説明

細胞表面機能分子の細胞外領域多量体

【課題】細胞表面機能分子の機能を薬理的に制御する物質として、抗体と同等またはそれ以上の特異性と活性ないし有効性を有し、その医薬品化のための高度な製造技術と設備を必要としない物質の提供。
【解決手段】本発明は、細胞表面機能分子の細胞外領域の多量体、特に、PD−1またはPD−L1の細胞外領域四量体に関する。さらに、これら四量体の癌もしくは癌転移、免疫不全症もしくは感染症等に対する予防および/または治療薬としての用途ならびにPD−1もしくはPD−L1の上記疾患の検査もしくは診断薬または研究試薬としての用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞表面機能分子の細胞外領域を多量体化したポリペプチド、その誘導体、それらを有効成分として含有する医薬組成物、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドによる形質転換体、およびそれらの製造方法、ならびにそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係るPD−1(Programmed Cell Death 1)(PDCD1とも称される。)は、50〜55kDのタイプI膜型糖タンパクである(非特許文献1参照)。その発現は胸腺細胞においてはCD4CD8細胞の分化の際に、末梢においては活性化したCD4CD8細胞、T細胞、B細胞および単球に認められる。
【0003】
PD−1は、その細胞内領域にITIMモチーフおよびITSMモチーフを有し、これらが抑制性ドメインとして機能している。これらドメインにはホスファターゼであるSHP−1およびSHP−2が相互作用し、T細胞受容体複合体に対する抑制機能を担っていると解されている。
【0004】
PD−1遺伝子は、全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患の原因遺伝子の一つであることが報告されている(非特許文献2参照)。また、PD−1欠損マウスは糸球体腎炎や関節炎等のループス様自己免疫疾患(非特許文献3、非特許文献4参照)や拡張性心筋症様疾患(非特許文献5参照)を発症することから、PD−1が自己免疫疾患発症、特に、末梢自己免疫寛容の制御因子であることも示唆されている。
【0005】
これまでに、PD−1のリガンドとして、PD−L1(Programmed Death Ligand 1)(PDCD1L1あるいはB7−H1とも称される。)(非特許文献6参照)およびPD−L2(Programmed Death Ligand 2)(PDCD1L2あるいはB7−DCとも称される。)(非特許文献7参照)が同定されている。
【0006】
PD−L1は免疫細胞だけでなく、ある種の腫瘍細胞株(単球性白血病由来細胞株、肥満細胞種由来細胞株、肝癌由来細胞株、神経芽細胞種由来細胞株、乳癌由来各種細胞株)やヒトの様々なガン組織由来の癌細胞においても、その発現が確認されている(非特許文献7参照)。同様に、PD−L2もホジキンリンパ腫細胞株等においてその発現が確認されている。そのような癌細胞あるいは腫瘍細胞の中には、自らに対するT細胞による免疫反応を抑制ないし遮断するために、PD−1とPD−L1あるいはPD−L2の相互作用を利用しているのではないかという仮説が提唱されている(非特許文献8参照)。
【0007】
PD−1の免疫抑制活性あるいはPD−1とPD−L1あるいはPD−L2との相互作用を阻害する物質とその用途に関して報告されている。PD−1阻害抗体あるいはPD−1阻害ペプチドについては、特許文献1、特許文献2および特許文献3等において報告されている。一方、PD−L1阻害抗体あるいはPD−L1阻害ペプチドについては、特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7において報告されている。また、PD−L2阻害抗体あるいはPD−L2阻害ペプチドについては、特許文献5および特許文献8において報告されている。
【0008】
しかしながら、本発明のPD−1、PD−L1またはPD−L2の細胞外領域の多量体に関する報告はされていない。また、これら多量体がPD−1等の細胞表面機能分子の検出のための特異性の高い標識薬として使用できることも報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−507491号公報
【特許文献2】国際公開第2004/004771号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/056875号パンフレット
【特許文献4】特表2004−533226号公報
【特許文献5】特表2005−509421号公報
【特許文献6】国際公開第2002/086083号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2001/039722号パンフレット
【特許文献8】特表2004−501631号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Shinohara T,外4名,「ジェノミックス(Genomics.)」,1994年,第23巻,第3号,p.704−706
【非特許文献2】Prokunina L,外23名,「ネーチャー ジェネティックス(Nature Genetics)」,2002年,第32巻,第4号,p.666−669
【非特許文献3】Nishimura H,外3名,「インターナショナル イムノロジー(International Immunology)」,1998年,第10巻,第10号,p.1563〜1572
【非特許文献4】Nishimura H,外4名,「イムニティー(Immunity)」,1999年,第11巻,第2号,p.141〜151
【非特許文献5】Nishimura H,外10名,「サイエンス(Science)」,2001年,第291巻,第5502号,p.319〜332
【非特許文献6】Freeman GJ,外18名,「ジャーナル オブ エクスペリメンタル メディスン(Journal of Experimental Medicine)」,2000年,第19巻,第7号,p.1027〜1034
【非特許文献7】Latchman Y,外20名,「ネーチャー イムノロジー(Nature Immunology)」,2001年,第2巻,第3号,p.261〜267
【非特許文献8】Iwai Y,外5名,「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ジ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」,2002年,第99巻,第19号,p.12293−12297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
細胞表面機能分子の機能を薬理学的に制御する物質として、その細胞表面機能分子に対する抗体あるいはその細胞表面機能分子のリガンドを改変したデコイ等が挙げられる。
【0012】
一般に抗体を医薬品化する場合、抗原性を回避するためにヒト化またはヒト型抗体としなければならないが、ヒト化もしくはヒト型抗体の開発および生産には非常に高度な技術と設備を要する。一方、デコイを医薬品化する場合、抗体医薬ほどの高度な技術や設備を必要としないが、その活性ないし有効性の低さがその妨げとなっている。
【0013】
これらの課題を解決する物質、すなわち、抗体と同等あるいはそれ以上の特異性と活性ないし有効性を有し、その医薬品化のための高度な製造技術と設備を必要としない物質が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、細胞表面機能分子の細胞外領域の多量体が係る課題を解決することを見出し、その一例として、PD−1またはそのリガンドであるPD−L1もしくはPD−L2の細胞外領域多量体に関する発明を完成させた。
【0015】
さらに、発明者らは、これら多量体が免疫増強作用を有することを確認することによって、癌もしくは癌転移、免疫不全症または感染症等に対する予防および/または治療薬となることを見出した。一方、本発明者らは、抗体が免疫細胞表面上のFc受容体に結合することにより非特異的結合を生じる場合があることに注目し、このような細胞外領域多量体がそのリガンドである細胞表面機能分子に特異的に結合する特性を確認し、その標識体が上記疾患の検査もしくは診断薬または細胞表面機能分子の研究試薬として有用であることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体。
(2)PD−1の細胞外領域が、直接にまたはペプチドリンカーを介して、直列に結合された構成を有する前記1記載の多量体。
(3)PD−1の細胞外領域が、ヒトもしくはマウスPD−1の25〜145番目の領域を構成する1〜3個のアミノ酸が他のアミノ酸によって置換された当該領域である前記(1)記載の多量体。
(4)PD−1の細胞外領域の数が、4個である前記(1)記載の多量体。
(5)PD−1の細胞外領域が、ペプチドリンカーを介して、直列に結合された構成を有する前記(2)記載の多量体。
(6)2〜15個のアミノ酸からなるペプチドリンカーである前記(5)記載の多量体。
(7)配列番号1または3で表わされるアミノ酸配列を有する前記(6)記載の多量体。
(8)前記(1)記載の多量体をコードするポリヌクレオチド。
(9)前記(7)記載の多量体をコードする前記(8)記載のポリヌクレオチド。
(10)配列番号2または4で表わされる塩基配列を有する前記(9)記載のポリヌクレオチド。
(11)前記(8)記載のポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクター。
(12)前記(11)記載の発現ベクターにより形質転換された形質転換体。
(13)PD−L1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体。
(14)PD−L1の細胞外領域が、直接にまたはリンカーを介して、直列に結合された構成を有する前記(13)記載の多量体。
(15)PD−L1の細胞外領域がヒトPD−L1の18〜230番目の領域またはマウスPD−L1の18〜229番目の領域を構成する1〜3個のアミノ酸が他のアミノ酸によって置換された当該領域である前記(13)記載の多量体。
(16)PD−L1の細胞外領域の数が、4個である前記(13)記載の多量体。
(17)PD−L1の細胞外領域が、ペプチドリンカーを介して、直列に結合された構成を有する前記(14)記載の多量体。
(18)2〜15個のアミノ酸からなるペプチドリンカーである前記(17)記載の多量体。
(19)配列番号5または7で表わされるアミノ酸配列を有する前記(18)記載の多量体。
(20)前記(13)記載の多量体をコードするポリヌクレオチド。
(21)前記(19)記載の多量体をコードする前記(20)記載のポリヌクレオチド。
(22)配列番号6または8で表わされる塩基配列を有する前記(21)記載のポリヌクレオチド。
(23)前記(22)記載のポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクター。
(24)前記(23)記載の発現ベクターにより形質転換された形質転換体。
(25)(i)前記(12)または(24)記載の形質転換体を培養する工程、(ii)その形質転換体を超音波、リゾチーム処理および/または凍結融解により破壊する工程ならびに(iii)塩析もしくは溶媒沈澱法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法もしくはSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーおよび/または等電点電気泳動法により精製する工程を含む前記(1)または(13)記載の多量体の製造方法。
(26)前記(1)または(13)記載の多量体を有効成分として含有してなる医薬組成物。
(27)癌もしくは癌転移、免疫不全症または感染症に対する予防および/または治療剤である前記(26)記載の医薬組成物。
(28)前記(1)または(13)記載の多量体と、化学療法薬、癌治療補助薬、免疫賦活薬、癌抗原、抗ウイルス薬、抗生物質製剤、抗菌薬、真菌症治療薬およびワクチンから選択される1種以上を組み合わせてなる医薬。
(29)PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、癌もしくは癌転移、免疫不全症、および感染症から選択される疾患の予防および/または治療方法。
(30)癌もしくは癌転移、免疫不全症および感染症から選択される疾患の予防および/または治療剤を製造するための、PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体の使用。
(31)PD−L1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、癌もしくは癌転移、免疫不全症、および感染症から選択される疾患の予防および/または治療方法。
(32)癌もしくは癌転移、免疫不全症および感染症から選択される疾患の予防および/または治療剤を製造するための、PD−L1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体の使用。
(33)PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体からなるPD−L1検出薬。
(34)PD−L1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体からなるPD−1検出薬。
【発明の効果】
【0017】
本発明のPD−1またはPD−L1の細胞外領域の多量体は、それぞれのリガンドであるPD−L1およびPD−1に対する強力な拮抗活性を有し、リンパ球細胞の増殖を刺激し、その細胞障害活性を増強する作用を有する。
また、それら多量体の標識体は、抗体に少なからず認められる非特異的な結合を全く示さず、それぞれのリガンドを非常に特異的に認識することができる検出試薬として優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例2におけるPD−1およびPD−L1の細胞外領域の調製とその解析を示す。
【図2】実施例4におけるPD−1四量体およびPD−L1四量体のフローサイトメトリーでの結合解析を示す。
【図3】実施例5におけるPD−L1四量体の表面プラズモン共鳴解析を示す。
【図4】実施例6〜8におけるPD−L1四量体の細胞結合阻害、細胞増殖刺激および細胞傷害活性増強作用の解析を示す。
【図5】実施例9におけるPD−L1四量体の結合特異性の解析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[多量体]
本発明において「多量体」は、細胞表面機能分子の細胞外領域を2〜10個含んだ構成を有するポリペプチドまたはその塩をいい、以下、「本発明の多量体」と略記することがある。ここで、多量体を構成する「細胞表面機能分子の細胞外領域」としては、例えば、野生型の細胞表面機能分子の細胞外領域が分離されたものや遊離型の細胞表面機能分子の全部または一部等が挙げられる。さらに、その細胞外領域あるいは遊離型の細胞表面機能分子の機能と同じ機能を有するものであって、そのアミノ酸配列中の一部のアミノ酸(好ましくは1〜3個、より好ましくは1個)が欠失、他のアミノ酸への置換もしくは挿入されたものおよびそれらが組み合わされた改変を有するもの(以下、「細胞外領域等」と略記することがある。)も含まれる。ここで、上記アミノ酸の欠失、置換または挿入の位置および置換アミノ酸の種類は特に限定されないが、そのリホールディングあるいは結合活性の向上等のために行われる改変が好ましい。
【0020】
本発明において、細胞表面機能分子の細胞外領域が「直接にかつ直列に結合された構成を有する」とは、細胞外領域等のC末端が直接に他の細胞外領域等のN末端に結合された構造を有することを意味する。
【0021】
本発明において、細胞表面機能分子の細胞外領域が「ペプチドリンカーを介して直列に結合された構成を有する」とは、細胞外領域等のC末端がペプチドリンカーを介して他の細胞外領域等のN末端に結合された構成を有することを意味する。本発明において「ペプチドリンカー」は、2〜15個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、本発明の多量体をコードするポリヌクレオチドの一部としてコードされていてもよい。
【0022】
さらに、本発明の多量体は、細胞表面機能分子の細胞外領域が非ペプチドリンカーを介して結合された構成を有するものをも含む。ここで、「細胞表面機能分子の細胞外領域が非ペプチドリンカーを介して結合された構成」には、そのいずれかの末端が非ペプチド性のリンカーを介して相互に結合された構成および適当な担体に対してそれぞれの細胞外領域等が結合した構成が含まれる。
【0023】
本発明の多量体は、そのC末端がカルボキシル基、アミド基またはエステル基のいずれのものであってもよい。本発明の多量体がC末端以外にカルボキシル基を有している場合、そのカルボキシル基がアミド化またはエステル化されていてもよい。
【0024】
本発明の多量体は、そのN末端のアミノ酸残基(例えば、メチオニン残基等)のアミノ基が保護基(例えば、C1〜6アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基等)等)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基等)が適当な保護基(例えば、C1〜6アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基等)等)で保護されているものあるいは糖鎖が結合したものであってもよい。
【0025】
本発明の多量体の塩としては、薬学的に許容される塩が好ましい。その塩としては、アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン(例えば、テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N−メチル−D−グルカミン等)の塩、酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩もしくは硝酸塩のような無機酸塩または酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩もしくはグルコン酸塩のような有機酸塩)等が挙げられ、さらに、本発明の多量体の塩は水溶性のものが好ましい。
また、本発明の多量体の塩は、溶媒和物に変換することもできる。溶媒和物は非毒性かつ水溶性であることが好ましい。適当な溶媒和物としては、例えば、水、アルコール系の溶媒(例えば、エタノール等)のような溶媒との溶媒和物が挙げられる。
【0026】
本発明に係る細胞表面機能分子であるPD−1としては、ヒトPD−1(以下、hPD−1と略記することがある。)およびそれに相当する哺乳動物の免疫受容体が挙げられる。ここで、哺乳動物にはチンパンジー、カニクイザル、マウス、ラット、モルモット、イヌおよびブタ等が含まれる。特に、ヒトPD−1はGenBank Accession.No.NP_005009あるいはNP_005009.1により同定されるアミノ酸配列で構成され、マウスPD−1(以下、mPD−1と略記することがある。)は同番号NP_032824あるいはNP_032824.1により同定されるアミノ酸配列で構成される。
【0027】
PD−L1としては、ヒトPD−L1(以下、hPD−L1と略記することがある。)およびそれに相当する哺乳動物の免疫受容体が挙げられる。ここで、哺乳動物にはチンパンジー、カニクイザル、マウス、ラット、モルモット、イヌおよびブタ等が含まれる。特に、ヒトPD−L1は同番号NP_054862あるいはNP_054862.1により同定されるアミノ酸配列で構成され、マウスPD−L1(以下、mPD−L1と略記することがある。)は同番号NP_068693あるいはNP_068693.1により同定されるアミノ酸配列で構成される。
【0028】
PD−L2としては、ヒトPD−L2(以下、hPD−L2と略記することがある。)およびそれに相当する哺乳動物の免疫受容体が挙げられる。ここで、哺乳動物にはチンパンジー、カニクイザル、マウス、ラット、モルモット、イヌおよびブタ等が含まれる。特に、ヒトPD−L2は同番号NP_079515あるいはNP_079515.1により同定されるアミノ酸配列で構成され、マウスPD−L2(以下、mPD−L2と略記することがある。)は同番号NP_067371あるいはNP_067371.1により同定されるアミノ酸配列で構成される。
【0029】
PD−1の細胞外領域としては、hPD−1の場合、上記のhPD−1のアミノ酸配列1〜167番目領域中の任意の領域であって、PD−L1またはPD−L2に対する結合活性を保持する領域が挙げられ、mPD−1の場合、上記のmPD−1のアミノ酸配列1〜169番目領域中の任意の領域であって、PD−L1またはPD−L2に対する結合活性を保持する領域が挙げられる。
【0030】
PD−L1の細胞外領域としては、hPD−L1の場合、上記のhPD−L1のアミノ酸配列1〜238番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域が挙げられ、mPD−L1の場合、上記のmPD−L1のアミノ酸配列1〜237番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域が挙げられる。
【0031】
PD−L2の細胞外領域とは、hPD−L2の場合、上記のhPD−L2のアミノ酸配列1〜220番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域が挙げられ、mPD−L2の場合、上記のmPD−L2のアミノ酸配列1〜219番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域が挙げられる。
【0032】
本発明の多量体を医薬、検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合、PD−1として好ましくはhPD−1であり、その細胞外領域として好ましくは上記のhPD−1のアミノ酸配列25〜145番目の領域である。なお、検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合には、mPD−1も好ましく、その細胞外領域として好ましくは、上記のmPD−1のアミノ酸配列25〜145番目の領域である。
【0033】
本発明の多量体を医薬、検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合、PD−L1として好ましくはhPD−L1であり、その細胞外領域として好ましくは上記のhPD−L1のアミノ酸配列18〜230番目の領域である。なお、検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合には、mPD−L1も好ましく、その細胞外領域として好ましくは上記のmPD−L1のアミノ酸配列18〜229番目の領域である。
【0034】
なお、上記の各細胞外領域は、タンパク質の発現効率あるいはリホールディング効率の向上その他の理由により、そのアミノ酸配列中の一部のアミノ酸(好ましくは1〜3個、より好ましくは1個)が他の至適なアミノ酸へ置換されていてもよい。
【0035】
本発明の多量体のうち、その細胞外領域部分がPD−1の細胞外領域である多量体として好ましくは、PD−1の細胞外領域がペプチドリンカーを介して2〜10個直列に結合された多量体であり、より好ましくは2〜6個直列に結合された多量体であり、さらに好ましくは4個直列に結合された多量体、すなわち、PD−1四量体である。一方、細胞外領域部分がPD−L1の細胞外領域である多量体として好ましくは、PD−L1の細胞外領域がペプチドリンカーを介して2〜10個直列に結合された多量体であり、より好ましくは2〜6個直列に結合された多量体であり、さらに好ましくは4個直列に結合された多量体、すなわち、PD−L1四量体である。
【0036】
ここで、ペプチドリンカーとして好ましくは、その長さが4〜8アミノ酸のペプチドであり、より好ましくは6アミノ酸のペプチドである。また、ペプチドリンカーは、本発明の多量体が医薬として使用される場合、ヒトに対する抗原性が無いかあるいは治療上許容できる程度のものが好ましい。
【0037】
本発明の多量体のうち、hPD−1四量体として好ましくは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドであり、mPD−1四量体として好ましくは、配列番号3で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドであり、hPD−L1四量体として好ましくは、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドであり、mPD−L1四量体として好ましくは、配列番号7で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドである。なお、配列表に表わされるアミノ酸配列中の「Xaa」は不特定の1アミノ酸を表わす。
【0038】
また、本発明の多量体のうち、細胞表面機能分子の細胞外領域が非ペプチドリンカーを介して結合された構成のものとして、その細胞外領域部分がPD−1の細胞外領域であって、それらが非ペプチドリンカーを介して結合された多量体およびその細胞外領域部分がPD−L1の細胞外領域であって、それらが非ペプチドリンカーを介して結合された多量等が挙げられる。このような多量体には、細胞表面機能分子の細胞外領域等の末端に付加されたペプチド内のリシル側鎖をビオチンリガーゼ(例えば、BirA)でビオチン化し、アビジンもしくはストレプトアビジン誘導体あるいはそれらが付加された適当な担体に結合させた構成を有するものも含まれる。
【0039】
本発明において「非ペプチドリンカー」としては、任意の長さのPEG等のスペーサーの両末端に、ビオチン、スクシンイミジル誘導体、マレイミド誘導体およびヒドラジド誘導体等から任意に選択された反応基あるいは相互作用基が付加されたもの、シクロデキストリンの水酸基に塩化シアヌルを架橋させたもの、その他市販のものが挙げられる。
【0040】
本発明の多量体が、非ペプチドリンカーを介して結合されて構成される場合においても、細胞外領域の個数として好ましくは2〜6個であり、より好ましくは4個である。
【0041】
[多量体をコードするポリヌクレオチド]
本発明において「多量体をコードするポリヌクレオチド」としては、本発明の多量体をコードする塩基配列を有するものであれば、いずれのものであってもよい。例えば、野生型の細胞表面機能分子の細胞外領域をコードするポリヌクレオチドが、直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して、2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0042】
さらに、そのポリヌクレオチドには、それがコードするポリペプチドの一部のアミノ酸(好ましくは1〜3個、より好ましくは1個)が欠失、他のアミノ酸への置換もしくは挿入またはそれらが組み合わされた改変がされるよう改変されたものが含まれる。例えば、本発明の多量体を構成するアミノ酸に対応するコドンのうち、PheにはTTTまたはTTC、LeuにはTTA、TTG、CTT、CTC、CTAまたはCTG、IleにはATT、ATCまたはATA、MetにはATG、ValにはGTT、GTC、GTAまたはGTG、SerにはTCT、TCC、TCAまたはTCG、ProにはCCT、CCC、CCAまたはCCG、ThrにはACT、ACC、ACAまたはACG、AlaにはGCT、GCC、GCAまたはGCG、TyrにはTATまたはTAC、HisにはCATまたはCAC、GlnにはCAAまたはCAG、AsnにはAATまたはAAC、LysにはAAAまたはAAG、AspにはGATまたはGAC、GluにはGAAまたはGAG、CysにはTGTまたはTGC、TrpにはTGG、ArgにはCGT、CGC、CGAまたはCGG、SerにはAGTまたはAGC、ArgにはAGAまたはAGG、およびGlyにはGGT、GGC、GGAまたはGGGにそれぞれ対応しているので、本発明の多量体をコードするポリヌクレオチドには、本発明の多量体のアミノ酸配列中の各アミノ酸に対応する各コドンが任意に組み合わされたポリヌクレオチドが含まれる。特に、本発明の形質転換体における多量体の発現効率を向上させるために、その一部が対応する他のコドンに置換される場合がある。本発明のポリヌクレオチドは、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、RNA、DNA−RNAハイブリッドのいずれでもよい。なお、以下において、本発明の多量体をコードするポリヌクレオチドを「本発明のポリヌクレオチド」と略記することがある。
【0043】
PD−1をコードするポリヌクレオチドには、hPD−1およびその他哺乳動物由来のcDNAが挙げられる。ここで、哺乳動物にはチンパンジー、カニクイザル、マウス、ラット、モルモット、イヌおよびブタ等が含まれる。特に、hPD−1cDNAは、同番号NM_005018あるいはNM_005018.1により同定される塩基配列で構成され、mPD−1cDNAは、同番号NM_008798あるいはNM_008798.1より同定される塩基配列で構成される。
【0044】
PD−L1をコードするポリヌクレオチドには、hPD−L1およびその他哺乳動物由来のcDNAが挙げられる。ここで、哺乳動物にはチンパンジー、カニクイザル、マウス、ラット、モルモット、イヌおよびブタ等が含まれる。特に、hPD−L1cDNAは同番号NM_014143、NM_014143.1あるいはNM_014143.2により同定される塩基配列で構成され、mPD−L1cDNAは同番号NM_021893、NM_021893.1あるいはNM_021893.2により同定される塩基配列で構成される。
【0045】
PD−L2をコードするポリヌクレオチドには、hPD−L2およびその他哺乳動物由来のcDNAが挙げられる。ここで、哺乳動物にはチンパンジー、カニクイザル、マウス、ラット、モルモット、イヌおよびブタ等が含まれる。特に、hPD−L2cDNAは同番号NM_025239、NM_025239.1あるいはNM_025239.2により同定される塩基配列で構成され、mPD−L2cDNAはNM_021396あるいはNM_021396.1により同定される塩基配列で構成される。
【0046】
本発明の多量体の細胞外領域部分がPD−1の細胞外領域である、本発明のポリヌクレオチドとしては、上記のhPD−1の細胞外領域(アミノ酸配列1〜167番目領域中の任意の領域であって、PD−L1またはPD−L2に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチド、上記のmPD−1の細胞外領域(アミノ酸配列1〜169番目領域中の任意の領域であって、PD−L1またはPD−L2に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0047】
また、本発明の多量体の細胞外領域部分がPD−L1の細胞外領域である、本発明のポリヌクレオチドとしては、上記のhPD−L1の細胞外領域(アミノ酸配列1〜238番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチド、上記のmPD−L1の細胞外領域(アミノ酸配列1〜237番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0048】
同様に、本発明の多量体の細胞外領域部分がPD−L2の細胞外領域である、本発明のポリヌクレオチドとしては、上記のhPD−L2の細胞外領域(アミノ酸配列1〜220番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチド、上記のmPD−L2の細胞外領域(アミノ酸配列1〜219番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0049】
ここで、「ペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチド」とは、上記2〜15個のアミノ酸長のペプチドリンカーをコードする6〜45塩基長を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドのうち、細胞外領域部分がPD−1の細胞外領域である本発明のポリヌクレオチドとして好ましくは、本発明の多量体を医薬、検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合には、上記のhPD−1の細胞外領域(アミノ酸配列25〜145番目領域中の任意の領域であって、PD−L1またはPD−L2に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドがペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドである。
【0051】
一方、本発明の多量体を検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合には、上記のmPD−1の細胞外領域(アミノ酸配列25〜145番目領域中の任意の領域であって、PD−L1またはPD−L2に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドがペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドも好ましい。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドのうち、細胞外領域部分がPD−L1の細胞外領域である本発明のポリヌクレオチドとして好ましくは、本発明の多量体を医薬、検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合には、上記のhPD−L1の細胞外領域(アミノ酸配列18〜230番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドである。
【0053】
一方、本発明の多量体を検査もしくは診断薬または研究試薬として使用する場合には、上記のmPD−L1の細胞外領域(アミノ酸配列18〜229番目領域中の任意の領域であって、PD−1に対する結合活性を保持する領域)をコードするポリヌクレオチドが直接にまたはペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して2〜10個直列に結合された構成を有するポリヌクレオチドも好ましい。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドにおいて、さらに好ましくは、タンパク質の発現効率あるいはリホールディング効率の向上その他の理由により、そのアミノ酸配列中の一部のアミノ酸(好ましくは1〜3個、より好ましくは1個)が他の至適なアミノ酸へ置換されたものをコードするポリヌクレオチドである。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドにおいて、本発明の多量体を構成する細胞外領域をコードするポリヌクレオチドの個数として好ましくは2〜6個であり、より好ましくは4個である。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドにおける「ペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチド」として好ましくは、上記4〜8個のアミノ酸長のペプチドリンカーをコードする12〜24塩基長を有するポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは18塩基長を有するポリヌクレオチドである。
【0057】
本発明のポリヌクレオチドのうち、hPD−1四量体をコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号2で表わされる塩基配列を有するポリヌクレオチドである。mPD−1四量体をコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号3で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号4で表わされる塩基配列を有するポリヌクレオチドである。hPD−L1四量体をコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号6で表わされる塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
mPD−L1四量体をコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号7で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号8で表わされる塩基配列を有するポリヌクレオチドである。なお、配列表に表わされる塩基配列中の「n」は不特定の1塩基を表わす。
【0058】
[発現ベクター]
本発明の多量体をコードするポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターと略記することがある。)は、本発明の多量体をコードするポリヌクレオチドを適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより調製することができる。その調製は遺伝子組み換え手法に関する公知の方法または実施例に準じた方法により行うことができる。ここで、発現ベクターとしては、例えば、大腸菌用発現ベクター(例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13その他一般に市販されているもの)、枯草菌由来プラスミド(例えば、pUB110、pTP5、pC194その他一般に市販されているもの)、酵母用発現ベクター(例えば、pSH19、pSH15その他一般に市販されているもの)、動物細胞用発現ベクター(例えば、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoその他一般に市販されているもの)、バクテリオファージ(例えば、λファージ等)または動物ウイルス(例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等)を用いることができる。
【0059】
[形質転換体]
本発明の形質転換体の宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫および動物細胞等が挙げられる。
【0060】
エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)(例えば、K12・DH1、JM103、JA221、HB101、およびC600等)が用いられる。
【0061】
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)(例えば、MI114および207−21等)が挙げられる。
【0062】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)等が挙げられる。
【0063】
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、Sf細胞(例えば、Sf9細胞およびSf21細胞)、MG1細胞およびHigh FiveTM細胞等が用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、BmN細胞等が用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫等が用いられる。
【0064】
動物細胞としては、本発明の発現ベクターにより一過的、継続的または安定的に形質転換される細胞であれば、いずれの細胞であってもよい。より好ましくは、安定的に形質転換される細胞であって、本発明の多量体を継続的または安定的に発現することができる細胞であり、例えば、COS1細胞、COS7細胞、CHO細胞、CHO−K1細胞、HEK293細胞、U937細胞、Jurkat細胞、Hela細胞、Daudi細胞、K562細胞、マウスL細胞、NIH3T3細胞、A549細胞、BHK−21細胞、BRL−3A細胞、HepG2細胞、HUVEC細胞、PC12細胞、RAW264.7細胞、THP−1細胞およびL929細胞等が挙げられる。
【0065】
本発明の形質転換体は、本発明の発現ベクターで宿主を形質転換することによって調製することができる。形質転換は、宿主の種類に応じて、公知の方法あるいは実施例に準じた方法に従って実施することができる。また、上記した宿主は、寄託機関等から入手することができる。
【0066】
[ポリヌクレオチドの製造方法]
本発明の多量体をコードするポリヌクレオチドは、公知の方法あるいは実施例に準じた方法に従って製造することができる。例えば、本発明の多量体を構成する細胞表面機能分子の細胞外領域の一部をコードする合成DNAプライマーを用いてPCR法により増幅することによって製造することができる。PCR法は、公知の方法あるいは実施例に準じた方法に従って実施することができる。以上の方法によって得られた本発明の多量体をコードするポリヌクレオチドは、これを含有するベクターを適当な宿主に導入し、これを増殖させることによって、必要量得ることができる。
【0067】
[多量体の製造および精製方法]
本発明の多量体は、上記形質転換体を培養し、その菌体あるいは細胞内で生産あるいは分泌させる方法によって製造することができる。例えば、本発明の多量体を培養菌体から抽出する場合、公知の方法で集めた菌体を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解等によって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性蛋白質の粗抽出液を得る方法等が適宜用いられる。その緩衝液は、尿素や塩酸グアニジン等の蛋白質変性剤やTRITON(登録商標)X−100等の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0068】
得られた可溶性蛋白質の粗抽出液中に含まれる本発明の多量体の分離精製は、公知の方法または実施例に準じた方法に従って実施することができる。例えば、塩析や溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、疎水性クロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法等の等電点の差を利用する方法等で実施することができ、さらに、これらの方法を適宜組み合わせて実施することができる。
【0069】
上記方法によって得られた本発明の多量体が遊離体である場合には、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって、その遊離体を塩に変換することができる。
【0070】
さらに、本発明の多量体は、上記の本発明のポリヌクレオチドを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等からなる無細胞蛋白質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても製造することができる。また、RNAポリメラーゼを含む無細胞転写/翻訳系を用いて、本発明のポリヌクレオチドを鋳型としても製造することができる。
【0071】
本発明の多量体を他のタンパク質あるいはタグ(例えば、抗体のFc領域、グルタチオンSトランスフェラーゼ、プロテインAおよびヘキサヒスチジン等)との融合タンパク質として発現させることもできる。その融合タンパク質は、アフィニティークロマトグラフィーによる精製および/または適当なプロテアーゼ(例えば、エンテロカイネース、トロンビン等)による切り出しができ、効率よく精製できる。
【0072】
[医薬への適用]
免疫療法はヒトが元来備え持っている免疫反応を外因的方法によって賦活化させる方法であるため、患者に対する負担が少なく、従来の投薬療法による副作用の軽減が期待できる。特に、癌治療における化学療法は患者に対して大きな負担を課す方法であるため、この負担を軽減させる療法として期待されている。
【0073】
免疫の賦活化は、ある種のT細胞の免疫反応を活性化させる方法で行なうことができる。この活性化に必要なT細胞受容体複合体からの活性化シグナルは、通常、これに共役する免疫抑制受容体による抑制を受けている。よって、この免疫抑制受容体の機能を制御することできれば、T細胞活性化ないし免疫の賦活化の有効な手段となる。
【0074】
本発明に係るPD−1はT細胞における免疫抑制受容体として機能していると解されるため、本発明のPD−1またはPD−L1もしくはPD−L2の細胞外領域のそれぞれの多量体またはそれらを有効成分とする医薬は、癌もしくは癌転移の予防および/または治療、さらには、免疫不全症または感染症の予防および/または治療に用いることができる。
【0075】
本発明のPD−1またはPD−L1もしくはPD−L2の細胞外領域のそれぞれの多量体またはそれらを有効成分とする医薬の投与により、その予防および/または治療が期待できる癌または腫瘍として、例えば、舌癌、歯肉癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫(メラノーマ)、上顎癌、鼻癌、鼻腔癌、喉頭癌、咽頭癌、神経膠腫、髄膜腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、甲状乳頭腺癌、甲状腺濾胞癌、甲状腺髄様癌、原発性肺癌、扁平上皮癌、腺癌、肺胞上皮癌、大細胞性未分化癌、小細胞性未分化癌、カルチノイド、睾丸腫瘍、前立腺癌、乳癌(例えば、乳頭腺癌、面疱癌、粘液癌、髄様癌、小葉癌、硬癌肉腫、転移腫瘍)、乳房ページェット病、乳房肉腫、骨腫瘍、甲状腺癌、胃癌、肝癌、急性骨髄性白血病、急性前髄性白血病、急性骨髄性単球白血病、急性単球性白血病、急性リンパ性白血病、急性未分化性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病、悪性リンパ腫(例えば、リンパ肉腫、細網肉腫、ホジキン病等)、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、小児性白血病、食道癌、胃癌、胃・大腸平滑筋肉腫、胃・腸悪性リンパ腫、膵・胆嚢癌、十二指腸癌、大腸癌、原発性肝癌(例えば、肝細胞癌、胆管細胞癌等)、肝芽腫、子宮上皮内癌、子宮頸部扁平上皮癌、子宮腺癌、子宮腺扁平上皮癌、子宮体部腺類癌、子宮肉腫、子宮癌肉腫、子宮破壊性奇胎、子宮悪性絨毛上皮腫、子宮悪性黒色腫、卵巣癌、中胚葉性混合腫瘍、腎癌、腎盂移行上皮癌、尿管移行上皮癌、膀胱乳頭癌、膀胱移行上皮癌、尿道扁平上皮癌、尿道腺癌、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、滑液膜肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、ユーイング肉腫、皮膚扁平上皮癌、皮膚基底細胞癌、皮膚ボーエン病、皮膚ページェット病、皮膚悪性黒色腫、悪性中皮癌、転移性腺癌、転移性扁平上皮癌、転移性肉腫および中皮腫(例えば、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫等)等が挙げられる。
【0076】
本発明のPD−1またはPD−L1もしくはPD−L2の細胞外領域のそれぞれの多量体またはそれらを有効成分とする医薬の効果は、動物腫瘍モデルにおいて評価することができる。動物腫瘍モデルとして、例えば、A/Jマウスに適当数のSa1N腫瘍細胞を皮下移入するモデル(国際公開第2000/037504号パンフレット)、C57BL/6マウスに適当数のB16メラノーマ細胞(International Immunology, 2004年, 第17号, 第2号, p.133-144)あるいはMC38結直腸癌細胞(国際公開第2006/121168号パンフレット)を皮下移入するモデル、DBA/2マウスに適当数のP815肥満細胞腫由来細胞を皮下移入するモデル(Proc Natl Acad Sci USA., 2002年, 第99巻, 第19号, p.12293-7)、Balb/Cマウスに適当数のJ558Lミエローマ細胞(Proc Natl Acad Sci USA., 2002年, 第99巻, 第19号, p.12293-7)あるいはCT26結直腸癌細胞(International Immunology, 2004年, 第17号, 第2号, p.133-144)を皮下移入するモデル等が挙げられ、移入した癌細胞を適切な期間成長させ、本発明の多量体を適切な時期に、単回あるいは数回、適当量投与して、癌細胞による腫瘍塊の大きさ等を測定することによって、その抗癌または抗腫瘍作用を評価することができる。また、ヒトT細胞を移植したSCIDマウスに、患者由来の非小細胞肺細胞(NSCL)または直腸癌細胞等を皮下移入するモデル(J. Surgical Res., 1996年, 第61巻, p.282-288)でも評価することができる。
【0077】
本発明のPD−1またはPD−L1もしくはPD−L2の細胞外領域のそれぞれの多量体またはそれらを有効成分とする医薬の投与により、その予防および/または治療が期待できる免疫不全症としては、例えば、ヒト免疫不全ウイルス感染症による後天性免疫不全症候群(AIDS)(例えば、カンジダ食道炎、カリニ肺炎、トキソプラズマ症、結核、マイコバクテリウム−アビウム複合体感染症、クリプトスポリジウム症、クリプトコッカス髄膜炎、サイトメガロウイルス感染症あるいは進行性多巣性白質脳症等の日和見感染症等)、重症疾患(例えば、癌、再生不良性貧血、白血病、骨髄線維症、腎不全、糖尿病、肝疾患もしくは脾疾患)に伴う免疫不全および原発性免疫不全症候群等が挙げられる。
【0078】
さらに、本発明のPD−1またはPD−L1もしくはPD−L2の細胞外領域のそれぞれの多量体またはそれらを有効成分とする医薬の投与により、各種感染症の予防および/または治療が期待できる。特に、ある種のウイルスは、感染宿主の免疫防御から逃れるための1つの方法として、免疫抑制受容体を利用していると考えられている(Journal Experimental Medicine, 2000年, 第191巻, 第11号, p.1987-1997)。ウイルス感染は、このようなウイルスのエスケープ機能に一部起因しており、本発明の多量体またはそれを有効成分とする医薬の投与によって、免疫細胞のウイルスに対する免疫反応を高めることができると考えられる。
【0079】
そのような感染症としては、例えば、インフルエンザウイルス(A型(例えば、H1N1、H2N2、H3N2、H5N1およびH9N1等)B型、C型)もしくはその他哺乳動物もしくは鳥類に感染するインフルエンザウイルス、風邪ウイルス(例えば、アデノウイルス、エンテロウイルスおよびライノウイルス等)、ヒト肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎、C型肝炎、A型肝炎およびE型肝炎ウイルス)、ヒトレトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV1およびHIV2)、ヒトT細胞白血病ウイルスまたはヒトTリンパ向性ウイルス(例えば、HTLV1およびHTLV2)、単純ヘルペスウイルス1型もしくは2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、水痘−帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス(例えば、ヒトヘルペスウイルス6等)、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、おたふくウイルス、ノロウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)を発症するウイルス、エボラウイルスおよび西ナイルウイルスの感染症等が挙げられる。
【0080】
その他、例えば、病原性原生動物(例えば、トリパノソーマ、マラリアおよびトキソプラズマ)、細菌(例えば、マイコバクテリウム、サルモネラおよびリステリア)および真菌(例えば、カンジダ)による感染等に対しても有効であると考えられる。
【0081】
[毒性]
本発明の多量体の抗原性ないし毒性は非常に低いものであり、医薬として使用するために十分安全である。
【0082】
[医薬品への適用]
本発明の多量体を医薬として用いる場合、単独あるいは薬理的に許容される各種製剤補助剤と混合して医薬組成物として投与することができる。
【0083】
そのような医薬組成物としては、通常、非経口投与経路で投与されるが、経口で投与することもできる。非経口投与としては、注射剤による投与、経皮、経粘膜、経鼻あるいは経肺での投与が挙げられる。
【0084】
そのような注射剤は、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。
【0085】
注射剤は、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤として、例えば、水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、トウモロコシ油等の植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等)およびそれらの組み合わせを使用できる。
【0086】
さらに、この注射剤は、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン等)、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)、懸濁化剤(例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等)、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)、乳化剤、無痛化剤(例えば、ベンジルアルコール等)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、ブドウ糖等)、緩衝剤、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール等)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等)、抗酸化剤(例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩等)、分散剤(例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等)等を含んでいてもよい。
【0087】
これら注射剤は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば、日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。例えば、最終工程において滅菌するか無菌操作法によって製造される。また、無菌の固形剤、例えば、凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0088】
これら注射液は、プラスチック製またはガラス製のバイアル、アンプル、シリンジ、注射器等の規定容量の形状の容器、ならびに瓶等の大容量の形状の容器で供給することができる。
【0089】
本発明の多量体の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法および/または処理時間等により、その投与量が異なるが、通常、成人一人あたり、1回につき、1ngから100mgの範囲で、数日に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与できる。投与量は種々の条件により変動するので、上記投与量より少ない量で充分な場合もあるし、また範囲を越えて投与の必要な場合もある。
【0090】
非経口投与のための注射剤としては、すべての注射剤を含み、点滴剤も包含する。例えば、筋肉への注射剤、皮下への注射剤、皮内への注射剤、動脈内への注射剤、静脈内への注射剤、腹腔内への注射剤、脊髄腔への注射剤および静脈内への点滴剤等を含む。
【0091】
本発明の多量体は、
(1)本発明の予防および/または治療剤の予防および/または治療効果の補完および/または増強、
(2)本発明の予防および/または治療剤の動態、吸収改善、投与量の低減、および/または
(3)本発明の予防および/または治療剤の副作用の軽減のために、他の薬剤と組み合わせて投与してもよい。
【0092】
本発明の多量体と他の薬剤の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明の多量体を先に投与し、他の薬剤を後に投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、本発明の多量体を後に投与してもよく、それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
【0093】
他の薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明の多量体と他の薬剤の配合比は、投与対象の年齢、体重、投与方法、投与時間、対象疾患もしくは症状またはそれらの組み合わせ等により適宜選択することができる。例えば、本発明の多量体1質量部に対し、他の薬剤を0.01〜100質量部用いればよい。他の薬剤は任意の2種以上を適宜の割合で組み合わせて投与してもよい。また、本発明の多量体の予防および/または治療効果を補完および/または増強する他の薬剤には、上記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0094】
この併用により、予防および/または治療効果を奏する疾患は特に限定されず、本発明の多量体の予防および/または治療効果を補完および/または増強する疾患であればよい。
【0095】
特に、本発明の多量体は、リンパ球細胞を刺激ないし増殖させる効果を示すことから、その併用により、癌治療において通常使用される化学療法剤の用量または放射治療における照射放射線量を減少させることができる。その結果として、化学療法または放射線療法に付随する副作用を抑制するのに有用である。
【0096】
本発明の多量体は、既存の化学療法剤と併用あるいは合剤化することができる。そのような化学療法剤として、例えば、アルキル化剤、ニトロソウレア薬、代謝拮抗薬、抗癌性抗生物質、植物由来アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害薬、ホルモン療法薬、ホルモン拮抗薬、アロマターゼ阻害薬、P糖蛋白阻害薬、白金錯体誘導体、その他免疫療法薬およびその他の抗癌薬が挙げられる。さらに、癌治療補助薬である白血球(好中球)減少症治療薬、血小板減少症治療薬、制吐薬または癌性疼痛治療薬と併用あるいは合剤化できる。
【0097】
本発明の多量体は、その他の免疫賦活物質と併用あるいは合剤化することができる。そのような免疫賦活物質としては、例えば、各種サイトカイン等が挙げられる。免疫反応を刺激するサイトカインとしては、例えば、GM−CSF、M−CSF、G−CSF、インターフェロン−α、β、もしくはγ、IL−1、IL−2、IL−3、およびIL−12等が挙げられる。
【0098】
本発明の多量体と癌抗原との併用によって、付加的あるいは相乗的な増強を与えることができる。そのような癌抗原として、例えば、悪性黒色腫のMAGE−1、MAGE−3由来のHLA−A1およびHLA−A2拘束ペプチド、MART−1およびgp100、乳癌や卵巣癌のHER2/neuペプチド、腺癌のMUC−1ペプチド、転移性癌のNY−ESO−1等が挙げられる。
【0099】
本発明の多量体は、抗ウイルス薬、抗生物質製剤、抗菌薬、内臓真菌症治療薬と併用あるいは合剤化することができる。そのような抗ウイルス薬としては、例えば、抗HIV薬、抗インフルエンザウイルス薬、抗ヘルペスウイルス薬、インターフェロン−αもしくはβおよび各種免疫グロブリン等が挙げられる。ここで、抗HIV薬として、例えば、逆転写酵素阻害薬(例えば、AZT、ddI、3TC、およびd4T等)、プロテアーゼ阻害薬(例えば、メシル酸サキナビル、リトナビル、メシル酸ネルフィナビル、アンプレナビル、メシル酸デラビルジン、サキナビル、およびロピナビル/リトナビル等)、およびCCR5受容体拮抗薬等が挙げられる。抗インフルエンザウイルス薬としては、例えば、各種インフルエンザワクチン、リン酸オセルタミビル、ザナミビル水和物、および塩酸アマンタジン等が挙げられる。
【0100】
本発明の多量体は、ウイルスもしくは病原体のワクチンと併用あるいは共に製剤化することができる。そのようなワクチンとしては、例えば、ポリオワクチン、麻疹ワクチン、日本脳炎ワクチン、BCGワクチン、3種混合ワクチン、おたふくワクチン、水痘ワクチン、インフルエンザワクチン、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、およびコレラワクチン等が挙げられる。
【0101】
[検査または診断薬等としての利用]
本発明の多量体はそのリガンド分子に対して強力にかつ特異的に結合することから、その標識体はその細胞表面機能分子あるいはそのリガンド分子が関与する疾患の検査もしくは診断薬またはそれらの研究試薬として使用することができる。
【0102】
本発明の多量体を標識できる標識物質としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光性物質、発光性物質、紫外吸収性物質およびスピンラベル化物質等が挙げられる。
【0103】
本発明の多量体を酵素免疫測定法(EIA)において用いる場合、例えば、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、アセチルコリンエステラーゼ、リンゴ酸脱水素酵素およびルシフェラーゼ等の酵素類で標識して用いることができる。
【0104】
本発明の多量体を放射免疫測定法(RIA)において用いる場合、例えば、131I、125I、99mTc、35S、32P、14CまたはH等の放射性同位元素で標識して用いることができる。
【0105】
本発明の多量体を蛍光免疫測定法(FIA)において用いる場合、例えば、フルオレセイン、ダンシル、フルオレスカミン、クマリン、ナフチルアミン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ローダミンXイソチオシアネート、スルフォローダミン101、ルシファーイエロー、アクリジン、アクリジンイソチオシアネート、リボフラビンあるいはこれらの誘導体およびユウロピウム(Eu)等の蛍光性物質で標識して用いることができる。
【0106】
本発明の多量体を化学発光免疫測定法(CLIA)において用いる場合、例えば、ルシフェリン、イソルミノール、ルミノール、アミノエチルイソルミノ−ル、アミノエチルエチルイソルミノ−ル、アミノプロピルイソルミノ−ル、アミノブチルイソルミノ−ルおよびアミノヘキシルエチルイソルミノ−ル等のルミノ−ル誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンならびにビス(2,4,6−トリフロロフェニル)オキザレート等の発光性物質で標識して用いることができる。
【0107】
本発明の多量体を紫外吸収法において用いる場合、例えば、フェノール、ナフトール、アントラセンあるいはこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質で標識して用いることができる。
【0108】
本発明の多量体を電子スピン共鳴(ESR)法において用いる場合、例えば、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、3−アミノ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、2,6−ジ−t−ブチル−α−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキソ−2,5−シクロヘキサジエン−1−イリデン)−p−トリルオキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤等で標識して用いることができる。
【0109】
さらに、本発明の多量体は通常この分野で用いられるいずれの標識物質によっても標識することができる。
上記標識物質を本発明の多量体に結合させるには、例えば、EIA、RIA、あるいはFIA等において一般に行われている公知の標識方法[医化学実験講座,第8巻,山村雄一監修,第1版,中山書店,1971年;図説 蛍光抗体,川生明著,第1版,(株)ソフトサイエンス社,1983年;酵素免疫測定法,石川栄治,河合忠,室井潔編,第2版,医学書院,1982年]を適宜利用して行うことができる。
【0110】
そのような標識方法として好ましくは、アビジン(またはストレプトアビジン)とビオチンの反応を利用した方法が挙げられる。アビジン(またはストレプトアビジン)とビオチンの反応を利用する場合、本発明の多量体にビオチンを結合させる方法としては、例えば、市販のビオチン化試薬(例えば、スクシンイミド基が導入されたビオチン(例えば、NHS−ビオチン)やN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)とビオチンをスペーサーを介して結合したもの等)を、タンパク質のアミノ基に反応させる方法(Journal of Biological Chemistry, 1989年, 第264巻, p.272-279)、市販のビオチン−HPDP(N−[6−(ビオチンアミド)ヘキシル]−3’−(2’−ピリジルジチオ)プロピオンアミド)やN−ヨードアセチル−N−ビオチニルヘキシレンジアミンをタンパク質のチオール基に反応させる方法(Ann. New York Acad. Sci., 1975年, 第254巻, 第203号)、ヒドラジノ基が導入されたビオチンをアルデヒド化されたタンパク質のアルデヒド基に反応させる方法(Biotech.Appl.Biochem., 1987年, 第9巻, p.488-496)等が挙げられる。また、実施例に準じた方法により実施することもできる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例および生物学的実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
実施例1:細胞外領域の発現ベクターの構築
pBluescriptにサブクローニングされたhPD−1cDNA(非特許文献1参照)を鋳型として、フォーワードプライマー(配列番号9)とリバースプライマー(配列番号10)を使用して、PCR反応(0.05U/μL ExTaq(宝酒造株式会社),0.5μM 各プライマー;94℃で1分間、50℃で1分間および72℃で2分間の35サイクル)により、hPD−1細胞外領域(hPD−1のアミノ酸配列25〜145番目までの領域)をコードするDNA断片を取得した。QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を使用して、そのDNA断片を精製し、EcoRIおよびSalIの制限酵素によって消化したその断片をpET発現ベクターにクローニングした。
さらに、QuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)を用いた一変異導入により、そのアミノ酸配列93番目のシステインに対応するコドンTGCをセリンに対応するTCCに変換した。かかる一変異導入は同キット添付書記載の方法に従った。
同様に、mPD−1cDNA(EMBO Journal,1992年,第11巻,第11号,p.3887-3895)を鋳型として、フォーワードプライマー(配列番号11)とリバースプライマー(配列番号12)を使用して、上記PCR反応により、mPD−1細胞外領域(hPD−L1のアミノ酸配列18〜230番目までの領域)をコードするDNA断片を取得し、上記と同様に発現ベクターにクローニングした。さらに、上記と同様の方法により、そのアミノ酸配列83番目のシステインに対応するコドンTGCをセリンに対応するAGCに変換した。
同様に、hPD−L1cDNA(非特許文献6参照)を鋳型として、フォーワードプライマー(配列番号13)とリバースプライマー(配列番号14)を使用して、上記PCR反応により、hPD−L1細胞外領域(hPD−L1のアミノ酸配列18〜230番目までの領域)をコードするDNA断片を取得し、上記と同様に発現ベクターにクローニングした。
mPD−L1cDNA(非特許文献6参照)を鋳型として、フォーワードプライマー(配列番号15)とリバースプライマー(配列番号16)を使用して、上記PCR反応により、mPD−L1細胞外領域(mPD−L1のアミノ酸配列18〜229番目までの領域)をコードするDNA断片を取得し、上記と同様に発現ベクターにクローニングした。さらに、上記と同様の方法により、そのアミノ酸配列113番目のシステインに対応するコドンTGCをセリンに対応するAGCに変換した。
【0113】
実施例2:細胞外領域の発現
実施例1で作製された各発現ベクターをRosetta(DE3)pLys大腸菌に、エレクトロポーレーションにて導入し、選択培地にて増殖したコロニーをTB培地(0.4% グリセロール,50μg/mL アンピシリン,34μg/mL クロラムフェニコール,50μg/mL カルベニシリン(和光純薬株式会社)および消泡剤1滴含テリフィック培地(ディフコ社))で約5時間培養した。これに1mM イソプロピル−β−D(−)チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、さらに10時間培養した。
集菌後、10mM トリス・塩酸(pH8.0)にて洗浄した後、懸濁緩衝液(10〜100mM トリス・塩酸(pH7.0〜8.0),15〜25%w/v スクロース,0.5〜2.0mM NaEDTA(pH8.0),0.05〜0.15%アジ化ナトリウム,5〜15mM ジチオトレイトール(以下、DTTと略記する。))に懸濁して、室温下1時間適当量のリゾチームで処理した。この懸濁液に、溶解緩衝液(10〜100mM トリス・塩酸(pH7.0〜8.0),0.5〜1.5%v/v TRITON(登録商標)−X100,0.5〜1.0%w/v デオキシコール酸ナトリウム,50〜200mM 塩化ナトリウム,0.05〜0.15% アジ化ナトリウム,5〜15mM DTT,0.5〜2.0mM NaEDTA(pH8.0))を添加、混合して室温下1時間激しく振騰した後、−80℃下一晩静置した。解凍後、DNase処理溶液(1mg DNaseI,30〜90mM 塩化マグネシウム)を添加して、8時間激しく振騰した。
遠心分離後、回収した封入体沈殿物を洗浄緩衝液(10〜100mM トリス・塩酸(pH7.0〜8.0),0.1〜1.5% TRITON(登録商標)X−100,50〜200mM 塩化ナトリウム,0.05〜0.15% アジ化ナトリウム,0.5〜1.5mM DTT,0.5〜1.5mM NaEDTA(pH8.0))で洗浄した後、ホモジナイズした。これを洗浄緩衝液にて2回洗浄した後、さらにリンスし、尿素−グアニジン溶液(15〜30mM MES(pH5.5〜6.5),5〜15mM NaEDTA(pH8.0),0.5〜2.0M 尿素,4〜6M 塩酸グアニジン,0.5〜1.5mM DTT)に懸濁してホモジナイズした。遠心分離後の上清を回収し、DTTの終濃度を20〜60mMとして、37℃下で1時間静置した。
上記の方法により調製した各細胞外ドメインをリホールディングさせるため、リホールディング緩衝液(0.5〜1.0M 塩酸アルギニン,60〜150mM トリス・塩酸緩衝液(pH8.0),0.1〜1.0M スクロース,0.1〜1.0M 塩酸グアニジン,0.3〜0.7mM 還元グルタチオン,0.03〜0.06mM 酸化グルタチオン,0.5〜3.0mM NaEDTA(pH8.0),0.2〜0.7mM フェニルメタンスルホニルフルオリド)中、4℃下で一晩静置した。これを4℃下で0.1〜0.3M 尿素溶液にて透析し、さらに、5〜15mM トリス・塩酸緩衝液(pH7.0〜8.0)にて3回透析した後、DE52陰イオン交換カラム(ワットマン インターナショナル社)およびQ−セファロースカラム(アマシャム バイオサイエンス社)にて処理した(図1AおよびD参照)。
さらに、塩化ナトリウム濃度勾配下(10〜30mM トリス・塩酸緩衝液(pH7.0〜8.0))でのゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200)にて精製した(図1BおよびE参照)。なお、実施例中の各成分濃度はタンパク質発現の分野における公知の技術に準じた至適濃度を採用した。
精製された各細胞外領域を、定常の方法により、円二色性分散計解析(CD解析)した。その結果を図1に示した。
図1中、(A)および(D)は、mPD−1細胞外領域およびmPD−L1細胞外領域のそれぞれの陰イオン交換カラムクロマトクラフィーの溶出パターンを表わす。また、(B)および(E)は、mPD−1細胞外領域およびmPD−L1細胞外領域のそれぞれのゲルろ過クロマトクラフィーの溶出パターンを表わす。(C)および(F)は、精製されたmPD−1細胞外領域およびmPD−L1細胞外領域のそれぞれの円二色性分散計解析の結果を表わす。
[結果]
CD解析の結果、βシート構造に特有のスペクトルから、各細胞外領域がリホールディングされていることが確認された(図1CおよびF参照)。
なお、同様の方法により、hPD−1細胞外領域およびhPD−L1細胞外領域を精製およびリホールディングさせた。
【0114】
実施例3:細胞外領域の四量体化
実施例2で調製した各細胞外領域を、5〜20mM トリス・塩酸緩衝液(pH7.0〜8.0)にて透析した。透析後、タンパク質調製液(300μL)に、200〜600mM d−ビオチン(30μL)、溶液A(0.5M ビシン(pH8.0〜8.5);40μL)、溶液B(100mM アデノシン三リン酸,100mM 酢酸マグネシウム,200mM d−ビオチン;40μL)および1mg/mL BirA酵素(2.5μL;コスモバイオ社)を添加した。この混合液を室温下で一晩反応させ、10mM トリス・塩酸緩衝液(pH8.0)にて透析した。これにR−PE−ストレプトアビジン(ベクトン ディッキンソン社)を添加し、セファデックスゲルにて精製した。なお、実施例中の各成分濃度はタンパク質発現の分野における公知の技術に準じた至適濃度を採用した。
【0115】
実施例4:フローサイトメトリーでの結合解析
5×10個のhPD−L1発現P815細胞(以下、P815/hPD−L1細胞と略記することがある。非特許文献8に記載された方法に準じて作製した。)に、実施例3で調製したmPD−1四量体(50μL)を添加して、氷上暗所にて20分間静置した。
これを生理食塩水にて3回洗浄したのち、R−PE−ストレプトアビジン(100μL)を添加した。さらに、これを氷上暗所にて20分間静置し、2回洗浄したのち、PBS(200μL,1%パラホルムアルデヒド)に懸濁し、さらに生理食塩水(500μL)を添加した。この細胞懸濁液をフローサイトメター(FACScalibur)(ベクトン ディッキンソン社)にて解析した。コントロールとして、アイソタイプ適合抗体を用いた。
実施例3で調製したmPD−L1四量体の解析には、mPD−1発現IIA.6細胞(以下、IIA.6/mPD−1細胞と略記することがある。)を用いて、上記と同様に行った。IIA.6/mPD−1細胞は、Proc Natl Acad Sci USA.,2001年,第98巻,第24号,p.13866-71に記載された方法に準じて作製した。その結果を図2に示した。
図2中、(A)および(E)は、mPD−1単量体およびmPD−L1単量体のそれぞれのP815/hPD−L1細胞に対する結合を、(C)および(G)は、mPD−1四量体およびmPD−L1四量体のそれぞれのP815/hPD−L1細胞に対する結合を表わす。(B)および(F)は、mPD−1単量体およびmPD−L1単量体のそれぞれのP815細胞に対する結合を、(D)および(H)は、mPD−1四量体およびmPD−L1四量体のそれぞれのP815細胞に対する結合を表わす。各図中、太線は各単量体または各四量体の添加を、細線はコントロールであるR−PE−ストレプトアビジン添加を表わす。
[結果]
mPD−1四量体およびmPD−L1四量体は、それぞれの単量体に比べ顕著な結合活性の上昇を示した(図2CおよびG参照)。同様に、hPD−1四量体もその単量体にくらべ顕著な結合活性の上昇を示した。
【0116】
実施例5:表面プラズモン共鳴解析
表面プラズモン共鳴解析は、BIAcore(ビアコア株式会社)にて行った。20μg/mLのmPD−1/Fc(10mM 酢酸緩衝液(pH4.0);R&Dシステム社)を、そのCM5センサーチップに固定して、1M エタノールアミン−塩酸緩衝液(pH8.5)にてブロッキングした後、10mM グリシン−塩酸緩衝液(pH1.5)にて洗浄した。100、50、および25μg/mLのmPD−L1四量体、ならびに100、50、25、12.5、および6.25μg/mLのmPD−L1単量体を10μL/分の流速にてそれぞれインジェクトして、mPD−1/Fcへの結合活性を測定した。
Kd値の算出はBIAcore付属の解析ソフトウェアにて行った。また、hPD−1四量体およびmPD−1四量体についても上記と同様の方法(リガンドとしてhPD−L1/FcまたはmPD−L1/Fcを使用)で実施した。その結果を図3に示した。なお、hPD−L1四量体についても上記と同様の方法で実施できる。
図3中、(A)はmPD−L1単量体のmPD−1/Fcへの結合を、(B)はmPD−L1四量体のmPD−1/Fcへの結合を表わす。
[結果]
mPD−L1単量体のmPD−1/Fcに対するKd値(解離定数)は、8.6×10−6であったのに対し、mPD−L1四量体は5.9×10−8であった。mPD−L1四量体は、その単量体に対して約150倍の結合活性の上昇を示した(図3(A)、(B)参照)。
mPD−1単量体のmPD−L1/Fcに対するKd値は、5.6×10−6であったのに対し、mPD−1四量体は2.8×10−8であった。mPD−1四量体は、その単量体に対して約200倍の結合活性の上昇を示した。
hPD−1単量体のhPD−L1/Fcに対するKd値は、1.9×10−6であったのに対し、hPD−1四量体は7.3×10−8であった。hPD−1四量体は、その単量体に対して約26倍の結合活性の上昇を示した。
【0117】
実施例6:フローサイトメターでの結合阻害解析
mPD−L1四量体による結合阻害を、実施例4の後段記載の方法に準じて行った。
5×10個のIIA.6/mPD−1細胞を、100μg/mLのmPD−L1四量体の存在下あるいは非存在下で、10μg/mLのmPD−L1/FcおよびFITC標識抗Fc抗体で染色した。その結果を図4Aに示した。mPD−1四量体については、P815/hPD−L1細胞を用いて同様に実施することができる。
図中、太線はmPD−L1四量体無添加を、細線はmPD−L1四量体添加を、点線はコントロールであるFITC共役二次抗体添加を表わす。
[結果]
mPD−L1四量体は、mPD−L1/FcのIIA.6/mPD−1細胞への結合を阻害した(図4A参照)。
【0118】
実施例7:細胞増殖活性の測定
2Cトランスジェニック(Tg)マウス(Journal of Immunology,1996年,第157巻,第2号,p.670〜678)由来の1×10個のリンパ球系細胞(脾臓細胞+二次リンパ節細胞)を、マイトマイシンC処理したBalb/cマウス由来の脾臓細胞とともに、37℃下で3日間共培養した。さらに、各3、10μg/mLの抗マウスPD−1抗体、抗マウスPD−L1抗体、mPD−L1四量体の存在下で培養し、測定14時間前に2μCiの[H]−チミジンを添加して培養した。細胞増殖活性の測定は公知の方法に準じて行った。その結果を図4Bに示した。また、mPD−1四量体についても上記と同様の方法で実施できる。
図中、1:未刺激群(バックグラウンド)、2:リン酸緩衝液添加群(コントロール)、3:3μg/mL 抗mPD−1抗体添加群、4:10μg/mL 抗mPD−1抗体添加群、5:3μg/mL 抗mPD−L1抗体添加群、6:10μg/mL 抗mPD−L1抗体添加群、7:3μg/mL mPD−L1四量体添加群、8:10μg/mL mPD−L1四量体添加群を表わす。
[結果]
mPD−L1四量体は、抗マウスPD−1抗体や抗マウスPD−L1抗体と比較して、リンパ球系細胞に対して顕著な細胞増殖活性を示した(図4B.7および8参照)。
【0119】
実施例8:細胞傷害活性の測定
細胞傷害活性の測定は、国際公開第2004/004771号パンフレットの実施例1記載の方法に準じて行った。
2CTgマウス由来のリンパ球細胞をマイトマイシンC処理したBalb/cマウス由来の脾臓細胞とともに、37℃下で2週間共培養した。共培養によりCD8陽性T細胞となった1×10〜8×10個の細胞(エフェクター細胞)を、各5μg/mLの抗マウスPD−1抗体、抗mPD−L1抗体、mPD−L1四量体の存在下、51Cr−クエン酸ナトリウムでラベル化した1×10個のBalb/cマウス由来脾臓細胞(ターゲット細胞)と共に37℃下で5時間培養した後、そのターゲット細胞に対するエフェクター細胞による細胞傷害活性を測定した。その結果を図4Cに示した。また、mPD−1四量体についても上記と同様の方法で実施できる。
図中、○印はコントロール群、黒三角印はmPD−L1四量体添加群、黒四角印は抗mPD−1抗体添加群、●印は抗mPD−L1抗体添加群を表わす。E/T比とは、エフェクター(E)細胞数とターゲット(T)細胞数の比率を表わす。
[結果]
mPD−L1四量体は、リンパ球細胞の細胞傷害活性を抗mPD−1抗体および抗mPD−L1抗体と同等に増強させた(図4C.黒三角印参照)。
【0120】
実施例9:結合特異性の解析
PD−1欠損マウス(非特許文献3参照)から単離した、抗CD3抗体刺激脾臓細胞にFcブロッキング抗体もしくはR−REを添加し、各5μg/mLのmPD−L1四量体(R−PE−ストレプトアビジンと共役したもの)およびmPD−1抗体(R−PEと共役したもの)をそれぞれ添加して、以下、実施例4記載の方法と同様にフローサイトメターにて解析した。
同様に、PD−1欠損マウスから単離した、LPS(lipopolysaccharide)刺激脾臓細胞にFcブロッキング抗体もしくはR−REを添加し、各5μg/mLのmPD−L1四量体および抗mPD−1抗体をそれぞれ添加して、以下、同様に解析した。その結果を図5に示した。また、mPD−1四量体についても上記と同様の方法で実施できる。
図中、(A)は、PD−1欠損マウスの抗CD3抗体刺激脾臓細胞に対する抗mPD−1抗体とmPD−L1四量体の結合を、(B)は同マウスのLPS刺激脾臓細胞に対する同結合の比較を表わす。各図において、太線はmPD−L1四量体添加を、細線は抗mPD−1抗体添加を、点線はコントロールを示す。図中の矢印は、抗mPD−1抗体添加によるヒストグラムのシフトを表わす。
[結果]
PD−1欠損マウスはPD−1を発現しないため、原理的には抗mPD−1抗体は結合しないはずであるが、PD−1欠損マウスのLPS刺激脾臓細胞に対して若干結合した(図5.Bの細線(矢印))。一方、PD−1欠損マウスの脾臓細胞へのmPD−L1四量体の結合は全く認められなかった(図5.AおよびBの太線)。
【0121】
[製剤例]
製剤例1
生理食塩水100ml中に、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するヒトPD−1細胞外領域多量体(1g)、マンニトール(1g)及びポリソルベート80(10mg)を含有する溶液を無菌的に調製し、1mlずつバイアルに分注した後、凍結乾燥して密封した。
【0122】
製剤例2
0.02M リン酸緩衝液(0.15M 塩化ナトリウム及び0.01% ポリソルベート80含有(pH7.4))100ml中に、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するヒトPD−1細胞外領域多量体(1g)及びヒト血清アルブミン100mgを含む水溶液を無菌的に配合して、1mlずつバイアルに分注した。次いで、各バイアル中の液剤を凍結乾燥して密封した。
【0123】
製剤例3
注射用蒸留水100ml中に、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するヒトPD−1細胞外領域多量体(1g)、ソルビトール(2mg)、グリシン(2mg)及びポリソルベート80(10mg)を含む溶液を無菌的に調製し、1mlずつバイアルに分注した後、凍結乾燥して密封した。
【産業上の利用可能性】
【0124】
PD−1またはPD−L1もしくはPD−L2の細胞外領域多量体は、癌もしくは癌転移、免疫不全症もしくは感染症等に対する予防および/または治療薬として有用である。
また、それら多量体の標識体はそれぞれのリガンドを特異的に認識し、検出することができる優れた検査もしくは診断薬または研究試薬として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体。
【請求項2】
PD−1の細胞外領域が、直接にまたはペプチドリンカーを介して、直列に結合された構成を有する請求項1記載の多量体。
【請求項3】
PD−1の細胞外領域が、ヒトもしくはマウスPD−1の25〜145番目の領域を構成する1〜3個のアミノ酸が他のアミノ酸によって置換された当該領域である請求項1記載の多量体。
【請求項4】
PD−1の細胞外領域の数が、4個である請求項1記載の多量体。
【請求項5】
PD−1の細胞外領域が、ペプチドリンカーを介して、直列に結合された構成を有する請求項2記載の多量体。
【請求項6】
2〜15個のアミノ酸からなるペプチドリンカーである請求項5記載の多量体。
【請求項7】
配列番号1または3で表わされるアミノ酸配列を有する請求項6記載の多量体。
【請求項8】
請求項1記載の多量体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項7記載の多量体をコードする請求項8記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
配列番号2または4で表わされる塩基配列を有する請求項9記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項8記載のポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクター。
【請求項12】
請求項11記載の発現ベクターにより形質転換された形質転換体。
【請求項13】
(i)請求項12記載の形質転換体を培養する工程、(ii)その形質転換体を超音波、リゾチーム処理および/または凍結融解により破壊する工程ならびに(iii)塩析もしくは溶媒沈澱法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法もしくはSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーおよび/または等電点電気泳動法により精製する工程を含む請求項1記載の多量体の製造方法。
【請求項14】
請求項1記載の多量体を有効成分として含有してなる医薬組成物。
【請求項15】
癌もしくは癌転移、免疫不全症、または感染症に対する予防および/または治療剤である請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1記載の多量体と、化学療法薬、癌治療補助薬、免疫賦活薬、癌抗原、抗ウイルス薬、抗生物質製剤、抗菌薬、真菌症治療薬およびワクチンから選択される1種以上を組み合わせてなる医薬。
【請求項17】
PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、癌もしくは癌転移、免疫不全症、および感染症から選択される疾患の予防および/または治療方法。
【請求項18】
癌もしくは癌転移、免疫不全症および感染症から選択される疾患の予防および/または治療剤を製造するための、PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体の使用。
【請求項19】
PD−1の細胞外領域を2〜10個含んでなる構成を有する多量体からなるPD−L1検出薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−157357(P2012−157357A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67720(P2012−67720)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【分割の表示】特願2008−502872(P2008−502872)の分割
【原出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】