説明

細胞接着性光制御基材

【課題】細胞を生きたまま解析し、分別し、培養するに当たって、より簡便に、リアルタイムに作業ができ、培養細胞から不要細胞を除去・純化させながら培養できるようにする。また、培養細胞から所望の細胞を解析分別し、その細胞の純度、回収率、バイアビリティーを高める。
【解決手段】光照射によりO−ニトロベンジル骨格を含む光解離性基が結合解離して、照射された部分の表面が細胞接着性材料から細胞非接着性材料に非可逆的に変化する細胞接着性光制御基材を用いる。細胞像を検出,解析し、所望の細胞の位置情報を得る。本情報に基づき、第2の光照射により細胞/細胞間及び細胞接着性光制御材料を切断する。一方、第1の光照射により該基材の表面を細胞接着性から細胞非接着性に変化させ、細胞/該基材間の剥離を生じさせる。これにより細胞を生きたまま解析し、分別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再生医療や幹細胞研究分野に係わり、特に細胞の解析分別・培養技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野においては、体細胞中に含まれる極僅かな体性幹細胞や前駆細胞を同定,単離し、ここから培養して体細胞を作製する作業が行われている。また、体性幹細胞のソースとしてiPS細胞やES細胞からの分化誘導により体性幹細胞や体細胞へと培養する試みがなされている。しかしながら、これらiPS細胞やES細胞は均一なものではなく、また、そこから分化誘導される細胞も均一なものではない。様々な細胞が生じてくる。再生医療に供する細胞または組織には、体細胞としての均一性や体性幹細胞を含むこと、また、がん細胞やがん幹細胞,iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞を含まないことが要求される。
【0003】
このように再生医療の分野では、細胞を解析し、分別し、培養する技術はますます重要性を増している。複数種類からなる細胞群を分別するためにはそれを識別する解析技術が必要である。更には識別した複数種類からなる細胞群から単一種類の細胞に分別しなければ、単一種類の細胞の分子生物学的性質や細胞生物学的性質を解析することはできない。これらのことができるようになって初めて分化誘導を厳密にコントロールすることができるようになってくる。更には、100%の分化誘導効率にならなくとも不要な細胞を除去する技術が必要になる。
【0004】
細胞を生きたまま解析する装置としては、周知の光学顕微鏡や蛍光標識された細胞を観察する蛍光顕微鏡,蛍光イメージング装置などがあるが、これらの装置は細胞を分別することはできない。一方、細胞を生きたまま分別する装置としては、細胞表面の抗原と磁気ビーズに付与した抗体との抗原抗体反応により目的の細胞を分別収集する装置があるが、この装置は細胞を解析することはできず、また、純度や回収率などに課題がある。細胞を分別する装置としてレーザマイクロダイセクション装置もあるが、これは主にパラフィン包埋された死細胞切片からの単離に使われている。
【0005】
細胞を生きたまま解析し、分別する装置としては、周知のフローサイトメーターとソーティング装置がある。この装置はシース流に乗せたサンプル流中の細胞1つ1つにレーザ光を当て、散乱光や蛍光を観察することで細胞を解析・識別し、その情報をもとに細胞一つ一つを含む液滴に電荷を与え、電場を掛けて分別する装置である。多色のレーザ光を照射することで多くの蛍光マーカーを解析することができるが、蛍光補正や光軸調整が煩雑である。また、予め細胞塊を個々の細胞に分離するためにトリプシン処理などを行うと細胞に少なからずダメージを与える。更にはソーティングされた細胞は純度や回収率は高いが、ソーティングの際の衝撃によりバイアビリティーが低下するなどの課題がある。また、この装置で処理するためには一旦培養基材から細胞を取り出さなければならない。
【0006】
細胞を生きたまま解析し、分別し、培養する技術としては、特許文献1に記載の方法がある。この技術は、光照射によってその物性が変化する光応答性材料を成膜した細胞培養基材を用い、モニターにより培養された細胞を識別し、所望の細胞の位置を特定し、所望の細胞位置へ光パターン照射し、所望の細胞を培養基材から剥離するための装置に係わるものである。ここで記載されている「光照射によってその物性が変化する光応答性材料」は、光照射により構造が異性化し、その分極率,親水−疎水性が変化して、細胞を培養基材から剥離する機能を有するものを挙げており、特にこれらの物性変化は可逆的であることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3975266号公報
【特許文献2】特許第3472723号公報
【特許文献3】特開2004−170930号公報
【特許文献4】特開2008−167695号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】石原一彦、生体材料、18(1), 33(2000).
【非特許文献2】Y. Arima et al., J. Meter. Chem., 17, 4079(2007).
【非特許文献3】Y. Arima et al., Biomaterials 28, 3074(2007).
【非特許文献4】M. N. Yousaf et al., PNAS 98(11), 5992(2001).
【非特許文献5】古田寿昭、光学、34(4), 213(2005).
【非特許文献6】J. Edahiro et al., Biomacromolecules, 6(2), 970(2005).
【非特許文献7】J. Nakanishi et al., Analytical Sciences, 24, 67 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の特許第3975266号公報に記載のある光照射によってその物性が変化する光応答性材料として、光により可逆的に構造変化する材料は、2つの異性体の片方に100%持っていくことは困難であり、それは細胞接着性の選択性低下を招く。また、実施例にあるような長波長の光で反応する材料は、例えば、蛍光観察用の励起光に反応し、接着性が変化することになる。更には、当該技術では細胞を培養基材から剥離できても、細胞間の接着を剥離することは考慮されていない。従って、培養基材中に存在する孤立した細胞あるいは細胞塊を丸ごと剥離することになり、接着している複数種類の細胞からなる細胞塊を単一細胞に分別することはできないという課題が残る。
【0010】
本発明は以上の従来技術に鑑み、細胞を生きたまま解析し、分別し、培養するための細胞接着性光制御基材を提供するものである。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、細胞を生きたまま解析し、分別し、培養するに当たって、より簡便に、リアルタイムに作業ができ、培養細胞から不要細胞を除去・純化させながら培養できるようにすることであり、また、培養細胞から所望の細胞を解析分別し、その細胞の純度,回収率、バイアビリティーを従来以上に高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では上記従来技術の課題を解決するために以下の手段を取った。
つまり、本発明の細胞接着性光制御基材は、細胞非接着性材料に光解離性基を介して細胞接着性材料を結合した細胞接着性光制御材料を基材に成膜してなる。
【0013】
また、本発明の細胞接着性光制御基材は、光照射により光解離性基が結合解離して、細胞接着性材料が離脱し、細胞非接着性材料が残るものである。
【0014】
また、本発明の細胞接着性光制御基材は、光照射により光解離性基が結合解離して、照射された部分の表面が細胞接着性材料から細胞非接着性材料に非可逆的に変化するものである。
【0015】
また、本発明の細胞接着性光制御基材を用いた細胞の解析分別方法は、以下の工程を含む。
【0016】
細胞非接着性材料に光解離性基を介して細胞接着性材料を結合した細胞接着性光制御材料を基材に成膜してなる細胞接着性光制御基材、あるいは光照射により光解離性基が結合解離して、細胞接着性材料が離脱し、細胞非接着性材料が残ることを特徴とする細胞接着性光制御基材、あるいは光照射により光解離性基が結合解離して、照射された部分の表面が細胞接着性材料から細胞非接着性材料に非可逆的に変化することを特徴とする細胞接着性光制御基材に細胞を播種,培養する工程。
【0017】
所望の細胞領域への第1の光照射により所望の細胞を基材から剥離回収する工程。
また、本発明の細胞接着性光制御基材を用いた細胞の解析分別方法は、以下の工程を含む。
【0018】
細胞非接着性材料に光解離性基を介して細胞接着性材料を結合した細胞接着性光制御材料を基材に成膜してなる細胞接着性光制御基材、あるいは光照射により光解離性基が結合解離して、細胞接着性材料が離脱し、細胞非接着性材料が残ることを特徴とする細胞接着性光制御基材、あるいは光照射により光解離性基が結合解離して、照射された部分の表面が細胞接着性材料から細胞非接着性材料に非可逆的に変化することを特徴とする細胞接着性光制御基材に第1の光照射をし、細胞接着領域と細胞非接着領域を設ける工程。
【0019】
また、本発明の細胞接着性光制御基材を用いた細胞の解析分別装置は、細胞非接着性材料に光解離性基を介して細胞接着性材料を結合した細胞接着性光制御材料を基材に成膜してなる細胞接着性光制御基材、あるいは光照射により光解離性基が結合解離して、細胞接着性材料が離脱し、細胞非接着性材料が残ることを特徴とする細胞接着性光制御基材、あるいは光照射により光解離性基が結合解離して、照射された部分の表面が細胞接着性材料から細胞非接着性材料に非可逆的に変化することを特徴とする細胞接着性光制御基材と、
基材上の細胞接着性光制御材料を光反応させるための第1の光照射手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0020】
細胞を生きたまま解析し、分別し、培養するに当たって、より簡便に、リアルタイムに作業ができ、培養細胞から不要細胞を除去・純化させながら培養できるようになる。また、培養細胞から所望の細胞を解析分別し、その細胞の純度、回収率、バイアビリティーを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】培養中の細胞を解析し、所望の細胞を分別する方法(1)を示す図である。
【図2】個々に分離された細胞を解析し、所望の細胞を分別する方法(2)を示す図である。
【図3】個々に分離された細胞を解析し、所望の細胞を分別する方法(3)を示す図である。
【図4】式(14)で表されるメタクリル酸エステルモノマーのH−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】式(14)で表されるメタクリル酸エステルモノマーのIRスペクトルを示す図である。
【図6】式(15)で表されるメタクリル酸エステル3元共重合体のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】式(15)で表されるメタクリル酸エステル3元共重合体のIRスペクトルを示す図である。
【図8】HELA細胞の接着と光照射による脱着を細胞数により示す図である。
【図9】HELA細胞の通常の細胞と光照射により脱着した細胞の増殖能比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の一実施の形態は、細胞非接着性材料に光解離性基を介して細胞接着性材料を結合した細胞接着性光制御材料を基材に成膜してなる細胞接着性光制御基材である。この細胞接着性光制御材料は、光照射により光解離性基が結合解離し、細胞接着性材料を基材から離脱させることができる。光結合解離は細胞非接着性材料と光解離性基の間または光解離性基と細胞接着性材料の間のどちらにおいて生じても良い。光照射により、細胞非接着性材料を基材に残す。この非可逆的光解離反応により細胞接着性から細胞非接着性へと効率よく変化させることができ、接着選択性を良くすることができる。
【0024】
上記の細胞接着性光制御基材を用いることにより、特定の細胞の解析分別を行うことができる。ここで、解析分別とは細胞を解析し、他の細胞と分別することをいう。
【0025】
細胞非接着性材料としては、細胞膜と類似の構造を持ち、生体適合性のあるホスホリルコリン基を有する材料が挙げられる。細胞非接着性材料は、例えば、下記一般式(1)で表されるホスホリルコリン基を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体である。
【0026】
【化1】

式中R1は水素又はメチル基を表し、nは1〜20の数を表す。
【0027】
また、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル重合体も細胞非接着性材料として使用できる。
【0028】
【化2】

式中、R1は一般式(1)と同じであり、R2は1〜20のアルキレン基又は1〜20のポリオキシエチレン基を表す。
【0029】
細胞非接着性材料として、上記一般式(1)と(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル重合体の共重合体であっても良い。更には、細胞非接着性材料として、下記一般式(3)で表されるアルコキシシランも使用することができる。
【0030】
【化3】

式中、R2は一般式(2)と同じであり、R3は水素又はアルキル基を表す。
【0031】
細胞接着性材料としては、末端に細胞接着性基を有する材料が挙げられる。細胞接着性基としては、下記一般式(4)で表わされる基が挙げられる。
【0032】
【化4】

式中Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基,アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基,アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基、又は核酸基を表す。
【0033】
一般式(4)の細胞接着性基Xを変えることにより様々な細胞に対する接着性のバリエーションを得ることができる。更に、該細胞接着性材料は、上記一般式(4)で表わされる基に、細胞との接着を促す細胞外マトリックスや細胞の表面抗原と結合し得る抗体及び該抗体を結合させるためのタンパク質などを結合又は接着させた材料も含む。細胞外マトリックスとしてはコラーゲン群,非コラーゲン性糖タンパク質群(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ニドジェン、テネイノシン、トロンボスポンジ、フォンビルブランド、オステオポンチン、フィブリノーゲンなど)、エラスチン群、プロテオグリカン群などである。抗体を結合させるタンパク質としては、アビジン/ビオチン、プロテインAやプロテインGなどがある。また、アビジン/ビオチン系を用いて抗体を結合させることもできる。
【0034】
光解離性基は特定の波長の光に反応し、解離し得る。光解離性基の光反応波長は、細胞毒性を示さない360nm以上で、かつ、光学顕微鏡観察用入射光や蛍光観察用励起光波長よりも短波長とする必要がある。これにより、細胞観察時に細胞観察用の光により細胞の接着性の変化を起こさなくできる。このような光解離性基としては、O−ニトロベンジル基やヒドロキシフェナシル基,クマリニルメチル基などが挙げられるが、特に、下記2価の一般式(5)で表わされるO−ニトロベンジル骨格を含むものが好適に使用できる。
【0035】
【化5】

ここで、式中、R4としては水素,ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基、アミノ基などを、R5及びR6としてはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基、ビニルオキシ基などを使うことができる。尚、m位、p位の相互の位置関係は変えても良い。更には、ベンゼン環をナフタレン環にすることもできる。
【0036】
光解離性基と細胞接着性材料は、一般式(4)で表される細胞接着性基と一般式(5)で表される光解離性基を、ベンゼン骨格の位置又はベンジル位で直接又は間接的に結合した構造を有する。光解離はベンジル位で起こる。例えば、ベンゼン骨格の位置で結合させる場合には、下記一般式(6)で表されるように、二価の連結基Rを介して結合すればよい。
【0037】
【化6】

ここで、R4、R5及びR6は、一般式(5)と同じである。
【0038】
2価の連結基R7としては、O(CH2)m、O(CH2CH2O)m、OCO(CH2)m、OCOCH2O(CH2CH2O)m(mは0〜20の整数)などが利用できるが、R7は光解離性基と細胞接着性基とを結合させる作用のみを有する。また、光解離性基の向きを逆にすれば、光解離性基と細胞接着性基の間で光解離させることができる。例えば、ベンジル位で2価の連結基Rで結合した構造である下記一般式(7)で表わされる構造を挙げることができる。
【0039】
【化7】

ここで、R4、R5及びR6は、一般式(5)と同じである。
【0040】
2価の連結基Rとしては、O、OCO、NH、OCONH,NHCO、Sなどが利用できるが、Rは光解離性基と細胞接着性基とを結合させる作用のみを有する。
【0041】
上記のような細胞接着性材料と光解離性基を結合した構造は細胞非接着性材料に直接又は間接に結合させる。
【0042】
例えば、下記一般式(8)又は(9)で表わされる(メタ)アクリル酸エステル重合体の形にして、細胞非接着性材料の中に組み込むことができる。
【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

ここで、R1、R4、R5、R6、R7及びR8は上記のとおりである。R及びR10は2価の連結基を表し、O、CO、CONH、CO(CHCHO)、CO(CHCHO、CONH(CHCHO)、CONH(CHCHO(mは1〜20の整数)などが利用できるが、R及びR10は細胞接着性材料と光解離性基が結合した構造を細胞非接着性材料に連結させる作用のみを有する。
【0045】
本発明の細胞接着性基と光解離性基が結合した構造を細胞非接着性材料に結合させた材料としては、例えば、上記一般式(1)及び(8);上記一般式(1)及び(9);上記一般式(1)、(2)及び(8);上記一般式(1)、(2)及び(9)で表される(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を挙げることができる。共重合体とすることで、細胞接着性材料と細胞非接着性材料の比率を任意に変えることができ、比率の変化により様々な細胞に対する接着性のバリエーションを与えることになる。また、これらの重合体の側鎖にアルコキシシランを含む(メタ)アクリル酸エステルを共重合すると、基材との接着性をより高めることができる。
【0046】
これらの系は共重合体の形を取っているが、単独の重合体としての形のものも用いることができる。例えば、上記一般式(8)又は(9)で表わされる構造を有するものを単独で用いても良い。これらの細胞接着性基と光解離性基が結合した構造を細胞非接着性材料に結合させた材料を基材上に成膜することにより細胞接着性光制御基材を製造することができる。
【0047】
また、下記一般式(10)又は(11)で表されるアルコキシシランの形にして、シランカップリングにより基材上に成膜した後、下記一般式(12)又は(13)で表わされる細胞接着性基Xを導入した構造を有する化合物が結合した細胞接着性光制御基材を作ることもできる。このような工程により製造することで、細胞接着性基Xを予め導入することによるアルコキシシランの加水分解を防ぐことができる。一般式(10)及び一般式(11)で表される化合物は、R7及びR8にマレイミド基が結合しているが、マレイミド基の部分を上記一般式(4)で表される-Xに変換することができる。
【0048】
【化10】

【0049】
【化11】

【0050】
【化12】

【0051】
【化13】

【0052】
これらの場合も細胞接着性材料は細胞との接着を促す細胞外マトリックスや細胞の表面抗原と結合する抗体及び該抗体を結合させるためのタンパク質などを結合又は接着させた材料も含む。
【0053】
これらの細胞接着性光制御材料を成膜する基材としては、透明なプラスチック製培養容器などを使うこともできるが、光学的な性能や耐久性から、好適には透明なガラス製培養容器を使うことができる。
【0054】
次に本細胞接着性光制御基材を用いて細胞を解析分別する方法を図にて詳細を説明する。
【0055】
図1は本発明の細胞接着性光制御基材を用いた細胞の解析分別方法の一態様を示したものである。該方法は、(1)、(2)、(3)、(4a)若しくは(5a)の工程からなるか、又は(1)、(2)、(3)、(4b)若しくは(5b)の工程からなる。図1において、各工程は左右の図のセットで示されており、左側図は右側図の1点鎖線で示す部分の断面図である。工程の説明は以下のとおりである。(1)ガラス製培養容器(透明基材)1に成膜した細胞接着性の細胞接着性光制御材料2上に細胞3を播種、培養する。(2)顕微鏡観察(透過像、位相差像、微分干渉像などを含む)、蛍光観察、散乱光観察、ラマン光観察などにより細胞像を検出し、細胞の特徴量を抽出した後、(3)所望の細胞を同定するとともに該細胞の位置情報を得る。所望の細胞とは、解析分別すべき必要な細胞も不必要な細胞も含む。この際、細胞を蛍光マーカーなどにより標識するが、蛍光マーカー標識などは培養の前でも後でも良い。(4a)本態様の例では、(3)に示す細胞4は不要な細胞であり、それ以外の細胞3は必要な細胞である。細胞3と細胞4の境界の細胞4側周辺及び細胞接着性光制御材料6を、第2の光照射5を行い、切断する。この結果、(4a)に矩形で示す部分の細胞4が破壊される。このときの第2の光照射5としてはレーザ光を好適に用いることができる。(5a)細胞4が存在する基材上の面積が広い場合は、細胞4が存在する領域8に対して第1の光照射7を行い、細胞接着性光制御材料2を細胞非接着性に変化させ、残りの細胞4をガラス製培養容器1から剥離し、培養液と共に回収する。細胞4の存在する基材上の面積が狭い場合はすべての細胞4及び細胞接着性光制御材料8に対して第2の光照射5を行うことにより切断・破壊してもよい。その後培養を続け、逐次不要細胞4を除去することで純化しながら基材上に残った細胞3の培養を続けることができる。
【0056】
一方、図1の工程(4b)は、解析のために細胞4を分別・単離したい場合(細胞4が必要な場合)の工程である。細胞3と細胞4の境界の細胞3側周辺及び細胞接着性光制御材料6に対して第2の光照射5を行い、切断する。
【0057】
第2の光照射5としてはレーザ光を好適に用いることができる。その後、(5b)細胞4が存在する基材上の領域8に対して第1の光照射7を行い、細胞接着性光制御材料2を細胞非接着性に変化させ、細胞4をガラス製培養容器1から剥離,培養液と共に回収する。回収した分別細胞は生きたまま解析することができる。
【0058】
図2は本発明の細胞接着性光制御基材を用いた細胞の解析分別方法の別の一態様を示したものである。該方法は、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び(6)の工程からなる。図2において、各工程は左右の図のセットで示されており、左側図は右側図の1点鎖線で示す部分の断面図である。(1)ガラス製培養容器1に成膜した細胞接着性の細胞接着性光制御材料に対して、図に示すように第1の光照射7を行い、細胞接着領域69と細胞非接着領域8を設ける。細胞接着領域69と細胞非接着領域8は光の照射パターンを変えることにより任意のパターンに設定できる。図2に示す例では、細胞接着領域69を細胞1個分の面積として格子状に並べた。つまり、細胞接着領域69が格子状に並ぶように第1の光照射7を行った。この際、細胞接着領域を同定できるように、アドレスを割り当てることが望ましい。
【0059】
(2)次いで、既に培養された細胞塊をトリプシンなどの処理により個々の細胞に分離し、基材上に播種する。(3)顕微鏡観察(透過像、位相差像、微分干渉像などを含む)、蛍光観察、散乱光観察、ラマン光観察などにより細胞像を検出し、細胞の特徴量を抽出した後、(4)所望の細胞を同定するとともに該細胞の位置情報を得る。所望の細胞とは、解析分別すべき必要な細胞も不必要な細胞も含む。この際、細胞を蛍光マーカーなどにより標識するが、蛍光マーカー標識などは播種の前でも後でも良い。図2に示す例では、細胞3の他に別の細胞(例えば細胞4及び細胞9)が存在したとする。(5)すべてのアドレス(細胞接着領域69)に細胞が接着していない場合には、細胞が接着していないアドレスの領域に対して第1の光照射7を行い細胞非接着性にする(図に示す参照符号10の領域)。(6)次いで、所望の細胞、ここでは細胞4が存在する領域11に対して第1の光照射7を行い、細胞4をガラス製培養容器1から剥離し、培養液と共に回収する。この(6)の工程を逐次繰り返すことで、さらに細胞3及び9を分別単離することができる。
【0060】
図3は本発明の細胞接着性光制御基材を用いた細胞の解析分別方法の更に別の一態様を示したものである。該方法は、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び(6)の工程からなる。図3において、各工程は左右の図のセットで示されており、左側図は右側図の1点鎖線で示す部分の断面図である。(1)ガラス製培養容器1に成膜した細胞接着性の細胞接着性光制御材料2に対して、所定の間隔を空けて、行方向及び列方向に第2の光照射(例えばレーザ光による光照射)5を行い、隣接する細胞接着性光制御材料を切断する(図3において、切断線は符号6で示される)。また、所定の位置に対して第1の光照射7を行い、細胞接着領域69と細胞非接着領域8を設ける。この際、細胞接着領域を同定できるように、アドレスを割り当てることが望ましい。
【0061】
細胞接着領域69と細胞非接着領域8は光の照射パターンを変えることにより任意のパターンに設定できるが、ここでは細胞接着領域69を細胞1個分の面積として格子状に並べた。(2)次いで、既に培養された細胞塊をトリプシンなどの処理により個々の細胞に分離し、基材上に播種する。(3)顕微鏡観察(透過像、位相差像、微分干渉像などを含む)、蛍光観察、散乱光観察、ラマン光観察などにより細胞像を検出し、細胞の特徴量を抽出した後、(4)所望の細胞を同定するとともに該細胞の位置情報を得る。所望の細胞とは、解析分別すべき必要な細胞も不必要な細胞も含む。この際、細胞を蛍光マーカーなどにより標識するが、蛍光マーカー標識などは播種の前でも後でも良い。図3に示す例では、細胞3の他に細胞4及び細胞9が存在したとする。
【0062】
(5)すべての細胞接着領域(アドレス)69に細胞が接着していない場合には、細胞が接着していないアドレス10の領域に対して第1の光照射7を行い細胞非接着性にする。(6)次いで、所望の細胞、ここでは細胞4が存在する領域11に対して第1の光照射7を行い、細胞4をガラス製培養容器1から剥離し、培養液と共に回収する。この(6)の工程を逐次繰り返すことで、さらに細胞3及び9を分別単離することができる。図2との違いは、図2に示す方法では、細胞接着性材料の上層に細胞外マトリックスやフィーダー細胞のような繊維状あるいは膜状物質がある場合、第1の光照射7だけでは細胞接着性材料が領域毎に切断されないが、図3に示す方法では、第2の光照射5を行うことにより領域間を切断することにある。
【0063】
本発明の細胞接着性光制御基材(例えば、細胞接着性光制御材料を透明基材上に成膜したもの)を用いた細胞の解析分別方法を実施する装置は少なくとも以下の(1)、(2)、(3)、(4)、(6)及び(7)を備えている。
(1)該細胞接着性光制御基材
(2)該基材を載せるステージ
(3)細胞像を取得する光学検出手段
(4)細胞像から位置情報を得る手段
(5)細胞間及び細胞接着性光制御材料を切断又は破壊するための第2の光照射手段
(6)該基材上の細胞接着性光制御材料を光反応させ、細胞非接着性に変化させるための第1の光照射手段
(7)各手段の動作を制御する手段
上記(3)の細胞像を取得する光学検出手段は周知の光学系を用いることができる。細胞像を取得する際は、細胞接着性光制御材料の光解離性基に影響を与えない波長の光を照射して行う。例えば、光源として、広域の発光スペクトルが得られるランプ又はLEDを用い、少なくとも光反応波長以下の波長の光を除去するための短波長カットフィルターを通して光照射し、透過光,反射光などをCCDなどの2次元センサで検出する。細胞からの蛍光像の場合、励起光として、光反応波長より長波長帯の光で、目的の蛍光色素の吸収波長帯の光をバンドパス干渉フィルターなどで分光して照射する。前記波長帯のレーザ光を使うこともできる。蛍光は励起光カットフィルター,蛍光波長透過フィルター(バンドパス干渉フィルターなど)などの波長フィルターを通して、CCDなどの2次元センサで検出する。励起光を細く絞り、2次元に走査する方式にすれば、光電子増倍管で蛍光像を計測することも可能である。複数の波長フィルターを切り替えて測定すれば、複数の蛍光波長の蛍光像を得ることができ、複数の蛍光体に対応することができる。プリズム、回折格子などの分散素子を通し、ラインセンサなどで検出すれば、より細かな波長スペクトル像を得ることもできる。
【0064】
上記(5)の第2の照射手段は、光源に赤外レーザまたは紫外レーザを用い、上記(4)の手段により得られた位置情報をもとにレーザ走査によって実施することができる。レーザ走査の際にはXY偏向器を用い、目的の位置に光照射する。また、上記(4)の手段により得られた位置情報を反映したフォトマスクを通して一括光パターン照射することもできる。その場合、実験の度に固定したフォトマスクを作成することがないよう、パターンジェネレーターとして空間光変調デバイスを通して基材上にレーザを集光する光学系が好適である。空間光変調デバイスとしては反射型又は透過型空間光変調デバイスを用いることができる。反射型空間光変調デバイスとしてはデジタルミラーデバイスを使うことができ、また、透過型空間光変調デバイスとしては液晶空間光変調デバイスを使うことができる。ここで、デジタルミラーデバイスや液晶空間光変調デバイスは使えるレーザ波長が主として可視光から近赤外光領域である。従って、レーザ光源として水の吸収の強い近赤外レーザを使うことができる。また、紫外領域に波長を設定する場合には可視から近赤外レーザ光を空間光変調デバイスを通した後、非線形結晶や強誘電体結晶などの波長変換デバイスを通して、波長が1/2、1/3になる第二高調波,第三高調波を使えばよい。
【0065】
上記(6)の第1の光照射手段は、光源に細胞接着性光制御材料の光反応波長を用いる。広域の発光スペクトルが得られるランプ又はLEDなどを用い、波長フィルターで360nm以下の波長の光、場合によっては蛍光励起波長以上の波長の光をカットするか、あるいは、光反応波長のレーザを使うことができる。上記(4)の手段により得られた位置情報をもとに、XY偏向器を用いて光走査し、目的の位置に光照射するか、あるいは、上記(4)の手段により得られた位置情報を反映したフォトマスクを通して一括光パターン照射することもできる。その場合、実験の度に固定したフォトマスクを作成することがないよう、パターンジェネレーターとして空間光変調デバイスを通して基材上に集光する光学系が好適である。空間光変調デバイスとしては反射型又は透過型空間光変調デバイスを用いることができる。反射型空間光変調デバイスとしてはデジタルミラーデバイス、また、透過型空間光変調デバイスとしては液晶空間光変調デバイスを使うことができる。
【0066】
上記(3)、(5)及び(6)の光学系はできる限り共通の部品を用いることが望ましい。
【0067】
以下、本発明の一態様としての原理検証のための実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
[実施例1]
式(14)で表されるメタクリル酸エステルモノマーの合成
【化14】

【0069】
0.3gのヒドロキシエチルフォトリンカーを2.56gの塩化メチレン、0.3gのトリエチルアミンに溶解した。混合液はアルゴンガスにより10分間脱気処理した。つづいて0.52gのメタクリル酸クロリドを0℃条件下にて添加し、室温で一昼夜攪拌した。反応溶液は5%炭酸ナトリウム水溶液、希塩酸、および蒸留水の順で洗浄した。減圧操作により揮発性成分を蒸発させた。得られた液体を50%アセトン溶液に再溶解した。混合溶液は室温で一昼夜攪拌し、光解離性モノマ−は塩化メチレン用いて抽出した。抽出した塩化メチレン層は、希塩酸および蒸留水の順で洗浄した。得られた化合物を真空乾燥した後、凍結乾燥した。上記の操作は全て遮光状態で実施した。H−NMRスペクトルおよびIRスペクトルをそれぞれ図4および図5に示す。
【0070】
式(15)で表されるメタクリル酸エステル3元共重合体の合成
【化15】

【0071】
メタクリル酸エステル3元共重合体は2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)を用いてラジカル重合反応により合成した。それぞれのモノマー(25:50:25モル%)およびAIBNの混合物を重合管に投入し、モノマ−濃度が0.38Mとなるようにジオキサン/エチルアルコール=1/1(v/v)の混合溶媒に溶かした。アルゴンガスを用いて10分間脱気処理後,封管した。重合管を60℃に設定したオイル浴中に投入し、48時間反応させた。反応後に室温まで冷却し、ジエチルエーテル/クロロホルム=6/4(v/v)の貧溶媒中に投入し、沈澱物を獲得した。Mw:1.1x104、Mw/Mn:1.65。1H−NMRスペクトルとIRスペクトルをそれぞれ図6および図7に示す。
【0072】
式(15)で表わされる3元共重合体表面での光照射による細胞の脱着
式(15)で表わされる3元共重合体の0.5wt%エタノール溶液をガラス基材にデップコーティングして細胞接着性光制御基材を作製した。この上にHeLa細胞の2x10個を播種し、37℃、5%CO条件で3時間静置した。次ぎに、365nm(80mW/cm)の光を照射し、直後に上清液を回収、細胞数をカウントした。そして、光照射後の基材を洗浄し、トリプシンを用いて残存接着細胞を回収、細胞数をカウントした。その結果、図8に示すように、光照射時間と共に剥離する細胞の割合が増加した。別の実験では、91%の細胞が接着した後、60秒の光照射で、67%の細胞が剥離することがわかった。なお、光照射時間を180秒、300秒、600秒と長くすると、回収した細胞の生細胞数は減少したが、60秒では光毒性の影響はなく、図9に示す様に、回収した細胞は通常の細胞と同様に増殖した。
【0073】
[比較例1]
ポリスチレン培養基材上にHeLa細胞の2x10個を播種し、37℃、5%CO条件で3時間静置した。次ぎに、365nm(80mW/cm)の光を照射し、直後に上清液を回収、細胞数をカウントした。そして、光照射後の基材を洗浄し、トリプシンを用いて残存接着細胞を回収、細胞数をカウントした。その結果、86%の細胞が接着し、60秒の光照射で5%の細胞が剥離した。
【0074】
本例は一例であるが、細胞接着性光制御材料の細胞接着性基を適切に選択することや細胞接着性材料と細胞非接着性材料の比を適切にコントロールすることにより、様々な種類の細胞を接着させることが可能になる。また、細胞接着性から非接着性へ光解離反応で効率良く非可逆的に変化するので、細胞と該基材との接着選択性に優れ、更に、細胞間の接着及び細胞接着性光制御材料はレーザ光で切断できるので、任意の領域に存在する所望の細胞を回収するにあたり、該細胞の純度,回収率を高めることができる。更にまた、細胞を培養するに当たって、フローサイトメーターあるいはソーティング装置のように、培養基材から細胞を一旦取り出して純化する必要がなく、同じ培養基材上で、不要な細胞をリアルタイムに除去しながら培養することができ、培養・純化の操作が簡単になる。正常細胞と異常細胞が密着していたり、入り込んでいたりしても、正常細胞と異常細胞とが空間的に分離され、異常細胞領域が区画化される。これにより、光解離反応を異常細胞領域に限定して行うことができ、異常細胞を選択的に剥がすことができる。一旦剥がれた細胞は、元の場所が細胞非接着性に非可逆的に変化するため、再接着することがなく、異常細胞を効果的に除くことができる。更にまた、フローサイトメーターあるいはソーティング装置のような、電気的刺激、衝撃がなく、また、光反応波長、顕微鏡観察用光波長、蛍光観察用励起光波長をコントロールすることにより細胞への光毒性も低減できるので、細胞のバイアビリティーを上げることができる。更に、細胞を2次元平面上に並べ、ほぼ同時に各細胞に光を当てて、顕微鏡あるいは蛍光観察をするので、フローサイトメーターのように1次元に細胞を並べて個々の細胞にレーザを当てるための光軸調整が不要になる。
【符号の説明】
【0075】
1 透明基材
2 細胞接着性光制御材料
3,4,9 細胞
5 第2の光照射
6 細胞間及び細胞接着性光制御材料の切断領域
7 第1の光照射
8 光反応により細胞接着性から非接着性へ変化させる領域(細胞非接着領域)
10,11 光反応により細胞接着性から非接着性へ変化させる領域
69 細胞接着領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射によりO−ニトロベンジル骨格を含む光解離性基が結合解離して、光照射された部分の基材の表面が細胞接着性材料から細胞非接着性材料に非可逆的に変化することを特徴とする細胞接着性光制御基材。
【請求項2】
細胞非接着性材料にO−ニトロベンジル骨格を含む光解離性基を介して細胞接着性材料を結合した細胞接着性光制御材料を基材に成膜してなる細胞接着性光制御基材。
【請求項3】
光照射によりO−ニトロベンジル骨格を含む光解離性基が結合解離して、細胞接着性材料が離脱し、細胞非接着性材料が残ることを特徴とする細胞接着性光制御基材。
【請求項4】
前記光解離性基が下記一般式(5)で表される2価のO―ニトロベンジル骨格を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞接着性光制御基材。
【化1】

ここで、式中、R4は水素,ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能である。
【請求項5】
前記細胞接着性光制御材料が、一般式(4)で表される細胞接着性基と一般式(5)で表される光解離性基をベンゼン骨格又はベンジル位で直接又は間接的に結合した構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【化2】

式(4)中、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基,アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基,アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表す。
【化3】

ここで、式(5)中、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能である
【請求項6】
前記細胞接着性光制御材料が下記一般式(6)で表される光解離性基と細胞接着性基がベンゼン骨格で二価の連結基Rを介して結合した構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【化4】

ここで、式中Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基、アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基,アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表し、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基を表し、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基を表し、m位、p位の相互の位置関係は変更可能であり、Rは、O(CH2)m、O(CH2CH2O)m、OCO(CH2)m、OCOCH2O(CH2CH2O)m(mは0〜20の整数)から選ばれた2価の連結基を表す。
【請求項7】
前記細胞接着性光制御材料が下記一般式(7)で表される光解離性基と細胞接着性基をベンジル位で結合した構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【化5】

ここで、式中、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基、アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基、アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基を、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基を表し、m位、p位の相互の位置関係は変更可能であり、Rは、O、OCO、NH、OCONH及びNHCOからなる群から選択される2価の連結基を表す。
【請求項8】
前記細胞接着性光制御材料が、一般式(4)で表される細胞接着性基と一般式(5)で表される光解離性基をO−ニトロベンジル骨格のベンゼン環あるいはベンジル位で直接あるいは間接に結合した前記構造を、前記細胞非接着性材料に直接あるいは間接に結合した構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【化6】

式(4)中、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基、アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基、アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表し、
【化7】

式(5)中、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能である。
【請求項9】
前記細胞接着性光制御材料が、下記一般式(8)で表される構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞接着性光制御基材。
【化8】

式中、R1は水素又はメチル基を表し、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能であり、。Rは、O(CH2)m、O(CH2CH2O)m、OCO(CH2)m及びOCOCH2O(CH2CH2O)m(mは0〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Rは、O、CO、CONH、CO(CHCHO)、CO(CHCHO、CONH(CHCHO)及びCONH(CHCHO(pは1〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基,アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基、アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表す。
【請求項10】
前記細胞接着性光制御材料が、下記一般式(9)で表される構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞接着性光制御基材。
【化9】

式中、R1は水素又はメチル基を表し、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRは水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能であり、Rは、O、OCO、NH、OCONH及びNHCOからなる群から選択される2価の連結基を表し、R10は、O、CO、CONH、CO(CHCHO)、CO(CHCHO、CONH(CHCHO)及びCONH(CHCHO(pは1〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基、アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基、アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表す。
【請求項11】
前記細胞接着性光制御材料が、下記一般式(1)及び(8);下記一般式(1)及び(9);下記一般式(1)、(8)及び(2);又は下記一般式(1)、(9)及び(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルの共重合体のいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

式中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は1〜20のアルキレン基又は1〜20のポリオキシエチレン基を表し、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能であり、Rは、O(CH2)m、O(CH2CH2O)m、OCO(CH2)m及びOCOCH2O(CH2CH2O)m(mは0〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Rは、O、OCO、NH、OCONH及びNHCOからなる群から選択される2価の連結基を表し、R及びR10は、O、CO、CONH、CO(CHCHO)、CO(CHCHO、CONH(CHCHO)及びCONH(CHCHO(pは1〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基、アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基、アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表す。
【請求項12】
前記細胞接着性光制御材料が、側鎖にアルコキシシランを含む(メタ)アクリル酸エステルを共重合してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【請求項13】
前記細胞接着性光制御材料を、下記一般式(10)で表されるアルコキシシランを基材上に成膜した後、細胞接着性基Xを導入して形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【化14】

式中、R2はC1〜C20のアルキレン基又は1〜20のポリオキシエチレン基を表し、Rは水素又はアルキル基を表し、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRはそれぞれ独立に水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能であり、Rは、O(CH2)m、O(CH2CH2O)m、OCO(CH2)m及びOCOCH2O(CH2CH2O)m(mは0〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Rは、O、CO、CONH、CO(CHCHO)、CO(CHCHO、CONH(CHCHO)及びCONH(CHCHO(pは1〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基、アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基、アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表す。
【請求項14】
前記細胞接着性光制御材料を、下記一般式(11)で表されるアルコキシシランを基材上に成膜した後、細胞接着性基Xを導入して形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞接着性光制御基材。
【化15】

式中、R2はC1〜C20のアルキレン基又は1〜20のポリオキシエチレン基を表し、Rは水素又はアルキル基を表し、R4は水素、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される基であり、R5及びRは水素、アルコキシ基及びビニルオキシ基からなる群から選択される基であり、m位、p位の相互の位置関係は変更可能であり、Rは、O、OCO、NH、OCONH及びNHCOからなる群から選択される2価の連結基を表し、R10は、O、CO、CONH、CO(CHCHO)、CO(CHCHO、CONH(CHCHO)及びCONH(CHCHO(pは1〜20の整数)からなる群から選択される2価の連結基を表し、Xはカルボン酸、モノ若しくはポリカルボン酸アルキル基、アミノ基、モノ若しくはポリアミノアルキル基、アミド基、モノ若しくはポリアミドアルキル基、ヒドラジド基、モノ若しくはポリヒドラジドアルキル基、アミノ酸基、ポリペプチド基及び核酸基からなる群から選択される基を表す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−210158(P2012−210158A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76462(P2011−76462)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】