説明

組成の異なるブロック共重合体を含む混合物の製造方法

【課題】本発明は、ペレット中のゲルが少なく、色調及び透明性に優れ、残留溶媒量が少ない、組成の異なる複数成分の均一混合に優れるブロック共重合体又はその水添物の混合物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、特定構造の複数成分からなるブロック共重合体又はその水添物の混合物を得るに際し、(a)各成分を個別に重合する工程、(b)反応停止剤を添加する工程、(c)溶液のPHを調整する工程、(d)特定のフェノール系安定剤と配管途中に設けた連続混合機を用いて同時に供給して混合する工程、(e)スチームストリッピングにより溶媒を除去する工程、を含む製造方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物を含む混合物を、均一混合を維持した状態で溶媒をスチームストリッピングにより脱溶媒するに際して、ペレット中のゲルが少なく、色調及び透明性に優れ、残留溶媒量が少なく、尚且つ、良好な加工安定性を有する、組成の異なる少なくとも2種類のブロック共重合体又はその水添物を含む混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体は、優れた透明性と耐衝撃性を備えた樹脂であることから、シート、フィルム、射出成形品等に広く使用されている。
【0003】
これらのブロック共重合体を製造するに際しては、触媒に対して不活性な炭化水素溶媒中で、通常重合が行われ、生成したブロック共重合体は溶媒に均一に溶解しているか、或いは懸濁した状態で得られるため、ブロック共重合体と溶媒とを分離する工程が必要となる。
【0004】
ブロック共重合体と溶媒を分離する方法としては種々の方法があるが、その一つとしてブロック共重合体溶液を直接脱溶媒するに際し、ベント押出機から1段階で脱溶媒してブロック共重合体を製造する方法が知られている。
【0005】
例えば、残存溶剤量が少なく、ゲル化、着色性に優れたブロック共重合体を得るため、2軸多段ベント押出機で脱溶媒する方法が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。また、残留揮発成分の含有率が低い弾性ポリマーを得るため、エンドレススクリューを備えた2軸ベント押出機に導入し、溶媒を除去する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。さらに、溶媒、水、モノマー等の残存含有量を下げるため、スクリュー先端部とダイ部の間にポンプを設けた2軸ベント押出機を用いて重合体を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。またさらに、熱安定性、透明性、色調及び外観特性に優れる重合体を得るため、特定の安定剤を添加した後、2軸多段ベント押出機を用いて直接脱溶媒する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。さらにまた、剛性や耐衝撃性、透明性に優れたブリスター容器を得るため、末端のブロック部を規定した2種類のブロック共重合体を特定の比率で組み合わせたブロック共重合体混合物が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。加えて、ブロック共重合体の着色性を改善するため、ブロック共重合体の炭化水素溶液を加熱、もしくは加熱水と混合して溶剤をストリッピングする以前に有機化合物の水溶液と接触させる方法が開示されている(例えば、特許文献7参照。)。
【0006】
しかしながら、組成の異なる2種類のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物の混合物の重合体溶液を、2軸ベント押出機を用いて直接脱溶媒する方法では均一混合を維持した状態を維持することが十分ではないため、得られるブロック共重合体又はその水添物の組成の均一性及び物性安定性の点でも満足できるものではなく、その解決が望まれている。
【特許文献1】特開昭51−41087号公報
【特許文献2】特開昭51−86588号公報
【特許文献3】特開昭63−284203号公報
【特許文献4】特開昭63−314207号公報
【特許文献5】特開平4−175304号公報
【特許文献6】特開2006−143944号公報
【特許文献7】特公昭55−7459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、組成の異なる2種類のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物の混合物を、均一混合を維持した状態で溶媒をスチームストリッピングで脱溶媒するに際して、ペレット中のゲルが少なく、色調及び透明性に優れ、残留溶媒量が少なく、且つ、良好な加工安定性を有するブロック共重合体又はその水添物の混合物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、組成の異なる少なくとも2種類のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物の混合物を製造するに際し、反応停止剤の添加、溶液のPH調整後に、各々個別の貯蔵槽から移送中に合流させた後、配管途中に設けた連続混合機を用いて混合することによって、均一混合を維持した状態で溶媒をスチームストリッピングによる脱溶媒が可能となり、上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
[1] ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む第1のブロック共重合体又はその水添物と、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含み、前記第1のブロック共重合体又はその水添物とは組成が異なる第2のブロック共重合体又はその水添物と、を含む混合物の製造方法であって、
下記(a)〜(e)の工程、
(a)ビニル芳香族炭化水素含有量が85〜95重量%及び共役ジエン含有量が5〜15重量%である前記第1のブロック共重合体又はその水添物(成分(I))と、ビニル芳香族炭化水素含有量が25重量%以上85重量%未満及び共役ジエン含有量が15重量%を越え75重量%以下である前記第2のブロック共重合体又はその水添物(成分(II))とを、各々個別に重合する工程と、
(b)前記成分(I)と前記成分(II)の活性重合体溶液に反応停止剤を添加する工程と、
(c)前記成分(I)と前記成分(II)の溶液に、炭酸ガス及び/又は有機酸の少なくとも1種を添加し、溶液のPHを6.0〜9.5の範囲に調整する工程と、
(d)前記成分(I)の溶液と前記成分(II)の溶液を配管途中に設けた連続混合機を用いて同時に供給して混合後、フェノール系安定剤の1種以上を添加する、或いは前記成分(I)の溶液と前記成分(II)の溶液に、フェノール系安定剤の1種以上を添加後、配管途中に設けた連続混合機を用いて同時に供給して混合する工程と、
(e)前記成分(I)と前記成分(II)の混合溶液からスチームストリッピングすることにより溶媒を除去する工程と、
を含む混合物の製造方法、
[2] 前記工程(d)の連続混合機の混合能力が、ESP≧1×10-6(KWh/kg)であるスタティックミキサー及び/又はP/V値≧103(P:混合機の動力(KW)、V:混合部の空間容積(m3))の連続混合式の乳化分散機である、前項[1]に記載の混合物の製造方法、
[3] 前記成分(I)は、25℃の貯蔵弾性率が1.5×109〜2.8×109Paの範囲であり、前記成分(II)は、25℃の貯蔵弾性率が0.1×109Pa以上、1.5×109Pa未満の範囲である、前項[1]又は[2]に記載の混合物の製造方法、
[4] 前記フェノール系安定剤は、200℃の蒸気圧が5mmHg以下である、前項[1]ないし[3]のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法、
[5] 前記成分(I)のビニル芳香族炭化水素含有量が88〜92重量%であり、前記成分(I)の共役ジエン含有量が8〜12重量%であり、前記成分(II)のビニル芳香族炭化水素含有量が30〜70重量%であり、前記成分(II)の共役ジエン含有量が30〜70重量%である、前項[1]ないし[4]のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法、
[6] 前記フェノール系安定剤が、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート及び2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−o−クレゾールから選ばれる少なくとも1種の安定剤を含む、前項[1]ないし[5]のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法、
[7] 前記混合物は、ビニル芳香族炭化水素含有量が70〜92重量%であり、共役ジエン含有量が8〜30重量%である、前項[1]ないし[6]のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、組成の異なる少なくとも2種類のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物の混合物が、均一で、その物性が安定したものを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、組成の異なる、少なくとも2種類の成分(I)と成分(II)から構成される、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物の混合物において、ビニル芳香族炭化水素の含有量が70〜92重量%であり、共役ジエンの含有量が8〜30重量%であり、好ましくはビニル芳香族炭化水素の含有量が72〜90重量%であり、共役ジエンの含有量が10〜28重量%であり、さらに好ましくはビニル芳香族炭化水素の含有量が75〜87重量%であり、共役ジエンの含有量が13〜25重量%である、ブロック共重合体又はその水添物の混合物の製造方法に関するものである。
【0012】
本発明で用いる成分(I)及び成分(II)は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物であって、成分(I)及び成分(II)は、その組成において異なる。
a)工程
[成分(I)]
本発明の成分(I)のビニル芳香族炭化水素含有量は85〜95重量%であり、好ましくは88〜92重量%の範囲であり、共役ジエンの含有量は5〜15重量%であり、好ましくは8〜12重量%の範囲である。成分(I)の25℃の貯蔵弾性率は1.5×109〜2.8×109Paであり、好ましくは1.7×109〜2.8×109Paであり、より好ましくは2.0×109〜2.8×109Paの範囲である。
成分(I)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるピーク分子量は3万〜100万であり、好ましくは5万〜85万であり、より好ましくは8万〜70万である。
さらに、成分(I)の分子量分布は、3万〜20万の範囲と、20万を越え100万以下の範囲に各々少なくとも1つのピーク分子量を有するものが好ましい。
【0013】
本発明の成分(I)は、ビニル芳香族炭化水素単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む共重合体から構成されるセグメントを少なくとも1つと、共役ジエン単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む共重合体から構成されるセグメントを少なくとも1つ有する。成分(I)のポリマー構造は特に制限は無いが、例えば、一般式:
(A−B)n、A−(B−A)n、B−(A−B)n+1
[(A−B)km+1−X、[(A−B)k−A]m+1−X
[(B−A)km+1−X、[(B−A)k−B]m+1−X
(上式において、セグメントAはビニル芳香族炭化水素単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む共重合体、セグメントBは共役ジエン単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む共重合体である。Xは、例えば、四塩化ケイ素、四塩化スズ、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ化大豆油等のカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。n、k及びmは1以上の整数、一般的には1〜5の整数である。また、Xに複数結合しているポリマー鎖の構造は同一でも、異なっていてもよい。)で表される線状ブロック共重合体やラジアルブロック共重合体、或いはこれらのポリマー構造の任意の混合物が使用できる。また、上記一般式で表されるラジアルブロック共重合体において、更にA及び/又はBが少なくとも一つXに結合していてもよい。
【0014】
本発明の成分(I)において、セグメントA、セグメントBにおけるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体中のビニル芳香族炭化水素は均一に分布していても、テーパー(漸減)状に分布していてもよい。また、該共重合体中には、ビニル芳香族炭化水素が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がセグメント中にそれぞれ複数個共存してもよい。セグメントA中のビニル芳香族炭化水素含有量({セグメントA中のビニル芳香族炭化水素/(セグメントA中のビニル芳香族炭化水素+共役ジエン)}×100)とセグメントB中のビニル芳香族炭化水素含有量({セグメントB中のビニル芳香族炭化水素/(セグメントB中のビニル芳香族炭化水素+共役ジエン)}×100)との関係は、セグメントAにおけるビニル芳香族炭化水素含有量のほうが、セグメントBにおけるビニル芳香族炭化水素含有量より大である。セグメントAとセグメントBの好ましいビニル芳香族炭化水素含有量の差は5重量%以上であることが好ましい。
【0015】
[成分(II)]
本発明の成分(II)のビニル芳香族炭化水素含有量は25重量%以上、85重量%未満、好ましくは30〜80重量%であり、より好ましくは35重量%〜75重量%未満の範囲である。一方、本発明の成分(II)の共役ジエンの含有量は、15重量%以上、75重量%未満であり、好ましくは20〜70重量%であり、より好ましくは25重量%〜65重量%の範囲である。成分(II)の25℃の貯蔵弾性率は0.1×109Pa以上、1.5×109Pa未満であり、好ましくは0.1×109〜1.0×109Paであり、より好ましくは0.1×109〜0.7×109Paの範囲である。
成分(II)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるピーク分子量は3万〜100万であり、好ましくは5万〜85万であり、より好ましくは8万〜70万である。
【0016】
本発明の成分(II)は、ビニル芳香族炭化水素単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む共重合体から構成されるセグメントを少なくとも1つと、共役ジエン単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む共重合体から構成されるセグメントを少なくとも1つ有する。成分(II)のポリマー構造は特に制限は無いが、例えば、一般式:
(Ab−Bb)n、Ab−(Bb−Ab)n、Bb−(Ab−Bb)n+1
(上式において、nは1以上の整数、一般的には1〜5である。)で表される線状ブロ
ック共重合体、或いは一般式;
[(Ab−Bb)km+1−X、[(Ab−Bb)k−Ab]m+1−X、
[(Bb−Ab)km+1−X、[(Bb−Ab)k−Bb]m+1−X
(上式において、Abはビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックであり、Bbは共役ジエンを主体とする重合体である。AbブロックとBbブロックとの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。Xは、例えば、四塩化ケイ素、四塩化スズ、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ化大豆油等のカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。k及びmは1〜5の整数である。)で表されるラジアルブロック共重合体、或いはこれらのブロック共重合体の任意のポリマー構造の混合物が使用できる。本発明の成分(II)において、セグメントAb、セグメントBbにおけるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体中のビニル芳香族炭化水素は均一に分布していても、テーパー(漸減)状に分布していてもよい。また、該共重合体中には、ビニル芳香族炭化水素が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がセグメント中にそれぞれ複数個共存してもよい。セグメントAb中のビニル芳香族炭化水素含有量({セグメントAb中のビニル芳香族炭化水素/(セグメントAb中のビニル芳香族炭化水素+共役ジエン)}×100)とセグメントBb中のビニル芳香族炭化水素含有量({セグメントBb中のビニル芳香族炭化水素/(セグメントBb中のビニル芳香族炭化水素+共役ジエン)}×100)との関係は、セグメントAbにおけるビニル芳香族炭化水素含有量のほうが、セグメントBbにおけるビニル芳香族炭化水素含有量より大である。セグメントAbとセグメントBbの好ましいビニル芳香族炭化水素含有量の差は5重量%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明に用いるビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレンなどが挙げられ、スチレンが好ましい。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0018】
本発明に用いる共役ジエンとしては、1対の共役二重結合を有するジオレフィンを用いることができ、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられ、1,3−ブタジエン、イソプレンなどが好ましい。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0019】
本発明の成分(I)と成分(II)において、(イ)イソプレンと1,3−ブタジエンとを含む共重合体ブロック、(ロ)イソプレンとビニル芳香族炭化水素とを含む共重合体ブロック、及び(ハ)イソプレンと1,3−ブタジエンとビニル芳香族炭化水素とを含む共重合体ブロックの(イ)〜(ハ)の群から選ばれる少なくとも1つの重合体ブロックが組み込まれていてもよく、ブタジエンとイソプレンの重量比が3/97〜90/10であり、好ましくは5/95〜85/15であり、より好ましくは10/90〜80/20である。なお、ブタジエンとイソプレンの重量比が3/97〜90/10のブロック共重合体とを含む水添ブロック共重合体は、水添率が50重量%以下にあっては熱成形・加工等におけるゲル生成が少ない。
【0020】
本発明の成分(I)と成分(II)は、例えば、炭化水素溶媒中で有機アルカリ金属化合物等の開始剤を用いてアニオンリビング重合により得られる。炭化水素溶媒としては、例えば、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素等が使用できる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0021】
また、重合開始剤としては、一般的に共役ジエン及びビニル芳香族化合物に対しアニオン重合活性があることが知られている脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物、芳香族炭化水素アルカリ金属化合物、有機アミノアルカリ金属化合物等を用いることができる。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、好適な有機アルカリ金属化合物としては、炭素数1から20の脂肪族及び芳香族炭化水素リチウム化合物であって、1分子中に1個のリチウムを含む化合物や1分子中に複数のリチウムを含むジリチウム化合物、トリリチウム化合物、テトラリチウム化合物が挙げられる。具体的には、n−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとsec−ブチルリチウムの反応生成物、さらにジビニルベンゼンとsec−ブチルリチウムと少量の1,3−ブタジエンとの反応生成物等が挙げられる。さらに、米国特許第5,708,092号明細書、英国特許第2,241,239号明細書、米国特許第5,527,753号明細書等に開示されている有機アルカリ金属化合物も使用することができる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0022】
本発明において、水添前のブロック共重合体を製造する際の重合温度は、一般的には、−10℃〜150℃であり、好ましくは40℃〜120℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、通常は10時間以内であり、特に好適には0.5〜5時間である。また、重合系の雰囲気は窒素ガスなどの不活性ガスなどをもって置換するのが望ましい。重合圧力は、上記重合温度範囲でモノマー及び溶媒を液層に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に制限されるものではない。さらに重合系内には触媒及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば水、酸素、炭酸ガス等が混入しないよう留意する必要がある。
【0023】
本発明の成分(I)と成分(II)のブロック共重合体の水添物は、上記で得られた水添前のブロック共重合体を水素添加することにより得られる。水添触媒としては、特に制限されず、従来から公知である(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒;(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩などの遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒;(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒が用いられる。具体的な水添触媒としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に記載された水添触媒を使用することができる。好ましい水添触媒としてはチタノセン化合物及び/又は還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。チタノセン化合物としては、特開平8−109219号公報に記載された化合物が使用できるが、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上もつ化合物が挙げられる。また、還元性有機金属化合物としては、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物あるいは有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0024】
水添反応は、一般的には、0〜200℃であり、より好ましくは30〜150℃の温度範囲で実施される。水添反応に使用される水素の圧力は0.1〜15MPaであり、好ましくは0.2〜10MPaであり、より好ましくは0.3〜7MPaである。また、水添反応時間は、通常3分〜10時間であり、好ましくは10分〜5時間である。水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、或いはそれらの組み合わせのいずれでも用いることができる。
【0025】
本発明のブロック共重合体の水添物において、共役ジエンに基づく不飽和二重結合の水素添加率は、目的に合わせて任意に選択でき、特に限定されない。熱安定性及び耐候性の良好な水添ブロック共重合体を得る場合、水添ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に基づく不飽和二重結合の70%を超える、好ましくは75%以上であり、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上が水添されている。また、熱安定性の良好な水添ブロック共重合体を得る場合、水素添加率は3〜70%であり、或いは5〜65%であり、特に好ましくは10〜60%である。なお、水添ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素に基づく芳香族二重結合の水添率については特に制限はないが、水添率を50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下にすることが好ましい。水添率は、核磁気共鳴装置(NMR)により知ることができる。
【0026】
本発明において、水添ブロック共重合体の共役ジエン部分のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、前述の極性化合物等の使用により任意に変えることができ、特に制限はない。一般に、ビニル結合量は5〜90%であり、好ましくは10〜80%であり、より好ましくは15〜75%の範囲で設定できる。なお、本発明においてビニル結合量とは、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量(但し、共役ジエンとして1,3−ブタジエンを使用した場合には、1,2−ビニル結合量)である。ビニル結合量は、核磁気共鳴装置(NMR)により求めることができる。
【0027】
ここで、成分(I)と成分(II)の25℃の貯蔵弾性率を制御する方法の例を以下に示す。ビニル芳香族炭化水素を単独重合させ、重合完結後、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの混合物を一度に仕込んで重合を続行させるとビニル芳香族炭化水素・共役ジエン比が次第に変化するビニル芳香族炭化水素・共役ジエン共重合体部をもつビニル芳香族炭化水素−共役ジエンブロック共重合体を得ることができる。また、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの均一な混合物を連続的に仕込むとビニル芳香族炭化水素・共役ジエン比の均一なビニル芳香族炭化水素・共役ジエン共重合体部をもつビニル芳香族炭化水素−共役ジエンブロック共重合体を得ることができる。ビニル芳香族炭化水素・共役ジエン比が次第に変化するビニル芳香族炭化水素・共役ジエン共重合体部をもつブロック共重合体の貯蔵弾性率の挙動は漸減的であるのに対して、ビニル芳香族炭化水素・共役ジエン比の均一なビニル芳香族炭化水素・共役ジエン共重合体部をもつブロック共重合体の貯蔵弾性率の挙動は急激に変化する。そこで、ビニル芳香族炭化水素を単独重合させてからビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの混合物を仕込んで重合を続行させる方法と、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの均一な混合物を連続的に仕込む方法とを適宜採用し、ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素含有量も併せて調整することによって、成分(I)と成分(II)が任意の25℃の貯蔵弾性率を持つポリマーを得ることが可能となる。
【0028】
本発明の成分(I)は、25℃の貯蔵弾性率が1.5×109〜2.8×109Paの範囲であり、好ましくは1.7×109〜2.6×109Pa範囲であり、より好ましくは1.8×109〜2.4×109Pa範囲である。また、本発明の成分(II)は、25℃の貯蔵弾性率が0.1×109Pa以上、1.5×109Pa未満の範囲であり、好ましくは0.1×109Pa以上、1.3×109Pa範囲であり、より好ましくは0.1×109Pa以上、1.0×109Pa範囲である。
【0029】
(b)工程
本工程は、ブロック共重合体又はその水添物の活性重合体溶液に、反応停止剤を添加する工程であり、反応停止剤は、重合器中へ添加することが好ましい。本工程は、最終的に得られるブロック共重合体又はその水添物に混在するゲルの減少に有効である。反応停止剤としては、活性水素を有する化合物;有機ハロゲン化物;無機ハロゲン化物等が挙げられる。活性水素を有する化合物としては、水、アルコール、チオール、アミン、無機酸、有機酸等が、有機ハロゲン化物又は無機ハロゲン化物としてはハロゲン化アルキル化合物、ハロゲン化珪素、ハロゲン化錫等があり、好適な反応停止剤は水、アルコールである。少量の水とアルコールを反応停止剤として使用することにより、溶媒と共に排出されて重合器中に残存せず、次の重合系に影響を及ぼさない。特に、水と炭素数1〜3のアルコールは沸点が低く揮散性に優れ、脱溶媒したブロック共重合体又はその水添物に残存しないため、臭気がない点で好ましい。
【0030】
(c)工程
前記反応停止剤を添加したブロック共重合体又はその水添物の溶液の製造に用いられる開始剤は、有機リチウム化合物を用い、そのポリマー溶液は強塩基である。このような状態でフェノール系酸化防止剤等の安定剤をポリマー溶液に添加した場合、多くの安定剤は塩基性条件下で好ましくない変質を起こすため、ポリマーの色調悪化、熱安定性の低下等が発生する。本工程では炭酸ガスと有機酸の少なくとも1種を用いて溶液のPHを調整することによって、優れた品質を有するブロック共重合体又はその水添物を得ることができる。PHの調整は、重合器中、移送先である貯蔵槽への移送配管途中、又は貯蔵槽内で行うことができる。本発明において使用する炭酸ガス、有機酸の添加量は、溶液のPHが6.0〜9.5の範囲内になるように所定量添加する。溶液のPHが9.5を超える場合は色調に劣り、6.0未満としても色調の向上はなく、ブロック共重合体又はその水添物溶液中に炭酸ガス、有機酸がそのまま存在するため、設備の腐食等が発生する可能性もあり好ましくない。ここで溶液のPHとは、溶液の一部を採取し、該溶液と同重量の蒸留水(PH7.0±0.5のもの)を該溶液と充分混合した後、静置して二層分離した水層のPHを表示するものとする。PHは、ガラス電極式水素イオン濃度計(PHメーター)を用いて測定できる。本発明で使用する有機酸は広い意味で酸性を有する有機化合物で、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、フェノール等の化合物が挙げられるが、好ましくはカルボキシル基を含有する有機化合物であって、炭素数8以上の脂肪酸、芳香族カルボン酸が好ましい。本発明で好適に用いられる脂肪酸の具体例としては、オクチル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸又はこれらの混合物等が挙げられる。芳香族カルボン酸としては、安息香酸、クロロ安息香酸、アミノ安息香酸、ケイ皮酸、フェニル酢酸又はこれらの混合物等が挙げられる。使用する炭酸ガスは、ガス状でも固体状とであってもよく、水俣は溶媒に溶解させた状態で添加することもできる。
【0031】
(d)工程
前記の炭酸ガス及び/又は有機酸を添加して混合した後、成分(I)の溶液と成分(II)の溶液を配管途中に設けた連続混合機を用いて同時に供給して混合後、フェノール系安定剤の1種以上を添加する、或いは前記成分(I)と成分(II)の溶液にフェノール系安定剤の1種以上を添加後、配管途中に設けた連続混合機を用いて同時に供給して混合する工程である。
本発明に使用するフェノール系安定剤を添加することがブロック共重合体又はその水添物の酸化劣化等による変質を防止する上で必要である。
本発明では、200℃の蒸気圧が5mmHg以下のフェノール系安定剤を用いることが、次工程の脱溶媒時におけるフェノール系安定剤の揮散を防止し、添加量に見合った効果を発揮する。逆に、200℃の蒸気圧が5mmHgを超えるフェノール系安定剤を用いた場合は、フェノール系安定剤の揮散が著しいため熱安定性の低下が大きく、好ましくない。本発明で用いるフェノール系安定剤は、200℃の蒸気圧が5mmHg以下の従来公知のフェノール系安定剤が使用でき、これらはそのまま溶液に添加しても、また炭化水素溶媒に溶解して添加してもよい。好適なフェノール系安定剤としては、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。前記フェノール系安定剤は、2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのフェノール系安定剤はブロック共重合体又はその水添物100重量部に対して0.05〜3重量部、好ましくは0.1〜2重量部の範囲で使用される。フェノール系安定剤の使用量が0.05重量部未満の場合には安定性の改良効果が認められず、逆に3重量部を超えても本発明の範囲以外の効果が発揮されない。
【0032】
本工程の配管途中に設けた連続混合機は、混合能力がESP(KWh/kg)≧1×10-6、好ましくはESP=5×10-6、より好ましくはESP=10×10-6であるスタティックミキサー、及び/又は、P/V値(KW/m3)≧103、好ましくはP/V値≧3×103、より好ましくはP/V値≧5×103、(P:混合機の動力(KW)、V:混合部の空間容積(m3))の連続混合式の乳化分散機を使用することが好ましい。連続混合機の混合能力がESP=10×10-6、P/V値≧103にあっては、組成の異なる2種類から構成されるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むブロック共重合体又はその水添物の混合物を、均一混合を維持した状態で溶媒を脱溶媒することができる。スタティックミキサーのESPは、ESP=ΔP×V[m3/sec]/(ρV[kg/sec])であり、ESP(KWh/kg)=ΔP×27×10-6/ρとして計算される。ここで、ΔPは圧力損失(kg/cm2)、ρは密度(g/ml)であり、ΔPを変動させることによって、ESPを制御することができる。成分(I)の溶液と成分(II)の溶液を、連続混合機を使用せずに、同一の槽内で混合、貯蔵する場合は、溶液が分離して均一混合状態とならないため好ましくない。
【0033】
(e)工程
前記混合溶液から溶媒を除去するスチームストリッピングは、溶液を水俣は温水に分散させ、水蒸気を吹き込んで溶媒を除去させる方法である。本発明のスチームストリッピングによる溶媒を除去する好ましい実施態様は、スチームストリッピングの際、クラム化剤として界面活性剤を用いることが一般的であり、そのような界面活性剤の一例としてはアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤である。これら界面活性剤は、ストリッピング帯の水に対して一般に0.1〜3000ppm添加される。これら界面活性剤に加えて、Li,Na,Mg,Ca,Al,Zn等の金属の水溶性塩をクラムの分散助剤として用いることもできる。水中に分散したクラム状の重合体の濃度は、一般に0.1〜20重量%(ストリッピング帯の水に対する割合)であり、この範囲であれば運転上の支障をきたすことなく、良好な粒径を有するクラムが得られる。このクラムを脱水により含水率を1〜30重量%に調整し、その後含水率が1重量%以下になるまで乾燥を行う。ここで水を含むクラムを脱水するとは、ロール、バンバリー式脱水機、スクリュー押出機式絞り脱水機等の圧縮水絞機での脱水、或いはコンベアー,箱型の熱風乾燥機で脱水と乾燥を同時に行うこともできる。圧縮水絞機での脱水は一軸又は二軸等の多軸スクリュー押出機式絞り脱水機が、脱水効率及び作業性の点で好ましい。また、脱水と乾燥を一体化された装置で実施することもできる。このような装置として好適なものは、脱水用のスリットを少なくとも1個、好ましくは2〜4個有し、脱気用のベントを少なくとも1個、好ましくは2〜4個有する2軸以上のベント押出機が挙げられる。
【0034】
本発明の方法によって得られたブロック共重合体又はその水添物の混合物には、目的に応じて種々の添加剤を添加することができる。例えば、オイル等の軟化剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、顔料、ガラス繊維,ガラスビーズ,シリカ,炭カル,タルク等の無機補強剤、有機繊維,クマロンインデン樹脂等の有機補強剤、他の熱可塑性樹脂等が添加剤として使用できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限
定を受けるものではない。実施例に示す測定値及び評価は、下記の方法によって行った。
【0036】
(1)動的粘弾性:
加熱プレスで圧縮成形した厚さ約1mmの試験片を、株式会社ユービーエム製粘弾性測定解析装置DVE−V4を用い、振動周波数35Hz、昇温速度3℃/minの条件で温度−50℃〜150℃の範囲を測定し、25℃の貯蔵弾性率を求めた。
【0037】
(2)水添率:
ブロック共重合体水添物を用い,核磁気共鳴装置(装置名:DPX−400;ドイツ国、BRUKER社製)で測定した。
【0038】
(3)PH:
炭酸ガスを添加混合した後の重合体溶液の一部をサンプリングし、その溶液100gとPH7.0の蒸留水100gとを充分混合した後、静置して二層分離した水層部分をPHメーター(岩城硝子株式会社製、ガラス電極式水素イオン濃度計)で測定した。
【0039】
(4)色調:
日本電色工業株式会社製ND−V6B型総合視覚測定機を用いてペレットのb値を測定した。b値が大きい程みかけの黄色度が大きい。
【0040】
(5)フィッシュアイ:
20mmシート押出機(押出温度200℃)で作成した厚み0.1mm、幅8cm、長さ15mシートの目視判定によるフィッシュアイサイズ0.2mm以上の個数により評価した。個数が少ない程ゲルが形成されにくい。
【0041】
(6)均一混合性:
脱溶媒スタート直後ペレットと脱溶媒最終ペレットのスチレン含量の差を均一混合性とした。均一混合性が良好なものは差が小さく、均一混合性に劣るものは差が大きい。評価基準は以下の通りである。
○:スタート直後ペレットと最終ペレットのスチレン含量の差が1%以下
△:スタート直後ペレットと最終ペレットのスチレン含量の差が1%を越え、5%未満
×:スタート直後ペレットと最終ペレットのスチレン含量の差が5%以上
なお、スチレン含量は核磁気共鳴装置(装置名:DPX−400;ドイツ国、BRUKER社製)で測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
[製造例1]
[成分I−1の製造]
窒素ガス雰囲気下において、スチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液にテトラメチルエチレンジアミン0.06重量部とn−ブチルリチウムを0.055重量部添加し、75℃で25分間重合した後、更に1,3−ブタジエン8重量部とスチレン52重量部を含むシクロヘキサンを連続的に添加して75℃で50分間重合した。次に、スチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液を添加し、75℃で25分間重合して活性重合体溶液を得た。本発明の成分(I)として、該溶液中の重合体は、スチレン含有量92重量%のA−B−A構造のブロック共重合体であった。
【0045】
[製造例2]
[成分I−2の製造]
窒素ガス雰囲気下において、スチレン10重量部を含むシクロヘキサン溶液にテトラメチルエチレンジアミン0.06重量部とn−ブチルリチウムを0.062重量部添加し、75℃で15分間重合した後、更に1,3−ブタジエン11重量部とスチレン54重量部を含むシクロヘキサンを連続的に添加して75℃で50分間重合した。次にスチレン25重量部を含むシクロヘキサン溶液を添加し、75℃で30分間重合した。次に、上記で得られたブロック共重合体を特開昭59−133203号公報記載のTi系水添触媒で水添し、本発明の成分(I)として、ブタジエン部の水添率が74%のA−B−A構造の水添ブロック共重合体を得た。
【0046】
[製造例3]
[成分II−1の製造]
窒素ガス雰囲気下において、スチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液にテトラメチルエチレンジアミン0.06重量部とn−ブチルリチウムを0.072重量部添加し、75℃で25分間重合した後、更に1,3−ブタジエン30重量部とスチレン20重量部を含むシクロヘキサンを連続的に添加して75℃で45分間重合した。次にスチレン30重量部を含むシクロヘキサン溶液を添加し、75℃で35分間重合して活性重合体溶液を得た。本発明の成分(II)として、該溶液中の重合体は、スチレン含有量70重量%のA−B−A構造のブロック共重合体であった。
【0047】
[製造例4]
[成分II−2の製造]
窒素ガス雰囲気下において、スチレン30重量部を含むシクロヘキサン溶液にテトラメチルエチレンジアミン0.03重量部とn−ブチルリチウムを0.083重量部添加し、75℃で25分間重合した後、更に1,3−ブタジエン38重量部とスチレン2重量部を含むシクロヘキサンを連続的に添加して75℃で40分間重合した。次にスチレン30重量部を含むシクロヘキサン溶液を添加し、75℃で30分間重合した。次に、上記で得られたブロック共重合体を特開昭59−133203号公報記載のTi系水添触媒で水添し、本発明の成分(II)として、ブタジエン部の水添率が38%のA−B−A構造の水添ブロック共重合体を得た。
【0048】
[製造例5]
[成分II−3の製造]
窒素ガス雰囲気下において、スチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液にn−ブチルリチウムを0.078重量部添加し、75℃で20分間重合した後、更に1,3−ブタジエン60重量部を含むシクロヘキサンを連続的に添加して75℃で70分間重合した。次にスチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液を添加し、75℃で20分間重合して活性重合体溶液を得た。本発明の成分(II)として、該溶液中の重合体は、スチレン含有量40重量%のA−B−A構造のブロック共重合体であった。
【0049】
[実施例1]
製造例1で得た成分I−1と製造例3で得た成分II−1の活性重合体溶液に、エタノールをn−ブチルリチウムに対して0.9倍当量、重合器中で添加して反応を停止した。その後、重合溶液を重合器から他の各々異なる貯蔵槽へ移送する間に水を重合体100重量部に対して0.02重量部加えた後、炭酸ガスを加えて表2に示した溶液のPHに調整した。前記溶液を各々異なる貯蔵槽から移送配管で合流させ、その下流に設けたスタティックミキサーで混合した後、安定剤を添加してフラッシュ型濃縮器に送液した。ここで使用したスタティックミキサーは内径27mm、エレメント数6(1モジュールあたり)、全長1100mm(4セット)であり、スタティックミキサー混合条件は溶液温度60℃、流速は26L/分、圧力損失は0.41kg/cm2、溶液密度は0.8g/mlであった。スタティックミキサーの混合能力は圧力損失を制御することで調整でき、圧力損失を大きくすることで混合能力は大きくなり、逆に圧力損失を小さくすることで混合能力も小さくなった。前記溶液をスチームストリッピングするにあたり、クラム化剤として、α−(p−ノニルフェニル)−ω−ヒドロキシポリ(オキシエチレン)のジハイドロジエンリン酸エステルとモノハイドロジエンリン酸エステルとの混合物(ポリ(オキシエチレン)オキシエチレン単位は平均値として9〜10)をストリッピング帯の水に対して30ppm用い、90〜98℃の温度で溶媒を除去した。溶媒除去槽内のスラリー中の重合体クラムの濃度はいずれも約5重量%であった。次いで、上記で得られたクラムの水分散スラリーを回転式スクリーンに送り、含水率約45重量%の含水クラムを得た。この含水クラムを1軸スクリュ−押出機型水絞り機に送り、脱水したブロック共重合体を得た。その後、前記で得られたブロック共重合体を2軸1段ベント押出機に供給し、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数200回転/分、ベントの圧力約200mmHg絶対圧で押出し、乾燥した。押出機先端からストランド状で得た重合体はカッターにてペレット状にした、結果を表2に示した。本発明のブロック共重合体は各成分が均一であり、色調及びフィシュアイが良好で、残存溶媒が1040ppm、残存水分量が320ppmと少ない量であった。
【0050】
[実施例2〜4]
表2に示した成分から構成されるブロック共重合体をスタティックミキサーの混合条件を変化させた以外は実施例1と同様に製造した。結果を表2に示した。本発明のブロック共重合体は各成分が均一であり、色調及びフィシュアイが良好であった。
【0051】
[実施例5]
表2に示した成分から構成されるブロック共重合体を連続混合機として連続混合式の乳化分散機を用いた以外は実施例1と同様に製造した。連続混合式の乳化分散機はキャビトロン1010型(ユーロテック(株)社、空間容量4mL)に滞留時間0.07秒で通過させた。この時のキャビトロン1010の運転条件はローター回転数が3000rpm、P/V値(KW/m3)が10×103であった。結果を表2に示した。本発明のブロック共重合体は各成分が均一であり、色調及びフィシュアイが良好であった。
【0052】
[比較例1]
製造例1で得た成分I−1と製造例3で得た成分II−1の活性重合体溶液に、エタノールをn−ブチルリチウムに対して0.9倍当量、重合器中で添加して反応を停止した。その後、重合溶液を重合器から同一の貯蔵槽へ移送する間に水を重合体100重量部に対して0.02重量部加えた後、炭酸ガスを加えて表2に示した溶液のPHに調整した。同一の貯蔵槽に約2時間貯蔵後、安定剤を添加して実施例1と同様にスチームストリッピングにより脱溶媒してペレットを得た。結果を表2に示した。本発明とは異なり、同一の貯蔵槽に貯蔵し、連続混合機を使用しない製造方法では、本発明で規定した複数成分を同一貯蔵槽で貯蔵した際に2層分離するため、均一混合性に劣る結果であった。
【0053】
[比較例2]
表2に示した安定剤処方以外は実施例1と同様に製造した。結果を表2に示した。本発明で規定したフェノール系安定剤ではなく、200℃の蒸気圧が約120mmHgである2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを添加したブロック共重合体はフィシュアイが多くなり、好ましくない。
【0054】
[比較例3]
表2に示した溶液のPH以外は実施例1と同様に製造した。結果を表2に示した。本発明で規定した溶液のPHではないため、色調が黄色で、着色製品とした場合に所定の着色ができないため、好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のブロック共重合体又はその水添物の製造方法は、組成の異なる複数成分の均一混合を維持した状態で脱溶媒が可能であり、ペレット中のゲルが少なく、色調及び透明性に優れ、残留溶媒量が少ないブロック共重合体又はその水添物の混合物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む第1のブロック共重合体又はその水添物と、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含み、前記第1のブロック共重合体又はその水添物とは組成が異なる第2のブロック共重合体又はその水添物と、を含む混合物の製造方法であって、
下記(a)〜(e)の工程、
(a)ビニル芳香族炭化水素含有量が85〜95重量%及び共役ジエン含有量が5〜15重量%である前記第1のブロック共重合体又はその水添物(成分(I))と、ビニル芳香族炭化水素含有量が25重量%以上85重量%未満及び共役ジエン含有量が15重量%を越え75重量%以下である前記第2のブロック共重合体又はその水添物(成分(II))とを、各々個別に重合する工程と、
(b)前記成分(I)と前記成分(II)の活性重合体溶液に反応停止剤を添加する工程と、
(c)前記成分(I)と前記成分(II)の溶液に、炭酸ガス及び/又は有機酸の少なくとも1種を添加し、溶液のPHを6.0〜9.5の範囲に調整する工程と、
(d)前記成分(I)の溶液と前記成分(II)の溶液を配管途中に設けた連続混合機を用いて同時に供給して混合後、フェノール系安定剤の1種以上を添加する、或いは前記成分(I)の溶液と前記成分(II)の溶液に、フェノール系安定剤の1種以上を添加後、配管途中に設けた連続混合機を用いて同時に供給して混合する工程と、
(e)前記成分(I)と前記成分(II)の混合溶液からスチームストリッピングすることにより溶媒を除去する工程と、
を含む混合物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(d)の連続混合機の混合能力が、ESP≧1×10-6(KWh/kg)であるスタティックミキサー及び/又はP/V値≧103(P:混合機の動力(KW)、V:混合部の空間容積(m3))の連続混合式の乳化分散機である、請求項1に記載の混合物の製造方法。
【請求項3】
前記成分(I)は、25℃の貯蔵弾性率が1.5×109〜2.8×109Paの範囲であり、前記成分(II)は、25℃の貯蔵弾性率が0.1×109Pa以上、1.5×109Pa未満の範囲である、請求項1又は2に記載の混合物の製造方法。
【請求項4】
前記フェノール系安定剤は、200℃の蒸気圧が5mmHg以下である、請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法。
【請求項5】
前記成分(I)のビニル芳香族炭化水素含有量が88〜92重量%であり、前記成分(I)の共役ジエン含有量が8〜12重量%であり、前記成分(II)のビニル芳香族炭化水素含有量が30〜70重量%であり、前記成分(II)の共役ジエン含有量が30〜70重量%である、請求項1ないし4のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法。
【請求項6】
前記フェノール系安定剤が、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート及び2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−o−クレゾールから選ばれる少なくとも1種の安定剤を含む、請求項1ないし5のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法。
【請求項7】
前記混合物は、ビニル芳香族炭化水素含有量が70〜92重量%であり、共役ジエン含有量が8〜30重量%である、請求項1ないし6のうち何れか一項に記載の混合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−231372(P2008−231372A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77088(P2007−77088)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】