説明

細胞懸濁液の濃縮方法

【課題】簡便かつ迅速に、大量の細胞懸濁液を処理すること。
【解決手段】細胞懸濁液を、入口と出口を有し、不織布が積層されたフィルターが充填された容器に導入し、細胞を実質的に含まないろ過液を排出させた後、該容器に回収液を導入して、該フィルターに補足されている細胞を回収する細胞濃縮方法であって、
(a)各層の平均繊維径は1.5μm以上であり、
(b)少なくとも2層は、平均繊維径5.0μm以下であり、
(c)平均繊維径5.0μm以下の層のみに着目した場合に、近接する2層は、入口側の層の平均繊維径をU、出口側の平均繊維径をDとして、いずれも
(c1)U>D かつ U−D≧0.5、または
(c2)U<D
の関係を満たす(ただし、少なくとも1箇所は上記(c1)の関係を満たす)ことを特徴とする、細胞濃縮方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞懸濁液処理器具、特に、簡便かつ迅速に細胞含有組成物を無菌的に製造することを可能にする細胞分離材を充填した細胞懸濁液処理器具を用いた細胞懸濁液の濃縮方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞含有組成物は、様々な疾患の治療に用いられている。具体的には、例えば、細胞含有組成物は、骨壊死の治療に用いられている。
【0003】
骨壊死は、外傷や血管病変あるいは骨細胞への直接の傷害によって、骨細胞、骨基質、骨髄細胞の死滅または破壊が起こった状態である。
【0004】
骨壊死の治療法としては、例えば、骨に分化する間葉系幹細胞をβ−リン酸三カルシウム等の細胞支持体に付与して、細胞含有組成物を調製した後に、該細胞含有組成物を生体に投与する方法が開発されている。該方法で、骨欠損部の修復速度が高まり、骨壊死を治療することができる。
【0005】
上記細胞含有組成物の投与により治療効果を高めるには、投与する細胞濃度や細胞数を高める必要があり、そのため多量の生体試料を用いることや、細胞を培養することがしばしば行われている。これら大量の細胞を含んだ試料を生体に投与することは現実的に困難である場合があり、しばしば、培養、採取した試料を濃縮することが行われている。このような濃縮として、特許文献1に記載したような遠心分離による濃縮が行われている。
しかしながら、遠心分離による方法は、細胞に遠心によるストレスがかかることや、処理している細胞含有組成物が大気と接触する可能性や、また、閉鎖的に処理を行おうとすると装置が大型になることが懸念される。
【0006】
そこで、閉鎖系で簡便に目的細胞を回収可能な分離方法として特許文献2にあるようなフィルターを用いた方法が開示されている。これら分離材を用いた細胞懸濁液処理器具により、閉鎖系で簡便に目的の細胞を分離することが行われている。
しかしながら、上記のようなフィルターを用いた細胞懸濁液処理器具では、大量の細胞を処理する場合、フィルターへの細胞の目詰まり等が生じることで細胞回収率の低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−524396号公報
【特許文献2】特開2008−86235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、簡便かつ迅速に、大量の細胞懸濁液を処理することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、繊維径の異なる複数の不織布フィルターを特定の順序で配することにとより、高い細胞回収率を確保しつつ、ろ過時の流速を高められることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、細胞懸濁液を、入口と出口を有し、不織布が積層されたフィルターが充填された容器に導入し、細胞を実質的に含まないろ過液を排出させた後、該容器に回収液を導入して、該フィルターに補足されている細胞を回収する細胞濃縮方法であって、
(a)各層の平均繊維径は1.5μm以上であり、
(b)少なくとも2層は、平均繊維径5.0μm以下であり、
(c)平均繊維径5.0μm以下の層のみに着目した場合に、近接する2層は、入口側の層の平均繊維径をU、出口側の平均繊維径をDとして、いずれも
(c1)U>D かつ U−D≧0.5、または
(c2)U<D
の関係を満たす(ただし、少なくとも1箇所は上記(c1)の関係を満たす)ことを特徴とする、細胞濃縮方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、フィルターへの細胞の目詰まりの発生を抑え、大量の細胞懸濁液を迅速かつ高回収率で処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例と比較例の細胞回収率結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の細胞懸濁液の濃縮方法について説明する。
本発明の細胞懸濁液の濃縮方法は、細胞懸濁液を、細胞を捕捉する不織布からなるフィルターが充填された処理器に導入し、細胞を実質的に含まないろ過液を排出させた後、該処理器に回収液を導入して該フィルターに捕捉されている細胞を回収し濃縮する方法である。
【0014】
本方法において、細胞懸濁液を構成する細胞とは、特に限定されないが、例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系細胞、脂肪由来間質幹細胞、多能性成体幹細胞、骨髄ストローマ細胞、造血幹細胞等の多分化能を有する生体幹細胞、T細胞、B細胞、キラーT細胞(細胞障害性T細胞)、NK細胞、NKT細胞、制御性T細胞などのリンパ球系の細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、顆粒球、赤血球、血小板など、神経細胞、筋細胞、線維芽細胞、肝細胞、心筋細胞などの体細胞または、遺伝子の導入や分化などの処理を行った細胞が例示される。
【0015】
また、細胞懸濁液としては、細胞を含む懸濁液であれば特に限定されず用いることができるが、例えば、脂肪、皮膚、血管、角膜、口腔、腎臓、肝臓、膵臓、心臓、神経、筋肉、前立腺、腸、羊膜、胎盤、臍帯などの生体組織を酵素処理や破砕処理や抽出処理や分解処理や超音波処理などをした後の懸濁液、血液や骨髄液、臍帯血などの体液、血液や骨髄液を密度勾配遠心処理やろ過処理や酵素処理や分解処理や超音波処理などの前処理をして調製された細胞懸濁液等が例示される。
【0016】
また、上記に例示した細胞を生体外で培養液や刺激因子などを用いて培養や増殖などをした後の細胞懸濁液であってもよい。
細胞を捕捉する不織布の材料としては、特に制限なく用いることができる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、キュプラ、ケブラー、カーボン、フェノール、テトロン、パルプ、麻、セルロース、ケナフ、キチン、キトサン、ガラス、綿等を挙げることができる。中でも、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、レーヨン、ナイロン等の高分子を好適に用いることができる。上記細胞分離材は、これらの材質のうち、単一の材質からなってもよいし、複数の材質を組み合わせた複合材からなってもよい。
【0017】
フィルターを充填する処理器としては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等を使用できるが、特に耐滅菌性を有する素材、具体的にはポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン等のブロック共重合体を使用することが好ましい。
【0018】
本発明における細胞を実質的に含まないろ過液とは、ろ過液の細胞濃度が、細胞懸濁液処理器具入り口より投入される細胞懸濁液中の細胞濃度の1%以下であるろ過液を指す。これ以上の細胞がろ過液側に含まれる場合、効率的な濃縮が行えないことが懸念される。
細胞をフィルターで捕捉した後に導入する回収液としては、特に限定されるものではなく、細胞に対して負の影響を与えない溶液であればよい。例えば、生理的食塩液やリンゲル液など注射用剤として一般的に用いられる溶液、リン酸緩衝液等の緩衝液、αMEM培地やDMEM培地等の細胞培養用の培地等を挙げることができる。これら例示した溶液の中でも、細胞への負の影響が小さいことから、細胞培養用培地や生理食塩水を好ましく用いることができる。
【0019】
また、上記回収液には、細胞保護の観点から、タンパクを添加してもよい。上記物質は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、血漿、血清、アルブミン等を挙げることができる。
【0020】
さらに、上記回収液には、粘張度を上げるための物質を添加してもよい。上記物質は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アルブミン、フィブリノーゲン、グロブリン、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース等を挙げることができる。このような物質を添加することにより、細胞分離材に捕捉された細胞の回収率を向上させることができる。
【0021】
また、回収液を導入する方法としては、特に限定しないが、回収液の流速は剪断力を高め、細胞を高率で回収するためにできるだけ高速が好ましいが、内圧上昇によるフィルターとチューブ等の接続部のはずれや、細胞へのダメージを起こさない流速に制御することが好ましい。また、回収液をフィルターに導入する手段は、シリンジポンプ、ブラッドポンプ、ペリスタポンプ等の装置を用いるものや、簡便法としてシリンジを手で押す方法、液体を貯留したバッグを押しつぶして液流を惹起する方法、落差処理等が挙げられる。更に、細胞の回収率をより高めるために、フィルターに振動を加えるとか、ストップドフロー等を行ってもよい。
【0022】
本発明の方法においては、不織布からなるフィルターが積層された積層フィルターが用いられる。本発明で用いられる積層フィルターは、平均繊維径が異なる少なくとも2層を有し、細胞懸濁液入り口側から1層目、2層目というように定義される。繊維径の異なる層を2層以上有するフィルターとすることにより、細胞を捕捉する箇所が分散され、目詰まりの発生が抑制されるとともに、フィルターからの細胞の分離・回収も効率的に行うことができる。なお、繊維径が同じ不織布が連続して積層された部分は、積層された不織布の枚数によらず1層として扱う。
【0023】
本発明で用いられる不織布は、いずれの層においても平均繊維径が1.5μm以上であることを特徴とする。平均繊維径の上限は特に制限されないが、積層フィルターのうち少なくとも2層は、平均繊維径が5.0μm以下(即ち、平均繊維径の範囲が1.5〜5.0μm)の不織布で構成されている必要がある。
【0024】
さらに、本発明で用いる積層フィルターにおいては、平均繊維径5.0μm以下の層のみに着目した場合に、近接する2層は、入口側の層の平均繊維径をU、出口側の平均繊維径をDとして、いずれも、
(c1)U>D かつ U−D≧0.5、または
(c2)U<Dの関係を満たす
(ただし、少なくとも1箇所は上記(c1)の関係を満たす)ことを特徴とする。
【0025】
例えば、平均繊維径が各々、1層目 4.5μm、2層目 3.0μm、3層目 2.0μmの場合、1層目と2層目、および、2層目と3層目はそれぞれ、前記(c1)の関係を満たし、本発明で用いる積層フィルターに該当する。また、平均繊維径が各々、1層目 4.5μm、2層目 4.7μm、3層目 3.0μmの場合、1層目と2層目は前記(c2)の関係を満たし、2層目と3層目は前記(c1)の関係を満たすため、本発明で用いる積層フィルターに該当する。
【0026】
なお、本発明においては、少なくとも(c1)1箇所は前記(c1)の関係を満たす必要がある。即ち、平均繊維径が1層目 4.5μm、2層目 4.3μmの2層のみからなるフィルター等は、本発明で用いるフィルターには該当しない。細胞は成長の程度により細胞径の違いがあるが、平均繊維径が1.5〜5.0μmからなる層を、上記(c1)を満たすように配置することにより、細胞種でも細胞の大きさによる影響を抑えて、効率よく細胞を捕捉、回収することができる。
【0027】
また、本発明に用いる積層フィルターにおいて、前記(c1)または(c2)の関係を満たすか否かは、平均繊維径が5.0μm以下(即ち、平均繊維径の範囲が1.5μm〜5.0μm)の層だけに注目して判断する。例えば、平均繊維径が1層目 10μm、2層目 4.5μm、3層目 3.5μm、4層目 2.5μmの場合には、1層目は判断対象外とし、2層目と3層目、および3層目と4層目の関係で判断すればよい。同様に、1層目 4.5μm、2層目 10μm、3層目 3.5μm、4層目 2.5μmの場合には、2層目を判断対象外とし、1層目と3層目、および、3層目と4層目の関係で判断すればよい。即ち、本発明で用いる積層フィルターは、平均繊維径の範囲が1.5〜5.0μmの層のみならず、平均繊維径が5.0μm超の不織布からなる層を有していてもよいことを意味する。
【0028】
本発明に用いられる積層フィルターは、3層以上からなることが好ましく、平均繊維径が1.5〜5.0μmの層だけに着目しても3層以上を有することが、より好ましい。
【0029】
また、本発明に用いられる積層フィルターは、途中に平均繊維径5.0μm超の層を挟むことなく、平均繊維径1.5〜5.0μmの層が連続して存在することが好ましい。更に、連続して存在する平均繊維径1.5〜5.0μmの層同士は、全て前記(c1)の関係であることが、より好ましい。即ち、本発明に用いられる積層フィルターとしては、それぞれ平均繊維径1.5〜5.0μmである層が、入口側から出口側に向かって、平均繊維径が差分0.5μm以上で順に小さくなる構成であるのが特に好ましく、繊維径が最も細い層は、平均繊維径が2.0μm以下(即ち1.5〜2.0μmの範囲)であるのが最も好ましい。フィルターの目詰まりをより効果的に防止するため、上記好ましい態様において、最も入口側に平均繊維径5.0μ超の層を追加してもよい。
【0030】
本発明でいう繊維径とは、繊維軸に対して直角方向の繊維の幅であり、繊維径の測定は、不織布からなるフィルターを走査型電子顕微鏡にて写真撮影し、写真に記載されたスケールから求めた繊維径の計算値を平均することにより求めることが出来る。平均繊維径とは、上記のように測定した繊維径の平均値を意味しており、50個以上、望ましくは100個以上の平均値である。但し、繊維が多数に重なりあった場合、他繊維が邪魔をしてその幅が測定できない場合、著しく直径の異なる繊維が混在している場合などは、そのデータは除いて繊維径を算出する。また、太さの大きく異なる、例えば7μm以上繊維径の異なる複数の繊維から構成される不織布の場合には、繊維径が細い方が分離効率への影響が大きいため、別々に繊維径を計算し、細い繊維径をその不織布の繊維径とする。
【0031】
本発明の濃縮方法においては、予めプライミング処理を行ってもよい。プライミングとは、細胞懸濁液をフィルターに導入する前に、フィルターに溶液を導入することで、フィルター内の気泡除去や不織布を溶液で浸すことを行うことである。
【0032】
特に、蛋白質を含む溶液でプライミングすることで、効率的な細胞の捕捉と回収を行うことができる。蛋白質を含む溶液とは、例えば、血漿、血清などの溶液、血漿、血清、アルブミン等を含む細胞培養用培地や生理食塩水を例示することができる。特に、細胞を培養した培養液と同じ組成であることが、細胞への影響等を考慮すると好ましい。
【0033】
本発明でいう細胞懸濁液の濃縮方法において、不織布からなるフィルター通過時の細胞懸濁液の線速度は、3cm/min以下であることが好ましい。2.5cm以下であることがより好ましく、2cm以下であることが更に好ましい。3cm/min以上の線速度でフィルターに導入した場合、細胞がフィルターに効率的に捕捉されず、通過してしまう懸念がある。
【0034】
本発明の濃縮方法によれば、通常70%以上の回収率で細胞の分離・回収が可能である。回収率は、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
【0035】
本発明により分離される細胞は、白血病治療、心筋再生や血管再生、幹細胞疲弊疾患、骨疾患、軟骨疾患、虚血性疾患、血管系疾患、神経病、やけど、慢性炎症、心疾患、免疫不全、クーロン病等の疾患、豊胸、しわとり、美容成形、組織陥没症等の組織増大などの再生医療、T細胞療法、NKT細胞療法、樹状細胞移入療法などの免疫療法、遺伝子導入した細胞を用いる遺伝子療法などに用いることも可能であるが、これらに限定されるものではない。また、分離された細胞をスキャフォールドなどの構造材料に播種して治療に用いることも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実験結果を用いて本発明を説明する。なお、ここで細胞回収率とは、回収後の細胞懸濁液中の細胞数を、カラムに通過させた細胞数で除した値で、値が高いほど回収効率に優れていることを示す。細胞通過率とは、カラムを通過した後の細胞懸濁液中の細胞数を、カラムに通過させた細胞数で除した値である。細胞数は、細胞懸濁液を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、白血球画分の細胞濃度を本実施例での細胞濃度として算出し、細胞懸濁液量と細胞濃度より算出した。
【0037】
各実験例における細胞濃縮の方法は、所定の枚数の不織布を、半径36mm高さ12mmの円柱状のカラムに充填した細胞処理器具を用いて行った。入り口にチューブおよびローラークレンメを取り付け、所定の溶液でプライミング操作を行った。所定の速度になるよう調整し、重量による自然落下により、所定量の細胞懸濁液を通液した。通液後、出口側より、シリンジを用いて回収液50mlを手押しによりカラムに押し込み、捕捉された細胞を回収した。回収された細胞懸濁液中および通過したろ液中の細胞数を測定し、回収率および通過率として算出した。
【0038】
〔実施例1〕
半径36mm高さ12mmのカラムに、細胞懸濁液の入り口側よりポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.6μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.9μm、目付け70g/m)20枚を積層状態で充填し、まず10%FBS添加RPMI1640培地45mlを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次に、Jukat細胞がRPMI1640培地に懸濁された細胞懸濁液(jukat細胞濃度2.1x10cells/ml)1000mlを線速度1.6cm/min.でカラム入り口より通液した。その後、通液とは逆方向より0.2%Alb添加RPMI1640培地50mlをシリンジを用いて手押しで押し込み、細胞を回収した。結果、細胞回収率および通過率は82%、0%であった。
【0039】
〔実施例2〕
半径36mm高さ12mmのカラムに、細胞懸濁液の入り口側よりポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.6μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.9μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径1.7μm、目付け20g/m)12枚、を積層状態で充填し、まず10%FBS添加RPMI1640培地45mlを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次に、ヒトT細胞性白血病由来株細胞(jukat細胞)がRPMI1640培地に懸濁された細胞懸濁液(jukat細胞濃度2.1x10cells/ml)1000mlを線速度1.6cm/min.でカラム入り口より通液した。その後、通液とは逆方向より0.2%Alb添加RPMI1640培地50mlをシリンジを用いて手押しで押し込み、細胞を回収した。結果、細胞回収率および通過率は87%、0%であった。
【0040】
〔実施例3〕
半径36mm高さ12mmのカラムに、細胞懸濁液の入り口側よりポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.6μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.9μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径1.7μm、目付け20g/m)12枚、を積層状態で充填し、まず10%FBS添加RPMI1640培地45mlを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次に、Jukat細胞がRPMI1640培地に懸濁された細胞懸濁液(jukat細胞濃度2.1x10cells/ml)1000mlを線速度0.8cm/min.でカラム入り口より通液した。その後、通液とは逆方向より0.2%Alb添加RPMI1640培地50mlをシリンジを用いて手押しで押し込み、細胞を回収した。結果、細胞回収率および通過率は92%、0%であった。
【0041】
〔実施例4〕
半径36mm高さ12mmのカラムに、細胞懸濁液の入り口側よりポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.6μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.9μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径1.7μm、目付け20g/m)12枚、を積層状態で充填し、まず生理食塩水45mlを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次に、Jukat細胞がRPMI1640培地に懸濁された細胞懸濁液(jukat細胞濃度2.1x10cells/ml)1000mlを線速度1.6cm/min.でカラム入り口より通液した。その後、通液とは逆方向より0.2%Alb添加RPMI1640培地50mlをシリンジを用いて手押しで押し込み、細胞を回収した。結果、細胞回収率および通過率は78%、0%であった。
【0042】
〔実施例5〕
半径36mm高さ12mmのカラムに、細胞懸濁液の入り口側よりポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.6μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.9μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径1.7μm、目付け20g/m)12枚、を積層状態で充填し、まず10%FBS添加RPMI1640培地45mlを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次に、Jukat細胞がRPMI1640培地に懸濁された細胞懸濁液(jukat細胞濃度2.1x10cells/ml)1000mlを線速度4.0cm/min.でカラム入り口より通液した。その後、通液とは逆方向より0.2%Alb添加RPMI1640培地50mlをシリンジを用いて手押しで押し込み、細胞を回収した。結果、細胞回収率および通過率は79%、0%であった。
【0043】
〔比較例1〕
半径36mm高さ12mmのカラムに、細胞懸濁液の入り口側よりポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.6μm、目付け70g/m)16枚、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径4.3μm、目付け70g/m)20枚を積層状態で充填し、まず10%FBS添加RPMI1640培地45mlを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次に、Jukat細胞がRPMI1640培地に懸濁された細胞懸濁液(jukat細胞濃度2.1x10cells/ml)1000mlを線速度1.6cm/min.でカラム入り口より通液した。その後、通液とは逆方向より0.2%Alb添加RPMI1640培地50mlをシリンジを用いて手押しで押し込み、細胞を回収した。結果、細胞回収率および通過率は69%、16%であった。
【0044】
〔比較例2〕
半径36mm高さ12mmのカラムに、細胞懸濁液の入り口側よりポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径2.9μm、目付け70g/m)36枚を積層状態で充填し、まず10%FBS添加RPMI1640培地45mlを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次に、Jukat細胞がRPMI1640培地に懸濁された細胞懸濁液(jukat細胞濃度2.1x10cells/ml)1000mlを線速度1.6cm/min.でカラム入り口より通液した。その後、通液とは逆方向より0.2%Alb添加RPMI1640培地50ml押し込み、細胞を回収しようとしたが、閉塞し、回収できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を、入口と出口を有し、不織布が積層されたフィルターが充填された容器に導入し、細胞を実質的に含まないろ過液を排出させた後、該容器に回収液を導入して、該フィルターに補足されている細胞を回収する細胞濃縮方法であって、
(a)各層の平均繊維径は1.5μm以上であり、
(b)少なくとも2層は、平均繊維径5.0μm以下であり、
(c)平均繊維径5.0μm以下の層のみに着目した場合に、近接する2層は、入口側の層の平均繊維径をU、出口側の平均繊維径をDとして、いずれも
(c1)U>D かつ U−D≧0.5、または
(c2)U<D
の関係を満たす(ただし、少なくとも1箇所は上記(c1)の関係を満たす)ことを特徴とする、細胞濃縮方法。
【請求項2】
平均繊維径が2.0μm以下の層を有する、請求項1記載の細胞濃縮方法。
【請求項3】
平均繊維径が5.0μm以下の層が3層以上存在する、請求項1又は2記載の細胞濃縮方法。
【請求項4】
不織布がポリエステルからなる、請求項1〜3のいずれか記載の細胞濃縮方法。
【請求項5】
回収液を出口側から導入し、入口側から細胞を回収する、請求項1〜4のいずれかに記載の細胞濃縮方法。
【請求項6】
細胞懸濁液のフィルター通過時の線速度が3cm/min以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞濃縮方法。
【請求項7】
細胞懸濁液が、免疫細胞を培養して調製した細胞懸濁液である、請求項1〜6のいずれかに記載の細胞濃縮方法。
【請求項8】
平均繊維径5.0μm以下の層は、途中に平均繊維径が5.0μm超の層を挟むことなく、連続して存在することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の細胞濃縮方法。
【請求項9】
平均繊維径5.0μm以下の近接する2層に着目した場合に、入口側の層の平均繊維径をU、出口側の平均繊維径をDとして、いずれも
U>D かつ U−D≧0.5
の関係を満たす、請求項1〜8のいずれかに記載の細胞濃縮方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−34436(P2013−34436A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174107(P2011−174107)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】