説明

細胞脱分化を誘導するための組成物および方法

【課題】哺乳類細胞の多分化能幹細胞への脱分化を誘導するための新規化合物、薬学的組成物、および脱分化を誘導する方法の提供。
【解決手段】化学式Iの化合物(式中、Rは、3−クロロフェニル基、4−ジメチルアミノフェニル基、2−ピリジル基、6−キノニル基など、Rは、シクロヘキシルメチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、フェニルスルホニル基などを表す。)、該化合物を含有する薬学的組成物、および単離された系列決定済み哺乳類細胞を該化合物と接触させ、哺乳類細胞を多分化能幹細胞に脱分化させる段階を含む、系列決定済み細胞の脱分化を誘導する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年11月10日に出願された米国特許仮出願第60/518,947号の恩典を主張する。この出願は全ての目的のために、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
哺乳類では、損傷組織および四肢の再生は、主に不可逆分化過程により限定される(例えば、Carlson, Dev. Dyn. 226(2):167-81(2003)(非特許文献1)を参照のこと)。結果として、幹細胞、特に無限に拡張させることができ、多能性または多分化能である胚性幹細胞(ESC)が、心血管疾患、神経変性疾患および加齢により引き起こされた損傷に対する治療アプローチとしてかなりの注目を集めている(例えば、Committee on the Biological and Biomedical Applications of Stem Cell Research, Stem Cells and the Future of Regenerative Medicine 2002, the National Academies Press, Washincton, D.C.(非特許文献2)を参照のこと)。しかしながら、細胞置換療法における幹細胞の使用は、幹細胞の信頼できる供給源の不足を含む多くの理由で問題がある。例えば、多分化能ヒト間葉幹細胞(MSC)は骨髄から単離される場合があり;ほとんどの治療または研究用途のために十分な量の幹細胞を得るには、多量のドナー骨髄が必要である。
【0003】
多分化能前駆細胞(すなわち、多分化能幹細胞)へ系列決定済み細胞(lineage-committed cell)を脱分化または逆行させることができると、これらの障害の多くが克服される。効率のより脱分化過程により、健康で、豊富で、容易にアクセスできる成人細胞を使用して、損傷組織の修復のための異なる型の機能細胞を作成することができると考えられる。さらに、マウス筋管および大人細胞由来の他の細胞の可塑性の最近の研究により、脱分化は哺乳類系で可能である場合があることが示唆される(例えば、Odelberg et al., Cell 103:1099-1109(2000)(非特許文献3);McGann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:13699-13704(2001)(非特許文献4);およびTsai et al., Developmental Cell 2:707-712(2002)(非特許文献5)を参照のこと)。しかしながら、脱分化過程とは対照的に、脱分化の制御および研究のための組成物および方法は欠如している。
【0004】
細胞に基づいた表現型アッセイ法ならびに、より最近では、合成小分子および天然産物の経路スクリーンが、歴史的に、複雑な細胞過程の非常に有益な化学プローブを提供している(例えば、White, D.J.G.Ed., Proceedings of an International Conference on Cyclosporin A(Elsevier, Amsterdam, 1982), 5-19(非特許文献6)を参照のこと)。哺乳類体細胞の脱分化を誘導する小分子の同定は、この現象の分子機構を解明するのを支援するはずであり、最終的にはインビトロ組織再生が可能となる可能性がある。
【0005】
このように、当技術分野では、系列決定済み哺乳類細胞を多分化能または多能性幹細胞に脱分化させる組成物および方法が必要とされている。本発明はこれらのおよび他の要求を満たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Carlson, Dev. Dyn. 226(2):167-81(2003)
【非特許文献2】Committee on the Biological and Biomedical Applications of Stem Cell Research, Stem Cells and the Future of Regenerative Medicine 2002, the National Academies Press, Washincton, D.C.
【非特許文献3】Odelberg et al., Cell 103:1099-1109(2000)
【非特許文献4】McGann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:13699-13704(2001)
【非特許文献5】Tsai et al., Developmental Cell 2:707-712(2002)
【非特許文献6】White, D.J.G.Ed., Proceedings of an International Conference on Cyclosporin A(Elsevier, Amsterdam, 1982), 5-19
【発明の概要】
【0007】
発明の簡単な概要
本発明は、系列決定済み哺乳類細胞の多分化能幹細胞への脱分化を誘導するための新規組成物および方法を提供する。
【0008】
本発明の1つの態様は化学式Iの化合物を提供する:

【0009】
化学式Iにおいて、R1は、ハロゲン、C1〜4アルキル、C1〜4アルコキシ、-N(R1b、R1b)、-SO2N(R1b、R1b)、-C(O)N(R1b、R1b)および-O-アリールからなる群より独立して選択される0〜2のR1a基により置換される、水素、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキルおよびC0〜2アルキルアリールからなる群より選択されるメンバーであり、または、R1a基が隣接する環原子上に存在する場合、それらは任意で一緒になって、-O-(CH2)1〜2-O-、-O-C(CH3)2CH2-および-(CH2)3〜4-からなる群から選択されるメンバーを形成してもよく、または、R1は任意でそれに結合している窒素と一緒になって、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキル、C1〜4アルキルヒドロキシおよびC0〜2アルキルアリールで置換されてもよい複素環を形成してもよく;および各R1b基は、独立して選択され、水素およびC1〜4アルキルを含むが、それらに限定されない官能基である。
【0010】
化学式Iでは、R2は、水素、ハロゲンおよび-L-R3を含むが、それらに限定されない官能基であり;Lは、-O-、-S-および-NR4-を含むが、それらに限定されない官能基であり、ここで、R4はHであり、またはR4は任意でR3および両方に結合している窒素と一緒になって、C1〜4アルキルで置換されてもよい複素環を形成してもよく;R3は、独立して選択され、ハロゲン、C1〜4アルキル、C1〜4アルコキシ、-N(R3b、R3b)、-SO2N(R3b、R3b)、-C(O)N(R3b、R3b)および-O-アリールを含むがそれらに限定されない官能基である0〜2のR3a基により置換される、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキルおよびC0〜2アルキルアリールを含むが、それらに限定されない官能基であり、または、R3a基が隣接する環原子上に存在する場合、それらは任意で一緒になって、-O-(CH2)1〜2-O-、-O-C(CH3)2CH2-および-(CH2)3〜4-からなる群から選択されるメンバーを形成してもよく;および各R3b基は、独立して選択され、水素およびC1〜4アルキルを含むが、それらに限定されない官能基であるメンバーである。
【0011】
本発明の化合物は、その薬学的に許容される塩、異性体、溶媒和物、水和物およびプロドラッグを全て含む。
【0012】
本発明の別の態様は、系列決定済み細胞の脱分化を誘導するための方法を提供する。系列決定済み哺乳類細胞を化学式Iの化合物と接触させると、これにより、哺乳類細胞は多分化能幹細胞に脱分化する。いくつかの態様では、方法はさらに、哺乳類細胞の多分化能幹細胞への脱分化を検出する段階(例えば、系列決定済み哺乳類細胞により発現されるマーカー遺伝子の発現の喪失を検出することにより)を含む。いくつかの態様では、系列決定済み哺乳類細胞は筋芽細胞である。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、系列決定済み哺乳類細胞の多分化能幹細胞への脱分化を誘導する化合物を識別するための方法を提供する。系列決定済み哺乳類細胞を、系列決定済み細胞の脱分化を誘導すると推測される試験化合物と接触させる。細胞を、多分化能幹細胞の第1の細胞型への分化を誘導する第1の細胞培養培地、および多分化能幹細胞の第2の細胞型への分化を誘導する第2の細胞培養培地中で培養する。細胞が第1または第2の細胞型への分化を受けるかどうかを決定する。ここで、第1の細胞型および第2の細胞型の両方への分化が誘導されると、試験化合物が系列決定済み哺乳類細胞の脱分化を誘導する化合物として識別される。本発明のいくつかの態様では、第1の細胞培養培地は骨形成を誘導し、第2の培地は脂肪生成を誘導し、第1の細胞型は骨芽細胞であり、第2の細胞型は脂肪細胞である。いくつかの態様では、試験化合物は下記からなる群より選択されるメンバーである:置換プリン(例えば、2,6-二置換プリン)、ピリミジン、キナゾリン、ピラジン、ピロロピリミジン、ピラゾロピリミジン、フタラジン(phthalazine)、ピリダジン、およびキノキサリン。いくつかの態様では、骨形成の誘導は、骨形成マーカー遺伝子の発現(例えば、アルカリホスファターゼ、I型コラーゲン、オステオカルシン、およびオステオポニン(osteoponin)を検出することにより検出され、脂肪生成の誘導は、脂肪生成マーカー遺伝子の発現(例えば、ob、Ucp、PPARγおよびC/EBP)を検出することにより検出される(例えば、Kozak and Kozak, Endocrinology 134(2):906-13(1994)およびLee et al., J. Clin. Invest. 111(4):453-461(2003)を参照のこと)。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、骨疾患(例えば、骨粗鬆症、くる病、骨軟化症、マッキューン-オルブライト症候群、またはパジェット病)を治療する方法を提供する。哺乳類細胞を化学式Iの化合物と接触させると、これにより、哺乳類細胞は多分化能幹細胞に脱分化する。多分化幹細胞を、多分化能幹細胞の骨芽細胞系の細胞への分化を誘導する細胞培養培地中で培養する。いくつかの態様では、多分化能幹細胞の骨芽細胞系の細胞への分化を誘導する細胞培養培地はアスコルビン酸、デキサメタゾン、およびβ-グリセロホスフェートを含む。いくつかの態様では、哺乳類細胞を固体支持体(例えば、三次元基質または平面表面)に付着させる。いくつかの態様では、投与は外科的移植による。
【0015】
本発明の他の態様および利点は、下記の詳細な説明から明らかになると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】脱分化誘導活性を有する化合物を識別するために使用したスクリーニング法を示す図である。
【図2】化合物Aの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細な説明
I.序文
本発明は系列決定済み哺乳類細胞を幹細胞(例えば、多分化能または多能性細胞)に脱分化させるための化合物、組成物および方法を提供する。より特定的には、本発明は系列決定済み哺乳類細胞を幹細胞に脱分化させるのに有益な化学式Iの化合物を提供する。いくつかの態様では、化学式Iの化合物を含む組成物を提供する。別の態様では、系列決定済み哺乳類細胞の幹細胞への脱分化を誘導する方法を提供する。別の態様では、幹細胞をさらに系統決定済み細胞に分化させる。さらに別の態様では、系列決定済み細胞の幹細胞への脱分化を誘導するのに有益な追加の化合物を識別する方法を提供する。
【0018】
II.定義
特に記載がなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は一般に、本発明が属する技術分野の当業者により普通に理解されるものと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される命名法ならびに有機および分析化学のための実験室手順は当技術分野において周知の、普通に使用されるものである。
【0019】
「アルキル」という用語は、それ自体または別の置換基の一部として、特に記載がなければ、指定された炭素原子数を有する(すなわち、C1〜C10は1〜10の炭素を意味する)、直鎖もしくは分枝鎖、または環状炭化水素ラジカル、またはそれらの組み合わせを意味し、完全に飽和されても、一価もしくは多価不飽和であってもよく、二価および多価ラジカルを含むことができる。飽和炭化水素ラジカルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソププロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル、例えば、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどの類似体および異性体などの官能基が挙げられる。不飽和アルキル基は、1または複数の二重結合または三重結合を有するものである。不飽和アルキル基の例としては、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-および3-プロピニル、3-ブチニル、およびより高級な類似体および異性体が挙げられる。「アルキル」という用語は、特に記載がなければ、「ヘテロアルキル」として下記でより詳細に規定したアルキルの誘導体も含むことを意味する。炭化水素基に限定されるアルキル基は「ホモアルキル」と称する。
【0020】
「アルキレン」という用語は、それ自体または別の置換基の一部として、-CH2CH2CH2CH2-により例示される、アルカン由来の二価ラジカルを意味し、さらに、「ヘテロアルキレン」として下記で記述する官能基を含む。典型的には、アルキル(またはアルキレン)基は1〜24の炭素原子を有し、本発明では、10またはそれ以下の炭素原子を有するそのような官能基が好ましい。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は短鎖アルキルまたはアルキレン基であり、一般に、8またはそれ以下の炭素原子を有する。
【0021】
「アルコキシ」、「アルキルアミノ」および「アルキルチオ」(またはチオアルコキシ)という用語は、従来の意味で使用され、酸素原子を介し分子の残り、それぞれ、アミノ基または硫黄基に結合されたアルキル基を示す。
【0022】
「ヘテロアルキル」という用語は、それ自体または別の用語と共に、特に記載がなければ、規定された数の炭素原子およびO、N、SiおよびSからなる群より選択される1〜3のヘテロ原子から構成される、安定な直鎖もしくは分枝鎖、または環状炭化水素ラジカル、またはそれらの組み合わせを意味し、ここで、窒素および硫黄原子は任意で酸化されてもよく、窒素ヘテロ原子は任意で四級化されてもよい。ヘテロ原子O、NおよびSはヘテロアルキル基の任意の内部位置に配置されてもよい。ヘテロ原子Siは、アルキル基が分子の残りに結合されている位置を含むヘテロアルキル基の任意の内部位置に配置されてもよい。例としては、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-O-CH2-CH2-(CH3)2、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、および-CH=CH-N(CH3)-CH3が挙げられる。2までのヘテロ原子は連続してもよく、例えば、-CH2-NH-OCH3および-CH2-O-Si(CH3)3である。同様に、「ヘテロアルキレン」という用語は、それ自体または別の置換基の一部として、ヘテロアルキルから誘導される二価ラジカルを意味し、-CH2-CH2-S-CH2CH2-および-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-により例示される。ヘテロアルキレン基では、ヘテロ原子はまた、鎖の末端のいずれかまたは両方を占めることができる(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノ、など)。さらに、アルキレンおよびヘテロアルキレン結合基では、結合基の配向は含まれていない。
【0023】
「シクロアルキル」および「ヘテロシクロアルキル」という用語は、それ自体または他の用語と共に、特に記載がなければ、それぞれ「アルキル」および「ヘテロアルキル」の環状バージョンを示す。さらに、ヘテロシクロアルキルでは、ヘテロ原子は複素環が分子の残りに結合している位置を占めることができる。シクロアルキルの例としてはシクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチル、などが挙げられる。ヘテロシクロアルキルの例としては、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどが挙げられる。
【0024】
「ハロ」または「ハロゲン」は、それ自体または別の置換基の一部として、特に記載がなければ、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルおよびポリハロアルキルを含むものである。例えば「ハロ(C1-C4)アルキル」という用語は、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを含むものである。
【0025】
「アリール」という用語は、特に記載がなければ、多価不飽和、典型的には芳香族炭化水素置換基を意味し、単環または多環(3環まで)とすることができ、多環は共に縮合され、または共有結合により結合されている。「ヘテロアリール」という用語は、N、OおよびSから選択される0〜4のヘテロ原子を含むアリール基(または環)を示し、ここで、窒素および硫黄原子は任意で酸化され、窒素原子は任意で四級化される。ヘテロアリール基はヘテロ原子を介して分子の残りに結合させることができる。アリールおよびヘテロアリール基の非制限的例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソキサゾリル、4-イソキサゾリル、5-イソキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンズイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、および6-キノリルが挙げられる。上記アリールおよびヘテロアリール環構造の各々に対する置換基は、下記で記述する許容される置換基の群より選択される。
【0026】
簡潔にするために、「アリール」という用語は、他の用語と組み合わせて使用する場合(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)、上記で規定したアリールおよびヘテロアリール環を両方とも含む。このように、「アリールアルキル」という用語は、アリール基が、炭素原子(例えば、メチレン基)が、例えば酸素原子により置換されているアルキル基を含むアルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)に結合されているラジカルを含むものである(例えば、フェノキシメチル、2-ピリジルオキシムエチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピル、など)。
【0027】
上記用語の各々(例えば、「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」および「ヘテロアリール」)は、示したラジカルの置換および非置換形態の両方を含むものである。各型のラジカルに対し好ましい置換基を下記で示す。
【0028】
アルキルおよびヘテロアルキルラジカル(アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、およびヘテロシクロアルケニルとしばしば呼ばれる官能基を含む)に対する置換基は、下記から選択される様々な官能基とすることができ:-OR'、=O、=NR'、=N-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)-NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NH-C(NH2)=NH、-NR'C(NH2)=NH、-NH-C(NH2)=NR'、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-CNおよび-NO2、数は0〜(2m'+1)の範囲であり、ここでm'はそのようなラジカルにおける炭素原子の総数である。R、R''およびR'''はそれぞれ独立して、水素、非置換(C1〜C8)アルキルおよびヘテロアルキル、非置換アリール、1〜3ハロゲンで置換されたアリール、非置換アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、またはアリール-(C1〜C4)アルキル基を示す。R'およびR''が同じ窒素原子に結合されている場合、それらは窒素原子と一緒になり、5-、6-または7-員環を形成することができる。例えば、-NR'R''は1-ピロリジニルおよび4-モルホリニルを含むものである。本明細書で使用されるように、R'およびR''はR3aおよびR3bに完全に適用できる。置換基に関する上記記述より、当業者であれば、「アルキル」という用語がハロアルキル(例えば、-CF3および-CH2CF3)およびアシル(例えば、-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3、など)などの官能基を含むことを意味することを理解するであろう。
【0029】
同様に、アリールおよびヘテロアリール基に対する置換基は多様であり、下記から選択され:-ハロゲン、-OR'、-OC(O)R'、-NR'R''、-SR'、-R'、-CN、-NO2、-CO2R'、-CONR'R''、-C(O)R'、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR''C(O)2R'、-NR'-C(O)-NR''R'''、-NH-C(NH2)=NH、-NR'C(NH2)=NH、-NH-C(NH2)=NR'、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-N3、-CH(Ph)2、ペルフルオロ(C1〜C4)アルコキシ、およびペルフルオロ(C1〜C4)アルキル、数は0〜芳香族環構造上のオープンバレンスの総数の範囲であり;ここでR、R''およびR'''は、水素、(C1〜C8)アルキルおよびヘテロアルキル、非置換アリールおよびヘテロアリール、(非置換アリール)-(C1〜C4)アルキルならびに(非置換アリール)オキシ-(C1〜C4)アルキルから独立して選択される。
【0030】
アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の2つの置換基は、化学式-T-C(O)-(CH2)q-U-の置換基で置換されてもよく、ここで、TおよびUは独立して-NH-、-O-、-CH2-または単結合であり、qは0〜2の整数である。また、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の2つの置換基は、化学式-A-(CH2)r-B-の置換基により置換されてもよく、ここで、AおよびBは独立して-CH2-、-O-、-NH-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR'-または単結合であり、rは1〜3の整数である。そのように形成された新規環の単結合のうちの1つは二重結合で置換されてもよい。また、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の2つの置換基は、化学式-(CH2)s-X-(CH2)t-の置換基により置換されてもよく、ここで、sおよびtは独立して0〜3の整数であり、Xは-O-、-NR'-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-または-S(O)2NR'-である。-NR'-および-S(O)2NR'-の置換基R'は、水素または非置換(C1〜C6)アルキルから選択される。
【0031】
本明細書で使用されているように「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、Cl、Br、FまたはI置換基を示す。「ハロアルキル」などの用語は、少なくとも1つの水素原子が、異なるハロ原子の混合物を含む、Cl、Br、FまたはI原子で置換された脂肪族炭素ラジカルを示す。トリハロはルキルは、例えば、好ましいラジカルとしてトリフルオロメチルなどを含む。
【0032】
「アルコキシ」、「アルキルアミノ」および「アルキルチオ」(またはチオアルコキシ)という用語は、従来の意味で使用され、それぞれ、酸素原子、アミノ基、または硫黄原子を介して分子の残りに結合されたアルキル基を示す。
【0033】
本明細書で使用されるように、「ヘテロ原子」は酸素(O)、窒素(N)および硫黄(S)を含むものとする。
【0034】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書で記述した化合物において見られる特別な置換基によって、相対的に非毒性の酸または塩基を用いて調製される活性化合物の塩を含むものとする。本発明の化合物がかなり酸性官能性を含む場合、塩基付加塩は、そのような化合物の中性形態を、何にも添加していないまたは適した不活性溶媒に溶解させた、十分な量の所望の塩基と、接触させることにより得ることができる。薬学的に許容される塩基付加塩の例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、もしくはマグネシウム塩、または同様の塩が挙げられる。本発明の化合物がかなり塩基性官能性を含む場合、酸付加塩は、そのような化合物の中性形態を、何にも添加していないまたは適した不活性溶媒に溶解させた、十分な量の所望の酸と、接触させることにより得ることができる。薬学的に許容される酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸一水素酸(monohydrogencarbonic)、リン酸、リン酸一水素酸、リン酸二水素酸、硫酸、硫酸一水素酸、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などのような無機酸から誘導されるもの、ならびに、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸のようなかなり非毒性の有機酸から誘導される塩が挙げられる。また、アルギン酸などのアミノ酸の塩、グルクロン酸またはガラクツロン酸などのような有機酸の塩が含まれる(例えば、Berge、S.M. et al, “Pharmaceutical Salts,” Journal of Pharmaceutical Science, 1977, 66, 1-19を参照のこと)。本発明の一定の特異的な化合物は、塩基性および酸性官能性の両方を含み、これにより化合物は塩基付加塩または酸付加塩のいずれかに変換される。
【0035】
化合物の中性形態は、塩を塩基または酸と接触させ、従来の様式で親化合物を単離することにより再生させてもよい。化合物の親形態は、極性溶媒中での溶解度などの所定の物理特性において、様々な塩形態とは異なっているが、そのほかの点では、塩は、本発明の目的に対しては化合物の親形態と同等である。
【0036】
塩形態の他に、本発明は、プロドラッグ形態の化合物を提供する。本明細書で記述した化合物のプロドラッグは、生理学的条件下で容易に化学変化を受け、本発明の化合物を提供する化合物である。さらに、プロドラッグはエクスビボ環境で化学または生物化学法により本発明の化合物に変換させることができる。例えば、プロドラッグは、適した酵素または化学試薬と共に経皮パッチリザーバに入れると、徐々に本発明の化合物に変換させることができる。
【0037】
本発明の一定の化合物は、非溶媒和形態および水和形態を含む溶媒和形態で存在することができる。一般に、溶媒和形態は非溶媒和形態と等価であり、本発明の範囲内に含まれるものとする。本発明の一定の化合物は、複数の結晶またはアモルファス形態で存在してもよい。一般に、物理的形態は全て本発明により企図された用途に対し等価であり、本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0038】
本発明の一定の化合物は不斉炭素(光学中心)または二重結合を有し;ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体および個々の異性体は全て、本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0039】
本発明の化合物はまた、そのような化合物を構成する1または複数の原子で原子同位体の不自然な特性を含んでもよい。例えば、化合物は放射性同位体、例えばトリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)または炭素-14(14C)で放射性標識してもよい。本発明の化合物の全ての同位体バリエーションは、放射性であろうとなかろうと、本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0040】
本明細書で使用されるように、「系列決定済み細胞」は、特別な細胞型または関連する細胞型を有する、またはそれらに分化する任意の細胞を示す。系列決定済み細胞としては、例えば、骨芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞および脂肪細胞が挙げられる。
【0041】
本明細書で使用されるように、「幹細胞」は、複数の細胞型に分化することができる任意の自己再生する多能性細胞または多分化能細胞または前駆細胞を示す。幹細胞は、骨芽細胞系列、間葉系細胞系列(例えば、骨、軟骨、脂肪、筋肉、造血性支持性間質を含む間質、および腱)の細胞に分化することができるものを含む。
【0042】
本明細書で使用されるように「分化する」または「分化」は、前駆細胞(すなわち、幹細胞)が特定の細胞型、例えば骨芽細胞に分化する過程を示す。分化した細胞は、その遺伝子発現パターンおよび細胞表面蛋白質発現により識別することができる。例えば、骨芽細胞系細胞は典型的には下記遺伝子を発現する:アルカリホスファターゼ、I型コラーゲン、オステオカルシン、およびオステオポニン、ならびに下記骨特異性転写因子:Cbfa1/Runx2、Osx、gsc、Dlx1、Dlx5、Msx1、Cart1、Hoxa1、Hoxa2、Hoxa3、Hoxb1、rae28、Twist、AP-2、Mf1、Pax1、Pax3、Pax9、TBX3、TBX4、TBX5、およびBrachyury(例えば、Olsen et al.、2000、上記およびNakashima et al., Cell 108(1):17-29(2002)を参照のこと)。別の実施例として、筋芽細胞系列の細胞は典型的には下記遺伝子を発現する:Myo D、Myf 5、ミオシン、CD56、およびデスミン(例えば、Stewart et al., J. Cell Physiol. 196(1):70-8(2003)を参照のこと)。別の実施例としては、脂肪細胞系細胞は典型的には下記遺伝子を発現する:ob、Ucp、PPARγおよびC/EBP(例えば、Kozak and Kozak, Endocrinology 134(2):906-13(1994)およびLee et al., J. Clin. Invest. 111(4):453-461(2003)を参照のこと)。
【0043】
本明細書で使用されるように、「脱分化する」または「脱分化」という用語は、系列決定済み細胞(例えば、筋芽細胞または骨芽細胞)がその系列決定を逆転させ、前駆細胞(例えば、多分化能または多能性幹細胞)となる過程を示す。脱分化された細胞は、系列決定済み細胞と関連する遺伝子発現パターンおよび細胞表面蛋白質発現の喪失により識別することができる。例えば、筋芽細胞は典型的には、inter alia、MyoD、Myf5、ミオシン、CD56およびデスミンを発現する。1または複数のこれらの遺伝子の発現の喪失または発現レベルの減少は、筋芽細胞が脱分化を受けたことを示している。
【0044】
「分化転換」という用語は、1つの系列の細胞型に予め決定されている前駆細胞(すなわち、幹細胞)が、別の系列の特異的な細胞型に分化する過程を表し、例えば、前脂肪細胞が骨芽細胞に分化転換し、または筋芽細胞が骨芽細胞に分化転換する。分化転換した細胞はその遺伝子発現パターンおよび細胞表面蛋白質発現により識別することができる。典型的には、骨芽細胞系列の細胞は、例えば、下記などの遺伝子を発現する:アルカリホスファターゼ、I型コラーゲン、オステオカルシン、およびオステオポニン;ならびに例えば、下記などの骨特異性転写因子:Cbfa1/Runx2、Osx、gsc、Dlx1、Dlx5、Msx1、Cart1、Hoxa1、Hoxa2、Hoxa3、Hoxb1、rae28、Twist、AP-2、Mf1、Pax1、Pax3、Pax9、TBX3、TBX4、TBX5、およびBrachyury(例えば、Olsen et al.、2000、上記およびNakashima et al., Cell 108(1):17-29(2002)を参照のこと)。
【0045】
本明細書で使用されるように、「骨形成」は骨細胞の増殖および骨組織の成長(すなわち、新しい骨基質の合成および沈着)を示す。骨形成はまた、前駆細胞の骨細胞(すなわち、骨芽細胞)への分化または分化転換を示す。前駆細胞は、例えば、間葉系幹細胞などの多能性幹細胞とすることができる。前駆細胞は骨芽細胞系列に予め決定された細胞(例えば、前骨芽細胞)または骨芽細胞系に予め決定されていない細胞(例えば、前脂肪細胞または筋芽細胞)とすることができる。
【0046】
骨形成の誘導と関連させて本明細書で使用されるように「固体支持体」は、幹細胞を培養することができる三次元基質または平面を示す。固体支持体は、天然物質(すなわち、蛋白質系)または合成物質由来とすることができる。例えば、天然物質に基づく基質は、例えば、Clokie et al., J. Craniofac. Surg. 13(1):111-21(2002)およびIsaksson, Swed. Dent. J. Suppl. 84:1-46(1992)に記述されているように、自己骨片または市販の代用骨から構成される場合がある。適した合成基質は、例えば、米国特許第5,041,138号、同第5,512,474号および同第6,425,222号に記述されている。例えば、生体分解性人工ポリマー、例えばポリグリコール酸、ポリオルトエステル、またはポリ無水物を固体支持体として使用することができる。炭酸カルシウム、アラゴナイト、および多孔性セラミックス(例えば、高密度ヒドロキシアパタイトセラミック)もまた、固体支持体において使用するのに適している。ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、およびポリスチレンなどのポリマーもまた、固体支持体において使用することができる。三次元基質である固体支持体上で培養し、分化させた細胞は典型的には、基質の表面全て、例えば内面および外面上で増殖する。平面の固体支持体上で培養し、分化させた細胞は典型的には単層で増殖する。「固体支持体」という用語はまた、化学式Iの化合物の調製との関連でも使用される。これに関しては、「固体支持体」は適した溶媒に部分的に溶解することができ、または完全に不溶性のポリマー支持体、例えば、ビーズを示し、例えば、反応物または反応試薬を結合させるために使用される。適した固体支持体としては、PAL樹脂、Wang樹脂、およびポリスチレン樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書で使用されるように、「培養」という用語は細胞が増殖し、分化し、老化を避けることができる条件下で細胞を維持することを意味する。細胞は適当な成長因子を含む成長培地で培養することができる。
【0048】
III. 本発明の化合物およびそれの調製方法
A. 化学式Iの化合物
1つの局面では、本発明は化学式Iの化合物を提供する:

【0049】
化学式Iにおいて、R1は、水素、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキルおよびC0〜2アルキルアリールを含むが、それらに限定されない官能基であり、それぞれ独立して選択され、ハロゲン、C1〜4アルキル、C1〜4アルコキシ、-N(R1b、R1b)、-SO2N(R1b、R1b)、-C(O)N(R1b、R1b)および-O-アリールを含むが、それらに限定されない官能基である0〜2R1aにより置換され、または、R1a基が隣接する環原子上に存在する場合、それらは任意で一緒になって、-O-(CH2)1〜2-O-、-O-C(CH3)2CH2-および-(CH2)3〜4-からなる群から選択されるメンバーを形成してもよく、またはR1は任意でそれに結合している窒素原子と一緒になって、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキル、C1〜4アルキルヒドロキシ、およびC0〜2アルキルアリールを含むが、それらに限定されない官能基により置換されてもよい複素環を形成してもよく;および各R1b基は独立して選択され、水素およびC1〜4アルキルを含むが、それらに限定されない官能基である。
【0050】
化学式Iにおいて、R2は、水素、ハロゲンおよび-L-R3を含むが、それらに限定されない官能基であり;Lは-O-、-S-、および-NR4-を含むが、それらに限定されない官能基であり、ここで、R4はHであり、またはR4は任意でR3およびその両方に結合している窒素と一緒になって、C1〜4アルキルで置換されてもよい複素環を形成してもよく;R3はそれぞれ独立して選択され、ハロゲン、C1〜4アルキル、C1〜4アルコキシ、-N(R3b、R3b)、-SO2N(R3b、R3b)、-C(O)N(R3b、R3b)および-O-アリールを含むが、それらに限定されない官能基である0〜2R3aにより置換される、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキルおよびC0〜2アルキルアリールを含むが、それらに限定されない官能基であり、または、R3a基が隣接する環原子上に存在する場合、それらは一緒になり、-O-(CH2)1〜2-O-、-O-C(CH3)2CH2-および-(CH2)3〜4-からなる群から選択されるメンバーを形成し;および各R3b基は独立して選択され、水素およびC1〜4アルキルを含むが、それらに限定されない官能基である。
【0051】
本発明の化合物は、その薬学的に許容される塩、異性体、溶媒和物、水和物およびプロドラッグを全て含む。
【0052】
好ましい態様では、R1は、下記を含むが、それらに限定されない官能基である:


【0053】
好ましい態様では、R2は、下記を含むが、それらに限定されない官能基である:


【0054】
いくつかの好ましい態様では、R1はC0〜2アルキルアリールである。別の好ましい態様では、R1は-N(R1b、R1b)で置換されたC0〜2アルキルアリールである。
【0055】
いくつかの態様では、R1は下記である:

【0056】
いくつかの態様では、R2は-L-R3である。いくつかの態様では、Lは-NR4-であり、ここで、R4は水素であり、R3はC3〜8シクロアルキルである。いくつかの態様では、R3はシクロヘキシルである。
【0057】
本発明の好ましい化合物は、下記化合物を含むが、それらに限定されない:



【0058】
特に好ましい態様では、化合物は下記構造を有する:

【0059】
化学式Iの化合物は、下記、特に実施例で記述したスクリーニング法を使用して系列決定済み哺乳類細胞の脱分化を誘導する能力(すなわち、幹細胞を生成する能力)に対し容易にスクリーニングすることができる。
【0060】
B.化合物の調製
本発明の化合物は、固相または溶液相合成のいずれかにより調製することができる。
【0061】
1.固相合成
化学式Iの化合物の固相合成を対象とする方法は、実施例Iにおいて本明細書で、ならびにDing et al., J. Am. Chem. Soc. 124:1594(2002)および2003年10月15日に出願された米国特許出願第10/687,220号(代理人整理番号第021288-001820US)、2001年10月12日に出願された米国特許出願第60/328,763号、2001年11月20日に出願された米国特許出願第60/331,835号、2002年1月7日に出願された米国特許出願第60/346,480号、2002年1月10日に出願された米国特許出願第60/348,089号、および2002年10月12日に出願された米国特許出願第10/270,030号(代理人整理番号第21288-000340)において記述されている。
【0062】
1つの局面では、本発明は、下記段階を含む、置換ヘテロアリールを合成するための方法を提供する:(a)ジハロヘテロアリール骨格部分を提供する段階;および(b)樹脂結合アミン求核試薬による第1ハロゲンの求核置換により、樹脂上にジハロヘテロアリール骨格部分を捕捉させ、置換ヘテロアリール、例えば樹脂結合アミン置換モノハロヘテロアリールを提供する段階;(c)第2のハロゲンを適当に置換されたアミンまたはアリールアルコールと反応させ、樹脂結合置換ヘテロアリールを提供する段階;および(d)置換ヘテロアリールを樹脂から開裂させる段階。
【0063】
本発明のために有益な、適した樹脂としては、PAL樹脂、Wang樹脂、およびポリスチレン樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。他の適した樹脂は、当業者には明かであると思われる。好ましい態様では、PAL樹脂を使用する。
【0064】
好ましい態様では、ジハロヘテロアリール骨格部分の2つのハロゲン、すなわちハロ基は独立して選択され、クロロ、フルオロ、ブロモおよびヨードが挙げられるが、それらに限定されない。現在、好ましい態様では、2つのハロゲンはクロロ基である。
【0065】
好ましい態様では、方法はさらに、求核置換、またはカップリング反応によるジハロヘテロアリール骨格部分の第2のハロゲンの置換を含む。現在、好ましい態様では、カップリング反応を使用して、ジハロヘテロアリール骨格部分の第2のハロゲンを置換する。これに関しては、カップリング反応は好ましくはパラジウム-媒介カップリング反応である。
【0066】
当業者であれば、ジハロヘテロアリール骨格部分の2つのハロゲン、すなわちハロ基は、多くの異なる官能基で置換することができることは容易に明らかになるであろう。適した官能基としては、アニリン、フェノール、アミンおよびボロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい態様では、官能基としてはアリールボロン酸、アニリンおよびフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
本発明の化合物では、N9は好ましくは非置換である。しかしながら、N9を置換することが望ましい場合、ジハロヘテロアリール骨格部分の置換前にN9の初期置換を実施することができる。好ましい態様では、初期置換は、アルキル化反応、アシル化反応およびカップリング反応を含むが、これらに限定されない反応を用いて実施する。
【0068】
本発明の方法では多くのジハロヘテロアリール骨格部分を使用することができる。適したジハロヘテロアリール骨格部分の例としては、プリン、ピリミジン、キナゾリン、ピラジン、フタラジン、ピラダジンおよびキノキサリンが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の好ましい態様では、ジハロヘテロアリール骨格はプリンである。
【0069】
パラジウム触媒カップリング反応を使用してジハロヘテロアリールのハロ基または樹脂結合アミン置換モノハロヘテロアリールのハロ基を置換する場合、パラジウム触媒カップリング反応は典型的には、ジハロヘテロアリールまたは樹脂結合アミン置換モノヘテロアリールを溶媒、パラジウム触媒、塩基およびカルベンまたはホスフィンリガンドの存在下、カップリング剤と反応させる段階を含む。適したカップリング剤としては、ボロン酸、アミンおよびアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。現在好ましい態様では、適したカップリング剤としては、アリールボロン酸、アニリンおよびフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
上記方法では、カルベンまたはホスフィンリガンドを使用することができる。本発明の方法で使用するのに適したリガンドの例としては、下記カルベンおよびホスフィンリガンドが挙げられるが、これらに限定されない:

【0071】
現在好ましい態様では、リガンドは下記を含むが、それらに限定されないホスフィンリガンドである:

【0072】
本発明の方法を実施する場合、多くの塩基を使用することができる。上記方法において使用するのに適した塩基の例としては、炭酸セシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸セシウム、フッ化カリウム、リン酸カリウム、カリウムtert-ブチルオキシド、ナトリウムtert-ブチルオキシド、およびトリエチルアミンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0073】
本発明の方法を実施する場合、多くの溶媒を使用することができる。上記方法において使用するのに適した溶媒の例としては、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ベンゼンおよびトルエンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明の方法を実施する場合、多くのパラジウム触媒を使用することができる。典型的には、触媒中のパラジウムの酸化状態は、(0)または(II)である。本発明の方法を実施する際に使用するのに適したパラジウム触媒の例としては、Pd2(dba)3、Pd(OAc)2、Pd(PPh3)4、Pd(O)、PdCl2(dppf)およびPdCl2が挙げられるが、それらに限定されない。そのような触媒は当業者に公知であり、当業者により使用されており、このため、それらの構造は公知である。好ましい態様では、パラジウム触媒はPd2(dba)3である。
【0075】
好ましい態様では、前記方法は、化合物を固体支持体から開裂させる段階をさらに含む。本発明の化合物は、当業者に公知であり、当業者により使用されている標準法を使用して固体支持体から容易に開裂させることができることは容易に認識されるであろう。樹脂結合化合物の開裂および所望の化合物の樹脂からの遊離は典型的には酸の存在下で実施される。適した酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、塩化水素などの無機酸、などが挙げられるが、これらに限定されない。反応は通常、水、アルコール、例えばメタノール、エタノール、1,4-ジオキサン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、これらの混合物、または反応に悪影響を与えない任意の他の溶媒などの溶媒中で実施される。
【0076】
本発明のさらに別の局面では、前記方法はヘテロアリール骨格部分のライブラリ(またはアレイ)を調製するように適合される。典型的には、置換骨格部分のライブラリは、複数のジハロヘテロアリール骨格部分を用いて調製される。そのようなものとして、別の局面では、本発明は、下記段階を含む置換ヘテロアリール(例えば、複素環)のコンビナトリアルライブラリを合成するための方法を提供する:複数のジハロ複素環骨格部分を提供する段階;および樹脂結合アミン求核試薬により第1の塩素を求核置換することによりジクロロ複素環骨格部分を樹脂上に捕捉させる段階。
【0077】
好ましい態様では、ジハロヘテロアリール骨格部分に存在する2つのハロゲン、すなわち、ハロ基は独立して選択され、クロロ、フルオロ、ブロモおよびヨードが挙げられるが、それらに限定されない。現在好ましい態様では、ジハロヘテロアリール骨格部分の2つのハロゲンはクロロ基である。
【0078】
好ましい態様では、方法はさらに、求核置換、またはカップリング反応によるジハロヘテロアリール骨格部分の第2ハロゲンの置換を含む。現在好ましい態様では、カップリング反応を使用して、ジハロヘテロアリール骨格部分の第2ハロゲンを置換させる。これに関しては、カップリング反応は好ましくはパラジウム媒介カップリング反応である。
【0079】
ジハロヘテロアリール骨格部分の2つのハロゲン、すなわちハロ基は、各々が独立して選択される多くの異なる官能基により置換できることは、当業者には容易に明らかになるであろう。適した官能基としては、アニリン、フェノール、アミンおよびボロン酸が挙げられるが、これらに限定されない(表1を参照のこと)。現在好ましい態様では、官能基としては、アリールボロン酸、アニリンおよびフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
N9に置換基を導入することが望ましい場合、方法はさらに、ジハロヘテロアリール骨格部分の第1ハロゲンの置換前に、最初の置換を実施する段階を含む。好ましい態様では、最初の置換は、アルキル化反応、アシル反応およびカップリング反応を含むが、それらに限定されない反応を使用して実施する。
【0081】
本発明の方法では、多くのジハロヘテロアリール骨格部分を使用することができる。適したジハロヘテロアリール骨格部分の例としては、プリン、ピリミジン、キナゾリン、ピラジン、フタラジン、ピラダジンおよびキノキサリンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0082】
パラジウム触媒カップリング反応を使用してジハロヘテロアリール骨格部分のハロ基または樹脂結合アミン置換モノハロヘテロアリールのハロ基を置換する場合、パラジウム触媒カップリング反応は典型的には、ジハロヘテロアリールまたは樹脂結合アミン置換モノハロヘテロアリールを、溶媒、パラジウム触媒、塩基およびカルベンまたはホスフィンリガンドの存在下でカップリング剤と反応させる段階を含む。適したカップリング剤としては、ボロン酸、アミンおよびアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。現在好ましい態様では、適したカップリング剤としては、アリールボロン酸、アニリンおよびフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。C-2置換プリン化合物を調製するための方法に関して前述したカルベンまたはホスフィンリガンド、塩基、溶媒、パラジウム触媒および銅触媒に関する前記記述は、置換ヘテロアリール化合物のコンビナトリアルライブラリまたはアレイを調製するための方法に完全に適用することができることに注意すべきであり、このため、ここでは繰り返さない。
【0083】
2.溶液相合成
化学式Iの化合物の溶液相合成は、最初に2,6-ジハロヘテロアリールを適当に置換したアミンで、当業者に公知の適当な反応条件下、置換する段階を含む。この後、Pd触媒を用い、当業者に公知の適当な反応条件下、適当に置換したアミン、アニリンまたはアリールアルコールで置換する。固体支持体を介して化学式Iの化合物を調製するための方法に関して前述したカルベンまたはホスフィンリガンド、塩基、溶媒およびパラジウム触媒に関する前記記述は、溶液相を介する化学式Iの化合物を調製するための方法に完全に適用することができることに注意すべきであり、このため、ここでは繰り返さない。
【0084】
IV.細胞脱分化を誘導するための方法
本発明の組成物は、哺乳類細胞の脱分化を誘導するための方法において都合よく使用することができる。哺乳類細胞を化学式Iの化合物(またはその組成物)と接触させるとすぐに、哺乳類細胞は多分化能幹細胞に分化する。
【0085】
1.適した細胞
適した系列決定済み哺乳類細胞は任意の系列決定済み細胞型(例えば、筋芽細胞または骨芽細胞)とすることができ、任意の適した哺乳類(例えば、齧歯類、例えば、マウス、ラット、モルモット、およびウサギ;非齧歯類哺乳類、例えば、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ、およびヤギ;霊長類、例えば、チンパンジーおよびヒト)由来とすることができる。系列決定済み細胞は一次細胞であってもよく、または培地中で維持した細胞としてもよい。細胞を培地中で維持する場合、細胞は典型的には、第12と第15継代との間で、本発明の化合物/組成物と接触させる。ヒトおよび哺乳類細胞の単離および培養のための方法は、当技術分野において周知であり、例えば、下記において記述されている:Humason, ANIMAL TISSUE TECHNIQUES 4th ed., W.H. Freeman and Company(1979);Freshney et al., CULTURE OF ANIMAL CELLS(3rd ed.1994);およびRicciardelli et al., (1989) In Vitro Cell Dev. Biol. 25:1016。
【0086】
2.一般培養法
哺乳類細胞を化合物Aなどの化学式Iの化合物と単独で、または、化合物Aなどの化学式Iの化合物と成長因子(例えば、線維芽細胞成長因子またはTGF-β)の存在下で、接触させてもよい。当業者であれば、化合物Aなどの化学式Iの化合物および成長因子の量を調整し、特別な系列決定済み細胞型の脱分化を促進することができることは認識されるであろう。典型的には、細胞と接触させる化合物Aの量は約0.1μM(52ng/ml)〜約50μM(2.6μg/ml)、より典型的には約0.25μM〜約35μM、さらにより典型的には約0.5μM〜約25μM、より一層典型的には約0.75μM〜約15μM、最も典型的には約5μMである。
【0087】
本発明のこの局面は、細胞培養分野におけるルーチン技術に依存する。適した細胞培養法および条件は、公知の方法を用い、当業者により決定することができる(例えば、Freshneyら、1994、上記)。一般に、細胞培養環境は、細胞増殖、細胞密度および細胞収縮のための基質、気相、培地、および温度などの因子の考慮を含む。
【0088】
細胞の培養は一般に、細胞増殖に対し最適であることが知られている条件下で実施される。そのような条件としては、例えば、約37℃の温度、約5% CO2を含む加湿雰囲気が挙げられる。培養期間は、所望の結果によって、広範囲に変動させることができる。一般的には、培養は好ましくは、細胞が適当に発現するまで続ける。増殖は、3Hチミジン取り込みまたはBrdU標識化を用いて都合よく決定される。
【0089】
本発明の方法に従い、プラスチック皿、フラスコまたはローラーボトルを使用して、細胞を培養してもよい。適した培養容器としては、例えば、マルチウエルプレート、ペトリ皿、組織培養管、フラスコ、ローラーボトルなどが挙げられる。
【0090】
細胞は、細胞型に基づき経験的に決定される最適密度で増殖される。細胞は典型的には12〜15代継代され、15継代後に廃棄される。
【0091】
培養細胞は、温度の局所的な変動の原因となる、適した温度、例えば細胞が由来する動物の体温を提供するインキュベータ中で正常に増殖される。一般に、細胞培養には37℃が好ましい温度である。ほとんどのインキュベータは大体雰囲気条件まで加湿される。
【0092】
ガス相の重要な成分は酸素および二酸化炭素である。典型的には、雰囲気酸素圧を細胞培養で使用する。培養容器は通常、インキュベータ雰囲気中に開放されており、ガス透過性キャップを用いることにより、または培養容器の封入を避けることによりガス交換が可能である。二酸化炭素は、細胞培養培地中の緩衝液と共に、pH安定化で重要な役割を果たし、典型的には、インキュベータ中に1〜10%の濃度で存在する。好ましいCO2濃度は典型的には5%である。
【0093】
規定細胞培地は、パッケージされた、予め混合された粉末または予め滅菌された溶液として入手可能である。一般に使用される培地の例としては、MEM-α、DME、RPMI1640、DMEM、Iscove完全培地またはMcCoy培地が挙げられる(例えば、GibcoBRL/Life Technologies Catalogue and Reference Guide; Sigma Catalogueを参照のこと)。典型的には、MEM-αまたはDMEMを本発明の方法において使用する。規定細胞培地には、しばしば、5〜20%の血清、典型的には熱により不活性化した血清、例えば、ヒト、ウマ、子ウシおよびウシ胎児血清を補充する。典型的には、本発明の方法では10%ウシ胎児血清を使用する。培地は通常、緩衝化され、細胞は一定のpH、好ましくは約7.2〜7.4に維持される。培地への他の補充物としては、典型的には、例えば、抗生物質、アミノ酸、および糖、ならびに成長因子が挙げられる。
【0094】
B.脱分化させた系列決定済み細胞を分化させる方法
本発明の1つの局面は、系列決定済み細胞から誘導した多分化能幹細胞を分化するための方法を提供する。1つの例示的な態様では、系列決定済み細胞(例えば、筋芽細胞)を化合物Aを含む組成物と接触させ、多分化能幹細胞(例えば、間葉幹細胞)への脱分化を誘導する。多分化能幹細胞をその後、系列決定済み細胞に分化するように誘導する。多分化能間葉幹細胞の場合、そのような細胞を、例えば、下記を含む幾つかの細胞型のうちの任意の1つへの分化の誘導を促す条件下で培養する:骨芽細胞、筋芽細胞および筋管、ならびに軟骨細胞。多分化能幹細胞を系列決定済み細胞へ分化させるための方法および培地は、当業者に周知であり、例えば、米国特許第6,617,159号;同第5,635,386号;および同第5,397,706号において記述されている。
【0095】
多分化能幹細胞の分化細胞への分化は、例えば、下記を含む当技術分野で公知の任意の手段により検出することができる:細胞型特異的転写因子の発現の検出、細胞型特異的蛋白質の発現の検出および細胞の形態変化の検出。例えば、骨芽細胞は典型的には下記蛋白質を発現する:アルカリホスファターゼ(ALP)、I型コラーゲン、オステオカルシン、およびオステオポニン;ならびに下記転写因子:Cbfa1/Runx2、gsc、Dlx1、Dlx5、Msx1、Cart1、Hoxa1、Hoxa2、Hoxa3、Hoxb1、rae28、Twist、AP-2、Mf1、Pax1、Pax3、Pax9、TBX3、TBX4、TBX5、およびBrachyury(例えば、Olsen et al., Annu. Rev. Cell. Dev. Biol. 16:191(2000)を参照のこと)。別の例として、筋芽細胞は典型的には下記蛋白質を発現する:MyoD、Myf5、ミオシン、CD56およびデスミン。
【0096】
1.細胞特異的蛋白質の検出
細胞特異的蛋白質の発現は、細胞特異的蛋白質またはmRNAのレベルを測定することにより検出してもよい。当業者であれば、細胞特異的蛋白質またはmRNAを検出するために使用する特別な方法は本発明の重要な部分ではないとことを認識するであろう。細胞特異的蛋白質およびmRNAを検出する方法は当技術分野において周知である。例えば、特別な細胞特異的蛋白質のレベルは、イムノアッセイ法、例えば、免疫組織化学的染色、ウエスタンブロット法、ELISAなどにより、特別な細胞特異的蛋白質またはその断片に選択的に結合する抗体を用いて、都合よく測定することができる。イムノアッセイ法における蛋白質特異的抗体を用いた蛋白質の検出は当業者には公知である(例えば、下記を参照のこと:Harlow & Lane, Antibodies: A Laboratory Manual(1988), Coligan, Current Protocols in Immunology(1991); Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed.1986);およびKohler & Milstein, Nature 256: 495-497(1975))。mRNAの測定では、増幅、例えば、PCR、LCR、またはハイブリダイゼーションアッセイ法、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、RNAase保護、ドットブロッティングが好ましい。蛋白質またはmRNAのレベルは、例えば、直接または間接的に標識した検出作用物質、例えば、蛍光または放射性標識した核酸、放射性または酵素標識した抗体を用いて検出される。これらのアッセイ法は当業者に周知であり、例えば、Ausubel, et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(2001)で記述されている。細胞特異的酵素の場合、酵素活性(例えば、アルカリホスファターゼ)の測定値を、細胞分化の指標として使用することができる。細胞性酵素を測定する方法は当技術分野において周知であり、例えば下記に記述されている(例えば、下記を参照のこと:Harlow & Lane、1988、上記;Coligan、1991、上記;Goding、1986、上記;およびKohler & Milstein、1975、上記)。
【0097】
2.細胞特異的転写因子の検出
細胞特異的転写因子の発現は、レポーター遺伝子アッセイ法により検出することができる。これらのアッセイ法は当業者に周知であり、例えば、Ausebel et al.,上記および米国特許出願第60/418,898号において記述されている。例えば、骨特異的転写因子Cbfa1/Runx2の発現は、骨形成を検出することができ;軟骨細胞特異的転写因子p38 MAPKまたはc-Mafの発現を使用して軟骨形成を検出することができ;および筋芽細胞特異的転写因子Mirk(minibrain-関連キナーゼ)/dyrk1BまたはFoxO1の発現を使用して筋形成を検出することができる。
【0098】
例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、蛍ルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ、またはβ-ガラクトシダーゼなどのレポーター遺伝子を、レポーター遺伝子アッセイ法において使用することができる。レポーターコンストラクトを典型的には一過性に、または安定に細胞にトランスフェクトさせる。関連遺伝子のプロモーター領域を典型的には、PCRに適したプライマーにより増幅させる。得られたPCR産物を適したクローニングベクターに挿入し、増幅させ、配列決定する。得られたプラスミドを適当な制限酵素で消化させ、得られた断片を、レポーター遺伝子を含むベクターに挿入する。
【0099】
一過性にトランスフェクトした細胞を用いるレポーター遺伝子アッセイ法では、細胞は、典型的には6-ウエルプレートに、2mLの成長培地中30,000細胞/ウエルの密度で播種し、一晩中または適当な時間、インキュベートする。プラスミドDNAを適したトランスフェクション剤を用いて細胞にトランスフェクトさせる。8時間後、トランスフェクト細胞を96-ウエルアッセイプレート(例えば、Corning)に播種し、適当な量の化学式Iの化合物(例えば、化合物A)で処理する。細胞を4日間インキュベートし、その後、細胞におけるレポーター遺伝子活性を当業者に公知の方法を用いてアッセイする。
【0100】
安定にトランスフェクトした細胞を用いるレポーター遺伝子アッセイ法では、細胞は典型的には6-ウエルプレートに、2mLの成長培地中30,000細胞/ウエルの密度で播種し、一晩中または適当な時間、インキュベートする。適当な量のレポータープラスミドおよび選択可能なマーカー(例えば、抗生物質抵抗性遺伝子)を含むベクターを、適したトランスフェクション剤を使用して細胞中にコトランスフェクトする。適当なインキュベーション時間後、細胞を10cmの培養皿に播種し、適当な量の抗生物質を培地に添加する。新たに抗生物質を適当な間隔で添加する。抗生物質抵抗性コロニーをプールし、安定にトランスフェクトされた細胞を得る。トランスフェクト細胞を96-ウエルアッセイプレート(例えば、Corning)に播種し、適当な量の化学式Iの化合物(例えば、化合物A)で処理する。細胞を4日間インキュベートし、その後、細胞におけるレポーター遺伝子活性を当業者に公知の方法を用いてアッセイする。
【0101】
3.形態変化の検出
細胞の形態変化もまた、細胞分化の指標であり、当業者に公知の任意の手段を用いて検出することができる。典型的には、分化した細胞を適した染料で染色し、形態変化を、例えば顕微鏡を用いて視覚的に検出する。例えば、分化した細胞はOil Red Oで染色することができ、これにより、脂肪細胞の特徴である細胞膜内の液滴の存在が識別される。細胞を染色して特別な細胞型を識別する方法および組成物は当技術分野では周知であり、例えば、下記に記述されている:

【0102】
V.スクリーニング法
本発明の1つの態様は、系列決定済み細胞の脱分化を誘導する別の化合物をスクリーニングする方法を提供する。系列決定済み哺乳類細胞を、系列決定済み哺乳類細胞の脱分化を誘導すると推測される試験化合物と接触させる。系列決定済み細胞の脱分化は、上記のように細胞特異的蛋白質および細胞特異的転写因子の消失により検出することができる。系列決定済み細胞が多分化能幹細胞に脱分化したかどうかを決定するために、脱分化細胞を、各々が幹細胞を異なる細胞型に誘導する少なくとも2つの別個の細胞培地で培養する。脱分化細胞が第1または第2細胞型への分化を受けたかどうかを決定するためのアッセイ法は伝導であり;幹細胞の細胞型への分化の誘導により、試験化合物が、系列決定済み哺乳類細胞の脱分化を誘導する化合物として識別される。
【0103】
1つの好ましい態様では、ハイスループットスクリーニング法は、多数の可能性のある治療化合物(候補化合物)を含むライブラリを提供する段階を含む。そのような「コンビナトリアル化学ライブラリ」をその後、1または複数のアッセイ法でスクリーニングし、所望の特徴的な活性を示すライブラリメンバー(特に化学種またはサブクラス)を識別する。このように識別した化合物は従来の「鉛化合物(lead compound)」として機能することができ、またはそれ自体可能性のある、または現実の治療として使用することができる。
【0104】
コンビナトリアル化学ライブラリは、試薬などの多くの化学「基礎的要素」を組み合わせることにより、化学合成または生物学的合成のいずれかにより生成される様々な化合物のコレクションである。何百万もの化合物を、そのような化学的な基礎的要素のコンビナトリアルミキシングにより合成することができる(Gallop et al., J. Med. Chem. 37(9):1233-1251(1994))。
【0105】
コンビナトリアル化学ライブラリの調製およびスクリーニングは、当業者には周知である。そのようなコンビナトリアル化学ライブラリとしては下記が挙げられるが、それらに限定されない:置換プリン、ピリミジン、キナゾリン、ピラジン、ピロロピリミジン、ピラゾロピリミジン、フタラジン、ピリダジン、およびキノキサリン(例えば、Ding et al., J. Am. Chem. Soc. 124:1594(2002);Gray et al., Science 281:533(1998);Rosania et al. Nat. Biotechnol. 18:304(2000);およびRosania et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96:4797(1999)を参照のこと);ペプチドライブラリ(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka, Pept. Prot. Res. 37:487-493(1991)、Houghton et al., Nature, 354:84-88(1991)を参照のこと)、ペプトイド(PCT公開番号WO91/19735)、コード化ペプチド(PCT公開番号WO93/20242)、ランダム生物オリゴマー(PCT公開番号WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(米国特許第5,288,514号)、ダイバーソマー(diversomers)例えばヒダントイン、ベンゾジアゼピンおよびジペプチド(Hobbs et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90:6909-6913(1993))、ポリペプチドビニローグ(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568(1992))、β-D-グルコース骨格を有する非ペプチドペプチド模倣物(Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217-9218(1992))、小化合物ライブラリの類似有機合成(Chen et al., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661(1994))、オリゴカルバメート(Cho, et al., Science 261:1303(1993))、および/またはホスホン酸ペプチジル(Campbell et al., J. Org. Chem. 59:658(1994))。一般に、下記を参照のこと:Gorden et al., J. Med. Chem. 37:1385(1994)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liang et al., Science 274:1520-1522(1996)および米国特許第5,593,853号を参照のこと)、および小有機分子ライブラリ(例えば、下記を参照のこと:ベンゾジアゼピン、Baum、C&EN、Jan 18、page33(1993);イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および同第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号、アデニルシクラーゼおよびサイクリックAMPを制御する化合物、例えば、フォルスコリンおよびその誘導体、米国特許第5,789,439号;同第5,350,864号および同第4,954,642号)。
【0106】
コンビナトリアルライブラリを調製するための装置は市販されている(例えば、357MPS、390MPS、Advanced Chem Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Woburn, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MAを参照のこと)。
【0107】
多くの周知のロボットシステムもまた、溶液相化学のために開発されている。これらのシステムはTakeda Chemical Industries, LTD(Osaka, Japan)により開発された自動化合成装置のような自動化ワークステーションを含み、多くのロボットシステムがロボットアームを使用し(Zymate II, Zymark Corporation, Hopkinton, Mass.;Orca, Hewlett-Packard, Palo Alto, Calif)、これは化学者が実施する手動合成操作を模倣している。適当に改良した上記装置は、本発明と共に使用するのに適している。さらに、多くのコンビナトリアルライブラリがそれ自体市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Asinex, Moscow, Ru, Tripos, Inc., St. Louis, MO, ChemStar, Ltd, Moscow, RU, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MD, etc.を参照のこと)。
【0108】
系列決定済み細胞の脱分化を誘導する化合物を識別するアッセイ法は、ハイスループットスクリーニングに適している。特別な核酸または蛋白質産物の有無、定量または他の特性を評価するためのハイスループットアッセイ法は、当業者に周知である。同様に、結合アッセイ法およびレポーター遺伝子アッセイ法も同様に周知である。このように、例えば、米国特許第5,559,410号は、蛋白質に対するハイスループットスクリーニング法を開示し、米国特許第5,585,639号は核酸結合(すなわち、アレイ)に対するハイスループットスクリーニング法を開示し、一方、米国特許第5,576,220号および同第5,541,061号はリガンド/抗体結合に対するハイスループットスクリーニング法を開示する。
【0109】
さらに、ハイスループットスクリーニングシステムは市販されている(例えば、Zymark Corp., Hopkinton, MA; Air Technical Industries, Mentor, OH; Beckman Instruments, Inc. Fullerton, CA; Precision Systems, Inc., Natick, MAなどを参照のこと)。これらのシステムは典型的には、試料および試薬ピペッティング、液体分注、時限インキュベーション、およびアッセイ法に適した検出器でのマイクロプレートの最終読み取りを含む手順を自動化する。これらの設定可能なシステムは高スループットおよび迅速な起動ならびに高度のフレキシビリティおよびカスタマイゼーションを提供する。そのようなシステムの製造者は、様々なハイスループットシステムに対する詳細なプロトコルを提供する。このように、例えば、Zymark Corp.は遺伝子転写の調節、リガンド結合、などを検出するためのスクリーニングシステムを記述する技術告示を提供する。
【0110】
VI.治療方法
本発明の別の態様は、分化細胞の投与により治療することができる疾患または障害をもつ個人を治療する方法を提供する。この態様では、系列哺乳類細胞を化学式Iの化合物(例えば、化合物Aまたはその組成物)と接触させると直ちに、哺乳類細胞が多分化能幹細胞に脱分化する。多分化能幹細胞はその後、幹細胞を所望の系列の分化細胞(例えば、骨芽細胞系細胞、軟骨細胞系細胞、または脂肪細胞系細胞)に分化させるのに適した条件下で培養することができる。その後、分化細胞を治療の必要な個人に投与する。系列決定済み細胞は、治療すべき被験者から抽出することができ、すなわち自系であり(これにより、分化細胞の免疫に基づく拒絶が避けられる)、または別の被験者に由来させることができ、すなわち異種である。どちらの場合でも、細胞の投与と適当な免疫抑制治療を組み合わせることができる。
【0111】
1.分化細胞の投与
分化細胞は、当業者に公知の任意の手段により被験者に投与することができる。本発明の例示的な態様では、無傷の固体支持体(例えば、三次元基質または平面)上の分化骨芽細胞は、例えば、外科的移植により被験者に投与することができる。また、分化骨芽細胞は基質から、すなわち、プロテアーゼ処理により、脱着させることができ、その後、例えば静脈内、皮下、または腹腔内投与により、被験者に投与することができる。
【0112】
細胞は投与に適した製剤、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を対象レシピエントの血液と等張にする溶質を含むことができる水性および非水性、等張滅菌注射溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および防腐剤を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液中に存在してもよい。注射溶液および懸濁液は滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
【0113】
外科的移植では、分化細胞は典型的には無傷の固体支持体、例えば、三次元基質または平面上に存在したままである。基質または平面は被験者の適当な部位に外科的に移植される。例えば、骨移植を必要とする患者は、外科的に移植された無傷の固体支持体上に分化細胞を有することができる。
【0114】
減少した、または異常な分化細胞による状態の治療または予防において投与すべき細胞の有効量を決定する際には、医師は細胞毒性、移植反応、疾患の進行、および抗細胞抗体の産生を評価する。例えば、本発明の方法により、様々な濃度での骨芽細胞の副作用を考慮し、患者の質量および健康全般に適するように、分化させた骨芽細胞を被験者に有効量投与し、被験者に骨芽細胞を提供することができる。投与は単回で、または分割して実施することができる。
【0115】
当業者であれば、分化細胞を単独で、または他の化合物および治療法と組み合わせて使用し、組織再生(骨形成)を誘導することができることは認識されると思われる。例示的な態様では、幹細胞を誘導して、骨芽細胞に分化させてもよく、これは、骨再形成サイクルに影響する骨形態形成蛋白質(例えば、BMP-2、BMP-4、およびBMP-7)または再吸収阻害薬(例えば、ビスフォスフォネート、例えば、アレンドロン酸ナトリウムおよびリゼドロン酸ナトリウム;ホルモン、例えば、カルシトニンおよびエストロゲン、および選択的エストロゲン受容体モジュレータ、例えば、ラロキシフェン)と共に患者に投与することができる。骨密度に対する骨芽細胞投与の効果を評価するために、治療を受ける個人の骨密度の基準測定を行ってもよい。化学式Iの化合物、例えば化合物Aの投与中および投与後、適した間隔で骨密度を周期的に測定する。骨密度を測定するための方法および装置は、当技術分野で周知であり、例えば下記に記述されている:米国特許第6,436,042号;同第6,405,068号;同第6,320,931号;同第6,302,582号;同第6,246,745号;同第6,230,036号;同第6,213,934号;同第6,102,567号;同第6,058,157号;同第5,898,753号;同第5,891,033号;同第5,852,647号;同第5,817,020号;同第5,782,763号;同第5,778,045号;同第5,749,363号;同第5,745,544号;同第5,715,820号;同第5,712,892号;同第5,572,998号;および同第5,480,439号。
【実施例】
【0116】
実施例
主張する本発明を説明するために下記実施例を示すが、制限するものではない。
【0117】
実施例1:化合物Aの合成およびキャラクタリゼーション
Pd触媒カップリングのためのホスフィンリガンドはStrem Chemicalsから購入した。他の化学薬品は全てAldrichから購入した。
【0118】
2-(4-モルホリノアニリノ)-6-シクロヘキシルプリン(化合物A)の溶液相合成
Ding et al., J. Am. Chem. Soc. 124:1594(2002)で以前記述された方法と同様の方法を使用して、2-(4-モルホリノアニリノ)-6-シクロヘキシルアミノ-プリン(すなわち、リバーシンまたは化合物A)を合成した。2-フルオロ-6-クロロプリン(87mg、0.5mmol)のn-ブタノール(5mL)溶液に、シクロヘキシルアミン(58μL、0.5mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(100μL、0.6mmol)を添加した。混合物を、12時間、激しく撹拌しながら80℃まで加熱した。その後、溶媒を減圧下で除去し、粗生成物をさらに精製せずに次の段階の反応で直接使用した。粗2-フルオロ-6-シクロヘキシルアミノ-プリン(0.5mmol)をエタノール(1mL)に溶解し、その後4-モルホリノアニリン(178mg、1.0mmol)を添加した。混合物を封管内で、24時間激しく撹拌しながら、75℃まで加熱した。その後、溶媒を減圧下で除去し、粗材料をフラッシュクロマトグラフィーにより直接精製すると、2-(4-モルホリノアニリノ)-6-シクロヘキシルアミノ-プリンが淡白色固体として得られた(130mg、総収率67%)。

【0119】
実施例2:材料および方法
細胞培養および小分子スクリーン
C2C12細胞(ATCC CRL-1772)を、10%ウシ胎児血清(HyClone)を補充したDMEM(Gibco)中、37℃、5%CO2中で培養する。マウスC2C12細胞は筋原性系列決定済み筋芽細胞である。血清を中断すると、集密なC2C12細胞が分化し、融合し特徴的な多核筋管となることができる。
【0120】
小分子スクリーンでは、増殖C2C12細胞を、10% FBSを有するDMEM中1,000細胞/ウエルの密度で黒色384-ウエル組織培養プレート(Greiner)に播種する。試験化合物(すなわち、小分子)を添加し、16時間後(すなわち、細胞が典型的に組織培養プレートの底に付着する時間点)の、最終濃度5μMとする。細胞を試験化合物で4日間処理した後、試験化合物を除去し、細胞培地を50μg/mlのアスコルビン酸2-ホスフェート、0.1μMのデキサメタゾンおよび10mMのβ-グリセロホスフェートを含む骨形成分化培地(ODM)に変える。細胞培地は典型的には2日毎に変える。さらに7日間ODM中で培養した後、ODMを除去し、10μLの受動溶解緩衝液(Promega)中で、10分間インキュベートすることにより細胞を溶解させ、その後、10μLのアルカリホスファターゼ基質溶液(AttoPhos、Promega)を添加する。15分間室温でインキュベートした後、製造者により指示されるように、蛍光強度をAcquest(Molecular Devices)で読み取る。
【0121】
骨形成アッセイ法
哺乳類細胞(例えば、C2C12筋芽細胞)を、4日間、10%FBSを補充したDMEMに溶解した適した量の試験化合物(例えば、5μMリバーシン)で処理する。その後、化合物を除去し、培地を2日毎にODMに変える。骨形成誘導から7日後に、細胞をPBS(200μL、3度)で洗浄し、10%ホルマリン溶液(Sigma)で20分間固定する。固定した細胞をその後、PBS(200μL、3度)で洗浄し、製造者に指示されるように、アルカリホスファターゼ染色キット86R(Sigma)で染色する。Nikon Eclipse TE2000顕微鏡で、200倍の倍率で、撮像する。
【0122】
脂肪生成アッセイ法
哺乳類細胞(例えば、C2C12筋芽細胞)を、4日間、10%FBSを補充したDMEMに溶解した適した量の試験化合物(例えば、5μMリバーシン)で処理した。その後、化合物を除去し、培地を、0.5mMの3-イソブチル-1-メチルキサンチン、2.5μg/mlのインスリン、および0.5μMのデキサメタゾンを含む脂肪生成分化培地(ADM)に変えた。典型的にはADMは2日毎に交換する。脂肪生成誘導から7日後に、細胞をPBS(200μL、3度)で洗浄し、10%ホルマリン溶液(Sigma)で10分間固定する。固定した細胞をその後、PBS(200μL、3度)で洗浄し、製造者に指示されるように、0.7% Oil Red O(Sigma)で染色する。Nikon Eclipse TE2000顕微鏡で、200倍の倍率で、撮像する。
【0123】
実施例3:細胞脱分化誘導活性を有する化合物としての化合物Aの識別
置換プリン、ピリミジン、キナゾリン、ピラジン、ピロロピリミジン、ピラゾロピリミジン、フタラジン、ピリダジン、およびキノキサリンを含む、多くのキナーゼ指向性(kinase-directed)骨格の周りに設計された約50,000の複素環コンビナトリアルライブラリをスクリーニングし、脱分化誘導活性を有する小分子を識別した(例えば、Ding et al.,J. Am. Chem. Soc. 124:1594(2002);Gray et al., Science 281:533(1998);Rosania et al., Nat. Biotechnol. 18:304(2000);およびRosania et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96:4797(1999)を参照のこと)。
【0124】
哺乳類細胞の脱分化を誘導する分子を識別するために、系列逆行(lineage-reversed)筋芽細胞は多分化能を再取得はずである、すなわち、系列逆行筋芽細胞は、多分化能間葉系前駆細胞の脂肪細胞、筋芽細胞または軟骨細胞への分化を典型的に誘導する条件に曝露すると、複数の許されない細胞系列に分化する能力を獲得はずであるという概念に基づき、アッセイ法を案出した。骨芽細胞形成を、一次スクリーンで選択した。確立された骨形成誘導条件、および骨特異的マーカー、アルカリホスファターゼ(ALPまたはALK)を検出するためのハイスループットアッセイ法が存在するからである(例えば、Wu et al., J. Am. Chem. Soc. 124:14520-14521(2002)を参照のこと)。
【0125】
2段階スクリーニングプロトコルを使用した。C2C12筋芽細胞を最初に、小分子で4日間処理し、脱分化を誘導し、その後、公知の骨形成誘導剤を添加した時に骨形成を受けることができるかについてアッセイした。スクリーンを実施するために、C2C12細胞を、成長培地(10%ウシ胎児血清を有するDMEM)中の384-ウエルプレートに播種し、一晩中インキュベートした後(その間、細胞はプレートの底に付着する)、5μMの化合物を添加した。4日後、化合物を除去し、培地を、50μg/mlアスコルビン酸2-ホスフェート、0.1μM デキサメタゾンおよび10mM β-グリセロホスフェートを含む骨形成誘導培地(例えば、Ding et al., J. Am. Chem. Soc. 124:1594-1596(2002)を参照のこと)に変えた。培養をさらに7日間維持し、細胞を溶解させ、その後、蛍光発生基質2'-[2'-ベンゾチアゾリル]-6'-ヒドロキシベンゾチアゾールホスフェート(BBTP)を用いてALP活性についてアッセイした。
【0126】
一次スクリーンで識別した一連の2,6-二置換プリン類似体の中で、2-(4-モルホリノアニリノ)-6-シクロヘキシルアミノ-プリン類似体(すなわち、化合物Aまたはリバーシン、図2)が、DMSO対照処理に対し、最も高いレベル(7倍)のALP活性を誘導することがわかった。化合物処理4日に、リバーシン処理細胞と未処理細胞との間で著しい差異が観察された。対照細胞(DMSOのみで処理)では、多核筋管が培養物全体で形成された。対照的に、5μMのリバーシンが存在すると筋管形成は完全に阻害され、細胞は増殖を続け、単核細胞の集密培養物が形成した。さらに、MyoDおよびミオシンなどの筋原特異的マーカーが消失し始めた。これらの結果から、リバーシンは単に選択的毒素として機能するのではないことが示唆される(例えば、Grigoriadis et al., J. Cell Biol. 106:2139-2151(1988)を参照のこと)。
【0127】
実施例4:リバーシン処理後細胞は多分化能を獲得する
結果が筋原細胞の骨原細胞への分化転換によるものではないことを確認するために、1次スクリーンからの化合物を試験し、(1)骨形成誘導カクテル無しで骨形成を誘導することができるのか、および(2)化合物で処理した細胞は脂肪生成を誘導する条件下で脂肪細胞に分化することができるのかを決定した(例えば、Jaiswal et al., J. Cell. Biochem. 64:295-312(1997)を参照のこと)。リバーシン処理4日後、化合物を除去し、その後、細胞を骨形成分化培地(ODM)または脂肪生成分化培地(ADM)中で増殖させた。7日の終わりに、ODM条件下、35%の細胞がALPに対しポジティブ染色された。同様に、ADM条件に曝露すると、40%の細胞が、特徴的な脂肪細胞形態、細胞膜の内側の油滴を有し、Oil Red Oでポジティブ染色された。また、対照培養では、集密C2C12細胞は筋管を形成し続け、ODMおよびADM条件には影響されなかった。これらの結果により、リバーシン処理した系列決定済みC2C12筋芽細胞が、多分化能を再び獲得することが証明される。さらに、有効濃度のリバーシン(0.5〜5μM)では、有意の細胞死は観察されなかった。
【0128】
さらに、C2C12筋芽細胞から骨芽細胞または脂肪細胞への分化転換が、骨形成または脂肪生成を誘導するのに使用する条件下では観察されなかった。ODMがないと、リバーシン単独では骨形成活性は有さない。同様に、ADMが存在しないと、リバーシン単独では脂肪生成活性は有さない。これらの観察結果から、リバーシンは、骨形成系列への分化転換ではなく、C2C12細胞の脱分化を誘導することが確認される。これらの観察結果から、リバーシンが、選択的に筋芽細胞を殺すことにより前駆細胞の一定の型を単純に増やすのではなく、脱分化誘導剤として機能することも確認される。
【0129】
実施例5:C2C12のクローン解析
クローン解析を使用して、リバーシンが単一細胞レベルで脱分化を誘導することができることを証明する。C2C12細胞を、単一細胞から培養し、リバーシンで処理した。6日の処理後、各コロニーを2つの部分に分割した。1つの部分をODM中で培養し、もう1つの部分をADM中で培養した。その後、細胞を、実施例1で記述した染色アッセイ法を用いて分析した。97のコロニーのうち56が多分化能であることが決定された。
【0130】
実施例6:リバーシンの構造-活性解析
一次スクリーンデータの予備構造-活性関係(SAR)解析から、N9-Hおよびプリン環のC2位でのNH置換の両方が重要であることが明らかになった(どちらかを除去すると活性が完全に無くなることがある)。しかしながら、プリン環のC6位の1級アミンは、活性を失うことなく、様々なヘテロ原子、例えば、酸素および硫黄と置換することができ、これにより、この部位でのH-結合供与体は必要ないことが示唆される。芳香族置換基の限定基のみが、プリン環のC2位で許容され、芳香族環ではH-結合受容体が必要とされる。
【0131】
本明細書で引用した出版物および特許出願は全て、各々の出版物または特許出願が具体的におよび個別に、参照により組み入れられるように示されているかのように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0132】
前述の発明については、理解を明確にするために、説明および実施例によりやや詳しく記述してきたが、当業者であれば、本発明の教示を考慮すると、添付の請求の範囲の精神または範囲内で一定の変更および改変が可能であることは、容易に理解されると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造を有する化学式Iの化合物:

式中、
R1は、ハロゲン、C1〜4アルキル、C1〜4アルコキシ、-N(R1b、R1b)、-SO2N(R1b、R1b)、-C(O)N(R1b、R1b)および-O-アリールからなる群より独立して選択される0〜2のR1a基により置換される、水素、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキルおよびC0〜2アルキルアリールからなる群より選択されるメンバーであり、または、R1a基が隣接する環原子上に存在する場合、それらは任意で一緒になって、-O-(CH2)1〜2-O-、-O-C(CH3)2CH2-および-(CH2)3〜4-からなる群から選択されるメンバーを形成してもよく、または、R1は任意でそれに結合している窒素と一緒になって、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキル、C1〜4アルキルヒドロキシおよびC0〜2アルキルアリールで置換されてもよい複素環を形成してもよく;
各R1b基は、水素およびC1〜4アルキルからなる群より独立して選択されるメンバーであり;
R2は、水素、ハロゲンおよび-L-R3からなる群より独立して選択されるメンバーであり;
Lは、-O-、-S-および-NR4-からなる群より選択されるメンバーであり、ここで、R4はHであり、またはR4は任意でR3および両方に結合している窒素と一緒になって、C1〜4アルキルで置換されてもよい複素環を形成してもよく;
R3は、ハロゲン、C1〜4アルキル、C1〜4アルコキシ、-N(R3b、R3b)、-SO2N(R3b、R3b)、-C(O)N(R3b、R3b)および-O-アリールからなる群より独立して選択される0〜2のR3a基により置換される、C1〜4アルキル、C3〜8シクロアルキルおよびC0〜2アルキルアリールからなる群より選択されるメンバーであり、または、R3a基が隣接する環原子上に存在する場合、それらは任意で一緒になって、-O-(CH2)1〜2-O-、-O-C(CH3)2CH2-および-(CH2)3〜4-からなる群から選択されるメンバーを形成してもよく;および
各R3b基は、水素およびC1〜4アルキルからなる群より独立して選択されるメンバーである。
【請求項2】
R1が、下記からなる群より選択されるメンバーである、請求項1記載の化合物:

【請求項3】
R1が、-N(R1b、R1b)で置換されたC0〜2アルキルアリールである、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
R1が下記である、請求項3記載の化合物:

【請求項5】
R2が-L-R3である、請求項1記載の化合物。
【請求項6】
Lが-NR4-であり、ここで、R4が水素であり、R3がC3〜8シクロアルキルである、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
R3がシクロへキシルである、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
R2が下記からなる群より選択されるメンバーである、請求項1記載の化合物:

【請求項9】
化合物が下記からなる群より選択されるメンバーである、請求項1記載の化合物:


【請求項10】
化合物が下記である、請求項1記載の化合物:

【請求項11】
請求項1記載の化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項12】
系列決定済み(lineage committed)哺乳類細胞を請求項1記載の化合物と接触させ、これにより、哺乳類細胞を多分化能幹細胞に脱分化させる段階を含む、系列決定済み細胞の脱分化を誘導する方法。
【請求項13】
哺乳類細胞の多分化能幹細胞への脱分化を検出する段階をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
系列決定済み哺乳類細胞の多分化能幹細胞への分化が、系列決定済み哺乳類細胞により発現されるマーカー遺伝子の発現の喪失を検出することにより検出される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
系列決定済み細胞が筋芽細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
マーカー遺伝子が下記からなる群から選択されるメンバーである、請求項15記載の方法:Myo D、Myf 5、ミオシン、CD56、およびデスミン。
【請求項17】
筋芽細胞がマウスから単離される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
筋芽細胞が霊長類から単離される、請求項15記載の方法。
【請求項19】
霊長類がヒトである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
下記段階を含む、系列決定済み哺乳類細胞の多分化能幹細胞への脱分化を誘導する化合物を識別する方法:
(a)哺乳類細胞を、系列決定済み哺乳類細胞の脱分化を誘導すると推測される試験化合物と接触させる段階;
(b)該細胞を、多分化能幹細胞の第1の細胞型への分化を誘導する第1の細胞培養培地中で培養する段階;
(c)該細胞を、多分化能幹細胞の第2の細胞型への分化を誘導する第2の細胞培養培地中で培養する段階;
(d)細胞が第1または第2の細胞型への分化を受けたかどうかを決定する段階であって、第1の細胞型および第2の細胞型の両方への分化の誘導により、系列決定済み哺乳類細胞の脱分化を誘導する化合物として試験化合物が識別される段階。
【請求項21】
第1の細胞培養培地が骨形成を誘導し、第2の培地が脂肪生成を誘導し、
第1の細胞型が骨芽細胞であり、第2の細胞型が脂肪細胞である、
請求項20記載の方法。
【請求項22】
試験化合物が、下記からなる群より選択されるメンバーである、請求項20記載の方法:置換プリン、ピリミジン、キナゾリン、ピラジン、ピロロピリミジン、ピラゾロピリミジン、フタラジン(phthalazine)、ピリダジン、およびキノキサリン。
【請求項23】
試験化合物が2,6二置換プリンである、請求項20記載の方法。
【請求項24】
骨形成の誘導が、骨形成マーカー遺伝子の発現を検出することにより検出される、請求項21記載の方法。
【請求項25】
脂肪生成の誘導が、脂肪生成マーカー遺伝子の発現を検出することにより検出される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
骨形成マーカー遺伝子が下記からなる群より選択される、請求項24記載の方法:アルカリホスファターゼ、I型コラーゲン、オステオカルシン、およびオステオポニン(osteoponin)。
【請求項27】
脂肪生成マーカー遺伝子が下記からなる群より選択される、請求項25記載の方法:ob、Ucp、PPARγおよびC/EBP。
【請求項28】
下記段階を含む、骨疾患を治療する方法:
(a)哺乳類細胞を請求項1記載の化合物と接触させ、これにより哺乳類細胞を多分化能幹細胞に脱分化させる段階;および
(b)多分化能幹細胞を、多分化能幹細胞の骨芽細胞系列の細胞への分化を誘導する細胞培養培地と接触させる段階;および
(c)筋芽細胞系列の細胞を疾患を患う個人に投与し、これにより疾患を治療する段階。
【請求項29】
骨疾患が、欠損骨芽細胞と関連する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
投与が外科的移植による、請求項28記載の方法。
【請求項31】
哺乳類細胞が、固体支持体に付着される、請求項28記載の方法。
【請求項32】
骨疾患が骨粗鬆症である、請求項29記載の方法。
【請求項33】
固体支持体が三次元基質である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
固体支持体が平面である、請求項31記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153700(P2012−153700A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56859(P2012−56859)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【分割の表示】特願2006−539866(P2006−539866)の分割
【原出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】