説明

細胞集積方法

【課題】誘電泳動による目的細胞の分離とこれに引き続く細胞培養において移植作業を簡略化し、雑菌の混入を防止する細胞集積方法を実現することを課題とする。
【解決手段】細胞集積装置は、第一基板に配置された第一電極部16と第二基板に配置された第二電極部17を有する集積兼培養容器を含み、第一電極部16は、複数の個別電極16a、16b、16c‥‥の集合である。(イ)集積兼培養容器内101に生体親和性ビーズ2を送り、かつ、第一電極部16と第二電極部17に交流電圧を印加し、生体親和性ビーズ2を個別電極に付着するビーズ付着工程と(ロ)ビーズ付着工程の後に、集積兼培養容器内101に細胞懸濁液を送り、かつ、電源部から第一電極部と第二電極部に交流電圧を印加し、付着されたビーズに活性細胞41を捕集する細胞捕集工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電泳動を用いる生体親和性ビーズへの細胞集積方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞の種類により誘電泳動特性が異なるので、誘電泳動を用いて複数種の細胞が混在した細胞懸濁液中の目的細胞を分離する技術が知られている。
【0003】
例えば、分離用容器内に配置した交互くし型形状の一対の電極に特定周波数の交流電圧を印加し、対向する電極間に不均一交流電場を作る。この不均一交流電場に置かれた細胞懸濁液中の目的細胞は、誘電泳動により一方の電極に引き寄せられて目的細胞の分離が実現される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−263847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記細胞の分離技術を再生医療、とりわけDrug Delivery Systemに利用するには、分離した細胞を継代培養し当該細胞を多数得る必要がある。
【0006】
従来の技術においては、誘電泳動操作を行った後に分離用容器内の電極面に捕集した細胞を分離用容器から取出し、細胞を試験管やシャーレ等の培養容器に移植し、継代培養を行う。
【0007】
しかし、この移植作業時に雑菌が混入し、細胞培養の効率を下げるという問題点があった。
【0008】
そこで本発明は、目的細胞の分離とこれに引き続く細胞培養において移植作業を簡略化し、雑菌の混入を防止する細胞集積方法を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる細胞集積方法は、
細胞集積装置と誘電泳動可能な生体親和性ビーズを用いる、以下のイとロの工程からなる細胞集積方法であって、
前記細胞集積装置は、
第一基板、第一基板に対向して配置された第二基板と側壁に囲まれ、流入口と流出口を持つ集積兼培養容器、
第一基板に配置された第一電極部と第二基板に配置された第二電極部、
第一電極部は複数の個別電極から構成されていて、前記複数の個別電極は集積兼培養容器の内部に露出しているものであり、
第一電極部と第二電極部間に交流電圧を印加する電源部からなり、
イ 前記流入口から前記集積兼培養容器内に生体親和性ビーズを送り、かつ、前記電源部から第一電極部と第二電極部に交流電圧を印加し、前記ビーズを個別電極に付着するビーズ付着工程
ロ ビーズ付着工程の後に、前記流入口から前記集積兼培養容器内に捕集対象細胞を含む細胞懸濁液を送り、かつ、前記電源部から第一電極部と第二電極部に交流電圧を印加し、前記付着されたビーズに前記捕集対象細胞を捕集する細胞捕集工程
である。
【0010】
本発明において、細胞捕集工程(ロの工程)で用いる細胞懸濁液は捕集対象細胞を含んでいればよい。細胞懸濁液を例示すれば、
(1) 捕集対象細胞、1種以上のその他細胞と緩衝液の混合物、
(2) 捕集対象細胞と緩衝液の混合物
などを挙げることができる。
【0011】
本発明は捕集対象細胞をビーズに捕集するものであるから、本発明の細胞捕集工程(ロの工程)は、例えば、
(1)2種以上の細胞から捕集対象細胞を分離、
(2)希薄な懸濁液から捕集対象細胞を濃縮
(3)不純物を含む懸濁液中の捕集対象細胞の純化
などを意図して行われる。
【0012】
本発明の好ましい実施態様にあって、前記生体親和性ビーズは、コラーゲンとアルギン酸塩からなるビーズであってもよい。
【0013】
本発明の他の好ましい実施態様にあっては、
第一電極部は、第一基板の表面に平坦な表面形状を有する電極部材を形成し、前記電極部材の表面に絶縁性の材料からなる絶縁層を形成し、前記絶縁層を部分的に円形に除去して形成された前記個別電極を有するものであってもよい。
【0014】
本発明のその他の好ましい実施態様にあって、
第一電極部は、第一基板の表面に前記電極部材である導電膜を形成し、前記導電膜の上に前記絶縁層を形成し、レーザー光線を照射して個別電極部分の前記絶縁層を除去するレーザーエッチング法により形成された前記個別電極を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる細胞集積方法は、その他の特徴とともに、集積兼培養容器内の個別電極上に生体親和性ビーズを付着し当該ビーズ上に細胞を捕集するものであり、ビーズは細胞培養にあたって培養の足場となる。このため、本細胞集積方法によれば、捕集した細胞の移植作業が不必要となり、細胞捕集工程が終了した集積兼培養容器内で細胞の培養ができるので、移植作業時の雑菌の混入が防止される。
【0016】
また、当該ビーズの付着は誘電泳動により行われ、従来の誘電泳動を用いる細胞分離装置の構成要素である電源部は、大きな変更なく本発明に使用する細胞集積装置の電源部として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明にかかる細胞集積方法の説明図であり、図1(a)はビーズ付着工程途中、図1(b)はビーズ付着工程終了後、図1(c)は細胞捕集工程途中、図1(d)は細胞捕集工程終了後を図示している。また、図1(a)〜(d)はそれぞれ集積兼培養容器の断面を示している。
【図2】図2は細胞集積装置1の斜視図であり、第二基板12の一部を切り欠いて、第一電極部16を図示している。
【図3】図3は、集積兼培養容器10から第二基板12を取り除き、第二基板側から第一基板側を視認した平面図である。
【図4】図4は、図3中に矢印Aと矢印Bで示した平面で切断した、集積兼培養容器10の断面図である。
【図5】図5はコラーゲンビーズ作成に用いる器具の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかる細胞集積方法をさらに説明する。本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするため、一部の構成要素を誇張して表すなど模式的に表しているものがある。このため、構成要素間の寸法や比率などは実物と異なっている場合がある。また、本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0019】
本発明にかかる細胞集積方法は細胞集積装置1を使用する。図2を参照して、細胞集積装置1は、集積兼培養容器10と電源部30からなる。集積兼培養容器10は、平板状の第一基板11と平板状の第二基板12を平板面が対向するように配置し、第一基板11と第二基板12の間に側壁部材13を配置している。
【0020】
集積兼培養容器10から第二基板12を取り除き、第二基板側から第一基板側を視認した平面図である図3と、図3中に矢印Aと矢印Bで示した平面で切断した集積兼培養容器10の断面図である図4を合せて参照して、側壁部材13は窓部を設けた額縁状の板状部材である。当該窓部が集積兼培養容器10の容器内部101となっている。換言すれば、容器内部10は第一基板11、第二基板12と側壁部材13の窓部側壁に囲まれた空間である。
【0021】
第二基板12は容器内部101に通じる2つの貫通穴を有する。一方の穴が流入口14であり、他方の穴が流出口15である。流入口14から容器内部101に入った液体は流出口15から排出される。図3中には容器内部101にあって、流入口14に対面する流入口対面部141と流出口15に対面する流出口対面部151を図示している。
【0022】
流入口14には必要に応じて第一開閉弁、チューブとポンプ等の送液手段(これらは図示していない)が接続される。流出口15には必要に応じて第二開閉弁、チューブ等(これらは図示していない)が接続される。後述するように、集積兼培養容器10は細胞培養の容器として使用するものだから、第一開閉弁よりも上流側に接続するチューブとポンプ及び第二開閉弁よりも下流側に接続するチューブは着脱可能とすることが好ましい。
【0023】
流入口14と流出口15は第一基板に取付けてもよい。また、流入口14と流出口15のいずれかを第一基板に取付け、他方を第二基板に取付けてもよい。
【0024】
第一基板11の上面(容器内部101に接する面)に第一電極部16が配置されている。第一電極部16は複数の個別電極16a、16b、16c‥‥からなる。複数の個別電極16a、16b、16c‥‥は互いに等間隔に配置されている。本実施例においては、複数の個別電極16a、16b、16c‥‥は円形であり、格子の間隔550μmの正方格子の各格子点に各々の個別電極の中心を一致して配置されている。図2では第二基板12を一部切り欠いて第一電極部16を図示している。
【0025】
個別電極16a、16b、16c‥‥の平面形状は、特に制限は無いが、円形であることが好ましい。個別電極16a、16b、16c‥‥が円形であると、交流電圧付加時に個別電極上に現れるそれぞれの電気力線の密度が一定となるので、個別電極上に付着した生体親和性ビーズ上の電気力線の密度も一定となる。従って、細胞懸濁液を流入させたとき、細胞懸濁液に含まれる捕集対象細胞はビーズの特定箇所に偏ることなく、その表面上に均一に捕集される。その結果、捕集されたいずれの捕集対象細胞も生体親和性ビーズを足場として成長することができる。
【0026】
個別電極16a、16b、16c‥‥は、必ずしも互いに等間隔に配置されていなくてもよい。個別電極16a、16b、16c‥‥が不等間隔に配置されていても、誘電泳動によって個別電極に生体親和性ビーズを付着可能であり、また、誘電泳動によって当該付着したビーズに捕集対象細胞を捕集可能である。もっとも個別電極16a、16b、16c‥‥を互いに等間隔に配置すれば、例えば、細胞培養時に個別ビーズ上に在る細胞が、個別ビーズ毎に相違することなく、周囲に存在する栄養成分を均等に代謝可能である等の理由から好ましい。
【0027】
第一電極部16は第一基板11の表面に導電膜を形成し、当該導電膜の非個別電極領域を絶縁層18で被膜して形成されている。当該導電膜は第一基板の容器内部領域から食み出す領域まで延長して形成されている。食み出した領域は第一電極部16と導通する端子部161である。
【0028】
第一電極部16は、フォトリソグラフィーやレーザーエッチング法を用いて形成することが好ましい。
【0029】
フォトリソグラフィーを用いて第一電極部16を形成するには、ガラスなどの第一基板材料である板材の一方表面に導電膜であるFTO(フッ素ドープ酸化スズ)膜を形成する。次にFTO膜の上に絶縁層である光レジスト膜を塗布する。そして光レジスト膜を個別電極のパターンに露光し、個別電極部分の光レジスト膜を除去する。フォトリソグラフィーを用いると解像度高く第一電極部16を形成できる。従って、第一電極部16上に後述の生体親和性ビーズを高い位置精度で捕捉できる。
【0030】
レーザーエッチング法を用いて第一電極部16を形成するには、上記方法と同様に、第一基板材料である板材の一方表面にFTO(フッ素ドープ酸化スズ)膜を形成し、その上に絶縁層を塗布する。次に絶縁層を個別電極のパターンにレーザー光で照射し、個別電極部分の絶縁層を除去する。レーザーエッチングに使用するレーザーは、ニ酸化炭素、YAG、ルビー、あるいはYVO4などを用いるとよい。
【0031】
レーザーエッチング法を用いると絶縁層に用いる材料を任意に選択できる。例えば、必要に応じて防水機能を有する材料を用いて絶縁層を形成することができる。絶縁層に防水性の材料を用いると、FTO膜などの導電膜から絶縁層が剥離することを抑制することができる。その結果、第一電極部の寿命を延長することができる。また、レーザーエッチング法を用いると、上記フォトリソグラフィーなどと比較して、少ない工程数で第一電極部を形成できることから経済的にも有利である。
【0032】
第二基板12の下面(容器内部101に接する面)に第二電極部17が配置されている。第二電極部は第二基板12が容器内部を画する面の全面に形成されている。第二電極部17は第二基板12の表面に形成された導電膜である。当該導電膜は第二基板の容器内部領域から食み出す領域まで延長して形成されている。食み出した領域は第二電極部17と導通する端子部171である。
【0033】
第一基板11と第二基板12はガラス、アクリル樹脂等任意の材料で作ればよい。
【0034】
第一電極部16と第二電極部17は透明導電膜(FTO、ITO(スズドープ酸化インジウム)、酸化スズ等)や蒸着金属膜等任意の材料で作ればよい。集積兼培養容器10は細胞培養容器として使用されることを考慮すれば、容器内の視覚観察の容易性、容器の洗浄、除菌容易性等から、第二基板12はガラス製、第二電極部17は透明導電膜製とすることが好ましい。
【0035】
側壁部材13は例えばシリコンを材料とすればよい。
【0036】
細胞集積装置1の電源部30は、第一電極部16と第二電極部17に交流電圧を印加するものである。電源部30は交流周波数が可変であり、電圧も可変である。電源部30の出力リード線は端子部161と端子部171に接続される。集積兼培養容器10は細胞培養の容器として使用するものだから、電源部30の出力リード線と端子部161、端子部171の接続は、例えばクリップやプラグ等を用いて接続することにより、着脱可能とすることが好ましい。
【0037】
次に、生体親和性ビーズであるコラーゲンビーズの作成方法を説明する。TypeIコラーゲン粉末を10mg/mlとアルギン酸ナトリウム2%を含むコラーゲン/アルギン酸塩混合水溶液を作成する。またゲル化溶液として102mM CaCl水溶液を作成する。
【0038】
図5はコラーゲンビーズ作成に用いる器具の説明図である。ビーズ作成容器20中に上記のゲル化溶液23を貯留する。図示しないシリンジポンプを用いて上記の混合水溶液を材料押出しノズル21から押し出す。この時、気体ノズル22から気体を材料押出しノズル21に向かって吹き付け、混合水溶液滴の等量化を図っている。気体ノズルから吹き付ける気体は不活性ガスが好ましく、本実施例では窒素ガスを使用した。こうして、粒子径が略一定のコラーゲンビーズを作成した。
【0039】
コラーゲンのみからなるビーズは誘電泳動現象を生じないが、アルギン酸塩を添加したコラーゲンビーズは誘電泳動現象を示す。そして、コラーゲンビーズは、生体親和性ビーズであり、細胞培養の足場となる。コラーゲンビーズは動物由来細胞の培養に好適である。
【0040】
他の生体親和性ビーズとしては、アガロースビーズ、アルギン酸ビーズなどが考えられる。アルギン酸ビーズは植物由来細胞の培養に好適である。
【0041】
図1を参照しつつ本発明にかかる細胞集積方法を説明する。細胞集積方法はビーズ付着工程とその後に行われる細胞捕集工程からなる。図1(a)〜(d)はそれぞれ集積兼培養容器の断面を示しており、(a)はビーズ付着工程途中、(b)はビーズ付着工程終了後、(c)は細胞捕集工程途中、(d)は細胞捕集工程終了後の説明図である。
【0042】
ビーズ付着工程は流入口14からコラーゲンビーズ2懸濁液を集積兼培養容器10の容器内部101内へ流入させつつ、電源部30から第一電極部16と第二電極部17に交流電圧を印加して行う。図1(a)を参照して矢印51はコラーゲンビーズ懸濁液の流れの方向を示している。
【0043】
第一電極部16は微細な面状である個別電極16a、16b、16c‥‥からなっていて、第二電極部17は容器内部の天面の全面に広がった面状であるから、容器内部101に、不均一交流電場が生じる。そして、コラーゲンビーズ2中にはアルギン酸塩が添加されているのでコラーゲンビーズ2は誘電泳動し、第一電極部に引き寄せられる。
【0044】
図1(b)を参照して、ビーズ付着工程後は個別電極16a、16b、16c‥‥の各々にコラーゲンビーズ2が1個ずつ付着している。後の細胞培養において、コラーゲンビーズは細胞培養の足場となるものである。ビーズ付着工程におけるビーズ懸濁液の流量、印加交流の周波数と電圧、ビーズの粒子径、個別電極の相互間隔等を調整して個別電極とコラーゲンビーズが1対1に付着することが好ましい。細胞培養時に単一の集積兼培養容器10内での培養状況が均一化するからである。例えば、個別電極の直径よりも大きい直径を有するビーズを用いると個別電極1ヶ所にビーズ1個が付着するに適していると考えられる。
【0045】
細胞捕集工程は、コラーゲンビーズ付着工程終了後の集積兼培養容器の容器内部101内へ流入口14から細胞懸濁液を流入させつつ、電源部30から第一電極部16と第二電極部17に交流電圧を印加して行う。ここでは、例示の題材として、細胞懸濁液中に活性細胞41と死活細胞模擬体42が混在していて、活性細胞41が捕集対象細胞であるという分離モデルを例にとって説明する。
【0046】
図1(c)を参照して矢印52は細胞懸濁液の流れの方向を示している。活性細胞41と死活細胞模擬体42は誘電泳動の挙動が異なり、適切な周波数と電圧を選択すれば活性細胞41はコラーゲンビーズ2上に捕集され、死活細胞模擬体42は細胞懸濁液の流れに乗って流出口15から排出される。図中の波線43は排出液を表している。
【0047】
図1(d)を参照して細胞捕集工程の終了後に、集積兼培養容器10の容器内部101では、個別電極16a、16b、16c‥‥上にコラーゲンビーズ2が付着し、当該コラーゲンビーズ2上に活性細胞41が捕集されている。図1(d)の図示では単一のコラーゲンビーズ2上に単一又は2個の活性細胞41が捕集されているが、これは、発明の説明の容易化の目的で簡略化して図示したものである。実際に実験を行うと単一のコラーゲンビーズ2上に複数の活性細胞41が捕集された。
【0048】
以上は分離モデルにおける細胞捕集工程を説明した。本発明にかかる細胞捕集工程は捕集対象細胞を濃縮するものであってもかまわない。続いて、例示の題材として、細胞懸濁液中に活性細胞41のみが存在している濃縮モデルを例にとってその細胞捕集工程を説明する。
【0049】
細胞捕集工程は、コラーゲンビーズ付着工程終了後の集積兼培養容器の容器内部101内へ流入口14から細胞懸濁液を流入させつつ、電源部30から第一電極部16と第二電極部17に交流電圧を印加して行う。適切な周波数と電圧を選択すれば、活性細胞41はコラーゲンビーズ2上に捕集される。
【0050】
以上説明した細胞捕集工程の終了後、集積兼培養容器10の容器内部101を培養液で置換して集積兼培養容器内で培養を行う。
【0051】
細胞が増殖するとコラーゲンビーズの表面全体を増殖細胞が覆う状態になる。さらに培養を継続すれば、コラーゲンビーズが細胞に吸収されて、増殖細胞が球形の塊になることが期待される。
【0052】
本発明にかかる細胞集積方法を実施し、その後に培養を行えば、従来の分離と培養に必要であった、試験管やシャーレなど培養容器の滅菌作業が不要となる。
【実施例1】
【0053】
−−分離モデル−−
集積兼培養容器は、シリコンガスケットを側壁部材として用い、ITO薄膜付ガラスを上下に配置し、当該ガラスを圧接して作成した。第一電極部は、厚膜レジスト剤SU−8を使用しフォトリソグラフィーで作成した。
【0054】
シリコンガスケットの厚さは500μm、容器内部の寸法は縦15mm、横15mmであって、内部容量は112.5mmであった。個別電極は格子間距離550μmの正方格子の各格子点に配置し、円形で、電極の直径は50μmと100μmの2種を作成した。
【0055】
コラーゲンビーズは上述したコラーゲンとアルギン酸塩との混合物であり、上述した方法で作成した。コラーゲンビーズの直径は70〜120μmの間に分布し、中央値は概略100μmであった。
【0056】
細胞は、活性細胞として生後1〜2ヶ月の仔ウシの膝関節の軟骨細胞を、死活細胞模擬体としてプラスチック製の微粒子(製品名:Polybead Polystyrene Microspheres(2.5% Solids-Latex),10μm 会社名:Polysciences, Inc.)を用いた。プラスチック製の微粒子の直径は概略10μmであった
コラーゲンビーズ懸濁液と細胞懸濁液の溶媒は細胞等張液である低導電性の生理緩衝液を使用した。コラーゲンビーズ懸濁液の濃度は密度0.5〜1.0×10個/mlに調製した。細胞懸濁液は活性細胞の細胞密度を2.0×10cells/ml、死活細胞模擬体の細胞密度を2.5〜5.0×10cells/mlとなるよう調製した。
【0057】
コラーゲンビーズの付着状態は、Collargen Stain Kit(コスモ・バイオ(株)製)を用いてコラーゲンビーズを赤色に染色し、顕微鏡で観察した。
【0058】
細胞捕集工程終了後、シリコンラバーヒータを用いて集積兼培養容器を27℃に保持し、コラーゲンビーズに軟骨細胞を定着させた。その後容器内部に培養液(DMEM/F12、20%FBS、Antimycotic−Antibiotic)を満たし、1週間培養した。培養環境は37℃、5%CO、湿度100%とした。
【0059】
細胞捕集工程終了後の細胞捕集状況と培養終了後の細胞は顕微鏡を用いて観察した。
【0060】
<ビーズ付着工程>
印加電圧は、正弦波である交流電圧のピーク間の電圧、すなわち、すなわち振幅×2を25Vとした。(以下印加電圧を「○○Vp−p」と表示する、○○にはピーク間の電圧を表す数値が入る)
【0061】
印加周波数500kHzでコラーゲンビーズ懸濁液0.25ml/min、0.5ml/min、1.0ml/minで実験を行った。流量が0.5ml/min、1.0ml/minのとき個別電極にのみビーズが付着した。流量が0.25ml/minのとき個別電極のみならず絶縁層領域にもビーズが沈殿して付着した。
【0062】
個別電極の直径を50μmとした集積兼培養容器を用いビーズ懸濁液流量1.0ml/minの時に個別電極に1個ずつのビーズが付着した。一方個別電極の直径を100μmとすると個別電極1ヶ所当たり複数のビーズが付着した。これにより、個別電極の直径よりも大きい直径を有するビーズを用いると個別電極1ヶ所にビーズ1個が付着するに適していると考えられる。
【0063】
さらに、印加周波数を1MHzにして実験を行った。印加周波数については500kHzと1MHzでビーズ付着状況に大きな変化は認められなかった。
【0064】
<細胞捕集工程>
印加電圧20Vp−p、印加周波数を500kHzと1MHz、細胞懸濁液の流量0.10ml/min、0.25ml/min、0.50ml/min、1.0ml/minで実験を行った。
【0065】
流量が0.25ml/minのときビーズに集積する細胞の数が最大であった。一方流量が1.0ml/minでは細胞がビーズに集積せず流出した。印加周波数については500kHzと1MHzで細胞捕集状況に大きな変化は認められなかった。
【0066】
<細胞培養>
細胞捕集工程終了後にコラーゲンビーズの表面に分散して付着していた軟骨細胞が、培養後はコラーゲンビーズに定着し、集積していた。
【実施例2】
【0067】
−−濃縮モデル−−
実施例2で使用した集積兼培養容器は実施例1と同一である。細胞は生後1〜2ヶ月の仔ウシの膝関節の軟骨細胞を用いた。細胞懸濁液の溶媒は細胞等張液である低導電性の生理緩衝液を使用した。細胞懸濁液は細胞密度2.0×10cells/mlに調製した。実施例1と異なり、細胞懸濁液に死活細胞模擬体を含んでいない。
【0068】
<ビーズ付着工程>
ビーズ付着工程は実施例1と同一であり、説明を省略する。
【0069】
<細胞捕集工程>
印加電圧20Vp−p、印加周波数を500kHzと1MHz、細胞懸濁液の流量0.10ml/min、0.25ml/min、0.50ml/min、1.0ml/minで実験を行った。
【0070】
流量が0.25ml/minのときビーズに集積する細胞の数が最大であった。一方流量が1.0ml/minでは細胞がビーズに集積せず流出した。印加周波数については500kHzと1MHzで細胞捕集状況に大きな変化は認められなかった。
【0071】
<細胞培養>
細胞捕集工程終了後にコラーゲンビーズの表面に分散して付着していた軟骨細胞が、培養後はコラーゲンビーズに定着し、集積していた。培養条件は実施例1と同一とした。
【符号の説明】
【0072】
1 細胞集積装置
2 生体親和性ビーズであるコラーゲンビーズ
10 集積兼培養容器
11 第一基板
12 第二基板
13 側壁部材
14 流入口
15 流出口
16 第一電極部
16a、16b、16c 個別電極
17 第二電極部
18 絶縁体である光レジスト膜
20 ビーズ作成容器
21 材料押出しノズル
22 気体ノズル
23 ゲル化溶液
30 電源部
40 細胞懸濁液
41 活性細胞
42 死活細胞模擬体
43 流出液
101 容器内部
161 端子部
171 端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集積装置と誘電泳動可能な生体親和性ビーズを用いる、以下のイとロの工程からなる細胞集積方法であって、
前記細胞集積装置は、
第一基板、第一基板に対向して配置された第二基板と側壁に囲まれ、流入口と流出口を持つ集積兼培養容器、
第一基板に配置された第一電極部と第二基板に配置された第二電極部、
第一電極部は複数の個別電極から構成されていて、前記複数の個別電極は集積兼培養容器の内部に露出しているものであり、
第一電極部と第二電極部間に交流電圧を印加する電源部からなり、
イ 前記流入口から前記集積兼培養容器内に生体親和性ビーズを送り、かつ、前記電源部から第一電極部と第二電極部に交流電圧を印加し、前記ビーズを個別電極に付着するビーズ付着工程
ロ ビーズ付着工程の後に、前記流入口から前記集積兼培養容器内に捕集対象細胞を含む細胞懸濁液を送り、かつ、前記電源部から第一電極部と第二電極部に交流電圧を印加し、前記付着されたビーズに前記捕集対象細胞を捕集する細胞捕集工程。
【請求項2】
前記生体親和性ビーズは、コラーゲンとアルギン酸塩からなるビーズである請求項1に記載した細胞集積方法。
【請求項3】
第一電極部は、第一基板の表面に平坦な表面形状を有する電極部材を形成し、前記電極部材の表面に絶縁性の材料からなる絶縁層を形成し、前記絶縁層を部分的に円形に除去して形成された前記個別電極を有する請求項1に記載した細胞集積方法。
【請求項4】
第一電極部は、第一基板の表面に前記電極部材である導電膜を形成し、前記導電膜の上に前記絶縁層を形成し、レーザー光線を照射して個別電極部分の前記絶縁層を除去するレーザーエッチング法により形成された前記個別電極を有する請求項3に記載した細胞集積方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−60885(P2012−60885A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204989(P2010−204989)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 日本生体医工学会 第49回日本生体医工学会大会事務局 刊行物名 第49回日本生体医工学会大会 プログラム・抄録集 発行年月日 平成22年6月25日
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】