説明

組成物、塗膜、及び塗装製品

【課題】長期に亘る耐候性、透明性、防汚性に優れ、経時後の褪色や汚れを防止し、初期の意匠を保持する塗膜を形成可能な組成物を提供する。
【解決手段】無機酸化物粒子(A)と、重合体粒子(B)のエマルジョンとを含有し、前記重合体粒子(B)のエマルジョン中の水溶性成分量が、前記重合体粒子(B)のみの量と、前記水溶性成分量との合計に対して3質量%以下である組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、塗膜、及び塗装製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水性塗料等を用いることで、環境・人体への影響を抑えつつ、20〜30年という長期に亘る家屋の維持や、建材の保護を図る試みがなされている。
このような水性塗料を用いることにより、従来は数年〜10年という周期で外装の塗替え作業が必要とされていたものが、上記のように長期間に亘る維持や保護が可能となるため、手間やコストの大幅な低減化につながり、経済的なメリットは大きい。
しかしながら、より長期の曝露を屋外で受けることにより、塗膜の劣化が従来よりも重要な課題となる。
具体的には、長期間の曝露による、艶の低下等の変質の問題、光、熱、雨等による変色や、あるいは埃、煤煙、砂などの付着による塗膜の汚染の問題等が、より顕著に表れるようになっている。
【0003】
上記のような水性塗料としては、例えば、コロイダルシリカと、ビニルシランとアクリル系単量体、その他の単量体を乳化重合した水性エマルジョンとを、コロイダルシリカの固形分含量が、該水性エマルジョンの固形分100質量部に対して、500〜20000質量部とした無機質塗装材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、ラジカル重合性ビニル化合物を乳化重合して得られる、アルデヒド基又はケト基に基づくカルボニル基を有する重合体からなる水性エマルジョンと、有機ヒドラジン化合物、及びコロイダルシリカとを含有し、コロイダルシリカの固形分含量が、水性エマルジョン中の重合体成分100質量部に対して1〜300質量部であるものとした水性被覆組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
上記無機質塗装材や、水性被覆組成物から形成される塗膜は、初期の密着性や塗材としての貯蔵安定性は良好であるが、長期に亘る耐候性や防汚性について十分ではなく、また上塗り層塗布後の意匠にも曇りが見られ透明性も十分ではない。
【0004】
さらに、(i)水性コロイダルシリカのSiO2固形分100質量部に対し、(ii)最低造膜温度が15℃であるアクリル系樹脂エマルション30〜400質量部(固形分)を含有する低汚染性水性塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
さらにまた、有機質樹脂及び平均一次粒子径1〜200nmであるシリカゾル由来のシリカを固形分重量比率100:50〜100:500の比率で配合したものを、0.1〜50g/m2(固形分)に調製した塗料を塗布することにより形成される塗膜積層体が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
またさらに、光触媒性金属酸化物粒子とコロイダルシリカとアクリル系樹脂との水分散組成物を混合してなる防汚性付与のための光触媒性親水性組成物が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−41180号公報
【特許文献2】特開平9−165533号公報
【特許文献3】特開平11−116885号公報
【特許文献4】特開2007−118567号公報
【特許文献5】特開平11−140433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来提案されている各種塗装材等から形成される塗膜は、塗布後の透明性や、防汚性は良好であるが、長期に亘る透明性、耐候性が十分ではない。
そこで本発明においては、長期に亘り、褪色や汚れを防止でき、初期の意匠を保持することが可能な、耐候性、透明性、防汚性、密着性に優れる塗膜を形成可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するべく鋭意検討した結果、水溶性成分の少ない重合体エマルジョン粒子を用いて、無機酸化物粒子と前記重合体エマルジョン粒子とを特定組成比率で含有する水系有機無機複合組成物を調製し、この水系有機複合組成物を有機塗膜上に塗布・乾燥させた塗膜を形成することにより、上記課題の解決が図られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕
無機酸化物粒子(A)と、
重合体粒子(B)のエマルジョンと、
を、含有し、
前記重合体粒子(B)のエマルジョン中の水溶性成分量が、前記重合体粒子(B)のみの量と前記水溶性成分量との合計に対して3質量%以下である組成物。
【0010】
〔2〕
前記重合体粒子(B)が、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素化合物とビニル単量体とを重合させることにより得られる重合体粒子である、前記〔1〕に記載の組成物。
【0011】
〔3〕
前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物により形成された塗膜。
【0012】
〔4〕
基材と、当該基材上に形成された請求項3に記載の塗膜とを含む塗装製品。
【0013】
〔5〕
前記基材が有機基材である、前記〔4〕に記載の塗装製品。
【0014】
〔6〕
建築外装用の機能性構造体である、前記〔4〕又は〔5〕に記載の塗装製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期に亘り褪色や汚れを防止でき、初期の意匠を保持することが可能な、耐候性、透明性、防汚性、密着性に優れる塗膜を形成可能な組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、説明する。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0017】
〔組成物〕
本実施形態の組成物は、
無機酸化物粒子(A)と、
重合体粒子(B)のエマルジョンと、
を、含有し、
前記重合体粒子(B)のエマルジョン中の水溶性成分量が、
前記重合体粒子(B)のみの量と、前記水溶性成分量との合計に対して、3質量%以下である。
【0018】
本実施形態の組成物において、無機酸化物粒子(A)は、重合体粒子(B)と相互作用することにより、硬化剤としても機能する。
上記のような組成物を用いることにより、耐候性、耐水性及び防汚性に優れた塗膜を形成することができ、さらには、耐薬品性、光学特性、防曇性、帯電防止性等にも優れたものとなる。
また、例えば特開平9−165554号公報に記載されている有機ヒドラジン化合物のような硬化剤を添加することなく、塗膜を形成できる点でも、上記組成物は優れている。
【0019】
ここで、上記無機酸化物粒子(A)と上記重合体粒子(B)との相互作用は、化学的な相互作用であればよく、例えば、それらの粒子間の水素結合、共有結合、イオン結合、ファンデルワールス力が挙げられる。
水素結合としては、例えば、無機酸化物粒子(A)が有する水酸基と重合体粒子(B)が有する官能基(例えば、水酸基、アミノ基、アミド基)との間の水素結合が挙げられる。
共有結合としては、例えば、無機酸化物粒子(A)が有する水酸基と重合体粒子(B)が有する水酸基との間での縮合反応(脱水縮合反応)により生じる共有結合が挙げられる。
イオン結合としては、例えば、無機酸化物粒子(A)が有する水酸基と重合体粒子中のカチオン性基(例えばアミノ基、イミノ基)との間のイオン結合が挙げられる。
【0020】
<無機酸化物粒子(A)>
上記無機酸化物粒子(A)は、公知の材料を適宜使用できる。
無機酸化物(A)としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム及びそれらの複合酸化物が挙げられる。
特に、表面水酸基の多い二酸ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、及びそれらの複合酸化物が好ましく、二酸化ケイ素を基本単位とするシリカの水又は水溶性溶媒の分散体であるコロイダルシリカがより好ましい。
コロイダルシリカは、ゾル−ゲル法により調製したものを用いることができるが、市販品を使用することもできる。
ゾル−ゲル法で調製する場合には、Werner Stober etal;J.Colloid and Interface Sci.,26,62−69(1968)、Rickey D.Badley et al;Lang muir 6,792−801(1990)、色材協会誌、61[9]488−493(1988)等に記載された方法を利用できる。
無機酸化物(A)としてコロイダルシリカを用いる場合、水性分散液の状態で、酸性、塩基性のいずれであってもよい。
水を分散媒体とする酸性のコロイダルシリカとしては、例えば、市販品として、日産化学工業(株)製スノーテックス(商標)−O、スノーテックス−OS、旭電化工業(株)製アデライト(商標)AT−20Q、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール(商標)20H12、クレボゾール30CAL25などが挙げられる。
水を分散媒体とする塩基性のコロイダルシリカとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アミンの添加で安定化したシリカがあり、例えば、日産化学工業(株)製スノーテックス−20、スノーテックス−30、スノーテックス−C、スノーテックス−C30、スノーテックス−CM40、スノーテックス−N、スノーテックス−N30、スノーテックス−K、スノーテックス−XL、スノーテックス−YL、スノーテックス−ZL、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−Lなど;旭電化工業(株)製アデライトAT−20、アデライトAT−30、アデライトAT−20N、アデライトAT−30N、アデライトAT−20A、アデライトAT−30A、アデライトAT−40、アデライトAT−50など;クラリアントジャパン(株)製クレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50など;デュポン社製ルドックス(商標)HS−40、ルドックスHS−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30などが挙げられる。
また、水溶性溶媒を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学工業(株)製MA−ST−M(粒子径が20〜25nmのメタノール分散タイプ)、IPA−ST(粒子径が10〜15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EG−ST−ZL(粒子径が70〜100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコールモノプロピルエーテール分散タイプ)が挙げられる。
また、上述した各種コロイダルシリカは、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
少量成分として、アルミナ、アルミン酸ナトリウムなどを含んでいてもよい。
また、コロイダルシリカは、安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなど)や有機塩基(テトラメチルアンモニウムなど)を含んでいてもよい。
また、上記無機酸化物(A)としては、光触媒活性を有する無機酸化物(以下、単に「光触媒」という。)を選択することができ、これにより本実施形態の組成物から形成される有塗膜は、光照射により光触媒活性、親水性を発現するため非常に好ましい。
ここで、光触媒とは、光照射によって、酸化、還元反応を起こす物質のことを言う。
すなわち、伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)の光(励起光)を照射したときに、価電子帯中の電子の励起(光励起)が生じて、伝導電子と正孔を生成しうる物質であり、このとき、伝導帯に生成した電子の還元力及び/又は価電子帯に生成した正孔の酸化力を利用して、種々の化学反応を行うことができる。
本実施形態の組成物に含有されている無機酸化物(A)として有用に使用できる光触媒としては、バンドギャップエネルギーが好ましくは1.2〜5.0eV、より好ましくは1.5〜4.1eVの半導体化合物を挙げることができる。
バンドギャップエネルギーが1.2eVより小さいと、光照射による酸化、還元反応を起こす能力が非常に弱く好ましくない。
バンドギャップエネルギーが5.0eVより大きいと、正孔と電子を生成させるのに必要な光のエネルギーが非常に大きくなるため好ましくない。
上記光触媒の具体例としては、TiO2、ZnO、SrTiO3、BaTiO3、BaTiO4、BaTi49、K2NbO3、Nb25、Fe23、Ta25、K3Ta3Si23、WO3、SnO2、Bi23、BiVO4、NiO、Cu2O、RuO2、CeO2等、さらにはTi、Nb、Ta、Vからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を有する層状酸化物(例えば、特開昭62−74452号公報、特開平2−172535号公報、特開平7−24329号公報、特開平8−89799号公報、特開平8−89800号公報、特開平8−89804号公報、特開平8−198061号公報、特開平9−248465号公報、特開平10−99694号公報、特開平10−244165号公報等参照)が挙げられる。
これらの中で、TiO2(酸化チタン)は無害であり、化学的安定性にも優れるため好ましい。
酸化チタンとしては、アナターゼ、ルチル、ブルッカイトのいずれの結晶形態も使用できる。
上記無機酸化物(A)としての「光触媒」は、Pt、Rh、Ru、Nb、Cu、Sn、Ni、Feなどの金属及び/又はこれらの酸化物を添加又は固定化したり、シリカや多孔質リン酸カルシウム等で被覆したり(例えば、特開平10−244166号公報参照)したものであってもよい。
【0021】
上記無機酸化物粒子(A)として、二酸化ケイ素にルチル型酸化チタンを40質量%以下の割合で配合すると、本実施形態の組成物を用いて塗膜を形成した際、塗膜の被形成面を痛めず、かつ防汚性が向上する。
【0022】
また、上記無機酸化物粒子(A)として、二酸化ケイ素に酸化ジルコニウムを40質量%以下の割合で配合したものを用いると、塗膜の透明性が向上する。
酸化ジルコニウムは、pH8〜11の水分散体のものが取り扱い上、および配合品の安定性の面から好ましい。
【0023】
上記無機酸化物粒子(A)の数平均粒子径は、1〜400nmが好ましく、1〜100nmがより好ましく、3〜50nmがさらに好ましい。
無機酸化物粒子(A)の数平均粒子径が400nm以下であると、無機酸化物粒子(A)の表面積が大きくなり、無機酸化物粒子(A)と重合体粒子(B)との相互作用が一層効率的に起こるという効果が得られる。
また、無機酸化物粒子(A)の数平均粒子径が400nm以下であると、本実施形態の組成物を用いて塗膜を形成したときに、最適な粒子間空隙を形成でき、有機物質の長所及び無機物質の長所の両立にも効果的である。
また、無機酸化物粒子(A)の数平均粒子径が1nm以上であると、本実施形態の組成物の貯蔵安定性が実用上良好なものとなる。
ここで、無機酸化物粒子(A)の数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置(例えば、日機装社製の湿式粒度分布計、商品名「マイクロトラックUPA−9230」)によって測定できる。
この数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置によるものとレーザー回折/散乱式の湿式粒子径測定装置によるものとの間で検量線を作成し、その検量線を用いて、レーザー回折/散乱式の測定装置で測定した数平均粒子径を動的光散乱方式の測定装置で測定したものに換算することで決定してもよい。
【0024】
<重合体粒子(B)のエマルジョン>
本実施形態の組成物を構成する重合体粒子(B)のエマルジョンは、所定の媒体、及び単量体を用いて、乳化重合等の従来公知の方法で重合を行うことにより得られたエマルジョンを用いることができる。
前記エマルジョン中の水溶性成分量は、前記重合体粒子(B)のみの量と、前記水溶性成分量との合計に対して、3質量%以下であるものとし、好ましくは0〜2.5質量%である。これにより耐候性の良好な組成物及び塗膜が得られる。
【0025】
上記エマルジョン中の水溶性成分の測定方法としては、遠心分離や膜濾過、沈降分離等、従来公知の方法を用いて重合体粒子(B)と水溶性成分とを分離し、測定する方法が挙げられる。
上記のように分離した重合体粒子(B)と水溶性成分とを加熱乾燥することにより、重合体粒子(B)と水溶性成分との合計(=エマルジョン全体の固形分)に対する水溶性成分の比率を求めることができる。
【0026】
重合体粒子(B)を構成するポリマーとしては、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、シリコーン系、フッ素系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系に代表される単重合体又は共重合体、シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリルシリコーン、エポキシ−アクリル系に代表される変性共重合体が挙げられる。
これらの重合体粒子は水分散体の状態にあり、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その好適な例としては、アクリルエマルジョン、アクリルシリコンエマルジョンが挙げられる。
【0027】
重合体粒子(B)は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル等の単量体の乳化重合により得ることができ、下記の官能基を含有させることもできる。
例えば、アミド基、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、シラノール基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ウレイド基等が挙げられる。
これらの官能基を含有させることにより、重合体粒子(B)自体の安定性を向上させられるとともに、架橋反応を積極的に起こさせることで、本実施形態の組成物を用いた塗膜の強度の向上を図ることが可能である。
重合体粒子(B)は、これらの官能基の1種又は2種以上を有するものであることが好ましい。
【0028】
重合体粒子(B)は、さらに、上記ポリマーに含まれる官能基と反応する官能基を有する化合物を含んでもよい。
このような化合物としては、例えば、(ポリ)イソシアネート化合物、(ポリ)エポキシ化合物、アミノ化合物、(ポリ)カルボキシ化合物、(ポリ)ヒドロキシ化合物、グリコール化合物、シラノール化合物、シリル化合物、アルコキシ化合物、(メタ)アクリレート類が挙げられる。
これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
重合体粒子(B)のエマルジョンは、水及び後述する第1の乳化剤の存在下で、少なくとも、後述する第1の加水分解性ケイ素化合物と、後述する第1のビニル単量体とを重合することにより作製することが好ましい。
【0030】
第1の加水分解性ケイ素化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物、その縮合生成物、シランカップリング剤が挙げられる。
SiWxRy ・・・(1)
ここで、上記式(1)中、Wは、炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、フェノキシ基、アミノキシ基、アミド基からなる群より選ばれる基を示す。
Rは、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる炭化水素基を示す。
なお、炭素数6〜20のアリール基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
また、xは1〜4の整数であり、yは0〜3の整数であり、x+y=4である。
さらに、xが2以上のとき、複数のWは互いに同一でも異なっていてもよく、yが2以上のとき、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0031】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランに代表されるテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランに代表されるトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代表されるジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランに代表されるモノアルコキシシラン類が挙げられる。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記シランカップリング剤としては、有機物質との反応性を有する官能基を分子内に有する加水分解性ケイ素化合物が好ましい。
上記官能基としては、例えば、ビニル重合性基、チオール基、エポキシ基(=グリシジル基)、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基が挙げられる。これらの官能基の中では、ビニル単量体との共重合又は連鎖移動反応による化学結合生成の観点からビニル重合性基が好ましい。
【0033】
ビニル重合性基を有する加水分解性ケイ素化合物としては、例えば、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
上記第1のビニル単量体としては、以下のものが例示される。
例えば、2級及び/又は3級アミド、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル系単量体、グリシジル基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体のような官能基を含有する単量体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記2級及び/又は3級アミドとしては、N−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミドを例示することができる。
より具体的には、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N'−メチレンビスメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドが挙げられる。これらの中では、3級アミド基を有するビニル単量体を用いると水素結合性が強まるので好ましい。
【0036】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル部の炭素数が1〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシルが挙げられる。
(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。
【0037】
なお、本明細書中で、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味する。
【0038】
上記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
上記シアン化ビニル類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等が挙げられる。
【0039】
上記カルボキシル基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸、又はイタコン酸、マレイン酸、フマール酸に代表される2塩基酸のハーフエステルが挙げられる。
カルボキシル基含有ビニル単量体を用いることによって、重合体エマルジョン粒子にカルボキシル基を導入することができ、エマルジョンとしての安定性を向上させ、外部からの分散破壊作用に対する抵抗力を持たせることが可能となる。この際、重合体エマルジョン粒子に導入したカルボキシル基は、一部又は全部を、アンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類やNaOH、KOH等の塩基で中和することもできる。その含有量は、ビニル単量体量を基準として0質量%超20質量%であることが耐水性の観点から好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
【0040】
上記水酸基含有ビニル系単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに代表される(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、モノ−2−ヒドロキシエチルモノブチルフマレート、アリルアルコール、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
さらには、「プラクセルFM、FAモノマー」(商品名、ダイセル化学(株)製、カプロラクトン付加モノマー)、その他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類が挙げられる。
上記(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。
また、(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコールが挙げられる。
上記水酸基含有ビニル単量体を用いることによって、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性を向上させることができる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上の混合物として使用してもよい。
その含有量は、ビニル単量体量を基準として0質量%超40質量%であることが好ましく、0.1〜30質量%であるとより好ましく、0.1〜10質量%であるとさらに好ましい。
【0041】
上記グリシジル基含有ビニル単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルジメチルグリシジルエーテル、メチルグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
グリシジル基含有ビニル単量体や、カルボニル基含有ビニル単量体を使用すると、重合体エマルジョン粒子が良好な反応性を有するようになる。その結果、ヒドラジン誘導体やカルボン酸誘導体、イソシアネート誘導体等と架橋させて、耐溶剤性等に優れた塗膜の形成が可能となる。その含有量は、ビニル単量体量を基準として、0質量%超50質量%であることが好ましい。
【0042】
上記カルボニル基含有ビニル単量体としては、例えばアクロレイン、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテート、ジヒドロキシアセトン、モノヒドロキシアセトン、ジヒドロキシベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0043】
また、上記以外のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソブチレンに代表されるオレフィン類;ブタジエンに代表されるジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデンフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンに代表されるハロオレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニルに代表されるカルボン酸ビニルエステル類;酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニルに代表されるカルボン酸イソプロペニルエステル類;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルに代表されるビニルエーテル類;酢酸アリル、安息香酸アリルに代表されるアリルエステル類;アリルエチルエーテル、アリルフェニルエーテルに代表されるアリルエーテル類;4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6,−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリルが挙げられる。
【0044】
上記第1の乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸に代表される酸性乳化剤;酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸に代表されるアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートに代表される四級アンモニウム塩;ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型などのカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルに代表されるノニオン型界面活性剤;ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤や、後述の分散安定剤等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性及び形成された塗膜の機械強度、耐薬品性、耐水性の観点から、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤が好ましい。
【0045】
上記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体、それらビニル単量体のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、ポリオキシエチレンに代表されるノニオン基を有するビニル単量体;4級アンモニウム塩を有するビニル単量体が挙げられる。
【0046】
上記反応性乳化剤のうち、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体の塩としては、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6又は10のアリール基及びコハク酸基よりなる群から選ばれる置換基を有する化合物、並びに、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物、スルホネート基より一部が置換されたアリール基を有する化合物が挙げられる。
【0047】
硫酸エステル基を有するビニル単量体としては、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基及び炭素数6又は10のアリール基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物が挙げられる。
【0048】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物の具体例としては、アリルスルホコハク酸塩が挙げられる。
市販されているものとしては、例えば、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(商品名、花王(株)製)が挙げられる。
【0049】
また、上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の市販されているものとしては、例えば、アクアロンHS−10又はKH−1025(商品名、第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(商品名、旭電化工業(株)製)が挙げられる。
【0050】
その他、スルホネート基により一部が置換されたアリール基を有する化合物の具体例としては、p−スチレンスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0051】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物としては、例えば、2−スルホエチルアクリレートに代表されるアルキルスルホン酸(メタ)アクリレート、メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、アリルスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0052】
上記硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩により一部が置換された炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物としては、例えばスルホネート基により一部が置換されたアルキルエーテル基を有する化合物が挙げられる。
【0053】
また、ノニオン基を有するビニル単量体の具体例としては、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)が挙げられる。
【0054】
分散安定剤としては、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群より選ばれる各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性若しくは水分散性アクリル樹脂に代表される合成若しくは天然の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質が挙げられる。
【0055】
上述した各種乳化剤、分散安定剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
重合体粒子(B)は、上述のものを用いる他は、公知の乳化重合により調製してもよく、その際、過硫酸アンモニウム等の重合開始剤やドデシルベンゼンスルホン酸等の界面活性剤等の公知のものを用いてもよい。
【0057】
重合体粒子(B)は、コア部とそのコア部を被覆する1層又は2層以上のシェル部とを含むコア/シェル構造を有していてもよい。
例えば、重合体粒子(B)がコア部と1層のシェル部とを含む場合、その重合体粒子(B)は、水、上述した第1の乳化剤及びシード粒子の存在下で、少なくとも、上述した第1の加水分解性ケイ素化合物と、上述した第1のビニル単量体とを重合して得られるものとすることができる。この場合、シード粒子は、水及び第2の乳化剤の存在下で、少なくとも、第2のビニル単量体と、第2の加水分解性ケイ素化合物とからなる群より選ばれる1種以上の化合物を重合して得られるものであってもよい。すなわちシード粒子としては、ビニル単量体のみを重合したもの、加水分解性ケイ素化合物のみを重合したもの、ビニル単量体と加水分解性ケイ素化合物とを重合したもの、のいずれであってもよい。
【0058】
コア部を構成するシード粒子を得るための第2の加水分解性ケイ素化合物は、第1の加水分解性ケイ素化合物と同様のものが用いられる。
ここで、重合体粒子(B)を得るために用いられる、シェル部の第1の加水分解性化合物と、コア部の第2の加水分解性ケイ素化合物とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
また、シード粒子を得るための第2のビニル重合体は、第1のビニル単量体と同様のものが用いられる。
ここで、重合体粒子(B)を得るために用いられる、シェル部の第1のビニル単量体と、コア部の第2のビニル単量体とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
さらに、シード粒子を得るための第2の乳化剤は、第1の乳化剤と同様のものが用いられる。
ここで、重合体粒子(B)を得るために用いられる、シェル部の第1の乳化剤と、コア部の第2の乳化剤とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0059】
上記シード粒子は、第2の加水分解性ケイ素化合物を重合して得られるものが好ましい。これにより、塗膜に高い柔軟性を付与することができる上、更に高い耐候性が認められる。
コア/シェル構造を有する重合体粒子(B)は、上述の材料を用いる他は、公知の2段階以上の乳化重合により調製することができる。得られた重合体粒子(B)において、上記シード粒子がコア部となる。
重合体の重合温度、すなわちコア/シェル構造を有する重合体粒子(B)の製造工程における温度は、全工程を通して75〜85℃とすることが好ましい。75℃以上で重合化率(=単量体から重合体への転化率)が良好となり、85℃以下で重合時の凝集物の発生が抑えられる。また重合時のpHは4以下で行うことで重合時の凝集物の発生が抑えられる。
【0060】
本実施形態の組成物に含有されている重合体粒子(B)は、上述したように、コア/シェル構造を有しているものであっても有していないものであってもよいが、その数平均粒子径は、10〜800nmであると好ましく、30〜800nmであるとより好ましく、30〜200nmであるとさらに好ましく、50〜150nmであるとさらにより好ましい。
重合体粒子(B)の数平均粒子径が上記範囲内であると、無機酸化物粒子(A)との相互作用が高まると共に、本実施形態の組成物により形成された塗膜における粒子間の空隙を好適なものにすることができる。
上記数平均粒子径は、前述の無機酸化物粒子(A)の場合と同様の方法にて測定することができる。
なお、無機酸化物粒子(A)の数平均粒子径よりも重合体粒子(B)の数平均粒子径の方が大きいことが好ましい。これにより有機物質の長所である、柔軟性や密着性が更に効果的に示されることとなる。
【0061】
重合体粒子(B)の最低造膜温度は、10℃以上であることが好ましく、より好ましくは46℃以上であり、さらに好ましくは50℃以上である。
最低造膜温度が10℃以上の重合体粒子(B)を用いることにより、本実施形態の組成物による塗膜における粒子間の空隙を好適なものにすることができ、結果として透明性が良好となる。
重合体粒子(B)の最低造膜温度は、後述する実施例において記載の方法により測定できる。
なお、上記「粒子間」とは、「重合体粒子(B)と無機酸化物粒子(A)との間」を意味する。
最低造膜温度が低い重合体粒子を使用すると、柔らかく接着しやすいために、周囲の無機酸化物粒子(二酸化ケイ素)をより多く集めてしまい、粒子間の空隙にムラを作って白っぽい部分ができ、透明性が低下する。
最低造膜温度が高いものを用いると、良好な強度を維持しつつ、粒子間の空隙が相対的により均一になるため、白化が発生しにくく、良好な透明性が発現する。
【0062】
重合体粒子(B)は、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素化合物とビニル単量体とを、加水分解性珪素化合物/ビニル単量体=10/90〜95/5の質量比で、重合させることにより作製することが好ましい。
加水分解性珪素化合物の割合(質量比)が10以上の時に耐候性、透明性が良好となり、また95以下の時に防汚性、透明性、及び重合時の製造安定性が良好となる。
【0063】
<その他の成分>
本実施形態の組成物には、所定の乳化剤及び/又は分散安定剤を含有させてもよい。
乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸に代表される酸性乳化剤;酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸に代表されるアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、アルキルピリジニウムブロマイド、イミダゾリニウムラウレートに代表される4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルに代表されるノニオン型界面活性剤;ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤等が挙げられる。
前記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体やそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレンに代表されるノニオン基を有するビニル単量体、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体が挙げられる。
前記分散安定剤としては、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群より選ばれる各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性若しくは水分散性アクリル樹脂に代表される合成若しくは天然の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質が挙げられる。
上述した乳化剤、分散安定剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記のように、本実施形態の組成物に、乳化剤、分散安定剤を含有させることにより、凝集物の発生防止が図られ、貯蔵安定性を付与でき、濡れ性、塗膜空隙の均一性等が良好となり、優れた塗装性が得られるようになる。
【0064】
本実施形態の組成物は、本発明の目的の達成を阻害しない範囲において、その他の成分を含んでもよい。
例えば、本実施形態の組成物を塗布した下層(塗布面)との相互作用を制御する目的で、アルコール類等の有機溶剤を少量添加することもできる。
また、用途に応じて、通常の塗料や成型用樹脂に添加配合される成分、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等を選択し組み合わせて配合してもよい。
【0065】
本実施形態の組成物は、有機物質を多く含んでも、無機物質の優れた耐候性、耐水性、防汚性を示す、有機無機複合体の塗膜を形成可能なものである。
それに加えて、防曇性、帯電防止性、耐薬品性、光学特性にも優れた塗膜を形成することができる。
本実施形態の組成物を用いることにより、特殊な装置を用いずに、簡単に、少ない環境負荷で、塗膜を形成することができ、成膜性や成形性にも優れている。
【0066】
〔塗膜、塗膜製品〕
本実施形態の塗膜は、上述した本実施形態の組成物により形成されている。
本実施形態の塗膜を所定の基材上に形成することにより塗装製品が得られる。
基材は、有機基材が本実施形態の塗膜との密着性の観点から好ましい。
有機基材の材料としては、例えば合成樹脂、天然樹脂や、それらの組み合わせが挙げられる。
上記合成樹脂としては、熱可塑性樹脂及び硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂等)が挙げられる。
例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂ポリエーテル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン−アクリル樹脂が挙げられる。
また、上記天然樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、天然ゴムに代表されるイソプレン系樹脂、カゼインに代表されるタンパク質系樹脂が挙げられる。
【0067】
〔塗膜、塗膜製品の製造方法〕
本実施形態の塗膜製品は、先ず所定の基材を形成し、この基材上に、本実施形態の組成物を塗布し、固形化し、塗膜を形成することにより得られる。
上記基材を形成する表面には、予めコロナ放電処理やフレーム処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよいが、これらの表面処理は必須ではない。
基材は、上述した有機基材の材料を後述する公知の方法により塗工し、乾燥することにより形成できる。
本実施形態の塗膜は、重合体粒子(B)と無機酸化物粒子(A)とを攪拌することにより調製した組成物を上記基材上に塗工し、乾燥させることにより形成できる。
【0068】
基材及び塗膜は、従来公知の任意の方法で形成することができる。
塗布方法としては、例えば、スプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法が挙げられる。
本実施形態の組成物を塗布した後、常温にて乾燥して揮発分を除去することにより硬化させることにより塗膜が得られる。
また、目的に応じ、40℃〜120℃程度の温度で加熱処理を行ってもよく、紫外線照射等を行ってもよい。
【0069】
本実施形態の組成物を塗布した後の乾燥時の温度については、特に制限はないが、重合体粒子(B)の最低造膜温度に30℃加えた値よりも低い温度で乾燥させることが好ましい。これによりさらに透明性が向上する。最低造膜温度以下で乾燥させるとさらに好ましい。
【0070】
本実施形態の組成物による塗膜の厚みは、0.1〜10μmが好ましく、より好ましくは0.5〜5μmである。
塗膜の厚さが10μm以下とすることにより、良好な透明性を確保することができ、0.1μm以上であることにより、防汚性、光触媒活性等の機能をより高いレベルで発現することができる。
【0071】
本実施形態の塗膜製品は、基材の表面に、上述した本実施形態の組成物を塗布し、乾燥させることによって得られるが、本実施形態の塗膜製品の製造方法は上記方法に限定されるものではない。その他の方法としては、例えば、基材と塗膜とを同時に成形してもよく、一体成形してもよい。
また、所定の基体上に上述した組成物を成膜し、塗膜を成形した後、この塗膜を上記所定の基体から剥離し、又はこの所定の基体と密着させた状態で、基材に接着、あるいは融着させてもよい。
【0072】
上述した本実施形態の塗装製品は、耐候性、耐水性、防汚性、透明性、密着性などの耐久性に優れており、建築外装用の機能性構造体などを含む広い用途に応用することができる。
例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、各種レンズ、構造部材、住宅等建築設備、車両用照明灯のカバー及び窓ガラス、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用及び鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器の外装部、特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
先ず、実施例及び比較例における各種物性の測定方法を示す。
【0074】
〔1.水溶性成分量〕
重合体粒子のエマルジョン中の水溶性成分は、遠心分離により、重合体粒子のエマルジョンから重合体粒子を分離し、上澄み液を用いて測定を行った。
遠心分離器(BECKMAN COULTER社製Optima L-90K)を用いて、重合体粒子のエマルジョン(重合体粒子の分散液)を60000回転×1時間(設定槽内温度5℃)の条件で遠心分離を行った。
遠心分離の操作後、重合体粒子が沈んで、透明となった液の(水溶性成分が含まれる)上澄み液のみ取り出し、下記式により水溶性成分量(質量%)を算出した。
水溶性成分量(質量%)={分離操作後の上澄み液の加熱残分(質量%)×〔100−分離操作前の重合体粒子のエマルジョン全体の加熱残分(質量%)〕}÷{分離操作前の重合体粒子のエマルジョン全体の加熱残分(質量%)×〔100−分離操作後の上澄み液の加熱残分(質量%)〕}×100
なお、加熱残分は、上記のそれぞれの液を130℃にて1時間乾燥させ、加熱前後の重量変化により求めた。
【0075】
〔2.数平均粒子径〕
湿式粒度分析計(日機装社製、商品名「マイクロトラックUPA−9230」)を用いて測定した。
ローディングインデックスが2±0.2となるように、セル内の試料に水を加えて濃度を調製し、測定を行った。
【0076】
〔3.固形分濃度〕
試料約2gをアルミ皿にとり、130℃で1時間加熱した。
加熱前後の試料の質量を測定し、その差から固形分濃度(=加熱残分)を計算した。
【0077】
〔4.最低造膜温度(MFT)〕
JIS−K−6828の試験方法に準じて測定した。
一方の端を高温に、他の端を低温にして温度勾配をつけた熱板上に、重合体粒子のエマルジョンを、アプリケーターを用いて塗布し、均一な乾燥塗膜を形成し得る最低の温度を最低造膜温度とした。
【0078】
〔5.塗膜厚さ〕
塗膜の厚さを、ハロゲン光源装置(MORITEX社製、商品名「MHF−D100LR」)を装着した膜厚測定装置(SPECTRA・COOP社製、商品名「HandyLambda II THICKNESS」)を用いて測定した。
【0079】
〔6.外観(色差)〕
色差計(BYK Gardner社製color-guide)を用いて標準板からの色差を求めた。
【0080】
〔7.外観(光沢)〕
光沢計(BYK Gardner社製micro-TRI-gloss μ)を用いて測定した。
60°−60°の鏡面反射率を光沢値として測定した。
【0081】
〔8.接触角〕
20℃での水の接触角を、接触角計(協和界面科学社製、商品名「DROP MASTER 500」)を用いて測定した。
【0082】
〔9.耐候性〕
スガ試験機社製のサンシャインウエザーメーターを用いて、曝露試験(ブラックパネル温度63℃、降雨18分/2時間)を行い、曝露前と曝露開始200時間、6000時間後との間での耐候性を測定した。
耐候性は、色差、光沢保持率、接触角の3項目について測定した。
色差は、上記〔6.外観(色差)〕の方法で測定し、曝露前の色差を標準とし、曝露前後の状態変化をΔEにて評価した。
色差ΔEは、0に近いほど曝露前の色合いに近いということであり、耐候性が優れているということである。ΔEが2以下であるものを合格とした。
光沢保持率は、〔7.外観(光沢)〕にて測定した曝露前の光沢値に対する曝露後の光沢値の保持率を光沢保持率(%)として測定した。80%以上を合格とした。
接触角は、上記〔8.接触角〕の方法で測定した。接触角は、小さいほど防汚性(耐候性)が良好であるものと判断した。接触角が35°以下であるものを合格とした。
【0083】
〔10.耐水性試験後の透明性〕
試験板を23℃の水中に10日間浸漬した後、大気中、23℃で1日乾燥させ、透明性の度合いを目視にて下記のように評価した。
◎:透明。
○:透明だがわずかに不透明。
△:やや不透明。
×:白く不透明。
【0084】
〔11.防汚性〕
試験板を一般道路(トラック通行量500〜1000台/日程度)に面したフェンスに1年間貼りつけて汚染させた後、汚染の度合いを目視にて下記のように評価した。
○:汚れなし。
○〜△:全体的に少し汚れている。
△:やや雨スジ汚れ有り。
×:著しい雨スジ汚れあり。
【0085】
〔12.密着性〕
JIS−K−5400に準拠し評価を行った。
試験板に直交する縦横11本ずつの平行線を、1mmの間隔で引いて、1cm2の中に100個のマス目ができるように碁盤目状の切り傷をつけた。
その後、粘着テープ(ニチバン社製 登録商標「セロテープ」)を用いた剥離試験を行った。
マス目100個のうち、剥離しないマス目の数で評価した。
【0086】
〔製造例1〕
(重合体粒子(B−1)のエマルジョンの合成)
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水650g、ドデシルベンゼンスルホン酸の10質量%水溶液13.6gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。
この反応器中に、ジメチルジメトキシシラン77.8g、フェニルトリメトキシシラン110g、メチルトリメトキシシラン0.5gからなる混合液と、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.0gとを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
その後、反応器中の温度を80℃に維持して約1時間撹拌を続けた。
次に、n−ブチルアクリレート1.9g、メチルメタクリレート20.0g、フェニルトリメトキシシラン38.1g、テトラエトキシシラン66.3g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.8gからなる混合液と、アクリル酸2.4g、反応性乳化剤SR(商品名「アデカリアソープSR−1025」、アデカ(株)製、商品の固形分(加熱残分)25質量%)20.4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.2g、イオン交換水646gからなる混合液とを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
さらに、反応器中の温度を80℃に維持して約2時間撹拌を続けた後、室温まで冷却した。pHは2.5であった。
#200のステンレス網を用いて濾過を行って凝集物を除去した後、攪拌しながらこれに25質量%アンモニア水溶液と水とを加え、pH9、固形分10.0質量%に調製し、重合体粒子(B−1)のエマルジョンを得た。
重合体粒子(B−1)の数平均粒子径は53nm、最低造膜温度(MFT)は95℃以上であった。
【0087】
〔製造例2〕
(重合体粒子(B−2)のエマルジョンの合成)
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水650g、ドデシルベンゼンスルホン酸の10質量%水溶液13.6gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。
この反応器中に、ジメチルジメトキシシラン77.8g、フェニルトリメトキシシラン110g、メチルトリメトキシシラン0.5gからなる混合液と、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.0gとを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
その後、反応器中の温度を80℃に維持して約1時間撹拌を続けた。
次に、n−ブチルアクリレート3.2g、メチルメタクリレート7.0g、フェニルトリメトキシシラン38.1g、テトラエトキシシラン66.3g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.8gからなる混合液と、アクリル酸14.1g、反応性乳化剤SR(商品名「アデカリアソープSR−1025」、アデカ(株)製、商品の固形分(加熱残分)25質量%)20.4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.2g、イオン交換水646gからなる混合液とを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
さらに、反応器中の温度を80℃に維持して約2時間撹拌を続けた後、室温まで冷却した。pHは2.1であった。
#200のステンレス網を用いて濾過を行って凝集物を除去した後、攪拌しながらこれに25質量%アンモニア水溶液と水とを加え、pH9、固形分10.0質量%に調製し、重合体粒子(B−2)のエマルジョンを得た。
重合体粒子(B−2)の数平均粒子径は56nm、最低造膜温度(MFT)は95℃以上であった。
【0088】
〔製造例3〕
(重合体粒子(B−3)のエマルジョンの合成)
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水650g、ドデシルベンゼンスルホン酸の10質量%水溶液13.6gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。
この反応器中に、ジメチルジメトキシシラン77.8g、フェニルトリメトキシシラン110g、メチルトリメトキシシラン0.5gからなる混合液と、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.0gとを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
その後、反応器中の温度を80℃に維持して約1時間撹拌を続けた。
次に、n−ブチルアクリレート2.0g、メチルメタクリレート7.0g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート12.9g、フェニルトリメトキシシラン38.1g、テトラエトキシシラン66.3g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.8gからなる混合液と、アクリル酸2.4g、反応性乳化剤SR(商品名「アデカリアソープSR−1025」、アデカ(株)製、商品の固形分(加熱残分)25質量%)20.4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.2g、イオン交換水646gからなる混合液とを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
さらに、反応器中の温度を80℃に維持して約2時間撹拌を続けた後、室温まで冷却した。
pHは2.5であった。
#200のステンレス網を用いて濾過を行って凝集物を除去した後、攪拌しながらこれに25質量%アンモニア水溶液と水とを加え、pH9、固形分10.0質量%に調製し、重合体粒子(B−3)のエマルジョンを得た。
重合体粒子(B−3)の数平均粒子径は58nm、最低造膜温度(MFT)は95℃以上であった。
【0089】
〔実施例1〜3〕
上記〔製造例1〕〜〔製造例3〕でそれぞれ作製した重合体粒子(B−1)〜(B−3)のエマルジョン100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカS−O(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)58g、およびイオン交換水により固形分を5質量%に調製したシリカ被覆ルチル型二酸化チタンゾルTiO(珪酸ナトリウムを用いることで粒子表面をシリカで被覆したルチル型ニ酸化チタン粒子であり、質量比がルチル型二酸化チタン100質量部に対してシリカ12質量部、数平均粒子径10nm)48gを混合し、攪拌することにより、それぞれ水系有機無機複合組成物(C−1)〜(C−3)を得た。
次に、片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)に、アクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。
この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に、上記水系有機無機複合組成物(C−1)〜(C−3)をバーコート法にて塗布した。
その後、塗布した水系有機無機複合組成物を、25℃で2日養生(乾燥)させ、基板上に塗膜が形成された試験板(D−1)〜(D−3)を得た。
この試験板から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、すべての塗膜において二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子が均一に分散している様子が確認できた。
この試験板の各種評価結果を、下記表1に示す。
【0090】
〔実施例4〕
上記〔製造例2〕で作製した重合体粒子(B−2)のエマルジョン100gに、水分散コロイダルシリカS−Oを71g混合し、攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−4)を得た。
次に、実施例1と同様にしてシリコーン樹脂が塗工された基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−4)をバーコート法にて塗布し、25℃で2日養生させ、基板上に塗膜が形成された試験板(D−4)を得た。
この試験板(D−4)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−2)が均一に分散している様子が確認できた。
この試験板(D−4)の各種評価結果を、下記表1に示す。
【0091】
〔製造例4〕
(重合体粒子(B−4)のエマルジョンの合成)
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水650g、ドデシルベンゼンスルホン酸の10質量%水溶液13.6gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。
この反応器中に、ジメチルジメトキシシラン77.8g、フェニルトリメトキシシラン110g、メチルトリメトキシシラン0.5gからなる混合液と、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.0gとを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
その後、反応器中の温度を80℃に維持して約1時間撹拌を続けた。
次に、n−ブチルアクリレート2.1g、メチルメタクリレート2.0g、フェニルトリメトキシシラン38.1g、テトラエトキシシラン66.3g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.8gからなる混合液と、アクリル酸20.2g、反応性乳化剤SR(商品名「アデカリアソープSR−1025」、アデカ(株)製、商品の固形分(加熱残分)25質量%) 20.4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.2g、イオン交換水646gからなる混合液とを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
さらに、反応器中の温度を80℃に維持して約2時間撹拌を続けた後、室温まで冷却した。pHは2.5であった。
#200のステンレス網を用いて濾過を行って凝集物を除去した後、攪拌しながらこれに25質量%アンモニア水溶液と水とを加え、pH9、固形分10.0質量%に調製し、重合体エマルジョン粒子を得た。
重合体粒子(B−4)の数平均粒子径は63nm、最低造膜温度(MFT)は95℃以上であった。
【0092】
〔比較例1〕
上記〔製造例4〕で作製した重合体粒子(B−4)のエマルジョン100g(固形分10.0質量%)に、水分散コロイダルシリカS−Oを58gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調製したシリカ被覆ルチル型二酸化チタンゾルTiO(珪酸ナトリウムを用いることで粒子表面をシリカで被覆したルチル型ニ酸化チタン粒子であり、質量比がルチル型二酸化チタン100質量部に対してシリカ12質量部、数平均粒子径10nm)48gとを混合し、攪拌することにより、水系有機無機複合組成物(C−5)を得た。
次に、片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。
この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に、上記水系有機無機複合組成物(C−5)をバーコート法にて塗布した。
次に、上記〔実施例1〕と同様にしてシリコーン樹脂が塗工された基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に、上記水系有機無機複合組成物(C−5)をバーコート法にて塗布し、25℃で2日養生させ、基板上に塗膜が形成された試験板(H−1)を得た。
この試験板(H−1)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−4)が均一に分散している様子が確認できた。
この試験板(H−1)の各種評価結果を、下記表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1中、「使用した無機酸化物粒子)」は、下記材料を示す。
S−O:日産化学工業(株)製 スノーテックスO 数平均粒子径12nm、固形分20質量%
TiO:固形分5質量%のシリカ被覆ルチル型二酸化チタンゾル(シリカ被覆ルチル型ニ酸化チタン粒子、質量比がルチル型二酸化チタン100質量部に対してシリカ12質量部、数平均粒子径10nm)
【0095】
表1から明らかなように、実施例1〜4の複層塗膜は、いずれにおいても、密着性に優れており、長時間に亘り実用上十分に高い透明性、耐候性、防汚性を有し、初期の意匠を維持できるという効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の組成物及びこれを用いた塗膜、塗装製品は、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、各種レンズ、構造部材、住宅等建築設備、車両用照明灯のカバー及び窓ガラス、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用及び鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器の外装部、特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装として、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粒子(A)と、
重合体粒子(B)のエマルジョンと、
を、含有し、
前記重合体粒子(B)のエマルジョン中の水溶性成分量が、
前記重合体粒子(B)のみの量と、前記水溶性成分量との合計に対して、3質量%以下である組成物。
【請求項2】
前記重合体粒子(B)が、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素化合物とビニル単量体とを重合させることにより得られる重合体粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物により形成された塗膜。
【請求項4】
基材と、
当該基材上に形成された請求項3に記載の塗膜と、
を、含む塗装製品。
【請求項5】
前記基材が有機基材である、請求項4に記載の塗装製品。
【請求項6】
建築外装用の機能性構造体である、請求項4又は5に記載の塗装製品。

【公開番号】特開2011−111485(P2011−111485A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267204(P2009−267204)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】