説明

細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクター

【課題】 細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを提供すること。
【解決手段】 実施形態の細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターは、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列を含む。細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列の下流に機能的に連結される。転写終結シグナルをコードする塩基配列は、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列の下流に機能的に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
人口構成の高齢化や人々の健康志向の高まりなどから、医療機器は、我々の生活に必要不可欠なものとなっている。なかでも、人体を傷つけず、通常は目視できない体内の断層画像を得ることができる磁気共鳴画像化(MRI)技術は、癌をはじめとする疾患の超早期診断において強い注目を集めている。
【0003】
MRIにおける疾患の診断では、疾患の原因となる異常細胞を特異的に標識し、それにより正常細胞と区別して画像化する。例えば、特異的な遺伝子や蛋白質の発現、或いは代謝物の蓄積などを指標として、異常細胞に対して標識することができる。なかでも、遺伝子の発現は、疾患プロセスの最上流に位置することから、超早期診断に最も適した指標といえる。
【0004】
このような遺伝子の発現を指標とした異常細胞を標識する方法のひとつに、レポーター遺伝子を使用する方法がある。この方法では、指標とする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子を連結する。異常細胞において、遺伝子プロモーターが活性化すると、その下流のレポーター遺伝子が発現する。発現されたレポーター遺伝子の産物によって直接的または間接的に細胞が標識される。代表的なレポーター遺伝子には、例えば、細胞を蛍光標識する緑色蛍光蛋白質(GFP)などがある。蛍光標識された細胞は、蛍光顕微システムを搭載した機器によって画像化される。
【0005】
MRI用に開発されたレポーター遺伝子もいくつか報告されている。例えば、鉄結合性蛋白質であるフェリチン、トランスフェリンなどがある。これらは鉄結合型のレポーター遺伝子である。鉄結合型のレポーター遺伝子は、同遺伝子が発現された細胞に鉄を集積させる。この集積により細胞が鉄で標識される。MRI撮像では、鉄の造影効果が利用できるので、細胞に集積された鉄により標識された細胞が、MRIのT1/T2強調画像によって検出される。
【0006】
このような状況において、より早期の診断を達成するために、より感度の高い診断方法の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Nucl.Med.(2008) 49(12) 1905−8
【非特許文献2】Neoplasia (2005) 7(2) 109−11
【非特許文献3】PNAS (2006) 103(25) 9637−9642
【非特許文献4】Magnetic Resonance in Medicine 56:51−59 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターは、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列を含む。細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列の下流に機能的に連結される。転写終結シグナルをコードする塩基配列は、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列の下流に機能的に連結される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の1例である細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを模式的に示す図。
【図2】実施形態の1例である細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターが細胞外に提示された状態を模式的に示す図。
【図3】実施形態の1例である細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを模式的に示す図。
【図4】実施例におけるウェスタン・ブロットによるGdscFv蛋白質検出結果を示す図。
【図5】実施例における免疫細胞染色によるGdscFv蛋白質検出結果を示す図。
【図6】実施例におけるGdscFv発現細胞に対するMR造影剤(ガドペンテト酸)の結合を示す図。
【図7】実施例において得たGdscFv発現細胞におけるMR画像のコントラスト増強効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、実施形態の細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクター11は、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列12と、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列13と、転写終結シグナルをコードする塩基配列14を含むベクターである。
【0013】
レポーターベクター11は、検出対象となる細胞または細胞群に導入されて使用される遺伝子構築物である。
【0014】
塩基配列13は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列である。塩基配列13は、レポーターベクター11が導入された細胞おいて、その細胞の状態または環境が、予め決定された特定の条件を満たしている場合に、プロモーター活性を発揮するように構成された塩基配列である。プロモーター活性の活性化により、塩基配列13の下流に機能的に接続された遺伝子が発現される。
【0015】
塩基配列12は、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列である。塩基配列12は、塩基配列13のプロモーター活性が活性化されると、そのプロモーター活性を受けて発現するように構成される遺伝子を含む。従って、塩基配列13のプロモーター活性の活性化により、塩基配列12にコードされた遺伝子は、細胞において転写され、翻訳され、金属化合物結合ペプチドを産生し、産生された金属化合物結合ペプチドは、細胞膜に移動して、細胞外に金属化合物結合能を提示するように構成されている。従って、塩基配列12は、レポーター遺伝子である。ここで、塩基配列12は、レポーター遺伝子からなってもよく、レポーター遺伝子を含んでもよい。即ち、塩基配列12は、導入された細胞の状態または環境に依存して活性化される塩基配列13のプロモーター活性により発現が調節されたレポーター遺伝子として機能する。また、塩基配列12によりコードされる金属化合物結合ペプチドはレポーターペプチドとして機能する。
【0016】
ここにおいて、「金属化合物結合ペプチド」は、「金属化合物を結合するペプチド」、「金属化合物に対して結合するペプチド」と同義であり、交換可能に使用される。
【0017】
塩基配列14は、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列12の転写を終結するように構成された塩基配列である。例えば、塩基配列14は、転写終結シグナルをコードする塩基配列である。塩基配列14の存在により、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列12の転写は適切な位置において停止する。
【0018】
レポーターベクター11において、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列12は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列13の下流に機能的に結合されればよい。転写終結シグナルをコードする塩基配列14は、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列12の下流に機能的に結合されればよい。即ち、細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクター11は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列13と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列12と、転写終結シグナルをコードする塩基配列14とを、上流から下流に向けてこの順番で含めばよい。
【0019】
ここで、「機能的に結合される」および「機能的に連結される」は交換可能に使用され、何れも意図された機能が維持された状態または意図された機能が発揮できる状態で結合または連結されることをいう。
【0020】
ここにおいて「細胞外に金属化合物結合能を提示する」の語は、細胞外、例えば、細胞表面に金属化合物結合能を与えることをいう。具体的には、当該レポーターベクター11に由来して細胞において産生された塩基配列12にコードされた金属化合物結合ペプチドが、細胞膜22を貫通した状態で細胞内外に存在する状態であればよい。金属化合物結合ペプチド23は、特定の金属化合物に対して特異的に結合するペプチドである。
【0021】
図2を参照されたい。図2は、レポーターベクター11が、予め決定された特定の条件を満たす細胞21に導入されると、細胞21において発現された塩基配列12にコードされた金属化合物結合ペプチド23が発現され、細胞膜22を貫通して細胞内外に亘って存在する状態を示す図である。更に図2では、金属化合物結合ペプチド23に対して、金属化合物24が特異的に結合している様子を模式的に示している。
【0022】
このような実施形態により、細胞の状況に応じて、細胞外に提示された金属化合物結合能によって細胞表面で所望の金属化合物を結合することが可能となる。それにより、例えば、磁気共鳴装置(MRI)や陽電子放射断層撮影装置(PET)や単一光子放射断層撮影装置(SPECT)やコンピュータ断層撮影装置(CT)などの装置により、特定の状況を示す細胞の検出がより高感度で行うことが可能となる。それにより、高感度により早期に所望の診断を行うことが可能になる。
【0023】
ここで、細胞の「特定の状況」とは、細胞自体、例えば、細胞内部および/または細胞外部の「状態」、細胞を取り囲む「環境」の条件が、予め決定された特定の条件であることをいう。例えば、このような条件は、特定の疾患の兆候を示す指標、特定の疾患が発症している指標、特定の疾患の発症の進行の程度を示す指標および/または特定の疾患の重症度を示す指標などが存在することであってよい。例えば、疾患発症、疾患存在または疾患の進展度に関連して含有量が変化する細胞内の物質に関する条件であってもよい。例えば、このような条件は、具体的な指標であってもよく、特定の遺伝子の存在、特定の遺伝子の発現、細胞内外のpH値、酸化還元に関する情報、特定のイオンの存在、酵素の存在、酵素基質の存在、特定の物質の存在などについて、それらの存在の有無、それらの存在についての数量的な値の大きさ、それらの存在分布、および/または存在状体の変化などであってもよい。
【0024】
遺伝子に関する条件の例は次の通りである。「特定の疾患に罹患した細胞においてのみ発現する」、または「特定の疾患に罹患した細胞において正常な対象に比べて多く発現する」若しくは「少なく発現する」ことを条件としてよい。従って、例えば、「特定の疾患に罹患した細胞においてのみ発現する遺伝子が存在する」ことを条件とする場合、「特定の疾患に罹患した細胞においてのみ発現する遺伝子が存在する」ときにプロモーター活性が示され、「特定の疾患に罹患した細胞においてのみ発現する遺伝子が存在しない」ときにはプロモーター活性は示されない。
【0025】
例えば、特定の条件が細胞の癌化であり、検出対象が癌細胞であれば、例えば、fosやmycなどの遺伝子プロモーターを使用してよい。検出対象が、関節炎や骨粗しょう症などの骨代謝異常に関わる細胞であれば、例えば、NFATC1やCICC4などの遺伝子プロモーターを使用してよい。また、検出対象が、多様な疾患の惹起に関わる酸化ストレスを受けた細胞であれば、例えば、カタラーゼやSODなどの遺伝子プロモーターを使用してもよい。しかしながら、これらに限定するものではない。
【0026】
1.レポーター遺伝子
1つの実施形態に従う、レポーターベクターは、レポーター遺伝子として細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列を含む。この構成により、レポーターベクターは、プロモーター活性に応じて、金属化合物結合ペプチドをレポーターとして細胞外に提示する。その結果、細胞外に提示された金属化合物結合ペプチドに、金属化合物が特異的に結合および/または集積することが可能となる。これにより、細胞が標識される。このように標識された細胞は、結合するべき金属化合物の種類に依存して、選択された検出方法により検出できる。即ち、金属化合物の種類により、例えば、磁気共鳴装置(MRI)や陽電子放射断層撮影装置(PET)や単一光子放射断層撮影装置(SPECT)コンピュータ断層撮影装置(CT)などの画像診断装置により検出が可能となる。
【0027】
レポーターペプチドが結合する金属化合物の種類は、検出手段に応じて選択すればよい。ここにおいて、「金属化合物」とは、金属粒子、金属イオン、金属イオンの塩、金属錯体、金属錯体塩、酸化金属、酸化金属塩、水酸化金属、水酸化金属塩、金属炭酸塩およびこれらの水和物などの金属原子を含有する物質をいう。このような「金属化合物」は「金属原子含有物」ともいえる。また、金属化合物は、一般的に造影剤や診断剤などとして、細胞、組織または動物、特に哺乳類などの個体生体において使用するための金属化合物において許容される範囲の大きさの粒子径であることが好ましい。更にまた、当該金属化合物は、MRI、PET、SPECT、CT、X線、超音波、DSAなどの画像診断装置において使用され得る造影剤の有効成分として薬学的に許容される何れかの金属化合物であってもよい。このような造影剤の有効成分として許容される金属化合物をここでは「造影用金属粒子」という。
【0028】
例えば、MRIを用いる場合は、当該金属化合物は、常磁性金属、常磁性金属イオン、常磁性金属錯体、それらの塩および常磁性金属含有化合物、並びにそれらの誘導体であってよい。MRIのために好ましい金属化合物の例は、具体的には、例えば、例えば、ガドリニウム、ガドリニウムイオン、ガドリニウム錯体およびそれらの塩などのガドリニウム化合物、テルビウム、テルビウムイオン、テルビウム錯体およびそれらの塩などのテルビウム化合物、鉄、鉄錯体およびそれらの塩などの鉄化合物、マンガン、マンガンイオン、マンガン錯体およびそれらの塩などのマンガン化合物、銅、銅イオン、銅錯体およびそれらの塩を含むマンガン化合物、クロム、クロムイオン、クロム錯体およびそれらの塩などのクロム化合物、ストロンチウム、ストロンチウム錯体およびそれらの塩などのストロンチウム化合物、銅、銅錯体およびそれらの塩などの銅化合物、テクネチウム、テクネチウム錯体およびその塩などのテクネチウム化合物、並びにそれらについての酸化金属、酸化金属塩、水酸化金属、金属炭酸塩、並びにそれらの水和物などの誘導体を含み、これらからなる群より選択された2以上の組み合わせであってもよい。例えば、MRIへの適用では、該装置による撮像で造影効果が高く、標識した細胞の高感度撮像のためには、ガドリニウム、ガドリニウムイオン、ガドリニウム錯体、ガドリニウム塩、ガドリニウム錯体塩、ガドリニウム酸化物、ガドリニウム酸化物塩、ガドリニウム水酸化物、ガドリニウム水酸化物塩、ガドリニウム炭酸塩、並びにそれらの水和物、並びにこれらの誘導体からなる金属化合物からなる群より少なくとも1が選択されることが好ましい。
【0029】
レポーター遺伝子の選択は、結合されるべき金属化合物の種類に応じて選択されればよい。レポーター遺伝子によりコードされ、細胞外に提示されたペプチドは、組み合わせて使用するために選択された金属化合物に対して特異的に結合すればよい。更に、金属化合物の選択は、検出原理または検出手段に応じて選択すればよい。
【0030】
従って、レポーター遺伝子は、少なくとも、金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列を含み、好ましくは、細胞外に提示可能な金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列を含む
例えば、細胞外に提示可能な金属化合物結合ペプチドは、このペプチドがコードされる遺伝子から転写および翻訳されること、細胞膜に輸送されること、および細胞膜に固定されることを含む過程を介して細胞外に提示されてよい。また、当該ペプチドは、遺伝子からの転写翻訳に加えて、更に任意の修飾を受けてもよい。
【0031】
従って、更に好ましくは、レポーター遺伝子は、ペプチドの細胞膜輸送に機能するリーダー・ペプチドをコードする塩基配列と、金属化合物結合するペプチドをコードする塩基配列と、ペプチドを細胞膜に固定するアンカー・ペプチドをコードする塩基配列とを互いに機能的に連結して含んでよい。
【0032】
a)金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列
金属化合物結合ペプチドは、特定の金属化合物に対して特異的に結合するペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチドおよび/またはタンパク質であればよい。便宜上、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質を総称して「ペプチド」と呼ぶ。金属化合物結合ペプチドと、これと特異的に結合する金属化合物は、結合対と解されてよい。
【0033】
例えば、金属化合物を結合するペプチドをコードする配列は、所望の金属化合物と結合することが知られる抗体遺伝子や一本鎖抗体遺伝子の塩基配列を利用してもよく、そのような塩基配列に基づいてデザインすればよい。そのような塩基配列について、例えば、金属化合物との結合を維持する範囲での幾つかの塩基の置換、欠失および付加などの修飾および/または改変、適用する対象応じた修飾および/または改変することによりデザインしてもよい。
【0034】
一本鎖抗体ペプチドをコードする遺伝子は、金属化合物を結合する抗体のアミノ酸配列からデザインすることができる。
【0035】
例えば、MRI撮像では、造影効果が高いためにガドリニウム化合物が好ましく使用される。ガドリニウム化合物は、例えば、ガドリニウム、ガドリニウムイオン、ガドリニウム錯体、それらの塩およびそれらの誘導体、これらの何れかを含む誘導体、またはガドリニウム化合物の類似物などからなる金属化合物であればよい。
【0036】
このようなガドリニウム化合物に対して結合するペプチドは、ガドリニウム化合物に対する抗体であってよい。例えば、ガドリニウム化合物に対する抗体のアミノ酸配列から一本鎖抗体ペプチドをコードする塩基配列をデザインしてもよい。
【0037】
ガドリニウム錯体に結合するペプチドをコードする塩基配列をデザインするために基礎となる抗体の一例として、抗ガドペンテト酸(以下「Gd−DTPA」と記す)抗体を用いる例を記載する。
【0038】
Gd−DTPA抗体のアミノ酸配列からデザインした一本鎖抗体ペプチドのアミノ酸配列と塩基配列とを、配列番号1と配列番号2とにそれぞれ記載する。
【0039】
配列番号1は、マウス抗Gd−DTPAモノクローナル抗体の軽鎖可変領域(V)と重軽鎖可変領域(V)をリンカー・ペプチドで連結することにより作製したガドリニウム錯体に結合するペプチドをコードするアミノ酸配列の一例である。
【0040】
Gd−DTPAを結合する一本鎖抗体の軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)のアミノ酸配列と塩基配列とを、配列番号3と4、及び配列番号5と6にそれぞれ記載する。これらのアミノ酸配列と塩基配列は、Gd−DTPAに対する結合能力を維持する限り、必ずしも配列番号3〜6に記載の配列と完全に一致する必要はない。また、これらのアミノ酸配列をリンカー・ペプチドで連結することにより作製した一本鎖抗体ペプチドのアミノ酸配列と塩基配列も、Gd−DTPAに対する結合能力を維持する限り、必ずしも配列番号1に記載の配列と完全に一致する必要はない。例えば、Gd−DTPAに対する結合能力を維持する限り置換、欠失および/または付与などの修飾を含んでもよい。
【0041】
リンカー・ペプチドは、マウス抗Gd−DTPAモノクローナル抗体の軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)との免疫学的特性を利用してガドペンテト酸との結合を達成するために、当該軽鎖可変領域(V)と当該重鎖可変領域(V)とを連結するために含まれるペプチドである。従って、リンカー・ペプチドの長さや塩基配列は、配列番号1に含まれる配列と完全に一致しなくともよい。リンカー・ペプチドのアミノ酸配列と塩基配列の一例を、配列番号7と8に記載する。リンカー・ペプチドのアミノ酸配列は、例えば、Gd−DTPAに対する一本鎖抗体ペプチドの結合性を発揮させ、且つ結合性を低下させない限りにおいて長さおよび塩基配列が変更されてもよく、例えば、より長い配列であってもよく、より短い配列であってもよく、更にアミノ酸配列が、修飾されてもよい。或いは、マウス抗Gd−DTPAモノクローナル抗体の軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)とを機能的に結合し、軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)との免疫学的特性を利用してガドペンテト酸を特異的に捕捉できる構成にするためのリンカー・ペプチドを含ませてもよい。
【0042】
一本鎖抗体ペプチドは、上述のように、軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)とをリンカー・ペプチドで連結することにより作製する。軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)の順序は、リンカー・ぺプチドを挟んで任意の順序であってよい。すなわち、軽鎖可変領域(V)− リンカー・ペプチドー − 重鎖可変領域(V)であってもよいし、重鎖可変領域(V)− リンカー・ペプチドー − 軽鎖可変領域(V)であってもよい。
【0043】
配列番号2に記載の塩基配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からデザインした塩基配列の一例である。この例では、軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)を、軽鎖可変領域(V)− リンカー・ペプチドー − 重鎖可変領域(V)の順序に連結している。これらの配列番号2に記載の塩基配列を更に、マウス抗Gd−DTPAモノクローナル抗体の軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)との免疫学的特性を利用してガドペンテト酸との結合を達成する限りにおいて、塩基配列または長さを変更してもよい。また、提供しようとする対象の動物種に適合させるために、対応するコドンの選択を変更してもよい。
【0044】
以上、ガドリニウム錯体に結合するペプチドをコードする塩基配列をデザインするために基礎となる抗体の一例として、抗ガドペンテト酸(以下「Gd−DTPA」と記す)抗体を用いる例を示した。この例についての記載に従って、他の所望の金属化合物に対する抗体に基づいて金属化合物を結合するペプチドをコードする塩基配列を得ることが可能である。上述のようにガドリニウム化合物には種々の化合物が含まれ、更に例えば、ガドリニウム錯体についても様々な種類がある。また、ガドリニウム以外の金属化合物についても様々な種類が存在し、それらの金属化合物についても種々の化合物が存在する。それらの何れの種類の金属化合物についても同様に、所望の金属化合物に対する抗体から金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列をデザインし、且つ製造することが可能である。
【0045】
例えばそのような一本鎖抗体ペプチドは、次のように製造すればよい。先ず、特定の金属化合物に対するモノクローナル抗体を製造する。次にその軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)とを得る。更に、軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)との免疫学的特性を利用して前記特定の金属化合物を特異的に捕捉できる構成にするためのリンカー・ペプチドとを設計する。これらの軽鎖可変領域(V)と重鎖可変領域(V)とリンカー・ペプチドとを機能的に結合する。更に、これらのアミノ酸配列を特定し、このアミノ酸配列をコードするように塩基配列を得る。これにより一本鎖抗体ペプチドをコードする塩基配列を得ることが可能である。具体的な手順はそれ自身公知の遺伝子組み換え技術により行ってよい。
【0046】
また上述では、一本鎖抗体ペプチドの例を示したが、金属化合物結合ペプチドは、抗体や一本鎖抗体ペプチドに限定するものではない。特定の金属化合物に対する特異的な結合性を有するものであればよく、例えば、3個から20個のアミノ酸からなるオリゴペプチドであってもよく、他の構成および/または構造を有するペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質および/またはそれらの組み合わせであってよい。
【0047】
b)シグナル・ペプチド
細胞において産生されたペプチド、即ち、遺伝子の転写翻訳および任意に修飾されたペプチドは、細胞膜に輸送される。細胞膜への輸送は、例えば、シグナル・ペプチドを利用すればよい。シグナル・ペプチドの例としては、イムノグロブリンκ鎖のリーダー・ペプチド、プレプロアルブミンのリーダー・ペプチド、プレIgG軽鎖のリーダー・ペプチド、アセチルコリン受容体γサブユニット前駆体のリーダー・ペプチド、ポリヒスチジンやポリバリンをコードする塩基配列などが挙げられる。しかしながらシグナル・ペプチドは、これらに限定されるものではない。
【0048】
ここにおいて、シグナル・ペプチドは、当該レポーターベクターが使用されるべき対象、例えば、個体、動物、組織および細胞などにおいて所望の機能を正常に発揮することが可能なシグナル・ペプチドをコードする塩基配列であれば使用してよい。ここでは「所望の機能を正常に発揮することが可能な」とは、「ペプチドおよび/または蛋白質の細胞膜への移動に関して正しく機能する」ことを示す。
【0049】
このようなシグナル・ペプチドをコードする塩基配列は、既知の遺伝子工学手法、例えばPCRなどの手法で取得することができる。或いは、塩基配列を人工的に化学合成してもよく、市販のベクターに組み込まれた塩基配列を利用してもよい。例えば、イムノグロブリンκ鎖のリーダー・ペプチドをコードする塩基配列が組み込まれたベクターには、pDisplay(Life Technologies)などがあるが、これに限定するものではない。
【0050】
また、ここにおいては、細胞において産生されたペプチドの細胞膜への輸送のためのシグナル・ペプチドの一例としてリーダー・ペプチドを記載した。しかしながら、リーダー・ペプチドに限定するものではなく、細胞において産生されたペプチドの細胞膜への輸送を達成可能なペプチドをコードする塩基配列、または細胞において転写翻訳されたペプチドの細胞膜への輸送を達成可能にするように構成されたシグナル・ペプチドをコードする塩基配列であれば何れの塩基配列が使用されてよい。
【0051】
c)アンカー・ペプチド
上述のように、細胞外への金属化合物結合ペプチドの提示は、例えば、細胞において金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列に基づいて産生されたペプチドが細胞膜に輸送されて細胞膜に固定されることにより達成される。
【0052】
細胞膜へのペプチドの固定は、例えば、アンカー・ペプチドにより達成されてよい。アンカー・ペプチドの例は、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、CD28、CD8またはIgMなどの細胞膜固定化ドメイン(一般的に「アンカー・ペプチド」と称される)、或いはレンチウイルスgp41のようなウイルスの膜貫通部分をコードする塩基配列などが含まれる。しかしながら、アンカー・ペプチドはこれらに限定されるものではない。
【0053】
ここにおいて、アンカー・ペプチドは、当該レポーターベクターが使用されるべき対象、例えば、個体、動物、組織および細胞などにおいて所望の機能を正常に発揮することが可能なアンカー・ペプチドをコードする塩基配列であれば使用してよい。ここでは「所望の機能を正常に発揮することが可能な」とは、「ペプチドまたは蛋白質の細胞膜への固定化に関して正しく機能する」ことを示す。
【0054】
このようなアンカー・ペプチドをコードする塩基配列は、既知の遺伝子工学手法、例えばPCRなどの手法で取得することができる。或いは、塩基配列を人工的に化学合成してもよいし、市販のベクターに組み込まれた塩基配列でもよい。例えば、PDGFRのアンカー・ペプチドをコードする塩基配列が組み込まれたベクターには、pDisplay(Life Technologies)などがあるが、これに限定するものではない。
【0055】
また、ここにおいては、細胞においてペプチドの細胞膜への固定化のための手段の一例としてアンカー・ペプチドを記載した。しかしながら、アンカー・ペプチドに限定するものではなく、細胞において所望のペプチドまたはタンパク質の細胞膜への固定化を達成可能なペプチドをコードする塩基配列、または細胞において所望のペプチドまたはタンパク質の細胞膜への固定化を達成可能にするように構成された塩基配列であれば何れの塩基配列も使用されてよい。
【0056】
2.プロモーター
1つの実施形態に従う、レポーターベクターは、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列を含む。この塩基配列は、その下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を条件に応じて発現させるように構成された塩基配列であればよい。
【0057】
例えば、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列は、特定の条件、例えば、検出対象とする細胞における特定の条件に応じて活性化されるプロモーターをコードする塩基配列であってよい。
【0058】
例えば、実施形態に従うプロモーターとして、検出対象とする細胞において、特定の条件において特異的に活性化される公知のプロモーターを使用してもよい。
【0059】
例えば、特定の条件が細胞の癌化であり、検出対象が癌細胞であれば、例えば、fosやmycなどの遺伝子プロモーターを使用してもよい。
【0060】
或いは、検出対象が、関節炎や骨粗しょう症などの骨代謝異常に関わる細胞であれば、例えば、NFATC1やCICC4などの遺伝子プロモーターを使用してもよい。
【0061】
また、検出対象が、多様な疾患の惹起に関わる酸化ストレスを受けた細胞であれば、例えば、カタラーゼやSODなどの遺伝子プロモーターを使用してもよい。
【0062】
このような特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列に連結されたレポーター遺伝子を発現する細胞を、金属化合物で標識した後、検出対象の細胞を、MRIやPETやSPECTやCTや蛍光検出装置などで撮像することにより、癌細胞を検出することができる。
【0063】
3.転写終結シグナル
1つの実施形態に従う、レポーターベクターは、その上流に機能的に結合されたレポーター遺伝子について、条件に応じて開始された転写を終結するように構成された塩基配列を含む。
【0064】
このような塩基配列は、その上流の塩基配列の転写を終結する塩基配列であればよく、例えば、転写終結シグナルをコードする塩基配列であってもよく、または転写終結配列としてそれ自身公知の塩基配列を使用してもよい。そのような塩基配列の例はポリ(A)付加シグナルであるが、これに限定するものではない。
【0065】
例えば、ポリ(A)付加シグナルは、当該レポーターベクターが導入されるべき細胞の種類および/または細胞の由来する動物種などに応じて選択され、目的の細胞においてレポーター遺伝子を転写終結させるために機能するように構成されればよい。
【0066】
例えば、哺乳動物の遺伝子の転写終結に機能する配列の例は、SV40ウイルスの後期ポリ(A)付加シグナル、牛成長ホルモン遺伝子のポリ(A)付加シグナルなどである。しかしながら、実施形態において使用可能なポリ(A)付加シグナルは、これらに限定されるものではなく、ポリ(A)付加シグナルとしての機能を損なわない限りにおいて、塩基配列が改変されてもよい。
【0067】
4.レポーターペプチド
1つの実施形態に従うレポーターベクターは、特定の条件に応じてプロモーターが活性化することにより、レポーターペプチドを産生し、細胞外に金属化合物結合性を提示する。
【0068】
上述したようにレポーター遺伝子の1例は、リーダー・ペプチドをコードする塩基配列と、金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、アンカー・ペプチドをコードする塩基配列を機能的に連結して作製されてよい。ここでいう「機能的」とは、それぞれの塩基配列がコードするアミノ酸配列が正しく連結されていること、即ち、アミノ酸コドンのフレームにずれがなく、当該塩基配列が導入された細胞において機能的なペプチド、即ち、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドが合成されることをいう。また、金属化合物結合ペプチドは、その機能を維持する限りにおいて、リーダー・ペプチド、金属化合物結合ペプチドおよびアンカー・ペプチド以外のアミノ酸配列であってもよく、或いは、リーダー・ペプチド、金属化合物結合ペプチドおよびアンカー・ペプチドに加えて更なるアミノ酸配列を含んでもよい。このようなアミノ酸配列の例としては、融合蛋白質の検出を容易にする、ヘマグルチニン・タグ配列およびc−mycタグ配列などのアミノ酸配列などであるが、これらに限定するものではない。また、レポーター遺伝子および/またはレポーターベクターは、上述した以外の塩基配列を更に含んでもよい。
【0069】
5.レポーター遺伝子の更なる例
更なるもう1つの実施形態に従うレポーター遺伝子の塩基配列の例を、配列番号10に示す。当該レポーター遺伝子は、イムノグロブリンκ鎖のリーダー・ペプチドをコードする塩基配列と、抗Gd−DTPA一本鎖抗体ペプチドをコードする塩基配列と、PDGFRのアンカー・ペプチドをコードする塩基配列を、機能的に連結して作製したGd−DTPA結合一本鎖抗体ペプチドである。
【0070】
このようなレポーター遺伝子は、例えば、配列番号2に示したGd−DTPA一本鎖抗体遺伝子の塩基配列を適当な制限酵素、例えばBgl IIとSal Iで消化した遺伝子断片を、pDisplayの適当な位置(Bgl IIとSal Iの間)に挿入することによって作製してよい。配列番号10に記載したレポーター遺伝子(Gd−DTPA一本鎖抗体ペプチド)のアミノ酸配列を配列番号9に示した。
【0071】
このように作製したレポーター遺伝子を上述のレポーターベクターに組み込んで使用することが可能である。その場合、レポーターベクターは、配列番号10のレポーター遺伝子と、その上流に機能的に連結された適切なプロモーターと、その下流に機能的に連結された適切な転写終結シグナルをコードする塩基配列とを含めばよい。これにより、当該遺伝子プロモーターが活性化した細胞を特異的に標識することができる。
【0072】
6.レポーター遺伝子構築物
1つの実施形態に従うレポーターベクターは、意図される細胞に送達され、検出しようとする条件においてレポーター遺伝子を発現することが可能であればよい。従って、そのような構成が可能である限り、レポーター遺伝子構築物と解されてもよい。即ち、当該レポーター遺伝子構築物は、細胞に導入され、導入された細胞の状態または環境に依存して活性化される塩基配列のプロモーター活性によって発現が調節されたレポーター遺伝子を含み、条件に応じてレポーター遺伝子を発現し、その結果産生されたれレポーターペプチドが標識として細胞外に提示され、金属化合物結合能を示すように構成されればよい。
【0073】
例えば、当該レポーター遺伝子構築物は、それ自身公知の何れかの手段により細胞内に導入されればよい。例えば、カチオン脂質を用いる方法(リポフェクション)、エレクトロポーレーション、超音波、磁気またはパーティクル・ガンなどにより物理化学的手法により導入されてもよく、それ自身がアデノウイルスなどのウイルスベクターおよびプラスミドベクターとして上述のように構築されてもよく、それ自身がカチオン性脂質、塩基性ポリマー、合成ポリペプチドおよび炭酸アパタイトなどのイオンコンプレックス型キャリアなどのキャリア型に構築されてもよい。
【0074】
7.細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターの使用例
使用例1 検出方法
実施形態に従うレポーターベクターは、特定の状況にある細胞をインビトロおよびインビポにおいて検出するために使用することが可能である。
【0075】
当該検出方法は、検出対象である個体、器官、臓器、組織、細胞群および/または単一細胞などに対して当該レポーターベクターを導入する。当該導入と同時および/または当該導入の前後において、当該レポーターベクターに依存して細胞外に提示されたレポーターペプチドと結合対を形成する金属化合物と接触させる。金属化合物の接触前後および/または接触と同時に、レポーターペプチドと特異的に結合した金属化合物を検出する。即ち、この検出方法によれば、金属化合物の存在を指標として特定の状況にある細胞を特異的に検出することが可能である。
【0076】
金属化合物の検出は、単一時点、複数時点および/または継続して行ってもよく、および/または経時的に行ってもよい。
【0077】
また、金属化合物の検出方法は、金属化合物に含まれる金属原子の種類に応じてそれ自身公知の何れかの方法を使用して行ってよい。例えば、金属原子の化学的特性および/または物理的特性を利用するそれ自身公知の化学的、物理学的、物理化学的および/または生化学的に金属原子の検出ための何れかの方法を利用してよい。
【0078】
当該レポーターベクターを使用すれば、レポータータンパクを細胞外に提示することが可能であり、それにより高い検出感度により検出を行うことが可能である。
【0079】
更に、例えば、レポーターペプチドと特異的に結合対を形成させるための金属化合物を、例えば、MRI、PET、SPECT、CTなどの画像診断装置で測定可能な種類を選択することにより、このような画像診断装置と組み合わせて、当該レポーターベクターを利用できる。この場合、より高感度かつより特異的に細胞を検出することが可能となる。
【0080】
実施形態に従う検出方法の一例は、
(1)細胞を含む検出対象に対して、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを取り込ませることと、
(2)前記細胞外に金属化合物結合ペプチドを提示させることと、
(3)前記金属化合物結合ペプチドに対して、前記金属化合物結合ペプチドと結合対を形成可能な金属を接触させることと、
(4)前記金属化合物結合ペプチドに結合した金属を検出することと、
を含む特定の条件を有する細胞を検出する方法である。
【0081】
細胞を含む検出対象は、動物などの個体、個体から採取された器官、臓器、組織、細胞群、単一細胞、並びに培養組織および培養細胞の何れであってもよい。前記(3)の金属との接触後および/または接触と同時に、結合されなかった余剰の金属を除去するための操作、例えば、洗浄、濯ぎ、希釈および/または環流除去などが行われてもよい。
【0082】
ここで、「特定の条件」とは、「特定の状況にある細胞」を特定するために予め選択された「検出されるべき条件」であると解されてよい。また、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列は、検出されるべき細胞における特定の条件においてプロモーター活性を示す塩基配列を選択する。
【0083】
このような実施形態により、細胞の状況に応じて、細胞外に提示された金属化合物結合能によって細胞表面で所望の金属を結合することが可能となる。細胞外に提示された金属化合物結合能を利用し、そこに対して金属化合物を結合および/または集積することにより、特定の条件にある細胞を、従来よりも高感度で検出できる。
【0084】
使用例2 検出剤
上述した何れのレポーターベクターも、上記のような検出において使用される検出剤または検出用組成物として提供されてよい。
【0085】
実施形態に従う特定の細胞を検出するための検出剤は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを有効成分として含んでよい。
【0086】
実施形態に従う特定の細胞を検出するための組成物は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを含んでよい。
【0087】
当該検出剤および検出用組成物は、個体に対して適用する場合には、例えば、錠剤および/または液剤などの形態で経口投与されてもよく、例えば、液体および/または坐剤形態で腸内および/または膣内に投与されてもよく、液体および/またはスプレーなどの形態で鼻内および/または眼内に投与、溶液および/または懸濁液の形態で筋肉内、静脈内、鞘内および/または髄空内に注射および/または点滴により投与されればよい。
【0088】
当該検出剤または検出用組成物を使用すれば、レポータータンパクを細胞外に提示することが可能であり、それにより高い検出感度により検出を行うことが可能である。
【0089】
更に、例えば、レポーターペプチドと特異的に結合対を形成させるための金属化合物を、例えば、MRI、PET、SPECT、CTなどの画像診断装置で測定可能な種類を選択することにより、このような画像診断装置と組み合わせて、当該レポーターベクターを利用できる。この場合、より高感度かつより特異的に細胞を検出することが可能となる。このような検出剤および検出用組成物は、それぞれ造影剤および造影用組成物と解されてもよい。また、このような検出剤および検出用組成物は、当該検出剤または検出用組成物に由来して細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドに特異的に結合する金属化合物と共に検出用キットとして提供されてもよい。例えば、検出用キットは、実施形態に従うレポーターベクターと、それに対応する金属化合物とを含めばよい。これらは造影用キットと解されてもよい。また、当該金属化合物結合ペプチドに特異的に結合する金属化合物は、当該金属化合物自体で具備されてもよく、当該化合物を有効成分として含む薬学的許容される組成物として提供されてもよい。
【0090】
使用例3 診断方法1
実施形態に従うレポーターベクターは、特定の状況にある細胞をインビトロおよびインビポにおいて検出するために使用することが可能である。
【0091】
更なる実施形態に従う診断方法は、検査対象である個体、器官、臓器、組織、細胞群および/または単一細胞などに対して当該レポーターベクターを導入する。当該導入と同時および/または当該導入の前後において、当該レポーターベクターのレポーターペプチドと結合対を形成する金属と接触させる。金属の接触前後および/または接触と同時に、レポーターペプチドと結合した金属を検出する。金属の検出結果に基づいて検査対象についての診断を行う。即ち、この検出方法によれば、金属の存在を指標として特定の条件にある細胞を特異的に検出することにより、特定の条件を指標とする疾患をより早期および/またはより高精度に診断することが可能である。
【0092】
金属の検出は、単一時点、複数時点および/または継続して行ってもよく、および/または経時的に行ってもよい。
【0093】
金属の検出結果に基づいて、検査対象についての診断は、金属の検出の有無、金属の検出値が予め設定された閾値よりも大きいか小さいか、検出値の増減などの情報に基づいて検出対象が特定の条件を指標とする疾患に罹患しているか否か、疾患の重症度がどのくらいか、なとの診断を行うことが可能である。
【0094】
このような診断方法は、直接個体に対して行うインビボにおいて使用されてもよく、個体から採取された器官、臓器、組織、細胞群および/または単一細胞についてインビトロにおいて使用されてもよい。
【0095】
実施形態に従う検査対象が特定の条件の細胞を有すると診断する方法の一例は、
(1)細胞を含む検査対象に、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを取り込ませることと、
(2)前記細胞外に金属化合物結合ペプチドを提示させることと、
(3)前記細胞に対して、前記金属化合物結合ペプチドと結合対を形成可能な金属化合物を接触させることと、
(4)前記金属化合物結合ペプチドに結合した金属化合物を検出することと、
(5)前記(4)における金属化合物の検出結果に基づいて検査対象が特定の条件の細胞を有すると診断すること、
を含む。
【0096】
細胞を含む検査対象は、動物などの個体、個体から採取された試料、例えば、器官、臓器、組織、細胞群および単一細胞、並びに培養組織および培養細胞の何れであってもよい。前記(3)の金属化合物との接触後および/または接触と同時に、結合されなかった余剰の金属化合物を除去するための操作、例えば、洗浄、濯ぎ、希釈および/または環流除去などが検査対象に対して行われてもよい。例えば、検査対象が個体の場合には、投与された余剰の金属化合物は、血流により除去されるので余剰の金属化合物を除去する必要はない。
【0097】
また、実施形態に従うプロモーターは上述した何れの実施形態におけるプロモーターを使用してもよく、検出されるべき条件に応じて選択すればよい。
【0098】
当該診断方法を使用すれば、レポータータンパクを細胞外に提示することが可能であり、それにより高感度で診断を行うことが可能である。
【0099】
更に、例えば、レポーターペプチドと特異的に結合対を形成させるための金属化合物を、例えば、MRI、PET、SPECT、CTなどの画像診断装置で測定可能な種類を選択することにより、このような画像診断装置と組み合わせて、当該診断方法を利用できる。この場合、より高感度かつより特異的に細胞単位で診断を行うことが可能となる。
【0100】
使用例4 診断方法2
更なる実施形態に従うと検査対象における疾患の診断方法が提供される。この使用例は特に個体について疾患を診断するために有用である。
【0101】
当該検査対象における疾患の診断方法は、
(1)検査対象に含まれる細胞内に、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを取り込ませることと、
(2)前記細胞外に金属化合物結合ペプチドを提示させることと、
(3)前記細胞に対して、前記金属化合物結合ペプチドと結合対を形成可能な金属化合物を接触させることと、
(4)前記金属化合物結合ペプチドに結合した金属化合物を検出することと、
(5)前記(4)における金属化合物の検出結果に基づいて検査対象における前記疾患について診断すること、
を含む。
【0102】
基本的に、上記の手順を含むこと以外の事項は、使用例1の検出方法および使用例3の診断方法1に記載と同様であってもよい。また、検査対象に含まれる細胞内に当該レポーターベクターを取り込ませる手段は、例えば、使用例2の検出剤において記載された個体への投与形態および投与経路を使用してよい。好ましくは、検査対象である個体に対して、静脈投与によりレポーターベクターを投与して、個体の細胞にレポーターベクターを取り込ませる。
【0103】
ここで、「特定の条件」とは、「特定の状況にある細胞」を特定するために予め選択された「検出されるべき条件」であり、且つ「特定の条件」とは、「検出されるべき疾患の指標」、即ち、「特定の疾患の指標」となる条件である。即ち、この実施形態に従うプロモーターは、検査対象において、検出しようとする疾患に特異的に存在する条件において、特異的に活性化されるプロモーターを使用すればよい。例えば、癌を診断するために、例えば、fosやmycなどの遺伝子プロモーターを使用してもよい。或いは、関節炎や骨粗しょう症などの骨代謝異常に関わる疾患を診断するために、例えば、NFATC1やCICC4などの遺伝子プロモーターを使用してもよい。また、酸化ストレスに関連する疾患の診断のために、例えば、カタラーゼやSODなどの遺伝子プロモーターを使用してもよい。または、特定の疾患の発症により特異的に発現される遺伝子を使用してもよく、そのようなそれ自身公知の何れかの遺伝子を使用してもよい。
【0104】
ここで「検査対象」は、主にヒトを含む哺乳類、家畜、愛玩動物および産業用動物などの個体であってもよく、検査対象から得た器官、臓器、組織、細胞群および/または単一細胞であってもよい。
【0105】
このような実施形態によって、特定の疾患に由来する細胞の状況に応じて、細胞外に提示された金属化合物結合能によって細胞表面で所望の金属化合物を結合することが可能となる。細胞外に提示された金属化合物結合能を利用し、そこに対して金属化合物を結合および/または集積することにより、従来よりも高感度で診断を行うことが可能である。またそれにより、極めて早期に疾患の存在、発症および兆候などを診断することが可能となる。
【0106】
更に、例えば、レポーターペプチドと特異的に結合対を形成させるための金属化合物を、例えば、MRI、PET、SPECT、CTなどの画像診断装置で測定可能な種類を選択することにより、このような画像診断装置と組み合わせて、当該診断方法を利用できる。この場合、より高感度かつより特異的に細胞単位で診断を行うことが可能となる。
【0107】
使用例5 診断剤
上述した何れのレポーターベクターも、上記のような診断において使用される診断剤または診断用組成物として提供されてよい。
【0108】
実施形態に従う診断剤は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを有効成分として含む、前記特定の条件を指標とする疾患のための診断剤であってよい。
【0109】
実施形態に従う診断用組成物は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを有効成分として含む、前記特定の条件を指標とする疾患のための診断用組成物であってよい。
【0110】
当該診断剤および診断用組成物は、上述の使用例2の検出剤についての記載された投与形態および投与経路により診断対象に投与されてよい。また、このような診断剤および診断用組成物は、当該診断剤または診断用組成物に由来して細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドに特異的に結合する金属化合物と共に診断用キットとして提供されてもよい。例えば、診断用キットは、実施形態に従うレポーターベクターと、それに対応する金属化合物とを含めばよい。これらは造影用キットと解されてもよい。また、当該金属化合物結合ペプチドに特異的に結合する金属化合物は、当該金属化合物自体で具備されてもよく、当該化合物を有効成分として含む薬学的許容される組成物として提供されてもよい。
【0111】
このような実施形態によって、特定の疾患に由来する細胞の状況に応じて、細胞外に提示された金属化合物結合能によって細胞表面で所望の金属化合物を結合することが可能となる。細胞外に提示された金属化合物結合能を利用し、そこに対して金属化合物を結合および/または集積することにより、従来よりも高感度で診断を行うことが可能である。またそれにより、極めて早期に疾患の存在、発症および兆候などを診断することが可能となる。
【0112】
更に、例えば、レポーターペプチドと特異的に結合対を形成させるための金属化合物を、例えば、MRI、PET、SPECT、CTなどの画像診断装置で測定可能な種類を選択することにより、このような画像診断装置と組み合わせて、当該診断剤または診断用組成物を利用できる。この場合、より高感度かつより特異的に細胞単位で診断を行うことが可能となる。
【0113】
3.治療方法
実施形態に従うレポーターベクターは、上述において診断方法1および診断方法2を例として記載するような診断方法において利用することに加えて、治療方法としても使用することが可能である。
【0114】
実施形態に従う特定疾患の治療方法は、治療対象に対して当該レポーターベクターを導入する。当該導入と同時および/または当該導入の前後において、当該レポーターベクターのレポーターペプチドと結合対を形成する金属化合物と接触させる。金属化合物の接触後に、レポーターペプチドと結合した金属化合物に対して、レポーターペプチドを細胞外に提示した細胞を死滅させるようにエネルギーを加える。生体に比べて高いエネルギーを集中させることができるため、金属化合物と結合したレポーターペプチドを細胞外に提示した細胞のみを選択的に死滅することが可能である。
【0115】
エネルギーの例は、例えば、高周波、低周波および電磁波などの電気的エネルギー、熱エネルギー、放射線などの核物理学的エネルギーなどであればよい。例えば、サーモトロンなどのハイパーサーミア(温熱治療)装置、リニアック、或いはライナックと呼ばれるノバリス、サイバーナイフ、トモセラピーなどの直線加速装置、中性子捕捉治療(BNCT)装置、重粒子線治療装置を用いて治療することが可能であるが、これらに限定するものではない。
【0116】
金属化合物へのエネルギーの負荷は、単一時点、複数時点または継続して行ってもよい。
【0117】
実施形態に従う特定疾患の治療方法は、例えば、
(1)検査対象に含まれる細胞内に、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを取り込ませることと、
(2)前記細胞外に金属化合物結合ペプチドを提示させることと、
(3)前記細胞に対して、前記金属化合物結合ペプチドと結合対を形成可能な金属化合物を接触させることと、
(4)前記金属化合物結合ペプチドに結合した金属化合物にエネルギーを与えて、レポーターペプチドを発現した細胞を特異的に死滅することと、
を含む。
【0118】
ここで、「特定の条件」とは、「特定の疾患に起因する条件」または「特定の疾患の指標」となる条件である。即ち、この実施形態に従うプロモーターは、検出しようとする疾患に罹患した検査対象において、特異的に存在する条件において特異的に活性化されるプロモーターを使用すればよい。例えば、癌を診断するために、例えば、fosやmycなどの遺伝子プロモーターを使用してもよい。或いは、関節炎や骨粗しょう症などの骨代謝異常に関わる疾患を診断するために、例えば、NFATC1やCICC4などの遺伝子プロモーターを使用してもよい。また、酸化ストレスに関連する疾患の診断のために、例えば、カタラーゼやSODなどの遺伝子プロモーターを使用してもよい。または、特定の疾患の発症により特異的に発現される遺伝子を使用してもよく、そのようなそれ自身公知の何れかの遺伝子を使用してもよい。
【0119】
ここで「検査対象」は、主にヒトを含む哺乳類、家畜、愛玩動物および産業用動物などの個体であってもよく、検査対象から得た器官、臓器、組織、細胞群および/または単一細胞であってもよい。
【0120】
このような治療方法は、例えば、当該レポーターベクターを用いて行われる上述の検出方法および診断方法により病巣を検出および特定した後に、続けて行われてもよい。それにより、早期に発見された病巣を早期のうちに病巣のみを特異的に治療することが可能である。
【0121】
使用例4 治療剤
上述した何れのレポーターベクターも、上記のような治療において使用される治療剤または治療用組成物として提供されてよい。
【0122】
実施形態に従う治療剤は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを有効成分として含む、前記特定の条件に関連する疾患を治療するための治療剤であってよい。
【0123】
実施形態に従う診断用組成物は、特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクターを有効成分として含む、前記特定の条件に関連する疾患を治療するための治療用組成物であってよい。
【0124】
当該治療剤および治療用組成物は、上述の使用例2の検出剤についての記載された投与形態および投与経路により診断対象に投与されてよい。
【0125】
また、当該治療剤および治療用組成物は、単一の薬剤として投与されても、或いは、公知の抗癌療法と組み合わせて投与されてもよい。そのような抗癌療法は、例えば、放射線療法、または化学療法であってもよい。また、このような治療剤および治療用組成物は、当該治療剤または治療用組成物に由来して細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドに特異的に結合する金属化合物と共に治療用キットとして提供されてもよい。例えば、診断用キットは、実施形態に従うレポーターベクターと、それに対応する金属化合物とを含めばよい。また、当該金属化合物結合ペプチドに特異的に結合する金属化合物は、当該金属化合物自体で具備されてもよく、当該化合物を有効成分として含む薬学的許容される組成物として具備されてもよい。
【0126】
このような治療剤および治療用組成物は、例えば、当該レポーターベクターを用いて行われる上述の検出方法および診断方法により病巣を検出および特定した後に、続けて行われてもよい。それにより、早期に発見された病巣を早期のうちに病巣のみを特異的に治療することが可能である。このように金属化合物の検出結果に基づいて検査対象についての診断を行う。即ち、この検出方法によれば、金属化合物の存在を指標として特定の条件にある細胞を特異的に検出することにより、特定の条件を指標とする疾患をより早期および/またはより高精度に治療することが可能である。
【0127】
更に、例えば、レポーターペプチドと特異的に結合対を形成させるための金属化合物を、例えば、MRI、PET、SPECT、CTなどの画像診断装置で測定可能な種類を選択してハイパーサーミア装置、直線加速装置、中性子捕捉治療装置(BNCT装置)、或いは重粒子線治療装置などの治療装置と組み合わせることにより、或いは、このような治療装置で利用可能な種類の金属化合物を選択することにより、当該治療剤および治療用組成物を利用できる。この場合、より高精度かつより特異的に細胞単位で治療を行うことが可能となる。このような治療剤および治療用組成物は、それぞれ造影治療剤および造影治療用組成物と解されてもよい。
【実施例】
【0128】
以下に実施例を挙げて、実施形態の1例についてより具体的に説明する。以下の実施例は、実施形態の1例を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定または制限するためのものではない。
【0129】
1)抗ガドリニウムDTPA一本鎖抗体遺伝子の作製
抗Gd−DTPAモノクローナル抗体(抗Gd-DTPA mAb)の軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)をリンカー・ペプチドで連結して抗Gd−DTPA一本鎖抗体(GdscFv)のアミノ酸配列をデザインした(配列番号1)。このアミノ酸配列をもとに、塩基配列をヒトのコドン使用頻度に最適化し、Gd−scFv遺伝子を化学合成した(配列番号2)。
【0130】
2)GdscFv遺伝子組込みベクター(pDis-GdscFv)の作製
細胞外のGd−DTPAを捕捉するため、Gd−scFvを融合蛋白質として細胞表面に提示されるように設計したベクターを作製した。pDisplay(Life Technologies)は、蛋白質を細胞膜に輸送するシグナル・ペプチド、及び細胞膜に輸送された蛋白質を膜に固定するためのアンカー・ペプチドが組込まれたベクターで、両ペプチド間に目的遺伝子を組込むことで、融合蛋白質として遺伝子産物を細胞膜に固定化して細胞表面に提示することができる。pDisplayには、この他に融合蛋白質の検出を容易にするヘマグルチン(HA)タグ配列とc−mycタグ配列が組込まれている。このpDisplayを、GdscFv遺伝子組込みベクター(pDis-GdscFv)の作製に用いた。1)に記載の方法で合成したGdscFv遺伝子を制限酵素(Bgl IIとSal I)で消化した後、同じく制限酵素(Bgl IIとSal I)で消化したpDisplayベクターに組み込み、pDis−GdscFvを作製した(図3)。pDis−GdscFvのGdscFv融合遺伝子の塩基配列を配列番号10に、同遺伝子がコードする融合蛋白質のアミノ酸配列を配列番号9に示した。
【0131】
3)ウェスタン・ブロットによるGdscFv蛋白質の検出
50μLのOpti−MEM培地に1.0μLのlipofectamine 2000を加えて室温に5分間静置した後、0.6μgのベクター(pDis-GdscFv or pDisplay)を含むOpti−MEM培地50μLと混合して室温に20分間静置した後、この溶液を一晩培養しておいたHuh−7細胞(24 wellプレートに8.0 x 104細胞/wellで播種)の培養液に加えて培養を続けた。48時間後、培地を取り除き、細胞をPBSで2回洗浄した後、セルスクレーパーを用いてプレート底面から細胞を剥がしてPBSに縣濁した。14,000rpm、5分間の遠心で細胞を回収して細胞溶解液(1 x SDS-PAGE buffer)を加え、沸騰水中に5分間インキュベートした後、8%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動をおこなった。泳動終了後、ゲル中の蛋白質を、サブマリン型電気泳動装置を用いて、PVDF膜(Pore size: 0.44 μm, Millipore)に転写(ブロッティング)した。ブロックエース(Dainippon Sumitomo Pharma)でPVDF膜のブロッキングをおこなった後、一次抗体溶液(500倍希釈した一次抗体と10% ヤギ正常血清を含むPBS)に膜を浸し、穏やかに振とうしながら1時間、室温で反応させた。一次抗体は、GdscFv融合蛋白質内部のヘマグルチニン・タグ配列を認識するマウス抗HA抗体(Millipore)を使用した。1時間後、一次抗体溶液を取り除き、トリス緩衝食塩水(TBS)で膜を3回洗浄した。以降は、ABC kit(Alkaline Phosphatase Universal, VECTASTAIN)を用いて、一次抗体が結合した蛋白質を検出した。操作はキットのマニュアルに従った。PVDF膜は、Alkaline phosphataseの基質であるBCIP/NBT(KPL)で発色させた。図4に示したように、pDis-GdscFvを導入した細胞で、Gd-scFv融合蛋白質に由来するシグナルが検出された(矢印のバンド、分子量が約35 kDa)。
【0132】
4) 免疫細胞染色によるGdscFv蛋白質の検出
50μLのOpti−MEM培地に1.0μLのlipofectamine 2000を加えて室温に5分間静置した後、0.6μgのベクター(pDis-GdscFv or pDisplay)を含むOpti−MEM培地50μLと混合して室温に20分間静置した後、この溶液を一晩培養しておいたHuh−7細胞(8 wellチャンバースライドに4.0 x 104細胞/チャンバーで播種)の培養液に加えて培養を続けた。48時間後、培養液を除いて細胞をPBSで2回洗浄してから、4%のパラホルムアルデヒドを300μL加えて室温で20分間反応させた。PBSで細胞を3回洗浄した後、ブロッキング液(5% ヤギ正常血清を含むPBS )を500μL加えて室温に静置した。1時間後、ブロッキング液を取り除き、一次抗体溶液(250倍希釈した一次抗体と5% ヤギ正常血清を含むPBS)を加えた。一次抗体は、GdscFv融合蛋白質内部のc−mycタグ配列を認識するマウス抗c−myc抗体(Sigma)を使用した。4℃に1晩静置した後、一次抗体溶液を取り除き、PBSで3回洗浄してから、二次抗体溶液(1000倍希釈した蛍光標識(Alexa 555標識)ヤギ抗マウス・モノクローナル抗体, Life Technologies)と室温で反応させた。1時間後、二次抗体溶液を取り除き、PBSで2回洗浄した後、DAPI溶液(1 μg/ml)で核染色をおこなった。PBSで2回洗浄後、チャンバーを取り外して、封入剤AntiFade(Life Technologies)を1滴垂らした。封入剤の上にカバーグラスを載せ、その4辺をマニキュアで固定してから、蛍光装置付き倒立顕微鏡による観察をおこなった。図5に示したように、pDis−GdscFvを導入した細胞において、Gd−scFv融合蛋白質に由来する蛍光が検出された(図5)。
【0133】
5)GdscFv発現細胞に対するMR造影剤(ガドペンテト酸)の結合の検出
上記3)に記載の方法でpDis−GdscFvを導入したHuh−7細胞(Gd-scFv細胞)と、ベクターを導入していないこと以外、前記細胞と同じ処理をおこなったHuh−7細胞(Mock細胞)を準備した。48時間後、培地を除いて細胞をPBSで洗浄してから、8% ヤギ正常血清を含むPBSを加え、室温で30分間ブロッキングした。30分後、溶液を取り除いて西洋ワサビ過酸化酵素(HRP)で標識したガドペンテト酸(Gd-DTPA, BioPAL)と蛍光色素(DyLight 488)で標識したウサギ抗HRP抗体(蛍光標識抗体)(SEIKAGAKU BIOBUSSINESS)の混合溶液、或いは蛍光標識抗体のみを細胞に加え、室温で1時間反応させた。HRP-Gd-DTPAとDyLight 488標識HRP抗体は、前もって、5% ヤギ正常血清を含むPBS中で室温に30分間インキュベートして複合体を形成させてから加えた。1時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、上記4)の核染色後と同様の方法により、蛍光観察用のサンプルを作製して正立型落射蛍光顕微鏡による観察をおこなった。図6に示したように、pDis−GdscFvを導入した細胞において、Gd−DTPA/蛍光標識抗体に由来する蛍光が検出された(図6)。
【0134】
6)GdscFv発現細胞におけるMR画像のコントラスト増強効果(マイクロMRIによる検出)
上記3)に記載の方法でpDis−GdscFvを導入したHuh−7細胞(Gd-scFv細胞)を0.25% トリプシン処理により回収した。この際、ベクターを導入していないこと以外、前記細胞と同じ処理をおこなったHuh−7細胞(Mock細胞)を準備した。回収したGd−scFv細胞、及びMock細胞をそれぞれ2つに分割した後、一方に10μg/mLのGd−DTPAを含む培地を、もう一方にはGd−DTPAを含まない培地を500μL加えた合計4サンプルを調整し(Gd-scFv細胞/Gd+, Gd-scFv細胞/Gd-, Mock細胞/Gd+, Mock細胞/Gd-)、穏やかに振盪しながら37℃にインキュベートした。2時間後、1,000rpm、3分間の遠心で細胞を回収し、1mLのPBSで細胞を洗浄した。予め40℃に温めておいた350μLのPBSに細胞を縣濁し、同じく40℃に温めておいた350μLの2.0%アガロースに加えてすばやく混ぜ合わせた。この溶液を24wellプレートのwellに注いで固化させて、マイクロMRI撮像用サンプルを調整した。このサンプルのT1強調画像を、オックスフォード社製のマイクロMRI(4.7T)で撮像した。図7に、マイクロMRIで撮像した結果を示した。Gd−scFv細胞/Gd+では、Gd−DTPAの造影効果(水分子のT1緩和時間短縮)により、MR画像のコントラストが増強された。
【0135】
以上のことから次のことが確認できた。実施形態に従うレポーターベクターが製造された。製造されたレポーターベクターに含まれる特定の条件下で活性化されたレポーター遺伝子から、細胞外にレポーターペプチドが提示された。提示されたレポーターペプチドに特異的に結合する金属化合物で標識した細胞が、MRIでの測定によって増強されたMR画像が得られた。
【符号の説明】
【0136】
11.レポーターベクター
12.細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列
13.特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列13
14.転写終結シグナルをコードする塩基配列
21.細胞
22.細胞膜
23.金属化合物結合ペプチド
24.金属化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の条件に応じてプロモーター活性を示す塩基配列と、細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、転写終結シグナルをコードする塩基配列とを上流から下流に向けてこの順番で含む細胞外に金属化合物結合能を提示するレポーターベクター。
【請求項2】
前記細胞外に提示される金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列が、
(a)金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列と、
(b)前記金属化合物結合ペプチドを細胞膜に輸送するシグナル・ペプチドをコードする塩基配列と、
(c)前記シグナル・ペプチドによって前記細胞膜に輸送された前記金属化合物結合ペプチドを前記細胞膜に固定化するアンカー・ペプチドをコードする塩基配列と
を上流から下流に向けてこの順番で含む請求項1に記載のレポーターベクター。
【請求項3】
前記(a)における金属化合物結合ペプチドが、特定の金属化合物に対するモノクローナル抗体に由来する重鎖可変領域断片と、前記モノクローナル抗体に由来する軽鎖可変領域断片と、前記重鎖可変領域断片と前記軽鎖可変領域断片との間に存在するリンカー・ペプチドとを含み、且つ前記重鎖可変領域断片と前記軽鎖可変領域断片とにより免疫学的に前記特定の金属化合物と特異的に結合する一本鎖抗体ペプチドである請求項2に記載のレポーターベクター。
【請求項4】
前記(a)における金属化合物結合ペプチドが、常磁性金属含有物と特異的に結合するペプチドである請求項2または3に記載のレポーターベクター。
【請求項5】
前記(a)における金属化合物結合ペプチドが、常磁性金属、常磁性金属イオン、常磁性金属錯体または磁性金属錯体塩と特異的に結合するペプチドである請求項2または3に記載のレポーターベクター。
【請求項6】
前記(a)における金属化合物結合ペプチドが、ガドリニウム化合物、テルビウム化合物、鉄化合物、マンガン化合物、銅化合物またはクロム化合物と特異的に結合するペプチドである請求項2または3に記載のレポーターベクター。
【請求項7】
前記(a)における金属化合物結合ペプチドが、ガドリニウム、ガドリニウムイオン、ガドリニウム錯体、ガドリニウム錯体塩、テルビウム、テルビウムイオン、テルビウム錯体、テルビウム錯体塩、鉄、鉄錯体、鉄錯体塩、マンガン、マンガンイオン、マンガン錯体、マンガン錯体塩、銅、銅イオン、銅錯体、銅錯体塩、クロム、クロムイオン、クロム錯体、クロム錯体塩、それらの金属原子を含む酸化金属、酸化金属塩、水酸化金属および金属炭酸塩、並びにそれらの水和物からなる群より選択される金属化合物と特異的に結合するペプチドである請求項2または3に記載のレポーターベクター。
【請求項8】
前記(a)における金属化合物結合ペプチドが、ガドペンテト酸と特異的に結合するペプチドである請求項2または3に記載のレポーター・ベクター。
【請求項9】
更に、前記(a)における金属化合物結合ペプチドをコードする塩基配列が、ガドペンテト酸と特異的に結合する一本鎖抗体ペプチドをコードする塩基配列である請求項8に記載のレポーターベクター。
【請求項10】
前記一本鎖抗体ペプチドをコードする塩基配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列である請求項9に記載のレポーターベクター。
【請求項11】
前記一本鎖抗体ペプチドをコードする塩基配列が、配列番号2に記載の塩基配列である請求項9に記載のレポーターベクター。
【請求項12】
更に、前記(b)におけるリーダー・ペプチドをコードする塩基配列が、イムノグロブリンκ鎖のリーダー・ペプチドをコードする塩基配列である請求項2〜11の何れか1項に記載に記載のレポーターベクター。
【請求項13】
更に、前記(c)におけるアンカー・ペプチドをコードする塩基配列が、血小板由来成長因子受容体を細胞膜に固定するアンカー・ペプチドをコードする塩基配列である請求項2〜12の何れか1項に記載のレポーターベクター。
【請求項14】
インビトロにおいて、特定の条件を有する細胞を検出する方法であって、
(1)細胞を含む検出対象に対して、請求項1〜13の何れか1項に記載のレポーターベクターを取り込ませることと、
(2)前記細胞外に金属化合物結合ペプチドを提示させることと、
(3)前記金属化合物結合ペプチドに対して、前記金属化合物結合ペプチドと結合対を形成可能な金属を接触させることと、
(4)前記金属化合物結合ペプチドに結合した金属を検出することと、
を含む方法。
【請求項15】
請求項1〜13の何れか1項に記載のレポーターベクターを有効成分として含む特定の条件を有する細胞のための検出剤。
【請求項16】
請求項1〜13の何れか1項に記載のレポーターベクターを有効成分として含む、前記特定の条件を指標とする疾患のための診断剤。
【請求項17】
請求項1〜13の何れか1項に記載のレポーターベクターを有効成分として含む、前記特定の条件を指標とする疾患のための造影剤。
【請求項18】
請求項1〜13の何れか1項に記載のレポーターベクターを有効成分として含む、前記特定の条件に関連する疾患を治療するための治療剤。
【請求項19】
前記疾患が癌または骨代謝異常である請求項15〜18の何れか1項に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200245(P2012−200245A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70799(P2011−70799)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】