説明

細胞計測方法および装置

【課題】生細胞の数を正確に予測する細胞計数方法および装置を提供する。
【解決手段】生細胞数を計数するとともに細胞周期の分析を行う。細胞周期の分析では、全細胞に占める分裂直前のG2/M期の細胞数の割合を求め、それに生細胞数を乗算する。それによって、数時間後の細胞増加分を高い精度で推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞数を計測する技術に関し、特に、生細胞数を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬等の医薬品には、細胞が産生する物質を主成分として含有するものがある。このような物質は、例えば動物細胞により分泌生産されるため、動物細胞を培養し、培養液中に分泌された目的物質を分離精製することで得ることができる。細胞を培養する工程では、細胞は分裂を繰り返すことにより増殖するが、培養環境が悪化すると細胞死が増大し、環境の悪化が持続すると最終的には全ての細胞が死滅する。培養環境の悪化の要因には、攪拌による力学的な破砕、栄養素の枯渇、細胞によって分泌されるアンモニア、乳酸の蓄積等が挙げられる。
【0003】
細胞の培養方法は、回分培養、連続培養(もしくは灌流培養)、流加培養(もしくは半回分培養)に分類される。回分培養は、一回毎に新たな培地を用意し、そこへ株を植えて収穫まで培地を加えない方法である。回分培養によると、培養毎に品質はバラつくが、コンタミネーションのリスクを分散・低減できる。連続培養は、連続的に培養系に培地を供給すると同時に同量の培養液を抜き取る培養法である。連続培養では、培養環境を常に一定に保ちやすく、生産性が安定するという特徴がある。反面、一度コンタミネーションが起きると汚染も持続するのが欠点である。流加培養は、培養中に、培地自体や培地中の特定の成分を添加し、培養終了時までその生成物を抜き取らない培養方法である。流加培養は、細胞密度を調節することによって増殖性を最適化したり、培養中に蓄積した有害物質を希釈して生産性を維持するなどの目的で行われる。
【0004】
流加培養や連続培養では、培地の添加方法を工夫することにより、栄養源の枯渇を回避するばかりでなく、エネルギー源の一つであるグルコースの利用と主として乳酸代謝からTCAサイクルによる完全酸化によりシフトさせることにより、エネルギー源を効率的に利用させることができる。近年、有害代謝産物の蓄積を防止すると同時に高密度を達成させる培地の添加方法が開発され、高細胞濃度が達成可能となっている。
【0005】
図1に示すように、細胞の増殖は、増殖曲線によって表される。増殖曲線は、縦軸を細胞数の対数、横軸を時間として画いたものである。尚、本願明細書にて、「細胞数」というとき、それは、「細胞数の濃度又は密度」の意味である。細胞の増殖は、初期の増殖率が小さい培養初期(誘導期)、指数関数的に増殖する指数増殖期(対数期)、増殖が停止する培養後期(定常期)に分けることができる。指数増殖期における生細胞数は、次の式1によって、得られる。指数増殖期における増殖速度は、増殖曲線の傾きに相当し、次の式2によって得られる。
【0006】
Nt=Nt,N exp(μt) 式1
μ=(lN Nt,N -lN Nt,N-1)/(tN-tN-1) 式2
Nt:時刻tでの生細胞数、Nt,N:N回目のサンプリング時での生細胞数、μ:比増殖速度、tN:N回目のサンプリングの時刻、である。
【0007】
添加培地量は、次の式3によって求める。
【0008】
ΔVF=β(Nt-Nt,N)/C 式3
ΔVF:添加培地の体積、β:1細胞あたりが消費する栄養濃度、C:時刻tでの添加培地の栄養濃度
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−504550
【特許文献2】特開2004−236505
【特許文献3】特開2004−222728
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
式3に示すように、添加培地量は、N回目のサンプリング時にて測定した生細胞数(Nt,N)と、それより後の時刻tでの生細胞数(Nt)を用いて算出する。従って添加培地量を正確に求めるには、サンプリング後の時刻tでの生細胞数(Nt)を正確に予測する必要がある。指数増殖期における生細胞数は式1によって推定される。しかしながら培養後期(定常期)では、生細胞数は式1によって求めることができない。培養後期(定常期)において、生細胞数を式1によって求め、それを用いて式3によって添加培地量を求めると、添加培地量が過剰となる。添加培地の過剰供給は、細胞の代謝効率を下げ、老廃物であるアンモニア、乳酸分泌を高める。更に、抗体医薬などの医薬品の製造工程では、糖鎖の付加状態が変化し、製品の品質に影響を及ぼす可能性が生じる。
【0011】
本発明の目的は、生細胞の数を正確に予測することができる細胞計数方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、生細胞数を計数するとともに細胞周期の分析を行う。細胞周期の分析では、全細胞に占める分裂直前のG2/M期の細胞数の割合を求め、それに生細胞数を乗算する。それによって、数時間後の細胞増加分を高い精度で推定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、生細胞の数を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】細胞の増殖曲線の概念図である。
【図2】真核細胞の細胞周期の概念図である。
【図3】細胞周期の各期における細胞数とDNA量との関係を示す概念図である。
【図4】本発明による細胞数測定方法の例を示す図である。
【図5】本願発明者が行った実験により得られた細胞増殖曲線を示す図である。
【図6】本願発明者が行った実験により得られた培養2日目、培養4日目の細胞周期の分析結果を示す図である。
【図7】本願発明者が行った実験により得られた生細胞数の推定値と実測値の比較を示す図である。
【図8】従来の細胞数計測方法と本発明による細胞数計測方法とに基づいて培地制御を行った際の培養槽内の栄養濃度を示す概念図である。
【図9A】本発明による細胞数計測方法を適用した医薬品生産プラントの例を示す。
【図9B】本発明による細胞数計測方法を適用した医薬品生産プラントの細胞計測装置の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図2は、真核細胞の細胞周期の概念を示す。細胞周期は、1つの細胞が分裂して2つの細胞になるために必要な期間である。細胞周期は、細胞分裂期(M期)と、それ以外の細胞分裂間期からなる。細胞分裂間期は、G1期、S期、G2期、からなる。真核細胞は細胞周期を繰り返すことで増殖する。典型的な動物の細胞では、1細胞周期にかかる時間は16〜24時間であり、M期は1時間、G2期は2〜6時間、S期は6〜8時間であり、M期、G1期、S期、G2期の時間比はおよそ1:5:7:3である。しかしながら、培養条件等の様々な要因により、G1期において、細胞周期から離脱し静止状態になる細胞がある。これをG0期という。G0期の長さ及び含有比は不定である。従って、G0期の細胞を含む場合には、M期、G1期、S期、G2期の各期の含有比は不定である。
【0016】
生細胞数推定の原理を説明する。M期は1時間であるとする。ある時点t=t0にてサンプリングを行い、生細胞数N0が得られたとする。サンプリングした生細胞におけるM期の細胞の割合をpMとする。サンプリング時にM期であった細胞は、1時間後には、全て、M期を終了している、即ち、増殖を完了している。従って、1時間後における、生細胞の増加数は、N0×pMである。従って、1時間後の生細胞数は、N0+N0×pM=N0×(1+pM)となる。即ち、サンプリング時における生細胞数N0とM期の細胞の割合pMが得られるなら、サンプリングから1時間後の生細胞数を算出することができる。
【0017】
一般に、サンプリングによって生細胞数を算出することはできるが、M期の細胞の割合pMを求めることは困難である。従って、サンプリングから1時間後の生細胞数を算出することはできない。
【0018】
一般に、M期の細胞の割合pMを求めることは困難であるが、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を求めることは可能であり、既知である。そこで、本願の発明者は、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を用いて、サンプリングから数時間後の生細胞数を算出する方法を考察した。M期は1時間であるが、G2期は2〜6時間である。そこでG2期が2時間であると仮定する。ある時点t=t0にてサンプリングを行い、生細胞数N0が得られたとする。サンプリングした生細胞におけるG2期の細胞とM期の細胞の合計の割合をp(M+G2)とする。サンプリング時にM期及びG2期であった細胞は、3時間後には、全て、M期を終了し、増殖を完了している。従って、3時間後における、生細胞の増加数は、N0×p(M+G2)である。即ち、3時間後の生細胞数N1は、次の式4によって求められる。
【0019】
N1=N0+N0×p(M+G2)=N0×(1+p(M+G2)) 式4
【0020】
ここで、M期は1時間、G2期は2時間であると仮定した。この場合には、式4によって、3時間後の生細胞数が求められる。M期が1時間、G2期が3時間であると仮定すると、式4によって、4(=1+3)時間後の生細胞数が求められる。更に、M期が1時間、G2期が4時間であると仮定すると、式4によって、5(=1+4)時間後の生細胞数が求められる。そこで、M期が1時間、G2期がT(G2)時間であると仮定すると、式4によって、(1+T(G2))時間後の生細胞数が求められる。時間T(G2)は、2〜6時間である。したがって、式4は、M期が1時間である仮定すると、3〜7時間後の生細胞数の推定値を表す。尚、式4によって得られる生細胞数が、3〜5時間後の生細胞数の推定値とみなすと誤差が比較的小さいが、5〜7時間後の精細胞の推定値であるとみなすと、誤差が大きくなる。
【0021】
以上では、M期は1時間であると仮定した。そこで、M期とG2期の合計の時間を、T(M+G2)時間とする。式4によってT(M+G2)時間後の生細胞数が求められる。時間T(M+G2)は、3〜7時間である。
【0022】
図3を参照して、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を求める方法を説明する。図3は、生細胞のDNAをPI蛍光染色法によって蛍光標識し、それを光学的に検出した結果を示す概念図である。PI蛍光染色法は、PI(ヨウ化プロピジウム:Propidium Iodide)を用いる蛍光染色法であり、当業者にとって既知である。図3の縦軸は、細胞数、横軸は、PI蛍光強度(DNA量)である。曲線C11は、G0期とG1期の細胞を示す。G0期とG1期の細胞からは比較的強度が小さい蛍光が検出される。曲線C12は、S期の細胞を示す。S期の細胞からは、広い範囲の強度の蛍光が検出される。曲線C13は、G2期とM期の細胞を示す。G2期とM期の細胞からは比較的強度が大きい蛍光が検出される。
【0023】
図3の3つの曲線C11、C12、C13は度数分布曲線である。従って、この曲線を、所定の範囲について積分することによって、その範囲の細胞数が求められる。即ち、これらの曲線の下側の面積は、細胞数を示し、面積比は、細胞数比を表す。例えば、曲線C13の下側の面積を測定することによって、G2期とM期の細胞数が得られる。また、曲線C13の下側の面積を他の曲線の下側の面積と比較することにより、G2期とM期の細胞数と他の期の細胞数の比が求められる。図3において、G2期とM期の細胞を表す曲線C3の面積をS期側へ拡大することにより、より先の時間の増殖細胞数を決めることができる。ただし、時間が長くなる程、推定精度が下がる可能性がある。
【0024】
図4を参照して、本発明による生細胞数の推定方法を説明する。ステップS101にて、培養槽から細胞を含む培養液のサンプリングを行う。ステップS102にて、サンプリング試料に含まれる全生細胞数を計測する。生細胞数の計測方法として、幾つかの方法が知られている。例えば、トリパンブルー染色法では、トリパンブルーによって生死細胞を分別し、生細胞数を計測することができる。また、電気抵抗で細胞をカウントする細胞計数分析方法、MTT(メチルチアゾールテトラゾリウム:Methylthiazole tetrazolium)アッセイなど酵素活性を利用する方法、等がある。
【0025】
ステップS103にて、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を求める。図3を参照して説明したように、PI蛍光染色法によって、G0期とG1期の細胞、S期の細胞、及び、G2期とM期の細胞の含有比を求めることができる。
【0026】
ステップS102及びステップS103では、実際に細胞数を計測する必要がある。細胞数の計測方法には、フローサイトメータにより1細胞ずつ計測する方法、蛍光強度に関する度数分布を解析する方法、サンプリング中の細胞全体の蛍光強度や吸収スペクトルによるDNA定量法等が知られている。
【0027】
ステップS104にて、サンプリングからT(M+G2)時間後の生細胞数を推定する。但し、T(M+G2)時間は、M期とG2期の合計の時間である。生細胞数の推定数は、式4によって求められる。例えば、T(M+G2)=3時間とすると、3時間後の生細胞数の推定値が得られる。
【実施例】
【0028】
以下に、本願の発明者が実施した生細胞数の推定実験を説明する。CD-CHO培地(Gibco社製)を用い、Chinese Hamster Ovary (CHO)細胞をスピナーフラスコ(150 ml)で培養した。培養2日目と培養4日目ではサンプリングを3時間おきに行い、それ以外の日では、一日一度サンプリングを行った。サンプリングした細胞について、細胞数、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合を測定した。生細胞数の計測には、Vi-Cell(製品名:ベックマン・コールター社製)を用いた。Vi-Cellはトリパンブルーにより細胞を染色し、その画像を取得し、画像処理により染色されない生細胞と青色に染色される死細胞の数をそれぞれカウントし、生細胞数濃度、生存率を求める。
【0029】
G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合の計測には、Cell Cycle Phase Determination Kitを用い、添付のプロトコルに従い細胞を蛍光色素で標識し、フローサイトメータ(ベックマン・コールター社)により測定を行った。
【0030】
図5は、本願の発明者が実施した生細胞数の推定実験において得られた細胞の増殖曲線を示す。縦軸は、生細胞数の対数であり、単位は×106cells/mlである。横軸は培養時間(日)である。曲線上の黒丸はサンプリング点を表す。上述のように、細胞の増殖は、培養初期(誘導期)、指数増殖期(対数期)、及び、培養後期(定常期)に分けることができる。培養2日目と3日目では、指数増殖期(対数期)であるが、培養4日目では、培養後期(定常期)であることが判る。
【0031】
図6は、培養2日目、及び、培養4日目の細胞数の測定結果を示す。図6の縦軸は、細胞数、横軸は、PI蛍光強度(DNA量)である。これらの曲線の下側の面積は、細胞数を示し、面積比は、細胞数比を表す。実線の曲線D11A、D12A、D13Aは、培養2日目の細胞数を示し、破線の曲線D11B、D12B、D13Bは、培養4日目の細胞数を示す。図示のように、これらの曲線において、左端の曲線部分D11A、D11Bは、G0期とG1期の細胞を示し、中央部分の曲線部分D12A、D12Bは、S期の細胞を示し、右側の曲線部分D13A、D13Bは、G2期とM期の細胞を示す。右端の実線の曲線部分D13Aと破線の曲線部分D13Bを比較すると、培養4日目の培養後期(定常期)では、G2期とM期の細胞の割合が少ないことが確認できる。
【0032】
図7は、本願の発明者が実施した生細胞数の計測実験の結果を示す。培養2日目及び培養4日目において、3時間毎にサンプリングを行った。第n回目のサンプリング時における生細胞数を実測し、その実測値から、その3時間後の生細胞数を推定した。こうして推定した生細胞数を、第(n+1)回目のサンプリング時の実測値と比較した。
【0033】
培養2日目と培養4日目において、推定値と実測値の比較を行った。推定値と実測値が略一致していることが確認された。尚、実測値が推定値より僅かに小さくなる傾向があるが、これは、実際には、サンプリング時にG2期であった細胞の一部が、3時間経過しても増殖期を完了していない、考えられる。
【0034】
図8は、培養時間と培養液の栄養濃度の時間変化を示す図である。実線の曲線81は、本発明の方法によって推定した生細胞数に基づいて計算した添加培地量を培養液に添加した場合の培養液の栄養濃度を示す。破線の曲線82は、従来技術による方法によって推定した生細胞数に基づいて計算した添加培地量を培養液に添加した場合の培養液の栄養濃度を示す。本発明の方法によると、生細胞数を正確に推定することができるから、図示のように、培養液の栄養濃度を一定に保持することができる。
【0035】
図9Aは、本発明に係る細胞数計測方法を医薬品生産プラントへ適用した例を示す。このプラントは、培養槽11、新培地槽12、計測装置21、解析装置22、及び、制御装置23を有する連続培養システムである。このシステムは更に、新培地供給装置13、攪拌装置14、及び、酸素供給装置15を有する。新培地供給装置13は、例えば、配管、ポンプ、及び、調節弁を有する。酸素供給装置15は、例えば、酸素供給源に接続された配管、ポンプ、及び、調節弁を有する。計測装置21は、培養槽11内の培養液の酸素濃度を測定し、それを解析装置22に送信する。解析装置22は、溶存酸素量が所定の閾値以下であるか否かを判定する。溶存酸素量が所定の閾値以下であれば、制御装置23に信号を送信する。制御装置23は、酸素供給装置15と攪拌装置14の少なくとも一方に制御信号を送る。酸素供給装置15と攪拌装置14は、受信した制御信号に基づいて作動する。こうして、培養槽11に保持された培養液の酸素濃度は、所定の閾値以上に保持される。
【0036】
図9Bは、計測装置の構成を示す。計測装置21は、オートサンプリング装置211、生細胞数計212、及び、細胞周期分析装置213を有する。培養槽11にはサンプリング箇所が設置してあり、サンプリング周期にて無菌的に細胞を含む培養液を抜き出すことができる。サンプリング液は、サンプリング周期にて、オートサンプリング装置211を介して、生細胞数計212及び細胞周期分析装置213に供給される。生細胞数計212は、上述のようにVi-Cell(製品名:ベックマン・コールター社)であってよい。Vi-Cellはトリパンブルーにより染色されない生細胞と青色に染色される死細胞に分別し、画像処理によりそれぞれカウントし、生細胞数を求める。細胞周期分析装置213は、細胞の洗浄、界面活性剤Triton×100溶液による細胞膜の可溶化、蛍光色素(PI)による蛍光色素処理213A等の前処理を行う装置を備える。前処理された細胞はフローサイトメータ213Bに送られる。フローサイトメータ213Bによって、PI染色された細胞数が計測される。こうして、細胞周期分析装置213によって、G2期とM期の生細胞数の割合が得られる。生細胞数計によって計測された生細胞数と、細胞周期分析装置によって計測されたG2期とM期の生細胞数の割合は、解析装置22に送信される。解析装置22は、式4によりT(M+G2)時間後の生細胞数を推定し、式3によって添加培地量を決定する。解析装置22により決定した添加培地量は、制御装置23に送信される。制御装置23は、新培地供給装置13を作動させ、新培地槽12から培養槽11に所定量の新培地を供給する。
【0037】
本例の連続培養システムによると、培養槽から細胞液を、所定の周期にてサンプリングする。サンプリング毎に、生細胞数とG2期とM期の細胞の割合を算出する。それによって、サンプリング時よりT(M+G2)時間後の生細胞数を推定する。T(M+G2)は、M期とG2期の合計の時間である。例えば、M期が1時間、G2期が2時間とすると、サンプリング時より3時間後の生細胞数を推定することができる。この場合、サンプリング周期を6時間とすると、生細胞数は、3時間毎に得られる。こうして、3時間毎に得られた生細胞数に基づいて、添加培地制御を行うことができる。
【0038】
本発明による細胞数計測法を用いることにより、指数増殖期における生細胞数ばかりでなく、培養初期、及び、培養後期における生細胞数を正確に推定することができる。そのため、適切な培地制御を行うことができる。
【0039】
本発明に係る細胞数計測方法及び装置は、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞の培養制御に適用することができる。本発明において、生産対象の物質としては、例えば抗体や酵素等のタンパク質、低分子化合物及び高分子化合物等の生理活性物質を挙げることができる。また、培養対象の細胞としては、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細細胞、酵母、真細胞及び藻類等を挙げることができる。特に、抗体や酵素等のタンパク質を生産する動物細胞を培養対象とすることが好ましい。
【0040】
以上本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは、当業者によって容易に理解されよう。
【符号の説明】
【0041】
11…培養槽、12…新培地槽、13…新培地供給装置、14…攪拌装置、15…酸素供給装置、21…計測装置、22…解析装置、23…制御装置、211…オートサンプリング装置、212…生細胞数計、213…細胞周期分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞を含む試料をサンプリングするサンプリングステップと、
前記試料から全生細胞数N0を計測する全生細胞数計測ステップと、
前記試料からPI蛍光染色法によって、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を求める細胞周期分析ステップと、
前記全生細胞数N0に、前記G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を乗算する乗算ステップと、
前記乗算ステップの結果より、前記サンプリン時から、G2期とM期の合計の時間に相当する時間T(M+G2)経過後における全生細胞数を推定する全生細胞数推定ステップと、
を有する細胞数計測方法。
【請求項2】
請求項1記載の細胞数計測方法において、前記時間T(M+G2)は3〜5時間であることを特徴とする細胞数計測方法。
【請求項3】
請求項1記載の細胞数計測方法において、
前記細胞周期分析ステップにおいて、前記PI蛍光染色法は、生細胞のDNAから検出した蛍光強度に対する細胞数の度数分布グラフを積分することによって、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を求めることを特徴とする細胞数計測方法。
【請求項4】
請求項1記載の細胞数計測方法において、
更に、前記全生細胞数推定ステップにて推定した全生細胞数に基づいて、添加培地量を演算する添加培地量演算ステップと、を有する細胞数計測方法。
【請求項5】
培養液を収容する培養槽と、新培地を収容する新培地槽と、前記新培地槽から前記培養槽に新培地を供給する新培地供給装置と、前記培養槽に収容された培養液の全生細胞数を計測する生細胞数計と、前記培養槽に収容された培養液のG2期とM期の生細胞数の割合を計測する細胞周期分析装置と、前記生細胞数計によって計測された全生細胞数に、前細胞周期分析装置によって計測されたG2期とM期の生細胞数の割合p(M+G2)を乗算することによって、前記サンプリン時から、G2期とM期の合計の時間に相当する時間T(M+G2)経過後における生細胞の増殖数と全生細胞数を推定する解析装置と、を有することを特徴とする細胞培養システム。
【請求項6】
請求項5記載の細胞培養システムにおいて、前記時間T(M+G2)は3〜5時間であることを特徴とする細胞培養システム。
【請求項7】
請求項5記載の細胞培養システムにおいて、
前記細胞周期分析装置は、生細胞のDNAから検出した蛍光強度に対する細胞数の度数分布グラフを積分することによって、G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を求めるPI蛍光染色法を実行することを特徴とする細胞培養システム。
【請求項8】
請求項5記載の細胞培養システムにおいて、
更に、前記解析装置は、前記推定した全生細胞数に基づいて、添加培地量を演算し、前記新培地供給装置は、該添加培地量に基づいて新培地を前記培養槽に供給することを特徴とする細胞培養システム。
【請求項9】
培養槽に収納された培養液からのサンプリング液を供給するオートサンプリング装置と、前記オートサンプリング装置から供給されたサンプリング液より全生細胞数N0を計測する生細胞数計と、前記オートサンプリング装置から供給されたサンプリング液よりG2期とM期の生細胞数の割合p(M+G2)を演算する細胞周期分析装置と、を有する細胞計測装置において、
前記全生細胞数N0に、前記G2期の細胞とM期の細胞の合計の割合p(M+G2)を乗算することによって、サンプリン時から、G2期とM期の合計の時間に相当する時間T(M+G2)経過後における生細胞の増殖数と全生細胞数を推定することを特徴とする細胞計測装置。
【請求項10】
請求項9記載の細胞計測装置において、
前記生細胞数計は、トリパンブルーにより染色されない生細胞と青色に染色される死細胞に分別し、画像処理により、前記生細胞と死細胞をそれぞれ計数することによって、生細胞数を計数するように構成されていることを特徴とする細胞計測装置。
【請求項11】
請求項9記載の細胞計測装置において、
前記細胞周期分析装置は、蛍光色素(PI)による蛍光色素処理がなされた細胞をフローサイトメータによって計測することにより、G2期とM期の生細胞数の割合を演算することを特徴とする細胞計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【公開番号】特開2011−177063(P2011−177063A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42765(P2010−42765)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】