説明

細胞電気生理センサ

【課題】本発明は、細胞電気生理センサの製造歩留まりを改善し、生産効率を向上させることを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、本発明は、貫通孔18を有する薄板16と、この貫通孔18を囲み前記薄板16の上面周辺部に保持されている枠体17とからなり、前記貫通孔18と前記枠体17とで構成されるキャビティを有するセンサチップ13と、前記センサチップ13の枠体17と接し、前記センサチップ13を保持するウエル11とを備え、前記センサチップ13の枠体17外周部と前記ウエル11の内周部とを接着剤20で接合させた細胞電気生理センサにおいて、前記枠体17はその外周部に開口した枠体空隙部19aが形成されている構成とした。これにより本発明は、接合時の余剰な接着剤20のキャビティへの流出による製品歩留まりを改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞が活動する際に発生する細胞内外の電位、あるいは化学物質を検出し、薬剤効果を測定する薬品スクリーニング等に用いられる細胞電気生理センサの製造方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネルを測定する方法として知られており、このパッチクランプ法によってイオンチャンネルの様々な機能が解明されてきた。そして、イオンチャンネルの働きは細胞学において重要な関心事であり、これは薬剤の開発にも応用されている。
【0003】
しかし、一方でパッチクランプ法は、その測定技術で微細なマイクロピペットを1個の細胞に高い精度で挿入するという極めて高い能力が必要となるため、熟練作業者が必要であり、高いスループットでの測定を必要とする場合には適切な方法でない。
【0004】
このため、個々の細胞についてマイクロピペットの挿入を必要とせず、減圧を行うだけで自動的に細胞を保持し、測定を行うことができる自動化システムの開発が進んでいる。
【0005】
図17に従来の細胞電気生理センサの概要を示す。細胞電気生理センサは、細胞を捕捉する細胞捕捉部1と、細胞捕捉部1を保持する実装基板2とからなり、細胞捕捉部1を実装基板2に挿入した後に、細胞捕捉部1と実装基板2とを接着剤3を用いて固定している。細胞捕捉部1には細胞4を捕捉するための貫通孔5が開いている。細胞捕捉部1の下部から減圧をするなどして細胞4を捕捉し、細胞捕捉部1の下部に満たされた細胞内液に細胞膜を溶かす薬液を混入させるなどをして細胞4に孔を開ける。この操作により、捕捉され孔が開いた細胞4は、細胞捕捉部1を隔てて、細胞内部と細胞外部の領域に分けられる。この二つの領域において発生する電位差もしくは電流の変化を測定することにより、細胞の活動状態を電気信号によって検出することができる。
【0006】
なお、上記細胞電気生理センサと類似する例を開示するものとして例えば以下の先行技術文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−39624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の生産効率が低下するという課題があった。その理由は、細胞捕捉部1と実装基板2を接着する際に用いる接着剤3が少しでも多いと、細胞捕捉部1の細胞捕捉面に流れ込んでしまい、実測時に細胞捕捉面の親水性の劣化や、細胞4に毒性を与え兼ねないので製品として使用出来ないためである。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決し、細胞電気生理センサの製造歩留まりを改善し、生産効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、この目的を達成するため本発明の細胞電気生理センサは、貫通孔を有する薄板と、この貫通孔を囲み前記薄板の上面周辺部に保持されている枠体とからなり、前記貫通孔と前記枠体とで構成されるキャビティを有するセンサチップと、前記センサチップの枠体と接し、前記センサチップを保持するウエルとを備え、前記センサチップの枠体外周部と前記ウエルの内周部とを接着剤で接着させた細胞電気生理センサにおいて、前記枠体はその外周部に開口した枠体空隙部が形成されているとした。
【発明の効果】
【0011】
これにより本発明は、細胞電気生理センサの生産効率を向上させることができる。
【0012】
その理由は、上記構成により、センサチップと実装基板との間に塗布する接着剤がセンサチップの細胞密着面に流れ込むことを抑制することができるため、細胞毒性への影響を無くすことが出来るためである。
【0013】
本発明によれば、接着剤を用いてセンサチップと実装基板とを接着させる細胞電気生理センサにおいて、接着剤がセンサチップの第一の面に流れ込むのを防ぐセンサチップ若しくは実装基板の形状として、センサチップ若しくは実装基板に接着剤が流れ込むための溝構造を設けることにより、この溝に不用な接着剤を流して細胞を捕捉するセンサチップの第一の面に接着剤が流れ込むのを防ぐことができ、結果としてセンサチップの親水性の劣化を防ぎ、細胞に与える毒性を無くすことができる。
【0014】
よって、生産効率が向上した細胞電気生理センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1における細胞電気生理センサの断面図
【図2】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図3】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図4】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図5】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図6】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図7】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図8】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図9】実施の形態1における細胞電気生理センサの製造工程を示す断面図
【図10】実施の形態1におけるセンサチップの上面図
【図11】実施の形態1におけるセンサチップの上面図
【図12】実施の形態1におけるセンサチップの上面図
【図13】実施の形態1におけるセンサチップの上面図
【図14】実施の形態1における細胞電気生理センサの断面図
【図15】実施の形態2における細胞電気生理センサの断面図
【図16】実施の形態3におけるセンサチップの断面図
【図17】従来の細胞電気生理センサの断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態における細胞電気生理センサについて、図面を用いて説明する。なお各実施の形態において先行する実施の形態1と同様の構成をなすものは同じ符号を付して説明し、詳細な説明を省略する場合がある。また本発明は一実施の形態であり、以下の各実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
図1に示す細胞電気生理センサは、樹脂からなる連通したウエル11と、このウエル11の保持部12まで挿入されたシリコンからなるセンサチップ13と、前記ウエル11の上方及び下方にそれぞれ配置された電極14、15とを備えている。また、前記センサチップ13は、細胞に接する第一の面と、第一の面の逆の面である第二の面を備えた薄板16と、薄板16の上面周辺部を保持するための枠体17とからなり、この薄板16の第一の面と第二の面を貫通し、細胞を捕捉・保持するための貫通孔18を備えている。なお、前記貫通孔18の開口径は細胞を保持するために適した1μm〜3μmである。また、センサチップ13は、枠体17とウエルとの接合面である枠体17外周部の上面部分に開口し、枠体17内壁側への余剰接着剤20の流れ込みを防止させるための枠体空隙部19aを有しており、この枠体空隙部19aには接着剤20などが吸収されている。
【0018】
そして、前記ウエル11の上側に配置された電解槽21と、前記ウエル11の下側に配置された電解槽22とは、共に電解液で満たされ、これらの電解槽21、22は前記ウエル11と前記センサチップ13とで仕切られている。
【0019】
そして、前記電解槽21から細胞23を含んだ溶液を注入し、貫通孔18の上方から加圧、あるいは下方から吸引することで細胞23を貫通孔18の開口部に吸引し捕捉することができる。
【0020】
そして、例えば電位依存型チャネルを有する細胞における測定の場合は、この細胞23の上から薬剤を投与し、前記電解槽21、22間に電位差を与えることによって、細胞23のチャネル電流を電極14、15で測定すれば、細胞23の薬理反応を判断することができる。
【0021】
以下、本実施の形態における細胞電気生理センサの製造方法について、図面を用いて説明する。
【0022】
まず、図2に示すように、センサチップ13用の基板を準備する。センサチップ13は珪素(以下、Si)と二酸化珪素(以下、SiO2)から構成される、第一の層24−第二の層25−第三の層26の3層構造(通常Si−SiO2−Si)からなるSOI(silicon on insulator)基板から作製される。SOI基板はSi基板表面を熱酸化処理し、別のSi基板を接合することで得られる。若しくは熱酸化処理の後、CVD等の方法によってSi層を形成してもよい。
【0023】
次に図3に示すように、第一の層24の上面である第一の面の表面に、第一のレジスト開口27を有する第一のレジスト膜28を形成する。第一のレジスト開口27は、細胞が捕捉されるために適した貫通孔がエッチングによって開くように形成されている。なお、複数の貫通孔を形成する場合は、第一のレジスト膜28に形成された第一のレジスト開口27を複数設ければ良い。
【0024】
次に図4に示すように、第一のエッチングガスを用いて、第一の層24のドライエッチングを行う。第一のレジスト開口27から等方性のエッチングをすることによって、窪み部29が形成される。等方性エッチングが可能な、適切なエッチングガスと、エッチング方法を選択する必要がある。例えば、第一のエッチングガスとして、XeF2が用いられる。このガスを使用することによって、第一のレジスト膜28をエッチングすることなしに、第一の層24のみをエッチングすることが出来る。若しくは、第一のエッチングガスとしてSF6やCF4などを用いても良い。この窪み部29は、センサチップの貫通孔の長さを制御する場合に有用である。センサチップの貫通孔の長さを制御するためには、このように窪み部29を作らずに第一の層全体を一様にエッチングする方法もあるが、この方法だとセンサチップの第一の層24と第二の層25との厚みが薄くなってしまい、強度が保てないことがある。しかし、窪み部29を作る場合、窪み部29以外のダイアフラムの厚みは変わらないために、強度を保ったまま貫通孔の長さを調整することが可能となる。
【0025】
次に図5に示すように、第一の層24に形成された窪み部29の底部に、第一のレジスト開口27から導入した第二のエッチングガスによってドライエッチングを行い、第一の貫通孔30を形成する。第二のエッチングガスとして、SF6が用いられる。同時に、第三のエッチングガスも導入する。第三のエッチングガスとして、C48を用いることが望ましい。この第三のエッチングガスの導入によって、エッチング保護膜が形成され、第二のエッチングガスは第一の層24から第二の層25に向かって垂直方向にのみエッチングすることが可能となる。
【0026】
その後、第一のレジスト膜28をレジスト剥離液(図示せず)によって除去する。第一のレジスト膜28を除去した後に、図6に示すように、第四のエッチングガスを導入し、第二の層25をエッチングする。このエッチングによって、第一の貫通孔30と連続した第二の貫通孔31が形成されることにより、貫通孔18が形成される。第四のエッチングガスとして、CHF3などが用いられる。この第四のガスは、第二の層25のみをエッチングし、第三の層26にエッチングが到達しても第三の層26はエッチングされないガスを用いる。
【0027】
次に図7に示すように、第三の層26の下面である第二の面の表面に、第二のレジスト開口32を有する第二のレジスト膜33を形成する。この工程においても、第二のエッチングガスと、第三のエッチングガスを用いて、図8に示すようにセンサチップの枠体17と、枠体17内壁によって形成されたキャビティ34と、枠体17内に微小な隙間を有した枠体空隙部19aを形成する。形成後は、第二のレジスト膜33を剥離する。
【0028】
なお、枠体空隙部19aのエッチングされる深さは、キャビティ34の深さと同じでなくともよい。枠体空隙部19aのエッチング深さを浅くする場合、キャビティ34と枠体空隙部19aのエッチングは別に行い、それぞれレジスト膜を形成する必要がある。この枠体空隙部19aの高さを調整し、キャビティ34に対して溝を低くすることで枠体17の強度を強くすることができる。
【0029】
このようにして形成されたセンサチップ13を、図9に示すように樹脂からなるウエル11に実装する。ウエル11には、センサチップ13を保持する保持部12を有している。センサチップ13の枠体17底面がウエル11の保持部12上面に保持された状態で、センサチップ13とウエル11の隙間はリークがないように、接着剤20等で完全に密封することによりセンサチップ13とウエル11との隙間及び枠体空隙部19aに接着層が形成される。このことにより、センサチップ13をウエル11に固定するとともに、ウエル11内部とウエル11外部は貫通孔18のみが導通している状態にする。
【0030】
なお、センサチップ13には貫通孔18を少なくとも一カ所有していればよく、複数設けた場合であっても細胞の電気生理現象を測定することができる。さらに、センサチップ13を実装するのは樹脂である必要はなく、ガラス等の素材でもよい。ウエル11にガラスを用いることでセンサチップ13の組成であるSiやSiO2と親和性が高く、またガラスは親水性なので薬剤がウエルの中に浸透し、気泡なども発生しづらくなる。
【0031】
センサチップの高さと、ウエルの表面部との高さは同一若しくは100μm以内程度に抑える方が接着剤を塗布しやすい。また、保持部の内径とセンサチップの外径との差は、狭すぎるとウエルへのセンサチップの挿入が困難になり、広すぎると間隙を埋めるために大量の接着剤を必要とする。
【0032】
図10にセンサチップ13の第一の面からの上面図を示す。この枠体空隙部19aによって、従来のセンサチップとウエルに対して過剰な量であった接着剤20が塗布されても、接着剤20はセンサチップ13の第一の面に流れ込むことなく、枠体空隙部19aに流れ込み、ウエル11内部の汚染を防ぐことが可能となる。
【0033】
ここで、図11のように枠体17の内周面に第一の突起部35を設けることが望ましい。第一の突起部35が形成する微少な隙間に、測定に用いる溶液が入り込みやすくなる毛細管現象を利用でき、センサチップ13内部に気泡が残りにくくなることにより、より細胞測定の成功率が上がる。
【0034】
なお、第一の突起部35は複数個所に設けられていることが望ましいが少なくとも一部分に設けられていれば同様の効果を奏する。
【0035】
なお、図12に示すように、枠体空隙部19aの内周面に第二の突起部36を形成した構成であってもよい。第二の突起部36が、余剰の接着剤20を流れ込みやすくするため、貫通孔18付近への接着剤20の侵入をより高い精度で防ぐ。この時、第二の突起部36は複数個所に設けられていることが望ましいが少なくとも一部分に設けられていれば同様の効果を奏する。
【0036】
なお、図13に示すように、枠体空隙部19aは複数設けた構成であっても良い。複数の場合の枠体空隙部19aを設けた場合も、図7に示した第三の層26の第二の面の表面に塗布した第二のレジスト膜33に、複数の枠体空隙部19a用のパターンを形成することで作製できる。このことにより、枠体空隙部19aを均等に設けることで枠体17の強度を保持しながら接着剤20を吸収させることができる。
【0037】
以下、本実施の形態における効果を説明する。
【0038】
細胞電気生理センサの構造として、通常は一枚のウエルに複数のセンサチップが搭載されているマイクロタイタープレートが一般的である。このため、センサチップとウエルの接着が一つでも失敗すると、失敗した部分からリークが発生し、すべてのセンサチップに対し正確な測定が不可能になるケースが多く、接着不良は許されない。このため、従来は接着剤の量は多めに塗布するしか不良を防ぐ方法はなかった。一方で接着剤を過剰に塗布することにより、センサチップの細胞捕捉面に流れ込んでしまい、実測時に細胞捕捉面の親水性の劣化や、細胞に毒性を与え兼ねないので製品として使用出来ないという問題を有していた。
【0039】
しかし、本発明における枠体空隙部19aにおいて過剰の接着剤20を吸収させる構成とすることによって、センサチップ13とウエル11を確実に密着して接着することができる。よって、接着剤20の量を多く塗布しても、余った接着剤20がキャビティ34に侵入する前に枠体空隙部19aに吸収されるため、細胞毒性を回避し、ウエル11内部の測定溶液の成分組成を変化させずに済む。さらに、接着剤20塗布量の過剰によって、センサチップ13の貫通孔18を接着剤20が防いでしまうエラーも防げる。
【0040】
また、接着剤20は、温度、湿度の条件変化に敏感でその粘性や硬度に大きく影響するため、塗布量の管理が非常に困難であった。この点からしても、接着剤20の量を従来よりも多く設定しておけば、リークを防げるとともに、センサチップ13内部への回り込みも防ぐことが出来る点で、本発明の枠体空隙部19aの効果は大きい。
【0041】
さらに、ウエル11の保持部12に枠体空隙部19aと形状が合う突起(図示せず)を設けて、ウエル11に対するセンサチップ13の位置合わせを行うことも可能である。このことによって、接着剤20を塗布した直後のセンサチップ13が接着剤20を起点として立ち上がってくることによる実装不良を防ぐことができ、また、センサチップ13が常にウエル11の中心に固定できるため、センサチップ13とウエル11の間隔が一定となり、センサチップ13に均一に接着剤20を塗布することができる。
【0042】
また、センサチップ13の枠体空隙部19aの形成の容易さも本発明の優れた効果である。
【0043】
接着剤20がウエル11内部に入り込まないようにする方法として、センサチップ13自体に接着剤20吸収用の溝を設ける方法と、ウエル11の保持部12や枠体17と接する部分に接着剤20吸収用の溝や液溜まりを設ける方法がある。後者は、上記溝構造を設けるために、ウエル11用の金型を作り直す必要がある。さらにこの時、上記溝の位置が保持部12に近い場合、ウエル11の形状が複雑になり、型が多数必要になるため、複数の基板を貼り合わせる必要なども生じる。よって、価格、精度などの面からウエル11に複雑な形状を持たせるのは現実的ではない。
【0044】
一方、センサチップ13に接着溝として枠体空隙部19aを設ける方法では、レジスト膜のパターンを変えるだけで、従来の工法を全く変える必要がなく、かつ非常に安価に作製することができる。具体的には前述した第二のレジスト膜33のパターンをエッチング時に枠体空隙部19aを形成するように変更するだけでよい。さらに、枠体空隙部19aは保持部12と接するため、ウエル11内の薬液に接着剤20が触れることがないため、薬剤の組成を変えずに済み、また細胞毒性もなくなる。
【0045】
さらに、枠体空隙部19aにも突起構造を設けることで、枠体空隙部19aに形成されうる気泡溜まりを無くし、親水性を高めることが可能となる。
【0046】
なお、図14に示すように、細胞電気生理センサの構造上の制約により、センサチップ13とウエル11を接着した基板を、さらに実装基板37に接着する必要がある場合、センサチップ13の枠体17に前述の枠体空隙部19aを設けるだけでなく、ウエル11にもウエル間隙部38を設けることにより、ウエル11と実装基板37を接着剤20で接着する際に、キャビティ34内部に余剰な接着剤20が侵入することを防ぐことができる。
【0047】
なお、枠体空隙部19a内にポリイミドフィルムなどの多孔質材料を組み合わせても良い。このことで、枠体空隙部19aに接着剤20をより積極的に浸透させることができるため、余剰な接着剤20のキャビティ34への侵入を阻止することができる。
【0048】
なお、本実施の形態ではセンサチップ13の基板としてSOI基板を用いたが、Si層の代わりにガラス基板、フィルム樹脂等の他の基板を用いることも可能である。ただし、その場合には、本実施の形態と同様な効果が得られるセンサチップ13の形成や枠体17、枠体空隙部19aの形成を行えばよい。
【0049】
ただし、加工性や汎用性の観点から、Siを含む基板を用いることが好ましい。Siを含む基板とは、少なくともSiが含まれていればよく、Si単体で構成されているものだけではなく、第一の層24や第三の層26はSiを用いたSOI基板、一部また全体にボロン等の元素をドーピングされた基板、さらには、ガラス等にSiが貼りあわされた基板などを用いてもよい。
【0050】
なお、窪み部は必ずしも必要ではなく、無い場合であっても本願発明の効果が得られる。
【0051】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における細胞電気生理測定デバイスおよびこれを用いた測定方法について図面を用いて説明する。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点は、枠体空隙部19bを枠体17の外周部に凹部状に設けた点である。
【0052】
図15に示すように、枠体空隙部19bは、枠体17のウエル11と接する部分である外周部の一部をエッチングあるいは切削することにより凹部を形成することにより構成されている。これは、XeF2などのエッチングガスを用いた等方性エッチングによって形成することが可能である。この枠体空隙部19bによって、余剰な接着剤20がキャビティ34に侵入し、汚染されることを防ぐことが出来る。
【0053】
なお、枠体17が薄板16側の固定端から自由端に向けてテーパ形状とすることにより枠体空隙部19bを形成した場合であっても同様の効果を奏する。
【0054】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3における細胞電気生理測定デバイスおよびこれを用いた測定方法について図面を用いて説明する。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点はセンサチップ13とウエル11との間に多孔質部材により多孔質層39を形成している点である。
【0055】
具体的には図16に示すように、センサチップ13の枠体17の外周部に、多孔質材料を貼り付けることにより多孔質層39を形成することができる。多孔質層39を形成する材料としては多孔を有するポリイミドフィルムなどを用いることが好ましい。多孔質層39の持つ表面や内部の孔に接着剤20が侵入し、センサチップ13とウエル11とを確実に接着するとともに、余剰となる接着剤20をキャビティ34内に侵入させることを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、接着剤のキャビティへの流出による製品歩留まりを改善することができ、生産効率の良い細胞電気生理センサを実現できる。
【符号の説明】
【0057】
11 ウエル
12 保持部
13 センサチップ
14 電極
15 電極
16 薄板
17 枠体
18 貫通孔
19a 枠体空隙部
19b 枠体空隙部
20 接着剤
21 電界槽
22 電界槽
23 細胞
24 第一の層
25 第二の層
26 第三の層
27 第一のレジスト開口
28 第一のレジスト膜
29 窪み部
30 第一の貫通孔
31 第二の貫通孔
32 第二のレジスト開口
33 第二のレジスト膜
34 キャビティ
35 第一の突起部
36 第二の突起部
37 実装基板
38 ウエル間隙部
39 多孔質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する薄板と、
この貫通孔を囲み前記薄板の上面周辺部に保持されている枠体とからなり、
前記貫通孔と前記枠体とで構成されるキャビティを有するセンサチップと、
前記センサチップの枠体と接し、前記センサチップを保持するウエルとを備え、
前記センサチップの枠体外周部と前記ウエルの内周部とを接着剤で接合させた細胞電気生理センサにおいて、
前記枠体はその外周部に開口した枠体空隙部が形成されている細胞電気生理センサ。
【請求項2】
前記枠体空隙部は前記枠体上面に開口し形成されている請求項1に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項3】
前記枠体空隙部はその内周面に少なくとも一つ以上の突起部を有している請求項1あるいは請求項2に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項4】
前記枠体空隙部は複数設けられている請求項1あるいは請求項2に記載の細胞電気生理センサ。
【請求項5】
貫通孔を有する薄板と、
この貫通孔を囲み前記薄板の上面周辺部に保持されている枠体とからなり、
前記貫通孔と前記枠体とで構成されるキャビティを有するセンサチップと、
前記センサチップの枠体と接し、前記センサチップを保持するウエルとを備え、
前記センサチップの枠体外周部と前記ウエルの内周部とを接着剤で接合させた細胞電気生理センサにおいて、
前記枠体はその外周部に多孔質層を形成している細胞電気生理センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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