説明

組成物、フィルター、滅菌方法、及び菌検出方法

【課題】従来の滅菌方法の問題を解決できる組成物、フィルター、滅菌方法、及び菌検出方法を提供すること。
【解決手段】(a)複素誘電率を有する誘電体微粒子、又は複素透磁率を有する磁性体微粒子と、(b)前記(a)の微粒子の表面に配位した配位子と、を含むことを特徴とする組成物。前記微粒子としては、金属、酸化物等が挙げられる。前記配位子としては、各種リガンド等が挙げられる。本発明の組成物は、フィルターに担持して用いることができる。また、本発明の組成物は、滅菌方法や菌検出方法に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば滅菌や菌の検出等の用途に用いられる組成物、フィルター、滅菌方法、及び菌検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療機器等の滅菌には、(A)エチレンオキサイドガス滅菌、(B)オートクレーブ滅菌、(C)低気圧あるいは大気圧プラズマ滅菌等の方法が用いられてきた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−224199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記(A)の方法には、エチレンオキサイドガスの毒性の問題、残留ガスの問題、環境面の問題等がある。また、上記(B)の方法には、滅菌対象物が高温高圧下に曝されてしまうので、滅菌対象物の材質が金属やガラスに限定されてしまうという問題がある。また、上記(C)の方法は、滅菌対象物の表面のみしか滅菌できず、複雑な構造を有する内視鏡等には適用できないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一つを解決する組成物、フィルター、滅菌方法、及び菌検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の組成物は、(a)複素誘電率(誘電正接)を有する誘電体微粒子、又は複素透磁率を有する磁性体微粒子と、(b)前記(a)の微粒子の表面に配位した配位子と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の組成物は、例えば、複素誘電率(誘電正接)を有する誘電体微粒子、又は複素透磁率を有する磁性体微粒子の表面に、配位子が配位した構造を有する。この組成物は、図1に示すように、細菌(図1ではspore)の表面に吸着する。この状態で組成物にマイクロ波などの高周波を照射すると、組成物が誘電体微粒子で構成される場合には誘電正接を有するため、また、組成物が磁性体微粒子で構成される場合には複素透磁率を有するため、組成物は局所的に誘導加熱され、細菌は不活性化する。
【0008】
よって、本発明の組成物を用いれば、例えば、毒性のある物質を用いず、また、滅菌対象物の温度を高温にせずに、滅菌対象物を滅菌することができる。
さらに、滅菌対象物が複雑な構造を有し、細い隙間等を有するものであっても、例えば、本発明の組成物を含む分散液を、その細い隙間に侵入させれば、そこの滅菌も行うことができる。
【0009】
前記微粒子の材質としては、例えば、金属、酸化物、非金属が挙げられる。金属としては、例えば、銀、銅、鉄等が挙げられる。非金属としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン等が挙げられる。
【0010】
前記微粒子の表面は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びヒドロキシ基のうちのいずれかの官能基で修飾することができる。
前記微粒子の粒径は、50〜500nmの範囲が好ましい。この範囲内であることにより、上述した効果が一層著しい。
【0011】
前記微粒子は、例えば、その表面にグラフェン層を備えていてもよい。グラフェン層は、例えば、直流アーク放電により形成することができる。グラフェン層の厚みは、5〜20nmの範囲が好ましい。グラフェン層が存在することにより、それが存在しない場合に比べて、表面化学修飾が可能になる利点があり、さらに生体適合性の効果が得られる。
【0012】
前記配位子としては、例えば、各種リガンドが挙げられる。特に、アミノ基、カルボキシル基やチオール基に選択的に結合する性質を持ち、酵素、ペプチド、多糖類、抗体などと生物活性化合物を形成するものが好ましい。そのような配位子の具体例としては、例えば、グルタルアルデヒド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレングリコール等、数多くの配位子が挙げられる。
【0013】
本発明の組成物は、例えば、フィルターに担持して用いることができる。このフィルターを用いれば、フィルターに捕捉された菌に本発明の組成物を吸着させることができる。その状態で、本発明の組成物にマイクロ波などの高周波を照射すると、本発明の組成物及び菌を局所的に誘導加熱し、滅菌を行うことができる。マイクロ波などの高周波を照射する手段は、フィルターを備えた装置(例えば空気清浄機)が備えていてもよいし、外部の手段であってもよい。
【0014】
本発明の滅菌方法は、上述した組成物を滅菌対象物に接触させ、前記組成物を高周波(例えばマイクロ波)で加熱することを特徴とする。
本発明の滅菌方法では、例えば、前記組成物を含む分散液を前記滅菌対象物に接触させることにより、前記組成物を前記滅菌対象物に接触させることができる。
【0015】
また、気体中に存在する組成物、あるいは、固体上に担持された組成物を滅菌対象物に接触させてもよい。
本発明の菌検出方法は、上述した組成物を菌検出対象物に接触させ、前記組成物を高周波(例えばマイクロ波)で加熱することを特徴とする。組成物は菌に吸着し、マイクロ波などの高周波により加熱されるので、マイクロ波などの高周波の照射により局所的に昇温しているところがあれば、そこに菌が存在するということになる。よって、局所的な昇温部分を検出することにより、菌を検出することができる。
【0016】
前記滅菌対象物、前記菌検出対象物としては、例えば、医療器具、菌で汚染された空気、各種飲食料品用容器等が挙げられる。医療器具としては、例えば、内視鏡、カテーテル、複雑な構造の外科手術器具、呼吸回路等が挙げられる。
【0017】
本発明により滅菌できる菌、または検出できる菌としては、例えば、バシラス・アトロフェウス、ジェオバシラス・ステアロサーモフィラスなどの芽胞菌、各種ウイルス、各種カビ等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の組成物の構造及び作用を表す説明図である。
【図2】グラフェン層を形成した磁性体ナノ粒子を表すTEM写真である。
【図3】本発明の組成物の分散性を示す実験結果である。
【図4】本発明の組成物の磁化特性を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0020】
1.組成物Aの製造
(1)微粒子の製造
磁性体ナノ粒子を用意した。この磁性体ナノ粒子は、金属と炭素で焼結させたグラファイト電極を用いて、ヘリウムとメタンガス雰囲気中で直流アーク放電によって生成される。この磁性体ナノ粒子の材質は超常磁性体であり、その平均粒径は5〜100nmである。なお、平均粒径は高分解透過型電子顕微鏡により解析した微粒子像のサイズ分布解析により測定した値である。
【0021】
上記の磁性体ナノ粒子の表面に、直流アーク放電により、グラフェン層を形成した。直流アーク放電で使用した機器、および放電条件は以下のとおりである。
・直径20cm、高さ20cmのステンレス真空容器、
・グラファイト棒電極中に金属パウダーとグラファイトセメントで焼結させた電極、
・電流値100A、電圧20〜25V,
・ヘリウム80 Torr、メタンなどの炭化水素系ガス20Torr
グラフェン層を形成した磁性体ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、図2に示す画像が得られた。この画像から、厚さ10〜30nmのグラフェン層が磁性体ナノ粒子の表面に形成されていることが確認できた。
(2)配位子の固着
上記(1)で製造した微粒子の表面に、官能基であるアミノ基を付着させた。その詳しい手順は以下のとおりである。
【0022】
微粒子をRFプラズマ装置内に設置した状態でポンプにより真空に引いた後、アルゴンガスを100mTorr封入し、RF放電によりプラズマ生成し、微粒子表面のグラフェン表面層を活性化させ、その後、ガスをアンモニアガスに置き換え、RF放電によりグラフェン層表面の欠陥にアミノ基を修飾する。
【0023】
以上の工程により、組成物Aを完成した。
なお、アミノ基の代わりに、カルボキシル基で修飾してもよい。
図3に、組成物Aの分散性を試験した結果を示す。この試験結果から、組成物Aは分散性に優れることが確かめられた。また、図4に、組成物Aの磁化特性を試験した結果を示す。この試験結果から、組成物Aは磁化特性に優れることが確かめられた。
【0024】
2.組成物Aの使用方法
(1)分散媒の調製
組成物Aを分散媒に分散させ、分散液を調整した。分散媒の物質はエタノールである。また、分散液の配合比は、分散媒5mlに対し、組成物A5mgである。
(2)滅菌方法の実施
上記(1)で調製した分散液を、滅菌対象物であるバイオロジカルインディケータ(生物指標対)の表面に塗布した。塗布方法はマイクロピペットで点滴する方法である。塗布後の滅菌対象物に対しマイクロ波を放射し、滅菌を行った。マイクロ波の放射に使用した機器、及びマイクロ波の放射条件は以下のとおりである。
・直径30cm、高さ30cmのステンレス製円筒容器、
・マイクロ波パワーは100W〜400W
その後、滅菌対象物の表面における菌の数をコロニーカウント法で測定した。なお、滅菌対象物の表面における菌の数は、分散液を塗布する前にも予め測定しておいた。滅菌方法の実施前後における菌の数を比較すると、滅菌方法の実施後は顕著に減少していた。
【0025】
また、このとき、滅菌対象物の温度は殆ど上昇していなかった。
3.組成物Aが奏する効果
(1)組成物Aを用いた滅菌方法によれば、毒性のある物質を用いる必要がない。
【0026】
(2)組成物Aを用いた滅菌方法によれば、滅菌対象物の温度を高温にする必要がない。
(3)滅菌対象物が複雑な構造を有し、細い隙間等を有するものであっても、成物Aを含む分散液を、その細い隙間に侵入させれば、そこの滅菌も行うことができる。
【実施例2】
【0027】
1.組成物Bの製造
(1)微粒子の製造
YAGレーザアブレーションによりZnOナノ微粒を製造した。
【0028】
ZnOナノ微粒子の平均粒径は5〜200nmである。ZnOナノ微粒子をTEMで観察したところ、図3に示す画像が得られた。
(2)配位子の固着
上記(1)で製造した微粒子の表面に、ヒドロキシ基などの官能基を付着させた。その詳しい手順は以下のとおりである。
【0029】
微粒子をRFプラズマ中に設置し、酸素RFプラズマにより微粒子表面に欠陥を生じさせ、水蒸気を転嫁することによりヒドロキシ基の修飾を行った。
以上の工程により、組成物Bを完成した。
【0030】
2.組成物Bの使用方法
(1)分散媒の調製
組成物Bを分散媒に分散させ、分散液を調整した。分散媒の物質はエタノールである。また、分散液の配合比は、分散媒10mlに対し、組成物B10mgである。
(2)滅菌方法の実施
上記(1)で調製した分散液を、滅菌対象物であるバイオロジカルインディケータ(生物指標対)の表面に塗布した。塗布方法はマイクロピペットで点滴する方法である。塗布後の滅菌対象物に対しマイクロ波を放射し、滅菌を行った。マイクロ波の放射に使用した機器、及びマイクロ波の放射条件は以下のとおりである。
・直径30cm、高さ30cmのステンレス製円筒容器、
・マイクロ波パワーは100W〜400W
その後、滅菌対象物の表面における菌の数をコロニーカウント法で測定した。なお、滅菌対象物の表面における菌の数は、分散液を塗布する前にも予め測定しておいた。滅菌方法の実施前後における菌の数を比較すると、滅菌方法の実施後は顕著に減少していた。
【0031】
また、このとき、滅菌対象物の温度は殆ど上昇していなかった。
3.組成物Bが奏する効果
(1)組成物Bを用いた滅菌方法によれば、毒性のある物質を用いる必要がない。
【0032】
(2)組成物Bを用いた滅菌方法によれば、滅菌対象物の温度を高温にする必要がない。
(3)滅菌対象物が複雑な構造を有し、細い隙間等を有するものであっても、成物Bを含む分散液を、その細い隙間に侵入させれば、そこの滅菌も行うことができる。
【実施例3】
【0033】
前記実施例1で製造した組成物Aを、市販の空気清浄機のフィルターに担持した。そのフィルターを空気清浄機に取り付け、所定時間運転して、フィルターに空気を流通させた。その後、フィルターを取り出し、マイクロ波を照射した。その照射条件は前記実施例1と同様とした。次に、フィルターに付着している菌の数を測定した。
【0034】
また、比較対照として、組成物Aを担持しない同種のフィルターであって、上と同様に空気の流通とマイクロ波の照射を行ったものについても、菌の数を測定した。その結果、組成物Aを担持したフィルターでは、組成物Aを担持しないフィルターに比べて、菌の数が顕著に減少していた。
【0035】
また、前記実施例2で製造した組成物Bを担持したフィルターについても、略同様の効果が得られた。
【実施例4】
【0036】
前記実施例1で調製した、組成物Aを含む分散媒を、菌検出対象物であるバイオロジカルインディケータ(生物指標対)の表面に塗布した。塗布後の菌検出対象物に対しマイクロ波を放射し、その照射中に、局所的に温度が上昇しているところを検出した。すなわち、組成物Aを用いて、菌を検出できた。
【0037】
一方、組成物Aを含む分散媒を塗布していない菌検出対象物に対しマイクロ波を放射しても、局所的に温度が上昇しているところは観測できなかった。
組成物Aを含む分散媒の代わりに、組成物Bを含む分散媒を用いても、略同様の効果が得られた。
【0038】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)複素誘電率を有する誘電体微粒子、又は複素透磁率を有する磁性体微粒子と、
(b)前記(a)の微粒子の表面に配位した配位子と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記(a)の微粒子が、金属、酸化物のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記(a)の微粒子の表面が、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びヒドロキシ基のうちのいずれかの官能基で修飾され、
前記配位子が各種リガンドのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物を担持したフィルター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物を滅菌対象物に接触させ、
前記組成物を高周波で加熱することを特徴とする滅菌方法。
【請求項6】
前記組成物を含む分散液を前記滅菌対象物に接触させることにより、前記組成物を前記滅菌対象物に接触させることを特徴とする請求項5記載の滅菌方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物を菌検出対象物に接触させ、
前記組成物を高周波で加熱することを特徴とする菌検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−184194(P2012−184194A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48219(P2011−48219)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】