説明

細胞懸濁液の作製方法及び細胞懸濁液

【課題】 作製および適用が迅速かつ効率的で、簡単な細胞懸濁液の作製方法を提供する

【解決手段】 本発明の方法を適用する際および/または本発明の装置を使用する際には
、ドナー組織を採取し、細胞解離処理に付し、患者に移植するのに好適な細胞を回収し、
レシピエント移植部位に速やかに分散するのに好適である溶液に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を移植するための簡単、迅速で、価格効率のよい技術に関し、特に、ド
ナー部位から得られた組織試料で細胞懸濁液を作製し、その細胞懸濁液をレシピエント部
位に適用するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷を治療する当業者に周知の方法は多数存在する。例えば、皮膚に損傷または欠損が
ある身体領域を覆う皮膚を再構成することを目的とする皮膚移植技法が存在する。一般に
、このような種類の移植は、宿主‐ドナー関係および移植の厚さによって分類される。臨
床的に最もよく適用される移植は、組織が1身体領域から採取され、別の領域に適用され
る自家移植である。移植された組織は新たな血液供給を形成し、下層組織と接着する。
【0003】
分層植皮、全層植皮およびマイクログラフト術を含み、現在使用されている皮膚移植に
は数種存在する。これらの移植片は各々ある種の技法を使用して作製する必要があり、ど
れも本質的な利点と欠点を有する。分層植皮は、実施にかなりの熟練、時間および高価な
装置を必要とすることが多い。さらに、ドナー部位は疼痛を伴い、瘢痕化し、被覆できる
領域が制限される。分層植皮は全層植皮と比べて成功率が高いかもしれないが、通常審美
的には関心が低い。全層植皮は熟練や高価な装置をあまり必要とせず、審美的な外観は分
層植皮より良好である。しかし、全層植皮は、分層植皮同様に、「取らない」。マイクロ
グラフトは実施が簡単で、特別な装置を必要としない。しかし、結果として生じる瘢痕は
許容されないので、マイクログラフトは他の技法ほど良くない。
【0004】
上記移植技法の別の形態は、被処理組織から分層を平行に切断する分層植皮または全層
植皮の1種である網状移植である。網状移植の利点のいくつかとして以下が挙げられる。
すなわち、広い実施領域、移植部下層からの血液または血清の排出、および、起伏のある
レシピエント領域への移植の高い適合性である。健康な肉芽床(granulation beds)に移植
を適用したとき、この技法は、90〜100パーセントの「取り込み(take)」と成功率が
よかった。
【0005】
分層植皮術の別法は、ドナー部位に吸引下で水疱を形成し、レシピエント部位に移植す
ることである。創傷を治療するための水疱の形成は1960年代以降使用されている。水
疱は、Dermavac(商標)などの吸引装置によって、約250〜300mmHgの
吸引圧で1〜2時間吸引することによって形成される。次いで、水泡を切除し、創傷上に
配置する。治癒期間は約10〜14日である。この方法には、移植片を作製するのに必要
な時間がかかりすぎること、および移植片がその領域の色素沈着を生じないこと、または
、治療領域の辺縁部付近には不均一な色素沈着が見られることなどのいくつかの欠点が存
在する。
【0006】
マイクログラフト術は、広い領域を被覆する一般的な方法になっており、ドナー部位か
ら非常に小さい組織部分を数多く「切り取り」、包帯に適用し、それを創傷領域に適用す
ることを含む。
【0007】
インビトロにおいて組織を形成する最も進んだ技術は、表皮を培養することである。培
養上皮自家移植片(CEA)は、火傷および火傷以外に、広い領域の生体表面が皮膚損失
している状況の被覆における重要な補助剤である。多種多様の用途に使用するための自家
上皮移植片を作製することがその目的である組織培養施設を併設する多数のセンターが世
界中にある。CEAの有用性および用途は、移植術に好適な集密細胞シートを生じる能力
に関する。この技法は、上記した以前の治療法の欠点の多くを克服する。例えば、培養上
皮自家移植片は、ドナー部位に関する要件を少なくする。しかし、これらの自家移植片は
増殖が遅く、移植片の培養に時間がかかり、レシピエント部位の調製時間を越えることも
多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞懸濁液と、その懸濁液を調製する方法と、調製するための装置とを提供
し、それらは各々従来の移植技術に関連する欠点の1つ以上を改善する。
【0009】
[発明の開示]
本発明は、独自の細胞懸濁液と、作製および適用が迅速で、効率的で、簡単であるその
作製方法とに関する。本発明はまた、独自の細胞懸濁液を使用して患者を治療する方法と
、その作製方法に使用するのに好適な装置とにも関する。記載されているが本発明を実施
するために必須ではない装置の用途は、CEAなどの従来の移植技術の用途に関連する複
雑さをかなり軽減することが見出されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によると、患者に適用するのに好適な細胞懸濁液を作製する方法で
あって、
(a)組織試料中の細胞層を解離することができる少なくとも1つの物理的および/ま
たは化学的解離手段に、患者に移植するのに好適な細胞を含む組織試料を付するステップ
と、
(b)ステップ(a)において使用する組織解離手段の存在から組織試料を取り出して
、栄養液の存在下において組織試料から、患者に移植するのに好適な細胞を回収するステ
ップであって、栄養液は、(i)異種血清を含有せず、(ii)患者に適用するまで、細
胞の生存性を維持することができ、(iii)移植術を受ける患者の領域への直接適用に
好適であるステップと、
(c)ステップ(b)により作製した細胞懸濁液をろ過して、大きい細胞凝集塊を除去
するステップと
を含む方法が提供される。
【0011】
本発明の好ましい形態において、解離手段は、細胞結合を破壊することができる、例え
ば、トリプシンのような酵素などの化学的性質である。さらに、好ましくは、ろ過後の細
胞懸濁液は、基本的な塩溶液からさらに複雑な栄養液までのいずれであってもよい栄養液
を使用して適当な細胞密度に希釈される。
【0012】
本発明の第2の態様によると、上記の方法により作製される細胞懸濁液が提供される。
好ましくは、懸濁液中の細胞は自家細胞である(すなわち、細胞は、自家移植を必要とし
ている患者から単離されている)。本発明者らは、細胞懸濁液から異種血清を除去するこ
とによって、感染伝播の可能性を低くし、患者と血清との間の異種反応をなくすことを観
察した。上記の方法により作製される細胞懸濁液の別の特徴は、懸濁液から細胞を単離す
るために使用される組織試料が、細胞を回収する前に酵素液から除去されているというこ
とである。細胞間接着を破壊することができる酵素に細胞をさらすと、細胞懸濁液の生存
性は経時的に低下し、患者に適用する際には移植効率が低下する。上記方法により作製さ
れる細胞懸濁液は、定期的に細胞を回収するが、トリプシンのような酵素の存在下に組織
が浸漬されている比較方法と比較して、細胞生存性が大きいことを観察している。
【0013】
本発明の第3の態様によると、移植術を必要としている患者を治療する方法であって、
(a)上記方法により細胞懸濁液を作製するステップと、
(b)移植領域に比較的均一に分布するような細胞懸濁液の拡散を容易にする方法で、
細胞移植を必要としている患者の領域に直接懸濁液を投与するステップとを含む方法が提
供される。
【0014】
別の形態において、本発明は、
(a)患者に移植するのに好適な細胞を含む組織試料を、試料中の粘着性の組織層片を
解離するのに好適な酵素に付するステップと、
(b)ステップ(a)において使用する酵素液から試料を取り出して、栄養液の存在下
において組織試料から、患者に移植するのに好適な細胞を回収するステップであって、栄
養液は、(i)異種血清を含有せず、(ii)患者に適用するまで、細胞の生存性を維持
することができ、(iii)組織移植術を受ける患者の領域への直接適用に好適であるス
テップと、
(c)ステップ(b)により作製した細胞懸濁液をろ過して、大きい細胞凝集塊を除去
するステップと
により作製される移植に好適な細胞懸濁液の、移植術を必要とする組織障害を治療するの
に好適な医薬品を作製するための用途からなる。
【0015】
本発明の第4の態様によると、組織再生液を形成するための装置であって、
(a)酵素液を必要な温度に加熱するのに好適であり、その液を好適な期間にわたって
望ましい温度に維持することができる加熱手段と、
(b)細胞懸濁液から大きい細胞凝集塊を分離することができるフィルター手段を備え
るフィルター陥凹部分と
を備える装置が提供される。
【0016】
酵素液を加熱手段と接触させて配置する場合には、好ましくは、酵素液は、液内が局所
的に加熱されないように加熱される。
【0017】
本発明の別の態様および利点は、以下の例示的な図面を参照して進められている以下の
説明を参照することにより当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】蓋が開いた状態で、第2の部材が配置されている装置の例示的な斜視図である。
【図2】蓋が開いた状態で、第2の部材が取り外されて逆さにされている装置の例示的な斜視図である。
【図3a】装置の第1の部材の例示的な斜視図である。
【図3b】装置の第1の部材の例示的な背面図である。
【図4】装置の本体を下から見た例示的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明の詳細な説明]
〈一般〉
本明細書に記載されている本発明は、具体的に記載されているもの以外の変更および改
良を受けることができると当業者は考えるだろう。本発明はこのような変更および改良を
全て含むと理解するべきである。本発明はまた、本明細書に個別または集合的に言及され
または示されているステップ、特徴、組成物および化合物の全て並びにステップまたは特
徴の任意の2つ以上の任意および全ての組み合わせを含む。
【0020】
本発明は、例示目的であることだけが意図されている、本明細書に記載の具体的な実施
態様によって範囲が限定されない。機能的に等価な製品、組成物および適宜方法は、明ら
かに、本明細書に記載されている本発明の範囲内である。
【0021】
本明細書および以下の請求の範囲において、本文がそうでないことを要求しない限り、
「含む」という言葉または「(単数のものが何かを)含む」もしくは「含んでいる」など
のバリエーションは、陳述されている整数または整数群を含むが、任意の他の整数または
整数群を除外しないことを示すことが理解されるだろう。
【0022】
〈好ましい実施態様の説明〉
上記を考慮すると、本発明は、患者への移植に好適な生組織の移植可能な細胞懸濁液を
作製に好適である独自の方法および/または装置を提供する。本発明の方法を適用する際
および/または本発明の装置を使用する際には、ドナー組織を採取し、組織解離手段に付
し、患者への移植に好適な細胞を回収し、レシピエントの移植部位への速やかな分散に好
適である溶液に分散する。
【0023】
本発明は、そのいくつかが以下のパラグラフに例示されている従来技術を上回る利点を
有する。
【0024】
1.本発明は、臨床の場において組織に細胞被覆を供給する時間効率的な方法を提供する
。すなわち、細胞は、手術時に必要とされるときに、利用可能である。細胞調製時間が非
常に短く、周術期または専門医もしくは一般医の診察室で移植術を実施することができる
ので、このようなことが可能になる。
【0025】
2.本発明は、従来のCEA'sの使用に関連する複雑さをかなり少なくする方法と装置
とを提供し、損傷時から時間がたって見せられた火傷症例に特に有用である。火傷が治癒
されていない患者の紹介が遅れることにより、または単に移植片の培養に必要な時間がレ
シピエントをベッドに寝かせる準備をする時間を越えたことにより、細胞を利用できない
場合がある。本発明は、移植片調製時間に関する問題を改善する。
【0026】
3.本発明は、損傷領域およびドナー部位の迅速な細胞被覆を実施する助けとなる。本発
明は、ドナー部位のサイズを縮小する手段を提供し、生検ドナー部位は分層植皮のドナー
部位より顕著に小さく、分層植皮のドナー部位の使用を減らすか、または使用をなくし、
細胞被覆の増殖速度を改善し、小さいやけどの治癒速度を改善し、瘢痕などの狭い領域の
皮膚再建に有用であり、瘢痕の質を改善する。
【0027】
4.本発明は、従来の組織培養方法に使用される溶液の使用に関連する問題を改善する。
本発明の調製方法および治療方法によると、移植に使用する細胞を、異種血清を含有しな
い栄養液に懸濁させる。次いで、その懸濁液をレシピエント部位に直接配置する。
【0028】
5.本発明は、種々の皮膚障害または疾患を治療する手段を提供する。例えば、本発明は
以下に使用することができる。すなわち、表皮リサーフェイシング、皮膚損失後の置換、
皮膚領域の再色素沈着中の部位適合(match−up)、火傷創傷、例えば、不適切な
創傷治癒、不適切な瘢痕方向または創傷収縮による瘢痕の歪みによって生じる瘢痕を治療
する際の白斑(leukoderma)、白斑症(vitiligo)、まだら症、座瘡
の治療、化粧品による剥皮のリサーフェイシング、レーザー治療によるリサーフェイシン
グ、および、皮膚再建に関連するリサーフェイシングである。さらに、本発明の方法は、
例えば、神経細胞置換治療、(尿路上皮細胞、口腔粘膜細胞および気道上皮細胞などの)
上皮細胞置換治療、内皮細胞置換治療および骨形成前駆細胞置換治療を含む細胞置換治療
に使用することができる。
【0029】
6.本発明は、インサイチュー(in situ)において見られるものに匹敵する互いの比の細
胞懸濁液を作製する手段を提供する。すなわち、ケラチノサイトの基底細胞、ランゲルハ
ンス細胞、繊維芽細胞およびメラニン細胞などの細胞は、典型的には、標準的な細胞培養
技法と比較して、生存率が高いが、選択細胞培養によりある種の細胞主を損失することが
ある。これは、皮膚移植後の皮膚の適正な再色素沈着を可能にするという利点を有する。
【0030】
7.本発明はより迅速な手術および治癒を可能にし、それによって診療中の患者のトラウ
マを低下する。
【0031】
本発明の第1の態様によると、損傷組織のリサーフェイシングおよび再建への使用に好
適な細胞懸濁液を調製する方法が提供される。
【0032】
本発明の方法によると、組織移植術の分野に周知の手段によって、(好ましくは、自家
性の)組織を患者から採取する。好ましくは、これは組織生検を採取することによって実
施される。生検試料を採取する場合には、生検の深さおよび表面積サイズに考慮を払う必
要がある。生検の深さおよびサイズは、手技を開始する容易さおよび患者が手技から回復
する速度に影響を与える。本発明のかなり好ましい形態において、ドナー部位は、例えば
、頭部および頸部のための耳後方部、下肢部のための大腿部、上腕部のための上腕内側部
、または、足裏部のための手掌部もしくはその逆のように、レシピエント部位に適当に適
合するように選択されるべきである。
【0033】
生検試料が患者から採取されたら、組織試料の細胞層を解離することができる物理的お
よび/または化学的解離手段に組織試料を付する。
【0034】
組織内の細胞層を解離する方法は当分野において周知である。例えば、解離手段は物理
的または化学的離開手段であってもよい。物理的解離手段は、例えば小刀による組織試料
の擦り取り、組織の切り刻み、層の物理的切り離しまたは組織の灌流を含んでもよい。化
学的解離手段は、例えば、トリプシン、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン−ed
ta、サーモリシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、パパインおよびパ
ンクレアチンなどの酵素による消化を含んでもよい。組織を解離するための非酵素液も使
用することができる。
【0035】
好ましくは、組織試料の解離は、組織試料中の細胞層を解離するのに十分な量の酵素を
含有する事前に加温した酵素液に試料を入れることによって実施される。これは、例えば
、トリプシン液を使用することによって実施することができるが、細胞を他の細胞または
固相表面から分離させられるディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン−edta、サー
モリシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼ、パンクレアチン、エラスターゼおよびパパイ
ンなどの任意の他の酵素をこの目的に使用することができる。使用する酵素がトリプシン
である場合には、本発明の方法に使用する酵素液は、好ましくは、カルシウムおよびマグ
ネシウムを含有しない。このような溶液の1つは、好ましくは、無カルシウムおよびマグ
ネシウムイオンリン酸緩衝生理食塩液である。
【0036】
組織生検が(上皮−真皮細胞を含む)患者の皮膚由来である場合には、本発明の方法に
使用してもよいトリプシンの量は、好ましくは、溶液1容量あたり約5〜0.1%のトリ
プシンである。望ましくは、溶液のトリプシン濃度は約2.5〜0.25%で、約0.5
%トリプシンが最も好ましい。
【0037】
組織試料をトリプシン液に付する時間は、採取した生検試料のサイズに応じて変わって
もよい。好ましくは、組織層間の密着結合を切断しやすくするのに十分な時間、組織試料
をトリプシン液の存在下におく。例えば、組織試料を患者の皮膚から採取する場合には、
試料を5〜60分間トリプシン液内においてもよい。好ましくは、組織試料を、10〜3
0分間トリプシン液に浸漬し、15〜20分がほとんどの組織試料に最適である。
【0038】
組織試料を適当な時間トリプシン液に浸漬したら、試料をトリプシン液から取り出し、
栄養液で洗浄する。組織試料の洗浄は、処理後の試料を栄養液に部分的または完全に浸漬
することを含んでもよい。または、さらに好ましくは、試料表面から任意の過剰なトリプ
シン液を除去するおよび/または十分に希釈するのに十分な容量の洗浄液を組織試料にて
滴下する。好ましくは、希釈は、栄養液中0.05%トリプシン未満であればよい。
【0039】
本発明の方法に使用する栄養液は、希釈または中和によってトリプシンの影響を大幅に
低下させるようにすべきであり、より好ましくはトリプシンの影響を除去することができ
るべきである。本発明に使用する栄養液はまた、好ましくは、(i)少なくとも異種血清
を含有せず、(ii)患者に適用するまで、細胞の生存性を維持することができ、(ii
i)組織移植術を受ける患者の領域への直接適用に好適であるという特徴を有する。溶液
は、基本的な塩溶液からさらに複雑な栄養液のいずれであってもよい。好ましくは、栄養
液は血清を全く含有しないが、体液に見られる物質に類似した種々の塩を含有し、この種
の溶液は、生理食塩液と呼ばれることが多い。リン酸塩または他の無毒性物質は、pHを
適当な生理的レベルに維持するために、栄養液を緩衝することができる。特に好ましい好
適な栄養液はハートマン(Hartmann's)液である。
【0040】
組織試料に栄養液を適用してから、試料の細胞層を分離して、再生できる細胞を細胞材
料から取り出し、栄養液に懸濁させることができる。組織試料が皮膚である場合には、好
ましくは、真皮および表皮を分離し、両方の表面の真皮−表皮接合部にアクセスしやすく
する。
【0041】
次いで、当技術上周知の任意の手段によって分離後の層から再生可能細胞を除去する。
好ましくは、小刀などの器具を使用して、再生細胞を層の表面から削り取る。真皮−表皮
接合部の再生可能細胞には、ケラチノサイトの基底細胞、ランゲルハンス細胞、繊維芽細
胞およびメラニン細胞が挙げられるが、これらに限定されない。組織試料から細胞を遊離
させ、栄養液に懸濁させる。好ましくは、この採取ステップではごく少量の栄養液を組織
試料に適用する。さもないと、懸濁液は流れやすくなってしまい、移植片への懸濁液の適
用が困難になる。
【0042】
細胞懸濁液内の大きすぎる細胞凝集物をなくすために、好ましくは、懸濁液をろ過する
。懸濁液から大きすぎる細胞凝集物を分離することができる任意のフィルターを本発明の
この好ましいステップに使用することができる。本発明のかなり好ましい形態において、
フィルターサイズは50μm〜200μmである。さらに好ましくは、フィルターサイズ
は75μm〜150μmであり、100μmは1つの具体例である。
【0043】
移植部位への適用前またはろ過直後に、細胞懸濁液を希釈して、懸濁液を使用する目的
に好適な適当な細胞密度にすることができる。
【0044】
本発明の第2の態様によると、本発明の第1の態様によって記載されている方法によっ
て作製される細胞懸濁水溶液が提供される。この方法によって提供される細胞懸濁液は、
組織再生および移植技法にかなり好適である。移植技術にこのような懸濁液を使用する重
要な利点は、少数の細胞のインシトゥー操作によって迅速に治療することができる創傷領
域または範囲を大幅に拡大するために使用することができるということである。移植部位
に播種する細胞の数および濃度は、懸濁液中の細胞濃度を変更することによって、または
、移植部位の所定の領域または範囲に分布させる懸濁液の量を変更することによって変え
ることができる。
【0045】
(i)異種血清を含有せず、(ii)患者に適用するまで細胞の生存性を維持すること
ができ、(iii)組織移植術を受ける患者の領域への直接適用に好適である栄養液に細
胞を懸濁させることによって、患者への移植の成果が改善されることを本発明者らは見出
した。この部分的な説明は、異種血清、さらに好ましくは全ての血清を細胞懸濁液から除
去することに起因すると思われる。異種血清は培地を移植する際の一般的な付加物であり
、感染および感受性問題を生ずる可能性があることが周知である。しかし、このような血
清は、一般に、インビトロにおける細胞の増殖に必要であり、使用する酵素がトリプシン
である場合には、酵素の作用を中和することが必要である。懸濁液中の細胞集団は移植部
位への適用前には増殖されないので、本発明に使用する栄養液はこのような血清を必要と
しない。むしろ、細胞増殖は、インビトロにおける系よりも患者において奨励される。ト
リプシンを使用する場合には、中和は他の手段によって実施される。
【0046】
本発明の第1の態様の方法により作製される細胞懸濁液の別の独自の特徴は、従来技術
の細胞調製液と比較して、インシトゥーにおいて見られるものに匹敵するということであ
る。考えられる説明の1つは、従来技術において、細胞調製液の培養はケラチノサイトの
選択的な培養を使用しているので、繊維芽細胞およびメラニン細胞などの細胞構成要素の
損失が生じるが、本発明の第1の態様によって作製される細胞懸濁液は、インシトゥーに
おける細胞集団に匹敵する細胞組成を有する。本発明の第1の態様により作製される細胞
懸濁液の別の特徴は、移植細胞は採取されるが、強力な消化酵素に長期間さらされる技法
を使用する従来の細胞採取手法とは異なり、栄養液に採取されるとき、生存性が高いとい
うことである。細胞をこのような酵素に長時間さらすと、細胞懸濁液の生存性は低下する

【0047】
本発明の第3の態様によると、組織移植を必要とする患者の治療方法が提供される。こ
の方法によって、本発明の第1の態様により作製される細胞懸濁液を移植部位に適用する
。細胞を含有する懸濁液は、噴霧、延展、ピペッティングおよび塗布を含むいくつかの技
法のいずれかによって移植部位に手で分布させることができる。
【0048】
本発明のかなり好ましい形態において、懸濁液を移植部位に噴霧する。懸濁液は、液体
を空気伝搬性の小液滴に変形する任意の種類のノズルを介して噴霧することができる。こ
の実施態様は2つの制約を受ける。第1には、実質的な数の細胞を損傷または死滅させる
と思われる剪断力または圧力に細胞液を付してはいけない。第2に、細胞懸濁液に、細胞
または創傷部に毒性または有害である噴射剤を混合することが要求されるべきではない。
普通に入手可能な種々のノズルは両方の制約を満たしている。このようなノズルを、細胞
懸濁液を含有する容器に、任意の従来の方法によって接続させることができる。
【0049】
または、懸濁液は、ピペット、通常の「点眼器」、注射筒および針および/または少量
の細胞懸濁液を移植部位に配置する他の同様の装置を介して送達することができる。
【0050】
細胞懸濁液をレシピエントの移植部位に適用したら、創傷を包帯で巻くことができる。
好ましい実施態様において、包帯剤は、織ってあるナイロン製包帯であるSurfaso
ft(商標)である。好ましくは、創傷の治癒は、当業者に周知の皮膚移植治療の標準的
なプロトコールによって追跡される。
【0051】
本発明の第4の態様によると、組織再生液を形成するための装置であって、酵素液を必
要な温度に加熱するのに好適であり、その液を好適な期間にわたって望ましい温度に維持
することができる加熱手段と、細胞懸濁液から大きい細胞凝集塊を分離することができる
フィルター手段を有するフィルター陥凹部分とを備えている装置が提供される。
【0052】
本発明の第4の態様の好ましい形態において、本発明の装置はまた、組織試料と、組織
試料中の細胞の生存性を維持することもできる栄養液を保持することができる容器も備え
る。さらに好ましくは、容器は、組織試料の操作を可能にして、組織細胞層の分離を可能
にし、移植に好適な層からそのような細胞を採取するのに十分なサイズである。
【0053】
本発明の装置はまた、栄養液などの流体を貯蔵する1つ以上の流体保持ウェルを備える
ことができる。ウェルは、栄養液を保持するプラスチックまたはガラスバイアルなどの容
器の受け器として代替的に作用することができる。好ましくは、ウェルは少なくとも10
ml容量を保持することができる。このようなウェルにより、流体を組織試料に適用する
ことを容易にすることができる。適用部位のごく近接位置にこのような流体を貯蔵するこ
とにより、流体が偶発的に漏洩する危険を低下するという利点が提供され、組織試料また
は細胞懸濁液に流体を正確に送達するために流体にアクセスする簡単な手段が提供される

【0054】
本発明のかなり好ましい形態において、本発明の装置は、
(i)(a)酵素液を必要な温度に加熱するのに好適であり、その液を好適な期間にわ
たって望ましい温度に維持することができる少なくとも1つの加熱手段と、
(b)細胞懸濁液から大きい細胞凝集塊を分離することができるフィルター手段を備
える少なくとも1つのフィルター陥凹部分と、
(c)栄養液を貯蔵するための少なくとも1つの流体保持ウェルと
を備える第1の部材と、
(ii)前記流体保持ウェルに組織試料および栄養液を保持することができる容器を形
成する第2の部材と
を備え、組織操作中に前記第2の部材を配置することができる座部を前記第1の部材が提
供する。
【0055】
本発明のさらに別の好ましい形態において、第1の部材は、上記方法に使用するツール
および溶液を貯蔵することができる貯蔵コンパート−メントを提供する。このようなコン
パート−メントを装置に提供する場合には、第2の部材はそのコンパート−メントに蓋部
またはクロージャーを提供することができる。使用時には、好ましくは、蓋部はコンパー
ト−メントの上部から除去され、上下を逆さにされる。蓋部の裏側は、好ましくは、第2
の部材が2つの目的を果たすことができる容器を形成する。本発明に使用するツールおよ
び溶液はコンパート−メントからアクセスすることができる。上下を逆さにした蓋部はコ
ンパート−メントの上に配置することができ、装置の容器となる。
【0056】
本発明の装置は金属、プラスチックまたは任意の他の材料から製造することができる。
さらに、容器は任意のサイズであってもよい。好ましくは、容器のサイズは目的の用途お
よびガンマ線照射および/またはエチレンオキサイドの使用などの滅菌の必要性によって
のみ限定される。
【0057】
本発明の装置に使用する加熱手段は、第1の部材の上面に加熱パッドを単に構成するこ
とができると考えられるべきである。しかし、このような装置には問題が付随しており、
その多くは、加熱を受ける容器の偶発的な溢流の可能性である。従って、一実施態様にお
いて、第1の部材の陥凹部に1つ以上の加熱手段を収容することができる。酵素液にさら
すために組織を配置することができる少なくとも1つの容器もその陥凹部に配置される。
別の実施態様において、1つ以上の加熱手段を装置の基底部に収容することができる。こ
のような構成において、第1の部材は、流体を保持することができる容器を収容するのに
好適で、過熱手段への容器のアクセスを提供する少なくとも1つの開口部を有する。
【0058】
装置を2つ以上の用途のために設計する場合には、加熱手段は、繰り返し加熱および冷
却することができることが考慮される。または、各加熱装置は1つの用途を可能にするこ
とができるが、複数の加熱事象を容易にするために、複数の加熱装置を装置にすることが
できる。
【0059】
装置のかなり好ましい構成において、陥凹部内に加熱用カラーを配置し、酵素用容器(
例えば、バイアル)が配置されている第1の部材内に加熱用陥凹部を形成する。容器は、
好ましくは、容器の上側部分の一部を望ましくは取り囲んで、装置からの容器の偶発的な
放出を防ぐ少なくとも1つの拘束手段によってその場に保持される。装置を1つの用途に
使用することが意図されている状況では、拘束手段は第1の部材の構成部分として形成す
ることができ、従って容器の取り外しは、第1の部材を物理的に破壊することによっての
み実施することができることを意味する。
【0060】
本発明の装置に使用する加熱手段は、好ましくは、必要時に加熱要素の作動を可能にす
る回路によって制御される。例えば、加熱手段は、例えば、第1の部材の表面に配置され
ているスタートボタンを押すことによってスイッチを入れることができる。または、加熱
手段は、装置の基底部に配置されているスイッチを作動するのに十分な力で容器を下方向
に押すことによって作動することができる。装置に提供されている加熱装置を作動するた
めに、多種多様の電子的手段を使用することができることを当業者は考慮している。
【0061】
望ましくは、加熱装置はまた、酵素液を所定の時間加熱するように適合されているタイ
マー機構に機能的に接続される。装置を複数の用途に使用することが意図されている状況
では、好ましくは、特定の長さの時間に達したとき加熱要素を停止するようにタイマーを
設定することができる。その時点において、時間が経過したことをユーザに知らせるため
に、アラームが働いてもよい。
【0062】
本発明のさらに別の好ましい実施態様において、加熱手段に調整式温度制御を提供する
ことができる。温度調整を必要とする場合には、このような形態は、温度制御機構を備え
るかまたはそれと対話して、加熱装置の温度を一定範囲内で常に変動させられる加熱制御
回路を適合することによって実施しても、または加熱制御手段を設定することができる範
囲の選択温度を提供することができる。温度制御手段は、有利なことに、異なる細胞種の
採取および調製に装置が使用される予定の装置、および/または、装置が独自の用途を有
する採取方法に異なる酵素が使用される装置に備えられている。
【0063】
別のさらに好ましい形態において、本発明の装置は1つの用途のために設計される。こ
のような場合には、タイマー機構は、加熱手段を制御する回路の一部である。加熱手段が
作動されると、それは所定の時間溶液を加熱し、次いで自己停止する(self-destructs)。
このような装置には、酵素は必要な温度、溶液内での時間および/または回路の自己停止
までの時間に達した、などのことを示すことができる種々のモニター手段が備え付けられ
ていることを当業者は考慮するべきである。単なる例として、モニター手段は、ある事象
が生じたときに作動する一連のLED'sからなってもよい。かなり好ましい実施態様に
おいて、加熱要素は、好ましくは、最長45分から1時間加熱モードにある。
【0064】
加熱手段は、当技術上周知の任意の手段によって電力を供給することができる。好まし
くは、電源は電池によって提供される。本発明の一形態において、電源は、装置の基底部
に配置される1つの電池または複数個の電池である。
【0065】
本発明のさらに別の実施態様において、本発明に使用する、例えば酵素液などの溶液の
混合を容易にするための1つ以上の手段を装置に提供することができる。一態様において
、単なる例として、装置は、磁気ビーズを撹拌するように調節されている電磁システムな
どの、溶液を撹拌する手段を備えることができる。装置が、電磁混合システムを備える場
合には、磁気ビーズは、好ましくは、溶液を装置に貯蔵する容器(例えば、バイアル)に
提供される。また、混合が望ましいときに、磁気ビーズを溶液に添加することができる。
【0066】
本発明のかなり好ましい形態において、溶液の一定の加熱を均一に促進にするために、
混合手段に加熱手段が1つの装置として、または別個の装置として組み合わされる。この
ような混合手段を使用することにより、溶液を加熱する間に加熱装置の近接部に位置する
溶液が過剰に加熱される可能性をなくす。このようなシステムは、溶液のより一定な加熱
を提供する。溶液を混合する別の手段は当技術上周知であり、一例として機械的、物理的
、電気的および電磁的手段を含む。任意の混合手段を装置に使用することができるが、好
ましくは、混合手段は、装置の振動を最小にするように選択されるか、またはこのような
振動を最小にする方法で装置に組み込まれる。これに関しては、混合手段は1つ以上の振
動緩衝装置上に収容されても、または装置は基底部に1つ以上の振動緩衝装置を備えても
よい。
【0067】
混合手段が装置に組み込まれる場合には、混合手段は、加熱装置が作動すると自動的に
作動されても、または別個の作動システムであってもよい。さらに、混合速度は固定され
ていても、変動してもよい。好ましくは、混合手段には別個の作動システムが存在する。
【0068】
装置に組み込まれるフィルター陥凹部は、細胞懸濁液のろ過を促進する任意のサイズま
たは形状であってもよい。さらに、陥凹部は、細胞懸濁液をろ過することができる少なく
とも1つの管を収容し、保持するように調整することができる。好ましくは、陥凹部は、
ろ過後に全量の細胞懸濁液にアクセスする手段を容易に提供する円錐形の基底部を有する

【0069】
望ましくは、第3の陥凹部は100μmの細胞フィルターを収容するように設計される
。第3の陥凹部は、円錐形の管に接続された100μmの細胞フィルターを収容すること
ができる。好ましくは、管は、面積/容積メモリが側面につけられている。
【0070】
装置はまた、細胞採取に必要なツールセットを備えることもできる。細胞採取に必要な
任意のツールを装置に備えることができることが当業者に考慮される。好ましくは、一連
のツールは滅菌されている。ほんの一例として、一連のツールは、分離酵素のガラスバイ
アル、酵素の懸濁のための滅菌溶液、滅菌栄養液、小刀、ピンセット、注射筒、医用滴び
ん、細胞フィルター、創傷用包帯、および/または、噴霧ノズルを備えることができる。
かなり好ましい実施態様において、ツールセットは、使用しないときは第2の部材によっ
て被覆される、装置の第1の部材内に形成されるコンパートメントに貯蔵される。
【0071】
かなり好ましい実施態様において、装置は、以下の方法で細胞の懸濁液を採取し、レシ
ピエント部位に細胞を適用するために使用される。
【0072】
少量の滅菌水を凍結乾燥状態の分離酵素の一部と混合して、加熱用陥凹部に配置する。
次いで、加熱手段を作動し、30〜37℃、好ましくは33〜37℃、一例として37℃
の作業温度に2分を越えることなく容器の内容物(すなわち、酵素液)を加熱し、作業温
度に少なくとも45分間維持する。動作温度に達したら、ドナー部位から採取した組織試
料を酵素液に入れ、作業温度においてインキュベーションする。組織試料を5〜45分間
インキュベーションする。組織試料層を分離するのにかかる時間は、組織試料の厚さおよ
びサイズ並びにインキュベーション温度に依存することを当業者は考慮している。組織層
の酵素分離が実施されたら、組織試料を容器に取り出し、手術器具を使用して組織層を分
離する。
【0073】
次いで、慎重に計測した分量の第2の溶液を、注射筒に吸引することによって流体保持
ウェルから取り、層に適用する。組織層間の細胞を擦り取り、栄養液と混合することによ
って懸濁させる。次いで、好ましくは注射筒およびカニューレを使用することによって、
細胞懸濁液を回収する。
【0074】
次いで、採取した細胞懸濁液を、フィルター陥凹部に配置した細胞フィルターに通し、
ろ過後の細胞懸濁液をフィルター陥凹部に回収する。必要に応じて、容器を別の容量の第
2の溶液で洗浄し、結果として生じる細胞懸濁液もろ過し、フィルター陥凹部に回収する

【0075】
次いで、必要に応じて、ろ過後の細胞懸濁液を注射筒に吸引し、レシピエント部位に適
用することができる。
【0076】
[本発明を実施する最良の形態]
本発明のさらに別の特徴は、以下の限定するものではない実施例にさらに詳細に記載さ
れている。しかし、この詳細な説明は、本発明を例示する目的にのみ加えられていること
が理解されるべきである。上記に記載されている本発明の広範な説明を制限するものとい
かなる意味においても理解されるべきではない。
【実施例1】
【0077】
〈レシピエント部位の調製〉
皮膚移植の成功率を最適にするために、創傷をきれいにし、適当な深さであることを評
価する。さらに、止血を確立し、周囲の蜂巣炎または感染の徴候について創傷をチェック
する。領域を調製する技法には、シャープな切開、削皮術またはレーザーリサーフェイシ
ングが挙げられる。
【0078】
〈ドナー部位の生検〉
ドナー部位は、レシピエント部位に適当に適合するように選択した。ドナー部位の皮膚
の下部の皮下組織に局所麻酔剤およびアドレナリンを浸潤させた。これにより、ドナー部
位は固定され、薄い分層植皮生検を採取する助けとなった。生検の寸法は、被覆するレシ
ピエント部位の表面領域のサイズに決定された。
【0079】
典型的には、生検サイズは、拡大比が1:10〜1:80である。この場合には、2c
m×2cmの生検サイズをドナー部位から採取し、拡大比は1:60であった。
【0080】
〈迅速な技法を使用した細胞リサーフェイシング〉
創傷の治療は、以下の実施例2にさらに詳細に説明されている、Re−Cell(商標
)迅速技術による細胞採取装置を使用して実施した。装置は、創傷治療に必要な器具、溶
液、酵素および包帯の全てを有した。
【0081】
加熱要素は、「スタートボタン」を押すことによって作動した。溶液(注射用滅菌水)
(10ml)を溶液Aと記された供給されているプラスチック容器から、分離酵素(凍結
乾燥トリプシン)を含有するガラスバイアルに移し、最終濃度0.5%トリプシンとした
。次いで、酵素液を混合し、加熱要素陥凹部にすでに配置されている容器に移して、37
℃に加熱した。
【0082】
溶液B(栄養培地)を含有する容器を、供給されている容器から流体保持ウェルに移し
た。
【0083】
次いで、先に得られた組織試料を酵素液に入れ、37℃において10〜15分インキュ
ベーションした。この後、1対のピンセットを使用して組織試料を酵素液から取り出し、
溶液Bを含有する流体保持ウェルに浸漬することによって洗浄し、真皮側を下にし、上皮
側を上にして容器に入れた。
【0084】
次いで、溶液Bをウェルから注射筒に吸引し、生検の両側の層に注射筒から滴下した。
【0085】
ピンセットを使用して皮膚層を分離した。これにより、両面の真皮−上皮接合帯にアク
セスした。細胞を表面から擦り取り、容器内に羽毛状の細胞を形成した。次いで、細胞を
溶液Bに混合した。次いで、19ゲージのカニューレを介して、羽毛状の細胞を注射筒内
にくみ上げた。
【0086】
供給されているフィルター(100μm細胞フィルター)をフィルター陥凹部に乗せ、
溶液B中の羽毛状の細胞をフィルターに通した。別の少量の溶液Bを使用して、容器(例
えば、ペトリ皿)を洗浄し、残っているいずれの細胞も回収し、フィルターに通した。
【0087】
円錐陥凹部に回収された細胞懸濁液を注射筒に吸引し、創傷領域に噴霧または滴下する
ために、ノズルを注射筒に接続した。
【0088】
清浄化され、破片を含有しないこと、および細菌汚染物の痕跡がないことを確実にする
ために、創傷を再度チェックした。さらに、止血されているかどうかを判定するために、
創傷をチェックした。レシピエント部位の用意ができたら、ノズルを使用して細胞懸濁液
を創傷表面に適用した。
【0089】
装置に供給されている、Surfasoft(商標)という織ってあるナイロン製包帯
剤で創傷を巻いた。創傷の治癒は、皮膚移植治療の標準的なプロトコールを使用して追跡
した。
【実施例2】
【0090】
図1に示す実施態様は、患者への移植に好適な生組織の移植可能な細胞懸濁液を作製す
る際に使用するための、Re−Cell(商標)という迅速技法による細胞採取装置に関
する。
【0091】
図1に例示するように、装置は、基底部16を開放可能であるようにかみ合わせるよう
に適合されたロック機構14を有する閉じ蓋12を備える。ロック機構14は、使用しな
いときに装置16を閉じる手段を提供する。酵素用バイアル22が配置されている開口部
20が提供されている第1の部材18が基底部16に配置されている。開口部に隣接して
、加熱手段(示していない)を作動することができる作動スイッチ24が提供されている
。第1の部材はまた、流体保持ウェル26およびフィルター陥凹部28を提供する。この
例に示されるように、フィルター29は、フィルター陥凹部に配置される。通常、フィル
ターは、装置の別個の項目として備えられている必要に応じた項目である。
【0092】
第1の部材18の開口部20は、望ましくは、バイアル22の頚部を第1の部材18の
上方に突出させられるような寸法である。開口部20の周辺部には、バイアル22の本体
の直径よりわずかに小さいカラー21が取り付けられている。従って、使用時には、バイ
アル22は、開口部20の周辺部に配置されているカラー21によって保持されるので、
装置10から離脱できない。
【0093】
開口部20に隣接して配置されている、流体保持ウェル26およびフィルター陥凹部2
8は、第1の部材18内の貯蔵コンパート−メント(示していない)に配置されている座
部(示していない)に位置づけられている第2の部材30である。上下逆さにすると、第
2の部材30は、組織操作を実施することができる容器を形成する。第1の部材18から
第2の部材30の分離を容易にするために、第2の部材30の一部の側面に切り込み32
が提供されており、第1の部材18内にある座部から第2の部材を持ち上げることができ
るサイズである。
【0094】
フィルター陥凹部28内には、細胞上清から100μmを超える細胞材料を分離するこ
とができるメッシュを有するフィルター29(他の構成成分とは別個に提供されている)
が配置されている。
【0095】
図2は、装置10の一部拡大斜視図を提供しており、第2の部材30が第1の部材18
から取り外され、上下逆さにされている。第2の部材30を上下逆さにすると、容器の流
体保持障壁および組織操作を実施することができる容器領域を形成する第2の部材30の
側壁32が見られる。
【0096】
第1の部材18から第2の部材30を取り外すと、装置10を使用しないときには、溶
液およびツールを貯蔵することができる第1の部材18の貯蔵コンパート−メント36も
見られる。貯蔵コンパート−メント36内には、第2の部材30が存在することができる
座部38が配置されている。座部38は、好ましくは、第2の部材30の側壁32の高さ
に等しい、第1の部材18の表面から下の深さで、貯蔵コンパート−メント36の周辺付
近に配置される。
【0097】
図3aは、第1の部材に形成された貯蔵コンパート−メント36、ヒーター作動スイッ
チ24、開口部20、流体保持ウェル26およびフィルター陥凹部28を示す第1の部材
18の斜視図を提供する。図3bは、フィルター陥凹部28、流体保持ウェル26、ヒー
ター作動スイッチ24、開口部カラー21および貯蔵コンパート−メント36の後部壁を
示す第1の部材18の背面図を提供する。図からわかるように、フィルター陥凹部は、円
錐形の基底部を有し、それによってろ過された細胞懸濁液に容易にアクセスする手段を提
供する。流体保持ウェルに隣接し、フィルター保持ウェルの反対側に配置されている、装
置(示していない)の基底部16方向に突出し、加熱手段を作動するために必要な電池を
保持する手段を提供する電池位置づけ部材40も提供されている。
【0098】
図4は、保持領域42内に配置されたバイアル22を示す、装置10の基底部16の斜
視図を提供する。保持領域42とバイアル22との間には、バイアル本体を取り囲む加熱
用カラー44が配置されている。保持領域に隣接して、回路基板保持手段48、50、5
2によって位置に保持される回路基盤46がある。前記回路基板46は、電線54によっ
て加熱用カラー44と電気的通信状態である。回路基板はまた、電線58によって、ヒー
ター作動スイッチ(示していない)と電気的通信状態である。回路基板46に隣接して、
4つのAA電池を動かない位置に(示していない)保持する電池保持手段58が提供され
る。電池は、電線60で回路基板46と電気的通信状態である。第1の部材18を基底部
16に取り付ける場合には、電池は、電池保持手段58、電池位置づけ手段40および流
体保持ウェル26の各々の基底部およびフィルター陥凹部28によって保持される。好ま
しくは、フィルター陥凹部28の円錐形の基底部が、電池の間に突出して、電池を動かな
い位置に固定する別の手段を提供する。
【0099】
記載されている本発明の方法および装置の改良および変更は、本発明の範囲および精神
から逸脱することなく、当業者に明らかである。本発明は具体的な好ましい実施態様に関
連して記載されているが、主張されている本発明は、このような具体的な実施態様に不当
に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際、本発明が存在する関連分
野の当業者に明らかな本発明を実施するための記載されている様式の種々の改良は、以下
の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【0100】
なお、原出願の出願当初の特許請求の範囲は以下の通りである。
〔請求項1〕
患者に適用する細胞懸濁液を作製する方法であって、
(a)組織試料中の細胞層を解離する少なくとも1つの物理的および/または化学的解
離手段に、患者に移植する細胞を含む組織試料を付するステップと、
(b)該ステップ(a)で使用する解離手段から組織試料を取り出して、栄養液の存在
下において組織試料から、患者に移植するのに好適な細胞を回収するステップであって、
前記栄養液は、(i)異種血清を含有せず、(ii)患者に適用するまで細胞の生存性を
維持することができ、(iii)移植術を受ける患者の領域への直接適用に好適である、
ステップと、
(c)該ステップ(b)により作製した細胞懸濁液をろ過して、大きい細胞凝集塊を除
去するステップと、
を含む細胞懸濁液の作製方法。
〔請求項2〕
試料中の粘着性の組織層片を解離するのに好適な酵素がトリプシンまたはトリプシン様
酵素である請求項1に記載の細胞懸濁液の作製方法。
〔請求項3〕
前記酵素が、トリプシン、トリプシン−EDTA、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、サー
モリシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼ、パンクレアチン、エラスターゼおよびパパイ
ンからなる群から選択される請求項2に記載の細胞懸濁液の作製方法。
〔請求項4〕
前記栄養液がハートマン液である請求項1に記載の細胞懸濁液の作製方法。
〔請求項5〕
請求項1に記載の細胞懸濁液の作製方法により作製される細胞懸濁液。
〔請求項6〕
自家細胞から作製される、請求項5に記載の細胞懸濁液。
〔請求項7〕
移植術を必要としている患者を治療する方法であって、
(a)請求項1に記載の方法により細胞懸濁液を作製するステップと、
(b)移植領域に比較的均一に分布するような細胞懸濁液の拡散を容易にするように、
細胞移植を必要としている患者の領域に直接懸濁液を投与するステップと、
を含む方法。
〔請求項8〕
(a)患者に移植するのに好適な細胞を含む組織試料を、試料中の粘着性の組織層片を
解離するのに好適な酵素に付するステップと、
(b)該ステップ(a)において使用する酵素液から組織試料を取り出して、栄養液の
存在下において組織試料から、患者に移植するのに好適な細胞を回収するステップであっ
て、栄養液は、(i)異種血清を含有せず、(ii)患者に適用するまで、細胞の生存性
を維持することができ、(iii)移植術を受ける患者の領域への直接適用に好適である
、ステップと、
(c)該ステップ(b)により作製した細胞懸濁液をろ過して、大きい細胞凝集塊を除
去するステップと
により作製される移植に好適な細胞懸濁液の、移植術を必要とする組織障害を治療するの
に好適な治療用製剤を作製するための方法。
〔請求項9〕
前記栄養液がハートマン液である請求項8に記載の方法。
〔請求項10〕
組織再生液を形成するための装置であって、
(a)酵素液を必要な温度に加熱するのに好適であり、その液を好適な期間にわたって
望ましい温度に維持する加熱手段と、
(b)細胞懸濁液から大きい細胞凝集塊を分離するフィルター手段を有するフィルター
陥凹部分と、
を備えている組織再生液形成装置。
〔請求項11〕
組織試料および栄養液を保持する容器をさらに備えている、請求項10に記載の組織再
生液形成装置。
〔請求項12〕
流体を貯蔵するための1つ以上の流体保持ウェルを備えている請求項10に記載の組織
再生液形成装置。
〔請求項13〕
(i)(a)酵素液を必要な温度に加熱するのに好適であり、その液を好適な期間にわ
たって望ましい温度に維持する加熱手段と、
(b)細胞懸濁液から大きい細胞凝集塊を分離するフィルター手段を有するフィル
ター陥凹部分と、
(c)栄養液を貯蔵するための少なくとも1つの流体保持ウェルと、
を備えている第1の部材と、
(ii)流体保持ウェルに組織試料および栄養液を保持する容器を形成する第2の部材
と、
を備え、組織操作中に前記第2の部材を配置することができる座部を前記第1の部材が提
供する、組織再生液形成装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に適用する細胞懸濁液を作製する方法であって、
(a)組織試料中の細胞層を解離する少なくとも1つの物理的および/または化学的解
離手段に、患者に移植する細胞を含む組織試料を付するステップと、
(b)該ステップ(a)で使用する解離手段から組織試料を取り出して、栄養液の存在
下において組織試料から、患者に移植するのに好適な細胞を回収するステップであって、
前記栄養液は、(i)異種血清を含有せず、(ii)患者に適用するまで細胞の生存性を
維持することができ、(iii)移植術を受ける患者の領域への直接適用に好適である、
ステップと、
(c)該ステップ(b)により作製した細胞懸濁液をろ過して、大きい細胞凝集塊を除
去するステップと、
を含む細胞懸濁液の作製方法。
【請求項2】
試料中の粘着性の組織層片を解離するのに好適な酵素がトリプシンまたはトリプシン様
酵素である請求項1に記載の細胞懸濁液の作製方法。
【請求項3】
前記酵素が、トリプシン、トリプシン−EDTA、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、サー
モリシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼ、パンクレアチン、エラスターゼおよびパパイ
ンからなる群から選択される請求項2に記載の細胞懸濁液の作製方法。
【請求項4】
前記栄養液がハートマン液である請求項1に記載の細胞懸濁液の作製方法。
【請求項5】
請求項1に記載の細胞懸濁液の作製方法により作製される細胞懸濁液。
【請求項6】
自家細胞から作製される、請求項5に記載の細胞懸濁液。
【請求項7】
移植術を必要としている患者を治療する方法であって、
(a)請求項1に記載の方法により細胞懸濁液を作製するステップと、
(b)移植領域に比較的均一に分布するような細胞懸濁液の拡散を容易にするように、
細胞移植を必要としている患者の領域に直接懸濁液を投与するステップと、
を含む方法。
【請求項8】
(a)患者に移植するのに好適な細胞を含む組織試料を、試料中の粘着性の組織層片を
解離するのに好適な酵素に付するステップと、
(b)該ステップ(a)において使用する酵素液から組織試料を取り出して、栄養液の
存在下において組織試料から、患者に移植するのに好適な細胞を回収するステップであっ
て、栄養液は、(i)異種血清を含有せず、(ii)患者に適用するまで、細胞の生存性
を維持することができ、(iii)移植術を受ける患者の領域への直接適用に好適である
、ステップと、
(c)該ステップ(b)により作製した細胞懸濁液をろ過して、大きい細胞凝集塊を除
去するステップと
により作製される移植に好適な細胞懸濁液の、移植術を必要とする組織障害を治療するの
に好適な治療用製剤を作製するための方法。
【請求項9】
前記栄養液がハートマン液である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
組織再生液を形成するための装置であって、
(a)酵素液を必要な温度に加熱するのに好適であり、その液を好適な期間にわたって
望ましい温度に維持する加熱手段と、
(b)細胞懸濁液から大きい細胞凝集塊を分離するフィルター手段を有するフィルター
陥凹部分と、
を備えている組織再生液形成装置。
【請求項11】
組織試料および栄養液を保持する容器をさらに備えている、請求項10に記載の組織再
生液形成装置。
【請求項12】
流体を貯蔵するための1つ以上の流体保持ウェルを備えている請求項10に記載の組織
再生液形成装置。
【請求項13】
(i)(a)酵素液を必要な温度に加熱するのに好適であり、その液を好適な期間にわ
たって望ましい温度に維持する加熱手段と、
(b)細胞懸濁液から大きい細胞凝集塊を分離するフィルター手段を有するフィル
ター陥凹部分と、
(c)栄養液を貯蔵するための少なくとも1つの流体保持ウェルと、
を備えている第1の部材と、
(ii)流体保持ウェルに組織試料および栄養液を保持する容器を形成する第2の部材
と、
を備え、組織操作中に前記第2の部材を配置することができる座部を前記第1の部材が提
供する、組織再生液形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−269159(P2010−269159A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163176(P2010−163176)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【分割の表示】特願2002−562365(P2002−562365)の分割
【原出願日】平成14年2月7日(2002.2.7)
【出願人】(503285553)マッコム・ファウンデイション・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】