説明

細胞毒性測定用チャンバー、該チャンバー保存用コンテナ、及び細胞毒性測定用キット

【課題】 気液界面培養を実現する装置など大掛かりな装置を使用することなく、被検気体が細胞に与える毒性をインビトロで容易かつ迅速に測定できる細胞毒性測定用チャンバー、該チャンバー保存用コンテナ、及び細胞毒性測定用キットを提供する。
【解決手段】 細胞毒性測定用チャンバー1は、中空密閉状に形成された本体1aを有し、この本体1aに被検気体を本体1a内へ導入する蓋付き導入口4と、被検気体を本体1a内へ吸引する吸引手段と接続可能な接続口6とを備えるとともに、被検気体と接触させる培養細胞を担持したガラス繊維8を、該培養細胞に供給される培養液が充填された状態で備えている。吸引手段により、被検気体が本体1a内へ吸引されたときに、前記培養液もガラス繊維8から吸引され、ガラス繊維8が本体1a内で露出される。これにより、本体1a内に吸引された被検気体は、直ちに培養細胞と接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、細胞毒性測定用チャンバー、該チャンバー保存用コンテナ、及び細胞毒性測定用キットに関し、詳しくは自動車や工場などの排ガスや微細粉塵体、環境空気などを被検気体として採取し、それらの細胞毒性を測定して生体為害性を評価する技術に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、産業界においては、大気中に浮遊する粉塵が生体に与える影響が問題となっている。特に、工場やゴミ処理場などから排出される粉塵は、生体にとって有害であるケースが多く、これらの粉塵が生体に与える影響を正確に評価するための技術が望まれている。
【0003】
こうした粉塵が生体に与える影響を評価する方法としては、従来、大気中のガスなどをシリンジで一定量吸引し、それに含まれる粉塵の量を測定機器により測定する方法が知られている。しかしながらこの方法は、採取した粉塵の量を測定するにとどまり、これらの粉塵が生体に与える影響、すなわち生体為害性について評価できるものではなかった。また、粉塵の種類については各種存在するが、特定の粉塵種の量的な測定のみでは、混合条件における毒性レベルを測定することはできなかった。
【0004】
そこで、このような粉塵などが生体に与える影響を評価する手法として、特許文献1に記載の技術が提案されている。この特許文献1には、気液界面培養された培養細胞を用いて、気相中の物質が気液界面に存在する細胞に与える影響をインビトロで簡便に評価するための方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−101897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法及び装置においては、気液界面培養を実現するための装置などが必要となり、このような細胞培養を行える研究室あるいは設備の整った場所で測定することが要求される。また、工場などの現場で採取したガスなどの試料をこのような施設に運搬する場合でも、時間的な影響による試料の変質の影響も懸念される。
【0007】
この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、気液界面培養を実現するための装置など大掛かりな装置を使用することなく、排ガスなどの被検気体が細胞に与える毒性をインビトロで容易かつ迅速に測定することのできる細胞毒性測定用チャンバー、該チャンバー保存用コンテナ、及び細胞毒性測定用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被検気体の細胞に対する毒性を測定するための細胞毒性測定用チャンバーであって、中空密閉状に形成された本体を有し、この本体に前記被検気体を本体内へ導入するための蓋付き導入口と、前記被検気体を本体内へ吸引するための吸引手段と接続可能な接続口とを備えるとともに、前記被検気体と接触させる培養細胞を担持した細胞担体を、該培養細胞に供給される培養液が充填された状態で備え、前記吸引手段により、前記被検気体が本体内へ吸引されたときに、前記培養液も前記細胞担体から吸引され、該細胞担体が本体内で露出されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の細胞毒性測定用チャンバーにおいて、吸引手段により吸引された被検気体及び/又は培養液が、吸引方向とは逆向きの反吸引方向へ逆流するのを防止する逆止弁を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の細胞毒性測定用チャンバーにおいて、細胞担体の吸引方向上流側に設けられ、該細胞担体に充填された培養液が吸引方向とは逆向きの反吸引方向へ逆流するのを防止する第1フィルターと、細胞担体の吸引方向下流側に設けられ、該細胞担体からこぼれ出た培養細胞がチャンバー外部へ漏出するのを防止する第2フィルターと、前記第2フィルターのさらに吸引方向下流側に、第2フィルターと離間して設けられ、吸引された培養液がチャンバー外部へ漏出するのを抑制する第3フィルターと、を本体内に備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の細胞毒性測定用チャンバーにおいて、細胞担体がガラスあるいは高分子などの繊維で構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の細胞毒性測定用チャンバーを収容して保存するための保存用コンテナであって、前記細胞毒性測定用チャンバーを固定するための固定具を備えるとともに、前記チャンバーが備える細胞担体に担持された培養細胞に供給される培養液を、ゲル状あるいはゾル状にして内部に充填可能であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の細胞毒性測定用チャンバーと、請求項5記載の保存用コンテナと、を含む細胞毒性測定用キットである。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、中空密閉状に形成された本体を有し、この本体に前記被検気体を本体内へ導入するための蓋付き導入口と、前記被検気体を本体内へ吸引するための吸引手段と接続可能な接続口とを備えるとともに、前記被検気体と接触させる培養細胞を担持した細胞担体を、該培養細胞に供給される培養液が充填された状態で備えているので、前記吸引手段により、前記被検気体が本体内へ吸引されたときに、前記培養液も前記細胞担体から吸引され、該細胞担体が本体内で露出される。これにより、被検気体は、本体内に取り込まれると直ちに培養細胞と接触することができ、細胞に与える毒性をインビトロで容易かつ迅速に測定することができる。しかも、気液界面培養を実現するための装置など大掛かりな装置を使用することもない。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、吸引手段により吸引された被検気体及び/又は培養液が、吸引方向とは逆向きの反吸引方向へ逆流するのを逆止弁により防止できる。また、吸引手段による過度の吸引も抑制され、かかる逆流や過吸引に起因するチャンバー内部品の破損や培養細胞への物理的ダメージを防止できる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、第1及び第2フィルターにより、培養液の反吸引方向への逆流及び培養細胞のチャンバー外部への漏出が防止される。また、第2フィルターと離間して第3フィルターを設けることで、吸引された培養液がこれら2つのフィルター間に溜まり、かかる培養液がチャンバー外部へ漏出することを抑制できる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、細胞担体がガラスあるいは高分子などの繊維で構成されているため、培養細胞の密着性を良好に保つことができる。また、被検気体との接触面積も大きいため、より多くの培養細胞を担持できるとともに、被検気体と培養細胞との反応感度を向上させることができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、固定具を備えた保存用コンテナにより、細胞毒性測定用チャンバーの保存をより安定的に行うことができる。また、かかるコンテナ内部に、ゲル状あるいはゾル状にした培養液を充填することで、チャンバー内の培養細胞をより長期間にわたって安定生存させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、上記のような細胞毒性測定用チャンバー及び保存用コンテナを含む一連の部品群を、細胞毒性測定用キットとして提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施の形態に係る細胞毒性測定用チャンバーを示す縦断面図である。
【図2】同上の細胞毒性測定用チャンバーの平面図である。
【図3】同上の細胞毒性測定用チャンバーが収容された保存用コンテナの平面図である。
【図4】図3の保存用コンテナの側断面図である。
【図5】同上の細胞毒性測定用チャンバーが接続されたハンドポンプを示す模式図である。
【図6】同上の細胞毒性測定用チャンバーが接続された電動などの動力ポンプを示す模式図である。
【図7】同上の細胞毒性測定用チャンバーから細胞担体を取り出して細胞毒性を評価する様子を示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施の形態に係る細胞毒性測定用チャンバー(以下、単にチャンバーと呼ぶ)は、排ガスや粉塵などの被検気体を吸引するための後記する吸引手段(例えば、ハンドポンプや動力ポンプなど)と接続可能に構成されている。また、このチャンバーの内部には、あらかじめマウス由来の3T3細胞などの培養細胞を付着させた細胞担体(3次元担体)が、培養液を充填させた状態で収容されている。
【0022】
測定者は先ず、チャンバーをポンプの先端に取り付けた状態で、被検気体をチャンバー内へ一定量吸引する。すると、この吸引に伴い、細胞担体に充填されていた培養液も吸い出され、細胞担体がチャンバー内で露出した状態となる。これにより、チャンバー内に吸引された被検気体は、直ちに細胞担体内の培養細胞と接触し、反応が開始される。その後、この細胞担体を取り出し、適宜エンドポイントに基づく評価を行うことにより、大掛かりな装置を用いることなく、実際の工場などの現場において、被検気体の細胞毒性をインビトロで容易に測定することができる。
以下、図面を参照しながら、上記チャンバーの具体的な構成について説明する。
【0023】
<チャンバーの内部構成>
図1,2において、チャンバー1は、その本体1aの主要部が略円柱状の中空体に形成され、上部2及び下部3からなる2つの部材に分割可能に構成されている。
【0024】
このうち本体1aの上部2には、被検気体をチャンバー内へ導入するための導入口4が形成されている。導入口4は、通常時には密閉蓋5で覆われていて、被検気体をはじめとする外気がチャンバー1の本体1a内へ流れ込むのを防いでいる。
一方、本体1aの下部3には、被検気体を吸引するための吸引手段が接続される接続口6が形成されている。接続口6は、その内周に吸引手段の先端部との接続をより安定させるための雌ネジが形成されるとともに、通常は吸引手段の先端部などで突き破り可能なパラフィンワックス蓋15で封止されており、同様に外気がチャンバー1の本体1a内へ流入するのを防いでいる。
【0025】
また、本体1aの上部2及び下部3の分割面近傍における下部3の上端内周には、図1に示すように雌ネジ16が形成され、上部2の下端外周に形成された雄ネジ17と螺合することでこれら両部2,3が着脱可能に取り付けられている。また、これら両部2,3には、シリコンなどのゴム製のドーナツ型パッキング7が嵌め込まれ、水密性を保持している。
なお、上部2及び下部3は、硬質プラスチック製で金型成形により製造され、製造時において電子線滅菌などの滅菌処理が施される。また、パッキング7は、一般に市販されているパッキングでもよいが、組み立て前に予めオートクレーブ滅菌などの滅菌処理を施しておくのが好ましい。
【0026】
<細胞担体>
細胞担体としてのガラス繊維8は、あらかじめマウス由来の3T3細胞などの培養細胞が付着され、かつその繊維間に培養液が充填された状態で、本体1aの下部3に収容されている。このガラス繊維8に付着させる培養細胞は、一般的な培養細胞全般の他に、組織幹細胞や胚性幹細胞などの幹細胞やiPS細胞などであってもよい。また、フィーダー細胞が必要となる細胞を使用する場合は、かかるフィーダー細胞もガラス繊維8に含まれていてもよい。また、その繊維間に充填される培養液は、これらの細胞の通常培養に供される一般的な培養液全般が使用可能である。
【0027】
ガラス繊維8は、細胞の接着性が良好で細胞に特段のダメージを与えない利点がある。また、その表面積は非常に大きく、極限まで細胞を増やせることができ、チャンバー内部での細胞と被検気体との反応感度を高めることができる。さらに、ガラス繊維8は、製造時には容易に水洗浄可能で、オートクレーブ滅菌も可能であることから、初期製品の製造コスト面からも好ましい。
なお、ここでは細胞担体としてガラス繊維8を用いた実施例を説明するが、この発明における細胞担体はこれに限定されるものではなく、例えば培養細胞が付着することのできるポリマーや無機物、あるいはそれらのハイブリッド担体なども使用可能である。
【0028】
<プレフィルター>
ガラス繊維8の上面側、すなわち吸引方向Rの上流側には、第1フィルターとしてのプレフィルター9が配設されている。このプレフィルター9は、上部2の内周の全周にわたって形成された係止爪18によって上面及び下面を挟まれるように係止保持され、ガラス繊維8の上面側を覆っている。
このプレフィルター9は、主にガラス繊維8に含まれた培養液などの水分が、導入口4方向へ逆流するのを防止するために設けられている。このプレフィルター9としては、通常市販されているプレフィルターを利用可能であるが、可及的に大きな孔径を有するものが望ましい。特に、被検気体として粉塵を対象とする場合は、孔径選択に注意が必要である。
【0029】
<第2フィルター>
ガラス繊維8の下面側、すなわち吸引方向Rの下流側には、第2フィルター10が配設されている。この第2フィルター10もプレフィルター9と同様に、下部3の内周の全周にわたって設けられた係止爪19によって上面及び下面を挟まれるように係止保持され、ガラス繊維8の下面側を覆っている。
この第2フィルター10は、主にガラス繊維8から何らかの理由でこぼれ出た培養細胞が、チャンバー外部へ漏出してしまうのを防止するために設けられている。また、ガラス繊維8を支持する役割も担っている。この第2フィルター10としては、例えば0.45μm程度の孔径を有するメンブランフィルターを用いるのが望ましい。
【0030】
<第3フィルター>
第2フィルター10のさらに吸引方向下流側には、第3フィルター11が配設されている。この第3フィルター11は、第2フィルター10と離間した状態で、前記係止爪19と下部3の底面によって上面及び下面を挟まれるように係止保持されている。
第3フィルター11は、ガラス繊維8に充填されている培養液が、吸引時になるべくチャンバー外部へ漏出しないようにするために設けられており、さらに接続口6からチャンバー内部へ雑菌などが侵入するのを防止する効果もある。また、ポンプによる過度な圧力での吸引からチャンバー全体をプロテクトする役割もある。この第3フィルター11としては、例えば0.2μm程度の孔径を有する厚めのメンブランフィルターなどを用いるのが望ましい。
【0031】
<逆止弁>
プレフィルター9の上方には、導入口4から吸引された被検気体やガラス繊維8から吸引された培養液が、吸引方向Rとは逆方向の反吸引方向(導入口4方向)へ逆流するのを防止する逆止弁12が配設されている。この逆止弁12は、硬質プラスチックなどで形成され、プレフィルター9を挟持する係止爪18上に設けられた極細ステンレス製の作動バネ13に軽く圧着された状態で配置されている。また、この逆止弁12には、導入口4の内側に嵌め込まれて該弁の動作をガイドする突起状の逆止弁ガイド14が設けられている。
【0032】
逆止弁12は、ポンプによる吸引の際に、上部2内を長軸方向に若干移動することができる。逆止弁12の移動は作動バネ13によって制限され、その移動量はおおむね2ミリ以内である。これにより、例えばポンプによる異常な吸引圧での吸引や、被検気体及び/又は培養液の反吸引方向への逆流が防止され、これに起因するチャンバー内部の各部品の破損、及び培養細胞への物理的ダメージを、簡単かつ安価な構成で防止することができる。
【0033】
<保存用コンテナ>
次に、上記構成に係るチャンバー1を収容保存する保存用コンテナについて、図3,4に基づき説明する。
チャンバー1は、図3に示すように、チャンバー保存ケースとしての保存用コンテナ20に複数個(この例では6個)収容されている。この保存用コンテナ20の内部には、血清などの添加されていない培養液及び寒天ゲル等からなるゲル又はゾルUが充填されており、各チャンバー1はこのゲル又はゾルUに埋入された状態で安定的に収容される。
【0034】
また、保存の際には、図4に示すように、保存用コンテナ20に蓋21が被せられ、密閉状態が保たれる。このときチャンバー1は、図4に示すように、上部2及び下部3の両ネジ16,17が若干その螺合が緩められた状態で収容され、ゲル又はゾルUに含まれる培養液が、チャンバー1の内部にまで達する。これにより、チャンバー1内のガラス繊維8に付着する培養細胞は、ガラス繊維間に充填されている培養液のみならず、ゲル又はゾルUに含まれる培養液ともつながってガス交換を行うことができ、より長期間にわたって安定生存することができる。なお、保存用コンテナ20の内部に充填するゲル又はゾルUの量としては、チャンバー1内のガラス繊維8全体がかろうじて浸る程度が望ましい。
【0035】
また、保存用コンテナ20の底部及び蓋21の上面裏側には、図4に示すように、プラスチック製の固定台22が設けられている。この固定台22は、コンテナ20内におけるチャンバー1の安定性を高めるためのもので、チャンバー1の導入口4側及び接続口6側を保持してその収容安定性を高めている。
また、保存用コンテナ20の搬送の際には、誤って蓋21が開いてしまうことのないよう、コンテナ20と蓋21との間をシールなどの密封部材23で密封した状態とするのが望ましい。また、保存用コンテナ20及び蓋21は、コンタミネーションによる培養液の色の変化が外部から確認できるよう、透明部材で形成されることが望ましい。
【0036】
<チャンバーの使用方法>
次に、チャンバー1の具体的な使用方法について説明する。
まず、チャンバー1を保存用コンテナ20から1つ取り出して、上部2と下部3とを両ネジ16,17で確実にネジ止めし、さらに導入口4先端の密閉蓋5を取り外す。そして、図5,6に示すように、ハンドポンプ30又はエアーポンプ(電動ポンプ)40の先端部31,41に、チャンバー1の接続口6を接続する。
【0037】
そして、この状態でポンプを操作し、被検気体をチャンバー1の本体1a内へ一定量吸引する。吸引の際には、逆止弁12の制御の範囲を超えた急激な吸引による破損などを避けるため、できるだけゆっくりと吸引操作を行うことが望ましい。
【0038】
この吸引操作に伴い、導入口4から被検気体がチャンバー1の本体1a内へ一定量吸引されるとともに、ガラス繊維8を充填していた培養液が接続口6方向へ吸い出される。吸い出された培養液は、その大半が第2フィルター10及び第3フィルター11の間の空隙に溜まり、培養液が充填されていたガラス繊維8は、本体1a内で露出された状態となる。これにより、導入口4から吸引された被検気体が、ガラス繊維8に付着した培養細胞と直接に接触する(細胞への暴露)。
【0039】
その後、チャンバー1を速やかにポンプ30,40から外し、保存用コンテナ20内のゲル又はゾルUに戻して一定時間保持する。この保持時間は、すなわち細胞の暴露時間であり、通常は2時間程度の保持が必要であると考えられるが、乳酸脱水素酵素(LDH)やミトコンドリア呼吸酵素活性(MTT)などのエンドポイントの感度や種類に応じて、適切な保持時間を選択すればよい。なお、この場合、恒温器があれば37℃の状態で保持されるのが望ましいが、25℃程度の室温でも短時間であれば差し支えない。
【0040】
かかる保持時間の経過後、図7(a)〜(d)に示すように、チャンバー1の上部2及び下部3を接続するネジ螺合を外して、ピンセットPなどでガラス繊維8を取り出す。一方、ガラス繊維8が収容されていた下部3の第2フィルター10上には、若干の培養細胞が残存している可能性もある。そこで、これらの残存細胞も測定対象とするために、エンドポイントに使用する乳酸脱水素酵素(LDH)あるいはミトコンドリア呼吸酵素活性(MTT)などの溶液Vを下部3内に少量注ぐ。そして、その溶液Vを市販の6穴プラスチックプレート50の各ディッシュ51に注入し、そこへ予め取り出しておいたガラス繊維8を投入する。溶液Vの量は、ガラス繊維8が完全に浸る程度とすればよい。
【0041】
このように、ガラス繊維8を溶液Vで満たした後、これを一定時間放置する。ミトコンドリア呼吸酵素活性(MTT)溶液を加えた場合は、恒温器内に収容しておくのが望ましい。その後、乳酸脱水素酵素(LDH)の場合は塩酸などの反応停止液を加え、ミトコンドリア呼吸酵素活性(MTT)溶液の場合は酸性イソプパノールを加えて色素を抽出した後、96穴プレートに溶液を分注し、吸光光度計を用いて細胞毒性を測定する。また、比色票を用いて、肉眼である程度の細胞毒性レベルを判定することも可能である。
【0042】
このように、この発明に係るチャンバー1によれば、ポンプなどの吸引手段を用いて吸引した被検気体を直ちに培養細胞と接触させて、その細胞毒性を測定することができる。これにより、大掛かりな装置を使用することなく、被検気体が細胞に与える毒性をインビトロで容易かつ迅速に測定することができる。
【0043】
また、この発明に係るチャンバー1の保存用コンテナ20によれば、その内部に培養液を含むゲル又はゾルを充填させた状態でチャンバー1を保存することができる。これにより、チャンバー1内の培養細胞は、ゲル又はゾルに含まれる培養液ともガス交換を行うことができ、培養細胞をより長期間にわたって安定生存させることができる。
【0044】
さらに、上記チャンバー1及び保存用コンテナ20は、細胞毒性測定用キットの一構成部品として提供することもできる。かかる細胞毒性測定用キットとしては、上記チャンバー1及び保存用コンテナ20に加え、吸引手段としてのハンドポンプや電動ポンプをはじめとする各種ポンプや、細胞担体を収容するための各種プレート、さらにはエンドポイントに使用する各種溶液など、細胞毒性の測定に用いる各部品をひとまとめとして提供することもできる。
【0045】
かかる細胞毒性測定用キットによれば、各種工場などの現場レベルにおいて採取した被検気体の細胞毒性を、その場にいながらインビトロで容易に測定することができる。また、かかる細胞毒性測定用キットの適用範囲は、建造物の取り壊しなどを行う解体現場や煙突の周辺、ガソリンスタンド、有毒ガスや粉塵を扱う工場、ゴミ焼却場、廃棄物による埋め立て地、交通量の多い幹線道路など多岐にわたり、それぞれの現場における環境保全や労働安全・衛生関係にかかる課題の解決に寄与することが期待される。
【0046】
なお、ここで説明した実施の形態はあくまでも好ましい一例を示すものであり、この発明は特許請求の範囲内で適宜変更が可能であることは云うまでもない。例えば、ガラス繊維8に代えて高分子繊維を用いてもよいし、ポンプ30,40に代えてシリンジを用いてもよい。また、保存用コンテナ20に収容されるチャンバー1の数は6個に限定されるものではなく、コンテナの大きさや測定条件などに応じて増減しても何ら差し支えない。また、エンドポイントとしては、乳酸脱水素酵素(LDH)やミトコンドリア呼吸酵素活性(MTT)以外にも、ニュートラルレッドによる赤色の色素抽出、あるいは8−OHdGなどの酸化ストレスマーカーなども利用可能である。さらに、上記6穴プラスチックプレートや96穴プレートは、同じような孔径のディッシュを有するプレートで代用することも勿論可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 細胞毒性測定用チャンバー
1a チャンバー本体
2 上部
3 下部
4 導入口
5 密閉蓋
6 接続口
7 パッキング
8 ガラス繊維(細胞担体)
9 プレフィルター(第1フィルター)
10 第2フィルター
11 第3フィルター
12 逆止弁
13 作動バネ
14 逆止弁ガイド
15 パラフィンワックス蓋
20 保存用コンテナ
22 固定台(固定具)
30 ハンドポンプ(吸引手段)
40 電動ポンプ(吸引手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検気体の細胞に対する毒性を測定するための細胞毒性測定用チャンバーであって、
中空密閉状に形成された本体を有し、この本体に前記被検気体を本体内へ導入するための蓋付き導入口と、前記被検気体を本体内へ吸引するための吸引手段と接続可能な接続口とを備えるとともに、前記被検気体と接触させる培養細胞を担持した細胞担体を、該培養細胞に供給される培養液が充填された状態で備え、
前記吸引手段により、前記被検気体が本体内へ吸引されたときに、前記培養液も前記細胞担体から吸引され、該細胞担体が本体内で露出されることを特徴とする細胞毒性測定用チャンバー。
【請求項2】
吸引手段により吸引された被検気体及び/又は培養液が、吸引方向とは逆向きの反吸引方向へ逆流するのを防止する逆止弁を備えた請求項1記載の細胞毒性測定用チャンバー。
【請求項3】
細胞担体の吸引方向上流側に設けられ、該細胞担体に充填された培養液が吸引方向とは逆向きの反吸引方向へ逆流するのを防止する第1フィルターと、
細胞担体の吸引方向下流側に設けられ、該細胞担体からこぼれ出た培養細胞がチャンバー外部へ漏出するのを防止する第2フィルターと、
前記第2フィルターのさらに吸引方向下流側に、第2フィルターと離間して設けられ、吸引された培養液がチャンバー外部へ漏出するのを抑制する第3フィルターと、を本体内に備えている請求項1又は2記載の細胞毒性測定用チャンバー。
【請求項4】
細胞担体が、ガラスあるいは高分子などの繊維で構成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の細胞毒性測定用チャンバー。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の細胞毒性測定用チャンバーを収容して保存するための保存用コンテナであって、
前記細胞毒性測定用チャンバーを固定するための固定具を備えるとともに、
前記チャンバーが備える細胞担体に担持された培養細胞に供給される培養液を、ゲル又はゾル状にして内部に充填可能であることを特徴とする保存用コンテナ。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の細胞毒性測定用チャンバーと、請求項5記載の保存用コンテナと、を含む細胞毒性測定用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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