説明

細胞解析装置及び細胞解析方法

【課題】試料中の大量の細胞を、ダメージを与えることなく高密度に単一細胞レベルで捕捉し、当該細胞の細胞情報をハイスループットに解析可能な細胞解析装置、及び当該装置を用いた細胞解析方法の提供。
【解決手段】受光面を上方向に向けて設けられた光電変換素子を有する撮像装置の受光面に、試料中の細胞を捕捉可能なマイクロキャビティアレイを具備するマイクロ流路デバイスが構築された細胞解析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞集団から高密度に単一細胞を捕捉し、当該細胞の細胞情報をハイスループットに解析するための装置、及び当該装置を用いた細胞解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞診断、細胞医療を始めとする先端、先進医療の実現に向けた研究開発の進展に伴い、その基盤技術である細胞解析システムの重要性はますます高まっている。フローサイトメーターは、細胞の大きさや内部構造、またはCluster of differentiation (CD) 抗原に基づく蛍光シグナルを指標に、細胞集団から個々の細胞情報をハイスループットに解析できるため、医療分野での血球分析検査や細胞集団のプロファイリングを始めとして、細胞解析システムの中で最も汎用的に用いられている。
【0003】
例えば、細胞群の情報を簡便に取得する手段として、細胞分析デバイス上のマイクロ流路を通過する蛍光標識された細胞を、光電子増倍管 (Photomultiplier tube: PMT) や電荷結合素子 (Charge-coupled Device: CCD) から構成される光学検出装置により検出することで、5〜30 μlの細胞懸濁液から5〜100 cells/secのスループットで細胞分析できることが報告されている(非特許文献1−3)。また、最近では、細胞群に含まれる個々の細胞をマイクロアレイ上に集積・捕捉し、蛍光顕微鏡やマイクロアレイスキャナーで画像解析するデバイスが構築されており、10,000〜25,000 cellsを一括して解析できることが報告されている(非特許文献4−7)。
【0004】
フローサイトメーターは、最も汎用的な細胞解析システムであるものの、非常に高価であること、分析の前準備 (セットアップ) が煩雑であること、操作に熟練した技術を必要とすることなどの理由から、近年、より簡便に細胞群の情報を取得できる微小細胞分析デバイスの開発が求められている。また、上記の微小細胞分析デバイスにおいても、検出器としてPMTやCCDといった外部検出システムや顕微システムが設けられおり、装置の小型化、低価格化という問題は解消されていない。また、アレイ化された細胞に対し蛍光顕微鏡やマイクロアレイスキャナーを用いたイメージ解析を行う場合には、マイクロアレイを走査する必要があることから、スループット性の向上には限界がある。
【0005】
斯かる状況の下、本出願人は、各撮像素子の周囲に隔壁 (Micro-partition) を形成し、各撮像素子上に直接細胞を収容した後に細胞に由来する光シグナルを検出する撮像装置(フォトセンサ)を開発した(特許文献1)。これによれば、フォトセンサ上にアレイ化された全細胞情報を同時並列的に取得できることから、ハイスループット性を保持したまま、更なるシステム全体の小型化・低価格化が可能となる。
しかしながら、一つの撮像素子上に複数個の細胞が収容されてしまうことを避けること、全48,000撮像素子上に細胞を収容することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−91533号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wang MM, Tu E, Raymond DE, Yang JM, Zhang H, Hagen N, Dees B, Mercer EM, Forster AH, Kariv I, Marchand PJ, Butler WF., Nat Biotechnol. 2005 Jan;23(1):83-7.
【非特許文献2】Fu AY, Spence C, Scherer A, Arnold FH, Quake SR., Nat Biotechnol. 1999 Nov;17(11):1109-11.
【非特許文献3】Tung YC, Torisawa YS, Futai N, Takayama S., Lab Chip. 2007 Nov;7(11):1497-503.
【非特許文献4】Kovac JR, Voldman J., Anal Chem. 2007 Dec 15;79(24):9321-30.
【非特許文献5】Yamamura S, Kishi H, Tokimitsu Y, Kondo S, Honda R, Rao SR, Omori M, Tamiya E, Muraguchi A., Anal Chem. 2005 Dec 15;77(24):8050-6.
【非特許文献6】Taff BM, Voldman J., Anal Chem. 2005 Dec 15;77(24):7976-83.
【非特許文献7】Love JC, Ronan JL, Grotenbreg GM, van der Veen AG, Ploegh HL., Nat Biotechnol. 2006 Jun;24(6):703-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、試料中の大量の細胞を、ダメージを与えることなく高密度に単一細胞レベルで捕捉し、当該細胞の細胞情報をハイスループットに解析可能な細胞解析装置、及び当該装置を用いた細胞解析方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(5)に係るものである。
(1)受光面を上方向に向けて設けられた光電変換素子を有する撮像装置の受光面に、試料中の細胞を捕捉可能なマイクロキャビティアレイを具備するマイクロ流路デバイスが構築された細胞解析装置。
(2)前記マイクロ流路デバイスが、撮像装置の受光面に載置され、撮像装置の受光面と協働して細胞を含む試料溶液をトラップする試料貯留溝を形成するための開口窓が設けられた下部基板と、
前記下部基板の上面に積層載置され、細胞捕捉用の孔径、孔数、及び配置が制御された複数の微細貫通孔と、試料溶液を供給排出するための貫通孔を有するマイクロキャビティアレイと、
前記マイクロキャビティアレイの上面にフレームシールを介して積層載置され、該マイクロキャビティアレイの上側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部と、該マイクロキャビティアレイの下側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部を備え、該マイクロキャビティアレイの微細貫通孔上面と協働して細胞を含む試料溶液をトラップするチャンバーを形成するための開口窓が設けられた上部平板、を含む上記(1)の細胞解析装置。
(3)マイクロキャビティアレイの微細貫通孔の孔径が2〜20μmで、孔間隔が10〜100μmである上記(2)の細胞解析装置。
(4)上部平板が、プラスチック、ガラス又は金属製である上記(2)又は(3)の細胞解析装置。
(5)上記(1)〜(4)の細胞解析装置を用いて、試料中に含まれる細胞をマイクロキャビティアレイに捕捉し、光照射下、細胞由来のシグナルを撮像することを特徴とする細胞解析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の細胞解析装置は、小型かつ廉価で構築でき、これを用いれば、マイクロキャビティアレイ上に細胞を含む試料を滴下し、吸引するという操作のみで、細胞を高密度・高効率で捕捉可能であり、個々の細胞情報を同時並列に検出することができる。すなわち、簡易な操作で且つ安価に、個々の細胞の細胞情報を得ることができ、汎用性が極めて高い。また、撮像装置上の約5万の個々の検出素子の一つ一つに細胞を配置することができ、最大で約5万個の細胞シグナルを一括取得することが可能となり、従来までの微小細胞分析デバイスと同等以上のスループットを有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】細胞解析装置の組立図(A)及びその縦断面図(B)。
【図2】細胞解析装置の組立図(A)及びその縦断面図(B)。
【図3】細胞分析装置の構成を示すブロック図。
【図4】1つのダブルゲートトランジスタ20を示す平面図。
【図5】図4のIV−IV矢視断面図。
【図6】シグナル取得の概念図。
【図7】細胞模擬蛍光ビーズを捕捉したTFTフォトセンサイメージ。
【図8】JM細胞を捕捉したTFTフォトセンサイメージ。
【図9】血球細胞(CellTracker Red染色)を10,000孔マイクロキャビティアレイで捕捉したTFTフォトセンサイメージ。
【図10】細胞捕捉効率の評価を示すグラフ。
【図11】血球細胞(Calcein染色)を250,000孔マイクロキャビティアレイで捕捉したTFTフォトセンサイメージ。
【図12】CMOSフォトセンサイメージと蛍光顕微鏡画像の比較。
【図13】CMOSフォトセンサ−マイクロキャビティアレイ間距離と画像コントラストの関係を示すグラフ。
【図14】CMOSフォトセンサを用いた場合の照射光の波長と画像コントラストの関係を示すグラフ。
【図15】HeLa細胞(Hoechst33342染色)を捕捉したCMOSフォトセンサイメージと蛍光顕微鏡による検出細胞数を示すグラフ。
【図16】CMOSフォトセンサを用いた蛍光カラーイメージとシグナルプロファイルを示すグラフ(a:蛍光標識細胞模擬粒子、b:Hoechst33342染色JM細胞)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
図1(A)及び図2(A)は、本発明の細胞解析装置の組立図であり、図1(B)及び図2(B)はその縦断面図である。この細胞解析装置は、図1及び図2に示すように、撮像装置と、下部基板2、マイクロキャビティアレイ3、フレームシール4、上部平板5を含むマイクロ流路デバイスとを備える。
【0013】
(1)マイクロ流路デバイス
本発明の細胞解析装置において、撮像装置の受光面に構築されるマイクロ流路デバイスについて以下に説明する。
すなわち、マイクロ流路デバイスは、撮像装置の受光面13に載置された下部基板2と、当該下部基板2の上面に積層載置されたマイクロキャビティアレイ3と、当該マイクロキャビティアレイ3の上面にフレームシール4を介して積層載置された上部平板5を含んで構築され、
前記下部基板2には、撮像装置の受光面13と協働して細胞を含む試料溶液をトラップする試料液貯留溝を形成するための開口窓12が設けられ、
マイクロキャビティアレイ3には、細胞捕捉用の孔径、孔数、及び配置が制御された複数の微細貫通孔9と、試料溶液を供給排出するための貫通孔8が設けられ、
前記上部平板5は、マイクロキャビティアレイ3の上側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部6と、マイクロキャビティアレイ3の下側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部7を備え、マイクロキャビティアレイ上面と協働して細胞を含む試料溶液をトラップするチャンバーを形成するための開口窓11が設けられている。
【0014】
上部平板5は、マイクロキャビティアレイ3の上面にフレームシール4を介して積層され、マイクロキャビティアレイ3の上側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部6と、マイクロキャビティアレイ3の下側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部7を備え、マイクロキャビティアレイ3上面と協働して試料溶液をトラップするチャンバーを形成するための開口窓11が設けられた平板であれば特に制限されない。
【0015】
試料注入・吸引部6は、マイクロキャビティアレイ3の微細貫通孔に連通し、試料注入・吸引部7は、マイクロキャビティアレイ3に形成された貫通孔8と協働して下部基板2の試料液貯留溝に連通している。
すなわち、細胞を含む試料溶液(細胞懸濁液)が試料注入・吸引部6に注入された場合、試料溶液はマイクロキャビティアレイ上面に供給され、試料注入・吸引部7に接続された吸引手段により吸引することにより、溶液はマイクロキャビティアレイの微細貫通孔9、試料液貯留溝、貫通孔8を順次経由して排出され、このときに細胞がマイクロキャビティアレイの微細貫通孔の上端開口部に1個ずつ捕捉される(図1参照)。一方、細胞を含む試料が試料注入・吸引部7から注入された場合は、細胞を含む試料溶液は、下部基板2と撮像装置の受光面13で形成される試料液貯留溝に供給され、試料注入・吸引部6に接続された吸引手段により吸引することにより、細胞がマイクロキャビティアレイの微細貫通孔の下端開口部に1個ずつ捕捉される(図2参照)。
【0016】
上記細胞を含む試料溶液の吸引は、ポンプ、減圧吸引等の手段を用いて行うことができるが、低減圧吸引条件が可能な吸引ポンプ、具体的にはチューブポンプ、プランジャポンプ、ペリスタルティックポンプ等の微小流量を制御可能なマイクロポンプを用いて行うのが好ましい。吸引圧としては、細胞の破壊と捕捉効率を考慮し、−10kPa〜−0.1kPa、好ましくは−5kPa〜−1kPaとするのがよい。
また、当該吸引手段は、試料送出ラインを介して接続しておくことができる。
【0017】
開口窓11は、マイクロキャビティの全微細貫通孔が露出する大きさのものが好ましく、窓の形状は円形、正方形等の矩形を具体的に例示することができる。
【0018】
上部平板5の材質は、特に限定されず、プラスチック、ガラス、金属等何れでもよい。プラスチックとしては、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)、PMMA、PC、硬質ポリエチレン製等の硬質プラスチックを好適に例示でき、マイクロキャビティアレイとの密着性の点でPDMSが好ましい。
【0019】
上部平板5は、フレームシール4を介してマイクロキャビティアレイ3に積層されるが、これにより、チャンバーの開口窓とマイクロキャビティアレイとの粘着性(密着性)が高められ、試料液の漏出を防止することができる。
フレームシール4の形状は、前記上部平板5と同一の形状とすることが好ましいが、少なくともマイクロキャビティアレイ3の微細貫通孔部分と貫通孔8を含む周辺が液密にシールされれば特に限定されない。
【0020】
マイクロキャビティアレイ3は、細胞捕捉用の孔径、孔数、及び配置が制御された複数の微細貫通孔9と、前記上部平板5の試料注入・吸引部7に対応する位置に貫通孔8が設けられている。
微細貫通孔の形状は、反すり鉢状又は円筒状であり、これにより確実に細胞を1細胞レベルで分離・捕捉することが可能となる。
微細貫通孔の上端開口径は、捕捉する細胞の径よりも少し小さい径とされ、2〜20μmとすることができる。また、微細貫通孔の数は、100〜100000、好ましくは1000〜10000である。また、微細貫通孔の中心間の距離を10〜100μm、好ましくは15〜70μm、さらに好ましくは20〜60μmとすることで細胞の捕捉効率を高めることができる。したがって、100000個の微細貫通孔を備えたマイクロキャビティアレイの大きさは、0.8cm×2cm程度になる。
微細貫通孔の孔径及び微細貫通孔の中心間の距離は、各撮像素子のサイズと配列間隔に応じて決めるのが良く、例えば、撮像素子(30μm×30μm)が50μm間隔で整列している場合は、孔径2〜20μm、孔間隔50μmのものを用いるのが良い。
【0021】
また、マイクロキャビティアレイとしては、電鋳技術を用いてニッケル基板に形成された微細貫通孔を有するものや、レーザー技術を用いてガラス基板、好ましくは石英基板に形成された微細貫通孔を有するものや、プラスチックを加工したものを好適に例示することができる。プラスチックの材質としては、自家蛍光の少ない材質が好ましく、具体的には、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、COP(シクロオレフィンポリマー樹脂)、エポキシ等のプラスチックを例示することができるが、レーザー加工による熱変形が少なく、加工精度が高い点でPETが好ましい。
【0022】
下部基板2は、マイクロ流路デバイスの外枠であり、減圧吸引条件下に、撮像装置の受光面13及びマイクロキャビティアレイ3との隙間を気密に維持しうる平板形状をなしている。マイクロキャビティアレイ3の微細貫通孔9と貫通孔8の下方に相当する位置に、撮像装置の受光面13と協働して試料溶液をトラップする試料液貯留溝を形成するための開口窓12が設けられている。開口窓の形状は、マイクロキャビティアレイ3の微細貫通孔9と貫通孔8が含まれれば特に制限されない。
【0023】
斯かる下部基板2は、所望の形状に整形したプラスチック製の平板を撮像措置の受光面13に通常の接着手段を用いて接着固定してもよいが、フレームシール等を用いて光面上に同形状に形成するのが好ましい。
プラスチック製の平板を用いる場合、その材質は、マイクロキャビティアレイに比較して軟質のプラスチックとするのが好ましい。これにより、下部基板とマイクロキャビティアレイとの粘着性(密着性)を高められ、試料液の漏出を防止することができる。
尚、撮像装置に用いる撮像デバイスや照射光波長に応じて、最適なイメージコントラストが得られるように撮像装置上面とマイクロキャビティアレイ間の距離を調整すべく、下部平板の厚さ(高さ)は適宜変更することができる。例えば、25μm〜2000μm、とするのが好ましい。
【0024】
尚、マイクロ流路デバイス内に細胞を含む試料を注入するに際し、マイクロ流路デバイスの内面やマイクロキャビティの上面を非イオン性界面活性剤であらかじめ処理しておくことが、細胞の付着を防除する上で好ましい。この非イオン性界面活性剤処理に先だって、表面プラズマ処理をすることがより好ましい。かかる非イオン性界面活性剤としては、ブロックポリマー型エーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル(シュガーエステル)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルを例示することができるが、ブロックポリマー型エーテル、特にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー型非イオン性界面活性剤が好ましい。上記ブロックポリマー型 エーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(プルロニックF127)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(プルロニックF68)、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(プルロニックP123)、ポリオキシエチレンオキシプロピレンセチルエーテル(20E.O4P.O)を挙げることができる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、例えば、水素添加ヒマシ油ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレン水素添加ヒマシ油等を挙げることができる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリソルベート40(ツイーン40)、ポリソルベート60(ツイーン60)、ポリソルベート65、ポリソルベート80(ツイーン80)、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O)を挙げることができる。例えば、プルロニックF127などのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー型非イオン性界面活性剤を用いる場合、その濃度は0.5〜10%、好ましくは1〜5%程度である。
【0025】
本発明の細胞解析装置において、解析対象となる細胞は、特に限定されず、ヒト細胞、ヒト以外の哺乳動物細胞、昆虫細胞等の動物細胞等、何れのものでよい。当該細胞を含む試料としては、T細胞、B細胞等の免疫細胞を含む流体試料、例えば、血液、リンパ液、培養細胞懸濁液、体細胞懸濁液等が挙げられる。
【0026】
(2)撮像装置
本発明に用いられる撮像装置は、捕捉された細胞に対して光照射(白色光照射、UV照射等)した場合に、当該細胞由来の光シグナル又は影シグナルを撮像できるものであればよく、例えば、固体撮像デバイスとしてCCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、ダブルゲート構造のTFT(Thin Film Transistor)等の撮像素子を用いたフォトセンサを用いることができる。
CMOSセンサを用いる場合、検出素子サイズが2〜8μm四方であり、素子数が30万〜1810万のものでカラーイメージングが可能なものが望ましく、例えばDFK130C02, Imaging Source, Germanyなどを挙げることができる。
また、CMOSセンサを用いた蛍光カラーイメージングの際には、センサ受光面へ到達する励起光をセンサ直上で遮蔽する機構を設ける必要がある。これは、マイクロキャビティアレイに捕捉した粒子または細胞に由来する蛍光シグナルのみをセンサで受光するためである。励起光遮蔽機構としては、UVカット薄膜フィルムの利用や酸化チタン膜コーティングを例示できる。
【0027】
以下に、固体撮像デバイスとして、アモルファスシリコンを用いたフォトセンサとTFTからなる光電変換素子部をもつ撮像装置(前記特許文献1)を用いた場合を例に挙げて説明する。
図3は、本発明の細胞解析装置80の構成を示すブロック図である。図3に示すように、細胞解析装置80は、固体撮像デバイスとこれに接続されるトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ71及びドレインドライバ73と、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ71及びドレインドライバ73を介して撮像装置1を制御するコンピュータ81と、コンピュータ81から出力された信号により出力(表示又はプリント)を行う出力装置82と、コンピュータ81により制御される励起光照射装置83と、を備える。
【0028】
コンピュータ81は、CPU、RAM等を備え、撮像装置1のトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ71及びドレインドライバ73に制御信号を出力することによって、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ71及びドレインドライバ73に固体撮像デバイス14の駆動動作を行わせる機能を有する。また、コンピュータ81は入力した二次元の画像データに従った画像を出力装置82に出力させる機能を有する。
【0029】
出力装置82はプロッタ、プリンタ又はディスプレイであり、コンピュータ81のRAMに記録された二次元の画像データを出力する。
励起光照射装置83は、蛍光色素を励起する励起光を撮像装置1に照射する。
【0030】
撮像装置1は、固体撮像デバイス14と、それを駆動するボトムゲートドライバ71、ドレインドライバ73及びトップゲートドライバ74と、を具備する。撮像装置1には、固体撮像デバイス14の光電変換素子として複数のダブルゲート型電界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20がマトリクス状に配列されている。
【0031】
図4〜図5を用いて固体撮像デバイス14について説明する。
図4は1つのダブルゲートトランジスタ20を示す平面図であり、図5は図4のIV−IV矢視断面図である。図4〜図5に示すように、固体撮像デバイス14は、透明基板17と、ボトムゲート絶縁膜22と、トップゲート絶縁膜29と、保護絶縁膜32と、平坦化膜35とを積層してなり、これらの層間に、複数のボトムゲートライン41、ソースライン42、ドレインライン43、トップゲートライン44、及び、ダブルゲートトランジスタ20を形成するボトムゲート電極21、半導体膜23、チャネル保護膜24、不純物半導体膜25,26、ソース電極27、ドレイン電極28、トップゲート電極31が適宜設けられている。
【0032】
透明基板17は、後述する感光性樹脂を感光させる波長の光の透過性を有するとともに、絶縁性を有する。このような透明基板17としては、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板を用いることができる。
【0033】
図4、図5に示すように、ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・は何れも、受光部である半導体膜23と、半導体膜23上に形成されたチャネル保護膜24と、ボトムゲート絶縁膜22を挟んで半導体膜23の下に形成されたボトムゲート電極21と、トップゲート絶縁膜29を挟んで半導体膜23の上に形成されたトップゲート電極31と、半導体膜23の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜25と、半導体膜23の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜26と、不純物半導体膜25に重なったソース電極27と、不純物半導体膜26に重なったドレイン電極28と、を備え、半導体膜23において受光した光量に従ったレベルの電気信号を出力するものである。
【0034】
ボトムゲート電極21は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板17上に形成されている。また、透明基板17上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン41,41,・・・が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,・・・のそれぞれのボトムゲート電極21が共通のボトムゲートライン41と一体となって形成されている。ボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41は、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0035】
ボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41,41,・・・はボトムゲート絶縁膜22によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜22は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,・・・に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜22は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0036】
ボトムゲート絶縁膜22上には、複数の半導体膜23がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜23は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極21に対して対向配置され、ボトムゲート電極21との間にボトムゲート絶縁膜22を挟んでいる。半導体膜23は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0037】
半導体膜23上には、チャネル保護膜24が形成されている。チャネル保護膜24は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23の中央部上に形成されている。チャネル保護膜24は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜24は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜23の界面を保護するものである。半導体膜23に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜24と半導体膜23との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜23にはキャリアとして正孔及び電子が発生する。
【0038】
半導体膜23の一端部上には、不純物半導体膜25が一部、チャネル保護膜24に重なるようにして形成されており、半導体膜23の他端部上には、不純物半導体膜26が一部、チャネル保護膜24に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜25,26は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜25,26は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0039】
不純物半導体膜25上には、ソース電極27が形成され、不純物半導体膜26上には、ドレイン電極28が形成されている。ソース電極27及びドレイン電極28はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン42,42,・・・及びドレインライン43,43,・・・がボトムゲート絶縁膜22上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,・・・のソース電極27は共通のソースライン42と一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,・・・のドレイン電極28は共通のドレインライン43と一体に形成されている。ソース電極27、ドレイン電極28、ソースライン42及びドレインライン43は、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0040】
ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・のソース電極27及びドレイン電極28並びにソースライン42,42,・・・及びドレインライン43,43,・・・は、トップゲート絶縁膜29によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜29は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,・・・に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜29は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0041】
トップゲート絶縁膜29上には、複数のトップゲート電極31がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極31は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23に対して対向配置され、半導体膜23との間にトップゲート絶縁膜29及びチャネル保護膜24を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜29上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン44,44,・・・が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,・・・のトップゲート電極31が共通のトップゲートライン44と一体に形成されている。トップゲート電極31及びトップゲートライン44は、導電性及び光透過性を有し、例えばITOからなる。
【0042】
ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・のトップゲート電極31及びトップゲートライン44,44,・・・は保護絶縁膜32によってまとめて被覆され、保護絶縁膜32は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,・・・に共通して形成された膜である。保護絶縁膜32は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0043】
保護絶縁膜32の上面には、平坦化膜35が設けられている。平坦化膜35は絶縁性及び光透過性を有し、例えばPMMA、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、その他の透明な樹脂を塗布して固体撮像デバイス14の表面を平坦に形成するものである。平坦化膜35が設けられた側の面が、固体撮像デバイスの受光面となる。
【0044】
以上のように構成された固体撮像デバイス14は、平坦化膜35の表面を受光面としており、各ダブルゲートトランジスタ20の半導体膜23において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0045】
本発明の細胞解析装置を用いた細胞の解析は、例えば、所望の細胞を適宜染色、標識した後、マイクロ流路デバイスに当該細胞を含む試料溶液を注入し、試料中に含まれる細胞を1細胞レベルで捕捉し、光照射(白色光照射、UV照射等)し、当該細胞由来の光シグナル又は影シグナルを撮像装置により検出測定することにより行うことができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1 細胞解析装置の構築
フォトリソグラフィー技術を用いて撮像装置1(TFTフォトセンサ)上に高さ25μmの下部基板2を作製した。次に、この下部基板上にマイクロキャビティアレイ3を設置した。この時、TFTフォトセンサの各撮像素子(30μm×30μm)が50μm間隔で整列していることを考慮し、孔径8μm、孔間隔50μmの微細貫通孔9を保持するマイクロキャビティアレイを用いた。続いて、フレームシール4(Frame-Seal Incubation Chambers for In Situ PCR and Hybridization; 9 mm × 9 mm; Bio-Rad)、PDMS製の上部平板5を設置した。最後に、PMMA製クランプを用いてこれら全てを挟み込むことで、細胞解析装置を構築した(図1参照)。
【0047】
実施例2
細胞模擬蛍光ビーズ (FluoSpheres Fluorescent Microspheres; 15 μm, ex/em = 365/424 nm; Invitrogen) を用いて、実施例1で構築した細胞解析装置の細胞プロファイリング解析への応用を検討した。
流路にシリンジポンプを接続後、超純水を用いて5倍希釈したBlockmaster CE510で上部平板5の開口窓11とマイクロキャビティアレイ3により形成されるチャンバーを満たし、60分間静置することでチャンバーの親水処理を行った。続いて、試料注入・吸引部7より50 μl/minの流速で溶液を吸引することで蛍光ビーズの導入、並びに微細貫通孔9への捕捉を行った。蛍光ビーズの捕捉後、白色LED (WTU-6060; NISSIN ELECTRONIC CO., LTD.) 光照射下でTFTフォトセンサを用いて光シグナル検出を行った。また、UV照射下 (バンドパスフィルタを設置した露光装置を使用; 292.5 nm; スポットキュア SP9-250DB; USHIO INC.) でもTFTフォトセンサを用いて光シグナル検出を行った(図6)。
【0048】
<結果>
白色光照射下での光シグナル検出においては、蛍光ビーズ捕捉前には確認されなかった影シグナルが確認された。また、UV照射下でも、蛍光シグナルが確認された。さらに、影シグナルパターンと蛍光シグナルパターンを比較したところ、ほぼ一致することが確認された(図7)。
以上より、マイクロキャビティアレイ上に捕捉された蛍光ビーズを、白色光照射下での影シグナル及びUV照射下での蛍光シグナルに基づき検出可能であることが確認され、TFTフォトセンサの細胞プロファイリング解析への応用が可能であると考えられた。
【0049】
実施例3
JM細胞に対し、一次抗体 (Mouse anti-CD8 IgG1, SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY) 及び二次抗体 (Goat HRP-labeled anti-mouse IgG1, SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY) を用いて免疫染色を行った。実施例1で構築した細胞解析装置を用いて、JM細胞の捕捉・発光検出を以下のように試みた。
まず、試料注入・吸引部7からSuperBlock T20 Blocking Buffer in PBSを注入し、撮像装置の受光面13と協働して形成された試料液貯留溝を当該溶液で満たし、30分間静置することで親水処理を行った。PBSで洗浄後、試料注入・吸引部6から50 μl/minの流速で吸引することで、HRP標識したJM細胞のマイクロキャビティアレイの微細貫通孔9の下端開口部への捕捉を行った(図2参照)。最後に、試料注入・吸引部7から50 μl/minの流速で基質溶液を導入し、TFTフォトセンサを用いて発光シグナル検出を行った。
【0050】
<結果>
その結果、局所的な化学発光シグナルが確認された(図8)。これより、細胞をマイクロキャビティアレイの微細貫通孔の下端開口部に捕捉した場合でも、高効率な細胞の捕捉並びに解析が可能であることが示された。
【0051】
参考例1 血球細胞捕捉効率の比較
(1)Micro-partitionを有するTFTフォトセンサを用いた血球細胞捕捉
血球細胞をPBS に懸濁し、細胞濃度を1×103 cells/μLに調製した。PBSで満たしたMicro-partitionを有するTFTフォトセンサを含む細胞解析装置(前記特許文献1)に対し10 μLの細胞懸濁液を導入し、シリンジポンプを用いて流速3 mL/minで3分間細胞懸濁液を送液し、細胞を捕捉した。
この時、細胞捕捉効率は9.5%であり、細胞が収容された全撮像素子の5.4 %は複数の二細胞以上が一素子上に収容されていた。
【0052】
(2)マイクロキャビティアレイを用いた血球細胞捕捉
血球細胞をPBS に懸濁し、細胞濃度を1×103 cells/μLに調製した。マイクロキャビティアレイ3として、10,000 孔の微細貫通孔を持つマイクロキャビティアレイと、250,000孔の微細貫通孔を持つマイクロキャビティアレイを用意し、上部平板5の開口窓11とマイクロキャビティアレイ3により形成されるチャンバーを、10 μLの細胞懸濁液をPBS で満たした。
10,000 孔マイクロキャビティアレイの場合、ペリスタルティックポンプを用いて流速180 μL/minで60秒間、250,000孔アレイの場合、流速450 μL/min で90秒間にわたって細胞捕捉操作を行った。
<結果>
10,000孔マイクロキャビティアレイを用いた場合、細胞捕捉は60秒以内に完了し、単一細胞がマイクロキャビティアレイの微細貫通孔上に捕捉されていた(図8)。図9は、細胞集積化デバイスへの導入細胞数とマイクロキャビティアレイの微細貫通孔上に捕捉された細胞数との関係を示した図である。1,000 〜 9,000細胞の導入条件では、捕捉効率は76〜94%の間で安定して得られた (r2 = 0.99)。このことから、10,000 孔の微細貫通孔を配したマイクロキャビティアレイを用いることで、103オーダーの細胞数を捕捉することが可能であった。
また、250,000孔マイクロキャビティアレイを用いた場合、細胞捕捉は90秒以内に完了し、導入した血球細胞の80〜90%を捕捉し、等間隔に配列化させることが可能であった(図10)。
さらに、いずれのマイクロキャビティアレイを用いた場合にも、二個以上細胞が捕捉された孔は1%以下であった。
【0053】
実施例4 CMOSセンサを配した細胞解析装置の構築
撮像装置として、3.2μm四方の検出素子2048×1536個から構成されるCMOSセンサ (DFK130C02, Imaging Source, Germany) を使用し、この上に下部基板を介してマイクロキャビティアレイを設置した。
マイクロキャビティアレイは直径8μm、孔間距離60μmの貫通孔を保持するもの、又は直径3μm、孔間距離25μmの貫通孔を保持するものを用いた。下部基板はマイクロキャビティアレイとCMOSセンサ保護ガラスの間に、フレームシールにより高さ50μmの間隙を設けるように作製した。さらに、PDMS製の細胞導入用のウェルチャンバー(上部平板)をマイクロキャビティアレイの上に設置した。紫外光源としてはDEEP UVランプ (SPOTCURE SP-9, USHIO, Japan) を使用し、細胞解析装置の上方に設置した。CMOSセンサによる撮像はImaging Source社の制御用ソフトウェア (IC Capture 2.1) を利用して行った。
【0054】
実施例5 CMOSセンサを用いた影シグナルイメージングの検討
センサ‐マイクロキャビティアレイ基板間距離及び照射光波長の画像コントラストへの影響を評価するために、蛍光標識細胞模擬粒子 (Flowcheck fluorosphere, Beckman Coulter, USA)を捕捉しUV照射下でイメージングを行った。
はじめにマイクロキャビティアレイをセンサ表面から1100, 1300, 1550, 1800, 2050 μm離した位置に設置した。続いて、細胞導入用ウェルチャンバー(上部平板)に粒子懸濁液を導入し吸引することで粒子をマイクロキャビティアレイに捕捉した。波長を365 nmとした光照射下で、CMOSセンサイメージングを行った。つぎに、HeLa細胞懸濁液200 μlをマイクロキャビティアレイ上に導入した。細胞懸濁液を吸引し、CMOSセンサイメージングを行った。また、同基板上を蛍光顕微鏡観察し、実際の捕捉細胞数を確認した。
【0055】
<結果>
CMOSセンサ上に統合したマイクロキャビティアレイに対し、上方から光を照射することで、貫通孔を通過した照射光同士の干渉により生じる格子パターンが可視化された。さらに、細胞が捕捉された貫通孔においては、通過光量の減少により暗く可視化された。同基板表面の蛍光顕微鏡観察像と比較すると、粒子配置と黒色パターン配置が一致していることが確認できた(図12)。種々の検討を行った所、センサ‐マイクロキャビティアレイ基板間距離が短くなるにつれて、黒色パターンのコントラストが増し、S/N比が高くなることが示された(図13)。また、照射光の波長が短いほど、S/N比は高くなった(図14)。従って、この後の実験は距離1100 μm、波長365 nmとして行った。
【0056】
参考例2 計測細胞数の比較
細胞解析装置のマイクロキャビティアレイ上にHeLa細胞を捕捉して影シグナルイメージングを行ったところ、細胞捕捉位置は黒色パターンで可視化された(図15)。このパターンの配置は、蛍光顕微鏡観察下で確認した細胞局在位置と一致した。さらに、黒色パターンの数をCMOSセンサによる細胞数カウントとして定義し、顕微鏡によるカウントと比較したところ、両者の間に相関関係が得られた。以上より、マイクロキャビティアレイ統合CMOSセンサを用いて、細胞数計測が可能であることが示された。
【0057】
実施例6 CMOSセンサ蛍光カラーイメージングの検討
CMOSセンサの保護ガラスを除去し、センサ受光面を露出させた。マイクロキャビティアレイは直径3 μm、孔間距離25 μmの貫通孔を保持するものを用いた。マイクロキャビティアレイの細胞捕捉面を、UVカットフィルム (T-UV film, TOCHISEN, 厚さ:50 μm) を介して、センサ受光面に接することで蛍光検出系を構築した。また、マイクロキャビティアレイ の35 mm上方に紫外光源を設置し、バンドパスフィルター (FF01-292/15-25, Semrock) を用いて励起光波長を292 nmとした。蛍光標識細胞模擬粒子 (Ex / Em = 488 nm / 586 nm) 懸濁液、Hoechst33342 (Ex / Em = 350 nm / 461 nm) 染色JM細胞懸濁液各200 μLをマイクロキャビティアレイ上に滴下し、溶液を吸引した。粒子または細胞を捕捉したマイクロキャビティアレイを用いて蛍光検出系を構築し、励起光照射下でCMOSセンサイメージングを行った。
【0058】
<結果>
蛍光標識粒子またはHoechst33342染色細胞捕捉後のマイクロキャビティアレイに対し、励起光照射下でCMOSセンサイメージングを行ったところ、それぞれ黄色、青色の円形カラーイメージが得られた(図16)。また、円形イメージを横断する直線上におけるシグナル強度の推移を計測した。
その結果、蛍光標識粒子においては赤チャンネル、緑チャンネルのシグナル強度に、Hoechst33342染色細胞においては青チャンネルのシグナル強度にそれぞれピークが確認された。これより、構築した検出系を用いて、粒子及び染色細胞はその蛍光波長に対応したカラーイメージとして撮像可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
細胞集団から個々の細胞情報をハイスループットに解析する細胞解析は、医療分野では血球分析検査や細胞集団のプロファイリングに利用され、種々の病症診断に利用されている。例えば、血球中に含まれているCD4抗原を発現している細胞とCD8抗原を発現している細胞を計数し、その存在比率を求めることでエイズ等の初期診断に利用される。CD4(+)細胞とCD8(+)細胞の比は、免疫疾患の指標として利用され、例えば、HIV感染症やB型肝炎などの免疫不全疾患の場合、CD4(+)/CD8(+)比が減少することが知られており、一方で、関節リウマチや自己免疫性溶血性貧血などの自己免疫疾患で上昇することが知られている。また、血球中で存在比率の少ないがん細胞を検出することで、がんの早期診断やがんの術後診断 (転移性の評価) に応用される。本発明によれば、これらの診断技術の簡易化を実現し、また細胞解析システムの小型化、廉価化を図ることができる。さらに、稀少細胞の内でも造血幹細胞を始めとする幹細胞を簡易に検出することができれば、細胞医療や免疫療法に利用できる細胞を簡易に調製できる技術として応用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 撮像装置
2 下部基板
3 マイクロキャビティアレイ
4 フレームシール
5 上部平板
6 試料注入・吸引部
7 試料注入・吸引部
8 貫通孔
9 微細貫通孔
11 開口窓
12 開口窓
13 受光面
14 固体撮像デバイス
17 透明基板
20 ダブルゲートトランジスタ(光電変換素子)
21 ボトムゲート電極
27 ソース電極
28 ドレイン電極
31 トップゲート電極
32 絶縁膜
41 ボトムゲートライン
42 ソースライン
43 ドレインライン
44 トップゲートライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面を上方向に向けて設けられた光電変換素子を有する撮像装置の受光面に、試料中の細胞を捕捉可能なマイクロキャビティアレイを具備するマイクロ流路デバイスが構築された細胞解析装置。
【請求項2】
前記マイクロ流路デバイスが、撮像装置の受光面に載置され、撮像装置の受光面と協働して細胞を含む試料溶液をトラップする試料貯留溝を形成するための開口窓が設けられた下部基板と、
前記下部基板の上面に積層載置され、細胞捕捉用の孔径、孔数、及び配置が制御された複数の微細貫通孔と、試料溶液を供給排出するための貫通孔を有するマイクロキャビティアレイと、
前記マイクロキャビティアレイの上面にフレームシールを介して積層載置され、該マイクロキャビティアレイの上側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部と、該マイクロキャビティアレイの下側から試料を供給又は吸引するための試料注入・吸引部を備え、該マイクロキャビティアレイの微細貫通孔上面と協働して細胞を含む試料溶液をトラップするチャンバーを形成するための開口窓が設けられた上部平板、を含む請求項1記載の細胞解析装置。
【請求項3】
マイクロキャビティアレイの微細貫通孔の孔径が2〜20μmで、孔間隔が10〜100μmである請求項2記載の細胞解析装置。
【請求項4】
上部平板が、プラスチック、ガラス又は金属製である請求項2又は3記載の細胞解析装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の細胞解析装置を用いて、試料中に含まれる細胞をマイクロキャビティアレイに捕捉し、光照射下、細胞由来のシグナルを撮像することを特徴とする細胞解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−177686(P2012−177686A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17923(P2012−17923)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】