説明

組成物、物品、その製造および使用

赤外線による画像形成可能なリソグラフ前駆体用のコーティングとして適しており、a)800nmを超える波長の赤外線を吸収し、その結果熱を発生し、b)現像剤中でコーティングの非画像部分の溶解を阻害するが、現像中の画像部分の溶解は可能とする不溶化剤として機能し、およびc)非画像部分/画像部分の溶解コントラスト比(DCR)を改善するように、非画像部分の溶解の阻害および/または画像部分の溶解を改善する、1つまたは複数の薬剤を含み、機能c)を果たす薬剤が疎水性およびイオン性を有する部分を含む、ヒドロキシル基を含むポリマーを含む組成物。そのような組成物は、画像部分と非画像部分との間で、現像剤中の溶解速度に関して優れた選択性を示すことができるが、この差異(または「操作スピード」)を得るのに必要なエネルギーは犠牲にされない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成可能な組成物、リソグラフ印刷版前駆体(本明細書において、1つの表面上に画像形成用コーティングを有する画像未形成の印刷版を意味する)、その製造、および印刷版(本明細書において、印刷しようとする画像をポジ型またはネガ型のいずれかで示す、印刷可能状態のコーティングを有する印刷版を意味する)の作製におけるその使用に関する。本明細書において印刷版(printing form)は一般に印刷版(printing plate)またはそれに代わる印刷表面を意味する。
【0002】
本発明は、リソグラフ印刷版前駆体、特にポジ作用性リソグラフ印刷版前駆体を改善しようとするものである。そのような前駆体は、現像剤に溶解性のポリマーコーティングを有する。コーティングとしてアルカリ溶解性のポリマー(例えばノボラック樹脂)、およびナフトキノンジアジド(NQD)部分を有する従来のポジ作用性リソグラフ印刷版前駆体においては、NQDが強い溶解阻害剤であるために、紫外線(UV)に未露光のコーティングの領域は、従来のアルカリ性現像液中の溶解速度が非常に遅い。このことは、NQDがそのような現像液中でのコーティングの溶解を阻害(阻止または抑制)することを意味する。コーティングの露光領域は多くの化学的および物理的変化(これには体積、極性、配座、化学構造、反応熱、水素結合、および加水分解のいずれかまたは全てが含まれる)を受けることができ、この変化はそのアルカリ現像剤中の溶解速度の劇的な変化をもたらしうる。このプロセスは露光領域と未露光領域との間に、典型的には所与の露光エネルギーおよび現像条件において100:1を超える、非常に大きな処理対比(processing contrast)を与える。
【0003】
多くの熱システム(例えば熱型ダイレクト刷版(Computer−to−Plate)(CTP)ポジシステム)において、露光中に起こる唯一の変化は、供給される熱により(典型的にはコーティング中の赤外線吸収剤に作用する赤外レーザーにより)引き起こされるものである。熱は三次構造に対して、例えば水素結合構造の崩壊を引き起こす物理的変化をもたらす。これによって、露光領域と未露光領域との間で処理対比が、所与の露光エネルギーおよび現像条件において典型的には10〜20:1と低くなる。商業的に実現可能なポジ作用性印刷版前駆体を得るために、現像剤中でのコーティングの露光領域の溶解速度はかなり早くなければならず、処理対比は望ましくは高いべきである。現像後の印刷のためには十分なコーティングが残っていなければならず、コーティングの過剰な溶解は処理化学品の寿命を劇的に縮める。このことは、耐現像剤性のコーティングを破壊するエネルギーを供給するために、より高い露光レベルの適用を必要とする。これは印刷業者にとっての生産性を制限する。そのため、より低い露光レベルを用いて同等の現像剤耐性を得るか、または同じ露光エネルギーでより良好な現像剤耐性を得ることが目的である。
【0004】
US 5554664は、カチオン(定義の通り)、およびビスまたはトリス(高フッ素化アルキルスルホニル)メチドあるいはビスまたはトリス(フッ素化アリールスルホニル)メチドであってもよいアニオンを含む、エネルギー活性化可能な塩を記載している。画像形成は、電子線、あるいは紫外線または可視光(約200nm〜800nm)による。
【0005】
US 6841333は、フッ素化アニオン、例えばPF6-、SbF6-、CF3SO3-、C49SO3-、およびC817SO3-を有する光酸発生剤(photoacid generator)を記載している。このアニオンは、高い酸強度および非常に強力な触媒活性をもたらし、速い感光スピード(ポジレジストにおいて)および速い硬化スピード(ネガレジストにおいて)を与え、環境に優しいと言われている。画像形成は、電子線、イオンビーム、X線、極紫外線、深紫外線、中間紫外線、近紫外線、または可視光による。
【0006】
US 6358665は、ヒドロキシスチレン樹脂と、フッ素化アルカンスルホン酸を光酸発生剤として生成するオニウム塩前駆体とを含む、放射線感受性組成物を記載している。光酸発生剤はフッ素化アルカンスルホン酸のスルホニウム塩またはヨードニウム塩であり、アニオンはCF3CHFCF2SO3-またはCF3CF2CF2CF2SO3-である。画像形成では、メタルハライドランプ、カーボンアークランプ、キセノンランプ、および水銀蒸気ランプを使用してもよい。
【0007】
GB 1245924は、未露光領域と比較して露光領域におけるコーティングの溶解性を高めるために、フェノール樹脂の、および多数の他のポリマーのコーティングへ像様のために熱を加えることを開示している。しかし、現像液に対するコーティングの溶解性を低下させるNQDおよび他の阻害剤が記載されているが、露光領域を溶解性にするのに高い露光エネルギー量が必要とされる。
【0008】
US 4708925は、フェノール樹脂に耐溶剤性を与えるためのオニウム塩の使用を記載している。オニウム塩は、フェノール樹脂のコーティングが現像剤中で溶解するのを阻害する。しかしいったん赤外線が当てられると、この阻害効果は失われる。この場合、オニウムカチオンに対してプロトン酸性アニオン(すなわち潜在的なブレンステッド酸)を使用することにより、露光の際に酸を放出すると、同じ露光エネルギー量でコーティングの露光領域をより現像剤に溶解しやすくするのを助ける。レーザー露光後、現像前に加熱し、続いてUVフラッド露光および現像を行うことにより、この技術はネガ刷版にも用いることができる。この特許では多数のアニオンおよびカチオンが開示されている。アニオンにはヘキサフルオロホスフェート、パーフルオロアルキルスルホニウム、CF3COO-、SbF6-、およびBF4-が含まれる。
【0009】
これらの両特許の技術的提案は、安定性に関連する問題にも悩まされる。すなわち、コーティングを調製し速やかに露光した後、最良の結果を得るためにX mJ/cm2の露光エネルギー量を必要とするが、1週間の静置後にY mJ/cm2を必要とし、YはXを超える数である。
【0010】
Yの値は、フェノール樹脂配合物に含まれるほぼすべての成分、およびリソグラフ印刷版前駆体を調製するのに用いられるすべてのプロセスによって影響を受ける。これは、印刷稼働の準備をする上でほとんど不可能な課題を印刷業者に与える。本質的にYがXを大幅に超える場合、これらの両特許の技術的提案は商業的に実現不可能である。
【0011】
US 6461795およびUS 6706466はこの安定性の問題を認め、コーティングした前駆体を少なくとも4時間40℃〜90℃の間の穏やかな熱処理に供することによりこの問題を克服する方法を記載している。
【0012】
US 5340699は、紫外線または赤外線でポジ作用性またはネガ作用性印刷版を作り出すのにオニウム化合物を利用できたことを開示している。この場合、ポジ露光された版を直接利用することができるか、あるいは現像前に実質的な加熱プロセスに供され、このプロセスは、レゾール樹脂と共に存在するオニウム潜在性ブレンステッド酸から酸が生成することによりもたらされる、露光領域の架橋を引き起こす。つまり、このプロセスは全体としてはネガ型である。エネルギー需要と比較した露光前および露光後の相対的な現像剤溶解性の制限はこれらの系においても存在し、ポジ型の場合では安定性も問題である。
【0013】
露光前対露光後の処理対比、およびエネルギー需要の問題に対抗するため、EP 1024963Aは、コーティング溶液成分としてシリコーンポリマーを使用し、これが乾燥する際にコーティングの表面に移動することを提示している。シリコーンは水性溶液をはじくため、コーティングの未露光部分が現像液に対する強化された耐性を有すると考えられる。コーティングが加熱された領域では、表面が破壊され、現像液がコーティングの露光領域のバルクへ速やかに突き抜けることができる。このことは、シリコーンポリマーのない基準物と同様の現像剤特性有する、より低エネルギー需要のコーティングを調製することを可能にするか、あるいはより良好な耐現像剤特性での同じエネルギー需要を可能にする。しかしこの技術に関する問題は、液体組成物中のシリコーンポリマー充填に関して開示される高いレベル(3〜6%)において、シリコーンポリマーがそのようなコーティング中で不安定効果を有することである。この状況において、ポリマーコーティング中のシリコーン(例えば一般にレベリングおよびフィルムの表面的な外観の補助物として使用されるUS 4510227)は実質的に1%未満の量で通常使用されることに注目するべきである。EP 1024963Aの3〜6%のレベルでは、不相容性が乾燥したコーティング中に白変またはコーティングボイドの存在を伴う不均一性を生じさせ、これはシリコーンポリマーの非対称的な分布の結果として保護された領域のためであると発明者らは考える。
【0014】
前記対比およびエネルギー需要の問題に関して提案される別の解決法は、コーティングを構成する2つまたはそれを超える層、特に異なる組成のものを使用することである。ここで、基材に隣接するかまたは基材に近い下層は、US 6153353およびUS 6352812に記載のように、上層(例えば表面層または外層)よりも現像剤溶解性が高いべきである。そのような実施形態においては、コーティングがポジ型露光されると、未露光領域の全コーティングは溶解速度が遅いが、露光領域では通常の速度で現像される。画像形成された上層がいったん溶解して除かれてしまうと、現像剤中で非常に速い溶解速度を有する下層が非常に迅速に溶解する。全体として、露光領域は未露光領域よりもはるかに速く現像され、同じエネルギーでの処理対比が改善される。しかし、この対処法にはいくつかの重大なコスト上の問題(資本および財源)がある。1つは、2つの塗工機、乾燥機、および検査機が必要であること、もう1つは、必要な操作が増加するため、労働コストが増加することである。別の問題は、コーティングの品質不良がより高レベルであることである。コーティングの品質不良はいかなるコーティング操作でも避けられない。例えば1回のコーティングから発生する廃品が3%であるならば(標準値)、2層系では発生する廃品が約6%に増加すると予想される。さらに、ポジ型のフェノール/ノボラックコーティング残留物に基づくこれらの系は、経時的に十分安定ではない。
【0015】
要約すると、基材上へ塗布されてリソグラフ印刷版前駆体を形成すると、画像形成エネルギーに露光したときに非常に高速の現像剤溶解性を有する領域を有するが、画像形成エネルギーに露光していない領域ではより高い耐現像剤性を有し、実際上の必要とされる露光エネルギーを犠牲にすることのない、つまり露光エネルギーをさほど増加させることのない(言い換えれば、印刷版前駆体の「スピード」を低下させることのない)、放射線感受性組成物が必要とされている。主要な目的は「単層」コーティングを改善することである。しかし、2層またはそれを超える層のコーティングの改善は除外されない。
【0016】
本発明の第1の態様によれば、ヒドロキシル基を含有するポリマーを含む組成物が提供され、この組成物はIRによる画像形成可能なリソグラフ前駆体用のコーティングとして適しており、この組成物は
a)800nmを超える波長の赤外線を吸収し、その結果熱を発生し、
b)現像剤中でコーティングの非画像部分の溶解を阻害するが、現像中の画像部分の溶解は可能とする不溶化剤として機能し、および
c)非画像部分/画像部分の溶解コントラスト比(DCR)を改善するように、非画像部分の溶解の阻害および/または画像部分の溶解を改善する
1つまたは複数の薬剤を含み、
機能c)を果たす薬剤が、イオン性、および好ましくは疎水性の性質を有する部分を含む。
【0017】
第1の態様の好ましい組成物において、不溶化剤として機能する薬剤は赤外線の吸収によって分解しない。好ましくは、赤外線の吸収によって分解しない不溶化剤として機能するそのような薬剤は、放射線がその不溶化効果の喪失を引き起こした後に、時間と共にその不溶化効果を取り戻す。
【0018】
薬剤は805nm〜1500nm、好ましくは805〜1250nmの波長範囲の赤外線を吸収するのが好ましい。
【0019】
ヒドロキシル基には、それぞれのポリマーの骨格に直接接続されるヒドロキシル基が含まれる。あるいは、またはさらに、ヒドロキシル基には、より大きい側基(例えばカルボン酸基(−COOH)もしくはその塩、またはスルホン酸基(−SO3H)、またはアルコール(CH2OH)、あるいはそれらの混合物の一部であるヒドロキシル基が含まれる。
【0020】
好ましくは、ポリマーは画像形成後に水または水性溶液に可溶または分散でき、溶液は5を超えるpH、好ましくは7を超えるpH、最も好ましくは8.5を超えるpHを有する。
【0021】
ポリマーは、フェノールポリマー、例えばレゾールまたはノボラック樹脂、またはポリビニルフェノール(例えばヒドロキシスチレンのホモまたはヘテロポリマー)であるのが適切である。最も好ましくは、ポリマーはノボラック樹脂である。
【0022】
a)、b)、およびc)の機能を果たす薬剤は個々の化合物であってもよく、あるいは2つまたは3つの機能が1つの化合物によって果たされてもよい。したがって、1つの化合物がa)およびb)の機能を果たしてもよく、あるいは1つの化合物がa)およびc)の機能を果たしてもよく、あるいは1つの化合物がb)およびc)の機能を果たしてもよい。あるいは、1つの化合物がa)、b)、およびc)の機能を果たしてもよい。
【0023】
a)、b)、およびc)の機能を果たす薬剤は個々の化合物であってもよく、あるいは解離性の側基としてポリマーに接続されていてもよい。原則として、a)、b)、およびc)の機能を果たす薬剤は全てポリマーに接続されうるであろう。
【0024】
好ましくは、画像形成可能なリソグラフ前駆体は、印刷版、印刷で用いられるマスク、または電子部品のための前駆体である。
【0025】
DCRを改善するためにc)の機能を果たす薬剤を用いることにより、画像部分と非画像部分との間で現像剤中の溶解速度に関して優れた選択性を得るが、一方この差異(または「操作スピード」)を得るのに必要なエネルギーは実質的に犠牲にされないことを発明者らは見いだした。
【0026】
好ましくは、画像形成は液体現像剤を用いて行うが、無処理操作(processless operation)(例えば印刷版の場合はオンプレス(on−press))が原則的に可能である。
【0027】
組成物はポジ作用性であるのが好ましい。したがってそのような実施形態において、溶解性の画像部分と耐現像剤性の非画像部分との間で、現像剤中の溶解速度に関して優れた選択性を得る(不溶化効果は画像形成において失われる)が、一方この差異を得るのに必要なエネルギーは犠牲にされない。
【0028】
本発明の好ましい組成物は、周囲の自然光が窓を通って屋内へ透過する場合、および標準的な白色の室内照明下を含めて、通常の屋内の照明条件下で損傷なく扱うことができるコーティングを形成する。好ましくは、紫外線安全灯は必要としない。
【0029】
第1の態様の組成物の望ましい追加成分は、セルロースアセトフタレート(CAHPh)である。CAHPhは、そのような組成物に印刷で用いられる溶媒に対する耐性を持たせるのに特に有用であり、それにより溶媒(強力な溶媒を含める)の存在下で前記コーティングの稼働時間の能力が増大する。CAHPhは、耐現像剤性の助けとなるためにシロキサンが使用される先の組成物への、望ましい追加物であるが、シロキサンとCAHPhとの間の物理的な不相容性のために、少量のレベルにおいてのみである。本発明の組成物において、シロキサンは存在しないのが好ましい。そのような実施形態において、CAHPhはより高レベル、例えば2〜10%(重量/重量)、好ましくは3〜8%で添加することができる。
【0030】
ここで好ましい部類の薬剤を説明することにする。
【0031】
一般に、疎水性はカチオン、またはアニオン、または両方に由来していてもよい。
【0032】
好ましくは、薬剤はオニウムカチオンまたはカルボカチオンを含む。オニウムカチオンの例には、カルボニウム、アンモニウム、ジアゾニウム、スルホニウム、スルホキソニウム、ホスホニウム、またはヨードニウムカチオンが含まれる。カルボカチオンの例はカルベニウムカチオンである。カルベニウム、アンモニウム、ヨードニウム、および特にホスホニウムカチオンが好ましい。オニウムまたはカルボカチオン部分は、ポリマーからの側基であってもよいが、1つまたは複数の個別の化合物の形態であるのが好ましい。
【0033】
オニウムまたはカルボカチオン部分は、無機中心(またはカルボニウムイオンの場合は炭素中心)に結合したアルキルまたはアリール官能基を有していてもよい。
【0034】
オニウムカチオンは好ましくは上記の不溶化機能b)を果たす。これはイオン性であり、疎水性であってもよく、上記の機能c)も果たす。そのような実施形態において、これは好ましくは以下の疎水性促進手段のうち少なくとも1つを有する。
【0035】
少なくとも6個の炭素原子、好ましくは6〜24個の炭素原子、特に8〜16個の炭素原子を有する、少なくとも1つの疎水性アルキル基(好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つのそのような基)、
少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、好ましくは1〜12個、最も好ましくは2〜8個の炭素原子を有する、少なくとも1つの疎水性フルオロアルキル基(好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つのそのような基)であって、その、またはそれぞれのフルオロアルキル基は好ましくはパーフルオロアルキル基であるもの、
少なくとも1つのケイ素含有疎水性基、例えば式Sin2n+l-のシリル基で、各Rが独立して水素またはC14アルキル基であり、nが1〜8の数であるもの、
24個までの炭素原子を有するアルキル基、場合により疎水性アルキル基(ちょうど定義した通り)、フッ素原子、疎水性フルオロアルキル基(ちょうど定義した通り)、およびケイ素含有疎水性基(ちょうど定義した通り)から選択される、少なくとも1、2、または3つの疎水性部分で場合により置換されている、少なくとも1つのアリール基、特にフェニル基(好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つのアリール基)。
【0036】
好ましいホスホニウムカチオンは以下の式:
【0037】
【化1】

【0038】
を有していてもよく、式中、
nは0または1〜5の範囲の整数を表し、
1は水素原子またはフッ素原子またはC124アルキル基またはC112フルオロアルキル基を表し、1つを超えるR1基が存在する場合、同じまたは異なっていてもよく、
mは0または1〜5の範囲の整数を表し、
2は水素原子またはフッ素原子またはC124アルキル基またはC112フルオロアルキル基を表し、1つを超えるR2基が存在する場合、同じまたは異なっていてもよく、
pは0または1〜5の範囲の整数を表し、
3は水素原子またはフッ素原子またはC124アルキル基またはC112フルオロアルキル基を表し、1つを超えるR3基が存在する場合、同じまたは異なっていてもよく、
qは1〜4の間の整数であり、
sは0または1〜5の範囲の整数を表し、
4は水素原子またはフッ素原子またはC124アルキル基またはC112フルオロアルキル基を表し、1つを超えるR4基が存在する場合、同じまたは異なっていてもよい。
【0039】
好ましいアルキル基R1、R2、およびR3は、1〜16個の炭素原子、好ましくは1〜12個の炭素原子を含む。
【0040】
好ましいフルオロアルキル基R1、R2、およびR3は、フッ素原子で実質的に完全に置換されている(すなわち、R1、R2、およびR3は好ましくはパーフルオロアルキル基である)。
【0041】
好ましいフルオロアルキル基は、C18フルオロアルキル基、好ましくはトリフルオロメチルまたはパーフルオロヘプチルである。
【0042】
好ましい実施形態において、nは5であり、各R1は水素であるか、または各R1はフッ素であるか、または各R1はトリフルオロメチルである。
【0043】
好ましい実施形態において、nは5であり、各R2は水素であるか、または各R2はフッ素であるか、または各R2はトリフルオロメチルである。
【0044】
好ましい実施形態において、nは5であり、各R3は水素であるか、または各R3はフッ素であるか、または各R3はトリフルオロメチルである。
【0045】
好ましい実施形態において、n、m、およびpは全て5であり、各R1、R2、およびR3は水素である。
【0046】
別の好ましい実施形態において、n、m、およびpは全て5であり、各R1、R2、およびR3はフッ素である。
【0047】
別の好ましい実施形態において、n、m、およびpは全て5であり、各R1、R2、およびR3はトリフルオロメチルである。
【0048】
好ましい実施形態において、nは1であり、R1はパーフルオロC48アルキル基、好ましくはパーフルオロヘプチルであり、好ましくはP+原子に対してパラ位に接続される。
【0049】
好ましい実施形態において、mは1であり、R2はパーフルオロC48アルキル基、好ましくはペルフルオロヘプチルであり、好ましくはパラ位に接続される。
【0050】
好ましい実施形態において、pは1であり、R3はパーフルオロC48アルキル基、好ましくはペルフルオロヘプチルであり、好ましくはパラ位に接続される。
【0051】
好ましい実施形態においてn、m、およびpは全て1であり、R1、R2、およびR3は全てパーフルオロC48アルキル、好ましくは全てパーフルオロヘプチルであり、それぞれのフルオロアルキル基は好ましくはパラ位に接続される。
【0052】
好ましくは、R4はフッ素原子、C124アルキル基、またはC112フルオロアルキル基である。好ましくは、sは1、2、または3である。
【0053】
特に好ましいR4はフッ素およびトリフルオロメチルである。特に好ましい実施形態において、sは1であり、R4はトリフルオロメチルであり、パラ位の置換基である。
【0054】
qは1〜4の整数、特に1であるのが適切である。
【0055】
特に好ましい疎水性カチオンは、(m,m−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル)トリフェニルホスホニウムである。
【0056】
疎水性ホスホニウムカチオンのさらなる例には、以下のものが含まれる。
【0057】
【化2】

【0058】
シリル化カチオンの例には、以下のものが含まれる。
【0059】
【化3】

【0060】
カチオンは適切には、トリアリールメタンカチオン(例えばcrystal violet、FlexoBlue 636、またはethyl violetの場合)などの色素カチオン、シアニン色素(例えばFEW Chemie製のS0094またはS0253)、チアジン色素(例えばメチレンブルー)、またはオキサジン色素(例えばNile Blue)であってもよい。これらは上記の方法で、例えばアルキル官能基をより長い鎖のアルキル官能基またはフルオロアルキル官能基へと交換することにより、疎水性を持たせるために修飾してもよい。例えば、crystal violetは3つのジメチルアミノ官能基を有しており、その位置に3つのジ(トリフルオロメチル)アミノ官能基を有する、類似しているがより疎水性の高い色素材料を調製することができよう。同様に、ethyl violetは3つのジエチルアミノ基を有しており、その位置に3つのジ(ペンタフルオロエチル)アミノ基を有する、類似しているがより疎水性の高い色素を調製することができよう。
【0061】
先の一節ではカチオンの可能な疎水性促進の修飾を論じたが、実際には本発明によれば、非修飾カチオンが好ましく、アニオンを修飾するのが好ましい。
【0062】
本発明で使用するための好ましい非修飾ホスホニウムカチオンの例には、ジフェニルベンジルホスホニウム、および特にトリフェニルベンジルホスホニウム、およびトリアリールメタン色素、特にcrystal violetが含まれてもよい。
【0063】
アニオンは、15未満、好ましくは12未満、より好ましくは9未満、より好ましくは6未満のpKaを有する酸の共役塩基であるのが好ましい。
【0064】
好ましくは、アニオンは疎水性であり、そのため上記の機能c)を果たすことができる。好ましくは、フッ素、ケイ素、脂肪族アルキル、またはアリール官能基の存在によってそのようになされる。
【0065】
アニオンが疎水性であるそのような実施形態において、アニオンは好ましくは以下の疎水性促進手段のうち少なくとも1つを有する。
【0066】
少なくとも6個の炭素原子、好ましくは6〜24個の炭素原子、特に8〜16個の炭素原子を有する、少なくとも1つの疎水性アルキル基(好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つのそのような基)、
少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、好ましくは1〜20個、最も好ましくは2〜10個の炭素原子を有する、少なくとも1つの疎水性フルオロアルキル基(好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つのそのような基)であって、その、またはそれぞれのフルオロアルキル基は好ましくはパーフルオロアルキル基であるもの、
少なくとも1つのケイ素含有疎水性基、例えばシロキサン基または式Sin2n+l―のシリル基で、各Rが独立に水素またはC14アルキル基であり、nが1〜8の数であるもの、および
24個までの炭素原子を有するアルキル基、場合により疎水性アルキル基(ちょうど定義した通り)、フッ素原子、疎水性フルオロアルキル基(ちょうど定義した通り)、およびケイ素含有疎水性基(ちょうど定義した通り)から選択される、少なくとも1、2、または3つの疎水性部分で場合により置換されている、少なくとも1つのアリール基、特にフェニル基(好ましくは少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つのアリール基)。
【0067】
例には、オニウム塩またはカルボカチオンのシリル対カチオン、例えば以下のもの:
【0068】
【化4】

【0069】
が含まれ、
式中、第1の化合物では各R基およびR1基は独立に、場合により置換されたC(1〜20)アルキルまたは場合により置換されたアリール基(特に場合により置換されたフェニル)を表し、xは整数であり、yは1〜8の整数であり、第2および第3の化合物では、ケイ素原子およびスルホネート部分の間の鎖は全体で1〜20個、好ましくは3〜12個の炭素原子を有する。
【0070】
好ましくは、上記に示したものを含めた任意のアニオンは、−O3S−、−O2C−、−O2S−、H2PO4−、−HPO3の基のうちの1つが末端となっていてもよい。
【0071】
アリール基を有する適切な疎水性アニオンの例には、キシレンスルホン酸イオン、メシチレンスルホン酸イオン、および、特にトシル酸イオンが含まれる。
【0072】
本明細書で記載され定義されるある種のカチオンおよびアニオンは新規であり、以下にさらに定義される。
【0073】
(1)新規または既知のアニオン、および
上記で定義される少なくとも1つの疎水性アルキル基と、
上記で定義される少なくとも1つの疎水性フルオロアルキル基と、
上記で定義される少なくとも1つのケイ素含有疎水性基と、
フッ素原子、またはアルキル、フルオロアルキル、もしくはケイ素含有基から選択される少なくとも1、2、または3つの部分で場合により置換されている、少なくとも1つのアリール基と
を有するカチオンを有する化合物。
【0074】
そのような実施形態において、アニオンは新規であってもよく(以下に定義される通り)、あるいはそれ自体では既知であってもよく、例えばCF3COO-、SbF6-、BF4-、PF6-、SbF6-、CF3SO3-、C817SO3-、CF3CHFCF2SO3-、およびCF3CF2CF2CF2SO3-である。
【0075】
好ましいカチオンは、フッ素化BnPh3+、好ましくは(di−CF3)BnPh3+などのフッ素化ホスホニウムカチオンである。
【0076】
(2)新規または既知のカチオン、および
上記で定義される少なくとも1つの疎水性アルキル基と、
上記で定義される少なくとも1つのケイ素含有疎水性基と、
上記で定義される、フッ素原子、またはアルキル、フルオロアルキル、もしくはケイ素含有基から選択される少なくとも1、2、または3つの部分で場合により置換されている、少なくとも1つのアリール基と
を有するアニオンを有する化合物。
【0077】
従来通り、本明細書で使用する記号Bnはベンジル基−CH2−Phを表す。
【0078】
そのような実施形態において、カチオンは新規であってもよく(上記で定義される通り)、あるいはそれ自体は既知であってもよい。例えば(Ph)3BnP+などの既知のホスホニウム塩であってもよく、または(Ph)2+、あるいはcrystal violetおよびethyl violetなどのトリアリールメタン色素であってもよい。
【0079】
興味深い新規化合物には、疎水性を持つように修飾されるかまたは従来型であり、上記で定義されるようにフッ素、ケイ素、脂肪族アルキル、またはアリール部分の存在によって疎水性にされたアルキルもしくはアリールカルボン酸アニオンまたはアルキルもしくはアリールスルホン酸アニオンを有する、(Ph)3BnP+などのホスホニウムカチオンが含まれうる。
【0080】
興味深い新規化合物には、疎水性を持つように修飾されるかまたは従来型である、crystal violetおよびethyl violetなどのトリアリールメタン色素と、上記で定義されるようにフッ素、ケイ素、脂肪族アルキル、またはアリール部分の存在によって疎水性にされたカルボン酸アニオンまたはスルホン酸アニオンとの塩が含まれうる。
【0081】
新規化合物は、本発明の第2の態様を示す。
【0082】
以下については、本発明の新規化合物として主張しない。
【0083】
US 5,554,664で開示されるフッ素化メチドまたはイミド化合物(より正確にそこで定義される通り)。
【0084】
セグメント化炭化水素−フッ化炭素−スルホン酸アニオンを有する、US 6,841,333で開示される化合物(より正確にそこで定義される通り)。
【0085】
フッ素化アルカンスルホン酸のスルホニウム塩またはヨードニウム塩である、US 6,358,665号で開示される化合物(より正確にそこで定義される通り)。
【0086】
しかし、本発明におけるそのような化合物の使用は、US 5,554,664、US 6,841,333、およびUS 6,358,665で開示されるものとは異なるため、そのような使用は本発明の態様としてみなされることに注意するべきである。
【0087】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様で主張される新規化合物の調製方法が提供される。この化合物がオニウム塩である場合、反応は、適切には標準条件下で、求核置換であるのが適切である。例示の目的で、ホスホニウム塩の調製方法を以下に概説する。
【0088】
【化5】

【0089】
一般式IIIの化合物の調製方法がスキーム1および2に記載され、ここで化合物Iはトリアリールホスフィンまたはその任意の安定な塩である。Arはアリール基またはヘテロアリール基であり、好ましい基はフェニル、アルキル置換フェニル、アルコキシ置換フェニル、フリル、α−およびβ−ナフチルである。各Arは同じまたは異なっていてもよく、上記で定義される任意の疎水性促進部分で場合により置換されてもよい。
【0090】
化合物IIにおけるAr’は、Arに等しいかまたは異なっている、アリール基またはヘテロアリール基である。好ましい基はフェニル、アルキル置換フェニル、アルコキシ置換フェニル、カルボキシフェニル、アルコキシカルボニルフェニル、α−およびβ−ナフチルである。Ar’は上記で定義される任意の疎水性促進部分で場合により置換されてもよい。
【0091】
Xは、求核置換反応の一般的な脱離基として当業者により通常用いられる任意の脱離基である。スキーム1で報告される方法における好ましい基は、OH、OAc、OOC(CF2020CF3、O3S(CF2020CF3である。スキーム2で報告される方法における好ましい基は、F、Cl、Br、I、OH、OAc、C1−C20アルカンスルホネート、ベンゼンスルホネート、およびモノまたはポリ置換アリールスルホネート(1つまたは複数の以下の好ましい基、すなわちCH3、NO2、F、Cl、Br、I、O−アルキルまたはそれらの任意の組み合わせによる置換を特に含む)である。
【0092】
Yは、求核置換反応の一般的な脱離基として当業者により通常用いられる任意の脱離基である。スキーム2で報告される方法における好ましい基は、F、Cl、Br、I、OH、OAc,C1〜C20アルカンスルホネート、ベンゼンスルホネート、およびモノまたはポリ置換アリールスルホネート(1つまたは複数の以下の好ましい基、すなわちCH3、NO2、F、Cl、Br、I、O−アルキルまたはそれらの任意の組み合わせによる置換を特に含む)である。
【0093】
スキーム1の方法は、化合物IおよびIIを、0.1〜10の範囲に含まれるI/IIの量論比で、それ自体として、または適切な溶媒(例えばキシレン)中に懸濁もしくは溶解させて、1〜24時間の間、場合により、強プロトン酸(硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、トリフルオロ酢酸、C1〜C20アルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、およびモノまたはポリ置換アリールスルホン酸(特に、1つまたは複数の以下の好ましい基、すなわちCH3、NO2、F、Cl、Br、I、O−アルキル、またはそれらの任意の組み合わせによる置換を含む)が好ましい)、ルイス酸、ゼオライト、酸性イオン交換樹脂から選択される酸触媒の存在下または非存在下で加熱(例えば100〜150℃で)することを含む。マイクロ波および/または超音波を、収率の向上および反応時間の短縮に用いてもよい。
【0094】
スキーム2の方法は、化合物IおよびIVを、0.1〜10の範囲に含まれるI/IVの量論比で、それ自体として、または適切な溶媒中に懸濁もしくは溶解させて、1〜24時間の間、場合により、強プロトン酸(硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、トリフルオロ酢酸、C1〜C20アルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、およびモノまたはポリ置換アリールスルホン酸(特に、1つまたは複数の以下の好ましい基、すなわちCH3、NO2、F、Cl、Br、I、O−アルキル、またはそれらの任意の組み合わせによる置換を含む)が好ましい)、ルイス酸、ゼオライト、酸性イオン交換樹脂から選択される酸触媒の存在下で加熱することを含む。マイクロ波および/または超音波を、収率の向上および反応時間の短縮に用いてもよい。
【0095】
化合物Vから化合物IIIへの変換は、アニオンメタセシスに使用されるのと共通の系でVを処理することにより行われる。変換は、IIIをその溶液からアニオンX-の適切な塩の第2溶液を用いて沈殿させるか、あるいはVの溶液または懸濁液をアニオン交換樹脂で処理するか、あるいはイオン交換樹脂を充填したカラムにVの溶液を流し、次いで所望の化合物IIIを溶出させるか、あるいはVの溶液を望ましいアニオンX-の第2溶液と分配する、後者の溶液は第1の溶液と部分的に混和できるので、2つの溶液のうち1つにIIIが抽出されることになる、ことにより行われるのが最良である。化合物IIIの回収は、対応する溶液を蒸留または凍結乾燥させるか、あるいは適切な低極性溶媒を加えることによりIIIを沈殿させて行われる。
【0096】
一般式Vの化合物の調製の典型例は、以下の参照文献で見いだすことができる。
1)JOC 1985,1087
2)J.Phys.Org.Chem.2005,962
3)ICA 2003,35,39。
【0097】
この方法は、本明細書に記載される他のオニウム塩に適用可能である。
【0098】
疎水性を持つように修飾されたオニウムカチオンは、適切な市販の前駆体化合物IIまたはIV、例えば市販の(CF32Bn−Brから出発する上記の方法を用いることにより得ることができる。
【0099】
本発明の第4の態様によれば、コーティングされた画像形成可能なリソグラフ前駆体が提供され、そのコーティングは前記請求項のいずれかに記載の組成物をリソグラフ基材へ塗布することにより形成される。好ましくは、組成物は溶液として溶媒中で使用され、乾燥させてコーティングを得る。好ましくは、これはワンパスで塗布され、乾燥させて均質な乾燥コーティングを得る。しかし、成分を分離させて、ワンパスで塗布し、乾燥させて不均質な乾燥コーティングを得るか、あるいは2回パスまたはそれを超えるパス数で塗布することを除外しない。
【0100】
第5の態様によれば、第2の態様の前駆体を作る方法が提供される。
【0101】
発明者らは、前駆体にその製造の一部として熱処理を加えることが有益であることを見いだした。前駆体の安定化熱処理はそれ自体で知られている。WO 99/21715は、熱処理をコイル状またはスタックの状態の印刷版前駆体に、穏やかな温度、例えば40〜90℃で、長時間、例えば少なくとも4時間加える熱処理を記載している。しかし、スタックまたはコイルの端付近、例えば最上部または最下部、および縁の領域で特性が劣っているのが見られることがある点に問題がある。
【0102】
EP 1074889Aは、同様の熱処理を行うことを提案したが、熱処理中に前駆体からの水分の除去を抑制する条件下においてである。これはより広い面積に渡る前駆体の特性を最適化する。これは、相対湿度が少なくとも25%であるか、絶対湿度が少なくとも0.028である雰囲気を供給するオーブン中での熱処理工程の実施を必要とすることが、EP 1074889A に述べられている。熱処理を少なくとも40℃の温度で行うのが好ましいことが述べられている。
【0103】
EP 1074889Aの方法は効果的であると考えられるが、この方法は注意深く信頼性の高いプロセス制御および相当な資本コストを実に必要とする。
【0104】
発明者らは、同様に効果的で、適用しやすく、本発明による前駆体において効果的な、代替となる熱処理を考案した。つまり、好ましくは第4の態様による前駆体はその製造の一部として、
基準温度またはそれを超える温度、および20%を超えない相対湿度および/または0.025を超えない絶対湿度に前駆体をさらす第1段階と、
第1段階に続いて、基準温度未満の温度、および少なくとも30%の相対湿度および/または少なくとも0.032の絶対湿度に前駆体をさらす第2段階と
を含む熱処理を受ける。
【0105】
本明細書で定義される相対湿度は、同じ温度で飽和に必要な量の百分率として表される、空気中に存在する水蒸気の量である。本明細書で記載される絶対湿度は、水蒸気と空気の混合物中の、空気の質量に対する水蒸気の質量の比である。
【0106】
基準温度は35〜50℃の範囲が好ましく、例えば35℃、45℃、50℃、または好ましくは40℃である。
【0107】
第1段階は少なくとも4時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも24時間持続するのが好ましい。前駆体は、第1段階全体を通して、基準温度またはそれを超える温度、および規定の湿度条件にさらされるのが好ましい。
【0108】
第1段階中の温度は、35〜70℃、好ましくは45〜65℃、最も好ましくは50〜60℃に達するのが好ましく、いずれにしても基準温度を超えるのが好ましい。第1段階を終わらせるには、温度を基準温度にするのが好ましい。これは、熱供給のスイッチを切るという単純な方法によって実現することができる。前駆体が置かれるオーブンはよく保護されており、オーブン中の温度が好ましい高温の範囲から基準温度へ低下するのに少なくとも1時間かかることがあり、これは第1段階と第2段階の間の移行点である。
【0109】
第1段階の間、温度は35〜70℃、好ましくは50〜65℃の範囲内であるのが好ましく、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%で、50〜60℃の最も好ましい範囲内で第1段階、すなわち、温度が少なくとも基準温度である時間、を持続させるのが好ましい。
【0110】
本明細書で温度に言及するとき、前駆体、または前駆体のスタックもしくはコイルの平衡温度を指す。スタックまたはコイルの場合、スタックまたはコイルの中心部分に置かれた熱電対が、オーブン温度またはスタックもしくはコイルの周辺領域の温度に等しい定常状態温度にいったん達すると、平衡温度が得られる。これもスタックまたはコイルの中心部分の熱電対を用いて判断される。
【0111】
第1段階の間、湿度の制御を行わないか、または最大値で20%の相対湿度、および/または最大値で0.025の絶対湿度までに湿度を制御するのが好ましい。
【0112】
ある環境においては、第1段階では最大値で15%まで、適切には最大値で10%まで、適切には最大値で5%までに、相対湿度を制御する。
【0113】
ある環境においては、第1段階では最小値で5%まで、適切には最小値で10%まで、適切には最小値で15%までに、相対湿度を制御する。
【0114】
ある環境においては、第1段階では最大値で0.015まで、適切には最大値で0.01まで、適切には最大値で0.005までに、絶対湿度を制御する。
【0115】
ある環境においては、第1段階では最小値で0.005まで、適切には最小値で0.01まで、適切には最小値で0.015までに、絶対湿度を制御する。
【0116】
実質的に第2段階の開始において、湿度水準を上昇させるのが好ましい。相対湿度は少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、最も好ましくは少なくとも38%となるように制御される。相対湿度は100%以下、好ましくは80%以下、好ましくは60%以下、好ましくは50%以下、最も好ましくは42%以下となるように制御されるのが好ましい。
【0117】
温度は第2段階の間に低下させるのが好ましい。第2段階は、温度が基準温度未満に下がるとすぐに開始する。好ましい実施形態において、オーブンおよびその内容物の温度が低下するにつれて温度を自然に低下させ、熱供給は終了させておく。しかし、所望であれば、選択された温度の空気を供給して制御冷却を施すことができる。これは、周囲温度が基準温度と比較して高い場合に特に有用であり得る。
【0118】
第2段階において温度が周囲温度に低下するのに少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも12時間かかるのが好ましい。
【0119】
第2段階の持続時間は少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも8時間であるのが好ましい。これは、周囲温度に低下するのにかかる時間を超えて長くてもよい。なぜなら、周囲温度に低下した後であっても前駆体は基準温度未満の制御温度条件に供されるか、または周囲温度に達した後であってもオーブン中にとどめておくことがあるためである。しかし、周囲温度に達する前駆体が熱処理の終了を示すのが好ましい。スタックまたは前駆体または前駆体コイルがある場合、スタックまたはコイルが周囲温度に達するとき、あるいは周囲温度を超えていて、スタックまたはコイルで10℃を超える部分がない、または好ましくは5℃を超える部分がないときに、熱処理が終了に達するのが好ましい。
【0120】
前駆体は、第2段階全体を通して基準温度未満の温度および規定の湿度条件にさらされるのが好ましい。
【0121】
熱処理の終了時に前駆体を取り出し、販売のために梱包することができる。
【0122】
熱処理の開始時に温度を周囲温度から上昇させなければならない。周囲温度から開始して基準温度に達する時間は、予備段階と見なすことができる。いったん基準温度に達すると、第1段階が開始する。
【0123】
第2段階全体を通して湿度を制御するのが好ましい。
【0124】
前駆体のスタックは同時に熱処理に供されるのが好ましい。スタックは、少なくとも100枚の、一般的には少なくとも500枚の、熱処理を受ける前駆体を含む。
【0125】
あるいは、何らかのコーティングを有する前駆体コイルを熱処理し、後で個々の前駆体に切り分けてもよい。典型的にはそのようなコイルは少なくとも2000m2の画像形成可能な表面を有する。
【0126】
EP 1074398Aの発明は、熱処理プロセス全体を通して湿度を制御することを含むが、本発明者らは、これが必要ではないと認識している。第1段階と呼んでいる熱処理の主要部分は、相対湿度を最大20%まで、および/または絶対湿度を最大0.025までに制御しなくても、あるいは制御しても完全に通常通りに行うことができる。水分バリアとして働く包装は必要ではなく、行わないのが好ましい。包装が行われる場合、それは好ましくは水分バリアではなく、単に汚れに対するバリアである。例えばスタックまたはコイルの縁部分で、いくらかの水分が失われるであろうと予想するのが妥当である。しかし第2段階の間の湿度制御は完全な回復効果を有する。このような方法で熱処理を施した前駆体の特性は優良である。理論に束縛はされないが、発明者らは、第1段階において周辺部分または露出部分で脱水効果がある場合があるが、第2段階は水分の回復をもたらすと考える。
【0127】
本発明の第6の態様によれば、第2の態様によるリソグラフ印刷版前駆体または電子部品前駆体に画像形成して、コーティング中に潜在する画像を生成させ、画像を現像することで生じる、印刷可能状態のリソグラフ印刷版前駆体、またはエッチング可能状態もしくはドープ可能状態の電子部品前駆体が提供され、得られる画像形成後印刷版または電子部品前駆体は、残留コーティングの所望のパターンを有する。印刷版または電子部品前駆体は、画像形成後に現像剤を用いて現像されるのが好ましい。
【0128】
本発明の第7の態様によれば、第5の態様のリソグラフ印刷版または電子部品前駆体を作製する方法が提供される。
【0129】
本発明の第8の態様によれば、印刷におけるリソグラフ印刷版前駆体の使用、または電子部品製造における電子部品前駆体の使用が提供され、それぞれの場合において、リソグラフ基材は画像形成されるコーティングを有し、ポリマーを含む液体組成物をリソグラフ基材上に塗布し乾燥させることによりコーティングが形成され、組成物はIRによる画像形成可能なリソグラフ前駆体のコーティングとして好適であり、この組成物は
a)800nmを超える波長の赤外線を吸収し、その結果熱を発生し、
b)現像剤中でコーティングの非画像部分の溶解を阻害するが、画像部分の溶解を可能にする不溶化剤として機能し、および
c)非画像部分/画像部分の溶解比を改善するように、非画像部分の溶解の阻害および/または画像部分の溶解を改善する
1つまたは複数の薬剤を含み、
薬剤c)は疎水性およびイオン性を有する部分を含み、リソグラフ前駆体は800nmを超える波長の像様に供給される赤外線に供され、次いで放射線を受けた領域または放射線を受けなかった領域のいずれかを現像剤中で選択的に除去する段階に供され、次いで塗布または加工の段階に供され、リソグラフ印刷版前駆体の場合における塗布または加工の段階は、除去された領域または除去されなかった領域のいずれかに集まる印刷インクの供給であり、電子部品前駆体の場合の塗布または加工の段階は、エッチングまたはドーピングの段階である。
【0130】
本発明の第9の態様によれば、
a)800nmを超える波長の赤外線を吸収し、その結果熱を発生し、
b)現像剤中でコーティングの非画像部分の溶解を阻害するが、画像部分の溶解は可能とする不溶化剤として機能し、および
c)非画像部分/画像部分の溶解比を改善するように、非画像部分の溶解の阻害および/または画像部分の溶解を改善する
1つまたは複数の薬剤の、ポリマーを含む画像形成可能なコーティングにおける使用が提供され、
薬剤c)は疎水性およびイオン性を有する部分を含む。
【0131】
本明細書の任意の態様での使用において好ましい現像剤は、水性現像液、好ましくは水性アルカリ性現像液である。好ましい水性アルカリ性現像液には、メタケイ酸ナトリウムまたはメタケイ酸カリウムまたは混合メタケイ酸ナトリウム/カリウムの溶液が含まれる。メタケイ酸ナトリウムおよび/またはカリウムは現像液の5〜20%重量/重量、好ましくは8〜15%重量/重量を構成するのが適切である。混合メタケイ酸ナトリウム/カリウム溶液において、メタケイ酸ナトリウムはメタケイ酸カリウムを超える(重量/重量で)のが好ましく、その比率は好ましくは1.5〜2.5(重量/重量)、最も好ましくは1.8〜2.2の範囲である。
【0132】
必要により、印刷版が必要とする特性を得るために界面活性剤を組成物に添加してもよい。界面活性剤は、アルミニウムまたはポリエステル支持体へのコーティングの塗布を向上させるために使用される。使用することができる界面活性剤には、3M社製FC−430またはDuPont製Zonyl Nsなどのフッ化炭素化界面活性剤、Pluronicとして知られBASFによる製造の、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックポリマー、およびBYK Chemieによる製造のBYK 377などのポリシロキサン界面活性剤が含まれる。これらの界面活性剤は、基材への塗布の間、層上の欠陥および気泡の出現を避けながら、コーティング組成物の外観を改善する。使用される界面活性剤の量は、組成物中の固形の総重量を基準として0.01〜0.5重量%の範囲である。
【0133】
本明細書で使用するための好ましい水性アルカリ性現像液は、ベタイン界面活性剤を、好ましくは現像液の0.05〜2%重量/重量、より好ましくは0.2〜1%(活性ベタイン含量)を構成する量で含有する。ベタイン界面活性剤は、アンモニウムまたはホスホニウムイオン、あるいは他のオニウムイオンなどの、カチオン性官能基、およびカルボキシル基などの負に帯電した官能基を有する化合物である。本明細書で用いるための好ましいベタインは脂肪族アルキル鎖を有する。本明細書で用いる好ましいベタインは、一般式:
【0134】
【化6】

【0135】
を有する水溶性化合物であり、式中、R1は10〜20個の炭素原子、好ましくは12〜16個の炭素原子を有するアルキル基、またはアミド基:
【0136】
【化7】

【0137】
であり、式中、Rは9〜19個の炭素原子を有するアルキル基であり、aは1〜4の整数であり、R2およびR3はそれぞれ1〜3個の炭素、好ましくは1個の炭素を有するアルキル基であり、R4は1〜4個の炭素原子および場合により1つのヒドロキシル基を有するアルキレンまたはヒドロキシアルキレン基である。アルキルジメチルベタインには、デシルジメチルベタイン、2−(N−デシル−N,N−ジメチル−アンモニア)アセテート、ココジメチルベタイン、2−(N−coco N,N−ジメチルアミノ)アセテート、ミリスチルジメチルベタイン、パルミチルジメチルベタイン、ラウリルジメチルベタイン、セチルジメチルベタイン、およびステアリルジメチルベタインなどが含まれる。アミドベタインには、ココアミドエチルベタイン、ココアミドプロピルベタイン、ココ(C8〜C18)アミドプロピルジメチルベタインなどが含まれる。
【0138】
本明細書で用いるための好ましい水性アルカリ現像剤は、リン酸エステルを、好ましくは現像液の0.2〜5%重量/重量、好ましくは0.2〜2%、特に0.3〜1%(活性リン酸エステル含量)を構成する量で含有する。好ましいリン酸エステルには、芳香族エトキシラートのアルカリ金属リン酸塩、適切にはリン酸エステル、芳香族エトキシラート、カリウム塩として知られるもの(例えばRhodia製のRHODAFAC H66として販売されている)が含まれる。
【0139】
本明細書で用いるための好ましい水性アルカリ性現像液は、金属イオン封鎖剤、特にアルミニウムイオンを封鎖する金属イオン封鎖剤を、好ましくは0.1〜5%重量/重量、好ましくは0.2〜2%重量/重量、特に0.3〜1%重量/重量(活性な金属イオン封鎖剤の含量)を構成する量で含有する。適切な金属イオン封鎖剤には、ホスホン酸およびホスホン酸塩、例えばペンタエチレンヘキサアミンオクタキス−(メチレンホスホン酸)のナトリウム塩が含まれる。
【0140】
本発明に関して用いるための特に好ましい水性アルカリ性現像液は、水中で(規定の活性含量)、7〜9%のメタケイ酸ナトリウム、3.5〜4.5%のメタケイ酸カリウム、0.2〜1%のベタイン界面活性剤、0.2〜1%のリン酸エステル、および0.2〜1%の金属イオン封鎖剤から本質的になる。
【0141】
上記に与えられる定義は、別途記載されない限り、または文脈がそれを許さないのでなければ、本発明のすべての態様に適用される。
【0142】
ここで以下の実施例を参照して、例を用いて本発明をさらに説明することにする。
【0143】
実施例セット1
下記の化合物を、実施例セット1で試験される組成物中でDCR改良剤として用いた。
【0144】
【表1】

【0145】
組成物は下記の通りであった(重量部で表される)。
【0146】
【表2】

【0147】
AS1、2・・・10は、それぞれMS1、2・・・10をDCR改良剤として含有する。AS0及びAS1は比較例である。
【0148】
EP3525は、Asahi(日本)より入手可能で、DKSH France S.A.により流通されるノボラック樹脂である。
【0149】
LB 744は、ドイツのHexion Speciality Chemical GmbHより入手可能なクレゾールノボラック樹脂である。
【0150】
S0094は、ドイツのFew Chemical GmbHより入手可能な赤外線吸収シアニン色素である。
【0151】
S0253は、Few Chemicalより入手可能な赤外線吸収シアニン色素である。
【0152】
CVは、Methyl Violet 10Bとしても知られ、トリス(ジメチルアミノフェニル)メタンカチオン及び塩素アニオンを有するcrystal violet IR色素であり、Siber VioletとしてDKSH(フランス)より入手可能である。
【0153】
組成物は、およそ15/100(重量/重量)の組成物の溶媒中における濃度で、溶媒Dowanol PM(1−メトキシ−2−プロパノール)/メチルエチルケトン(90/10(重量/重量)混合物)中で調製した。組成物をリソグラフ基材上へコーティングした。リソグラフ基材の一例は、リソグラフグレード1050Aアルミニウムを用いて、1)水酸化ナトリウム溶液(24g/L)中で40℃にて20秒間脱脂しその後洗浄し、2)酢酸(13g/L)および塩酸(7g/L)の混合物中で30℃にて40秒間電気化学エッチングを行いその後洗浄し、3)エッチングした金属をホスホン酸(240g/L)中で54℃にて20秒間スマット除去しその後洗浄し、4)硫酸(240g/L)中で32℃にて40秒間陽極酸化処理しその後洗浄し、5)リン酸一ナトリウム(44g/L)およびフッ化ナトリウム(0.5g/L)を含有する溶液中で陽極酸化処理した基材を70℃にて30秒間処理しその後洗浄することにより、調製した。組成物のコーティングの一例は、1)Urai S.p.A.(イタリア)が供給元であるMayerからのバー番号2の巻き線型バーを使用し、オーブン(ドイツのMemmert GmbH & Co製モデルNo.600)中で110℃にて3分間乾燥させることにより調製した。乾燥後のコーティング重量はおよそ1.5gm-2であった。
【0154】
コーティングした試験基材を、コーティングして8時間以内にその画像形成特性について試験した。コーティングした試験基材に、Dainippon Screen Mfg.Co.Ltd.(日本)が供給元であるPlate Rite 4100装置を用いて、700rpmの設定およびおよそ808nmの波長を用いて画像形成した。それらを画像形成後直ちに市販の現像剤GOLDSTAR(Kodak Polychrome Graphicsの商標)中で、O.V.I.T(イタリア)が供給元であるSirio85処理機にて、85mS/cmの現像剤活性値で現像した。
【0155】
比較の目的で、基準の商業用印刷版ELECTRA(Kodak Polychrome Graphicsの商標)の古い試料(12ヶ月)と新しい試料(3ヶ月)を試験に含めた。それぞれの場合でのそれらの組成物はEP 825927Bに従っていると考えられる。
【0156】
次いで、試験基材およびELECTRA製品を以下のような3つの特性について試験した。
【0157】
コーティング損失:現像時、濃度計(型:VIPLATE 115 VIPTRONIC、供給元: Tecnologie Grafiche(イタリア))を使用。版の非画像部に円形を描き、濃度の読み取りを行い記録する。これをD−initialと呼ぶ。露光および現像後に同じ部分を再び測定し(D−final)、D−initialとD−finalとの間の差を計算し、記録する。この計算値をΔ、または「デルタ」と呼ぶ。実際にはこれを1試料につき3回行い、実験誤差を最小限にするために平均を用いる。版の清浄な基材の濃度もD−subsとして記録する。ここでコーティング損失の百分率は
【0158】
【数1】

【0159】
によって与えられる。
【0160】
実際には現像時間、温度、または現像剤強度が変動する可能性があり、この試験はより強力な現像条件に対してコーティングがどれだけ頑強であるかの指標である。実際の値は、組成物の配合、特に樹脂混合物の選択によって決まるが、全ての場合において、Δ%が低いほど良好である。
【0161】
光学点(Optical point):一連の出力での露光(例えば808rpmにて40%の出力が5%間隔で100%の出力まで増加する)により得られる。これは、異なる幅(数十マイクロメートルの範囲)の平行な線のグループが、同じ濃度を持つように目測で見えるときのエネルギーである。これを超える露光エネルギーでは、光学点よりも微細な線がより濃く見えるが、光学点未満の露光エネルギーでは、より太い線がより濃く見える。この点では、50%格子縞模様がおよそ48%で読めるはずである。この値は、露光および処理済みの版から単に目測で拡大鏡を用いて読み取る。
【0162】
透明点(Clear point):透明点も一連の出力での露光試験(上記を参照)から読み取るが、この場合、評価するのは、0%のドット(完全に露光される)を含むことを意図した領域である。低エネルギーでは、コーティングは完全に露光するのに十分なエネルギーを受けていないため、未露光のコーティングと共に黒いままである。光学点では基材は透明のはずであり、透明とは清浄な基材より濃度が0.01濃度単位未満だけ高いと定義される。透明点は、0.01単位未満のバックグラウンド濃度が得られる最低の露光エネルギーであり、光学点よりも少なくとも25%低い出力であるべきである。これは濃度透明点(Density Clear Point(DCP))と呼ばれる。版が現像時間、温度、および通常より強力でない現像剤強度の変動を許容できるようにするために、透明点は実際上重要である。この値が低いほど、版は頑強である。代替の、より主観的な方法は、100%露光し次いで現像したパッチにアセトンの液滴を置き、残っている残渣のために着色したリングをさがすことである。この目視透明点(Visual Clear Point(VCP))は、溶媒によって生じるリングが見えない最低エネルギーである。この方法は、個人の眼の感受性および「閾値」およびさらに照明のため、より主観的である。
【0163】
透明点は濃度計を用いて数値的に決定する(DCP)のが理想的であるが、大判の版、またはウエブ幅方向の基材の不均一がある場合などの、ある状況においては、基材濃度の変動は残留コーティングまたは汚れのレベルを隠すのに十分大きくなりえる。このような条件下では、より主観的な目視透明点(VCP)法を使用する。
【0164】
結果は下記の通りであった。
【0165】
【表3】

【0166】
Electraの実施例、AS0、およびAS1は比較目的のために存在し、本発明の一部としてではない。AS0は現像後に画像の損傷を示すためΔ%においては許容できないが、透明点および光学点は良好である。耐現像剤性を改善するために阻害剤AS1を添加すると、光学点エネルギーの15%、および透明点エネルギーの35%が失われる。
【0167】
試料AS2〜AS10中の化合物MS2〜M510を使用することにより、溶解性の画像部分と耐現像剤性の非画像部分との間で、現像剤中の溶解速度に関して優れた選択性が得られたが、この差異(または「操作スピード」)を得るのに必要なエネルギーは犠牲にされないことがわかる。
【0168】
実施例セット2
実施例セット2において、ベンジルトリフェニルホスホニウム3−トリメチルシリルプロピル−1−スルホネート(MS12)およびcrystal violetパーフルオロオクチル−1−スルホネート(MS13)を、可能性のあるDCR改良剤として評価した。これらをDowanol PMとMEKの90:10混合物の15%溶液から再びコーティングして、およそ1.5gm-2の薄膜重量を得た。実施例BS1〜BS4を130℃で3分間乾燥させ、実施例BS5〜BS10を110℃で3分間乾燥させた。
【0169】
試験した組成物は以下の通りであった(重量部で表される)。
【0170】
【表4】

【0171】
画像形成、現像、および試験を、実施例セット1について上記に記載の通りに行った。
【0172】
BS1、BS2、およびBS5は比較例であり、本発明のものではない。
【0173】
結果は下記の通りであった。
【0174】
【表5】

【0175】
NMは測定不能を意味する。
【0176】
第1の実施例BS1はオニウム阻害剤を含有せず、耐現像剤性が非常に乏しく、BS2は疎水性部分を含まないオニウム阻害剤としてMS1を含有する。BS3およびBS4はそれぞれ2%および3%のMS12をMS1の代わりに含有する。2%のMS12レベルにおいて、目視で測定される透明点を観測することができる。このレベルでは、スピードに関して妥協せずとも、MS1を同レベルで使用する場合よりも、バックグラウンドを透明にするのに必要なエネルギーが10%低い。
【0177】
BS5は、修飾したcrystal violetオニウムMS13についての基準試料であり、固形分のおよそ2重量%のレベルでcrystal violetを有する。BS6〜BS10はcrystal violetを有しておらず、その代わりにそれぞれ0.5、1.0、2.0、3.0、および4.0%のMS13を有する。MS13の分子量はcrystal violetよりもはるかに高いので、BS5の着色力当量はBS10である。同じ耐現像剤性(Δ%)において、MS10は15%少ないエネルギーで透明化し、光学点を達成するのに必要とするエネルギーが10%少ないことに気づくことができる。
【0178】
実施例セット3
実施例セット3において、DCR改良剤の存在下でcrystal violet(CV)を不溶化剤として含有する組成物と、DCR改良剤として作用することを意図して修飾されたcrystal violet(MS14)で標準のcrystal violetを置き換えた組成物との間で、比較を行った。修飾したcrystal violet(MS14)は通常のトリス(ジメチルアミノフェニル)メタンcrystal violetカチオンを有していたが、塩化物アニオンの代わりに、CF3CF2CO2-アニオンを有していた。
【0179】
試験した組成物は下記の通りであった(重量部で表される)。
【0180】
【表6】

【0181】
CS1〜4は、本発明の一部としてではなく、比較目的のために存在する。
【0182】
画像形成、現像、および試験を、実施例セット1について上記に記載の通りに行った。
【0183】
結果は下記の通りであった。
【0184】
【表7】

【0185】
NMは測定不能を意味する。
【0186】
未修飾のcrystal violetを単独で含有する実施例CS1〜4は3および4%のCVで非常に良好な重量損失値を示したが、これは光学点の値が不良であること、および透明点の値が測定不能であることと引き換えであった。対照的に、修飾したcrystal violetを含有する実施例CS5〜8では、これらの試験において全体的に良好な性能を示した。
【0187】
実施例セット4
実施例セット4において、上記のDCR改良剤のいくつかを、安定化または「焼き戻し」熱処理を受けた組成物中で評価した。選択されたDCR改良剤はMS2、MS3、MS4、およびMS5であった。MS1も比較として試験した。DCR改良剤の量は、モル当量が得られるように調整した。
【0188】
使用した組成物は下記の通りであった(重量部で表される)。
【0189】
【表8】

【0190】
CAHPhはセルロースアセテートハイドロジェンフタレート(cellulose acetate hydrogen phthalate)である。
【0191】
画像形成、現像、および試験を、コンディショニング熱処理を行ったこと以外は、実施例セット1についての上記記載の通りに行った。リソグラフ版を積み重ねて置き、間紙(コーティングなし、40gm-2の紙重量)によって互いに隔て、同じ紙の中に包み、55℃、40%の相対湿度(RH)のコンディショニングオーブン中に96時間置いた。
【0192】
結果は下記の通りであった。
【0193】
【表9】

【0194】
疎水性部分を含まない基準オニウムとしてのDS1において、版の感受性を犠牲にすることなく、透明点および耐現像剤性(Δ%)の有意な改善を見ることができる。
【0195】
実施例セット5
実施例セット5において、異なる試料のデルタ値を評価した。実施例セット1について記載の通りに試料を調製し、その組成物は下記の通りであった。
【0196】
【表10】

【0197】
ES2は本発明に従う。
【0198】
試料は、実施例セット4に記載したような「焼き戻し」熱処理を受けた。
【0199】
現像剤は、Recordgraph S.R.L.(イタリア、ボローニャ)により市販される現像剤SLT900から調合され、水中10〜20%(重量/重量)のメタケイ酸ナトリウムおよび1〜3%(重量/重量)のケイ酸ナトリウム(98%(重量/重量))、ならびにAmerican Dye Source,Inc.(カナダ、ケベック)またはDKSH Italy S.R.L.(イタリア、ミラノ)から入手可能なLunasperse(商標)(2%(重量/重量))を含有する、自作の現像剤であった。Lunasperseは、水中20%(重量/重量)の含有量のベタイン活性物質、モノおよびジアルキルエトキシ化アミン酢酸ベタイン塩の混合物を有すると考えられる。
【0200】
得られたデルタ値は下記の通りであった。
【0201】
【表11】

【0202】
実施例セット6
実施例セット6において、湿度が低く、20%RHであるかまたは湿度を制御しない(実際には一般に5%RH未満を意味する)第1段階、それに続く湿度がより高く30%RHである第2の冷却段階がある、代替の、より単純な「焼き戻し」熱処理を受けた組成物中で、上記のDCR改良剤のいくつかを評価した。
【0203】
コーティング組成物を、実施例セット1で記載した方法で基材へ実施例セット1に記載のように塗布し、実施例セット1に記載のように乾燥させた。
【0204】
組成物は下記の通りであった(これをFS0と呼ぶ)
【0205】
【表12】

【0206】
試料FS1、FS2、およびFS3は異なる熱処理処方を受け、FS1の場合では下記のように前述の「基準温度」として40℃を用いる。
【0207】
【表13】

【0208】
得られた試料を実施例セット1について上記に記載の通りに画像形成し、実施例セット5に記載した現像剤を用いて現像した。これらの試料は下記のデルタ値を与えることがわかった。
【0209】
【表14】

【0210】
FS1およびFS2の両試料についての結果は、一方の端から他方への全表面に渡って許容可能である。FS3は端部の挙動およびドットの再現の点で許容不可である。
【0211】
実施例セット7
実施例セット7は、実施例セット5の試料ES1およびES2と同じ組成物、および実施例セット4と同じ製造条件および処理条件を用いたが、下記の自作で配合した実験用現像剤を用いた。
【0212】
【表15】

【0213】
これは、ベタイン界面活性剤を含有しない、上記の供給されたままの現像剤SLT 900と比較して用いた。
【0214】
デルタの結果は下記の通りであった。
【0215】
【表16】

【0216】
SLT900を用いたデルタ値はこの実施例セットにおいて高いことがわかるであろうが、実験用現像剤を用いる場合ははるかに低い。ベタイン界面活性剤を含有しない現像剤SLT900を用いると、MS2を含有しない試料(GS1)と比較して、MS2を含有する試料(GS2)ではさらなる保護がなく、実際に性能が劣ることにさらに気づくことができる。ベタイン含有界面活性剤を用いると、コーティングは一般に性能が改善され、するとMS2含有配合物GS2はMS2を含有しない配合物GS1と比較して、より優れた性能を有する。
【0217】
上記の実施例セットの全てにおいて、記載した結果は少なくとも3回の結果の平均であり、別途記載されない限り、印刷版前駆体の中央部分で測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線による画像形成可能なリソグラフ前駆体用のコーティングとして適しており、
a)800nmを超える波長の赤外線を吸収し、その結果熱を発生し、
b)現像剤中でコーティングの非画像部分の溶解を阻害するが、現像中の画像部分の溶解は可能とする不溶化剤として機能し、および
c)非画像部分/画像部分の溶解コントラスト比(DCR)を改善するように、非画像部分の溶解の阻害および/または画像部分の溶解を改善する
1つまたは複数の薬剤を含み、
機能c)を果たす薬剤が疎水性およびイオン性を有する部分を含む、
ヒドロキシル基を含むポリマーを含む組成物。
【請求項2】
不溶化剤として機能する薬剤が、赤外線の吸収によって分解しない請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
薬剤が、805nm〜1500nm、好ましくは850〜1250nmの波長範囲の赤外線を吸収する請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
コーティングされた画像形成可能状態のリソグラフ前駆体であって、そのコーティングが前記請求項のいずれかに記載の組成物をリソグラフ基材上に塗布することにより形成される、リソグラフ前駆体。
【請求項5】
請求項10に記載の前駆体を描画して、コーティング中に潜在する画像を形成し画像を現像することにより得られ、得られる画像形成された印刷版または電子部品前駆体が残留コーティングによる所望のパターンを有する、印刷可能状態のリソグラフ印刷版またはエッチング可能状態もしくはドープ可能状態の電子部品前駆体。
【請求項6】
印刷におけるリソグラフ印刷版前駆体の使用、または電子部品製造における電子部品前駆体の使用であって、それぞれの場合でリソグラフ基材が画像形成しようとするコーティングを有し、そのコーティングは、ヒドロキシル基を含むポリマーを含む液体組成物をリソグラフ基材上へ塗布し乾燥させることによって形成され、その組成物が赤外線による画像形成可能なリソグラフ前駆体用のコーティングとして適しており、その組成物が、
a)800nmを超える波長の赤外線を吸収し、その結果熱を発生し、
b)現像剤中でコーティングの非画像部分の溶解を阻害するが、画像部分の溶解は可能とする不溶化剤として機能し、および
c)非画像部分/画像部分の溶解比を改善するように、非画像部分の溶解の阻害および/または画像部分の溶解を改善する
1つまたは複数の薬剤を組成物が含み、
薬剤c)が疎水性およびイオン性を有する部分を含み、リソグラフ前駆体が800nmを超える波長の像様に供給される赤外線に供され、次いで放射線を受けた部分または放射線を受けなかった部分のいずれかを現像剤中で選択的に除去する段階に供され、次いで塗布または加工の段階に供され、リソグラフ印刷版前駆体の場合の塗布または加工の段階は、除去された部分または除去されなかった部分のいずれかに集まる印刷インクの供給であり、電子部品前駆体の場合の塗布または加工の段階は、エッチングまたはドーピングの段階である、
印刷におけるリソグラフ印刷版前駆体の使用、または電子部品製造における電子部品前駆体の使用。
【請求項7】
前記加工段階でベタイン界面活性剤を含むアルカリ性水性現像剤を使用する、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
画像形成可能なコーティングにおける、ヒドロキシル基を含むポリマーおよび
a)800nmを超える波長の赤外線を吸収し、その結果熱を発生し、
b)現像剤中でコーティングの非画像部分の溶解を阻害するが、画像部分の溶解は可能とする不溶化剤として機能し、および
c)非画像部分/画像部分の溶解比を改善するように、非画像部分の溶解の阻害および/または画像部分の溶解を改善する
1つまたは複数の薬剤の使用であって、
薬剤c)は疎水性およびイオン性を有する部分を含む使用。
【請求項9】
リソグラフ前駆体がその製造の一部として、前駆体が基準温度またはそれを超える温度および20%を超えない相対湿度および/または0.025を超えない絶対湿度にさらされる第1段階と、
第1段階に続いて、前駆体が基準温度未満の温度および少なくとも30%の相対湿度および/または少なくとも0.032の絶対湿度にさらされる第2段階と、を含む熱処理を受ける、請求項4に記載のリソグラフ前駆体の作製方法。
【請求項10】
カチオンが、疎水性アルキル、フルオロアルキル、疎水性ケイ素含有基、ならびにフルオロ、アルキル、フルオロアルキル、およびケイ素含有基から選択される少なくとも1、2、または3つの部分で場合により置換されている疎水性アリールのうちの少なくとも1つから選択される、塩。
【請求項11】
アニオンが、疎水性アルキル基、疎水性ケイ素含有基、ならびにフルオロ、アルキル、フルオロアルキル、およびケイ素含有基から選択される少なくとも1、2、または3つの部分で場合により置換されている疎水性アリール基のうちの少なくとも1つから選択される、塩。
【請求項12】
フッ素、ケイ素、脂肪族アルキル、またはアリール部分の存在によって疎水性にされる、ホスホニウムカチオンと、アルキルもしくはアリールカルボキシレートアニオン、またはスルホネートアニオンとの塩。
【請求項13】
フッ素、ケイ素、脂肪族アルキル、またはアリール部分の存在によって疎水性にされる、トリアリールメタンカチオンと、カルボキシレートアニオンまたはスルホネートアニオンとの塩。

【公表番号】特表2009−543105(P2009−543105A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517419(P2009−517419)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002476
【国際公開番号】WO2008/001127
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(509003508)
【氏名又は名称原語表記】HEIDELBERG ASIA PROCUREMENT CENTER SDN, BHD
【Fターム(参考)】