説明

細胞質照射方法

【課題】二重染色を行うことなく細胞質にX線を照射することを可能とする。
【解決手段】細胞核2のみを染色して撮影した細胞1の画像に基づいて細胞核2の重心位置4並びに当該重心位置4を通過する長軸の方向5を算定し、細胞核2の重心位置4から細胞核2の長軸の方向5に所定距離D1だけ離れた位置6にX線を照射するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞質照射方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、直径が例えば数μmのX線を細胞質に照射する際に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線を細胞質に照射するための従来の方法として、図6に示すように、細胞100(全体)及び当該細胞100の細胞核101を各々染色(二重染色と呼ばれる)して細胞核101と細胞質102とを判別し、細胞核101の範囲及び細胞質102の範囲を画像解析によって算定し、当該算定の結果に基づいて粒子線の照射位置を決定するものがある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Tartier L, Gilchrist S, Burdak-Rothkamm S, Folkard M, Prise KM、"Cytoplasmic irradiation induces mitochondrial-dependent 53BP1 protein relocalization in irradiated and bystander cells"、Cancer Res 2007; 67: (12)、pp.5872-5879、米国、2007年6月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生細胞全体を染色する染色試薬は毒性が高いものが多く、細胞の生存に影響を与えることなく二重染色によって細胞質と細胞核とを判別することは困難であるという問題がある。また、仮に上記の問題が解決できたとしても、染色毎に波長が異なる蛍光フィルターを用いて撮影した画像を合成した上で細胞質部分を抽出して照射位置を決定するというプロセスでは処理時間が多大にかかってしまうので、実用的であるとは言い難い。
【0005】
そこで、本発明は、細胞を二重染色することなく、言い換えると細胞全体を染色することなく細胞質にX線を照射することができる細胞質照射方法を提供することを目的とする。また、本発明は、細胞全体の大きさ,細胞核の大きさ,細胞全体における細胞核の位置に影響されることなく細胞質にX線を確実に照射することができる細胞質照射方法を提供することを目的とする。なお、本発明においては、直径が数μmのX線のことをマイクロビームX線という。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の細胞質照射方法は、細胞の細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の方向を算定し、細胞核の重心位置から細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射するようにしている。
【0007】
また、請求項2記載の細胞質照射方法は、細胞核のみを染色して撮影した細胞の画像に基づいて細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の方向を算定し、細胞核の重心位置から細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射するようにしている。
【0008】
したがって、請求項1,請求項2記載の細胞質照射方法によると、細胞核の長軸方向と細胞全体の長軸方向とは通常は概ね揃うので細胞核の長軸方向に所定距離だけ離れた点は細胞質である可能性が高く、このため、細胞の細胞質にX線を高い確率で照射することができる。しかも、細胞を一切染色することなく若しくは細胞核のみを染色することにより、すなわち、細胞核と細胞(全体)との両方の染色即ち二重染色をしないでも細胞の細胞質にX線を照射することができる。また、請求項2記載の細胞質照射方法の場合には特に、細胞核のみを対象とした画像処理によって、言い換えると、細胞核と細胞(全体)との両方を対象とした画像処理を行うことなく細胞の細胞質にX線を照射することができる。
【0009】
また、請求項4記載の細胞質照射方法は、細胞の細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の端点及び方向を算定し、細胞核の長軸の端点から細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射するようにしている。
【0010】
また、請求項5記載の細胞質照射方法は、細胞核のみを染色して撮影した細胞の画像に基づいて細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の端点及び方向を算定し、細胞核の長軸の端点から細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射するようにしている。
【0011】
したがって、請求項4,請求項5記載の細胞質照射方法によると、請求項1,2記載の細胞質照射方法と比べてより一層確実に細胞の細胞質にX線を照射することができる。すなわち、細胞全体や細胞核の大きさは細胞毎に異なるので、細胞核の重心位置から所定距離だけ離れた点を照射するようにすると、細胞核が比較的大きい場合には当該細胞核内を照射してしまう虞があり、一方で細胞が比較的小さい場合には細胞外を照射してしまう虞がある。これに対し、この請求項4,請求項5記載の細胞質照射方法によれば、細胞核の長軸の端点(即ち、細胞核の境界面)から当該長軸の方向に所定距離だけ離れた点を照射するようにすることにより、細胞核の大きさに影響を受けることなくより一層確実に細胞質にX線を照射することができる。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の細胞質照射方法において、前記所定距離が8〜10μmであるようにしている。また、請求項6記載の発明は、請求項4または5記載の細胞質照射方法において、前記所定距離が3〜5μmであるようにしている。この場合には、一般的な細胞全体及び細胞核の大きさ(具体的には例えば、典型的な哺乳類細胞の核の大きさは長軸方向長さ10μm程度と仮定され得る)に鑑みてより一層確実に細胞質にX線が照射される。
【0013】
また、請求項7記載の発明は、請求項1,2,4,5のいずれか一つに記載の細胞質照射方法において、X線が直径1.8〜2.0μmのマイクロビームであるようにしている。この場合には、一般的な細胞全体及び細胞核の大きさに鑑みて、X線が細胞核と細胞質とに跨って照射されてしまうことが回避され易くなる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1,請求項2記載の細胞質照射方法によれば、細胞の細胞質にX線を高い確率で照射することができるので、X線を細胞質に照射する作業における無駄を省いて作業効率の向上を図ることが可能になると共に、細胞質へのX線照射の信頼性の向上を図ることが可能になる。しかも、細胞核と細胞(全体)との両方の染色即ち二重染色をしないでも細胞の細胞質にX線を照射することができるので、毒性が高い染色試薬を用いないで済み、生細胞に与える影響を抑制してX線照射を行うことができる。また、請求項2記載の細胞質照射方法の場合には特に、細胞核と細胞(全体)との両方を対象とした画像処理を行うことなく細胞の細胞質にX線を照射することができるので、画像の合成や細胞質部分の抽出などの処理プロセスを行わないで済み、X線を細胞質に照射する作業の手間を軽減することができると共に処理時間を短縮することができ、実用性・汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0015】
請求項4,請求項5記載の細胞質照射方法によれば、請求項1,請求項2記載の細胞質照射方法の効果に加え、細胞核の大きさに影響を受けることなくより一層確実に細胞質にX線を照射することができるので、X線を細胞質に照射する作業における無駄を省いて作業効率のより一層の向上を図ることが可能になると共に、細胞質へのX線照射の信頼性のより一層の向上を図ることが可能になる。
【0016】
また、請求項3,請求項6記載の細胞質照射方法によれば、一般的な細胞全体及び細胞核の大きさに鑑みてより一層確実に細胞質にX線を照射することができるので、X線を細胞質に照射する作業における無駄を省いて作業効率のより一層の向上を図ることが可能になると共に、細胞質へのX線照射の信頼性のより一層の向上を図ることが可能になる。
【0017】
また、請求項7記載の細胞質照射方法によれば、一般的な細胞全体及び細胞核の大きさに鑑みて、X線が細胞核と細胞質とに跨って照射されてしまうことを回避することができるので、X線を細胞質に照射する作業における無駄を省いて作業効率のより一層の向上を図ることが可能になると共に、細胞質へのX線照射の信頼性のより一層の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の細胞質照射方法の第一の実施形態を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の細胞質照射方法の第一の実施形態を説明する図で、細胞の細胞核と細胞質との模式図である。
【図3】本発明の細胞質照射方法に適用し得るX線照射システムの一例を説明する図である。
【図4】本発明の細胞質照射方法の第二の実施形態を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の細胞質照射方法の第二の実施形態を説明する図で、細胞の細胞核と細胞質との模式図である。
【図6】従来の細胞質照射方法を説明する図で、細胞の細胞核と細胞質との模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1から図3に、本発明の細胞質照射方法の第一の実施形態を示す。第一の実施形態の細胞質照射方法は、細胞核2のみを染色して撮影した細胞1の画像に基づいて細胞核2の重心位置4並びに当該重心位置4を通過する長軸の方向5を算定し、細胞核2の重心位置4から細胞核2の長軸の方向5に所定距離D1だけ離れた位置6にX線を照射することにより細胞1の細胞質3にX線を照射するものである。
【0021】
本発明の細胞質照射方法の実施にあたっては、まず、細胞核のみを染色する(S1)。
【0022】
照射試料である細胞1の細胞核2の染色は、細胞1を試料皿(ディッシュ)に播種,接着させた上で、細胞核の染色処理として従来から用いられているものと同様の手順・染色試薬によって行う。染色試薬としては具体的には例えばHoechst 33258やHoechst 33342などの蛍光染色試薬が用いられる。なお、本発明では、細胞1の細胞核2のみを染色する。そして、本発明によれば、細胞毒性が低い例えばHoechstのみを染色試薬として用いて細胞質3にX線を照射することができるので、細胞の生存に影響を与えることがない。
【0023】
次に、細胞核の画像を取得する(S2)。
【0024】
具体的には、S1の処理によって細胞核2のみが染色された細胞1を接着させたディッシュを、X線を照射する機器・システムの所定の場所(例えば精密ステージ)に載置する。そして、細胞1を撮影して画像を取得する。
【0025】
ここで、遺伝子組み換えによって細胞核自身が発光若しくは蛍光を発する場合、或いは細胞の位相差像若しくは微分干渉像が取得可能な場合など、染色しないでも適当な画像処理,解析によって細胞核を識別可能であれば、細胞核を染色(S1)する必要はない。
【0026】
次に、細胞核の重心位置を算定する(S3)。
【0027】
具体的には、S2の処理によって取得された細胞1の画像を用いて画像処理技術によって細胞核2の範囲を判別し、当該範囲(平面図形)の重心位置4を算定する。なお、当該S3の処理は特殊な処理ではなく、画像データを用いて所与の条件に合う座標算出(ここでは、例えば任意に設定されたX−Y平面における座標の算出、或いは画像のピクセルの算定)の処理を行う従来の画像処理技術を用いて行うことが可能であり、このような画像処理技術は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する。
【0028】
次に、細胞核の長軸方向を特定する(S4)。
【0029】
具体的には、S2の処理によって取得された細胞1の画像を用いて画像処理技術によって細胞核2の範囲を判別し、当該範囲(平面図形)の長軸方向5(即ち、細胞核2の重心位置4を通る長径軸の方向)を特定する。なお、当該S4の処理は特殊な処理ではなく、画像データを用いて所与の条件に合う角度算出(ここでは、例えば任意に設定されたX−Y平面における図形の長径軸の角度の算出)の処理を行う従来の画像処理技術を用いて行うことが可能であり、このような画像処理技術は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する。
【0030】
次に、X線の照射位置を決定する(S5)。
【0031】
第一の実施形態では、具体的には、S3の処理によって算定された細胞核2の重心位置4から、S4の処理によって特定された細胞核2の長軸方向5に所定距離D1だけ離れた点をX線の照射位置6とする。
【0032】
なお、所定距離D1は特定の値に絶対的に定まるものではなく、細胞1の細胞質3にX線を照射することができるように、例えば細胞1および細胞核2の大きさや照射するX線の直径などを考慮して適宜設定される。なお、必要な場合には、X線を照射する細胞自体若しくは同種の細胞を用いて細胞全体および細胞核の大きさ(例えば少なくとも長軸方向の長さ)を予め計測しておく。
【0033】
なお、具体例を挙げると、例えば典型的な哺乳類細胞の核の大きさは長軸方向長さ10μm程度と仮定され得ることなどに鑑み、所定距離D1を8〜10〔μm〕程度にすることが考えられる。
【0034】
そして、X線を細胞に照射する(S6)。
【0035】
S3〜S5の処理によれば、高い確率で、細胞1の細胞質3にX線を照射することができる。
【0036】
ここで、本実施形態では、マイクロビームX線を細胞質3に照射する。そして、本発明では、X線を照射する機器・システムは特定のものには限定されず、被照射体(即ち、細胞1)へのX線照射位置の制御機能を有していると共に直径が例えば数μmのX線を照射することができる機器・システムであれば何れでも良い。
【0037】
本実施形態では、X線を照射する機器として本発明者らによって開発されたマイクロビームX線照射システムを用いる。このマイクロビームX線照射システム10は、細胞核や細胞質の検出,照射位置の決定,X線の照射を自動的に行う機能を有し、図3に示すように、電子銃11(株式会社オメガトロン製OME-0055LBW)から射出された電子線12をアルミニウムターゲット13に照射して発生させた1.49〔keV〕の特性X線14を斜入射ミラー15及び真空窓16を介してフレネルゾーンプレート17に到達させ、前記特性X線14を当該フレネルゾーンプレート17によって回折させ集光すると共にピンホール19(Order Selecting Apertuer:OSA)を通過させて直径1.8〜2.0〔μm〕程度のマイクロビームX線にして精密ステージ20(PRIOR Scientific社製H101BX)に設置されたディッシュ上の被照射体に照射することが可能である。なお、図3中の符号18はX線の照射時間を調整・制御するためのシャッターを表す。
【0038】
また、本実施形態のマイクロビームX線照射システム10は共焦点レーザー顕微鏡(図示省略;オリンパス株式会社製FV300をベースに改造)を装備している。ただし、本発明においては共焦点レーザー顕微鏡を用いることは必須要件ではなく、細胞1の細胞質3にX線を照射して得られたデータを用いて行う分析・解析の目的に合わせて適当な顕微鏡を用いれば良い。
【0039】
そして、例えば共焦点レーザー顕微鏡等も用いて必要なデータを収集した上で、当該細胞1に対するX線の照射の処理を終了する(END)。なお、一個の細胞に対するX線の照射は、一回(一箇所)のみ行うようにしても良いし、必要な場合には複数回(複数箇所で)行うようにしても良い。そして、一個の細胞に対して複数回の照射を行う場合には、同一座標で複数回の照射を行うか、細胞核2の長軸方向5に沿って複数回の照射を行うようにする。なお、後者の場合、細胞核2の片側で長軸方向5に沿ってX線の照射を複数回行うようにしても良いし、細胞核2の両側に跨って長軸方向5に沿ってX線の照射を複数回行うようにしても良い。
【0040】
以上のように構成された本発明の第一の実施形態の細胞質照射方法によれば、細胞核2の長軸方向5と細胞1全体の長軸方向とは通常は概ね揃うので細胞核2の長軸方向5に所定距離D1だけ離れた点は細胞質3である可能性が高く、このため、細胞1の細胞質3にX線を高い確率で照射することができる。しかも、細胞核2のみを染色することにより、すなわち、細胞核2と細胞(全体)1との両方の染色即ち二重染色をしないでも細胞1の細胞質3にX線を照射することができるので、毒性が高い染色試薬を用いないで済み、生細胞に与える影響を抑制してX線照射を行うことができる。また、細胞核2のみを対象とした画像処理によって、言い換えると、細胞核2と細胞(全体)1との両方を対象とした画像処理を行うことなく細胞1の細胞質3にX線を照射することができるので、画像の合成や細胞質部分3の抽出などの処理プロセスを行わないで済み、X線を細胞質に照射する作業の手間を軽減することができると共に処理時間を短縮することができる。
【0041】
なお、上述の形態は本発明の第一の実施形態の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0042】
次に、図4及び図5を用いて、本発明の細胞質照射方法の第二の実施形態について説明する。なお、以下に説明する第二の実施形態において上述の第一の実施形態と同様の構成要素についてはその詳細な説明を省略する。
【0043】
第二の実施形態の細胞質照射方法は、細胞核2のみを染色して撮影した細胞1の画像に基づいて細胞核2の重心位置4並びに当該重心位置4を通過する長軸5aの端点7及び方向5を算定し、細胞核2の長軸5aの端点7から細胞核2の長軸の方向5に所定距離D2だけ離れた位置6にX線を照射することにより細胞1の細胞質3にX線を照射するものである。
【0044】
第二の実施形態は、S1からS3までの処理は上述の第一の実施形態と同じである。
【0045】
そして、S4の処理として、第二の実施形態では、細胞核の長軸を特定する。
【0046】
具体的には、S2の処理によって取得された細胞1の画像を用いて画像処理技術によって細胞核2の範囲を判別し、当該範囲(平面図形)の長軸5a(即ち、細胞核2の重心位置4を通る長径軸)を特定する。ここで、本発明における細胞核2の長軸5aの特定とは、具体的には、細胞核2の範囲の重心を通る当該範囲の長径軸の両端を特定すると共に当該両端を結ぶ線分として特定することをいう。なお、図5においては、細胞核2の長軸方向は破線(符号5)で表し、長軸は実線(符号5a)で表している。
【0047】
なお、当該S4の処理は特殊な処理ではなく、画像データを用いて所与の条件に合う線分の算出(ここでは、例えば任意に設定されたX−Y平面における図形の長径軸の両端の座標の算出と当該両端の座標を結ぶ線分の座標群の算出、或いは長径軸の両端の画像ピクセルの算定と当該両端の画像ピクセルを結ぶ線分の画像ピクセル群の算定)の処理を行う従来の画像処理技術を用いて行うことが可能であり、このような画像処理技術は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する。
【0048】
次に、X線の照射位置を決定する(S5)。
【0049】
第二の実施形態では、具体的には、S4の処理によって特定された細胞核2の長軸5aの端点7(即ち、細胞核2の境界面)から細胞核2の外側に向かって長軸方向5に所定距離D2だけ離れた点をX線の照射位置6とする。
【0050】
なお、所定距離D2は特定の値に絶対的に定まるものではなく、細胞1の細胞質3にX線を照射することができるように、例えば細胞1の大きさや細胞核2の長軸5aの長さや照射するX線の直径などを考慮して適宜設定される。なお、必要な場合には、X線を照射する細胞自体若しくは同種の細胞を用いて細胞全体および細胞核の大きさ(例えば少なくとも長軸方向の長さ)を予め計測しておく。
【0051】
具体的には例えば、細胞1の長軸の長さLと細胞核2の長軸5aの長さl(S4の処理において細胞核2の範囲の長径軸の両端の間の距離として算出され得る)との差分の四分の一程度の値を距離D2にしたり(数式1)、照射するX線の直径dの二倍を距離D2にしたりする(数式2)ことが考えられる。
(数式1) D2=(L−l)/4
(数式2) D2=d×2
【0052】
なお、具体例を挙げると、例えば典型的な哺乳類細胞の核の大きさは長軸方向長さ10μm程度と仮定され得ることなどに鑑み、所定距離D2を3〜5〔μm〕程度にすることが考えられる。
【0053】
そして、X線を細胞に照射する(S6)。このS6の処理は第一の実施形態と同様である。
【0054】
S3〜S5の処理によれば、高い確率で、細胞1の細胞質3にX線を照射することができる。
【0055】
以上のように構成された本発明の第二の実施形態の細胞質照射方法によれば、細胞1の細胞質3にX線をより一層高い確率で照射することができる。すなわち、第二の実施形態によれば、細胞核2の長軸5aの端点7(即ち、細胞核2の境界面)から長軸方向5に所定距離D2だけ離れた点を照射するようにすることにより、細胞核2の大きさに影響を受けることなくより一層確実に細胞質3にX線を照射することができる。
【0056】
なお、第二の実施形態においても、生細胞に与える影響を抑制してX線照射を行うことができるという作用効果、及び、X線を細胞質に照射する作業の手間を軽減することができると共に処理時間を短縮することができるという作用効果は第一の実施形態と同様に発揮される。
【0057】
なお、上述の形態は本発明の第二の実施形態の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 細胞
2 細胞核
3 細胞質
4 細胞核の重心
5 細胞核の長軸方向
6 照射位置
D1 細胞核の重心位置からの所定距離
D2 細胞核の長軸の端点からの所定距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の方向を算定し、前記細胞核の重心位置から前記細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射することを特徴とする細胞質照射方法。
【請求項2】
細胞核のみを染色して撮影した細胞の画像に基づいて前記細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の方向を算定し、前記細胞核の重心位置から前記細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射することを特徴とする細胞質照射方法。
【請求項3】
前記所定距離が8〜10μmであることを特徴とする請求項1または2記載の細胞質照射方法。
【請求項4】
細胞の細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の端点及び方向を算定し、前記細胞核の長軸の端点から前記細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射することを特徴とする細胞質照射方法。
【請求項5】
細胞核のみを染色して撮影した細胞の画像に基づいて前記細胞核の重心位置並びに当該重心位置を通過する長軸の端点及び方向を算定し、前記細胞核の長軸の端点から前記細胞核の長軸の方向に所定距離だけ離れた位置にX線を照射することを特徴とする細胞質照射方法。
【請求項6】
前記所定距離が3〜5μmであることを特徴とする請求項4または5記載の細胞質照射方法。
【請求項7】
前記X線が直径1.8〜2.0μmのマイクロビームであることを特徴とする請求項1,2,4,5のいずれか一つに記載の細胞質照射方法。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−19704(P2012−19704A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158026(P2010−158026)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】