細胞融合装置及びそれを用いた細胞融合方法
【課題】
抗体産生細胞をできる限り無駄無く細胞融合させ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行う細胞融合装置とそれを用いた融合確率の高い細胞融合方法を提供する。
【解決の手段】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置及びそれを用いた細胞融合方法を用いる。
抗体産生細胞をできる限り無駄無く細胞融合させ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行う細胞融合装置とそれを用いた融合確率の高い細胞融合方法を提供する。
【解決の手段】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置及びそれを用いた細胞融合方法を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞融合を効率的に行うための細胞融合装置とそれを用いた細胞融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、異なる細胞同士を融合させ1つの交雑細胞とする細胞融合技術として、主にポリエチレングリコール(PEG)を用いて2つの細胞膜の流動性を高めて細胞融合する化学的融合法が用いられているが、この方法では(i)PEGは細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため細胞融合確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。
【0003】
これに対して、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく融合させることができ、細胞に与える毒性がなく、高活性をもったままの状態で細胞を融合させることができるという利点がある。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果、細胞融合が起こるものである。
【0004】
上記の電気的融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられているが、このうち微小電極法は、2細胞一対の融合を顕微鏡を見ながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて確実ではあるが、手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が融合するため化学的融合法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。
【0005】
また、一般的な細胞融合は、目的とする抗体を産生するが増殖能の無い抗体産生細胞と、抗体は産生しないが極めて増殖能のある癌細胞を細胞融合させ、目的とする抗体を産生しかつ極めて増殖能のある融合細胞により抗体を工業的に生産する目的で行われる。ここで、通常抗体産生細胞の直径は数〜6μm前後の大きさであり、癌細胞の直径は10μm前後の大きさのものが多く、この直径の異なる2種の細胞を細胞融合させる際に、2種の異なった細胞同士が接触する確率を上げ、すなわち融合確率を上げるために、直径の小さい抗体産生細胞の数を、直径の大きい癌細胞の数よりも多く導入し細胞融合させている。実際逆に、直径の小さい抗体産生細胞の数を、直径の大きい癌細胞の数よりも少なく導入し細胞融合させた場合は、融合細胞はほとんど得られない。すなわち、上記従来の化学的細胞融合法及び電気的細胞融合法は、一般に、抗体産生細胞の数よりも癌細胞の数を2倍〜10倍程度導入し細胞融合していた。しかしながら、このような細胞の導入を行うと、本来、抗体産生能力を有する抗体産生細胞の約半分〜90%程度が無駄になってしまうという課題があった。なお、一般に抗体産生細胞は脾臓より取り出されることから脾臓細胞といわれることもある。また、一般に癌細胞はミエローマ細胞といわれることもある。
【0006】
前述した平行電極法の課題を解決するために、細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した微細孔を有する絶縁体とよりなる細胞融合用チャンバーの例が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図1は上記例の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。図1において、例えば樹脂材からなる細胞融合用チャンバーの細胞融合領域(1)の両側には、導電部材からなる電極(2)が配置され、これら電極は導電線(3)を介して外部に設けられた電源(4)と接続されている。外部に設けられた電源は電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHz程度の高周波交流電圧を出力する交流電源(5)と、約7kV/cm、パルス幅50μsec程度の直流パルス電圧を出力する直流パルス電源(6)と、電極と交流電源又は直流パルス電源の電気的接続を切替える為のスイッチ(7)とから構成されている。
【0008】
ここで、交流電源から出力する交流電圧の波形は、特に断りがない限りは一般に正弦波の波形を用いる。細胞融合用チャンバーは、電気的に絶縁な材料、例えばシリコーン樹脂からなる絶縁体(8)により2つの空間に区分けされている。ここで、絶縁体には最小口径が1μm〜数十μmの微細孔(9)が設けられている。また、細胞A(10)及び細胞B(11)はそれぞれ細胞融合用チャンバーの細胞融合領域内の細胞懸濁液内におかれている。
【0009】
上記例の動作を図2〜図4を用いて説明する。最初に、電源(4)の切替えスイッチ(7)を電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHzの高周波電圧を出力する交流電源(5)に接続させる。この状態において電気力線(12)は、図2に示すように微細孔(9)に集中する。細胞A(10)および細胞B(11)は、ここに集中する電気力線(12)のため誘電泳動力を受け、図3に示すように微細孔(9)の中心付近に固定される。ここで細胞A(10)と細胞B(11)は出会い接触する。次に、電源(4)の切替えスイッチ(7)を直流パルス電源(6)に切替える。図3に示した状態におかれた細胞A(10)及び細胞B(11)は、直流パルス電圧により細胞A(10)および細胞B(11)の接触点で細胞膜の可逆的破壊が起こり、図4に示すように融合が生ずる。このようにすることで、微細孔において細胞Aと細胞Bを2細胞一対で細胞融合させることができる。
【0010】
しかしながら、前記特許文献1に記載された細胞融合チャンバーを用いて細胞融合を行う方法は、前記微細孔において2細胞一対を同時に固定することが難しいという課題があった。例えば、細胞Aを微細孔に入れた後、さらに細胞Bを微細孔に入れるために細胞融合用チャンバー内に細胞Bを含有する細胞懸濁液を導入すると、導入する際の送液により、あらかじめ微細孔に固定しておいた細胞Aが微細孔から脱離してしまう。また、細胞Aと細胞Bを同時に微細孔に固定するには細胞懸濁液の送液に熟練を要し非常に困難であった。さらに、前記特許文献1に記載された方法により、複数の細胞を同時に細胞融合させるためには、例えば、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に、ほぼ同時に2細胞を一対ずつ固定する必要がある。ここでアレイ状とは、複数の微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。しかしながら、交流電源を接続して細胞を微細孔に固定する際に、複数の細胞が集中して固定される微細孔や、細胞が全く固定されない微細孔があり、複数のアレイ状に形成された微細孔で目的とする2細胞一対の細胞融合を行うことが非常に難しいという課題があった。
【0011】
一方、アレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ細胞を固定する方法の例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2記載の方法は、微細孔(特許文献2では、マイクロウエルと記載されている)の内径と深さがそれぞれ細胞(特許文献2では、被検体リンパ球と記載されている)の直径の1〜2倍の大きさの複数の微細孔に、複数の細胞を含む液を微細孔を覆うように加え、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と、微細孔外の細胞を洗い流す洗浄の過程を繰り返し行うことで1つの微細孔に1つの細胞を固定している。
【0012】
しかしながら、前記特許文献2に記載された方法により1つの微細孔に1つの細胞を固定する方法は、重力により細胞が沈むのを待つ時間が5分程度と長いこと、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と微細孔外の細胞を洗い流す洗浄過程を繰り返す必要があり操作が煩雑な上さらに時間を要すること、微細孔に入らなかった細胞を洗い流す過程で細胞が失われる可能性があるため、細胞すべてを有効に使用することが難しいという課題があった。一般に、細胞融合を行う場合は、細胞の活性を維持するためにその処理時間はできる限り短いことが好ましく、また、細胞1つ1つが持つ特異性を見出すためには、できる限り細胞の喪失がないことが好ましい。
【0013】
上記従来の技術における問題点や課題を解決するために、本発明者らは、後述する比較例1に示したように、細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極方向に貫通した複数の微細孔を有する絶縁体を有し、前記絶縁体が、前記電極のうちどちらか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合装置を用い、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に第1の細胞を固定した後、第2の細胞を導入して、前記第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加することで細胞融合する方法を検討した。本検討において、融合させる細胞の大きさに対して微細孔の大きさを最適化し、細胞を微細孔に固定する際に印加する交流電圧の波形の形状を最適化することで、アレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を極めて容易に固定できることを見出し、2細胞1対を融合させ、1/10000の融合確率を得た。これは、通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の5倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0014】
しかしながら、微細孔への細胞固定率は20%程度であり、微細孔への細胞固定率が非常に低いという課題があった。固定率を高める手段の一つとして、細胞を微細孔に固定するための交流電圧を長時間印加(例えば10分以上)する方法がある。これにより微細孔への細胞固定率は若干向上するものの、細胞に長時間電圧を印加するため細胞へのダメージが大きく、細胞の活性が低下したり、細胞が死滅する割合が高くなり、結果として融合確率が低くなってしまうという問題があった。
【0015】
従って、アレイ状に配置した微細孔への細胞の固定を短時間(例えば、数秒程度)で行い、また微細孔への細胞固定確率を飛躍的に高めることが課題となっていた。
【0016】
【特許文献1】特公平7−4218号公報
【特許文献2】特許第3723882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、アレイ状に配置した微細孔への細胞固定を短時間で行い、かつ微細孔への細胞固定確率を飛躍的に高め、抗体産生細胞をできる限り無駄無く細胞融合させ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行う細胞融合装置とそれを用いた融合確率の高い細胞融合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題を解決するものとして、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を切替えて印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状である細胞融合装置と、前記細胞融合装置を用い、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする細胞融合方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状である細胞融合装置である。
【0020】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状が四辺形である細胞融合装置である。
【0021】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状である細胞融合装置である。
【0022】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径未満である細胞融合装置である。
【0023】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ前記微細孔の深さが、前記微細孔に固定する細胞の直径以下である細胞融合装置である。
【0024】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体の表面が親水性である細胞融合装置である。
【0025】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源が、前記一対の電極に交流電圧を印加するための前記交流電源及び前記直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切替える切替え機構を有する細胞融合装置である。
【0026】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加される上記記載の細胞融合装置である。
【0027】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加される上記記載の細胞融合装置である。
【0028】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形である上記記載の細胞融合装置である。
【0029】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である上記記載の細胞融合装置である。
【0030】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である細胞融合装置である。
【0031】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の水平面においてアレイ状に形成されている上記記載の細胞融合装置である。
【0032】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣合ういずれの微細孔の中心位置からも微細孔の中心位置が同じ位置に形成されている上記記載の細胞融合装置である。
【0033】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である上記記載の細胞融合装置である。
【0034】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有する上記記載の細胞融合装置である。
【0035】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有する上記記載の細胞融合装置である。
【0036】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする細胞融合方法である。
【0037】
また本発明の細胞融合方法は、前記第1の細胞が脾臓細胞であり、前記第2の細胞が癌細胞であることを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0038】
また本発明の細胞融合方法は、細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第1の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、細胞融合する事を特徴とする上記記載の細胞融合方法であって、前記細胞膜の流動性を高める物質が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0039】
また本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合領域内に前記第1の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に前記第2の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、前記切替え機構により、前記電源を前記交流電源から前記直流パルス電源に切替え、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0040】
図5に本発明の細胞融合装置の概念図を示す。本発明の細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。
【0041】
細胞融合容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、微細孔(9)を形成した絶縁体(8)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であればとくに制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、細胞融合を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0042】
上部電極と下部電極の面積には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。
【0043】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞懸濁液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路とそれに連通する導入口(17)と、細胞を排出する排出流路とそれに連通する排出口(18)が設けられていてもよい。スペーサーのサイズは上部電極と下部電極が接触しなければ特に制限はないが、前記電極に合わせたサイズが好ましい。例えば、電極サイズが縦70mm×横40mm程度であれば、スペーサーのサイズは例えば縦40mm×横40mm程度が好ましい。細胞融合領域(1)を形成するスペーサーの内側の空間と厚みも特に制限はないが、細胞懸濁液を例えば数μL〜数mL程度入れる容量があればよく、例えば、スペーサーのサイズが縦40mm×横40mm程度の場合、スペーサーの内側の空間は、縦20mm×横20mm程度であればよく、スペーサーの厚みは0.5〜2.0mm程度であればよい。ここで、細胞の懸濁液とは、マンニトールやグルコース、スクロース等の糖類の水溶液及びその水溶液に塩化カルシウムや塩化マグネシウムなどの電解質やBSA(ウシ血清アルブミン)等のタンパク質を含有した水溶液に融合させる細胞を含有させた懸濁液を意味する。
【0044】
絶縁体(8)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。
【0045】
また、絶縁体の材質は、細胞を絶縁体に形成した微細孔に引き寄せて固定することから、細胞と親和性のある材質が好ましく、一般的に、細胞の表面が親水性であることから、絶縁体の表面が親水性であることが好ましい。ここで親水性とは、細胞融合を行う際に用いる細胞の懸濁液もしくは純水の親和性が高いことを意味し、一般的には、絶縁体の表面に前記懸濁液もしくは純水を滴下したときに形成される液滴と前記絶縁体の表面との接触角で示される(接触角が小さいほど絶縁体の表面と細胞懸濁液もしくは純水との親和性が高く、すなわち、細胞との親和性が高い)。親水性の比較的高い絶縁膜としては、ガラスや酸化チタン等があり、これらの材料を絶縁体として用いればよい。あるいは、樹脂等の親水性の低い材料を前記絶縁体に用いる場合は、親水化処理することにより絶縁体の表面を親水性に改質すればよい。ここで、絶縁体の表面を親水化処理する方法としては、既知の技術であるプラズマ処理、化学修飾、タンパク質の物理吸着などによる修飾、或いはこれらの方法を任意に組み合わせた方法などを用いればよい。
【0046】
ここで、絶縁体の表面のプラズマ処理とは、電子・イオン・ラジカルなどの活性種が存在する電気的に中性な電離気体(プラズマ)を絶縁体の表面に照射することにより、絶縁体の表面における有機汚染物の除去や化学結合状態を変化させ、絶縁体の表面を改質する処理である。プラズマ処理には、非重合性ガス(Ar、O2など)を用いるプラズマ表面処理と有機モノマーを用いて絶縁体の表面を高分子薄膜でコーティング処理するプラズマ重合がある。プラズマ表面処理は、Arなどの非反応性ガスによる表面架橋層の形成、O2などの反応性ガスによる官能基の導入などがあり、酸素プラズマ処理により−COOHや−COを導入し、絶縁体の表面の親水性を向上させることで細胞との親和性を高めることが可能である。
【0047】
また、絶縁体の表面の化学修飾とは、水酸基やカルボキシル基、アミノ基、スルホン基などの親水基を有する誘導体やシランカップリング剤などを絶縁体の表面へ結合させることで親水化する方法である。シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に親水性を示す反応基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基など)と、疎水性を示す(ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基など)の2種以上の異なった反応基を有している。そのため、シランカップリング剤の希薄溶液に疎水性の絶縁体を浸漬すれば、疎水性を示す反応基が疎水性の絶縁体の表面に化学的に結合し、親水性を示す反応基が絶縁体の表面を覆うため、絶縁体の表面を均一に親水化することが可能である。
【0048】
さらに、BSA(ウシ血清アルブミン)などのタンパク質含有溶液に絶縁体を数分〜数時間を浸漬することで、タンパク質を物理吸着させ、絶縁体の表面を親水化することができる。
【0049】
また親水性の評価方法としては、以下に記載する一般的な手法を用いた。すなわち、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定することによって絶縁体の表面の親水性を評価した。ここで、一般的に親水性の厳密な定義はないが、本発明における親水性とは、前記接触角が45°以下、好ましくは30°以下であると定義する。
【0050】
樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。なお図6は、図5の細胞融合容器のA−A’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図6のように貼り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより張り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図6に示した細胞融合領域(1)を形成することができる。
【0051】
細胞容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は交流電圧の波形を上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に印加する交流電源と、細胞融合させるための直流パルス電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する直流パルス電源から構成されており、交流電源と直流パルス電源は、切替えスイッチ等の切替え機構により適宜切替えて使用することができる。ここで、本発明における細胞融合方法において、化学的細胞融合法を適用する場合は交流電源のみを用いて細胞融合を実施すればよく、電気的細胞融合法を適用する場合は、交流電源を用いて2細胞を接触させた後、前記切替え機構により交流電源からパルス電源に切替えて融合電圧を発生させて細胞融合を実施すればよい。
【0052】
また本発明の細胞融合装置は、前述した絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、絶縁体の水平面において、隣合ういずれの微細孔の中心位置からも微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていること、例えば絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じる。また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従ってより具体的には、微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れ固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1倍以上2倍以下程度であることがより好ましい。
【0053】
以下では、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するための交流電圧の波形と微細孔の形状に関して説明する。
【0054】
本発明の細胞融合装置は、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するため、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形である細胞融合装置であって、好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である波形であり、さらに好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である波形の交流電圧を印加する電源からなる細胞融合装置ある。
【0055】
また、本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状が、少なくとも1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置であって、好ましくは前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする細胞融合装置である。また、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径未満であるか、あるいは、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が前記微細孔に固定する細胞の直径の1以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが前記微細孔に固定する細胞の直径の以下であることを特徴とする細胞融合装置であり、また更に好ましくは前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である細胞融合装置である。
【0056】
まず、交流電圧の波形について、図を用いてさらに説明する。
【0057】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返すことが可能であれば特に制限はなく、図7にこの態様の交流電圧の波形の一例を示す。図7の交流電圧の波形の半周期であるT/2ごとに前記細胞の充電と放電が繰り返される。なお図7の場合、半周期ごとに電圧の極性の正と負が反転するため、半周期ごとに前記細胞が充電されたときに電荷の極性が正と負に反転する。
【0058】
なお、本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により細胞を微細孔に固定することが困難になること、また細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0059】
また、より具体的には、本発明の細胞融合装置に用いる前記交流電圧の波形は、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形である。図7におけるS[s]が電圧が一定時間変化しない時間である。本発明では、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間S[s]が細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]以上であることが好ましいことから、S>τ(=C×R)の関係であることが好ましい。
【0060】
なお、本発明における交流電圧の波形は図7に示す波形のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。例えば、交流電圧の波形が、矩形波(図8)、台形波(図9)、またはこれらを組み合わせた波形(図10)であってもよい。また、印加する電圧値や周波数は、細胞融合容器の電極間距離や、融合対象となる細胞の種類や大きさ、細胞を含有する細胞懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。例えば、細胞融合容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、融合対象の細胞が直径10μm程度の細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞の静電容量は一般に1pF程度、面積2cm×2cm程度、電極間距離1mm程度の細胞融合容器に300mMのマンニトール水溶液を入れたときの抵抗値が5kΩ程度であることから、細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]は5nsとなる。従って電極間に印加する交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が少なくとも5nsだけ変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する交流電圧波形であることが好ましい。例えば、図8に示した矩形波交流電圧波形を用いた場合、Sの時間が5nsより長くなる、すなわち、周波数が100MHz(=1/(2×5ns))未満であることが好ましく、さらには電気的な取り扱いのしやすさや市販の信号発生器で容易に扱うことができることを考慮すると、周波数は1〜3MHz程度の矩形波交流電圧波形が好ましい。またこの場合の矩形波交流電圧波形の電圧は、微細孔に細胞を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔に細胞が引き寄せられる時間は1〜5秒程度であり、瞬時に細胞を微細孔に固定することができる。
【0061】
次に、上記態様の交流電圧の波形と上記態様の微細孔を用いた場合に、1つの微細孔につき1つの細胞が固定される理由を図11〜図21を用いて説明する。
【0062】
図11〜図13には本発明の細胞融合装置において、微細孔に細胞が入る過程の概念図を示した。絶縁体(8)の厚みは細胞A(10)及び細胞B(11)の直径とほぼ等しく、微細孔の内径は細胞A及び細胞Bの直径の1〜2倍の範囲であり、図12に示すように微細孔A(19)に細胞Aが入った後、図13に示すように微細孔B(20)に細胞Bが入る場合を想定している。図14〜図16には、それぞれ図11〜図13を電気的な等価回路で表現した図を示した。細胞を含有する細胞懸濁液は抵抗(抵抗値:5kΩ)、細胞はコンデンサー(容量:1pF)で表現することができる。
【0063】
図17に示す、周波数f[Hz]の矩形波形の交流電圧を印加すると、微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が微細孔に引き寄せられ、微細孔Aに細胞Aが固定され細胞Aが微細孔Aを塞ぐ。なお細胞は誘電泳動力以外にも重力及び電極からの静電気力によっても微細孔に誘導される。細胞Aで塞がれた微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーA(21)と電気的に等価となる。図17に示す電圧波形を印加した場合、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を図18、電流波形を図19に示す。図18のようにコンデンサーAは細胞Aの容量C[F]と細胞を含む細胞懸濁液の抵抗値R[Ω]の積で求められる時定数τ[s](=C×R)の時間を要して充電される。
【0064】
なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下が好ましいことから、τ<1/2fを満たす周波数の矩形波交流電圧を用いる事が好ましい。コンデンサーAが充電されると電流は流れなくなるため、図19に示すように、コンデンサーAに流れる電流は、時定数τの時間だけパルス状に電流が流れるものの、その後は電流が流れなくなり絶縁体と電気的に等価になる。このため細胞Aの入った微細孔Aでは、電気力線の集中が生じなくなり、微細孔Aが新たに細胞を引き寄せる確率は低くなる。一方、微細孔Bには電気力線の集中が生じているため、細胞Bが誘電泳動力により引き寄せられ微細孔Bに細胞Bが固定され細胞Bが微細孔Bを塞ぐ。これを繰り返すことにより、空の微細孔につぎつぎと細胞が入っていくことで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。
【0065】
なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下である場合、図15におけるコンデンサーAが十分充電されないため、コンデンサーAに電流が流れ続け、細胞Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ電気力線の集中が生じる。よって、細胞Bは細胞Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。
【0066】
次に、図20に示す周波数f[Hz]の正弦波形の交流電圧を印加すると、微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が誘電泳動力により微細孔に引き寄せられ、細胞Aが微細孔Aを塞ぐ。細胞Aが塞いだ微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーAと等価となる。図20に示す電圧波形を印加した場合、コンデンサーAにおける電圧波形と電流波形を図21に示す。図21に示すように印加する交流電圧の波形が正弦波の場合は、正弦波の位相が90度すすむだけで、正弦波の波形は変化しないため、細胞Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ、電気力線の集中が生じる。このため、細胞Bは細胞Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。従って、正弦波や三角波のように常に電圧が連続的に変化する交流電圧の波形では、複数の細胞が集中して固定される微細孔と、細胞が全く固定されない微細孔があり、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが難しい。なお、印加する電圧が直流の場合は、細胞を含有する細胞懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となる。
【0067】
次に、微細孔の形状について、図を用いてさらに説明する。
【0068】
前述したように、微細孔の内径が細胞の直径より大きいと、細胞は微細孔を十分塞ぐことができず、電気力線の集中が発生し細胞が誘電泳動力により引き寄せられるため、1つの微細孔に2以上の細胞が入る確率が高くなる。2以上の細胞を微細孔に固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の直径が微細孔に固定する細胞の直径よりも大きくてもよい。しかしながら、1つの微細孔に1つの細胞を固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する細胞の直径未満であるか、もしくは微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが微細孔に固定する細胞の直径の以下であることが好ましい。図22に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する細胞の直径未満の場合は、第1の細胞(22)が微細孔の中に入らず、微細孔が形成される絶縁体の表面上に固定されるため、第2の細胞(23)は微細孔の深さにかかわらず前記第1の細胞と接触するので微細孔の深さに特に制限はない。一方、図24に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲である場合は、前記第1の細胞が微細孔の中に入るため、微細孔の深さが前記第1の細胞の直径より大きいと、前記第2の細胞が前記第1の細胞と接触できない場合があるため、図23に示すように微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲である場合は微細孔の深さは微細孔に固定する細胞の直径以下であることが好ましい。
【0069】
また、本発明の細胞融合装置は、前記微細孔(9)の平面形状が、少なくとも1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置であって、さらには、前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする細胞融合装置である。ここで、角とは微細孔の形状を構成する2辺が鋭角あるいは鈍角で交わる部分であり、角の先端が若干丸みを帯びた形状も含む。図26に、微細孔の平面形状が少なくとも1以上の角を有する代表的な形状を示した。また、四辺形とは、前記微細孔の形状が前記角を4つ有しており、前記4つの角は、角の先端が若干丸みを帯びた形状なども含む。また、4本の辺は直線であってもよいし、4本全ての辺あるいは4本のうち任意の辺が微細孔の中心あるいは外側に向かって湾曲あるいは屈曲していてもよい。図27に、本発明における四辺形の微細孔の形状の代表的な例を示した。
【0070】
上述したように、微細孔の平面形状の一部に角が存在していれば、前記角の部分において電気力線の集中が生じ誘電泳動力が強くなり、より強い誘電泳動力で細胞が引き寄せられる結果、細胞が微細孔に固定される確率が向上する。さらに、角は微細孔に少なくとも1箇所存在すればよいが、複数存在していた方がより好ましい。しかしながら、角の形状は鈍角よりも鋭角の方が電気力線の集中が生じやすく誘電泳動力が強いため、五角形以上の多角形よりも四角形以下の多角形の方がより好ましい。また、四角形であれば特に制限はなく、例えば図27に示すように台形や菱形、平行四辺形などの態様があるが、四辺形の微細孔の形状が4つの角を結ぶ辺の長さが4本ともほぼ等しく、微細孔の中心において90度の角度で点対称であれば、四辺形の微細孔の4つの辺に生じる誘電泳動力が4つとも等しく、4つの角に生じる誘電泳動力も4つとも等しくなり、微細孔の方向によらず微細孔の誘電泳動力の分布が点対称となるため、微細孔に対する細胞の位置によらず、偏りの少ない誘電泳動力を作用させることが可能となるため、微細孔の形状は図27の(a)〜(d)のような正方形あるいは正方形に近い形状であることがより好ましい。図5には、微細孔の形状が正方形の場合の本発明における細胞融合装置の一例を示した。
【0071】
さらに、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従って具体的には、微細孔の間隔は、固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1倍以上2倍以下程度であることがより好ましい。
【0072】
以上の理由から、本発明の細胞融合装置は、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返すことを特徴とする波形であり、またより具体意的には、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であって、さらに好ましくは、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である細胞融合装置であって、また、絶縁体を貫通する微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する細胞の直径未満であるか、もしくは、微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ微細孔の深さが細胞の直径と以下であり、さらに複数の微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることで、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが可能となる。また、絶縁体上の微細孔の平面形状が角を有することで、前記角部において電気力線の集中が生じることで誘電泳動力が大きくなり微細孔に細胞が寄りやすくなること、さらに前記絶縁体の表面を親水化することにより絶縁体の表面と細胞との親和性が増すことで微細孔への細胞固定率を飛躍的向上させることが可能となり、より高い融合効率を得ることができる。
【0073】
次に、本発明の細胞融合方法を説明する。
【0074】
本発明の細胞融合方法では、1つの微細孔に第1の細胞を固定した後、固定した第1の細胞のさらに上から第2の細胞を固定する。第2の細胞には誘電泳動力、重力、及び第1の細胞の静電気力が作用し第1の細胞と接触する。しかしながら、前述した理由により、微細孔を第1の細胞が塞いでしまうため電流が流れにくくなることで電気力線の発生が抑制され、第2の細胞に作用する誘電泳動力が弱くなる。従って、第2の細胞を、微細孔に固定した第1の細胞に1つずつ接触させる確率が低下する。しかしながら、第1の細胞の数を第2の細胞の数よりも多くし、細胞融合領域に過剰に導入することで、第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げることが可能である。
【0075】
次に、図を用いて本発明における細胞融合方法に関してさらに詳細に説明する。
【0076】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合装置を用いた細胞融合方法であり、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする細胞融合方法である。なお、本発明における細胞融合方法において、ポリエチレングリコールなどの、細胞膜の流動性を高めて接触した細胞を融合させる化学的細胞融合法を適用する場合は交流電源のみを用いて細胞融合を実施すればよく、直流パルス電圧の印加により細胞膜の可逆的乱れを生じ細胞融合する電気的細胞融合法を適用する場合は、交流電源を用いて2細胞を接触させた後、個前記切替え機構により交流電源からパルス電源に切替えて融合電圧を発生させて細胞融合を実施すればよい。また、前記交流電圧の波形は、上記記載の波形を有する交流電圧であることがより好ましい。ここで、本発明の細胞融合方法の概略図を図28〜30に示す。
【0077】
図28〜30には、いずれも第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さい例を示している。本発明の細胞融合方法は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことが好ましいが、本質的には第1の細胞の直径が第2の細胞の直径と等しいか大きくてもよく、また、本発明の細胞融合方法は、第1の細胞と第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合することが好ましいが、本質的には微細孔の中で第1の細胞と第2の細胞を融合してもよく、図28〜30に示したいずれの態様以外であっても、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能である。
【0078】
図28は、微細孔(9)の直径と深さが、第1の細胞(22)の直径とほぼ等しく第1の細胞がちょうど微細孔の中に入る程度の場合であり、図29は、微細孔(9)の直径と深さが、第1の細胞(22)の直径よりも大きい場合であり、図30は、微細孔(9)の直径と深さが第1の細胞(22)の直径よりも小さい場合である。 いずれの場合も、第1の細胞の数よりも第2の細胞の数を多く細胞融合領域内に導入している。
以下に本発明の融合方法が好ましい理由を説明する。本発明の最良の形態は、図28に示す細胞融合方法である。まず、第1の細胞(22)として、直径の小さい細胞を細胞懸濁液(24)とともに細胞融合領域(1)に導入し、前述した波形を有する交流電圧(5)を印加して1つの微細孔(9)につき第1の細胞1つを固定する。この場合、第1の細胞は主に誘電泳動力、重力、電極からの静電気力によって微細孔に誘導される。微細孔の直径と深さは第1の細胞の直径とほぼ等しく、第1の細胞がちょうど微細孔の中に入る。このようにすることで、微細孔の底面の電極面と第1の細胞に静電気力が発生し、第1の細胞は微細孔に確実に固定される。
【0079】
次に、第2の細胞(23)として、直径の大きい細胞を細胞懸濁液(24)とともに細胞融合領域(1)に導入する。このとき、第1の細胞(22)は電極との静電気力で固定されている上、周囲を微細孔(9)で囲まれているため、第2の細胞を送液することにより第1の細胞が微細孔から離脱することはほとんどない。導入された第2の細胞は、前述した波形を有する交流電圧(5)を印加することにより、微細孔に固定された第1の細胞の上から接触し固定される。この場合、第2の細胞には、微細孔での誘電泳動力も作用するが、主に重力、第1の細胞からの静電気力によって微細孔に固定された第1の細胞に誘導される。
本発明においては、第1の細胞の数よりも第2の細胞の数が多ければ特に制限はないが、第1の細胞の数に対する第2の細胞の数の比が1に近すぎると、あまり顕著な融合確率の向上が見られない。また、第1の細胞の数に対する第2の細胞の数の比が10を超えても、融合確率の大幅な向上が見られず、第2の細胞の数が多くなりすぎて細胞の送液が難しくなる。従って、細胞の送液が容易であり、融合確率が効果的に向上する範囲として、第1の細胞の数に対する第2の細胞の数の比が2〜8程度であることが好ましい。
【0080】
化学的細胞融合法の場合は、細胞懸濁液の中にポリエチレングリコールなどの、細胞膜の流動性を高める化学物質を添加することによって、接触した第1の細胞と第2の細胞の細胞融合する事が可能となる。細胞膜の流動性が高まった状態で細胞が接触すると膜融合が容易に起こるので、前述したように微細孔において2細胞一対が接触すれば、2細胞一対での細胞融合が生じる。ここで、細胞膜の流動性を高める物質は、接触した細胞同士に膜融合を起こさせる物質であれば特に制限はないが、上記ポリエチレングリコールの他にもリゾチウムなどがありが、特に、ポリエチレングリコールであることが好ましい。またさらに、平均分子量1000〜6000程度のポリエチレングリコールが好ましい。
【0081】
電気的細胞融合法の場合は、電源をパルス電源(6)に切替え、細胞融合を行うためのパルス電圧を印加することで、微細孔において接触した第1の細胞と第2の細胞を2細胞一対で融合させ、融合細胞(25)を得ることができ、効率的な2細胞一対での細胞融合が可能となる。なお、電気的細胞融合を行う懸濁液にポリエチレングリコールなどの、細胞膜の流動性を高める化学物質を添加することによって、化学的細胞融合法と電気的細胞融合法を組み合わせて細胞融合しても良い。
【0082】
また本発明の細胞融合方法を電気的細胞融合法に適用した場合は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことがさらに好ましい。この理由を以下に説明する。
【0083】
電気的細胞融合法の場合は、微細孔では電気力線の集中が生じるため、微細孔付近の電界強度は、図31に示すように微細孔内の電極面の電界強度が最も高く、絶縁体の表面からもう一方の電極に向けて次第に電界強度が弱くなる。図31は、一方の電極に任意の膜厚の絶縁体に任意の直径と深さを有する微細孔を1個配置し、電極間に任意の電圧を印加した場合の電界強度を有限要素法を用いて計算した。縦軸が電界強度を最大の電界強度で正規化した値であり、横軸は電極間の位置である。横軸の原点に絶縁体を配置した電極が存在している。絶縁体面は図中の点線で示した位置に相当し、横軸の原点から点線までの範囲が絶縁体厚に相当する。今回行った計算では、絶縁体の材質や厚み、微細孔の大きさや深さにあまり大きく依存せず、図31に示すように微細孔内の電極面の電界強度は、絶縁体面の電界強度より約20%程度高い結果となった。
【0084】
一般に電気的細胞融合法は、前述したように、細胞融合させるための直流パルス電圧を印加することで細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層から構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われることで細胞融合させる。一般に細胞の直径が小さいほど細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧は高くなる。従って、直径の小さい細胞を第1の細胞として微細孔に入れ、直径の大きい細胞を第2の細胞として微細孔に固定された第1の細胞の上から固定すれば、印加する直流パルス電圧は同じでも、図31に示すように、微細孔内の電界強度が微細孔表面の電界強度より高いために、微細孔内に固定された直径の小さい第1の細胞にはより高い電圧が印加され、微細孔表面に固定された直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも20%程度低い電圧が印加される。このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となり、同一の融合電圧で直径の異なる細胞の細胞膜に同時に可逆的乱れを生じさせることが可能となり、さらに融合確率を高めることが可能となる。
【0085】
また、前述したように微細孔に固定した第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げるため、第2の細胞の数を第1の細胞の数より多くし、細胞融合領域に過剰に導入した場合でも、図31に示すように、電界強度は微細孔近傍で最も高く、微細孔から離れるに従って弱くなっていくため、直流パルス電圧を適切に調整することで、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみの細胞膜が可逆的乱れを生じ細胞融合する。従って、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみを選択的に細胞融合させることが可能となる。
【0086】
さらに、第1の細胞よりも第2の細胞を多く導入することは、第1の細胞が抗体産生細胞のように、抗体を産生するが増殖能の無い細胞であって数が限られており、第2の細胞が癌細胞のように極めて増殖能の高い細胞であって、人為的に無限に培養できる細胞である場合、数に限りある貴重な抗体産生細胞を無駄なく利用することができることから、特に本発明の細胞融合方法は有用である。
【発明の効果】
【0087】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められることにより1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率をさらに高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(2)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ微細孔の深さが、前記微細孔に固定する細胞の直径の以下であり、このようにすることで、微細孔に確実に細胞を固定することができる。
(3)本発明の細胞融合装置においては、細胞融合領域側の電極面上に配置した微細孔を形成した絶縁体の表面を親水化することで、1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率を飛躍的に高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(4)本発明の細胞融合装置においては、微細孔が絶縁体上に複数個、アレイ状に形成されており、このようにすることで、複数の微細孔に固定した2細胞一対の細胞を同時に細胞融合させることが可能となり、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(5)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の隣り合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍未満の範囲であり、このようにすることで、1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率を高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(6)本発明の細胞融合装置においては、交流電源により電極間に印加する交流電圧の波形を制御することで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することが可能となる。
(7)本発明の細胞融合方法においては、上記記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であり、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合する細胞融合方法である。このようにすることで、前記第1の細胞と前記第2の細胞の接触率を高め、融合確率を向上させることが可能となる上、前記第1の細胞が抗体産生細胞のように、抗体を産生するが増殖能の無い細胞であって数が限られており、前期第2の細胞が癌細胞のように極めて増殖能の高い細胞であって、人為的に無限に培養できる細胞である場合、数に限りある貴重な抗体産生細胞を無駄なく利用することができ、特に有用である。
(8)本発明の細胞融合方法においては、第1の細胞の直径が、第2の細胞の直径よりも小さいものを用いるものであり、このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0089】
(実施例1)
図5に実施例1に用いた細胞融合装置の概念図を示した。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、本実施例では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーにより、下部電極(15)と複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)を一体形成した微細孔付き絶縁体一体型下部電極を用いた。
【0090】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図5に示すように、細胞が含有した細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(17)と排出口(18)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図32に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0091】
はじめに、ITO(26)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(27)のITO成膜面にレジスト(28)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた一辺が7μmの正方形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(29)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(30)し、現像液(31)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。
【0092】
このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(32)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は切替えスイッチにより電極への接続を切替えられるようにした。
【0093】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は0.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0094】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約55%であった。この結果から、後述する比較例1に対して、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められることにより微細孔への細胞固定確率がさらに向上した事がわかる。実際に、図31の微細孔付近の電界強度分布を計算した有限要素法を用いて、四角形(1辺7μm)の微細孔と丸形(直径10μm)の微細孔(1辺7μmの四角形の微細孔の対角線の長さが丸形の微細孔の直径とほぼ一致する)の電界強度を計算したところ、四角形の微細孔の角部の電界強度は、丸形の微細孔の周上の電界強度よりも約1.2倍大きかった。
【0095】
なお細胞固定率とは、顕微鏡の視野に縦15個×横15個の225個の微細孔が見えるようにし、細胞を導入して固定したときの、1〜2個の細胞が入った微細孔数を225個の微細孔数で割った値で定義した。なお、以下の実施例及び比較例での細胞固定率も同じ定義である。
【0096】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約65%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約36%(=55%×65%)であると推定される。比較例1とこの結果から、後述する比較例1に対して、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められることにより微細孔への細胞固定確率がさらに向上した事がわかる。
【0097】
次に、電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約160個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して約4/10000の融合確率を得られた。これは、比較例2の通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の約20倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0098】
(実施例2)
実施例1と同じ様に、図32に示すようにITO(26)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(27)のITO成膜面にレジスト(28)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた一辺が7μmの正方形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(29)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(30)し、現像液(31)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。
【0099】
次に、微細孔付き絶縁体の親水性を評価するため、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約47°であった。そこで、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をBSA(1mg/mL)含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、同様に、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約27°であり、親水性が向上したことを確認した。
【0100】
このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(32)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0101】
次に、実施例1で用いたマウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約85%であった。この結果から、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められるとともに、微細孔付絶縁膜を親水化したことにより、微細孔への細胞固定確率が実施例1よりもさらに向上したことがわかった。
【0102】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、実施例1で用いたマウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約80%であった。この結果から、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められるとともに、微細孔付絶縁膜を親水化したことにより、微細孔への細胞固定確率が実施例1よりもさらに向上したことがわかった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約68%(=85%×80%)であると推定される。
【0103】
次に、電源を直流パルス電源に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約260個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して約6.5/10000の融合確率を得られた。これは、通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の約33倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0104】
(比較例1)
図25に比較例に用いた細胞融合装置の概念図を示した。実施例1あるいは実施例2と同様に、図32に示すようにITO(26)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(27)のITO成膜面にレジスト(28)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ10μmの円形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(29)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(30)し、現像液(31)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(32)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図25に示した細胞融合容器のB−B’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0105】
引き続き、実施例1と同じマウス抗体産生細胞(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、約2分間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1個のマウス抗体産生細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1個のマウス抗体産生細胞が入る確率は約35%であった。
【0106】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、実施例1で用いたマウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1個のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1個のマウスミエローマ細胞が入る確率は約55%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約20%(=35%×55%)であると推定される。
【0107】
次に、電源を直流パルス電源に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約40個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して約1/10000の融合確率を得られた。
【0108】
(実施例3)
実施例2に用いた細胞融合装置を用いて以下の実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は0.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は2.8×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0109】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容ピペットマンを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る細胞固定率は約80%であった。
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約160万個)をスペーサーの導入口より1mL容ピペットマンを用いて注入したところ、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を微細孔において接触することができた。マウスミエローマ細胞をマウス抗体産生細胞に対して大過剰(約4倍)注入したので、このときの、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が接触する確率はほぼ100%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約80%(=80%×100%)であると推定される。
【0110】
次に、電源をパルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsのパルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、380個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して9.5/10000の融合確率を得られた。これは、比較例2で示した通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の47.5倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0111】
(実施例4)
実施例2に用いた細胞融合装置を用いて化学的細胞融合を実施した。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞を培地から取り出し、遠心分離で細胞と培地を分離し、取り出した細胞をそれぞれ分子量4000のポリエチレングリコール50%水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0112】
まずはじめに、上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウス抗体産生細胞が入る細胞固定率は70%であった。
【0113】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約160万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。
マウスミエローマ細胞をマウス抗体産生細胞に対して大過剰(約4倍)注入したので、このときの、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が接触する確率はほぼ100%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約70%(=70%×100%)であると推定される。
【0114】
次に、この状態のまま1分間静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液を取り出し培地で希釈後、遠心分離で細胞と細胞懸濁液を分離し、取り出した細胞をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、72個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して1.8/10000の融合確率を得られた。これは、比較例4に示したポリエチレングリコールを用いた通常の化学的細胞融合における融合確率0.23/10000の約7.8倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0115】
(比較例2)
比較例2として、通常の電気的細胞融合を行った。電気的細胞融合を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0116】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を4:1で混合し、両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0117】
上記細胞懸濁液40μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個、マウスミエローマ細胞数:15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、電圧20Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し細胞パールチェーンの形成を確認後、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsのパルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、12個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.2/10000の融合確率を得られた。
【0118】
(比較例3)
比較例3として、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を1:2で混合し比較例2と同様な実験を行ったところ、融合細胞は得られなかった。
【0119】
(比較例4)
比較例4として、ポリエチレングリコールを用いた通常の化学的細胞融合を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を10:1で混合し、両方の細胞を培地から取り出し、遠心分離で細胞と培地を分離し、取り出した細胞をそれぞれ分子量4000のポリエチレングリコール50%水溶液に懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0120】
上記細胞懸濁液40μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個、マウスミエローマ細胞数:6万個)を試験管に入れ、1分間かけて試験管の底を軽くたたいた。その後、約1分静置したあと試験管内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、14個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.23/10000の融合確率を得られた。
【0121】
(比較例5)
比較例5として、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を1:2で混合し比較例4と同様な実験を行ったところ、融合細胞は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。
【図2】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第1の図である。
【図3】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第2の図である。
【図4】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第3の図である。
【図5】本発明の細胞融合装置の一例を示す概念図、及び第1〜第4の実施例に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図6】図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図、及び図25に示した細胞融合容器のB−B’断面図である。
【図7】本発明に用いる交流電圧の波形の一例である。
【図8】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波を示した図である。
【図9】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波を示した図である。
【図10】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波と台形波を組み合わせた波形を示した図である。
【図11】本発明の細胞操作方法を説明する第1の図である。
【図12】本発明の細胞操作方法を説明する第2の図である。
【図13】本発明の細胞操作方法を説明する第3の図である。
【図14】図11を電気的な等価回路で表した図である。
【図15】図12を電気的な等価回路で表した図である。
【図16】図13を電気的な等価回路で表した図である。
【図17】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を示す図である。
【図18】図17に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を示す図である。
【図19】図17に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電流波形を示す図である。
【図20】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を示す図である。
【図21】図20に示した周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形または電流波形を示す図である。
【図22】本発明における、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する第1の細胞の直径未満の場合の2細胞の接触を説明する概念図である。
【図23】本発明における、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する第1の細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ、微細孔の深さが第1の細胞の直径より小さい場合の2細胞の接触を説明する概念図である。
【図24】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する第1の細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ、微細孔の深さが第1の細胞の直径より大きい場合、2細胞が接触できない事を説明する概念図である。
【図25】本発明の第1の比較例に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図26】本発明における微細孔形状例の第1の図である。
【図27】本発明における微細孔形状例の第2の図である。
【図28】本発明の細胞融合方法の第1の例を示す図である。
【図29】本発明の細胞融合方法の第2の例を示す図である。
【図30】本発明の細胞融合方法の第3の例を示す図である。
【図31】微細孔近傍の電界強度を示した図である。
【図32】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【符号の説明】
【0123】
1:細胞融合領域
2:電極
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:スイッチ
8:絶縁体
9:微細孔
10:細胞A
11:細胞B
12:電気力線
13:細胞融合容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:導入口
18:排出口
19:微細孔A
20:微細孔B
21:コンデンサーA
22:第1の細胞
23:第2の細胞
24:細胞懸濁液
25:融合細胞
26:ITO
27:パイレックス(登録商標)ガラス
28:レジスト
29:露光用フォトマスク
30:露光
31:現像液
32:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
33:抵抗
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞融合を効率的に行うための細胞融合装置とそれを用いた細胞融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、異なる細胞同士を融合させ1つの交雑細胞とする細胞融合技術として、主にポリエチレングリコール(PEG)を用いて2つの細胞膜の流動性を高めて細胞融合する化学的融合法が用いられているが、この方法では(i)PEGは細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため細胞融合確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。
【0003】
これに対して、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく融合させることができ、細胞に与える毒性がなく、高活性をもったままの状態で細胞を融合させることができるという利点がある。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果、細胞融合が起こるものである。
【0004】
上記の電気的融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられているが、このうち微小電極法は、2細胞一対の融合を顕微鏡を見ながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて確実ではあるが、手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が融合するため化学的融合法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。
【0005】
また、一般的な細胞融合は、目的とする抗体を産生するが増殖能の無い抗体産生細胞と、抗体は産生しないが極めて増殖能のある癌細胞を細胞融合させ、目的とする抗体を産生しかつ極めて増殖能のある融合細胞により抗体を工業的に生産する目的で行われる。ここで、通常抗体産生細胞の直径は数〜6μm前後の大きさであり、癌細胞の直径は10μm前後の大きさのものが多く、この直径の異なる2種の細胞を細胞融合させる際に、2種の異なった細胞同士が接触する確率を上げ、すなわち融合確率を上げるために、直径の小さい抗体産生細胞の数を、直径の大きい癌細胞の数よりも多く導入し細胞融合させている。実際逆に、直径の小さい抗体産生細胞の数を、直径の大きい癌細胞の数よりも少なく導入し細胞融合させた場合は、融合細胞はほとんど得られない。すなわち、上記従来の化学的細胞融合法及び電気的細胞融合法は、一般に、抗体産生細胞の数よりも癌細胞の数を2倍〜10倍程度導入し細胞融合していた。しかしながら、このような細胞の導入を行うと、本来、抗体産生能力を有する抗体産生細胞の約半分〜90%程度が無駄になってしまうという課題があった。なお、一般に抗体産生細胞は脾臓より取り出されることから脾臓細胞といわれることもある。また、一般に癌細胞はミエローマ細胞といわれることもある。
【0006】
前述した平行電極法の課題を解決するために、細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した微細孔を有する絶縁体とよりなる細胞融合用チャンバーの例が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図1は上記例の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。図1において、例えば樹脂材からなる細胞融合用チャンバーの細胞融合領域(1)の両側には、導電部材からなる電極(2)が配置され、これら電極は導電線(3)を介して外部に設けられた電源(4)と接続されている。外部に設けられた電源は電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHz程度の高周波交流電圧を出力する交流電源(5)と、約7kV/cm、パルス幅50μsec程度の直流パルス電圧を出力する直流パルス電源(6)と、電極と交流電源又は直流パルス電源の電気的接続を切替える為のスイッチ(7)とから構成されている。
【0008】
ここで、交流電源から出力する交流電圧の波形は、特に断りがない限りは一般に正弦波の波形を用いる。細胞融合用チャンバーは、電気的に絶縁な材料、例えばシリコーン樹脂からなる絶縁体(8)により2つの空間に区分けされている。ここで、絶縁体には最小口径が1μm〜数十μmの微細孔(9)が設けられている。また、細胞A(10)及び細胞B(11)はそれぞれ細胞融合用チャンバーの細胞融合領域内の細胞懸濁液内におかれている。
【0009】
上記例の動作を図2〜図4を用いて説明する。最初に、電源(4)の切替えスイッチ(7)を電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHzの高周波電圧を出力する交流電源(5)に接続させる。この状態において電気力線(12)は、図2に示すように微細孔(9)に集中する。細胞A(10)および細胞B(11)は、ここに集中する電気力線(12)のため誘電泳動力を受け、図3に示すように微細孔(9)の中心付近に固定される。ここで細胞A(10)と細胞B(11)は出会い接触する。次に、電源(4)の切替えスイッチ(7)を直流パルス電源(6)に切替える。図3に示した状態におかれた細胞A(10)及び細胞B(11)は、直流パルス電圧により細胞A(10)および細胞B(11)の接触点で細胞膜の可逆的破壊が起こり、図4に示すように融合が生ずる。このようにすることで、微細孔において細胞Aと細胞Bを2細胞一対で細胞融合させることができる。
【0010】
しかしながら、前記特許文献1に記載された細胞融合チャンバーを用いて細胞融合を行う方法は、前記微細孔において2細胞一対を同時に固定することが難しいという課題があった。例えば、細胞Aを微細孔に入れた後、さらに細胞Bを微細孔に入れるために細胞融合用チャンバー内に細胞Bを含有する細胞懸濁液を導入すると、導入する際の送液により、あらかじめ微細孔に固定しておいた細胞Aが微細孔から脱離してしまう。また、細胞Aと細胞Bを同時に微細孔に固定するには細胞懸濁液の送液に熟練を要し非常に困難であった。さらに、前記特許文献1に記載された方法により、複数の細胞を同時に細胞融合させるためには、例えば、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に、ほぼ同時に2細胞を一対ずつ固定する必要がある。ここでアレイ状とは、複数の微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。しかしながら、交流電源を接続して細胞を微細孔に固定する際に、複数の細胞が集中して固定される微細孔や、細胞が全く固定されない微細孔があり、複数のアレイ状に形成された微細孔で目的とする2細胞一対の細胞融合を行うことが非常に難しいという課題があった。
【0011】
一方、アレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ細胞を固定する方法の例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2記載の方法は、微細孔(特許文献2では、マイクロウエルと記載されている)の内径と深さがそれぞれ細胞(特許文献2では、被検体リンパ球と記載されている)の直径の1〜2倍の大きさの複数の微細孔に、複数の細胞を含む液を微細孔を覆うように加え、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と、微細孔外の細胞を洗い流す洗浄の過程を繰り返し行うことで1つの微細孔に1つの細胞を固定している。
【0012】
しかしながら、前記特許文献2に記載された方法により1つの微細孔に1つの細胞を固定する方法は、重力により細胞が沈むのを待つ時間が5分程度と長いこと、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と微細孔外の細胞を洗い流す洗浄過程を繰り返す必要があり操作が煩雑な上さらに時間を要すること、微細孔に入らなかった細胞を洗い流す過程で細胞が失われる可能性があるため、細胞すべてを有効に使用することが難しいという課題があった。一般に、細胞融合を行う場合は、細胞の活性を維持するためにその処理時間はできる限り短いことが好ましく、また、細胞1つ1つが持つ特異性を見出すためには、できる限り細胞の喪失がないことが好ましい。
【0013】
上記従来の技術における問題点や課題を解決するために、本発明者らは、後述する比較例1に示したように、細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極方向に貫通した複数の微細孔を有する絶縁体を有し、前記絶縁体が、前記電極のうちどちらか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合装置を用い、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に第1の細胞を固定した後、第2の細胞を導入して、前記第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加することで細胞融合する方法を検討した。本検討において、融合させる細胞の大きさに対して微細孔の大きさを最適化し、細胞を微細孔に固定する際に印加する交流電圧の波形の形状を最適化することで、アレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を極めて容易に固定できることを見出し、2細胞1対を融合させ、1/10000の融合確率を得た。これは、通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の5倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0014】
しかしながら、微細孔への細胞固定率は20%程度であり、微細孔への細胞固定率が非常に低いという課題があった。固定率を高める手段の一つとして、細胞を微細孔に固定するための交流電圧を長時間印加(例えば10分以上)する方法がある。これにより微細孔への細胞固定率は若干向上するものの、細胞に長時間電圧を印加するため細胞へのダメージが大きく、細胞の活性が低下したり、細胞が死滅する割合が高くなり、結果として融合確率が低くなってしまうという問題があった。
【0015】
従って、アレイ状に配置した微細孔への細胞の固定を短時間(例えば、数秒程度)で行い、また微細孔への細胞固定確率を飛躍的に高めることが課題となっていた。
【0016】
【特許文献1】特公平7−4218号公報
【特許文献2】特許第3723882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、アレイ状に配置した微細孔への細胞固定を短時間で行い、かつ微細孔への細胞固定確率を飛躍的に高め、抗体産生細胞をできる限り無駄無く細胞融合させ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行う細胞融合装置とそれを用いた融合確率の高い細胞融合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題を解決するものとして、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を切替えて印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状である細胞融合装置と、前記細胞融合装置を用い、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする細胞融合方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状である細胞融合装置である。
【0020】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状が四辺形である細胞融合装置である。
【0021】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状である細胞融合装置である。
【0022】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径未満である細胞融合装置である。
【0023】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ前記微細孔の深さが、前記微細孔に固定する細胞の直径以下である細胞融合装置である。
【0024】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体の表面が親水性である細胞融合装置である。
【0025】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源が、前記一対の電極に交流電圧を印加するための前記交流電源及び前記直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切替える切替え機構を有する細胞融合装置である。
【0026】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加される上記記載の細胞融合装置である。
【0027】
また本発明の細胞融合装置は、前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加される上記記載の細胞融合装置である。
【0028】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形である上記記載の細胞融合装置である。
【0029】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である上記記載の細胞融合装置である。
【0030】
また本発明の細胞融合装置は、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である細胞融合装置である。
【0031】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の水平面においてアレイ状に形成されている上記記載の細胞融合装置である。
【0032】
また本発明の細胞融合装置は、前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣合ういずれの微細孔の中心位置からも微細孔の中心位置が同じ位置に形成されている上記記載の細胞融合装置である。
【0033】
また本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である上記記載の細胞融合装置である。
【0034】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有する上記記載の細胞融合装置である。
【0035】
また本発明の細胞融合装置は、前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有する上記記載の細胞融合装置である。
【0036】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする細胞融合方法である。
【0037】
また本発明の細胞融合方法は、前記第1の細胞が脾臓細胞であり、前記第2の細胞が癌細胞であることを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0038】
また本発明の細胞融合方法は、細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第1の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、細胞融合する事を特徴とする上記記載の細胞融合方法であって、前記細胞膜の流動性を高める物質が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0039】
また本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合領域内に前記第1の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に前記第2の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、前記切替え機構により、前記電源を前記交流電源から前記直流パルス電源に切替え、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする上記記載の細胞融合方法である。
【0040】
図5に本発明の細胞融合装置の概念図を示す。本発明の細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。
【0041】
細胞融合容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、微細孔(9)を形成した絶縁体(8)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であればとくに制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、細胞融合を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0042】
上部電極と下部電極の面積には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。
【0043】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞懸濁液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路とそれに連通する導入口(17)と、細胞を排出する排出流路とそれに連通する排出口(18)が設けられていてもよい。スペーサーのサイズは上部電極と下部電極が接触しなければ特に制限はないが、前記電極に合わせたサイズが好ましい。例えば、電極サイズが縦70mm×横40mm程度であれば、スペーサーのサイズは例えば縦40mm×横40mm程度が好ましい。細胞融合領域(1)を形成するスペーサーの内側の空間と厚みも特に制限はないが、細胞懸濁液を例えば数μL〜数mL程度入れる容量があればよく、例えば、スペーサーのサイズが縦40mm×横40mm程度の場合、スペーサーの内側の空間は、縦20mm×横20mm程度であればよく、スペーサーの厚みは0.5〜2.0mm程度であればよい。ここで、細胞の懸濁液とは、マンニトールやグルコース、スクロース等の糖類の水溶液及びその水溶液に塩化カルシウムや塩化マグネシウムなどの電解質やBSA(ウシ血清アルブミン)等のタンパク質を含有した水溶液に融合させる細胞を含有させた懸濁液を意味する。
【0044】
絶縁体(8)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。
【0045】
また、絶縁体の材質は、細胞を絶縁体に形成した微細孔に引き寄せて固定することから、細胞と親和性のある材質が好ましく、一般的に、細胞の表面が親水性であることから、絶縁体の表面が親水性であることが好ましい。ここで親水性とは、細胞融合を行う際に用いる細胞の懸濁液もしくは純水の親和性が高いことを意味し、一般的には、絶縁体の表面に前記懸濁液もしくは純水を滴下したときに形成される液滴と前記絶縁体の表面との接触角で示される(接触角が小さいほど絶縁体の表面と細胞懸濁液もしくは純水との親和性が高く、すなわち、細胞との親和性が高い)。親水性の比較的高い絶縁膜としては、ガラスや酸化チタン等があり、これらの材料を絶縁体として用いればよい。あるいは、樹脂等の親水性の低い材料を前記絶縁体に用いる場合は、親水化処理することにより絶縁体の表面を親水性に改質すればよい。ここで、絶縁体の表面を親水化処理する方法としては、既知の技術であるプラズマ処理、化学修飾、タンパク質の物理吸着などによる修飾、或いはこれらの方法を任意に組み合わせた方法などを用いればよい。
【0046】
ここで、絶縁体の表面のプラズマ処理とは、電子・イオン・ラジカルなどの活性種が存在する電気的に中性な電離気体(プラズマ)を絶縁体の表面に照射することにより、絶縁体の表面における有機汚染物の除去や化学結合状態を変化させ、絶縁体の表面を改質する処理である。プラズマ処理には、非重合性ガス(Ar、O2など)を用いるプラズマ表面処理と有機モノマーを用いて絶縁体の表面を高分子薄膜でコーティング処理するプラズマ重合がある。プラズマ表面処理は、Arなどの非反応性ガスによる表面架橋層の形成、O2などの反応性ガスによる官能基の導入などがあり、酸素プラズマ処理により−COOHや−COを導入し、絶縁体の表面の親水性を向上させることで細胞との親和性を高めることが可能である。
【0047】
また、絶縁体の表面の化学修飾とは、水酸基やカルボキシル基、アミノ基、スルホン基などの親水基を有する誘導体やシランカップリング剤などを絶縁体の表面へ結合させることで親水化する方法である。シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に親水性を示す反応基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基など)と、疎水性を示す(ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基など)の2種以上の異なった反応基を有している。そのため、シランカップリング剤の希薄溶液に疎水性の絶縁体を浸漬すれば、疎水性を示す反応基が疎水性の絶縁体の表面に化学的に結合し、親水性を示す反応基が絶縁体の表面を覆うため、絶縁体の表面を均一に親水化することが可能である。
【0048】
さらに、BSA(ウシ血清アルブミン)などのタンパク質含有溶液に絶縁体を数分〜数時間を浸漬することで、タンパク質を物理吸着させ、絶縁体の表面を親水化することができる。
【0049】
また親水性の評価方法としては、以下に記載する一般的な手法を用いた。すなわち、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定することによって絶縁体の表面の親水性を評価した。ここで、一般的に親水性の厳密な定義はないが、本発明における親水性とは、前記接触角が45°以下、好ましくは30°以下であると定義する。
【0050】
樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。なお図6は、図5の細胞融合容器のA−A’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図6のように貼り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより張り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図6に示した細胞融合領域(1)を形成することができる。
【0051】
細胞容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は交流電圧の波形を上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に印加する交流電源と、細胞融合させるための直流パルス電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する直流パルス電源から構成されており、交流電源と直流パルス電源は、切替えスイッチ等の切替え機構により適宜切替えて使用することができる。ここで、本発明における細胞融合方法において、化学的細胞融合法を適用する場合は交流電源のみを用いて細胞融合を実施すればよく、電気的細胞融合法を適用する場合は、交流電源を用いて2細胞を接触させた後、前記切替え機構により交流電源からパルス電源に切替えて融合電圧を発生させて細胞融合を実施すればよい。
【0052】
また本発明の細胞融合装置は、前述した絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、絶縁体の水平面において、隣合ういずれの微細孔の中心位置からも微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていること、例えば絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じる。また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従ってより具体的には、微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れ固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1倍以上2倍以下程度であることがより好ましい。
【0053】
以下では、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するための交流電圧の波形と微細孔の形状に関して説明する。
【0054】
本発明の細胞融合装置は、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するため、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形である細胞融合装置であって、好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば、前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である波形であり、さらに好ましくは、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である波形の交流電圧を印加する電源からなる細胞融合装置ある。
【0055】
また、本発明の細胞融合装置は、前記微細孔の平面形状が、少なくとも1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置であって、好ましくは前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする細胞融合装置である。また、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径未満であるか、あるいは、前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が前記微細孔に固定する細胞の直径の1以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが前記微細孔に固定する細胞の直径の以下であることを特徴とする細胞融合装置であり、また更に好ましくは前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である細胞融合装置である。
【0056】
まず、交流電圧の波形について、図を用いてさらに説明する。
【0057】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返すことが可能であれば特に制限はなく、図7にこの態様の交流電圧の波形の一例を示す。図7の交流電圧の波形の半周期であるT/2ごとに前記細胞の充電と放電が繰り返される。なお図7の場合、半周期ごとに電圧の極性の正と負が反転するため、半周期ごとに前記細胞が充電されたときに電荷の極性が正と負に反転する。
【0058】
なお、本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により細胞を微細孔に固定することが困難になること、また細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0059】
また、より具体的には、本発明の細胞融合装置に用いる前記交流電圧の波形は、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形である。図7におけるS[s]が電圧が一定時間変化しない時間である。本発明では、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間S[s]が細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]以上であることが好ましいことから、S>τ(=C×R)の関係であることが好ましい。
【0060】
なお、本発明における交流電圧の波形は図7に示す波形のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。例えば、交流電圧の波形が、矩形波(図8)、台形波(図9)、またはこれらを組み合わせた波形(図10)であってもよい。また、印加する電圧値や周波数は、細胞融合容器の電極間距離や、融合対象となる細胞の種類や大きさ、細胞を含有する細胞懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。例えば、細胞融合容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、融合対象の細胞が直径10μm程度の細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞の静電容量は一般に1pF程度、面積2cm×2cm程度、電極間距離1mm程度の細胞融合容器に300mMのマンニトール水溶液を入れたときの抵抗値が5kΩ程度であることから、細胞の静電容量C[F]と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]は5nsとなる。従って電極間に印加する交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が少なくとも5nsだけ変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する交流電圧波形であることが好ましい。例えば、図8に示した矩形波交流電圧波形を用いた場合、Sの時間が5nsより長くなる、すなわち、周波数が100MHz(=1/(2×5ns))未満であることが好ましく、さらには電気的な取り扱いのしやすさや市販の信号発生器で容易に扱うことができることを考慮すると、周波数は1〜3MHz程度の矩形波交流電圧波形が好ましい。またこの場合の矩形波交流電圧波形の電圧は、微細孔に細胞を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔に細胞が引き寄せられる時間は1〜5秒程度であり、瞬時に細胞を微細孔に固定することができる。
【0061】
次に、上記態様の交流電圧の波形と上記態様の微細孔を用いた場合に、1つの微細孔につき1つの細胞が固定される理由を図11〜図21を用いて説明する。
【0062】
図11〜図13には本発明の細胞融合装置において、微細孔に細胞が入る過程の概念図を示した。絶縁体(8)の厚みは細胞A(10)及び細胞B(11)の直径とほぼ等しく、微細孔の内径は細胞A及び細胞Bの直径の1〜2倍の範囲であり、図12に示すように微細孔A(19)に細胞Aが入った後、図13に示すように微細孔B(20)に細胞Bが入る場合を想定している。図14〜図16には、それぞれ図11〜図13を電気的な等価回路で表現した図を示した。細胞を含有する細胞懸濁液は抵抗(抵抗値:5kΩ)、細胞はコンデンサー(容量:1pF)で表現することができる。
【0063】
図17に示す、周波数f[Hz]の矩形波形の交流電圧を印加すると、微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が微細孔に引き寄せられ、微細孔Aに細胞Aが固定され細胞Aが微細孔Aを塞ぐ。なお細胞は誘電泳動力以外にも重力及び電極からの静電気力によっても微細孔に誘導される。細胞Aで塞がれた微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーA(21)と電気的に等価となる。図17に示す電圧波形を印加した場合、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を図18、電流波形を図19に示す。図18のようにコンデンサーAは細胞Aの容量C[F]と細胞を含む細胞懸濁液の抵抗値R[Ω]の積で求められる時定数τ[s](=C×R)の時間を要して充電される。
【0064】
なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下が好ましいことから、τ<1/2fを満たす周波数の矩形波交流電圧を用いる事が好ましい。コンデンサーAが充電されると電流は流れなくなるため、図19に示すように、コンデンサーAに流れる電流は、時定数τの時間だけパルス状に電流が流れるものの、その後は電流が流れなくなり絶縁体と電気的に等価になる。このため細胞Aの入った微細孔Aでは、電気力線の集中が生じなくなり、微細孔Aが新たに細胞を引き寄せる確率は低くなる。一方、微細孔Bには電気力線の集中が生じているため、細胞Bが誘電泳動力により引き寄せられ微細孔Bに細胞Bが固定され細胞Bが微細孔Bを塞ぐ。これを繰り返すことにより、空の微細孔につぎつぎと細胞が入っていくことで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。
【0065】
なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下である場合、図15におけるコンデンサーAが十分充電されないため、コンデンサーAに電流が流れ続け、細胞Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ電気力線の集中が生じる。よって、細胞Bは細胞Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。
【0066】
次に、図20に示す周波数f[Hz]の正弦波形の交流電圧を印加すると、微細孔において電気力線の集中が生じることで細胞に対して誘電泳動力が発生し、細胞が誘電泳動力により微細孔に引き寄せられ、細胞Aが微細孔Aを塞ぐ。細胞Aが塞いだ微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーAと等価となる。図20に示す電圧波形を印加した場合、コンデンサーAにおける電圧波形と電流波形を図21に示す。図21に示すように印加する交流電圧の波形が正弦波の場合は、正弦波の位相が90度すすむだけで、正弦波の波形は変化しないため、細胞Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ、電気力線の集中が生じる。このため、細胞Bは細胞Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の細胞が固定される確率が高くなる。従って、正弦波や三角波のように常に電圧が連続的に変化する交流電圧の波形では、複数の細胞が集中して固定される微細孔と、細胞が全く固定されない微細孔があり、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが難しい。なお、印加する電圧が直流の場合は、細胞を含有する細胞懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となる。
【0067】
次に、微細孔の形状について、図を用いてさらに説明する。
【0068】
前述したように、微細孔の内径が細胞の直径より大きいと、細胞は微細孔を十分塞ぐことができず、電気力線の集中が発生し細胞が誘電泳動力により引き寄せられるため、1つの微細孔に2以上の細胞が入る確率が高くなる。2以上の細胞を微細孔に固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の直径が微細孔に固定する細胞の直径よりも大きくてもよい。しかしながら、1つの微細孔に1つの細胞を固定した状態で細胞融合を行う場合は、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する細胞の直径未満であるか、もしくは微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが微細孔に固定する細胞の直径の以下であることが好ましい。図22に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する細胞の直径未満の場合は、第1の細胞(22)が微細孔の中に入らず、微細孔が形成される絶縁体の表面上に固定されるため、第2の細胞(23)は微細孔の深さにかかわらず前記第1の細胞と接触するので微細孔の深さに特に制限はない。一方、図24に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲である場合は、前記第1の細胞が微細孔の中に入るため、微細孔の深さが前記第1の細胞の直径より大きいと、前記第2の細胞が前記第1の細胞と接触できない場合があるため、図23に示すように微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲である場合は微細孔の深さは微細孔に固定する細胞の直径以下であることが好ましい。
【0069】
また、本発明の細胞融合装置は、前記微細孔(9)の平面形状が、少なくとも1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置であって、さらには、前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする細胞融合装置である。ここで、角とは微細孔の形状を構成する2辺が鋭角あるいは鈍角で交わる部分であり、角の先端が若干丸みを帯びた形状も含む。図26に、微細孔の平面形状が少なくとも1以上の角を有する代表的な形状を示した。また、四辺形とは、前記微細孔の形状が前記角を4つ有しており、前記4つの角は、角の先端が若干丸みを帯びた形状なども含む。また、4本の辺は直線であってもよいし、4本全ての辺あるいは4本のうち任意の辺が微細孔の中心あるいは外側に向かって湾曲あるいは屈曲していてもよい。図27に、本発明における四辺形の微細孔の形状の代表的な例を示した。
【0070】
上述したように、微細孔の平面形状の一部に角が存在していれば、前記角の部分において電気力線の集中が生じ誘電泳動力が強くなり、より強い誘電泳動力で細胞が引き寄せられる結果、細胞が微細孔に固定される確率が向上する。さらに、角は微細孔に少なくとも1箇所存在すればよいが、複数存在していた方がより好ましい。しかしながら、角の形状は鈍角よりも鋭角の方が電気力線の集中が生じやすく誘電泳動力が強いため、五角形以上の多角形よりも四角形以下の多角形の方がより好ましい。また、四角形であれば特に制限はなく、例えば図27に示すように台形や菱形、平行四辺形などの態様があるが、四辺形の微細孔の形状が4つの角を結ぶ辺の長さが4本ともほぼ等しく、微細孔の中心において90度の角度で点対称であれば、四辺形の微細孔の4つの辺に生じる誘電泳動力が4つとも等しく、4つの角に生じる誘電泳動力も4つとも等しくなり、微細孔の方向によらず微細孔の誘電泳動力の分布が点対称となるため、微細孔に対する細胞の位置によらず、偏りの少ない誘電泳動力を作用させることが可能となるため、微細孔の形状は図27の(a)〜(d)のような正方形あるいは正方形に近い形状であることがより好ましい。図5には、微細孔の形状が正方形の場合の本発明における細胞融合装置の一例を示した。
【0071】
さらに、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従って具体的には、微細孔の間隔は、固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1倍以上2倍以下程度であることがより好ましい。
【0072】
以上の理由から、本発明の細胞融合装置は、前記交流電源により前記電極間に印加する交流電圧の波形が、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返すことを特徴とする波形であり、またより具体意的には、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に少なくとも1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であって、さらに好ましくは、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である細胞融合装置であって、また、絶縁体を貫通する微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する細胞の直径未満であるか、もしくは、微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ微細孔の深さが細胞の直径と以下であり、さらに複数の微細孔の隣り合う間隔が、固定する細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることで、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を固定することが可能となる。また、絶縁体上の微細孔の平面形状が角を有することで、前記角部において電気力線の集中が生じることで誘電泳動力が大きくなり微細孔に細胞が寄りやすくなること、さらに前記絶縁体の表面を親水化することにより絶縁体の表面と細胞との親和性が増すことで微細孔への細胞固定率を飛躍的向上させることが可能となり、より高い融合効率を得ることができる。
【0073】
次に、本発明の細胞融合方法を説明する。
【0074】
本発明の細胞融合方法では、1つの微細孔に第1の細胞を固定した後、固定した第1の細胞のさらに上から第2の細胞を固定する。第2の細胞には誘電泳動力、重力、及び第1の細胞の静電気力が作用し第1の細胞と接触する。しかしながら、前述した理由により、微細孔を第1の細胞が塞いでしまうため電流が流れにくくなることで電気力線の発生が抑制され、第2の細胞に作用する誘電泳動力が弱くなる。従って、第2の細胞を、微細孔に固定した第1の細胞に1つずつ接触させる確率が低下する。しかしながら、第1の細胞の数を第2の細胞の数よりも多くし、細胞融合領域に過剰に導入することで、第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げることが可能である。
【0075】
次に、図を用いて本発明における細胞融合方法に関してさらに詳細に説明する。
【0076】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合装置を用いた細胞融合方法であり、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする細胞融合方法である。なお、本発明における細胞融合方法において、ポリエチレングリコールなどの、細胞膜の流動性を高めて接触した細胞を融合させる化学的細胞融合法を適用する場合は交流電源のみを用いて細胞融合を実施すればよく、直流パルス電圧の印加により細胞膜の可逆的乱れを生じ細胞融合する電気的細胞融合法を適用する場合は、交流電源を用いて2細胞を接触させた後、個前記切替え機構により交流電源からパルス電源に切替えて融合電圧を発生させて細胞融合を実施すればよい。また、前記交流電圧の波形は、上記記載の波形を有する交流電圧であることがより好ましい。ここで、本発明の細胞融合方法の概略図を図28〜30に示す。
【0077】
図28〜30には、いずれも第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さい例を示している。本発明の細胞融合方法は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことが好ましいが、本質的には第1の細胞の直径が第2の細胞の直径と等しいか大きくてもよく、また、本発明の細胞融合方法は、第1の細胞と第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合することが好ましいが、本質的には微細孔の中で第1の細胞と第2の細胞を融合してもよく、図28〜30に示したいずれの態様以外であっても、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能である。
【0078】
図28は、微細孔(9)の直径と深さが、第1の細胞(22)の直径とほぼ等しく第1の細胞がちょうど微細孔の中に入る程度の場合であり、図29は、微細孔(9)の直径と深さが、第1の細胞(22)の直径よりも大きい場合であり、図30は、微細孔(9)の直径と深さが第1の細胞(22)の直径よりも小さい場合である。 いずれの場合も、第1の細胞の数よりも第2の細胞の数を多く細胞融合領域内に導入している。
以下に本発明の融合方法が好ましい理由を説明する。本発明の最良の形態は、図28に示す細胞融合方法である。まず、第1の細胞(22)として、直径の小さい細胞を細胞懸濁液(24)とともに細胞融合領域(1)に導入し、前述した波形を有する交流電圧(5)を印加して1つの微細孔(9)につき第1の細胞1つを固定する。この場合、第1の細胞は主に誘電泳動力、重力、電極からの静電気力によって微細孔に誘導される。微細孔の直径と深さは第1の細胞の直径とほぼ等しく、第1の細胞がちょうど微細孔の中に入る。このようにすることで、微細孔の底面の電極面と第1の細胞に静電気力が発生し、第1の細胞は微細孔に確実に固定される。
【0079】
次に、第2の細胞(23)として、直径の大きい細胞を細胞懸濁液(24)とともに細胞融合領域(1)に導入する。このとき、第1の細胞(22)は電極との静電気力で固定されている上、周囲を微細孔(9)で囲まれているため、第2の細胞を送液することにより第1の細胞が微細孔から離脱することはほとんどない。導入された第2の細胞は、前述した波形を有する交流電圧(5)を印加することにより、微細孔に固定された第1の細胞の上から接触し固定される。この場合、第2の細胞には、微細孔での誘電泳動力も作用するが、主に重力、第1の細胞からの静電気力によって微細孔に固定された第1の細胞に誘導される。
本発明においては、第1の細胞の数よりも第2の細胞の数が多ければ特に制限はないが、第1の細胞の数に対する第2の細胞の数の比が1に近すぎると、あまり顕著な融合確率の向上が見られない。また、第1の細胞の数に対する第2の細胞の数の比が10を超えても、融合確率の大幅な向上が見られず、第2の細胞の数が多くなりすぎて細胞の送液が難しくなる。従って、細胞の送液が容易であり、融合確率が効果的に向上する範囲として、第1の細胞の数に対する第2の細胞の数の比が2〜8程度であることが好ましい。
【0080】
化学的細胞融合法の場合は、細胞懸濁液の中にポリエチレングリコールなどの、細胞膜の流動性を高める化学物質を添加することによって、接触した第1の細胞と第2の細胞の細胞融合する事が可能となる。細胞膜の流動性が高まった状態で細胞が接触すると膜融合が容易に起こるので、前述したように微細孔において2細胞一対が接触すれば、2細胞一対での細胞融合が生じる。ここで、細胞膜の流動性を高める物質は、接触した細胞同士に膜融合を起こさせる物質であれば特に制限はないが、上記ポリエチレングリコールの他にもリゾチウムなどがありが、特に、ポリエチレングリコールであることが好ましい。またさらに、平均分子量1000〜6000程度のポリエチレングリコールが好ましい。
【0081】
電気的細胞融合法の場合は、電源をパルス電源(6)に切替え、細胞融合を行うためのパルス電圧を印加することで、微細孔において接触した第1の細胞と第2の細胞を2細胞一対で融合させ、融合細胞(25)を得ることができ、効率的な2細胞一対での細胞融合が可能となる。なお、電気的細胞融合を行う懸濁液にポリエチレングリコールなどの、細胞膜の流動性を高める化学物質を添加することによって、化学的細胞融合法と電気的細胞融合法を組み合わせて細胞融合しても良い。
【0082】
また本発明の細胞融合方法を電気的細胞融合法に適用した場合は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことがさらに好ましい。この理由を以下に説明する。
【0083】
電気的細胞融合法の場合は、微細孔では電気力線の集中が生じるため、微細孔付近の電界強度は、図31に示すように微細孔内の電極面の電界強度が最も高く、絶縁体の表面からもう一方の電極に向けて次第に電界強度が弱くなる。図31は、一方の電極に任意の膜厚の絶縁体に任意の直径と深さを有する微細孔を1個配置し、電極間に任意の電圧を印加した場合の電界強度を有限要素法を用いて計算した。縦軸が電界強度を最大の電界強度で正規化した値であり、横軸は電極間の位置である。横軸の原点に絶縁体を配置した電極が存在している。絶縁体面は図中の点線で示した位置に相当し、横軸の原点から点線までの範囲が絶縁体厚に相当する。今回行った計算では、絶縁体の材質や厚み、微細孔の大きさや深さにあまり大きく依存せず、図31に示すように微細孔内の電極面の電界強度は、絶縁体面の電界強度より約20%程度高い結果となった。
【0084】
一般に電気的細胞融合法は、前述したように、細胞融合させるための直流パルス電圧を印加することで細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層から構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われることで細胞融合させる。一般に細胞の直径が小さいほど細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧は高くなる。従って、直径の小さい細胞を第1の細胞として微細孔に入れ、直径の大きい細胞を第2の細胞として微細孔に固定された第1の細胞の上から固定すれば、印加する直流パルス電圧は同じでも、図31に示すように、微細孔内の電界強度が微細孔表面の電界強度より高いために、微細孔内に固定された直径の小さい第1の細胞にはより高い電圧が印加され、微細孔表面に固定された直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも20%程度低い電圧が印加される。このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となり、同一の融合電圧で直径の異なる細胞の細胞膜に同時に可逆的乱れを生じさせることが可能となり、さらに融合確率を高めることが可能となる。
【0085】
また、前述したように微細孔に固定した第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げるため、第2の細胞の数を第1の細胞の数より多くし、細胞融合領域に過剰に導入した場合でも、図31に示すように、電界強度は微細孔近傍で最も高く、微細孔から離れるに従って弱くなっていくため、直流パルス電圧を適切に調整することで、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみの細胞膜が可逆的乱れを生じ細胞融合する。従って、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみを選択的に細胞融合させることが可能となる。
【0086】
さらに、第1の細胞よりも第2の細胞を多く導入することは、第1の細胞が抗体産生細胞のように、抗体を産生するが増殖能の無い細胞であって数が限られており、第2の細胞が癌細胞のように極めて増殖能の高い細胞であって、人為的に無限に培養できる細胞である場合、数に限りある貴重な抗体産生細胞を無駄なく利用することができることから、特に本発明の細胞融合方法は有用である。
【発明の効果】
【0087】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められることにより1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率をさらに高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(2)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ微細孔の深さが、前記微細孔に固定する細胞の直径の以下であり、このようにすることで、微細孔に確実に細胞を固定することができる。
(3)本発明の細胞融合装置においては、細胞融合領域側の電極面上に配置した微細孔を形成した絶縁体の表面を親水化することで、1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率を飛躍的に高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(4)本発明の細胞融合装置においては、微細孔が絶縁体上に複数個、アレイ状に形成されており、このようにすることで、複数の微細孔に固定した2細胞一対の細胞を同時に細胞融合させることが可能となり、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(5)本発明の細胞融合装置においては、微細孔の隣り合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍未満の範囲であり、このようにすることで、1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率を高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(6)本発明の細胞融合装置においては、交流電源により電極間に印加する交流電圧の波形を制御することで、1つの微細孔に1つの細胞を固定することが可能となる。
(7)本発明の細胞融合方法においては、上記記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法であり、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合する細胞融合方法である。このようにすることで、前記第1の細胞と前記第2の細胞の接触率を高め、融合確率を向上させることが可能となる上、前記第1の細胞が抗体産生細胞のように、抗体を産生するが増殖能の無い細胞であって数が限られており、前期第2の細胞が癌細胞のように極めて増殖能の高い細胞であって、人為的に無限に培養できる細胞である場合、数に限りある貴重な抗体産生細胞を無駄なく利用することができ、特に有用である。
(8)本発明の細胞融合方法においては、第1の細胞の直径が、第2の細胞の直径よりも小さいものを用いるものであり、このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0089】
(実施例1)
図5に実施例1に用いた細胞融合装置の概念図を示した。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、本実施例では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーにより、下部電極(15)と複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)を一体形成した微細孔付き絶縁体一体型下部電極を用いた。
【0090】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図5に示すように、細胞が含有した細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(17)と排出口(18)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図32に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0091】
はじめに、ITO(26)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(27)のITO成膜面にレジスト(28)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた一辺が7μmの正方形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(29)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(30)し、現像液(31)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。
【0092】
このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(32)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は切替えスイッチにより電極への接続を切替えられるようにした。
【0093】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は0.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0094】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約55%であった。この結果から、後述する比較例1に対して、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められることにより微細孔への細胞固定確率がさらに向上した事がわかる。実際に、図31の微細孔付近の電界強度分布を計算した有限要素法を用いて、四角形(1辺7μm)の微細孔と丸形(直径10μm)の微細孔(1辺7μmの四角形の微細孔の対角線の長さが丸形の微細孔の直径とほぼ一致する)の電界強度を計算したところ、四角形の微細孔の角部の電界強度は、丸形の微細孔の周上の電界強度よりも約1.2倍大きかった。
【0095】
なお細胞固定率とは、顕微鏡の視野に縦15個×横15個の225個の微細孔が見えるようにし、細胞を導入して固定したときの、1〜2個の細胞が入った微細孔数を225個の微細孔数で割った値で定義した。なお、以下の実施例及び比較例での細胞固定率も同じ定義である。
【0096】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約65%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約36%(=55%×65%)であると推定される。比較例1とこの結果から、後述する比較例1に対して、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められることにより微細孔への細胞固定確率がさらに向上した事がわかる。
【0097】
次に、電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約160個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して約4/10000の融合確率を得られた。これは、比較例2の通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の約20倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0098】
(実施例2)
実施例1と同じ様に、図32に示すようにITO(26)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(27)のITO成膜面にレジスト(28)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた一辺が7μmの正方形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(29)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(30)し、現像液(31)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。
【0099】
次に、微細孔付き絶縁体の親水性を評価するため、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約47°であった。そこで、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をBSA(1mg/mL)含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、同様に、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約27°であり、親水性が向上したことを確認した。
【0100】
このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(32)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0101】
次に、実施例1で用いたマウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約85%であった。この結果から、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められるとともに、微細孔付絶縁膜を親水化したことにより、微細孔への細胞固定確率が実施例1よりもさらに向上したことがわかった。
【0102】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、実施例1で用いたマウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約80%であった。この結果から、微細孔の平面形状が角を有することで、角部において電気力線の集中が生じ、誘電泳動力が高められるとともに、微細孔付絶縁膜を親水化したことにより、微細孔への細胞固定確率が実施例1よりもさらに向上したことがわかった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約68%(=85%×80%)であると推定される。
【0103】
次に、電源を直流パルス電源に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約260個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して約6.5/10000の融合確率を得られた。これは、通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の約33倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0104】
(比較例1)
図25に比較例に用いた細胞融合装置の概念図を示した。実施例1あるいは実施例2と同様に、図32に示すようにITO(26)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(27)のITO成膜面にレジスト(28)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ10μmの円形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(29)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(30)し、現像液(31)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(32)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図25に示した細胞融合容器のB−B’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0105】
引き続き、実施例1と同じマウス抗体産生細胞(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、約2分間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1個のマウス抗体産生細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1個のマウス抗体産生細胞が入る確率は約35%であった。
【0106】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、実施例1で用いたマウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1個のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1個のマウスミエローマ細胞が入る確率は約55%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約20%(=35%×55%)であると推定される。
【0107】
次に、電源を直流パルス電源に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約40個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して約1/10000の融合確率を得られた。
【0108】
(実施例3)
実施例2に用いた細胞融合装置を用いて以下の実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は0.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は2.8×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0109】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容ピペットマンを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る細胞固定率は約80%であった。
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約160万個)をスペーサーの導入口より1mL容ピペットマンを用いて注入したところ、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を微細孔において接触することができた。マウスミエローマ細胞をマウス抗体産生細胞に対して大過剰(約4倍)注入したので、このときの、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が接触する確率はほぼ100%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約80%(=80%×100%)であると推定される。
【0110】
次に、電源をパルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsのパルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、380個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して9.5/10000の融合確率を得られた。これは、比較例2で示した通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の47.5倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0111】
(実施例4)
実施例2に用いた細胞融合装置を用いて化学的細胞融合を実施した。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞を培地から取り出し、遠心分離で細胞と培地を分離し、取り出した細胞をそれぞれ分子量4000のポリエチレングリコール50%水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0112】
まずはじめに、上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウス抗体産生細胞が入る細胞固定率は70%であった。
【0113】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約160万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。
マウスミエローマ細胞をマウス抗体産生細胞に対して大過剰(約4倍)注入したので、このときの、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が接触する確率はほぼ100%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約70%(=70%×100%)であると推定される。
【0114】
次に、この状態のまま1分間静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液を取り出し培地で希釈後、遠心分離で細胞と細胞懸濁液を分離し、取り出した細胞をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、72個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して1.8/10000の融合確率を得られた。これは、比較例4に示したポリエチレングリコールを用いた通常の化学的細胞融合における融合確率0.23/10000の約7.8倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0115】
(比較例2)
比較例2として、通常の電気的細胞融合を行った。電気的細胞融合を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0116】
細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を4:1で混合し、両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0117】
上記細胞懸濁液40μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個、マウスミエローマ細胞数:15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、電圧20Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し細胞パールチェーンの形成を確認後、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsのパルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、12個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.2/10000の融合確率を得られた。
【0118】
(比較例3)
比較例3として、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を1:2で混合し比較例2と同様な実験を行ったところ、融合細胞は得られなかった。
【0119】
(比較例4)
比較例4として、ポリエチレングリコールを用いた通常の化学的細胞融合を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ6μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を10:1で混合し、両方の細胞を培地から取り出し、遠心分離で細胞と培地を分離し、取り出した細胞をそれぞれ分子量4000のポリエチレングリコール50%水溶液に懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0120】
上記細胞懸濁液40μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個、マウスミエローマ細胞数:6万個)を試験管に入れ、1分間かけて試験管の底を軽くたたいた。その後、約1分静置したあと試験管内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、14個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.23/10000の融合確率を得られた。
【0121】
(比較例5)
比較例5として、マウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を1:2で混合し比較例4と同様な実験を行ったところ、融合細胞は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。
【図2】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第1の図である。
【図3】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第2の図である。
【図4】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第3の図である。
【図5】本発明の細胞融合装置の一例を示す概念図、及び第1〜第4の実施例に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図6】図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図、及び図25に示した細胞融合容器のB−B’断面図である。
【図7】本発明に用いる交流電圧の波形の一例である。
【図8】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波を示した図である。
【図9】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波を示した図である。
【図10】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波と台形波を組み合わせた波形を示した図である。
【図11】本発明の細胞操作方法を説明する第1の図である。
【図12】本発明の細胞操作方法を説明する第2の図である。
【図13】本発明の細胞操作方法を説明する第3の図である。
【図14】図11を電気的な等価回路で表した図である。
【図15】図12を電気的な等価回路で表した図である。
【図16】図13を電気的な等価回路で表した図である。
【図17】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を示す図である。
【図18】図17に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を示す図である。
【図19】図17に示した周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電流波形を示す図である。
【図20】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を示す図である。
【図21】図20に示した周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形または電流波形を示す図である。
【図22】本発明における、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する第1の細胞の直径未満の場合の2細胞の接触を説明する概念図である。
【図23】本発明における、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する第1の細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ、微細孔の深さが第1の細胞の直径より小さい場合の2細胞の接触を説明する概念図である。
【図24】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が微細孔に固定する第1の細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ、微細孔の深さが第1の細胞の直径より大きい場合、2細胞が接触できない事を説明する概念図である。
【図25】本発明の第1の比較例に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図26】本発明における微細孔形状例の第1の図である。
【図27】本発明における微細孔形状例の第2の図である。
【図28】本発明の細胞融合方法の第1の例を示す図である。
【図29】本発明の細胞融合方法の第2の例を示す図である。
【図30】本発明の細胞融合方法の第3の例を示す図である。
【図31】微細孔近傍の電界強度を示した図である。
【図32】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【符号の説明】
【0123】
1:細胞融合領域
2:電極
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:スイッチ
8:絶縁体
9:微細孔
10:細胞A
11:細胞B
12:電気力線
13:細胞融合容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:導入口
18:排出口
19:微細孔A
20:微細孔B
21:コンデンサーA
22:第1の細胞
23:第2の細胞
24:細胞懸濁液
25:融合細胞
26:ITO
27:パイレックス(登録商標)ガラス
28:レジスト
29:露光用フォトマスク
30:露光
31:現像液
32:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
33:抵抗
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置。
【請求項2】
前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする請求項1に記載の細胞融合装置。
【請求項3】
前記微細孔の平面形状が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞融合装置。
【請求項4】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項5】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ前記微細孔の深さが、前記微細孔に固定する細胞の直径以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項6】
前記絶縁体の表面が親水性であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項7】
前記電源が、前記一対の電極に前記交流電圧を印加するための交流電源及び前記直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切替える切替え機構を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項8】
前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項9】
前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項10】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする請求項9に記載の細胞融合装置。
【請求項11】
前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする請求項10に記載の細胞融合装置。
【請求項12】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする請求項11に記載の細胞融合装置。
【請求項13】
前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の水平面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項14】
前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣合ういずれの微細孔の中心位置からも微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項13に記載の細胞融合装置。
【請求項15】
前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることを特徴とする請求項14に記載の細胞融合装置。
【請求項16】
前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項17】
前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする請求項16に記載の細胞融合装置。
【請求項18】
前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法。
【請求項19】
前記第1の細胞が脾臓細胞であることを特徴とする請求項18に記載の細胞融合方法。
【請求項20】
前記第2の細胞が癌細胞であることを特徴とする請求項18または請求項19に記載の細胞融合方法。
【請求項21】
細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第1の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、細胞融合する事を特徴とする請求項18〜20のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項22】
前記細胞膜の流動性を高める物質が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項21に記載の細胞融合方法。
【請求項23】
前記細胞融合領域内に前記第1の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に前記第2の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、前記切替え機構により、前記電源を前記交流電源から前記直流パルス電源に切替え、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする請求項18〜22のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項1】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した1または複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる細胞融合容器と、前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の平面形状が1以上の角を有する形状であることを特徴とする細胞融合装置。
【請求項2】
前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする請求項1に記載の細胞融合装置。
【請求項3】
前記微細孔の平面形状が、1つの微細孔につき1つの細胞を固定できる形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞融合装置。
【請求項4】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項5】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する細胞の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ前記微細孔の深さが、前記微細孔に固定する細胞の直径以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項6】
前記絶縁体の表面が親水性であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項7】
前記電源が、前記一対の電極に前記交流電圧を印加するための交流電源及び前記直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切替える切替え機構を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項8】
前記電源により、1つの微細孔につき1つの細胞を微細孔に固定する波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項9】
前記電源により、前記細胞の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項10】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする請求項9に記載の細胞融合装置。
【請求項11】
前記交流電圧の波形が、矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする請求項10に記載の細胞融合装置。
【請求項12】
前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が細胞の静電容量と細胞を含有する細胞懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする請求項11に記載の細胞融合装置。
【請求項13】
前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の水平面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項14】
前記絶縁体に形成される微細孔の中心位置が、前記絶縁体の水平面において、隣合ういずれの微細孔の中心位置からも微細孔の中心位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項13に記載の細胞融合装置。
【請求項15】
前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる細胞の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることを特徴とする請求項14に記載の細胞融合装置。
【請求項16】
前記スペーサーが、細胞融合領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の細胞融合装置。
【請求項17】
前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする請求項16に記載の細胞融合装置。
【請求項18】
前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入した後、前記細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合する方法であって、前記第1の細胞の直径が前記第2の細胞の直径よりも小さく、かつ前記第1の細胞数よりも前記第2の細胞数が多いとともに、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ細胞融合することを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の細胞融合装置を用いた細胞融合方法。
【請求項19】
前記第1の細胞が脾臓細胞であることを特徴とする請求項18に記載の細胞融合方法。
【請求項20】
前記第2の細胞が癌細胞であることを特徴とする請求項18または請求項19に記載の細胞融合方法。
【請求項21】
細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第1の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞膜の流動性を高める物質を加えた細胞懸濁液に入れた前記第2の細胞を前記細胞融合領域内に導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、細胞融合する事を特徴とする請求項18〜20のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項22】
前記細胞膜の流動性を高める物質が、ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項21に記載の細胞融合方法。
【請求項23】
前記細胞融合領域内に前記第1の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に前記第2の細胞を導入し、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、前記切替え機構により、前記電源を前記交流電源から前記直流パルス電源に切替え、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合することを特徴とする請求項18〜22のいずれかに記載の細胞融合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2008−194029(P2008−194029A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312(P2008−312)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]