説明

細胞計測装置および生体組織処理装置

【課題】生体組織を消化して得られた細胞懸濁液内の生体由来細胞の数を容易に、かつ、より精度よく計測する。
【解決手段】生体組織を消化して得られた細胞懸濁液を流動させる配管6と、該配管6の途中位置に配置され、細胞懸濁液内に含まれる組織由来細胞の大きさより小さく、赤血球の大きさより大きい多数の透孔を有するフィルタ状の細胞捕捉部8と、該細胞捕捉部8の上流または下流の少なくとも一方において配管6内を流動する流体の流体特性量を検出する特性量検出部9と、該特性量検出部9により検出された流体特性量に基づいて、細胞捕捉部8に捕捉された組織由来細胞の細胞数を演算する演算部10とを備える細胞計測装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞計測装置および生体組織処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液を遠心分離処理することにより、組織由来細胞を遠心分離器により濃縮する装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この装置は、遠心分離容器内に電極を配置して、遠心分離容器内に収容された細胞懸濁液の電気伝導度を検出したり、あるいは、遠心分離容器内部に収容されている細胞懸濁液に入射させる光の透過率を測定したりして細胞懸濁液内の細胞数を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液内には、必要とされる生体由来細胞の他、赤血球も残留しており、赤血球量はサンプルにより相違するため、単に、細胞懸濁液全体の電気伝導度や透過率を測定する特許文献1の装置では、赤血球の影響によって測定結果が変動するという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液内の生体由来細胞の数を容易に、かつ、より精度よく計測することができる細胞計測装置および生体組織処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液を流動させる配管と、該配管の途中位置に配置され、前記細胞懸濁液内に含まれる組織由来細胞の大きさより小さく、赤血球の大きさより大きい多数の透孔を有するフィルタ状の細胞捕捉部と、該細胞捕捉部の上流または下流の少なくとも一方において配管内を流動する流体の流体特性量を検出する特性量検出部と、該特性量検出部により検出された流体特性量に基づいて、前記細胞捕捉部に捕捉された組織由来細胞の細胞数を演算する演算部とを備える細胞計測装置を提供する。
【0006】
本発明によれば、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液が、配管内を上流側から下流側に向かって流動させられると、配管の途中位置に配置された細胞捕捉部に通される。細胞懸濁液内に含まれる組織由来細胞は、フィルタ状の細胞捕捉部の透孔を通過できずに捕捉される一方、組織由来細胞より小さい赤血球については、透孔を通過して下流側に流通させられる。
【0007】
そして、細胞捕捉部に組織由来細胞が捕捉されていくと、細胞捕捉部の上流あるいは下流の流体特性量が変化する。細胞捕捉部に捕捉された組織由来細胞の数と流体特性量とは一定の関係を有しているので、特性量検出部により流体特性量を検出することにより、演算部によって細胞捕捉部に捕捉された組織由来細胞の細胞数を演算することができる。細胞捕捉部には、赤血球が除去された組織由来細胞のみが捕捉されているので、赤血球の影響を受けることなく、簡易かつ精度よく細胞数を計測することができる。
【0008】
上記発明においては、前記特性量検出部が、前記細胞捕捉部の上流側の配管内の前記細胞懸濁液の圧力を検出する圧力センサを備えていてもよい。
このようにすることで、圧力センサによって検出された圧力に基づいて演算部が細胞捕捉部に捕捉された組織由来細胞の細胞数を演算し、簡易かつ精度よく計測することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記特性量検出部が、前記細胞捕捉部の下流側の配管内の前記流体の流量を検出する流量センサを備えていてもよい。
このようにすることで、流量センサによって検出された流量に基づいて演算部が細胞捕捉部に捕捉された組織由来細胞の細胞数を演算し、簡易かつ精度よく計測することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記細胞捕捉部に流通させられる細胞懸濁液の総流量を計測する総流量測定部と、該総流量測定部により測定された細胞懸濁液の総流量と、前記演算部により演算された細胞数とに基づいて細胞懸濁液内の組織由来細胞の濃度を算出する濃度算出部とを備えていてもよい。
このようにすることで、濃度算出部が、細胞懸濁液内の組織由来細胞の濃度を算出するので、細胞懸濁液量が測定できれば、細胞懸濁液内に含まれる組織由来細胞の細胞数を精度よく計測することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記細胞捕捉部が、複数並列に接続されるとともに、細胞懸濁液を流動させる細胞捕捉部を択一的に選択可能な切替弁を備えていてもよい。
このようにすることで、切替弁を作動させていずれかの細胞捕捉部に対して細胞懸濁液を流動させ、当該細胞捕捉部における細胞捕捉量が許容量を超えた場合に、切替弁を作動させて、他の異なる細胞捕捉部に細胞懸濁液を流動させることにより、多量の組織由来細胞を含む細胞懸濁液でも細胞数を計測することができる。
【0012】
また、上記発明においては、いずれか1つの細胞捕捉部の細胞捕捉量が、残りの細胞捕捉部の全細胞捕捉量より小さく設定されていてもよい。
このようにすることで、細胞捕捉量の小さい細胞捕捉部を利用してその上流側または下流側の流体特性量を検出することにより、細胞数を迅速に計測することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記細胞捕捉部が、前記透孔の大きさの大きい順に上流側から直列に複数配列され、前記特性量検出部が、各前記細胞捕捉部の上流または下流の少なくとも一方に設けられていてもよい。
このようにすることで、細胞懸濁液内に大きさの異なる複数種の組織由来細胞が含まれている場合に、これらの組織由来細胞を種類別に分離して捕捉し、それぞれの細胞数を計測することができる。
【0014】
すなわち、大きさの最も大きな組織由来細胞が最初の細胞捕捉部の透孔を通過できずに捕捉され、それより小さい組織由来細胞および赤血球は、当該細胞捕捉部の透孔を通過して下流側に流動する。下流側には、最初の細胞捕捉部より小さい透孔を有する次の細胞捕捉部が配置されているので、次の大きさの組織由来細胞を選択的に捕捉してその細胞数を計測することができ、以下、順次、大きさ毎に組織由来細胞を捕捉することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記細胞捕捉部が、前記配管の途中位置に接続されるケースと、該ケース内に流通断面を閉塞するように配置される生体親和性の多孔質部材とを備え、該多孔質部材が、前記ケースから取り外し可能に配置されていてもよい。
このようにすることで、組織由来細胞を捕捉した多孔質部材をケースから取り出して、そのまま、細胞培養のための基材として使用したり、患部に移植するためのスキャフォールドとして使用したりすることができる。
【0016】
また、本発明は、生体組織を処理して細胞懸濁液を生成する懸濁液生成部と、前記細胞懸濁液から分離された液体成分を回収する液体成分回収部と、上記いずれかの細胞計測装置とを備え、前記懸濁液生成部と前記液体成分回収部とが、前記配管により接続されている生体組織処理装置を提供する。
本発明によれば、懸濁液生成部において生成された細胞懸濁液は、配管を介して細胞計測装置に通され、細胞捕捉部に組織由来細胞が捕捉された残りの液体成分が細胞捕捉部の下流の配管に接続された液体成分回収部に回収される。これにより、生体組織から高純度の組織由来細胞を分離回収することができる。
【0017】
上記発明においては、前記細胞捕捉部の下流側の配管に、回収液を細胞捕捉部に対して下流側から供給する回収液供給部が接続されていてもよい。
このようにすることで、細胞捕捉部に組織由来細胞が捕捉された後に、回収液供給部が、細胞捕捉部の下流側から回収液を供給することにより、細胞捕捉部を回収液によって逆洗し、細胞捕捉部に捕捉されていた組織由来細胞を剥がして、上流側に押し流すことができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記細胞捕捉部の上流側の近接位置に細胞回収部が接続されていてもよい。
このようにすることで、細胞捕捉部から剥離されて上流側に押し流された組織由来細胞を含む回収液を細胞回収部に回収することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記細胞捕捉部に、該細胞捕捉部を振動させる振動子が取り付けられていてもよい。
振動子を作動させて細胞捕捉部を振動させることにより、細胞捕捉部に捕捉された細胞を振動によって剥離させ、目詰まりしていた透孔を開放させて、細胞捕捉能力を回復させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液内の生体由来細胞の数を容易に、かつ、より精度よく計測することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞計測装置とこれを備える生体組織処理装置を示すブロック図である。
【図2】図1の細胞計測装置の圧力センサの一例を示す縦断面図である。
【図3】図1の細胞計測装置の圧力センサの他の例を示す縦断面図である。
【図4】図3の圧力センサの変形例を示す縦断面図である。
【図5】図1の細胞計測装置の細胞捕捉部に捕捉された細胞数と配管内の流量との関係を示すテーブルである。
【図6】図1の細胞計測装置の細胞捕捉部に捕捉された細胞数と配管内の圧力との関係を示すテーブルである。
【図7】図1の生体組織処理装置の第1の変形例を示すブロック図である。
【図8】図1の生体組織処理装置の第2の変形例を示すブロック図である。
【図9】図1の生体組織処理装置の第3の変形例を示すブロック図である。
【図10】図1の生体組織処理装置の第4の変形例を示すブロック図である。
【図11】図1の生体組織処理装置の第5の変形例を示すブロック図である。
【図12】図11の生体組織処理装置に備えられる細胞捕捉部の一例であって、(a)組立状態、(b)分解状態の細胞捕捉部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る細胞計測装置1および生体組織処理装置2について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞計測装置1は、図1に示されるように、生体組織処理装置2に備えられている。
【0023】
本実施形態に係る生体組織処理装置2は、患者の体内から回収した生体組織、例えば、脂肪組織を消化することにより、細胞懸濁液を生成する懸濁液生成部3と、懸濁液生成部3により生成された細胞懸濁液から組織由来細胞を除去した残りの廃液を回収する廃液容器4と、これら懸濁液生成部3と廃液容器4との間に接続された本実施形態に係る細胞計測装置1と、該細胞計測装置1の下流側から回収液を供給する回収液供給部5とを備えている。
【0024】
懸濁液生成部3は、生体組織に消化酵素を添加して攪拌することにより、生体組織を消化して組織由来細胞を分離させ、細胞懸濁液を生成するとともに、生成された細胞懸濁液に遠心分離処理および洗浄処理を施すことにより、組織や塵埃等を除去した細胞懸濁液を生成するようになっている。
【0025】
本実施形態に係る細胞計測装置1は、懸濁液生成部3において生成された細胞懸濁液を流動させる配管6と、該配管6内の細胞懸濁液に送りをかけるポンプ7と、配管6の途中位置に配置された細胞捕捉部8と、該細胞捕捉部8の上流において配管6内の細胞懸濁液の圧力(流体特性量)を検出する圧力センサ(特性量検出部)9と、該圧力センサ9により検出された圧力値に基づいて細胞数を演算する演算部10とを備えている。
【0026】
配管6は、例えば、半径方向に変形可能な柔軟な材質からなるチューブである。
ポンプ7は、例えば、ペリスタルティックポンプであり、配管6を径方向に潰しながら扱くように作用することにより、配管6内部の細胞懸濁液に接触することなく送りをかけることができるようになっている。
【0027】
細胞捕捉部8は、細胞懸濁液中の組織由来細胞を捕捉する多数の透孔を有するフィルタであり、ポリエステル、レーヨン、ポリオレフィン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル、ナイロン、ポリウレタン等の樹脂によって作成されたメッシュ布あるいは不織布、もしくはパリレン膜、特に、アミノ機能化パリレン膜のような微小の透孔を有する樹脂膜からなるマイクロメッシュフィルタである。アミノ機能化パリレン膜を用いることで、パリレン膜への抗体付着率を向上させることができ、マイクロメッシュフィルタ上に抗体を形成して、特定細胞を特異的に捕捉することが可能となる。
【0028】
細胞捕捉部8に形成される透孔は、捕捉したい組織由来細胞より小さく、赤血球より大きい大きさを有している。これにより、組織由来細胞の通過を禁止し、赤血球を通過させることができるようになっている。
捕捉したい組織由来細胞が脂肪由来細胞の場合には、透孔は約5〜30μmであることが好ましい。なお、透孔を楕円状(短径:約2〜10μm、長径:約10〜50μm)とすることにより、円盤形状を有し変形能の高い赤血球の通過を可能とし、赤血球とほぼ同等の径寸法を有する細胞の通過を禁止して捕捉することができる。
【0029】
圧力センサ9としては、任意のものを採用することができる。
例えば、図2に示されるように、配管6に接続された計測室11を区画するように設けられたダイヤフラム12と、該ダイヤフラム12の変位量を検出する変位計13とを備えるものを挙げることができる。
【0030】
また、図3に示されるように、リリーフ弁14を介して配管6に接続された透明な材質からなる区画室15と、リリーフ弁14を通過して区画室15内に漏れてきた細胞懸濁液Aの有無を検出する光学式センサ16a,16b(符号16aは発光部、符号16bは受光部)とを備えていてもよい。区画室15は上部においてフィルタ17を介して大気開放されていればよい。また、図4に示されるように、リリーフ弁14と区画室15とを複数組直列に配置し、配管6に近い側から、より低い圧力で開放されるリリーフ弁14を配置することにしてもよい。
【0031】
細胞捕捉部8に細胞が捕捉されると、細胞捕捉部8の流動抵抗が上昇する。ポンプ7が一定の回転数で細胞懸濁液Aを送液しようとする場合に、細胞捕捉部8の流動抵抗が上昇していくと、細胞懸濁液Aは細胞捕捉部8を通過しにくくなって、流量が、図5に示されるように、捕捉された細胞数の増加とともに低下する。一方、細胞捕捉部8の流動抵抗が上昇していくと、細胞捕捉部8の上流側の圧力は、図6に示されるように、捕捉された細胞数の増加とともに増大する。
【0032】
演算部10は、図6に示される細胞数と圧力値との関係を示すテーブルを記憶していて、圧力センサ9により検出された圧力値に基づいて細胞数を演算して出力するようになっている。
廃液容器4はバルブ(例えば、三方弁)18を介して切替可能に配管6に接続されている。
【0033】
回収液供給部5は、細胞捕捉部8の下流側の配管6にバルブ18を介して接続され、回収液として生理食塩水を収容する回収液容器19と、該回収液容器19内の生理食塩水をバルブ18を経由して細胞捕捉部8の下流側から細胞捕捉部8に供給するポンプ20とを備えている。
【0034】
バルブ18は、細胞懸濁液を細胞捕捉部8に上流側から供給する際には、細胞捕捉部8を通過した液体を廃液容器4側に導くように切り替えられている。また、回収液供給部5から回収液を細胞捕捉部8に供給する場合には、バルブ18は、回収液容器19と細胞捕捉部8とを接続するように切り替えられている。
【0035】
このように構成された本実施形態に係る細胞計測装置1および生体組織処理装置2の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置2を用いて生体組織から組織由来細胞を回収するには、患者から取り出した生体組織を懸濁液生成部3に導入し、消化酵素を添加して攪拌することにより、生体組織を消化して組織由来細胞を分離させて細胞懸濁液を生成する。そして、生成された細胞懸濁液に遠心分離処理および洗浄処理を施すことにより、組織や塵埃等を除去した細胞懸濁液が生成される。
【0036】
生成された細胞懸濁液は、本実施形態に係る細胞計測装置1に導入される。細胞計測装置1に導入された細胞懸濁液は、ポンプ7によって配管6内を送られて細胞捕捉部8に導入される。
細胞懸濁液が細胞捕捉部8を通過させられる際に粒径の大きな組織由来細胞は細胞捕捉部8の透孔を通過できずに捕捉され、粒径が小さく、柔軟な赤血球は透孔を通過して下流側に流れる。
【0037】
この場合において、組織由来細胞が細胞捕捉部8に捕捉されていくと、流動抵抗が増加していくので、細胞捕捉部8の上流側に配置された圧力センサ9により検出される圧力値が増大していく。これにより、演算部10では、記憶しているテーブルと、圧力センサ9により検出された圧力値とに基づいて、細胞捕捉部8に捕捉された細胞数が演算される。
【0038】
一方、細胞捕捉部8を通過した赤血球を含む液体成分は、バルブ18を介して廃液容器4に回収される。そして、全ての細胞懸濁液が細胞捕捉部8に通された状態で、演算部10により演算された細胞数を記憶する。次いで、バルブ18を切り替えるとともにポンプ7を逆転させて、回収液供給部5のポンプ20を作動させることにより、回収液容器19から回収液を細胞捕捉部8の下流側に回収液を供給する。
【0039】
これにより、細胞捕捉部8を逆洗して、細胞捕捉部8に捕捉された組織由来細胞を懸濁液生成部側に押し流す。これにより、細胞計測装置1により計測された細胞数の組織由来細胞を懸濁液生成部側に回収することができる。
【0040】
このように、本実施形態に係る細胞計測装置1および生体組織処理装置2によれば、赤血球を除外して組織由来細胞のみの細胞数を計測するので、生体組織を消化して得られた細胞懸濁液内の生体由来細胞の数を容易に、かつ、より精度よく計測することができるという利点がある。
【0041】
なお、本実施形態においては、測定する流体特性量として、細胞捕捉部8の上流側において検出した圧力値を採用したが、これに代えて、配管6内における細胞懸濁液の流量を測定し、図5に示されるテーブルに従って、細胞捕捉部8に捕捉された細胞数を演算することにしてもよい。流量を測定する流量センサとしては、例えば、細胞懸濁液に直接接触することなく流量を測定可能な超音波流量計を挙げることができる。
【0042】
また、懸濁液生成部3により生成された細胞懸濁液の全量を細胞捕捉部8に通して捕捉させた後、逆洗により回収することとしたが、図7に示されるように、細胞捕捉部8の上流側にバルブ21を介して回収容器22を接続しておきことにしてもよい。このようにすることで、演算部10において予め設定された細胞数が捕捉されたことが演算された場合に、それ以上の細胞懸濁液の供給を停止し、バルブ21を切り替えて、下流側から回収液を供給して、細胞捕捉部8に捕捉された細胞を回収容器22内に回収することができる。
【0043】
また、図8に示されるように、配管6内を流動した細胞懸濁液の総流量を測定する流量計23を備えていてもよい。図8に示す例では、流量計23の出力は演算部10に入力され、演算部10において、テーブルに基づいて算出された細胞数を、流量計23により測定された総流量により除算することによって、細胞懸濁液内における組織由来細胞の濃度を算出するようになっている。
【0044】
また、図9に示されるように、配管6の途中位置に、2つの細胞捕捉部8a,8bを並列に接続することにしてもよい。バルブ24の切り替えによって、並列に接続されたいずれかの細胞捕捉部8a,8bへの細胞懸濁液あるいは回収液の供給が可能となっている。並列接続する細胞捕捉部8a,8bの数は任意でよい。
【0045】
このようにすることで、一方の細胞捕捉部8aによって組織由来細胞が十分に捕捉された段階で、バルブ24を切り替えて他方の細胞捕捉部8bによる組織由来細胞の捕捉を行うことで、多量の組織由来細胞を含む細胞懸濁液でも細胞数を計測することができる。
【0046】
この場合に、一方の細胞捕捉部8aの管路に、圧力センサ9が配置され、他方の細胞捕捉部8bの配管には配置されていなくてもよい。さらに、圧力センサ9が配置された一方の細胞捕捉部8aの方が他方の細胞捕捉部8bより捕捉可能な細胞数が小さいものとなっていることが好ましい。
【0047】
このようにすることで、一方の捕捉能力の小さい細胞捕捉部8aによって細胞数を迅速に測定することができる。また、この際に、流量計23によって総流量を測定することにより、細胞懸濁液内の組織由来細胞の濃度を迅速に算出することができる。
【0048】
そして、この後に、バルブ24の切り替えにより、他方の捕捉能力の大きな細胞捕捉部8bによって組織由来細胞の捕捉を行うことで、多量の細胞懸濁液から赤血球を除去した組織由来細胞を捕捉することができる。
細胞懸濁液内の組織由来細胞の濃度が算出されているので、流量計23によって総流量を測定することにより、2つの細胞捕捉部8a,8bにより捕捉された細胞数を容易に算出することができる。
【0049】
また、図10に示されるように、配管6の途中位置に、複数の細胞捕捉部8c,8d,8eを直列に接続することにしてもよい。直列接続する細胞捕捉部8c〜8eの数は任意でよい。
【0050】
図10に示す例では、各細胞捕捉部8c,8d,8eの透孔の大きさは、上流側から下流側に向かって順に小さくなっていくように設定されている。各細胞捕捉部8c,8d,8eの下流側には、回収液供給部5からの回収液を上流側の細胞捕捉部8c,8d,8eに向かって供給するための配管25がバルブ26,27,28を介して接続され、各細胞捕捉部8c,8d,8eの上流側には、回収液によって各細胞捕捉部8c,8d,8eから剥離された組織由来細胞を回収する回収容器22a,22b,22cがそれぞれバルブ21a,21b,21cを介して接続されている。
【0051】
また、各細胞捕捉部8c,8d,8eの上流側には、圧力センサ9a,9b,9cが設けられていて、配管6内の圧力を検出している。検出された圧力値は演算部10に送られるようになっている。演算部10においては、各細胞捕捉部8c,8d,8e毎に、圧力値と捕捉した細胞数との関係を示す複数のテーブルが記憶されており、各圧力センサ9a,9b,9cにより検出された圧力値に応じて、各細胞捕捉部8c,8d,8eにおいて捕捉された組織由来細胞の細胞数を演算することができるようになっている。
【0052】
このようにすることで、ポンプ7を駆動して、懸濁液生成部3において生成された細胞懸濁液を下流側に向かって配管6内を流動させると、最初に通される最も上流側の細胞捕捉部8cにおいて、最も大きな組織由来細胞が捕捉され、それより小さい組織由来細胞および赤血球は捕捉されることなく下流側に流れる。次に通される2番目の細胞捕捉部8dにおいては、2番目に大きな組織由来細胞が捕捉され、それより小さい組織由来細胞および赤血球は捕捉されることなく下流側に流れる。最後に通される3番目の細胞捕捉部8eにおいては、最も小さい組織由来細胞が捕捉され、それより小さい赤血球は捕捉されることなく下流側に流れ、廃液容器4に回収される。
【0053】
この場合において、各細胞捕捉部8c,8d,8eにおいて組織由来細胞が捕捉されると、各細胞捕捉部8c,8d,8eの上流側に配置された圧力センサ9a,9b,9cにより検出される圧力値が、組織由来細胞の捕捉数に応じて増大していくので、各細胞捕捉部8c,8d,8eについて細胞数と圧力値との関係を示したテーブルにより、演算部10において、捕捉された細胞数が演算される。
【0054】
この後に、ポンプ7を停止し、バルブ18,21a〜21c,26〜28を切り替えて、回収液供給部5のポンプ20を駆動することにより、各細胞捕捉部8c,8d,8eに捕捉された組織由来細胞を回収液によって逆洗し、各細胞捕捉部8c,8d,8eの上流に配置されている回収容器22a,22b,22cに回収することができる。
【0055】
例えば、最も上流側の細胞捕捉部8cに捕捉されている組織由来細胞を回収するには、バルブ21aを細胞捕捉部8cと回収容器22aとを接続するように切り替えるとともに、バルブ18,26を回収液容器19と配管25とを接続するように切り替え、バルブ28を閉じてバルブ27を開く。これにより、回収液容器19内の回収液は、配管25を介して最も上流側の細胞捕捉部8cに対して下流側から供給され、細胞捕捉部8cから剥離させた組織由来細胞とともに、回収容器22aに回収される。
【0056】
同様にして、他の細胞捕捉部8d,8eに捕捉された組織由来細胞も、各細胞捕捉部8d,8eの上流側にそれぞれ配置されている回収容器22b,22cに個別に回収することができる。
これにより、細胞懸濁液内に含まれる組織由来細胞を、赤血球を除去した状態で、かつ、大きさ毎に分類した状態で回収することができるという利点がある。
【0057】
また、図10に示す例では、各細胞捕捉部8c,8d,8eには、該細胞捕捉部8c,8d,8eに振動を与える振動子29が取り付けられている。組織由来細胞の捕捉時、あるいは、捕捉された組織由来細胞を細胞捕捉部8c,8d,8eから剥離させる際に、振動子29を作動させて細胞捕捉部8c,8d,8eを振動させることにより、組織由来細胞が、細胞捕捉部8c,8d,8eに目詰まりしてしまうことを防止したり、剥離時に剥離し易くすることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、図11に示されるように、回収液供給部5を設けることなく、複数の細胞捕捉部8a〜8dを配管8の途中位置に並列して接続することにしてもよい。並列接続する細胞捕捉部8a〜8dの数は任意でよい。
【0059】
図11に示す例では、4個の細胞捕捉部8a〜8dが並列接続されている。各細胞捕捉部8a〜8dは、図12に示されるように、分解可能なケース30a〜30dと、該ケース30a〜30d内に固定された、生体親和性の多孔質部材31とを備えている。多孔質部材31は、生分解性ポリマー膜や医用インプラント用途の網状粒子多孔質材料等により構成されており、組織由来細胞の通過を禁止し、赤血球の通過を許容する大きさの多数の透孔を有している。
【0060】
各細胞捕捉部8a〜8dの上流側には切替可能なバルブ32a〜32cが設けられ、細胞懸濁液を流す細胞捕捉部8a〜8dを択一的に選択できるようになっている。また、各細胞捕捉部8a〜8dの下流側には逆流を防止する逆止弁33a〜33dが備えられている。
また、1つの細胞捕捉部8aの上流側には、配管6内の圧力を検出する圧力センサ9が設けられている。
【0061】
このように構成することで、まず、圧力センサ9が設けられた細胞捕捉部8aに細胞懸濁液が流通させられるようにバルブ32aを切り替えて、ポンプ7を駆動することにより、懸濁液生成部3により生成された細胞懸濁液が、流量計23によって総流量を測定されながら細胞捕捉部8aに通される。細胞捕捉部8aに組織由来細胞が捕捉されてくると、圧力センサ9により検出される圧力値が増大してくるので、演算部10において、テーブルと圧力値とにより捕捉された細胞数が算出される。また、演算部10においては、流量計23により測定された総流量と細胞数とにより細胞懸濁液内の組織由来細胞の濃度が算出される。
【0062】
そして、所定の総流量の細胞懸濁液を細胞捕捉部8aに通すことにより、算出された濃度と総流量とから算出される数の組織由来細胞を多孔質部材31に捕捉させることができる。
その後に、バルブ32a,32bを切り替えて、次の細胞捕捉部8bに所定総流量の細胞懸濁液を通すことにより、同じく所望の細胞数の組織由来細胞を細胞捕捉部8bの多孔質部材31に捕捉させることができる。以下、同様にして、他の細胞捕捉部8c,8dにも組織由来細胞を捕捉させることができる。
【0063】
所望の細胞数の組織由来細胞が細胞捕捉部8a〜8dに捕捉された時点で、細胞捕捉部8a〜8dを構成しているケース30a〜30dを分解して内部の多孔質部材31を取り出し、組織由来細胞が播種されたスキャフォールドとして、細胞培養や、細胞移植治療に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 細胞計測装置
2 生体組織処理装置
3 懸濁液生成部
4 廃液容器(液体成分回収部)
5 回収液供給部
6 配管
8,8a〜8e 細胞捕捉部
9,9a〜9e 圧力センサ(特性量検出部)
10 演算部(濃度算出部)
22 回収容器(細胞回収部)
23 流量計(総流量測定部)
24 バルブ(切替弁)
29 振動子
30a〜30d ケース
31 多孔質部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を消化して得られた細胞懸濁液を流動させる配管と、
該配管の途中位置に配置され、前記細胞懸濁液内に含まれる組織由来細胞の大きさより小さく、赤血球の大きさより大きい多数の透孔を有するフィルタ状の細胞捕捉部と、
該細胞捕捉部の上流または下流の少なくとも一方において配管内を流動する流体の流体特性量を検出する特性量検出部と、
該特性量検出部により検出された流体特性量に基づいて、前記細胞捕捉部に捕捉された組織由来細胞の細胞数を演算する演算部とを備える細胞計測装置。
【請求項2】
前記特性量検出部が、前記細胞捕捉部の上流側の配管内の前記細胞懸濁液の圧力を検出する圧力センサを備える請求項1に記載の細胞計測装置。
【請求項3】
前記特性量検出部が、前記細胞捕捉部の下流側の配管内の前記流体の流量を検出する流量センサを備える請求項1に記載の細胞計測装置。
【請求項4】
前記細胞捕捉部に流通させられる細胞懸濁液の総流量を計測する総流量測定部と、
該総流量測定部により測定された細胞懸濁液の総流量と、前記演算部により演算された細胞数とに基づいて細胞懸濁液内の組織由来細胞の濃度を算出する濃度算出部とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞計測装置。
【請求項5】
前記細胞捕捉部が、複数並列に接続され、
細胞懸濁液を流動させる前記細胞捕捉部を択一的に選択可能な切替弁を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載の細胞計測装置。
【請求項6】
いずれか1つの前記細胞捕捉部の細胞捕捉量が、他の前記細胞捕捉部の細胞捕捉量より小さく設定されている請求項5に記載の細胞計測装置。
【請求項7】
前記細胞捕捉部が、前記透孔の大きさの大きい順に上流側から直列に複数配列され、
前記特性量検出部が、各前記細胞捕捉部の上流または下流の少なくとも一方に設けられている請求項1から請求項4のいずれかに記載の細胞計測装置。
【請求項8】
前記細胞捕捉部が、前記配管の途中位置に接続されるケースと、該ケース内に流通断面を閉塞するように配置される生体親和性の多孔質部材とを備え、
該多孔質部材が、前記ケースから取り外し可能に配置されている請求項1から請求項7のいずれかに記載の細胞計測装置。
【請求項9】
生体組織を処理して細胞懸濁液を生成する懸濁液生成部と、
前記細胞懸濁液から分離された液体成分を回収する液体成分回収部と、
請求項1から請求項8のいずれかに記載の細胞計測装置とを備え、
前記懸濁液生成部と前記液体成分回収部とが、前記配管により接続されている生体組織処理装置。
【請求項10】
前記細胞捕捉部の下流側の配管に、回収液を細胞捕捉部に対して下流側から供給する回収液供給部が接続されている請求項9に記載の生体組織処理装置。
【請求項11】
前記細胞捕捉部の上流側の近接位置に細胞回収部が接続されている請求項10に記載の生体組織処理装置。
【請求項12】
前記細胞捕捉部に、該細胞捕捉部を振動させる振動子が取り付けられている請求項11に記載の生体組織処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−88(P2013−88A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136801(P2011−136801)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】