説明

終止コドンのリードスルーによるポリペプチドアイソフォームの細胞表面提示

本発明は、とりわけ、所望されるレベルの対象とするポリペプチドを発現する真核宿主細胞を生成または選択する方法であって、a)対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを少なくとも含む少なくとも1つのカセット(Cas−POI)を含む異種核酸を含む複数の真核宿主細胞を提供するステップと、b)対象とするポリペプチドの少なくとも一部が免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を含む融合ポリペプチドとして発現されるように、真核宿主細胞を培養して対象とするポリペプチドを発現させるステップであって、前記融合ポリペプチドが前記宿主細胞の表面上に提示されているステップと、c)細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップとを含む方法に関する。それぞれ設計された異種核酸を含む宿主細胞、およびそれぞれの宿主細胞を使用してポリペプチドを産生する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高産生哺乳動物宿主細胞を選択する方法、ならびにそれぞれの方法での使用に適したベクターおよび宿主細胞に関する。さらに、本発明は、高収量でポリペプチドを効率よく産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高産生細胞系統の選択は、どんなバイオプロセスの開発においても重要な第1のステップであり、バイオテクノロジーにおいて最も大きな課題の1つである。1つの問題は、そのような高産生クローンは稀少であり、ポリペプチド産生にそのエネルギーの多くを費やし、それにより増殖速度が低減している可能性がある。このことは、過剰増殖および非または低産生細胞をもたらす。しかし、ポリペプチドの産生において、高収量で対象とするポリペプチドを産生する細胞系統を得ることが望ましい。旧来、高産生細胞系統は、限界希釈クローン化法を何回か行い、その後産物分析を行うことによって選択されていた。しかし、この旧来の経路は、労働力も大きくコストもかかるといったいくつかの欠点がある。その上、プロセス全体に時間がかかり、完了に数ヶ月かかる可能性があり、この場合でもそのクローン細胞系統が安定であり、したがって産業的バイオプロセシングに有用であるという保証はない。さらに、最高の産生体の選択は、それによってスクリーニングされる細胞数の実際的な限界によって障害される可能性があり、このことは、低量の高産生能細胞の選択の効率を潜在的に低減する。
【0003】
したがって、高産生クローンを選択する代替の方法を提供する努力が多数なされている。例えば、フローサイトメトリーは、産生能をモニターし、特定の特徴を有する細胞を単離することを容易にした。フローサイトメトリーの重要な利点には、細胞の部分集団を区別する能力を用いて多数の細胞を迅速にスクリーニングでき、所望される特徴を示す低量の細胞を効率よく選択できることがある。フローサイトメトリーを利用して高産生能細胞を選択する旧来の手法のほとんどは、ハイブリドーマ細胞を選択するために確立された。
【0004】
1つの手法は、蛍光標識抗体の使用を介して同定および回収できる細胞表面抗体の量の増大を示しているハイブリドーマ細胞の細胞表面抗体含量に基づくものである。しかし、定量的な相関は広く立証されていない。
【0005】
細胞の表面抗体選択のいくつかの限界を避ける代替戦略として分泌抗体に基づいて細胞を選択するさらなる手法が開発された。1つの手法はアフィニティーマトリックスを応用する;もう1つはゲル微小液滴技術を使用する。前者の方法は、対象とする分泌産物に特異的な人工のアフィニティーマトリックスの作製に基づくものである。分泌された分子は、分泌細胞の表面上にあるアフィニティーマトリックスと結合し、その後、フローサイトメトリー分析および細胞選別用の特異的蛍光試薬で標識される。
【0006】
微小液滴封入では、アガロースビーズ中に単一細胞を完全に封入する。これらのビーズは特異的捕捉抗体を含有し、したがって分泌産物を同時に捕捉し、 細胞間の産物の交差供給を防ぐ。
【0007】
他の方法は、フローサイトメトリーによって検出可能なマーカー遺伝子の同時発現を利用する。不利な点は、マーカー遺伝子(例えば緑色蛍光タンパク質)の発現と、対象とする遺伝子の発現とのつながりが弱いことである。さらに、マーカー遺伝子が発現すると細胞はさらなるエネルギーを費やし、ストレスを誘導する可能性がある。
【0008】
代替の方法は、膜結合捕捉タンパク質の誘導性の同時発現を利用する。膜結合捕捉タンパク質は、細胞表面に固着し、分泌されたポリペプチドが細胞から放出されるとすぐにそれを捕捉する。次いでその捕捉された分子を細胞の表面上で検出することができる。しかし、遺伝子操作された宿主細胞が必要であり、やはり非産生細胞の交差供給が起こる可能性もある。
【0009】
また、産生細胞を選択するために、細胞膜と一過性に結合した分泌産物も使用されている。しかし、非産生細胞の交差供給が起こり、この方法はかなり高いバックグラウンド活性を有する。さらに、数回の濃縮および選択を行うことが不可能であることが分かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、高産生宿主細胞を選択する技術を開発する必要がある。したがって、本発明の目的は、非産生、低産生および/または中等度産生細胞の大きな集団内で高産生組換え宿主細胞を検出する方法を提供し、高収量でポリペプチドを産生する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、所望されるレベルの対象とするポリペプチドを発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を濃縮または選択する方法であって、
a)対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを少なくとも含む少なくとも1つのカセット(Cas−POI)を含む異種核酸を含む複数の真核宿主細胞を提供するステップと、
b)対象とするポリペプチドの少なくとも一部が免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を含む融合ポリペプチドとして発現されるように、真核宿主細胞を培養して対象とするポリペプチドを発現させるステップであって、前記融合ポリペプチドが前記宿主細胞の表面上に提示されているステップと、
c)細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと
を含む方法を提供することによって、この問題を解決する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「異種核酸」とは、例えば、トランスフェクションなどの組換え技術の使用によって、宿主細胞中に導入されたポリヌクレオチド配列を指す。宿主細胞は、異種ポリヌクレオチドに対応し、または同一である内因性ポリヌクレオチドを含んでもよく、または含まなくてもよい。しかし、特に「異種核酸」という用語は、宿主細胞中に導入された外来ポリヌクレオチドを指す。導入は、例えば、宿主細胞のゲノム中に組み込むことができる適切なベクターをトランスフェクトすることによって実現することができる(安定なトランスフェクション)。異種核酸をゲノム中に挿入しない場合、異種核酸は、後の段階で、例えば細胞が有糸分裂を起こすときに消失してもよい(一過性のトランスフェクション)。どちらのバリアントも適切であるが、安定なトランスフェクションが好ましい。適切なベクターはまた、例えばエピソーム複製によって、ゲノム中に組み込まれずに宿主細胞中で維持され得る。しかし、従来技術において、宿主細胞中に異種核酸を導入する他の技術も知られ、これはまた下記でさらに詳細に説明する。
【0013】
「ポリヌクレオチド」とは、通常デオキシリボースまたはリボースを次々に連結しているヌクレオチドのポリマーであり、場面に応じてDNAならびにRNAを指す。「ポリヌクレオチド」という用語は、どんなサイズの制限も含まない。
【0014】
「カセット」とは、例えば、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)、免疫グロブリン膜貫通アンカーもしくはその機能的変異体をコードするポリヌクレオチド、マーカーをコードするポリヌクレオチド、制御エレメントおよび/または本明細書に記載の他のポリヌクレオチドを含む、互いに作動的に連結した1群のポリヌクレオチドエレメントを示す。本明細書において「カセット」とは、少なくとも2つのポリヌクレオチドエレメントを含む。カセットは、例えば、プロモーター、エンハンサーおよび/またはポリA部位など、ポリヌクレオチドとして制御エレメントを含んでもよく、または含まなくてもよい。一実施形態によれば、カセットは、ポリペプチドを発現させるのに適した「発現カセット」である。発現カセットは、コード領域、例えば対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)と作動的に連結した制御エレメントとして、少なくとも1つの転写開始エレメント、例えばプロモーターを含み、したがってこのコード領域は前記転写開始エレメントの転写調節下にある。発現カセットはまた、例えばポリA部位など、転写終結に適した制御エレメントを含んでもよい。
【0015】
「カセット(Cas−POI)」は、対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを少なくとも含む。好ましくは、カセット(Cas−POI)は発現カセット(Exp−POI)である。
【0016】
「発現カセット(Exp−POI)」とは、対象とするポリペプチド(POI)を発現させるのに適した発現カセットを定義するものである。発現カセットとして、それは少なくとも1つの転写開始エレメントを含む。前記発現カセット(Exp−POI)は、下記でさらに詳細に説明する、使用する本発明の実施形態に応じて、コード領域の一部として対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)を含むか、または対象とするポリペプチドをコードするそれぞれのポリヌクレオチド(Pn−POI)を挿入するのに適した部位を含む。
【0017】
本発明の一般的な概念は、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)と、ポリペプチドと細胞表面の固着を可能にする免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードするポリヌクレオチドとの間に終止コドンを置くことである。「免疫グロブリン膜貫通アンカー」および「免疫グロブリン膜貫通ドメイン」という用語は、本明細書で同義語として使用される。この終止コドンは翻訳終結シグナルを構成しまたはその一部であり、対象とするポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドの天然の終止コドンであってもよく、したがって翻訳を終結するために天然に使用される終止コドンでよい。第1および第2のポリヌクレオチドが転写物に転写され、それが場合によってはプロセシングを受け、その後翻訳されるとき、カセット(Cas−POI)の設計の結果、発現後に2つの異なるポリペプチドが生成される。1つの翻訳変異体によれば、転写物の翻訳は、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)と、免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードするポリヌクレオチドとの間に位置する(少なくとも1つの)終止コドンで中断する。前記終止コドンにおける翻訳の終結の結果、膜貫通アンカーを含まないポリペプチド産物が生じる。第2の翻訳変異体によれば、翻訳は前記少なくとも1つの終止コドンをリードスルーし、それによって、対象とするポリペプチドを含み、融合ポリペプチドを細胞膜に固着させることができる免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体と融合した翻訳産物が生じる。そのような融合ポリペプチドは、含まれている免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的断片を介して細胞表面に移され固定される。カセット(Cas−POI)の発現後、翻訳リードスルーが起こる程度に前記インフレームの終止コドンでの翻訳の終結がある程度「漏出性」であることは、本発明の重要な性質であり、それによって、記載した融合ポリペプチドが生じる。(複数の)終止コドンの選択および数、ならびに終止コドンに隣接する領域、特に終止コドンの後のヌクレオチドだけでなく培養条件によっても影響を受ける可能性があるこの翻訳リードスルーは定められた割合で起こるので、表面結合融合ポリペプチドのレベルは、対象とするポリペプチドの発現レベルと直接相関する。したがって、融合ポリペプチドの表面発現と対象とするポリペプチドの発現における宿主細胞の産生能との間に強いつながりがあるため、細胞表面上に存在する融合ポリペプチドの量は、それぞれの細胞による、対象とするポリペプチドの全体的な発現レベルに一定レベルで比例する。したがって、表面結合融合ポリペプチドのレベルは、個々の細胞の全体的な産生能を表し、細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択することを可能にする。ステップa)、b)およびc)を含む選択サイクルによって、高産生真核宿主細胞の効率よく再現性のある同定および単離が可能となる。
【0018】
免疫染色、フローサイトメトリー、蛍光顕微鏡法、MACS、磁性ビーズなどの親和性に基づく方法および類似の技術のような適切な検出/選択方法は、表面結合融合ポリペプチドの存在およびレベルに基づく高産生細胞の同定、選択および/または濃縮を可能にする。したがって、本発明は、非産生、低産生および/または中等度産生細胞の集団から少なくとも1つの高産生細胞または高産生細胞の集団を選択することを、また濃縮することも可能にすることによって、スクリーニングの労力を大きく低減する。数回の、好ましくは2回または3回の選択および/または濃縮を行うことも可能である。例えば膜に固着した融合ポリペプチドを認識する抗体またはその断片などの検出化合物を使用して、例えば十分な発現の真核宿主細胞もしくは宿主細胞の集団を、または高発現のものも選択することができる。前記検出化合物は標識を有し得、したがって一般の検出方法によって検出することができる。
【0019】
本発明の教示によれば、対象とするポリペプチドを細胞表面に固着させるために、免疫グロブリン膜貫通アンカー/ドメインの少なくとも断片が使用される。完全長の免疫グロブリン膜貫通アンカーの代わりに断片が使用される場合、それぞれの断片は、融合ポリペプチドと細胞表面の固着を可能にする。免疫グロブリン膜貫通アンカー/ドメインまたはその機能的断片は細胞膜中に埋め込まれ、それによって細胞膜に堅く固着される。この堅い固着は、本発明のアンカーを、例えばGPIアンカーと区別するものである。本発明に従って使用される免疫グロブリン膜貫通アンカーは、融合ポリペプチドと細胞表面の非常に強くしたがって耐久性のある固着をもたらし、この固着はまたタンパク質分解による分断に感受性がなく、または少なくとも感受性が低い。これは、精製後に行われる産物分析によって確認される。重鎖の種を含有する免疫グロブリン膜貫通アンカー(または免疫グロブリン膜貫通アンカーの断片)は、行われる質量分析では認められない。分泌された対象とする可溶性ポリペプチドが分断された融合ポリペプチドにより混入するリスクも低減されるため、これは従来技術を上回る重要な利点である。さらに、発現した対象とするポリペプチドの分析された特徴によれば、従来のクローン/発現系由来の物質との著しい相違も認められない。
【0020】
本発明の方法によって得られた細胞は、限界希釈または類似の方法によってクローン化された細胞より高い平均発現レベルを有する。この細胞はまた、例えば本発明による特定の膜貫通ドメイン/アンカーを含まない標準的なベクターのトランスフェクション後のフローサイトメトリーによってクローン化された細胞よりも高い平均発現レベルを有する。
【0021】
本発明のスクリーニング/選択手順の結果同定された細胞は、元の細胞集団の選択されなかった細胞から一般に単離され、濃縮することができる。この細胞は、個々の細胞として単離および培養することができる。この細胞は、追加の1回もしくは複数回の選択で、場合によっては追加の定性もしくは定量分析に使用することもでき、または例えばタンパク質産生用の細胞系統の開発で使用することができる。一実施形態によれば、上記に記載のように選択された高産生細胞の濃縮集団は、高収量で対象とするポリペプチドを産生するための集団として直接使用される。
【0022】
有利には、対象とするポリペプチドの膜貫通変異体を同時発現するクローン、特に対象とするポリペプチドの膜貫通変異体を同時発現しない古典的なベクターの構成に由来する抗体およびクローンの観察された増殖挙動および産生能は同じであるように思われる。さらに、クローン産生の安定性も同等に良好であるように思われる。
【0023】
高収量で対象とするポリペプチドを産生する方法であって、
a)対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを含む少なくとも1つのカセット(Cas−POI)を含む異種核酸を含む複数の真核宿主細胞を提供するステップと、
b)対象とするポリペプチドの少なくとも一部が免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を含む融合ポリペプチドとして発現されるように、真核宿主細胞を培養して対象とするポリペプチドを発現させるステップであって、前記融合ポリペプチドが前記宿主細胞の表面上に提示されているステップと、
c)細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと、
d)対象とするポリペプチドの発現を許容する条件下で、培地中で選択された真核宿主細胞を培養するステップと
を含む方法も提供される。
【0024】
発現した対象とするポリペプチドは、宿主細胞を破砕することによって得ることができる。ポリペプチドはまた培地中に発現させ、例えば分泌させることができ、その培地から得ることができる。それぞれの方法の組合せも可能である。それによって、高収量で効率よくポリペプチドを産生し、得る/単離することができる。所望される品質で対象とするポリペプチドを産生するために、得られたポリペプチドを、例えば精製および/または修飾ステップなどのさらなる処理ステップにかけることもできる。一実施形態によれば、無血清条件下で前記宿主細胞を培養する。上記で概略を述べたように、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)と免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的断片をコードする第2のポリヌクレオチドとの間に少なくとも1つの終止コドンを挿入することによって、高発現宿主細胞の選択が可能であり、それによって高収量で対象とするポリペプチドを産生することが可能となる。したがって、本発明の選択/濃縮ステップは、産生プロセス全体の不可欠かつ重要な構成要素である。
【0025】
免疫グロブリン膜貫通アンカーは免疫グロブリン分子を細胞表面に固定するのに本来適しているので、免疫グロブリン分子を産生するとき、本発明の教示に従って前記免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的断片を使用すると特に有利である。驚くべきことに、CHO細胞などの哺乳動物宿主細胞中で免疫グロブリン分子を発現させるときに免疫グロブリン膜貫通アンカーを使用できることが分かっている。従来技術では、Ig膜貫通ドメインをアンカーとして使用するとき、抗体の表面発現、したがって細胞膜固着型発現を実現するには前記細胞中でIgαおよびIgβ受容体鎖の同時発現が必要であると想定されていたので、これは驚くべきことである。これらの共受容体は、ハイブリドーマやミエローマ細胞(例えばSP2/0細胞)などのB細胞およびB細胞誘導体中で天然に発現されるが、CHO細胞などの非B細胞中で発現されることは予想されていない。しかし、共受容体の発現がないにも関わらず、Ig膜貫通アンカー/ドメインを使用したとき、対象とするポリペプチド、特に免疫グロブリン分子の表面提示は、CHO細胞などの非B細胞誘導体で十分に働いたことが分かっている。したがって、一実施形態によれば、B細胞またはB細胞誘導体でない真核宿主細胞が使用される。したがって、IgαおよびIgβ受容体鎖を天然に発現しない真核宿主細胞、好ましくは哺乳動物宿主細胞が使用される。したがって、好ましくは、宿主細胞はCHO細胞である。さらに、一実施形態によれば、IgαおよびIgβ受容体鎖の人工的な同時発現は前記真核宿主細胞中で起こらない。
【0026】
本発明の教示に従って、任意の免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的断片を使用することができる。特に、免疫グロブリン膜貫通アンカーは、IgM、IgA、IgE、IgGおよび/もしくはIgDに由来する免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的断片からなる群から選択される。好ましくは、免疫グロブリン膜貫通アンカーは、IgG1、IgG2、IgG3および/またはIgG4に由来する。IgG1免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体が特に適切である。IgGに由来する膜貫通アンカーの好ましい例は、配列番号2および配列番号7で示されている。
【0027】
一実施形態によれば、免疫グロブリン膜貫通アンカーは細胞質ドメインを含む。融合ポリペプチドと細胞表面の非常に堅い固着をもたらすため、細胞質ドメインを含む免疫グロブリン膜貫通アンカーの使用が好ましい。免疫グロブリン細胞質ドメインの使用が特に適切である。一実施形態によれば、免疫グロブリン細胞質ドメインは、IgG、IgAおよびIgEまたは上記膜貫通アンカーの機能的変異体に由来する。これらの免疫グロブリン細胞質ドメインは、IgDおよびIgMに由来するものより大きい。配列番号4および配列番号6は、細胞質ドメインとして使用することができる、IgGに由来する細胞質ドメインの適切なアミノ酸配列を示す。IgGに由来する細胞質ドメインを含む、IgGに由来する膜貫通アンカーの好ましい例は、配列番号3で示されている。
【0028】
したがって、配列番号2および/または配列番号3で示されるポリペプチド配列または免疫グロブリン膜貫通アンカーは、融合ポリペプチドと宿主細胞の表面の固着を可能にするその機能的変異体、特に機能的変異体を含んでよい。
【0029】
適切なカセット(Cas−POI)の一部分のヌクレオチド配列が配列番号1として示されている。示されている詳細は、翻訳リードスルーに適したインフレームの終止コドン、および本発明の教示に従って使用することができる特に適切な免疫グロブリン(Ig)膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチドを含む。終止コドンは、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの下流にインフレームで位置するので、したがって当該ポリヌクレオチド配列転写されプロセシングを受けてアミノ酸配列となる。コード配列とは、アミノ酸に翻訳される配列を指す。したがって、終止コドンはコード配列に、したがって対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに属さない。終止コドンは、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの天然の終止コドンでよい。この場合、追加の(複数の)終止コドンは必要でないが、存在してもよい(上記を参照)。
【0030】
カセット(Cas−POI)の第2のポリヌクレオチドは、配列番号2として示されるポリペプチド配列を含む免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードし得る。配列番号3は、細胞質ドメイン(単独の細胞質ドメインは配列番号4としても示されている)、漏出終止コドンおよび追加のコドンに対応する推定アミノ酸(WL)ならびに結合領域(単独の結合領域は配列番号5としても示されている)も含む適切な免疫グロブリン膜貫通ドメインのさらなる変異体を示す。選択した終止コドンならびに/または終止コドンおよび使用した(複数の)隣接コドンの数に応じて、少なくとも1つの終止コドンおよび隣接コドンに対応する位置に他のアミノ酸も存在し得る。これらのアミノ酸は融合ポリペプチド中にしか存在しないので、これらが対象とするポリペプチドのアミノ酸配列を変化させることはない。したがって、配列番号2または3として示されるポリペプチド配列を含む免疫グロブリン膜貫通ドメインまたはその機能的変異体、特に機能的断片は、本発明の教示に従って、したがって記載されている方法、ならびに記載されているベクターおよび宿主細胞において膜貫通アンカーとして使用することができる。
【0031】
本発明による免疫グロブリン膜貫通アンカーの「機能的変異体」には、融合ポリペプチドと細胞表面の膜貫通固着を可能にする、それぞれの天然の免疫グロブリン膜貫通ドメインのアミノ酸配列に対する1つまたは複数のアミノ酸配列交換(例えば欠失、置換または付加)を有する免疫グロブリン膜貫通アンカーおよび上記の機能的断片が含まれる。
【0032】
所望されるレベルの抑制(リードスルー)に応じて、翻訳終結シグナル、したがって終止コドンとして、タンパク質合成の終結を知らせる3つの終止コドンのいずれか1つ(様々なテトラヌクレオチドの構成においても、TAA(UAA)、TAG(UAG)およびTGA(UGA)、下記を参照)を、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)と免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードするポリヌクレオチドとの間に使用することができる。上記で概略を述べたように、終止コドンは、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの天然の終止コドンでもよい。好ましくは、前記翻訳終結シグナルは、翻訳リードスルーを促進するために、不完全な終結効率を有する。終止コドンの「漏出性」は、少なくとも1つの終止コドンに隣接し、したがってその下流にある(複数の)コドンによっても影響を受け、特に最初のヌクレオチドは転写リードスルーに影響し得る(下記を参照)。
【0033】
対象とするポリペプチドを発現させるには、カセット(Cas−POI)を転写する必要がある。したがって、一実施形態によれば、カセット(Cas−POI)は発現カセットである。さらなる実施形態によれば、カセット(Cas−POI)が、プロモーターなど宿主細胞の転写開始エレメントの転写調節下にあるように、カセット(Cas−POI)を宿主細胞のゲノム中に組み込む。
【0034】
カセット(Cas−POI)中に含まれる核酸の転写の結果、
その翻訳の結果対象とするポリペプチドが生じる第1のポリヌクレオチドと、
前記第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドンと、
その翻訳の結果免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を生じる、前記終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドと
を少なくとも含む転写物が生じる。
【0035】
転写物の少なくとも一部が、少なくとも1つの終止コドンの翻訳リードスルーにより、対象とするポリペプチドと、免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体とを含む融合ポリペプチドに翻訳される。翻訳リードスルーは、終止コドンの選択/翻訳終結シグナルの設計により自然に起こり得、または培養条件の適合、例えば終結抑制剤の使用により影響を受け得る(下記を参照)。
【0036】
本発明の方法で使用されるカセット(Cas−POI)は、免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその断片のコード配列の上流に単一の終止コドンだけを含んでよい。しかし、一連の2つ以上の終止コドン、例えば2つまたは3つ、または4つの終止コドンを使用することも可能であり、これらは同じでもよく、または異なっていてもよい。終止コドンの構成、すなわちトリヌクレオチドの終止コドン自体ならびに終止コドンのすぐ下流にある(複数の)ヌクレオチドまたはコドンもリードスルーのレベルに対する影響を有する。しかし、融合ポリペプチドの産生を可能にするには、確実に特定のレベルの翻訳リードスルーが依然として起こるようにすることが必要であり、これは、培養条件を調整することにより、一実施形態に従って実現することができる。
【0037】
一次転写物は、イントロンを含むプレmRNAであり得る。それぞれのプレmRNAはプロセシング(スプライシング)を受けてmRNAになる。あるいは、転写の結果直接mRNAが生じ得る。mRNA転写物の翻訳の間、通常は(複数の)終止コドンの天然レベルのバックグラウンドのリードスルーが存在し、または培養条件の適合によりそれぞれのリードスルーレベルを誘導することができる。このリードスルーレベルの結果、特定の割合の融合ポリペプチドが生じ、このレベルはまた、使用した(複数の)終止コドンの数および性質、下流の終止コドン、特に(複数の)終止コドンのテトラヌクレオチドの構成ならびに培養条件にも依存する。したがって、終止コドンが存在するにも関わらず、本発明の教示に従って特定の割合の融合ポリペプチドが産生される。これらの融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドを細胞表面に堅く固着させる免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を含む。その結果、融合ポリペプチドが宿主細胞の表面に提示され、膜に固着した組換え融合ポリペプチドを高レベルで提示している(高レベルの分泌ポリペプチドを示している)細胞を、例えば適当に標識された検出化合物と接触させたときにフローサイトメトリー、特に蛍光活性化細胞選別(FACS)によって選択することができる。
【0038】
従来技術に記載のように、適切な翻訳終結シグナル、したがって終止コドンおよび不完全な翻訳終結効率を有する終止コドンの配置を設計することができる(例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Liら、1993、Journal of Virology 67(8)、5062〜5067;McCughanら、1995 Proc.Natl.Acad.Sci.92、5431〜5435;Brownら、1990、Nucleic Acids Research 18(21)6339〜6345を参照されたい)。
【0039】
一実施形態によれば、下記の終止コドンの配置が使用される;終止コドンは太字および下線で示されている:
TGACTA コード鎖、したがってDNAレベルにおける終止コーディングの配置のヌクレオチド配列;終止コドンは太字および下線で示されている
UGACUA RNAレベルにおける終止コドンの配置のヌクレオチド配列
W L 翻訳リードスルーが起こった場合の終止コドンおよび隣接コドンに対応する推定アミノ酸;したがって、示されているポリヌクレオチドの最も可能性の高いリードスルー産物が示されている
【0040】
終止コドンのリードスルーにより融合ポリペプチド中に組み込まれる追加のアミノ酸は、融合タンパク質が細胞表面上に提示される限りどんな種類でもよい。前記追加のアミノ酸は融合ポリペプチド中にしか組み込まれないので、対象とするポリペプチドのアミノ酸は変化しないままである。
【0041】
対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)の後に複数の終止コドンの使用が可能であることに加えて、免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的断片をコードする配列の下流に複数の終止コドンを使用すると通常は有利である。この位置に複数の終止コドン、例えば、約2、3、4または5個の終止コドンなど、最大で約6または8個の終止コドンのような最大で約10個の終止コドンを使用すると、確実に翻訳が効率よく終結するようになる。
【0042】
融合ポリペプチドは細胞膜に固着したままであり、したがって発現が続くにつれて細胞表面上に蓄積するため、細胞表面上に存在し、したがって検出可能な融合ポリペプチドの量は、ポリペプチド合成の間に通常増大する。一実施形態によれば、終止コドンのリードスルーの結果、およそ≦50%、≦25%、≦15%、≦10%、≦5%、≦2.5%、≦1.5%、≦1%のまたは≦0.5%より少ない融合ポリペプチドが生じるように、カセット(Cas−POI)を構築する。残りの部分は、免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的断片を含まないポリペプチドの形態として産生される。記載したように、終止コドンのリードスルーのレベルは、(複数の)終止コドンの選択および数、ならびに終止コドンに隣接する領域、特に終止コドンの後のヌクレオチドだけでなくステップb)の間に使用される培養条件によっても影響を受ける可能性がある。所与の構築物における所与の終止コドンについての天然レベルのバックグラウンドのリードスルーなどのファクターに応じて、ある場合には、バックグラウンドのリードスルーレベルをさらに低減するために、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)と免疫グロブリン膜貫通アンカーをコードするポリヌクレオチドとの間に複数の終止コドンを使用することが望ましい場合がある(上記を参照)。リードスルーレベルがかなり低いことの一般的な利点は、好ましくはFACSによって行われるその後の選択/濃縮および選別の手順における厳密性が高いことであり、このことは高産生対超高産生クローンのより良好な分離につながる。リードスルーレベルが高すぎる場合、膜に結合したポリペプチドに対する細胞表面の許容量の飽和が起こる可能性があり、このことは発現レベル、特に高い発現レベルの区別を妨げる可能性がある。したがって、超高発現のクローンを選択するには、リードスルーレベルがかなり低いと有利である。したがって、転写物の≦5%、≦2%、またはさらに≦1.5%しか融合ポリペプチドに翻訳されないことが好ましい。
【0043】
しかし、必要な/所望される場合、例えば培養の間に終結抑制剤を使用することによってリードスルーレベルを増大させることも可能である。ステップb)の間に培地中に終結抑制剤を使用することは、培養条件によって終止コドンのリードスルーのレベルに影響を及ぼす1つのやり方である。終結抑制剤は、終止コドンの存在から生じる翻訳終結を抑制することができる化学物質である。特に、終結抑制剤はアミノグリコシド系に属する抗生物質である。アミノグリコシド抗生物質は、終止コドンの部位に代替のアミノ酸を挿入することを可能にすることが知られ、それによって、普通なら翻訳が終結するはずの終止コドンまたは終止コドンの配置で「リードスルー」が生じる。アミノグリコシド抗生物質には、G−418、ゲンタマイシン、パロモマイシン、ハイグロマイシン、アミカシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシンおよびトブラマイシンがある。しかし、リードスルーレベルが低いと有利であるとき、終結抑制剤の不在下で選択を行うことが好ましい。
【0044】
本発明は、翻訳での終止コドンのリードスルーが少なくとも少数の割合に起こり、または終結抑制剤の添加によってそれを誘導することができる任意の型の宿主細胞に適用可能である。適切な真核宿主細胞の例は哺乳動物宿主の細胞であり、これには、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系統、ミドリザル細胞系統(COS)、マウス細胞(例えばNS/0)、仔ハムスター腎(BHK)細胞系統ならびにヒト細胞および細胞系統が含まれる。好ましくは、宿主細胞はCHO細胞系統である。
【0045】
良好な産生宿主細胞を同定するのに1回の選択サイクルで十分であるが、一実施形態によれば、2回以上の選択サイクルが行われ、各選択サイクルにおいて、細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞が選択される。実験結果は、2回目の選択サイクルで通常結果が向上することを示す。
【0046】
一実施形態によれば、選択ステップc)は、融合ポリペプチドと結合する検出化合物と複数の真核宿主細胞を接触させるステップと、細胞表面と結合した検出化合物の存在または量に基づいて少なくとも1つの宿主細胞を選択するステップとを含む。
【0047】
融合ポリペプチドとの結合に使用される検出化合物は、下記の特徴:
前記化合物が標識されていること、
前記化合物が蛍光標識されていること、
前記化合物が抗原であること、
前記化合物が免疫グロブリン分子またはその結合断片であること、
前記化合物がプロテインA、G、および/またはLであること
のうち少なくとも1つを有し得る。
【0048】
細胞表面での融合ポリペプチドとの結合に使用される検出化合物は、例えば融合ポリペプチドを認識する抗体や抗体断片などの免疫グロブリン分子またはその断片でよい。基本的に融合ポリペプチドの全ての到達可能な部分を検出することができ、その下で、可溶性の形態で融合ポリペプチドと並行して分泌される、対象とするポリペプチドに対応する部分も検出できる。
【0049】
一実施形態によれば、検出化合物は抗原である。発現した対象とするポリペプチドが、例えば、それぞれの抗原と結合する抗体などの免疫グロブリン分子またはその断片である場合、この実施形態は適切である。
【0050】
検出および選択を可能にするために、融合ポリペプチドとの結合に使用される前記検出化合物を標識することができる。細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドと結合する標識された検出化合物は、それによって細胞表面を標識または染色する。宿主細胞によって発現される融合ポリペプチドの量が多くなるほど、標識された検出化合物がより結合する。これは、結合した検出化合物の存在だけでなく量も標識により決定できるため、宿主細胞の選択を容易に行うことができる利点を有する。高産生宿主細胞を選択するために、これらの宿主細胞は、検出化合物によって最も有効にまたは強く標識された宿主細胞の集団から選択される。例えばフローサイトメトリーなどの蛍光検出方法によって容易に検出されるので、蛍光標識が好ましい。適切な蛍光標識は当業者に知られている。
【0051】
一実施形態によれば、1回または複数回、好ましくは2回または3回の選択サイクルを行って、検出化合物と細胞表面の結合の程度に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択することができる。この実施形態によれば、結合した検出化合物の量に基づいて、各選択サイクルで少なくとも1つの真核宿主細胞が選択される。したがって、細胞表面染色の程度または量に基づいて、最も有効に/強く標識されたこれらの宿主細胞が選択される。例えば、上位5%または上位2%の宿主細胞を選択することができる。
【0052】
複数の真核宿主細胞がプールとして一緒に選択されると仮定する場合(いわゆるプール濃縮)、複数の細胞、例えば少なくとも10個、少なくとも50個、少なくとも500個、少なくとも1000個または少なくとも50,000個が選択され、細胞プール中に含まれる。本発明の教示に従って選択された複数の高産生宿主細胞を含む細胞プールは、例えば細胞クローンより速く増殖させることができるので、この実施形態は大量の対象とするポリペプチドを速く得るのに特に有利である。
【0053】
したがって、選択的な細胞クローン化への適用のほかに、本発明を高産生細胞のプール濃縮に使用することもでき、それによって。クローン細胞系統と同等の力価を実現することができる。
【0054】
検出化合物と細胞表面、特に融合ポリペプチドの結合の程度に基づいて、高産生宿主細胞を単離することができ、かつ/または高産生細胞の集団を濃縮することができる。宿主細胞の表面上での検出化合物と融合ポリペプチドの結合は、フローサイトメトリー、好ましくは蛍光活性化細胞選別(FACS)によって検出することができる。
【0055】
好ましい実施形態では、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、多量の、したがって高いシグナルを表す融合ポリペプチドを含む宿主細胞を選別する。本発明の場面では、大量の宿主細胞を迅速にスクリーニングして、高収量で対象とするポリペプチドを発現する細胞を同定および濃縮することが可能であるため、FACS選別が特に有利である。好ましい実施形態によれば、融合ポリペプチドとしてポリペプチドのおよそ5%以下しか産生されないので、細胞表面上で検出される高い蛍光は、例えば培地中に分泌され得る対象とするポリペプチドの高い発現にも対応する。FACSによって、最も高い蛍光率を示すこれらの細胞を同定および単離することができる。FACSにより決定される蛍光と産生されたポリペプチドの量との間に統計的に有意な正の相関が実施例によって認められ確認される。したがって、FACS選別を一般に定性分析に使用して対象とするポリペプチドを発現する細胞を同定することができるだけでなく、実際に定量的に使用して高レベルの対象とするポリペプチドを発現するこれらの宿主細胞を同定することができる。したがって、標識された検出化合物と、細胞表面に固着した融合ポリペプチドの結合の程度に基づいて、高産生宿主細胞を選択/濃縮することができる。それによって、最良の産生細胞を選択/濃縮することができる。実験結果は、FACS分析と組み合わせて本発明による選択手順を使用すると、選択された細胞集団中の非産生クローンが著しく低減することを示す。さらに、クローンの平均産生能が高度に増大すると、例えばバイオ医薬生産用の細胞系統開発プロセスにおけるクローンスクリーニングの労力を大きく低減することが可能となる。したがって、古典的なスクリーニング手法と比較して少ない資源でさらに多数の候補または計画用の細胞系統を開発することができる。また、このプロセスは、時間のかかる産生能のアッセイの代わりに、表面染色およびFACS分析による、トランスフェクトおよび選択したプールの産生潜在性およびクローン分布の評価を可能にする。表面染色を使用して、細胞集団の均一性に関してクローン産生の安定性を分析することもできる。生じる可能性がある非または低産生部分集団は容易に検出可能となる。
【0056】
一実施形態によれば、カセット(Cas−POI)および/または(Cas−POI’)は、
第1のポリヌクレオチドの下流に位置する少なくとも1つの終止コドンの下流に位置するアフィニティータグをコードし、免疫グロブリン膜貫通アンカーもしくはその機能的変異体をコードする第2のポリヌクレオチドの上流に位置するポリヌクレオチド(Pn−TAG)、および/または
選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチド(Pn−MARKER)
をさらに含む。
【0057】
終止コドンと、免疫グロブリン膜貫通アンカーをコードするポリヌクレオチドとの間に上記に定義したポリヌクレオチド(Pn−TAG)を提供することは、アフィニティータグが融合タンパク質中に組み込まれる利点を有する。アフィニティータグが少なくとも1つの終止コドンの下流に位置するので、そのタグは対象とするポリペプチドの融合変異体中にしか含まれない。「アフィニティータグ」とは、抗体などの結合化合物/作用物質によって検出/結合することができる短いアミノ酸配列を指す。基本的に、アフィニティータグは、捕捉作用物質および/または検出化合物の標的として働く。そのタグは対象とするポリペプチドと免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体との間に位置するので、それは細胞表面上にも提示され、したがって、例えば検出化合物にとって到達可能である。したがって、アフィニティータグは、適切な真核宿主細胞の選択を可能にするために、検出化合物の標的としても機能し得る。既存の十分に特徴付けられた検出化合物を検出に使用することができるため、検出/選択の標的として、例えば十分に特徴付けられたアフィニティータグを使用すると有利である。さらに、発現させる異なる種類の対象とするポリペプチドに同じ検出化合物を使用することができる。アフィニティータグに特異的な同じ検出化合物を使用することができるため、この実施形態によれば、異なる対象とするポリペプチドに特異的な検出化合物の生成は廃れる。アフィニティータグが融合ポリペプチドの不可欠な部分を構成するため、そのタグはまた、膜貫通アンカーの存在により真核宿主細胞の表面に堅く固着される。堅く固着した融合ポリペプチドは、分断に感受性がないはずである(上記を参照)。
【0058】
膜結合融合タンパク質の分断は、分泌ポリペプチドの使用目的に応じて、分断がまれな事象であっても免疫グロブリン膜貫通アンカーを使用するときに混入の問題を引き起こし得る。例えば治療用ポリペプチド/タンパク質を発現させるとき、できるだけ純粋な分泌産物を得ることが望ましい。例えばHisタグなどのアフィニティータグを使用するとき、前記アフィニティータグは分断されたタンパク質中に少なくとも部分的に含まれる。アフィニティータグの存在により、従来のアフィニティー精製の手順(例えば、Hisタグの場合はNi−NTA)を使用することによって分泌ポリペプチドの試料から(存在する場合)分断された融合ポリペプチドを除去することが可能である。したがって、試料から潜在的な混入物を容易に除去するには、アフィニティータグは有用である。
【0059】
さらに、発現した/得られたポリペプチドの純度を調節するために、アフィニティータグを使用することもできる。高度に純粋なタンパク質/ポリペプチドが必要である適用では、得られた産物が純粋であり、したがって分断された融合ポリペプチドによる混入物を含まないことを実証する適切なアッセイを提供することも有利/必須であり得る。そのようなアッセイは、アフィニティータグの検出に基づくものであり得る。アフィニティータグは融合ポリペプチド中にしか存在しないので、そのタグは、試料中の融合ポリペプチド(またはそれが分解/分断されたもの)の存在に特異的なマーカーとして働き得る。アフィニティータグに特異的な検出化合物を使用したときに、得られた産物中でアフィニティータグが依然として検出できる場合、試料中に微量の分断された融合ポリペプチドが依然として存在し、試料は、その量に応じて、さらなる精製を必要とし得る。試料中でアフィニティータグが検出できない場合、分断された融合ポリペプチドが分析された試料中に存在しないか、または非常に少量しか存在しないはずであり、それによって、試料が目的の適用に対して十分純粋であることが保証される。
【0060】
したがって、対象とするポリペプチドを産生したとき、得られた対象とするポリペプチドは、
アフィニティータグを標的とするアフィニティー精製により、分断された融合ポリペプチドの混入物を除去すること、および/または
アフィニティータグを標的とすることにより、分断された融合タンパク質の存在の有無を検出すること
によってさらに処理することができる。
【0061】
アフィニティータグに適した例は、例えば、V5、Hisタグ、FLAG、Strep、HA、c−Mycなどである。適切なアフィニティータグは人工的に作製することもできる。
【0062】
さらなる実施形態によれば、カセット(Cas−POI)および/または(Cas−POI’)は、選択可能マーカーをコードするさらなるポリヌクレオチド(Pn−MARKER)を含む。好ましくは、前記選択可能マーカーは、免疫グロブリン膜貫通アンカーをコードするポリヌクレオチドの下流に位置し、したがって、構築物の発現後、融合ポリペプチドが提示されるときに細胞膜の細胞質部位に位置する。一実施形態によれば、免疫グロブリン膜貫通アンカー/ドメインまたはその機能的変異体をコードするポリヌクレオチドとポリヌクレオチド(Pn−MARKER)は融合物として発現されると考えられるため、終止コドンは、これらの間に位置しない。適切な終止コドンおよび転写終結シグナルをポリヌクレオチド(Pn−MARKER)のコード配列の下流に提供して、ポリヌクレオチド(Pn−MARKER)の発現後に確実に転写および翻訳が効率よく終結するようにすべきである。前記ポリヌクレオチド(Pn−MARKER)は、例えば薬物耐性遺伝子またはレポーター遺伝子でよい。適切な例は本明細書に記載されている。一実施形態によれば、緑色蛍光タンパク質(GFP)またはルシフェラーゼがレポーターとして使用される。これは、2つの融合タンパク質の特徴に基づく真核宿主細胞の選択を可能にする。
【0063】
一実施形態によれば、カセット(Cas−POI)および/または(Cas−POI’)は発現カセットである。当業者なら、本発明の方法を行うのに適したベクター、発現調節配列および宿主を選択することができる。例えば、ベクターが宿主中で複製可能であること、および/またはその染色体中に組み込まれることが可能であることを必要とし得るので、ベクターを選択する際に宿主を考慮しなければならない。本発明による選択および産生方法で使用できる適切なベクターは、下記および特許請求の範囲でも記載されている。
【0064】
真核、好ましくは哺乳動物宿主細胞中で少なくとも1つの対象とするポリペプチドを発現させるのに適したベクター核酸も提供され、これは、対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)の挿入部位、および/または対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドを含む少なくとも1つのカセット(Cas−POI)と、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドンと、免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドとを含む。
【0065】
本発明による「ベクター核酸」とは、少なくとも1つの外来核酸断片を有することが可能であるポリヌクレオチドである。ベクター核酸は「分子担体」のように機能し、核酸の断片を宿主細胞中に送達する。それは、制御配列を含む少なくとも1つの発現カセットを含んでよい。好ましくは、ベクター核酸は少なくとも1つの発現カセットを含む。外来ポリヌクレオチドをベクター核酸の(複数の)発現カセット中に挿入して、それから発現させることができる。本発明によるベクター核酸は環状の形態で存在してもよく、または直鎖化された形態で存在してもよい。「ベクター核酸」という用語は、外来核酸断片の移動を可能にする人工染色体または類似のそれぞれのポリヌクレオチドも含む。
【0066】
上記に記載のスクリーニングおよび産生方法を行うために、それぞれのベクターを発現ベクターとして使用することができる。それぞれのベクター核酸の利点は、スクリーニング方法と併せて上記にも記載されている。
【0067】
前記ベクター核酸はさらに、
対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、
哺乳動物の選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(Exp−MSM)、および/または
哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(Exp−MASM)
を少なくとも含んでよい。
【0068】
発現カセット(Exp−MSM)とは、哺乳動物の選択可能マーカー(ammalian electable arker)遺伝子を含む発現カセットを定義するものである。
【0069】
発現カセット(Exp−MASM)とは、哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー(ammalian mplifiable,electable arker)遺伝子を含む発現カセットを定義するものである。
【0070】
「5’」および 「3’」という用語は、遺伝子エレメントの位置および/または例えば5’から3’の方向で進行するRNAポリメラーゼによる転写やリボソームによる翻訳などの事象の方向(5’から3’)に関連する核酸配列の性質を示すのに使用される取り決めである。同義語は上流(5’)および下流(3’)である。慣習的に、DNA配列、遺伝子地図、ベクターカードおよびRNA配列は、5’から3’を左から右として描き、または5’から3’の方向は矢印で示し、矢じりは3’の方向を指す。したがって、この慣習に従うと、上流(5’)は左側に位置する遺伝子エレメントを示し、3’(下流)は右側に位置する遺伝子エレメントを示す。
【0071】
発現カセットの配置および方向も重要な局面である。一実施形態によれば、発現カセット(Exp−MASM)は発現カセット(Exp−POI)の5’に位置し、発現カセット(Exp−MSM)は3’に位置する。発現カセット(Exp−POI)と(Exp−MSM)との間に、例えば、(下記でさらに詳細に説明する)対象とする追加のポリペプチドを発現させるための追加の発現カセット(Exp−POI’)などのさらなる発現カセットを挿入することができる。発現カセット(Exp−MASM)、(Exp−POI)および(Exp−MSM)は、好ましくは同じ5’から3’の方向で全て配置される。本発明者らは、この特定のベクター核酸の構成が高収量細胞系統の速い生成を可能にすることを発見した。
【0072】
1つの代替形態によれば、発現カセット(Exp−POI)は、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)を含まない。したがって、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)をまだ含まない発現カセット(Exp−POI)を有する「空」発現ベクターが提供される。しかし、適当なクローン化法を使用すること、例えば制限酵素を使用して、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)を発現カセット(Exp−POI)中に挿入することにより、対象とするポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチド(Pn−POI)を発現カセット(Exp−POI)中に組み込むことができる。この目的で、発現カセット(Exp−POI)は、例えば、例えば全てのリーディングフレームで使用できる多重クローン化部位(MCS)を含んでよい。例えば、それぞれの「空」ベクター核酸を顧客に提供することができ、次いで顧客が対象とする特定のポリヌクレオチドを発現カセット(Exp−POI)中に挿入する。終止コドンが、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)と、膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードするポリヌクレオチドとの間に存在するように、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)が挿入される。発現カセット(Exp−POI)はまた、切り出し、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)によって置換することができる置換ポリヌクレオチドまたはスタッファー核酸配列を含んでもよい。本発明は、対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを含む発現カセット(Exp−POI)を含む、上記に記載のベクター核酸も提供する。この実施形態は、基本的にその最終的な発現ベクター核酸に関する。発現カセット(Exp−POI)の代わりにカセット(Cas−POI)を使用する場合、基本的に同じことが当てはまる。
【0073】
一実施形態によれば、ベクター核酸は環状であり、発現カセット(Exp−MSM)は発現カセット(Exp−POI)の3’に配置され、発現カセット(Exp−MASM)は発現カセット(Exp−MSM)の3’に配置される。
【0074】
本発明による発現ベクターは、対象とするポリペプチドを発現させるための追加の発現カセット(Exp−POI’)を含んでよい。最終的なベクター核酸中では、前記追加の発現カセット(Exp−POI’)は、対象とする追加のポリペプチドを発現させるための追加のポリヌクレオチドを含む。発現させるポリペプチドに応じて、前記追加の発現カセット(Exp−POI’)は、終止コドンにより対象とする追加のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから分離される、膜アンカー(またはGPIアンカーなどのそれぞれのアンカーを付着させるためのシグナルペプチド)をコードするポリヌクレオチドを含んでもよく、または含まなくてもよい。したがって、異なるポリペプチドを発現させるための複数の発現カセットを、本発明に従って発現ベクター中に配置することも可能である。しかし、発現カセット(Exp−POI)だけが、漏出終止コドンの構築、したがって対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)の下流にある終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを有することを必要とし、追加の発現カセット(Exp−POI’)は、それぞれの終止コドンの構築を有してもよく、または有さなくてもよい。
【0075】
免疫グロブリン分子またはその機能的断片を発現させる場合、対象とするポリペプチドを発現させるための少なくとも2つの発現カセット(Exp−POI)および(Exp−POI’)を使用するそれぞれの実施形態は特に有利である。したがって、少なくとも1つの免疫グロブリン分子またはその機能的変異体を発現させるためのベクター核酸が提供され、これは、
免疫グロブリン分子の重鎖および/もしくは軽鎖またはその機能的断片をコードする第1のポリヌクレオチドと、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドンと、免疫グロブリン膜貫通アンカーもしくはその機能的断片を少なくともコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドとを含む発現カセット(Exp−POI)、ならびに/または
免疫グロブリン分子の重鎖および/もしくは軽鎖またはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを含む追加の発現カセット(Exp−POI’)を含む。発現カセット(Exp−POI’)は、発現カセット(Exp−POI)の免疫グロブリン鎖に対応する免疫グロブリン鎖をコードする(すなわち、発現カセット(Exp−POI)が重鎖をコードする場合、発現カセット(Exp−POI’)は軽鎖をコードし、その逆も同様である)。したがって、ベクターから機能的な免疫グロブリン分子(またはその断片)を発現させることができる。
【0076】
重鎖またはその機能的断片が発現カセット(Exp−POI)から発現され、したがって融合ポリペプチドとして特定の程度に従って発現されることが好ましい。一実施形態によれば、対応する軽鎖またはその機能的断片が発現カセット(Exp−POI’)から発現される。前記発現カセット(Exp−POI’)は同じベクター核酸上に位置し得る。しかし、それは別々のベクター核酸上にも位置し得る。 しかし、発現カセット(Exp−POI)および(Exp−POI’)が1つのベクター核酸上に位置することが好ましい。1つの発現カセットから両方の鎖(重鎖および対応する軽鎖)を発現させることも可能である。例えば、2つの別々の鎖を得るために自己スプライシングシグナルまたはプロテアーゼ感受性部位を含む融合ポリペプチドとしてそれらを発現することができる。2つ以上のポリペプチド(POIおよびPOI’)が、例えば1つまたは複数の内部リボソーム進入部位を含み得る1つのmRNAから得られる、2シストロン性または多重シストロン性の構成も可能である。
【0077】
一実施形態によれば、少なくとも1つの免疫グロブリン分子またはその機能的変異体を発現させるためのベクター核酸が提供され、これは、
免疫グロブリン分子の重鎖またはその機能的断片をコードする第1のポリヌクレオチド、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを含む発現カセット(Exp−POI)と、
免疫グロブリン分子の対応する軽鎖またはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを含む追加の発現カセット(Exp−POI’)と
を含む。
【0078】
好ましくは、発現カセット(Exp−POI)は重鎖を含み、両方の発現カセット(Exp−POI)および(Exp−POI’)は同じ方向に配置される。好ましくは、発現カセット(Exp−POI’)は、発現カセット(Exp−POI)の5’に配置される。軽鎖用の発現カセットを重鎖の発現カセットの5’に配置すると、免疫グロブリン分子の発現率に関して有益であることが分かった。一実施形態によれば、(複数の)発現カセットが、免疫グロブリン膜貫通アンカー、および(例えばスタッファー配列中に含まれる)少なくとも1つの漏出終止コドン、および場合によっては免疫グロブリン分子の定常領域の少なくとも一部をすでに含むように、発現ベクターを設計することにもなっている。次いで、使用者/顧客により、最終的な発現ベクターを得るために適当なクローン化戦略を使用することによって、免疫グロブリン分子の可変部分をコードする断片を発現カセット中に挿入することができる。
【0079】
発現カセット(Exp−MSM)中に含めることができる哺乳動物の選択可能マーカー遺伝子の非限定的な例として、例えば、G418;ハイグロマイシン(hygまたはhph、Life Technologies,Inc.、Gaithesboro、Md.から市販されている);ネオマイシン(neo、Life Technologies,Inc.、Gaithesboro、Md.から市販されている);ゼオシン(Sh Ble、Pharmingen、San Diego、Calif.から市販されている);ピューロマイシン(pac、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ、Clontech、Palo Alto、Calif.から入手可能である)、ウアバイン(oua、Pharmingenから入手可能である)およびブラストサイジン(Invitrogenから入手可能である)に対する耐性を付与する抗生物質耐性遺伝子がある。前記哺乳動物選択可能マーカー遺伝子は、前記遺伝子を含む哺乳動物宿主細胞、したがってベクターを含む宿主細胞の選択を可能にする。本明細書において「遺伝子」という用語は、野生型遺伝子のコード配列を指すだけでなく、目的の耐性をもたらす選択可能マーカーの機能的変異体をコードする核酸配列も指す。したがって、目的の耐性をもたらす限り、野生型遺伝子の切断されたまたは突然変異したものも包含される。哺乳動物の選択可能マーカー遺伝子は、好ましくは、例えば強力な構成的プロモーターなどの外来制御エレメントを含む。好ましい実施形態によれば、前記発現カセット(Exp−MSM)は、好ましくは例えばSV40プロモーターなどの強力な構成的プロモーターなどの外来制御エレメントを含む、酵素として機能的なネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(IまたはII)をコードする遺伝子を含む。哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー遺伝子としての、酵素として機能的なDHFRをコードする遺伝子の使用と組み合わせると、この実施形態はうまく働く。
【0080】
発現カセット(Exp−MASM)中に組み込まれた哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー遺伝子は、遺伝子増幅と同様に、ベクターを含有する宿主細胞の選択を可能にする。哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー遺伝子の非限定的な例は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)酵素をコードするDHFR遺伝子である。哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー遺伝子は、好ましくは、例えば強力な構成的プロモーターなどの外来制御エレメントを含む。現在使用されている他の系は、中でもグルタミンシンセターゼ(gs)系(Bebbingtonら、1992)およびヒスチジノールによって駆動される選択系(HartmannおよびMulligan、1988)である。これらの増幅可能なマーカーは選択可能マーカーでもあり、したがってこれらを使用してベクターを得た細胞を選択することができる。DHFRおよびグルタミンシンセターゼは良好な結果をもたらす。どちらの場合でも、選択は、適当な代謝物(DHFRの場合ではヒポキサンチンおよびチミジン、GSの場合ではグルタミン)の不在下で行われ、非形質転換細胞の増殖を防ぐ。DHFR系などの増幅可能な系を用いて、例えば、DHFR系の場合ではメトトレキセート(MTX)など、遺伝子増幅を促進する特定の作用物質に細胞を曝露することにより、組換えタンパク質の発現を増大させることができる。例えば、野生型DHFR遺伝子、または例えばdhfr+細胞系統の選択を可能にするDHFR突然変異体のコード配列を使用することができる。遺伝子増幅を促進するGSの適切な阻害剤はメチオニンスルホキシミン(MSX)である。やはりMSXに曝露すると遺伝子増幅が生じる。
【0081】
一実施形態によれば、前記発現カセット(Exp−MASM)は、好ましくはSV40プロモーターと併せて使用される、酵素として機能的なジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする遺伝子を含む。
【0082】
したがって、発現カセットが少なくとも1つのプロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーエレメントを含むベクター核酸が提供される。これら2つの調節エレメント間にある物理的境界はいつも明らかであるわけではないが、「プロモーター」という用語は通常、RNAポリメラーゼおよび/または任意の付随する因子が結合し転写が開始される、核酸分子上の部位を指す。エンハンサーは、時間的にも空間的にもプロモーター活性を増強する。多数のプロモーターは、広範な細胞型において転写活性がある。プロモーターは、構成的に機能するものと、誘導または抑制解除によって制御されるものの2つのクラスに分けることができる。哺乳動物細胞におけるタンパク質の高レベルの産生に使用されるプロモーターは強力であり、好ましくは広範な細胞型において活性であるべきである。多数の細胞型において発現を駆動する強力な構成的プロモーターには、それだけに限らないが、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター、SV40およびラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにマウス3−ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、EF1aがある。プロモーターおよび/またはエンハンサーがCMVおよび/またはSV40から得られるとき、本発明の発現ベクターを用いて良好な結果が実現される。
【0083】
一実施形態によれば、対象とする(複数の)ポリペプチドを発現させるための(複数の)発現カセットは、選択可能マーカーを発現させるための発現カセットより強力なプロモーターおよび/またはエンハンサーを含む。この配置は、対象とするポリペプチドの転写物が選択マーカーより多く生成される効果を有する。個々の細胞が異種タンパク質を産生する能力は無制限ではなく、したがって対象とするポリペプチドに焦点を合わせるべきであるため、分泌される、対象とするポリペプチドの産生が、選択マーカーの産生より優勢であると有利である。
【0084】
一実施形態によれば、対象とするポリペプチドを発現させるのに使用される発現カセット(Exp−POI)および(Exp−POI’)(存在する場合)は、制御エレメントとしてCMVプロモーター/エンハンサーを含む。好ましくはDHFRおよびネオマイシンマーカー遺伝子を発現する発現カセット(Exp−MSM)および(Exp−MASM)は、SV40プロモーターまたはSV40プロモーター/エンハンサーを含む。CMVプロモーターは、哺乳動物発現に利用可能である最も強力なプロモーターの1つであることが知られ、非常に良好な発現率につながる。それは、SV40プロモーターより著しく多い転写物を与えると考えられる。
【0085】
ほとんどの真核新生mRNAは、その3’末端に、一次転写物の切断および共役したポリアデニル化反応が関与する複雑なプロセスの間に付加されるポリA尾部を有する。ポリA尾部は、mRNAの安定性および移動可能性にとって有利である。したがって、本発明によるベクターの発現カセットは通常ポリアデニル化部位を含む。ウシ成長ホルモン(bgh)、マウスβグロビン、SV40初期転写単位および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子に由来するものを含めて、哺乳動物発現ベクター中で使用できるいくつかの効率のよいポリAシグナルが存在する。しかし、合成のポリアデニル化部位も知られている(例えば、Levittら、1989、Genes Dev.3(7): 1019〜1025に基づくPromegaのpCI−neo発現ベクターを参照)。ポリアデニル化部位は、SV40の後期および初期ポリA部位などのSV40ポリA部位(例えば、Subramaniら、1981、Mol.Cell.Biol.854〜864に記載のプラスミドpSV2−DHFRを参照)、合成ポリA部位(例えば、Levittら、1989、Genes Dev.3(7):1019〜1025に基づくPromegaのpCI−neo発現ベクターを参照)およびbghポリA部位(ウシ成長ホルモン)からなる群から選択することができる。
【0086】
さらに、発現カセットは、適当な転写終結部位を含んでよい。これは、第2の転写単位により上流のプロモーターから転写が続くと、下流のプロモーターの機能を阻害することがあるため、プロモーター閉塞または転写干渉として知られる現象である。この事象は、原核生物においても真核生物においても記載がある。2つの転写単位間に転写終結シグナルを適切に置くことによって、プロモーター閉塞を防ぐことができる。転写終結部位は十分に特徴付けられており、発現ベクター中にそれを組み込むと、遺伝子発現に対する複数の有益な効果があることが示されている。
【0087】
発現カセットは、エンハンサー(上記を参照)および/またはイントロンを含んでよい。一実施形態によれば、対象とするポリペプチドを発現させるための(複数の)発現カセットはイントロンを含む。高等真核生物のほとんどの遺伝子はイントロンを含有し、それはRNAプロセシングの間に除去される。ゲノム構築物は、遺伝子導入系において、イントロンを欠く同一の構築物よりも効率よく発現する。通常、イントロンはオープンリーディングフレームの5’末端に位置する。したがって、発現率を増大させるために、対象とする(複数の)ポリペプチドを発現させるための(複数の)発現カセット中にイントロンを含めることができる。前記イントロンは、プロモーターおよびまたは(複数の)プロモーター/エンハンサーエレメントと、発現させるポリペプチドのオープンリーディングフレームの5’末端との間に位置し得る。したがって、少なくとも発現カセット(Exp−POI)が、プロモーターと、対象とするポリペプチドを発現させるためのポリヌクレオチドの開始コドンとの間に配置されるイントロンを含むベクター核酸が提供される。本発明と併せて使用できるいくつかの適切なイントロンが現況技術において知られている。
【0088】
一実施形態によれば、対象とするポリペプチドを発現させるための発現カセットで使用されるイントロンは、SISまたはRKイントロンなどの合成イントロンである。RKイントロンは強力な合成イントロンであり、対象とする遺伝子のATG開始コドンの前に置くことが好ましい。RKイントロンは、CMVプロモーターのイントロンドナースプライス部位、およびマウスIgG重鎖可変領域のアクセプタースプライス部位からなる(例えば、Eatonら、1986、Biochemistry 25、8343〜8347、Neubergerら、1983、EMBO J.2(8)、1373〜1378を参照;それは、pRK−5ベクター(BD PharMingen)から得ることができる)。
【0089】
驚くべきことに、DHFR遺伝子のオープンリーディングフレームの3’末端にイントロンを置くことは、構築物の発現/増幅率に対して有利な効果を有する。DHFR発現カセット中で使用されるイントロンは、DHFR遺伝子の小さな非機能的変異体に導く(Grillariら、2001、J.Biotechnol.87、59〜65)。それによって、DHFR遺伝子の発現レベルは低下する。このことは、MTXに対する感受性の増大およびより厳密な選択条件につながる。したがって、発現カセット(MASM)が、増幅可能な選択可能マーカー遺伝子の3’に位置するイントロンを含むベクター核酸が提供される。適切なイントロンは、pSV2−DHFRベクターから得ることができる(例えば、上記を参照)。
【0090】
前記ベクターは、原核生物の選択可能マーカー(rokaryotic electable arker)遺伝子を含む少なくとも1つの追加の発現カセット(Exp−PSM)を含んでよい。前記発現カセット(Exp−PSM)は、発現カセット(Exp−MSM)と(Exp−MASM)との間に位置し得る。前記選択可能マーカーは、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリンおよび/またはクロラムフェニコールなどの抗生物質に対する耐性をもたらすことができる。前記発現カセット(Exp−PSM)は、好ましくは、他の発現カセット(Exp−POI)、(Exp−MSM)および(Exp−MASM)と同じ5’から3’の方向で配置される。
【0091】
一実施形態によれば、ベクター中に含まれる発現カセット(Exp−POI)および/または(Exp−POI’)は、
第1のポリヌクレオチドの下流に位置する少なくとも1つの終止コドンの下流に位置するアフィニティータグをコードし、免疫グロブリン膜貫通アンカーをコードする第2のポリヌクレオチドの上流に位置するポリヌクレオチド(Pn−TAG)、および/または
選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチド(Pn−MARKER)
をさらに含む。
【0092】
その利点については上記で概略を述べている。
【0093】
ベクター核酸は、その環状の形態で宿主細胞中にトランスフェクトすることができる。スーパーコイル状のベクター分子は通常、エンドおよびエキソヌクレアーゼの活性により核内で直鎖状分子に転換される。しかし、トランスフェクションの前にベクター核酸を直鎖化すると、安定なトランスフェクションの効率がしばしば向上する。トランスフェクションの前にベクターを直鎖化する場合、これも直鎖化のポイントとして調節され得る。
【0094】
したがって、本発明の一実施形態によれば、発現ベクターは、予め定められた制限部位を含み、これをトランスフェクション前のベクター核酸の直鎖化に使用することができる。構築物を真核細胞、特に哺乳動物細胞のゲノム中に組み込むときに、前記制限部位が、ベクター核酸が開環/直鎖化される場所を決定し、したがって発現カセットの順序/配置を決定するので、賢明にも前記直鎖化制限部位を置くことは重要である。
【0095】
したがって、ベクター核酸は、ベクターを直鎖化するための直鎖化制限部位を含んでよく、前記直鎖化制限部位は発現カセット(Exp−MSM)と(Exp−MASM)との間に位置する。好ましくは、前記直鎖化制限部位はユニークであり、発現ベクター核酸中に1回だけ存在する。例えば、ベクターが直鎖化制限部位でのみ切断されるが、例えば(複数の)発現カセットまたはベクター骨格内では切断されない(またはまれにしか切断されない)ようにするために、切断頻度が低い制限酵素によって認識される直鎖化制限部位を使用することができる。これは、6塩基対を超える認識配列を有し、染色体DNA中で少ない配列を認識する制限酵素の制限部位を提供することによって促すことができる。適切な例はSwaI酵素であり、したがって、ベクターはユニークな直鎖化制限部位としてSwaI認識部位を組み込むことができる。前記直鎖化制限部位が(対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む)ベクター核酸配列中に複数回存在する場合、またはベクター核酸配列中で複数回切断する制限酵素を使用する場合、例えば、発現カセット(Exp−MSM)と(Exp−MASM)との間に位置する直鎖化制限部位のほかの制限部位を変化/突然変異させて、その追加の制限部位を除去し、ユニークな、または少なくともまれな直鎖化制限部位を得ることも本発明の範囲内である。
【0096】
ベクターが、例えばいくつかの異なるポリペプチドを発現させるためのツールとして意図される標準的な発現ベクターとして使用される場合、切断頻度が低い酵素の複数の認識部位を含む直鎖化制限部位を提供すると有利である。好ましくは、直鎖化に選択された制限酵素は、確実に酵素が1回だけ切断してベクターを適切に直鎖化するようにするために、選択可能マーカーの発現カセットまたは他のベクター骨格配列内で切断すべきでない。切断頻度が低い制限酵素の複数の認識部位を含む直鎖化制限部位を提供することによって、使用者は、対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(Pn−POI)内での制限を確実に避けるために、提供された選択肢から直鎖化に適した制限酵素を選択することができる。しかし、上記で概略を述べたように、追加の制限部位を突然変異させることもでき、または部分的制限消化を行うこともできる。
【0097】
発現カセット(Exp−MSM)と発現カセット(Exp−MASM)との間に直鎖化制限部位を置くことは、発現カセット(Exp−POI)(および存在する場合は対象とするポリペプチドを発現させるためのさらなる発現カセット)の5’に発現カセット(Exp−MASM)が隣接する効果を有する。発現カセット(Exp−MSM)は、直鎖化後に発現カセット(Exp−POI)の3’に位置する。それによって、発現カセット(MSM)および(MASM)は環状ベクター核酸の直鎖化後に分離する。細菌選択マーカー用の発現カセット(Exp−PSM)が存在する場合(下記を参照)、直鎖化制限部位は、発現カセット(Exp−PSM)と(Exp−MASM)との間に置くことが好ましい。これは、細菌選択マーカー遺伝子が3’、したがって 直鎖化されたベクター核酸の「哺乳動物」部分の「外側」となる効果を有する。細菌配列が哺乳動物細胞におけるメチル化の増大または他のサイレンシング効果につながり得るため、細菌遺伝子が哺乳動物発現にとって有利でないと推定されるので、この配置は好ましい。
【0098】
対象とするポリペプチドは、特定のタンパク質またはタンパク質の群に限られず、反対に、本明細書に記載の方法によって選択しかつ/または発現させることを所望するどんなサイズ、機能または起源のどんなタンパク質でもよい。したがって、対象とするいくつかの異なるポリペプチドを発現させる/産生することができる。ポリペプチドという用語は、(複数の)ペプチド結合によって互いに連結したアミノ酸のポリマーを含む分子を指す。ポリペプチドには、タンパク質(例えば50を超えるアミノ酸を有する)およびペプチド(例えば、2〜49アミノ酸)を含む任意の長さのポリペプチドが含まれる。ポリペプチドには、例えば、酵素タンパク質またはペプチド(例えばプロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ)、受容体タンパク質またはペプチド、輸送タンパク質またはペプチド、殺菌および/またはエンドトキシン結合タンパク質、構造タンパク質またはペプチド、免疫ポリペプチド、毒素、抗生物質、ホルモン、成長因子、ワクチンなどの生物活性ポリペプチドを含む任意の活性および生物活性のタンパク質および/またはペプチドが含まれる。前記ポリペプチドは、ペプチドホルモン、インターロイキン、組織プラスミノーゲン活性化因子、サイトカイン、免疫グロブリン、特に抗体もしくは抗体断片またはその変異体からなる群から選択され得る。
【0099】
本明細書において、対象とするポリペプチドの例として「免疫グロブリン分子」とは、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片、例えば1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含有する断片によって実質的にまたは部分的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドを含むタンパク質を指す。認識されている免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子がある。軽鎖は、例えばκまたはλに典型的には分類される。
【0100】
重鎖は、例えばγ、μ、α、δ、またはεに典型的には分類され、これらがそれぞれ免疫グロブリンのクラスIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定義する。前記免疫グロブリンはどんなアイソタイプのものでもよい。治療用タンパク質として、IgG(例えばIgG1)分子が産生される/必要とされることが非常に多い。典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位はテトラマーを含む。天然には、各テトラマーは2つ同一の対のポリペプチド鎖から構成され、各対は1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する。各鎖のN末端は、抗原認識に主として関与する約100〜110以上のアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)という用語は、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0101】
抗体は、完全な免疫グロブリンとして、または例えば様々なペプチダーゼでの消化によって産生され得るいくつかの十分に特徴付けられた断片として存在する。抗体断片は、少なくとも依然として抗原結合能を有する、前記全抗体由来の少なくとも20アミノ酸、好ましくは少なくとも100アミノ酸を含む抗体の任意の断片である。抗体断片は、Fab断片、F(ab)2断片、ダイアボディ、トリアボディやテトラボディなどの複数の結合ドメインを含むマルチボディ、単一ドメイン抗体やアフィボディなど、抗体の結合領域を含み得る。抗体変異体とは、同じ結合機能を有するが、例えばアミノ酸配列が変化している抗体または抗体断片の誘導体である。前記抗体および/または抗体断片は、マウス軽鎖、ヒト軽鎖、ヒト化軽鎖、ヒト重鎖および/またはマウス重鎖ならびにその活性断片または誘導体を含み得る。したがって、それは例えばマウス、ヒト、キメラのまたはヒト化されたものであり得る。様々な抗体断片が完全な抗体の消化の観点から定義されているが、当業者なら、化学的にまたは組換えDNA法、ペプチドディスプレイなどを利用することによってそのようなFab’またはF(ab)2 断片を新規に合成できることを理解するであろう。したがって、本明細書において、抗体という用語は、全抗体の改変によって産生され、または組換えDNA法を使用して新規に合成された抗体断片も含む。抗体は、単一アームの複合モノクローナル抗体、可変重鎖および可変軽鎖が(直接またはペプチドリンカーを介して)連結して連続したポリペプチドを形成する単鎖Fv(scFv)抗体を含む単鎖抗体、ならびにダイアボディ、トリボディおよびテトラボディも含む(例えば、Packら、J Mol Biol.1995 Feb 10;246(1):28〜34;Packら、Biotechnology(N Y).1993 Nov;11(11):1271〜7;Pack & Plueckthun Biochemistry.1992 Feb 18;31(6):1579〜84を参照)。抗体は、例えばポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、単鎖、Fab断片、単鎖Fab(Hustら、BMC Biotechnol(2007)7:14)、Fab発現ライブラリーによって産生される断片などである。
【0102】
本発明に従って産生されるポリペプチドは、当技術分野で知られている方法によって回収することができる。例えば、ポリペプチドは、それだけに限らないが、遠心分離、濾過、限外濾過、抽出または沈殿を含む従来の手順によって栄養培地から回収することができる。それだけに限らないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、疎水性、クロマトフォーカシングおよびサイズ排除)、電気泳動の手順(例えば、調製等電点電気泳動)、溶解度の相違(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)または抽出を含めて、当技術分野で知られている様々な手順によって精製を行うことができる。さらに、細胞破砕によって宿主細胞からポリペプチドを得ることができる。
【0103】
上記に記載のベクター核酸を作製する方法であって、カセット(Cas−POI)、好ましくは発現カセット(Exp−POI)が、対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを含むように、ベクター中に少なくとも1つの前記カセットを構築するステップを含む方法も提供される。前記方法は、
哺乳動物の選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(Exp−MSM)、
哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(Exp−MASM)
を構築するステップをさらに含んでよく、好ましくは、その結果発現カセット(Exp−MASM)が発現カセット(Exp−POI)の5’に位置し、発現カセット(Exp−MSM)が3’に位置し、発現カセット(Exp−MASM)、(Exp−POI)および(Exp−MSM)が同じ5’から3’の方向で配置される。
【0104】
上記に記載のスクリーニング方法によって得られる真核、好ましくは哺乳動物宿主細胞も提供される。対象とするポリペプチドをコードする異種の、したがって外来のポリヌクレオチド、前記異種ポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にあるポリヌクレオチドを含むカセット(Cas−POI)を含む真核、好ましくは哺乳動物宿主細胞も提供される。例えば、本発明によるベクター核酸によってカセット(Cas−POI)を導入することができる。好ましくは、カセット(Cas−POI)および/またはカセット(Cas−POI’)は発現カセットである。
【0105】
カセット(Cas−POI)のさらなる性質および適切なベクターの詳細は上記に記載されており、本発明の宿主細胞にも適用される。適切な真核宿主細胞は上記に記載されている。好ましくは、真核宿主細胞は哺乳動物宿主細胞である。一実施形態によれば、真核宿主細胞はB細胞またはB細胞誘導体でない。したがって、真核、好ましくは哺乳動物宿主細胞は、IgαおよびIgβ受容体鎖を天然に発現しない宿主細胞である。さらに、一実施形態によれば、IgαおよびIgβ受容体鎖の人工的な同時発現は前記宿主細胞中で起こらない。CHO細胞は好ましい宿主細胞である。
【0106】
上記に記載の真核宿主細胞を作製する方法であって、真核宿主細胞に、本発明によるベクター核酸および/または本発明によるカセット(Cas−POI)を含む異種核酸をトランスフェクトする方法も提供される。哺乳動物宿主細胞中に発現ベクターを導入する、従来技術において知られているいくつかの適当な方法が存在する。それぞれの方法には、それだけに限らないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、遺伝子銃およびポリマーが媒介する遺伝子移入がある。旧来のランダムな組み込みに基づく方法のほかに、組換えが媒介する手法を使用して、宿主細胞ゲノム中にカセット(Cas−POI)を移入することもできる。そのような組換え方法には、移入遺伝子の特異的挿入を媒介することができるCre、FlpまたはΦC31のような部位特異的リコンビナーゼの使用(例えば、Oumardら、Cytotechnology (2006)50:93〜108を参照)が含まれ得る。あるいは、相同組換えの機構を使用してカセット(Cas−POI)を挿入することもできる(Sorrellら、Biotechnology Advances 23 (2005) 431〜469に総説されている)。組換えに基づく遺伝子挿入によって、宿主細胞に移入/導入される異種核酸中に含まれるエレメントの数を最小限にすることが可能となる。例えば、(外因性または内因性の)プロモーターおよびポリA部位をすでに備える挿入座位を使用することができ、その結果、残りのエレメント(例えば対象とするポリヌクレオチド、終止コドンおよびその機能的な断片の免疫グロブリン膜貫通アンカーをコードするポリヌクレオチド)だけを宿主細胞に移入/トランスフェクトすることが必要となる。欠けている部分が挿入部位に存在する場合は、カセット(Cas−POI)の部分の移入でも十分である。本発明による適切な発現ベクターならびに適切な宿主細胞および対象とするポリペプチドの実施形態は上記で詳細に記載されている:上記の開示を参照されたい。
【0107】
上記で定義され、特許請求の範囲にある、本発明による方法によって得られるポリペプチドも提供される。前記ポリペプチドは、好ましくは免疫グロブリン分子またはその断片である。本発明の方法に従って産生されたポリペプチドは、良好な安定性の特性を表す。この結果は、ポリペプチドが機能的な形態で、したがって正しい高次構造で発現されることも示す。したがって、本発明は、上記で詳細に記載した発現ベクターを使用して、本発明による産生方法により得られたポリペプチドも提供する。上記で概略を述べたように、ポリペプチドは、組み込まれている選択/スクリーニングステップにより好収量で得られる。ポリペプチドは、好ましくは抗体などの免疫グロブリン分子またはその断片である。
【0108】
下記の非限定的な実施例によって本発明をさらに例示するが、この実施例は本発明の好ましい実施形態について記載するものである。
【実施例1】
【0109】
Ig膜貫通型のベクター構築
IgG1定常重鎖領域の一部+漏出終止コドンスタッファーならびにIg膜貫通および細胞質ドメインをコードする1113bpの合成DNA断片を、Age1およびAsc1を介してpBW201(IgG1重鎖およびκ軽鎖を含有する標準的なベクター)に挿入して、pNT11を得る(表1を参照)。使用されるIg膜貫通ドメインのヌクレオチド配列は配列番号1で示され、漏出終止コドンスタッファーが示されている。もちろん、本発明の原理に従って、同じ膜固着機能をもたらす、コードされたIg膜貫通ドメインの変異体を使用することもできる。前記変異体は、コードされたIg膜貫通ドメインの相同体であり、例えば、保存的アミノ酸置換によって得ることができる。これらは、好ましくは少なくとも80%、85%、90%の相同性を有する。それぞれの変異体をコードするポリヌクレオチドは、例えば、厳密な条件下で、示された配列とハイブリダイズする。
【0110】
pNT11およびpBW201のwtDHFR選択マーカー遺伝子は、SwaIおよびBglIIを介して、DHFRのL23P点突然変異体をコードする1252bpの合成断片によって置換することができ、それによってpNT29およびpBW478が得られる。このDHFR突然変異体はdhfr+細胞系統の選択を可能にする。
【0111】
FACSベクター(pNT11、pNT29)は、抗体発現用の標準的なベクター(pBW201、pBW478)を基礎とする。pNT11およびpBW201は、有しているDHFR選択マーカーカセットにおいてpNT29およびpBW478と異なっている。骨格が同一であることは別として。ベクターは単シストロン性の「タンデムな」構成を有し、どちらもCMVプロモーター/エンハンサーによって駆動される抗体軽鎖および重鎖の発現カセットを含有する。FACSベクターを得るための唯一の改変は、抗体重鎖(HC)cDNAの3’へのIgG1膜貫通および細胞質ドメインの挿入であった。漏出性の翻訳終結シグナルを有する短いスタッファーが、HCと膜貫通ドメインの間に位置する。終止コドンについて選択されたこの配列環境が、最大5%のリードスルーにつながると予想される。4つのベクターは全て同じヒトIgG抗体をコードしている。
【0112】
上記で概略を述べたように、発現に使用されるベクター核酸、特に選択されたベクターエレメントの方向および配置によって、免疫グロブリン分子の非常に効率のよい発現が可能となる。本発明と併せて使用することができる、上記に記載した適切なベクターを以下の表に例示する(矢印は遺伝子エレメントの5’から3’の方向を示す):
【0113】
【表1】

【0114】
表1中の略語は、当業者にとって通常の明らかな意味を有し、特に下記の意味を有する:
CMVprom/enh=ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター/エンハンサー
RK−イントロン=CMVプロモーターのイントロンドナースプライス部位、およびマウスIgG重鎖可変領域のアクセプタースプライス部位を含む(例えば、Eatonら、1986、Biochemistry 25、8343〜8347、Neubergerら、1983、EMBO J.2(8)、1373〜1378を参照;それは、pRK−5ベクター(BD PharMingen)から得ることができる)
mAB−LC=モノクローナル抗体軽鎖
mAB−HC=モノクローナル抗体重鎖
SV40ポリA=SV40ポリA部位
SV40prom/enhan=SV40プロモーター/エンハンサー
Neo=ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ
合成ポリA=合成ポリアデニル化部位
Amp=βラクタマーゼ抗生物質耐性遺伝子
DHFR=ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子。
【実施例2】
【0115】
CHO細胞のトランスフェクションおよび選択
専売の既知組成培地中でCHO細胞を増殖させている懸濁液を使用して、振盪フラスコで細胞培養、トランスフェクションおよびスクリーニングを実施する。製造業者の説明書に従って、リポフェクションまたはエレクトロポレーション(ヌクレオフェクション)により細胞をトランスフェクトする。GFP(緑色蛍光タンパク質)レポータープラスミドをトランスフェクトし、トランスフェクトした細胞のフローサイトメトリー分析を行うことによってトランスフェクション効率を確認する。細胞生存率に応じて、G418含有選択培地を細胞に添加することにより、トランスフェクションの24〜48時間後に選択を開始する。細胞が80%を上回る生存率まで回復するとすぐに、G418を含まないMTX(メトトレキセート)含有培地に細胞を継代することによって第2の選択ステップを適用する。MTX選択から細胞が回復した後、FACS濃縮サイクル、FACSクローン化または限界希釈クローン化およびスクリーニングの全体にわたってMTX含有培地中で培養を続ける。
【0116】
自動化システム(ViCell、Beckmann Coulter)を使用して、細胞生存率および増殖をモニターする。
【実施例3】
【0117】
細胞のFACS分析、濃縮およびクローン化
細胞の標識:トランスフェクトしたプール当たり2×10E7個の細胞を遠心分離し、冷やしたPBS(リン酸緩衝食塩水)5mLで洗浄し、冷PBS1mL中に再懸濁する。適切な量のFITC(フルオレセインイソチオシアネート)標識抗IgG抗体を細胞に添加し、氷上で30分間、暗所でインキュベートする。その後、細胞を室温で2回、PBS5mLで洗浄し、PBS1mL中に再懸濁し、それを濾過し、分析、選別およびクローン化用のFACSチューブ中に分注する。
【0118】
細胞の分析、選別およびクローン化:細胞選別は、FACSDivaソフトウェアを使用して、自動細胞捕集装置(ACDU)を備えたFACSAria(Becton Dickinson)で行う。488nmに調整した低出力空冷式固体レーザー(Coherent(登録商標)Sapphire(商標)固体)を使用して、二次抗体と結合したフルオレセイン色素を励起する。530/30BPフィルターを介して、E検出器上で相対FITC蛍光強度を測定する。5%の最も高いFITC蛍光の細胞にゲートをかけ、一括してまたは96ウェルプレートにおいて単一細胞としてそれを選別する。
【実施例4】
【0119】
クローンの産生能および安定性の決定
クローンの産生能は、異なる形式を使用して、回分および流加実験で分析する。初回のクローンスクリーニングは、24ウェルプレート回分アッセイで、振盪した24ウェルプレートに細胞を播くことによって行う。培養の開始から10日後に、プロテインA HPLCによって細胞培養上清中の抗体濃度を決定する。最高の産生クローンも回分および流加式で振盪フラスコモデルにおいて分析する。使用容量が100mLである500mLの振盪フラスコ中に回分培養物を播き、振盪キャビネット(加湿しない)中で、150rpmおよび10%CO2で培養する。細胞の生存率は、アッセイの開始時に>90%であるべきである。播く細胞の密度は2×10c/mLである。産物濃度/細胞数/生存率の決定は3〜7、10および13日目に行う。同じ条件を使用して流加実験を行うが、開始細胞密度を4×10c/mLにし、定期的に栄養を添加する。振盪フラスコ回分モデルを使用して2週間ごとに産生能を測定しつつ14週間にわたって細胞を培養することにより、クローン安定性を評価する。
【実施例5】
【0120】
一過性にトランスフェクトした細胞の分析
新たなFACSベクター(ここではpNT11またはpNT29)でのトランスフェクション後に膜結合翻訳産物が細胞表面上に存在するかどうかを試験するために、免疫染色およびフローサイトメトリーによって、一過性にトランスフェクトした細胞を分析する。トランスフェクションから48時間後、ヒトIgGに対するFITC標識抗体で細胞を染色する。GFP発現ベクターをトランスフェクトした細胞がトランスフェクション対照として使用され、トランスフェクション効率が約60%であると計算される。非トランスフェクト細胞および標準的なベクター(膜貫通ドメインを含まない)をトランスフェクトした細胞は、著しいレベルの表面結合抗体を示さないが、FACSベクターをトランスフェクトした細胞の16%がバックグラウンドレベルを超えて染色される。これは、細胞膜に固着した融合ペプチド、ここでは抗体分子を細胞表面上で検出できることを示す。
【実施例6】
【0121】
安定なトランスフェクト細胞の分析および濃縮
一過性にトランスフェクトした細胞上で膜結合抗体の存在が示された後、トランスフェクトした細胞の選択されたプールにおける表面発現レベルおよび分布を分析する。それによって、FACS選別により産生細胞を選択的に濃縮できることを示すことができる。したがって、トランスフェクション後の細胞をG418で、その後MTXで選択する。得られた耐性細胞のプールをFITC標識抗IgG抗体で染色し、フローサイトメトリーによって分析する。対照として、非トランスフェクト細胞を染色し分析する。FACSベクターをトランスフェクトした、選択されたプール中で、陽性細胞の部分集団を検出する。それによる陽性細胞の分布は、2つの分析されたプール間で異なっていた。高産生細胞をその蛍光シグナルに基づいて濃縮できるかどうか(したがって定量的選択が可能であるかどうか)を評価するために、2つのプールそれぞれから最も高い蛍光強度を有する細胞を選別し(上位5%)、継代培養して産生能を濃縮前のプールと比較する。
【実施例7】
【0122】
濃縮細胞および非濃縮細胞の産生能の分析
13日目に最終産物濃度を比較する、振盪フラスコ回分培養物におけるフローサイトメトリー濃縮前後の選択されたプールの産生能分析を行う。13日目に上清を回収し、プロテインA−HPLCによりIgG含量について分析する。本発明の教示によるFACS濃縮サイクルを1回行った後すでにどちらのプールも産生レベルの著しい増大を示す。プール1の産物濃度はおよそ2倍増大するが、プール2はほぼ10倍増大し、このことは高産生細胞が染色および選別の間に選択的に検出されることを示す。最初の濃縮サイクルですでにほぼ250mg/lの抗体濃度を得ることができる。
【実施例8】
【0123】
高産生細胞のフローサイトメトリーに基づく選択的クローン化
フローサイトメトリーを使用して、個々の染色細胞をその染色プロファイルに従って選別し播くことができる。そのような選択的クローン化の結果、限界希釈によるクローン化より高産生クローンの数が多くなるかどうかを分析するために、両方の方法を使用してクローンを得、24ウェルプレート回分培養物において産生能を分析する。24ウェルプレート中で回分培養を行い、10日目に上清を回収し、プロテインA−HPLCによりIgG含量について測定する。その結果は下記の通りである:
【0124】
【表2】

【0125】
フローサイトメトリーに由来するクローンは限界希釈に由来するクローンと比較して高い平均産生能を有し、このことはまた、その産生能の範囲のクローン分布にも反映される。
【実施例9】
【0126】
FACSおよび標準的なベクターの比較
トランスフェクトした細胞のフローサイトメトリー濃縮の有益な効果を確認し、FACSベクター(pNT29)の使用を標準的なベクターと比較するために、細胞にトランスフェクトし、G418およびMTXで選択する。FACSベクターをトランスフェクトした3つの細胞プール(試料1、2および3)および標準的なベクターをトランスフェクトした3つの細胞プール(試料7、9および9)をフローサイトメトリーによって分析し、最も高い染色シグナルを有する5%を選別する。振盪フラスコ回分培養を行って、濃縮後の産物濃度の増大を比較する。トランスフェクトし選択したプールを染色しフローサイトメトリーにより選別して、蛍光強度に基づいて上位5%を濃縮する。濃縮の前後で振盪フラスコ回分培養を行い、13日後にプロテインA−HPLCによって上清を分析する。その結果は(およそ)下記の通りである:
【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
この結果によって実証されるように、FACSベクタートランスフェクト細胞の産生レベルは、試験した3つのプールで著しく増大するが、標準的なベクターの場合、1つのプールだけが産物濃度の著しい増大を示した。FACSベクターでの濃縮後の産物濃度の平均は、標準的なベクターと同様に著しく高くなる。2回のさらなる連続のFACS濃縮サイクルを行って高産生細胞を濃縮すると、FACSベクターの場合でのみ細胞集団の産生能が増大することを示す。最終的に、産物濃度を4〜30倍増大させることができる。
【0130】
選択的クローン化に対する両方のベクターの適性を比較するために、同等の産生能を有する非濃縮プール由来のクローンを、フローサイトメトリーによって選択的に選別する。その後、24ウェル回分培養物中でクローンの産生能を分析する。FACSベクターをトランスフェクトしたプールに由来するクローンが、標準的なベクターをトランスフェクトしたプール由来のクローンと同様に高い平均発現レベルを有することが認められる。産生能のクローン分布は、FACSベクターの場合に多数の良好な産生クローンが得られることを示す(表5を参照):
【0131】
【表5】

【実施例10】
【0132】
FACSベクターと標準的な発現ベクターとのさらなる比較
a)ベクター構築
実施例1に記載のようにベクターpBW201、pNT11、pBW478およびpNT29を得る。
【0133】
b)CHO細胞のトランスフェクション、選択およびクローン化
実施例2に記載のようにこれを行う。
【0134】
c)細胞のFACS分析、濃縮およびクローン化
実施例3に記載のようにこれを行う。
【0135】
d)抗体産生およびクローン安定化の決定
クローンおよびプールの産生能は、異なる形式を使用して、回分および流加実験で分析する。振盪フラスコ回分アッセイで、許容量250mLの振盪フラスコを使用して、使用容量50mL中に1mL当たり細胞1×10個(c/mL)を播くことによりFACS濃縮前後のプールを分析する。回分培養の13日目で採取された試料のプロテインA−HPLCによってIgG含量を分析する。クローンの初回のスクリーニングは、24ウェルプレート回分アッセイで、振盪した24ウェルプレートに細胞を播くことによって行う。培養の開始から10日後に、定量的プロテインA−HPLCによって細胞培養上清中の抗体濃度を決定する。最高の産生クローンを、回分および流加式で振盪フラスコモデルにおいて分析する。使用容量100mLの振盪フラスコ(許容量500mL)中に回分培養物を播き、振盪キャビネット(加湿しない)中で、150rpm、36.5℃および10%COで培養する。細胞の生存率は、アッセイの開始時に>90%である。播く細胞の密度は2×10c/mLである。抗体濃度、細胞数および生存率は3〜7、10および13日目に決定する。同じ条件を使用して流加実験を行うが、実行期間を17日とし、開始細胞密度を4×10c/mLにし、生存細胞密度が7×10c/mLを上回ってから定期的に栄養を添加する。振盪フラスコ回分モデルを使用して2週間ごとに産生能を測定しつつ12週間にわたって細胞を培養することにより、クローン安定性を評価する。
【0136】
e)安定なトランスフェクト細胞の分析および濃縮
安定にトランスフェクトされた細胞集団における表面発現を分析して、FACS選別により産生細胞を選択的に濃縮できるかどうかを試験する。したがって、トランスフェクション後の細胞をG418で、その後MTXで選択する。得られた耐性細胞のプール(ベクター当たり10個)を上記に記載のように染色し、フローサイトメトリーによって分析する。使用した染色プロトコールで、pBW478とpNT29両方のトランスフェクト細胞プールにおいて細胞の陽性部分集団を検出することができる。予想されるように、FACSベクターで高い割合のFACS陽性細胞が認められる。
【0137】
高産生細胞をその蛍光シグナルに基づいて濃縮できることを示すために、個々の細胞プールから最も高い蛍光強度を有する細胞を選別し(上位5%)、継代培養して産生能を濃縮前のプールと比較する。1回選別した細胞集団を増殖させプールした後、濃縮の2回目のサイクルを行う。染色陽性細胞の百分率は、驚くべきことに、1回目の濃縮サイクルにおいて標準的なベクターで最も増大した。FACSベクターをトランスフェクトしたプールは、使用した染色プロトコールでは同様の濃縮倍率を示し、一般に著しいプール間の変動が観察された。2回目の濃縮サイクル後、ほぼ均一なFACS陽性細胞集団が得られる(表6aおよび6bを参照)。
【0138】
表6aおよび6b:選別前後の平均染色結果および産生能
【0139】
【表6】

【0140】
【表7】

【0141】
f)濃縮細胞および非濃縮細胞の産生能の分析
13日目に最終力価を比較する、振盪フラスコ回分培養物におけるフローサイトメトリー濃縮前後の選択されたプールの産生能分析を行う。濃縮前のプールの産生能は、使用した両方のベクターで非常に似た範囲にある。個々のプールに対する1回目の濃縮サイクルで、平均産生能の著しい向上が全ての手法で実現され、さらに、個々のプール間に実質的な変動が存在する(表6bを参照)。驚くべきことに、非常に高いレベルのFACS染色陽性細胞が前に認められたが、標準的なベクターをトランスフェクトしたプールの産生能は、FACSベクターをトランスフェクトしたものと比較して高くない。プールし選別した細胞集団から2回目に選別することによって、標準的なベクターでは産生能のさらなる向上は実現されない。対照的に、FACS染色結果からほぼ100%の細胞が抗体を産生しているはずであることが示唆されるが(表6aを参照)、低い産生能が得られる。FACSベクターをトランスフェクトしたプールの産生能は、2回目に選別することによって著しく向上させることができた。使用したFACS手順で、高産生細胞がより選択的に濃縮され、産生能が非選別集団と比較して少なくとも約8倍、1回選別した後のプールと比較して少なくとも2倍増大する。
【0142】
g)高産生細胞のフローサイトメトリーに基づく選択的クローン化
フローサイトメトリーを使用して、個々の染色細胞をその染色プロファイルに従って選別し播くことができる。そのような選択的クローン化の結果、標準的なベクターと比較してFACSベクターを使用したときに高産生クローンの数が多くなるかどうかを分析するために、両方の方法を使用してクローンを得、24ウェルプレート回分培養物において産生能を分析する。
【0143】
1回目は、事前濃縮ステップを行わずに、MTXで選択された細胞プールから細胞を直接FACSでクローン化する。ベクター当たり3つのプールを、その染色プロファイルに基づいて選択する。染色された細胞プールの上位5%からクローンを得、合計で約500個のクローンを分析する。基準ベクターでのクローンの平均産生能は39mg/Lであったが、FACSベクタークローンは平均で87mg/Lを産生した。表7aで示されるように、これはまたそのクローン分布によっても反映され、この分布から非常に高い割合の高産生クローンがFACSベクターで得られることが確認される。興味深いことに、標準的なベクターのトランスフェクションから分析された270個を超えるクローンのうち1個が、他と比較してほぼ2倍高い産生能を有していた。この例外的なクローンをLPと称する。したがって、FACSスクリーニング手順と組み合わせて標準的なベクターの構成でそのような高産生細胞クローンを同定することは一般に可能である。しかし、それは非常にまれであり、したがって幸運な事象である。これはまた本発明の教示による選択プロセスに対する決定的な相違でもある。標準的な構成は例外的な、したがってまれな場合でのみ(超)高産生体の選択を可能にするが、本発明による方法は、再現性よく、したがって確実に(超)高産生体の選択を可能にする。
【0144】
1回目の濃縮サイクル後のベクター当たり10個のプールされた集団から開始して2回目のFACSクローン化実験を行う。今回は24ウェル回分培養物中でおよそ240個のクローンをスクリーニングする。やはり、FACSベクターで得られたクローンは、基準の標準的なベクターよりはるかに高い平均産生能を有する。基準ベクターでは平均クローン産生能は40mg/Lであり、事前濃縮を行わないクローン化と比較して向上は実現されない。LPクローンは再び同定されなかった。FACSベクターをトランスフェクトしたクローンの場合、使用したFACS方法で275mg/Lの平均産生能が得られた。クローン分布は、高産生体の選択的クローン化に関してFACSベクターの構成が優位であることを明らかに示す(表7bを参照)。
【0145】
表7aおよび7b:クローンの産生能の比較
【0146】
【表8】

【0147】
【表9】

【0148】
h)クローンの特徴付け
標準的なベクターに由来するLPクローンならびに10個の高産生FACSベクタークローンを振盪フラスコに増殖させ、それを一般的な振盪フラスコ回分および流加モデルで試験してその製造潜在性を評価する。
【0149】
回分培養物中の産生能は、試験した全てのクローンについて1g/Lの範囲でほぼ同じであることが分かる。流加での産生能も、全てのクローンについて3.5〜4g/Lの範囲で非常に似ている(表8を参照)。FACSベクターをトランスフェクトしたクローンと基準ベクターをトランスフェクトしたクローン(LPおよび以前の実験のクローン)を比較したとき、増殖パラメーターにおける著しい相違は観察されない。また、FACSベクターに由来するクローンで産生の安定性が高いことが認められ、分析したクローン10個のうち1個だけが培養12週間後に25%を超える産生能の下落を示し、以前の実験において基準の標準的なベクターで観察された(データは示さず)不安定なクローンの比率は低い。
【0150】
【表10】

【実施例11】
【0151】
トランスフェクトしたCHO細胞を用いたポリペプチドの大規模産生
例えばウェーブ、ガラスまたはステンレス鋼バイオリアクター中で大規模なポリペプチドの産生を行うことができる。その目的で、通常は単一の冷凍バイアル、例えばマスターセルバンク(Master Cell Bank)のバイアルから開始して細胞を増殖させる。細胞を解凍し、いくつかのステップを介して増殖させる。様々な規模のバイオリアクターに適当な量の細胞を接種する。栄養溶液および添加物をバイオリアクターに添加することによって、細胞密度を増大させることができる。細胞は高い生存率で長い間維持される。1リットル当たり数百ミリグラムから最大で1リットル当たり数グラムにわたるリアクター中の産物濃度が大規模に実現される。アフィニティー、イオン交換、疎水性相互作用またはサイズ排除クロマトグラフィーステップを含み得る、標準的なクロマトグラフィー法によって精製を行うことができる。バイオリアクターのサイズは最終的な規模で最大数千リットルの容量となり得る(例えば、F.Wurm、Nature Biotechnology 22巻、11、2004、1393〜1398も参照されたい)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望されるレベルの対象とするポリペプチドを発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択する方法であって、
a)対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを少なくとも含む少なくとも1つのカセット(Cas−POI)を含む異種核酸を含む複数の真核宿主細胞を提供するステップと、
b)対象とするポリペプチドの少なくとも一部が免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を含む融合ポリペプチドとして発現されるように、真核宿主細胞を培養して対象とするポリペプチドを発現させるステップであって、前記融合ポリペプチドが前記宿主細胞の表面上に提示されているステップと、
c)細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと
を含む方法。
【請求項2】
高収量で対象とするポリペプチドを産生する方法であって、
a)対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを含む少なくとも1つのカセット(Cas−POI)を含む異種核酸を含む複数の真核宿主細胞を提供するステップと、
b)対象とするポリペプチドの少なくとも一部が免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を含む融合ポリペプチドとして発現されるように、真核宿主細胞を培養して対象とするポリペプチドを発現させるステップであって、前記融合ポリペプチドが前記宿主細胞の表面上に提示されているステップと、
c)細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと、
d)対象とするポリペプチドの発現を許容する条件下で、培地中で選択された真核宿主細胞を培養するステップと
を含む方法。
【請求項3】
カセット(Cas−POI)の発現の結果、
その翻訳の結果対象とするポリペプチドが生じる第1のポリヌクレオチドと、
前記第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドンと、
その翻訳の結果免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体が生じる、前記終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドと
を少なくとも含む転写物が生じ、転写物の少なくとも一部が、少なくとも1つの終止コドンの翻訳リードスルーにより、免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体を含む融合ポリペプチドに翻訳される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
免疫グロブリン膜貫通アンカーが、
a)IgA、IgE、IgM、IgGおよび/またはIgDに由来する膜貫通アンカー、
b)細胞質ドメインを含む免疫グロブリン膜貫通アンカー、
c)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および/または配列番号7で示される配列を含む免疫グロブリン膜貫通アンカー、ならびに
d)融合ポリペプチドと真核宿主細胞の表面の固着を可能にする、上記a)〜c)に記載の膜貫通アンカーの機能的変異体
からなる群から選択される、請求項1から3の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)が 、融合ポリペプチドと結合する検出化合物と複数の真核宿主細胞を接触させるステップと、結合した検出化合物の存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップとを含む、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
終止コドンのリードスルーの結果、およそ≦50%、≦25%、≦15%、≦10%、≦5%、≦2.5%、≦1.5%、≦1%のまたは≦0.5%より少ない融合ポリペプチドが生じる、請求項1から5の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項7】
2つ以上の選択サイクルを行い、各選択サイクルにおいて、細胞表面上に提示されている融合ポリペプチドの存在または量に基づいて少なくとも1つの真核宿主細胞が選択される、請求項1から6の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項8】
検出化合物と真核宿主細胞の表面との結合が、フローサイトメトリーによって検出される、請求項1から7の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項9】
真核宿主細胞中で少なくとも1つの対象とするポリペプチドを発現させるのに適したベクター核酸であって、
a)対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)の挿入部位、および/または対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドを含む少なくとも1つのカセット(Cas−POI)と、
b)前記挿入部位の下流および/または第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドンと、
c)免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドと
を含むベクター核酸。
【請求項10】
下記の特徴:
カセット(Cas−POI)中にある、対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、
哺乳動物の選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MSM)、および/または
哺乳動物の増幅可能な選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MASM)
のうち少なくとも1つを含む、請求項9に記載のベクター核酸。
【請求項11】
免疫グロブリン分子の重鎖またはその機能的断片をコードする第1のポリヌクレオチド、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを含む発現カセット(Exp−POI)と、
免疫グロブリン分子の対応する軽鎖またはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを含む追加の発現カセット(Exp−POI’)と
を含む、少なくとも1つの免疫グロブリン分子またはその機能的変異体を発現させるための請求項9または10に記載のベクター核酸。
【請求項12】
請求項9から11の少なくとも一項に記載のベクター核酸を作製する方法であって、カセット(Cas−POI)が、対象とするポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド(Pn−POI)、第1のポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーまたはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にある第2のポリヌクレオチドを含むように、ベクター中に少なくとも1つの前記カセット(Cas−POI)を構築するステップを含む方法。
【請求項13】
下記の特徴:
a)請求項1から8の少なくとも一項に記載の方法によって得られること、
b)対象とするポリヌクレオチドをコードする異種ポリヌクレオチド、前記異種ポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドン、および免疫グロブリン膜貫通アンカーもしくはその機能的変異体をコードする、終止コドンの下流にあるポリヌクレオチドを少なくとも含むカセット(Cas−POI)を含むこと、ならびに/または
c)請求項9から11の少なくとも一項に記載のベクター核酸を含むこと
のうち少なくとも1つを有する真核宿主細胞。
【請求項14】
対象とするポリペプチドを産生する方法であって、請求項13に記載の真核宿主細胞を培養して対象とするポリペプチドを発現させる方法。
【請求項15】
請求項2から8または14の一項に記載の対象とするポリペプチドを産生する方法であって、下記のステップ:
細胞培養物から前記ポリペプチドを得るステップ、
培地中に前記ポリペプチドを分泌させ培地から前記ポリペプチドを得るステップ、
真核宿主細胞を破砕して、発現した前記ポリペプチドを得るステップ、
発現した前記ポリペプチドを単離するステップ、
発現した前記ポリペプチドを精製するステップ、ならびに/または
発現した前記ポリペプチドをさらに処理および/もしくは修飾するステップ
のうち少なくとも1つを行う、方法。

【公表番号】特表2012−500637(P2012−500637A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524256(P2011−524256)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006246
【国際公開番号】WO2010/022961
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】