説明

細胞捕捉チューブ,細胞検出方法および遠心分離装置

【課題】本発明は、(1)細胞の紛失をほぼ皆無にでき、検体(例えば、細胞懸濁液)に含まれる細胞をほぼすべて顕微鏡下で観察することができ、(2)検体を採取してから、検体に含まれる細胞を顕微鏡下で観察するまでの一連の操作が極めて容易かつ効率的であり、(3)使い捨てが可能な細胞捕捉チューブおよび細胞検出方法、ならびに小型化を可能とする遠心分離装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の細胞捕捉チューブは、細胞を吸着することができるシートが、チューブ型容器の内壁に配設されており、該シートは、該容器から剥離することができ、かつ平面状に展開することができることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞捕捉チューブ,細胞検出方法および遠心分離装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、細胞を吸着することができるシートが、チューブ型容器の内壁に配設されている細胞捕捉チューブ,該チューブを用いて細胞を検出することができる細胞検出方法および該チューブを用いて遠心分離することができる遠心分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍〔がん〕の診断の一つとして、または腫瘍が局在性か転移性かを識別するための方法として、血液検査が挙げられる。腫瘍細胞は、顕微鏡下での観察、すなわち検鏡によって形態から鑑別されるが、病期〔ステージ〕に関わらず、がん患者から採取した血液10mL当りに含まれる腫瘍細胞は10個程度と極めて少ない。
【0003】
血液検査を行うにあたり、まず被験者から採取した血液を遠心分離して、細胞性成分と液性成分とを分離する工程が必要となる。
このような工程に用いる治具として、例えば、特許文献1には、遠心分離により細胞をスライド平面に直接吸着させるための治具(すなわちサイトスピン治具)である、単一の使い捨て検体入れ・フィルタ片ユニットが開示されている。図4に示すように、単一の使い捨て検体入れ・フィルタ片ユニットとは、液体サンプル収容筒(34)と支持面(30')を形成する平坦な中実のフランジ部材(30)と該収容筒(34)から延びるとともに支持面(30')の開口(環状シール面(38)によって囲まれている)で終る排出口(36)とを有する検体入れ(10),およびフランジ部材(30)の支持面(30')を覆いかつ開口(42)を含むフィルタ片(40)を備えてなるものである。フィルタ片(40)はフィルタ片の開口(42)が排出口(36)と整列した状態でフランジ部材(30)の外周縁に隣接する位置に支持面(30')に固定され、これによって、支持面(30')に一体にされ支持面(30')から取外せないようにしたものである。
【0004】
なお、図4に示されていないが、検体入れ(10)を遠心機のホルダに取り付ける際、顕微鏡のスライドをフィルタ片(40)に当接する。遠心機を作動させることにより回転している該ユニットは、図中の矢印に示した方向に遠心力が掛かり、検体(流動物と固形物とからなる液体サンプルであり、より具体的には細胞懸濁液である。)は、該収容筒(34)、排出口(36)をこの順に経由する。そして、検体の流動物はフィルタ片(40)に吸収され、検体の固形物は顕微鏡のスライドの表面に置かれることとなる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のサイトスピン治具は、細胞懸濁液を入れる検体入れ(10)と、フィルタ片(40)に当接された顕微鏡のスライドとの間、すなわち該収容筒(34)および排出口(36)で細胞が非特異的に吸着されることにより該細胞を紛失する場合があるため、標的とする細胞の有無が顕微鏡下で確認できない虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−13589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、(1)1個の細胞ですら紛失することがないように細胞の紛失を極力抑え、検体(例えば、細胞懸濁液)に含まれる細胞をほぼすべて顕微鏡下で観察することができ、(2)検体を採取してから、検体に含まれる細胞を顕微鏡下で観察するまでの一連の操作が極めて容易かつ効率的であり、(3)使い捨てが可能な細胞捕捉チューブおよび細胞検出方法、ならびに小型化を可能とする遠心分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意検討した結果、チューブ内壁を平面状に展開可能なシートで覆うことによって、細胞懸濁液が接触した領域すべてがその状態で観察面となり、細胞懸濁液に含まれる細胞の紛失をほぼ皆無にできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の細胞捕捉チューブは、細胞を吸着することができるシートが、チューブ型容器の内壁に配設されており、該シートは、該容器から剥離することができ、かつ平面状に展開することができることを特徴とする。
【0010】
筒状に形成された上記シートが、上記容器の内壁の側部の少なくとも一部に面状で当接している(以下「細胞捕捉チューブ(a)」ともいう。)か;または(以下「細胞捕捉チューブ(b)」ともいう。)ことが好ましい。
【0011】
上記シートは、1以上の直径10μm以上100μm以下の非貫通凹部または1以上の直径1μm以上10μm以下の貫通孔を有していてもよい。
上記シートの表面に、細胞親和性のコーティングおよび/または細胞結合性のコーティングが施されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の細胞検出方法は、少なくとも下記手順(i)〜(iii)を含むことを特徴とする:(i)上記細胞捕捉チューブに細胞懸濁液を入れ;(ii)該チューブの中心線から上記シートへの向きに、該細胞懸濁液に対して100G以上15,000G以下の遠心力を与え;(iii)該細胞捕捉チューブから該シートを剥離し、平面状に展開して、標的とする細胞の有無を確認する。
【0013】
さらに、本発明の遠心分離装置は、少なくとも下記(A),(B)を備えることを特徴とする;(A)上記細胞捕捉チューブを固定するローター部,および(B)該ローター部(A)に固定された該チューブの中心線を回転軸として、該ローター部(A)を回転させる駆動部。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、(1)細胞の固定化や免疫染色などの液交換における操作においても、細胞の紛失をほぼ皆無にして、液交換を実施することができ、検体(例えば、細胞懸濁液)に含まれる細胞をほぼすべて顕微鏡下で観察することができ;(2)検体を採取してから、検体に含まれる細胞を顕微鏡下で観察するまでの一連の操作が極めて容易かつ効率的であり;(3)使い捨てが可能な細胞捕捉チューブおよび細胞検出方法、ならびに該細胞捕捉チューブ自体を回転させることから小型化を可能とする遠心分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明で用いられるチューブ型容器の斜視図を示す。
【図2】図2は、本発明の細胞捕捉チューブ(a)の横断面図を模式的に示し、(1)はチューブ型容器1の内壁2の一部が、細胞を吸着することができるシート4で覆われている態様であり、(2)はチューブ型容器1の内壁2の全部が、細胞を吸着することができるシート4で覆われている態様である。
【図3】図3は、本発明の細胞捕捉チューブ(b)の縦断面図を模式的に示し、筒状に形成された細胞を吸着することができるシート4がチューブ型容器1の底部の内壁2に固定されている。本発明の細胞捕捉チューブ(b)を使用する際、細胞懸濁液は矢印に示すとおり筒状に形成されたシート4の内側に入れる。
【図4】図4は、特許文献1に記載の、フィルタ片を検体入れの端面に超音波で接着する前の検体入れ・フィルタ片の一体ユニットの好適な形態の展開図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の細胞捕捉チューブ、細胞検出方法および遠心分離装置について具体的に説明する。
<細胞捕捉チューブ>
本発明の細胞捕捉チューブは、細胞を吸着することができるシートが、チューブ型容器の内壁に配設されており、該シートは、該容器から剥離することができ、かつ平面状に展開することができることを特徴とするものであって、略筒状に形成された該シートが、該容器の内壁の側部の少なくとも一部に面状で当接している細胞捕捉チューブ(a);または略筒状または略錐状に形成された該シートの端が、該容器の内壁の底部および/または側部の少なくとも一部に当接している細胞捕捉チューブ(b)の態様を有することが好ましい。
【0017】
すなわち、(a)として、チューブ型容器の内壁の少なくとも一部が、細胞を吸着することができるシートで直接接して覆われているか,または(b)として、略筒状もしくは略錐状に形成された該シートがチューブ型容器内に固定されているが、該内壁のすべてが直接接しては該シートに覆われていない細胞捕捉チューブであることが好ましい。
【0018】
(チューブ型容器)
本発明で用いるチューブ型容器は、従来の遠沈管,沈殿管,遠心瓶,試験管,スピッチ,スピッツ管,採血管などであってもよく、その材質として、例えば、ポリプロピレン〔PP〕およびポリプロピレン共重合体〔PPCO〕,ポリエチレン〔PE〕,ポリスチレン〔PS〕,アクリル樹脂,ポリカーボネート〔PC〕,ガラスなどを適宜選択できる。その形状は円筒形であることが好ましく、その底部は丸底型(梨型)またはコニカル型(円錐形型,V底型)であってもよく、本発明では特に限定されるものではない。
【0019】
このようなチューブ型容器の一態様を図1に示す。このチューブ型容器1は、口部と丸底型の底部とを有する円筒形のチューブである。本発明で用いるチューブ型容器は、口部に蓋をして密閉できる態様が好ましく、具体的には、例えばその口部がネジ口となってネジ蓋により密閉する態様などである。
【0020】
本発明で用いるチューブ型容器は、市販されているものを用いることが好ましく、例えば、イワキ(株)製,コーニング社製,ナルゲン社製,ファルコン社製等の遠沈管などが挙げられ、細胞低吸着チューブである住友ベークライト(株)製の「スミロンステムフル」などが好ましい。
【0021】
(シート)
本発明で用いるシートは、細胞を吸着することができるシートであり、可撓性を有し平面状に展開できるものであれば、フィルムであっても膜であってもよい。
【0022】
このようなシートの材質は、本発明では特に限定されないが、例えば、ポリスチレン〔PS〕,ポリプロピレン〔PP〕などが挙げられる。これはまた、シートが無色透明であっても、光を通さない黒色不透明であってもよいことを意味する。ただし、シートを展開後、顕微鏡下で観察する際、該顕微鏡が明視野顕微鏡である場合、透明なシートが好ましく、該顕微鏡が暗視野顕微鏡(例えば、落射式蛍光顕微鏡など)である場合、黒色不透明のシートが好ましい。
【0023】
またシートの厚さも、特に限定されるものではないが、10μm〜2mm程度が好ましい。シート厚が上記下限値以上であると、チューブ型容器から剥離する際、シートが破損する虞を防止することができ、またシート厚が上記上限値以下であると、顕微鏡下の観察を容易に行うことができる。
【0024】
本発明で用いるシートは、1以上の直径10μm以上100μm以下の非貫通凹部または1以上の直径1μm以上10μm以下の貫通孔を有していてもよい。特に、細胞捕捉チューブ(b)に用いる場合は、該貫通孔を有することが好ましい。非貫通凹部および貫通孔の直径が上記範囲内であると、細胞捕捉チューブ(a)に用いる場合、1個の細胞または複数個の細胞が凝集したものがその非貫通凹部または貫通孔に嵌り易く、細胞が該シートに接着するための足場となり得るため好適である。一方、細胞捕捉チューブ(b)に用いる場合、該シートが、細胞懸濁液の血球〔細胞性〕成分から血漿〔液性〕成分を除去するフィルタの役目を果たすことができるため好適である。
【0025】
貫通孔の形成方法としては、例えば、ポリカーボネートからなるシートにトラックエッチング処理を施す方法などが挙げられる。また、非貫通凹部の形成方法としては、例えば、トラックエッチング処理を施したシートをシリコンゴム等からなるシートに圧着させる方法などが挙げられる。
【0026】
本発明で用いるシートの表面に、細胞親和性のコーティングおよび/または細胞結合性のコーティングが施されていることが好ましい。細胞親和性のコーティングとは、例えば、コラーゲン,正電荷(ポリ−D−リシン〔PDL〕およびポリ−L−リシン〔PLL〕),シリカ〔SiO2〕,ポリスチレン〔PS〕,ポリプロピレン〔PP〕などを用いて該シート表面をコートすることを意味する。一方、細胞結合性のコーティングとは、例えば、細胞膜結合タンパク抗体,BAM(Biocompatible Anchor for Membrane)などを用いて、細胞親和性のコーティングと同様に、該シート表面をコートすることを意味する。ここで、BAMの構造は、例えば、一方の末端にオレイル基を、他方の末端にNHS基(N−ヒドロキシスクシンイミド)を有し、それらをポリエチレングリコール〔PEG〕で接続されているものなどであってもよい。このようなBAMの使用方法としては、例えば、予めシート表面に物理吸着させたBSAのアミノ基とBAMが有するNHS基とを反応させることによって結合させる方法などが挙げられ、BAMが有する疎水性のオレイル基が細胞膜に刺さることによって、細胞がシート表面に固定化される。
【0027】
細胞親和性のコーティングおよび/または細胞結合性のコーティングをシート表面に施すと、細胞を吸着しづらい平滑なシート表面であっても細胞が吸着し易くなるため好適である。
【0028】
[細胞捕捉チューブ(a)]
本発明の細胞捕捉チューブ(a)は、図1に示すように、本発明の細胞捕捉チューブにおいて、略筒状に形成された上記シート(図示なし)が、上記容器(1)の内壁(2)の側部(6)の少なくとも一部に面状で当接している態様をとる。
【0029】
シートで上記チューブ型容器の内壁を覆う際、シートと該内壁との間に接着剤を用いて適宜接着させてもよく、またシートと該内壁との間に働く静電作用によって付着させてもよい。
【0030】
ただし、シートと該内壁との間に細胞懸濁液が入らないようにする。また、シートと該内壁との間に接着剤を用いて接着する場合、該容器に細胞懸濁液を入れて遠心分離後にシートは該容器から容易に剥離される必要があるため、強固に接着されないようにする。
【0031】
シートで覆われる上記チューブ型容器の内壁は、少なくとも一部であり、好ましくは全部である。該容器の内壁を全部シートで覆うことによって、細胞懸濁液に含まれる細胞を漏らさず捕捉できるため好適である。なお、このような場合、シート1枚で全部を覆う必要はなく、複数枚のシートを用いて組み合わせて覆う態様であってもよい。
【0032】
[細胞捕捉チューブ(b)]
本発明の細胞捕捉チューブ(b)は、図1に示すように、本発明の細胞捕捉チューブにおいて、略筒状または略錐状に形成された上記シート(図示なし)の端が、上記容器(1)の内壁(2)の底部(7)および/または側部(6)の少なくとも一部に当接している態様をとり、例えば、図3に示すように、略筒状に形成された、細胞を吸着することができるシート(4)がチューブ型容器(1)の底部に固定されているが、チューブ型容器の内壁のすべてが直接接しては該シートに覆われていない態様などが挙げられる。
【0033】
略筒状(円筒状であっても角筒状であってもよいが、遠心力が均等にシートに負荷されることから円筒状が好ましい。)または略錐状(円錐状であっても角錐状であってもよいが、遠心力の観点から円錐状が好ましい。)に形成したシートをチューブ型容器内に固定する際、シートと該容器の内壁との間に接着剤を用いて適宜接着させてもよく、またシートと該内壁との間に働く静電作用によって付着させてもよい。
【0034】
シートを略錐状に形成した場合、略錐状に形成したシートの頂点(下端)が上記容器の底部に、一方、該シートの底辺(上端)が側部に当接されていることが好ましい。
「チューブ型容器の内壁すべてが筒状または錐状に形成されたシートに覆われていない」とは、該内壁と該シートとに所定の空隙を設けることを意味する。この細胞捕捉チューブ(b)を使用して本発明の細胞検出方法を実施した場合、該シートが、細胞懸濁液の血球〔細胞性〕成分から血漿〔液性〕成分を除去するフィルタの役目を果たすことによって、除去された血漿成分がその空隙に蓄積される。
【0035】
<細胞検出方法>
本発明の細胞検出方法は、少なくとも下記手順(i)〜(iii)を含むことを特徴とするものである。
【0036】
(i)上記細胞捕捉チューブに細胞懸濁液を入れ、
(ii)該チューブの中心線から上記シートへの向きに、該細胞懸濁液に対して100〜15,000Gの遠心力を与え、
(iii)該細胞捕捉チューブから該シートを剥離し、平面状に展開して、標的とする細胞の有無を確認する。
【0037】
(手順(i))
手順(i)は、本発明の細胞捕捉チューブに細胞懸濁液を入れる手順である。
検体である細胞懸濁液は、本発明の細胞検出方法による検出対象となる種々の試料(サンプル)を指し、細胞を含みかつ該細胞が溶液中に懸濁しているものをいう。
【0038】
検体としては、例えば、血液(血清・血漿),尿,鼻孔液,唾液,便,体腔液(髄液,腹水,胸水等)などが挙げられ、これらをそのまま用いて細胞懸濁液としてもよく、また所望する溶媒,緩衝液等に適宜希釈して細胞懸濁液としてもよい。このような細胞懸濁液のうち、血液,血清,血漿,尿,鼻孔液および唾液が好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0039】
(手順(ii))
手順(ii)は、手順(i)で得られた細胞捕捉チューブの中心線から上記シートへの向きに、細胞懸濁液に対して100〜15,000Gの遠心力を与える手順である。遠心力を与えることでシートに細胞を捕捉するものである。
【0040】
「細胞捕捉チューブの中心線」は、図1に示すようなチューブ型容器の中心線と一致するものである。
「細胞捕捉チューブの中心線から上記シートへの向き」とは、図2に示すように、細胞捕捉チューブの中心線に垂直な断面で見たとき、矢印で示すようにその中心(中心線)からシート(4)へ向かう放射状の方向を意味する。 細胞懸濁液に遠心力を与える方法としては、例えば、図2(2)の場合、本発明の遠心分離装置を用いる方法,マグネチックスターラーを用いる方法,手動で細胞捕捉チューブを回転させる方法を用いることが好ましく、また図2(1)の場合では好ましくは従来の遠心機を用いる方法などが挙げられる。
【0041】
(手順(iii))
手順(iii)は、手順(ii)の後に、手順(ii)で得られた細胞が捕捉された上記シートを細胞捕捉チューブから上記シートを剥離し、該シートを平面状に展開して、標的とする細胞の有無を確認する手順である。
【0042】
チューブ型容器とシートとは、上述のようにせいぜい弱い力で当接あるいは接着している程度であることから、該チューブからシートを容易に剥離することができる。
剥離されたシートは平面状に展開することでき、すなわち平面状に展開したシートはプレパラートの役割を果たすことから、そのまま顕微鏡下で観察し、必要に応じて細胞を固定化し、さらに免疫染色して標的とする細胞の有無を確認することができる。
【0043】
細胞の固定化や免疫染色などの液交換における操作も本発明で用いるシートを使用して実施すると、細胞を紛失することなく液交換を実施することができる。例えば、本発明で用いるシートと、細胞懸濁液として血液検体と、特定の癌細胞に対する抗体(適宜蛍光色素等により標識されている。)とを用いることによって、特定の癌細胞の有無(有の場合はその細胞数)を高感度かつ高精度で検出することができる。得られた結果から、触診などによって検出することができない前臨床期の非浸潤癌(上皮内癌)の存在も高精度で予測することができる。液交換の対象となる液体は、例えば、細胞を固定するPFA等の液体,検体を溶解または希釈するための溶解液または希釈液;特定の細胞を検出するための各種反応試薬および洗浄試薬;抗体に蛍光色素等を固定化するための各種試薬(例えば、水溶性カルボジイミド(EDC等),N−ヒドロキシコハク酸イミド〔NHS〕等)などが挙げられる。
【0044】
<遠心分離装置>
本発明の遠心分離装置は、少なくとも下記(A),(B)を備えることを特徴とするものである。
【0045】
(A)本発明の細胞捕捉チューブを固定するローター部,および
(B)該ローター部(A)に固定された該チューブの中心線を回転軸として、該ローター部(A)を回転させる駆動部。
【0046】
このような遠心分離装置は、従来の遠心機のローター部のように、遠心力を得るために回転軸からサンプル固定位置まである程度の半径を有するものである必要はなく、サンプルを回転軸上に固定することができる。したがって、本発明の遠心分離装置は、回転軸からサンプル固定位置まである程度の半径を設ける必要がないため、ローター部を小型化することができるという利点を有する。
【0047】
本発明の遠心分離装置は、遠心分離中に細胞捕捉チューブに入っている細胞懸濁液の温度上昇を防止するため、さらに(C)上記ローター部(A)を冷却する温度制御部などを備えることが好ましい。
【0048】
(ローター部(A))
ローター部(A)は、本発明の細胞捕捉チューブを固定するものであって、駆動部(B)の回転軸上に細胞捕捉チューブの中心線を合致させその状態を固定できるものであれば、本発明はローター部(A)の形状・材質など特に限定せずに用いることができる。
【0049】
(駆動部(B))
駆動部(B)は、上記ローター部(A)に固定された細胞捕捉チューブの中心線を回転軸として、該ローター部(A)を回転させるものである。このような駆動部(B)は、従来の遠心機で用いている駆動部を用いることができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]
ポリスチレン〔PS〕シート(縦:5cm,横:4cm)表面をコラーゲンでコーティングし、コーティング面が内側になるように円筒形に丸め、容量15mLの遠沈管(細胞低吸着チューブ「スミロンステムフル」;住友ベークライト(株)製)の内壁に接する様にして設置し、細胞捕捉チューブを製造した。
【0051】
培養により調製した懸濁液Jurkat細胞(105〜106cells/mL),MCF−7細胞(約102cells/mL)を細胞捕捉チューブのポリスチレンシート内に入れて、等量混合した。混合した懸濁液を300gで5分間遠心分離した後、上清を廃棄し、PBS(Phosphate−Buffered Salines;インビトロジェン社製)を添加した。図2(2)に示すように、細胞捕捉チューブの中心線から上記シートへの向きに遠心力を与えるように、遠心分離を実施した。
【0052】
以下、(1)〜(7)の手順に従って細胞を観察した。
(1)細胞の固定
300gで5分間遠心分離した後、上清を廃棄し、3%PFA(パラホルムアルデヒド;和光純薬工業(株))を添加して20分間静置して懸濁させた。
【0053】
(2)PFAの洗浄除去
300gで5分間遠心分離した後、上清を廃棄し、PBSを添加して、遠心分離により洗浄除去した。
【0054】
(3)ブロッキング
3%BSA(Pierce社製)−PBS滴下し、45分間静置によりブロッキングを行い、その後PBSで洗浄除去した。
【0055】
(4)一次抗体反応
抗CK抗体(マウスConeA45−B/B3)および抗CD45抗体(ラビットsc−25590)(抗CK抗体,抗CD45抗体ともにAS diagnostik製)をそれぞれ原液100倍希釈(3%BSA−PBST)にて45分間静置により反応させた後、PBSTで洗浄除去した。
【0056】
(5)二次抗体反応
Alexa Fluor(登録商標)488標識抗マウスIgGおよびAlexa Fluor(登録商標)555標識抗ラビットIgG(ともにインビトロジェン社製)をそれぞれ原液1000倍希釈(3%BSA−PBST)にて45分間静置により反応させた後、PBSTで洗浄除去した。
【0057】
(6)核染色
DAPI液(インビトロジェン社製)を原液40万倍希釈(3%BSA−PBST)にて添加し、45分間静置して染色した。
【0058】
(7)CTCカウント
300gで5分間遠心分離した後、上清を廃棄し、ポリスチレンシートを遠沈管から剥離して取り出し、スライドガラスに載せて平面状に展開し、蛍光顕微鏡下38HEフィルタ(Alexa488(CK)に対応)を用いて観察し、緑色の蛍光像を示す細胞をカウントした。
その結果、MCF−7が70個観察された。
【0059】
[比較例1]
実施例1の細胞捕捉チューブを用いることなく、次のようにして同様な観察を行った。
【0060】
容量15mLの遠沈管に、懸濁液Jurkat細胞(105〜106cells/mL)およびMCF−7細胞(約102cells/mL)を入れて、等量混合した。遠心して、上清を廃棄した後、PBSを添加し、上記(1)〜(6)を行った後、退色防止剤ProLong Gold(インビトロジェン社製)とともに細胞をカバーガラスにて封入し、蛍光顕微鏡下38HEフィルタ(Alexa488(CK)に対応)を用いて観察し、緑色の蛍光像を示す細胞をカウントした。
その結果、MCF−7が46個観察された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の細胞捕捉チューブは、その内壁にフィルムを接着させた採血管としても好適である。細胞懸濁液が、例えば、被験者から採血した血液(10mL)である場合、該血中に含まれる癌細胞が10個未満であっても、本発明の細胞捕捉チューブでは細胞を紛失せずに検出することができるため好ましい。
【0062】
また、本発明の遠心分離装置は、細胞捕捉チューブの中心線を回転軸として回転させるものであるから、従来の遠心機と比較しても著しくコンパクトとなり好適である。
【符号の説明】
【0063】
1・・・・・・チューブ型容器
2・・・・・・内壁
3・・・・・・細胞捕捉チューブ
4・・・・・・細胞を吸着することができるシート
5・・・・・・開口部
6・・・・・・側部
7・・・・・・底部
10・・・・・・検体入れ
30・・・・・・フランジ部材
30’・・・・・・支持面
34・・・・・・液体サンプル収容筒
36・・・・・・排出口
38・・・・・・環状シール面
40・・・・・・フィルタ片
42・・・・・・開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を吸着することができるシートが、チューブ型容器の内壁に配設されており、
該シートは、該容器から剥離することができ、かつ平面状に展開することができることを特徴とする細胞捕捉チューブ。
【請求項2】
筒状に形成された上記シートが、上記容器の内壁の側部の少なくとも一部に面状で当接している請求項1に記載の細胞捕捉チューブ。
【請求項3】
筒状または錐状に形成された上記シートの端が、上記容器の内壁の底部および/または側部の少なくとも一部に当接している請求項1に記載の細胞捕捉チューブ。
【請求項4】
上記シートが、1以上の直径10μm以上100μm以下の非貫通凹部または1以上の直径1μm以上10μm以下の貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞捕捉チューブ。
【請求項5】
上記シートの表面に、細胞親和性のコーティングおよび/または細胞結合性のコーティングが施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細胞捕捉チューブ。
【請求項6】
少なくとも下記手順(i)〜(iii)を含むことを特徴とする細胞検出方法:
(i)請求項1〜5のいずれかに記載の細胞捕捉チューブに細胞懸濁液を入れ;
(ii)該チューブの中心線から請求項1〜5のいずれかに記載のシートへの向きに、該細胞懸濁液に対して100G以上15,000G以下の遠心力を与え;
(iii)該細胞捕捉チューブから該シートを剥離し、平面状に展開して、標的とする細胞の有無を確認する。
【請求項7】
少なくとも下記(A),(B)を備えることを特徴とする遠心分離装置;
(A)請求項1〜5のいずれかに記載の細胞捕捉チューブを固定するローター部,および
(B)該ローター部(A)に固定された該チューブの中心線を回転軸として、該ローター部(A)を回転させる駆動部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24045(P2012−24045A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167901(P2010−167901)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】