説明

組付装置

【課題】迅速且つ正確に、トルクコンバータのスプライン穴等の組付部品のスプライン嵌合部と自動変速機のスプライン軸等の被組付部品のスプライン嵌合部との位置及び位相を一致させて嵌合させ、組付部品を被組付部品に組み付ける組付装置を実現する。
【解決手段】組付部品100を設置部2に設置された被組付部品200に組み付ける姿勢でチャック部3に保持し、チャック部3を支持すると共にチャック部3をスプライン嵌合部121,131の軸心X1が位置決めされる自転軸Arを中心に自転運動させる機構部4、自転軸Arをチャック部3の前面側におけるスプライン嵌合部221,231の軸心X2が位置決めされる対称軸As上に存在する固定点Pを中心に対称軸Asまわりに歳差運動させる機構部5、両機構部4,5を支持するベース部80を対象軸Asに沿って移動させる機構部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組付部品のスプライン嵌合部を被組付部品のスプライン嵌合部に嵌合させる形態で、前記組付部品を前記被組付部品に組み付ける組付装置に関し、特に、上記組付部品としてのトルクコンバータのスプライン穴を、上記被組付部品としての自動変速機のスプライン軸に嵌合させる形態で、前記トルクコンバータを前記自動変速機に組み付ける組付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動変速機にトルクコンバータを組み付ける組付作業では、自動変速機に設けられたステータシャフト及びインプットシャフトのスプライン軸を、トルクコンバータに設けられたステータホール及びタービンランナのスプライン穴に嵌合させるために、トルクコンバータカバーに突出形成されたオイルポンプスリーブ内に、ステータシャフト及びインプットシャフトを挿入する。
この際に、上記スプライン軸と上記スプライン穴とは、位相がずれていることから、互いに嵌合せずに、上記スプライン軸の先端面が上記スプライン穴の基端面に当接し押圧する状態となる。
【0003】
そこで、上記スプライン軸の先端面に対する上記スプライン穴の基端面の押圧力を加減しながら、トルクコンバータカバーを上記スプライン穴の軸心を中心に自転運動させることによって、ステータホイールとタービンランナとを作動液の流れを介して回転させて、上記スプライン軸と上記スプライン穴との位相を一致させ、更に、トルクコンバータを自動変速機側に移動させて、上記スプライン軸と上記スプライン穴とを嵌合させていた。
【0004】
そして、このようなトルクコンバータの自動変速機への組付作業を迅速且つ容易に行うべく、上述した各工程を自動化するように構成された組付装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
この特許文献1の組付装置は、スプライン軸の軸心方向が鉛直上向きになるように自動変速機を縦置きに設置し、スプライン穴の軸心方向が鉛直下向きになるように保持したトルクコンバータを、鉛直下向きに移動させながら水平回転させて、上記スプライン軸の先端面と上記スプライン穴の基端面とを当接させる。
ここで、上記水平回転によりスプライン軸とスプライン穴との位置及び位相が一致すれば、夫々は嵌合するのであるが、嵌合しなかった場合には、上記トルクコンバータの保持を解除し、自動変速機のスプライン軸の先端面にトルクコンバータのスプライン穴の基端面が当接した状態で、そのトルクコンバータを水平方向に揺動させて、スプライン軸とスプライン穴との位置を一致させるように構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−292532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の組付装置では、トルクコンバータを揺動させる際において、トルクコンバータのスプライン穴の基端面と自動変速機のスプライン軸の先端面との押圧力は、トルクコンバータの保持が解除されていることから、トルクコンバータの重量に相当する比較的大きいものであり、それらの位置を一致させるべく、その押圧力を加減することはできない。また、スプライン軸とスプライン穴が、その大きな押圧力で当接した状態で揺動するので、それらの嵌合部が破損することが懸念される。
【0007】
更に、上記のような揺動を行っている際に、トルクコンバータのスプライン穴と自動変速機のスプライン軸とが、位置及び位相が一致したときにトルクコンバータの自重を受けて急激に嵌合してしまい、例えばオイルポンプスリーブとオイルシールとの急激な擦れにより、オイルシール等が損傷してしまうなどの問題が懸念される。
【0008】
また、上記揺動を行う時点で、スプライン穴とスプラン軸との位相はある程度一致していないと、揺動させても両者の位置が一致したとしても両者を嵌合させることはできない。特に、揺動を開始した時点で、最初に嵌合するタービンランナのスプライン穴とインプットシャフトのスプライン軸との位相が一致しており、それらが嵌合できた場合でも、次に嵌合するステータホイールのスプライン穴とステータシャフトのスプライン軸との位相が一致していない場合には、その揺動を停止して、トルクコンバータを再度保持して水平回転させ、両者の位相を一致させなければならないという煩雑な作業が必要となる。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、トルクコンバータのスプライン穴のような組付部品のスプライン嵌合部を、自動変速機のスプライン軸のような被組付部品のスプライン嵌合部に嵌合させる形態で、組付部品を被組付部品に組み付けるにあたり、迅速且つ正確に、両スプライン嵌合部の位置及び位相を一致させて組付部品を被組付部品に組み付けることができる組付装置を実現する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る組付装置は、トルクコンバータのスプライン穴を自動変速機のスプライン軸に嵌合させる形態で、前記トルクコンバータを前記自動変速機に組み付ける組付装置であって、その第1特徴構成は、前記自動変速機を設置する設置部と、
前記トルクコンバータを前記設置部に設置された前記自動変速機に組み付ける姿勢で保持するチャック部と、
前記チャック部を支持すると共に、当該チャック部を前記スプライン穴の軸心が位置決めされる自転軸を中心に自転運動させる自転運動機構部と、
前記自転軸を、前記スプライン軸の軸心が位置決めされる対称軸上において前記チャック部の前面側に存在する固定点を中心に、当該対称軸まわりに歳差運動させる歳差運動機構部と、
前記自転運動機構部及び前記歳差運動機構部を支持するベース部と、
前記ベース部を、前記対象軸に沿って移動させる移動機構部とを備えた点にある。
【0011】
上記第1特徴構成によれば、上記移動機構部を作動させて、設置部に設置された自動変速機に対して組み付ける姿勢でチャック部に保持したトルクコンバータを自動変速機側に移動させて、トルクコンバータのスプライン穴の基端面を、自動変速機のスプライン軸の先端面に当接させることができる。
更に、上記自転運動機構部を作動させて、トルクコンバータを保持したチャック部を、上記自転軸を中心に自転運動させることにより、そのトルクコンバータのスプライン穴を、トルクコンバータカバー内の作動液の流れを介して、その軸心を中心に自転運動(図12において、このようなスプライン穴121,131の自転運動は、自転軸Arを中心とした自転運動Rとして示されている。)させることができる。
更に、上記トルクコンバータの移動及びスプライン穴の自転運動と伴って、適宜、上記歳差運動機構部を作動させて、トルクコンバータを保持するチャック部の自転軸を、上記対称軸上において上記チャック部の前面側即ちスプライン穴が位置する側に存在する固定点を中心に、歳差運動させることにより、スプライン穴の自転軸を、そのスプライン穴の例えばスプライン軸との当接部付近を上記固定点として歳差運動(図12において、このようなスプライン穴121,131の自転軸Arの歳差運動は、固定点Pを中心とした対称軸Asまわりの歳差運動Sとして示されている。)させることができる。
したがって、上記移動機構部によるスプライン穴のスプライン軸に対する上記対称軸に沿った移動と、上記自転運動機構部によるスプライン穴の上記自転軸を中心とした自転運動と、上記歳差運動機構部によるスプライン穴の上記固定点を中心とした歳差運動とを、適宜組み合わせて行うことで、スプライン穴とスプライン軸とを当接させながら、そのスプライン穴をその軸心を中心に自転運動させることにより、スプライン穴とスプライン軸との位相を一致させ、同時に、そのスプライン穴を、上記固定点を中心に歳差運動させることにより、スプライン穴とスプライン軸との位置の一致させることができる。
また、スプライン穴とスプライン軸との位置及び位相が一致した時点でも、チャック部がトルクコンバータを適切な状態に保持していることから、移動機構部によりトルクコンバータを迅速且つ正確に移動させて、スプライン穴とスプライン軸との嵌合を完了し、トルクコンバータを自動変速機に組み付けることができる。
【0012】
本発明に係る組付装置の第2特徴構成は、前記歳差運動機構部が、前記固定点に向かう方向に対する直交面において可撓性を有する状態で前記自転運動機構部を前記ベース部へ支持させる可撓支持部と、前記自転運動機構部の背面側における前記自転軸上に設けられた中心連結部に対して自在継手により連結された作用連結部を前記対称軸に対して偏心させた状態で当該対称軸を中心に回転させる偏心回転手段とを有して構成されている点にある。
【0013】
上記第2特徴構成によれば、上記可撓支持部と上記偏心回転手段という比較的簡単な構成により、上述した歳差運動機構部を構成することができる。
即ち、自転運動機構部を前記ベース部へ支持させる上記可撓支持部が、チャック部の前面側にある上記歳差運動の固定点に向かう方向に対する直交面において可撓性を有することから、上記偏心回転手段により、自転運動機構部の背面側の上記中心連結部に対して自在継手により連結された作用連結部を、スプライン軸の軸心が位置決めされる上記歳差運動の対称軸に対して偏心させた状態で当該対称軸を中心に回転させれば、自転運動機構部の自転軸は、上記固定点を中心に上記対称軸まわりに正確且つ安定して歳差運動することになる。
【0014】
本発明に係る組付装置の第3特徴構成は、前記歳差運動機構部が、前記作用連結部の前記対称軸に対する偏心距離を調整自在とする偏心距離調整手段を有して構成されている点にある。
【0015】
上記第3特徴構成によれば、上記可撓支持部と上記偏心回転手段とで構成された上記歳差運動機構部において、上記偏心距離調整手段により、上記対称軸を中心に回転する上記作用連結部の作用軸に対する偏心距離を調整すれば、自転軸の歳差運動における振れ幅、即ち、対称軸まわりに回転するスプライン穴の自転軸と当該対称軸との交差角度を、スプライン穴とスプライン軸との位置の一致を促進するべく適切なものに設定したり、スプライン穴とスプライン軸との嵌合状態に合わせて適宜変更することができる。
更に、上記偏心距離調整手段により、上記偏心距離を歳差運動の周期よりも小さい周期で変動させることで、上記スプライン穴の自転軸の歳差運動において、自転軸が径方向に向けて揺動する所謂章動を付加することができる。
【0016】
本発明に係る組付装置の第4特徴構成は、前記移動機構部が、前記ベース部の前記自動変速機側への押圧力を設定する押圧力設定手段を有して構成されている点にある。
【0017】
上記第4特徴構成によれば、上記移動機構部において、上記押圧力設定手段により、ベース部の自動変速機側への押圧力を設定することにより、スプライン穴とスプライン軸とを適切に設定された押圧力で当接させながら、スプライン穴を自転運動及び歳差運動させて、スプライン軸に対する位置及び位相の一致を促進させることができる。
【0018】
本発明に係る組付装置の第5特徴構成は、前記ベース部の前記対称軸に沿った位置により、前記スプライン穴の前記スプライン軸に対する嵌合状態を検知する嵌合状態検知手段を備えた点にある。
【0019】
上記第5特徴構成によれば、上記嵌合状態検知手段により、トルクコンバータを保持するチャック部が支持されるベース部のスプライン軸の軸心に沿った位置により、そのトルクコンバータのスプライン穴が自動変速機のスプライン軸にどの程度嵌合したかについての嵌合状態を自動的に検知することができ、その検知結果に基づいて、自転運動機構部、歳差運動機構部、移動機構部の作動と停止との切換や、それら機構部の作動状態、即ち、自転運動の速度や方向、歳差運動の速度や方向や振れ幅、移動の速度や方向などの調整を行うことができる。
【0020】
本発明に係る組付装置の第6特徴構成は、前記設置部が、前記対称軸が水平となるように前記自動変速機を横置きに設置するように構成され、
前記自転運動機構部を前記ベース部に吊り下げて前記対称軸を水平方向に維持する吊り下げ手段を備えた点にある。
【0021】
上記第6特徴構成によれば、上記設置部において、スプライン軸の軸心方向が使用状態と同じ水平方向となるように自動変速機を使用状態と同じ横置きに設置する場合には、上記吊り下げ手段により自転運動機構部をベース部に吊り下げ、その吊り下げ力を適切なものに設定して歳差運動における対称軸を維持することで、チャック部を支持する自転運動機構部がその自重により鉛直下向きに垂れ下がることを抑制することができる。よって、そのチャック部に保持されたトルクコンバータのスプライン穴の歳差運動における対称軸が、設置部に設置されたスプライン軸の軸心の位置に対して、自転運動機構部の自重により大幅にずれることを抑制し、スプライン穴とスプライン軸との位置を容易に一致させることができる。
【0022】
本発明に係る組付装置の第7特徴構成は、前記トルクコンバータが、前記自動変速機の駆動ギヤに連結されるオイルポンプスリーブが一方面側に突出形成されたトルクコンバータカバーを有すると共に、前記トルクコンバータカバー内に、前記オイルポンプスリーブを通じて内挿された前記自動変速機のインプットシャフト用スプライン軸に嵌合されるタービンランナ用スプライン穴と、前記自動変速機の前記インプットシャフトの基端側を外囲するステータシャフト用スプライン軸に嵌合されるステータホイール用スプライン穴とを、前記オイルポンプスリーブと同軸上に配置してなり、
前記チャック部が、前記オイルポンプスリーブが突出形成された面を前面側に向けて前記トルクコンバータカバーを保持するように構成されている点にある。
【0023】
上記第7特徴構成によれば、チャック部に保持したトルクコンバータを、上記移動機構部と上記自転運動機構部と上記歳差運動機構部とにより、適宜自転運動及び歳差運動させながら、自動変速機側に移動させることで、迅速且つ正確に、トルクコンバータカバーに突出形成されたオイルポンプスリーブを、自動変速機の駆動ギヤに連結させると共に、そのトルクコンバータカバー内において上記オイルポンプスリーブと同軸上に配置されたタービンランナ用スプライン穴とステータホイール用スプライン穴とを、自動変速機のインプットシャフト用スプライン軸とインプットシャフトを外囲するステータシャフト用スプライン軸とに嵌合させることができる。
また、タービンランナ用スプライン穴及びステータホイール用スプライン穴の一方のみがそれに対応するスプライン軸に嵌合した後でも、トルクコンバータは自転運動及び歳差運動自在な状態でチャック部に保持されていることから、未嵌合のスプライン穴とそれに対応するスプライン軸との位置及び位相を迅速且つ正確に一致させて、それらを嵌合させることができる。
【0024】
本発明に係る組付装置の第8特徴構成は、前記トルクコンバータカバーの背面側に、前記スプライン穴の軸心を中心とした円柱状の凸部が形成され、
前記チャック部に、前記トルクコンバータを保持する際に前記凸部が嵌合し、前記自転軸を中心とした円柱状の凹部が形成されている点にある。
【0025】
上記第8特徴構成によれば、トルクコンバータの背面側に形成された上記凸部をチャック部の前面側に形成された凹部に嵌合させる形態で、トルクコンバータのスプライン穴の軸心を、チャック部の自転軸に簡単且つ迅速に位置決めすることができる。
【0026】
上記目的を達成するための本発明に係る組付装置は、組付部品のスプライン嵌合部を被組付部品のスプライン嵌合部に嵌合させる形態で、前記組付部品を前記被組付部品に組み付ける組付装置であって、その特徴構成は、前記被組付部品を設置する設置部と、
前記組付部品を前記設置部に設置された前記被組付部品に組み付ける姿勢で保持するチャック部と、
前記チャック部を支持すると共に、当該チャック部を前記組付部品のスプライン嵌合部の軸心が位置決めされる自転軸を中心に自転運動させる自転運動機構部と、
前記自転軸を、前記被組付部品のスプライン嵌合部の軸心が位置決めされる対称軸上において前記チャック部の前面側に存在する固定点を中心に、当該対称軸まわりに歳差運動させる歳差運動機構部と、
前記自転運動機構部及び前記歳差運動機構部を支持するベース部と、
前記ベース部を、前記対象軸に沿って移動させる移動機構部とを備えた点にある。
【0027】
即ち、上記特徴構成によれば、トルクコンバータのスプライン穴のような組付部品のスプライン嵌合部を、自動変速機のスプライン軸のような被組付部品のスプライン嵌合部に嵌合させる形態で、組付部品を被組付部品に組み付けるにあたり、前述した第1特徴構成の作用効果と同様に、迅速且つ正確に、両スプライン嵌合部の位置及び位相を一致させて組付部品を被組付部品に組み付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明に係る組付装置の実施の形態として、トルクコンバータ100(組付部品の一例)のスプライン穴121,131(スプライン嵌合部の一例)を、自動変速機200(被組付部品の一例)のスプライン軸221,231(スプライン嵌合部の一例)に嵌合させる形態で、トルクコンバータ100を自動変速機200に組み付ける組付装置1について、図面に基づいて説明する。
【0029】
〔トルクコンバータ及び自動変速機〕
トルクコンバータ100及びそれが組み付けられる自動変速機200の概略構成について、図1〜図4に基づいて説明する。
尚、図1〜図4は、トルクコンバータ100及び自動変速機200との側断面図であり、図1から図4に渡り、組付時における夫々の相対位置の変化を示してある。
【0030】
トルクコンバータ100は、前面側内部にポンプインペラ112が固定されたトルクコンバータカバー110を有し、このトルクコンバータカバー110の前面側には、自動変速機200のオイルポンプ210の駆動ギヤ211に溝部111aを噛み合わせて連結されるオイルポンプスリーブ111が突出形成されている。
また、自動変速機200のオイルポンプスリーブ111が挿入される部位には、オイルポンプスリーブ111に外嵌する形態で、オイルの流出を防止するオイルシール212とブッシュ213とが設けられている。
【0031】
更に、このトルクコンバータカバー110内には、上記ポンプインペラ112に対向配置されたタービンランナ130と、そのタービンランナ130とポンプインペラ112との間に配置されたステータホイール120とが設けられている。
そして、このタービンランナ130の中心部にはハブ132が設けられている。そのハブ132の内面において上記オイルポンプスリーブ111と同軸上に形成されたスプライン穴131が、オイルポンプスリーブ111を通じて内挿された自動変速機200のインプットシャフト230用のスプライン軸231に嵌合される。
一方、ステータホイール120の中心部には、ワンウェイクラッチ123を介して一方向において空転自在な状態で取り付けられたハブ122が設けられている。そのハブ122の内面において上記オイルポンプスリーブ111と同軸上に形成されたスプライン穴121が、自動変速機200のインプットシャフト230の基端側を外囲する筒状のステータシャフト220用のスプライン軸221に嵌合される。
【0032】
そして、このようにトルクコンバータ100が組み付けられた自動変速機200において、自動変速機200のオイルポンプ210の駆動ギヤ211が回転すると、トルクコンバータカバー110及びポンプインペラ112が回転し、トルクコンバータカバー110内に満たされている作動液が遠心力によって外周に向かって流れ、タービンランナ130及びステータホイール120を通って、再びポンプインペラ112に循環する。この作動液の流れによって、タービンランナ130が回転し、その回転動力が自動変速機200のインプットシャフト230に伝達される。
【0033】
トルクコンバータ100の自動変速機200への組み付け作業では、先ず、図1に示すように、自動変速機200のスプライン軸221,231の軸心方向とスプライン穴121,131の軸心方向とが対向する状態とされ、更に、トルクコンバータ100を自動変速機200側に移動させて、自動変速機200のステータシャフト220及びインプットシャフト230が、トルクコンバータ100のオイルポンプスリーブ111内に挿入され、続いて、そのオイルポンプスリーブ111が、オイルシール212及びブッシュ213内に挿入される。
【0034】
トルクコンバータ100を更に自動変速機200側に移動させると、図2に示すように、タービンランナ130のスプライン穴131が、インプットシャフト230のスプライン軸231に対して、位置及び位相の一致を条件に嵌合し始める。
【0035】
トルクコンバータ100を更に自動変速機200側に移動させると、上記スプライン穴131と上記スプライン軸231との嵌合が進行すると共に、図3に示すように、ステータホイール120のスプライン穴121が、ステータシャフト220のスプライン軸221に対して、位置及び位相の一致を条件に嵌合し始める。
【0036】
トルクコンバータ100を更に自動変速機200側に移動させると、上記スプライン穴121,131と上記スプライン軸221,231との嵌合が進行すると共に、図4に示すように、オイルポンプスリーブ111の溝部111aが、オイルポンプ210の駆動ギヤ211に対して、位置及び位相の一致を条件に噛み合って、トルクコンバータ100の自動変速機200の取り付けが完了する。
【0037】
〔組付装置〕
次に、上記のようにトルクコンバータ100を自動変速機200に自動的に組み付け、更に、迅速且つ正確に、トルクコンバータ100のスプライン穴121,131と、自動変速機200のスプライン軸221,231との位置及び位相を一致させることができる組付装置1の構成について、図5〜図12に基づいて説明する。
尚、図5〜図8は、組付装置1の詳細構成を示す図であり、図5は、組付装置1の側断面面図、図6は、自転運動機構部4側の立面図、図7は、自転運動機構部4及び歳差運動機構部5の部分断面図、図8は、歳差運動機構部5の平断面図である。
また、図9〜図11は、組付装置1の動作状態を説明するための概略構成図であり、図9は、トルクコンバータ100を自動変速機200に対して離間させたときの組付装置1の状態を示す図、図10は、歳差運動機構部5による歳差運動時の組付装置1の状態を示す図、図11は、図10に対して歳差運動における半周期経過時の組付装置1の状態を示す図、図12は、トルクコンバータ100の運動状態を説明する説明図である。
【0038】
図5及び図9等に示すように、組付装置1は、基本的には、自動変速機200を設置する設置部2、トルクコンバータ100を設置部2に設置された自動変速機200に組み付ける姿勢で保持するチャック部3、そのチャック部3を支持するベース部80を備え、更には、詳細については後述するが、トルクコンバータ100を所定の自転軸Arを中心に自転させる自転運動機構部4、トルクコンバータ100を所定の固定点Pを中心に所定の対称軸Asまわりに歳差運動させる歳差運動機構部5、所定の対称軸Asに沿って移動させる移動機構部7の各種機構部を備える。
【0039】
上記設置部2は、自動変速機200から突出するスプライン軸221,231を後述するチャック部3側に向け、更に、そのスプライン軸221,231の軸芯X2の方向が水平方向となるように、自動変速機200を横置きに設置するように構成されている。
また、この設置部2に設置された自動変速機200のスプライン軸221,231の軸芯X2は、後述する歳差運動における対称軸Asに位置決めされる。
【0040】
また、上記チャック部3は、トルクコンバータ100の前面側(即ち、オイルポンプスリーブ111が突出形成された側)を自動変速機200側に向け、更に、後述する歳差運動機構部5による自転軸Arの歳差運動における振れ幅が略0の状態(図9に示す状態)でそのスプライン穴121,131及びオイルポンプスリーブ111の軸芯X1が水平方向の自動変速機200の軸芯X2と略一致するように、トルクコンバータ100の背面側(即ち、オイルポンプスリーブ111が突出形成された側とは反対側)を保持するように構成されている。
【0041】
また、このチャック部3は、トルクコンバータ100の背面側に密着するように形成された皿状の保持部材31と、その保持部材31のトルクコンバータ100側に通じる吸引流路33とを備え、その吸引流路33内の空気を図示しない真空ポンプにより吸引して、保持部材31に密着するトルクコンバータをその吸引力により固定する、所謂真空チャックとして構成されている。
【0042】
また、トルクコンバータカバー110の背面側にはスプライン穴121,131の軸心X1を中心とした円柱状の凸部140が形成されており、チャック部3の保持部材31の中心部には、トルクコンバータ100を保持する際に、その凸部140が嵌合し、後述する自転軸Asを中心とした円柱状の凹部32が形成されている。よって、トルクコンバータ100のスプライン穴121,131の軸心X1は、チャック部3の自転軸Asに簡単且つ迅速に位置決めされる。
また、この凹部32は、凸部140の大きさや形状が異なる複数種のトルクコンバータ100に適応するべく、別の形状のものに取り替え自在に構成することができる。
【0043】
上記ベース部80は、スライダ72に固定された底面プレート80aと、その底面プレート80aの当該摺動方向における前面側(即ち、自動変速機200側)に立設する前面プレート80bと、底面プレート80aの背面側(即ち、自動変速機200側とは反対側)に立設する背面プレート80cとにより略U字状に形成されている。そして、上記スライダ72が後述する移動機構部7において上記対称軸Asに平行に配置されたガイド71上を摺動自在なことから、このベース部80は上記対称軸Asに沿って摺動自在となる。
また、上記前面プレート80bの上端部には、後述する自転運動機構部4の支持プレート41を吊り下げるための吊り下げプレート80dが前面側に延出する形態で固定されている。
【0044】
図6及び図7等に示すように、上記自転運動機構部4は、チャック部3を支持すると共に、当該チャック部3をトルクコンバータ100のスプライン穴121,131の軸心X1が位置決めされる自転軸Arを中心に自転運動(例えば、図12において矢印Rで示される回転運動)させるように構成されている。
詳しくは、ベース部80の吊り下げプレート80dに吊り下げられ自転軸Arと垂直に配置された板状の支持プレート41と、保持部材31を、上記自転軸Arを中心に自転運動自在な状態で支持プレート41に支持させる回転ジョイント42と、更には、保持部材31の背面側に自転軸Arを中心とした状態で固定された自転歯車43と、支持プレート41に設置された自転用モータ45、その自転用モータ45の回転動力を自転歯車43に伝達する駆動歯車43とを備える。そして、この自転用モータ45により、自転歯車43を回転させることにより、チャック部3に保持したトルクコンバータ100のトルクコンバータカバー111を、スプライン穴121,131が位置決めされた自転軸Arを中心に自転運動させるように構成されている。また、このようにトルクコンバータカバー111が自転運動すると、そのトルクコンバータカバー111内に配置されたステータホイール120やタービンランナ130とが作動液の流れを介して回転し、結果、ステータホイール120のスプライン穴121やタービンランナ130のスプライン穴131が自転運動することになる。
【0045】
更に、この自転用モータ45の回転速度及び回転方向を調整すれば、トルクコンバータ100の自転運動における回転速度及び回転方向を適切なものにコントロールすることができる。
また、支持プレート41の背面側における自転軸Ar上には、後述する球ジョイント52を介してアーム53の作用連結部53aに連結される中心連結部46が設けられている。尚、この中心連結部46及び球ジョイント52は、前面プレート80bに設けられた開口部内に位置され、両者の干渉が回避されている。
【0046】
図8,図10及び図11等に示すように、上記歳差運動機構部5は、チャック部3の前面側における対称軸As上の点、好ましくは対称軸As上においてスプライン穴121,131の先端付近の点を固定点Pに規定し、更に、自動変速機200のスプライン軸221,231の軸心X2が位置決めされる軸を対称軸Asに規定して、上記自転運動機構部4によるスプライン穴121,131の自転軸Arを、当該固定点Pを中心に当該対称軸Asまわりに歳差運動(図12において矢印Sで示される回転運動)させるように構成されている。
【0047】
詳しくは、固定点Pに向かう方向に対する直交面において可撓性を有する状態で、自転運動機構部4の支持プレート41をベース部80の前面プレート80bへ支持させる可撓支持部51と、自転運動機構部4の支持プレート41の背面側における自転軸Ar上に設けられた中心連結部42に対して自在継手である球ジョイント52により連結された作用連結部53aを、対称軸Asに対して偏心させた状態で、当該対称軸Asを中心に回転させる偏心回転手段6とを有し、上記偏心回転手段6により、作用連結部53aを対称軸Asに対して偏心させた状態で当該対称軸Asを中心に回転させて、自転運動機構部4の自転軸Asを、上記固定点Pを中心に上記対称軸Asまわりに歳差運動させるように構成されている。
【0048】
上記可撓支持部51は、図6に示すように、上記対称軸Asの周方向に沿って等間隔な3箇所に設けられ、夫々の可撓支持部51は、支持プレート41に対して連結される連結点と前面プレート80bとの連結点とを結ぶ支持方向を、固定点Pに向かう方向とする状態で、支持プレート41及び前面プレート80bの夫々に両端部が連結されている。そして、夫々の可撓支持部51は、両端部の連結点間において上記支持方向の直交面に沿ったせん断方向の変形のみを許容する形態で弾性変形するように構成され、この弾性変形により、自転運動機構部4の自転軸が常に固定点Pを通る状態で、上記のような可撓性が発揮される。
【0049】
かかる偏心回転手段6には、対称軸Asに沿って延出し、ベース部材80の背面プレート80cに設けられたベアリング81に当該対象軸Asを中心に回転自在に支持された回転部材54と、その回転部材54を、対称軸Asを中心に回転駆動するように背面プレート80に設置された回転用モータ60とが設けられている。即ち、回転用モータ60の回転動力が、その駆動軸に設けられたプーリ60a、ベルト61、回転部材54の背面プレート80よりも背面側の端部に設けられたプーリ54aに伝達されて、回転部材54を、対称軸Asを中心に回転駆動することができる。
また、詳細については後述するが、回転部材54を、対称軸Asを中心に回転駆動すれば、その回転部材54に支持されるアーム部材53の一端部に形成される作用連結部53aについても、対称軸Asを中心に回転駆動することになる。
【0050】
更に、図7に示すように、上記回転部材54は略筒状に形成されており、この回転部材54には、対称軸Asに沿って摺動自在なスライド部材56が内挿されている。また、ロッド59aを対象軸Asに平行な状態として背面プレート80cに設置された調整用シリンダ59と、その調整用シリンダ59のロッド59aの先端部に固定されて背面プレート80cの背面側に立設するスライド用プレート58とが設けられている。そして、スライド部材56の後端側が、そのスライド用プレート58に、回転ジョイント57を介して対称軸Asを中心として回転自在に保持されている。尚、このスライド用プレート58は、背面プレート80cに設けられた案内部材62により、対称軸Asに沿って変位自在に支持されている。
【0051】
更に、回転部材54の前面側端部に対して、対称軸Asと直交する軸まわりに回転自在な状態で連結された回転連結部53bを有し、その回転連結部53bにおいて屈折する形状とされ、その一端部が前述した球ジョイント52に連結される作用連結部53aとされるアーム部材53が設けられている。また、このアーム部材53の作用連結部53aとは反対側の端部は、スライド部材56の前面側端部に対して、連結部材55により連結されている。
【0052】
よって、図10及び図11に示すように、調整用シリンダ59により、ロッド59aの突出量を増加させることで、スライド部材56が対称軸Asに沿って背面側に移動し、それに伴ってアーム部材53が回転連結部53を中心に作用連結部53aとは反対側の端部を対称軸Asに近接させる方向に揺動するので、そのアーム部材53の作用連結部53aを対称軸Asに対して偏心させることができる。
【0053】
そして、このような偏心回転手段6において、調整用シリンダ59により対称軸Asに対して偏心された作用連結部53aを、回転用モータ60により対称軸Asを中心に回転させることで、可撓支持部51により支持された自転運動機構部4の自転軸Arを、常に固定点Pを通る状態で対称軸Asまわりに歳差運動させることができる。
【0054】
また、調整シリンダ59は、ロッド59aの突出量を調整することで、その作用連結部53aの対称軸Asに対する偏心距離を適切なものに調整自在とする偏心距離調整手段として機能するように構成されている。
更に、上記歳差運動において、この偏心距離を周期的に変動させると、自転運動機構部4の自転軸Arが対称軸Asと直交する径方向に向けて揺動する所謂章動を付加することができる。
【0055】
図5及び図6等に示すように、自転運動機構部4の支持プレート41を、ベース部80の吊り下げプレート80dに吊り下げて後述する歳差運動における対称軸Asを維持する吊り下げ手段として、ロッド84aを下向きとする状態で吊り下げプレート80に固定された吊り下げ用シリンダ80と、そのロッド84aと支持プレート41の上端とを互いの水平方向に沿った変位を許容する状態で連結する連結部材85とが設けられている。そして、吊り下げシリンダ80には、そのロッド84aを引退させて支持プレート31に吊り下げ力を付加するように作動用圧縮空気が供給され、その作動用圧縮空気圧が、上述した歳差運動における対象軸Asを水平に維持するように適切なものに設定されている。
【0056】
図5及び図9等に示すように、上記移動機構部7は、チャック部3に保持したトルクコンバータ100を設置部2に設置した自動変速機200側から離間させた状態から、当該トルクコンバータ100を自動変速機200側に近接させて組み付けた状態に渡って、ベース部80を対象軸Asに沿って移動させるように構成されている。
詳しくは、対称軸Asに平行に延出するガイド71と、そのガイド71を摺動する複数のスライダ72,73とを備え、前面側のスライダ72にベース部80の底面プレート80aの底面が固定されて、ベース部80が対称軸Asに沿って移動自在となっている。
また、背面側のスライダ73をガイド71に沿って移動させるための移動用モータ78が配置されており、その移動用モータ78の回転動力が、その駆動軸に設けられたプーリ78a、ベルト79、ボールねじ76の背面側端部に設けられたプーリ76aに伝達されて、ボールねじ76を回転させることにより、そのボールねじ76に螺合するナット77と共に、そのナット77に固定されたスライダ73を、ガイド71に沿って移動させることができる。
【0057】
更に、背面側のスライダ73には、ロッド74aを対称軸Asに平行且つ前面向きとする状態で背面側のスライダ73に固定された押圧用シリンダ74が設けられ、この押圧用シリンダ74のロッド74aがベース部材80の背面プレート80cに固定されている。
よって、移動用モータ78により、上記スライダ73をガイド71上で移動させることで、その押圧用シリンダ74のロッド74aを通じて、ベース部80が対称軸Asに沿って移動することになる。
【0058】
更に、押圧用シリンダ74は、ロッド74aを突出させてベース部80を押圧するように作動用圧縮空気が供給されており、その作動用圧縮空気の圧力を設定することにより、ベース部80の自動変速機200側への押圧力を適切なものに設定する押圧力設定手段として機能するように構成されている。
【0059】
更に、この押圧用シリンダ74には、ロッド74aがある一定以上引退したことを検出する磁気式の近接スイッチ75が設けられており、この近接スイッチ75の検出結果により、例えば、スプライン穴121,131とスプライン軸221,231との位置及び位相が一致せずに嵌合できなかったときにベース部80の押圧力が過剰に増加する過負荷状態を認識し、このような過負荷状態においてベース部80を一端自動変速機200側から一旦離間させて、再度ベース部80を自動変速機200側に近接させる方向に移動させるなどの操作を実施することができる。
【0060】
更に、ベース部80の対称軸Asに沿った位置により、トルクコンバータ100のスプライン穴121,131の自動変速機200のスプライン軸221,231に対する嵌合状態を検知する嵌合状態検知手段として、スライダ73のガイド71に沿った位置を検出する近接スイッチ82,83が設けられている。
即ち、トルクコンバータ100を自動変速機200側から離間させたときのスライダ73の位置を検出するように配置した近接スイッチ82により、トルクコンバータ100の自動変速機200側からの退避状態を自動的に認識したり、スプライン穴121,131とスプライン軸221,231との嵌合が完了したときのスライダ73の位置に配置した近接スイッチ83により、トルクコンバータ100の自動変速機200への組付完了を認識することができる。
【0061】
次に、組付装置1によるトルクコンバータ100の自動変速機200への組み付けの流れについて説明を加える。尚、以下に説明する組付装置1による一連の動作は、その組付装置1に設けられた制御装置により自動的に実行されるものである。
先ず、トルクコンバータ100を組付装置200に組み付けるにあたり、図9に示すように、チャック部3を設置部2から離間させた状態の組付装置1において、設置部2に自動変速機200を設置すると共に、チャック部3にトルクコンバータ100を保持させる。
【0062】
そして、組付装置1は、組付動作を開始して、先ず、自転運動機構部4及び歳差運動機構部5を作動させて、図10及び図11に示すように、トルクコンバータ100のスプライン穴121,131の自転運動と歳差運動とを開始する。ここで、自転運動の回転速度及び回転方向、歳差運動の回転速度、回転方向及び振れ幅(作用連結部53aの対称軸Asに対する偏心幅)の値は、スプライン穴121,131をスプライン軸221,231に迅速且つ正確に嵌合させるために経験的に求められた適切なものに設定される。また、これらの値については、トルクコンバータ100を自動変速機200に組み付ける工程において、所定のプログラムにより適宜変更するように構成することもできる。
また、上記歳差運動については適宜停止させた状態で組付を行っても構わない。
【0063】
次に、組付装置1は、移動機構部7を作動させて、チャック部3に保持したトルクコンバータ100を、設置部2に設置された自動変速機200側に移動させるように、ベース部80を移動させる。
ここで、トルクコンバータ100のスプライン穴121,131と自動変速機200のスプライン軸221,231との位置及び位相がずれている場合には、直ぐには嵌合せずに、スプライン軸221,231の先端面がスプライン穴121,131の基端面に当接された状態となる。
【0064】
そこで、移動機構部7の押圧用シリンダ74により、ベース部80の自動変速機200側への押圧力を適切なものに設定して、スプライン軸221,231に対するスプライン穴121,131の押圧力を適切なものに維持しながら、そのスプライン穴121,131を自転運動及び歳差運動させることにより、スプライン穴121,131とスプライン軸221,231との位置及び位相を一致させる。
そして、スプライン穴121,131とスプライン軸221,231とは、互いの位置及び位相が一致した時点で、移動機構部7による押圧力により、順次嵌合を繰り返し進行し、最後に、オイルポンプスリーブ111の溝部111aをオイルポンプ210の駆動ギヤ211に噛み合わせて、トルクコンバータ100の自動変速機200への組付を完了する。
【0065】
また、組付が完了する前に、例えば、スプライン穴121,131とスプライン軸221,231との位置及び位相の不一致により互いに嵌合させることができない状態や、溝部111aの駆動ギヤ211への噛み合わせることができない状態となって、ベース部80の押圧力の過負荷状態を押圧用シリンダ74に設けた近接スイッチ75により検出した場合には、移動機構部7は、一旦ベース部80を自動変速機200側から離間する側に退避させた後に、再度自動変速機200側に近接する側に移動させて、再度組付を試みる動作を行い、これを所定の回数繰り返しても、組付を完了することができない場合には、所定のアラームを発して、組付動作を停止することができる。
【0066】
〔別実施形態〕
(1)上記実施の形態では、本発明に係る組付装置の実施の形態として、トルクコンバータ100を自動変速機200に組み付ける組付装置1について説明したが、本発明に係る組付装置は、トルクコンバータ100とは異なる組付部品のスプライン穴を、自動変速機200とは異なる被組付部品のスプライン軸に嵌合させる形態で、当該組付部品を当該被組付部品に組み付ける組付装置としても適用可能である。また、組付部品側をスプライン軸とし、被組付部品側をスプライン穴としても構わない。
【0067】
(2)上記実施の形態では、チャック部3を真空チャックとして構成したが、例えば、トルクコンバータカバー111の背面側縁部を把持する形態のチャック部等の別の形態で構成しても構わない。
【0068】
(3)自転運動機構部4、歳差運動器後部5、及び、移動機構部7の各種機構部の構成については、適宜改変可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る組付装置は、トルクコンバータのスプライン穴のような組付部品のスプライン嵌合部を、自動変速機のスプライン軸のような被組付部品のスプライン嵌合部に嵌合させる形態で、組付部品を被組付部品に組み付けるにあたり、迅速且つ正確に、両スプライン嵌合部の位置及び位相を一致させて組付部品を被組付部品に組み付けることができる組付装置として有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】組付開始時の相対位置関係にあるトルクコンバータ及び自動変速機との側断面図
【図2】組付途中の相対位置関係にあるトルクコンバータ及び自動変速機との側断面図
【図3】組付途中の相対位置関係にあるトルクコンバータ及び自動変速機との側断面図
【図4】組付完了時の相対位置関係にあるトルクコンバータ及び自動変速機との側断面図
【図5】組付装置の側断面面図
【図6】組付装置の自転運動機構部側の部分立面図
【図7】組付装置の自転運動機構部及び歳差運動機構部の部分断面図
【図8】組付装置の歳差運動機構部の平断面図
【図9】トルクコンバータを自動変速機に対して離間させたときの組付装置の状態を示す概略構成図
【図10】歳差運動機構部による歳差運動時の組付装置の状態を示す概略構成図
【図11】図10に対して歳差運動における半周期経過時の組付装置の状態を示す概略構成図
【図12】トルクコンバータの運動状態を説明する説明図
【符号の説明】
【0071】
Ar:自転軸
As:対称軸
P:固定点
X1:スプライン穴の軸心
X2:スプライン軸の軸心
1:組付装置
2:設置部
3:チャック部(真空チャック部)
4:自転運動機構部
5:歳差運動機構部
6:偏心回転手段
7:移動機構部
32:凹部
46a:中心連結部
51:可撓支持部
52:球ジョイント(自在継手)
53:アーム部材(偏心距離調整手段)
53a:作用連結部
55:連結部材(偏心距離調整手段)
56:スライド部材(偏心距離調整手段)
57:回転ジョイント(偏心距離調整手段)
59:調整用シリンダ(偏心距離調整手段)
74:押圧用シリンダ(押圧力設定手段)
80:ベース部
83:近接センサ(嵌合状態検知手段)
84:吊り下げ用シリンダ(吊り下げ手段)
85:連結部材(吊り下げ手段)
100:トルクコンバータ(組付部品)
121,131:スプライン穴(スプライン嵌合部)
200:自動変速機(被組付部品)
221,231:スプライン軸(スプライン嵌合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータのスプライン穴を自動変速機のスプライン軸に嵌合させる形態で、前記トルクコンバータを前記自動変速機に組み付ける組付装置であって、
前記自動変速機を設置する設置部と、
前記トルクコンバータを前記設置部に設置された前記自動変速機に組み付ける姿勢で保持するチャック部と、
前記チャック部を支持すると共に、当該チャック部を前記スプライン穴の軸心が位置決めされる自転軸を中心に自転運動させる自転運動機構部と、
前記自転軸を、前記スプライン軸の軸心が位置決めされる対称軸上において前記チャック部の前面側に存在する固定点を中心に、当該対称軸まわりに歳差運動させる歳差運動機構部と、
前記自転運動機構部及び前記歳差運動機構部を支持するベース部と、
前記ベース部を、前記対象軸に沿って移動させる移動機構部とを備えた組付装置。
【請求項2】
前記歳差運動機構部が、前記固定点に向かう方向に対する直交面において可撓性を有する状態で前記自転運動機構部を前記ベース部へ支持させる可撓支持部と、前記自転運動機構部の背面側における前記自転軸上に設けられた中心連結部に対して自在継手により連結された作用連結部を前記対称軸に対して偏心させた状態で当該対称軸を中心に回転させる偏心回転手段とを有して構成されている請求項1に記載の組付装置。
【請求項3】
前記歳差運動機構部が、前記作用連結部の前記対称軸に対する偏心距離を調整自在とする偏心距離調整手段を有して構成されている請求項2に記載の組付装置。
【請求項4】
前記移動機構部が、前記ベース部の前記自動変速機側への押圧力を設定する押圧力設定手段を有して構成されている請求項1から3の何れか一項に記載の組付装置。
【請求項5】
前記ベース部の前記対称軸に沿った位置により、前記スプライン穴の前記スプライン軸に対する嵌合状態を検知する嵌合状態検知手段を備えた請求項1〜4の何れか一項に記載の組付装置。
【請求項6】
前記設置部が、前記対称軸が水平となるように前記自動変速機を横置きに設置するように構成され、
前記自転運動機構部を前記ベース部に吊り下げて前記対称軸を水平方向に維持する吊り下げ手段を備えた請求項1〜5の何れか一項に記載の組付装置。
【請求項7】
前記トルクコンバータが、前記自動変速機の駆動ギヤに連結されるオイルポンプスリーブが一方面側に突出形成されたトルクコンバータカバーを有すると共に、前記トルクコンバータカバー内に、前記オイルポンプスリーブを通じて内挿された前記自動変速機のインプットシャフト用スプライン軸に嵌合されるタービンランナ用スプライン穴と、前記自動変速機の前記インプットシャフトの基端側を外囲するステータシャフト用スプライン軸に嵌合されるステータホイール用スプライン穴とを、前記オイルポンプスリーブと同軸上に配置してなり、
前記チャック部が、前記オイルポンプスリーブが突出形成された面を前面側に向けて前記トルクコンバータカバーを保持するように構成されている請求項1〜6の何れか一項に記載の組付装置。
【請求項8】
前記トルクコンバータカバーの背面側に、前記スプライン穴の軸心を中心とした円柱状の凸部が形成され、
前記チャック部に、前記トルクコンバータを保持する際に前記凸部が嵌合し、前記自転軸を中心とした円柱状の凹部が形成されている請求項7に記載の組付装置。
【請求項9】
組付部品のスプライン嵌合部を被組付部品のスプライン嵌合部に嵌合させる形態で、前記組付部品を前記被組付部品に組み付ける組付装置であって、
前記被組付部品を設置する設置部と、
前記組付部品を前記設置部に設置された前記被組付部品に組み付ける姿勢で保持するチャック部と、
前記チャック部を支持すると共に、当該チャック部を前記組付部品のスプライン嵌合部の軸心が位置決めされる自転軸を中心に自転運動させる自転運動機構部と、
前記自転軸を、前記被組付部品のスプライン嵌合部の軸心が位置決めされる対称軸上において前記チャック部の前面側に存在する固定点を中心に、当該対称軸まわりに歳差運動させる歳差運動機構部と、
前記自転運動機構部及び前記歳差運動機構部を支持するベース部と、
前記ベース部を、前記対象軸に沿って移動させる移動機構部とを備えた組付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−118167(P2007−118167A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317712(P2005−317712)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(501127084)株式会社エイエムディ自動機 (1)
【Fターム(参考)】