組み換え微生物及びこれを用いた脂肪族ポリエステルの製造方法
【課題】組み換え微生物を使用した脂肪族ポリエステルの製造において、脂肪族ポリエステル生産性を向上する。
【解決手段】宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子とを導入してなる組み換え微生物を培養し、培地から脂肪族ポリエステルを回収する。
【解決手段】宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子とを導入してなる組み換え微生物を培養し、培地から脂肪族ポリエステルを回収する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宿主微生物に所定の遺伝子を導入することで所望の機能を付与された組み換え微生物及びこれを用いた脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステルは、自然界で容易に分解される生分解性プラスチックとして、また糖や植物油などの再生可能な炭素資源から合成することができる“グリーン”プラスチックとして、注目されている。現在、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸等の乳酸骨格を有するものが実用的に利用されている。
【0003】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを組み換え微生物を利用して製造する技術としては、例えば特許文献1(WO 2006/126796)に開示された技術が知られている。特許文献1には、宿主となる大腸菌に、乳酸を乳酸CoAに変換する酵素をコードする遺伝子及び乳酸CoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する酵素をコードする遺伝子を導入した組み換え大腸菌を開示している。特許文献1に開示された技術において、乳酸を乳酸CoAに変換する酵素をコードする遺伝子としては、Clostridium propionicum由来のpct遺伝子を使用している。また、同技術において、乳酸CoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する酵素をコードする遺伝子としては、Pseudomonas sp. 61-3株由来のphaC2遺伝子を使用している。
【0004】
但し、特許文献1には、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルの生産性が十分とは言えず、また当該生産性を向上させるために種々の検討が不十分である。例えば、特許文献2(WO 2008/062999)には、Pseudomonas sp. 6-19株由来のphaC1遺伝子に特定の変異を導入することで、乳酸CoAを基質として乳酸ホモポリマー又はポリ乳酸コポリマーの合成能を高めようとする試みが開示されている。
【0005】
上述したような組み換え微生物を利用してポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを製造する技術は、当該微生物内に脂肪族ポリエステルを蓄積するものであり、微生物を破砕して目的とする脂肪族ポリエステルを回収するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2006/126796
【特許文献2】WO 2008/062999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、組み換え微生物を利用してポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを製造する技術は、微生物の内部に脂肪族ポリエステルを蓄積するものであるため生産性が低いといった問題があり、また、微生物を破砕して脂肪族ポリエステルを回収するため煩雑な工程が必要であるといった問題があった。そこで、本発明は、脂肪族ポリエステルの生産性に優れた組換え微生物を提供するとともに、当該組換え微生物を利用した脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子と所定の微生物由来のポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子とを導入した組み換え微生物においてポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルが菌体外に生産されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0010】
(1) 宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子とを導入してなる組み換え微生物を培養し、培地から脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0011】
(2) 上記脂肪族ポリエステルは、2乃至5量体を主とするオリゴマーであることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0012】
(3) 上記脂肪族ポリエステルは、乳酸骨格を有する脂肪族ポリエステルであることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0013】
(4) 上記脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0014】
(5) 上記培地は最小培地であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0015】
(6) 上記組み換え微生物を48時間以上培養した後、上記脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0016】
(7) 上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0017】
(8) 上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0018】
(9) 宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってAlcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子を導入してなる組み換え微生物。
【0019】
(10) 上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする(9)記載の組み換え微生物。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0020】
(11) 上記宿主微生物は大腸菌であることを特徴とする(9)記載の組み換え微生物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、脂肪族ポリエステルを外部に生産できる組み換え微生物を提供することができる。すなわち、本発明に係る組み換え微生物は、従来の組み換え微生物と比較して脂肪族ポリエステルの生産性に優れることとなる。また、本発明に係る組み換え微生物を利用することによって、生産性に優れた脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】各組み換え大腸菌における乳酸重合体の生産量をGC-MSにより測定した結果を示す特性図である。
【図2】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体を測定した結果を示す特性図である。
【図3】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸3量体を測定した結果を示す特性図である。
【図4】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸4量体を測定した結果を示す特性図である。
【図5】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸5量体を測定した結果を示す特性図である。
【図6】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体を測定した結果を示す特性図である。
【図7】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸3量体を測定した結果を示す特性図である。
【図8】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸4量体を測定した結果を示す特性図である。
【図9】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸5量体を測定した結果を示す特性図である。
【図10】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸6量体を測定した結果を示す特性図である。
【図11】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸7量体を測定した結果を示す特性図である。
【図12】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地の種類による乳酸オリゴマーの生産性の相違を検討した結果を示す特性図である。
【図13】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地時間と乳酸オリゴマーの生産性との関係を検討した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る組み換え微生物及びこれを用いた脂肪族ポリエステルの製造方法を詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る組み換え微生物は、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子(pct遺伝子)と、所定のポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子とを宿主微生物に導入したものであり、宿主微生物の外部に脂肪族ポリエステルを生産するものである。なお、本明細書において「脂肪族ポリエステル」とは、分子量が数千から数万といった高分子化合物のみならず、モノマー単位が2〜5といった(すなわち、二量体〜五量体)オリゴマーも含む意味である。
【0025】
プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子
本発明において、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子(以下、pct遺伝子と称する)としては、特に限定されず、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であれば如何なる遺伝子を使用することができる。すなわち、pct遺伝子は、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする如何なる遺伝子を使用することができる。プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性とは、プロピオン酸にCoAが転移される反応を触媒する活性を意味する。すなわち、適当なCoA基質からプロピオン酸にCoAが転移される反応を触媒する活性をプロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性と称する。このプロピオニルCoAトランスフェラーゼは、プロピオン酸のみならず乳酸に対してもCoA基質からCoAを転移することができる。
【0026】
表1に、これまでに報告されたpct遺伝子の由来(微生物名)の代表例と、それをコードする塩基配列情報を開示した文献情報を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明では、上記表1の他にも、これまでに報告されたpct遺伝子のいずれも利用することができる。また、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性を有するかぎり、既知のPCTのアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても利用することができる。なお、pctのアミノ酸配列の関連で使用する用語「数個」とは、1〜50個、好ましくは1〜25個、より好ましくは10個以下をいう。プロピオニルCoAトランスフェラーゼによる触媒活性は、例えばA. E. Hofmeisterら(Eur. J. Biochem.、第206巻、第547-552頁)に記載された方法に従って測定することができる。
【0029】
一例として、pct遺伝子としては、Megasphaera elsdenii由来の遺伝子及びStaphylococcus aureus由来の遺伝子を挙げることができる。Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号1に示し、当該pct遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、Staphylococcus aureus由来pct遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号3に示し、当該pct遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。これら配列番号2又は4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質は、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性、なかでも乳酸を基質として乳酸CoAを合成する活性を有している。
【0030】
また、本発明において、pct遺伝子としては、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものに限定されず、当該アミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、複数個のアミノ酸としては、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。
【0031】
さらに、本発明において、pct遺伝子としては、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性を有するアミノ酸配列であって、且つ、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、配列類似性の値は、blastアルゴリズムを実装したコンピュータプログラム及び遺伝子配列情報を格納したデータベースを用いてデフォルトの設定で求められる値を意味する。
【0032】
さらにまた、本発明において、pct遺伝子としては、配列番号1又は3に示す塩基配列を有する遺伝子の少なくとも一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含み、且つ、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、45℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーション、その後の50〜65℃、0.2〜1×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、或いはそのような条件として、65〜70℃、1×SSCでのハイブリダイゼーション、その後の65〜70℃、0.3×SSCでの洗浄を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。
【0033】
なお、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上記転写因子をコードする塩基配列を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。塩基配列に変異を導入するには、Kunkel法またはGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-KやMutant-G(何れも商品名、TAKARA Bio社製))等を用いて、あるいはLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(商品名、TAKARA Bio社製)を用いて変異が導入される。また、変異導入方法としては、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-Nニトロソグアニジン、その他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、イオンビームに代表されるような放射線処理や紫外線処理による方法でも良い。
【0034】
ポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子
本発明では、ポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子(PHAシンターゼ遺伝子とも称される)としては、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子を使用する。特に、PHAシンターゼ遺伝子としては、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子及び/又はHyphomonas neptunium由来の遺伝子を使用することが好ましい。なお、PHAシンターゼ遺伝子とは、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。
【0035】
ここで、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子としては、ATCCにおいてAccession Number:700651で保管されたSK2株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。また、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子としては、NBRCにおいてAccession Number:14232で保管された株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。
【0036】
Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子としては、ATCC(American Type Culture Collection)においてAccession Number:BAA-808Dで保管された株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。Rhizobium etli由来の遺伝子としては、NBRC(NITE Biological Resource Center)においてAccession Number:15573で保管されたCFN株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。Pseudomonas sp.由来の遺伝子としては、JCM(Japan Collection of Microorganisms)においてAccession Number:10015で保管された61-3株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。Haloarcula marismortui由来の遺伝子としては、JCMにおいてAccession Number:8966で保管された株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。
【0037】
具体的に、Alcanivorax borkumensis(ATCC 700651)に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号5に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。Hyphomonas neptunium(NBRC 14232)に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号7に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0038】
また、Rhodobacter sphaeroides(BAA-808D)由来の遺伝子としては、Accession Number:YP354337で特定されるPHAシンターゼ遺伝子及びAccession Number:ABA79557で特定されるPHAシンターゼ遺伝子を挙げることができる。Accession Number:YP354337で特定されるPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号9に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号10に示す。Accession Number:ABA79557で特定されるPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号11に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0039】
Rhizobium etli CFN株に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号13に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号14に示す。Pseudomonas sp. 61-3株に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号15に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号16に示す。Haloarcula marismortui(JCM 8966)に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号17に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号18に示す。
【0040】
また、本発明において、PHAシンターゼ遺伝子としては、上述した具体的な配列番号で特定されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものに限定されず、当該アミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ、乳酸CoAを基質としてポリ乳酸を合成する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、複数個のアミノ酸としては、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。
【0041】
さらに、本発明において、PHAシンターゼ遺伝子としては、上述した具体的な配列番号で特定されるアミノ酸配列に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性を有するアミノ酸配列であって、且つ、乳酸CoAを基質としてポリ乳酸を合成する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、配列類似性の値は、blastアルゴリズムを実装したコンピュータプログラム及び遺伝子配列情報を格納したデータベースを用いてデフォルトの設定で求められる値を意味する。
【0042】
さらにまた、本発明において、PHAシンターゼ遺伝子としては、上述した具体的な配列番号で特定される塩基配列を有する遺伝子の少なくとも一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含み、且つ、乳酸CoAを基質としてポリ乳酸を合成する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。なお、ストリンジェントな条件とは、「プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子」の欄で示した条件と同義である。
【0043】
また、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加についても、「プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子」の欄で示した手法を適用することができる。
【0044】
特に、本発明に係る組み換え微生物は、上述したPHAシンターゼ遺伝子が導入されたものであるため、脂肪族ポリエステルのオリゴマー、特に乳酸オリゴマーを微生物の体外に生産することができる。ここで、使用するPHAシンターゼ遺伝子の種類によって異なる重合度のオリゴマーを製造することができる。Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子を導入した組み換え微生物によれば、4量体及び5量体の脂肪族ポリエステルのオリゴマー(例えば乳酸オリゴマー)を製造することができる。また、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子を導入した組み換え微生物によれば、4量体の脂肪族ポリエステルのオリゴマー(例えば乳酸オリゴマー)を製造することができる。
【0045】
宿主微生物
本発明において、宿主微生物としては、例えば、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)61-3株などのシュードモナス(Pseudomonas)属細菌、R.ユートロファなどのラルストニア(Ralstonia)属細菌、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などのバチルス(Bacillus)属細菌、大腸菌(Escherichia coli)などのエシェリヒア(Escherichia)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、サッカロマイセス・セレビシー(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母、カンジダ・マルトーサ(Candida maltosa)などのカンジダ(Candida)属酵母などを挙げることができる。宿主微生物としては、特に大腸菌を使用することが好ましい。
【0046】
宿主細胞に上述した遺伝子を導入するためのベクターは、宿主中で自立複製可能なものであればよく、プラスミドDNA、ファージDNAの形態にあることが好ましい。大腸菌に導入するためのベクターの例としては、pBR322、pUC18、pBLuescriptII等のプラスミドDNAを、EMBL3、M13、λgtII等のファージDNA等を、それぞれ挙げることができる。また酵母に導入するためのベクターの例としては、YEp13、YCp50等を挙げることができる。
【0047】
上述した遺伝子の両方若しくは一方をベクターへ挿入するは、当業者に知られた遺伝子組み換え技術を用いて行うことができる。また組み換えに際して、転写を調節することのできるプロモーターの下流に、前記遺伝子を連結することが好ましい。プロモーターとしては、宿主中で遺伝子の転写を調節できるものであればいずれを用いてもよい。例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーターなどを、酵母を宿主として用いる場合には、gal1プロモーター、gal10プロモーターなどを用いることができる。
【0048】
また、ベクターには、必要に応じて、遺伝子を導入しようとする微生物において利用可能なターミネーター配列、エンハンサー配列、スプライシングシグナル配列、ポリA付加シグナル配列、リボゾーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子などを連結することができる。選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の他、アミノ酸や核酸等の栄養素の細胞内生合成に関与する遺伝子、あるいはルシフェラーゼ等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子などを挙げることができる。
【0049】
上記ベクターは、当業者に知られた方法によって、微生物に導入できる。微生物へのベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、接合伝達法、カルシウムイオンを用いる方法等が挙げられる。
【0050】
脂肪族ポリエステルの製造
上述したpct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子を宿主微生物に導入して得られる組み換え微生物を、炭素源を含む培地で培養し、培養物中に脂肪族ポリエステルのオリゴマーを生成蓄積させ、その後、脂肪族ポリエステルのオリゴマーを回収することで、目的とする脂肪族ポリエステルのオリゴマーを製造することができる。この組み換え微生物は、糖の代謝経路によって糖から乳酸を合成し、pct遺伝子によりコードされるプロピオニルCoAトランスフェラーゼが乳酸を乳酸CoAに変換する。そして、この組み換え微生物は、PHAシンターゼ遺伝子によりコードされるPHAシンターゼが乳酸CoAを基質として構成単位として乳酸を含む脂肪族ポリエステルのオリゴマーを合成する。当該オリゴマーとしては、構成単位が乳酸のみからなるポリ乳酸(ホモポリマー)であってもよいし、構成単位として乳酸と乳酸以外のヒドロキシアルカン酸とからなる乳酸系共重合体であってもよい。また、培地中に生産するオリゴマーとしては、主として二量体から五量体である。ここで「主として」とは、培地に含まれる脂肪族ポリエステル成分のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上が上記オリゴマーであるとこと意味する。
【0051】
ポリ乳酸(ホモポリマー)を合成する際には、培地中に乳酸以外のヒドロキシアルカン酸を添加しないか、宿主微生物における乳酸以外のヒドロキシアルカン酸生合成経路を欠損させる。一方、構成単位として乳酸と乳酸以外のヒドロキシアルカン酸とからなる乳酸系共重合体を合成する際には、培地中に乳酸以外のヒドロキシアルカン酸を添加すればよく、また、宿主微生物に対して乳酸以外のヒドロキシアルカン酸生合成経路を付与してもよい。
【0052】
特に、本発明に係る組み換え微生物は、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積せず、菌体外部に脂肪族ポリエステルのオリゴマーを製造するものである。本発明に係る組み換え微生物は、脂肪族ポリエステルを菌体外に蓄積するため、脂肪族ポリエステルの生産性を向上させるために菌体の増殖効率を高める必要がない。したがって、本発明に係る組み換え微生物は、生育が可能な程度の栄養成分を含む培地を使用しても、脂肪族ポリエステルのオリゴマーを高生産することができる。よって、本発明に係る組み換え微生物を利用することで、脂肪族ポリエステルのオリゴマーの生産性を低コストで達成することができる。
【0053】
これに対して、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積させる組み換え微生物の場合、脂肪族ポリエステルの生産性を向上させるには、組み換え微生物の増殖効率を高めることで菌体量を高くする方針が取られる。この場合、組み換え微生物の増殖効率を高めるために、栄養価の高い培地を使用する必要があり非常にコスト高となる。また、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積させる組み換え微生物の場合、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積した段階の比較的早い時期に培養を終了しなければならい。
【0054】
これに対して、本発明に係る組み換え微生物は、菌体外に脂肪族ポリエステルのオリゴマーを製造するため、長期間に亘って培養を継続することができ、脂肪族ポリエステルのオリゴマーを生産することができる。特に、本発明に係る組み換え微生物は、場伊予を継続させながら、培地の一部を抜き出すとともに追加培地や培地成分の一部を追加するフェドバッチ培養とすることが好ましい。
【0055】
一方、本発明に係る組み換え微生物を培養して脂肪族ポリエステルのオリゴマーを生産する際、特に限定されないが、通常の炭素源等を含有する低コストな培地、例えば最少培地を使用することが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、フラクトース、スクロース、マルトース等の炭水化物が挙げられる。また、炭素数4以上の油脂関連物質を炭素源とすることもできる。炭素数4以上の油脂関連物質としては、コーン油、大豆油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、ナタネ油、魚油、鯨油、豚油又は牛油などの天然油脂、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、リノール酸若しくはミリスチン酸等の脂肪酸又はこれらの脂肪酸のエステル、オクタノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール若しくはパルミチルアルコール等又はこれらアルコールのエステル等が挙げられる。
【0056】
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0057】
培養は、通常振盪培養などの好気的条件下、25〜37℃の範囲で、上記pct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子が発現してから好ましくは48時間以上行うことが好ましい。培養中は、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。上記pct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子いずれか或いは両方を誘導性プロモーターの制御下に導入した場合には、当該プロモーターからの転写を誘導する因子を培地に添加し、その後72時間以上行うことが好ましい。
【0058】
特に、上述したpct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子を導入した組み換え大腸菌を培養し、乳酸オリゴマーを製造することが好ましい。この方法では、培地に乳酸などの、目的とするポリマーを構成するモノマー成分を培地に添加しなくても、乳酸オリゴマーを製造することができ、製造コストの点で有利である。
【0059】
なお、乳酸オリゴマー等の脂肪族ポリエステルのオリゴマーの回収は、当業者に公知の方法によって行えばよい。例えば、培養液から遠心分離によって集菌して菌体成分を除去し、菌体を除いた後の培地から定法に従って乳酸オリゴマー等の脂肪族ポリエステルのオリゴマーを回収することができる。回収された乳酸オリゴマー等の脂肪族ポリエステルのオリゴマーであることの確認は、通常の方法、例えばガスクロマトグラフ法や核磁気共鳴法等により行えばよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
〔実施例1〕種々のPHAシンターゼ遺伝子の評価
本実施例では、種々のPHAシンターゼ遺伝子について、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子とともに発現させた場合の乳酸オリゴマーの生産性を評価した。
【0062】
先ずMegasphaera elsdenii由来のpct遺伝子を導入するためのベクターpTV118N-M.E PCTを作製した。M. elsdenii(ATCC17753)のゲノムを常法により取得し、PCR法によりpct遺伝子を取得した。M. elsdenii由来のpct遺伝子を含むDNA断片を増幅するためのプライマーとして、MePCTN:5’-atgagaaaagtagaaatcattac-3’(配列番号19)及びMePCTC:5’-ttattttttcagtcccatgggaccgtcctg-3’(配列番号20)を使用した。なお、プライマーの塩基配列は特許WO02/42418に記載されている配列を参考にした。
【0063】
ゲノムからpct遺伝子の増幅は以下の条件で行った。PCR (酵素KOD plus)(94℃ 1min)×1, (94℃ 0.5min, 50℃ 0.5min, 72℃ 2min)×30, (94℃ 2min)。増幅断片をTOPO BluntIIベクターに導入し、シークエンスを行った結果、報告されている配列と塩基配列では97.8%のホモロジーであったが、アミノ酸配列では1箇所のみ異なっていた。
【0064】
上述したPCRにより得られたM. elsdenii由来のpct遺伝子をpTV118Nベクター(タカラバイオ社製)のEcoR1-PstI間に挿入することで発現プラスミドpTV118N-M.E PCTを作製した。
【0065】
次に、本例で検討したPHAシンターゼ遺伝子の一覧を表2に示す。表2中、No1のRhodobacter sphaeroides及びNo4のRhodospirillum rubrumについては、異なるAccession 番号で登録された複数の遺伝子が見いだされているためこれら複数の遺伝子について検討した。
【0066】
【表2】
【0067】
なお、表2において、ClassIとは活性は強いものの基質特異性が高いPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIIとは基質特異性が低いものの活性が弱いPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIIIとはPHAシンターゼ反応に他にphaEが存在していることを必要とするPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIVとはPHAシンターゼ反応に他にphaRが存在していることを必要とするPHAシンターゼ遺伝子である。
【0068】
これらNo1〜No17に示した17種類の微生物由来の19種類のPHAシンターゼ遺伝子を含むDNA断片を1回のPCR又は2回のPCRによって増幅し、当該DNA断片をMegasphaera elsdenii由来のpct遺伝子が導入されたpTV188Nベクターに導入した。DNA断片の増幅のために設計した、1stPCR用プライマーを表3及び4に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
DNA断片の増幅のために設計した、2stPCR用プライマーを表5及び6に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
また、これらプライマーを用いたPCRにおける反応条件を表7及び表8に示した。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
なお、表7及び8に示した反応条件における反応液組成A〜Hまでを表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
なお、No.13のpha遺伝子に関しては、2つの遺伝子(phaR及びphaC)が間に別の遺伝子を挟んで存在するため、1stPCRでそれぞれをクローニングした後に2ndPCRにより一つに繋げた。さらに、ベクターとライゲーションするために、もう一度PCR (反応液組成:G’、温度条件:94℃2分→94℃15秒、50℃30秒、68℃1分40秒×5サイクル→94℃15秒、60℃30秒、68℃1分40秒×30サイクル→68℃5分)した。
【0080】
また、No.2、3及び8のphaC遺伝子については、2ndPCR産物を精製したものとpTV118N-PCT-C1ベクターとをそれぞれ、制限酵素(XbaI及びPstI(タカラバイオ製))で消化し,10×loading Buffer(タカラバイオ(株)製)とともに、アガロースゲル(0.8%、TAE)にロードし電気泳動で分離、切り出し精製を行った。精製はMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用い、プロトコールに従って行った。ライゲーションおよび形質転換は、それぞれLigation-Convenience Kit(ニッポンジーン製)、ECOS competent E.coli JM109(ニッポンジーン(株)製)を用いてプロトコールに従い行った。得られた形質転換体をLB-Amp培地2mlで培養し、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミド抽出を行った。Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いてシークエンス反応を行い、DNAシークエンサー3100 Genetic Analyzer (Applied Biosystems社製)を用いて配列の確認を行った。
【0081】
さらに、No.1、4〜7及び9〜17のphaC 遺伝子については、実験操作の簡便性又はphaC遺伝子内にPstIサイトがある(No.4、6、10及び12)ことから、ライゲーションをIn-Fusion 2.0 Dry-Down PCR Cloning Kit (Clontech Laboratories社製)を使用して行った。他の部分は上記と同様に行った。
【0082】
上述のように得られた各種phaC遺伝子をそれぞれpTV118N-M.E PCTに組み込みベクターを取得した。得られたベクターを大腸菌W3110コンピテントセルに導入し、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子及び上記いずれかのPHAシンターゼ遺伝子を発現する組み換え大腸菌を作製した。得られた組み換え大腸菌は、アンピシリンを含むLB培地に植菌され、37℃で一晩静置培養した。得られたコロニーを、アンピシリンを含むLB液体培地2mLに植菌し、37℃でOD600=0.6〜1.0になるまで試験管内で振とう培養した。これを前培養液とした。
【0083】
次に、アンピシリン、2%グルコース及び0.1mMIPTGを含むM9培地200mLに前培養液2mLを添加し、500mLバッフル付き三角フラスコを用いて30℃で48時間、130rpmで回転培養した。
【0084】
培養終了後、培養液を50mLコーニングチューブに移し、3000rpm、15分間の条件で集菌し、上清を得た。この培養液200μlを耐圧反応管へ写し、クロロホルムを1.6mL添加した。更に、メタノールと硫酸の混合溶液(メタノール:硫酸=17:3(体積比))を1.6mL添加し、95℃に設定したウォーターバス内で3時間リフラックスさせた。その後、耐圧反応管を取り出し、室温まで冷却し、内部の溶液を試験管に移した。試験管内に更に超純水を0.8mL添加し、vortexを用いて混合した後、静置した。十分に静置した後、下層のクロロホルム相をパスツールピペットにて分取した。クロロホルム相を0.2μmメッシュの有機溶媒耐性フィルターでろ過し、GC-MS用のバイアル瓶に移し、分析用サンプルとした。
【0085】
GC-MS装置としては、ヒューレットパッカード社製のHP6890/5973を使用した。カラムとしては、アジレントテクノロジー社製のBD-1 122-1063(内径:0.25mm、長さ:60m、膜厚:1μm)を使用した。昇温条件は、120℃で5分間保持した後、10℃/minにて200℃まで昇温し、その後、20℃/minで300℃まで昇温して8分間保持する条件とした。
【0086】
GC-MSによる乳酸重合体の生産量を測定した結果を図1に示す。図1に示すように、多くの組み換え大腸菌において乳酸重合体を培地中に生産していることが明らかとなった。特に、Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)を導入した組み換え大腸菌では、乳酸オリゴマーの生産性に優れることが明らかとなった。
【0087】
一方、酵素法成分定量キット F-Kitシリーズ(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて、乳酸オリゴマーの生産性を検討した結果を表10に示す。
【0088】
【表10】
【0089】
表10に示すように、Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)を導入した組み換え大腸菌では、乳酸オリゴマーの生産性に優れることが明らかとなった。
【0090】
図1及び表10に示した結果から、培養液中に対する乳酸オリゴマーの生産性に優れると判明したAlcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌の培養液に如何なる重合度の乳酸オリゴマーが含まれているのか、エレクトロスプレーイオン化質量分析装置(ESI-MS装置)を用いて検討した。測定用の試料は、培養液に等量のメタノールを添加して調整した。
【0091】
ESI-MS装置は、Q-TOF(Micromass社製)を用いた。イオン化法は、エレクトロスプレーイオン化法とし、イオン化モードは負イオンモードとした。キャピラリー電圧を3200Vとし、コーン電圧を30Vとし、イオン源温度を80℃とし、脱溶媒温度を120℃とした。試料導入方法はinfusion法(直接導入)とし、試料導入量を5μl/minとした。また、積算回数は100回とした。
【0092】
Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体、3量体、4量体及び5量体を測定した結果をそれぞれ図2、図3、図4及び図5に示す。
【0093】
また、Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体、3量体、4量体、5量体、6量体及び7量体を測定した結果をそれぞれ図6、図7、図8、図9、図10及び図11に示す。なお、図6乃至11には、培養液を測定した結果(上段)、培養液に測定対象の乳酸オリゴマー標品を添加したサンプルを測定した結果(中段)、及び測定対象の乳酸オリゴマー標品を測定した結果(下段)を併せて示した。
【0094】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で作製したAlcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地の種類による乳酸オリゴマーの生産性の相違を検討した。
【0095】
本実施例では、高栄養価の培地としてyeast extractを添加したM9培地(以下、M9YE培地)と、栄養価の低い培地としてM9培地を使用した以外は実施例1と同様に乳酸オリゴマーを培地中に生産させ、GC-MSによって乳酸オリゴマーを定量した。なお、M9培地は、1lあたりNa2HPO4を6.8g、KH2PO4を3g、NaClを0.5g及びNH4Clを1g含有しており、1M MgSO4を2ml、20%Glucoseを100ml、1%Thiamineを1ml及び1M CaCl2を0.1ml含有している。
【0096】
また、M9YE培地におけるyeast extractは、培地1lあたり1g添加した。
【0097】
乳酸オリゴマーをGC-MSによって定量した結果を図12に示す。図12に示したように、使用した組み換え大腸菌は、栄養価の低い培地を使用したときの方が乳酸オリゴマーの生産性に優れるといった特徴を示した。本実施例の結果から、実施例1で作製した他の組み換え大腸菌についても同様に、例えばM9培地といった栄養価の低い培地を用いても乳酸オリゴマーの生産性が高くなると判断できる。よって、実施例1で作製した組み換え大腸菌を使用することによって、低コストに乳酸オリゴマーを製造できることが明らかとなった。
【0098】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1で作製したAlcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地時間と乳酸オリゴマーの生産性との関係を検討した。
【0099】
本実施例では、本培養を192時間継続した以外は実施例1と同様に乳酸オリゴマーを培地中に生産させ、GC-MSによって乳酸オリゴマーを定量した。培養開始から24時間、48時間、76時間、96時間及び168時間の段階で培養液をサンプリングし、GC-MSによって乳酸オリゴマーを定量した結果を図13に示す。図13に示したように、使用した組み換え大腸菌では、培養開始48時間から培養液への乳酸オリゴマーの生産が開示され、72時間を超えた辺りから乳酸オリゴマーの生産量が急激に増加している。また、使用した組み換え大腸菌では、培養開始から168時間を経過しても高い生産量を維持していた。
【0100】
本実施例の結果から、実施例1で作製した他の組み換え大腸菌についても同様に、例えば長期間に亘って乳酸オリゴマー生産性が高くなると判断できる。よって、実施例1で作製した組み換え大腸菌を使用することによって、低コストに乳酸オリゴマーを製造できることが明らかとなった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、宿主微生物に所定の遺伝子を導入することで所望の機能を付与された組み換え微生物及びこれを用いた脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステルは、自然界で容易に分解される生分解性プラスチックとして、また糖や植物油などの再生可能な炭素資源から合成することができる“グリーン”プラスチックとして、注目されている。現在、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸等の乳酸骨格を有するものが実用的に利用されている。
【0003】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを組み換え微生物を利用して製造する技術としては、例えば特許文献1(WO 2006/126796)に開示された技術が知られている。特許文献1には、宿主となる大腸菌に、乳酸を乳酸CoAに変換する酵素をコードする遺伝子及び乳酸CoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する酵素をコードする遺伝子を導入した組み換え大腸菌を開示している。特許文献1に開示された技術において、乳酸を乳酸CoAに変換する酵素をコードする遺伝子としては、Clostridium propionicum由来のpct遺伝子を使用している。また、同技術において、乳酸CoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する酵素をコードする遺伝子としては、Pseudomonas sp. 61-3株由来のphaC2遺伝子を使用している。
【0004】
但し、特許文献1には、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルの生産性が十分とは言えず、また当該生産性を向上させるために種々の検討が不十分である。例えば、特許文献2(WO 2008/062999)には、Pseudomonas sp. 6-19株由来のphaC1遺伝子に特定の変異を導入することで、乳酸CoAを基質として乳酸ホモポリマー又はポリ乳酸コポリマーの合成能を高めようとする試みが開示されている。
【0005】
上述したような組み換え微生物を利用してポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを製造する技術は、当該微生物内に脂肪族ポリエステルを蓄積するものであり、微生物を破砕して目的とする脂肪族ポリエステルを回収するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2006/126796
【特許文献2】WO 2008/062999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、組み換え微生物を利用してポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを製造する技術は、微生物の内部に脂肪族ポリエステルを蓄積するものであるため生産性が低いといった問題があり、また、微生物を破砕して脂肪族ポリエステルを回収するため煩雑な工程が必要であるといった問題があった。そこで、本発明は、脂肪族ポリエステルの生産性に優れた組換え微生物を提供するとともに、当該組換え微生物を利用した脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子と所定の微生物由来のポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子とを導入した組み換え微生物においてポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルが菌体外に生産されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0010】
(1) 宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子とを導入してなる組み換え微生物を培養し、培地から脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0011】
(2) 上記脂肪族ポリエステルは、2乃至5量体を主とするオリゴマーであることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0012】
(3) 上記脂肪族ポリエステルは、乳酸骨格を有する脂肪族ポリエステルであることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0013】
(4) 上記脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0014】
(5) 上記培地は最小培地であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0015】
(6) 上記組み換え微生物を48時間以上培養した後、上記脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0016】
(7) 上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0017】
(8) 上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする(1)記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0018】
(9) 宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってAlcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子を導入してなる組み換え微生物。
【0019】
(10) 上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする(9)記載の組み換え微生物。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0020】
(11) 上記宿主微生物は大腸菌であることを特徴とする(9)記載の組み換え微生物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、脂肪族ポリエステルを外部に生産できる組み換え微生物を提供することができる。すなわち、本発明に係る組み換え微生物は、従来の組み換え微生物と比較して脂肪族ポリエステルの生産性に優れることとなる。また、本発明に係る組み換え微生物を利用することによって、生産性に優れた脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】各組み換え大腸菌における乳酸重合体の生産量をGC-MSにより測定した結果を示す特性図である。
【図2】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体を測定した結果を示す特性図である。
【図3】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸3量体を測定した結果を示す特性図である。
【図4】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸4量体を測定した結果を示す特性図である。
【図5】Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸5量体を測定した結果を示す特性図である。
【図6】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体を測定した結果を示す特性図である。
【図7】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸3量体を測定した結果を示す特性図である。
【図8】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸4量体を測定した結果を示す特性図である。
【図9】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸5量体を測定した結果を示す特性図である。
【図10】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸6量体を測定した結果を示す特性図である。
【図11】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸7量体を測定した結果を示す特性図である。
【図12】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地の種類による乳酸オリゴマーの生産性の相違を検討した結果を示す特性図である。
【図13】Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地時間と乳酸オリゴマーの生産性との関係を検討した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る組み換え微生物及びこれを用いた脂肪族ポリエステルの製造方法を詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る組み換え微生物は、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子(pct遺伝子)と、所定のポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子とを宿主微生物に導入したものであり、宿主微生物の外部に脂肪族ポリエステルを生産するものである。なお、本明細書において「脂肪族ポリエステル」とは、分子量が数千から数万といった高分子化合物のみならず、モノマー単位が2〜5といった(すなわち、二量体〜五量体)オリゴマーも含む意味である。
【0025】
プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子
本発明において、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子(以下、pct遺伝子と称する)としては、特に限定されず、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であれば如何なる遺伝子を使用することができる。すなわち、pct遺伝子は、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする如何なる遺伝子を使用することができる。プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性とは、プロピオン酸にCoAが転移される反応を触媒する活性を意味する。すなわち、適当なCoA基質からプロピオン酸にCoAが転移される反応を触媒する活性をプロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性と称する。このプロピオニルCoAトランスフェラーゼは、プロピオン酸のみならず乳酸に対してもCoA基質からCoAを転移することができる。
【0026】
表1に、これまでに報告されたpct遺伝子の由来(微生物名)の代表例と、それをコードする塩基配列情報を開示した文献情報を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明では、上記表1の他にも、これまでに報告されたpct遺伝子のいずれも利用することができる。また、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性を有するかぎり、既知のPCTのアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても利用することができる。なお、pctのアミノ酸配列の関連で使用する用語「数個」とは、1〜50個、好ましくは1〜25個、より好ましくは10個以下をいう。プロピオニルCoAトランスフェラーゼによる触媒活性は、例えばA. E. Hofmeisterら(Eur. J. Biochem.、第206巻、第547-552頁)に記載された方法に従って測定することができる。
【0029】
一例として、pct遺伝子としては、Megasphaera elsdenii由来の遺伝子及びStaphylococcus aureus由来の遺伝子を挙げることができる。Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号1に示し、当該pct遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、Staphylococcus aureus由来pct遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号3に示し、当該pct遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。これら配列番号2又は4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質は、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ活性、なかでも乳酸を基質として乳酸CoAを合成する活性を有している。
【0030】
また、本発明において、pct遺伝子としては、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものに限定されず、当該アミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、複数個のアミノ酸としては、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。
【0031】
さらに、本発明において、pct遺伝子としては、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性を有するアミノ酸配列であって、且つ、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、配列類似性の値は、blastアルゴリズムを実装したコンピュータプログラム及び遺伝子配列情報を格納したデータベースを用いてデフォルトの設定で求められる値を意味する。
【0032】
さらにまた、本発明において、pct遺伝子としては、配列番号1又は3に示す塩基配列を有する遺伝子の少なくとも一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含み、且つ、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、45℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーション、その後の50〜65℃、0.2〜1×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、或いはそのような条件として、65〜70℃、1×SSCでのハイブリダイゼーション、その後の65〜70℃、0.3×SSCでの洗浄を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。
【0033】
なお、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上記転写因子をコードする塩基配列を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。塩基配列に変異を導入するには、Kunkel法またはGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-KやMutant-G(何れも商品名、TAKARA Bio社製))等を用いて、あるいはLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(商品名、TAKARA Bio社製)を用いて変異が導入される。また、変異導入方法としては、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-Nニトロソグアニジン、その他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、イオンビームに代表されるような放射線処理や紫外線処理による方法でも良い。
【0034】
ポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子
本発明では、ポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子(PHAシンターゼ遺伝子とも称される)としては、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子を使用する。特に、PHAシンターゼ遺伝子としては、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子及び/又はHyphomonas neptunium由来の遺伝子を使用することが好ましい。なお、PHAシンターゼ遺伝子とは、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。
【0035】
ここで、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子としては、ATCCにおいてAccession Number:700651で保管されたSK2株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。また、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子としては、NBRCにおいてAccession Number:14232で保管された株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。
【0036】
Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子としては、ATCC(American Type Culture Collection)においてAccession Number:BAA-808Dで保管された株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。Rhizobium etli由来の遺伝子としては、NBRC(NITE Biological Resource Center)においてAccession Number:15573で保管されたCFN株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。Pseudomonas sp.由来の遺伝子としては、JCM(Japan Collection of Microorganisms)においてAccession Number:10015で保管された61-3株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。Haloarcula marismortui由来の遺伝子としては、JCMにおいてAccession Number:8966で保管された株に由来するPHAシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。
【0037】
具体的に、Alcanivorax borkumensis(ATCC 700651)に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号5に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。Hyphomonas neptunium(NBRC 14232)に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号7に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0038】
また、Rhodobacter sphaeroides(BAA-808D)由来の遺伝子としては、Accession Number:YP354337で特定されるPHAシンターゼ遺伝子及びAccession Number:ABA79557で特定されるPHAシンターゼ遺伝子を挙げることができる。Accession Number:YP354337で特定されるPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号9に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号10に示す。Accession Number:ABA79557で特定されるPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号11に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0039】
Rhizobium etli CFN株に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号13に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号14に示す。Pseudomonas sp. 61-3株に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号15に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号16に示す。Haloarcula marismortui(JCM 8966)に由来するPHAシンターゼ遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号17に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号18に示す。
【0040】
また、本発明において、PHAシンターゼ遺伝子としては、上述した具体的な配列番号で特定されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものに限定されず、当該アミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ、乳酸CoAを基質としてポリ乳酸を合成する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、複数個のアミノ酸としては、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。
【0041】
さらに、本発明において、PHAシンターゼ遺伝子としては、上述した具体的な配列番号で特定されるアミノ酸配列に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性を有するアミノ酸配列であって、且つ、乳酸CoAを基質としてポリ乳酸を合成する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。ここで、配列類似性の値は、blastアルゴリズムを実装したコンピュータプログラム及び遺伝子配列情報を格納したデータベースを用いてデフォルトの設定で求められる値を意味する。
【0042】
さらにまた、本発明において、PHAシンターゼ遺伝子としては、上述した具体的な配列番号で特定される塩基配列を有する遺伝子の少なくとも一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含み、且つ、乳酸CoAを基質としてポリ乳酸を合成する活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。なお、ストリンジェントな条件とは、「プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子」の欄で示した条件と同義である。
【0043】
また、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加についても、「プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子」の欄で示した手法を適用することができる。
【0044】
特に、本発明に係る組み換え微生物は、上述したPHAシンターゼ遺伝子が導入されたものであるため、脂肪族ポリエステルのオリゴマー、特に乳酸オリゴマーを微生物の体外に生産することができる。ここで、使用するPHAシンターゼ遺伝子の種類によって異なる重合度のオリゴマーを製造することができる。Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子を導入した組み換え微生物によれば、4量体及び5量体の脂肪族ポリエステルのオリゴマー(例えば乳酸オリゴマー)を製造することができる。また、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子を導入した組み換え微生物によれば、4量体の脂肪族ポリエステルのオリゴマー(例えば乳酸オリゴマー)を製造することができる。
【0045】
宿主微生物
本発明において、宿主微生物としては、例えば、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)61-3株などのシュードモナス(Pseudomonas)属細菌、R.ユートロファなどのラルストニア(Ralstonia)属細菌、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などのバチルス(Bacillus)属細菌、大腸菌(Escherichia coli)などのエシェリヒア(Escherichia)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、サッカロマイセス・セレビシー(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母、カンジダ・マルトーサ(Candida maltosa)などのカンジダ(Candida)属酵母などを挙げることができる。宿主微生物としては、特に大腸菌を使用することが好ましい。
【0046】
宿主細胞に上述した遺伝子を導入するためのベクターは、宿主中で自立複製可能なものであればよく、プラスミドDNA、ファージDNAの形態にあることが好ましい。大腸菌に導入するためのベクターの例としては、pBR322、pUC18、pBLuescriptII等のプラスミドDNAを、EMBL3、M13、λgtII等のファージDNA等を、それぞれ挙げることができる。また酵母に導入するためのベクターの例としては、YEp13、YCp50等を挙げることができる。
【0047】
上述した遺伝子の両方若しくは一方をベクターへ挿入するは、当業者に知られた遺伝子組み換え技術を用いて行うことができる。また組み換えに際して、転写を調節することのできるプロモーターの下流に、前記遺伝子を連結することが好ましい。プロモーターとしては、宿主中で遺伝子の転写を調節できるものであればいずれを用いてもよい。例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーターなどを、酵母を宿主として用いる場合には、gal1プロモーター、gal10プロモーターなどを用いることができる。
【0048】
また、ベクターには、必要に応じて、遺伝子を導入しようとする微生物において利用可能なターミネーター配列、エンハンサー配列、スプライシングシグナル配列、ポリA付加シグナル配列、リボゾーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子などを連結することができる。選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の他、アミノ酸や核酸等の栄養素の細胞内生合成に関与する遺伝子、あるいはルシフェラーゼ等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子などを挙げることができる。
【0049】
上記ベクターは、当業者に知られた方法によって、微生物に導入できる。微生物へのベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、接合伝達法、カルシウムイオンを用いる方法等が挙げられる。
【0050】
脂肪族ポリエステルの製造
上述したpct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子を宿主微生物に導入して得られる組み換え微生物を、炭素源を含む培地で培養し、培養物中に脂肪族ポリエステルのオリゴマーを生成蓄積させ、その後、脂肪族ポリエステルのオリゴマーを回収することで、目的とする脂肪族ポリエステルのオリゴマーを製造することができる。この組み換え微生物は、糖の代謝経路によって糖から乳酸を合成し、pct遺伝子によりコードされるプロピオニルCoAトランスフェラーゼが乳酸を乳酸CoAに変換する。そして、この組み換え微生物は、PHAシンターゼ遺伝子によりコードされるPHAシンターゼが乳酸CoAを基質として構成単位として乳酸を含む脂肪族ポリエステルのオリゴマーを合成する。当該オリゴマーとしては、構成単位が乳酸のみからなるポリ乳酸(ホモポリマー)であってもよいし、構成単位として乳酸と乳酸以外のヒドロキシアルカン酸とからなる乳酸系共重合体であってもよい。また、培地中に生産するオリゴマーとしては、主として二量体から五量体である。ここで「主として」とは、培地に含まれる脂肪族ポリエステル成分のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上が上記オリゴマーであるとこと意味する。
【0051】
ポリ乳酸(ホモポリマー)を合成する際には、培地中に乳酸以外のヒドロキシアルカン酸を添加しないか、宿主微生物における乳酸以外のヒドロキシアルカン酸生合成経路を欠損させる。一方、構成単位として乳酸と乳酸以外のヒドロキシアルカン酸とからなる乳酸系共重合体を合成する際には、培地中に乳酸以外のヒドロキシアルカン酸を添加すればよく、また、宿主微生物に対して乳酸以外のヒドロキシアルカン酸生合成経路を付与してもよい。
【0052】
特に、本発明に係る組み換え微生物は、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積せず、菌体外部に脂肪族ポリエステルのオリゴマーを製造するものである。本発明に係る組み換え微生物は、脂肪族ポリエステルを菌体外に蓄積するため、脂肪族ポリエステルの生産性を向上させるために菌体の増殖効率を高める必要がない。したがって、本発明に係る組み換え微生物は、生育が可能な程度の栄養成分を含む培地を使用しても、脂肪族ポリエステルのオリゴマーを高生産することができる。よって、本発明に係る組み換え微生物を利用することで、脂肪族ポリエステルのオリゴマーの生産性を低コストで達成することができる。
【0053】
これに対して、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積させる組み換え微生物の場合、脂肪族ポリエステルの生産性を向上させるには、組み換え微生物の増殖効率を高めることで菌体量を高くする方針が取られる。この場合、組み換え微生物の増殖効率を高めるために、栄養価の高い培地を使用する必要があり非常にコスト高となる。また、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積させる組み換え微生物の場合、菌体内に脂肪族ポリエステルを蓄積した段階の比較的早い時期に培養を終了しなければならい。
【0054】
これに対して、本発明に係る組み換え微生物は、菌体外に脂肪族ポリエステルのオリゴマーを製造するため、長期間に亘って培養を継続することができ、脂肪族ポリエステルのオリゴマーを生産することができる。特に、本発明に係る組み換え微生物は、場伊予を継続させながら、培地の一部を抜き出すとともに追加培地や培地成分の一部を追加するフェドバッチ培養とすることが好ましい。
【0055】
一方、本発明に係る組み換え微生物を培養して脂肪族ポリエステルのオリゴマーを生産する際、特に限定されないが、通常の炭素源等を含有する低コストな培地、例えば最少培地を使用することが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、フラクトース、スクロース、マルトース等の炭水化物が挙げられる。また、炭素数4以上の油脂関連物質を炭素源とすることもできる。炭素数4以上の油脂関連物質としては、コーン油、大豆油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、ナタネ油、魚油、鯨油、豚油又は牛油などの天然油脂、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、リノール酸若しくはミリスチン酸等の脂肪酸又はこれらの脂肪酸のエステル、オクタノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール若しくはパルミチルアルコール等又はこれらアルコールのエステル等が挙げられる。
【0056】
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0057】
培養は、通常振盪培養などの好気的条件下、25〜37℃の範囲で、上記pct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子が発現してから好ましくは48時間以上行うことが好ましい。培養中は、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。上記pct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子いずれか或いは両方を誘導性プロモーターの制御下に導入した場合には、当該プロモーターからの転写を誘導する因子を培地に添加し、その後72時間以上行うことが好ましい。
【0058】
特に、上述したpct遺伝子及びPHAシンターゼ遺伝子を導入した組み換え大腸菌を培養し、乳酸オリゴマーを製造することが好ましい。この方法では、培地に乳酸などの、目的とするポリマーを構成するモノマー成分を培地に添加しなくても、乳酸オリゴマーを製造することができ、製造コストの点で有利である。
【0059】
なお、乳酸オリゴマー等の脂肪族ポリエステルのオリゴマーの回収は、当業者に公知の方法によって行えばよい。例えば、培養液から遠心分離によって集菌して菌体成分を除去し、菌体を除いた後の培地から定法に従って乳酸オリゴマー等の脂肪族ポリエステルのオリゴマーを回収することができる。回収された乳酸オリゴマー等の脂肪族ポリエステルのオリゴマーであることの確認は、通常の方法、例えばガスクロマトグラフ法や核磁気共鳴法等により行えばよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
〔実施例1〕種々のPHAシンターゼ遺伝子の評価
本実施例では、種々のPHAシンターゼ遺伝子について、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子とともに発現させた場合の乳酸オリゴマーの生産性を評価した。
【0062】
先ずMegasphaera elsdenii由来のpct遺伝子を導入するためのベクターpTV118N-M.E PCTを作製した。M. elsdenii(ATCC17753)のゲノムを常法により取得し、PCR法によりpct遺伝子を取得した。M. elsdenii由来のpct遺伝子を含むDNA断片を増幅するためのプライマーとして、MePCTN:5’-atgagaaaagtagaaatcattac-3’(配列番号19)及びMePCTC:5’-ttattttttcagtcccatgggaccgtcctg-3’(配列番号20)を使用した。なお、プライマーの塩基配列は特許WO02/42418に記載されている配列を参考にした。
【0063】
ゲノムからpct遺伝子の増幅は以下の条件で行った。PCR (酵素KOD plus)(94℃ 1min)×1, (94℃ 0.5min, 50℃ 0.5min, 72℃ 2min)×30, (94℃ 2min)。増幅断片をTOPO BluntIIベクターに導入し、シークエンスを行った結果、報告されている配列と塩基配列では97.8%のホモロジーであったが、アミノ酸配列では1箇所のみ異なっていた。
【0064】
上述したPCRにより得られたM. elsdenii由来のpct遺伝子をpTV118Nベクター(タカラバイオ社製)のEcoR1-PstI間に挿入することで発現プラスミドpTV118N-M.E PCTを作製した。
【0065】
次に、本例で検討したPHAシンターゼ遺伝子の一覧を表2に示す。表2中、No1のRhodobacter sphaeroides及びNo4のRhodospirillum rubrumについては、異なるAccession 番号で登録された複数の遺伝子が見いだされているためこれら複数の遺伝子について検討した。
【0066】
【表2】
【0067】
なお、表2において、ClassIとは活性は強いものの基質特異性が高いPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIIとは基質特異性が低いものの活性が弱いPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIIIとはPHAシンターゼ反応に他にphaEが存在していることを必要とするPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIVとはPHAシンターゼ反応に他にphaRが存在していることを必要とするPHAシンターゼ遺伝子である。
【0068】
これらNo1〜No17に示した17種類の微生物由来の19種類のPHAシンターゼ遺伝子を含むDNA断片を1回のPCR又は2回のPCRによって増幅し、当該DNA断片をMegasphaera elsdenii由来のpct遺伝子が導入されたpTV188Nベクターに導入した。DNA断片の増幅のために設計した、1stPCR用プライマーを表3及び4に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
DNA断片の増幅のために設計した、2stPCR用プライマーを表5及び6に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
また、これらプライマーを用いたPCRにおける反応条件を表7及び表8に示した。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
なお、表7及び8に示した反応条件における反応液組成A〜Hまでを表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
なお、No.13のpha遺伝子に関しては、2つの遺伝子(phaR及びphaC)が間に別の遺伝子を挟んで存在するため、1stPCRでそれぞれをクローニングした後に2ndPCRにより一つに繋げた。さらに、ベクターとライゲーションするために、もう一度PCR (反応液組成:G’、温度条件:94℃2分→94℃15秒、50℃30秒、68℃1分40秒×5サイクル→94℃15秒、60℃30秒、68℃1分40秒×30サイクル→68℃5分)した。
【0080】
また、No.2、3及び8のphaC遺伝子については、2ndPCR産物を精製したものとpTV118N-PCT-C1ベクターとをそれぞれ、制限酵素(XbaI及びPstI(タカラバイオ製))で消化し,10×loading Buffer(タカラバイオ(株)製)とともに、アガロースゲル(0.8%、TAE)にロードし電気泳動で分離、切り出し精製を行った。精製はMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用い、プロトコールに従って行った。ライゲーションおよび形質転換は、それぞれLigation-Convenience Kit(ニッポンジーン製)、ECOS competent E.coli JM109(ニッポンジーン(株)製)を用いてプロトコールに従い行った。得られた形質転換体をLB-Amp培地2mlで培養し、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミド抽出を行った。Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いてシークエンス反応を行い、DNAシークエンサー3100 Genetic Analyzer (Applied Biosystems社製)を用いて配列の確認を行った。
【0081】
さらに、No.1、4〜7及び9〜17のphaC 遺伝子については、実験操作の簡便性又はphaC遺伝子内にPstIサイトがある(No.4、6、10及び12)ことから、ライゲーションをIn-Fusion 2.0 Dry-Down PCR Cloning Kit (Clontech Laboratories社製)を使用して行った。他の部分は上記と同様に行った。
【0082】
上述のように得られた各種phaC遺伝子をそれぞれpTV118N-M.E PCTに組み込みベクターを取得した。得られたベクターを大腸菌W3110コンピテントセルに導入し、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子及び上記いずれかのPHAシンターゼ遺伝子を発現する組み換え大腸菌を作製した。得られた組み換え大腸菌は、アンピシリンを含むLB培地に植菌され、37℃で一晩静置培養した。得られたコロニーを、アンピシリンを含むLB液体培地2mLに植菌し、37℃でOD600=0.6〜1.0になるまで試験管内で振とう培養した。これを前培養液とした。
【0083】
次に、アンピシリン、2%グルコース及び0.1mMIPTGを含むM9培地200mLに前培養液2mLを添加し、500mLバッフル付き三角フラスコを用いて30℃で48時間、130rpmで回転培養した。
【0084】
培養終了後、培養液を50mLコーニングチューブに移し、3000rpm、15分間の条件で集菌し、上清を得た。この培養液200μlを耐圧反応管へ写し、クロロホルムを1.6mL添加した。更に、メタノールと硫酸の混合溶液(メタノール:硫酸=17:3(体積比))を1.6mL添加し、95℃に設定したウォーターバス内で3時間リフラックスさせた。その後、耐圧反応管を取り出し、室温まで冷却し、内部の溶液を試験管に移した。試験管内に更に超純水を0.8mL添加し、vortexを用いて混合した後、静置した。十分に静置した後、下層のクロロホルム相をパスツールピペットにて分取した。クロロホルム相を0.2μmメッシュの有機溶媒耐性フィルターでろ過し、GC-MS用のバイアル瓶に移し、分析用サンプルとした。
【0085】
GC-MS装置としては、ヒューレットパッカード社製のHP6890/5973を使用した。カラムとしては、アジレントテクノロジー社製のBD-1 122-1063(内径:0.25mm、長さ:60m、膜厚:1μm)を使用した。昇温条件は、120℃で5分間保持した後、10℃/minにて200℃まで昇温し、その後、20℃/minで300℃まで昇温して8分間保持する条件とした。
【0086】
GC-MSによる乳酸重合体の生産量を測定した結果を図1に示す。図1に示すように、多くの組み換え大腸菌において乳酸重合体を培地中に生産していることが明らかとなった。特に、Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)を導入した組み換え大腸菌では、乳酸オリゴマーの生産性に優れることが明らかとなった。
【0087】
一方、酵素法成分定量キット F-Kitシリーズ(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて、乳酸オリゴマーの生産性を検討した結果を表10に示す。
【0088】
【表10】
【0089】
表10に示すように、Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)を導入した組み換え大腸菌では、乳酸オリゴマーの生産性に優れることが明らかとなった。
【0090】
図1及び表10に示した結果から、培養液中に対する乳酸オリゴマーの生産性に優れると判明したAlcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)、Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌の培養液に如何なる重合度の乳酸オリゴマーが含まれているのか、エレクトロスプレーイオン化質量分析装置(ESI-MS装置)を用いて検討した。測定用の試料は、培養液に等量のメタノールを添加して調整した。
【0091】
ESI-MS装置は、Q-TOF(Micromass社製)を用いた。イオン化法は、エレクトロスプレーイオン化法とし、イオン化モードは負イオンモードとした。キャピラリー電圧を3200Vとし、コーン電圧を30Vとし、イオン源温度を80℃とし、脱溶媒温度を120℃とした。試料導入方法はinfusion法(直接導入)とし、試料導入量を5μl/minとした。また、積算回数は100回とした。
【0092】
Hyphomonas neptunium由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 8)、Rhodobacter sphaeroides由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 1)、Rhizobium etli由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 3)、Pseudomonas sp.由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 7)及びHaloarcula marismortui由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 10)のいずれかの遺伝子を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体、3量体、4量体及び5量体を測定した結果をそれぞれ図2、図3、図4及び図5に示す。
【0093】
また、Alcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌について、培地中の乳酸2量体、3量体、4量体、5量体、6量体及び7量体を測定した結果をそれぞれ図6、図7、図8、図9、図10及び図11に示す。なお、図6乃至11には、培養液を測定した結果(上段)、培養液に測定対象の乳酸オリゴマー標品を添加したサンプルを測定した結果(中段)、及び測定対象の乳酸オリゴマー標品を測定した結果(下段)を併せて示した。
【0094】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で作製したAlcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地の種類による乳酸オリゴマーの生産性の相違を検討した。
【0095】
本実施例では、高栄養価の培地としてyeast extractを添加したM9培地(以下、M9YE培地)と、栄養価の低い培地としてM9培地を使用した以外は実施例1と同様に乳酸オリゴマーを培地中に生産させ、GC-MSによって乳酸オリゴマーを定量した。なお、M9培地は、1lあたりNa2HPO4を6.8g、KH2PO4を3g、NaClを0.5g及びNH4Clを1g含有しており、1M MgSO4を2ml、20%Glucoseを100ml、1%Thiamineを1ml及び1M CaCl2を0.1ml含有している。
【0096】
また、M9YE培地におけるyeast extractは、培地1lあたり1g添加した。
【0097】
乳酸オリゴマーをGC-MSによって定量した結果を図12に示す。図12に示したように、使用した組み換え大腸菌は、栄養価の低い培地を使用したときの方が乳酸オリゴマーの生産性に優れるといった特徴を示した。本実施例の結果から、実施例1で作製した他の組み換え大腸菌についても同様に、例えばM9培地といった栄養価の低い培地を用いても乳酸オリゴマーの生産性が高くなると判断できる。よって、実施例1で作製した組み換え大腸菌を使用することによって、低コストに乳酸オリゴマーを製造できることが明らかとなった。
【0098】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1で作製したAlcanivorax borkumensis由来のPHAシンターゼ遺伝子(No. 12)を導入した組み換え大腸菌を使用し、培地時間と乳酸オリゴマーの生産性との関係を検討した。
【0099】
本実施例では、本培養を192時間継続した以外は実施例1と同様に乳酸オリゴマーを培地中に生産させ、GC-MSによって乳酸オリゴマーを定量した。培養開始から24時間、48時間、76時間、96時間及び168時間の段階で培養液をサンプリングし、GC-MSによって乳酸オリゴマーを定量した結果を図13に示す。図13に示したように、使用した組み換え大腸菌では、培養開始48時間から培養液への乳酸オリゴマーの生産が開示され、72時間を超えた辺りから乳酸オリゴマーの生産量が急激に増加している。また、使用した組み換え大腸菌では、培養開始から168時間を経過しても高い生産量を維持していた。
【0100】
本実施例の結果から、実施例1で作製した他の組み換え大腸菌についても同様に、例えば長期間に亘って乳酸オリゴマー生産性が高くなると判断できる。よって、実施例1で作製した組み換え大腸菌を使用することによって、低コストに乳酸オリゴマーを製造できることが明らかとなった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子とを導入してなる組み換え微生物を培養し、
培地から脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
上記脂肪族ポリエステルは、2乃至5量体を主とするオリゴマーであることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
上記脂肪族ポリエステルは、乳酸骨格を有する脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
上記脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
上記培地は最小培地であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
上記組み換え微生物を48時間以上培養した後、上記脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項9】
宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってAlcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子を導入してなる組み換え微生物。
【請求項10】
上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする請求項9記載の組み換え微生物。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項11】
上記宿主微生物は大腸菌であることを特徴とする請求項9記載の組み換え微生物。
【請求項1】
宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子とを導入してなる組み換え微生物を培養し、
培地から脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
上記脂肪族ポリエステルは、2乃至5量体を主とするオリゴマーであることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
上記脂肪族ポリエステルは、乳酸骨格を有する脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
上記脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
上記培地は最小培地であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
上記組み換え微生物を48時間以上培養した後、上記脂肪族ポリエステルを回収することを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、Alcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項9】
宿主微生物に対して、乳酸を乳酸CoAに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と、ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってAlcanivorax borkumensis由来の遺伝子、Hyphomonas neptunium由来の遺伝子、Rhodobacter sphaeroides由来の遺伝子、Rhizobium etli由来の遺伝子、Pseudomonas sp.由来の遺伝子及びHaloarcula marismortui由来の遺伝子から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子を導入してなる組み換え微生物。
【請求項10】
上記ヒドロキシアシルCoAを基質としてポリヒドロキシアルカン酸を合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)〜(c)に示す遺伝子であることを特徴とする請求項9記載の組み換え微生物。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子
(b)配列番号6、8、10、12、14、16又は18に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含み、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号5、7、9、11、13、15又は17に示す塩基配列に対する相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、上記活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項11】
上記宿主微生物は大腸菌であることを特徴とする請求項9記載の組み換え微生物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−200153(P2011−200153A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69688(P2010−69688)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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