説明

細胞用力学負荷装置

【課題】細胞の測定を容易に行うことができると共に、細胞に効率よくせん断速度負荷を加えることができる細胞用力学負荷装置を提供する。
【解決手段】少なくとも一部が透明な第1平板1と、第1平板1に対して隙間を隔てて平行に配置されている第2平板1Aと、第1平板1と第2平板1Aとの間の隙間に設けられ、赤血球Sを含む試料を入れる血液試料室4と、試料中の赤血球Sに周期的なせん断速度負荷を加えるため第1平板1と第2平板1Aを逆方向に平行振動させる平板振動手段17とを備える。上下の平板1,1Aが同じ速度で逆方向に振動するため、上下の平板1,1Aの中央箇所では赤血球Sが移動せず、測定範囲から外れないため、赤血球Sの測定を容易に行うことができる。また、従来の片側振動装置に対して、2倍のせん断速度を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞用力学負荷装置に関し、特に細胞の変形能を測定する際、細胞を含む試料に周期的なせん断速度負荷を加えるための細胞用力学負荷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、細胞として血液中で主要な働きを担う赤血球が挙げられ、この赤血球は変形能を有し、その大きさより小さい径の毛細血管を通過することができる。赤血球の変形能は一般的に浸透圧、血液内に溶解している脂質の影響、加齢による影響等が考えられるが、血液が正常な機能を果たす上ではこの変形能が重要になり、循環器系の疾患は赤血球の変形能、血液の流動性が損なわれることにも起因する。そのようなことから、血球細胞、特に赤血球の変形能を測定し、定量的に評価することが循環器系疾患の検査に有効であると考えられ、このような血球細胞の変形能の測定、評価について研究、開発がなされている。また、遺伝による血液疾患における血液循環特性などについても定量的な評価が行われている。
【0003】
従来、赤血球の変形能評価技術として、細胞を含む試料がニッケルメッシュフィルタを通過するのに要する時間、流れ抵抗を測定することによるもの(例えば特許文献1)、経皮的に血管内の血流に向けて超音波を入射させて散乱エコーを受信し、これから求められた血流速度分布に基づいて血液の粘性率分布を求めることによるもの(例えば特許文献2)、試料流に含まれる赤血球を撮像して得られた画像に基づいて赤血球の形態を示す値を算出することによるもの(例えば特許文献3)などがある。
【0004】
特許文献1は、赤血球を含む試料がフィルタ、マイクロチャネル等を通過する速度が直接的には求められるが、赤血球の変形能について定量的に評価する上で有効な指標を与えるものにはならない。また、特許文献2では、生体内での血流についての速度分布から粘性率分布が求められるが、赤血球の変形能について定量的に評価するにはやはり適合しないものである。特許文献3においては、撮像により得られた画像に基づいて赤血球の形態を示す値として、赤血球の平均容積、凝集率、奇形の指数等が求められるが、それらの指標は赤血球の形状、形態的なものであって、赤血球の変形能について定量的に示すものではない。
【0005】
このような問題点を考慮して、本発明者は、1対の平行に間隔をおいて配置した平板の間に試料を収容し、一方の平板を平行に移動させて試料に周期的なせん断速度を加えた状態で血液細胞の状態を光学的に検出し、血液細胞の力学的特性を計測する方法(例えば特許文献4及び特許文献5)を提案している。
【0006】
上記特許文献4及び特許文献5においての赤血球の変形性測定では、赤血球に均一なせん断速度を定状もしくは過度的に負荷し変形させ、変形した赤血球の形状を顕微鏡と高速度カメラなどを用いて、負荷した力と変形量の関係から推定することができ、従来の問題を解決することができる。
【0007】
ここで流れ場内にある赤血球の変形は、下記の数1に示すように、せん断速度γ(t)と赤血球周辺の溶媒の粘性μの積によって定義される。
【0008】
【数1】

【0009】
ただし、v(t)は流体の速度、hは流路の間隔である。赤血球はせん断応力で変形するが、実際の装置はせん断速度を発生し、このせん断速度と赤血球周辺の粘性の積により赤血球のせん断応力が決定するため、赤血球を変形される要素は「せん断速度」として以下に、これまでの赤血球を変形されるせん断速度負荷装置について説明する。
【0010】
図10はせん断速度を赤血球に定状的に加え、変形させる従来の装置を示す。この装置は、逆レオメーターと呼ばれる。この逆レオメーターは、例えば円板101と円板102あるいは円錐と円板で構成され、円板101と円板102の間隙に赤血球Sを含む試料を入れ、それら円板101と円板102の間隙を一定に保った状態で、円板101と円板102をそれぞれ逆方向に回転させることにより、せん断速度を発生し、焦点の合う赤血球Sについて形状変化を観察することができ、また、この装置では、赤血球Sが流れ場内で少ない移動で観察できるという大きな利点がある。
【0011】
図11は、上記特許文献4の片側振動装置を示し、この片側振動装置は過度なせん断速度を赤血球Sに加え、変形されるものであり、固定平板111と可動平板112を平行に配置し、これら2枚の平板111,112間に赤血球Sを含む試料を入れ、可動平板112を振動させることで赤血球Sに周期的なせん断速度を発生させることができる。
【0012】
また、上記特許文献5では、片側振動装置の平行平板が作る流れ場が再現性良く出来るように、可動平板を磁力や弾性力で固定平板に押し付け、平行平板の間隙を一定に保つように構成している。
【0013】
図12は、逆レオスコープ法を用いた両側逆振動装置を示す。この両側逆振動装置は、円錐121と円板122を回転軸123にそれぞれ回動自在に設け、それら2枚の円錐121と円板122の間に赤血球Sを含む試料を入れ、円錐121と円板122とを相互に逆回転方向で正・逆転回転を繰り返すことで、赤血球Sにせん断速度を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−242166号公報
【特許文献2】特開2006−166974号公報
【特許文献3】特開平10−260181号公報
【特許文献4】特開2008−170390号公報
【特許文献5】特開2010−25852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これまで赤血球に過度的にせん断速度を負荷する装置は、2枚の平行のガラス板のうち1枚を固定した状態で、もう1枚を動かす方法が主流であり、2枚の平板間でのせん断速度は理想的には、固定側でも可動側と同様のせん断速度が発生する。しかしながら、実際に発生する流れは準クエット流れであり、固定側面の近傍におけるせん断速度は理想よりとても小さくなる。そのため測定対象となる赤血球は、可動側面に近い赤血球が対象となり、周波数を高くするには、可動側の距離もしくは速度を大きくする必要があり、このように赤血球の移動量が大きくなるため、多くの計測条件では赤血球は、視野から消えてしまうことになる。そのため、特定の赤血球について、繰り返し負荷における形状変化特性や耐久性などを測定することはできない。また、高周波数の条件下では、高速度カメラの性能と高輝度な光源装置が必要不可欠となる。
【0016】
一方、図4に示した逆レオスコープ方式では、円錐121と円板122に接続されたモータを正逆回転することで、周期的なせん断速度負荷を与えることはできるが、振幅が小さいせん断速度を周期的に発生させるには回転側のプーリ径と円錐121および円板122の直径比を大きくする必要があり、装置が大がかりになる。また、コストを下げるために、円板と円板の組み合わせにすると、中心から半径方向に距離が離れた位置では大きな遠心力が加わり赤血球が外周方向に移動する虞がある。
【0017】
そこで、上記の問題点を考慮して、細胞の測定を容易に行うことができると共に、細胞に効率よくせん断速度負荷を加えることができる細胞用力学負荷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、細胞を含む試料に周期的なせん断速度負荷を加えるための細胞用力学負荷装置において、少なくとも一部が透明な第1平板と、前記第1平板に対して隙間を隔てて平行に配置されている第2平板と、前記第1平板と前記第2平板との間の隙間に設けられ、細胞を含む試料を入れる空間と、前記試料中の細胞に周期的なせん断速度負荷を加えるため前記第1平板及び前記第2平板を逆方向の直線往復動により平行振動させる平板振動手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項2に係る発明は、前記第1平板を設けた第1振動体と、前記第2平板を設けた第2振動体と、を備え、前記平板振動手段は、前記第1振動体と前記第2振動体の一方を往復駆動する直線往復駆動源と、前記第1振動体と前記第2振動体の間に配置され、前記第1振動体と前記第2振動体の一方の往復動を他方に伝達して該他方を逆方向に往復動する回転伝達体と、を備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項3に係る発明は、前記回転伝達体が前記第1振動体と前記第2振動体の間に挟んで配置したローラであることを特徴とする。
【0021】
また、請求項4に係る発明は、前記第1振動体と前記第2振動体に相互に平行に配置された第1対向部と第2対向部を設け、前記第1対向部と前記第2対向部の間に複数の前記回転伝達体を配置したことを特徴とする。
【0022】
また、請求項5に係る発明は、前記第1平板と前記第2平板の間に介挿されて前記第1平板と前記第2平板の間隔を維持するとともに前記第1平板と前記第2平板の間において前記試料を入れる空間を形成する間隙板と、前記間隙板を位置固定する位置固定手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、請求項6に係る発明は、前記間隙板は少なくとも一部が磁性材料からなり、前記第1平板と前記第2平板の外側から作用する磁力により前記間隙板を位置固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1に記載の細胞用力学負荷装置によれば、上下の平板が同じ速度で逆方向に振動するため、上下の平板の間隙板中央箇所では細胞が移動せず、測定範囲から外れないため、細胞の測定を容易に行うことができる。また、両方の平板が振動することにより従来の片側振動装置に対して、2倍のせん断速度を与えることができる。
【0025】
また、本発明の請求項2に記載の細胞用力学負荷装置によれば、直線往復駆動源により第1振動体と前記第2振動体の一方を往復駆動すると、回転伝達体により他方が逆方向に往復動し、これにより第1平板と第2平板が逆向きで往復振動することで片側振動装置に比べ2倍のせん断速度を与えることができる。
【0026】
また、本発明の請求項3に記載の細胞用力学負荷装置によれば、第1振動体と第2振動体の間に挟まれたローラが、一方の往復動を他方に逆方向に伝達し、これにより第1平板と第2平板が逆向きで往復振動する。
【0027】
また、本発明の請求項4に記載の細胞用力学負荷装置によれば、複数の回転伝達体を第1対向部と前記第2対向部により挟むことにより、それら第1対向部と前記第2対向部を平行に配置することができ、これにより第1平板と第2平板を平行に配置することができる。
【0028】
また、本発明の請求項5に記載の細胞用力学負荷装置によれば、間隙板により第1平板と第2平板との間に試料を入れる空間を形成することができ、平板が往復動しても位置固定手段により間隙板が位置固定され、平板間の空間が動くことがない。
【0029】
また、本発明の請求項6に記載の細胞用力学負荷装置によれば、平板が往復動しても磁力により間隙板を位置固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1を示す赤血球にせん断速度を負荷した状態の説明図である。
【図2】同上、平板の往復動を説明する説明図である。
【図3】同上、細胞用力学負荷装置の下側部材を示し、図3(A)は平面図、図3(B)は縦断面図である。
【図4】同上、細胞用力学負荷装置の要部の縦断面図である。
【図5】同上、振動体に上側部材と下側部材を組み込んだ状態の縦断面図である。
【図6】同上、全体縦断面図である。
【図7】同上、平板の移動距離と時間との関係を示すグラフ図である。
【図8】同上、振幅位置における赤血球の状態を説明する説明図である。
【図9】本発明の実施例2を示す要部の平面図であり、図9(A)は下側部材の平面図、図9(B)は間隙板の平面図である。
【図10】従来例において赤血球にせん断速度を負荷した状態の説明図である。
【図11】従来例の片側振動装置において赤血球にせん断速度を負荷した状態の説明図である。
【図12】従来例の両側逆振動装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の細胞用力学負荷装置の実施例について説明する。
【実施例1】
【0032】
図1〜図8は本発明の実施例1を示し、まず、図1を用いて本発明の両側逆振動について説明する。
【0033】
図1に示すように、上下の第1及び第2平板1,1Aを同時に逆方向に移動すると、従来の片側振動に対して赤血球Sには2倍のせん断速度を発生することになる。尚、図1において、hは上下の平板1,1Aの間隔である。
【0034】
図1で赤血球Sが受けるせん断速度γ・(t)は、下記の数2で表される。構成
【0035】
【数2】

【0036】
ただし、Vu(t)は上側平板の平板速さ,Vb(t)は下側平板の平板速さ,
ここで、Vu(t)=Vb(t)=V(t)する。
【0037】
実際には、観察方向から速度がゼロ点(h/2)より、上下の位置にいる赤血球でも十分に、視野内に赤血球が留まることが可能な速度が加わっていると考えられる。この時のせん断速度は、
【0038】
【数3】

【0039】
上記数3となり、間隙hの中心にいる赤血球Sと同様のせん断速度が加わる。ただし、間隙hの中心の上下で、赤血球Sが移動する方向は逆となる。
【0040】
本実施例では、図2に示すように、水平方向で平行に配置した2枚の平板1,1A間に2個の回転伝達体たるローラ2,2を挟み、一方の平板1に直線往復駆動源たるリニアアクチュエータ3を接続することで両側逆振動を実現した。
【0041】
図3〜図5に示すように、赤血球Sにせん断速度を加える血液試料室4は、前記第1及び第2平板1,1Aの間に設けられ、これら平板1,1Aはガラス板からなる。図3(A)(B)に対物レンズ側(装置下側)の構造を示す。複数の磁石5,5Aが埋め込まれた平板状の取付部6,6Aに、前記平板1,1Aが着脱可能に固定され、それら取付部6,6Aは横方向に配置されている。尚、この例では磁石5,5Aに永久磁石を用いているが、電磁石を用いてもよい。
【0042】
そして、第2平板1Aの上には、間隙板7が置かれ、この間隙板7は金属製のシムテープからなり、図3(A)に示すように、血液試料室4を挟んだ左右に間隙板7,7が配置され、これら間隙板7,7は前後方向をなす。また、複数の前記磁石5,5Aが、間隙板7を上下に挟んで相互に対応した位置に配置されており、磁石5,5Aは磁極を異とすることにより、対向する上下の磁石5,5A同士が磁力により吸引し、磁石5,5Aに挟まれた間隙板7,7が位置固定される。この場合、平板1,1Aと一体に磁石5,5Aは逆方向にほぼ同速度で往復動するから、磁石5,5Aが動いても、磁性材料を含む間隙板7が左右一方に動くことがなく、位置固定した状態が得られる。
【0043】
このように第1及び第2平板1,1Aの間に間隙板7を配置した状態で、磁石5,5Aの磁石面を向い合せることで、図4に示すように両側の間隙板7,7の間に血液試料室4が形成され、血液と接触する上の第1平板1と下の第2平板1Aが図中において左右逆方向に直線往復動でスライドすることで、図1のようなせん断速度を負荷することができる。尚、前記スライドによる平板1,1Aの移動量(振幅)は、赤血球Sの大きさに比べて十分に大きく、前記スライドは一定周期で行われる。また、磁石5,5Aを用いることで、2枚の平板1,1Aが吸着して、安定した流れ場をもたらすことになる。さらに、前記取付部6,6Aには、上下に間隔を置いて平板状の連結部8,8Aを配置し、取付部6,6Aと連結部8,8Aとを、上下方向の複数の連結杆9により連結する。そして、前記平板1,1A,取付部6,6A,連結部8,8A及び連結杆9により、上側部材14と下側部材14Aを構成している。また、取付部及6,6A及び連結部8,8Aには、血液試料室4を視認するための窓部15が開口している。尚、窓部15を透光性部材から形成してもよい。
【0044】
図5は、前記上側,下側部材14,14Aを、平板状の第1及び第2振動体11,11Aに組み込んだ状態を示す。前記第1及び第2振動体11,11Aは、平板状をなし、前記連結杆9を挿通する挿通孔12を有し、挿通孔12に連結杆9を挿通することにより前記第1及び第2振動体11,11Aに前記第1及び第2平板1,1Aが昇降可能に組み込まれ、第1及び第2振動体11,11Aの横移動を平板1,1Aに伝達することができ、また、連結杆9は挿通孔12の長さ方向に沿って移動可能となる。また、血液試料室4を挟んだ左右に前記ローラ2,2を配置し、これらローラ2,2は前記振動体11,11Aの対向部たる第1及び第2対向面16,16Aに接触状態で挟まれている。尚、それら対向面16,16Aは相互に平行に配置され、また、前記ローラ2の少なくとも外周はゴムなどの弾性体からなる。そして、血液試料室4の上下の取付部6,6Aの磁石5,5Aの吸磁力が弱い場合は、取付部6,6Aと振動体11,11Aとの間に付勢手段たるコイルスプリング13を配置し、このコイルスプリング13は前記連結杆9に外装されており、コイルスプリング13により第1平板1を第2平板1Aとを近接する方向に付勢する。このようにコイルスプリング13を上側部材14に組み込み、下側部材14Aと面が平行になるようにしてもよい。
【0045】
そして、前記第1及び第2振動体11,11A,上側部材14,下側部材14A及びリニアアクチュエータ3などにより、試料中の赤血球Sに周期的なせん断速度負荷を加えるため第1平板1と第2平板1Aを逆方向に平行振動させる平板振動手段17を構成している。
【0046】
実際の実験では、血液試料室4の下側の下側部材14Aを対物レンズの焦点距離を考慮して上下位置を固定し、上側部材14はある程度は上下に動くようにした。
【0047】
図6に細胞用力学負荷装置の全体を示す。前記上側,下側部材14,14Aは、機本体20の上側駆動支持部21及び下側駆動支持部21Aの間に組み込まれ、ベースとなる下側駆動支持部21Aの周囲には4本の支柱22が立設され、これら支柱22の上端は固定部23に固定されている。また、それら支柱22が上側駆動支持部21の透孔24に挿通され、前記下側駆動支持部21Aと固定部23の間で、上側駆動支持部21が支柱22に昇降可能に設けられ、上側駆動支持部21と前記振動体11との間には、複数のリニアガイド25が配置され、このリニアガイド25により上側駆動支持部21に対して振動体11が左右方向に案内されと共に、上側駆動支持部21に前記振動体11が取り付けられている。また、下側駆動支持部21Aと前記振動体11Aとの間には、複数のリニアガイド25が配置され、このリニアガイド25により下側駆動支持部21Aに対して振動体11Aが左右方向に案内されと共に、下側駆動支持部21Aに前記振動体11Aが取り付けられている。また、前記振動体11,11Aと上側駆動支持部21と下側駆動支持部21Aには、前記窓部15が開口して設けられている。
【0048】
前記ローラ2は、磁石やゴム系の素材が適応可能となる。尚、ローラ2が磁石の場合は、前記振動体11,11Aには磁石が吸着する磁性材料を用いる。本実施例では、ゴム系素材を考慮して設計・試作したローラ2を用いている。このようにゴムローラ2を用いることにより、ローラ2と対向面16,16Aとの滑りの発生を防止することができる。前記ゴムローラ2は、その中心に回転軸26を挿通し、この回転軸26の両端側が連結部品27に固定される。両端側の連結部品27,27には透孔28が加工されており、この透孔28に前記支柱22が挿通され、連結部材27が支柱22に沿って上下動することができる。また、上側駆動支持部21と連結部材27との間に、第1の付勢手段たる圧縮コイルスプリング29を配置し、連結部材27と下側駆動支持部21Aとの間に、第2の付勢手段たる圧縮コイルスプリング29Aを配置し、それらコイルスプリング29,29Aは前記支柱22に外装されている。そして、連結部材27の上側と下側のコイルスプリング29,29Aでばね定数の強さを変えており、回転伝達体16が上もしくは下の振動体11,11Aの側のどちらかに強く押されるようにして、滑りが低減する工夫をした。また、固定部23と上側駆動支持部21との間に付勢手段たる圧縮コイルスプリング29Bを配置し、このコイルスプリング29Bにより上側駆動支持部21はさらに連結部品27側に付勢されている。
【0049】
使用においては、前記下側駆動支持部21Aを平坦面上に固定し、上側の振動体11に前記リニアアクチュエータ3を接続し、また、血液資料室4に血液細胞を含む試料を入れ、リニアアクチュエータ3により上側の振動体11を横方向に往復動すると、ローラ2,2により下側の振動体11Aが横方向で逆に往復動し、血液試料室4内の試料中の赤血球Sにせん断速度負荷が付与される。尚、同径のローラ2,2を用いることにより、振動体11,11Aは平行に保たれ、これにより平板1,1Aも平行に保たれる。
【0050】
前記細胞用力学負荷装置において、上側の振動体11と下側振動体11Aの振幅と周波数の測定を行った。上側の振動体11は、リニアアクチュエータ3を接続してあり、設定された周期と振幅で動き、レーザー変位計で変位を測定した。下側の振動体11Aは、上側の振動体11と同様にレーザー変位計でその変位を測定した。但し、上側及び下振の振動体11,11Aの変位は、同時測定ではなく、それぞれ測定を行った。
【0051】
図7に上側の振動体11を周波数2Hz、振幅0.5mm設定し、豚の赤血球Sをデキストラン31Wt%で浮遊させて時の下側の振動体11Aの移動量の測定結果を示す。この結果、上側の振動体11に比べ、下側の振動体11Aは70μmほど少ない移動量になった。これはローラ2にゴムローラを用いたため、ロストモーションが生じ、下側の振動体11Aに伝わる振動が上側の振動体11の振幅より小さくなるためである。また、最大で、上側の振動体11は下側の振動体11Aより10mSほど速く動くことが確認された。そして、理想的な最大せん断応力は11.63Paが生じると予想される。
【0052】
次に、上記の条件下で測定された赤血球Sを示す。尚、高速度カメラの撮影条件は、200フレーム/秒である。対物レンズ40倍、拡大レンズ約1.5倍、高速度カメラの画素が640×400ピクセルとしたとき、全体の視野領域192×144μmとなった。ピクセルからmmへの換算は、長さのわかる基準から、単位ピクセル数当たりの長さを求めて行った。間隙は30μmとなるように間隙板7,7を血液試料室4の両側に設置した。駆動周波数が2Hzで振幅が0.5mmにおいて、最大せん断速度は133.3S-1、最大速度は2mm/sとなる。そのため、従来の片側駆動方式であれば、視野領域から一度消えて、また、現れることになる。
【0053】
図8に視野領域内で観察された赤血球の移動履歴の一例を示す。図8において、A−B間は17μm、B−C間は−14.1μmであった。平板1,1Aは実測値でA−B、B−C間では振動体は490μmで動いており,視野の横幅192μmに対して,赤血球の移動した量は,約1/11である。
【0054】
同条件に基づいて、従来の片側振動でせん断速度を負荷すれば、赤血球Sは振幅とほぼ同じ移動距離を動くため、画面中心付近の赤血球Sを測定対象とすれば、視野の横幅は192μmであるから、一度は視野から消えることになる。また、本実施例の両側駆動は、片側駆動に比べ、速度が半分で済むため、高速度カメラのコマ数も少なくて済むことになる。
【0055】
次に、前記細胞用力学負荷装置を用いた血液細胞の力学的特性測定装置の一例について説明する。前記力学的特性測定装置は、図6に示すように、照射光源部30,受光部40及びデータ解析処理部50を備える。照射光源部30は細胞用力学負荷装置における血液細胞を含む試料の位置に光を照射するものであり、試料を透過した光を受光部40で受光もしくは形態撮像を行い、試料についての計測を行う。細胞用力学負荷装置において、上側及び下側部材14,14Aなどが往復動した際にも照射光源部30からの試料を透過する光を遮らないように形成、配置され、光は窓部15を通過する。照射光源部30からの光は試料を透過した後に、装置の下側に配置された受光部40で受光もしくは形態撮像を行う。
【0056】
前記受光部40は試料を透過した光の検出もしくは形態撮像を行い、血液細胞の状態について測定するものであり、本例としては、上述した高速度カメラを用いている。データ解析処理部50は受光部40としての撮像装置により撮像された血液細胞を含む試料についての画像を解析し、血液細胞の形状変化から、粘弾性特性等を求める。受光部40として試料における血液細胞の状態を撮像装置により撮像して画像解析により力学的特性を測定するもののほか、照射光で照射された血液細胞を含む試料の透過光または散乱光の強度を受光部で測定し、得られた強度の時間変化についてのデータから血液細胞を粘弾性モデル化したパラメータを求め、血液細胞の力学的特性を測定するものとすることもできる。
【0057】
このように本実施例では、請求項に対応して、細胞たる赤血球Sを含む液体試料に周期的なせん断速度負荷を加えるための細胞用力学負荷装置において、少なくとも一部が透明な第1平板1と、第1平板1に対して隙間を隔てて平行に配置されている第2平板1Aと、第1平板1と第2平板1Aとの間の隙間に設けられ、赤血球Sを含む試料を入れる空間たる血液試料室4と、試料中の赤血球Sに周期的なせん断速度負荷を加えるため第1平板1と第2平板1Aを逆方向の直線往復動により平行振動させる平板振動手段17とを備えるから、上下の平板1,1Aが同じ速度で逆方向に振動するため、上下の平板1,1Aの中央箇所では赤血球Sが移動せず、測定範囲から外れないため、赤血球Sの測定を容易に行うことができる。また、従来の片側振動装置に対して、2倍のせん断速度を与えることができる。
【0058】
また、このように本実施例では、請求項に対応して、第1平板1を設けた第1振動体16と、第2平板1Aを設けた第2振動体16Aとを備え、平板振動手段17は、第1振動体16と第2振動体16Aの一方である第1振動体16を往復駆動する直線往復駆動源たるリニアアクチュエータ3と、第1振動体16と第2振動体16Aの間に配置され、第1振動体16と第2振動体16Aの一方である第1振動体16の往復動を他方である第2振動体16Aに伝達して該他方を逆方向に往復動する回転伝達体たるローラ2とを備えるから、リニアアクチュエータ3により第1振動体16と第2振動体16Aの一方を往復駆動すると、回転伝達体により他方が逆方向に往復動し、これにより第1平板1と第2平板1Aが逆向きで往復振動して細胞に2倍のせん断速度を与えることができる。
【0059】
また、このように本実施例では、請求項に対応して、回転伝達体が第1振動体16と第2振動体16Aの間に挟んで配置したローラ2であるから、ローラ2が一方の往復動を他方に逆方向に伝達し、これにより第1平板1と第2平板1Aが逆向きで往復振動する。
【0060】
また、このように本実施例では、請求項に対応して、第1振動体16と第2振動体16Aに相互に平行に配置された第1対向部たる第1対向面16と第2対向部たる第2対向面16Aを設け、第1対向面16と第2対向面16Aの間に複数のローラ2,2を配置したから、第1対向面16と第2対向面16Aを平行に配置することができ、これにより第1平板1と第2平板1Aを平行に配置することができる。
【0061】
また、このように本実施例では、請求項に対応して、第1平板1と第2平板1Aの間に介挿されて第1平板1と第2平板1Aの間隔を維持するとともに第1平板1と第2平板1Aの間において試料を入れる空間たる血液試料室4を形成する間隙板7と、間隙板7を位置固定する位置固定手段たる磁石5,5Aとを備えるから、間隙板7により第1平板1と第2平板1Aとの間に試料を入れる血液試料室4を形成することができ、平板1,1Aが往復動しても磁石5,5Aにより間隙板7が位置固定され、間の血液試料室4が動くことがない。また、間隙板7により往復動の際にも平板1,1Aとの間隙が精度よく保持され、試料における流れの平行度が高められる。
【0062】
また、このように本実施例では、請求項に対応して、間隙板7は少なくとも一部が磁性材料からなり、第1平板1と第2平板1Aの外側から作用する磁力により間隙板7を位置固定するように構成したから、平板1,1Aが往復動しても磁力により間隙板7を位置固定することができる。尚、この場合、平板1,1Aには磁力を通す材料を用いる。
【0063】
また、実施例上の効果として、上側駆動支持部21を昇降可能に設けることにより、上側駆動支持部21に対してスライド可能で且つ上下間隔を一定に保った第1振動体11を昇降することができ、これにより第1振動体11と第2振動体11Aの間隔を調整して、ローラ2による伝達を円滑に行うことができる。さらに、ローラ2と振動体11,11Aとの接触圧を調整する調整手段として、連結部材27と下側駆動支持部21Aとの間に、第1の付勢手段たる圧縮コイルスプリング29Aを配置したから、連結部材27の上側と下側のコイルスプリング29,29Aでばね定数の強さを変えて、回転伝達体16が上もしくは下の振動体11,11Aの側のどちらかに強く押されるようにして、ローラ2の滑りを低減することができる。また、取付部6と振動体11,11Aとの間に付勢手段たるコイルスプリング13を配置し、コイルスプリング13は血液試料室4を挟む位置に配置されているから、平板1,1A同士が平行になるように付勢することができる。さらに、間隙板7の厚みを自由に変更することにより血液試料室4の高さを調整できるから、せん断速度の大きさは、リニアアクチュエータ3による振動体11の移動速度と間隙板7の厚さの2つで調整することができる。
【0064】
さらに、実施例上の効果として、本発明による血液細胞の力学的特性測定装置は、血液細胞を含む試料に周期的なせん断速度負荷を加えるための細胞用力学負荷装置と、細胞用力学負荷装置において周期的なせん断速度負荷を加えた状態の血液細胞を含む試料に光を照射するための照射光源部30と、照射光源部30により光を照射された血液細胞を含む試料からの透過光または反射光を受光する受光部40と、受光部40により受光された光信号データについて解析処理を行って血液細胞の力学的特性を求めるデータ解析処理部50とを備えるから、血液細胞の変形能の測定の再現性が高められる。また、取付部6,6Aに平板1,1Aが着脱可能に固定されるから、血液細胞を含む試料の載置部の構成をディスポーザブル化することができ、血液による感染症のリスクが軽減される。血液細胞の力学的特性測定装置の構成を簡易で精度のよいものとし、日常的な利用に供するものとすることができる。
【実施例2】
【0065】
図9は本発明の実施例2を示し、上記実施例1と同一部分に同一符号を付して説明する。この例では、左右の間隙板7,7の前後を前後の間隙板7A,7Aにより連結し、これら前後の間隙板7A,7Aは、前記血液試料室4の前後に位置する。即ち同一厚さの間隙板7,7,7A,7Aを枠状に形成して前記血液試料室4の周囲を囲むように構成している。
【0066】
このように前記血液試料室4の周囲を間隙板7,7,7A,7Aにより囲むことによって、血液試料室4の試料の漏れを確実に防止することができる。
【0067】
尚、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、実施例では、上側部材及び下側部材を組み込んだ振動体を例示したが、取付部を左右方向に広げて振動体としたり、連結部を左右に広げて振動体にしたり、図2に示したように平板に振動体を一体的に設けてもよい。また、直線往復駆動源を振動体に直接接続しなくても、直線往復駆動源は間接的に振動体を往復駆動するものでもよい。さらに、回転伝達体としてゴムローラを用いたが、一方の往復動を他方に逆方向の往復動に伝達するものであれば、各種のものを用いることができ、例えば対向面にラックを設け、ラックに歯合するギアにより回転伝達体を構成してもよい。また、試料を交換する際、平板と取付部を交換したり、上側部材と下側部材を交換したり、平板のみあるいは平板を含む上側部材と下側部材の少なくとも一部を交換するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 第1平板
1A 第2平板
2 ローラ(回転伝達体)
3 リニアアクチュエータ(直線往復駆動源)
4 血液試料室(空間)
5,5A 磁石
7 間隙板
7A 間隙板
8 連結部
9 連結杆
11 第1振動体
11A 第2振動体
16 第1対向面(第1対向部)
16A 第2対向面(第2対向部)
17 平板振動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む試料に周期的なせん断速度負荷を加えるための細胞用力学負荷装置において、少なくとも一部が透明な第1平板と、
前記第1平板に対して隙間を隔てて平行に配置されている第2平板と、
前記第1平板と前記第2平板との間の隙間に設けられ、細胞を含む試料を入れる空間と、
前記試料中の細胞に周期的なせん断速度負荷を加えるため前記第1平板及び前記第2平板を逆方向の直線往復動により平行振動させる平板振動手段と、
を備えることを特徴とする細胞用力学負荷装置。
【請求項2】
前記第1平板を設けた第1振動体と、
前記第2平板を設けた第2振動体と、
を備え、
前記平板振動手段は、
前記第1振動体と前記第2振動体の一方を往復駆動する直線往復駆動源と、
前記第1振動体と前記第2振動体の間に配置され、前記第1振動体と前記第2振動体の一方の往復動を他方に伝達して該他方を逆方向に往復動する回転伝達体と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の細胞用力学負荷装置。
【請求項3】
前記回転伝達体が前記第1振動体と前記第2振動体の間に挟んで配置したローラであることを特徴とする請求項2記載の細胞用力学負荷装置。
【請求項4】
前記第1振動体と前記第2振動体に相互に平行に配置された第1対向部と第2対向部を設け、
前記第1対向部と前記第2対向部の間に複数の前記回転伝達体を配置したことを特徴とする請求項2記載の細胞用力学負荷装置。
【請求項5】
前記第1平板と前記第2平板の間に介挿されて前記第1平板と前記第2平板の間隔を維持するとともに前記第1平板と前記第2平板の間において前記試料を入れる空間を形成する間隙板と、
前記間隙板を位置固定する位置固定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の細胞用力学負荷装置。
【請求項6】
前記間隙板は少なくとも一部が磁性材料からなり、前記第1平板と前記第2平板の外側から作用する磁力により前記間隙板を位置固定することを特徴とする請求項5記載の細胞用力学負荷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154892(P2012−154892A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16532(P2011−16532)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】