優れ、長時間の保存も可能である。
【0037】
また、本発明の保存液は、N末端アシル化DILRG−NH単独の形態であっても、N末端アシル化DILRG−NHとそれ以外の、例えば、グルコース、マルトース、シュークロース、ラクトース、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、ヒドロキシエチル澱粉、プルランなどの糖質、グルコン酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、β−ヒドロキシ酪酸、クエン酸などの有機酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、燐酸二水素ナトリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二ナトリウム、燐酸水素二カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの電解質、L−アスコルビン酸、ビタミンEなどのビタミン、グリシン、グルタミン酸、リジンなどのアミノ酸、抗利尿ホルモン、インスリンなどのホルモン、クエン酸、クエン酸塩、ヘパリン、エデト酸ナトリウムなどの抗凝固剤、カルシウム拮抗剤、アドレナリンβ受容体拮抗剤、アンギオテンシン変換酵素阻害剤などの降圧剤、アデノシン酸燐酸などの核酸塩基、凍結防止蛋白質などの凍結防止剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、抗生物質、抗血小板因子、肝障害抑制剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、粘性剤、再吸収促進剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、防腐剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、緩衝剤、pH調整剤などの、臓器保存液に通常一般に配合される成分の1又は複数との組成物としての形態であってもよい。
【0038】
また、この発明の保存液を、例えば、ユーロコリンズ液やウィスコンシン液などの公知の臓器保存液に配合して用いるときには、それらの臓器保存能を改善することもできる。
さらに、この発明の保存剤によって、細胞、臓器を保存する場合は、保存液中のN末端アシル化DILRG−NHの濃度は、細胞、臓器の種類やその他の条件に応じて適宜決定することができる。具体的には、例えば、10μM〜10mMの範囲を例示することができる。
【0039】
そして、本発明の保存液を使用する条件として好ましい適用温度は、5〜37℃、特に好ましくは、25〜37℃である。本発明の保存液は、従来のように、必ずしも低温で臓器を保存する必要がないため、移植後の臓器の機能回復がスムーズに行われることになる。もちろん、臓器移植においては機能回復の問題はあるが、保存液の温度を低温(例えば、5℃以下)とすることもでき、この場合は、さらに長期間の細胞、臓器の保存が可能となる。
【0040】
そして、本発明の保存液の対象となる細胞は、例えば、ヒトまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚細胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞を含み、さらに、家畜などの動物や魚類の精子、卵子または受精卵、昆虫細胞、植物細胞などが含まれる。
【0041】
さらに、本発明の保存液の対象となる臓器には、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤または膵臓などが含まれる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<1>N末端アシル化DILRG−NHの合成
ペプチド合成装置(PSSM−8、(株)島津製作所製)を用いて、通常の方法によって樹脂上にN末端遊離、保護基付ペプチド、アスパラギン酸−イソロイシン−ロイシン−アルギニン−グリシン−NH(DILRG−NH)を合成した。
そして、上記ペプチド樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)とピリジンの混合溶媒に懸濁し、ヘキサン酸(C6カルボン酸)またはデカン酸(C10カルボン酸)およびWSCD(1-ethyl-3-(3-dimethylaminoprppyl)-carbodiimide hydrochloride)を加え、室温で一晩攪拌した。反応終了後、樹脂を濾集し、DMFおよびメタノールで洗浄した。このようにして得たアシル化ペプチド樹脂を通常の方法で切り落としカクテル処理し、粗アシル化DILRG−NH2(C6−DILRG−NH、C10−DILRG−NH)を得た。なお、ここに用いたヘキサン酸またはデカン酸とWSCDの混合物によるペプチド樹脂のアシル化は、対応するカルボン酸の塩化物(塩化ヘキサノイルまたは塩化デカノイル)で処理することによっても達成できる。以下、C6−DILRG−NHおよびC10−DILRG−NHを「C6−ヤママリン、C10−ヤママリン」と記載する。
【0043】
なお、精製は逆相カラム Develosil−ODS HG-5(20mm×250mm、野村化学(株)製)をHPLCのシステム(ガリバー(株)日本分光)に接続して行った。溶出は、4ml/分の流速で、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)の存在下でアセトニトリルの濃度勾配(0〜120分で0〜100%)を用いて行い、活性画分を溶出せしめた。吸光度は220nmで測定した。ペプチドは、サンプルプレート上で等量のマトリックス(40%アセトニトリル/0.1%TFAα−CHCAを飽和させたもの)と混合した後乾燥させ、MALDI−TOF MS(Discovery、(株)島津製作所製)によって構造確認した。
【0044】
<2>細胞増殖抑制試験
(1)HepG2細胞(ヒト肝がん細胞)
HepG2細胞を、10%FCS(GIBCO社、Low-IgG牛胎児血清)を含むDMEM培地(Sigma製)中で、37℃、CO2濃度5%条件下で種培養を行なった。その後、種細胞を96well培養プレートに、1ウエル当たり100μLの2.0×104cell/mL細胞を分注した。
【0045】
このプレートを37℃、CO2濃度5%条件下で、1日培養を行い、細胞がウエル底面に接着したことを確認した後、培養プレートに、以下の3条件で、被検物質を添加し、37℃、CO2濃度5%条件下で5日間培養を行なった。
1)Control として、PBSを1ウェル当たり1.0μL添加
2)DMSOに溶解した200mMのC6−ヤママリンを1ウェル当たり1.0μL添加(終濃度2mM)
3)DMSOに溶解した20mMのC10−ヤママリンを1ウェル当たり0.5μL添加(終濃度100μM)
細胞数は、WST-1アッセイ(Premix WST-1 タカラバイオ社製)による増殖確認試験で被検物質添加前、0日、被検物質添加後、1〜5日目まで毎日測定を行なった。
【0046】
すなわち、対象のマイクロプレートの1ウェル当たり10μLのPremix WST-1を加え、37℃、CO2濃度5%条件下で1時間インキュベートした後、450nmで吸光度を測定した。なお、WST-1アッセイによる細胞数は、あらかじめ作成したWST-1アッセイ検量線より求めた。
【0047】
この結果、C6ヤママリン、C10ヤママリン無添加のControlで細胞がコンフラントになったのに対し、培養開始時にC6ヤママリン、C10ヤママリンを添加したものでは、培養5日後においても、細胞がコンフラントにならずに、培養を継続することができた(表1)。
【0048】
【表1】

【0049】
(2)各種細胞を用いたC6ヤママリンおよびC10ヤママリンの添加効果確認
1)K562細胞(CML,慢性骨髄性白血病)を、10%FCS(GIBCO社、Low-IgG牛胎児血清)を含むRPMI培地(日水製薬製)中で、37℃、CO2濃度5%条件下で種培養を行なった。
2)NHDF(正常ヒト皮膚繊維芽細胞、クラボウ製)を、解凍後、Medium106SにLSGS特注増殖添加剤を加えた培地(クラボウ社製)中で、37℃、CO2濃度5%条件下で種培養を行なった。
3)HepG2細胞(ヒト肝がん細胞)を、10%FCS(GIBCO社、Low-IgG牛胎児血清)を含むDMEM培地(Sigma製)中で、37℃、CO2濃度5%条件下で種培養を行なった。
【0050】
その後、K562種細胞では96well培養プレートに、1ウエル当たり100μLの1.1×104cell/mL細胞を分注した。NHDF種細胞では96well培養プレートに、1ウエル当たり100μLの2.4×104cell/mL細胞を分注した。HepG2種細胞では96well培養プレートに、1ウエル当たり100μLの2.0×104cell/mL細胞を分注した。
【0051】
更に、細胞を分注した培養プレートに、以下の3条件で、被検物質を添加し、37℃、CO2濃度5%条件下で培養を行なった。
1)Control として、PBSを1ウェル当たり1.0μL添加
2)DMSOに溶解した200mMのC6−ヤママリンを1ウェル当たり1.0μL添加(終濃度2mM)
3)DMSOに溶解した20mMのC10−ヤママリンを1ウェル当たり0.5μL添加(終濃度100μM)
各細胞に対するC6ヤママリン、C10ヤママリンの効果は、培養開始日と培養5日目に、顕微鏡観察下で、視野中にある細胞が増殖しているかどうかで判定した。
【0052】
これらの結果(表2)、細胞種によっては、若干のばらつきがあるものの、基本的には、どの細胞でも、C6ヤママリン、C10ヤママリンは、増殖抑制効果を有することがわかった([表2])。
【0053】
【表2】

【0054】
なお、C6ヤママリン、C10ヤママリンの添加濃度や添加タイミングについては、適宜設定することができ、より長期間継代なしで培養することも可能である。したがって、これらC6ヤママリン、C10ヤママリンは、継代培養のインターバルを柔軟に変化させることができ、細胞培養従事者等の労力を著しく軽減する方法を提供するものである。
【0055】
また、C6ヤママリン、C10ヤママリンによるこのような細胞増殖抑制効果は、細胞の酸素消費量を可逆的に抑制することができたことによると推定することができる。したがって、C6ヤママリン、C10ヤママリンを有効成分とすることで、細胞および臓器の保存液として有効利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする細胞増殖抑制剤。
【化1】

(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)
【請求項2】
次式で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする細胞または臓器の保存液。
【化2】

(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)
【請求項3】
次式で表される化合物を有効成分として含有する細胞または臓器の保存液に、細胞または臓器を浸漬することを特徴とする細胞または臓器の保存方法。
【化3】

(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)
【請求項4】
保存液の温度は、5〜37℃であることを特徴とする請求項2の細胞または臓器の保存方法。
【請求項5】
次式で表される新規化合物。
【化4】

(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す)

【公開番号】特開2012−60976(P2012−60976A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209975(P2010−209975)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業、農林水産省、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】