説明

細胞洗浄方法および移植物の製造方法

【課題】生体組織または生体組織から分離した細胞に付着している赤血球を短時間で安価に除去する。
【解決手段】生体組織または該生体組織から分離した細胞を、該血球内液の浸透圧より低い浸透圧を有する低浸透圧液により洗浄する洗浄ステップS1を備える細胞洗浄方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞洗浄方法および移植物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトから採取された脂肪組織を消化酵素液とともに容器内で回転させることにより攪拌し、脂肪組織から脂肪由来細胞を単離させる生体組織処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1においては、処理容器内に収容された脂肪組織が、洗浄液とともに攪拌されることにより洗浄される。
また、フィルタを用いて細胞懸濁液内から赤血球を除去する装置が知られている(例えば、特許文献2,3参照。)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【特許文献2】特開平8−104643号公報
【特許文献3】特開平11−56338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヒトから採取した脂肪組織には多くの血液が含まれているため、十分な洗浄を行わなければ、単離された脂肪由来細胞を含む細胞懸濁液内に赤血球が混在し、患部に移植すると炎症を起こす不都合が考えられる。洗浄液とともに攪拌することによる洗浄方法では、脂肪組織または脂肪組織から分離した細胞に付着している赤血球を十分に除去するために長時間を要するという不都合がある。
【0005】
また、赤血球が混入することで目的とする脂肪由来細胞の回収率が低下するという不都合も考えられる。また、フィルタを用いて赤血球を除去する装置においても細胞懸濁液のフィルタの通過に時間を要するとともに、フィルタが高価であり、コストがかかるという不都合がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体組織または生体組織から分離した細胞に付着している赤血球を短時間で安価に除去することができる細胞洗浄方法および移植物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織または該生体組織から分離した細胞を、該血球内液の浸透圧より低い浸透圧を有する低浸透圧液により洗浄する洗浄ステップを備える細胞洗浄方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、血球内液の浸透圧より低い低浸透圧液により生体組織または生体組織から分離した細胞を洗浄することで、低浸透圧液が赤血球を構成している膜を透過して赤血球内に浸透し、膜が膨張により破れることで血球内液を流出させることができる。これにより赤血球を破壊することができ、容易に除去することができる。
【0009】
上記発明においては、低浸透圧液は、前記生体組織または前記細胞に前記低浸透圧液を加えた混合液が、140〜250mOsm/Lの範囲の浸透圧となるような浸透圧を有することが好ましい。
このようにすることで、生体組織に含まれる細胞に与える影響を最小限に抑えつつ、赤血球を選択的に除去することが可能となる。
【0010】
また、上記発明においては、前記洗浄ステップの後に、細胞内液の浸透圧と同等の浸透圧を有する等浸透圧液により細胞を洗浄する再洗浄ステップを備えることとしてもよい。
このようにすることで、赤血球が除去された後には等浸透圧液により細胞を洗浄することで、生体組織に含まれる細胞に与える影響をさらに低減して細胞の健全性を維持することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記等浸透圧液が、生理食塩水、乳酸リンゲル液あるいは代用血漿材のいずれかであることとしてもよい。
また、前記低浸透圧液が、前記等浸透圧液を純水で希釈してなることとしてもよい。
【0012】
また、上記発明においては、前記洗浄ステップが、生体組織から分離した細胞を含む細胞懸濁液に低浸透圧液を混合し、細胞懸濁液と低浸透圧液との混合液を攪拌し、混合液内の液体を排出することとしてもよい。
このようにすることで、細胞懸濁液に混合された低浸透圧液の作用により、細胞懸濁液内に含まれる赤血球を構成している膜が破れて血球内液が混合液内に放出される。したがって、混合液内の液体を排出することにより、血球内液を迅速に除去することができる。
【0013】
また、本発明は、上記いずれかの細胞洗浄方法を備える移植物の製造方法を提供する。
本発明によれば、生体組織または生体組織由来細胞から簡易に赤血球を除去することができ、生体に影響を与え難い移植物を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生体組織または生体組織から分離した細胞に付着している赤血球を短時間で安価に除去することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る細胞洗浄方法および移植物の製造方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞洗浄方法は、図1に示されるように、脂肪組織から脂肪由来細胞を単離させる脂肪処理装置において、脂肪組織あるいは脂肪由来細胞に付着している赤血球を除去する方法である。
【0016】
具体的には、本実施形態に係る細胞洗浄方法は、血球内液の浸透圧(280〜300mOsm/L)より低い140〜250mOsm/Lの範囲の浸透圧となるように洗浄液として低浸透圧液を加えて、脂肪組織または脂肪由来細胞を洗浄するステップ(洗浄ステップ)S1と、細胞内液の浸透圧と同等の約280mOsm/Lの浸透圧を有する等浸透圧液を洗浄液として、脂肪組織または脂肪由来細胞を洗浄するステップ(再洗浄ステップ)S2とを備えている。
ここで、等浸透圧液としては、例えば、生理食塩水を用いることができ、低浸透圧液としては、生理食塩水を純水で薄めた液体を用いることができる。
【0017】
洗浄ステップS1は、ヒトから採取された脂肪組織または脂肪組織から単離した脂肪由来細胞を含む細胞懸濁液を収容した容器内に、低浸透圧液を供給して構成された混合液を、例えば、22℃で1分間攪拌した後に、容器から液体を排出することにより行われる。
血球内液の浸透圧より低い低浸透圧液により脂肪組織または脂肪由来細胞を含む細胞懸濁液を洗浄することで、低浸透圧液が、脂肪組織または細胞懸濁液に含まれている赤血球に作用してこれを破壊するようになっている。
【0018】
すなわち、低浸透圧液が赤血球に作用すると、赤血球を構成している膜を透過して赤血球内に浸透し、膜が膨張により破れることで赤血球が破壊されるようになっている。これにより、血球内液を流出させることができ、脂肪組織内または細胞懸濁液内に含有されている赤血球を容易に除去することができる。
【0019】
図2は、脂肪由来間葉系幹細胞と赤血球との混合液に対して、加える洗浄液の浸透圧を変化させて洗浄ステップS1を行った場合の細胞懸濁液中の赤血球および脂肪由来間葉系幹細胞の数を計数したものである。
図2によれば、洗浄液の浸透圧が等浸透圧液の浸透圧に近い(約280mOsm/L)場合には、赤血球および脂肪由来間葉系幹細胞はいずれも洗浄による細胞数の変化が少ないが、洗浄液の浸透圧を低下させて行くに従って、赤血球の数が大幅に減少する一方、脂肪由来間葉系幹細胞の数は緩やかに減少していくことがわかる。
【0020】
すなわち、本実施形態に係る細胞洗浄方法によれば、洗浄ステップS1において、脂肪組織または細胞懸濁液に洗浄液を加えて140〜250mOsm/Lの範囲の浸透圧の混合液として洗浄することで、脂肪由来間葉系幹細胞の数を低減させることなく、赤血球数を選択的に大幅に低下させることができる。これにより、この細胞洗浄方法を用いて移植物を製造することにより、最終的に採取される移植物内に含有される赤血球を低減し、生体に悪影響を与えない移植物を簡易に製造することができる。
【0021】
さらに、本実施形態においては、再洗浄ステップS2は、洗浄ステップS1を終えた脂肪組織または脂肪由来細胞を収容した容器内に、等浸透圧液を供給して構成された混合液を、例えば、22℃で1分間攪拌した後に、容器から液体を排出することにより行われる。
細胞内液の浸透圧と同等の等浸透圧液により脂肪組織または脂肪由来細胞を含む細胞懸濁液を洗浄することで、脂肪組織または脂肪由来細胞に付着していた低浸透圧液が取り除かれるので、低浸透圧液が脂肪組織または脂肪由来細胞に対して与える影響を低減することができる。
【0022】
なお、本実施形態においては、等浸透圧液として生理食塩水を採用したが、これに代えて、乳酸リンゲル液または代用血漿材のいずれかを採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞洗浄方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の細胞洗浄方法により脂肪由来細胞の細胞懸濁液を洗浄した場合の、浸透圧と赤血球数および脂肪由来間葉系幹細胞の数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
S1 洗浄ステップ
S2 再洗浄ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織または該生体組織から分離した細胞を、該血球内液の浸透圧より低い浸透圧を有する低浸透圧液により洗浄する洗浄ステップを備える細胞洗浄方法。
【請求項2】
前記低浸透圧液は、前記生体組織または前記細胞に前記低浸透圧液を加えた混合液が、140〜250mOsm/Lの範囲の浸透圧となるような浸透圧を有する請求項1に記載の細胞洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄ステップの後に、細胞内液の浸透圧と同等の浸透圧を有する等浸透圧液により細胞を洗浄する再洗浄ステップを備える請求項1または請求項2に記載の細胞洗浄方法。
【請求項4】
前記等浸透圧液が、生理食塩水、乳酸リンゲル液あるいは代用血漿材のいずれかである請求項3に記載の細胞洗浄方法。
【請求項5】
前記低浸透圧液が、前記等浸透圧液を純水で希釈してなる請求項3または請求項4のいずれかに記載の細胞洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄ステップが、生体組織から分離した細胞を含む細胞懸濁液に低浸透圧液を混合し、細胞懸濁液と低浸透圧液との混合液を攪拌し、混合液内の液体を排出する請求項1に記載の細胞洗浄方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の細胞洗浄方法を備える移植物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−171854(P2009−171854A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10871(P2008−10871)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】