説明

細胞混合物からなる細胞移植治療用スフェロイド及びその作製方法

【課題】臨床へ効率的かつ実質的に利用可能な、細胞混合物からなる細胞移植治療用スフェロイド、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】軟骨様組織として形質発現している細胞混合物からなる、細胞移植治療用スフェロイド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨組織、骨組織の生物学、医学等の分野において使用するための細胞混合物からなる細胞移植治療用スフェロイド、及びその作製方法に関する。本発明においては、軟骨様組織として形質発現している細胞混合物を構成しうる各細胞材料を分離準備し、分離された各細胞を継代培養して増殖させた後、1種もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、それを振とう培養することによって、細胞同士が相互接着した細胞混合物を作製し、細胞移植治療のための細胞スフェロイドを分離する。分離された細胞移植治療用スフェロイドは、損傷患部に移動して細胞移植治療を行うことができる。
【背景技術】
【0002】
日本、韓国及び欧米の国等は既に高齢化社会を迎え、平均寿命も世界最高水準となっている。人々の希望は単なる延命よりも、より良く健康に生きるというクオリティー・オブ・ライフ(QOL)に重点が置かれるようになってきた。その中で注目される1つに運動機能障害が上げられる。運動機能障害の原因となる関節炎にはさまざまな疾患が含まれるが、アメリカにおいては2002年に実に7,000万人以上の患者が何らかの関節炎、あるいは慢性の関節症状を訴えて受診している。これは成人3人に1人に達し、更に2020年までに倍増することが予想されている。日常生活の不具合を生じる割合は心疾患に次いで第2位であり、1年に862億ドルもの医療費がかかっている。また、高齢化社会で最も頻繁に遭遇する変形性膝関節症は主要な原因の1つであり、東京大学22世紀医療センターの調査でも日本だけで2,400万人に上ると推察されている。日本でも患者は多く、45〜65歳で30%、65歳以上では63〜85%の有病率となり、毎年90万人の新規患者が発生すると考えられている。変形性関節症等を代表とする運動器疾患は、臓器の疾患と異なり直接生命を脅かすことは少ないものの、人間の手足の自由を奪い、そのQOLを著しく低下させる。これらの運動器疾患は今後の高齢化によってますます増加することが予測され、このような障害による人的、社会的損失は極めて大きいものである。
【0003】
これらの運動器疾患の大部分は軟骨組織、骨組織が炎症、あるいは損傷を受けることが原因となっている。現在、重度の疾患の場合、金属と超高分子量のポリエチレンとからなる人工関節がその治療に用いられている。しかしながら、埋め込み後10年以上経過すると摩耗し、磨耗粉により種々の望ましくない生体反応が引き起こされるようになることから適用患者に制限がある。これらの問題を解決するため耐磨耗性を向上させる研究が行われているが、耐磨耗性において限界が予測される。新たな解決方法として近年、細胞を生体外で培養し、培養した細胞もしくは組織を患者に適用する技術が数多く報告されつつある。この場合、細胞もしくは組織は単独もしく1種、もしくは2種以上の生体親和性材料又は生体吸収性材料の人工バイオマテリアルで形成された組織再生用基材のスキャホールド、もしくは培養液又は運搬用溶液等の溶液と同時に構築される構造物として利用され、自己治癒能力により生体内で組織を再生させる技術である組織工学技術・再生医療を利用した軟骨組織、骨組織の治療が注目されている。この治療方法は患部に培養した軟骨細胞又は骨細胞、及びそれより作り出した軟骨組織、骨組織を移植する方法が考えられている。
【0004】
1994年に、Brittbergらが関節の非過重部より関節軟骨組織を採取し、単離した軟骨組織細胞を培養し過重部の骨軟骨全層欠損部に移植する治療法(自家軟骨細胞移植術、Autologous Chondrocyte Implantation)を報告(Brittbergら、New England Journal of Medicine, 331 (14), 889(1994))して以来、1997年にFDAに認可され、ビジネス化され全世界ですでに2万例以上の症例に施行された実績がある。2〜10年経過の219例の中長期成績は良好で89%に機能改善が認められた(Peterson L、6th Annu. Meet., American Academic Orthopaedic Surgery (1998))。一方で、2002年には移植後の細菌感染による死亡事例の報告があり、またCDCの調査では41例の術後感染例が見つかったため、日本でも厚生労働省健康局から日本整形外科学会にこれらの事例の情報提供があり、慎重に扱われるべき問題点もあることを再認識させられた。また、この方法においても、高齢者に多発する広範な軟骨組織、骨組織の変性と部分欠損を伴う変形性関節症の治療には利用できるものではなく、改善することが求められていた。
【0005】
国内でも非過重部の関節軟骨から単離した軟骨細胞や骨髄由来間葉系幹細胞を用いて組織工学的に軟骨組織を作製し、骨軟骨全層欠損例に対しては臨床応用が開始されている。しかしなから、これらの臨床応用例は外傷性の骨軟骨損傷や離断性骨軟骨炎であり、軟骨欠損範囲がもともと小さな症例の適応だけに限られていた(特願2001−384446(特開2003−180819号公報)、特願2002−216561(特開2003−111831号公報)、特願2003−358118(特開2004−136096号公報)。現状では、人工関節置換術の治療成績が安定しているために、広範な軟骨組織、骨組織の変性と部分欠損を伴う変形性関節症の治療には踏み込めていないといえる。また、これらの技術の殆どが、培養細胞から産生された以外のタンパク質、糖類あるいは人工バイオマテリアルのスキャホールドを必須とする技術であり、これらのスキャホールドの自体が引き起こす異物反応や不良な生体内適合性等の生体への影響も問題に取り上げられつつあり、実際上臨床適用が容易ではないという問題点がある。そのため、そのようなスキャホールドの使用を最大限に制限する技術の開発が切望されている。
【0006】
一方、変形性関節症の治療を基礎研究の面から真摯に取り組んでいるHunzikerらは、変形性関節症の病態を軟骨の変性と軟骨下骨には達しない部分欠損にあることに着目し、関節軟骨部分欠損モデルを用いて基礎研究を行っているが、この際、軟骨の修復、再生の中心的な役割は軟骨細胞ではなく滑膜由来細胞であることを見出している(Hunzikerら、The Journal of Bone and Joint Surgery, 78-A, 721 (1996))。しかしながら、この技術も、治療可能な範囲が狭い点で実用性に乏しいものであるため、ここでの議論も変形性関節症の治療に直結するようなものではなく、広範囲な骨軟骨部分欠損に対する早期の治療技術の確立が切望されていた。
【0007】
生体各組織には成体幹細胞に存在が確認され、あらゆる組織由来には間葉系幹細胞の局在が解明しつつある。特にこの中で滑膜由来細胞や骨髄由来細胞では、軟骨細胞への分化能を保持する間葉系幹細胞を利用することで軟骨様組織として形質発現された組織に分化させて生体外及び生体内にて再構築に成功したという研究が数多く報告されつつある。成体幹細胞は生体を構成するあらゆる組織への分化・再生が可能であり、特に生体外で培養にて一般組織由来の体性細胞と比べ増殖能がはるかに高い。このような極めて高い増殖率を保有する間葉系幹細胞は、発生学的にも軟骨組織への分化にも有利である。一方、Sekiyaらは、滑膜由来細胞を利用し、生体外又は生体内の軟骨組織欠損部位の良好な軟骨組織の再生及び修復を確認している(Sekiyaら、Stem cell, 25, 689 (2007))。Chenらは、滑膜由来細胞を髄核細胞と共培養させた結果軟骨組織への分化を確認している(Chenら、Spine, 34−12, 1272 (2009))。Andererらは、軟骨組織への分化に通常の培養液を使用し、培養細胞から産生された以外の成長因子等のタンパク質を追加した軟骨分化誘導培地を使用せずに軟骨再生に成功している(Andererら、Journal of Bone and Mineral Research, 17−8, 1420 (2002))。
【0008】
これらの研究結果を考慮して、間葉系幹細胞を細胞混合物の細胞移植治療用スフェロイドの作製に使用する材料として選択した。特に、通常の細胞培養条件下でも間葉系幹細胞の高度な増殖能を示し、軟骨組織への容易な分化能を保有することは、短期間以内に所定の目的とした量の細胞移植治療用スフェロイドの作製が可能になる。一方、今までの開発の軟骨もしくは骨欠損部修復のための生体外にて準備され移植可能な細胞もしくは組織又は、組織工学技術・再生医療を利用した軟骨組織、骨組織は、殆ど1種類からなるものが主流であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Brittbergら、New England Journal of Medicine, 331 (14), 889(1994)
【非特許文献2】Peterson L、6th Annu. Meet., American Academic Orthopaedic Surgery (1998)
【非特許文献3】Hunzikerら、The Journal of Bone and Joint Surgery, 78-A, 721 (1996)
【非特許文献4】Sekiyaら、Stem cell, 25, 689 (2007)
【非特許文献5】Chenら、Spine, 34-12, 1272 (2009)
【非特許文献6】Andererら、Journal of Bone and Mineral Research, 17-8, 1420 (2002))
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−180819号公報
【特許文献2】特開2003−111831号公報
【特許文献3】特開2004−136096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、臨床へ効率的かつ実質的に利用可能な、細胞混合物からなる細胞移植治療用スフェロイド、及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、軟骨様組織として形質発現している細胞移植治療用スフェロイドを構成する各細胞材料を分離準備し、分離された各細胞を継代培養して増殖させた後、1種もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、これを振とう培養することによって、細胞同士を相互接着させた細胞混合物を作製し、このようにして作製された細胞スフェロイドを細胞移植治療のために分離することによって、細胞移植治療用スフェロイドを作製することに成功した。本発明の細胞移植治療用スフェロイドは、細胞移植治療のために使用でき、さらに化合物、薬剤又は毒物などの薬効や毒性などの生理作用を評価するためのシステムとしても使用することができる。本発明においては、細胞移植治療用スフェロイドを構成する各細胞材料が、軟骨細胞の単独使用のみならず、高度な増殖能を示し、軟骨組織への容易な分化能を保有する任意の幹細胞もしくは軟骨前駆細胞等を利用することによっても、軟骨様組織として形質発現された細胞移植治療用スフェロイドを大量準備することが可能となり、高齢者に多発する広範囲な骨軟骨損傷や損傷の程度が軟骨組織表層から軟骨下骨まで到達しない部分欠損等に対する治療技術の確立において極めて有用である細胞移植治療用スフェロイドが提供される。
【0013】
即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] 軟骨様組織として形質発現している細胞混合物からなる、細胞移植治療用スフェロイド。
[2] 細胞混合物が、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、滑膜由来細胞、滑膜幹細胞、骨芽細胞、骨髄由来細胞、生体幹細胞又は間葉系幹細胞、脂肪由来細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、あるいは分化細胞の初期化により獲られる誘導多能性幹細胞(iPS細胞)から選ばれる1種又は2種以上の細胞の混合物である、[1]に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
[3] 細胞混合物が、自家、同種もしくは異種の組織から由来した細胞の混合物である、[1]又は[2]に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
[4] 細胞混合物の大きさが50から999μmである、[1]から[3]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイド。
[5] 軟骨組織の一部又は全部を損傷又は欠損した患部、あるいは骨組織の一部を損傷又は欠損した患部に移植するために使用する、[1]から[4]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイド。
[6] 軟骨組織が、関節軟骨、半月板、椎間板、肋軟骨、鼻中隔、又は耳介軟骨である、[5]に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
[7] 関節炎、関節症、軟骨損傷、骨軟骨損傷、半月板損傷、椎間板変性、又は変形性関節症の治療のために使用される、[1]から[6]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイド。
[8] 被験物質の薬効又は毒性を評価するために使用する、[1]に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【0014】
[9] 下記の工程(1)から(4)を含む、細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
(1)細胞混合物を構成する1種又は2種以上の細胞を分離準備する工程;
(2)工程(1)で分離された細胞を継代培養して増殖させる工程;
(3)工程(2)で増殖させた1種又は2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、細胞を高密度の浮遊状態に維持して培養することによって、細胞同士を相互接着させた細胞混合物を作製する工程;及び
(4)工程(3)で製造された細胞スフェロイドを分離する工程:
[10] 工程(1)において分離準備される細胞が、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、滑膜由来細胞、滑膜幹細胞、骨芽細胞、骨髄由来細胞、生体幹細胞又は間葉系幹細胞、脂肪由来細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、あるいは分化細胞の初期化により獲られる誘導多能性幹細胞(iPS細胞)から選ばれる1種又は2種以上の細胞である、[9]に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[11] 工程(1)において、対象組織をチョッピングして細切し、粉砕した後、蛋白分解酵素で処理して細胞を単離する、[9]又は[10]に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[12] 対象組織は、凹形の底が設けられ、細切行為中に切断されたとき、対象組織が位置する受容する機材から飛散して離れることができない程度の長さの側壁部を持つ容器の中の底部中に位置させ、前記容器の側面部の長軸より長い手術用の曲刃を利用してチョッピングする、[11]に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[13] 対象組織は、蛋白分解酵素で処理するとき、37℃、5%CO2の条件下で電磁スターラーを用いて攪拌しながら消化させる、[11]又は[12]に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[14] 工程(2)において、細胞が軟骨細胞及び軟骨前駆細胞である場合には、継代培養の回数が3回以下である、[9]から[13]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[15] 工程(3)において、細胞を高密度の浮遊状態に維持した培養が、人為的な操作から起因する持続的な反復運動から起きる培養液の流動により、各細胞は培養容器の底部に留まらず、培養液中に浮く懸濁状態を、振とう培養期間中に維持できる振とう培養である、[9]から[14]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[16] 振とう培養を1〜7日間行う、[15]に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【0015】
[17] 振とう培養における細胞懸濁液の細胞密度が、1×104個/mlから3,000×104個/mlである、[15]又[16]に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[18] 工程(3)において、細胞懸濁液が、振とう培養の際に、細胞同士の良好な相互接着、細胞スフェロイド形成効率の向上、及び移植に適合な軟骨様組織へ形質発現の強化による治療効果の極大化のための1種又は2種以上のマイクロキャリアを含有する、[9]から[17]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[19] マイクロキャリアが、細胞懸濁液の中の細胞同士の相互接着を促すための分子であり、各細胞と前記マイクロキャリア同士に対する互いの良好な付着性が保持される、[18]8に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[20] マイクロキャリアが、コラーゲン、コラーゲン誘導体、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、ラブリシン(Lubricin)、ムチン(Mucin)、キトサン、キトサン誘導体、ポリロタキサン、ポリロタキサン誘導体、キチン、キチン誘導体、ウレタン、セルロース、アガロース、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、多血小板血漿、ヘパリン、ヘパリン誘導体、フラグミン(Fragmin、一般名:ダルテパリンナトリウム[Dalteparin sodium])、硫酸プロタミン(Protamine sulfate)、Avidin、Streptavidin、Biotin、ラミニン、2−Octyl Cyanoacryleate、アルギン酸カルシウム、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体、ポリ乳酸ポリカプロラクトン共重合体及びポリグリコール酸ポリカプロラクトン共重合体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の生体親和性材料又は生体吸収性材料で形成されている、[18]又は[19]に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[21] 工程(3)において、細胞を高密度の浮遊状態に維持して培養することによって、細胞同士を相互接着させた1次細胞スフェロイドを作製し、次いで前記1次細胞スフェロイドを中心として更に追加の1種もしくは2種以上の細胞を培養液中に混合して細胞懸濁液を準備し、続いて培養することによって、前記1次細胞スフェロイドと前記追加の細胞を相互接着させた2次細胞スフェロイドを作製する、[9]から[20]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[22] 工程(3)で用いる培養液が、軟骨分化誘導培地である、[9]から[21]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[23] 工程(4)において、細胞スフェロイドが、内視鏡又は関節鏡下手術に使用可能な形状とされる、[9]から[22]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
[24] 細胞移植治療用スフェロイドの作製過程が14日以内である、[9]から[23]の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の細胞移植治療用スフェロイドにおいては、細胞混合物を構成する各細胞について、軟骨細胞を単独で使用するのみならず、1種もしくは2種以上の高度な増殖能を示し、軟骨組織への容易な分化能を保有するあらゆる種類の幹細胞もしくは軟骨前駆細胞等を利用することによって、軟骨様組織として形質発現された細胞移植治療用スフェロイドを大量に準備することが可能となる。本発明の細胞移植治療用スフェロイドは、高齢者に多発する広範囲な骨軟骨損傷や損傷の程度が軟骨組織表層から軟骨下骨まで到達しない部分欠損等に対する治療技術の確立において極めて有用である。さらに、本発明では、骨膜パッチを使用しないため、通常の自家軟骨移植術と比較して患者側の負担を減らすことができ、切開部を最小限に止めるため、手術侵襲も軽減できる。
【0017】
一方、本発明者らは今まで組織工学的手法による軟骨再生に適した担体作製に関する研究、至適細胞外環境の構築に関する研究、組織工学的に作製した軟骨の同種移植による軟骨再生に関する研究、並びに人工材料のスキャホールドを使用しない軟骨細胞シート及び再生軟骨plateによる軟骨修復・再生に関する研究などの成果を得ている。これらの結果から、損傷を治療するためには、損傷部位への動員の間葉系幹細胞等の存在が必須条件で組織修復・再生に必要最小限の軟骨誘導イニシエーターとして、組織工学的軟骨成分の存在が重要であることを見出している。他方、上記した本発明者らの知見から考慮すると、前記の軟骨組織表層から軟骨下骨まで到達しない部分欠損は、多能性や増殖能を有し、軟骨組織への容易な分化能を保有間葉系幹細胞の動員が少なく、結果組織修復・再生が十分ではない不完全な治療しか望めない場合が多い。本発明による滑膜由来、骨髄由来等の間葉系幹細胞と軟骨細胞を細胞混合物の細胞材料として作製した細胞移植治療用スフェロイドは、上記の条件を満たすため、良好な組織修復・再生の結果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一の態様において、1種の細胞を培養液の中で単独細胞材料懸濁液を準備して振とう培養することで、細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一の態様において、細胞材料Aと細胞材料Bの2種細胞を培養液の中で混合細胞材料懸濁液を準備して振とう培養することで、細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の他の態様において、2回以上反復実施する複数段階の振とう培養し、1回目の振とう培養の結果産物である1次細胞スフェロイドを中心として更に1種、もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、続いて2回目以上の振とう培養することで、前記1回目の振とう培養の結果産物の細胞スフェロイドと細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物である2次細胞スフェロイドで形成された細胞混合物を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の一の態様において、細胞混合物を損傷患部へ良好に固定するために補助的なシート状構造物を利用する移植方法の細胞混合物の細胞移植治療用スフェロイドを示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の一の態様において、細胞混合物を損傷患部へ良好に固定するために補助的なシート状構造物(軟骨細胞シート)を利用する移植方法を例にとって継代培養期間と振とう培養期間を含める細胞移植治療用スフェロイドの総作製過程を14日程度のスケジュール1例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の一の態様において、軟骨細胞及び滑膜由来細胞の割合を、(2)75%滑膜由来細胞・25%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に振とう培養を実施し、細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物を示す位相差顕微鏡像の図である。
【図7】図7は、本発明の一の態様において、軟骨細胞及び滑膜由来細胞の割合を(4)25%滑膜由来細胞・75%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に振とう培養を実施し、細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物を示す位相差顕微鏡像の図である。
【図8】図8Aは、本発明の一の態様において、1種の細胞(すなわち(5)0%滑由来膜細胞・100%軟骨細胞)の細胞懸濁液を培養液の中で単独細胞材料懸濁液を準備して平面円形に移動させながら振とう培養を実施し、細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物を示す図である。図8Bは、本発明の一の態様において、1種の細胞(すなわち(5)0%滑由来膜細胞・100%軟骨細胞)の細胞懸濁液を培養液の中で単独細胞材料懸濁液を準備して平面左右型に移動させながら振とう培養を実施し、細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物を示す図である。
【図9】図9は、本発明の一の態様において、軟骨細胞及び滑膜由来細胞の割合を(1)100%滑由来膜細胞・0%軟骨細胞の細胞懸濁液、(2)75%滑膜由来細胞・25%軟骨細胞の細胞懸濁液、(3)50%滑膜由来細胞・50%軟骨細胞の細胞懸濁液、(4)25%滑膜由来細胞・75%軟骨細胞の細胞懸濁液、(5)0%滑膜由来細胞・100%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に各々振とう培養を実施し、細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物を示す位相差顕微鏡像の図である。
【図10】図10は、本発明の一の態様において、軟骨細胞及び滑膜由来細胞の割合を(3)50%滑膜由来細胞・50%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に振とう培養を5日間実施して共焦点レーザー顕微鏡下で観察した像を示す図である。
【図11】図11は、本発明の他の態様において、2回以上反復実施する複数段階の振とう培養し、1回目の振とう培養の結果産物である1次細胞スフェロイドを中心として更に1種、もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、続いて2回目以上の振とう培養することで、前記1回目の振とう培養の結果産物の細胞スフェロイドと細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物である2次細胞スフェロイドで形成される意図で、既成の1次細胞スフェロイドと2次細胞スフェロイドの形成のために細胞材料を同時に準備したときの位相差顕微鏡像の図である。
【図12】図12は、振とう培養開始後12時間の細胞スフェロイドの肉眼的な所見を示す。振とう培養開始後12時間から肉眼的にも観察でき、全振とう培養期間において観察可能であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、軟骨様組織として形質発現している細胞混合物からなる、変形性関節症、関節炎、関節症、軟骨損傷、骨軟骨損傷、半月板損傷もしくは椎間板変性の治療のための細胞移植治療用スフェロイドに関する。
【0020】
本発明において、“細胞混合物”とは、軟骨様組織として形質発現された細胞移植治療用スフェロイドを意味するが、提供組織由来の軟骨細胞、軟骨前駆細胞、滑膜由来細胞、滑膜幹細胞、骨芽細胞、骨髄由来細胞、あらゆる組織由来の生体幹細胞又は間葉系幹細胞、脂肪由来細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、あらゆる分化細胞を初期化した誘導多能性幹細胞胚性幹細胞(iPS細胞)等のようにES細胞と同様な多能性や増殖能を有し、軟骨組織への容易な分化能を保有する細胞等の損傷患部に移植することで治療効果がある1種もしくは2種以上の細胞が混合された細胞混合物であってもよい。これは、多能性を有する細胞は未分化細胞のため、移植後、移植先の生体組織に応じた細胞へと分化することが予測されるからである。細胞混合物は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的細胞移植のため自家組織由来の細胞であることが好ましいが、軟骨組織は正常状態では血管、神経、リンパ管が分布しておらず、白血球等の炎症細胞の侵入が不可能であるため、移植のとき、免疫拒絶反が引き起こりにくい低免疫原性を示し免疫特権を保有する組織として知られていることから同種もしくは異種の組織から由来した細胞又はこれらの2種以上の細胞であってよい。
【0021】
本発明において、細胞混合物の細胞移植治療用スフェロイドは、そのサイズが50から999μm範囲のものを治療に用いるのが好ましい。細胞移植治療用スフェロイドのサイズが約600μm程度のものが好ましいが、これは一般の体性細胞からなるスフェロイドは、その中心からスフェロイドの表層までの距離が300μm程度までが通常の培養条件下で気体及び栄養分の拡散がより円滑にでき、細胞スフェロイドの生体外にての寿命が延長でき、増殖促進することで移植物の本来の機能を発揮するのにさらに有益に働くためである。比較的に厚みの薄い細胞混合物のスフェロイドは、気体及び栄養分の拡散がより円滑にでき、移植物の寿命が延長でき、軟骨様組織として形質発現を維持できることで細胞スフェロイドの本来の機能を発揮するのにさらに有益に働くためである。他方、軟骨組織は正常では多くは軟骨細胞から分泌される細胞外基質であり、その中の軟骨細胞は数%に過ぎない。さらに、代謝が極めて低く軟骨細胞は、細胞混合物のスフェロイドの形状になると他の細胞と比べ、良好な気体及び栄養分の拡散が可能なスフェロイドの中心からスフェロイドの表層までの距離が300μmより長いと予測されるが、999μmより小さいものが好ましい。
【0022】
本発明は、下記の工程(1)から(4)を含む、細胞移植治療用スフェロイドの作製方法に関する。
(1)細胞混合物を構成する1種又は2種以上の細胞を分離準備する工程;
(2)工程(1)で分離された細胞を継代培養して増殖させる工程;
(3)工程(2)で増殖させた1種又は2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、細胞を高密度の浮遊状態に維持して培養することによって、細胞同士を相互接着させた細胞混合物を作製する工程;及び
(4)工程(3)で製造された細胞スフェロイドを分離する工程:
【0023】
本発明による作製方法の工程(1)では、細胞混合物を構成する各細胞材料を分離準備する。まず、細胞混合物を構成する各細胞材料の起源となる各該当提供組織を採集し、皮膚組織、皮下組織、筋肉組織、軟骨下骨(subchondral bone)、靭帯、半月板、その他の結合組織を除去した後ホモジナイザー、乳鉢等の粉砕機、ブレンダー、手術用メス、注射器、鉗子、超音波装置等のような物理的な手段でチョッピング(chopping)し、細切する。このとき、各該当提供組織を受容する無菌の機材として、培養皿、遠心用容器等を含む樹脂素材の器材、時計皿(watch glass)等を含むガラス素材の器材等のような機材を利用するが、該当提供組織が軟骨組織等の弾力のある組織の場合、チョッピング操作中、切断された組織が位置された受容する機材から飛散して離れることがある。このような現象は、該当提供組織のチョッピング後組織の回収量を軽減することや位置された受容する機材から飛散して離れた切断された組織を戻してチョッピング以下の各細胞材料を分離準備するとき細菌や真菌等の汚染の可能性が高くなる等の目的とした細切行為が上手に実施することを困難とする。これは上記のような該当提供組織から各細胞材料を単離して準備する過程を含む初代培養のとき、細菌や真菌等の汚染が懸念され、これらの汚染を防止するため無菌的な操作が要求されるからである。
【0024】
前記対象組織は、凹形の底が設けられ、細切行為中に切断されたとき、対象組織が位置する受容する機材から飛散して離れることができない程度の長さの側壁部を持つ遠心用容器等の中の底部中に位置させ、手術用の曲刃(curved scissors)を利用してチョッピングするのが好ましい。通常市販の50ml容量遠心用容器は、チョッピングするとき、対象組織が遠心用容器から飛散して離れることができない程度の長さの側壁部を持つため、例え軟骨組織等の弾力のある組織の場合であっても、遠心用容器内部の空間から飛散して離れることがない。そのうえ、本法によると手術用の曲刃は曲がっているため、細胞培養のとき利用する通常市販の50ml容量遠心用容器の凹形の底との密着した接触が容易に得られる。対象組織は通常の場合、重力に影響され常に遠心用容器の凹形の底に位置される現象が起きる。このような現象と連続的に反復する手術用の曲刃の遠心用容器の凹形の底の位置の切断運動は対象組織を底に集まるようにし、弾性軟骨に強力な手術用の曲刃の切断運動が持続的な作用が可能となり、該当提供組織が軟骨組織等の弾力のある組織であっても結果的には短時間でより細かいサイズに細切することができる。以上のチョッピングを容易に達成するためには遠心用容器の長軸より長い手術用の曲刃を利用するのが好ましい。
【0025】
チョッピング作業により細かく細切した後は、中性プロテアーゼ、トリプシン、セリンプロテアーゼ、エラスターゼ及びコラゲナーゼ等の中から選択した少なくても一つの蛋白分解酵素で処理して、個体の体温と同一な温度に設定された温水を提供する恒温水槽等の水中や個体の体温と同一な温度に設定された空気を提供する細胞培養用インキュベーター等の空気中等の環境下で該当提供組織と蛋白分解酵素溶液からなる細胞懸濁液に流動による攪拌を誘発しなから消化させる。本発明において蛋白分解酵素を処理する温度と時間は蛋白分解酵素の種類及び個体の種等によって異なるが、通常の細胞培養用インキュベーターの中の37℃、5%CO2の条件下で電磁スターラー(Magnetic Stirrer)を用いて攪拌しながら消化させるのが好ましい。その理由は以下のように説明できる。本法では、蛋白分解酵素によって消化させる過程おいて通常の細胞培養用インキュベーター、無菌のガラス製瓶、電磁スターラー用の無菌磁石バーを利用するが、これらの細胞培養器材は、清潔に維持されるうえ、無菌のガラス製瓶の中にチョッピング作業で細切された該当提供組織と蛋白分解酵素溶液からなる細胞懸濁液に流動による攪拌を誘発が容易に起こり、ガラス製瓶の蓋をわずかに緩み開放することで、この隙間からインキュベーターの中の空間の温度、湿度等の気体調性に直接連結することができ、細胞培養に理想的に調整されたインキュベーターの中の気体調性は、該当提供組織と蛋白分解酵素溶液からなる細胞懸濁液の中の各細胞に対しても安定かつ有利となる。
【0026】
本発明による作製方法の工程(2)では、このように分離された細胞を継代培養して増殖させる。この段階において、培地としては当業界で公知された任意の細胞増殖用培地もしくは、軟骨分化誘導培地を使用してもよいが、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)を含む基本培地(例えば、Dulbeco's Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbeco's Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM))のような基本培地を使用する。このような培地にはコラーゲン合成に必要なアスコルビン酸を必修的に添加し、その他増殖因子又は分化誘導因子であるFGF(Fibroblast Growth Factor)、HGF(Hepatocyte Growth Factor)、IGF(Insulin-like Growth Factor)、TGF(Transforming Growth Factor)、EGF(Erythrocyte Growth Factor)、BMP(Bone Morphogenetic Protein)、TNF(Tumor Necrosis Factor)、ビタミン類、インターロイキン類、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリン、多血小板血漿、プロゲステロン、セレナイト、B27−サプリメント、N2−サプリメント、ITS−サプリメント(インスリン、トランスフェリン、亜セリン酸、ウシ血清アルブミン、リノレン酸含)、デキサメタゾン、ビルビン酸ナトリウム、プロリン、L−グルタミン等は必要に応じて添加する。また、必要に応じて、HEPES等の酸・塩基調整のための添加剤や、抗菌剤、抗真菌剤等の抗生物質、通常利用時の%である10%のFBS(ウシ胎児血清)又はより高い増殖を好む場合は10%以上のFBS、臨床応用の容易さを配慮すると患者自家由来の血清を前記の10%から10%以上で含有されてもよい。
【0027】
本発明においては、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、滑膜由来細胞、滑膜幹細胞、骨芽細胞、骨髄由来細胞、あらゆる組織由来の生体幹細胞又は間葉系幹細胞、脂肪由来細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、あらゆる分化細胞を初期化した誘導多能性幹細胞胚性幹細胞(iPS細胞)等のようにES細胞と同様な多能性や増殖能を有し、軟骨組織への容易な分化能を保有する細胞等の損傷患部に移植することで治療効果があるいずれかの各細胞材料を約2週間の繰り返しの継代培養によって増殖させる。高度分化度を示す軟骨細胞は2〜20倍以上、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有し、軟骨組織への容易な分化能を保有する未分化細胞は20〜100倍以上増殖できる当業界で公知された任意の細胞増殖用培地に、熱により不活化された10%のFBS、アスコルビン酸で調整された培地を利用するのが好ましい。
【0028】
培養を継続して約90%のコンフルエンシーに到達したら、トリプシン・EDTAで処理して、増殖させた各細胞材料を剥がし、新しい培地で継代培養を行う。本発明において軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の継代培養は3回以下に制限するのが好ましいが、これは、繰り返しの継代培養によって軟骨細胞は、特に第4回目の継代を超えると脱分化(de-differentiation)して本来の性質を失ってしまい、軟骨細胞から分泌する細胞外基質のコラーゲンのタイプがIIからIに変化する等の繊維芽細胞様(fibroblast-like)に変化するためである。本発明における前記軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の継代培養は、細胞が高密度に播種して培養されたものである。本発明の示すところの前記軟骨細胞及び軟骨前駆細胞の播種時の細胞密度は培養される細胞によっても異なるが、5,000個/cm2以上が良く、好ましくは10,000個/cm2以上が良く、さらに好ましくは20,000個/cm2以上が良く、軟骨組織や骨組織を最も効率良く再生する密度は(2.0±0.4)×104/cm2程度である。継代培養は、播種細胞の細胞密度は1,000/cm2以下であると、培養細胞が前記繊維芽細胞様に変化する場合が多く、すなわち軟骨細胞の場合であると形質発現の程度が弱く、本技術の目的を達成できない。本発明の細胞移植治療用スフェロイドは、細胞混合物が軟骨様組織として形質発現されたことを特性の一つとしている。軟骨様組織として形質発現された、という場合、SOX9、HASなどの遺伝形質を発現していること、あるいはマトリックス形成にかかわるコラーゲンIIなどの分化形質を発現している。
【0029】
上記の条件下で軟骨細胞を約2週間(すなわち、継代回数4回以前まで所要する時間)培養すると少なくても2〜20倍以上増殖できる。一方、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有し、軟骨組織への容易な分化能を保有する未分化細胞を約2週間(すなわち、連続継代回数に制限がなく、分離された細胞を継代培養して増殖させるに所要する時間)培養すると少なくても20〜100倍以上増殖できる。
【0030】
また、上記の当業界で公知された任意の細胞増殖用培地に、熱により不活化された10%のFBS、アスコルビン酸で調整された培地に、さらに増殖速度を増大させるためにその他増殖もしくは分化因子を必要に応じて添加すると上記の増殖以上に増殖できる。
【0031】
本発明による作製方法の工程(3)では、1種もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、細胞を高密度の浮遊状態に維持する培養することで、細胞材料同士を相互接着させ細胞混合物を作製する。この段階において、細胞混合物が十分に細胞材料同士を相互接着し細胞移植治療用スフェロイドを形成するように過量の細胞材料を添加することが好ましい。細胞は本来細胞自ら作り出し細胞表面に発現させる各種の接着因子や電気的な引力や化学結合によってお互いに接着しようとする性質を持ち、その傾向が各細胞の種類によって差異がある。この性質に加えてさらに振とう運動を伴うため、人為的に細胞と細胞の間の接触の機会が増加するようになる。このような人為的な操作から起因する持続的な反復の振とう運動から起きる培養液の流動により各細胞は培養容器の底部に留まらず、培養液中に浮く懸濁状態で振とう培養期間中に維持できる。従って、振とう開始の振とう初期段階に細胞スフェロイドになった小さいサイズの混合細胞複合を中心として多数の他の細胞材料同士が迅速に接着するようになり、細胞移植治療用スフェロイドが成長するようになる。特に、軟骨細胞もしくは軟骨様組織として形質発現された細胞は、高密度で存在するとそのサイズを維持しながら本来の軟骨組織により類似する状態に戻る。すなわち軟骨組織に適した正常軟骨の分化度を維持できる環境下では軟骨細胞は固有の細胞外基質であるコラーゲンのタイプIIを豊富に産生して分泌するようになり、結果的には体内存在時のように細胞数は比較的に少なく細胞外基質は豊富な正常軟骨と同様な性質を表すようになる。
【0032】
前記の工程(3)においては、本発明による作製方法の工程(2)に記載の各培地が利用できる。振とう培養は立体8字型、平面円形又は平面左右型に移動可能な振とう培養用シェーカーを利用して振動の強度を60から80rpmに設定し、個体の体温と同一の温度の環境で行うことが好ましい。特に、振とう培養期間は、1日から7日間かけて実施するが、前記継代培養期間にて十分に増殖できた各細胞材料は、細胞培養期間が4週間以上を要する既存の自家軟骨細胞移植術より培養期間を短縮するこが可能となり、結局、短期間で細胞移植治療用スフェロイドの作製が可能となる。このような期間短縮は、高齢の患者や広範囲の損傷を持つ患者等にも臨床応用可能な手法の確立にもつながり、患者たちの入院期間の短縮で医療費軽減に寄与できるという観点から、振とう培養期間は1日から3日間かけて実施し、前記継代培養期間と振とう培養期間を含める前記細胞移植治療用スフェロイドの総作製過程は、14日程度にすることが好ましい。培養容器として、前記培養容器の表面に細胞が接着できないように考案された非接着性培養皿(すなわち浮遊培養用皿、例えば、約37℃にて親水性になり、細胞が一切接着しないHydroCellTM培養皿(CellSeed.Co.))又は特に大量培養の場合にはスピナーフラスコ(Spinner flask)を使用する。以上の作業で50から999μmのサイズの細胞移植治療用スフェロイドの作製ができる。また、振とう培養は、細胞材料懸濁液の細胞密度が1×104個/mlから3,000×104個/mlにして適用するが、適当な細胞密度を選択するには、利用する細胞材料の種類、培養器材の性質や振とう培養ときの培養容器の空間や容積やサイズ等の必要に応じて、総合的に判断し、上記の範囲内の細胞材料懸濁液の細胞密度を設定されてもよい。
【0033】
前記の工程(3)において、前記マイクロキャリアは、前記細胞材料懸濁液の中の細胞同士の相互接着を促すための分子であり、各細胞と前記マイクロキャリア同士に対するお互いの良好な付着性を保持する。このマイクロキャリアを利用することで、振とう培養のとき、細胞材料同士の良好な相互接着、細胞スフェロイド形成効率の向上及び移植に適合な軟骨様組織へ形質発現の強化が可能となる。前記マイクロキャリアの使用は、必要に応じて1種もしくは2種以上を併用してもよい。2種以上を併用で使用する場合は、2つのマイクロキャリアの相違な性質が反応しさらに有益な性質を示す新たなマイクロキャリアとして働いてもよい。例えば、以下のものの中でフラグミンと硫酸プロタミンは、相違な電気電荷により、マイクロキャリアを形成し、これは、細胞と前記マイクロキャリア同士に対するお互いの良好な付着性(Nakamuraら、J Biomed Mater Res A. , May−12, Epub ahead of print (2009))を提供してくれるので好ましい。
【0034】
また、前記マイクロキャリアとしては、コラーゲン、コラーゲン誘導体、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、ラブリシン(Lubricin)、ムチン(Mucin)、キトサン、キトサン誘導体、ポリロタキサン、ポリロタキサン誘導体、キチン、キチン誘導体、ウレタン、セルロース、アガロース、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、多血小板血漿、ヘパリン、ヘパリン誘導体、フラグミン(Fragmin、一般名:ダルテパリンナトリウム[Dalteparin sodium])、硫酸プロタミン(Protamine sulfate)、Avidin、Streptavidin、Biotin、ラミニン、2−Octyl Cyanoacryleate、アルギン酸カルシウム、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体、ポリ乳酸ポリカプロラクトン共重合体及びポリグリコール酸ポリカプロラクトン共重合体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の生体親和性材料又は生体吸収性材料で形成されるものが好ましい。さらに、前記マイクロキャリアは、臨床へ効率的かつ実質的に利用可能な細胞混合物の細胞移植治療用スフェロイドを作製及びそれを利用した治療法に使用されやすい観点からみると、関連機関から臨床的使用の際は、許可及び認可を収得したものが好ましい。
【0035】
前記の段階(3)において、前記振とう培養について、図1、図2、及び図3を参照して以下に説明する。1種、もしくは2種以上(図2の細胞材用Aと細胞材料B)の細胞を培養液の中で単独又は混合した細胞材料懸濁液を準備して振とう培養することで、細胞材料同士を相互接着させ、細胞混合物を作製過程1回のみの振とう培養、もしくは2回以上反復実施する複数段階の振とう培養を行うことができる。複数段階の振とう培養を行う場合は、1回目の振とう培養の結果産物である1次細胞スフェロイドを中心として、更に1種もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、続いて2回目以上の振とう培養することで、前記1回目の振とう培養の結果産物の細胞スフェロイドと細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物である2次細胞スフェロイドで新たな細胞混合物を作製することが可能となる。このように1次細胞スフェロイドを中心として更に細胞材料を培養液の中で混合した細胞懸濁液を準備し、続いて2回目の振とう培養することで、前記1回目の振とう培養の結果産物の細胞スフェロイドと細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物である2次細胞スフェロイドで新たな細胞混合物を作製する過程において、1次細胞スフェロイドと2回目の振とう培養の細胞材料を投入した直後の像を位相差顕微鏡下にて観察した結果を図11に示した。
【0036】
2回目以上の振とう培養することで、結果産物の細胞スフェロイドの構造を人為的に変更することが可能となる。例え、より表層に近い2次細胞スフェロイドの細胞材料を軟骨細胞とし、より深部に位置する1次細胞スフェロイドの細胞材料を滑膜由来細胞とすれば、高い増殖率を保有する滑膜由来細胞により細胞スフェロイドの殆どの部分を示す1次細胞スフェロイドを形成させたうえ、比較的に高齢の患者の場合ではより増殖率が衰える軟骨細胞であって限られた培養期間内では少ない細胞材料しか準備できなくても、前記の2次細胞スフェロイドを形成させるには十分であるので、各細胞材料の増殖能や、生体内での解剖学、組織学及び発生学の面で総合的に判断し、上記の複数段階の振とう培養の細胞材料の種類や組み合わせを考慮した作製方法を選択すればよい。
【0037】
本発明による作製方法の工程(4)では、細胞移植治療のため作製された細胞スフェロイドを分離する。分離された細胞スフェロイドは、さらに損傷患部に移動することができる。前記の工程(3)において振とう培養が1日から7日間経過すると培養皿内に多様なサイズの細胞移植治療用スフェロイドが存在するようになる。これらを単純に分離する及びサイズ別に分離するために、一の態様においては、滅菌処理されたマイクロピペットのチップ(Tip)を用いて、位相差顕微鏡下にて観察しながらマイクロピペットで細胞移植治療用スフェロイドを吸入し、新たな培養皿(浮遊培養用皿)に置き換える方式が利用できる。このとき、培養皿を円運動させ遠心力により、細胞移植治療用スフェロイドを中心に集まるようにしてマイクロピペットのチップを利用して前記細胞移植治療用スフェロイドの作製過程において使用した培養液及び細胞懸濁液、マイクロキャリア含有溶液、各種緩衝もしくは生理食塩水等の体液に類似する調整である前記運搬用溶液等と同時に吸入させるとチップの直径に大きさ別に適当なサイズの移植治療用スフェロイド吸入することができる。また、同様に注射用針と注射器を利用し、損傷患部に細胞移植する過程において内視鏡もしくは関節鏡下手術に使用可能な形態に移植治療用スフェロイドを準備してもよい。
【0038】
作製された細胞スフェロイドを移動させて損傷部位である移植部位へ細胞スフェロイドを位置させると、これらの細胞スフェロイドの表面も構成する細胞によって成立しているため、このような細胞は、本来細胞自ら作り出し細胞表面に発現させる各種の接着因子や電気的な引力や化学結合によってお互いに接着しようとする性質を持つ。従って、このような細胞で表面が構成されている細胞スフェロイドは、近接する細胞スフェロイド同士のみでもお互いに容易に合体する。また、細胞混合物を損傷患部へより良好な固定及び短期間内の移植患部と細胞スフェロイド関の迅速な結合を望むときは、前記マイクロキャリアを利用してもよい。マイクロキャリアは、コラーゲン、コラーゲン誘導体、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、ラブリシン(Lubricin)、ムチン(Mucin)、キトサン、キトサン誘導体、ポリロタキサン、ポリロタキサン誘導体、キチン、キチン誘導体、ウレタン、セルロース、アガロース、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、多血小板血漿、ヘパリン、ヘパリン誘導体、フラグミン(Fragmin、一般名:ダルテパリンナトリウム[Dalteparin sodium])、硫酸プロタミン(Protamine sulfate)、Avidin、Streptavidin、Biotin、ラミニン、2−Octyl Cyanoacryleate、アルギン酸カルシウム、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体、ポリ乳酸ポリカプロラクトン共重合体及びポリグリコール酸ポリカプロラクトン共重合体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の生体親和性材料又は生体吸収性材料で形成されていることが好ましい。マイクロキャリアの素材は、マイクロキャリアの性質や細胞移植治療用スフェロイドの構成や、移植部位の環境等を総合的に考慮し、適宜選択することができる。
【0039】
また、上記の細胞混合物を損傷患部へ良好に固定するために用いるマイクロキャリア単独利用とは別途に、損傷部位を含む移植部位は損傷部位とその周辺部位の平坦な形状を考えると、前記該当提供組織由来の軟骨細胞、軟骨前駆細胞、滑膜由来細胞、滑膜幹細胞、骨芽細胞、骨髄由来細胞、あらゆる組織由来の生体幹細胞又は間葉系幹細胞、脂肪由来細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、あらゆる分化細胞の初期化にした誘導多能性幹細胞胚性幹細胞(iPS細胞)等のようにES細胞と同様な多能性や増殖能を有し、軟骨組織への容易な分化能を保有する細胞等が損傷患部に移植することで治療効果がある、いずれか1種もしくは2種以上の細胞から一定期間培養され、シート状に前記細胞と細胞外基質で構成された培養細胞シート単独、もしくは前記培養細胞シートとコラーゲン、コラーゲン誘導体、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、ラブリシン(Lubricin)、ムチン(Mucin)、キトサン、キトサン誘導体、ポリロタキサン、ポリロタキサン誘導体、キチン、キチン誘導体、ウレタン、セルロース、アガロース、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、多血小板血漿、ヘパリン、ヘパリン誘導体、フラグミン(Fragmin、一般名:ダルテパリンナトリウム[Dalteparin sodium])、硫酸プロタミン(Protamine sulfate)、Avidin、Streptavidin、Biotin、ラミニン、2−Octyl Cyanoacryleate、アルギン酸カルシウム、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体、ポリ乳酸ポリカプロラクトン共重合体及びポリグリコール酸ポリカプロラクトン共重合体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の生体親和性材料又は生体吸収性材料の人工バイオマテリアルで形成されたシート状構造物又は多様な形状構造物を、補助的に軟骨、もしくは骨組織表面に対し被覆又は補填してもよい。ここでは、細胞混合物を損傷患部へ良好に固定するためにシート状構造物を用いて補助的に利用する様態を例にとって図4に示した。
【0040】
本発明において、細胞移植は、まずは細胞混合物の細胞移植治療用スフェロイドの細胞成分であるが、細胞スフェロイド中の構成細胞から分泌される分子及び産生細胞外基質、前記細胞移植治療用スフェロイドの作製過程において使用した培養液及び細胞懸濁液、マイクロキャリア含有溶液、各種緩衝もしくは生理食塩水等の体液に類似する調整である運搬用溶液を同時に治療のために損傷患部へ移植することであり、軟骨様組織として形質発現されたままの本来の機能が発揮できる細胞移植治療が可能となる。
【0041】
本発明の他の態様において、前記細胞移植治療用スフェロイドは、治療用の目的とは別途に化合物、薬剤、毒物などの薬効や毒性の生理作用や毒性を評価するためのシステムと利用することが可能である。これは前記細胞移植治療用スフェロイドの用途は特に限定されず、治療用の目的以外に細胞スフェロイドを利用して行われているあらゆる試験・研究や細胞スフェロイドを用いた疾病の治療などに使用することができる。例えば、本発明の方法により得られたあらゆる成体幹細胞のスフェロイドをIGF、TGF、トランスフェリン、インスリン、FBS、GA−1000、ITS-サプリメント、デキサメタゾン、アスコルビン酸、ピルビン酸ナトリウム、プロリン等の因子で処理することにより、軟骨細胞へ分化誘導することができ、そのようにして得られた分化細胞を患者に戻すことにより自家細胞移植による幹細胞療法を達成することもできる。もっとも、本発明の細胞移植治療用スフェロイドの用途は上記の特定の態様に限定されることはない。
【0042】
本発明の他の態様において、前記2回以上反復実施する複数段階の振とう培養し、1回目の振とう培養の結果産物である1次細胞スフェロイドを中心として更に1種、もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、続いて2回目以上の振とう培養することで、前記1回目の振とう培養の結果産物の細胞スフェロイドと細胞材料同士を相互接着させた細胞混合物である2次細胞スフェロイドで新たな細胞混合物を作製することが可能となる。このような特徴の複数段階の振とう培養を施し、細胞スフェロイドは多重の層状向上を構築させることが可能となる。
【0043】
例えば、膝軟骨組織を解剖学、組織学及び発生学の観点から観察すると、表面から骨髄を向かって深部に到達するにつれて膝軟骨組織を構成する軟骨細胞の形状は変わっていく。このような形状の異なる軟骨細胞はその性質と機能も相違であろうと考えられる。層別に異なる細胞で細胞スフェロイド構造物を作製することでより生体内にごく類似した環境を構築することが可能となる。このように作製された細胞スフェロイド構造物を用いた上記のシステムによる化合物、薬剤、毒物などの薬効や毒性の生理作用や毒性を評価はより正確な評価及び予測が可能となる。
【0044】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1:ウサギ膝の関節軟骨細胞と膜由来細胞を混合した細胞混合物による細胞移植治療のため細胞スフェロイド作製
(1−A) 軟骨細胞及び滑膜由来細胞の分離及び培養
ウサギ(Japanese White Rabbit、1kg±200g、雌)の膝から軟骨組織及び滑膜組織を採集し、皮膚組織、皮下組織、筋肉組織、軟骨下骨(subchondral bone)、靭帯、半月板、その他の結合組織を除去した後、通常市販の50ml容量遠心用容器の内部に位置させ、手術用の曲刃を利用してチョッピングし、細切した。そして、1.25%トリプシン(Invitrogen Co.)又は0.5%コラゲナーゼI(collagenase class I: Worthington, Biochemical Co.)をD-MEM/F-12培地(Gibco. Co.)、1%の抗菌剤/抗真菌剤混合物(10,000units/mlのペニシリンG、10,000μg/mlのストレプトマイシン硫酸塩及び25μg/mlのアムホテリシンB: Invitrogen Co.)及び50μg/mlのアスコルビン酸で調整した培地に溶解した消化溶液を調整して、1次消化酵素溶液及び2次消化酵素溶液を準備した。軟骨組織及び滑膜組織は前記の各消化溶液で処理し、無菌のガラス製瓶に受容する同時に磁スターラー用の無菌磁石バーを入れる。その後、通常の細胞培養用インキュベーターの中の37℃、5%CO2の条件下で電磁スターラー(モデル名:Magnetic Stirrer RCN-3D、EYELA Co.)を用いて60rpmにて攪拌しながら消化させる。この際、1次消化酵素溶液による1時間の消化及び2次消化酵素溶液による3時間の消化を実施し、軟骨組織及び滑膜組織が単一細胞になるよう分離した。このようにして得られた細胞懸濁液は70μm及び40μmのナイロン製cell-strainer(BD FalconTM:BD Biosciences)で連続的に通過させた後、リン酸緩衝液を用いて2回洗浄した。
【0046】
このような過程によって得られた単一細胞は軟骨細胞及び滑膜由来細胞の個数を増殖させるため、増殖用培地に播種し培養した。初回の細胞密度は(2.0±0.4)×104で/cm2播種し、続いて継代培養にも細胞密度は(2.0±0.4)×104/cm2播種した。また、D-MEM/F-12培地(Gibco. Co.)に、熱により不活化された10%のFBS(ウシ胎児血清)、1%の抗菌剤/抗真菌剤混合物(10,000units/mlのペニシリンG、10,000μg/mlのストレプトマイシン硫酸塩及び25μg/mlのアムホテリシンB: Invitrogen Co.)及び50μg/mlのアスコルビン酸で調整した培地を利用し、90%のコンフルエンシーに到達したとき、トリプシン・EDTAを処理して増殖させた軟骨細胞を培養皿から剥がした。
【0047】
12〜13日間の細胞増殖の継代培養期間において軟骨細胞は2回、滑膜由来細胞は最大4回まで継代し、最終的に細胞混合物の細胞移植治療用スフェロイドを作製する細胞材料としては、第3継代目の軟骨細胞と第4〜5継代目の滑膜由来細胞を用いた。
【0048】
(1−B)単離培養軟骨細胞及び滑膜由来細胞への蛍光試薬のタッギング
上記(1−A)によって回収した各単離培養軟骨細胞及び滑膜由来細胞は、D-MEM/F-12培地(Gibco. Co.)を1%の抗菌剤/抗真菌剤混合物(10,000units/mlのペニシリンG、10,000μg/mlのストレプトマイシン硫酸塩及び25μg/mlのアムホテリシンB: Invitrogen Co.)及び50μg/mlのアスコルビン酸で調整した培地で再懸濁して遠心(1,800rpm/5分、24℃)させて、軟骨細胞及び滑膜由来細胞軟骨細胞数を対象とし、各細胞を蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー顕微鏡下にて経時的に追跡するためPKH染色キット(Sigma Co.)を用いて光試薬のタッギングする準備をした。 軟骨細胞は赤色蛍光タッグのMINI26を滑膜由来細胞は緑色蛍光タッグのMINI67KIT(Fluorescent Cell Linker Mini Kit for General Cell)を用いてプロトコールに従って実施し、軟骨細胞及び滑膜由来細胞はお互いに比較できるようにした。この作業によって蛍光試薬のタッギングした軟骨細胞及び滑膜由来細胞の細胞懸濁液を準備した。
【0049】
(1−C)振とう培養による細胞混合物の作製
上記(1−A)及び(1−B)によって調整した、適当な回数で継代され、蛍光試薬でタッギングされた軟骨細胞及び滑膜由来細胞の細胞懸濁液を、D-MEM/F-12培地(Gibco. Co.)を熱により不活化された10%のFBS(ウシ胎児血清)、1%の抗菌剤/抗真菌剤混合物(10,000units/mlのペニシリンG、10,000μg/mlのストレプトマイシン硫酸塩及び25μg/mlのアムホテリシンB: Invitrogen Co.)及び50μg/mlのアスコルビン酸で調整した培地を用いて5mlに再懸濁し、軟骨細胞及び滑膜由来細胞の個数を600×104/5ml調節した。このような軟骨細胞及び滑膜由来細胞を、さらに単独又は軟骨細胞と滑膜由来細胞を決めた割合、(すなわち(1)100%滑由来膜細胞・0%軟骨細胞の細胞懸濁液、(2)75%滑膜由来細胞・25%軟骨細胞の細胞懸濁液、(3)50%滑膜由来細胞・50%軟骨細胞の細胞懸濁液、(4)25%滑膜由来細胞・75%軟骨細胞の細胞懸濁液、(5)0%滑膜由来細胞・100%軟骨細胞の細胞懸濁液)で含む細胞材料懸濁液を準備した。培養容器としては直径60mmのHydroCellTM培養皿(CellSeed.Co.)を使用し、通常の細胞培養用インキュベーターの中の37℃、5%CO2の条件下で振とう培養用シェーカー(モデル名:ダブルシェーカーNR-3、TAITEK Co.)を利用して平面円形の移動を実施しながら70rpmの振動を加えながら37℃で条件によって1日〜5日間培養した。継代培養期間と振とう培養期間を含める細胞移植治療用スフェロイドの総作製過程を14日程度とした。ここでは、細胞混合物を損傷患部へ良好に固定するために補助的なシート状構造物(軟骨細胞シート)利用する様態を例にとってそのスケジュールを図5に示した。
【0050】
培養期間ごとに収得した細胞スフェロイドを位相差顕微鏡下にて及び蛍光試薬のタッギングした軟骨細胞及び滑膜由来細胞を観察する際は位相差顕微鏡に適当な範囲の波長のみ選択的に通過させる蛍光フィルター付加して観察し、その結果を図6及び図7に示した。図6のAは軟骨細胞及び滑膜由来細胞の割合を(2)75%滑膜由来細胞・25%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に振とう培養開始直後、Bは12時間経過後、Cは24時間経過後、Dは36時間経過後の位相差顕微鏡像である。
【0051】
図7のAは軟骨細胞及び滑膜由来細胞の割合を(4)25%滑膜由来細胞・75%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に振とう培養開始直後、Bは12時間経過後、Cは24時間経過後、Dは36時間経過後の位相差顕微鏡に適当な範囲の波長のみ選択的に通過させる蛍光フィルター付加して観察像である。
【0052】
また、振とう培養は、上記の軟骨細胞及び滑膜由来細胞をさらに単独又は軟骨細胞と滑膜由来細胞を決めた割合を(5)0%滑膜由来細胞・100%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に、平面円形又は平面左右型に移動させながら4日間実施し、その結果を図8A及びBに示した。
【0053】
図9は、上記の各(1)〜(5)までの割合の条件での軟骨細胞及び滑膜由来細胞の細胞懸濁液を対象に振とう培養開始36時間経過後の位相差顕微鏡に適当な範囲の波長のみ選択的に通過させる蛍光フィルター付加して観察像である。共焦点レーザー顕微鏡下にて、軟骨細胞及び滑膜由来細胞の割合を(3)50%滑膜由来細胞・50%軟骨細胞の細胞懸濁液を対象に振とう培養を5日間実施して観察した像の結果を図10に示した。
【0054】
細胞移植治療用スフェロイドを構成する各細胞材料は、時間が経つにつれて、人為的な操作から起因する持続的な反復の振とう運動から起きる培養液の流動により各細胞は培養容器の底部に留まらず、培養液中に浮く懸濁状態で振とう培養期間中に維持でき、振とう開始の振とう初期段階に細胞スフェロイドになった小さいサイズの混合細胞複合を中心として多数の他の細胞材料同士が迅速に接着するようになり、細胞移植治療用スフェロイドが成長した。この期間中に、細胞混合物は、振とう培養開始後12時間から肉眼的にも観察でき、全振とう培養期間において観察可能であった。このとき、収得した細胞スフェロイドを肉眼的な所見を、その結果を図12に示した。
【0055】
細胞混合物は、時間が経つにつれて、輪郭が徐々に滑らかになるのを確認した。培養開始後125時間を経過したマイクロ粒子を位相差顕微鏡下にて観察し、その結果を上記の図6及び図7に示した。サイズが小さい細胞スフェロイドの場合は、直径が250±100μm、サイズが大きい細胞スフェロイドの場合は、直径が700±250μm程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明による軟骨様組織として形質発現している細胞混合物からなる細胞移植治療用スフェロイドは、上記細胞混合物を構成する各細胞材料を分離準備し、前記分離された各細胞を継代培養して増殖させた後、1種もしくは2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞材料懸濁液を準備し、これを振とう培養することで、細胞材料同士を相互接着させて細胞混合物を作製し、作製された細胞スフェロイドを分離することにより得られるものである。本発明の細胞移植治療用スフェロイドは、損傷患部に移動することによって、細胞移植治療を行うことができ、また化合物、薬剤、毒物などの薬効や毒性などの生理作用を評価するためのシステムとしても有用である。本発明の細胞移植治療用スフェロイドにおいては、それを構成する各細胞が、軟骨細胞の単独使用のみならず、1種もしくは2種以上の高度な増殖能を示し、軟骨組織への容易な分化能を保有する任意の幹細胞もしくは軟骨前駆細胞等を利用することが可能であり、軟骨様組織として形質発現された細胞移植治療用スフェロイドを大量に準備するこが可能となる。これにより、本発明の細胞移植治療用スフェロイドは、高齢者に多発する広範囲な骨軟骨損傷や、損傷の程度が軟骨組織表層から軟骨下骨まで到達しない部分欠損等に対する治療技術の確立において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨様組織として形質発現している細胞混合物からなる、細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項2】
細胞混合物が、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、滑膜由来細胞、滑膜幹細胞、骨芽細胞、骨髄由来細胞、生体幹細胞又は間葉系幹細胞、脂肪由来細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、あるいは分化細胞の初期化により獲られる誘導多能性幹細胞(iPS細胞)から選ばれる1種又は2種以上の細胞の混合物である、請求項1に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項3】
細胞混合物が、自家、同種もしくは異種の組織から由来した細胞の混合物である、請求項1又は2に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項4】
細胞混合物の大きさが50から999μmである、請求項1から3の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項5】
軟骨組織の一部又は全部を損傷又は欠損した患部、あるいは骨組織の一部を損傷又は欠損した患部に移植するために使用する、請求項1から4の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項6】
軟骨組織が、関節軟骨、半月板、椎間板、肋軟骨、鼻中隔、又は耳介軟骨である、請求項5に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項7】
関節炎、関節症、軟骨損傷、骨軟骨損傷、半月板損傷、椎間板変性、又は変形性関節症の治療のために使用される、請求項1から6の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項8】
被験物質の薬効又は毒性を評価するために使用する、請求項1に記載の細胞移植治療用スフェロイド。
【請求項9】
下記の工程(1)から(4)を含む、細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
(1)細胞混合物を構成する1種又は2種以上の細胞を分離準備する工程;
(2)工程(1)で分離された細胞を継代培養して増殖させる工程;
(3)工程(2)で増殖させた1種又は2種以上の細胞を培養液の中で単独又は混合して細胞懸濁液を準備し、細胞を高密度の浮遊状態に維持して培養することによって、細胞同士を相互接着させた細胞混合物を作製する工程;及び
(4)工程(3)で製造された細胞スフェロイドを分離する工程:
【請求項10】
工程(1)において分離準備される細胞が、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、滑膜由来細胞、滑膜幹細胞、骨芽細胞、骨髄由来細胞、生体幹細胞又は間葉系幹細胞、脂肪由来細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、あるいは分化細胞の初期化により獲られる誘導多能性幹細胞(iPS細胞)から選ばれる1種又は2種以上の細胞である、請求項9に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項11】
工程(1)において、対象組織をチョッピングして細切し、粉砕した後、蛋白分解酵素で処理して細胞を単離する、請求項9又は10に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項12】
対象組織は、凹形の底が設けられ、細切行為中に切断されたとき、対象組織が位置する受容する機材から飛散して離れることができない程度の長さの側壁部を持つ容器の中の底部中に位置させ、前記容器の側面部の長軸より長い手術用の曲刃を利用してチョッピングする、請求項11に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項13】
対象組織は、蛋白分解酵素で処理するとき、37℃、5%CO2の条件下で電磁スターラーを用いて攪拌しながら消化させる、請求項11又は12に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項14】
工程(2)において、細胞が軟骨細胞及び軟骨前駆細胞である場合には、継代培養の回数が3回以下である、請求項9から13の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項15】
工程(3)において、細胞を高密度の浮遊状態に維持した培養が、人為的な操作から起因する持続的な反復運動から起きる培養液の流動により、各細胞は培養容器の底部に留まらず、培養液中に浮く懸濁状態を、振とう培養期間中に維持できる振とう培養である、請求項9から14の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項16】
振とう培養を1〜7日間行う、請求項15に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項17】
振とう培養における細胞懸濁液の細胞密度が、1×104個/mlから3,000×104個/mlである、請求項15又16に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項18】
工程(3)において、細胞懸濁液が、振とう培養の際に、細胞同士の良好な相互接着、細胞スフェロイド形成効率の向上、及び移植に適合な軟骨様組織へ形質発現の強化による治療効果の極大化のための1種又は2種以上のマイクロキャリアを含有する、請求項9から17の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項19】
マイクロキャリアが、細胞懸濁液の中の細胞同士の相互接着を促すための分子であり、各細胞と前記マイクロキャリア同士に対する互いの良好な付着性が保持される、請求項18に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項20】
マイクロキャリアが、コラーゲン、コラーゲン誘導体、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、ラブリシン(Lubricin)、ムチン(Mucin)、キトサン、キトサン誘導体、ポリロタキサン、ポリロタキサン誘導体、キチン、キチン誘導体、ウレタン、セルロース、アガロース、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、多血小板血漿、ヘパリン、ヘパリン誘導体、フラグミン(Fragmin、一般名:ダルテパリンナトリウム[Dalteparin sodium])、硫酸プロタミン(Protamine sulfate)、Avidin、Streptavidin、Biotin、ラミニン、2−Octyl Cyanoacryleate、アルギン酸カルシウム、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体、ポリ乳酸ポリカプロラクトン共重合体及びポリグリコール酸ポリカプロラクトン共重合体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の生体親和性材料又は生体吸収性材料で形成されている、請求項18又は19に記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項21】
工程(3)において、細胞を高密度の浮遊状態に維持して培養することによって、細胞同士を相互接着させた1次細胞スフェロイドを作製し、次いで前記1次細胞スフェロイドを中心として更に追加の1種もしくは2種以上の細胞を培養液中に混合して細胞懸濁液を準備し、続いて培養することによって、前記1次細胞スフェロイドと前記追加の細胞を相互接着させた2次細胞スフェロイドを作製する、請求項9から20の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項22】
工程(3)で用いる培養液が、軟骨分化誘導培地である、請求項9から21の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項23】
工程(4)において、細胞スフェロイドが、内視鏡又は関節鏡下手術に使用可能な形状とされる、請求項9から22の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。
【請求項24】
細胞移植治療用スフェロイドの作製過程が14日以内である、請求項9から23の何れかに記載の細胞移植治療用スフェロイドの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−41472(P2011−41472A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189672(P2009−189672)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】