説明

細胞活性度低減方法及びその装置

【課題】薬剤の投与や外科的な摘出手段を講じることなく細胞の活性度を低減させる。
【解決手段】細胞に周波数30GHz〜3THzの電磁波を照射させて、細胞の活性度を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の活性度を低減させる方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞活動を抑制するものとして、血管収縮剤が知られており、また、特開2001−220355号公報には肥満細胞活性化抑制剤が示されている。
【0003】
ところで、最も活性度を低減させたい細胞はガン細胞である。ガン細胞の摘出には高度な医療技術が必要で多くの危険が伴う上に、ガン細胞が広範囲に点在した場合、より緻密な外科処理技術を求められ、危険度は更に高くなる。一方、抗がん剤の投与に関しては、嘔吐、強い倦怠感、だるさ、脱毛などの副作用があり、患者に与える苦痛は想像を絶するものである。
【0004】
このためにガン細胞の活動を停止もしくは休止させることができるような細胞活性度低減方法及びその装置が強く求められている。
【特許文献1】特開2001−220355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、薬剤の投与や外科的な摘出手段を講じることなく細胞の活性度を低減させることができる細胞活性度低減方法及びその装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係る細胞活性度低減方法は、細胞に周波数30GHz〜3THzの電磁波を照射させて、細胞の活性度を低減させることに特徴を有しており、本発明に係る細胞活性度低減装置は、細胞活性度低減用である周波数30GHz〜3THzの電磁波を照射する電磁波照射手段を有していることに特徴を有している。
【0007】
30GHz〜3THzの周波数帯を有するミリ波、テラヘルツ光を目的の細胞に照射することでその細胞の活性度を低減させるものである。皮膚表面や喉、鼻腔、内臓表面など、部位によっては外科的な手段を講じる必要がないため危険性は低下し、患者に与える苦痛も大きく軽減することができるものであり、また副作用を招くこともない。
【0008】
電磁波照射による細胞活性度低減の効果検証試験などにおいては、電磁波の照射対象である細胞または電磁波の照射対象である細胞用の培養液の電気抵抗を測定する電気抵抗測定手段と、該電気抵抗測定手段で測定された電気抵抗値を表示する表示手段とを備えたものとしたり、電磁波の照射対象である細胞用の培養液のpHを測定するpH測定手段と、該pH測定手段で測定されたpH値を表示する表示手段とを備えたものとするのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、周波数30GHz〜3THzの電磁波を細胞に照射することで細胞の活性度を低減させるものであり、副作用を引き起こすなどの影響を起こすことなく、安全に細胞の活性度を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明すると、図1は本発明に係る細胞活性度低減装置の主要部を示しており、直径20mm程度の円筒状のハウジング1内に電磁波照射部2を配して、この電磁波照射部2からの電磁波をハウジング1に設けた直径2mm程度の開口部10から外部に出力できるようにしてある。
【0011】
上記電磁波照射部2には、50GHzの電磁波(ミリ波)を照射することができる発光ダイオードを用いているが、この周波数に限定されるものではなく、30GHz〜3THzのミリ波からテラヘルツ波領域のものを照射することができるものであればよく、さらには上記波長域の電磁波を照射することができるものであれば、発光ダイオードに限るものではない。
【0012】
また、ここでは切替スイッチ6を用いることで、パルス点灯制御装置5によるパルス点灯と、電源4と電磁波照射部2とを直結した連続点灯とを切り替えることができるようにしているとともに、タイマー7によって照射時間を制御することができるようにしている。
【0013】
図2は上記電磁波照射による細胞活性度低減の効果検証試験に好適に用いることができるものを示しており、図中12は電磁波の照射対象である細胞を培養液とともに保持する細胞保持部であり、上記細胞にはその電気電気抵抗を測定する電気抵抗測定部8及び測定した電気抵抗値を表示する電気抵抗値表示部9とを接続している。また、上記培養液のpHを測定するpH測定部10と測定したpH値を表示するpH値表示部11とを接続している。図中13はpH測定部におけるセンシング部である。
【0014】
図3に電気抵抗測定部8の詳細を示す。細胞15と培養液16とを満たした細胞保持部12内面の対向する2面に供給用電極14を配置して、電源18から供給用電極14に一定電流を供給することで、電解質である培養液16中に一定電流を通し、細胞保持部12内に配した検知電極17で培養液中の電圧変化を検知する。そして一定電流値と、検知電極17から得られた電圧値とを抵抗算出部19に入力し、細胞保持部12内の抵抗値を算出し、細胞電気抵抗表示部9に表示する。
【0015】
細胞保持部12内の細胞の個数が増加する、もしくは形状が拡大すると細胞保持部12内全体の抵抗値が大きくなる。逆に細胞の個数が減少する、もしくは形状が収縮すると細胞保持部12内全体の抵抗値は小さくなる。抵抗値を測定することによって細胞の活性度の変化を確認できる。
【0016】
電気抵抗測定部8は、上記構成のものに限定されるものではない。培養液中の抵抗値が測定できるものであればどのようなものであってもよく、例えば、図4(a)に示すように細胞保持部12内面の対応する2面に夫々供給用電極14と検知電極17を交互に配置したり、図4(b)に示すように、細胞保持部12内面の対向する2面の各々に、供給用電極14と検知用電極17を同心円上に配置したりしても良い。
【0017】
また、供給電極14には一定電流をかけるとしたが、供給電極14に一定電圧をかけて、検知電極17で電流変化を検知して抵抗を算出するようにしてもよい。
【0018】
細胞保持部12に満たす液体として培養液を示したが、細胞にも因るが短時間の測定であれば他の液体でも可能な場合もあるために、培養液に限るものではない。
【0019】
また細胞保持部12は、1区画である必要はなく、図5に示すように複数区画(図示例は30区画)の細胞保持部12を有するものも好適に用いることができる。複数種類の細胞に前記波長域の電磁波を照射する場合や、再現性の確認のために同じ種類の細胞に照射する場合において、細胞保持部12が複数区画あると、同時に種々の検討ができる等の利点がある。
【0020】
次に具体実施例について説明する。電磁波を照射する細胞としてファイブロブラストを用い、細胞保持部12に2区画を有するものを用いて、両区画に2つに分けた細胞及び培養液を入れ、一方の区画内の細胞は電磁波照射を行って変化を観測する検体とし、もう一方の区画内の細胞はコントロール用の検体とした。
【0021】
そしてこの細胞保持部12を含む細胞活性度低減装置を照射終了時まで温度37℃、湿度100%、CO25%に保ったCO2インキュベータ内に設置し続けた。
【0022】
また、細胞保持部12内の細胞を安定させるためにインキュベータ内に設置して70分間放置した後、細胞保持部12内の抵抗値の測定を開始し、抵抗値の測定を10分行った後、50GHzの電磁波の電磁波照射を120分間行った。
【0023】
この時の細胞保持部12中の抵抗値変化を図6に示す。上記電磁波照射は、図6では80分〜200分の間に相当する。その後、照射を止めて120分(図6では190分の位置から320分の間に相当する)経過観測を行った。図6に示した抵抗値は、初期値を1とした相対変化量の比で示しているため単位は無い。尚、この抵抗値比は1分間毎にプロットしている。
【0024】
図6から明らかなように、電磁波を照射した検体の抵抗値比イと、電磁波を照射しなかったコントロール用の検体の抵抗値比ロは、電磁波を照射するまではどちらも同じ推移を示した。しかし電磁波を照射して約5分後から、照射側の細胞のみに急激な抵抗値の減少が起りはじめた。その後20分〜25分程度かけて抵抗値は下がり続け、その後約20分間抵抗値は下がった状態のままほぼ抵抗値を変化させずに推移した。その後、序々に抵抗値の上昇がみられるが、約15分後に上昇は停止した。そして照射側の細胞の抵抗値比イは、コントロール用の細胞の抵抗値比ロと比較して抵抗値自体は低い状態を維持したまま、コントロールの細胞と同様の変化の推移がみられた。
【0025】
これより、電磁波の照射で細胞の活性度を低減させることが確認できた。この変化は、突発的な変化でなく経時的に抵抗値が減少しているため、機器のノイズなどによる変化でないことがわかる。
【0026】
また、電磁波照射部2として、30GHz〜3THzの範囲内で異なる周波数の電磁波を照射しても、程度の違いがあるとはいえ、ほぼ同様の結果を得ることができたのに対し、30GHzよりも長い波長の電磁波及び3THzよりも短い波長の電磁波を照射した場合は、有意な抵抗値の変化が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の一例に係る電磁波照射部のブロック図である。
【図2】同上の細胞保持部を含む全体構成のブロック図である。
【図3】同上の電気抵抗測定部のブロック図である。
【図4】(a)は細胞保持部の他例の側面図、(b)は細胞保持部の更に他例を示す平面図である。
【図5】細胞保持部の別の例を示すもので、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図6】電磁波による細胞活性度の低減効果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ハウジング
2 電磁波照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞に周波数30GHz〜3THzの電磁波を照射させて、前細胞の活性度を低減させることを特徴とする細胞活性度低減方法。
【請求項2】
細胞活性度低減用である周波数30GHz〜3THzの電磁波を照射する電磁波照射手段を有していることを特徴とする細胞活性度低減装置。
【請求項3】
電磁波の照射対象である細胞または電磁波の照射対象である細胞用の培養液の電気抵抗を測定する電気抵抗測定手段と、該電気抵抗測定手段で測定された電気抵抗値を表示する表示手段とを備えていることを特徴とする請求項2記載の細胞活性度低減装置。
【請求項4】
電磁波の照射対象である細胞用の培養液のpHを測定するpH測定手段と、該pH測定手段で測定されたpH値を表示する表示手段とを備えていることを特徴とする請求項2または3記載の細胞活性度低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−82244(P2010−82244A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255414(P2008−255414)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】