説明

細胞接着の防止のためのペプチド及び組成物、並びにこれらの使用方法

例えば任意でFDYDWY、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN、又はCSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNCからなる群から選択される配列又はその任意の環化したものを含み得る単離ペプチドを含む組成物、並びに例えば微生物バイオフィルムの形成及び表面への細胞の接着に対する処理又はその防止にこの組成物を使用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単離ペプチド及び細胞接着の防止におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は、(プランクトンとして)環境中で自由に泳動する個々の細胞として生存及び増殖することができるか、又は表面及び界面に密接に結び付いて、自己産生ポリマーマトリクス中に包含された、高度に組織化された多細胞コミュニティとして成長することができる。後者の微生物ライフスタイルはバイオフィルムと呼ばれる。バイオフィルム形成は、厳しい環境で微生物を生存させ、また微生物が分散し、かつ新たなニッチにコロニーを形成するのを可能にする、古くからの(ancient)保護された成長状態を示す[非特許文献1]。
【0003】
バイオフィルムの組成は複雑であり、異なる微生物種間で、及びさらには同じ微生物種であっても異なる環境条件下で変化する。それにもかかわらず、バイオフィルム形成は、環境中での微生物の正常なライフスタイルを示し、また全ての微生物がバイオフィルムを作製する可能性がある。これまでの研究により、細菌性のバイオフィルム形成が、タンパク質プロファイルが異なる複数の発生段階で進行することが明らかになり[非特許文献2]、これは表面への付着から始まり、その後の移動(immigration)及び分裂により微小コロニーを形成し、最終的にはマトリクスポリマーの発現を伴う成熟へと続く。各バイオフィルム段階での細菌は、浮遊状態で(planktonically)成長する同じ群のものとは顕著に異なる表現型を提示し、また顕著に異なる性質を有している[非特許文献3]。
【0004】
バイオフィルムは、ヒトにおける全身感染(例えば院内感染)の主な原因である。体内で、バイオフィルムは組織(例えば内耳、歯、歯茎、肺、心臓弁及び尿生殖路)と結び付く可能性がある。実際、ヒトにおける細菌感染のおよそ65%はバイオフィルムによるものである。さらに、バイオフィルムが形成された後、微生物は、時に劇的にその特性を変える傾向があり、このため、生物が付着しているか又は集塊状のバイオフィルム形態である場合、通常懸濁培養液中の生物を死滅させる抗生物質の用量では同じ微生物に対してほとんど効果がない(特許文献1)。
【0005】
身体に導入される製品(例えばコンタクトレンズ、中心静脈カテーテル、機械心臓弁及びペースメーカー)、又は身体に経路を与える製品に関する主な懸念事項の1つは、微生物感染及び不可避なバイオフィルムの形成である。これらの感染は抗生物質による治療が困難であるので、度々装置の取り外しを余儀なくされ、このことが患者への外傷となり、医療費が増大する。したがって、当該技術分野において、かかる医療機器に関して、これらの医療機器及び装置を抗菌性にする手段及び方法が念願となっている。
【0006】
特許文献2は既に存在しているバイオフィルムの形成を阻害するため又は既に存在しているバイオフィルムを分解するための抗アミロイド剤、例えば芳香族化合物の使用を開示している。本出願はアルツハイマー病におけるアミロイド線維形成を防止する化合物がバイオフィルム中の線維形成に対して作用することができることを開示しており、芳香族アーム(aromatic arm)を有するアミノ酸がバイオフィルムに効果的であると結論付けている。しかしながらこの分析は全長配列に限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7189351号
【特許文献2】PCT出願国際公開第06/006172号
【特許文献3】PCT出願国際公開第2007/147098号明細書
【特許文献4】米国特許第4,678,512号明細書
【特許文献5】米国特許第4,286,988号明細書
【特許文献6】米国特許第4,675,051号明細書
【特許文献7】米国特許第4,865,909号明細書
【特許文献8】米国特許第5,143,545号明細書
【特許文献9】米国特許第4,666,828号明細書
【特許文献10】米国特許第4,683,202号明細書
【特許文献11】米国特許第4,801,531号明細書
【特許文献12】米国特許第5,192,659号明細書
【特許文献13】米国特許第5,272,057号明細書
【特許文献14】米国特許第3,791,932号明細書
【特許文献15】米国特許第3,839,153号明細書
【特許文献16】米国特許第3,850,752号明細書
【特許文献17】米国特許第3,850,578号明細書
【特許文献18】米国特許第3,853,987号明細書
【特許文献19】米国特許第3,867,517号明細書
【特許文献20】米国特許第3,879,262号明細書
【特許文献21】米国特許第3,901,654号明細書
【特許文献22】米国特許第3,935,074号明細書
【特許文献23】米国特許第3,984,533号明細書
【特許文献24】米国特許第3,996,345号明細書
【特許文献25】米国特許第4,034,074号明細書
【特許文献26】米国特許第4,098,876号明細書
【特許文献27】米国特許第4,879,219号明細書
【特許文献28】米国特許第5,011,771号明細書
【特許文献29】米国特許第5,281,521号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hall-Stoodley et al., Nat Rev Microbiol. (2004) 2(2):95-108
【非特許文献2】Sauer et al., J Bacteriol. (2002) 184(4):1140-54
【非特許文献3】Sauer et al., J Bacteriol. (2004) 186(21):7312-26
【非特許文献4】Sher et al.(Toxicon 45: 865-879, 2005)
【非特許文献5】Zabrocki et al., J. Am. Chem. Soc. 110:5875 5880 (1988))
【非特許文献6】Jones et al., Tetrahedron Lett. 29: 3853 3856 (1988)
【非特許文献7】Kemp et al., J. Org. Chem. 50:5834 5838 (1985)
【非特許文献8】Kemp et al., Tetrahedron Lett. 29:5081 5082 (1988)
【非特許文献9】Kemp et al., Tetrahedron Lett. 29:5057 5060 (1988)
【非特許文献10】Kemp et al., Tetrahedron Lett. 29:4935 4938 (1988)
【非特許文献11】Kemp et al., J. Org. Chem. 54: 109 115 (1987)
【非特許文献12】Nagai and Sato, Tetrahedron Lett. 26:647 650 (1985)
【非特許文献13】Di Maio et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans., 1687 (1985)
【非特許文献14】Kahn et al., Tetrahedron Lett. 30:2317 (1989)
【非特許文献15】Olson et al., J. Am. Chem. Soc. 112:323 333 (1990)
【非特許文献16】Garvey et al., J. Org. Chem. 56:436 (1990)
【非特許文献17】Miyake et al., J. Takeda Res. Labs 43:53 76 (1989))、
【非特許文献18】Kazmierski et al., J. Am. Chem. Soc. 133:2275 2283 (1991)
【非特許文献19】Zechel et al., Int. J. Pep. Protein Res. 43 (1991)
【非特許文献20】Kazmierski and Hruby, Tetrahedron Lett.(1991)
【非特許文献21】Garg and Jeanloz, Advances in Carbohydrate Chemistry and Biochemistry, Vol. 43, Academic Press (1985)
【非特許文献22】Kunz, Ang. Chem. Int. Ed. English 26:294-308 (1987)
【非特許文献23】Toth et al., Peptides: Chemistry, Structure and Biology, Rivier and Marshal, eds., ESCOM Publ., Leiden, 1078-1079 (1990)
【非特許文献24】"Molecular Cloning: A laboratory Manual" Sambrook et al., (1989)
【非特許文献25】"Current Protocols in Molecular Biology" Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994)
【非特許文献26】Ausubel et al., "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989)
【非特許文献27】Perbal, "A Practical Guide to Molecular Cloning", John Wiley & Sons, New York (1988)
【非特許文献28】Watson et al., "Recombinant DNA", Scientific American Books, New York、
【非特許文献29】Birren et al. (eds) "Genome Analysis: A Laboratory Manual Series", Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998)
【非特許文献30】"Cell Biology: A Laboratory Handbook", Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994)
【非特許文献31】"Current Protocols in Immunology" Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994)
【非特許文献32】Stites et al. (eds), "Basic and Clinical Immunology" (8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994)
【非特許文献33】Mishell and Shiigi (eds), "Selected Methods in Cellular Immunology", W. H. Freeman and Co., New York (1980)
【非特許文献34】"Oligonucleotide Synthesis" Gait, M. J., ed. (1984)
【非特許文献35】"Nucleic Acid Hybridization" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985)
【非特許文献36】"Transcription and Translation" Hames, B. D., and Higgins S. J., Eds. (1984)
【非特許文献37】"Animal Cell Culture" Freshney, R. I., ed. (1986)
【非特許文献38】"Immobilized Cells and Enzymes" IRL Press, (1986)
【非特許文献39】"A Practical Guide to Molecular Cloning" Perbal, B., (1984)
【非特許文献40】"Methods in Enzymology" Vol. 1-317, Academic Press、"PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications", Academic Press, San Diego, CA (1990)
【非特許文献41】Marshak et al., "Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual" CSHL Press (1996)
【発明の概要】
【0009】
本発明は、広範な微生物における初期段階でのバイオフィルム形成を防ぐ、哺乳類及び非哺乳類を含む動物から単離した天然ペプチド又は合成ペプチドを提供する。
【0010】
本明細書に記載のペプチドとは全て微生物の基体(substrate)接着及びそれに派生したバイオフィルム形成の防止にのみ関する活性を示す。上述の因子は抗生ペプチド及び二次代謝産物により明らかになる、一般的に観察される致死的な殺菌活性を欠いており、このことにより強力な微生物「繁殖能(biotic potential)」による迅速な自然選択に関する強い選択圧がもたらされる。一方で、微生物定着の広範な阻害が細菌生存の基本的機構を損なわせる。したがってその生存率からかかる機構の適応変更の見込みは低い。
【0011】
非特許文献4は、バイオインフォマティクスアプローチを用いて、そのアロモン系(allomonal system)の構成要素となり得るヒドラにより発現された推定の生物学的に活性があるタンパク質及びポリペプチドを同定した。ヒドラはアクチノポリンファミリーに属する刺胞動物ホスホリパーゼA2毒素及び細胞溶解素(cytolysicns)のオーソログを発現し、かつコブラ科動物様ホスホリパーゼ、高システイン分泌タンパク質(proetins)(CRISP)、プロキネチシン(prokineticin)様ポリペプチド及び毒性デオキシリボヌクレアーゼに類似したタンパク質を発現することが示されてきた。
【0012】
天然源から単離されたペプチドにおける細胞毒性の活性に関与する特定の配列はこれまでに同定されていない。
【0013】
他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術を有する者(当業者)により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で記載のものと同様又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるが、好適な方法及び材料を以下で説明する。抵触の場合には、定義を含む本特許明細書により抵触の調整が行われる。さらに、材料、方法及び実施例は例示的なものにすぎず、限定を意図しない。
【0014】
本明細書中で使用される、「含む("comprising" and "including")」という用語又はその文法的変化形は、決まった特徴、整数値、工程又は構成要素を明記するものとされるが、1つ又は複数のさらなる特徴、整数値、工程、構成要素又はそれらの群の付加を排除するものではない。この用語は、「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる」という用語を包含する。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「から本質的になる」という語句又はその文法的変化形は、決まった特徴、整数値、工程又は構成要素を明記するものとされるが、1つ又は複数のさらなる特徴、整数値、工程、構成要素又はそれらの群が、特許請求される組成物、装置又は方法の基礎となる新規の特性を大きく変えない場合に限れば、このさらなる特徴、整数値、工程、構成要素又はそれらの群の付加を排除するものではない。
【0016】
「方法」という用語は、与えられた仕事を達成するための様式、手段、技法及び手法を表し、化学分野、生物学分野及び生物物理分野の実践者(practitioners)にとって既知の、又は化学分野、生物学分野及び生物物理分野の実践者によって知られる様式、手段、技法及び手法から容易に開発される様式、手段、技法及び手法を含むが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書中で使用される「約」という用語は±10%を表す。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から明らかであろう。
【0019】
本発明は、添付の図面を参照して、ほんの一例として本明細書中で説明される。これより、特に図面を詳細に参照するが、示される詳細は、一例であり、本発明の好ましい実施形態の例示的な考察を目的とするものにすぎず、本発明の原理及び概念的側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示されることを強調する。このため、本発明の根本的理解に必要とされる以上に詳細には示していないが、本発明の構造細部、すなわち図面に伴う説明により本発明の幾つかの形態を実際に具現することができる方法が当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】3つの異なる濃度での合成ペプチドgrZ−28C[CSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)]による緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の接着の阻害を示す棒グラフである。
【図2】緑膿菌での成長試験を示す棒グラフである。
【図3】緑膿菌でのGPCR 137bのアミノ酸配列に基づくペプチドgrZ35 cyc及びペプチドgrZ28Cの接着防止作用を示す棒グラフである。
【図4】緑膿菌の成長に対するペプチドgrZ35 cyc及びペプチドgrZ28Cの効果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は細菌の基体接着及びそれに派生したバイオフィルム形成の防止、及びまた任意で細胞間接着の防止に関連する効果を1つ又は複数有する、動物源から単離されたペプチドを含む組成物に関する。任意で、付加的に又は代替的に他の効果がもたらされてもよい。ペプチドは少なくともFDYDWY(配列番号2)の配列を有する。非限定的な例として、ペプチドは任意で好ましくは、FDYDWY(配列番号2)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)、又はCSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)からなる群から選択される配列を含み得る。
【0022】
医学における主な懸念事項の1つが微生物バイオフィルムの形成である。ヒトにおいて、バイオフィルムは、製品(例えばコンタクトレンズ、中心静脈カテーテル、機械心臓弁及びペースメーカー)を身体に導入する際の主な懸念事項である。
【0023】
またバイオフィルムは、食品産業、医薬産業、塗装産業、水道産業、海運業及びエンジニアリング産業を含む多くの産業において、広範な負の効果の中でも、産業システムにおける腐食の促進、油の酸性化(souring)及び生物汚損(biofouling)を引き起こすという問題がある。例えば、廃水システム及び脱塩システムで用いられるような、冷却設備又は脱塩設備、洗浄及び電源ステーション、並びにメンブレンにおける冷却塔、水管及びフィルターを含む海水環境又は淡水環境での生物の任意の表面への接着により、生物汚損が引き起こされる可能性がある。養魚場における養殖システム中でも生物汚損が生じる。
【0024】
さらに世界の商船群は1年におよそ3億トンの燃料を消費する。汚損防止手段なしでは、この燃料消費は1年で40%も増大し、これはさらなる1億2000万トンの燃料に相当する。この経済コストは2000年には約75億ドルと推定されたが、より最近の推定では300億ドルである。
【0025】
バイオフィルムは、その中で成長する微生物が高度に組織化され、高温及び抗菌剤(例えば抗生物質)等の厳しい環境に耐えることができるので、取り除くことが非常に困難である。
【0026】
軟体の水生(water)無脊椎動物、魚類及びコケを含む海水及び淡水の植物及び生物は広範囲にわたる種の微生物に囲まれている。かかる植物及び生物は特定の免疫を欠いているので、身体表面上での微生物定着を防止することができる幾つかの因子を産生する。
【0027】
最も「感受性の高い」生物はイソギンチャク、サンゴ、クラゲ、ヒドロ虫、メズサ及びウミウチワ(sea fans)を含む刺胞動物門(phylum cnidaria)に属する無脊椎動物である。鱗又は貝等の物理的保護を欠くかかる軟体生物は、それらを取り巻く微生物環境から軟体生物自体を保護するためにタンパク質及び二次代謝産物を使用する。
【0028】
海洋生物(例えば海綿動物)が抗菌活性及び抗真菌活性を示す二次代謝産物を産生することがこれまでに報告されている[Amade et al.、同上]。さらに、イソギンチャク(例えばウメボシイソギンチャク(Actinia equina))は、他の小さい抗菌ペプチドと同様に、真核細胞を溶解及び死滅させる毒性のある孔形成ペプチド(すなわちイクイナトキシン)を産生することが分かっている[Anderluh et al.、同上]。
【0029】
これらの自然要因から、保存性の高い配列を有するペプチドが単離され、その合成立体配置で微生物接着の防止において高い活性を示した。保存配列が、様々な既知の種のイソギンチャク、幾つかの魚類(ダニオ・レリオ(Danio rerio)、すなわちゼブラフィッシュを含む)、及びヒメツリガネゴケ(moss Physcomitrella patens subsp. Patens)を含む幾つかの海洋生物で見出されている。
【0030】
バイオインフォマティクス分析に基づき、高等生物(ヒトを含む)において該タンパク質がFDYDWY(配列番号2)(128アミノ酸〜400アミノ酸のサイズ範囲を有するタンパク質に見出すことができる)に変化していると考えられる。ヒトでは、このペプチドは269位〜274位に位置するGタンパク質共役受容体137B(遺伝子番号7107 GPR137B)の一部である。UniProtKB/Swiss−ProtエントリーO60478によると、259位から292位までの領域は細胞外領域であり、このことはこのペプチドがタンパク質の活性部分であるという理論を支持している。
【0031】
古代のイソギンチャクであるユウレイボヤ(Ciona intestinalis)のバイオインフォマティクス分析により、Gタンパク質共役受容体137ba[GeneBankアクセッション番号XP_002125109]に類似の368アミノ酸のタンパク質が同定された。接着防止ペプチドに類似の領域はSPLRCSELSSFNFDWYNVSDQADLVN(配列番号4)である。この情報、及びユウレイボヤが微生物の広い多様性に曝されてもいることに基づき、本発明者らは、ペプチドFNFDWY(配列番号5)も接着防止性であるという仮説をたてている。細胞外領域を表す残基259〜284の非環状ペプチド配列SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)を、C末端及びN末端での2つのシステインと共に合成した。
【0032】
細胞外領域を表す残基259〜292の環状ペプチド配列SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNQLGDAGYV(配列番号6)を、C末端及びN末端での2つのシステイン、並びにS−S架橋と共に合成した。
【0033】
幾つかの実施形態によれば、本発明のペプチドは少なくとも配列FDYDWY(配列番号2)を含む。例えば、ペプチドは、FDYDWY(配列番号2)、SFDYDWY(配列番号7)、SFDYDWYN(配列番号8)、HSFDYDWYN(配列番号9)、HSFDYDWYNV(配列番号10)、VHSFDYDWYNV(配列番号11)、VHSFDYDWYNVS(配列番号12)、SVHSFDYDWYNVS(配列番号13)、SVHSFDYDWYNVSD(配列番号14)、KSVHSFDYDWYNVSD(配列番号15)、KSVHSFDYDWYNVSDQ(配列番号16)、NKSVHSFDYDWYNVSDQ(配列番号17)、NKSVHSFDYDWYNVSDQA(配列番号18)、QNKSVHSFDYDWYNVSDQA(配列番号19)、QNKSVHSFDYDWYNVSDQAD(配列番号20)、SQNKSVHSFDYDWYNVSDQAD(配列番号21)、SQNKSVHSFDYDWYNVSDQADL(配列番号22)、FSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADL(配列番号23)、FSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLK(配列番号24)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLK(配列番号25)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)、CSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号26)、若しくはCSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)のうちの少なくとも1つ、又はそれらの組合せを含み得る。
【0034】
幾つかの実施形態によれば、ペプチドは環状である。
【0035】
幾つかの実施形態によれば、ペプチドは非環状である。
【0036】
ペプチドを任意の動物から単離することができる。好ましくは、動物は、例えば魚類、両生類(カエル、ヒキガエル、イモリ若しくはサンショウウオを含む)、鳥類、爬虫類(例えばワニ、トカゲ、ヘビ、カメ(turtle, a tortoise)若しくはテラピン)、又は哺乳類(ヒトを含む)等の脊椎動物である。
【0037】
ペプチドは脊椎動物門に属する海洋生物のユウレイボヤにも存在する。この生物では、タンパク質は上部脊椎(upper vertebrae)でGPCR 137bとの類似性を示し、この生物は微生物に囲まれているので、配列FNFDWY(配列番号5)を含むペプチドも特許の一部である。
【0038】
本発明のペプチドは、第1のペプチド配列のN末端がリンカーのC末端と連結し、第2のペプチド配列のC末端がリンカーのN末端と連結するように、幾つかの種類のリンカーにより連結された、上記配列を任意で少なくとも2つ含み得る。
【0039】
本明細書中で使用される「リンカー」という用語は、2つのペプチドを連結するために若しくは本明細書に記載のようにペプチドを環状にするための任意の化学結合又は分子を表す。リンカーは任意の好適な数の単量体(monomeric)単位のポリマーも任意で含み得る。しかしながらどんな場合でも、リンカーは活性基を特徴とし、かつ/又は2つ以上のペプチドを連結するため、及び/若しくは本明細書に記載のようにペプチドを環状にするために少なくとも2つの位置でかかる活性基を含むように誘導体化するのが好ましい。
【0040】
本発明の原理及び操作は図面及び付随の説明を参照してより理解することができる。
【0041】
本発明の少なくとも1つの実施形態をより詳細に説明する前に、本発明はその適用において以下の記載で説明されるか、又は実施例により例示される詳細には限定されないと理解すべきである。本発明は、他の実施形態、又は様々な方法で実行又は実施することが可能である。また、本明細書で用いられる語句及び用語は説明を目的とするものであり、限定するものとはみなされないものとすることを理解すべきである。
【0042】
本発明の一態様によれば、ヒト源から単離したペプチドである、FDYDWY(配列番号2)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)、又はCSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)からなる群から選択される配列を含むペプチドを含む組成物が提供される。
【0043】
本発明のさらなる態様によれば、表面への単細胞生物の接着を防止する方法であって、細胞をFDYDWY(配列番号2)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)、又はCSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)からなる群から選択される配列を含む、ヒト源から単離したペプチドを含む組成物に接触させ、それにより表面への細胞の接着を防止する、接触させることを含む、方法が提供される。
【0044】
本発明の幾つかの実施形態によれば、上記ペプチドを少なくとも1つ含み、表面への細胞接着に対して効果的なドメインが提供されるのが好ましい。より好ましくは、ドメインがタンパク質の一部として含まれる。任意で最も好ましくは、ドメインは例えばバイオフィルムの形成防止及び/又は処理のために接着防止挙動を示すが、細胞傷害挙動を示さない。
【0045】
本明細書中で使用される「単離(isolated)」組成物という用語はそのin vivo位置から取り出された組成物を表す。好ましくは、本発明の単離組成物はそのin vivo位置に存在する他の物質(例えば接着防止効果を有しない他のタンパク質)をほとんど含まない(すなわち精製又は準精製されている)。単離ペプチドは、任意で合成されたものであり得るか、又は例えば任意で遺伝子工学技法を用いてin vivo(生体内)で発現させることにより天然源から入手することができる。
【0046】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の組成物は細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性を欠いている、例えば本発明の組成物は殺菌性又は静菌性(bacteristatic)である。
【0047】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の組成物は凍結乾燥に耐性がある、例えばそれらの活性は凍結乾燥後で保存される。
【0048】
本明細書中で使用される「単細胞生物」という語句は、微生物(microorganism or a microbe)とも呼ばれる単細胞の生物を表す。本発明の単細胞生物は、真核性の単細胞生物(例えば原生動物又は真菌、例えば酵母)又は原核性の単細胞生物(例えば細菌又は古細菌)であり得る。本発明の単細胞生物は、単離細胞又は細胞懸濁液として、例えばバイオフィルム内のような任意の細胞環境にあり得る。
【0049】
本明細書中で使用される「バイオフィルム」という用語は、その中で微生物が分散し、及び/又はコロニーを形成する細胞外マトリクスを表す。バイオフィルムは典型的には、多糖及び他の巨大分子で構成されている。
【0050】
接着が本発明の方法に従って防止され得る細菌細胞の例としては、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌が挙げられる。
【0051】
本明細書中で使用される「グラム陽性細菌」という用語は、それらの細胞壁構造の部分としてペプチドグリカンと、多糖及び/又はテイコ酸とを有することを特徴とし、かつグラム染色法におけるそれらの青紫色の反応物を特徴とする細菌を表す。代表的なグラム陽性細菌としては、アクチノミセス属、バシラス・アントラシス(Bacillus anthracis:炭疽菌)、ビフィドバクテリウム属、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum:ボツリヌス菌)、クロストリジウム・ペルフリンゲンス(Clostridium perfringens:ウェルシュ菌)、クロストリジウム属、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani:破傷風菌)、コリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae:ジフテリア菌)、コリネバクテリウム・ジャイカム(Corynebacterium jeikeium)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis:大便連鎖球菌)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エリシペロトリックス・ルシオパチエ(Erysipelothrix rhusiopathiae:ブタ丹毒菌)、ユーバクテリウム属、ガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis:ガードネレラ菌)、ゲメラ・モルビロルム(Gemella morbillorum)、ロイコノストック属、マイコバクテリウム・アブセサス(Mycobacterium abscessus)、複合マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)、マイコバクテリウム・ケロネー(Mycobacterium chelonae)、マイコバクテリウム・フォーチュイタム(Mycobacterium fortuitum)、マイコバクテリウム・ヘモフィルム(Mycobacterium haemophilium)、マイコバクテリウム・カンサシイ(Mycobacterium kansasii)、マイコバクテリウム・レプレ(Mycobacterium leprae:らい菌)、マイコバクテリウム・マリナム(Mycobacterium marinum)、マイコバクテリウム・スクロフラセウム(Mycobacterium scrofulaceum)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis:スメグマ菌)、マイコバクテリウム・テラエ(Mycobacterium terrae)、マイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis:結核菌)、マイコバクテリウム・ウルセランス(Mycobacterium ulcerans)、ノカルディア属、ペプトコッカス・ニガー(Peptococcus niger)、ペプトストレプトコッカス属、プロプリオニバクテリウム属、サルシナ・ルテア(Sarcina lutea)、黄色ブドウ球菌、スタフィロコッカス・アウリクラリス(Staphylococcus auricularis)、スタフィロコッカス・キャピティス(Staphylococcus capitis)、スタフィロコッカス・コーニイ(Staphylococcus cohnii)、スタフィロコッカス・エピデルミヂス(Staphylococcus epidermidis:表皮ブドウ球菌)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)、スタフィロコッカス・ルグダネンシス(Staphylococcus lugdanensis)、スタフィロコッカス・サッカロリチクス(Staphylococcus saccharolyticus)、スタフィロコッカス・サプロフィチクス(Staphylococcus saprophyticus)、スタフィロコッカス・シュライフェリ(Staphylococcus schleiferi)、スタフィロコッカス・シミランス(Staphylococcus similans)、スタフィロコッカス・ワルネリ(Staphylococcus warneri)、スタフィロコッカス・キシロサス(Staphylococcus xylosus)、ストレプトコッカス・アガラクチア(Streptococcus agalactiae)(B群連鎖球菌)、ストレプトコッカス・アンギノサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis:ウシ連鎖球菌)、ストレプトコッカス・カニス(Streptococcus canis)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi:腺疫菌)、ストレプトコッカス・ミレリ(Streptococcus milleri)、ストレプトコッカス・ミチオール(Streptococcus mitior)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans:ミュータンス菌)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae:肺炎連鎖球菌)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes:化膿レンサ球菌)(A群連鎖球菌)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・サンギス(Streptococcus sanguis:サンギス菌)が挙げられる。
【0052】
本明細書中で使用される「グラム陰性細菌」という用語は、それぞれの細菌細胞を囲む二重膜の存在を特徴とする細菌を表す。代表的なグラム陰性細菌としては、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)、アシネトバクター・バウマンニ、アクチノバチルス・アクチノミセタムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、エロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxidans)、バクテロイデス属、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、バルトネラ・バシリホルミス(Bartonella bacilliformis)、ボルデテラ属、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、ブランハメラ・カタラリス(Branhamella catarrhalis:カタル球菌)、ブルセラ属、カンピロバクター属、カルミヂア・ニューモニエ(Chalmydia pneumoniae)、クラミジア・シッタシ(Chlamydia psittaci)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)、シトロバクター属、エイケネラ・コローデンス(Eikenella corrodens)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、大腸菌、フラボバクテリウム・メニンゴセプチカム(Flavobacterium meningosepticum)、フソバクテリウム属、ヘモフィルス・インフルエンゼ(Haemophilus influenzae)、ヘモフィリス属、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:ピロリ菌)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae:肺炎桿菌)、クレブシエラ属、レジオネラ属、レプトスピラ属、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis:カタル球菌)、モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)、ナイセリア・ゴノレエ(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis:髄膜炎菌)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、プレシオモナス・シゲロイデス(Plesiomonas shigelloides)、プレボテラ属、プロテウス属、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)、緑膿菌、シュードモナス属、リケッチア・プロワゼキイ(Rickettsia prowazekii)、リケッチア・リケッチイ(Rickettsia rickettsii)、ロシャメリア属、サルモネラ属、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi:チフス菌)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、シゲラ属、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei:ソンネ菌)、トレポネーマ・カラテウム(Treponema carateum)、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)、トレポネーマ・パリダム亜種エンデミカム(Treponema pallidum endemicum)、トレポネーマ・ペルテヌエ(Treponema pertenue)、ベイヨネラ属、ビブリオ・コレレ(Vibrio cholerae:コレラ菌)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、エルシニア・ペスチス(Yersinia pestis:ペスト菌)が挙げられる。
【0053】
本明細書中で使用される「真菌」という用語は、キチン質細胞壁の存在と、大部分の種における多細胞菌糸としての糸状成長とを特徴とする従属栄養生物を表す。接着が本発明の方法に従って防止され得る代表的な真菌としては、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・パラプローシス(Candida parapsilosis)及びカンジダ・ドゥブリニエンシス(Candida dubliniensis)が挙げられる。
【0054】
本明細書中で使用される「接着の防止」という語句は、(例えば表面上での成長速度を低減することによる)表面との細胞付着の低減又は排除を表す。好ましくは、本発明の組成物は、細胞接着アッセイによって測定される場合、細胞接着を10%、より好ましくは20%、より好ましくは30%、より好ましくは40%、より好ましくは50%、より好ましくは60%、より好ましくは70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%及び最も好ましくは100%防止する。細胞接着アッセイの例が本明細書中の以下に、及び続く実施例の項に記載されている。本発明の組成物は、細胞凝集を防止することもできる(すなわち表面に細胞凝集しない)と理解される。
【0055】
本発明は、布、繊維、発泡体、フィルム、コンクリート、レンガ、ガラス、金属、プラスチック、ポリマー等を含む、多種多様の表面との細胞接着の防止を意図する。
【0056】
一実施形態によれば、表面は、バイオフィルム形成しやすい装置に含まれる。その表面が本発明で意図されている装置の例としては、船体、自動車表面、飛行機表面、メンブレン、フィルター及び工業設備が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
また表面は、医療装置、医療機器及びインプラントに含まれ得る。かかる医療装置、医療機器及びインプラントの例としては、ヒト等の哺乳生物に一時的に又は永久的に埋め込むことができる任意の物体が挙げられる。本発明に従って使用され得る、代表的な医療装置、医療機器及びインプラントとしては例えば、中心静脈カテーテル、導尿カテーテル、気管内チューブ、機械心臓弁、ペースメーカー、血管グラフト、ステント及び人工関節が挙げられる。医療装置との細胞付着を防止する方法及びそれらのさらなる例は本明細書中の以下に記載されている。
【0058】
言及されるように、本発明の方法は、細胞と表面との接着を防止することができる生物由来の組成物に細胞を接触させることによって達成される。
【0059】
本明細書中で使用される「接触」という用語は、本発明の組成物の中に含まれる活性因子が細胞と表面との接着を防止することができるような方法で、本発明の組成物を接着細胞と直接又は間接的に接触させるように配置させることを表す。したがって本発明は、本発明の組成物を所望の表面に適用すること及び/又は接着細胞に直接適用することの両方を意図する。
【0060】
組成物の表面への接触は、噴霧、散布、湿潤(wetting)、浸潤、浸漬(dipping)、塗工、超音波溶接、溶接、接合(bonding)又は接着(adhering)を含む、当該技術分野で既知の方法のいずれかを使用して達成することができる。本発明の組成物を単層又は多層として付着させてもよい。
【0061】
本発明の他の実施形態によれば、任意で非ペプチド類似体を形成するように上記ペプチドを変更してもよく、これには1つ又は複数の結合をより不安定さが低い結合に置き換えること、環化(以下でより詳細に説明する)等が含まれるが、これらに限定されない。付加的に又は代替的に、任意でペプチドを例えば、引用文献4=PCT出願国際公開第2007/147098号(本明細書中で完全に説明されるように参照により本明細書中に援用される)に記載のように、コンピュータモデリングにより小分子に変換してもよい。
【0062】
任意で保存的置換として及び非保存的置換として本発明によるペプチドにおいてアミノ酸残基を「ペプチド模倣物の有機部分」に置換することができる。これらの部分は「非天然アミノ酸」とも称され、任意でアミノ酸残基、アミノ酸を置き換えるか、又は欠失アミノ酸の代わりにペプチド内でスペーサ基として働くことができる。ペプチド模倣物の有機部分は任意で好ましくは、置き換えられたアミノ酸と同様の立体的特性、電気的特性又は立体配置特性を有し、かかるペプチド模倣物は必須位置でアミノ酸を置き換えるのに使用され、保存的な置換であると考えられる。しかしながら、かかる類似性は必ずしも必要という訳ではない。ペプチド模倣物の使用に関する制限は組成物が少なくとも本発明による天然ペプチドと比較してその生理活性を保持していることだけである。
【0063】
ペプチド模倣物は任意で酵素プロセス又は他の分解プロセスによるペプチドの分解を阻害するのに使用してもよい。任意で好ましくはペプチド模倣物を有機合成技法により産生することができる。好適なペプチド模倣物の非限定的な例としては、対応するLアミノ酸のDアミノ酸、テトラゾール(非特許文献5)、アミド結合の等量式(非特許文献6)、LL−3−アミノ−2−プロペニドン−6−カルボン酸(LL Acp)(非特許文献7)が挙げられる。同様の類似体が非特許文献8、並びに非特許文献9、非特許文献10及び非特許文献11に示されている。他の好適であるが例示的なペプチド模倣物が非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16に示されている。さらなる好適である例示的なペプチド模倣物には、ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシレート(非特許文献17、1,2,3,4−テトラヒドロ−イソキノリン−3−カルボキシレート(非特許文献18)、ヒスチジンイソキノロンカルボン酸(HIC)(非特許文献19)、(2S,3S)−メチルフェニルアラニン、(2S,3R)−メチルフェニルアラニン、(2R,3S)−メチルフェニルアラニン及び(2R,3R)−メチルフェニルアラニン(非特許文献20)が含まれる。
【0064】
例えば例示的であるが、非限定的な非天然アミノ酸には、β−アミノ酸(β3及びβ2)、ホモ−アミノ酸、環状アミノ酸、芳香族アミノ酸、Pro及びPyr誘導体、3−置換アラニン誘導体、グリシン誘導体、環置換Phe及びTyr誘導体、直鎖状コアアミノ酸又はジアミノ酸が含まれる。それらは例えば、Sigma-Aldrich(USA)等の様々な供給業者から利用可能である。
【0065】
本発明では、任意でペプチドの任意の部分を化学修飾してもよい、すなわち官能基の付加により変化させてもよい。化学合成プロセスの後に、例えば化学修飾されたアミノ酸を付加する場合、任意で分子の合成中に修飾を行うことができる。しかしながら、アミノ酸が分子に既に存在する場合のアミノ酸の化学修飾(「in situ」修飾)も可能である。
【0066】
任意で以下の例示的な種類の修飾のうちのいずれか1つに従って、(概念的に「化学修飾された」とみなされたペプチドにおいて)分子の配列領域のうちのいずれかのアミノ酸を修飾することができる。非限定的で例示的な種類の修飾には、カルボキシメチル化、アシル化、リン酸化、グリコシル化又は脂肪酸アシル化が含まれる。任意でセリン又はスレオニンのヒドロキシル基と糖のヒドロキシル基とを連結させるのにエーテル結合を使用することができる。任意でグルタミン酸塩又はアスパラギン酸塩のカルボキシル基と糖のアミノ基とを連結させるのにアミド結合を使用することができる(非特許文献21、非特許文献22)。任意でアセタール結合及びケタール結合をアミノ酸と炭水化物との間に形成することもできる。任意で例えば遊離アミノ基のアシル化により(例えばリシン)、脂肪酸アシル誘導体を生成することができる(非特許文献23)。
【0067】
本明細書中で使用される、本発明によるペプチドに言及する際の「化学修飾」という用語は、プロセシング若しくは他の翻訳後修飾等の自然プロセスにより、又は当該技術分野で既知の化学修飾技法によりそのアミノ酸残基のうちの少なくとも1つが修飾されたペプチドを表す。多くの既知の修飾の例としては典型的にアセチル化、アシル化、アミド化、ADP−リボシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、脂質若しくは脂質誘導体の共有結合、メチル化、ミリスチル化、ペグ化、プレニル化、リン酸化、ユビキチン化又は任意の同様のプロセスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
言及されるように、医療装置及びインプラントは一般的に、埋め込み装置の取り外しが必要になる場合もある、日和見感染細菌及び他の感染性微生物(例えば真菌)に感染する。かかる感染が、病気、長い入院生活又はさらには致死をもたらす可能性もある。それゆえに、バイオフィルム形成、及び医療装置の感染の予防が強く望まれている。
【0069】
このため本発明は、上記の組成物を付着させた医療装置も意図する。
【0070】
本明細書中で使用される「医療装置」という用語は、任意のインプラント、機器、器具、道具、機械、装置、又は任意の他の類似若しくは関連の物体(任意の構成要素又はアクセサリを含む)を表し、これは疾患又は他の状態の診断、治療、治癒又は予防における使用を目的とする。かかる医療装置は、ヒト又は他の動物での使用を目的とし、身体の構造又は任意の機能に影響を与えることが期待される。かかる医療装置は、化学的作用を通じては、その主となる本来の目的を達成せず、またその主となる本来の目的の達成のために代謝が必要という訳ではない(dependent upon)。
【0071】
本明細書中に使用される「インプラント」という用語は、生きている組織ではない、ヒトの身体での配置を目的とする任意の物体を表す。インプラントは一時的又は永久的なものであり得る。インプラントは、人工構成要素を含む物品、例えばカテーテル又はペースメーカーであり得る。インプラントは、それらの生きている組織が失活されるように処理されている天然由来の物体も含み得る。例えば、生きている細胞を取り除く(脱細胞化する(acellularized))が、宿主由来の骨の内部成長のために鋳型として役立つようにそれらの形状を保持するように処理されている骨移植片が挙げられる。別の例としては、天然のサンゴを処理して、或る特定の整形外科療法及び歯科療法のために身体に適用することができるヒドロキシアパタイト製剤を得ることができる。
【0072】
したがって本発明は、移植の後に起こることが知られる、起こり得る任意の細胞凝集及びバイオフィルム形成を低減/排除するように、医療装置との細胞接着を防止するために、医療装置を本発明の組成物でコーティングすることを想定している。装置関連の感染は通常、装置の挿入若しくは移植処置の間の微生物、主に細菌の導入、又は血液伝播性の生物と新たに挿入される装置との付着、及びその後の表面上での生物の増殖により起こる。それにより本発明の組成物による医療装置のコーティングが、1つ又は複数の微生物種のバイオフィルム形成を阻害し、医療装置関連の感染を予防し、結果として抗生物質による治療又は被験体から医療装置を取り外す必要性が減る。
【0073】
本発明の教示に従ってコーティングされ得る医療装置としては、人工血管、カテーテル及び流体の除去又は患者への流体の送達のための他の装置、人工心臓、人工腎臓、整形外科用のピン、人工関節、プレート及びインプラント;カテーテル及び他のチューブ(泌尿器チューブ及び胆管チューブ、気管内チューブ、末梢部に(peripherably)挿入可能な中心静脈カテーテル、透析カテーテル、長期間トンネル型(tunneled)中心静脈カテーテル、末梢静脈内カテーテル、短期間中心静脈カテーテル、動脈カテーテル、肺動脈カテーテル、スワン−ガンツカテーテル、導尿カテーテル、腹膜カテーテルを含む)、尿道装置(長期間尿道装置、組織結合尿道装置、人工尿道括約筋、尿道拡張器を含む)、シャント(心室シャント又は動静脈シャントを含む);プロテーゼ(胸部インプラント、陰茎プロテーゼ、血管移植プロテーゼ、動脈瘤修復装置、機械心臓弁、人工関節、人工喉頭、耳鼻科インプラントを含む)、吻合装置、血管カテーテルポート、血管ステント、クランプ、塞栓装置、創傷ドレインチューブ、接眼レンズ、歯科インプラント、水頭症シャント、ペースメーカー及び埋め込み型除細動器、無針コネクタ、声帯(voice)プロテーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明の組成物の別の可能性のある用途は、医学的及び歯科的環境で見られる表面のコーティングである。かかる表面には、使い捨てか、又は反復使用目的であるかにかかわらず、様々な機器及び装置の内面及び外面が含まれる。かかる表面は、医学的使用に適合した全範囲の物品を含み、この物品としては外科用メス、針、ハサミ、及び侵襲性の外科的、治療的又は診断的処置に使用される他の装置;血液フィルタが挙げられるが、これらに限定されない。他の例がこれらの技術分野における実践者には容易に明らかである。
【0075】
医学的環境に見られる表面には、医療の場で職員が着用する又は職員によって運ばれる医療ギアである医療設備の部品の内面及び外面も含まれる。かかる表面には、医療の場において感染性生物に対する生物学的障壁として意図される表面、例えばグローブ、エプロン及びマスクが含まれ得る。生物学的障壁に一般的に使用される材料は、ポリエチレン、ダクロン、ナイロン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ラテックス、シリコーン及びビニル等の熱可塑性材料又は高分子材料である。他の表面には、医療的処置、又は呼吸器治療(酸素、ネブライザにおける可溶化薬剤及び麻酔薬の投与を含む)に使用される医療機器、医療チューブ及び医療キャニスタを準備するのに使用される領域におけるカウンタトップ及び固定具が含まれ得る。他のかかる表面には、無菌であることを意図しない医療設備又は歯科用設備用のハンドル及びケーブルが含まれ得る。さらにかかる表面には、血液若しくは体液又は他の有害な生体材料が共通して接する(encountered)領域で見出されるチューブ及び他の機器の非無菌の外面が含まれ得る。
【0076】
本発明の組成物は、微生物コロニー形成に対する長期間保護を与えるのに、及び装置関連の感染の発生率を低減するのに、これらの医療装置の表面上又はこれらの医療装置内で使用することができる。これらの組成物を、抗菌剤(例えば抗生物質剤)と組合せて医療装置のためのコーティングに組み込むこともできる。かかる組合せは、この物質が装置−微生物界面に阻止濃度で与えられていれば、初期のコロニー形成細菌を死滅又は阻害させ、かつ装置関連の感染を予防するのに十分である。
【0077】
本発明の組成物を、ポリマー合成段階又は装置製造段階で、医療装置のポリマーマトリクスに直接組み込むことができる。組成物を医療装置ポリマーに共有結合させることもできる。医療装置をコーティングするこれらの及び多くの他の方法は当業者には明らかである。
【0078】
本発明の教示に従って処理することができるさらなる表面には、水精製、水貯蔵及び水送達に関与する物品、並びに食品加工に関与する物品の内面及び外面が含まれる。このため本発明は、その内容物の保存期間を延長するために、食品容器又は飲料容器の固体表面をコーティングすることを想定している。
【0079】
また健康に関連する表面には、栄養摂取、公衆衛生又は疾患予防の提供に関与する家庭用品の内面及び外面が含まれ得る。このため、本発明の組成物は、外面からの疾患を引き起こす微生物の除去に使用することができる。これらとして例えば、家庭用食品加工設備、育児用材料、タンポン、石鹸、洗剤、健康製品及びスキンケア製品、家庭用クリーナー並びに便器が挙げられる。
【0080】
表面は、研究用品であってもよく、顕微鏡スライドガラス、培養フード、ペトリ皿、又は当該技術分野で既知の任意の他の好適な種類の組織培養器又は容器が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
本願の発明者らは、防汚剤としての本発明の組成物の使用も想定している。
【0082】
本明細書中で使用される「防汚剤」という用語は、単細胞生物の付着から水中の表面を保護するのに使用される化合物を表す。これらの単細胞生物としては、細菌及び真菌等の微生物が挙げられる。
【0083】
これらの水中の表面は任意の浸水表面を含み、これには船/ボートの船体(すなわち船又はボートのボディ又はフレーム)、潜水艇、航行援助施設(navigational aids)、スクリーン、網、構造物(constructions)、浮遊する又は据え付けられた海上プラットフォーム(例えばドック)、ブイ、信号設備、及び海水又は塩水に接する物品が含まれる。他の水中の表面は海水に曝された構造体(structures)を含み、これには杭、海洋マーカー、ケーブル及びパイプのような海中伝導装置(conveyances)、漁網、バルクヘッド、冷却塔並びに水中で動作する任意の装置又は構造体が含まれる。
【0084】
本発明の組成物を、不要な海洋汚損を制限するのに海洋コーティングに組み込むことができる。このため、本発明の防汚剤を、毒性材料(例えば重金属)を含有せず、かつそれらの有効性を保持するように配合することができる。本発明の防汚塗布剤はさらに、結合剤(複数可)、顔料(複数可)、溶媒(複数可)及び添加剤(複数可)を含有していてもよい。
【0085】
使用され得る溶媒の例としては、キシレン及びトルエン等の芳香族炭化水素;ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル;N−メチルピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;イソプロピルアルコール及びブチルアルコール等のアルコール;ジオキサン、THF及びジエチルエーテル等のエーテル;並びにメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びメチルイソアミルケトン等のケトンが挙げられる。溶媒を単独又はそれらを組み合わせて使用してもよい。
【0086】
使用され得る結合剤の例としては、アルキド樹脂、アクリル又はビニルエマルション、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル樹脂、無機ケイ酸系樹脂、ビニル樹脂、特に塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー及びロジンが挙げられる。
【0087】
使用され得る顔料の例としては、二酸化チタン、酸化第一銅、酸化鉄、タルク、アルミニウムフレーク、マイカフレーク、酸化第二鉄、チオシアン酸第一銅、酸化亜鉛、酢酸メタヒ酸第二銅、クロム酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)亜鉛及びジエチルジチオカルバミン酸亜鉛が挙げられる。
【0088】
コーティング組成物に組み込まれ得る添加剤の例としては、除湿剤、湿潤/分散剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、乾燥/硬化剤、損傷防止剤(anti-marring agents)、並びに安定剤及び消泡剤としてコーティング組成物に通常用いられる添加剤が挙げられる。さらに、海水に比較的不溶性である任意の抗生物質を防汚海洋塗布剤と共に使用することができる。
【0089】
海洋防汚塗布剤を調製する方法は、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、及び特許文献8で詳細に説明される。
【0090】
本発明の組成物は、化粧品に抗菌特性を与え、製品の品質が損われるのを防止するのに使用することもできる。
【0091】
組成物はさらに、例えば歯磨き粉、口内洗浄液又はチューイングガムに組み込むことにより抗菌効果を口、歯及び歯肉に与えるのに使用することができる。まとめると、本発明の教示は、水生生物及びコケ等の生物から単離した広範な新規の接着防止剤を示している。微生物バイオフィルム形成の初期の弱い段階をもたらす能力と共に、これらの作用因子の広範囲にわたる接着防止(例えばグラム陽性細菌及びグラム陰性細菌の接着を阻害する)効果により、これらの作用因子がバイオフィルム形成防止剤の有力候補となる。さらに、本明細書に記載の接着防止剤はクローン可能であり(clonable)、変更及び大量生産することができる。さらにその安定性(すなわち環境条件に対する耐性)により、これらの作用因子が幅広い用途に好適となる。
【0092】
本発明のさらなる目的、利点及び新規の特徴は、限定を意図しない以下の実施例を検討することで当業者に明らかになる。さらに、上記に詳述され、かつ添付の特許請求の範囲の項で特許請求される本発明の様々な実施形態及び態様のそれぞれは、以下の実施例における実験的裏づけを見出している。
【0093】
一般的に、本明細書中で使用される命名法及び本発明で用いられる検査法としては、分子学的技法、生化学的技法、微生物学的技法及び組み換えDNA技法が挙げられる。かかる技法は文献で完全に説明される。例えば、非特許文献24、非特許文献25、非特許文献26、非特許文献27、非特許文献28、非特許文献29、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、及び特許文献13に記載される方法、非特許文献30、特許文献31、非特許文献32、非特許文献33を参照されたい。利用可能なイムノアッセイが特許文献及び科学文献で広範に記載されており、例えば、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24、特許文献25、特許文献26、特許文献27、特許文献28、及び特許文献29、非特許文献34、非特許文献35、非特許文献36、非特許文献37、非特許文献38、非特許文献39、及び非特許文献40、非特許文献41(それらは全て、本明細書中で完全に説明されるかのように参照により援用される)を参照されたい。他の一般的な参考文献が本明細書を通して与えられる。それらの文献中の処置は、当該技術分野で既知であると考えられ、読者の便宜のために与えられる。それらの文献に含まれる全ての情報は参照により本明細書中に援用される。
【実施例】
【0094】
これより、以下の実施例を参照して、上述の説明と共に、非限定的に本発明を説明する。
【0095】
実施例1:grZ−28Cによる細菌付着の防止
合成ペプチドgrZ−28C[CSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)]により、3つの濃度:50μg/ml、5μg/ml及び0.5μg/mlで緑膿菌付着のおよそ50%の防止が得られた(図1)。この活性は、イソギンチャクの細胞毒素活性領域に基づくペプチドであるAbacZ17Cの活性と同程度であった。陰性対照ペプチドとして使用されたAbac10Cを、活性残基[CMFSVPFDYC(配列番号27)]を用いず、Abac17CのN末端配列に基づき合成した。
【0096】
図2は、試験ペプチドの存在下では成長効果が生じないことを実証している。
【0097】
図3は、緑膿菌でのGPCR 137bのアミノ酸配列に基づき、ペプチドgrZ35 cyc及びgrZ28Cによる接着防止作用を示している。ペプチドgrZ35 cycに関しては、細胞外領域を表す残基259〜292のペプチド配列SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNQLGDAGYV(配列番号6)を、C末端及びN末端での2つのシステイン、並びにS−S架橋と共に合成した。ペプチドgrZ28Cに関しては、細胞外領域を表す残基259〜284のペプチド配列SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)を、C末端及びN末端での2つのシステインと共に合成した。
【0098】
図4は、緑膿菌の成長に対するペプチドgrZ35 cyc及びペプチドgrZ28Cの効果を示し、これにより細菌の成長が阻害されていないことが示された。この結果は、本発明のペプチドは細菌の成長阻害をほとんど又は全く示さないことが望ましいため、重要である。
【0099】
本発明は限られた数の実施形態に関して説明しているが、本発明の多くの変形形態、変更形態及び他の適用形態を構築することができることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FDYDWY(配列番号2)、SFDYDWY(配列番号7)、SFDYDWYN(配列番号8)、HSFDYDWYN(配列番号9)、HSFDYDWYNV(配列番号10)、VHSFDYDWYNV(配列番号11)、VHSFDYDWYNVS(配列番号12)、SVHSFDYDWYNVS(配列番号13)、SVHSFDYDWYNVSD(配列番号14)、KSVHSFDYDWYNVSD(配列番号15)、KSVHSFDYDWYNVSDQ(配列番号16)、NKSVHSFDYDWYNVSDQ(配列番号17)、NKSVHSFDYDWYNVSDQA(配列番号18)、QNKSVHSFDYDWYNVSDQA(配列番号19)、QNKSVHSFDYDWYNVSDQAD(配列番号20)、SQNKSVHSFDYDWYNVSDQAD(配列番号21)、SQNKSVHSFDYDWYNVSDQADL(配列番号22)、FSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADL(配列番号23)、FSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLK(配列番号24)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLK(配列番号25)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)、CSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号26)、CSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)
及びFNFDWY、又はそれらの組合せからなる群から選択される配列を有することを特徴とするペプチド。
【請求項2】
動物源から単離されたペプチドを含む組成物であって、該ペプチドが、FDYDWY(配列番号2)、SFDYDWY(配列番号7)、SFDYDWYN(配列番号8)、HSFDYDWYN(配列番号9)、HSFDYDWYNV(配列番号10)、VHSFDYDWYNV(配列番号11)、VHSFDYDWYNVS(配列番号12)、SVHSFDYDWYNVS(配列番号13)、SVHSFDYDWYNVSD(配列番号14)、KSVHSFDYDWYNVSD(配列番号15)、KSVHSFDYDWYNVSDQ(配列番号16)、NKSVHSFDYDWYNVSDQ(配列番号17)、NKSVHSFDYDWYNVSDQA(配列番号18)、QNKSVHSFDYDWYNVSDQA(配列番号19)、QNKSVHSFDYDWYNVSDQAD(配列番号20)、SQNKSVHSFDYDWYNVSDQAD(配列番号21)、SQNKSVHSFDYDWYNVSDQADL(配列番号22)、FSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADL(配列番号23)、FSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLK(配列番号24)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLK(配列番号25)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)、CSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号26)、CSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)及びFNFDWY(配列番号5)、又はそれらの組合せからなる群から選択される配列を含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
表面への単細胞生物の接着を防止する方法であって、該細胞を動物源から単離されたペプチドを含む組成物に接触させることを含み、該ペプチドがFDYDWY(配列番号2)、SFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKN(配列番号3)又はCSFSQNKSVHSFDYDWYNVSDQADLKNC(配列番号1)からなる群から選択される配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド、組成物又は方法において、前記ペプチドが細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性を欠いていることを特徴とするペプチド、組成物又は方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチド、組成物又は方法において、前記ペプチドが凍結乾燥に耐性があることを特徴とするペプチド、組成物又は方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のペプチド、組成物又は方法において、前記ペプチドが細胞の凝集を阻害することがさらに可能であることを特徴とするペプチド、組成物又は方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法において、前記単細胞生物がバイオフィルム中に含まれていることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項3に記載の方法において、前記単細胞生物が細菌、真菌、原生動物及び古細菌からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記真菌が酵母を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項3に記載の方法において、前記表面が、布、繊維、発泡体、フィルム、コンクリート、レンガ、ガラス、金属及びプラスチックからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項3に記載の方法において、前記動物が脊椎動物であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記動物が、魚類、両生類、鳥類、爬虫類及び哺乳類からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記哺乳類がヒトであることを特徴とする方法。
【請求項14】
付着した請求項1に記載のペプチド又は請求項2に記載の組成物を含むことを特徴とする医療装置。
【請求項15】
請求項14に記載の医療装置において、前記医療装置が体内装置であることを特徴とする医療装置。
【請求項16】
請求項15に記載の医療装置において、前記医療装置が体外装置であることを特徴とする医療装置。
【請求項17】
バイオフィルム形成又はフィルターの汚損を防止又は低減するために、水を処理する方法であって、前記ペプチド、又は本明細書中の組成物のいずれかにより該水を処理することを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
流体媒体中でバイオフィルム形成を防止又は低減する方法であって、前記ペプチド、又は本明細書中の組成物のいずれかにより該流体媒体を処理することを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の方法において、前記処理水又は前記処理流体媒体を逆浸透フィルターに適用することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−513979(P2012−513979A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542917(P2011−542917)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/IB2009/007896
【国際公開番号】WO2010/076642
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(511067950)テル ハショメール メディカル リサーチ,インフラストラクチャ アンド サービシーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】