説明

細胞放出物質検出装置、細胞放出物質検出方法および細胞放出物質検出用固定化酵素基板

【課題】細胞から放出されたヌクレオチド関連化学物質について、細胞組織上の濃度分布を検出する細胞放出物質検出装置、細胞放出物質検出方法および細胞放出物質検出用固定化酵素基板を提供すること。
【解決手段】GAPDHを固定化した透明基板10に、細胞組織Sを載置し、GAPとNADとの存在下で、細胞組織S表面のATPが消費されNADHが生じる。透明基板10の側方に設けられた光源ユニット7からの照射光にて透明基板10の表面にエバネッセント波L2を発生させ、透明基板10の極近傍、即ち、細胞組織S表面のNADHを蛍光発光させる。このように反応系を設計することにより、リボヌクレオチドであるATPを、反応で生成された蛍光物質(NADH)が放射する蛍光によって検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞組織から放出された細胞放出物質を検出する検出装置、検出方法、検出用固定化酵素基板に関し、特に、細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質について細胞組織上の濃度分布を検出する細胞放出物質検出装置、細胞放出物質検出方法および細胞放出物質検出用固定化酵素基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アデノシン三リン酸(以下、単に「ATP」と略す場合がある。)の定量には、生物発光であるルシフェリン/ルシフェラーゼ発光系が汎用的に用いられている(非特許文献1)。ATP及びマグネシウムイオンの存在下で発光基質であるルシフェリンは、ルシフェラーゼによって発光体であるオキシルシフェリンに変換されて発光する。ATPの検出に際しては、一般に、被検体試料の細胞組織を破砕するなどして細胞抽出液を採取し、その細胞抽出液にルシフェリンとルシフェラーゼとが加えられる。そして、試料抽出液中のATPが消費されて生じるオキシルシフェリンの発光量を測定することによりATP量が定量される。
【0003】
ルシフェリン/ルシフェラーゼ発光法による試料中ATPの定量は、感度が良好であり迅速性にも優れているため、当該発光法以外のATP定量方法はほとんど実用化されていない。
【0004】
また、特許文献1には、ATP増幅法とATPサイクリング法とを併用して試料中の微量ATPを検出する技術が開示されている。当該技術では、まず、アデニレートキナーゼとAMP(アデニル酸)とを用い、試料中のATPをAMPと反応させて2分子のADP(アデノシン二リン酸)を生成させ、生じた2分子のADPにポリリン酸キナーゼを作用させることで2分子のATPを発生させる。発生した2分子のATPは、再度、AMPと反応する基質となるため、n回の反応を行うことにより、1個のATPは2n個のATPに増幅される(ATP増幅法)。その後、増幅に用いた酵素を不活化し、ATPサイクリング法にて再度ATPの増幅が実行される。そして、ATPサイクリング法を経た後、試料中のATPを酵素比色法または電気的定量法を用いて定量することで、当初試料中のATP量が定量される。これにより、当初試料中の僅かなATPが定量できる。
【0005】
更に、本願発明者らは、生体組織から放出された化学物質の濃度分布を、組織上の位置に対応つけて観察、測定するための小型化された光学装置を提案している(特許文献2)。この光学装置では、エバネッセント光を用い、GABA、グルタミン酸などの化学物質の濃度分布を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−223163号公報
【特許文献2】特開2008−139280号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】DeLuca, M., and McElroy, W.D., Kinetics of the firefly luciferase catalyzed reactions. Biochemistry, 26,921-925 (1974).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1および非特許文献1に開示された技術は、いずれも試料抽出液中のATPを定量する手法であり、細胞から放出されるATPを直接的に検出、測定するものではない。このため、細胞組織上の濃度分布(ATPの空間分布)を把握することはできないという問題点があった。言い換えれば、従来の技術では、組織片のいずれの細胞からATPが放出されているかを把握することはできない。また、細胞内外のATPを区別して検出することができないので、検出されたATPが、細胞内に存在していたものであるのか、細胞から放出されたものであるかを判別することができない。
【0009】
そこで、本願発明者らは、特許文献2に開示したエバネッセント光を用いた観察装置と、ルシフェリン/ルシフェラーゼ発光法とを組合せて細胞組織から放出されたATPの濃度分布を検出することを試みた。しかし、ルシフェリンのモル吸光係数が18であることから得られる発光が非常に微弱でありATPの空間分布を検出することはできなかった。
【0010】
つまり、従来のルシフェリン/ルシフェラーゼ発光法を利用して細胞組織上のATP濃度分布を検出しようとすれば、その発光を検出するために光電子増倍管などの高感度光検出器が必要となってしまう。言い換えれば、高コストで大掛かりな光学装置が必要となり、低コストで簡便に細胞組織上のATP検出を行うことができないという問題点があった。
【0011】
ここで、ATP増幅をさせることができれば、高価な高感度光検出器を不要にできると考えられるが、例えば、特許文献1に開示された技術を適用してATP増幅を行おうとすれば、50℃以上の温度で酵素を不活化する工程が必要になり、細胞変性を起こしかねない。このため、細胞組織から放出されたATPを細胞組織上の各位置と対応つけて検出し得る現実的な技術は未だ提案されていない。
【0012】
例えば、ATPは、生理活性を有する細胞から放出される一方で、生理活性を失った細胞からは放出されないため、肉や魚などの生鮮食料品の鮮度の指標とし得る。しかし、ATPは細胞内に多量に存在するため、細胞抽出液からATPを検出する従来技術においては、細胞内外のATPを区別できず、精度良く鮮度を判別することが出来ないという問題点があった。
【0013】
更に、脳が梗塞や酸欠などでダメージを受けた際には、神経細胞を保護する目的でグリア細胞からATPが放出されるとされている。脳の虚血状態の診断は非常に難しく、熟練した医術者が開頭を行ってその状態を観察したとしても、的確に病状の診断や予測を行うことは困難となっている。ATPの放出状態(濃度分布)を的確に検知できれば、病状の診断や薬効判定に有用な知見を得ることができると考えられるが、細胞組織上のATPを検出する有用な技術が提案されていない現状においては、ATPの放出状態を指標として脳の虚血状態を判定することも、薬の有効性を評価することもままならないという問題点があった。
【0014】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、細胞から放出されたヌクレオチド関連化学物質について、細胞組織上の濃度分布を検出する細胞放出物質検出装置、細胞放出物質検出方法および細胞放出物質検出用固定化酵素基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、請求項1記載の細胞放出物質検出装置は、細胞組織が載置される載置面側に、基質をリン酸化するリン酸化反応とリン酸化された後の基質を酸化する酸化反応とを触媒する酵素を有する基板と、その基板上での反応に伴って蛍光元物質から生成される蛍光物質を励起する励起光を、前記基板上の細胞組織に向けて照射する光照射手段と、その光照射手段によって照射された励起光によって蛍光物質から放射される蛍光を検出する検出手段と、その検出手段により検出された蛍光に基づいて画像を形成する画像形成手段とを備えており、その画像形成手段により形成された画像により、前記基板に載置された細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質の濃度分布を検出するものである。
【0016】
尚、ここでヌクレオチド関連化学物質とは、基質に対してのリン酸供給源となる化学物質であって、例えば、各種リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドである。
【0017】
更に、酵素を有する基板とは、酵素が化学結合によって基板上に結合されたものであってもよく、酵素が基板上に単に塗布や添加されたものなど基板に対する化学結合を伴わないものであってもよい。
【0018】
蛍光元物質とは、反応系に存在する特定の化学物質と反応して蛍光物質を生成する原料分子を意味するものである。かかる蛍光元物質は、必ずしも1種の物質には限られず、2種類以上の物質の混合物をも含む概念である。
【0019】
請求項2記載の細胞放出物質検出装置は、請求項1に記載の細胞放出物質検出装置において、前記酵素はグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素である。
【0020】
請求項3記載の細胞放出物質検出装置は、請求項1または2に記載の細胞放出物質検出装置において、前記基板は、前記酵素が載置面側表面に化学結合によって固定化されたものである。
【0021】
請求項4記載の細胞放出物質検出装置は、請求項1から3のいずれかに記載の細胞放出物質検出装置において、前記光照射手段は、前記基板の側面へ励起光を入射する光源部を備えており、その光源部から前記基板の側面に照射される励起光により、前記基板の載置面にエバネッセント光を発生させるよう構成されている。
【0022】
請求項5記載の細胞放出物質検出装置は、請求項1から4のいずれかに記載の細胞放出物質検出装置において、前記検出手段は、前記光照射手段が照射する励起光の光路と重ならない位置に配設されている。
【0023】
請求項6記載の細胞放出物質検出方法は、細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質の濃度分布を検出する方法であって、基質をリン酸化するリン酸化反応とリン酸化された後の基質を酸化する酸化反応とを触媒する酵素を有する基板に載置された細胞組織に向かって、基質と当該酵素反応に伴って蛍光物質に変換される蛍光元物質とが基板上に共存する状態で、蛍光物質の励起光を照射する光照射工程と、その光照射工程により照射された励起光によって励起された蛍光物質から放射される蛍光を検出する蛍光検出工程と、その蛍光検出工程により検出された蛍光に基づいて画像を形成する画像形成工程とを備え、その画像形成工程により形成された画像により、細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質の濃度分布を検出するものである。
【0024】
尚、ここでヌクレオチド関連化学物質とは、基質に対してのリン酸供給源となる化学物質であって、例えば、各種リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドである。
【0025】
更に、酵素を有する基板とは、酵素が化学結合によって基板上に結合されたものであってもよく、酵素が基板上に単に塗布や添加されたものなど基板に対する化学結合を伴わないものであってもよい。
【0026】
蛍光元物質とは、反応系に存在する特定の化学物質と反応して蛍光物質を生成する原料分子を意味するものである。かかる蛍光元物質は、必ずしも1種の物質には限られず、2種類以上の物質の混合物をも含む概念である。
【0027】
請求項7記載の細胞放出物質検出方法は、請求項6に記載の細胞放出物質検出方法において、前記酵素はグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素である。
【0028】
請求項8記載の細胞放出物質検出方法は、請求項6又は7に記載の細胞放出物質検出方法において、前記酵素は基板表面に化学結合によって固定されており、細胞組織はその基板表面に載置される。
【0029】
請求項9記載の細胞放出物質検出用固定化酵素基板は、平滑面を有する透光性基板の表面上にグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素が化学的結合によって担持されているものである。
【発明の効果】
【0030】
請求項1記載の細胞放出物質検出装置によれば、基質をリン酸化するリン酸化反応とリン酸化された後の基質を酸化する酸化反応とを触媒する酵素を有する基板上に載置された細胞組織に向けて、光照射手段にて励起光が照射される。基板上に、酵素の基質と、当該酵素反応が触媒する反応に伴って蛍光物質を生成する蛍光元物質とが存在すると、反応系内のリン酸を消費しながら蛍光物質が生成される。ここで、リン酸供給源は、細胞組織が放出したヌクレオチド関連化学物質となるため、細胞組織からヌクレオチド関連化学物質が放出されていれば蛍光が放射され、否であれば蛍光は放射されない。
【0031】
従って、検出手段にて蛍光を検出し、検出された蛍光に基づいて画像形成手段にて蛍光画像を形成することで、細胞組織上のヌクレオチド関連化学物質の濃度分布(空間分布)を検出することができるという効果がある。
【0032】
また、基板が有する酵素によって基質のリン酸化反応と酸化反応とが触媒され、ここに蛍光元物質が存在することにより、酵素反応に伴って蛍光物質が生成する。即ち、簡素な反応系で、リン酸供給源であるヌクレオチド関連化学物質を、生成される蛍光物質にて直ちに検出することができる。故に、複雑な反応系に比べて高い反応効率を維持することができ、信頼性の高い検出結果を得ることができるという効果がある。
【0033】
請求項2記載の細胞放出物質検出装置によれば、請求項1に記載の細胞放出物質検出装置の奏する効果に加え、酵素はグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素であるので、生体内に存在する天然型の酵素が触媒する酵素反応によって、ヌクレオチド関連化学物質を検出することができる。つまり、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素とその基質との反応は、天然の細胞組織での通常の反応系(解糖系)であるので、安定な酵素反応を実現でき、細胞組織に対する過度の負荷や予想外の副反応を抑制することができるという効果がある。
【0034】
請求項3記載の細胞放出物質検出装置によれば、請求項1または2に記載の細胞放出物質検出装置の奏する効果に加え、酵素が基板の載置面側表面に化学結合によって固定化されているので、酵素が流出したり偏在したりすることを抑制でき、単純に酵素を基板上に塗布や添加した場合に比べて、基板上で均一な酵素反応を実現できるという効果がある。更に、基板上に載置された細胞組織内部に酵素が移動することを規制でき、基板上に載置された細胞組織表面近傍において局所的に酵素反応を行わせることができる。故に、細胞から放出された(即ち、細胞表面上の)ヌクレオチド関連化学物質を的確に検出することができるという効果がある。これによって、細胞外に放出されたヌクレオチド関連化学物質を、細胞内のアデノシン三リン酸と区別して検出することができるという効果がある。
【0035】
請求項4記載の細胞放出物質検出装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の細胞放出物質検出装置の奏する効果に加え、光源部から基板の側面に照射される励起光により、基板の載置面にエバネッセント光を発生させるよう構成されているので、載置面に細胞組織が載置されると、載置面近傍に存在する、即ち、細胞組織の表面部分に存在する蛍光物質に限定して蛍光を放射させることができる。このため、細胞から放出された(即ち、細胞表面上の)ヌクレオチド関連化学物質を、細胞内のヌクレオチド関連化学物質と区別して的確に検出することができるという効果がある。
【0036】
更に、光源部は、基板の端面から励起光を入射させるので、入射角を変更することを簡便に行うことができ、光学系のセッティングを容易化できる上、装置の取扱性を向上できるという効果がある。
【0037】
請求項5記載の細胞放出物質検出装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の細胞放出物質検出装置の奏する効果に加え、検出手段は、光照射手段が照射する励起光の光路と重ならない位置に配設されているので、目的とする信号(蛍光)を励起光と分離して捕捉することができ、検出される蛍光に対する励起光の影響(ノイズ)を低減できるという効果がある。
【0038】
請求項6記載の細胞放出物質検出方法によれば、基質をリン酸化するリン酸化反応とリン酸化された後の基質を酸化する酸化反応とを触媒する酵素を有する基板に載置された細胞組織に向かって、基質と酵素反応に伴って蛍光物質に変換される蛍光元物質とが基板上に共存する状態で、蛍光物質の励起光が光照射工程で照射される。
【0039】
酵素の基質と、当該酵素反応が触媒する反応に伴って蛍光物質を生成する蛍光元物質とが存在すると、基板上の酵素の働きにより、反応系内のリン酸を消費しながら蛍光物質が生成される。ここで、リン酸供給源は、細胞組織が放出したヌクレオチド関連化学物質となるため、細胞組織からヌクレオチド関連化学物質が放出されていれば蛍光が放射され、否であれば蛍光は放射されない。
【0040】
そして、その光照射工程により照射された励起光によって励起された蛍光物質から放射される蛍光が蛍光検出工程により検出され、その蛍光に基づいて画像形成工程により蛍光画像が形成される。これにより、細胞組織から放出された(細胞組織上の)ヌクレオチド関連化学物質の濃度分布(空間分布)を検出することができるという効果がある。
【0041】
また、酵素によって基質のリン酸化反応と酸化反応とが触媒され、ここに蛍光元物質が存在することにより、酸化反応に伴って蛍光物質が生成する。即ち、簡素な反応系で、リン酸供給源であるヌクレオチド関連化学物質を、生成される蛍光物質にて直ちに検出することができる。故に、複雑な反応系に比べて高い反応効率を維持することができ、信頼性の高い検出結果を得ることができるという効果がある。
【0042】
請求項7記載の細胞放出物質検出方法によれば、請求項6に記載の細胞放出物質検出方法の奏する効果に加え、酵素はグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素であるので、生体内に存在する天然型の酵素が触媒する酵素反応によって、ヌクレオチド関連化学物質を検出することができる。つまり、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素とその基質との反応は、天然の細胞組織での通常の反応系(解糖系)であるので、安定な酵素反応を実現でき、細胞組織に対する過度の負荷や予想外の副反応を抑制することができるという効果がある。
【0043】
請求項8記載の細胞放出物質検出方法によれば、請求項6又は7に記載の細胞放出物質検出方法の奏する効果に加え、酵素は基板表面に化学結合によって固定されており、細胞組織はその基板表面に載置されるので、酵素が流出したり偏在したりすることを抑制でき、単純に酵素を基板上に塗布や添加した場合に比べて、基板上で均一な酵素反応を実現できるという効果がある。更に、基板上に載置された細胞組織内部に酵素が移動することを規制でき、基板上に載置された細胞組織表面近傍において局所的に酵素反応を行わせることができる。故に、細胞から放出された(即ち、細胞表面上の)ヌクレオチド関連化学物質を的確に検出することができるという効果がある。
【0044】
請求項9記載の細胞放出物質検出用固定化酵素基板によれば、平滑面を有する透光性基板の表面上にグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素が化学的結合によって担持されているものであるので、本基板に細胞組織を載置し、更に、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素の基質(グリセルアルデヒド3−リン酸)と、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素が触媒する酸化反応に伴って蛍光物質に変換される蛍光元物質とを基板上に共存させることにより、細胞組織から放出されるヌクレオチド関連化学物質に対応して蛍光を放射させることができるという効果がある。このため、本基板を用いて蛍光分析を行えば、細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の細胞放出物質検出装置の1実施形態であるATP検出システムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の細胞放出物質検出用固定化酵素基板の1実施形態であって、図1の測定装置に用いられる透明基板を詳細に説明する図である。
【図3】ATP検出システムの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】ATP検出システムのパーソナルコンピュータにて実行されるATP測定処理のフローチャートを示した図である。
【図5】実施例1におけるラット大脳のスライス片の観察結果を示した図であり、図5(a)は通常光での光学的観察結果であり、図5(b)は同じ細胞組織の蛍光画像である。
【図6】図6は、図5(a)に示した各位置a〜hのそれぞれの蛍光強度の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。本発明は、細胞表面のヌクレオチド関連化学物質の濃度分布を検出するものである。濃度分布を検出するとは、ある面積を有する二次元平面でヌクレオチド関連化学物質がどのように分布しているかの空間分布を測定することを意味している。まずは、本発明のヌクレオチド関連化学物質検出原理について、ヌクレオチド関連化学物質をATPとして説明する。
【0047】
グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(以下、単に「GAPDH」と称す場合がある。)は、生体内において解糖系に関与する酵素であり、基質であるグリセルアルデヒド三リン酸(以下、単に「GAP」と略す場合がある。)のリン酸化と酸化とを触媒する。GAPは、GAPDHの作用によって1,3−ビスホスホグリセリン酸となる。このGAPDHが触媒するリン酸化反応は、生体内では、通常、無機リン酸がリン酸供給源となっている。
【0048】
1,3−ビスホスホグリセリン酸は、GAPのリン酸化に続いて、生じたアルデヒドが酸化されることで生成する。この酸化反応には、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型のもの、以下、単に「NAD」と略す。)が関与し、電子受容体であるNADは還元され還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、単に「NADH」と略す。)となる。ここで、NADHは蛍光物質である。本発明では、GAPDHが触媒する下記反応式に示す反応によって、検出対象のATPをGAPリン酸化のリン酸供給源とすることで、その存在をNADHの蛍光で検出できるようになっているのである。
GAP+ATP→1,3−ビスホスホグリセリン酸+ADP
NAD→NADH
【0049】
即ち、NADは、GAPDHが介在する反応において蛍光物質に変換される蛍光元物質である。この蛍光元物質としては、酵素反応に際し特定の化学物質と反応して蛍光物質に変換される物質であり、例えば、上述のNADや、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(酸化型のもの、以下、単に「NADP」と略す。)が例示される。このように反応系を設計することにより、リボヌクレオチドであるATPを、反応で生成された蛍光物質(NADH)が放射する蛍光によって検出することができるのである。
【0050】
上記の反応系では、ATPの反応モル量とNADH(NADPH)の生成モル量とは同じであるので、NADH(NADPH)の蛍光強度を測定すれば、ATP濃度を測定できるのである。尚、蛍光元物質としては、NADとNADPとのいずれか一方を用いても良く、両者を混合して用いても良い。
【0051】
また、上記したGAPDHの酵素反応は、リン酸要求性である。従って、測定時に用いられる緩衝液は、リン酸を含有しないものが用いられる。このような緩衝液としては、例えば、Britton-Robinson 緩衝液、Tris緩衝液、HEPES緩衝液などが例示される。
【0052】
更に、上記した反応は常温常圧で進行する酵素反応であるため、細胞組織に対する負荷が軽微である。このため、反応場にセットされた細胞組織が直ちに生理活性を失うといったことがなく、細胞組織からのヌクレオチド関連化学物質放出状態の経時変化を、蛍光検出によって測定することができる。
【0053】
本発明において、測定対象のヌクレオチド関連化学物質は、例えば、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドであり、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジンのいずれかのリボヌクレオシド、又はデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシウリジン、デオキシシチジンのいずれかのデオキシリボヌクレオシドにリン酸基が結合したものである。尚、本発明ではリン酸基のないものは検出されない。従って、類似した構造体であるヌクレオシドの影響をうけることなく、ヌクレオチドを選択的に検出することができる。例えば、アデノシンは生理活性のない細胞にも蓄積(放出)される。一方で、その類似構造体であるATP(ADP,AMP)は生理活性を有する細胞からのみ放出される。本発明では、ATP(ADP,AMP)を検出し、アデノシンを検出しないので、細胞組織の生理活性の有無や状態を高精度に検出することができる。
【0054】
本発明において用いられる酵素としては、基質をリン酸化するリン酸化反応とリン酸化された後の基質を酸化する酸化反応とを触媒するものであって、例えば、アスパラギンシンテターゼとグルタミン酸デヒドロゲナーゼとを組合せたもの、アセトキナーゼ及びグルコキナーゼ(又はヘキソキナーゼ)の二つの酵素とグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼとを組合せたもの、上記したGAPDHが例示される。好適には、GAPDHが用いられる。反応系が簡素であり、且つ、反応速度が他の酵素に比して速いためである。GAPDHを用いた場合、反応速度はm秒オーダー(100ms以下)で迅速に反応するため、細胞組織へのダメージを抑制でき、得られる検出結果の信頼性を向上させることができる。
【0055】
図1は、本発明の細胞放出物質検出装置の1実施形態であるATP検出システム100の概略構成を示す図である。ATP検出システム100は、細胞組織の表面に存在するATPを、GAPDHの酵素反応を利用した蛍光発光によって検出するように構成されている。図1(a)にはシステム全体の概略図を示し、図1(b)には、固定化酵素基板である透明基板10の表面部分拡大図を示している。
【0056】
このATP検出システム100は、図1(a)に示すように、細胞組織からのATPを検出するための反応場と光学系とが備えられた測定装置1と、その測定装置1を制御するとともにATPの濃度分布を画像で表示するパーソナルコンピュータ(以下、単に「PC」と略す。)20とを備えており、細胞組織上においてATPがどのように分布しているか、即ち、ある面積を有する二次元平面での濃度分布(空間分布)を測定するようになっている。測定装置1とPC20とはケーブル18を介して相互に接続されている。
【0057】
測定装置1は、測定対象の細胞組織Sに対し酵素反応によって蛍光を生じさせる反応場を備えており、反応によって生じる蛍光物質に励起光を照射すると共に、生じた蛍光を検出(撮像)するように構成されている。この測定装置1は、光源ユニット7、透明基板10、集光レンズ11、光検出器12、CCDカメラユニット13、基板保持部16を備えている。
【0058】
光源ユニット7は、透明基板10の側方に配設されており、透明基板10の端面に向けて光を照射するものである。この光源ユニット7は、非図示のハウジングを備えており、このハウジング内に光源8と入射光側レンズ9とは収納されている。図1(a)において、光源8からの光の方向(光路)は、一点鎖線の矢印L1にて示している。
【0059】
光源ユニット7の該ハウジング内において、光源8からの照射光の光路L1上に入射光側レンズ9が配設されており、光源8からの照射光は入射光側レンズ9にて集光された後、透明基板10の端面へ入射される。また、光源ユニット7は、その後方側(ハウジングにおいて入射光側レンズ9と反対側)において上下方向に可動可能に軸支されており、非図示の調整ダイヤルを操作することにより、その操作量に応じて光源ユニット7の設置角度を変更できるようになっている。これにより光源8からの照射光の透明基板10の端面への入射角度を調整できる。
【0060】
光源8は、蛍光物質を励起する光を照射するためのものであり、360nmの励起紫外光(UV)を照射する発光ダイオード(LED)が用いられている。本実施形態において光源8から照射される照射光(励起紫外光)は、単色光であり、バンドパスフィルタを不要としている。光源8からの励起光の波長は、蛍光物質を励起できる波長であれば特に限定されない。一般に、蛍光物質は、吸光度が高い波長であるほど、より励起状態への遷移が生じやすく、吸光極大の波長が照射された場合に励起状態への遷移が最も活発になる。NADHは、340nmに吸光極大を有しており、従ってその近傍の波長においても比較的吸光度が高く良好な励起光となる。本実施形態においては、NADHの吸光極大近傍で、十分な蛍光を生じさせることのできる360nmの紫外光を励起光に用いている。
【0061】
尚、光源8は、生成される蛍光物質を励起する励起光を照射するものであれば特に限定されるものではなく、LED、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプからなる群から選択されるものの一つであれば良い。また、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプを用いる場合には、測定対象とする蛍光物質に応じて適切な励起光が照射されるように適当なフィルターを用いられる。
【0062】
透明基板10は、測定対象の組織細胞Sが載置される基板であって、矩形形の板状に形成されている。基板保持部16によって保持され、CCDカメラユニット13の上方に配置されている。透明基板10は、透明性の基板であり、光源8からの照射光の光導波路となっている。この透明基板10は高屈折材料にて形成されており、石英、ガラス(重フリントガラス)、サファイアなどの結晶やPMMA(ポリメタクリル酸メチル)などのアクリル樹脂を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、基板表面が導波路全長にわたってLB膜でディップコートされたものであっても良い。尚、励起光の照射により透明基板10が大きく発熱する場合には、透明基板10には耐熱性の高い石英やガラスなどが用いられる。また、透明基板10の材質としては、励起光の波長に対して吸収がないものが好ましい。本実施形態の透明基板10には石英が用いられている。
【0063】
この透明基板10の表面および裏面は、高度な平滑性を備えており、例えば、その表面粗さが、入射光の波長と同程度以下となるように形成されている。測定装置1においては、透明基板10の端面から入射された光は、透明基板10の界面で全反射しつつ、入射側とは反対側の端面から出射するように設計されている。このため、透明基板10の表面にはエバネッセント波L2が発生することとなる。
【0064】
基板保持部16は、透明基板10を略水平に保持するものであり、光路方向L1に沿って所定間隔を隔てて立設された2の支柱16aと、当該2の支柱16aに架設された天板16bとを、測定装置1の前面側と奥方側とに一対で備えている。天板16bは、透明基板10の表面に対し、その表面の端部近傍の狭い範囲に当接する幅で形成された板状部材である。透明基板10は、一対で設けられた天板16bに載置することで、対向する二辺側の端部が支持され、4本の支柱に架設された状態で保持される。
【0065】
図1(b)には、透明基板10の表面部分Iを拡大して示している。図1(b)に示すように、透明基板10の表面においては、全反射に伴ってエバネッセント波L2が発生する。エバネッセント波L2は、全反射の際に発生し、全反射した界面の反対側に染みだした光である。エバネッセント波は、その全反射角に応じてその染み込み深さを数十ナノメータから数百ナノメータまで変えることのできる光である。つまり、エバネッセント波L2は、透明基板10表面近傍にしか存在しないため、細胞組織Sを透明基板10に載置すると、エバネッセント波L2が照射される細胞組織S表面の極浅い部分の光学的情報を取得することができる。
【0066】
ここで、透明基板10の表面は酵素反応の反応場となるものであって、透明基板10の表面には、GAPDHが固定化されている。測定に際しては、透明基板10の表面にGAPとNADとが供給される。このため、透明基板10上にセットされた細胞組織SからATPが放出されていれば、GAPDHの作用によってATPのリン酸を消費する酵素反応が生じ、GAPから1,3ビスホスホグリセリン酸が生成されると共に、NADが還元されてNADHが生じることとなる。
【0067】
生じたNADHは蛍光物質であるので、エバネッセント波L2にて励起され蛍光が放出される。つまり、エバネッセント波L2で励起された蛍光を検出することで、細胞表面に存在する、即ち細胞から放出されたATPを検出することができるのである。
【0068】
測定される細胞組織Sは、生体試料であり、例えば生物から切開や穿刺によって取得した組織片、細胞、微小生物などが例示されるが、これらには限定されるものではない。
【0069】
尚、本実施形態では、発生した蛍光のうち、透明基板10の下方側に向かう(二点鎖線の矢印L3で示す方向)蛍光を検出するように測定装置1は構成されている。
【0070】
図1(a)に戻って説明する。
【0071】
集光レンズ11は、透明基板10を挟んで、光源ユニット7と反対側に配設されている。光源ユニット7から透明基板10の端面へ入射され、透明基板10内を面方向に沿って伝搬して入射側と反対側の端面から出射した励起紫外光を集光させて、光検出器12に入力するためのレンズである。この集光レンズ11は、可動可能に保持されており、操作者の操作によって透明基板10の端面に対する角度を変更できるようになっている。
【0072】
光検出器12は、励起紫外光L1の光路上において、集光レンズ11の後方に設置されている。光検出器12は、集光レンズ11を介して入射された入射光をフォトダイオードで検出するものである。検出器11での検出信号は、PC20へ出力されるようになっており、操作者は、PC20にて表示される検出結果に基づいて、光源ユニット7の入射角を調整することができる。
【0073】
CCDカメラユニット13は、透明基板10の下方に配設されており、細胞組織Sから下方へ向かって放出される蛍光を受光し、細胞組織Sの撮像(光学的情報の取得)を行うものである。このCCDカメラユニット13は、ピンホール機能を備えたCCDカメラとして構成されている。ここでいうピンホール機能とは0.05〜0.5mm径の孔(光の導入孔)から光を導入し、焦点距離が20mm以下の小型化されうるカメラ機能を意味している。このCCDカメラユニット13は、結像レンズ14とCCD15とを備えている。結像レンズ14は、本体上面に設けられた光の導入孔の下方に配設され、更に結像レンズの下方にCCD15が配設されている。細胞組織Sから放射された蛍光は、光の導入孔から取り込まれ、結像レンズ14を介してCCD15の表面に像が結ばれる。
【0074】
CCD14は光電変換素子であり、主に、光を感知する受光部(センサ)と、光電変換された電荷を垂直転送する垂直転送部(垂直レジスタ)と、水平転送する水平転送部(水平レジスタ)とから構成される一般的なものである。取り出された電荷は出力回路で電圧に変換される。
【0075】
本実施形態の測定装置1では、上記したように透明基板10の下方に配設され、組織細胞Sから放出される光路L3方向の蛍光をCCDカメラユニット13にて受光する。つまり、CCDカメラユニット13は、励起光L1の光路とは重ならない位置(励起光の光路と直交する方向)に配置されており、組織細胞Sから下方に放射される光路L3の蛍光を
受光する。このため、透明基板10内を全反射しつつ光路L1を伝播する励起光とは分離して、組織細胞Sからの光学情報である蛍光をCCD15に入力することができ、ダイクロイックミラー、カットフィルタ等を不要とすることができる。CCDカメラユニット13にて取得された画像信号は、測定装置1からケーブル18を介してPC20へと出力される。
【0076】
尚、本実施形態では蛍光検出にCCDカメラを用いたが、無限焦点で近接撮影可能であればこれに限られるものではなく、例えば蛍光顕微鏡もしくはピンホール機能を備えたCMOSカメラを用いることができる。ピンホールを備えたカメラ構造とすることにより、結合レンズの手前(光路方向手前)の対物レンズを不要とでき、その分、カメラ本体を小型化することができる。尚、装置サイズを小型化する必要がない場合には、ピンホールに代えて対物レンズを備えたカメラ構造としても良い。
【0077】
PC20は、測定装置1を制御するコンピュータであって、表示装置である液晶ディスプレイ(以下、単に「LCD」と略す。)27と、入力装置であるキーボード28とを備えている。操作者はキーボードからコマンドを入力することで測定装置1に測定を実行させることができる。撮像された細胞組織Sの画像データ(蛍光画像)は、LCD27に表示される。ここで、本実施形態においては、細胞組織Sの表面(透明基板10との接触面)に放出されたATPを蛍光検出するように反応場が形成されており、LCD27にはATPの濃度分布が二次元の蛍光画像で示される。
【0078】
また、PC20は、測定装置1にATPの測定を実行させるのみならず、操作者のキーボード28からのコマンド入力に基づいて、測定装置1の光検出器12で取得した信号をLCD27に表示させることができるようになっている。このため、操作者は、LCD27に表示される表示結果を見ながら測定装置1の光路調整を行うことができる。
【0079】
図2は、本実施形態のアデノシン三リン酸検出用固定化酵素基板であって、測定装置1に用いられる透明基板10を詳細に説明する図である。
【0080】
図2(a)は、透明基板10の構成を模式的に示した部分断面図である。図2(a)においては、紙面上側が透明基板10の表面側となるように図示されている。また、酵素(GAPDH)を楕円形状で模式的に示している。図2(a)に示すように、この透明基板10の表面側、即ち細胞組織Sの載置面には、酵素(GAPDH)が全体に一様に配列されており、化学的結合によって、透明基板10表面に固定されている。
【0081】
図2(b)は、図2(a)の微小領域IIの部分拡大図である。図2(b)においては、紙面の左右方向が上下方向(透明基板10の平面に直交する方向(厚み方向))となっている。図2(b)に示すように、GAPDHは、その末端側においてシッフ塩基を形成してシラン化合物と結合しており、このシラン化合物を介して石英(SiO)である透明基板10表面に固定化されている。シラン化合物は、いわゆるシランカップリング剤であり、脱水縮合反応によって無機化合物(石英)の表面と共有結合を形成するものである。
【0082】
シッフ塩基を形成するシラン化合物としては、例えば、アミノシラン化合物が選択され、具体的には、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、エチルジメチルアミノ
プロピルカルボジイミド(EDC)などが例示される。尚、本実施形態においては、3-アミノプロピルトリメトキシシランが用いられている。
【0083】
タンパク質である酵素の末端は、アミノ基を有しており、これにより透明基板10に結合されたアミノシラン化合物と反応してシッフ塩基を形成し、結合を形成することができる。
【0084】
このように透明基板10の表面に酵素を固定することにより、透明基板10上に細胞組織Sを載置すると、透明基板10と細胞組織Sとの間に、酵素が存在することとなる。
【0085】
図3は、上記のATP検出システム100の電気的構成を示すブロック図である。ATP検出システム100は、測定装置1とPC20とを備え、両者はケーブル18によって相互に接続されている。
【0086】
測定装置1は、上記したように、細胞組織Sから放出されたATPを検出するための装置であり、演算装置であるCPU2と、そのCPU2により実行される各種の制御プログラムや固定値データを記憶した不揮発性のメモリであるROM3と、各種のデータ等を一時的に記憶するためのメモリであるRAM4と、入出力ポート6と、光源ユニット7と、光検出器12と、CCDカメラユニット13と、インターフェース17とを備えている。
【0087】
CPU2、ROM3、RAM4は、バスライン5を介して互いに接続されており、バスライン5は、また、入出力ポート6にも接続されている。この入出力ポート6は光源ユニット7と、光検出器12と、CCDカメラユニット13と、インターフェース17とそれぞれ接続されている。
【0088】
CPU2は、PC20から送信されたコマンドを解読し、コマンドに応じて測定装置1の各部を制御する。PC20から送信されたコマンドが、光源点灯コマンドである場合には、CPU2は光源ユニット7において光源8の点灯を実行させる。また、PC20から送信されたコマンドがATP測定の実行を指示する測定実行コマンドであると、CCDカメラユニット13に撮像信号を取得する動作を実行させる。
【0089】
CCDカメラユニット13は、CCD15とA/Dコンバータ16とを備え、細胞組織Sの蛍光画像の撮像を行うものであって、非図示のコントローラによってその動作が制御される。CCD15にて取得された各画素の信号(撮像信号)は、それぞれアンプにて増幅された後、電圧値に変換され、更にA/Dコンバータ16によってデジタルデータに変換される。CCD15の全画素の一群の画素データにて、1フレームの画像データが構成される。コントローラは、指定されたタイムラプスで、指定されたフレーム数の撮像を実行し、得られた画像データを、インターフェース17を介してPC20へ出力する。
【0090】
尚、本実施形態では、CCDカメラユニット13にはカラーフィルターが設けられており、画像データは、カラー画像データ(RGBデータ)で形成される。
【0091】
PC20は、上記したように、測定装置1での各処理を制御するものであり、演算装置であるCPU21と、ROM22と、RAM23と、ハードディスクドライブ(以下「HDD」と称す)24と、入出力ポート26と、表示装置であるLCD27と、入力装置であるキーボード28と、インターフェース29とを備えている。
【0092】
CPU21、ROM22、RAM23、HDD24は、バスライン25を介して互いに接続されており、バスライン25は、また、入出力ポート26にも接続されている。この入出力ポート26は、LCD27と、キーボード28と、インターフェース29とにそれぞれ接続されている。
【0093】
CPU21は演算装置であり、ROM22やHDD24に記憶されるプログラムを実行するものである。図示を省略しているが、このCPU11は、タイマを備えている。タイマは、所定時間の計時を行うためのものであり、後述するATP測定処理において光源8の安定時間が計測されるようになっている。
【0094】
ROM22は、CPU21により実行される各種の制御プログラムや固定値データを記憶した不揮発性のメモリである。
【0095】
RAM23は、各種のデータ等を一時的に記憶するための書換可能なメモリであり、CPU21が各種プログラムを実行する際、変数などを一時記憶するワークエリアを有している。また、RAM23は、設定値メモリ23aと、測定値メモリ23bと、画像メモリ23cとを備えている。
【0096】
設定値メモリ23aは、測定条件を記憶するためのメモリである。ATP検出システム100は、操作者の入力に基づいて測定装置1に実行させる測定条件を任意に設定することができるようになっている。操作者によって入力される測定条件は、測定時間(露光時間)、タイムラプス、撮影フレーム数、光源8の照射光量(印加電圧)、アンプゲインである。後述するATP測定処理にて操作者から測定条件が入力されると、入力された項目の値がこの設定値メモリ23aに書き込まれ、先に記憶される値が更新される。CPU21は後述するATP測定処理が実行される際に、この設定値メモリ23aを参照し、記憶されている測定条件にて測定装置1に測定の実行を指示する。
【0097】
測定値メモリ23bは、測定装置1から送信される画像データを記憶するためのメモリであり、受信バッファとして機能する緩衝用のメモリである。PC20から測定装置1に対し測定実行コマンドが送信された後に測定装置1から画像データを受信すると、受信した画像データはこの測定値メモリ23bに書き込まれる。1フレームの画像データが記憶されると、記憶された1フレーム分の画像データが画像メモリ23cに書き込まれる。画像メモリ23cに書き込まれた画像データは、測定値メモリ23bから消去される。尚、測定時間中、測定装置1では、繰り返して撮像信号の取り込みが実行されるため、PC20では継続して画像データが受信される。
【0098】
尚、PC20にて受信された画像データは、測定値メモリ23bに記憶された後、HDD24に書き込まれ、設定されたフレーム数分の画像データがPC20にて保持される。
【0099】
画像メモリ23cは、LCD27に表示する画像データを記憶するためのメモリである。この画像メモリ23cには、画像データを構成する各画素データが座標(x,y)に対応つけて記憶されている。座標は、LCD27におけるX軸上の位置を示すX座標(x)と、そのX軸に直交するY軸上の位置を示すY座標(y)とにより位置を示す情報である。CPU21は、測定値メモリ23bに1フレーム分の画像データが記憶されると、予め定めた座標に対応つけて各画素データを画像メモリ23cに書き込む。LCD27への表示に際しては、この画像メモリ23cから画像データを読み出して、各画素データを対応する座標に基づいてLCD27へ出力する。これにより、撮影された組織細胞Sの画像データが、LCD27の表示画面において所定の位置に表示される。
【0100】
測定値メモリ23bに新たな1フレーム分の画像データが記憶されると、当該1フレーム分の画像データが画像メモリ23cに書き込まれ、先に記憶される画像データが更新される。
【0101】
HDD24は、書換可能な大容量のメモリであり、電源断後も記憶されるデータを保持する不揮発性のメモリである。このHDD24には、図示しないオペレーティングシステムの他、測定装置1を制御するための測定装置制御プログラム24aと、初期値メモリ24bとを備えている。図4のフローチャートに示すATP測定処理のプログラムは測定装置制御プログラム24aの一部として、HDD24内に記憶されている。HDD24に記憶される各種のプログラムは、必要に応じてRAM23にロードされ、CPU21により実行される。
【0102】
初期値メモリ24bは、測定装置1にATP測定を実行させる際の測定条件(測定時間(露光時間)、タイムラプス、撮影フレーム数、光源8の照射光量(印加電圧)、アンプゲイン)や、その他必要な値(例えば、光源8の安定時間)をデフォルトで記憶するメモリである。PC20にてATP測定処理が開始されると、この初期値メモリ24bに記憶される測定条件が設定値メモリ23aに書き込まれて記憶される。従って、操作者にて任意の測定条件が入力されなかった場合には、初期値メモリ24bにデフォルトで記憶されている測定条件に従って、測定装置1で測定が実行されることとなる。また、操作者によって測定条件が入力されると、入力された項目については、その入力された値に基づいて測定が実行されることとなる。
【0103】
次に、図4のフローチャートを参照して、上記のように構成されたATP検出システム100の動作について説明する。図4は、PC20で実行されるATP測定処理を示したフローチャートである。ATP測定処理は、操作者の入力操作に基づいて、測定装置1に細胞組織SにおけるATPの濃度分布の測定を実行させる処理である。このATP測定処理は、操作者が所定の入力操作により、PC20にATP測定の実行を要求することで開始される。
【0104】
図4に示すように、このATP測定処理では、まず、光源点灯コマンドを測定装置1に送信する(S1)。これにより、測定装置1においては、光源8が点灯し、照射光(励起紫外光)が透明基板10の端面へ入射される。尚、CPU21は、光源点灯コマンドを測定装置1に送信したタイミングで、光源8を安定させるに必要な時間(安定時間)をタイマにセットする。
【0105】
次に、初期値メモリ24bの値(デフォルトで記憶されている測定条件)を設定値メモリ23aに書き込み(S2)、操作者から入力に基づいて処理を実行するための各種コマンドが表示されたメイン画面をLCD27に表示する(S3)。これにより、メイン画面に表示されたコマンドが所定の入力操作によって入力されると、PC20は、入力されたコマンドに従って処理を実行する。このため、コマンドが操作者によって入力されたかを確認し(S4)、コマンド入力がなければ(S4:No)、コマンドの入力を待機する。一方、コマンドが入力されれば(S4:Yes)、入力されたコマンドは何かを確認し(S5)、入力されたコマンドが終了コマンドであれば(S5:終了コマンド)、測定の終了要求であるので、光源消灯コマンドを測定装置1に送信する。これにより、測定装置1では光源8が消灯する。その後、PC20での処理を終了するべく、RAMクリアやデータ保存、出力画面の消去などを行う終了処理を実行して(S7)、このATP測定処理を終了する。
【0106】
また、S5の処理で確認した結果、入力されたコマンドが測定実行コマンドであれば(S5:測定実行コマンド)、ATP測定の実行要求であるので、光源8が安定したか、即ち、タイマが所定時間(安定時間)の経過を示しているかを確認し(S8)、ここで、安定時間が経過していなければ、光源8が安定していないと判断して(S8:No)、安定時間が経過するまで以降の処理を待機する。一方、安定時間が経過していれば、光源8が安定したと判断し(S8:Yes)、測定実行コマンドと設定値メモリ23aに記憶される測定条件(測定時間(露光時間)、タイムラプス、撮影フレーム数、光源8の照射光量(印加電圧)、アンプゲイン)とを測定装置1に出力する(S9)。これにより、測定装置1では、指定された光量が光源8から照射されるとともに、指定された時間、CCD15による撮像信号の取り込みが実行される。尚、測定実行コマンドの測定装置への出力に際しては、CPU21は、設定値メモリ23aに記憶される測定時間をタイマにセットする。
【0107】
続いて、PC20においては、測定データ、即ち画像データを測定装置1から受信したかを確認し(S10)、未受信であれば(S10:No)、受信を待機し、受信した場合には(S10:Yes)、受信した画像データを測定値メモリ23bに記憶する(S11)。そして、1フレームの画像データの受信が完了したかを確認し(S12)、未完了であれば(S12:No)、S11の処理に移行して1フレームの画像データの受信を完了するまで、S11,S12の処理を繰り返す。また、S12の処理で確認した結果、1フレームの画像データの受信を完了していれば(S12:Yes)、測定値メモリ23bに記憶される画像データを所定の座標に対応つけて画像メモリ23cに書き込み(S13)、続いて、画像メモリ23cに記憶される画像データをLCD27に出力し、表示画面を更新する(S14)。これにより、メイン画面の予め定められた所定位置に、測定装置1にて撮像された細胞組織Sの蛍光画像が表示される。
【0108】
尚、LCD27へ画像データを表示するタイミングで、画像メモリ23cに記憶される画像データは非図示のステップによりHDD24の所定のエリアに書き込まれて記憶される。
【0109】
その後、測定時間終了したかをタイマの値によって確認し(S15)、測定時間が終了していない場合は(S15:No)、その処理をS10の処理に移行して、測定時間が終了するまで、S10〜S15の処理を繰り返す。一方、S15の処理で確認した結果、測定時間が終了していれば(S15:Yes)、その処理をS4の処理に移行する。尚、S15の処理を経てS4の処理に移行した場合には、画像メモリ23cに記憶される画像データが継続して表示される。
【0110】
更に、S5の処理で確認した結果、入力されたコマンドが条件設定コマンドであれば(S5:条件設定コマンド)、操作者からの測定条件の変更要求であるので、測定条件の入力画面を表示する(S16)。この入力画面においては、操作者によるキーボードからの入力に基づいて、任意の測定条件を入力できる入力欄が設けられると共に、操作者が測定条件の入力完了を示すコマンドを入力できるように構成されている。CPU21は、この入力画面において測定条件の入力完了を示すコマンドが入力されたかを監視し(S17)、測定条件の入力完了を示すコマンドが入力されていなければ(S17:No)、その入力を待機し、一方、測定条件の入力完了を示すコマンドが入力されていれば(S17:Yes)、入力欄に入力された測定条件を設定値メモリ23aに書き込み(S18)、先に記憶される対応する値を更新する。そして、各処理を実行した後(S19)、その処理をS4の処理に移行する。
【0111】
S18の処理の後に実行される各処理(S19)においては、LCD27の表示画面をメイン画面に切り替える処理を実行される。また、例えば、入力欄に入力された値が測定装置1にて実行できる範囲を超えていた場合には、エラーメッセージを表示するといった処理が実行される。
【0112】
加えて、S5の処理で確認した結果、入力されたコマンドが終了コマンド、測定実行コマンド、条件設定コマンド以外のその他のコマンドであれば(S5:その他)、入力されたコマンドに応じた処理を各処理(S19)において実行し、その処理をS4の処理に移行する。尚、その他のコマンドとしては、測定装置1のキャリブレーションを実行するコマンドなどである。キャリブレーションが要求された場合には、測定装置1の光検出器12で検出されたデータがLCD27に表示される。これにより、操作者は、LCD27に表示される検出データを視認しつつ、光源8の入射角調整などを実行できる。
【0113】
以上、説明したように、本実施形態のATP検出システム100によれば、細胞組織から放出されたATPの濃度分布を、組織構造と対応つけて検出することができる。このため、細胞組織がどのようにATPを放出しているか、いずれの部位からATPを放出しているかを、明らかとすることができる。
【0114】
例えば、脳における炎症反応は進行性であることが多いが、本ATP検出システム100によれば、脳の炎症反応に対し、ATPが放出されている位置や、その経時変化を検出し得るので、得られた検出結果に基づき、医師が行う診断や治療等を円滑に進め易くすることができる。
【0115】
更には、ATP検出システム100を用いて、ATPの放出状況や時間変化、空間パターンを観察することで、神経保護効果のある薬の開発、スクリーニング、治療法の検討を行うことができる。また、ATP検出システム100にて生鮮食料品の検査を行うことにより、鮮度の評価を行うことも可能となる。
【0116】
尚、本実施形態においては、ヌクレオチド関連化学物質として「ATP」を用いて説明したが、当然のことながらリン酸供給源となるヌクレオチド関連化学物質であれば、本システムを利用して細胞組織上のヌクレオチドを検出することができる。これによれば、例えば、食品中に含まれるリン酸成分、ヌクレオチド成分の測定を行うことができる。
【0117】
尚、上記実施形態においては、ATP検出システム100は、穿刺や切り出しによって得られる細胞組織Sを外部に(生体外に)設置された透明基板10に載置して測定を行うように構成されたが、透明基板10をプローブ状の光ファイバの一部分に形成すると共に、GAPやNADを供給するラインや、光ファイバを介して透明基板10に対向する位置にCCDを設けたカテーテルとし、生体内に挿入された状態で測定を行う構成としても良い。
【0118】
また、上記実施形態において基板保持部16は、固定されたものとして説明したが、搬送用モータを設け、PC20から入力される位置制御命令に従って、透明基板10を上下左右の任意の位置に移動できるようにしても良い。これによれば、光源8からの入射光と透明基板10、測定対象の細胞組織Sとの位置関係を微調整することが容易となり、高精度な測定を実現することができる。
【0119】
更に、上記実施形態においては、透明基板10の端面に励起光を入射し、透明基板10の下方に検出器であるCCDカメラユニット13を配置する構成としたが、これに限られるものではなく、励起光を入射する方法はプリズム法、グレーティング法などを用いても良い。更に、細胞組織Sから放射される蛍光を、透明基板10の上方において検出する構成としても良く、導波路である透明基板10を伝播したものを検出する構成としてもよい。
【0120】
加えて、透明基板10の端面真横に光源ユニット7を対向させ、真横から励起光を入射するように光源8を設置してもよい。かかる構成でも、エバネッセント光を透明基板10に発生させることができ、細胞組織S表面のATPを検出することができる。また、光路調整のためのレンズ等の設備が不要となり、装置全体を小型化できる。
【0121】
尚、請求項に記載の細胞放出物質検出方法としては、上記実施形態において説明したATP検出システム100を利用して実行させたATPを検出する一連の工程、即ち、上記実施形態において、GAPDHを固定化した透明基板10に載置した細胞組織Sに向かって、GAPとNADとが透明基板10の表面に供給された状態で、光源ユニット7から励起光を照射し、細胞組織Sから放射される蛍光をCCDカメラユニット13で検出し、検出された蛍光に基づいてPC20にて画像を形成表示する一連の工程が該当する。
【実施例】
【0122】
次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例として、上記したATP測定システム100にて、ラット大脳を測定対象の細胞組織とし、組織細胞上におけるATPの濃度分布を測定した。
(実施例1)
【0123】
出生直後の新生仔ラット(Normal P23)を用意し、70%エタノールにて全身の消毒を行い、滅菌下にて断頭した。小脳を傷付けないように、延髄側より頭皮及び頭蓋骨を切り、切開した。その後、全脳を先曲ピンセットにて持ち上げ摘出し、生理食塩水内で血液等を洗浄した。この後に全脳をシャーレ上に移し、スカルペルナイフによって延髄及び間脳を切り離し、大脳を摘出した。大脳に付着したクモ膜及び血管を、先細ピンセットを用いて剥がし取り、再度生理食塩水にて洗浄した後、単離した大脳をロータリースライサーもしくはクリオスタット等にて400μmにスライスした。
【0124】
このスライス片(細胞組織S)を広口スポイトですくい取り、余分な水分を吸い取とってから、測定直前にHEPES緩衝液に浸した後、測定装置1の透明基板10上に載置した。次いで、GAPとNADとを添加し、測定開始から10s後に、グルタミン酸1mMを透明基板10上のスライス片に滴下して、蛍光画像の撮像を行った。グルタミン酸は、脳細胞へ損傷を与えることが知られており、グルタミン酸投与により模擬的に虚血状態が誘発されることとなる。
【0125】
蛍光画像の撮影に先立ってPC20においてATP測定処理を起動し、光源8を点灯させた。また、測定条件は、露光時間300s、ゲイン最大、タイムプラス1.0s、フレーム数130で設定された。
【0126】
本実施例では、光源8には、365nmの紫外波長のLED(日亜化学NSHU550B(紫外発光LED)を用い、透明基板10の下方にCCDカメラを装備した倒立型蛍光顕微鏡にて観察を行った。また、透明基板10としては、GAPDを表面に固定した石英ガラス板(25mmx25mmx1mm)を用いた。
【0127】
結果を図5および図6に示した。図5(a)は、上記手順で準備した大脳のスライス片を可視光で観察した状態を示した図である。図5(b)は、図5(a)に示したスライス片を蛍光観察した結果を示した図であり、グルタミン酸投与後のサンプル片の蛍光画像である。図6は、図5(a)に示した各位置a〜hのそれぞれの蛍光強度の経時変化を示した図である。
【0128】
図5(a)に示した光学画像と図5(b)に示した蛍光画像とは対応しており、いずれの図においても、紙面左側が大脳皮質外方である。大脳皮質は6層の層状構造物であり、図5においては、紙面左下方から右上方に向かって、1層〜6層の順に積層された状態になっている。図5(b)において白い部分が蛍光発光の箇所である。
【0129】
図5(a)、図5(b)において、大脳皮質の1層と2層とに強く蛍光が生じていることが示されている。また、図6に示した各位置a〜hそれぞれに対応する8つのグラフは、
横軸に時間(秒)、縦軸に蛍光強度を示している。尚、蛍光強度は、最大値を4096とする相対値である。図5、図6からも分かるように、サンプル片の位置a,b,c部分の蛍光強度が明確に上昇していることが示されている。
【0130】
大脳皮質では、1層と2層とにグリア細胞が多く分布しており、グルタミン酸投与によって脳虚血状態が誘発されたサンプル片において、この1層と2層とに強く蛍光が生じていることは、生理学上の知見とがよく一致していた。即ち、上記結果は、損傷を受けた細胞組織からATPが放出されたことを示すものであり、本発明の細胞放出物質検出装置を用いれば、細胞から放出されたヌクレオチド関連物質の細胞組織上の濃度分布を画像化して検出できることが示された。
【符号の説明】
【0131】
7 光源ユニット(光照射手段)
10 透明基板(基板、細胞放出物質検出用固定化酵素基板)
15 CCD(検出手段)
100 ATP検出システム(細胞放出物質検出装置)
S13,S14 (画像形成手段の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞組織が載置される載置面側に、基質をリン酸化するリン酸化反応とリン酸化された後の基質を酸化する酸化反応とを触媒する酵素を有する基板と、
その基板上での反応に伴って蛍光元物質から生成される蛍光物質を励起する励起光を、前記基板上の細胞組織に向けて照射する光照射手段と、
その光照射手段によって照射された励起光によって蛍光物質から放射される蛍光を検出する検出手段と、
その検出手段により検出された蛍光に基づいて画像を形成する画像形成手段とを備えており、
その画像形成手段により形成された画像により、前記基板に載置された細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質の濃度分布を検出することを特徴とする細胞放出物質検出装置。
【請求項2】
前記酵素はグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素であることを特徴とする請求項1に記載の細胞放出物質検出装置。
【請求項3】
前記基板は、前記酵素が載置面側表面に化学結合によって固定化されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞放出物質検出装置。
【請求項4】
前記光照射手段は、前記基板の側面へ励起光を入射する光源部を備えており、
その光源部から前記基板の側面に照射される励起光により、前記基板の載置面にエバネッセント光を発生させるよう構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の細胞放出物質検出装置。
【請求項5】
前記検出手段は、前記光照射手段が照射する励起光の光路と重ならない位置に配設されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の細胞放出物質検出装置。
【請求項6】
細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質の濃度分布を検出する方法であって、
基質をリン酸化するリン酸化反応とリン酸化された後の基質を酸化する酸化反応とを触媒する酵素を有する基板に載置された細胞組織に向かって、基質と当該酵素反応に伴って蛍光物質に変換される蛍光元物質とが基板上に共存する状態で、蛍光物質の励起光を照射する光照射工程と、
その光照射工程により照射された励起光によって励起された蛍光物質から放射される蛍光を検出する蛍光検出工程と、
その蛍光検出工程により検出された蛍光に基づいて画像を形成する画像形成工程とを備え、
その画像形成工程により形成された画像により、細胞組織から放出されたヌクレオチド関連化学物質の濃度分布を検出することを特徴とする細胞放出物質検出方法。
【請求項7】
前記酵素はグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素であることを特徴とする請求項6に記載の細胞放出物質検出方法。
【請求項8】
前記酵素は基板表面に化学結合によって固定されており、細胞組織はその基板表面に載置されることを特徴とする請求項6又は7に記載の細胞放出物質検出方法。
【請求項9】
平滑面を有する透光性基板の表面上にグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素が化学的結合によって担持されていることを特徴とする細胞放出物質検出用固定化酵素基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40800(P2013−40800A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176342(P2011−176342)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】