説明

細菌検査システム

【課題】質量分析装置を用いて同定検査を行うコロニーと薬剤感受性検査用のコロニーとを同一のコロニーとする場合に、質量分析装置による分析に用いる試料に培地成分が混入することを防止する。また、複数のコロニーを渡り歩いて釣菌する場合、異種コロニーのコンタミネーションの影響がないようにする。
【解決手段】細菌のコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させて採取する質量分析用釣菌部201と、質量分析用釣菌部201に液出口を有する液流路203とを含み、質量分析用コロニー片を液出口から流出する脱離用液によって脱離可能とし、質量分析用釣菌部201にコロニーの高さを検知するためのセンサを設けた釣菌ツールを用いる。また、質量分析用釣菌部201による質量分析用コロニー片の採取を行った後で薬剤感受性検査用釣菌部202による薬剤感受性検査用コロニー片の採取を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症治療において起炎菌を同定するとともに、抗生剤に対する感受性を迅速に測定し、一刻も早く効果のある薬剤を決定して治療方針を立てることは、適正な抗菌薬治療のために重要である。
【0003】
通常は、提出された検体を培地に塗布し、数時間から一晩培養し、まず、コロニーを形成させる。次に、形成されたコロニーを釣菌して生理食塩水などに浮遊させ、同定し、薬剤感受性検査で共通となる菌懸濁液を調製する。次に、調製した菌液を同定・薬剤感受性検査装置の測定用デバイスに接種し、装置内で菌を培養しながらその発育状態をモニタリングすることにより、菌種同定および薬剤に対する感受性を検査する方法を取っている。
【0004】
しかし、この手法では、装置内での測定に培養を伴うため、検体採取から検査結果報告までに3日以上の時間を要するのが現状である。
【0005】
こうした中で、最近、質量分析装置(MS)により菌体のリボソームタンパクを測定し、タンパクの質量を基に微生物を分類すること、直接DNAの核酸質量比から微生物を分類することなどを原理とする菌種同定が試みられるようになった。これは、コロニー生成をし、釣菌した後、おおよそ1時間以内で分析可能であり、細菌によって属や種まで識別できるとして、徐々に臨床現場で使用されつつある。
【0006】
一方、細菌の薬剤に対する感受性検査については、質量分析装置で検査できないため、従来どおり所定薬剤を含有する培地で細菌を培養し、菌発育に伴う濁りを測定することにより薬剤感受性検査を実施している。
【0007】
このように、同定検査及び薬剤感受性検査を別々の装置で実施する場合に問題となるのが使用するコロニーである。すなわち、上記の2つの検査においては、同じコロニーを使用して質量分析計で同定検査をし、薬剤感受性測定装置で感受性検査をしなければならない、という点である。
【0008】
質量分析計における同定検査に必要とする菌体の量は、10CFU以上あればよいと言われており、1μLにも満たない。ここで、CFUは、コロニー形成単位である。
【0009】
一方、薬剤感受性検査においては、供試する菌体量により検査結果が異なってしまうため、菌濃度を正確に所定量に調整する必要がある。しかも、多くの場合、所定の菌量を得るために複数個のコロニーが必要であり、シャーレ上に生育した複数のコロニーを釣菌ツールが渡り歩いて釣菌する必要がある。釣菌するコロニーの種類は同一でなければならないが、臨床検体においては1つのシャーレ上に複数種類のコロニーが生育しているのが普通である。この中から同一種類のコロニーを選択するにあたっては、検査技師に高い技術が要求されている。ここで、もし誤って異種のコロニーを選択すると、菌種が混ざり、同定検査及び薬剤感受性検査ともに誤った結果を得ることになり、臨床側に結果報告ができなくなる。
【0010】
また、質量分析計による分析は、培地成分の影響を受けやすい。すなわち、培地に含まれる成分が細菌同様にイオン化されるため、細菌の分析に影響が出る。このため、培地に接触しないようにコロニーの表面のみを釣菌しなければならず、細心の注意を必要とする。
【0011】
これに対して、薬剤感受性検査装置においては、先に述べたように一定の菌量を確保するために培地上の1個のコロニーのほぼ全体丸ごとを釣菌する。したがって、培地に接触している部分の菌体や、培地も多少一緒に採取しているのが現状である。しかし、薬剤感受性検査においては、測定原理上の感度が十分であり、生化学反応に影響しなければ、一部の選択培地の場合を除いて培地への接触が問題になることは少ない。
【0012】
また、質量分析計による同定検査は、前処理を含めても1時間以内、MS分析のみでは1分もかからない。これに対して、薬剤感受性検査装置は、薬剤を含む液体培地で細菌を培養してモニタリングするため、数時間から一晩を要する。
【0013】
臨床には、同定結果及び薬剤感受性結果を同じタイミングで報告する必要があり、バランスが悪い状況となっている。
【0014】
特許文献1には、ファージに基づく微生物同定プロセスを質量分析で実施し、続いて抗生物質耐性試験または抗生物質感受性試験を実施する方法が開示されている。
【0015】
また、特許文献2及び3には、コロニートランスファー装置として、シャーレ内の細菌コロニーをテレビカメラで撮像し、モニタに映し出された画像を検査技師が目視にて確認し、釣菌するコロニーについてコロニーのサイズなどの選択条件を入力、あるいは排除すべきコロニーを指示すると、それに従って釣菌すべきコロニーを自動的に新しい培地に移植する方法が開示されている。
【0016】
1回あたりの釣菌量を一定にする従来技術としては、一定量を釣菌してあらかじめ準備された一定量の生理食塩水ボトル中に浮遊させることにより所定濃度の菌液を得ることにできる簡易キットが商用化されている。
【0017】
例えば、特許文献4には、簡単な溝付きの棒体を用いて菌量を一定量採取する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表2009−508490号公報
【特許文献2】特開昭58−201976号公報
【特許文献3】特公昭62−25348号公報
【特許文献4】特許第2994675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、質量分析装置を用いて同定検査を行うコロニーと薬剤感受性検査用のコロニーとを同一のコロニーとする場合に、質量分析装置による分析に用いる試料に培地成分が混入することを防止することにある。
【0020】
また、本発明の目的は、複数のコロニーを渡り歩いて釣菌する場合、異種コロニーのコンタミネーションの影響がないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の釣菌ツールは、細菌のコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させて採取する質量分析用釣菌部と、前記質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含み、前記質量分析用コロニー片を前記液出口から流出する脱離用液によって脱離可能とし、前記質量分析用釣菌部は、前記コロニーの高さを検知するためのセンサを有することを特徴とする。
【0022】
本発明の試料準備装置は、細菌のコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させて採取する質量分析用釣菌部と、前記コロニーに接触して薬剤感受性検査用コロニー片を付着させて採取する薬剤感受性検査用釣菌部と、少なくとも前記質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含む釣菌ツールを備え、前記質量分析用コロニー片は、前記液出口から流出する脱離用液によって脱離可能とし、前記質量分析用釣菌部は、前記コロニーの高さを検知するためのセンサを有し、前記質量分析用釣菌部による前記質量分析用コロニー片の採取を行った後で前記薬剤感受性検査用釣菌部による前記薬剤感受性検査用コロニー片の採取を行うように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、質量分析用釣菌部がコロニーに接触した後の移動距離を制御することができるため、質量分析用釣菌部をコロニーの下方にある培地に接触しないようにすることができ、質量分析における培地成分によるコンタミネーションを防止することができる。
【0024】
また、発明によれば、複数のコロニーを渡り歩いて釣菌する場合、異種コロニーのコンタミネーションの影響がないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例の細菌検査システムを示す概略構成図である。
【図2】実施例の共通釣菌ツールを示す概略構成図である。
【図3】実施例の静電容量方式の釣菌ツール(静電容量センサ)によりコロニーを検知する際の電位差の変化を示すグラフである。
【図4】撮像モニタ画面におけるシャーレ画像の実施例を示す模式図である。
【図5】実施例のコロニー撮像部兼コロニー釣菌部を示す概略斜視図である。
【図6】実施例の質量分析用試料作製部を示す概略斜視図である。
【図7】実施例の質量分析装置を示す概略構成図である。
【図8】実施例の薬剤感受性試料作製部を示す概略構成図である。
【図9】実施例の静電容量方式の釣菌ツールの電気配線を含む構成を示す概略側面図である。
【図10】MSターゲットプレートを格納するカセットラックの実施例を示す概略正面図である。
【図11A】実施例の釣菌ツールを示す側面図である。
【図11B】実施例の釣菌ツールを示す側面図である。
【図12】実施例の細菌検査システムを示すブロック図である。
【図13】実施例の共通釣菌ツールを示す詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、細菌の同定・薬剤感受性検査を実施する細菌検査システム及び細菌検査方法に係り、特に、細菌の同定を行う質量分析装置(MS)と、細菌の薬剤感受性検査を行う装置と、細菌のコロニーを釣菌する釣菌装置とを備えた細菌同定感受性検査システムに関するものである。
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る釣菌ツール、これを用いた試料準備装置及びこれを用いた細菌検査システム、並びに試料作製方法及びこれを用いた細菌検査方法について説明する。
【0028】
前記釣菌ツールは、細菌のコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させて採取する質量分析用釣菌部と、質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含み、質量分析用釣菌部に付着した質量分析用コロニー片を液出口から流出する脱離用液によって脱離可能とし、質量分析用釣菌部は、コロニーの高さを検知するためのセンサを有する。
【0029】
前記釣菌ツールにおいて、質量分析用釣菌部は、先端に向かって細くなっていることが望ましい。
【0030】
前記釣菌ツールにおいて、センサは、静電容量センサであることが望ましい。
【0031】
前記釣菌ツールにおいて、センサは、超音波センサ、導電センサ又は圧力センサであってもよい。
【0032】
前記釣菌ツールは、さらに、コロニーに接触して薬剤感受性検査用コロニー片を付着させて採取する薬剤感受性検査用釣菌部を含み、一端に質量分析用釣菌部を設け、他端に薬剤感受性検査用釣菌部を設け、質量分析用釣菌部又は薬剤感受性検査用釣菌部の先端部を鉛直方向下向きにするために全体を回転可能としている。
【0033】
前記試料準備装置は、前記釣菌ツールを含むコロニー釣菌部と、コロニーを撮像する撮像部と、質量分析用コロニー片に含まれる細菌の同定を行うための同定用試料を作製する同定用試料作製部と、薬剤感受性検査用釣菌部に付着した薬剤感受性検査用コロニー片を分散用液に分散させる菌液調製部とを含む。
【0034】
前記試料準備装置は、細菌のコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させて採取する質量分析用釣菌部と、コロニーに接触して薬剤感受性検査用コロニー片を付着させて採取する薬剤感受性検査用釣菌部と、少なくとも質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含む釣菌ツールを備え、質量分析用コロニー片は、液出口から流出する脱離用液によって脱離可能とし、質量分析用釣菌部は、コロニーの高さを検知するためのセンサを有し、質量分析用釣菌部による質量分析用コロニー片の採取を行った後で薬剤感受性検査用釣菌部による薬剤感受性検査用コロニー片の採取を行うように構成してある。
【0035】
前記釣菌ツールは、質量分析用釣菌部及び薬剤感受性検査用釣菌部を一体化した構成を有することが望ましい。
【0036】
前記釣菌ツールは、質量分析用釣菌部又は薬剤感受性検査用釣菌部の先端部を鉛直方向下向きにするために回転可能とした構成を有することが望ましい。
【0037】
前記試料準備装置は、さらに、コロニーを撮像する撮像部と、質量分析用コロニー片に含まれる細菌の同定を行うための同定用試料を作製する同定用試料作製部と、薬剤感受性検査用釣菌部に付着した薬剤感受性検査用コロニー片を分散用液に分散させる菌液調製部とを備えている。
【0038】
前記試料準備装置は、さらに、同定用試料作製部と菌液調製部との間に、前記釣菌ツールを保管するための釣菌ツール貯蔵部を設けている。
【0039】
前記試料準備装置は、さらに、同定用試料を保管するための同定用試料貯蔵部を含む。
【0040】
前記試料準備装置は、さらに、コロニー釣菌部に送るコロニー容器を保管するためのコロニー容器貯蔵部を含む。
【0041】
前記細菌検査システムは、前記試料準備装置と、質量分析用コロニー片に含まれる細菌の同定を行う質量分析部と、細菌の薬剤感受性検査を行う薬剤感受性検査部とを含む。
【0042】
前記細菌検査システムは、同定用試料作製部と質量分析部との間に、同定用試料貯蔵部を設けている。
【0043】
前記試料作製方法は、細菌のコロニーの高さを検知するためのセンサを有しコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させる質量分析用釣菌部と、質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含む釣菌ツールを用いる方法であって、コロニー容器に生育したコロニーを撮像し、コロニーを認識し、釣菌すべきコロニーを判別(弁別)し、センサによりコロニーの高さを検知し、質量分析用釣菌部により質量分析用コロニー片を採取し、質量分析用コロニー片を液出口から流出する脱離用液によって脱離し、質量分析用コロニー片から同定用試料を作製する工程を含む。
【0044】
前記試料作製方法において、前記釣菌ツールは、さらに、細菌のコロニーに接触して薬剤感受性検査用コロニー片を付着させて採取する薬剤感受性検査用釣菌部を含み、質量分析用釣菌部による質量分析用コロニー片の採取を行った後で、薬剤感受性検査用釣菌部により薬剤感受性検査用に採取した薬剤感受性検査用コロニー片を分散用液に分散させて菌液を調製する工程を含む。
【0045】
前記細菌検査方法は、前記試料作製方法を用いて同定用試料を作製し、同定用試料の質量分析を行う工程と、薬剤感受性検査を行う工程とを含む。
【0046】
前記細菌検査方法は、同定用試料を作製し、質量分析を行った後、菌液を調製する。
【0047】
以下、実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0048】
図1は、細菌検査システムの構成の一例を示したものである。
【0049】
101はシャーレ供給スタッカ、102はコロニー撮像部兼コロニー釣菌部、103は画像処理部、104は質量分析用試料作製部、105は釣菌ツール待機用バッファ部(釣菌ツール貯蔵部)、106は質量分析装置(質量分析部)、107は薬剤感受性検査用菌液調製部(菌液調製部)、108は薬剤感受性検査装置(薬剤感受性検査部)、109は、使用済みのシャーレを貯蔵する排出スタッカである。
【0050】
コロニーが生育したシャーレ(コロニー容器)は、シャーレ供給スタッカ101(コロニー容器貯蔵部)にセットされ、搬送手段110(搬送部)によってコロニー撮像部兼コロニー釣菌部102に搬送される。
【0051】
図12は、実施例の細菌検査システムを示すブロック図である。
【0052】
コロニー撮像部兼コロニー釣菌部102においては、釣菌ツールを用いてシャーレのコロニーから対象とする細菌を釣菌する。釣菌ツールは、質量分析用試料作製部104に搬送され、質量分析用試料(後述のMSターゲットプレート)が作製される。
【0053】
質量分析用試料は、質量分析装置106に搬送され、細菌が同定される。
【0054】
釣菌ツールは、薬剤感受性検査用菌液調製部107に搬送され、薬剤感受性検査用菌液が調製される。この菌液は、薬剤感受性検査装置108に搬送され、薬剤感受性検査に供される。
【0055】
質量分析の結果が得られるまでの間、釣菌ツールを質量分析用試料作製部104から釣菌ツール待機用バッファ部105に搬送して保管してもよい。
【0056】
釣菌ツールは、コロニー撮像部兼コロニー釣菌部102で釣菌を行った後、直接、薬剤感受性検査用菌液調製部107に搬送してもよい。
【0057】
これらの搬送は、マニピュレータ等で自動的に行われることが望ましいが、検査技師の手作業であってもよい。
【0058】
図5は、図1のコロニー撮像部兼コロニー釣菌部102を拡大して示したものである。
【0059】
シャーレ505は、照明ユニット501(高角照明ユニット)、照明ユニット502(低角照明ユニット)、照明ユニット503(透過照明ユニット)及びカメラ504(撮像部)に対して、撮像に適した所定位置にセットされる。
【0060】
患者から採集した喀痰、尿、膿などの試料は、シャーレ505内の寒天培地に塗布し、分離培養し、コロニー508を形成させておく。陽性判定された血液培養容器中の培養液を一定量採集して新しい培地に接種し、培養後、コロニー508を形成させる場合もある。多くの場合、一晩(12〜18時間程度)の培養でコロニー508を得ることができる。
【0061】
シャーレ505内の寒天培地の表面には、検体から得られた細菌コロニー(コロニー508)が生育している。
【0062】
照明ユニット501、502、503は、それぞれ複数の照明から構成されている。これらは、照明制御ユニット116に接続されており、任意の組み合わせで点灯を行わせることが可能である。シャーレ505上のコロニー508は、カメラ504により撮像される。得られた画像は、図1の画像入力手段117(画像入力部)に転送される。
【0063】
図1において、画像処理手段118(画像処理部)は、画像入力手段117に転送された画像データを処理して細菌コロニーの領域を抽出し、また、各抽出コロニーより画像処理手段118を用いて画像特徴量を算出する。画像特徴量は、例えば、コロニー領域の周囲長、面積、色情報、明度情報、背景明度との差分等である。
【0064】
119は二次記録装置(二次記録部)であり、撮影した画像、処理した画像、コロニー位置及び面積等のデータを格納することができる。さらに、画像処理手段118は、得られた特徴量を分析し、二次記録装置119に格納された過去のデータベースをもとにシャーレ505上の複数種のコロニーのグルーピングを行う。
【0065】
取り込まれた画像情報は、モニタ120に映し出され、検査技師によって釣菌すべきコロニーが複数個選択・決定される。あらかじめデータベースに格納しておいた情報を元に自動で釣菌すべきコロニーを選択するようにしてもよい。
【0066】
決定した情報は、コロニーの位置とともにコロニー撮像部兼コロニー釣菌部102に伝達される。釣菌制御機構121(釣菌制御部)によりシャーレ505を載せているステージ506を制御し、シャーレ505における釣菌すべきコロニーの座標に釣菌ツール507を移動し、コロニーをピックアップする流れとなる。
【0067】
図2は、図1の釣菌ツールの概略構成を示したものである。
【0068】
釣菌ツール507は、質量分析計用の釣菌及び薬剤感受性検査装置用の釣菌を1本の釣菌ツールで行うためのものであり、釣菌ツール507の両端部には、質量分析用釣菌部201及び薬剤感受性検査用釣菌部202が設けてある。それぞれの釣菌部(質量分析用釣菌部201及び薬剤感受性検査用釣菌部202)は、釣菌ツール507の釣菌ツール支持部205を軸として回転させるにより両サイドが使用可能となるように制御される。釣菌ツール支持部205は、回転軸支持部206に支持され、釣菌ツール507による釣菌を行うために鉛直方向に移動可能となっている。
【0069】
質量分析用釣菌部201は、コロニーの僅かな量を釣菌すればよい。しかも、質量分析用釣菌部201は、培地に接触しないように釣菌する必要があるため、質量分析用釣菌部201の先端部を細くしてある。本図においては、質量分析用釣菌部201は、テーパ状になっている(先端に向かって細くなっている)。
【0070】
また、釣菌ツール507は、培地への接触を回避するため、釣菌ツール507がコロニー表面に触れたことを検知し、コロニー内において釣菌ツール507が一定距離以上に降下しないように制御するコロニー検知機構135(コロニー検知部)に接続されている。
【0071】
本実施例の釣菌ツール507は、質量分析用釣菌部201及び薬剤感受性検査用釣菌部202を1本にまとめたものであるが、質量分析用釣菌部201及び薬剤感受性検査用釣菌部202を2本に分けて別々のツールとしてもよい。この場合も、別々のツールを用いて同じコロニーを釣菌するように制御する。
【0072】
本実施例においては、コロニーを検知する方式として静電容量方式を用いている。
【0073】
すなわち、質量分析用釣菌部201の先端部にカーボン等の導電性材料を付設して静電容量センサとし、図5のステージ506をアースと接続している。そして、質量分析用釣菌部201の先端部とステージ506との電位差を測定するものである。
【0074】
あらかじめ二次記録装置119に格納したコロニーの位置及び面積等のデータに基づいて釣菌ツール507をコロニーの上方に移動し、釣菌ツール507を空気中において移動(下降)し、コロニーに接触した時点で起こる電位差の変化から、コロニーまでの距離情報を検知する。
【0075】
静電容量方式は、血液自動分析装置の試料や、試薬の採取に液面検知の原理として広く用いられている方法である。釣菌ツール507には、導電性のディスポーザブルチップを使用してもよい。
【0076】
図9は、静電容量方式の釣菌ツールの電気配線を含む構成を示したものである。
【0077】
質量分析用釣菌部201の先端部は、カーボン等の導電性材料を付設してセンサとしてあり、ステージ905はアース906に接続してある。そして、質量分析用釣菌部201の先端部及びステージ905は、電位差測定部901に接続されている。電位差測定部901においては、質量分析用釣菌部201の先端部とステージ905との電位差を測定する。
【0078】
ステージ905の上には、シャーレ903を載せ、質量分析用釣菌部201を下向きにして支持部907に支持された釣菌ツール507を、対象とするコロニー904の上方から駆動部902により下降させるようになっている。
【0079】
図13は、実施例の共通釣菌ツールを示す詳細図である。
【0080】
本図においては、釣菌ツール507が回転軸1302に支持され、回転軸1302が支持部1301に支持された状態を示している。
【0081】
釣菌ツール507の内部には、液流路1305及び1306が設けてあり、それぞれ、質量分析用釣菌部1303及び薬剤感受性検査用釣菌部1304に液出口を有している。また、液流路1305及び1306はそれぞれ、回転軸1302の内部に設けられた液流路1309及び1310に接続されている。液流路1309及び1310はそれぞれ、柔軟性を有する配管1311及び1312に接続されている。釣菌ツール507は、回転軸1302に着脱可能となっている。
【0082】
この構成により、質量分析用釣菌部1303及び薬剤感受性検査用釣菌部1304に個別に脱離用液を送ることができる。液出口から脱離用液を流出させることにより、質量分析用釣菌部1303及び薬剤感受性検査用釣菌部1304に付着したコロニー片を脱離させることができるようになっている。また、配管1311及び1312が柔軟であり、配管1311及び1312の長さに余裕を持たせることができるため、回転軸1302の回転を阻害することがない。
【0083】
また、質量分析用釣菌部1303は、カーボン等で構成又は被覆されている。質量分析用釣菌部1303の導電性材料は、導線1308に接続されている。導線1308は、回転軸1302及び支持部1301に設けられた導線(図示せず。)と電気的に接続され、質量分析用釣菌部1303の導電性材料がセンサとして機能するようになっている。
【0084】
図3は、上述の静電容量方式によりコロニーの上端部位置、すなわち接触を検知した例を示したものである。
【0085】
横軸は、釣菌ツールのセンサがコロニーに接触した点(接触点)をゼロとし、センサがコロニーに接触する前の釣菌ツールの移動(下降)距離をマイナスで表し、センサがコロニーに接触した後、釣菌ツールがコロニーの内部に進入した距離(移動距離)をプラスで表している。すなわち、センサが接触点に接近するほど横軸の距離の絶対値が小さくなる。
【0086】
縦軸は、釣菌ツールが移動する際の各ポイントにおける電位差を示している。
【0087】
本図から、釣菌ツールがコロニーに接触した後、急激に電位差の変化が生じており、ここを起点にコロニー内に進入したと考えればよいことがわかる。
【0088】
この情報をもとに釣菌ツールが培地に接触することなく下降できる距離(進入距離)を算出し、図1の釣菌制御機構121(釣菌制御部)により釣菌ツールの進入を制御することができる。
【0089】
また、コロニーは、半球状とは限らず、菌種によって盛り上がりの形状が異なる。このため、釣菌ツールの進入距離(突っ込み深さ)を簡易的に決定する方法として、次のことも考えられる。
【0090】
分解能は低くなるが、コロニーのサイズ及び厚さ、又は直径に対する高さのアスペクト比を使用し、撮像した各コロニー画像の直径からコロニーに接触した後の進入距離を推測して制御してもよい。
【0091】
また、図3は、大腸菌(E.coli)の例であるが、検知される電位差の値は、コロニーの個体差はあるものの、菌種に由来する大きな差はない。
【0092】
培地からのコロニーの上端部位置(高さ)情報の検知は、これに限らず、超音波センサ、導電センサ、圧力センサなどを用いてもよい。
【0093】
ここで、超音波センサは、超音波が発信されてから、コロニーに反射して受信されるまでの時間を測定することにより、超音波センサとコロニーとの距離を検出するものである。導電センサは、離れた2か所に端子を有し、これらの端子がコロニーに接触した場合に端子間の抵抗値が変化する現象を利用するものである。圧力センサは、圧電素子を利用して接触を検知するものである。
【0094】
これらの方式は、釣菌ツールがコロニーに接触した後、培地に接触しないように釣菌ツールの移動(下降)距離を制御できるものならばいずれでもよい。
【0095】
一方、薬剤感受性検査用釣菌部202は、一度にできるだけ多くの菌を釣菌することが望ましいため、その内部に菌体を取り込めるように、多孔質の柔軟な材質、例えばスポンジ状のもの、発泡ウレタンなどを使用する。
【0096】
また、薬剤感受性装置用の釣菌においては、薬剤感受性検査における培地成分の混入の影響が少ないことから、培地の小片が混入しないように注意すればよく、釣菌ツールの下降制御は、質量分析用釣菌の際のように精密でなくてもよい。
【0097】
図4は、図1のモニタ120に表示されたシャーレ画像を用いたコロニーグルーピングの結果の例を示したものである。
【0098】
本図においては、複数種類のコロニーが生育している中から、検査技師が菌のコロニーグループA(303)を選択し、それに属するコロニーA−1(306)、A−2(307)、A−3(308)及びA−4(309)を選択した場合を示している。このほか、このシャーレには、コロニーグループB(304)及びコロニーグループC(305)が存在することがわかる。
【0099】
初めに、質量分析用にコロニーを釣菌し、その後、薬剤感受性検査用に釣菌することが望ましい。これは、質量分析装置による分析に用いる試料(同定用試料)に培地成分が混入することを防止するためであり、薬剤感受性検査用に複数のコロニーを渡り歩いて釣菌する場合、異種コロニーのコンタミネーションの影響がないようにするためである。
【0100】
すなわち、初めに、釣菌ツール507を回転し、質量分析用釣菌部201を下に向けてコロニーグループAの一つのコロニーA−1(306)を釣菌する。
【0101】
次に、釣菌ツール507を回転し、薬剤感受性検査用釣菌部202を下に向け、同じコロニーA−1(306)を釣菌する。上述のように、所定濃度の菌液を作製するためにはコロニー1個では少ないため、同じ種類のコロニーA−2(307)、A−3(308)も同じ釣菌ツール507で続けて釣菌する。薬剤感受性検査用釣菌部202は、十分な量のコロニーを取り込むためにコロニー全体に発泡体を押し付けてスタンプするように釣菌する。そのため、釣菌後には培地に接触した痕跡が残る場合がある。当然、そのような場合には培地成分が薬剤感受性検査用釣菌部202に付着し、測定系に持ち込まれる可能性もある。しかし、一部の選択培地の使用を除けば、薬剤感受性検査には影響しない。
【0102】
また、質量分析には、極微量の培地成分でも影響するが、未接触のコロニーを質量分析用に先に採取しているため、測定への影響は回避することができる。
【0103】
グルーピングされたコロニーに誤りがあり、異種の細菌が混在していた場合は、感受性測定用釣菌部による連続採取で、コロニー上でコンタミネーションが起こる可能性がある。しかし、質量分析用釣菌を先に実施することにより、同定結果への影響を回避できる。
【0104】
釣菌ツール507は、液流路203を有し、脱イオン水、純水などの液204(脱離用液)がこの液流路203に導入されるようになっている。このため、釣菌した後のコロニーが乾燥することなく、また、菌液調製時に液204とともに押し出す構造になっており、釣菌した細菌を効率よく放菌することができる。ここでの液204は、質量分析及び薬剤感受性検査の両方に影響のない純水、脱イオン水など、イオン化に影響しないものでなければならない。また、液204は無菌でなければならない。
【0105】
釣菌が終わった後の釣菌ツール507は、図1の質量分析用試料作製部104に移動する。
【0106】
図6は、図1の質量分析用試料作製部104の内部を拡大して示したものである。
【0107】
質量分析用試料作製部104には、MSターゲットプレート601(質量分析用プレート)、MSマトリックス試薬602及びMSマトリックス試薬603が含まれている。そして、これらは、図1に示すマトリックス試薬添加機構126(マトリックス試薬添加制御部)に接続されている。マトリックス試薬添加機構126においては、以下の制御を行う。
【0108】
釣菌された細菌(コロニー片)は、MSターゲットプレート601の所定位置に水に懸濁された状態で1μL分スポットされる。その後、イオン化するためのMSマトリックス試薬602(例えばHCCA)を1μL添加し、続いてMSマトリックス試薬603(例えばDHB)を1μL添加する。細菌とMSマトリックス試薬602、603とがよく混合されるように攪拌した後、10分間自然乾燥して質量分析用サンプルとする。なお、MSマトリックス試薬の数及び種類は一例であり、これに限ったものではない。
【0109】
図10は、MSターゲットプレートを格納して保存するためのカセットラックを示す正面図である。
【0110】
本図に示すように、上記のMSターゲットプレート1002(質量分析用サンプル)は、カセットラック1001(サンプルストッカ又は同定用試料貯蔵部とも呼ぶ。)に搬送され、棚板1003の上に保存されるようにしてもよい。この搬送は、検査技師による手作業でもよいし、マニピュレータ等により自動化されたものでもよい。
【0111】
そして、MSターゲットプレート1002は、適宜、質量分析装置106にセットされ、同定試験に供される。また、MSターゲットプレート1002は、マニピュレータ等を用いて自動的に質量分析装置106にセットしてもよいし、検査技師が手作業で質量分析装置106にセットしてもよい。
【0112】
図7は、質量分析装置の概略構成を示したものである。
【0113】
質量分析装置106は、イオン源701、質量分析部702及びMSデータ処理部703を含む構成である。
【0114】
上記の質量分析用サンプルを含むMSターゲットプレート601は、イオン源701と質量分析部702との間にセットするようになっている。
【0115】
質量分析用サンプルは、イオン源701によりイオン化され、質量分析部702に導入され、検知され、MSデータ処理部703でタンパクの質量を示すMSスペクトルを解析して細菌の菌種を同定する。質量分析は、1〜数分で終了し、データが出力される。
【0116】
一方、釣菌ツール507は、MSターゲットプレート601の所定位置にスポットした後、釣菌ツール待機用バッファ部105に移動し、質量分析装置による同定検査の結果が出るまで待機させる。
【0117】
質量分析の結果により、薬剤感受性検査が必要であると判断されると、その結果がシステム全体を制御する全体制御部129により図1に示す搬送部130に伝えられ、釣菌ツール507が薬剤感受性検査用菌液調製部107に搬送される。
【0118】
図8は、図1の薬剤感受性検査用菌液調製部107を拡大して示したものである。
【0119】
薬剤感受性検査用菌液調製部107においては、その菌種に必要な菌濃度になるように菌液を調製する。
【0120】
釣菌ツール507の薬剤感受性検査用釣菌部202に保存した菌体は、液流路203の脱離用液とともに試験管801に押し出され、試験管801中の生理食塩水または純水(希釈液又は分散用液)に懸濁される。光源804からの光を試験管801に当てて濁度計802により懸濁した菌液の濁度を測定し、必要な希釈液量を算出する。濁度が高い場合は、希釈液803(生理食塩水または純水)を添加し、再度、濁度を確認する。所定の濁度であれば、試験管801を薬剤感受性検査装置108に搬送する。
【0121】
同定結果を先に得ることにより、既に投薬している薬剤の種類変更や感受性検査薬剤の方針を立てることができる。菌種と抗生物質(抗生剤)との組み合わせによっては、全く効果のない抗生物質が存在するからである。
【0122】
同定結果を反映させて選択したいくつかの薬剤カードや薬剤プレートに菌液を添加(接種)し、薬剤感受性検査装置108で測定が行われる。結果は、半日から18時間後に出力される。同定の結果、病状に起因しない常在菌であるなど、薬剤感受性検査が必要ない場合には、図1の釣菌ツール待機用バッファ部105内に待機させた細菌を保持した釣菌ツール507を廃棄処理する。
【0123】
質量分析の結果が出るまでの待機は、釣菌ツール507のまま釣菌ツール待機用バッファ部105で待機でなく、試験管801に洗い出された後の濃菌液状態でもよく、また、所定の菌液濃度まで調整された後でもよい。さらに、釣菌ツール507は、質量分析の結果を待たずに、釣菌ツール待機用バッファ部105をスキップして搬送ライン133により同定検査に進む同じタイミングで薬剤感受性検査に進んでもよい。釣菌ツール待機用バッファ部105の位置が後工程(下流)になるほど、同定の結果として薬剤感受性を必要としない場合における試薬、消耗品、作業時間、感受性検査カード準備などのロスが大きくなる。
【0124】
薬剤感受性検査の結果は、数時間〜18時間後に出る。そして、この結果は、上記の同定結果とともに臨床のドクターに報告され、治療方針の情報となる。
【0125】
本実施例においては、質量分析装置用に釣菌したコロニーと、薬剤感受性測定用釣菌したコロニーが同一であり、さらに、シャーレのどのコロニーを選択したかが、画像情報付きでエビデンスとして保存されるため、細菌同定・薬剤検査結果のトレーサビリティの観点からも有用である。
【実施例2】
【0126】
実施例1と同様にシャーレを撮像し、画像処理によりコロニーをグループ分けする。
【0127】
釣菌対象コロニーの選択は、検査技師が画像を見て行う。ここで、釣菌制御機構により指示を出し、質量分析用のみ釣菌する。
【0128】
使用したシャーレは、シャーレ待機用バッファ部(図示せず。シャーレ供給スタッカ101と兼用でもよい。)に保存し、待機させる。
【0129】
ここで、次のように場合分けして説明する。
【0130】
(1)質量分析による同定検査の結果、再度、質量分析用に釣菌しなおす場合、シャーレ上のコロニーの撮影は既に済んでいるため、その画像を使用してコロニーを選択しなおす。シャーレを釣菌ステージに載せなおすため、対象となるコロニーの位置出しのために撮影が必要となる。
【0131】
(2)質量分析による同定検査の結果、質量分析用に釣菌したコロニーから感受性検査用に釣菌する場合、選択すべきコロニーは、質量分析用と同じものであり、コロニー情報は既にある。シャーレを釣菌ステージに載せなおすため、対象となるコロニーの位置出しのために撮影が必要となる。
【0132】
(3)質量分析による同定検査の結果、質量分析用に釣菌したコロニーとは別のグループのコロニーを感受性検査用に選択すべきとなった場合、シャーレ上のコロニーの撮影は既に済んでいる。その画像をもとに新たなグループのコロニーを選択しなおし、コロニーの位置情報を釣菌制御部に送る。シャーレを釣菌ステージに載せなおすため、対象となるコロニーの位置出しのために撮影が必要となる。
【0133】
(4)上記(1)及び(3)を組み合わせる場合であって、質量分析による同定検査の結果、予定していたコロニーと別の種類のコロニーを感受性検査用に選択すべきとなった場合、すなわち、同定したいコロニーの候補が2種以上ある場合は、次のように運用する。
【0134】
質量分析は測定時間が短いため、複数種のコロニーを質量分析で確認したい場面においては、1回目の撮像および釣菌ステップで複数種を一度にターゲットプレートの別の箇所に塗りつけ、質量分析部に導入する。したがって、同定検査の結果を見て再度質量分析用に釣菌しなおすことはしない。
【0135】
この場合、感受性検査用に適切な方のコロニー種を選択し、コロニーの位置情報を釣菌制御部に送る。シャーレを釣菌ステージに載せなおすため、対象となるコロニーの位置出しのために撮影が必要となる。
【0136】
処理時間に余裕がある場合は、コロニー撮像部兼コロニー釣菌部102は1台で済む。質量分析と感受性検査とで釣菌を2回に分け、シャーレを動かしてしまう場合は、2回目の位置出しのために撮影が必要となる。
【0137】
実施例1においては、質量分析用の釣菌及び感受性検査用の釣菌を一度に済ませてしまうため、位置出しが不要であり、カメラによる撮影は1回で済む。
【0138】
処理時間に余裕がない場合は、カメラ及び釣菌ツールが2組設置されていることが望ましい。
【0139】
この場合、質量分析用の釣菌及び感受性検査用の釣菌を同時に実施することができる。
【0140】
カメラ及び釣菌ツールを2組設置した場合について、次の2通りを示す。
【0141】
a)第一のカメラ及び釣菌ツールを用いて質量分析用に撮影及び釣菌を行う。そして、質量分析の結果が出るまでシャーレはステージの上に載せたままにしておく。質量分析の結果が出たら感受性検査用に釣菌する。シャーレを動かさないため、コロニーの位置出しのための2回目の撮影は不要である。
【0142】
b)第一のカメラ及び釣菌ツールを用いて質量分析用に撮影及び釣菌を行う。つぎに、シャーレを第二のカメラ及び釣菌ツールに移動する。
【0143】
質量分析の結果が出次第、第二のカメラ及び釣菌ツールを用いてコロニーの位置出しの撮影をし、感受性検査用の釣菌を行う。第一のカメラ及び釣菌ツールは、2枚目のシャーレの処理を行う。
【0144】
上記a)及びb)によれば、処理能力の向上が可能となる。すなわち、同定用釣菌と感受性検査用釣菌とを並行して行うことができるため、全体的な処理時間の短縮を図ることができる。
【0145】
本発明によれば、同定の結果、別のグループのコロニーを試験すべきとなった場合に、即座に画像処理結果をもとに新たなグループのコロニーを選択し、位置情報とともに釣菌制御機構に送り、釣菌しなおすことができ、効率的に細菌検査を実施することができる。
【実施例3】
【0146】
質量分析装置で同定検査のみ使用の場合には、シャーレ供給スタッカ101、コロニー撮像部兼コロニー釣菌部102、画像処理部103、質量分析用試料作製部104及び質量分析装置106の構成で専用装置としても使用可能である。
【実施例4】
【0147】
同定検査を質量分析計で実施せず、薬剤感受性検査ともに従来の同定・薬剤感受性検査装置で実施する場合には、質量分析用試料作製部104、釣菌ツール待機用バッファ部105及び質量分析装置106を除いた部分の構成でも使用可能である。
【実施例5】
【0148】
図11A及び11Bは、質量分析用の釣菌と薬剤感受性検査用の釣菌とを別々の釣菌ツールを用いて行う場合の釣菌ツールの構成を示したものである。
【0149】
図11Aにおいては、質量分析用釣菌部1102を有する釣菌ツール1101を示し、図11Bにおいては、薬剤感受性検査用釣菌部1103を有する釣菌ツール1101を示す。
【0150】
本実施例においては、釣菌ツール1101を回転させる操作を行うことなく、釣菌操作を行う。
【0151】
本実施例においても、質量分析用釣菌部1102は、カーボン等で構成又は被覆され、静電容量センサとして機能するようになっている。
【0152】
以下、本発明の効果について説明する。
【0153】
本発明によれば、複数のコロニーを渡り歩いて釣菌する場合、異種コロニーのコンタミネーションの影響がないようにすることができる。また、異種コロニーが混ざった場合にこれを検知し、無駄な薬剤感受性検査をしないようにすることができる。
【0154】
また、本発明によれば、同定検査の結果をもとに薬剤感受性検査を開始するように、同定結果を感受性検査に有効に反映させることができる。
【0155】
また、本発明によれば、同定検査及び薬剤感受性検査に使用する釣菌すべきコロニーの情報を提供し、効率よくコロニーを選択し、自動的に釣菌した後、所定濁度の菌液を自動調製することにより、迅速、かつ省力化効果の高い微生物分析装置および方法を提供することができる。
【0156】
本発明によれば、コロニーに対して異なる位置からの光を照射する複数の照明部を使用したコロニー画像からコロニーの種類を弁別し、釣菌対象となるある種類のコロニーを簡単に選択することが可能となる。
【0157】
また、本発明によれば、先に質量分析用にコロニーを釣菌した後、同一の釣菌ツールで薬剤感受性測定用に同じコロニーを釣菌することにより、同定操作及び薬剤感受性測定操作を同じコロニーで試験することができ、コロニー間でのコンタミネーションを回避することができる。
【0158】
さらに、本発明によれば、質量分析用の釣菌を先に行うことにより、質量分析における培地成分によるコンタミネーションを回避することができる。
【0159】
さらに、本発明によれば、質量分析装置による同定検査を先に行い、結果を薬剤感受性検査に反映させることにより、迅速に薬剤感受性検査の方針を立てることができる。
【0160】
本発明によれば、結果として、細菌検査全体の所要時間を短縮し、不必要な検査を削減することができる。
【0161】
本発明によれば、菌体(コロニー片)を乾燥させず、薬剤感受性検査用菌液に分散させることができる。
【符号の説明】
【0162】
101:シャーレ供給スタッカ、102:コロニー撮像部兼コロニー釣菌部、103:画像処理部、104:質量分析用試料作製部、105:釣菌ツール待機用バッファ部、106:質量分析装置、107:薬剤感受性検査用菌液調製部、108:薬剤感受性検査装置、109:排出スタッカ、110:搬送手段、116:照明制御ユニット、117:画像入力手段、118:画像処理手段、119:二次記録装置、120:モニタ、121:釣菌制御機構、126:マトリックス試薬添加機構、129:全体制御部、133:搬送ライン、135:コロニー検知機構、201:質量分析用釣菌部、202:薬剤感受性検査用釣菌部、203:液流路、204:液、205:釣菌ツール支持部、206:回転軸支持部、303:コロニーグループA、304:コロニーグループB、305:コロニーグループC、306:コロニーA−1、307:コロニーA−2、308:コロニーA−3、309:コロニーA−4、501、502、503:照明ユニット、504:カメラ、505:シャーレ、506:ステージ、507:釣菌ツール、601:MSターゲットプレート、602、603:MSマトリックス試薬、701:イオン源、702:質量分析部、703:MSデータ処理部、801:試験管、802:濁度計、803:希釈液、1301:支持部、1302:回転軸、1303:質量分析用釣菌部、1304:薬剤感受性検査用釣菌部、1305、1306:液流路、1308:導線、1309、1310:液流路、1311、1312:配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌のコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させて採取する質量分析用釣菌部と、前記質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含み、前記質量分析用コロニー片を前記液出口から流出する脱離用液によって脱離可能とし、前記質量分析用釣菌部は、前記コロニーの高さを検知するためのセンサを有することを特徴とする釣菌ツール。
【請求項2】
前記質量分析用釣菌部は、先端に向かって細くなっていることを特徴とする請求項1記載の釣菌ツール。
【請求項3】
前記センサは、静電容量センサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の釣菌ツール。
【請求項4】
前記センサは、超音波センサ、導電センサ又は圧力センサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の釣菌ツール。
【請求項5】
さらに、前記コロニーに接触して薬剤感受性検査用コロニー片を付着させて採取する薬剤感受性検査用釣菌部を含み、一端に前記質量分析用釣菌部を設け、他端に前記薬剤感受性検査用釣菌部を設け、前記質量分析用釣菌部又は前記薬剤感受性検査用釣菌部の先端部を鉛直方向下向きにするために回転可能としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の釣菌ツール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の釣菌ツールを含むコロニー釣菌部と、前記コロニーを撮像する撮像部と、前記質量分析用コロニー片に含まれる前記細菌の同定を行うための同定用試料を作製する同定用試料作製部と、前記薬剤感受性検査用釣菌部に付着した前記薬剤感受性検査用コロニー片を分散用液に分散させる菌液調製部とを含むことを特徴とする試料準備装置。
【請求項7】
細菌のコロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させて採取する質量分析用釣菌部と、前記コロニーに接触して薬剤感受性検査用コロニー片を付着させて採取する薬剤感受性検査用釣菌部と、少なくとも前記質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含む釣菌ツールを備え、前記質量分析用コロニー片は、前記液出口から流出する脱離用液によって脱離可能とし、前記質量分析用釣菌部は、前記コロニーの高さを検知するためのセンサを有し、前記質量分析用釣菌部による前記質量分析用コロニー片の採取を行った後で前記薬剤感受性検査用釣菌部による前記薬剤感受性検査用コロニー片の採取を行うように構成したことを特徴とする試料準備装置。
【請求項8】
前記釣菌ツールは、前記質量分析用釣菌部及び前記薬剤感受性検査用釣菌部を一体化した構成を有することを特徴とする請求項7記載の試料準備装置。
【請求項9】
前記釣菌ツールは、前記質量分析用釣菌部又は前記薬剤感受性検査用釣菌部の先端部を鉛直方向下向きにするために回転可能とした構成を有することを特徴とする請求項8記載の試料準備装置。
【請求項10】
さらに、前記コロニーを撮像する撮像部と、前記質量分析用コロニー片に含まれる前記細菌の同定を行うための同定用試料を作製する同定用試料作製部と、前記薬剤感受性検査用釣菌部に付着した前記薬剤感受性検査用コロニー片を分散用液に分散させる菌液調製部とを備えたことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の試料準備装置。
【請求項11】
さらに、前記同定用試料作製部と前記菌液調製部との間に、前記釣菌ツールを保管するための釣菌ツール貯蔵部を設けたことを特徴とする請求項6又は10に記載の試料準備装置。
【請求項12】
さらに、前記同定用試料を保管するための同定用試料貯蔵部を含むことを特徴とする請求項6又は11に記載の試料準備装置。
【請求項13】
さらに、前記コロニー釣菌部に送るコロニー容器を保管するためのコロニー容器貯蔵部を含むことを特徴とする請求項6、11又は12に記載の試料準備装置。
【請求項14】
請求項6、11、12又は13に記載の試料準備装置と、前記質量分析用コロニー片に含まれる前記細菌の同定を行う質量分析部と、前記細菌の薬剤感受性検査を行う薬剤感受性検査部とを含むことを特徴とする細菌検査システム。
【請求項15】
前記同定用試料作製部と前記質量分析部との間に、前記同定用試料貯蔵部を設けたことを特徴とする請求項14記載の細菌検査システム。
【請求項16】
細菌のコロニーの高さを検知するためのセンサを有し前記コロニーに接触して質量分析用コロニー片を付着させる質量分析用釣菌部と、前記質量分析用釣菌部に液出口を有する液流路とを含む釣菌ツールを用いる方法であって、コロニー容器に生育した前記コロニーを撮像し、前記コロニーを認識し、前記コロニーを判別し、前記センサにより前記コロニーの高さを検知し、前記質量分析用釣菌部により前記質量分析用コロニー片を採取し、前記質量分析用コロニー片を前記液出口から流出する脱離用液によって脱離し、前記質量分析用コロニー片から同定用試料を作製する工程を含むことを特徴とする試料作製方法。
【請求項17】
前記釣菌ツールは、さらに、前記細菌の前記コロニーに接触して薬剤感受性検査用コロニー片を付着させて採取する薬剤感受性検査用釣菌部を含み、前記質量分析用釣菌部による前記質量分析用コロニー片の採取を行った後で、前記薬剤感受性検査用釣菌部により薬剤感受性検査用に採取した前記薬剤感受性検査用コロニー片を分散用液に分散させて菌液を調製する工程を含むことを特徴とする請求項16記載の試料作製方法。
【請求項18】
前記センサは、静電容量センサであることを特徴とする請求項16又は17に記載の試料作製方法。
【請求項19】
前記センサは、超音波センサ、導電センサ又は圧力センサであることを特徴とする請求項16又は17に記載の試料作製方法。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれか一項に記載の試料作製方法を用いて前記同定用試料を作製し、前記同定用試料の質量分析を行う工程と、薬剤感受性検査を行う工程とを含むことを特徴とする細菌検査方法。
【請求項21】
前記同定用試料を作製し、前記質量分析を行った後、前記菌液を調製することを特徴とする請求項20記載の細菌検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−73197(P2012−73197A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220161(P2010−220161)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】