説明

細胞自動分取装置及び細胞自動分取方法

【課題】少量の試料であっても精度良く自動的に細胞を分取する細胞自動分取装置を実現できるようにする。
【解決手段】細胞自動分取装置は、細胞が接着される複数の接着スポットを有するセルアレイソータ105を収容する培養部101と、接着スポットに接着された細胞を選別して除去する選別部102と、培養部101及び選別部102を制御する制御部103とを備えている。接着スポットは、刺激により細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する刺激応答性ポリマーが表面に固定されている。制御部103は、選別部102を駆動して、複数の接着スポットのそれぞれについて接着された細胞の光学的データを取得し、光学的データに基づいて細胞が、標的細胞であるか不用細胞であるかを判定し、標的細胞であると判定した細胞を選択的に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞自動分取装置及び細胞自動分取方法に関し、特にセルアレイソータを用いて所望の生細胞を選別して分取する細胞自動分取装置及び細胞自動分取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療の進歩により、損傷したり失われたりした組織又は臓器等を細胞培養により作り直したり、外部から細胞を供給することにより自己再生を促進したりする再生医療が大きな注目を集めている。また、体外に取り出した細胞に対して遺伝子の修復等を行った後、再び体内に戻す遺伝子治療も注目されている。
【0003】
このような、再生医療及び遺伝子治療を実現するためには、目的とする特定の細胞を選別し、生きたまま回収する技術が不可欠である。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、万能細胞(iPS細胞)又は未分化細胞等を採取して培養する過程においては、細胞の分化が進行したり、細胞に破損や障害が生じたりする。分化が進行した細胞及び破損又は障害が生じた細胞等を除去して、安全な万能細胞等を分取することは再生医療等を進めるために必要である。
【0004】
細胞を選別して回収する方法として、フローサイトメトリーを用いるフローセルソータ等が用いられている。フローセルソータは、フローサイトメトリーを用いて流体中に分散した細胞を1つずつセンサーの前を通過させて分析を行った後、標的となる細胞を含む液滴に電場又は磁場をかけることにより、標的細胞だけを回収する(例えば、特許文献1等を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−216992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フローセルソータは、細胞の選別精度に問題がある。自らの正常な造血幹細胞を単離し、移植することができれば、拒絶反応等を生じさせることなく白血病及び骨髄腫等を治療することが可能になると期待される。一方、フローサイトメトリー等を用いた細胞分取装置では、造血幹細胞のみを単離することは困難であり、腫瘍細胞の混入が避けられない。このため、造血幹細胞の自己移植を適用できる症例は限られている。
【0007】
また、フローサイトメトリー等を用いた装置は、一般に大型であり高価であること、試料が多量に必要であること、液滴を作成する段階で細胞に損傷を与えるおそれが高いこと、試料を直接観察できないこと等の問題も有している。
【0008】
本発明は、前記の問題を解決し、少量の試料であっても精度良く自動的に細胞を分取する細胞自動分取装置を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明は細胞自動分取装置を、セルアレイソータの接着スポットに接着された細胞の光学的データに基づいて不用細胞かどうかを自動的に判断し、不用細胞を死滅させる構成とする。
【0010】
具体的に、本発明に係る細胞自動分取装置は、細胞が接着される複数の接着スポットを有するセルアレイソータを収容する培養部と、接着スポットに接着された細胞を選別して除去する選別部と、培養部及び選別部を制御する制御部とを備え、接着スポットは、刺激により細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する刺激応答性ポリマーが表面に固定され、制御部は、選別部を駆動して、複数の接着スポットのそれぞれについて接着された細胞の光学的データを取得し、光学的データに基づいて細胞が、標的細胞であるか不用細胞であるかを判定し、標的細胞であると判定した細胞を選択的に回収する。
【0011】
本発明の細胞自動分取装置は、制御部が選別部を駆動して、複数の接着スポットのそれぞれについて接着された細胞の光学的データを取得し、光学的データに基づいて細胞が、標的細胞であるか不用細胞であるかを判定し、標的細胞であると判定した細胞を選択的に回収する。このため、精度良く且つ高速に細胞の選別を自動的に行うことができる。また、接着スポットには刺激応答性ポリマーが固定されているため、細胞の接着及び遊離を制御することができる。従って、細胞の選別後に標的細胞にダメージを与えることなく回収することができる。
【0012】
本発明の細胞自動分取装置において、刺激応答性ポリマーは、第1の温度において細胞接着性となり第2の温度において細胞非接着性となる温度応答性ポリマーであり、選別部は、複数の接着スポットから一の接着スポットを選択する選択部と、選択された接着スポットに接着された細胞の光学像を得ると共に、光源からの光を選択された接着スポットに集光する光学系と、細胞の光学像を光学的データに変換するデータ変換部とを有し、制御部は、培養部の温度を第1の温度として、接着スポットに細胞を接着させ、選別部を駆動して、接着スポットのそれぞれについて、光学的データを取得して、判定を行い、不用細胞であると判定した場合には光源からの光を照射して、不用細胞を接着スポットから選択的に除去し、不用細胞を除去した後に培養部の温度を第2の温度として、接着スポットに接着された細胞を遊離させて回収する動作を行う構成とすればよい。
【0013】
この場合において、光を照射して不用細胞の温度を上昇させて死滅させることにより、不用細胞を除去しても、光を照射して不用細胞が接着された接着スポットの温度を第2の温度とすることにより、不用細胞を除去してもよい。
【0014】
本発明の細胞自動分取装置において、刺激応答性ポリマーは、第1の温度において細胞接着性となり第2の温度において細胞非接着性となる温度応答性ポリマーであり、選別部は、複数の接着スポットから一の接着スポットを選択する選択部と、選択された接着スポットに接着された細胞の光学像を得ると共に、光源からの光を選択された接着スポットに集光する光学系と、細胞の光学像を光学的データに変換するデータ変換部とを有し、制御部は、培養部の温度を第1の温度として、接着スポットに細胞を接着させ、選別部を駆動して、接着スポットのそれぞれについて、光学的データを取得して、判定を行い、標的細胞であると判定した場合には光源からの光を照射して接着スポットの温度を第2の温度として、標的細胞を接着スポットから選択的に遊離させ、遊離した細胞を回収する動作を行う構成とすればよい。
【0015】
本発明の細胞自動分取装置において、光源はレーザ光源とすればよい。
【0016】
本発明の細胞自動分取装置において、培養部は、細胞の状態に応じて細胞を特異的に標識する標識試薬を接着スポットに接着された細胞に供給する供給部を有し、制御部は、標識の有無により判定を行えばよい。この場合において、標識試薬は、不用細胞を特異的に認識する一次抗体と、光を吸収する色素により標識され且つ一次抗体を特異的に認識する二次抗体とを含む構成とすればよい。
【0017】
本発明に係る細胞自動分取方法は、刺激に応答して細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する刺激応答性ポリマーが固定された複数の接着スポットを有するセルアレイソータを用いた細胞自動分離方法を対象とし、刺激応答性ポリマーを細胞接着性の状態として、接着スポットに細胞を接着する工程と、接着スポットに接着された細胞のうち不用細胞を選別して除去する工程と、不用細胞を除去した後、刺激応答性ポリマーを細胞非接着性の状態とすることにより接着スポットに接着された細胞を回収する工程とを備え、不用細胞を選別する工程は、複数の接着スポットのそれぞれについて、接着された細胞の光学的データを取得する工程と、光学的データに基づいて、接着された細胞が標的細胞であるか不用細胞であるかを自動的に判定する工程と、不用細胞を接着スポットから選択的に除去する工程とを含んでいる。
【0018】
本発明の細胞自動分取方法において、不用細胞を選別する工程は、不用細胞を特異的に標識する標識試薬により不用細胞を標識する工程を含み、標識の有無を光学的データに基づいて確認することにより不用細胞であるかどうかを判定すればよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る細胞自動分取装置によれば、少量の試料であっても精度良く自動的に細胞を分取することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態に係る細胞自動分取装置を示すブロック図である。
【図2】一実施形態に係る細胞自動分取装置の構成を示す模式図である。
【図3】一実施形態に係る細胞自動分取装置に用いるセルアレイソータを示す断面図である。
【図4】一実施形態に係る細胞自動分取装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図5】一実施形態に係る細胞自動分取装置に用いるセルアレイソータの変形例を示す断面図である。
【図6】一実施形態に係る細胞自動分取装置に用いるセルアレイソータの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本実施形態の細胞自動分取装置は、セルアレイソータ105に接着された細胞を培養する培養部101と、セルアレイソータ105に接着された細胞を選別する選別部102と、培養部101及び選別部102を駆動する制御部103とを有している。
【0022】
図2に示すように、培養部101は、セルアレイソータ105を収容し所定の温度に保持するチャンバー111と、チャンバー111に収容されたセルアレイソータ105に細胞浮遊液及び標識試薬等を供給する供給部112、標的細胞を回収する回収部113と、不用細胞及び使用後の試薬等を廃棄する廃棄部114とを有している。チャンバー111の上面は透明であり、上方からチャンバー111内に収容されたセルアレイソータ105を観察することができる。チャンバー111は、培地のpHを一定に保つための二酸化炭素(CO2)の導入機能及びCO2濃度の調整機能等を有している。供給部112は、標的細胞等を供給するブロックと、標識試薬等を供給するブロック等に分かれていてもよい。不用細胞は廃棄するのではなく、標的細胞とは異なる回収部により回収してもよい。また、セルアレイソータに接着されなかった余剰な細胞を回収してもよい。
【0023】
セルアレイソータ105は、図3に示すようにガラスからなる基板501の上に形成された金等からなる複数の接着スポット502を有している。接着スポット502の表面には、第1の温度において細胞接着性となり、第2の温度において細胞非接着性となる温度応答性ポリマー503が固定されている。温度応答性ポリマー503の特性は、分取する細胞の種類等に応じて適宜選択すればよいが、通常の細胞の場合には例えば第1の温度が37℃程度となり、第2の温度が25℃程度となるようにすればよい。基板501における接着スポット502を除く領域には、細胞との相互作用が小さい細胞非接着性ポリマー504が固定されている。
【0024】
選別部102は、接着スポット502に接着された細胞の光学像を結像する光学系121と、光学像を画像データ等の光学的データに変換するデータ変換部であるカメラ122と、光学系121により接着スポット502に集光されるレーザを生成するレーザ光源123と、光学系121の視野内に任意の接着スポット502を移動させる位置選択部124とを有している。本実施形態において、光学系121は蛍光顕微鏡であり、対物レンズ211と、ダイクロイックミラー212と、蛍光フィルタ213とを有している。レーザ光源123は、蛍光顕微鏡の励起光源と不用細胞を死滅させるための光源とを兼用している。レーザ光源123の出力は、光ファイバ等により光学系121に導けばよい。位置選択部124は、培養部101が搭載されたXYステージである。XYステージの分解能は接着スポットのサイズ及びピッチにもよるが数十nm〜数百nm程度あればよい。XYステージの移動速度は、数ms〜数s/ピッチとすればよく、これよりも高速であってもかまわない。
【0025】
制御部103は、培養部101及び選別部102を駆動し、チャンバー111の温度の制御、チャンバー111への細胞浮遊液及び標識試薬の供給の制御、接着スポット502に接着された細胞が標的細胞か不用細胞かの判定、不用細胞へのレーザ光照射の制御、標的細胞の回収の制御等を行う。
【0026】
以下に、本実施形態の細胞自動分取装置の動作について説明する。まず、チャンバー111内に収容されたセルアレイソータ105に、供給部112から細胞浮遊液が供給される。この際に、接着スポット502が細胞接着性となるようにチャンバー111の温度を第1の温度とする。これにより、細胞浮遊液中の細胞は、細胞接着性となっている接着スポット502に接着される。
【0027】
接着スポット502に接着された細胞を必要に応じて培養する。培養は通常は二酸化炭素(CO2)雰囲気において行う。培養の際に、供給部112から必要に応じて、培養に必要な薬液を供給したり、分化を促す試薬を供給したりしてもよい。供給部112は、供給する細胞浮遊液及び試薬の種類等に応じて複数設けられていてもよい。細胞を培養した後、供給部112から不用細胞を特異的に認識する標識試薬を供給し、不用細胞を標識する。標識試薬は不用細胞を特異的に標識できればどのようなものであってもよい。例えば、不用細胞を特異的に認識する一次抗体と、一次抗体を特異的に認識し、色素が結合された二次抗体とすればよい。
【0028】
次に、接着スポット502に接着された細胞の光学像をデータとして制御部103に取り込み、不用細胞かどうかの判定を行う。本実施形態においては、色素標識されている場合には不用細胞と判定し、色素標識されていない場合には標的細胞と判定する。具体的には蛍光顕微鏡である光学系121により接着スポット502に接着された細胞を観察し、色素による蛍光の有無により不用細胞かどうかの判定を行う。光学像を画像データへ変換するデータ変換部は、冷却CCD(Charge Coupled Device)カメラ等の撮像素子とすればよい。データ変換部を光電子増倍管等として、光子のカウントを行うことにより蛍光の有無を判定してもよい。標識の有無を観察する際には蛍光色素を励起するためにレーザ光源123の出力を低く抑え、細胞にダメージを与えないようにすればよい。
【0029】
接着スポットに接着されている細胞が不用細胞であると判定した場合には、レーザ光源123を駆動して接着スポット502に接着された細胞にレーザ光を照射する。レーザ光が標識した色素に吸収されることにより、不用細胞の温度が上昇し、不用細胞が死滅する。不用細胞を死滅させる際にはレーザ光源123の出力を高くし不用細胞の温度を大きく上昇させる。死滅した不用細胞は、接着スポット502から剥離する。
【0030】
1つの接着スポットに複数の細胞が接着されている場合もある。この場合にも、接着されている複数の細胞のそれぞれについて光学的データを取得して判定を行うことが可能である。接着スポットのサイズにもよるが、レーザ光のスポット径等を調整することにより、1つの接着スポットに接着されている複数の細胞のうちの不用細胞だけを死滅させることも可能である。また、1つの接着スポットに接着されている複数の細胞をまとめて死滅させることも可能である。
【0031】
位置選択部124を駆動して、光学的データの取り込み、不用細胞かどうかの判定及び不用細胞へのレーザ光の照射を全ての接着スポット502に対して行うことにより、セルアレイソータ105に不用細胞が接着されておらず標的細胞のみが接着された状態とすることができる。なお、光学的データの取り込み、不用細胞かどうかの判定及び不用細胞へのレーザ光の照射を接着スポットごとに連続して行う必要はなく、先に全ての又は複数個の接着スポット502に対して光学的データの取り込み及び不用細胞かどうかの判定を行った後、不用細胞と判定した接着スポット502に対してレーザ光の照射を行ってもよい。
【0032】
次に、死滅した不用細胞を洗い流した後、チャンバー111の温度を、接着スポット502が細胞非接着性となる第2の温度とし、接着スポット502に接着されている標的細胞を遊離させる。遊離させた標的細胞は回収部113に回収する。
【0033】
図4は、制御部103の構成を示している。なお、図4においては、光電子増倍管127を用いて光子をカウントすることにより蛍光の有無を判定する構成の場合を示している。制御部103は、バスライン132に接続された複数のインターフェース133、カウンティング部134及び演算部131を有している。インターフェース133を介して培養部101及び選別部102の制御を行う。また、表示部135への情報の出力及び入力部136からの操作入力を行う。選別部102に対しては、XYステージである位置選択部124の駆動、蛍光顕微鏡である光学系121の倍率切り換え及びピント調整、レーザ光源123の駆動、カメラ122の駆動及び画像データの取り込み並びに光電子増倍管127の出力の取り込み等を行う。光電子増倍管127の出力はインターフェース133を介してカウンティング部134に入力され、光子のカウントが行われる。カメラ122からの画像データ及び光子のカウント結果に基づいて、演算部131は不用細胞かどうかの判定を行う。不用細胞と判断した場合には、レーザ光源123を駆動して不用細胞に高出力のレーザ光を照射し、不用細胞を死滅させる。1つの接着スポットについて処理が終了すると、次の接着スポットが光学系121の視野内に収まるように位置選択部124を駆動する。これを繰り返し、全ての接着スポットについて選別を行う。
【0034】
本実施形態の自動細胞分取装置は、接着スポットのそれぞれについて接着された細胞が標的細胞か不用細胞かの判定を自動的に行うことができる。また、光学的な観察により標的細胞かどうかの判定を行うことができる。従って、判定の精度が高く標的細胞以外の不用細胞が混入するおそれを非常に小さくすることができる。さらに、接着スポットごとにピンポイントでレーザ光を照射することができるため、不用細胞を死滅させる際にその周囲の接着スポットに接着された標的細胞を傷つけるおそれがほとんどない。標的細胞の回収も温度を変化させるだけでよいため、回収の際に標的細胞を傷つけるおそれもほとんどない。このため、従来のフローセルソータと比べて回収効率を3倍以上向上させることができる。また、大がかりな流路を形成する必要がなく、装置を小型化でき、製造コストも大幅に低減できる。
【0035】
セルアレイソータは、数mm角〜数cm角の大きさに作成できるため、数百μlから数mlの少量の試料でも処理することができる。一方、判定する接着スポットの選択、不用細胞かどうかの判定及び不用細胞の破壊を制御部により自動的に行う。このため、セルアレイソータの基板上に数千個から数万個の接着スポットが設けられている場合にも、標的細胞の選別と回収とに要する時間を1時間程度とすることが可能である。
【0036】
本実施形態において、不用細胞を特異的に標識する例を示したが、標的細胞を特異的に標識してもよい。この場合は、標識されていない細胞にレーザ光を照射して死滅されればよい。標的細胞と不用細胞とのそれぞれに異なる標識を行ってもよい。また、抗体を用いた標識ではなく、細胞染色等により標識を行ってもよい。さらに、標識は必ずしも必要ではなく、細胞の形態の差異等により、標的細胞か不用細胞かを判定することも可能である。細胞機能の違いにより誘起される赤外又は近赤外吸収、ラマン散乱、化学発光、屈折率、細胞接着面のプラズモン吸収、細胞接着面の光熱変換効率又は酸化還元電流等の違いにより標的細胞か不用細胞かを判定してもよい。複数の判定方法を組み合わせることも可能である。
【0037】
本実施形態において、接着スポットの選択を行う位置選択部124を、培養部101が搭載されたXYステージとし、光学系121の位置を固定しセルアレイソータ105の位置を移動させる例を示した。しかし、セルアレイソータ105の位置を固定して光学系121の位置を移動させる構成としてもよい。
【0038】
光学系121は、1つの接着スポット502が視野内に収まるような倍率とすればよい。但し、複数の接着スポット502が視野内に存在するような倍率であっても、制御部103において画像処理をすることにより、接着スポット502ごとに判定を行うことができる。また、低倍率と高倍率とを切り換えられるような構成としてもよい。例えば、10倍の対物レンズと50倍の対物レンズとを切り換えられるようにし、低倍率の状態でステージの移動等を行い、高倍率の状態で詳細な観察を行えばよい。
【0039】
レーザ光源123の波長及び出力等は、目的に応じて適宜決定すればよい。レーザ光のスポットサイズは、接着スポットのサイズと一致した数十μm〜数百μm程度であればよい。また、パルスレーザとしてもよい。例えば、波長が532nmでスポット径が50μmのレーザ光を5.82mJ/pulse/cm2の強度で1秒間照射することにより、不用細胞を死滅させることができた。この際に周囲の接着スポットに接着された標的細胞の死滅は認められなかった。なお、レーザ光源123が細胞を死滅させるためのレーザ光の光源と、蛍光色素を励起するための光源とを兼ねている構成としたが、細胞を死滅させるためのレーザ光の光源と、蛍光色素を励起するための光源とを別々に設けてもよい。また、蛍光を観察する必要がない場合には、蛍光色素を励起するための光源は不用である。光学系121は、位相差顕微鏡としたり、レーザ走査型顕微鏡としたりしてもよい。
【0040】
なお、光源はレーザ光源である必要はなく、蛍光観察等の細胞の診断及び細胞を死滅させるために必要な波長と強度が得られれば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀ランプ又は発光ダイオード(LED)ランプ光源等を使用してよい。
【0041】
本実施形態においては、光の照射により不用細胞の温度を上昇させ、これにより不用細胞を死滅させて、接着スポットから不用細胞を除去する例を示した。しかし、熱により不用細胞を死滅させるのではなく、光の照射又はこれに伴う熱等により不用細胞が接着された足場が分解されることにより不用細胞が死滅するような構成としてもよい。また、不用細胞を除去できれば、死滅させなくてもよい。例えば、光の照射により接着スポットの温度を温度応答性ポリマーが細胞非接着状態となる第2の温度とし、不用細胞を接着スポットから遊離させてもよい。この場合には、温度を上昇させることにより細胞接着性から細胞非接着性へとスイッチする温度応答性ポリマーを用いればよい。また、接着スポットに、温度応答性ポリマーではなく、特定の波長の光を照射することにより細胞接着性と細胞非接着性とがスイッチする光応答性ポリマーを固定してもよい。光応答性ポリマーを用いる場合には、温度を変化させる必要がないため、低出力の光源を用いることができる。
【0042】
本実施形態においては、不用細胞を先に除去した後、標的細胞を回収する例を示した。しかし、不用細胞を固定したままにし、標的細胞の方を遊離させて回収してもよい。この場合には、標的細胞にダメージを与えない条件において細胞接着状態から細胞非接着状態へとスイッチできる温度応答性ポリマー又は光応答性ポリマー等を接着スポットに固定したセルアレイソータを用いればよい。標的細胞に光を照射することにより、標的細胞にダメージを与えることなく、標的細胞を回収することが可能となる。
【0043】
セルアレイソータ105として、基板501の上に形成された凸状の金膜である接着スポット502を有している例を示したが、図5に示すように金等からなる第1の層505に形成された開口部が接着スポット502aである構成としてもよい。図5に示すように開口部を接着スポット502aとした場合には、接着スポット内に細胞を保持することができるので、一旦接着された細胞の脱落を生じにくくすることができる。また、接着スポットからはみ出した細胞が、接着スポット以外の領域の影響を受けて変形したりすることを生じにくくすることができる。また、基板501として透明な材料を用いることにより位相差顕微鏡等による細胞の観察が可能となる。このため、接着スポット502aに接着された細胞のより詳細な形態を観察することができ、判定精度をさらに向上させることが可能となる。接着スポットを基板501の上に形成された凸部としたり、凹部としたりすることにより、接着スポットの位置を容易に決定することが可能となる。しかし、接着スポットの位置を明確にすることができれば、温度応答性ポリマー503が固定された接着スポットと、細胞非接着性ポリマー504が固定された領域とが平坦に形成されていてもよい。
【0044】
セルアレイソータ105の基板501は、例えばガラス基板等の透明な材料としても、シリコン基板等の不透明な材料としてもよい。また、プラスチック等の有機材料としてもよい。凸状の接着スポット502又は凹状の接着スポット502aを形成する材料には、金膜等を用いることができる。また、他の金属材料、ダイヤモンド様膜等の無機材料及びプラスチック等の有機材料を用いることもできる。接着スポットの直径は20μm〜500μm程度とすればよく、接着スポットはピッチが30μm〜500μm程度のマトリックス状に形成すればよい。凸状の接着スポット502の厚さは10nm〜100μm程度とすればよく、凹状の接着スポット502aの深さは10nm〜100μm程度とすればよく、形成が可能であればさらに厚く又は深くしてもよい。
【0045】
温度応答性ポリマー503は、高温において疎水性となり相分離し、低温において溶解するものであっても、低温において疎水性となり相分離し、高温において溶解するものであってもよい。高温において相分離する場合には、一般に下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)以上の温度に加熱すると白濁し、それ以下の温度に冷却すると再び溶解して透明に戻るという可逆的な相分離挙動を示す。逆に低温において相分離する場合には、上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature:UCST)以下の温度になると相分離し、上限臨界温度以上の温度に加熱すると再び溶解するという可逆的な相分離挙動を示す。下限臨界溶液温度を示す温度応答性高分子の例としては、ポリ(N−置換アクリルアミド)、ポリ(N−置換メタクリルアミド)、ポリエーテル類及びメチルセルロース等がある。上限臨界溶液温度を示す温度応答性高分子の例としては、双極性高分子であるスルホベタインポリマー等がある。目的に応じてどちらのタイプの温度応答性高分子を用いてもよい。
【0046】
より具体的には、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)に代表される、ポリ(N−アルキル(メタ)アクリルアミド)(但し、アルキル基はエチル、n-プロピル、イソプロピル、3−エトキシプロピル、イソブチル、シクロヘキシルアクリルアミド、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、アセチル、trans−(2−エトキシ−1,3−ジオキサン−5−イル、ピレニル等である。)とすればよい。
【0047】
また、ポリ(メタクリロイルD,L−アラニンアルキルエステル(但し、アルキル基はメチル、エチル、プロピル等である。)、(Nα−アセチル−Nε−メタクリルアミド−D,L−リジンメチルエステル)、ポリ(Nε−アセチル−Nα−メタクリルアミド−D,L−リジンメチルエステル、及びポリ(N−(メタ)アクリロイル−D,L−プロリン)(但し、エステルアルキル基はエチル、メチル、プロピル等である。)等のアミノ酸誘導体ポリマーとしてもよい。この場合、光学異性体のL−体及びD−体の一方であっても、D−体及びL−体の混合物であってもよい。さらにD−体とL体との繰り返し単位が形成されていてもよい。
【0048】
ポリ(ビニルカプロラクタム)、ポリビニルエーテル類、アルキルセルロース類(アルキル基はエチル、メチル、プロピル等)、ポリ(N−アルキルフマルアミド)、ポリ(エチルエチレンホスフェート)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(γ−グルタメート)、ポリ(スチレンスルホン酸塩)、ポリ(ビニルイソブチルアミド)、ポリ(ビニルカプロラクタム)、及びポリ(スルホベタイン)からなるポリマーの繰り返し単位を有する多元ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であってもよい。
【0049】
また、先に述べた種々のポリマーがN,N-メチレンビスアクリルアミド等の架橋剤によりゲル化していたり、相互貫入型ポリマーネットワークとなっていてもよい。これらのポリマーのいずれかが、コア−シェル型ポリマー構造の少なくとも一方に含まれている構造であってもよい。これらのポリマーがシリカ若しくはマイカ等の無機担体表面又はポリホスファゼンの表面にグラフト重合した構造であってもよい。これらのポリマーとヒドロキシエチルセルロース若しくはヒドロキシプロピルセルロース等のポリマー担体又は無機担体との混合物であってもよい。
【0050】
さらに、以下のような成分を共重合体成分として含んでいてもよい。アクリル酸、(メタ)アクリル3−(トリアルコキシシリル)プロピル、N−ビニルピロリドン、(3−(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリル酸メトキシトリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸アルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ヘチルヘキシル等)、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンスチレン、フマル酸アルキルエステル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等)、N−(メタ)アクリロイルスクシンイミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸塩、メタクリル酸3−スルホプロピル塩、5−メタクリロイルオキシウンデンカン酸塩、11−メタクリロイルオキシウンデカン酸塩、ウンデセン酸、金属ポルフィリン錯体、O−(メタ)アクリロイル−D,L−セリン、O−(メタ)アクリロイル−D,L−トレオニン、N−D,L−アミノ酸(メタ)クリルアミド、D,L−アミノ酸(メタ)アクリル酸エステル(但し、アミノ酸はグリシン、アラニン等である。)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリフェロセン−ブロック−ポリシロキサン、ポリフェニレンビニレン−ブロック−ポリスチレン、ポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド、ポリスチレン−ブロック−ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド−ブロック−ポリ((メタ)アクリル酸2−テトラヒドロピラニル)、ポリエチレンオキシド−ブロック−ポリプロピレンオキシド−ブロック−ポリエチレンオキシド、ポリ(L−ラクチド−starブロック−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、デキストラン−グラフト−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−N,N−ジメチルアクリルアミド)、及びポリエチルグリシジルエーテル−ブロック−ポリエチレングリコール等。
【0051】
また、温度応答性ポリマーを固定しやすくするために、末端にアミノ基又はカルボキシル基等が導入されるような開始剤を用いて重合を行ったり、共重合成分を添加して重合を行ったりしてもよい。
【0052】
温度応答性ポリマーは、細胞培養の際にコラーゲン等の細胞接着性のタンパク質及びペプチド等を補助物質として細胞を接着させる足場を形成でき、温度変化によって接着した細胞が表面から遊離する性質を有していればよい。細胞の温度応答性ポリマーからの遊離は、温度変化によるポリマー鎖の媒体への溶解性の変化、ポリマー表面の親水性と疎水性との間の変化又はポリマー表面のイオン状態の変化等により引き起こすことができる。従って、これらの少なくとも1つの変化が生じるポリマーを温度応答性ポリマーとして用いることができる。細胞が温度応答性ポリマーから遊離する際に、タンパク質及びペプチド等の細胞接着の補助物質が共に遊離してもよく、補助物質の遊離が生じなかったり、補助物質の遊離が別のタイミングで生じてもよい。また、温度応答性ポリマーも接着スポットから遊離する構成であってもよい。
【0053】
温度応答性ポリマーは、相転移温度において、培養細胞の接着あるいは増殖時には細胞が接着できる足場となる細胞接着性の状態と、細胞が遊離する細胞非接着性の状態とがシャープに変化することが好ましい。相転移温度は、標的培養細胞に応じて、細胞の接着及び増殖が効果的にできる温度域にあることが好ましい。標的細胞が一般的な細胞の場合には、相転移温度は20℃〜40℃付近とし、培養に適した37℃付近において細胞接着性の状態となるようにすることが好ましい。また、疎水性の変化により細胞の接着性を変化させる場合には、細胞が接着状態となる場合に接触角を50°〜80°程度とし、細胞が遊離状態となる場合に接触角がそれ以下となるようにすればよい。
【0054】
細胞非接着性ポリマー504は、細胞との相互作用が小さく、細胞の非特異的な接着が少ない材料であればどのような材料であってもよい。一般的に細胞は親水性の表面には接着しにくいため、細胞非接着性ポリマー504は親水性が高いポリマーが好ましい。例えば、ポリ2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の合成リン脂質系ポリマー、ポリ2−エトキシアクリレート又はポリエチレングリコール等とすればよい。合成リン脂質系ポリマーは、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの共重合体等であってもよい。ポリエチレングリコールは、ポリ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール又はポリ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールアルキルエステル等とすればよい。
【0055】
また、ポリビニルアルコールと、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸の水溶性塩、ポリアクリル酸の水溶性塩、ポリグルタミン酸の水溶性塩及びポリビニルピロリドン等のうちの少なくとも1つとからなる混合高分子の含水ゲル成型物等を用いてもよい。ポリ(MPC)等の双性構造イオンのポリマー、ポリ(O−メタクリロイル−L−セリン)等の両性イオン構造のポリマー並びにポリアクリル酸及びポリエチレンイミン等のポリイオンコンプレックスを用いてもよい。さらに、これらのポリマーセグメントに、ランダム、ブロック又はグラフト状に他の共重合セグメントが含まれている構成としてもよい。合成ポリマーに限らず細胞非接着性のタンパク質等の天然高分子を用いてもよい。さらに、親水性にするのではなく、フッ素樹脂等を用いて高撥水性の表面とすることにより細胞非接着性を実現してもよい。また、基板501又は第1の層505がチタン合金又は酸化チタン等の細胞非接着性の材料からなる場合には、細胞非接着性ポリマー504を用いなくてもよい。
【0056】
温度応答性ポリマー503及び細胞非接着性ポリマー504の固定は、既知の方法により行えばよい。例えば、2官能性又は3官能性以上のリンカーを用いて固定すればよい。温度応答性ポリマー503又は細胞非接着性ポリマー504をガラス又はシリコン等の表面に固定する場合には、リンカーとしてω−アミノプロピルテトラアルコキシシラン等のシランカップリング剤を用いればよい。シランカップリング剤の有機官能基は固定するポリマーの種類に応じて適宜選択すればよい。シランカップリング剤を予めガラス等の表面に固定した後、ポリマーとカップリングさせても、予めシランカップリング剤をポリマーとカップリングさせた後、ガラス等の表面に固定してもよい。
【0057】
金膜等の表面にポリマーを固定する場合には、チオール基を有するジチオビススクシニミジルウンデカノエート(DSU)等をリンカーとして用いればよい。この場合にも、リンカーを予め金膜等の表面に固定した後、ポリマーをカップリングさせても、ポリマーとリンカーとを予めカップリングさせた後、金膜等の表面に固定してもよい。また、ポリマーの末端にチオール基を導入し、導入したチオール基と金膜等を反応させてもよい。
【0058】
予め形成したポリマーを固定するのではなく、リンカー等を用いてガラス又は金膜等の表面に重合開始剤を固定し、固定した重合開始剤を用いてモノマーを重合して温度応答性ポリマー又は細胞非接着性ポリマーを形成してもよい。
【0059】
さらに、ポリマーは共有結合により基板又は金膜等の表面に固定されている必要はなく、アミノ基とカルボキシル基との間等に生じるイオン結合又は疎水結合等により固定されていてもよい。
【0060】
接着スポットに温度応答性ポリマーが固定されたセルアレイソータについて説明したが、標的細胞にダメージを与えることなく接着スポットから遊離させることができればよく、温度以外の他の刺激に応答する刺激応答性ポリマーを接着スポットに固定してもよい。例えば、特定波長の光を照射することにより細胞接着性と細胞非接着性とがスイッチする光応答性ポリマーを用いることも可能である。光応答性ポリマーとしては、ポリ(2−N−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−co−メタクリル酸メチル)鎖に銅クロロフィリン錯体を三元共重合したポリマー等がある。光応答性ポリマーは、温度応答性ポリマーと同様の方法で接着スポットに固定することができる。また、pH又はイオン強度等に応答するポリマーであってもよい。接着スポットに熱又は光等の刺激により細胞接着性と細胞非接着性とがスイッチするポリマーを固定するのではなく、刺激により接着スポットの表面から剥離するポリマー等を介して細胞接着性のポリマーを固定してもよい。また、刺激により切断される部位が導入されており、刺激により接着スポットから剥離する細胞接着性のポリマーを固定してもよい。このような構成であっても、標的細胞にダメージを与えることなく、接着スポットから標的細胞を回収することができる。
【0061】
本実施形態の細胞自動分取装置は、セルアレイソータへの細胞の播種、細胞の培養、不用細胞の標識、細胞の選別及び細胞の回収の全ての操作を自動的に行う。しかし、細胞の選別操作以外の操作は手作業又は別の装置により行ってもよい。細胞の選別操作のみを行う場合には、細胞の培養が必要ないため、チャンバー111はセルアレイソータ105の温度を第1の温度に保持できればよく、セルアレイソータ105の下部に配置したヒータ等とすることができる。また、図6に示すようにセルアレイソータ105を、それぞれの接着スポット502の下側にヒータ506が埋め込まれている構成としてもよい。この場合には、レーザ光に代えて接着スポット502の下側に埋め込まれたヒータ506により不用細胞を加熱して、不用細胞を死滅させてもよい。また、不用細胞を死滅させるのではなく、接着スポットから遊離させることにより除去してもよく、標的細胞の方を選択的に遊離させて回収してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る細胞自動分取装置は、少量の試料であっても精度良く自動的に細胞を分取することができ、特に幹細胞及び万能細胞等を選別して自動的に分取する細胞自動分取装置等として有用である。
【符号の説明】
【0063】
101 培養部
102 選別部
103 制御部
105 セルアレイソータ
111 チャンバー
112 供給部
113 回収部
114 廃棄部
121 光学系
122 カメラ
123 レーザ光源
124 位置選択部
127 光電子増倍管
131 演算部
132 バスライン
133 インターフェース
134 カウンティング部
135 表示部
136 入力部
211 対物レンズ
212 ダイクロイックミラー
213 蛍光フィルタ
501 基板
502 接着スポット
502a 接着スポット
503 温度応答性ポリマー
504 細胞非接着性ポリマー
505 第1の層
506 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が接着される複数の接着スポットを有するセルアレイソータを収容する培養部と、
前記接着スポットに接着された細胞を選別して除去する選別部と、
前記培養部及び選別部を制御する制御部とを備え、
前記接着スポットは、刺激により細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する刺激応答性ポリマーが表面に固定され、
前記制御部は、
前記選別部を駆動して、前記複数の接着スポットのそれぞれについて接着された細胞の光学的データを取得し、
前記光学的データに基づいて前記細胞が、標的細胞であるか不用細胞であるかを判定し、前記標的細胞であると判定した細胞を選択的に回収することを特徴とする細胞自動分取装置。
【請求項2】
前記刺激応答性ポリマーは、第1の温度において細胞接着性となり第2の温度において細胞非接着性となる温度応答性ポリマーであり、
前記選別部は、
前記複数の接着スポットから一の接着スポットを選択する選択部と、
選択された前記接着スポットに接着された細胞の光学像を得ると共に、光源からの光を選択された前記接着スポットに集光する光学系と、
前記細胞の光学像を前記光学的データに変換するデータ変換部とを有し、
前記制御部は、
前記培養部の温度を前記第1の温度として、前記接着スポットに細胞を接着させ、
前記選別部を駆動して、前記接着スポットのそれぞれについて、前記光学的データを取得して、前記判定を行い、前記不用細胞であると判定した場合には前記光源からの光を照射して、前記不用細胞を前記接着スポットから選択的に除去し、
前記不用細胞を除去した後に前記培養部の温度を前記第2の温度として、前記接着スポットに接着された細胞を遊離させて回収する動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の細胞自動分取装置。
【請求項3】
光を照射して前記不用細胞の温度を上昇させて死滅させることにより、前記不用細胞を除去することを特徴とする請求項2に記載の細胞自動分取装置。
【請求項4】
光を照射して前記不用細胞が接着された接着スポットの温度を前記第2の温度とすることにより、前記不用細胞を除去することを特徴とする請求項2に記載の細胞自動分取装置。
【請求項5】
前記刺激応答性ポリマーは、第1の温度において細胞接着性となり第2の温度において細胞非接着性となる温度応答性ポリマーであり、
前記選別部は、
前記複数の接着スポットから一の接着スポットを選択する選択部と、
選択された前記接着スポットに接着された細胞の光学像を得ると共に、光源からの光を選択された前記接着スポットに集光する光学系と、
前記細胞の光学像を前記光学的データに変換するデータ変換部とを有し、
前記制御部は、
前記培養部の温度を前記第1の温度として、前記接着スポットに細胞を接着させ、
前記選別部を駆動して、前記接着スポットのそれぞれについて、前記光学的データを取得して、前記判定を行い、前記標的細胞であると判定した場合には前記光源からの光を照射して前記接着スポットの温度を前記第2の温度として、前記標的細胞を前記接着スポットから選択的に遊離させ、遊離した細胞を回収する動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の細胞自動分取装置。
【請求項6】
前記光源は、レーザ光源であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の細胞自動分取装置。
【請求項7】
前記培養部は、細胞の状態に応じて細胞を特異的に標識する標識試薬を前記接着スポットに接着された細胞に供給する供給部を有し、
前記制御部は、前記標識の有無により前記判定を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞自動分取装置。
【請求項8】
前記標識試薬は、前記不用細胞を特異的に認識する一次抗体と、前記光を吸収する色素により標識され且つ前記一次抗体を特異的に認識する二次抗体とを含むことを特徴とする請求項7に記載の細胞自動分取装置。
【請求項9】
刺激に応答して細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する刺激応答性ポリマーが固定された複数の接着スポットを有するセルアレイソータを用いた細胞自動分離方法であって、
前記刺激応答性ポリマーを細胞接着性の状態として、前記接着スポットに細胞を接着する工程と、
前記接着スポットに接着された細胞のうち不用細胞を選別して除去する工程と、
前記不用細胞を除去した後、前記刺激応答性ポリマーを細胞非接着性の状態とすることにより前記接着スポットに接着された細胞を回収する工程とを備え、
前記不用細胞を選別する工程は、
複数の前記接着スポットのそれぞれについて、接着された細胞の光学的データを取得する工程と、
前記光学的データに基づいて、接着された細胞が標的細胞であるか前記不用細胞であるかを自動的に判定する工程と、
前記不用細胞を前記接着スポットから選択的に除去する工程とを含んでいることを特徴とする細胞自動分取方法。
【請求項10】
前記不用細胞を選別する工程は、
前記不用細胞を特異的に標識する標識試薬により前記不用細胞を標識する工程を含み、
標識の有無を前記光学的データに基づいて確認することにより前記不用細胞であるかどうかを判定することを特徴とする請求項9に記載の細胞自動分取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−165699(P2012−165699A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29826(P2011−29826)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(392030184)エステック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】