説明

組成物、ペレット、樹脂成形品及び電線、並びに、組成物の製造方法

【課題】 耐熱性向上のための添加剤が少量の添加であっても耐熱性が優れる、含フッ素ポリマーを含む組成物を提供する。
【解決手段】 本発明は、含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)と、を含むことを特徴とする組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温下での連続使用に好適に用いることができ、特に電線の被覆材を形成するために好適に用いることができる組成物及びペレット、樹脂成形品、並びに、電線に関する。また、組成物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーは、電子機器、車両、その他の電線など各種成形品に使用されているが、これらの成形品は、製造下ではもちろんのこと、使用下でも高温に曝される場合がある。そのため、原料となる含フッ素ポリマーには、高温での熱安定性や耐熱老化性が求められている。
【0003】
このような中で、含フッ素ポリマーの耐熱性向上を目的として、成形品を製造するための組成物に添加剤を添加することが提案されている。例えば、特許文献1では、エチレン−4フッ化エチレン系共重合体に、銅又は銅化合物を添加混合してなる熱安定性の向上したエチレン−4フッ化エチレン系共重合体組成物が開示されている。
【0004】
ところで、特許文献2では、高温条件での劣化現象を防止して、耐熱性に優れること、耐熱性が長期的に安定であることを目的としたフッ素系グリースにおいて、フルオロシリコーンオイル(イ)、フッ素樹脂系増ちょう剤(ロ)と、変性ウンデカン混合物、変性ブタン、Cuフタロシアニン、Caスルフォネート等で表される添加剤(ハ)の少なくとも1種以上を含有する耐熱性グリース組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、粒状物が分散させられた樹脂層を含む耐熱性樹脂製品において、粒状物としてのリポソーム中に金属ポルフィリン錯体を含ませることで、二酸化炭素減少効果が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−25850号公報
【特許文献2】特開平8−143883号公報
【特許文献3】特開2007−204666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように銅や酸化銅を添加する場合、耐熱性の向上には比較的多量に添加剤を使用する必要があり、含フッ素ポリマーの耐熱性を含フッ素ポリマーの優れた特性を損なうことなく向上させることが望まれる。
【0008】
特許文献3では、リポソームなどの外殻物質中に金属ポルフィリン錯体を含ませることで、焼却時に二酸化炭素減少効果が得られることが記載されているが、この金属ポルフィリン錯体が耐熱性向上に寄与することは全く記載されていない。また、上記のように、外殻物質中に金属ポリフィリン環を含ませた場合には、金属ポリフィリン環と熱劣化の原因となる酸素ラジカルや酸素ラジカルに攻撃された主鎖のラジカルとで充分な相互作用が得られず、電子の受け渡しができないため、耐熱性向上の効果を得ることはできない。
【0009】
本発明の目的は、耐熱性向上のための添加剤が少量の添加であっても耐熱性が優れる、含フッ素ポリマーを含む組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、耐熱性向上手段について種々検討したところ、含フッ素ポリマーに、テトラピロール系環状化合物を添加することが、耐熱性向上に特段の効果を発揮し、その添加量が少なかったとしても耐熱性を向上させることができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)と、を含むことを特徴とする組成物である。
【0012】
上記テトラピロール系環状化合物(B)は、含フッ素ポリマー(A)に対して1〜100ppmの含有量であることが好ましい。
【0013】
上記テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有することが好ましい。
【0014】
上記テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環を有することが好ましい。
【0015】
上記テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有する配位子が金属原子に配位した有機金属錯体であることが好ましい。
【0016】
金属原子は、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、及び、鉄からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
金属原子は、亜鉛、マンガン、ニッケル、及び、鉄からなる群より選択される少なくとも1種であることも好ましい形態の一つである。
【0018】
金属原子は、銅又は亜鉛であることも好ましい形態の一つである。
【0019】
上記組成物は、更に、チタン酸化物を含むことが好ましい。
【0020】
含フッ素ポリマー(A)は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン及びフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に基づく重合単位を含むことが好ましい。
【0021】
含フッ素ポリマー(A)は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、ポリフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
含フッ素ポリマー(A)は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
本発明は、上記組成物からなることを特徴とするペレットでもある。
【0024】
本発明は、上記組成物を成形してなることを特徴とする樹脂成形品でもある。
【0025】
本発明は、芯線と、上記組成物を上記芯線上に被覆してなる被覆材と、を有する電線でもある。
【0026】
本発明は、含フッ素ポリマー(A)とテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)とを混合して、含フッ素ポリマー(A)と該含フッ素ポリマー(A)に対して0.1質量%を超えるテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)とを含む樹脂成形用マスターバッチを得る工程と、得られた樹脂成形用マスターバッチに、含フッ素ポリマー(A)を添加して上記組成物を得る工程と、を含むことを特徴とする組成物の製造方法でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明の組成物は、含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)と、を含む。上記テトラピロール系環状化合物(B)と、含フッ素ポリマー(A)とを含むことによって、優れた耐熱性を有する。例えば、本発明の組成物を加熱する場合に、上記テトラピロール系環状化合物(B)が少量であっても優れた耐熱性が得られるため、添加剤を多量に添加する必要がなく、組成物から形成される成形品の機械的強度の劣化を防止することができる。また、上記テトラピロール系環状化合物(B)の添加量が少量であっても優れた耐熱性が得られることから、金属原子に起因する変色を抑制することができる。更に、例えば、ヨウ化銅又は塩化銅を添加した場合には、ヨウ素や塩素が発生し、周囲に悪影響を及ぼすおそれがあるが、上記テトラピロール系環状化合物(B)ではその恐れもない。上記「コバルト化合物」は、コバルトを含む化合物のことであり、例えば、配位子がコバルト原子に配位した有機金属錯体等も含まれる。以下、本明細書において「テトラピロール系環状化合物(B)」と称する場合、コバルト原子を有しないテトラピロール系環状化合物を意味する。
【0028】
本明細書中で、テトラピロール系環状化合物(B)は、4個のピロール環が環状に結合した構造を有する化合物である。テトラピロール系環状化合物(B)としては、例えば、4個のピロール環それぞれが炭素原子又は窒素原子1個をはさんで環状に結合した構造を有する化合物が挙げられ、より具体的には、ポルフィリン環、フタロシアニン環等を有する化合物が好ましい化合物として挙げられる。
【0029】
テトラピロール系環状化合物(B)は、4個のピロール環が環状に結合した構造を有する配位子が金属原子(但し、コバルト原子を除く。)に配位した有機金属錯体であってもよいし、金属原子を有していないものであってもよいが、安定性、効果の持続性などの面から見て上記有機金属錯体であることがより好ましい。本発明の組成物は、特定の構造を有する配位子と金属原子からなる有機金属錯体を含むことによって、組成物から得られる成形品の耐熱性をより向上させ、熱劣化を防止することができる。有機金属錯体が有する金属原子としては、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、及び、鉄からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。特定の金属原子を有する有機金属錯体を組成物に添加することにより、少量の添加であっても組成物の耐熱性を向上させることができる。金属原子として、より好ましくは銅又は亜鉛である。なお、本明細書中で「配位子」は、上記金属原子に配位結合している原子を含む原子団を意味する。また、有機金属錯体が有する金属原子としては、亜鉛、マンガン、ニッケル、及び、鉄からなる群より選択される少なくとも1種であることも好ましい。
【0030】
また、テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有する化合物であることが好ましく、さらには、ポルフィリン環を有する化合物であることがより好ましい。すなわち、本発明の組成物は、含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)と、を含むものであることが好ましい。ポルフィリン環は、下記式:
【0031】
【化1】

【0032】
で表される炭素原子及び窒素原子からなる有機骨格である。テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環に置換基が結合した化合物であってよい。
【0033】
フタロシアニン環は、下記式:
【0034】
【化2】

【0035】
で表される炭素及び窒素からなる有機骨格である。テトラピロール系環状化合物(B)は、フタロシアニン環に置換基が結合した化合物であってよい。
【0036】
テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有する配位子が金属原子に配位した有機金属錯体であることが好ましい。
【0037】
ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有する配位子が配位する金属原子は、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、及び、鉄からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。特定の構造を有する配位子と特定の金属原子とを有する有機金属錯体を組成物に添加することにより、少量の添加であっても組成物の耐熱性を向上させることができる。金属原子として、より好ましくは、銅又は亜鉛である。
【0038】
上記ポルフィリン環を有する配位子が金属原子に配位した有機金属錯体としては、例えば、下記式(1):
【0039】
【化3】

【0040】
(式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Mは、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、又は、鉄を表す。)で表される化合物であることが好ましい。Rは、フェニレン基等のアリーレン基を有していてもよいし、アルコキシ基を有していてもよいし、水酸基を有していてもよい。Rとしては、例えば、同一又は異なって、水素原子、フェニル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルフェニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するアルコキシフェニル基、又は、炭素数1〜10のアルキル基であることも好ましい。Mは銅又は亜鉛であることが好ましい。
【0041】
ポルフィリン環を有する配位子が金属原子に配位した有機金属錯体としては、例えば、下記式(2):
【0042】
【化4】

【0043】
(式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Mは、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、又は、鉄を表す。)で表される化合物であることも好ましい形態の一つである。Rは、メチル基であることがより好ましい。Mは銅又は亜鉛であることが好ましい。
【0044】
フタロシアニン環を有する配位子が金属原子に配位した有機金属錯体としては、例えば、下記式(3):
【0045】
【化5】

【0046】
(式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Mは、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、又は、鉄を表す。)で表される化合物であることも好ましい。Rは、フェニレン基等のアリーレン基を有していてもよいし、アルコキシ基を有していてもよいし、水酸基を有していてもよい。Rは、例えば、同一又は異なって、水素原子、フェニル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルフェニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するアルコキシフェニル基、又は、炭素数1〜10のアルキル基であることも好ましい。Rは、水素原子であることがより好ましい。Mは銅又は亜鉛であることが好ましい。
【0047】
テトラピロール系環状化合物(B)としては、上記式(1)で表される化合物、又は、上記式(3)で表される化合物が好ましく、上記式(2)で表される化合物、又は、上記式(3)で表される化合物がより好ましく、上記式(2)で表される化合物が更に好ましい。
【0048】
テトラピロール系環状化合物(B)としては、例えば、フタロシアニン銅、フタロシアニン亜鉛、ポルフィリン銅、又は、ポルフィリン亜鉛がより好ましく、ポルフィリン銅又はポルフィリン亜鉛が更に好ましい。
【0049】
テトラピロール系環状化合物(B)は、質量割合で、含フッ素ポリマー(A)に対して1〜100ppmの含有量であることが好ましい。テトラピロール系環状化合物(B)の含有量としては、80ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましい。本発明の組成物によれば、上記テトラピロール系環状化合物(B)の含有量が100ppm以下という微量であっても、組成物及び該組成物から得られる成形品の耐熱性を向上させることができる。
【0050】
上記テトラピロール系環状化合物(B)は、従来公知の方法により製造することができる。また、市販品を用いることができる。
【0051】
ところで、組成物中にテトラピロール系環状化合物(B)を含有するような場合であっても、リポソームなどの外殻物質中にテトラピロール系環状化合物(B)を含ませるような場合には、該テトラピロール系環状化合物(B)と熱劣化の原因となる酸素ラジカルや酸素ラジカルに攻撃されて発生した主鎖のラジカルとの間で充分な相互作用が得られず、電子の受け渡しができない。そのため、耐熱性向上の効果を得ることができないと考えられる。すなわち、本発明は、含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)と、を含む組成物(但し、リポソームなどの外殻物質内部にテトラピロール系環状化合物(B)が包含されている形態を除く。)であることも好ましい形態の一つである。
【0052】
本発明の組成物は、含フッ素ポリマー(A)を含む。そのため、耐熱性や機械的強度に優れる。上記含フッ素ポリマー(A)は、含フッ素単量体のみを重合してなるものであってもよいし、含フッ素単量体とフッ素原子を有さないフッ素非含有単量体を重合してなるものであってもよい。また、含フッ素ポリマー(A)は、樹脂であってもよいし、エラストマーであってもよいが、例えば、電線被覆として用いる場合には、樹脂であることが好ましい。
【0053】
上記含フッ素ポリマー(A)は、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、フッ化ビニリデン〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル〔VF〕、へキサフルオロプロピレン〔HFP〕、へキサフルオロイソブテン〔HFIB〕、CH=CX(CF(式中、XはH又はF、XはH、F又はCl、nは1〜10の整数である。)で示される単量体、CF=CF−ORf(式中、Rfは、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の含フッ素単量体に基づく重合単位を有することが好ましい。含フッ素ポリマー(A)は、フッ素非含有単量体として、エチレン〔Et〕、プロピレン〔Pr〕、及び、アルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に基づく重合単位を有していてもよい。
含フッ素ポリマー(A)は、TFE、HFP、PAVE、CTFE、VdF及びVFからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に基づく重合単位を含む共重合体であることがより好ましい。含フッ素ポリマー(A)は、フッ素非含有単量体として、Etに基づく重合単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0054】
本明細書において、上記「重合単位」は、含フッ素ポリマー(A)の分子構造上の一部分であって、対応する単量体に基づく部分を意味する。
【0055】
上記含フッ素ポリマー(A)が樹脂である場合、含フッ素ポリマー(A)は、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕、Et/TFE共重合体、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体、ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕、TFE/VdF共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、及び、ポリフッ化ビニル〔PVF〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、本明細書中で、上述のように、「TFE/HFP共重合体」と記載する場合には、TFEに基づく重合単位(TFE単位)と、HFPに基づく重合単位(HFP単位)とを含む共重合体であることを意味する。他の共重合体についても同様である。
【0056】
PTFEは、TFE単独重合体であってもよいし、変性PTFEであってもよい。本明細書において、上記「変性PTFE」とは、得られる共重合体に溶融加工性を付与しない程度の少量の共単量体(変性剤)をTFEと共重合してなるものを意味する。
【0057】
上記変性PTFEにおける変性剤としてはTFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、HFP等のパーフルオロオレフィン;CTFE等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、VdF等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロブチルエチレン等のパーフルオロアルキルエチレン;エチレン等が挙げられる。また、用いる変性剤は1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0058】
変性剤として用いられるパーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(I):
CF=CF−ORf (I)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0059】
変性剤として用いられるパーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(I)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が好ましい。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜5であることがより好ましい。
【0060】
上記変性PTFEにおいて上記変性剤が上記変性剤とTFEとの全体量に占める割合(質量%)としては、通常、1質量%以下が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。
【0061】
上記FEPは、HFP単位が2質量%を超え、20質量%以下であることが好ましく、10〜15質量%であることがより好ましい。
【0062】
上記PFAにおけるPAVEとしては、炭素数1〜6のアルキル基を有するものが好ましく、PMVE、PEVE又はPPVEがより好ましい。上記PFAは、PAVE単位が2質量%を超え、5質量%以下であることが好ましく、2.5〜4.0質量%であることがより好ましい。
【0063】
上記FEP又はPFAは、それぞれ上述の組成を有するものであれば、更に、その他の単量体を重合させたものであってよい。上記その他の単量体として、例えば、上記FEPである場合には、PAVEが挙げられ、上記PFAである場合、HFPが挙げられる。上記その他の単量体は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0064】
上記FEP又はPFAと重合させるその他の単量体は、その種類によって異なるが、通常、含フッ素ポリマー(A)の質量の1質量%以下であることが好ましい。より好ましい上限は0.5質量%であり、更に好ましい上限は0.3質量%である。
【0065】
上記Et/TFE共重合体は、Et単位:TFE単位のモル比が20:80〜80:20であるものが好ましい。Et単位の含有量が20:80未満であると、生産性が悪い場合があり、Et単位の含有量が80:20を超えると、耐食性が悪化する場合がある。より好ましくは、Et単位:TFE単位のモル比が35:65〜55:45である。Et/TFE共重合体は、TFEに基づく重合単位と、Etに基づく重合単位とを含む共重合体であり、他の含フッ素単量体に基づく重合単位を有していてもよい。
【0066】
上記Et/TFE共重合体は、単量体成分として、Et単位及びTFE単位以外に、その他の含フッ素単量体、及び、フッ素を全く含まない単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体に基づく単量体単位を有するものであることも好ましい形態の一つである。上記その他の含フッ素単量体としては、エチレン及びTFEの両方に付加し得るものであれば特に限定されないが、炭素数3〜10の含フッ素ビニルモノマーが使用しやすく、例えば、ヘキサフルオロイソブチレン、CH=CFCH、HFP等が挙げられる。中でも、下記一般式:
CH=CH−Rf
(式中、Rfは炭素数4〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される含フッ素ビニルモノマーも好ましい形態の一つである。また、フッ素を全く含まない単量体としては、下記一般式:
CH=CH−R
(式中、Rは、特に炭素数は限定されず、芳香環を含んでいても良く、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、シアノ基、水酸基、エポキシ基を含んでいても良い。Rは、フッ素を含まない。)で表されるビニルモノマーであっても良い。
また、Et/TFE共重合体は、Et/TFE/HFP共重合体(EFEP)であることも好ましい形態の一つであり、さらに他の含フッ素単量体(HFPを除く。)、あるいは、フッ素を全く含まない単量体に基づく単量体単位を有するものであっても良い。上記エチレンとTFE以外の単量体は、上記エチレンとTFEとからなる共重合体の単量体成分全体の10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。Et単位:TFE単位:その他の含フッ素単量体、あるいは、フッ素を全く含まない単量体に基づく単量体単位のモル比としては、31.5〜54.7:40.5〜64.7:0.5〜10であることが好ましい。
【0067】
上記PCTFEは、重合単位が実質的にCTFE単位のみからなる重合体である。
【0068】
上記CTFE/TFE共重合体は、CTFE単位とTFE単位とのモル比がCTFE:TFE=2:98〜98:2であることが好ましく、5:95〜90:10であることがより好ましく、20:80〜90:10であることが更に好ましい。
【0069】
上記CTFE/TFE共重合体は、CTFE、TFE、並びに、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体からなる共重合体であることも好ましい。CTFE及びTFEと共重合可能な単量体としては、エチレン、VdF、HFP、CH=CX(CF(式中、XはH又はF、XはH、F又はCl、nは1〜10の整数である。)で示される単量体、PAVE、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、エチレン、VdF、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、PAVEであることがより好ましい。PAVEとしては、上述したものが挙げられる。CTFE単位とTFE単位とCTFE及びTFEと共重合可能な単量体単位とのモル比は、CTFE単位及びTFE単位の合計の単量体単位:CTFE及びTFEと共重合可能な単量体単位=90〜99.9:10〜0.1であることが好ましい。
【0070】
上記Et/CTFE共重合体は、Et単位とCTFE単位とのモル比がCTFE:Et=30:70〜70:30であることが好ましく、40:60〜60:40であることがより好ましい。
【0071】
上記PVdFは、重合単位が実質的にVdF単位のみからなる重合体である。
【0072】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45〜85/55〜15であるものが好ましく、より好ましくは50〜80/50〜20であり、さらに好ましくは60〜80/40〜20である。VdF/HFP共重合体は、VdFに基づく重合単位と、HFPに基づく重合単位とを含む共重合体であり、他の含フッ素単量体に基づく重合単位を有していてもよい。例えば、VdF/HFP/TFE共重合体であることも好ましい形態の一つである。
【0073】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40〜80/10〜35/10〜25のものが好ましい。なお、VdF/HFP/TFE共重合体は、樹脂である場合もあるし、エラストマーである場合もあるが、上記組成範囲を有する場合、通常樹脂である。
【0074】
上記PVFは、重合単位が実質的にVF単位のみからなる重合体である。
【0075】
上記含フッ素ポリマー(A)は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、ガスバリア性等に優れる観点から、Et/TFE共重合体及びEt/TFE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。Et/TFE共重合体及びEt/TFE/HFP共重合体は、融点付近で長時間加熱すると、熱劣化を起こし、着色し、脆くなったり発泡したりすることもあるが、本発明の組成物は、上記テトラピロール系環状化合物(B)を含むものであるので、耐熱性が向上したものとなる。
【0076】
上述した共重合体の各単量体単位の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0077】
上記含フッ素ポリマー(A)が樹脂である場合、上記含フッ素ポリマー(A)の融点は、上記組成物の用途にもよるが、例えば、150〜270℃であることが好ましい。なお、含フッ素ポリマー(A)が融点を有する場合には、含フッ素ポリマー(A)は樹脂である。
本明細書において、含フッ素ポリマー(A)の融点は、DSC装置(セイコー社製)を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めたものである。
【0078】
上記含フッ素ポリマー(A)は、得られる組成物の用途等にもよるが、メルトフローレート(MFR)が1〜60g/10分であることが好ましい。MFRは、40g/10分以下であることがより好ましい。MFRが大きすぎると機械的強度が充分でなくなるおそれがある。
【0079】
上記含フッ素ポリマー(A)は、共重合組成及び分子量を調整することにより、上述の範囲内のメルトフローレートを有するものとすることができる。本明細書において、上記メルトフローレートは、含フッ素ポリマー(A)がPFAまたはFEPの場合はASTM D3307−01に従って、温度372℃、荷重5kgとして測定される値である。含フッ素ポリマー(A)がPFA、FEPのいずれでもない場合はASTM D3159に従って、温度297℃、荷重5kgとして測定される値である。
【0080】
上記含フッ素ポリマー(A)が含フッ素エラストマーである場合、含フッ素ポリマー(A)は、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/Pr共重合体及びVdF/Et/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体及びVdF/HFP/TFE/PAVE共重合からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0081】
上記含フッ素ポリマー(A)が含フッ素エラストマーである場合、上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種の単量体が好ましく、特にパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が好ましい。
【0082】
また、含フッ素エラストマーの数平均分子量Mnは、1,000〜300,000であることが好ましく、10,000〜200,000であることがより好ましい。数平均分子量が、1,000未満であると、粘度が低すぎて取り扱い性が悪化する傾向があり、300,000をこえると同様に粘度が上昇しすぎて取り扱い性が悪化する傾向がある。
【0083】
含フッ素エラストマーの分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。また、分子量分布の上限は特に限定されないが、8以下であることが好ましい。分子量分布が、1.3未満であると、物性面で問題はないものの、ロール加工性が悪化する傾向があり、8をこえると、ロール加工時の発熱やロールへの粘着がおこる傾向がある。なお、重量平均分子量Mw、及び、数平均分子量Mnは、テトラヒドロフラン、n−メチルピロリドン、などの溶媒を用い、GPCにて測定してえられたものである。
【0084】
含フッ素エラストマーのムーニー粘度は、成形法に応じて最適粘度を選択するため、特に限定されない。例えば射出成形の場合、100℃ムーニー粘度が10〜120、好ましくは20〜80であり、高すぎると流動性不良による成形不良、低すぎると泡が混入し易いなどの不具合を起こす傾向がある。ムーニー粘度は、ASTM−D1646およびJIS K6300に準拠して、下記条件にて測定することができる。
測定機器 :ALPHA TECHNOLOGIES社製のMV2000E型
ローター回転数:2rpm
測定温度 :100℃
【0085】
本発明の組成物は、2種以上の含フッ素ポリマーを含有するものであってもよい。例えば、上記含フッ素ポリマー(A)として、Et/TFE共重合体とFEPとを含有してもよいし、Et/TFE共重合体とPFAとを含有してもよいし、Et/TFE共重合体とPFAとFEPとを含有してもよい。
【0086】
上記含フッ素ポリマー(A)は、メチレン基を有する重合体であることが好ましく、例えば、Et/TFE共重合体、TFE/VdF共重合体、及び、PVdFからなる群より選択される少なくとも1種の重合体であることがより好ましい。
【0087】
本発明の組成物は、含フッ素ポリマー(A)の含有量が70質量%以上であることが好ましい。80質量%以上であってもよいし、90質量%以上であってもよい。本発明の組成物は、含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)とに加えて、必要に応じて、添加剤を含有するものであってもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、電線被覆に用いる場合、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、核剤、滑剤、充填剤、分散剤、金属不活性剤、中和剤、加工助剤、離型剤、発泡剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。特に、電線被覆は識別のために着色剤を添加することが一般的であり、二酸化チタン(TiO)、三酸化チタン(TiO)のようなチタン酸化物を用いることができる。本発明の組成物は、更に、チタン酸化物を含むことが好ましい。
【0088】
二酸化チタン(TiO)は、白色顔料として、また、他の色の発色促進のためのベース顔料として広く用いられており、また、二酸化チタン(TiO)、三酸化チタン(TiO)は、殺菌や汚れ分解のための光触媒としても用いられているが、その触媒作用のために光照射下、あるいは、空気中の加熱により樹脂の劣化を引き起こすという問題があった。顔料として用いられる二酸化チタンの場合には、表面処理によりこの問題にある程度の解決が図られているが、高温下では表面処理の効果はあまりなく、樹脂劣化を促進する大きな原因となっていた。また、光触媒として用いる二酸化チタン、三酸化チタンの場合には、表面処理を行っていないため、樹脂劣化を避けることはできなかった。しかしながら、本発明の組成物は、耐熱性に優れており、二酸化チタン、三酸化チタンのようなチタン酸化物を含む場合であっても、優れた耐熱性を有するものとなる。すなわち、本発明の組成物は、チタン酸化物を含む場合に、特に有用な組成物である。
【0089】
本発明の組成物がチタン酸化物を含む場合、チタン酸化物は組成物の全質量に対して、1〜60質量%であることが好ましい。また、10〜60質量%であることも好ましい。
【0090】
本発明の組成物は、耐熱性が優れるものであるので、電線等の被覆材用組成物として好適である。本発明は、上記組成物からなる被覆材でもある。
【0091】
本発明の組成物の製造方法としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法等が挙げられ、例えば、特開昭63−270740号公報に開示されているような、含フッ素ポリマー(A)をロールでシート状に圧縮し、粉砕機により粉砕し分級して得られる粉末を、有機金属錯体及び必要に応じて用いられる着色剤、導電性付与剤等の添加剤等と乾式で混合する方法等が挙げられる。
【0092】
上記組成物の製造方法としては、また、上記含フッ素ポリマー(A)、上記テトラピロール系環状化合物(B)、及び、必要に応じて添加剤等を予め混合機で混合し、次いで、ニーダー、溶融押出し機等で溶融混練した後、粉砕し、必要に応じて分級する方法を用いてもよい。本発明の組成物は、溶融混練したものであることも好ましい形態の一つである。溶融混練することによって、含フッ素ポリマー(A)とテトラピロール系環状化合物(B)が充分に混合され、テトラピロール系環状化合物(B)同士で電子の受け渡しが効率よく行われる。そのため、耐熱性がより向上する。
溶融混練は、融点より20〜60℃高く、かつ、含フッ素ポリマー(A)の分解温度とテトラピロール系環状化合物(B)の分解温度のどちらか低いほうよりも低い温度で行うことが好ましく、300℃以下の温度で行うことがより好ましい。
【0093】
本発明はまた、含フッ素ポリマー(A)とテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)とを混合して、含フッ素ポリマー(A)と該含フッ素ポリマー(A)に対して0.1質量%を超えるテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)とを含む樹脂成形用マスターバッチを得る工程と、得られた樹脂成形用マスターバッチに、含フッ素ポリマー(A)を添加して上記組成物を得る工程と、を含むことを特徴とする組成物の製造方法でもある。
含フッ素ポリマー(A)とテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)とを混合して上記樹脂成形用マスターバッチを得る方法としては、特に限定されず、樹脂成形用マスターバッチを製造するための通常の方法を用いることができる。
上記組成物を得る工程は、例えば、上記樹脂成形用マスターバッチ、含フッ素ポリマー(A)、及び、必要に応じて添加剤等を予め混合機で混合し、次いで、ニーダー、溶融押出し機等で溶融混練した後、粉砕し、必要に応じて分級する方法で行うことができる。溶融混練の温度は上記と同じである。
【0094】
上記組成物を製造するための樹脂成形用マスターバッチは、含フッ素ポリマー(A)に対して0.1質量%を超えるテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)を含むものであることが好ましい。樹脂成形用マスターバッチは、含フッ素ポリマー(A)に対して0.25質量%を超えるテトラピロール系環状化合物(B)を含むことがより好ましく、含フッ素ポリマー(A)に対して0.5質量%を超えるテトラピロール系環状化合物(B)を含むことが更に好ましい。樹脂成形用マスターバッチに含まれるテトラピロール系環状化合物(B)の含有量の上限は、例えば、含フッ素ポリマー(A)に対して90質量%である。
上記樹脂成形用マスターバッチは、含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)とに加えて、必要に応じて、上述した添加剤を含有するものであってもよい。上記添加剤としては、例えば、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、核剤、滑剤、充填剤、分散剤、金属不活性剤、中和剤、加工助剤、離型剤、発泡剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。本発明は、含フッ素ポリマー(A)と、該含フッ素ポリマー(A)に対して0.1質量%を超えるテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)と、を含むことを特徴とする樹脂成形用マスターバッチでもある。上記製造方法により得られる組成物は、テトラピロール系環状化合物(B)の含有量が1〜100ppmであることが好ましい。テトラピロール系環状化合物(B)の含有量としては、80ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましい。
【0095】
本発明の組成物は、耐熱性が優れるものであるので、電線等の被覆材用組成物として好適である。
【0096】
本発明は、上記組成物からなるペレットでもある。本発明のペレットは、例えば、下記に示す方法等によって製造することができる。押出機のシリンダー内で上記組成物を溶融させ、溶融させた含フッ素ポリマー(A)を該押出機に備えられたダイを通して押出す。押し出された含フッ素ポリマー(A)のストランドを冷却した後、所望の長さに切断、あるいは、ダイから出た瞬間の溶融樹脂を水、あるいは、空気にて冷却しつつ、ダイ表面に沿うように配置されたカッターにより切断する、ことにより製造することができる。
【0097】
押出機に投入する組成物の形状は特に限定されず、粉末であってよい。本発明のペレットは、含フッ素ポリマー(A)の含有量が70質量%以上であることが好ましい。80質量%以上であってもよいし、90質量%以上であってもよい。
【0098】
上記押出機としては、一軸又は二軸のスクリュー押出機を使用することができる。溶融させる温度は、含フッ素ポリマー(A)の融点以上、かつ、熱分解温度以下であることが好ましい。上記ダイとしては多孔ダイを使用することができ、当該多孔ダイには所望の直径を得るための大きさを有する複数の孔が備えられる。本発明のペレットは、耐熱性が優れるものであるので、電線等の被覆材の材料として好適である。
【0099】
本発明は、芯線と、上記組成物を芯線上に被覆してなる被覆材とを有することを特徴とする電線でもある。
【0100】
本発明の電線は、上記組成物からなる被覆材を有するものであるため、耐熱性に優れ、例えば、加熱した後であっても、引張特性等の機械的特性に優れる。
【0101】
本発明の電線において、上記被覆材の厚みは、10〜500μmであることが好ましい。より好ましくは、10〜300μmである。
【0102】
上記被覆材の形成方法は、上記組成物からなる塗料を芯線上に塗布し、焼成して形成するものであってもよいし、上記組成物から、溶融押出成形により形成するものであってもよく、溶融押出成形により形成されるものであることがより好ましい。
【0103】
上記被覆材が、上記組成物からなる塗料を芯線上に塗布し、焼成して形成するものである場合、焼成の条件は使用する含フッ素ポリマー(A)の種類等によって適宜設定すればよいが、例えば、上記焼成は120〜260℃で行うことが好ましい。
【0104】
上記被覆材が溶融押出成形により形成されるものである場合、溶融押出成形の条件は使用する含フッ素ポリマー(A)の種類等によって適宜設定すればよいが、例えば、250〜410℃で行うことが好ましい。
【0105】
本発明の電線は、上記被覆材を形成した後加熱してもよい。上記加熱は、フッ素樹脂の融点付近の温度で加熱してもよい。
【0106】
本発明の電線における芯線の材料としては、特に限定されないが、銅、銀等の金属導体の材料を用いることができる。
【0107】
本発明の電線は、芯線のサイズが、直径50〜2500μmであるものが好ましい。上記電線における被覆材は、本発明の組成物からなるものであれば特に限定されないが、特に本発明の組成物における含フッ素ポリマー(A)がEt/TFE共重合体であることが好ましい。含フッ素ポリマー(A)の融点が200〜250℃であることも好ましい。
【0108】
本発明の電線は、上記被覆材の周りに他層を形成してなるものであってもよいし、他層を芯線の周りに被覆させ、更に他層の周りに上記被覆材を形成してなるものであってもよい。
【0109】
上記他層は、特に限定されず、コスト的には、ポリエチレン〔PE〕等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル〔PVC〕等の樹脂からなる樹脂層であってよい。上記他層の厚みは特に限定されず、25〜500μmとすることができる。
【0110】
本発明の電線としては、例えばケーブル、ワイヤ等が挙げられる。本発明の電線としては、同軸ケーブル、高周波用ケーブル、フラットケーブル、耐熱ケーブル等が挙げられる。
【0111】
本発明は、上記組成物を成形してなる樹脂成形品でもある。当該樹脂成形品は、上記ペレット又はマスターバッチを成形してなるものであってもよい。上記樹脂成形品としては、例えば、太陽電池の光起電素子の光入射側表面に設ける透明な表面被覆材および裏面被覆材等の各種被覆材として用いられる、太陽電池用のフィルム、シート等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、耐熱性が求められる用途に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0112】
本発明の組成物は、上述の構成を有することから、少量の添加剤の添加であっても耐熱性が優れるものとすることができる。そのため、耐熱性を必要とする用途に好適に利用することができる。本発明のペレットは、上記組成物からなるものであるので、優れた耐熱性を有する。本発明の電線は、上記組成物からなる被覆材を備えるものであるので、耐熱性に優れ、加熱した後であっても、引張特性等の機械的特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0113】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0114】
[MFR]
ASTM D3159に準拠し、メルトインデクサー(東洋精機株式会社製)を用いて、297℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)をMFRとした。
【0115】
[共重合体組成]
共重合体の各単量体単位の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出した。
【0116】
[融点]
DSC装置(セイコー社製)を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0117】
[熱分解温度]
示差熱/熱重量測定装置(SIIナノテクノロジー株式会社製TG/DTA6200)を用い、空気中で10℃/minの速度で昇温しながら試料の重量変化を測定し、試料重量が元の試料重量から1%分減少した時の温度を熱分解温度とした。
【0118】
[熱老化試験]
混練した樹脂組成物を細かく切断した後、120φの金型に入れ、320℃に設定したプレス機にセットし、20分間の予熱の後、4.7MPaGで1分間圧縮成形を行い、厚さ1.5mmのシートをえた。えられたシートから、ASTM D3159に準拠したダンベル型を打ち抜き、240℃に保った熱風循環式電気炉に入れ、300時間放置した。これを取り出して放冷後、テンシロン万能試験機(ORIENTEC製)にて、50.00mm/minの速度で引張試験を行った。N数=4での平均値として引張強度と引張伸びを求め、熱老化前の値から残率を計算した。
【0119】
[合成例1]
内容積1000Lのオートクレーブに蒸留水416Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、オクタフルオロシクロブタン287kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度130rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレン76.1kg、エチレンを2.4kg、(パーフルオロヘキシル)エチレン1.47kg、シクロヘキサン0.63kgを仕込み、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート3.1kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン=57.0/43.0モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.20MPaGに保った。同時に、(パーフルオロヘキシル)エチレンについても合計量18.2kgを連続して仕込んで重合を継続した。重合開始2.5時間後にMFR調節のためにシクロヘキサン330gを追加し、重合開始17時間後、放圧して大気圧に戻し、反応生成物を水洗、乾燥して、フッ素樹脂の粉末(フッ素樹脂粉末(1))を250kgえた。重合開始から2.5時間後までの重合速度は、ほぼ一定の17.2kg/hr、それ以後から重合終了までは、16.0kg/hrだった。この得られたフッ素樹脂粉末は、エチレン:テトラフルオロエチレン:(パーフルオロヘキシル)エチレンのモル比が42.2:56.4:1.4、融点が252℃、MFRが4.7(g/10分)であった。
【0120】
[溶融混練]
290℃に設定したラボプラストミル・ミキサー(東洋精機株式会社製)に、所定の濃度の添加剤を含むフッ素樹脂66gを投入し、10rpm−4分間の予備混練の後、70rpm−5分間溶融混練を行い、樹脂組成物をえた。
【0121】
[実施例1]
フッ素樹脂粉末(1)に、フタロシアニン銅(大日精化工業株式会社製、商品名:シアニンブルー)を50質量ppmの割合となるように添加し、ポリ袋の中に入れて振り混ぜた。この混合物を上記に示す手順で溶融混練を行い、樹脂組成物をえた。上記に示す手順で熱老化試験を行った。結果を表1に示す。
【0122】
[実施例2〜8]
フッ素樹脂粉末(1)に対する添加剤として、フタロシアニン亜鉛、フタロシアニン、5,10,15,20−テトラキス(4−メトキシフェニル)−21H,23H−ポルフィン(略称:TMP)(以上、東京化成工業株式会社製);meso−テトラ(4−メトキシフェニル)ポルフィン銅(略称:TMP−Cu)、meso−テトラ(4−メトキシフェニル)ポルフィン亜鉛(略称:TMP−Zn)、オクタエチルポルフィン銅、オクタエチルポルフィン亜鉛(以上、Frontier Scientific社製);をそれぞれ使用する以外は、実施例1と同様の手順で樹脂組成物をえた後、熱老化試験を行った。結果を表1に示す。
【0123】
[比較例1]
フッ素樹脂粉末(1)に対して、上記に示す手順で熱老化試験を行った。結果を表1に示す。
【0124】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の組成物及びペレットは、耐熱性を必要とする種々の用途に利用可能であり、例えば、電線の被覆材として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素ポリマー(A)と、テトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
テトラピロール系環状化合物(B)は、含フッ素ポリマー(A)に対して1〜100ppmの含有量である
請求項1記載の組成物。
【請求項3】
テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有する
請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環を有する請求項1、2又は3記載の組成物。
【請求項5】
テトラピロール系環状化合物(B)は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有する配位子が金属原子に配位した有機金属錯体である請求項1、2又は3記載の組成物。
【請求項6】
金属原子は、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、及び、鉄からなる群より選択される少なくとも1種である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
金属原子は、亜鉛、マンガン、ニッケル、及び、鉄からなる群より選択される少なくとも1種である請求項5又は6記載の組成物。
【請求項8】
金属原子は、銅又は亜鉛である請求項5又は6記載の組成物。
【請求項9】
更に、チタン酸化物を含む請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の組成物。
【請求項10】
含フッ素ポリマー(A)は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン及びフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に基づく重合単位を含む請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の組成物。
【請求項11】
含フッ素ポリマー(A)は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、ポリフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の組成物。
【請求項12】
含フッ素ポリマー(A)は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載の組成物。
【請求項13】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の組成物からなることを特徴とするペレット。
【請求項14】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の組成物を成形してなることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項15】
芯線と、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の組成物を前記芯線上に被覆してなる被覆材と、を有することを特徴とする電線。
【請求項16】
含フッ素ポリマー(A)とテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)とを混合して、含フッ素ポリマー(A)と該含フッ素ポリマー(A)に対して0.1質量%を超えるテトラピロール系環状化合物(B)(但し、コバルト化合物を除く。)とを含む樹脂成形用マスターバッチを得る工程と、
得られた樹脂成形用マスターバッチに、含フッ素ポリマー(A)を添加して請求項2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の組成物を得る工程と、
を含むことを特徴とする組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−213894(P2011−213894A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84073(P2010−84073)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】