説明

細胞断面解析装置、細胞断面解析方法、及び細胞断面解析プログラム

【課題】細胞の断面形状を評価する。
【解決手段】細胞と液体とを含む系を第1の方向に移動させながら顕微鏡で焦点を合わせて観察し、鉛直方向の位置が異なる複数の合焦画像を、前記第1の方向と交差する第2の方向と前記第1の方向及び第2の方向と交差する第3の方向とにより画定される複数の2次元平面画像として撮像する撮像機構と、前記撮像機構により撮像された前記複数の合焦画像のそれぞれに対して画像を鮮鋭化する補正処理を行う画像補正部と、前記画像補正部により補正された後の前記複数の合焦画像に基づいて、前記2次元平面上の任意の点を通り、前記第2の方向又は前記第3の方向のいずれかの断面を、前記複数の合焦画像をつなぎ合わせるように再構成し疑似断面画像を生成する画像処理部と、を有することを特徴とする細胞断面解析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞断面解析技術に関し、特に、剥離細胞の断面画像解析により剥離細胞を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野等において、皮膚などの自己の細胞を増殖させて人体に移植する場合、あるいは、ES細胞、iPS細胞などの幹細胞を心筋など特定の機能に分化させた細胞を人体に移植する場合等において、角膜、皮膚等の平面状の組織については、シャーレ等の培養皿を用いて、細胞をシート状に増殖させて移植する方法が進められている。この方法では、培養皿に細胞を播種して一定期間培養し、シート状に形成された細胞群をシャーレの底板などの基板から剥離して移植などに利用する。
【0003】
基板からの細胞群の剥離を促進する方法として、細胞剥離性を有する薬剤を用いて細胞群を剥離する方法、温度条件により細胞接着性が変化する温度応答性ポリマーにより被覆された基板表面にて細胞を培養したのち温度コントロールにより細胞群を剥離する方法(下記特許文献1)等が知られている。薬剤や温度コントロールなどによる剥離刺激を加えて細胞群を剥離する場合に、基板から剥離せず接着したままの細胞が一定の割合以上に多いと、形成されたシート形状が破壊され移植に使用できなくなる。従って、品質管理上、細胞培養用基板の表面の、剥離刺激が加えられた際の細胞の剥離性能を非侵襲的に計測し管理することが求められている。
そのために、細胞の側面方向からみた断面の解析、いわゆる断面解析が重要となる。
【0004】
培養細胞の断面方向の状態を物理的に観察する方法として、顕微鏡を倒立させてシャーレを側面方向から観察する方法や、超小型水中カメラをシャ−レに沈め側面方向から観察する方法等が考えられる。前者は通常の円形シャーレでは実現困難なため、観察時のみ薄型の特殊な方形シャーレを準備して移し替える必要があり、培養細胞に侵襲を加えてしまうという問題がある。一方、後者の超小型水中カメラでは、現状では、顕微鏡並みの高倍率の画像を得ることが困難である。
【0005】
このように、培養皿を側面方向から撮影する方法を実現することは難しいため、Z軸方向に培養皿をスライスして複数フレーム撮影し、画像再構成により培養皿を仮想的に側面方向から観察した断面像を間接的に作成する方法が考えられる。
【0006】
このような方法を実現するための基礎技術として、光学顕微鏡の焦点を制御して深さ方向の段差計測を行う手法は、下記のように実現されている。
(1)一般的な光学顕微鏡を用いたZ方向計測手法
特許文献2「微細パターンの段差測定装置」
この方法は、一般的な光学顕微鏡を用いて、撮影ポイントごとに焦点制御を行うことにより、電子デバイスの加工段差の3次元計測を行う方法の提案である。
(2) 特許文献3「カラー共焦点顕微鏡」
段差測定に適した3次元計測用顕微鏡の提案である。
光学顕微鏡で焦点制御を行うと画像のボケが生じるため、光源をビーム状に絞り2次元的に走査しながら、3次元方向の段差計測を高精度に行う方法が提案されている。
(3)特許文献4「共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いた撮影手法」
死角に存在する対象物を取得する方法として、光の屈折効果を活用し共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いた撮影手法が提案されている。
(4)特許文献5「光学像再構成装置」
一般的な光学顕微鏡を用いて、焦点制御を行いながら、複数枚の画像を撮影して断面像を得る手法で、試料対象物の死角部分の形状を取得するため、試料を管状の容器に収納し、回転させながらマルチスライス撮影を行う手法が提案されている。
(5)特許文献6「共焦点レーザー走査型顕微鏡及びその光学的断層像表示方法」
レーザー走査型顕微鏡を用いて、対物レンズを培養液中に浸入させ、培養液と試料との光学的な屈折率を考慮して、取得される画素単位の断面像に対して補正を加える手法を提案。1次元走査線ごとに断面像をリアルタイムに取得できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3441530号公報
【特許文献2】特開平8−194737号公報
【特許文献3】特許第4065129号公報
【特許文献4】特開平7−199073号公報
【特許文献5】特開平6−259533号公報
【特許文献6】特開平7−199073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2に記載の技術では、取得される各スライス画像のいずれも、ピントがボケた状態になるため、断面画像の映像化の用途には適用することが困難であった。
【0009】
特許文献3は、特許文献2を改善したものであり、共焦点レーザ走査型顕微鏡が提案されているが、光学顕微鏡に比べ高価であり、光学顕微鏡のように透過光源を用いて、対象物の死角になる裏側のスライス像を容易に取得できないという問題がある。
【0010】
特許文献4は、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いた撮影手法が提案されているが、通常の細胞観察用の光学顕微鏡で取得される透過画像とはかなり異なるという問題がある。
【0011】
特許文献5では、剥離細胞のように浮遊している対象物に対しては適用できない。また、光学顕微鏡を用いた断層像の取得方法が提案されているが、試料を円筒形の容器に固定させ容器を回転させながら撮像するため、培養細胞には適用できない。
【0012】
特許文献6では、走査型でない通常の光学顕微鏡では画素単位の補正を行うことが難しいため、適用することが困難である。また、培養液に対して侵襲を加える必要があり、非侵襲的な分析が難しいという問題がある。
【0013】
通常の光学顕微鏡を用いて通常の培養皿を深さ方向にマルチスライス撮影し断面方向の画像を仮想的に構築できるようにするためには、以下の課題がある。
(1)収集されるスライス画像の殆どのピントがボケる。フォーカスが合っている合焦状態にある箇所は一部であり、大部分がフォーカスが合っておらず、画像が不鮮明になる。
(2)被写界深度の影響によるZ方向の分解能が低下する。フォーカス面が不鮮明であるだけでなく、Z軸上下の像も映り込んでしまう。
(3)対象物の対物レンズと反対方向の像が死角になる。対象物の裏側の形状や対象物の裏側に重なって存在する別の対象物を観察できない。
本発明は、上記の課題を解決し、細胞の断面を高精度に観測すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題(1)に対しては、シャープネス補正を加えて画像処理により鮮鋭化する方法を提案する。
【0015】
上記課題(2)に対しては、各スライス画像に対して、上下に隣接するスライス画像の成分を所定量だけ画像処理により減算する方法を提案する。
【0016】
上記課題(3)に対しては、各スライス面を透過光源により撮像し、各スライス画像に対して、裏側に隣接するスライス画像の成分を所定量だけ画像処理により強調させる方法を提案する。即ち、透過光源を用いて光学顕微鏡の焦点を制御して深さ方向を変化させたマルチスライス撮影を行い、取得した各スライス画像に対して鮮鋭化の画像処理を加えて、焦点ボケの改善を行う。
【0017】
更に、隣接スライス画像間で差分強調処理を加え、被写界深度の影響によるZ方向の分解能低下の問題を改善させ、死角に入った不鮮明な画像を強調させる。このようにして補正されたマルチスライス画像より指定された位置の水平面または垂直面の断層画像を構築するための画素を抽出する。
【0018】
本発明の一観点によれば、細胞と液体とを含む系を第1の方向に移動させながら顕微鏡で焦点を合わせて観察し、鉛直方向の位置が異なる複数の合焦画像を、前記第1の方向と交差する第2の方向と前記第1の方向及び第2の方向と交差する第3の方向とにより画定される複数の2次元平面画像として撮像する撮像機構と、前記撮像機構により撮像された前記複数の合焦画像のそれぞれに対して画像を鮮鋭化する補正処理を行う画像補正部と、前記画像補正部により補正された後の前記複数の合焦画像に基づいて、前記2次元平面上の任意の点を通り、前記第2の方向又は前記第3の方向のいずれかの断面を、前記複数の合焦画像をつなぎ合わせるように再構成し疑似断面画像を生成する画像処理部と、を有することを特徴とする細胞断面解析装置が提供される。
【0019】
前記撮像機構により取得されたマルチスライス画像について、鮮鋭化の補正を行った後に、マルチスライス画像を移動方向につなぎ合わせることで、より鮮明で精度の良い疑似断面画像を得ることができる。
【0020】
前記撮像機構は、前記合焦画像を所定の時間間隔で繰り返し撮像して複数の動画像を取得し、前記画像処理部は、前記複数の動画像に基づいて疑似断面動画像を生成することが好ましい。マルチスライス画像としては、合焦画像を所定の時間間隔で撮影を繰り返すことにより得られた動画像を用いることで、より精度の良い疑似断面動画像を得ることができる。
【0021】
前記画像補正部は、前記複数の合焦画像を鮮鋭化する処理として、アンシャープマスクに基づくアルゴリズムにより、前記複数の合焦画像よりも焦点がぼけた焦点ぼけ画像を作成し、前記複数の合焦画像と、対応する前記焦点ぼけ画像との差分画像を所定の割合だけ各々加算することにより補正を行うことが好ましい。
差分画像を考慮することで、より鮮明な画像を得ることができる。
【0022】
前記画像補正部は、前記鮮鋭化する処理に加え、前記複数の合焦画像に対して、前記鉛直方向の第1の方向又は前記第1の方向と反対の方向に1フレーム分だけ隣接する静止画または動画のフレームとの差分画像を各々作成し、前記各静止画または各動画のフレームに対して当該静止画または動画のフレームに対応する差分画像を所定の割合だけ加算することにより補正を行っても良い。
【0023】
第1の方向において1つ前の画像、1つ後の画像との差分を現在の画像に加算・減算することで、写り込み等の影響を抑制することができる。
【0024】
前記撮像機構は、前記液体として培養液を入れる培養皿の底板表面に対して焦点があったZ1位置と、前記培養皿中の培養液面に対して焦点があったZ2位置とを設定し、光学顕微鏡により焦点を前記Z1位置と前記Z2位置との範囲で所定の間隔で複数の個所に移動させながらZ方向の位置が異なる複数の画像を撮像することを特徴とする。
【0025】
例えば操作部により指定された前記2次元平面上の任意の点を含む平面であって前記第2の方向と前記第1の方向により形成される平面又は前記第3の方向と前記第1の方向により形成される平面で切った少なくともいずれかの前記疑似断面画像を、前記2次元平面の画像と対応させて表示画面に表示させる表示制御部を有するようにすると良い。疑似断面画像と平面画像との位置を対応付けて表示することで、よりわかりやすい細胞の解析が可能となる。
【0026】
本発明の他の観点によれば、細胞と液体とを含む系を第1の方向に相対的に移動させながら顕微鏡で焦点を合わせて観察し、前記第1の方向の位置が異なる複数の合焦画像を、前記第1の方向と交差する第2の方向と前記第1の方向及び前記第2の方向と交差する第3の方向とにより画定される複数の2次元平面画像として撮像する撮像ステップと、前記撮像機構により撮像された前記複数の合焦画像のそれぞれに対して画像を鮮鋭化する補正処理を行う画像補正ステップと、前記画像補正部により補正された後の前記複数の合焦画像に基づいて、前記2次元平面上の任意の点を通り、前記第2の方向又は前記第3の方向のいずれかの断面を、前記複数の合焦画像をつなぎ合わせるように再構成し疑似断面画像を生成する画像処理ステップと、を有することを特徴とする細胞断面解析方法が提供される。「細胞と液体とを含む系を第1の方向に相対的に移動させながら顕微鏡で焦点を合わせて」とは、系と顕微鏡とのうち少なくともいずれか一方を移動させることを意味する。
【0027】
本発明は、上記に記載の細胞断面画像解析方法をコンピュータに実行させるための細胞断面解析プログラムであっても良く、当該プログラムを記録するコンピュータ読み込み可能な記録媒体であっても良い。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、物理的に横方向から観察困難な細胞の断面を疑似断面画像を生成することにより疑似的に観察することができる。
【0029】
また、細胞断面画像の作成精度の向上によって、細胞培養容器内の細胞が接着細胞であるか剥離細胞であるかを判定し、細胞接着表面の細胞剥離性能の評価が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態による細胞断面画像の解析技術の対象の一例を示す図である。
【図2】本実施の形態による細胞画像解析技術の原理を示す図であり、マルチディメンジョナル細胞断面解析法の概要を示す図である。
【図3】マルチディメンジョナル細胞断面解析法の原理図であり、図2に対応する図である。
【図4】本実施の形態による断面画像解析システムの一構成例を示す図であり、図2に示す構成に加えて、必要な構成を合わせて示す図である。
【図5】本実施の形態による断面画像解析装置の一構成例を示す機能ブロック図であり、図4に示す構成のうち解析機構を中心にした構成を示す図である。
【図6】本実施の形態による断面画像解析システムにおける処理に流れを示すフローチャート図である。
【図7】シャープネス補正(アンシャープネスマスク)により、さらに、ボケを増す処理を行う処理の流れを示すフローチャート図である。
【図8】シャープネス補正(アンシャープネスマスク)により、さらに、ボケを増す処理を行う処理の流れを示すフローチャート図である。
【図9】シャープネス補正(アンシャープネスマスク)により、さらに、ボケを増す処理を行う処理の流れを示すフローチャート図である。
【図10】ステップS6のZ方向隣接画像との差分強調処理の流れの詳細を示すフローチャート図である。
【図11】各静止画に対する差分強調処理の詳細な流れを示すフローチャート図である。
【図12】補正前の顕微鏡画像の一例を示す図であり、Z=1から62までの画像を示す図である。
【図13】図12に対応する補正後の画像を示す図である。
【図14】図13に示す補正後の平面画像(Z=30)と、水平方向の直線L1と垂直方向の直線L2で切った断面構造とを、中央部及び、上記画像処理に基づいて得た解析断面画像を下辺及び右辺に示した図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態によるマルチディメンジョナル細胞断面解析法の原理図であり、図3に対応する図である。
【図16】本実施の形態によるマルチディメンジョナル細胞断面解析法の処理の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本実施の形態における用語について定義する。
本発明において「細胞と液体とを含む系」とは、細胞と細胞の周囲の連続相である液体などの流体とを含む系を指す。当該系の細胞には、液体中に遊離した状態で存在する細胞、すなわち遊離細胞と、系内での位置が固定された細胞、すなわち固定細胞とが含まれ得る。「細胞と液体とを含む系」とは、典型的には、細胞培養器具に収容された、細胞と培養液とを含む細胞-培養液系である。細胞-培養液系では、細胞培養器具表面に接着した状態で存在する細胞が固定細胞に相当し、培養液中に遊離した状態で存在する細胞が遊離細胞に相当する。本発明の一実施形態では、細胞-培養液系として、細胞培養器具中で細胞を培養液とともに培養したのち、該器具の細胞接着表面から細胞を剥離するための剥離刺激を付与した状態のものを使用することができる。
【0032】
細胞培養器具は、細胞及び培養液を保持することが可能な部分を有する任意の形状であることができる。典型的には皿形状の細胞培養器具、細胞及び培養液を収容することが可能な凹部が複数連結したマルチウェルプレート、板形状又はフィルム形状の細胞培養器具、表面に凹部が形成された板形状又はフィルム形状の細胞培養器具等が挙げられる。
【0033】
細胞培養器具の細胞及び培養液を保持することが可能な部分の少なくとも一部、典型的には底部の表面が細胞接着表面を形成する。
【0034】
細胞培養器具を構成する材料は、通常細胞培養に用いられるガラス類、プラスチック類、セラミック類等の材料が挙げられるが、細胞培養及び細胞の観察が可能な材料である限りこれらには限定されない。例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等の合成樹脂、ヒドロキシアパタイトセラミックス、アルミナセラミックス、ガラス等で構成することができる。
【0035】
尚、細胞を含む液滴などの培養液自体を用いて、一般的な意味での容器を用いずに評価を行うことも可能である。尚、細胞と液体とを含む系とを含む系を保持可能な器具であれば、どのような形態でも良く、容器の代わりに液滴が保持されるような構成であれば良い。
【0036】
本明細書において細胞剥離性能を評価しようとする細胞接着表面は、評価の目的に応じた処理がされていればよい。典型的には、細胞接着表面は、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー等の、所定の刺激により細胞接着性を変化させて細胞を剥離することが可能な物質により被覆されている。細胞剥離性能を評価しようとする表面は「剥離」という視点に限らず、例えば、親水性ポリマーにより被覆して細胞接着性を低下させ、細胞が接着しないように制御された表面であってもよい。
【0037】
温度応答性ポリマーは細胞培養に使用可能なもののなかから試験の目的に応じて適宜選択することができる。典型的な温度応答性ポリマーとしては、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(疎水性から親水性に変化する温度(水に対する臨界溶解温度(T))=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。
【0038】
pH応答性ポリマーおよびイオン応答性ポリマーは、細胞培養に使用可能なもののなかから試験の目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
剥離刺激としては、細胞接着表面の被覆に上記物質を用いた場合は、使用する物質応じて温度変化、pH変化、イオン濃度変化等の所定の剥離刺激を採用することができる。
【0040】
剥離刺激は、評価の目的に応じて更に他の刺激を採用することもできる。例えば細胞剥離薬剤による化学的な刺激、培養液の流動による機械的な刺激等の中から適宜選択することができる。
【0041】
本発明により解析される細胞の種類は特に限定されず、試験の目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル等の温血動物から採取された種々の細胞を用いた試験において本発明の技術を適用することができる。この温血動物の細胞としては、例えば、角化細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞若しくは間質細胞、又はこれらの細胞の前駆細胞、幹細胞若しくは接着依存性のガン細胞が挙げられる。胚性幹細胞を使用することもできる。
【0042】
本実施の形態では、動画の一例としてビデオカメラで撮影した映像を利用した場合について説明する。もちろん、動画として静止画を連続的に、又は、断続的に撮影するようにしても良く、画像の種類を限定するものではない。動画は、ビデオカメラなどで撮影されたものであってもよいし、一定時間おきにスチルカメラなどで画像を取得するようなものであってもよい。
【0043】
以下の実施の形態では、細胞培養器具として細胞と培養液とを入れた培養皿を用い、細胞中の剥離細胞(基板剥離細胞)を画像処理により検出する技術を例にして説明する。
【0044】
以下に、本発明の実施の形態による細胞画像解析技術、特に剥離細胞の検出のための細胞画像解析装置について、図面を参照しながら説明を行う。
【0045】
本明細書において、疑似断面画像とは、本実施の形態による細胞断面解析処理により得られた画像を指す。直接断面を観察した画像ではないが、後述するように、ほぼ断面画像に近い画像が得られるため、ここでは、疑似断面画像と書する。
【0046】
図1は、本発明の第1の実施の形態による細胞断面画像の解析技術の対象の一例を示す図である。図1に示すように、温度を低下させた後においては、所定の細胞群が培養液とともに培養されている培養皿1内の培養液3内において、所定の細胞群のうち、接着細胞7は、基板、例えば培養皿1の底板1bに接着しており、剥離細胞5は、培養液3中に浮遊しているが、培養液3の摩擦力により培養液3中に静止している。
【0047】
培養皿1の側面から細胞の断面を観察することにより、剥離細胞5と接着細胞7とを区別することができる。この状態で観察する技術としては、培養皿中に例えば超小型水中カメラをもぐらせて側面より近接撮影する方法もある。しかしながら、この方法では、細胞観察に必要な倍率が得にくい上に、特別な装置を用いて側面から特別な技術で観測する必要があるため、実用的でない。
【0048】
また、顕微鏡の鏡筒を倒立させ培養皿を側面方向から撮影する方法もあるが、円形のシャーレ越しでは実際上、観察が困難である。
【0049】
図2は、本実施の形態による細胞画像解析技術の原理を示す図であり、マルチディメンジョナル細胞断面解析法の概要を示す図である。この方法は、顕微鏡の焦点制御によるマルチスライス撮影を行うことにより、断面解析を行うものである。図2に示すように、XYZステージ11上に、培養液3内に細胞5、7が入っている細胞培養皿1を載せて、上から透過光源15からの光を照射し、下から対物レンズ17を有する光学顕微鏡で細胞を観察する。
【0050】
ここで、焦点を培養皿の底板1b上面の位置から培養液の水面3aの位置まで、水面3aの法線方向であるZ方向の異なる位置である焦点面1からN(Nは2以上の整数)まで、光学顕微鏡による観察面をデジタルビデオカメラなどにより撮影する。ここでは、少なくとも1からNまでの複数の静止画を取得する。そして、取得した複数の静止画を基に、静止画中の指定された位置の水平方向および垂直方向の深さ方向の断面画像を作成する。
【0051】
そのために、光学顕微鏡により、培養皿1に対して所定の倍率に拡大して観察する。この際、光学顕微鏡において、例えば、焦点面1から焦点面NまでをN−1等分した間隔で複数の個所に移動させながら焦点を合わせ、Z方向の位置が異なる複数の合焦静止画を撮像する。ここで、Z方向に移動させる範囲は、底板1bの上面から培養液3の水面3aまでの間であり、少なくとも、細胞が含まれる範囲内である。Z方向は第1の方向、X方向は第2の方向、Y方向は第3の方向とすると、第1の方向と第2の方向とは直交し、第1の方向と第3の方向とも直交し、第2の方向と第3の方向とも直交する。
【0052】
図3は、マルチディメンジョナル細胞断面解析法の原理図であり、図2に対応する図である。上記合焦静止画におけるN=5とし、X−Y平面に広がる1から5までの撮像スライス像が得られている。この撮像スライス像は、以下の式で表される。
【0053】
【数1】

x=0,…,Xs-1; y=0,…,Ys-1; z=0,…,Zs-1; c=0,1,2(RGB)
【0054】
ここで、撮像スライス像を、符号S1で示すX−Z平面で切ったX方向の再構成断面像は、以下の式で表される。
【0055】
【数2】

【0056】
一方、撮像スライス像を、符号S2で示すY−Z平面で切ったY方向の再構成断面像は、以下の式で表される。
【0057】
【数3】

【0058】
以上の原理に基づいて、X方向、Y方向などの所望の断面像を再構成することができる。
【0059】
Nを大きくすることで、より高精細な断面画像を再構成して疑似断面画像を求めることができる。
【0060】
図4は、本実施の形態による断面画像解析システムの一構成例を示す図であり、図2に示す構成に加えて、必要な構成を合わせて示す図である。
【0061】
図4に示すように、断面画像解析システムAは、培養皿1をX−Y−Z方向に移動可能とするXYZステージ11と、培養皿1中の細胞に光を照射する位置に設けられた透過光源15と、透過光源が照射された細胞を観察できる位置に対物レンズ17が設けられた動画撮像ビデオカメラ23と、を有している。動画撮像ビデオカメラ23は、静止画を撮影するデジタルスチルカメラで置き換えることができる。
【0062】
さらに、XYZステージ11の移動制御及び位置制御を行うXYZステージコントローラ兼オートフォーカス・ユニット21と、動画撮影ビデオカメラ23の撮影した動画データを記憶するビデオ・フレームメモリ25と、XYZステージコントローラ兼オートフォーカス・ユニット21、ビデオ・フレームメモリ25等を制御する制御用パーソナルコンピュータ27と、画像を観察できるビデオ・モニター31と、を有している。
尚、ここでは、細胞を下から撮影するシステムについて説明したが、上から撮影するようにしても良い。
【0063】
図5は、本実施の形態による断面画像解析装置の一構成例を示す機能ブロック図であり、図4に示す構成のうち解析機構を中心にした構成を示す図である。図5に示すように、本実施の形態による断面画像解析装置は、細胞を観察する顕微鏡51と、顕微鏡の観察画像を撮影する撮像部53と、培養皿又は顕微鏡の対物レンズを移動させる移動機構55と、移動機構により移動させて撮影した画像の補正処理を行う、第1の画像補正部であるシャープネス補正部57と、第2の画像補正部である差分強調処理部61と、断面画像を再構成して疑似断面画像を求める断面画像再構成部62と、断面画像表示処理部63と、出力部65と、操作部67と、メモリ68と、を有している。顕微鏡51と、撮像部53と、移動機構55とにより、撮像機構50が構成される。
【0064】
顕微鏡51は、光学顕微鏡であり、拡大機能と合焦機能とを備えている。撮像部53は、例えば、図4の動画撮像ビデオカメラであり、移動機構55は、XYZステージコントローラ21及びオートフォーカス・ユニット21である。第1の画像補正部であるシャープネス補正部57、第2の画像補正部である差分強調処理部61と、断面画像再構成部62と、断面画像表示処理部63と、が、制御用パーソナルコンピュータ27内の制御プログラムによる制御処理部に対応する。また、出力部65は、ビデオ・モニター31或いはプリンタなどに対応し、操作部67は、マウス、キーボードなどに相当する。メモリ68は、ハードディスクなどの記憶媒体であり、得られたデータ等を記憶する。
【0065】
図6は、本実施の形態による断面画像解析システムにおける処理に流れを示すフローチャート図である。処理内容は、顕微鏡本体における処理、画像処理及び断面像の対話型表示を含む。まず、ステップS1において、顕微鏡51のセットアップを行う。より具体的には、培養皿内の細胞が観察できるように、適切な視野・位置にフォーカスが設定される。ステップS2において、撮像部53の静止画撮影と、撮影した画像のメモリ68或いは記憶媒体への記憶が行われる。
【0066】
ステップS3において、移動機構55によりXYZステージの段階的な移動を行う。ステップS1において、焦点面が底板1b表面に初期設定されているため、底板1b表面から水面3a方向に移動させる。ステップS4において、焦点面が水面内であるか否かを判定する。この判定は、Z方向の位置情報に基づいて行うことができる。ステップS4において、Yesの場合には、ステップS2に戻り、次の撮影を行う。最終的に、ステップS4で、焦点面が水面を超えた場合には(No)、ステップS5に進む。このように、培養皿1において、底板1b表面に対して焦点があったZ1位置と、培養皿1中の水面3aに対して焦点があったZ2位置とを設定し、顕微鏡51により、焦点をZ1位置とZ2位置との範囲で所定の間隔で複数の個所に移動させながらZ方向の位置が異なる複数の静止画を撮像する。
ステップS5において、シャープネス補正部57が、アンシャープマスクを用いて鮮鋭度を補正する。
【0067】
図7から図9までは、シャープネス補正(アンシャープネスマスク)により、さらに、ボケを増す処理を行う処理の流れを示すフローチャート図である。図7において、ステップS5−1で、補正対象のボクセル画像群を準備する。すなわち、
【数4】

【0068】
ステップS5−2において、z=0とする。ステップS5−3において、Image(z,x,y,c)を基に、焦点ボケ画像Image2(x,y,c)を作成する。
【0069】
ステップS5−4において、原画像Image(z,x,y,c)と焦点ボケ画像Image2(x,y,c)との差分画像を原画像に加算することでシャープネス補正を行う。ステップS5−5において、zを1だけインクリメントし、ステップS5−6において、zとZs−1とを比較し、zの方が小さければ、ステップS5−3に戻り処理を継続し、zがZs以上になれば、処理を終了する(End: ステップS5−7)。ここで、Zsは底面1bと水面3aとの距離である。
【0070】
図8は、焦点ボケ画像の作成処理(ステップS5−3)の流れを示すフローチャート図である。まず、ステップS5−3−1でy=0とし、ステップS5−3−2でx=0とし、ステップS5−3−3でc=0とする。c=0は、RGBのうち例えばRである。次いで、ステップS5−3−4で、J=−r、vs=0、ws=0とする。
【0071】
ステップS5−3−5において、i=−rとする。ここで、rは、ボケ半径であり、例えば1画素などの単位で表される。
【0072】
次いで、ステップS5−3−6において、
【数5】

【0073】
次いで、ステップS5−3−7において、iを1だけインクリメントし、ステップS5−3−8において、iとrとを比較する。ここで、iがr以下であれば、ステップS5−3−6に戻り、iがrよりも大きければステップS5−3−9に進み、jを1だけインクリメントする。次いで、ステップS5−3−10において、jとrとを比較し、jがr以下であればステップS5−3−5に戻り、jがrよりも大きければ、ステップS5−3−11において、以下の演算を行う。
【0074】
【数6】

【0075】
次いで、ステップS5−3−12において、cを1だけインクリメントし、ステップS5−3−13において、cと2とを比較し、cが2以上であればステップS5−3−4に戻り、cが2以下であれば、ステップS5−3−14において、xを1だけインクリメントする。次いで、ステップS5−3−15において、xとXsとを比較し、xがXsよりも小さければステップS5−3−3に戻り、xがXs以上であればステップS5−3−16に進み、yを1だけインクリメントする。次いで、ステップS5−3−17において、yとYsとを比較し、yがYsよりも小さければ、ステップS5−3−2に戻り、yがYs以上であれば、処理を終了する(End)。以上の処理により、焦点がぼけた画像を作成することができる。
【0076】
この鮮鋭化する処理として、アンシャープマスクに基づくアルゴリズムにより、始めに各静止画より焦点がぼけた焦点ぼけ画像を各々作成する。
【0077】
次いで、各静止画に対して当該静止画と対応する焦点ぼけ画像との差分画像を所定の割合だけ各々加算することにより各補正画像または各補正動画像を作成する。
【0078】
図6に戻り、ステップS6において、Z方向隣接画素の差分強調処理を行う。
各静止画に対してZ方向に+1だけ隣接する静止画との差分画像を各々作成し、各静止画に対して当該静止画に対応する差分画像を所定の割合だけ加算する。
【0079】
図9は、焦点ぼけ画像と原画像との差分画像の加算処理(ステップS5−4)の流れを示すフローチャート図である。
まず、ステップS5−4−1においてy=0とし、ステップS5−4−2においてx=0とし、ステップS5−4−3においてc=0とする。次いで、ステップS5−4−4において、差分dを求める。
【0080】
【数7】

【0081】
ステップS5−4−5において、dの絶対値とSlとを比較する。ここで、Slは、加算処理のしきい値であり、例えば“0”である。ここで、dの絶対値がSl以上であればステップS5−4−6へ、dの絶対値がSlよりも小さければステップS5−4−7へ進む。ステップS5−4−6では、以下の処理を行う。
【0082】
【数8】

【0083】
ここで、Svは、加算処理レベル(実数値)であり、例えば1.0である。
【0084】
次いで、ステップS5−4−7において、cを1だけインクリメントし、ステップS5−4−8でcと2とを比較する。cが2よりも大きければ、ステップS5−4−4に戻り、cが2以下であれば、ステップS5−4−9に進む。次いで、ステップS5−4−10において、xとXsとを比較する。xがXsよりも小さければ、ステップS5−4−3に戻り、xがXs以上であればステップS5−4−11に進み、yを1だけインクリメントする。次いで、ステップS5−4−12において、yとYsとを比較し、yがYsよりも小さければステップS5−4−2に戻り、yがYs以上であれば、処理を終了する(ステップS5−4−13: End)。以上の処理により、シャープな画像を得ることができる。
【0085】
次に、ステップS6の詳細について、説明する。
ここでは、画像処理手段が、鮮鋭化する処理に加え、各静止画または各動画のフレームに対してZ方向に+1だけ隣接する静止画の差分画像を各々作成し、各静止画に対して当該静止画に対応する差分画像を所定の割合だけ加算することにより補正画像を作成するようにする。尚、上記の処理の代わりに、各静止画に対してZ方向に−1だけ隣接する静止画との差分画像を各々作成し、各静止画に対して当該静止画に対応する差分画像を所定の割合だけ加算することにより補正画像作成するようにしても良い。
【0086】
図10は、ステップS6のZ方向隣接画像との差分強調処理の流れの詳細を示すフローチャート図である。ステップS6−1において、補正対象ボクセル画像である、Image(z,x,y,c)と、そのコピーボクセル画像である、Image2(z,x,y,c)とを定義し、z=0,…,Zs-1; x=0,…,Xs-1; y=0,…,Ys-1; c=0,1,2 (RGB)とする。
【0087】
ステップS6−2において、z=1とする。ステップS6−3において、対象画像Image2(z,x,y,c)と隣接画像Image2(z-1,x,y,c)との差分画像と、対象画像Image2(z,x,y,c)とz方向の隣接画像Image2(z+1,x,y,c)との差分画像を原現画像Image(z,x,y,c)に加算する。ステップS6−4において、zを1だけインクリメントし、ステップS6−5において、zとZs−1とを比較し、前者が小さい場合には、ステップS6−3に戻り、zがZs−1以上である場合には、処理を終了する(ステップS6−6)。以上により、z方向に1つ前の画像と1つ後の画像との差分を求めて、対象画像に加算することで、画像における写り込みの影響を低減することができる。
【0088】
図11は、各静止画に対する差分強調処理の詳細な流れを示すフローチャート図である。まず、ステップS6−3−1において、y=0とし、ステップS6−3−2において、x=0とする。さらに、ステップS6−3−3において、c=0とする。ステップS6−3−4において、以下の演算を行う。
【0089】
【数9】

【0090】
ここで、Sb、Sfは、加算nsよりレベルであり、実数値、例えば1.0である。
【0091】
次いで、ステップS6−3−5において、cを1だけインクリメントする。ステップS6−3において、cと2とを比較し、cが2よりも大きければステップS6−3−4に戻り、cが2以下であればステップS6−3−7に進み、xを1だけインクリメントする。ステップS6−3−8において、xとXsとを比較し、xがXsよりも小さい場合には、ステップS6−3−3に戻り、xがXs以上であれば、ステップS6−3−9においてyを1だけインクリメントする。
【0092】
次いで、ステップS6−3−10において、yとYsとを比較し、yがYsよりも小さければ、ステップS6−3−2に戻り、yがYs以上であれば、処理を終了する(ステップS6−3−11)。
以上の処理により、各静止画像に対する差分を強調する処理を行うことができる。
【0093】
次いで、再び図6に戻り、ステップS7以降において、断面像の対話型表示処理を行う。まず、ステップS7において、画面上の断面像の表示位置の指定を行う。次いで、ステップS8において、X・Y各方向の再構成画像としてステップS6で得られた補正後の画像をZ方向につなぎ合わせるようにして疑似断面画像を作成する。次いで、ステップS9において、ステップS8において作成したX・Y各方向の再構成画像として疑似断面画像を出力部65に出力する。ステップS10において、別の位置を表示させたい場合には(Yes)ステップS7に戻り、表示させない場合には(No)、ステップS11において、処理を終了する(End)。
【0094】
ステップS9において、ステップS8において作成したX・Y各方向の再構成画像として疑似断面画像を出力部65に出力するために記複数のZ方向の位置が異なる補正画像、選択された1点のZ位置に対応する補正画像を画面上に表示し、画面上の任意の1点をXY表示位置として指示できるようにするXY表示位置部として、図5の操作部67、具体的には、マウスなどを用いることができる。
【0095】
上記の各処理を行った後の画像の例について示す。図12は、補正前の顕微鏡画像の一例を示す図であり、Z=1から62までの画像を示す図である。図13は、図12に対応する補正後の画像を示す図であり、ここで、図11のSb=Sf=0.5である。Z=30で合焦していることがわかる。図12の補正前と図13の補正後の平面画像を比較すると、補正後の画像は、Zについてより広い範囲で、細胞の輪郭を明りょうに得ることができることがわかる。
【0096】
図14は、図13に示す補正後の平面画像(Z=30)と、水平方向の直線L1と垂直方向の直線L2で切った断面構造とを、中央部及び、上記画像処理に基づいて得た解析断面画像を下辺及び右辺に示した図である。解析断面画像は、実際の断面画像とは異なるが、本実施の形態による画像処理を行うことで、断面構造を反映した疑似断面構造を得ることができることがわかる。
【0097】
図14の下辺には、Ch1からCh7と明示した7個の細胞の疑似断面構造が明瞭に映っている。水平方向に引かれた白線L3は底板1b表面に対応し、Ch1、Ch2、Ch3、Ch5、Ch7は細胞の裾野が白線L3まで延びているため、底板1b表面に接着していると判断できる。
これに対して、Ch4とCh6は細胞の裾野が白線L3に届いておらず、浮遊(剥離)していると判断できる。
【0098】
同様に、図14の右辺には、Cv1からCv5と明示した5個の細胞の疑似断面構造が明瞭に映っている。垂直方向に引かれた白線L4は、底板1b表面に対応し、Cv1、Cv2、Cv3は細胞の裾野が白線L4まで延びているので底板1b表面に接着していると判断できるのに対し、Cv4とCv5は細胞の裾野が白線L4に届いておらず、浮遊(剥離)していると判断できる。
【0099】
尚、細胞の疑似断面構造において、上端または下端の裾野が放射状に広がっているのは、光の回折(細胞本体の映り込み)によるものであり、上端または下端では補正に使用するための隣接フレームが十分に存在しないため、前述の差分強調処理で補正(削除)しきれていないことに起因する。
【0100】
図14に示す画像では、水平方向の直線L1と垂直方向の直線L2とを、例えばマウスで移動させることで、任意の位置における疑似断面構造を得ることができる。
【0101】
次に、本発明の第2の実施の形態によるマルチディメンジョナル細胞断面解析法について説明する。本実施の形態では、複数の静止画を所定の時間が経過するまで繰り返し取得し、時系列に取得された複数の動画を基に、動画像中の指定された位置の水平方向および垂直方向の深さ方向の断面画像を作成する。
【0102】
図15は、本実施の形態によるマルチディメンジョナル細胞断面解析法の原理図であり、図3に対応する図である。本実施の形態では、光学顕微鏡により、焦点を所定の間隔で複数の個所に移動させながらZ方向の位置が異なる複数の静止画を所定の時間間隔で所定の時間経過するまで繰り返し撮像し、複数の動画像を取得する。図15では、図3と異なり、タイムプラスの撮影が行われる。このタイムプラスの撮像スライス像は、以下の式で表される。
【0103】
【数10】

【0104】
ここで、撮像スライス像を、符号S11で示すX−Z平面で切ったX方向の再構成断面動画像は、以下の式で表される。
【0105】
【数11】

【0106】
一方、撮像スライス像を、符号S12で示すY−Z平面で切ったY方向の再構成断面動画像は、以下の式で表される。
【0107】
【数12】

【0108】
以上の原理に基づいて、X方向、Y方向などの所望の断面動画像を再構成し疑似断面画像を求めることができる。
【0109】
図16は、本実施の形態によるマルチディメンジョナル細胞断面解析法の処理の流れを示すフローチャート図である。
【0110】
まず、ステップS21において、顕微鏡51をセットアップし、視野を設定し、計時を開始する。次いで、ステップS22において、基板位置(底板1b)に焦点を設定する。ステップS23において、撮像部53により静止画を撮影し、メモリ68に記録する。次いで、ステップS24において、XYZステージ11のステップ移動を行い、ステップS25で、焦点面が水面3a内であるか否かを判定する。水面内であれば(Yes)、ステップS23に戻り、水面を超えた場合には(No)ステップS26に進み、指定時間だけ待ってから撮影回数をインクリメントする。ステップS27において、撮影時間が上限を超えたか否かを判定し、上限に至っていない場合には(撮影時間<上限)、ステップS22に戻る。上限を超えていれば、すなわち、撮影時間が上限に達していれば、ステップS28に進む。ここで、撮影時間の上限とは、Zステージを移動させながらの撮影での撮影時間が焦点面が水面から出る直前の撮影時間を指す。
次いで、ステップS28,29において、図6のステップS5、S6と同様の処理を行う。
【0111】
以降において、断面像の対話型表示処理を行う。まず、ステップS30において、画面上の断面像の表示位置の指定を行う。次いで、ステップS31において、X・Y各方向の再構成動画像として疑似断面動画像を作成する。次いで、ステップS32において、ステップS31において作成したX・Y各方向の再構成動画像を出力部65に出力する。ステップS33において、別の位置を表示させたい場合には(Yes)ステップS30に戻り、表示させない場合には(No)、処理を終了する(End)。
【0112】
これにより、複数のZ方向の位置が異なる補正動画像よりXY表示位置のX座標に対応する全ての画素を抽出して2次元のYZ動画像を作成するとともに、XY表示位置のY座標に対応する全ての画素を抽出して2次元のXZ動画像を作成し、2つの2次元のYZ動画像又はXZ動画像を画面に表示させることができる。
【0113】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、特別な装置を用いることなく、培養液中の剥離細胞と接着細胞との疑似断面画像を求めることができる。
従って、剥離細胞と接着細胞との識別を簡単に行うことができるという利点がある。
【0114】
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。上記細胞画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、当該プログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、剥離細胞の検出のための画像処理装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0116】
A…断面画像解析システム、1…培養皿、1b…底板、3…培養液、5…剥離細胞、7…接着細胞、11…XYZステージ、15…透過光源、17…対物レンズ、17…光学顕微鏡、21…XYZステージコントローラ、オートフォーカス・ユニット、23…ビデオカメラ、25…ビデオ・フレームメモリ、27…制御用パソコン、31…モニター、50…撮像機構、51…顕微鏡、53…撮像部、55…移動機構、57…画像補正部1(シャープネス補正部)、61…画像補正部2(差分強調処理部)、62…画像処理部(断面画像再構成部)、63…断面画像表示処理部、65…出力部、67…操作部、68…メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞と液体とを含む系を第1の方向に移動させながら顕微鏡で焦点を合わせて観察し、鉛直方向の位置が異なる複数の合焦画像を、前記第1の方向と交差する第2の方向と前記第1の方向及び第2の方向と交差する第3の方向とにより画定される複数の2次元平面画像として撮像する撮像機構と、
前記撮像機構により撮像された前記複数の合焦画像のそれぞれに対して画像を鮮鋭化する補正処理を行う画像補正部と、
前記画像補正部により補正された後の前記複数の合焦画像に基づいて、前記2次元平面上の任意の点を通り、前記第2の方向又は前記第3の方向のいずれかの断面を、前記複数の合焦画像をつなぎ合わせるように再構成し疑似断面画像を生成する画像処理部と
を有することを特徴とする細胞断面解析装置。
【請求項2】
前記撮像機構は、
前記合焦画像を所定の時間間隔で繰り返し撮像して複数の動画像を取得し、
前記画像処理部は、前記複数の動画像に基づいて疑似断面動画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の細胞断面解析装置。
【請求項3】
前記画像補正部は、前記複数の合焦画像を鮮鋭化する処理として、アンシャープマスクに基づくアルゴリズムにより、前記複数の合焦画像よりも焦点がぼけた焦点ぼけ画像を作成し、前記複数の合焦画像と、対応する前記焦点ぼけ画像との差分画像を所定の割合だけ各々加算することにより補正を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞断面解析装置。
【請求項4】
前記画像補正部は、
前記鮮鋭化する処理に加え、前記複数の合焦画像に対して、前記鉛直方向の第1の方向又は前記第1の方向と反対の方向に1フレーム分だけ隣接する静止画または動画のフレームとの差分画像を各々作成し、前記各静止画または各動画のフレームに対して当該静止画または動画のフレームに対応する差分画像を所定の割合だけ加算することにより補正を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞断面解析装置。
【請求項5】
前記撮像機構は、
前記液体として培養液を入れる培養皿の底板表面に対して焦点があったZ1位置と、前記培養皿中の培養液面に対して焦点があったZ2位置とを設定し、光学顕微鏡により焦点を前記Z1位置と前記Z2位置との範囲で所定の間隔で複数の個所に移動させながらZ方向の位置が異なる複数の画像を撮像することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の細胞断面解析装置。
【請求項6】
指定された前記2次元平面上の任意の点を含む平面であって前記第2の方向と前記第1の方向により形成される平面又は前記第3の方向と前記第1の方向により形成される平面で切った少なくともいずれかの前記疑似断面画像を、前記2次元平面の画像と対応させて表示画面に表示させる表示制御部を有することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の細胞断面解析装置。
【請求項7】
細胞と液体とを含む系を第1の方向に相対的に移動させながら顕微鏡で焦点を合わせて観察し、前記第1の方向の位置が異なる複数の合焦画像を、前記第1の方向と交差する第2の方向と前記第1の方向及び前記第2の方向と交差する第3の方向とにより画定される複数の2次元平面画像として撮像する撮像ステップと、
前記撮像機構により撮像された前記複数の合焦画像のそれぞれに対して画像を鮮鋭化する補正処理を行う画像補正ステップと、
前記画像補正部により補正された後の前記複数の合焦画像に基づいて、前記2次元平面上の任意の点を通り、前記第2の方向又は前記第3の方向のいずれかの断面を、前記複数の合焦画像をつなぎ合わせるように再構成し疑似断面画像を生成する画像処理ステップと
を有することを特徴とする細胞断面解析方法。
【請求項8】
請求項7に記載の細胞断面解析方法をコンピュータに実行させるための細胞断面解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−101512(P2013−101512A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244986(P2011−244986)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】