説明

細菌培養容器

【課題】ダーラム管のような特別な器具を用意しておく必要が無く、細菌培養のための操作が簡単であり、変形可能で占有体積も少なくて済み、運搬にも便利である容器を提供する。
【解決手段】半透明ないし透明で柔軟性を有し液体および細菌を通過させない合成樹脂フィルムにより形成された袋2と、袋2内に培地を出し入れ可能とするとともに袋2を液体および細菌に対して密閉可能とする弁3とから細菌培養容器1を構成する。連通部分63を残して袋内部を仕切るように合成樹脂フィルム同士を線状に接着させて直線状接着部61を形成し、袋2に、細菌の増殖に伴って培地で発生したガスの気泡5を溜めるガストラッパ6を一体的に形設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、細菌を培養して細菌検査に用いる細菌培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌を培養して細菌検査に用いる容器としては、従来、ガラス、硬質樹脂等の剛性材料からなる定形のシャーレ、試験管、ボトルなどがあった。これらの細菌培養容器のうち、細菌の培養に伴うガスの発生の有無によって細菌の存否を確認する場合には、試験管やボトルが使用される。
【0003】
すなわち、試験管を使用して細菌を培養する場合には、図2に示すように、試験管T内に、細菌の増殖に伴ってガスを発生する液体培地Mを充填して、その培地M中に試験管Tよりもはるかに小さいダーラム管Dを、空気を抜いた状態で逆さにして沈めておき、ピペット等を用いて検体を試験管内の培地Mに接種する。そして、試験管Tに蓋を被せて試験管Tを振盪させ、検体と培地とを十分に混釈する。その後、好気的条件下の恒温装置内に試験管Tを収容して培養する。検体中に細菌が存在したときは、その培養に伴って発生したガスGがダーラム管D内に溜まる。このようにして、ガス発生の有無により細菌の存否を確認する(例えば、特許文献1参照。)。また、ボトルを使用して細菌を培養する場合にも、試験管培養と同様に、ボトル内の培地中にダーラム管を逆さにした状態で沈めてガス発生の状況を観察する。
【特許文献1】特開2003−230375号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、試験管やボトルを使用して細菌を培養し細菌の培養に伴うガスの発生の有無によって細菌の存否を確認する、といった従来の方法では、試験管やボトルとは別にダーラム管を用意しておく必要があり、また、試験管やボトル内の培地中にダーラム管を逆さにして沈める、といった余分な操作が必要となって面倒である。
【0005】
また、試験管やボトルは、その体積および形状を変化させることができないので、使用時・不使用時に拘わらず収納空間が多く必要であり、その持ち運びにも不便である。また、細菌の増殖に伴うガスの発生によって容器内部の圧力が高まるので、容器の破損を防止するために、スクリュー式キャップを用いる場合にはキャップを少し緩めておいたり、ゴム栓式キャップを用いる場合にはキャップに注射針を突き刺しておいたりするなど、培養中のガスの逃げ道を確保しておかなければならない。この結果、そのガスの逃げ道を通して容器内の培地が汚染される心配がある。
【0006】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、ダーラム管のような特別な器具を用意しておく必要が無く、細菌培養のための操作が簡単であり、変形可能で占有体積も少なくて済み、運搬にも便利である細菌培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、半透明ないし透明で柔軟性を有し液体および細菌を通過させない合成樹脂フィルムにより形成され、液体および細菌に対して密閉可能で、内部に培地を収容して細菌を培養する細菌培養容器において、連通部分を残して内部を仕切るように合成樹脂フィルム同士を線状に接着させて、細菌の増殖に伴って培地で発生したガスを溜めるガストラッパを一体的に形設し、半透明ないし透明の合成樹脂フィルムを通して前記ガストラッパに溜まるガスを観察することにより細菌の存否を確認することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の細菌培養容器において、一側辺から底辺側へ傾斜するように合成樹脂フィルム同士を直線状に接着させ、前記一側辺と直線状接着部とで囲まれる部分をガストラッパとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明の細菌培養容器において、細菌の増殖に伴って培地で発生したガスは、容器に一体的に形設されたガストラッパに溜まるので、半透明ないし透明の合成樹脂フィルムを通してガストラッパに溜まるガスを観察することにより細菌の存否を確認することができる。したがって、ダーラム管のような特別な器具を用意しておく必要が無く、細菌培養のための操作も簡単になる。
また、この細菌培養容器は、柔軟性を有する合成樹脂フィルムにより形成されていて、変形可能であり、場合によっては折り畳むことも可能であるので、必要とする収納空間が少なくて済み、検体の採取現場での取り扱いや運搬も容易である。
【0010】
請求項2に係る発明の細菌培養容器では、一側辺と直線状接着部とが鋭角をなし、その鋭角をなす一側辺と直線状接着部とで囲まれる部分がガストラッパとなるので、細菌の増殖に伴って培地で発生したガスを良好にガストラッパに溜めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の最良の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明の実施形態の1例を示す細菌培養容器の斜視図である。
【0012】
この細菌培養容器1は、培地および検体を収容して細菌の培養を行う袋2と、この袋2内に培地を出し入れ可能とするとともに袋2を液体および細菌に対して密閉可能とする開閉部材としての弁3から構成されている。袋2は、半透明ないし透明で柔軟性を有し液体および細菌を通過させない合成樹脂フィルムにより形成されている。袋2を形成する合成樹脂フィルムは、培養しようとする細菌の種類によって適宜選択すればよいが、好気性菌を培養する場合には、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の通気性を有する合成樹脂フィルムが好ましく、嫌気性菌を培養する場合には、単独で気体不透過性を発揮するフィルム、あるいは重層フィルムが好ましい。そして、袋2は、2枚の合成樹脂フィルム、例えば無色透明の2枚のポリエチレン方形フィルムを、周辺部2cで互いに熱圧着等により接着して得られる。また、弁3は、例えば、袋2と同質の2枚のリボン状フィルムを両長辺に沿う縁で互いに接着して筒状に形成されたものである。この弁3は、2枚の方形フィルムを相互に接着して袋2を作製する際に、予め筒状に形成したフィルムを2枚の方形フィルムで挟んでおくことにより、2枚の方形フィルムの相互接着と同時に方形フィルムに固着されて、袋2に一体的に取り付けられる。ただし、袋2の周辺部2cのうち、弁3が設けられる上辺部と対向する底辺部2dは、後述するように培地を充填した後に接着される。
【0013】
また、この細菌培養容器1は、2枚の方形フィルムをその周辺部2cで相互に接着して袋2を作製する際に、両方形フィルムを、その外周の一側辺から中央に向かって延びる線に沿っても相互接着する。このようにすることにより、袋2の内部が、連通部分63を残して2つ空間に仕切られ、袋2の内部に、袋2の一側辺から底辺側へ傾斜するように延びる直線状接着部61と袋2の一側辺の接着部とによって平面視で鋭角的に囲まれた空間部分が形成される。この空間部分が、細菌の増殖に伴って培地で発生したガスを溜めるガストラッパ6となり、内部にガストラッパ6が一体的に設けられた細菌培養容器1が得られる。この構成により、細菌培養容器1を立てた状態で細菌の培養を行うようにすると、培地で発生したガスが気泡となって、図2中に矢印で示した方向へ気泡が移動し、その気泡がガストラッパ6に溜まるので、透明の合成樹脂フィルムを通して細菌の増殖に伴うガスの発生を容易に確認することが可能となる。
【0014】
さらに、直線状接着部61は、弁3を底辺に向かって延長した位置に差し掛かったところで方向転換して弁3の方へ向かい、この弁3を指向する接着部が、ガストラッパ6に溜まったガスを弁3の方へ案内するガイド62となる。このような構成により、検体を袋2内の培地に接種する際に弁3を通して袋2内に空気が混入しても、培養開始前に、袋2内に混入した空気をガイド62に沿って弁3の方へ導き、弁3を通って混入空気を速やかに排出することができる。この結果、培養後にガストラッパ6に溜まったガスが正しく細菌の増殖に由来するものであるとの確証を得ること可能となる。
【0015】
上記したように、この細菌培養容器1は、全体が柔軟性を有するポリエチレンフィルムで形成されているので、使用しないときには多数個を平たく束ねたり折り曲げたりして、保管場所に応じて適当な形態で保管したり運搬したりすることができる。したがって、この細菌培養容器1は、保管スペースが少なくて済み、その運搬も容易である。さらに、この細菌培養容器1は、運搬中に破損の心配が無く、軽量であるので、取扱いが容易である。この細菌培養容器1を用いて細菌を培養する方法は、以下の通りである。
【0016】
袋2の底辺部2dを接着する前に、袋2内にその底辺開口側から培地を充填する。なお、予め袋2の底辺部2dを接着しておいてから、弁3を通して注射器等で培地を充填することもできるが、弁3の無菌性を保つためには、袋2内に底辺開口側から培地を充填した後に底辺部2dを接着することが好ましい。培地の種類は、液体培地、寒天培地または粉末培地のいずれでもよい。そして、袋2の底辺部2dを接着した後、血液、食品、試薬等の検体を培地に加え、適当な環境で培養する。弁3を構成するフィルムの内面同士は、袋2の内部圧力が高まるほど互いに密接するので、培養中に細菌培養容器1に外力が加わっても弁3が開くことはない。
【0017】
水道水、井戸水、プール、河川、海水浴場、貯水タンク等における大腸菌群の有無を検査する場合には、大腸菌群が存在するときのみガスが発生するBGLB(液体)培地を袋2内に充填しておけば、袋2を構成する透明のポリエチレンフィルムを介して培地を透視することにより、容易に気泡5の発生の有無を観察することができる。また、粉末培地を用いる場合において、この細菌培養容器1では袋2が充填物質の量に応じて膨らむので、従来の定形容器におけるように検体(水道水等)分の容積を予め確保しておく、といった必要が無い。
【0018】
また、食品中の細菌の有無を検査するためには、食品を培地全体に均一に分散させる必要がある。従来の定形容器を用いる場合には、加温溶解させた寒天培地と検体とを予め混合して容器内に充填し、寒天培地を凝固させた後、好気性菌であるか嫌気性菌であるかなどといった細菌の性質に適応させかつ培地が乾燥しないように、湿潤した雰囲気を有する恒温装置に容器を入れて培養していた。この細菌培養容器1を用いる場合には、袋2の材質として、好気性菌に対しては上記したポリエチレンフィルムのように通気性のものを用いる。一方、嫌気性菌に対しては気体不透過性の合成樹脂フィルムを選定して用いるようにする。そして、予め袋2内に寒天培地を充填しておき、細菌培養容器1ごと電子レンジに入れて数秒で寒天培地を溶解させた後、袋2内の培地中に検体を接種し、培地の入った袋2を軽く揉むか、あるいは、細菌培養容器1全体を数回転倒させるかして、培地と検体とを攪拌するだけで検体が培地全体に均一に分散し、細菌を培養することができる。そして、培養中に袋2は密閉されているので、袋2内の培地が乾燥することがない。したがって、従来の定形容器を用いた場合のように恒温装置内を湿潤化する必要も無い。
【0019】
血液検査の場合には、検体(血液)が不透明であるから、従来はダーラム管を使用することができず、しかも、検体の飛散防止のために予め減圧機で内部を負圧に調整したボトル内で培養を行わざるを得なかった。これに対して、この細菌培養容器1を用いた場合には、検体の充填量に応じて袋2が膨らむので、内圧を調整しておく必要が無く、注射器を弁3に挿入して、採取した検体を袋2内へ押し込むだけでよい。
【0020】
なお、細菌培養容器1の開閉部材としては、上記実施形態で示した筒状フィルムからなる弁3に代えて、栓、スクリューキャップ等を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施形態の1例を示す細菌培養容器の斜視図である。
【図2】試験管を使用した従来の細菌培養容器の1例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 細菌培養容器
2 袋
2c 袋の周辺部
2d 袋の底辺部
3 弁
5 気泡
6 ガストラッパ
61 直線状接着部
62 ガイド
63 連通部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透明ないし透明で柔軟性を有し液体および細菌を通過させない合成樹脂フィルムにより形成され、液体および細菌に対して密閉可能で、内部に培地を収容して細菌を培養する細菌培養容器において、
連通部分を残して内部を仕切るように合成樹脂フィルム同士を線状に接着させて、細菌の増殖に伴って培地で発生したガスを溜めるガストラッパを一体的に形設し、半透明ないし透明の合成樹脂フィルムを通して前記ガストラッパに溜まるガスを観察することにより細菌の存否を確認することを特徴とする細菌培養容器。
【請求項2】
一側辺から底辺側へ傾斜するように合成樹脂フィルム同士を直線状に接着させ、前記一側辺と直線状接着部とで囲まれる部分がガストラッパとされる請求項1に記載の細菌培養容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−125036(P2007−125036A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1220(P2007−1220)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【分割の表示】特願平8−119633の分割
【原出願日】平成8年4月16日(1996.4.16)
【出願人】(591237641)株式会社日研生物医学研究所 (10)
【Fターム(参考)】